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Vol.14「フィリピン(後編)」(2013年3月 No.42)
カントリーリスクを最小化する! フィリピン 後編 の成長が維持されると強気の見 周辺およびセブの現状から、今 後の可能性を探ってみたい。 きたことを裏づけるもので、こ れ ま で﹁ 治 安 が 心 配 ﹂﹁ 汚 職 が 多く、手続きなどが安定しない﹂ と二の足を踏んでいた外国企業 の進出にも、弾みがついたかた ちだ。日本企業も、ここ二年の た国である。若年層を中心とし のなかでもいち早く成長を遂げ 前編でも取り上げたが、フィ リピンはもともと、ASEAN 富士フイルムなどが次々と進出 ノン、テルモ、花王、バンダイ、 ライオン、ブラザー工業、キヤ 所、 フ ァ ー ス ト リ テ イ リ ン グ、 成長への足かせが外れ 日本企業の進出も加速 た人口比率、九〇%台後半の識 ︵投資・拡張︶を決めている。 間に、NTTドコモ、村田製作 字率、英語が公用語であること では、フィリピンに進出した 外国企業が拠点を選定するとき 超えて全体を牽引。政府は引き し、建設分野が成長率二四%を なインフラ整備投資が功を奏 需要が堅調だったほか、積極的 高値となる見通しである。国内 ︵東南アジア諸国連合︶では最 いよいよ目覚め始めたフィリ ピン。着々と安定成長の足固め 円︶の税収確保をめざすという。 年六四四億ペソ︵約一三二〇億 段階的に引き上げ、五年後には 今年一月から品目ごとに税率を 税 法 が 一 六 年 ぶ り に 成 立 し た。 汚職なし、の四つを掲げた。 統治、②公平性、③透明性、④ 出し、基本政策として、①よい 放された改革を行なう﹂と打ち れから我が国は、ビジネスに解 二〇一〇年、現職のベニグノ・ アキノ三世が大統領に就任。﹁こ よる政治不安が原因である。 もあったが、多くは政権闘争に 済区認定を受けている区画をP 経済区もしくは工業団地内で経 理、運営を行なっている関係で、 ミック・ゾーン︵経済区︶の管 設立された経緯もあり、エコノ ︵輸出加工区庁︶が再編されて 出創出を担う投資促進機関であ ︶のことで、貿易産業省 thority 下で、投資促進、雇用創出、輸 ︵ Philippine Economic Zone Au- それは﹁PEZA﹂だ。PE ZAとはフィリピン経済区庁 に最も重視するのは何か。 に加え、コミュニケーションに 優れた人材と、一五〇万ともい われる大量のOFW︵海外出稼 ぎ労働者︶を背景とした内需な ど、日本企業の進出先として非 常に魅力ある国だった。それが 続き、道路や港湾など輸送イン をしているように見えるが、果 一時的に停滞したのは外的要因 フラを中心とする大規模計画を たしてこの上昇気流は続くの 今 回 の 成 長 路 線 へ の 転 換 は、 このアキノ政策が軌道に乗って る六・五%前後で、ASEAN 実施し、雇用確保と内需拡大を か。日本企業が集中するマニラ この経済区は現在、マニラお EZAと呼ぶこともある。 る。九四年まであったEPZA めざす意向だ。一三年度も同等 これを機に、昨年一二月、財 政健全化に向けて酒・たばこ増 ィリピン経済が絶好調 才川哲治 方を示している。 日本能率協会コンサルティング (JMAC) アジア化支援センター EPマネジャー だ。 二 〇 一 二 年 の 実 質 G インフラ整備の遅れ、 治安がわるい など、 様々な懸念材料からこれまで フィリピンへの進出を躊躇する外 国企業は多かったが、 政府の積極的 な成長戦略が功を奏し、 その状況も 変わりつつある。果たして、この上 昇気流は続くのか。 今後の可能性と 進出する際のポイントを探る。 DP成長率は、政府目標を上回 フ アジア進出 成功MAP ニュートップ L. 2013.March.No.42 =VS アジア進出成功MAP よびセブを中心として約二七〇 四三%が電子機器・半導体関連 いろいろな優遇措置があるた に 集 中 し て い る。 そ の 多 く は、 団地内に二四時間体制のPEZ (2012年12月末現在) め、現在、日本からも六七〇社 関連商社/三井物産 マクタン島 が占めている状況だ。 Cebu Light Industrial Park か 所︵ 図 1︶ 。 対 象 は、 工 業 団 セブ A事務所があり、ここで工場建 関連商社/双日 22社(22社) 関連商社/丸紅 あまりが進出している。 Lima Technology Center Filinvest Technology Park Luisita 地のみならず、ITパークやI 関連商社/三井物産 設や入居に関する許可申請から 関連商社/双日 Light Industry & Science Park 経 済 区 に 立 地 す る︵ 輸 出 型 ︶ 企業に対しては、所得税︵法人 39社(21社) 関連商社/住友商事 Tセンター、観光、医療、農業 Carmelray Industrial Park 23社 (15社) 関連商社/三井物産 輸出入手続きまで、ペーパーレ First Philippine Industrial Park また、日系商社が関係する工 業団地は一〇か所に設けられ Light Industry & Science Park(Calamba) 税︶の一定期間免除、特別税率 パタンガス にまで広がっている。フィリピ 62社 (18社) 関連商社/三井物産 スかつワンストップでサービス Light Industry & Science Park(Cabuyao) 約100社 (約90社) 関連商社/丸紅 ︵図2︶、首都マニラ市から南方 110社 (60社) 関連商社/三菱商事 の 適 用︵ 五 %︶、 イ ン フ ラ の 付 Laguna Technopark First Cavite Industrial Estate ンの産業で大きな割合を占めて ラグナ マニラ カヴィテ を提供している。日本企業が集 図2■日系商社関連のおもな工業団地( )=社数のうち日系企業 へ五〇∼六〇キロほど離れたカ 区画には まだまだ 空きも… 加価値税免除、輸出入に関する PEZA事務所(Cebu Light Industrial Park) おり、輸出額では経済区からの 経済区/工業団地内の様子 約されているので情報交換など セブ ヴィテ州、ラグナ州、パタンガ 農産業用パーク…16 各種税の免除のほか、外国人雇 医療観光パークとセンター…2 ものが九〇%弱を占め、雇用者 マニラ 観光経済区…13 も容易だ。製造業なら、こうし ITパーク…37と ITセンター…132 ス州、およびセブ︵マクタン島︶ 製造および産業用団地…64 用の許可、特別ビザの付与など、 〈PEZA〉 は八四万人、 投資内訳で見ると、 図1■ PEZAを中心に発展するフィリピン経済 ニュートップ L. 2013.March.No.42 コストダウン、 サプライチェーン改革などの支援を手がける。 06年より戦略コンサルタントとして、 事業再編・再生、 中期戦略 さいかわ てつじ 1969年生まれ。95年JMAC入社。生産コンサルタントとして、国内外100社を超える企業の生産性向上、 構築の支援を行なうほか、 アジア化支援センターでは東南アジアを主に担当。 11年よりシンガポール支店長兼務。 品 質 管 理 も 安 定 し て い る な ど、 素 直 で 規 準 を 守 る 気 質 の た め、 が、成功するための必須条件の おおむね評価が高い。 た工業団地に拠点を構えること 一つといえるだろう。 実 し た サ ー ビ ス と あ い ま っ て、 とくにPEZAに関しては汚 職などが徹底して排除され、充 ストである。土地や事務所、人 その周辺地域も雇用と安定した また、フィリピンのアドバン テージの一つは低く安定したコ 件費などが安定しており、高騰 き る か ﹂﹁ 原 材 料 の 現 地 調 達 が 賃金から現地の人々にとって どの程度可能か﹂といった点は し て い る と い う 話 は 聞 か な い。 立地する日系メーカーのほとん 大きな課題である。実際に、現 〝安定した住みやすい場所〟に どは、日本や他のアジア拠点か 工業団地にしても、キャパシテ ら原材料を仕入れ、組み立て加 なっている。ショッピングモー 七〇%以上を輸出しなくてはな 一方で課題もある。まず、P EZAの優遇を受けるためには 地を視察してみると、生産地の ィはまだまだあり、土地不足の さらに、人材にまつわる利点 も多い。活況にわくタイやイン 工を施してから、完成品を輸出 ルや住宅地の開発も盛んだ。 ドネシアなどASEAN諸国に らないという点だ。海外の市場 問題もなさそうだ。 比べると、安定した低賃金︵月 変 更 や 撤 退 を 理 由 に﹁ 売 出 中 ﹂ では、労働力はどうか。前編 で紹介したように、OFWによ するという形態が多いため、今 る人材流出はあるものの、高等 に対する生産拠点として、ある さらに、フィリピン経済の特 徴の一つである﹁二次産業比率 教育機関への進学率や年齢人口 に二〇〇ドル∼三〇〇ドル︶で の 低 さ︵ 約 三 〇 %︶﹂ は 無 視 で 構成をみると、豊富で優秀な労 ﹁空き家﹂となっている工業団 製造業は市場攻略もあわせてア きない問題だ。生産拠点として 後、何らかの見直しが必要にな ジア進出を考える時期にきてい の進出を考える日系メーカー 働力には不安がないように見え いは他のアジア生産拠点への部 る。なかでも、フィリピン市場 は、必ず他のASEAN諸国と る。しかし一方で、昨年一二月 推移している。アジア諸国に関 へ生産量の三〇%までしか流せ 比較して立地を決めている。昨 に人口抑制法が成立し、この一 地も目立つ。 ないという点は、消費財メーカ 今は、ASEAN内での生産コ 月 一 七 日 よ り 施 行 さ れ た た め、 るかもしれない。 ーにとっては将来的に大きな制 スト競争も激しくなってきてい 今後、何らかの影響が出てくる 材生産拠点として活用する分に 約となる可能性が高い。 るため、コスト低減の大きなポ 可能性は否めない。 するジェトロの調査などを見て また、生産財メーカーにとっ ても、納品先としてのローカル イントである﹁いま、安価で充 はまったく問題がないが、日系 のメーカーを開拓する際に制約 実したローカルの外注を活用で 人口の八割以上を占めるアジ が生じることになる。経済区に ニュートップ L. 2013.March.No.42 「SALE」 「FOR RENT」など工業団地によって は空き家も多い も、 雇用が容易で定着率もよく、 PEZA周辺の開発は急ピッチで進む アジア進出成功MAP 生率の背景にあったのだが、新 大きく上回る三・二七という出 らず、これが世界平均二・一を 中絶はもとより避妊を認めてお るフィリピンでは、教会が人工 ア最大のカトリック教徒を抱え ルセンターを設置する動きはほ 一となった。日本語可能なコー 〇一〇年にインドを抜き、世界 ターが集中し、そのシェアは二 であるため、世界のコールセン 部委託︶産業だ。英語が公用語 扱いで﹁仕事の合間に一階のス 本でいう六本木ヒルズのような ∼ 六 〇 〇 ド ル ︶、 入 居 ビ ル は 日 と賃金も高く︵月に三〇〇ドル スタッフは、他の産業に比べる 策という面もある。ここで働く メリットを大いに享受できるだ な 形 態 の メ ー カ ー に と っ て は、 入から加工、輸出まで扱うよう が、ワンストップで原材料の輸 イチェーンはあてにできない 工輸出型生産だ。域内のサプラ ている。インドやベトナムに比 ろう。あるいは英語を生かせる ンターの仕事は三交代制も珍し べて定着率も圧倒的に高い。組 ターバックスでコーヒーを飲 くないため、ほかにもファスト み込み系などのプログラム開発 とんどないが、英語で業務が可 フードが多く入居し、二四時間 やアプリケーション開発、外食 法の施行を機に、貧困層へのコ も最近はITパークが増え、日 営業がほとんどだ。ビルによっ 産業に可能性がありそうだ。 サービス業もいい。就業人口は 系企業の入居も続いている。と ては、地下にディスコやクラブ ASEAN地域における国別 の日系企業数で見れば、フィリ む﹂スタイルが、現地ではかっ くにオフショアでのプログラミ まである。ITパークは、若者 ピンのシェアはたった二%に過 能なアウトソーシングについて ング開発の拠点が多い。 だけでなく、富裕層や外国人に ぎないものの、この連載のテー ン ド ー ム や ピ ル の 無 料 配 布 や、 画に関する情報とサービスの提 日本ではあまり知られていな いが、このITパークにはもう 人気のエリアとして外食・娯楽 マである﹁リスクを最小化する﹂ 増え続けており、賃金も安定し 供が始まるという。 一つの顔がある。外食やエンタ 関係企業の一番の稼ぎどころに こいいとされている。コールセ ネシア、 マレーシアと同様に ﹁非 テインメントの最先端エリアに なっているが、日系の店はまだ は進出が加速してきた。経済区 労働人口の抑制と生産性の向 なっているのだ。BPO産業が 学校での性教育の推進、家族計 上﹂に取り組んでいくこととな 成長している背景には、国の政 要﹂としており、タイやインド 国の方針は﹁経済成長を促進 するためには人口の抑制が必 り そ う だ。 あ る 調 査 に よ れ ば、 という点では、最もあてはまる 国かもしれない。治安やインフ ラ整備の遅れ、現在の政策の継 た。では、これから進出するな 路線へと大きく舵を切り始め その足かせが外れたいま、成長 で 低 成 長 が 続 い た フ ィ リ ピ ン。 は非常にポテンシャルの大きい らなければ、日系企業にとって パターンにのり、進出地域を誤 らなる発展も期待できる。成功 年は選挙の年に当たるため、さ 拭 さ れ た と は い え な い が、 今 続性に対する不安が完全に払 ら、どんな業種がねらいめなの 国なのである。 だろうか。 優秀で豊富な労働力を背景に しながら、これまで政治的要因 ほとんど見かけない。 現地人十代の六四%は法律を支 持しているとされ、これから二 〇年後には、若年労働者が不足 してくるかもしれない。 もう一つの巨大産業 BPOビジネス フィリピンで、いま最も成長 しているのは、コールセンター 一つはPEZAを活用した加 ニュートップ L. 2013.March.No.42 やプログラム開発、事務処理な どのBPO︵業務プロセスの外 外資系IT関連企業が集中する 「ITパーク」 (セブ)。 オフィスビルが立ち並ぶ