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環境問題も深刻化している。 その対策が焦眉の急だが, 例えば

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環境問題も深刻化している。 その対策が焦眉の急だが, 例えば
ダム湖にエコソーラー発電,
洋上にメガハイブリッド発電を
∼太田俊昭九大名誉教授の新提言∼
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世界人口の急増を背景に,原油,石炭,鉄鉱石から食糧に至るまで資源の高騰が続き,
環境問題も深刻化している。その対策が焦眉の急だが,例えばエネルギーと環境をみて
もトレードオフの関係にあり,解決は容易ではない。石油業界は油価高騰による需要減
退に嘱ぎ,電力業界は原発の思わぬ地震対策に追われているが,そうした厳しい状況で
切瑳琢磨し,新技術を開発してこそ日本のエネルギー業界にも未来の光がみえてくる。
画期的な浮体式大型洋上風力発電の構築技術を研究開発してきたSC F (スーパーカ
ーボンファイバー)研究会(九州大学大学院工学研究院を中心とする学際的な約30人の
研究者グループ,会長・太田俊昭九州大学名誉教授,工学博士・土木構造力学, F T
R ・フロンティア技術研究所代表取締役)が,こんどはヒューマンスケールのソーラー
発電ユニットとなる小浮体(出力1-2kW)を水面上に多数浮かべたエコ洋上ハイブリ
ッド発電技術を構想・開発している。
これだとダム湖や島唄部に浮かべてエコ発電が可能となるばかりか,大型洋上風力発
電構想の蜂の巣形浮体プラットフォームと合わせてメガソーラー発電システムが,更に
は浮体上に大型風車を乗せて,太陽光との洋上メガハイブリッド発電システムが実現で
きるという。
新構想の特許申請を終えたばかりで,今後,国や自治体,エネルギー企業各社等に広
く事業化を求めていくという太田博士に構想の全体像を聞いた。
発電を行う。発電された電力はダム湖などでは既
ハイブリッド洋上発電を可能にする
存の送電網に乗せて利用できるし,洋上では水を
スーパーカーボンファイバー(SCF)技術
電気分解して水素を大量に安く生産して陸に運
び,水素タービン発電所や燃料電池などで使用す
同システムは,直径数百mのSCFコンクリー
るという,将来の水素社会を視野に入れたシステ
ト製六角形の蜂の巣形浮体と,その内外に直径2
-3mの小浮体多数を睡蓮の葉っぱのように浮か
ムだ。
べ,小浮体を覆う太陽光発電フイルムと,浮体
力発電(陸上)の損益分岐点25万円/kWや着底式
(浅い海域では着底式)のプラットフォーム上に
洋上風力発電の4 5万円/kWに比べて格段に安く,
乗せた風車で発電を行うというもので,その組み
しかもSCFコンクリート製浮体は,従来の鉄筋
合わせ次第で,ダム湖や島喚部での中小規模ソー
コンクリート製に比べて5分の1と安く,丈夫で
ラー発電から,洋上での大規模ハイブリッド発電
錆びず, CO2削減効果は80%以上で,耐用年数
まで,多様なパターンが可能だ。
は100年以上という優れもの。浮体の下の遮光さ
建設コストは10-20万円/kWで, NEDOの風
大型洋上風力発電の場合では,浮体に九州大学
れた海中も,発光ダイオードLEDで射光し,マ
の風レンズ研究グループ(代表・大屋裕二教授)
イクロバブルを加えると,藻や植物性プランクト
が開発した,風を効率的に集めることが可能な風
ンが生育・繁茂し,豊かな漁礁や養殖場として活
レンズ風車の次世代型風車(直径100m超,出力
用できるため,漁業権の問題もクリアし易い。こ
1万-2万kW)を搭載し,合理的なハイブリッド
の方式だと,原発1基に相当する100万kW級の洋
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上発電も決して夢ではないということだ。
図① 「SCFロッドの接合例」
こうしたシステムの構築を可能にするのが10年
ほど前に太田博士が開発したスーパーカーボンフ
ァイバー(SCF)という素材で,第2世代のカ
ーボンファイバーとも呼ばれている。カーボンフ
ァイバーはいうまでもなく,石油から作られる日
本の先端技術が生んだ新素材炭素繊維で,軽くて
強いなどの特性を持つ。カーボンファイバーで強
化されたFRP-繊維強化プラスチック(CFR
p)は,飛行機やクルマの軽量化にも使用される
ようになってきているが,従来の製造方法で作ら
れたCFRPは,カーボンファイバーの束を熟硬
化樹脂に浸して高温炉で約200-300℃で硬化(国
化)したもので,引張強度には強いが曲げ圧縮強
度は,その20分の1と弱い。しかも製造時に過熱
したときに樹脂に生じた気泡が応力集中を引き起
こし,クラックを生じ易いという欠点があった。
このため繰り返し曲げ圧縮強度が重視される飛行
機などの主構造材や鉄骨等の代わりとしては使え
なかった。
scFはロッド(棒)状に製造される。まず,
ドは,アンカー接合という画期的な方法で,溶接
樹脂系接着剤を塗布した炭素繊維の束を一定の張
ができない炭素繊維の欠点を早くも克服してい
力で引っ張りながら平行に重ね合わせ,次いで回
る。
転させて外側をラッピングして棒(ロッド)にし,
しかも九州大学では, SCFロッドの量産を可
炭素繊維の束に電気を通して加熱, 70-80℃の低
能にする自動製造ロボットを開発してすでに実証
温で樹脂系接着剤を硬化させていく。これで圧縮
機も出来上がっており,長さ3-15m,直径2-
強度を高めるとともに気泡の発生を抑えている。
16mmまでが製造可能で,今後は直径1 mJn以下の細
硬化後,予め炭素繊維の束に加えていた引張力を
いロッド製造を目指すという。このロッドは鉄骨
解放してやると,圧縮力がロッドにかかり,横に
や鉄筋よりはるかに軽くて強くて錆びない構造材
膨張しようとする。ロッドの外側はラッピングさ
となり,九大で開発実証済みの配筋ロボットでR
れているため,内部に拘束応力が発生する。この
C (鉄筋コンクリート)やPC (組立用コンクリ
拘束応力で繊維間のずれ変形が押さえられ(プレ
ート製建材)を製作すると,錆びない長所を生か
ストレスの原理),軽くて強くて錆びないという
してコンクリートの厚さを1-2cmの薄さにして
三拍子そろった鉄筋以上の超強度の構造材料がで
も強度を保てる。強いばかりかコスト低減と省力
きた。しかもロッドの両端は,製造時に片方がシ
化にも大いに寄与する材料が出来上がる。
ングルアンカー,他方がダブルアンカーの形状と
なっており,ピン等で接合が容易にできる構造と
s c Fで大型洋上浮体
なっている(図(丑)。鉄が現在,汎用性のある構
大規模洋上風力発電構想
造材として世界中で使われるようになるには,港
接技術の確立に長い期間を要したが, SCFロツ
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sCFはまさに世界の構造・材料等の分野でイ
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ノベ-ションを引き起こ
図(参 大型洋上風力発電
す可能性を秘めている。
s cF研究会がこれを使
って提言したのが,大規
模洋上風力発電の開発だ
った(図②)。比重が鉄の
7.85に対して1.3-1.5と軽
く,強度が鉄の10倍と強
く,しかも錆びないSC
Fコンクリート製トラス
で直径約600mの中抜き六
角形浮体(浮力は半没水
の浮力体:セミサブ方式)
を作る。これを蜂の巣状
に多数連結すれば,全体
の強度と安定性は更に増
大する(なお,鋼製など
のセミサブ方式は,既に
欧米で石油掘削ステーシ
ョンや,海洋波浪発電の
フレームとして実績があ
るが,より合理的なSC
Fコンクリート製はFT
Rのパテントで例が無
い)。この浮体の上に風レ
ンズ風車を超大型化した
次世代型風レンズ風車
(出力1-2万kW級)を
の10倍もあるSCFを使ったパイプやFRPでユ
乗せるという構造だ。
風レンズ風車は風のエネルギーを風車に集める
ニットを作り各セグメントにして組み立てて作る
ために,風車を覆う拡大型円筒(デイフユーザ)
(scFの接合能力を活かしたブロック方式)。し
とその出口周辺のつばが風車の外枠となってつい
かし,全体重量は2,000㌧にもなるため,風車を風
ており,枠の出口周辺のつばに生じた風の渦で空
上に向けるヨ一回転制御が困難になる。そこで,
気圧が低下するため,入口では風が引き込まれて
洋上の浮力を生かしてぐるっと回ったところをバ
風速が加速するというしくみだ。枠を取り付ける
ンドで固定するという浮力システムが採用され
ことで,まるで虫メガネで光を集めるように集風
た。また,台風時には風レンズのつばを可変翼に
できるため,風レンズと名づけられた。
することで折り畳み,風車を風の向きと平行にな
この風車もS FCを使用することで大型化が可
るように回転させることで,転倒モーメントを減
能となる。次世代型風車は直径140mと巨大化し
少させる。浮体システムそのものが耐震性にも優
ても80m/秒の風に耐えられる設計で,強度が鉄
れているから地震にも強い(パテント申請中)0
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落雷対策でも風レンズの外枠に避雷針が取り付け
可能で万全だ。
北欧では低炭素社会実現を目指して遠浅の地域
で着底式の洋上風力発電が急ピッチで整備されて
いるが,日本は遠浅の海が少なく,台風や地震も
多く,建設コストは45万円/kWと高い。また漁業
権や海洋環境の問題もあり,着底式は適さないo
s c F研究会の浮体方式大規模洋上風力発電の提
案は,待ったなしの地球温暖化防止の切り札とし
て,構想発表以降はマスコミで取り上げられて国
福岡城虻の池に浮かぶ睡蓮
内外で注目された。ネット上でも話題になり,社
民党のHPから日本文化チャンネルHPの掲示板
まで,それこそ超党派で日本の困難なエネルギー
事情の打開策として多くの国民の支持が集まっ
博士は,奥さんの「巨大風車に固執してドンキホ
ーテのように失敗している。人間は,太陽があっ
てからこそ生きられるのよ」という言葉を聞いて
た。
しかし,構想発表と国内外へのPRから2年に
ハツとしたという。太陽光発電は住宅などの小規
なろうとしているが,大規模洋上風力発電構想は
模発電という思い込みを捨てて勉強を始め,洋上
いまだに本格的な実証試験さえできないでいる。
で太陽光発電を行う場合のあらゆる問題点をリス
国に研究補助を求めても,経産省には,海洋浮体
トアップして解決策を考え,広く仲間の専門家に
技術は国交省の管轄だといわれ,その国交省は研
も求めた結果,今回のヒューマンスケールの小浮
究開発費を潤沢に持たない。民間企業のゼネコン
体をベースとするエコ洋上発電の構想が生まれ
は不況に苦しんでおり,構造材は従来の鉄で十分
た。
というスタンス。化学業界では積層法等の従来型
のCFRP製造技術に多額の設備投資をしている
ヒューマンスケールのエコソーラー発電
ため,作り方が全く違うSCF-の再投資にしり
組み合わせ自由,ダム湖から洋上まで対応
込みしてしまっている状況だ。ならば海外はとい
うと,日本と同じ海洋国で地震も多い台湾の工業
実証試験へ向けて構想が進むエコ発電システム
技術研究院が興味を示し,九大との共同研究が決
は,洋上風力発電で考案された六角形SCFコン
まりかけたが,カーボンファイバーは戦略物質だ
クリート製の浮体やこれを着底式にして組み合わ
という経産省から待ったがかかり,許可を得られ
せて洋上プラットフォームとし,これを起点にケ
ーブルとネットを張り,その上に太陽電池を載せ
ず頓挫したという。
そういう経緯の背景には,洋上に30-40階建て
た小浮体を多数浮かべるというものだ。 /ト浮体の
ビルに相当する高さの風車を建てるという,巨大
直径は2-3m,厚さは50cm程で,重さも200kg
なものに対して誰もが抱く抵抗感や,前例のない
以下を想定しており,トラックでどこへでも運べ
ものに対する官僚の拒否反応,それに利益第-の
るヒューマンスケールの大きさとなっている。
企業の論理などがあるのかもしれないが,日本で
小浮体(図⑨)の構造は,まず容器がSCFで
は稀なコンセプトクリエーターの構想そのものに
補強されたプラスチック製(できればバイオ樹脂
国も企業もビビってしまっているようにもみえ
製)となる。内部は比重0.1-0.2の発泡ウレタン
る。皆が巨大風車を現代のバベルの塔のように思
で,これで浮力をつける。上部の保護用強化ガラ
い出し,構想が行き詰りかけていたある日,太田
スの下に太陽光発電フイルムが貼られ,ゴムシー
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ルドで水密化を図る。台
図③ 小浮体機能のイメージ図
風など嵐のときには三角
波などの烈波に襲われる
可能性があるが,その衝
撃力はまず強化ガラスで
受けてシールドのゴムで
吸収,続いて発泡ウレタ
ンがバネとなり, FRP
構造や洋上のネットもバ
ネとなる。ネットを支え
るケーブルは市販の比重
0.91の大型船舶係留用複
合繊維ロープを使い水に
浮く。最後は海そのもの
も水クッションとなる。
5重のバネで衝撃には全
く問題はない構造という
ことだ。激しい嵐でケー
ブル同士が絡まないよ
う, SCFの端部のアン
カーの孔穴にケーブルを
通して縄梯子さながらに
なっており,高潮にも追
従できるのである。この
システムは,あたかも港
の内側に漁船多数がロー
プで係留されて台風の難を避けるのに例えられ
効率を下げるが,この対策としては噴水の原理で
る。扇平な小浮体は風を受け流すため,漁船に比
海水を汲み上げて小浮体のガラス表面に散水して
べて転倒モーメントが極めて少なく,その安定性
洗い流す方法がとられる。浮体式や着底式プラッ
は遥かに高い。もし係留ケーブルが切れて流され
トフォームに風車を設置する場合だと,その電力
たとしても,絶対に沈まない構造だから,浮いて
で夜間に比較的暖かい表面海水と冷たい海水(深
いるのを回収してすぐにリペアできる。
層水など)をプラットフォーム上に分けて汲み上
直下型地震や津波にも強い。プラットフォーム
げ,昼間に表面海水を太陽熱と余剰電力を用いた
のケーブル巻き取り機には衝撃吸収バネがついて
炭素繊維(CF)のジュール熟(CFは通電する
おり,津波などで急に張力が出ると,迅速に巻い
と発熱する)で温めて蒸発させて真水を作る。こ
たり伸ばしたりして衝撃を吸収する工夫がなされ
の真水を冷たい海水に混ぜて,適温・低塩分濃度
ている。
にして散水すると塩分の洗い流し効果が増す。ま
また,海で予想される多くの問題にも解決策が
た,完全に自然エネルギーによる真水の製造(演
すでに用意されている。まず,海水塩が強化ガラ
水化技術)は,電気分解による水素生成に利用でき
スの表面に結晶となって付着すると太陽光発電の
るし,懸念される世界の水不足でも,風車を乾燥
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図④ エコ洋上ハイブリッド発電全体図
地域に設置することで,エネルギーと水の両方の
なることだが,これには小浮体を乗せている安全
問題解決を図るという使い方もできそうだ。
一方,洋上の小浮体を多数浮かべた水面下では
ネットがキャットウォーク(作業用通路)になる。
太陽光が遮断されて暗くなり,海の生態系を悪化
体が沈む恐れがあるが,その対策としては,小浮
させる懸念があるが,これに対しては植物プラン
体,安全ネット,ケーブルなどに貝が付着しにく
クトンの生育に適するように調整した発光ダイオ
ードで海中を照らすという解決策が用意されてい
い新素材の布を貼りつけたり,巻くことで対応す
また,安全ネット等に貝が付着すると重さで小浮
る。照らされたネット直下に藻がついて藻場がで
る。付着貝が成長しても取り替えることでリニュ
ーアルし,ホンダワラ類などの付加価値の高い海
き,栄養価のある海水(深層水など)の散水で,
草の採取とともに回収して,藻や植物プランクト
植物プランクトンが豊富な漁礁ができる。蜂の巣
ンを育てる栄養剤として,また有機肥料やバイオ
形浮体の内側を付加価値の高い養殖場やフィッシ
燃料として再利用することができ,それらを事業
ングレジャー場に利用することもできる。海の緑
とする据野産業も育ってきそうだ。
化・再生で漁業が活性化でき,漁業権の問題も解
肝心の発電能力は,小浮体1つで太陽電池面積
決が容易になることが期待できるということで,
が6m2程度となることから,平均1.2kWを想定し
農水省や漁連関係者も実証試験への協力をいって
ているということだ。地球に降り注ぐ太陽光エネ
きている。
ルギーは約1kW/m2,太陽電池パネルの現在の発
次の間題は,常に波に揺られているため小浮体
電効率は最高20%くらいで理論的には30%が上限
の電気コネクターが疲労し易く定期点検が必要に
だともいわれる。現在の太陽電池パネルは技術革
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新が著しいので,波浪の動揺による低減を考慮し
に風レンズの大型風車を2-3台乗せると,母浮
なければならないが,平均すれば実現可能な数値
体1基だけでも出力5万kWという相当な発電出力
である。また,小浮体にはマルチ機能SFCロッ
となる。その間にネットを張って子浮体を多数浮
ドがつながり,最終的にはプラットフォームに連
かべていくと,発電能力は一段と高まるというこ
結している。これは光ファイバーから電線,ガラ
とになりそうだ。
ス洗浄用の水道管まで何でも通す多機能ロッド
で,まるで神経細胞のように各小浮体をつなぐこ
とになっている。
次世代のための洋上ハイブリッド技術
実現すればエネルギーと環境の問題を解決
小浮体の設置方法はいろんなパターンが考えら
れている。発電の可能性は内陸の湖でも同様だか
そう遠くない将来に水素社会の到来が予想され
ら,手っ取り早いのは国内各地にあるダム湖での
ているが,それも大量の安い水素が供給されての
活用だ。小浮体だけの設置でも十分にその能力を
ことだ。将来的にはこうした大規模な洋上ハイブ
発揮しそうで,湖水のネット上に浮かべられた多
リッド発電システムを外海(南洋など最適)に浮
数の浮体は,渇水期にも満水期にも,また干満変
かべて水素生産基地とし, SCFで作られた超軽
動にも衝撃吸収機能付きのケーブル巻き取り機で
量高圧水素容器に水素を充填して船で運び,水素
対応できる。発光ダイオードで湖水中を照らして
タービン発電所で使用するといった絵も描かれて
環境管理も徹底される。もし夏に渇水となったら
いる。
電力供給を補完し,渇水期には火力に頼っている
国内に限らず海外にはアスワンハイダムや三峡
電力供給体制は大きく改善されてコスト削減が進
ダムをはじめとする大きなダム湖や湖があり,内
むだろう。
海も各地にある。また,資源のない島喚も少なく
しかし大規模化するにはやはり洋上となる。図
ない。エコハイブリッド発電が実証されると,そ
④は深さ10-20mくらいの沿岸域でできる最も設
の設置が世界に広がっていく可能性がある。エコ
置が簡単なもので,片方のプラットフォームを着
洋上ハイブリッド発電は無限の可能性を秘めてい
底式にして固定し,もう一方を浮体としたものだ。
るといえそうだ。
その間にケーブルとネットを張り,小浮体をネッ
トにつないで多数浮かべる。 2つのプラットフォ
これを実現していくには,太陽光発電パネルの
一層の性能向上と低コスト化など,更なる技術革
ームには風車も設置されており,風力と太陽光の
新とともに,浮体や風車を実際に作ってみて実証
ハイブリッド発電となる。これを離島で展開する
試験を重ねていくことが欠かせないが,そのため
とサンゴ礁のような島を取り巻く洋上発電システ
の研究開発費も膨大なものとなるため,国も企業
ムとなる。東京電力,九州電力,沖縄電力等々,
も二の足を踏んできたようだ。しかし,そのよう
離島を抱える電力会社は少なくないが,このシス
な流れが今年になって少し変わってきたようで,
テムの採用で,島の内燃力発電で消費する莫大な
国の機関としては国交省傘下の㈲沿岸技術研究セ
量の重油を節約することも可能となるだろう。
ンターがプラットフォームとなるSCF製六角形
また,島を利用しない純然たる洋上のケースで
浮体の技術評価を開始しており,また,文科省の
ち, 2つのプラットフォームをともに浮体とする
(鮒海洋研究開発機構(JAMSTEC)もしんか
ことによって洋上発電のシステム展開が可能だ。
い6500に替わる12000m級の次世代深海調査船建
浮体の間に長さ2-3km,幅1kmほどのネットを
造の構造材として, SCFの利用に関する共同研
張って小浮体20万個以上を置くと, 20-30万kWの
究を行っているのに続いて,洋上発電の研究にも
発電能力にすることも可能となる。浮体を大型化
関心を示しているようだ。また,海外では世界中
してその内側に小浮体を一面に浮かべ,その浮体
で風力発電事業を展開するイギリスのエネルギー
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図⑤ 自然循環システムと水素社会
企業やBRASIL ENERGYの関係者から
研究所(FTR)は,やる気のある企業に対して,
ち,打診がきているという。イギリスは2020年ま
技術指導とコンサルタントを行う体制を整えつつ
でに国内電力需要の20%を風力発電で賄う計画を
あるところだ。
推進しており, 9月に入って洋上ハイブリッド発
日本ならではの,自然との共生から生まれたこ
電構想が新聞で紹介され,大きな関心を呼んでい
のエコ洋上ハイブリッド発電技術は,自然の克服
る。
を目指してきた従来の硬い土木建築技術とは180
日本の電力各社も水面下で動き始めているよう
度違う柔らかい発想の技術で,太田博士の下に集
だが,エコ洋上ハイブリッド発電の夢が実現し,
まった研究者グループのまさに知の結集で生まれ
生産が拡大して量産化されていくことになると,
たもの。 「一人でも多くの人に理解してほしい。
石油製品需要の減少でさっぱり元気のない石油各
これが実現して世界に普及するとエネルギーと水
社にとっても,カーボンファイバーが石油から作
が得られ,争いがなくなり平和になる」, 「エネル
られる石化製品や残直油由来のものであるだけ
ギーと環境という一方が立てば他方が立たない文
に,新たな製品創出という大きなビジネスチャン
明社会の抱えるヤヌス神(双面のギリシャ神)の
スが生まれるかもしれない。その意味でもこの研
呪縛から解放される歴史的なスタート地点に立て
究と実証試験を大いにバックアップしていくべき
る」と話す太田博士。 「7人の孫の世代の将来の
で,事業化も検討してはどうだろう。太田博士が
ためにも是非実現させたい」と,力を込めて締め
代表を務めるパテント管理会社フロンティア技術
括った。
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