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山口県金融・経済レポート NO.25 「 県政世論調査からみた山口県

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山口県金融・経済レポート NO.25 「 県政世論調査からみた山口県
当資料は当店 web サイトに掲載しています
http://www3.boj.or.jp/shimonoseki/
県政世論調査からみた山口県における
「個人の景気」について
日銀が景気分析をするときには、通常、企業へのヒアリングやアンケート調
査等の結果を踏まえて判断しているが、このうち、生産や輸出の動向、短観の結
果等は「企業の景気」にあたるものである。これに対し、一般の人々が話す景気、
つまり、
「個人の景気」は、
「企業の景気」とは若干異なる動きをする。本レポー
トでは、県政世論調査等を活用しつつ、ここ数年の「個人の景気」の変化とその
背景を整理した。
NO.25
2011年2月
日本銀行下関支店
本ペーパーは、中村結香、堀田一平、堺謙太郎が作成しました。
内容に関する照会は、日本銀行下関支店総務課・陰山敦司、堺謙太郎
(Tel:083-233-3113、E-mail:[email protected])までお寄せ下さい。
1.はじめに
2010 年の山口県経済については、年後半から生産の伸びが鈍り景気回復に「一服
感」が出ているものの、概ねリーマンショック(2008/9 月)による生産や輸出等の
大きな落ち込みから回復を遂げた一年であったと言える。このうち、生産や輸出の
回復については、企業へのヒアリングやアンケート調査、企業行動に関する統計等
を利用しながら分析したもので、「企業の景気」にあたるものである。これに対し、
人々が体感する景気の良し悪しは、「個人の景気」とでも言うべきもので、これはま
た独特の動きをみせることが多い。
本レポートでは、県政世論調査(山口県広報広聴課)の結果等を活用しつつ、「個
人の景気」について、ここ数年の変化とその背景、「企業の景気」との違い等につい
て整理した。
2.県政世論調査からみた県内の「個人の景気」
2010/11 月に公表された「県政世論調査」(調査時点 2010/6 月)の結果をみると、
「生活に対する満足度」、「暮らし向きの変化」とも、それぞれ「不満・やや不満」
や「悪くなった・少し悪くなった」等の回答が 5 割前後を占めており、県民生活は
依然として、厳しい状況にあることが窺われる(図表1)。
(図表1)生活に対する満足度、暮らし向きの変化
②暮らし向きの変化
①生活に対する満足度
08/6月
37
62
08/6月
5.4
09/6
39
60
09/6
6.1
10/6
7.2
43
10/6
0
56
10 20 30 40 50 60 70
満足(満足+やや満足)
不満(不満+やや不満)
無回答
80
90 100
(%)
0
56.4
41.2
50.9
42.8
20
30
49.5
90 100
(%)
良くなった(良くなった+少し良くなった)
変わらない
悪くなった(悪くなった+少し悪くなった)
無回答
(資料)山口県広報広聴課
10
37.0
40
50
60
70
80
もっとも、時系列でみると、「満足度D.I.」 1、「暮らし向きD.I.」 2 とも、2005/6
月調査をピークに悪化した後、最近は 2008/6 月調査をボトムに改善を続けているこ
1
県政世論調査における「
『満足』
・
『やや満足』の回答者数構成比(%)
」―「
『不満』
・
『やや不満』
の回答者数構成比(%)
」により算出。
2
県政世論調査における「
『良くなった』
・
『少し良くなった』の回答者数構成比(%)」―「
『悪く
なった』
・
『少し悪くなった』の回答者数構成比(%)」により算出。
1
とが分かる(図表2)。中でも、「満足度D.I.」については、直近調査では 2007/6 月
調査と同水準(▲13%ポイント)まで回復している。
(図表2)「満足度 D.I.」と「暮らし向き D.I.」の推移
0
(「良くなった」-「悪くなった」、%ポイント)、(「満足」-「不満」、%ポイント)
▲ 10
(リーマンショック<08/9月>)
▲ 20
▲ 30
▲ 40
暮らし向きD.I.
▲ 50
満足度D.I.
▲ 60
04/6月
05/6
06/6
07/6
08/6
09/6
10/6
(資料)山口県広報広聴課
3.「個人の景気」と「企業の景気」
次に山口県内における「暮らし向き D.I.」と「業況判断 D.I.(日銀短観)」の推
移をみると、
「企業の景気」を示す「業況判断 D.I.」がリーマンショックを機に急速
に悪化し 2009/3 月に漸く底打ちしたのに対し、「個人の景気」を示す「暮らし向き
D.I.」は、2008/6 月調査で大幅に悪化しており、リーマンショック後はむしろ改善
していたことが分かる(図表3)。また、足もとにおける「暮らし向き D.I.」や「業
況判断 D.I.」の改善ペースをみると、「企業の景気」を示す「業況判断 D.I.」に比
べ「個人の景気」を示す「暮らし向き D.I.」の改善が緩やかな動きとなっている(図
表3)。
(図表3)
「暮らし向き D.I.」と「業況判断 D.I.(日銀短観)」の推移(山口、全国)
①山口県
10
②全国
(「良くなった」-「悪くなった」、%ポイント)
10
(リーマンショック08/9月)
(リーマンショック08/9月)
0
0
▲ 10
▲ 10
▲ 20
▲ 20
▲ 30
▲ 30
▲ 40
▲ 40
▲ 50
▲ 60
(「良くなった」-「悪くなった」、%ポイント)
▲ 50
暮らし向きD.I.
▲ 60
業況判断D.I.
暮らし向きD.I.
業況判断D.I.
05/3
6
9
12
06/3
6
9
12
07/3
6
9
12
08/3
6
9
12
09/3
6
9
12
10/3
6
9
12
▲ 70
(資料)山口県広報広聴課、日本銀行
2
05/3
6
9
12
06/3
6
9
12
07/3
6
9
12
08/3
6
9
12
09/3
6
9
12
10/3
6
9
12
▲ 70
(注)05/9の暮らし向きD.I.は未調査
(資料)日本銀行
上述のように「個人の景気」と「企業の景気」の動きには大きな相違がみられた
が、その背景には以下のような要因が考えられる。
(1)リーマンショック以前の消費者物価上昇による実質賃金の減少
リーマンショック以前の山口県内における賃金動向をみると、名目賃金(「きまっ
て支給する給与」、以下同じ)は、2007/4 月以降一貫して前年比プラスで推移したも
のの、実質賃金については、消費者物価の上昇を背景に 2008/3 月以降前年比マイナ
スが続いていた(図表4、図表5)。
このように「個人の景気」については、企業業績が比較的好調であったリーマン
ショック前においても、主に消費者物価の上昇を通じた実質的な家計所得の減少を
背景に悪化していたことが分かる。
(図表4)賃金指数(注)(きまって支給する給与)の推移(山口、全国)
①山口県
(前年比、%)
(%ポイント)
②全国
(前年比、%)
(%ポイント)
0
3
2
-10
2
-10
1
-20
1
-20
0
-30
0
-30
-1
-40
-1
-40
-2
-50
-2
-50
-60
-3
3
0
暮らし向きD.I.(右軸)
-3
名目賃金前年比(左軸)
暮 ら し 向 き D.I.( 右軸)
実質賃金前年比(左軸)
-4
08/4
09/4
10/4
実 質 賃 金 前 年 比(左軸 )
-4
-70
07/4月
-60
名 目 賃 金 前 年 比(左軸 )
07/4月
08/4
(注)事業所規模30名以上
(資料)厚生労働省
12
(注)事業所規模30名以上
(資料)山口県
09/4
10/4
-70
12
(図表5)消費者物価指数の推移(山口、全国)
4
①山口
(前年比、%)
(05年=100)
(前年比、%)
104
4
②全国
104
指数(右軸)
指数(右軸)
前年比(左軸)
2
(05年=100)
前年比(左軸)
102
2
0
100
0
100
-2
98
-2
98
-4
96
-4
96
94
-6
-6
07/4月
08/4
09/4
10/4
12
07/4月
94
08/4
(資料)総務省
(資料)山口県
3
102
09/4
10/4
12
(2)リーマンショック以降の消費者物価下落による実質賃金の改善
リーマンショック以降の山口県内の雇用所得の動向をみると、企業業績に比べ常
用雇用者数の減少が緩やかであったほか、雇用者報酬(名目、2008 年度)も県民総
生産(同)に比べ小幅な落ち込みとなっている。このため、非正規雇用における離
職者の増加や賞与の減少等の問題が生じたものの、全体としては、リーマンショッ
クにより企業業績が大幅に悪化する中にあっても、企業・政府の努力等により雇用
が比較的維持されていたことが分かる(図表6、図表7)。こうした中、実質賃金に
ついては、消費者物価の大幅な下落を背景に 2008/10 月以降前年比プラスに転じて
おり、名目賃金とは対照的な動きを示した(図表4)。
このため、「個人の景気」については、企業業績に比べ雇用の落ち込みが相対的に
小幅となる中、消費者物価の下落を通じた実質的な家計所得の改善を背景に、リー
マンショック後に低水準ながらも、むしろ改善に転じたことが分かる。
(図表6)常用雇用者数の推移(注)(山口、全国)
3
①山口
(前年比、%)
(05年=100)
3
107
②全国
(前年比、%)
指数(右軸)
(05年=100)
107
指数(右軸)
2
前年比(左軸) 106
2
1
105
1
105
0
104
0
104
-1
103
-1
103
-2
102
-2
102
101
-3
-3
07/4月
08/4
09/4
10/4
12
前年比(左軸)
101
07/4月
(注)事業所規模30名以上
(資料)山口県
08/4
09/4
10/4
12
(注)事業所規模30名以上
(資料)厚生労働省
(図表7)県民総生産および雇用者報酬の推移(山口、全国)
104
①山口
(05年度=100)
104
②全国
(05年度=100)
国内総生産
102
102
県内総生産
100
雇用者報酬
100
雇用者報酬
98
98
96
96
94
94
05年度
06
07
08
09
05年度
06
(資料)内閣府
(資料)山口県
4
106
07
08
09
(3)最近の消費者物価下落の一巡と名目賃金回復の遅れ
2010 年度入り後は、企業業績がリーマンショック直後の落ち込みから急速に回復
する一方で、実質賃金については、名目賃金が概ね前年並みの水準で推移する中(図
表8)、消費者物価の大幅な下落が一巡したこともあり、12 月に再び前年比マイナス
に転じる等、回復に至らない状況にある(図表4)。
前述のように企業業績が回復に転じた 2009 年下期以降、各企業は利益を従業員の
処遇改善よりも内部留保の復元に振り向ける傾向にあるが、これはリーマンショッ
ク直後から 2009 年上期にかけて、固定費的な性格の強い雇用者報酬の落ち込みが、
企業業績に比べ小幅であった反動が出ているものとみられる(図表9)。
このため、足もとの「個人の景気」については、上述のように企業業績の回復が
従業員の処遇改善に十分波及していないことを背景に、
「企業の景気」に比べ緩やか
な回復に止まっているとみられる。
(図表8)名目賃金(注)と消費者物価の推移(山口、全国)
①山口
②全国
104
104 104
102
名目賃金指数(右軸)
名目賃金指数(右軸)
消費者物価指数(除く生鮮、左軸)
消費者物価指数(除く生鮮、左軸)
102
102 102
100
100
100 100
98
98
98
96
96
96
98
96
07/4月
08/4
09/4
12
10/4
94
07/4月
08/4
(注)事業所規模30名以上
09/4
10/4
12
(注)事業所規模30名以上
(資料)厚生労働省、総務省
(資料)山口県
(図表9)経常利益(短観)、賞与の推移(山口県)
120
(06年上期または下期を100)
①経常利益
120
116.1
100.0 100.0
98.1
100
(06年夏季または冬季を100)
85.4
99.7
81.4
80
100.2
98.4
100
92.1
100.0 100.0
②賞与
98.9
88.7
87.3
88.8
80
84.8
79.4
60
60
40
40
32.4
20
20
14.1
0
0
上期 下期
06年
上期 下期
07年
上期 下期
08年
上期 下期
09年
夏季 冬季
06年
上期 下期
10年
夏季 冬季
07年
(資料)山口県
(資料)日本銀行
5
夏季 冬季
08年
夏季 冬季
09年
夏季 冬季
10年
4.終わりに
今後、「個人の景気」が一段と回復するためには、足もと一服感がみられる企業の
景気が緩やかな回復経路に復していく中で、その効果が名目賃金の改善等の形で雇
用所得面に波及していくことが不可欠である。
そして、「個人の景気」を評価するうえでは、実質賃金の動向にも注意が必要であ
る。リーマンショック直前の 2008 年前半には、好調な企業業績を背景に名目賃金が
改善していたにもかかわらず、消費者物価の上昇が実質賃金の低下をもたらし、そ
れが「暮らし向き D.I.」の悪化に繋がった。今後、さらに資源エネルギーや食料品
等の国際商品市況の上昇が国内消費者物価を押し上げることがあれば、それは実質
賃金の低下をもたらすので、「個人の景気」にとって歓迎すべき状況ではない。
日本銀行下関支店としては、こうしたメカニズムにも留意しつつ、今後も様々な
視点から景気動向をフォローしていくこととしたい。
以
6
上
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