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SOLDATEN スペイン内戦編

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SOLDATEN スペイン内戦編
SOLDATEN スペイン内戦編
金子圭亮
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
http://pdfnovels.net/
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︻小説タイトル︼
SOLDATEN スペイン内戦編
︻Nコード︼
N5705CV
︻作者名︼
金子圭亮
︻あらすじ︼
スペイン内戦を舞台とする各国の兵士たちの群像劇
1
序章
紺青に染まった海面に暁光が注がれ、その海原を翠緑色に変えた。
その碧色の輝きの上を、潮の香りを含ませた風が漂う。
昇る旭日に追われるように、船首を西へ向けて進む船団があった。
この船団は、東アフリカのエリトリアを発し、紅海を北上してスエ
ズ運河を通過、そして今、地中海を西進している。
船上に翻るは、緑、白、赤の三色旗。中央の白地には、白十字の
描かれた青枠の赤い盾、サヴォイア王家の紋章が描かれている。そ
う、イタリア王国の国旗である。
このイタリアの船団に積まれているのは人間だった。無論、彼ら
はただの人間ではない。彼らは軍人、昨今、エチオピアの征服を終
えた者たちである。
第二次エチオピア戦争での傷も疲れも癒えぬまま、男たちは船団
で運ばれる。向かう先は、彼らが祖国イタリアではない。神は、ま
だ彼らに休息を与えるつもりはないらしい。船団が向かうのは、ヨ
ーロッパ亜大陸の最西端、イベリア半島の大半を領土とする灼熱の
国、スペインだった。
十二月の冷たい海水と鉄板一枚を隔て、船内にはイタリア兵たち
が詰め込まれている。船上に目を向ければ、早朝の温まりきらぬ空
気の中、二人の男の影が認められる。その二人の男は、共に年齢は
二十代半ばといった感じであるが、全く以って対照的な容貌であっ
た。
一人は、一八〇センチを超える長身に、ほっそりとした体つき、
白皙の肌、顔立ちは精悍で美しく、銀色の髪、翠緑色の瞳と相まっ
て、貴族的に洗礼された美男であった。対して、もう一方の男は、
背丈は一六〇センチ程と小柄だが、頑丈そうな鍛えられた体躯を持
ち、肌は日焼けして浅黒く、健康的だが、鋭い双眸、眉間に刻まれ
2
た深い皺と、その顔立ちからは苦労が偲ばれ、いかにも下層階級出
身といった感じである。
二人は黒いシャツを着て、頭にはフェズ帽を被っている。二人は
黒シャツ隊員だった。黒シャツ隊とは、ファシスト党の麾下、国防
義勇軍︱︱MVSNにより組織される戦闘大隊である。
一九三六年十二月、ヨーロッパ大陸の最西端、イベリア半島の大
半を領土とするスペインは、内戦で真二つに割れてしまっていた。
きっかけは七月一九日、フランシスコ・フランコ将軍、エミリオ・
モラ将軍を中心とする軍部が、マヌエル・アサーニャ率いる人民戦
線政府に対し、反乱を起こしたのだ。
保守的な軍人たちや敬虔なカソリック教徒たちは、王政廃止以来、
急激な赤化の道を突き進んでいるように見える祖国を前にし、座視
してはいられなかった。彼らは銃を取り決起したのだ。憂国の烈士
たちは、アカの専横に対し拳を上げ、そして、振り下ろした。
このスペインの地で勃発した左翼と右翼、スペイン共和国とナシ
オナリスタ・スペインの戦いに対し、諸外国は様々な政策を採った。
そして、ファシスト国家群、イタリア王国とドイツ第三帝国は、ナ
シオナリスタ・スペイン、つまりは、決起したフランコの軍に対し
軍事援助を行った。二人はこうしてスペインへ送られてきたのであ
る。
長身の痩せた男は、船のへりに掴まって、気だるそうに風を浴び
ている。小柄の男は、長身の男を心配気に見やった。
﹁ヴィットリオの旦那、船酔いはもう平気ですかい?﹂
小柄の男が言った。
﹁ああ、もう大丈夫だ。俺は船に乗るのは苦手なんでね。何回乗っ
ても慣れない﹂
ヴィットリオと呼ばれた長身の男が答えた。
﹁へいへい、これで一安心。それじゃあ、戻りましょうか﹂
3
小柄の男は、踵を返して船内に戻ろうとした。
﹁ところでポルコ、俺たちはどこの戦線に投入されるのだろうか﹂
ヴィットリオが、西の方角を眺めながら呟いた。水平線上に稜線
が姿を現し、時間とともにはっきりとしてくる。スペインの大地へ
の上陸のときが迫ってきているのだ。
﹁さあ、自分みたいな下っ端にはわかりませんわ。それに、自分は
スペインの地理は全くでね、マドリードだ、バレンシアだと言われ
ても、どこにあるのかさっぱりなんで。自分は小学校までしか出て
ないんでね。まあ、このことは置いといて、早く中に入りましょう
や﹂
ポルコと呼ばれた小柄な太った男が答えた。彼は、この肌寒い船
上に嫌気が差しているらしく、早く船内に入りたそうにしている。
﹁そうか。そうだな﹂
ヴィットリオは、視線を遥か彼方の陸地へと向けたまま、振り返
ることなくそう答えた。
﹁へい、それと、自分の名前はマルコですぜ。そろそろポルコは止
めてくれませんかね﹂
小柄の太った男が苦笑とともに言った。﹁ポルコ﹂とは、イタリ
ア語で﹁豚﹂の意である。既にマルコは、ヴィットリオに背を向け、
船内の入り口へと足を進めていた。
﹁ポルコもマルコも変わらんさ。それに、おまえの名はポルコの方
が似合っているぞ。そうは思わないか?﹂
ヴィットリオは、軽やかな足取りでマルコを追い越した。
﹁そんなぁ、勘弁してくださいよ﹂
追い越されたマルコは、短い両足を素早く回転させ、彼を追い越
したヴィットリオと歩を揃えようとした。二人のイタリア人は船内
へと戻っていった。
イタリアの船団はジブラルタル海峡を通過した。遠い昔、ヘラク
レスの柱と呼ばれていたこの海峡を過ぎ、船団は大西洋へと顔を出
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す。
反乱軍決起の際、共和国政府を支持するスペイン海軍の水兵たち
は、フランコ側についた、または、フランコ寄りと思われた海軍士
官たちを誅殺し、海軍戦力の殆どをアサーニャの共和国軍の指揮下
に保った。七月の開戦からしばらくは、共和国海軍はその戦力を用
いてジブラルタル海峡の制海権を保持していたが、イタリア、ドイ
ツからの空軍及び海軍戦力の到着以降、その戦力を大幅に漸減させ
られることになり、現在、ジブラルタル海峡を始めとするイベリア
半島周辺の海域は、ナシオナリスタ陣営の勢力圏に入っている。
船団が向かうは、アンダルシア地方の沿岸都市カディス。スペイ
ン一の穀倉地帯であるアンダルシア西部はナシオナリスタ軍の勢力
下にある。イタリア兵たちは、カディスへ陸揚げされたのち、風雲
急を告げる戦線へと投入されるであろう。
一九三六年も終ろうとしているこのとき、スペインの領土は両陣
営によって半分割されている。政府軍、即ちスペイン共和国は、首
都マドリードを含む領土の東半分、つまり、新カスティーリャ、ム
ルシア、バレンシア、アラゴン、カタルーニャを支配下に保ってい
る。殊に、バレンシアやカタルーニャにはスペインの重工業が集中
していた。さらに、良質な鉄鉱石を算出するアストゥリアス、バス
クと、北部のビスケー湾に面する地に位置する両地方も、反乱軍に
よって隔絶されてはいるものの、共和国の統治下にあった。対して、
反乱軍、つまりナシオナリスタ・スペインのフランコ軍は、穀倉地
帯であるアンダルシアの大半、エストレマドゥーラ、ガリシア、レ
オン、旧カスティーリャ、バレアレス諸島、そして、スペイン領モ
ロッコを支配下に置いていた。
迅速に反乱軍の掌握が進んだ西部に対し、東部諸地域でのナショ
ナリストたちの決起は失敗し、捕らえられたフランコ派の軍人たち
は拷問の末、処刑された。反乱軍は国土の半分しか掌握できなかっ
たのだ。
共和国の支配領域では、フランコに同調する者は無論、王党派、
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カソリック司祭、地主や商人など富裕層、医者などのインテリが無
差別に虐殺された。反乱軍の支配領域でも、共産主義者、社会主義
者など左翼的な思想を持つ者、共和主義者などは、片端から銃殺さ
れていた。血で血を洗う粛清の嵐は、両陣営で激しさを増し、吹き
止む気配は感じられない。政治的主義の差異が、同胞たるスペイン
人をすら、親の敵の如き憎悪の対象に仕立て上げたのである。
膠着状態を打破するために、両陣営は、外からの援助に頼るしか
なかった。今、イタリア兵を載せた船団は、カディスの港に寄港し
ようとしている。スペインの支配者になるのは、共和国政府軍、フ
ランコの反乱軍、果たしてどちらの陣営か? この時点でその答え
を知るものはいない。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n5705cv/
SOLDATEN スペイン内戦編
2016年7月8日19時38分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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