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オーサ・レグネールスウェーデンの子ども・高齢者
国際子ども図書館「子どもの居場所‐アストリッド・リンドグレーンが残したもの」基調講演会における オーサ・レグネール(Åsa Regnér)スウェーデンの子ども・高齢者および男女平等担当大臣スピーチ (2015 年 10 月 15 日 於 国際子ども図書館) 親愛なる皆様 「現実世界は、おとぎ話そのものです。お姫様や冒険や宇宙人がいなくても、そして特段甘い嘘をつかなくても、十分に物語が そこにはあるんです!」 これは、スウェーデン児童文学界において、誰もが知っているスウェーデンの男の子、アルフォンス・オーベリの生みの親、グ ニッラ・ベリィストロムの言葉です。40 年以上前に最初のアルフォンスの絵本が誕生してから、アルフォンス・シリーズの本は数 多く世に送り出されました。アルフォンスは、父親とスウェーデンのとある郊外に暮らす 5 歳ぐらいの男の子のお話。彼は想像 力を膨らまし、日常生活で起こる難題を解決していきます。 私は、グニッラ・ベリィストロムや、ピア・リンデンバウムといったスウェーデン人作家の言葉やアストリッド・リンドグレーンがイン タビューで語った言葉を耳にする度に、大人としての彼女たちがまだ自分たちを子どもとみなしていることに驚かされます。 実際私が子ども担当大臣として職務に従事する上で、彼女たちの見解は大変示唆に富むものであり、とても重要だと感じます。 子どもの目線に立って物事を見ることができなければ、適切な意思決定を行うことは不可能と言わずとも多くの場合困難をとも ないます。 これらの作家たちが自身の幼少期の頃の感情を抱いている事実は作品に反映されています。自身の幼少期へのより深い理 解は優れた作品として現れ、何世代もの親子に愛され親しまれ続けています。 スウェーデンの作家の中には、人々が抱く子ども時代についての固定観念や幼少期、子育て、子どもの権利に関する考えを 根底から変えることに貢献した人たちがいます。とりわけあるある一人の作家は、子どもたちの生活にとてつもなく大きな影響 をもたらしました。 アストリッド・リンドグレーンの著述業は色々な意味合いにおいて本当に革新的でしたが、そういった作風は言わずと知れた『長 くつ下のピッピ』を持って始まりました。彼女は子どもの体罰に関してスウェーデンで巻き起こった議論に熱心に関わっていまし た。スウェーデンは世界に先立ち 1979 年に子どもの体罰を法律で禁じています。この法律が可決される一年前、リンドグレー ンは、その後多くの賞を授賞するきっかけとなった「暴力は絶対だめ!」と題したスピーチを残し、子どもの虐待や暴力のメカニ ズムを議論する場では、重要な問題提起をした名演説として、度々引用され人々の記憶に刻まれています。 このスピーチで喚起されたことは、残念ながら現在もまだ今日的な意味を帯びています。法律によって体罰が禁じられ、保護さ れている子どもたちは今も世界ではわずか 9%に過ぎません。 しかし 45 の国では、子どもを体罰から法的に保護をすることに 賛同していて、さらに 51 の国では法的に整備することを公に表明しました。スウェーデンでアストリッド・リンドグレーンが築いた 道を継承する作家たちが増え、その読者層も国際的な広がりをみせていることに対して誇りに思います。 幼少期の体験は、決して残りの人生と切り離せるものではありません。むしろ人間形成の基礎を培う大切な時期であり、子ど もの考えや感情に沿って細心の配慮がなされるべきなのです。幼少期は必ずしも毎日が楽しいことの連続ではありません。大 人は常に何が正しく、どのように振舞えばいいのかを熟知している訳でもなく、好むと好まざるとに関わらず、それが私たちが 日々生きる現実です。子どもたち自身も、友人に裏切られたり、人間関係が不調和に終わったり、何かを失ったり、死と直面し たり、厳しい現実にさらされています。仮にそのような体験を直接的に経験していなかっとしても、子どもたちは大人が思ってい る以上に、そうした現実世界を十分心得ているのです。大切なのは大人がそのことを認識し、子どもたちを平等に扱うことです。 もし大人がそんな現実は存在しないのだという素振りを見せたとしたら、子どもたちはたちまち失望するでしょう。 新しいスウェーデンの作家たちは、ありのままの現実を作品のなかで描いています。死、愛、友情、セクシュアリティ、多様な家 族のあり方などのテーマを、読者である子どもたちのために、子どもの目線で語られています。 私は、女性議員が多く参画している政府の代表であること、そして子どもの権利を守り、男女平等を最優先課題として掲げる 政府の代表であることを心から誇りに思います。 スウェーデンでは現在、読書の習慣を楽しみ読書好きの子どもたちを育むための取り組みが、さまざまな機関で行われていま す。スウェーデンの子どもたちの読解力が低下していることを示す統計データが上がってきていて、民主主義的観点からみて も、これは非常に深刻な問題です。若い読者のために絶大な人気を誇る探偵シリーズを執筆したマッティン・ビードマルクのよ うな作家は、この課題を担い、子どもたちが本を読むこと、そして沢山の量を読むことを奨励しています。これは私たちが必ず 乗りこえなければならない問題であり、妥協することはできないのです。 日本の漫画は、スウェーデンの若者文化を豊かにしました。若い読者層を獲得しただけではなく、漫画家やアーティストにとっ て大きなインスピレーションの源となっています。アストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞した荒井良二さんも、多くのス ウェーデンの読者を魅了しています。赤羽末吉さんや、まど・みちおさんなどの作家もスウェーデンでは評価されよく知られて いています。 そして、飼い猫フィンダスと一緒に暮らす、ちょっと風変わりだけれど、すてきな家に暮らすペットソンおじさんが、日本の皆さん の心をつかんだことは、私たちにとっても大変嬉しいことです。 グニッラ・ベリィストロムは、人生は限りになく謎に満ちている、と述べています。私たち大人の役割は、子どもたちが好奇心と 配慮をもってこの広い世界を探求し新たな発見をしていくことを、本の助けを借りて導いてあげることです。スウェーデン児童文 学の多くは、たくさんの読者を熱中させた真の傑作であることを心に留め、心おきなくウェーデン児童文学の世界を楽しんでい ただければ幸いです。 ご静聴ありがとうございました。