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P2P を用いた動画配信サービスの提案

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P2P を用いた動画配信サービスの提案
FIT2011(第 10 回情報科学技術フォーラム)
M-037
P2P を用いた動画配信サービスの提案
A Proposal of Video Delivery System Based on P2P Network
柏木 貴紀†
Tak anori Kashiwagi
澤本 潤†
杉野 栄二†
瀬川 典久†
Jun Sawamoto Eiji Sugino Norihisa Segawa
1. はじめに
近 年 , Y ou Tu b e な ど の 動 画 配 信 サ ー ビ ス の 普 及 に よ
り,個人単位で動画を用いて情報を発信することが容
易となった.今後も情報発信するための媒体として
動画を用いる動きが活発化すると予想される.また,
個人利用の通信回線速度や端末性能も向上し,情報
を発信するための媒体として動画を用いる動きが今
後 も 活 発 化 す る と 予 想 さ れ る . 米 Cisco の 独 自 予
測 ・ 調 査 [ 1] に お い て も , イ ン タ ー ネ ッ ト に お け る 動
画 の 利 用 量 は 20 14 年 ま で に 世 界 の IP ト ラ フ ィ ッ ク
の 57%を占めるようになると予想されている.
これに伴って,サービス提供側ではサーバへの負
荷や増設に伴うシステムの大型化やネットワークト
ラフィックの増加の問題が,ユーザー側ではアクセ
ス障害といった問題がますます深刻になってくると
考えられる.
そういった中,これらの問題を補うための技術と
し て , デ ー タ 共 有 の 面 に 優 れ る Peer to Peer( 以 下
P 2P ) が 注 目 さ れ て い る . 中 で も , そ の 一 種 で あ る
H yb r i d P 2 P を 用 い た B i t Tor r e n t [ 2] が デ ー タ 共 有 の 面
だけでなく,コンテンツの検索・管理の面からも動
画配信に適していると考えられる.しかし既存のコ
ンテンツのダウンロード方法のままでは,再生の遅
延や途切れが発生する可能性が高く,動画配信に適
さない.そこで,動画配信を想定したダウンロード
手 法 と し て B i To S が 提 案 さ れ た が , 依 然 再 生 の 遅 延
や途切れが発生する場合があり,それらの時間や回
数の短縮・減少が求められている.
こ れ ら の 点 を 踏 ま え 本 研 究 で は , B i t To r r e n t を 用
い た 安 定 し た P 2P 型 動 画 配 信 サ ー ビ ス の 提 案 お よ び ,
B i To S 手 法 の 問 題 点 を 考 慮 し た 新 規 手 法 の 提 案 ・ 実
装を行うことを目的とする.
一 般 的 な P 2P ソ フ ト ウ ェ ア で フ ァ イ ル を ダ ウ ン ロ
ードする場合,目的のファイルを持っているピアを
ネットワーク上から検索し,そのピアの中から1台
だけを選びファイル全体をダウンロードする.一方
で B i t To r r e n t は , フ ァ イ ル を ネ ッ ト ワ ー ク 上 に ア ッ
プロードする時点で,そのファイルは一定の小さい
サイズごとに分割される.この分割された断片ファ
イルをピースと呼称する.ネットワーク上のそれぞ
れのピアは互いの所持していないピースをダウンロ
ードすると同時に,相手の所持していないピースを
アップロードして互いに補完しあい,ファイルを完
成させる.この方法によって,すべてのピアがダウ
ンロードだけでなくアップロードにも参加するため,
他 の P 2P ソ フ ト ウ ェ ア よ り も 各 ピ ア へ の ア ク セ ス 負
荷は軽減される.
ピースを集める際,ネットワークに参加したての
場合やピアの数が少ない場合には,ランダムでネッ
トワーク内のピースをダウンロードし,そうでない
場合はネットワーク内のピースの種類を均一にして
ダウンロードしやすくするため,ネットワーク内で
希少なピースを優先的にダウンロードして自ピアが
アップロードする(Rarest First 手法)など,状況に応
じて手法を変えながら収集する.これらの手法は全
て最終的にファイルを効率よく完成させることが目
的であるため,ピースをダウンロードする順番には
重点は置かれていない.
しかし,動画配信においては,連続して再生を行
うために,ファイルの先頭ピースから順に集める必
要があるため,既存のピース選択手法では動画配信
には適さないという問題がある.
ピア
サーバ
2 .関連研究
Web上の情報を元にサーバへアクセスし
ネットワークへ参加
各ピアのインデックス情報
を管理
2.1. BitTorrent
こ こ で , 本 研 究 の 基 と な る B i t To r r e n t に つ い て 説
明 す る . B i t To r r e n t と は , H yb r i d P 2P 型 コ ン テ ン ツ
伝送用プロトコル,及びそれを用いたソフトウェア
の名称である[図 1].通信自体はピア(クライアント)
同士が直接接続することで行い,各ピアのインデッ
クス情報はサーバが管理するため,ピアのスムーズ
な検索及びネットワーク上コンテンツの配信管理も
容 易 と な る と い う H yb r i d P 2P の 特 徴 に 加 え , 独 自 の
コンテンツの分散・ダウンロード方法を持つ.
†岩手県立大学大学院ソフトウェア情報学研究科
357
( 第 4 分冊 )
サーバが管理するピアのみで
構成されたネットワーク
図 1 . B i t To r r e n t ネ ッ ト ワ ー ク イ メ ー ジ 図
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The Instiute of Electronics, Information and Communication Engineers
All rights reserved.
FIT2011(第 10 回情報科学技術フォーラム)
2.2. BiToS
A . V l a v i a n o s ら の 研 究 [ 3] で 提 案 さ れ た
B i To S ( E n h a n c i n g B i t t o r r e n t f o r S u p p o r t i n g
Streaming Applications) は , 動 画 配 信 を 想 定 し
B i t To r r e n t の ピ ー ス 選 択 手 法 を 改 良 し た も の で あ
る [図 2].動画の現在の再生位置に応じ てデッドラ
イン位置を設定し,その位置に近いピース数個を最
優先グループとして一定の確率で最優先グループ内
のピースを優先的にダウンロードするようにするこ
とで,スムーズな動画再生を可能とした.
しかし,優先グループ内のピースを集める際は通
常の選択手法のままであるため,必ずしも再生位置
に一番近いピースがダウンロードされるとは限らず,
依然再生の遅延や途切れが発生する可能性がある.
一番再生位置に近いピアが初めに選択されるとは限
らないといった問題点を解消し,より再生遅延や途
切れが発生する頻度を減らすことが可能となると考
えられる.
コンテンツの全ピース
デッドライン
1 2 3 4
5
6 7 8
優先グループ
9 10 11 12 13 14 15 16
低優先グループ
優先グループ内の最も
デッドラインに近いピースを選択
ダウンロード済
ピース
未ダウンロード
ピース
5のピースを
所持
5のピースを
所持
通信速度が速い方のピアを
選択してピースを交換
図 2. B i To S 手 法 イ メ ー ジ 図
通信速度が速いピア
3 .提案手法
通信速度が遅いピア
図 3. 提案するピア・ピース選択手法のイメージ図
本 研 究 で は , B i t To r r e n t を 基 に し て 信 頼 度 の 高
い動画配信の実現を目的とするため,既存研究より
動画配信に適 したピア・ピース選択手法 [図 3]の提
案を行う.
提 案 す る ピ ア ・ ピ ー ス の 選 択 手 法 は , B i To S 手 法
に改良を加える事で実現する.再生位置に応じてデ
ッドラインを設定し,その位置に近いピース数個を
優先グループに,その他のピースを非優先グループ
に設定し,ある一定の確率で優先グループからピー
ス を ダ ウ ン ロ ー ド す る 所 ま で は B i To S 手 法 と 同 様
である.その後,非優先グループが選ばれた際は,
Rarest First 手 法 に 基 づ い て ピ ー ス を ダ ウ ン ロ ー
ドするが,優先グループ中のピースを選択した場合 ,
さらにその中で最もデッドラインに近いピースを選
択し最優先でダウンロードするようにする.また,
選択されたピースを持つピアの中でも一 番通信速度
の速いピアを選択し,通信を行うように改良する.
ピアの通信速度は,各ピアがそのネットワーク内で
アップロードしたピースの総量と比例するため,ピ
ア毎のこの値を比較し,通信速度の早いピアを求め
る.
こ の 手 法 に よ り , B i To S に お け る , グ ル ー プ 内 で
4 . システム設計・実装
本システムは,クライアントソフトをインストー
ルしたピアと,各ピアの情報を管理するためのサー
バソフトをインストールしたサーバとで構成される
[ 図 4 ].
ユーザーはコンテンツを閲覧したい場合,自ピア
のインデックス情報をサーバに提供することでその
コンテンツが配布されているネットワークへ参加す
る.その後サーバから他ピアのインデックス情報を
取得し,その情報を基に各ピアとピースを交換し,
逐次再生を行う.
クライアントソフトは,コンテンツの検索機能,
自・他ピアのインデックス情報送受信機能,コンテ
ンツのアップロード・ダウンロード機能,コンテン
ツの再生機能を有する.
コンテンツの検索機能では,ユーザーが閲覧した
い コ ン テ ン ツ を 検 索 す る . 通 常 , Bi t To r r e n t の ネ
ッ ト ワ ー ク に 参 加 す る 場 合 は , We b 上 で そ の コ ン テ
ン ツ を 管 理 す る サ ー バ の IP ア ド レ ス を 入 手 す る 必
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( 第 4 分冊 )
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FIT2011(第 10 回情報科学技術フォーラム)
要があるが,本システムではクライアントソフトで
見たいコンテンツの検索を行うと同時にサーバのア
ドレスも取得し,すぐにネットワークへ参加できる
ようにする.
自ピアのインデックス情報送信機能は,一定時間
ごとに自ピアの IP,アップロードレートなどの情報
をサーバに送信するものである.
他ピアのインデックス情報受信機能では,一定時
間ごとに現時点でネットワークに参加している他ピ
アのインデックス情報を取得する.
コンテンツのアップロード・ダウンロード機能 は,
サーバから取得したインデックス情報をもとに,ネ
ットワーク内の他ピアと通信を行い,ピースをアッ
プロード.ダウンロードする.
サーバソフトは,コンテンツ情報の管理機能,ネ
ットワーク内ピアのインデックス情報管理機能を有
する予定である.
コンテンツの管理機能は,自身が管理するネット
ワーク内においてやりとりされているコンテンツの
情報を管理し,ピアからの要求に応じてその一覧の
送信を行う.
ネットワーク内ピアのインデックス情報管理機能
は,一定時間ごとにネットワーク内のピアの情報を
取得し,各ピアに伝搬する機能である.
本研究では,クライアントソフトのプロトタイプ
として,インターフェース部,ピース出力部及び要
求 ピ ー ス 決 定 部 , コ ン テ ン ツ 再 生 部 を ,
B i t To r r e n t A P I に 追 加 す る 形 で 実 装 を 行 っ た [図 5 ].
ユーザーへ
インターフェース部
トレントファイル
作成部
トレントファイル
解析部
ピース出力部
動画再生部
所持ピースチェック部
ファイル出力部
サーバへ
接続
トラッカー通信部
自ピア情報管理部
ネットワーク情報
更新・取得部
要求ピース決定部
他ピア情報
管理部
ピア
選択部
BiToS手法
提案手法
他ピアへ
接続
BT手法
ピース送受信部
要求
他ピア通信部
図 5 .ク ラ イ ア ン ト ソ フ ト ウ ェ ア 構 成 図
5 .実験・評価
本 研 究 で 提 案 手 法 と B i t Tor r e n t に お け る 通 常 の ピ
ー ス 選 択 手 法 及 び B i To S 手 法 で , そ れ ぞ れ 動 画 の 再
生開始までにかかった時間と,再生が途切れていた
時間を計測し,比較を行った.
1 台の PC 上で仮想環境を構築し,あらかじめす
べてのピースを持ったピアを仮想ネットワーク上に
1 台用意して,一定時間ごとにピアを次々とネット
ワークに参加させていき,それぞれのピアにおける
動画の再生開始までにかかった時間と,再生が途切
れていた時間の合計を計測した.なお,動画の再生
は,ファイルの先頭ピースがダウンロード終了した
時点で開始されるものとした.通信速度はピア毎に
プログラムで変化させ,速度はピアのネットワーク
参加時から離脱まで一定とした.
各手法における再生開始時間を比較したグラフを
図 6 に示す.
120
100
80
BT手法
60
BiToS手法
40
提案手法
20
ネットワーク参加から
再生開始までに
かかった時間(秒)
0
2
3
4
5
ピアの数
図 6. 再生開始時間の比較グラフ
図 4 .提 案 シ ス テ ム 構 成 図
ネットワーク参加から動画の再生開始までにかか
った時間は,提案手法が最も速かった.ファイルの
先頭ピースを選択する時点から,適切な ピア・ピー
スが選択されていたと考えられる.
BT 手 法 に お い て は , 時間に ば ら つ き が 見 ら れ る
が,これはネットワークに参加してすぐのタイミン
グではランダムにピースを選択するため,ファイル
の先頭ピースが選択されるまでの時間が一定では無
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いためであると考えられる.
ま た , B i To S 手 法 で は , 一 部 で 開 始 時 間 が 提 案
手法を上回る速度となったが,これは優先グループ
内の中からピースが選択される際に,適切なピア・
ピースが選択された場合であると考えられる.
次に,各手法における平均再生途切れ時間を比較
したグラフを図 7 に示す.
参考文献
[ 1 ] C i sc o S ys t em s I nc :C is co ® V is ua l
N e tw o rk in g I nd e x (V NI ) F or e ca st 20 09 2 0 14 , 20 10 - 06 - 0 2 ,
h t tp : // ww w .c is c o. co m/ en / US / so lu t io ns / co
140
l l at e ra l/ n s3 41 / ns 52 5/ ns 5 37 / ns 70 5 /n s8 2 7/
120
w h it e _p ap e r_ c1 1 -
100
4 8 13 6 0_ ns 8 27 _N e tw or ki ng _ So l ut io n s_ Wh i te
80
BT手法
60
BiToS手法
提案手法
40
_ P ap e r. ht m l ,
[ 2 ] B i tT o rr en t .I nc . : B it to rr e nt ,
h t tp : // ww w .b it t or re nt .c o .j p /
20
平均途切れ時間(秒)
0
[ 3 ] A g ge l os V l av ia n os , Ma ri o s I li of o to u a nd
2
3
4
5
ピアの数
M i ch a li s F al ou t so s : B iT o S: E nh an c in g
B i tt o rr en t f or Su pp or ti n g S tr ea m in g
図 7. 平均再生途切れ時間の比較グラフ
提 案 手 法 は , BT 手 法 と は大 き な 差 が 見 ら れ た も
の の , B i To S 手 法 と は 大 き な 差 が 見 ら れ な か っ た .
また,ピアが増えるにつれてピースを持つピアも多
くなるため,本来なら待ち時間が短くなるはずだが
あまり変化が見られなかった.
これらは,ネットワーク上のピア数が少なすぎる
ために,一部のピアに要求が集中してしまったため
と考えられる.
A p pl i ca ti o ns , P r oc .C on f. 2 5t h I EE E
C o mp u t e r a nd C o mm un ic at i on s S oc i et ie s
( I NF O CO M ’0 6 ),
p p .1 – 6, A p r. 2 0 06 .
6 .まとめ
本研究では,P2P を用いた動画配信サービスを提
案した.また,P2P を動画配信に用いる際の問題点
について触れ,それらを考慮した新規手法を提案・
実装し,既存手法との比較を行った.
提案手法は,既存手法と比較してネットワーク参
加から動画の再生までにかかる時間の短縮は確認で
きたが,平均再生途切れ時間においては,既存手法
との大きな変化は確認できなかった.
これらは,通信速度の速いピアの選択は出来てい
たが,それらのピアの数がネットワーク上に十分で
はなく,アクセス集中を起こしてしまった結果,再
生途切れ時間・短縮には繋がらなかったと考えられ
る.
今後の課題として,ネットワーク上にある通信速
度の早いピアや,貴重なピースを持ったピアの 数に
応じて適切にピースを要求し,一部のピアにのみダ
ウンロードの要求が集中しないようにするなど,手
法の改善が挙げられる.
360
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