...

こちら( PDF:351KB)

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

こちら( PDF:351KB)
「水インフラにかかわる PPP の導入について」
中間とりまとめ
平成23年4月
インターリスク総研
別添の有識者の皆様のご意見を、数回の会合を開催し、
お伺いしたうえでとりまとめました。
「水インフラ 1 にかかわるPPPの導入について」中間とりまとめ
FP
PF
1. 厳しい財政状況と今後の改築更新等の必要性
(全体)
我が国の国及び地方の長期債務の残高は 2009 年度時点で、国が 607 兆円程度、地方が
197 兆円程度であり、国及び地方をあわせて 800 兆円程度となり、我が国の GDP の 1.8
倍に到達している(図表1)。2005 年度以降、国及び地方の歳出削減の努力や景気回復
で債務は減少に転じたが、2008 年のリーマンショック以降、再び増加に転じた。この
まま債務が増加すると長期金利が上昇すること等により債務の返済も困難となる危機
的な状況に陥るとの見方もあり、2011 年1月下旬には S&P により国債の格付けが引き
下げられた。公的な債務を増加させない等の財政の健全化が今焦眉の急となっている。
図表1
債務残高の国際比較(対GDP比)
国及び地方の長期債務残高
(2009年度見込)
(%)
190
150
国の長期債務残高
607兆円程度
110
70
日本
地方の長期債務残高
197兆円程度
30
(出典)財務省資料
また、高度経済成長期以降に投資したインフラ施設、公的施設等が劣化し、改築更新
が必要となる。たとえば、下水道への投資は1963年の第一次下水道整備5カ年計画
の策定以来、急速に増加した。2007年度末現在で、下水道施設への投資額は80兆
円以上となり、管路延長は約40万 km、処理場数は約2000カ所に及ぶ。管路の耐
用年数は50年ともいわれているが、布設後30年を経過すると相当程度劣化が進み、
陥没箇所が急増する傾向がある。2007年度末現在50年経過した管路は約7000
km、30年経過した管路は約7万 km であるが、今後経年化した管路が急増すると見
P
1
P
このとりまとめでは、上下水道事業のことを水インフラと総称する。
1
込まれる。処理場については、処理を開始してから15年を経過すると機械、電気設備
の更新が必要となってくるといわれており、2007年度末現在約800の施設が15
年を経過しているが、今後このような改築更新が必要な処理場も急増すると見込まれる。
国土交通省の試算によれば、このような改築更新費は2013年度には2008年度の
2倍強に、2023年度には3倍強に増加していくことになる。
水道は、下水道よりも先行して整備がなされていることから更新需要が先行すること
になる。昭和30年代(1955年以降)から水道への投資額は急激に増加し、197
5年前後に第一の投資額のピークがあり、1990年代に第二のピークがある。厚生労
働省の推計によれば、改築更新需要は増加傾向にあり、2004年度には年間5000
億円程度であるが、2020年度頃には、投資のピークに建設された施設が改築更新時
期を迎えるため、改築更新費がピークに達し、2004年度の約1.5倍の7500億
円に達することとなる。
また、平成 21 年度(2009 年度)国土交通白書によれば、下水道を含む国土交通省所
管の社会資本について、2011 年度から 2060 年度までの 50 年間で必要とされる改築更
新費は約 190 兆円に及ぶこととなる。
このように、これらのインフラ施設等が今後機能劣化することにより、大幅に改築更新
費が増加することになる。さらにこれに加え、特に大都市圏を中心とした急激なピッチ
での高齢化により、福祉関係の経費の増加も見込まれることとなる。きびしい財政状況
のもと、このような財政需要の増加にどのように対応していくかが大きな課題となるこ
ととなる。
(水インフラ)
水インフラの長期債務残高(既存の債務)は、平成20年度地方公営企業年鑑によれ
ば、水道が9.8兆円、下水道が31.9兆円、併せて41.7兆円と、地方の長期債
務残高197兆円のほぼ5分の1の水準であり、相当額に及んでいるといえる。
なお、これらの数字について判断する際、水インフラ事業については、料金収入によ
って回収しうる部分があるという点に留意する必要がある。
一方、水インフラの今後の改築更新に伴う費用負担(今後発生しうる費用負担)総額
について、一定の前提のもとに試算すると、水道が13.7兆円、下水道が25兆円、
併せて38.7兆円と、水インフラの長期債務残高にほぼ匹敵する費用負担が今後発生
することになるといえる。
なお、試算の前提は以下のとおりである。
水道については、改築更新に伴う財政需要は、減価償却費累計と同程度と仮定し、平
成20年度地方公営企業年鑑のデータを用い、減価償却費累計の数字を示している。
下水道については、単年度の改築更新費をもとに今後50年間程度の費用負担を試算
した結果、概ね25兆円程度となった(図表2)
。
2
(図表2)
●今後20年間の改築更新費(国費)の推定
8,000
平成20年度当初予算(国費)
6,620億円
平成20年度当初予算(国費)
6,620億円
(億円)
6,000
改築更新費が増加
4,000
2,000
0 H20
H25
H30
H35
H40 (年度)
(出典:国土交通省資料)
2. PPP について
(政府の新成長戦略)
このように膨大な公的債務をかかえ、さらに今後の改築更新に伴う費用負担も膨大な
額に及ぶことが予測される中、平成22年6月18日に閣議決定された政府の新成長戦
略は、「国、地方ともに財政状況が極めて厳しい中、必要な社会資本整備や既存施設の
維持管理・更新需要に最大限民間で対応していく必要がある。そのため、PFI 制度にコ
ンセッション方式を導入し、既存の法制度(いわゆる公物管理法)の特例を設けること
により公物管理権の民間への部分開放を進める。あわせて、公務員の民間への出向の円
滑化、民間資金導入のための制度整備、地方公共団体への支援体制の充実など、PFI
制度の拡充を 2011 年に行う。
」としている。すなわち、今後インフラの維持、整備に
ついて必要な支出の負担については、公費の支出にかえて可能な限り民間の資金で代替
していくべきとし、その具体的な手法としてコンセッション方式等のいわゆる
PPP(Public-Private Partnership)を活用すべきとする方針を明確に示した。
この新成長戦略に示された方針に従い、2011 年3月に民間資金等の活用による公共
施設等の整備等の促進に関する法律(PFI 法)の一部を改正する法律案が閣議決定され
た。また、同法の改正を前提に、事業権(同法案に規定された公共施設等運営権)につ
いて減価償却の対象とする税制改正要望が政府部内で認められている。
(PPP とは)
PPP(Public-Private Partnership)とは、公民が連携して公共サービスの提供を行う
ことをいう。厳しい財政状況の一方、インフラ等の改築更新をはじめとする行政需要を
鑑みると、公共のみでこれらを負担することはもはや不可能であり、公共と民間がそれ
ぞれのリソースを生かして行政を行っていこうという考え方が PPP が最近脚光を浴び
3
ている流れの根底にあると考えられる。
なお、PPP は、公民の適切なパートナーシップが実現してはじめて有効に機能する
ことに留意する必要がある。
PPP については、コンセッション方式のほか、包括的民間委託、PFI(サービス購入
型)等様々な手法がある。
包括的民間委託は、公共が行う業務につき、個々の業務ごとにということではなく、
たとえば維持管理業務につき包括的に民間に委託することにより、民間のノウハウを活
用してコストの縮減に資するものである。
サービス購入型 PFI は、施設の設計、建設から維持管理までの業務を一体的に PFI
事業者が行うものであり、包括的民間委託と同じく、業務の一部を民間に委託するもの
である。
PPP のどの手法を選ぶべきかは、どのような政策目的で公共が PPP の手法を選定し
たいと考えているか等により総合的に判断すべきものであり、個々の公共の事情により
異なってくるものと考えられる。
コンセッションとは、一定の期間、民間事業者に一定の公的資産について、建設、運
営、維持管理を独占的に行う権利(事業権)を民間事業者に付与し、民間事業者は利用
者からの料金によって収支を賄うことを原則とした独立採算の手法の一つである 2 。公
FP
PF
共の関与は、当初の計画策定を行うこと、コンセッションの具体的内容を定めること、
利用料金を規制すること、そして民間事業者が行う法的手続きの支援等であり、建設、
運営、維持管理等の事業の執行は民間事業者が行うことになる。民間事業者は、公共に
より設定された業績にかかわる要求水準に従う必要はあるが、民間の裁量の幅は大きく、
その反面、需要リスクは原則全面的に民間事業者に移転することになる。なお、事業期
間中、施設、資産の所有権は公共に属することになる(図表3)
。
2このとりまとめでは、既存の施設を対象に事業を行い、施設の新設を事業の対象に含
P
P
まず、施設の運営、維持管理、改築更新を対象とするアッフェルマージュをコンセッシ
ョンの概念に含むものとする。
4
(図表3)
公共
事業権の設定
モニタリング等監督権限の行使
事業権対価の支払い
利
用
者
利用料金
民間事業者
(コンセッション事業者)
融資・投資
金融機関
投資家
サービス提供
なお、事業期間中は、民間事業者が要求水準に従っているかどうかのモニタリングを
行い、必要な場合には是正を要求する等のいわば監督権限が公共側に留保されている。
今後発生しうる維持管理、改築更新等に伴う費用負担について、公費による支出で対
応するのではなく可能な限り民間資金で代替していくことという新成長戦略に示され
た政策目的にもっとも合致するのは、コンセッション方式に代表される独立採算型の事
業手法と考えられる。
コンセッション方式導入のメリットとしては、以下の事項が考えられる。
1)公共にとってのメリット
コンセッション方式の導入により、改築更新に伴い今後発生しうる費用負担について
民間事業者が負うことになり、大幅な費用負担の縮減がはかられることになる。また、
事業を公共から民間事業者が引き継ぐ段階で民間事業者が事業権対価を支払う場合に
は、公共がその事業にかかわる債務の返済にあてることにより、既存の長期債務の縮減
にも寄与することになる。
また、職員の減少等にかかわりなくサービス水準を維持することが可能となる。
さらに、民間事業者が事業を執行することにより、事業に必要な技術力、専門的な人
材等を民間が負担することになり、公共としてより資源を集中すべき業務に集中するこ
とが可能となる。
2) 民間事業者にとってのメリット
従来、公共の業務とされていた分野について民間事業者の参入が可能となることによ
り、新たな事業機会が創造されることになる。また、海外で水ビジネスの展開をはかり
新たな成長産業に育てていくことが新成長戦略にも示されているが、ノウハウの獲得等
をはかるうえで必要な国内での経験の蓄積に寄与することになる。
3)利用者(市民)にとってのメリット
民間のノウハウを活用することにより、たとえば、窓口開設時間の延長等、サービス水
準の向上がはかられることになる(図表4)
。
5
海
外
で水
験
メ
造
経
創
の
の
の
間
会
ため
機
の
民
得
業
事
ウ獲
ハ
たな
ノウ
新
を
ネス
ビジ
う
公
共
行
の
業
大
権
メリ
幅
職
対
な財
員
価
とし
ット
の
の
政
てよ
減
支
負
払
り 資 少等
担
いに
の
に
源
縮
より
を集 かか
減
公
わ
中
共
り
すべ
なく
の
債
サ
き業
務
ービ
の
務
縮
ス
に集
減
水
準
中
を維
す
るこ
持
とが
可
能
とな
る
(図表4)
事
ト
リッ
の
公
共
積
蓄
民間のノウハウを活用することによりサービスの向上
利用者(一般市民)のメリット
(コンセッション方式導入の課題)
民間事業者が破たんした場合、事業継続が不可能となるリスクがあるが、そのような
事態が生じた場合でも市民へのサービスが維持されるよう、あらかじめ具体的な措置を
講じておく必要がある。
また、2011 年3月に発生した大震災における経験を踏まえ、コンセッション方式を
導入した際における緊急時対応の枠組みを確保する必要がある。
(コンセッション方式における民間事業者にとっての需要変動リスク)
コンセッション方式は利用者からの料金によって収支を賄うことを原則とした独立
採算の手法の一つであり、需要リスクは原則全面的に民間事業者に移転することになる。
したがって需要リスクが大きい事業については、たとえば公共により一定のリスクヘッ
ジを行う等、なんらかの対応を行わないと、コンセッション方式は成り立たない。
水インフラ事業については、たとえば下水道については法的な接続義務がある等、事
業対象区域内に安定した数の利用者が存在することにより、需要が変動するリスクは相
対的に小さいと考えられる。
6
3. コンセッション方式導入の可能性
(地方公共団体等からみたコンセッション方式導入の動機)
地方公共団体等の公共サイドが、市民にとって真にメリットがあるかどうかを判断し、
コンセッション方式等の独立採算型の PPP 手法を導入する意思決定をしない限り、コ
ンセッション方式の導入は実現しない。その意味で地方公共団体等にとって、コンセッ
ション方式導入の動機があることが、コンセッション方式導入にかかわる必要条件にな
る。
動機の第一としては、地方公共団体等が、これ以上の債務負担を極力抑制するという
考え方にたち、それを行う手法としてコンセッション方式の導入を行うというものがあ
りうる。
個々の地方公共団体に対し、債務負担を抑制する枠組みとして「地方公共団体の財政
の健全化に関する法律」に基づく実質公債費比率等の指標がある。実質公債費比率を例
にとると 18%を超えると地方債許可団体に移行し、25%を超えると単独事業の起債が認
められなくなり、起債制限団体となる。この場合、今二つしかない基準を増やし、より
きめ細やかに地方公共団体の債務負担を規律していくことも考えられる。
しかしながら、より効果的な手法として考えられるのは、市場メカニズムを通して規
律していく手法である。地方公共団体が起債をする際、個々の公共団体の債務の状況等
を勘案し、個別に民間団体により財務格付けを行い、その格付けに基づき、金利負担等
の資金借り入れの条件が決まるような枠組みにかえ、あわせて破産法制の導入も行えば
債務縮減の強いインセンティブが働くことになると考えられる。
道路コンセッションの成功事例としてシカゴスカイウェイの例が挙げられることが
多いが、これは、シカゴ市が財政的に苦しい状況にあり、シカゴ市の財務格付けは下が
る方向にあったので、債務を縮減すべくシカゴスカイウェイの運営を民間に委ねること
としたものであり、まさに市場メカニズムを通して債務縮減の強いインセンティブが働
いた好例である。
また、地方公共団体によっては、公共団体の行政全体を俯瞰し、限られた公共のリソ
ースは真にその投入の必要性のある行政分野に集中し、民間に委ねられる分野について
は、民間に委ねていくことを試行しているところがある。
このような具体的な事例を積み重ね、導入のメリットを「見える化」していくことも動
機づけを行うもう一つの方法と考えられる。この場合の「見える化」には、本来公共の
リソースをあてなくてはならない技術力の確保、人材の確保が民間によりいかにスムー
スに代替されているかといったこと等が判断の対象となると考えられる。
(対象となりうる都市)
コンセッション方式は、財務も含め都市経営全般を見直したい、もしくは、財政力を
7
強化したいと考えている地方公共団体において、導入する動機も強いと考えられる。こ
のような動機を有する地方公共団体の都市規模は様々であるので、コンセッション方式
を導入することが可能となるような規模の利益が働く都市の規模も勘案していくこと
が必要と考えられる。
なお、地方公共団体の規模が小さい場合には、規模の利益を確保する努力、ないしは、
規模の利益を確保するための何らかの誘導策の導入をあわせて行うことが必要と考え
られる。
(「水インフラ PPP 促進協議会(仮称)
」の設立)
先行事例の集積を高めていく観点からは、現在、コンセッション方式等 PPP の導入
を検討している地方公共団体等のネットワーク化をはかり、相互に情報交換を行い、ノ
ウハウの蓄積をはかること等を目的として、地方公共団体等から成る「水インフラ PPP
促進協議会(仮称)
」を設立することが有用であると考えられる。
また、このような協議会と連携して必要なアドバイス等を行う組織を育成していくこ
とも必要であると考えられる。
(国等による積極的支援の必要性)
コンセッション方式の導入のためには、規模の利益の確保、イコールフッティングの
観点から現行制度で水道事業について認められている措置の民間事業者への適用、事業
権対価を支払った後の水道事業債の残債に対する対応等、地方公共団体の枠組みを超え
る取組みが求められる。新成長戦略に示された政策目的を実現するためにも国等による
積極的な支援が必要である。
4. 民間事業者の参加のインセンティブをどのように高めていくか
PPP は、リソースと行動原理の異なる公共と民間がそれぞれの違いを踏まえ、ゴー
ルを共有し、Win-Win の関係が構築されてはじめて成り立つものである。すなわち、
利益の追求がその行動原理である民間が参加のインセンティブを感じるものでなけれ
ば PPP は成立しない。
したがって、合理的な収益が見込めることが、民間事業者がコンセッション事業に参
加するかどうかの前提条件となる。そのための条件整備として以下の事項について検討
する必要がある。
(柔軟な料金設定の枠組み確保)
コンセッション方式を導入する際、今後の改築更新の費用負担にも対応しうるよう、
必要な料金改定を可能とするような経営環境の整備をはかる必要がある。
公民で適切なリスク分担をする以上、民間事業者の事業性確保の判断を可能とする柔
軟でサービス水準に応じた料金設定のメカニズムが確保されている必要がある。
8
日系企業も参画しているマニラの水道コンセッション事業においては、民間事業者が
料金の改定を申請しうる事由をあらかじめ定め(例:5年ごとに見直すほか、不可抗力
による施設損壊の対応、消費者物価の高騰による改定を認める)、監督庁に申請すると
いう枠組みをとっている。
我が国においては、水道の場合、民間事業者が新たに認可を受けて水道事業者となる
場合、水道料金の値上げについては厚生労働大臣又は都道府県知事の認可を得ることに
より行うことができるので、制度的にはマニラの水道コンセッション事業と同様の状況
にある。この場合、柔軟な料金設定が可能となるような運用がなされることが望ましい。
下水道の場合、下水道使用料の改定は下水道管理者の権限となり、料金改定を民間事業
者が行うためには、現在検討されている PFI 法の改正が必要である。
(明確なリスク分担)
水インフラ事業については、政策変更に伴うリスク、住民との関係にかかわるリスク、
自然災害等に伴う施設損壊リスク等、当該事業に固有のリスクがある。これら想定され
るリスクについて抽出するとともに、それらについての公共と民間事業者との間の明確
なリスク分担をあらかじめ決めておく必要がある。この際、保険も含めたリスクヘッジ
の方法についても検討する必要がある。また、民間事業者が参入するためには、既存の
施設等について瑕疵があるか否かをチェックする技術調査報告書が必要であるが、さら
に、公共から民間事業者に施設等を譲渡した後に「隠れたる瑕疵」が判明した場合等に
備えて、保険を含めた何らかの対応を検討する必要がある。
(付帯事業等を行うことによる経営の自由度の向上)
民間のノウハウを活用し収益を上げつつ、コストの削減をはかり、サービス水準の向
上をはかるためには、民間の経営努力の余地を広げ、経営の自由度を向上させる必要が
ある。このためには、水インフラ事業とあわせ、付帯事業を行うこと等を積極的に推進
する必要がある。
5.民間事業者のノウハウを生かす調達のあり方
(民間提案)
コンセッション方式は、需要リスクが原則全面的に民間事業者に移転されたうえで民
間事業者が事業主体となることから、そのリスク負担等に見合った形で、民間のノウハ
ウを生かした自由な発想を引き出していく必要がある。このような観点からは、公共が
企画を行うのではなく、民間自らが企画提案を行う、いわゆる民間提案制度を採用して
いくことが必要と考えられる。
現行の枠組みでも内閣府 PFI 推進委員会の PFI 事業実施プロセスのガイドラインに
9
は「民間事業者からの発案」として明記がされているものの、未だ実例がない。
これは、民間提案がなされた場合、入札プロセスにおいて他の提案(代替提案)も募
集することになるが、その際、他の代替提案と比較し有利に扱う等の措置が講じられて
いないことによるものと考えられる。
韓国の PFI 事業では、民間提案制度が民間発案型入札として制度化されており、提
出された民間提案については、他の代替提案と比較し、評価点において優遇する等の措
置が講じられている。
我が国においては、通常の入札については、会計法等との関係もあり、このような方
式についての実例はないが、コンセッション方式等独立採算型の手法については、公費
が投入されることがないことから、会計法、地方自治法の適用はないと考えられる。従
って、公募型プロポーザル方式等の採用により、民間提案方式の採用が可能であると考
えられる。
(競争的対話方式)
また、コンセッション方式は、事業全体を民間事業者に委ねるものである。この調達
のプロセスは、多岐にわたる事業の前提条件等について公共サイドと民間事業者が詰め
ていく過程であり、交渉によりその内容を精緻にしていくことが必要不可欠である。
EU において導入されている競争的対話方式もしくはこれに準じた方式が適用される
べきものと考えられる。
この競争的対話方式は、いわば調達プロセスにおける公共と民間のコミュニケーショ
ン、交渉を認知し、制度化したものであり、実際に適用されているフランスの例をみる
と入札参加者を三者程度に絞り込み、対話(交渉)のセッションを調達プロセスの中で
三回程度とり、その枠組みの中でより公共と民間のそれぞれのニーズにマッチした内容
に収斂させていき、最後に三者から最終提案を求めることになる。
我が国においても PFI について 2006 年に関係省庁連絡会議幹事会申し合わせがなさ
れ、調達プロセスに一部対話をとりいれた手続きが採用されている。
EU において適用されている競争的対話方式と同様の方式を我が国で導入するため
には、会計法等との関係についての検討が必要であるが、民間提案制度について示した
とおり、コンセッション方式等独立採算型の手法については、公費が投入されることが
ないことから、会計法、地方自治法の適用はないと考えられる。従って、公募型プロポ
ーザル方式等の採用により、競争的対話方式の採用が可能であると考えられる。
6.今後の展開
-大きな制度の枠組み整備の必要性についてー
これから、人口減少等に伴い公共の財源、人材等も縮小傾向にある中、将来にわたっ
10
て水インフラのシステム全体をいかに持続的に維持していくかは、我が国のもっとも大
きな課題の一つである。このような観点からみると、上下水道だけではなく、水源地対
策、河川管理等もあわせた総合的な水マネジメントの観点からとらえ直すことが必要と
なってくると考えられる。
公共のリソースが限られていることから、総合的な水マネジメントにかかわる公共の
財政負担を可能な限り小さくしていくことも合理的な選択肢の一つと考えられる。
総合的な水マネジメントの実現については、たとえば、水資源にかかわる基本的な法
制度の制定といった、水資源を大きな循環系の枠組みでとらえていくような制度の枠組
みの構築が有効であると考えられる。
この中間とりまとめに示された方向性とあわせ、水資源にかかわる制度の大きな枠組
みについて議論がなされることにより、その枠組みの中でコンセッション方式ほか様々
な PPP の手法の活用の促進について国民的なコンセンサスが醸成されていくことを期
待するものである。
11
(別添)
(敬称略、五十音順)
安達 徹
株式会社クボタ
パイプシステム事業部 パイプシステム営業ユニット 水ビジネス担当部長
井熊 均
株式会社日本総合研究所
執行役員 創発戦略センター 所長
石田 哲也
三菱商事株式会社
新産業金融事業グループ産業金融事業本部 インフラ・事業金融ユニット
シニアアドバイザー
宇都 正哲
株式会社野村総合研究所
上級コンサルタント
社会システムコンサルティング部 社会システムコンサルティング 室長
江口 直明
東京青山・青木・狛法律事務所
弁護士
小川 浩昭
株式会社 日本政策投資銀行
地域企画部 公共RMグループ長
尾仲 富士夫
横浜市
環境創造局 企画部長
川名 薫
横浜市
水道局 事業推進担当部長
下畑 隆二
メタウォーター株式会社
営業本部 新事業営業部 PPP推進グループ グループマネージャー
滝沢 智
東京大学
大学院 工学系研究科 都市工学専攻 教授
田中 俊平
長島・大野・常松法律事務所
弁護士
中北 徹
東洋大学
理事
大学院 経済学研究科 教授
中村 賢一
加西市
経営戦略室 次長 PPPディレクター
古澤 靖久
プライスウォーターハウスクーパース株式会社
ディレクター
前田 博 西村あさひ法律事務所
弁護士
水谷 重夫
水ing株式会社
代表取締役副社長
ロバート フラー
カリー&ブラウン
ダイレクター
Fly UP