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デジタル時代の3つのCRM ∼スマホの活用・新発想∼ - TAG
デジタル時代の3つのCRM ∼スマホの活用・新発想∼ 第154回 Customer Relationship Management ────── 顧客との関係強化 Communication Real Marketing ─────── ターゲットに即時対応 Consumer Retail Maker ────── 消費者と小売業とメーカーがつながる 2011年末に携帯電話の普及率が人口比100%を超えてから、すでに1年 以上が経過。スマホの普及率も間もなく50%になろうとしている。各企業 にとって、これをビジネスにどう活用するかは大きな課題だ。本稿では、 スマホを双方向コミュニケーション/マーケティング・ツールとして最 大限に活用する方法について解説する。 (株)大トウ 代表取締役社長 米谷善文 氏 大学卒業後、大東食糧品(株) (本社大阪府大阪市)に入社。新規事業・マーケティングに興味を持ち、 1984年、地域密着型酒販店&米穀店を組織化するLSC本部「宅配生活便利店」を主宰。関西・愛 知県に512店舗のネットワークを構築する。1990年、 「シャディサラダ館」近畿地区本部として 創設時から参画、現在に至る。2000年、地域密着型食品スーパーの「増客・客単価アップにつな がる 仕組みと仕掛け」を提案するSTAGE-netwotkをシステム化。現在、全国の食 品 ス ー パ ー 256店舗と共同し、日々変化する生活者ニーズ(助かるわ、嬉しい、便利ね)に対応し、24時間お 客さまと“つながる”独自のモバイル・コンテンツを開発するほか、 「こだわり商品&サービス」の 提供、スマホを活用した新発想のCRMを展開。 1 すべての発想は疑問と挑戦から──CHANGEをCHANCEに CHANGEのGには、ローマ字のCとTが重なって ます。 います。このTはタブーを意味します。 ①会員カードを発行して「ポイント」 「値引き」 「クー タブーとは、業界の常識、習慣、おきてのようなも ポン」などの特典を付与し、会員の再来店を促す ので、破ってはいけないと言われ続けてきました。け こと。 れどもそのタブーのTを取り除くと、GがCに変わり、 CHANCEになります。CHANCEは、過去の常識や ②カード利用で収集した顧客情報をFSP分析し、優 良顧客を囲い込み、売上アップを図ること。 成功体験にこだわらず、引きずらず、一度捨てて、新 しかし、データを活用できている店はほとんどな しい発想で挑戦することによって見えてくるのです。 いのが現状です。その理由は、まず、①の顧客特 私がビジネスにスマートフォン(以下、スマホ)が必 典(一言で言えば値引き)によってお客さまを喜ばせ 要だと思ったきっかけは、食品スーパーの顧客管理に ることで顧客との関係強化(CRM)が図れると思っ 疑問を感じたことでした。 ている経 営者 がほとんどだからです。さらに② が 現在、全国の食品スーパーの約80%が、次の2 達成できない理由は、その仕事をできる人がいな つの目的のためにポイント・プログラムを導入してい いからです。言い換えれば、その仕事が日々の業 40 203 2013-4 ○ リピート促進プロモーション 務に組み込まれていないからです。ではなぜ組み込 必要なのは、これから何をすべきか、つまり、未 まれていないのか? 分析しても、次の対策が打て 来のプロモーションを企画するための仕組みです。そ ないからです。そしてその最大の要因は、カード利 の実現のためには“個”客と24時間“つながる”双方向 用で収集されるデータは過去=結果に過ぎないから コミュニケーション・ツールが不可欠だと私は考えま です。 した。そのツールこそが、スマホなのです。 2 モバイル販促がうまく機能していない理由 弊社は、食品メーカーと食品スーパーとが、双方向 →目標を決めていない。 コミュニケーション・コンテンツ(アンケート)を通じて ④一部の担当者しか関与していない。 食品スーパーのモバイル会員の商品・サービスの利用 →従業員の意識がバラバラ。 シーンなどに関する情報を収集し、これをマーケティ ⑤担当者が退職したため。 ングに活用することを目的とした「モバイル流通研究 →論外。 会」を主宰しています。以下、ここで得られた研究成 となっています。 果などを基に、店舗小売業におけるモバイル活用の 一方、モバイル会員に対して、ある商品を購入して 課題やその解決方法について述べていきたいと思い いない理由を尋ねたところ、次のような驚くべき結果 ます。 が得られました。 食品スーパーなどの店舗小売業の中には、販促ツー ①広告の露出なども多いNB商品であったのに、回答 ルとしてモバイルを活用しているところが少なくありま せん。ところが、2年としないうちにこの施策を取りや めてしまうところが意外と多いのです。その理由は、 者の58%が商品名や機能を知らなかった。 ②購入経験のない人の76%が、その理由として、 「購 入するきっかけがなかったから」と回答した。 ③今後「購入する」「購入したい」との回答が68%に 多い順に、 ①配信するeメールの内容がマンネリになった。 上った。 →チラシと同じ内容を配信しているだけ。 アンケートをきっかけに購入意向が明らかになった ②会員が増えない。 この68%の個客に対して、瞬時にアクションを起こし →新規会員登録キャンペーンをしていない。 て購買行動を促せるのは、スマホしかありません。 ③効果が見えない。 3 Communication Real Marketing(CRM)のステップ CRMは言うまでもなくCustomer Relationship 【STEP3】回答を識別し、ターゲットを抽出。 Managementですが、私たちの考えるCRMはほかにも 【STEP4】瞬時に購買促進のクーポンを配信(きっかけ あります。それは、Communication Real Marketing づくり) 。 であり、認知(知る)→購入動機(きっかけ)をリアル つまり、アンケートで「この商品をご存じでしたか?」 タイムで高めるプロモーションのことを指しています。 と問い掛け、回答内容によってターゲットを識別し、 これは具体的に次の4つのステップから成ります。 その人々に対して瞬時にクーポンを配信して「買わな 【STEP1】 アンケートを通じて商品を告知。 いと損する」気分を持っていただく仕掛けです。 【STEP2】 答えて知る・わかる(認知率100%) 。 前述の例では、商品の機能を知らなかった人が 2013-4 203 41 ○ 58%いましたが、アンケートに回答したことによって クーポンを配信。その結果、クーポンを受け取った 100%が認知しました。さらに、今後、買ってみた 人のうち54%が2週間以内に店頭でクーポンを利用 いと答えた68%の会員には、瞬時に5 ~ 8%引きの しました。 【図表1】モバイル・コンテンツの例 アンケート ●個客の生の声 ●購買誘導クーポン ●競合リサーチ ●購買予測リサーチ コラボ企画 ●参加企業同士のコラボ販売 ●共同イベント お役立ち情報 リンク・プロモーション 通販 プレセント・招待 新商品告知 ターゲット・マーケティング 4 ●知っ得情報 ●便利情報 ●効能 ●占い ●レシピ ●モバイルWebサイト ●専用アプリ ●キャンペーン・ページ ●自社開発商品 ●こだわり商品 ●24時間無在庫ネット・ショッピング ●プレミアム・グッズ ●イベント招待 ●観劇招待 ●旅行招待 ●伝わる“交告” (独自化) ●購入特典 ●モニター募集 ●アンケート ●対象個客の選定 ●POSデータ連動 ●ブランド・リサーチ ●リクエスト 参加募集 ●工場見学 ●料理教室 ●食育イベント ●体験学習 ●クイズ&ゲーム 購買促進 ●クーポン ●試飲・試食会 ●レシピ ●キャンペーン ●買い場づくり レスポンスを最大化する工夫──過去の事例より Communication Real Marketingのそのほかの成 をして来店した人だけが得する、あるいは、損をしな 功事例を紹介しましょう。 い特典を明示することが重要です。 例えば、食品スーパーの店頭に特価商品が並んで ★ターゲットに“手を挙げてもらう” いてもその商品をどんな料理に使ったらよいかわから スマホ活用の強みは、瞬時にターゲットを探し出せ ない、その商品を使った料理のレシピが欲しいという るところにもあります。 声は数多く聞かれます。そこで食品スーパー B社では、 A社の子ども向け商品の告知と購買促進の事例で モバイル会員が入店すると同時に、本日の特価商品 は、モバイル会員全員に、 「○歳のお子さま・お孫さ 情報がスマホに着信し、さらにそこから、その商品を まがおられるご家族の方に吉報です」 というタイトルの 使ったレシピ情報にリンクする仕組みを構築して、好 eメールを送り、 「○歳のお子さま・お孫さまがおられ 評を得ています。 る方は返信してください」と呼び掛けました。 「YES」 会員でなくてもこのWebサイトを閲覧することはでき と返信した会員には、瞬時に5%引きクーポンを送信。 ますが、登録すればお得な情報をさらに便利に利用 クーポンを受け取った会員のうちの42%が、1週間以 できることを案内して、スマホを持っている未登録の 内にその商品を購入しました。 お客さまを会員登録へと誘導しています。 ★会員だけに特典を提供 ★店頭に正解を用意して来店を動機付け モバイル会員増を図るため、また、繰り返し来店し モバイル会員を組織する目的は、何と言っても店舗 てもらい、結び付きを深めていくためには、会員登録 への集客にあります。食品スーパー C社は、モバイ 42 203 2013-4 ○ リピート促進プロモーション 【図表2】つながるCRM─Consumer Retail Maker お客さま スーパー 3 メーカー communication marketing つながる One to One デジタル ダイレクト D データベース モバイル M マーケティング マーチャン ダイジング 個客履歴の蓄積 モバイル会員に対してクイズ・コンテンツを配信。 正解を店頭に掲示することで、来店を促した ル会員に対してクイズ・コンテンツを配信することで、 Online to Offline(O to O)を実現しています。 年に3回ほど実施しているのは、当選者の中から抽 つながる仕組みと仕掛け 人の識別が可能な会員証がスマホに届きます。 ②この会員証を店頭のタッチセンサーにかざすと、 クーポンの発券許可が認識されます。 選で景品が当たる「食択ラリークイズ」。食材に関す ③モニター画面に掲載された新商品の中から、1日1 る計6問のクイズは、先に進むにつれ選択肢が増えて (3 回、3枚まで、好きなクーポンを発券できます。 択~ 6択)難易度が上がりますが、正解は3日間、店 ※割引額は1商品当たり20 ~ 50円程度。同時に同 頭にも掲示してあるので、来店することによって正解 できる仕組みになっています。 じ商品は発券できません。 ④翌日、発券された商品のメーカーから自動的にアン ケートが配信されます。 ★店頭とメーカーをつなぐCRM ⑤アンケートに答えた会員には、20 0ポイントごと メーカーが開発した新商品の中には、お客さまに にお買物券と交 換できるポイントを20ポイント 認知されていないものも数多くあります。お客さまの 進呈。 新商品への関心は高く、新発売のタイミングは絶好 このシステムから得られるデータは、食品スーパー の販売チャンスであるにもかかわらず、これは大変 の売り場改善やキャンペーン企画、メーカーの商品開 もったいないことです。そこで、モバイル流通研究 発・改良などの資料として役立てられています。 会では、スマホを活用してお客さまに新商品を紹介 するシステムを開発し、実験をスタートさせています。 急速に普及が進むスマホの活用は、どの企業にとっ われわれはこれを3番目のCRM、Consumer Retail ても重要な課題です。知恵を具現化し、徹底的に使 Makerと呼んでいます。具体的な流れは、以下の通 いこなそうという信念と社内体制の整備が、競争優 りです。 位性を築けるかどうかの勝負の分かれ目となると考え ①スマホをお持ちのお客さまが会員登録をすると、個 ます。 2013-4 203 43 ○