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低風速天井吹出し方式による病室の換気・空調設計に関する研究 (その9

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低風速天井吹出し方式による病室の換気・空調設計に関する研究 (その9
低風速天井吹出し方式による病室の換気・空調設計に関する研究
(その9) 1床病室への実施例における暖房性能の検証
Ventilation and Air Conditioning Design of Sickroom by Low Velocity Fabric Air Diffuser on Ceiling
(part9) Test of Heating for a single Sickroom in the Hospital
正会員 ○ 前田 龍紀(竹中工務店)
技術フェロー
山中
技術フェロー
甲谷 寿史(大阪大学)
正会員
桃井 良尚(大阪大学)
技術フェロー
相良 和伸(大阪大学)
学正会員
本田 雄樹(大阪大学)
正会員
上田 真也(竹中工務店)
Tatsunori MAEDA*1
俊夫(大阪大学)
Toshio YAMANAKA*2 Hisashi KOTANI*2 Yoshihisa MOMOI*2
Kazunobu SAGARA*2 Yuki HONDA*2 Shinya UEDA*1
*1Takenaka Corporation *2Osaka University
In sickroom, the demands of ventilation and air conditioning design are the saving energy, mild air conditioning for the
sick, suitable air volume and effective ventilation. We focus the Low Velocity Fabric Air Diffuser on Ceiling ,and we count
on the effects of both displacement ventilation and radiant air conditioning. In this study, we test performance in heating
for a single sickroom.
30
冷
房
負
荷
20
累 10
積
度 0
数
h
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
4
暖
房
負
荷
‐10
‐20
冷房期
‐30
暖房期
[月]
※2015 年大阪気象台の各月 15 日外気温データを使用
2)
計算条件・パラメータは既報 参照
図 1 冷房負荷と暖房負荷の出現頻度
SOA
EA
EA
EA
705
排気口
ライン型吹出口
ダンパー FCU
低風速天井型吹出口
窓
還気口
ベッド
模擬人体 (40W)
500 250
[ ]
1.はじめに
近年の病室の換気・空調に対する課題を以下に示す。
① 多用途に比べ外気量が多く空調負荷が大きい
② 窓面積の割合が大きくペリメータ負荷処理が必
要となる場合が増えている
③ 天井カセット型空調機などの循環式空調の風量
によるドラフトが患者に不快感を与える
④ 多床室では循環風量が病床間での臭気や汚染空
気拡散の原因となっている
一般的に病室の外気処理は外調機で行い、また上下隣
室も同じ病室として空調されているため、内壁からの貫
流熱も少ない。つまり、内部発熱を考慮すると、外壁と
窓ガラスの熱抵抗が高ければ、大半で冷房要求となる。
(図 1)そこで、本研究では主に冷房時をターゲットと
し上記課題を解決した新たな病室の空調方式を実験、数
値解析、実施、実測による一連の流れで検証している。
既報 1)では、冷房時の実大実験室を行い当初の狙いで
あった置換換気効果と低風速吹出し口によるドラフトレ
ス環境が実現できていることを検証し、既報2)では暖房
時の換気・空調方式を示し、簡易解析による検証を行っ
た。そこで本報では、低風速天井吹出し空調を導入した
実建物の 1 床病室を対象に、実測を行い暖房時の性能を
検証した。
図 2 暖房時の概念図
RA
SOA
EA
155
表 1 条件表
低速天井吹出し口(不燃膜)
ライン状吹出し口
6000
810
876
900
900
Wf
We
400
ベッド上排気口
Wd
P5
Wi
P6
3150
給気口 705□
P7
1575
3150
P4
788
還気口
1175
Wg
1575
ライン型吹出口
P1
ベッド
P2
Wc
排気口 155□
P3
788
今回使用しない
1300
1214
模擬人体
Wh
環気口
PS
Wa
980
図 3 対象となる 1 床室
Wb
パーソナル吹出口
1050
2060
6000
650
610
650
図 4 測定室平面図[mm]
SOA
EA
705
排気口
低風速天井型吹出口
RA
SOA
EA
155
窓
2600
1780
ライン型吹出口
ダンパー FCU
模擬人体 (40W)
820
500 250
還気口
ベッド
480
600
1000
2950
970
6000
SOA
EA
705
排気口
低風速天井型吹出口
RA
SOA
EA
155
窓
2600
1780
ライン型吹出口
ダンパー FCU
模擬人体 (40W)
500 250
還気口
ベッド
820
2.低風速天井吹出し空調を導入した 1 床病室の概要
暖房時の阻害要因を以下に示す。
① ペリメータ窓面からのコールドドラフト
② 天井吹出口の暖気のための高さ方向の温度勾配
③ 吹出空気の下降抑制による置換換気への干渉
コールドドラフトを低減させるためペリメータ下部に
還気口を設け、ペリメータの冷気を室内空気と混合せず
に空調機へ戻し負荷処理を行い吹出温度を室温に近い温
度に抑えることで、置換換気効果への影響を軽減させる
方式を考えた。図 2 に今回の空調方式の暖房時の概念図
を示す。低風速天井吹出し口は、置換還気効果を妨げな
いようにベッドを取り囲むように配置し、排気口はベッ
ド中心の直上と洗面台上部 2 か所に設けている。なお、
通常の対流空調との比較も行えるようにペリメータにラ
イン状吹出し口を設け、低風速天井吹出し口と電動ダン
パーにて切り替えられるようにした。
1 床室の写真を図 3
に示す。
3. 実測概要
3.1 実測室概要
実測は、2016 年 12 月 9 日~12 月 10 日の期間に行った。
測定対象室の平面図、断面図を図 4, 図 5 に示す。測定対
象室は幅 3.15m×奥行 6.0m×高さ 2.6m である。測定室の
給気方式は 2 種類あり、一方は放射効果も意図して比較
的大面積吹出しとした低風速天井吹出し空調として一辺
705mm の布状吹出口 3 つから給気を行う方式、他方はペ
リメータの窓付近上部に取り付けられたライン型吹き出
し口から給気を行う方式である。
それぞれを放射モード、
対流モードと呼ぶこととする。また、ベッド上部と手洗
い場上部に排気口を設けている。ペリメータ窓横には還
気口が設けてあり、その大きさは幅 190mm×高さ 590mm
で、中心が床より 655mm の場所に位置する。
480
600
1000
970
6000
2950
図 5 実験室断面図[mm]
( 上:対流モード 下:放射モード )
3.2 実測概要
ベッド上に模擬人体(長さ 2000mm,直径 250mm)を設置
し、睡眠時の成人男性の顕熱発生量として発熱量は 40W
とした。さらに模擬人体上部中央に、半径 50mm、長さ
300mm の PET 製の円筒側面に開けられた合計 150 個
の穴(φ= 4mm)からなるトレーサガス発生口を設置し
た。実測条件を表 1 に示す。給気温度は、模擬人体のあ
る床上高さ 625mm 付近で両モードともに同程度の温度
となるようにした。トレーサガスの発生位置は、患者か
らの体臭などの汚染物の発生を想定し模擬人体上部にと
りつけたトレーサ発生口と、室内の空気齢を求めるため
のトレーサーガスステップアップ法を意図し給気口より
発生させる 2 種類とし、トレーサガスの発生量は両条件
共に 1.0L/min とした。本報では放射モード、対流モード
の両条件で暖房時における測定を行い、それぞれの特徴
について把握した。
3.3 温度・汚染物濃度測定
温度測定点・汚染物濃度測定点を図 4 に示す。室内空
気温度・汚染物濃度測定には CO2 濃度・温湿度ワイヤレ
スデータロガー(T&D corporation,RTR-576)を用いて、測
定室平面 6 点(P1~P6)のそれぞれ鉛直方向 6 点、排気口
と還気口の空気温度の 5 秒ごとの瞬時値を測定した。ま
た、T 型熱電対を用いて壁面の室内側についてそれぞれ
鉛直方向 2 点の壁面温度(Wa〜Wi)、低風速天井吹出し口
の表面温度の 2 秒ごとの瞬時値を測定した。
濃度測定は、測定室平面 6 点(P1〜P6)のそれぞれ鉛直
方向 6 点、および給気口・排気口・還気口の汚染物濃度
の瞬時値を測定した。なお、濃度については測定濃度と
外気濃度との差を外気濃度と排気濃度の差で除すること
により規準化を行った。なお、実測のアクシデントによ
り case1,case2 で は 、 温 度 は P6-100,600, 濃 度 は
P4-2100,P6-100,600 が欠測している。
4.測定結果
4.1 鉛直温度分布
図 6 に各条件の鉛直温度分布を示す。壁面温度は天
井・床面・窓面を除く壁面の測定温度を平均した。図 6
より対流モードでは一様な上下温度分布が形成されてい
る。一方、放射モードでは上下温度差が大きくなり温度
成層が形成されている。模擬人体の中心高さ 625mm 付
近では両モードともにほぼ同程度の温度となっている。
壁面温度に関しては、床面温度にあまり差はないが天井
面と壁面に大きな差があり、放射環境が大きく異なって
いる。CO2 の発生位置に関わらず、同モードではほぼ同
じ温度分布を示した。なお、両モードの大きな違いは吹
出し温度であった。
4.2.温度分布比較
図 7 に放射モードと対流モードの温度分布の比較を示
す。図 7 より両条件共に P1~P6 に大きな分布の差は見
られない。天井面温度は放射モードの条件では対流モー
ドよりも約 5℃程度高くなっている。
壁面温度も 2℃程度
の差が生じている。また、放射モードでは FL+100mm と
FL+2500mm 間で上下温度差が 5℃程度生じる結果とな
った。
4.3.濃度分布比較
図 8 に濃度分布の比較を示す。図 8 より、対流モード
(a)case1 (対流モード、模擬人体発生)
(b)case2 (放射モード、模擬人体発生)
(c)case3 (対流モード、給気口発生)
(d)case4 (放射モード、給気口発生)
図 6 各条件での鉛直温度分布
の条件では、規準化濃度が 1 に近い値となっており、CO2
が一様に混合していると考えられる。P4 付近の高さ
1100mm でやや高い値が出ているが、P4 は還気口に近い
ためにこの値となったと考えられる。一方で、放射モー
ドの条件では、床上高さ 1100mm の高さで汚染物濃度が
高くなっており、汚染物の停滞がみられる。図 7 からわ
かるように、温度成層のために汚染物が天井の排気口ま
で達しにくく、停滞したと考えられる。また、P3 の足元
においてもやや高い濃度を示した。
4.4 局所平均空気齢
図 9 に室内各点での局所平均空気齢を示す。本システ
ムでは、給気口より発生させたトレーサガスが還気口を
通して再び給気口より給気されるため、測定室へ入る給
気のトレーサガス濃度は時々刻々と変化する。そこで、
ベッド直上の排気口から排気される割合が高くなってい
る。
4.6.考察
図 6 より対流モードと放射モードで吹出し温度が大き
く異なっている。今回のファンコイルユニットは壁面に
設置した温度計が空調設定温度になるように温水二方弁
を制御し吹出し温度を調整する制御で計画していたが、
何らかの原因で放射モードでは二方弁制御が働かず吹出
し温度が上昇し設計想定と異なる室内環境になっていた。
5.まとめ
低風速天井吹出し空調を導入した実建物の 1 床病室を
対象に、
実測を行い暖房時の性能を検証した。
その結果、
放射モードでは当初想定していた室内環境と異なってい
ることが分かった。そこで、次報では、今回の実測調査
で得られたデータでシミュレーションソフトの同定を行
い、暖房時のシミュレーションについて考察する。
参考文献
1) 巽大樹、山中俊夫、甲谷寿史、桃井良尚、相良和伸、
図 7 鉛直温度分布
本報ではパルス解析を用いた空気齢を算出を試みた。給
気口で M[m3]のガスを発生させるとき、給気口での単位
パルスに対する濃度応答を Rp(t)とすると、式(1)と表せ、
式(1)'と変形できる。Cs(t)及び Cp(t)が測定より既知であ
るため、Rp(t)を式(2)と仮定し最小二乗法により Rp(t)を
求め、式(3)より τp を算出した。図 9 より対流モードで
は、給気口からの空気が室全体に混合されやすいため、
天井面と床面では空気齢の値に差は小さいが、放射モー
ドでは低風速で吹き出しているため、床面に近づくほう
が空気齢が大きくなっており、上下差が大きくなってい
る。
花田潤、上田真也、前田龍紀;低風速吹出し口を用い
た病室の室内環境に関する研究(その 4)吹出し口配
置及び換気回数が室内温度・汚染濃度分布に及ぼす影
響,日本建築学会大会学術講演梗概集 2014(環境工学
Ⅱ),pp.751-752
2) 前田龍紀、山中俊夫、甲谷寿史、桃井良尚、相良和伸、
本田雄樹、上田真也;低風速天井吹出し方式による病
室の換気・空調設計に関する研究(その 7)暖房時に
ける換気・空調方式の提案及び設定風量の検討空気調
和衛生工学会大会学術講演梗概集 2015(環境工学Ⅱ),
第 3 巻 pp.353-356
(1)
(1)’
(2)
RP(t):インパルス応答関数[1/m3]
CP(t):P 点における濃度[-]
CS(t):給気濃度[-]
(3)
図 8 鉛直 CO2 濃度分布
図 9 局所平均空気齢
M(t):発生量[m3/s]
表 2 流量比と汚染物吸気分配率
τP:局所平均空気齢[s]
吸込口
4.5.人体から発生した汚染物の排気性能
表 2 に汚染物の各排気口及び還気口への分配率と流量
比を示す。天井面に対流した暖気により対流空調の方が
ベッド上
洗面上
還気口
合計
排気口
対流モード
流量比
分配率
17
15
14
10
69
75
100
100
放射モード
流量比
分配率
17
10
14
7
69
83
100
100
Fly UP