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環境配慮商品における購買層の特性と 環境性能の

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環境配慮商品における購買層の特性と 環境性能の
128
研究ノート Research Note
研究ノート
環境配慮商品における購買層の特性と
環境性能の価値評価に関する調査研究
古木 二郎 宮原 紀壽 山村 桃子
要 約
環境性能を高めた環境配慮商品は、プロダクト・アウトの観点から開発されるこ
とが多く、十分な市場の獲得、環境性能向上に応じた付加価値の獲得ができないも
のが多い。そこで、環境配慮商品の購買層を中心として、その消費者の特性、彼ら
が好む商品イメージ、環境性能に対する消費者の値付けについて、アンケート調査
を実施した。
環境配慮商品の購買層も一様ではなく、いくつかのカテゴリーに分類することが
でき、また、カテゴリーごとに好む商品イメージが異なることが明らかになった。
また、環境要素ごとにその環境性能を高めることに対する消費者の支払意思額を、
コンジョイント分析によって推計した。これらの結果から、環境配慮商品の特性ご
とに、ターゲットの選定、ターゲットにふさわしい商品イメージの形成、価格戦略
などについて示唆が得られた。
目 次
1.環境配慮商品の需要に関する仮説
2.環境配慮商品の購買層の特性分析
2.1 消費者を対象としたインターネットアンケートの実施
2.2 環境配慮商品の潜在的なユーザー特性の分析
2.3 環境配慮商品に対して消費者が持っているイメージの分析
3.消費者の環境性能への価値評価~コンジョイント分析による評価~
3.1 評価方法の概要
3.2 3 商品に対する価値評価の結果
3.3 3 商品の評価結果の比較分析
4.今後の展開
環境配慮商品における購買層の特性と環境性能の価値評価に関する調査研究
Research Note
Survey and Research on the Characteristics
of Target Buyers and Assessment of
Environment-Related Performance in
Environment-Conscious Products
Jiro Furuki, Norihisa Miyahara, Momoko Yamamura
Summary
Many environment-conscious products with improved environment-related
performance are developed from the viewpoint of product-out, and are unable
to acquire sufficient market and/or the added value commensurate with
their environment-related performance. Under such circumstances, a survey
was conducted, with the questionnaire forwarded mainly to target buyers, to
determine the characteristics of such consumers, their desired product image
and the pricing by consumers with environment-related performance in mind.
It has been known that the target buyers of such environment-conscious
products are not uniform, but classifiable into several categories, and those
of different categories like different product images. In addition, the amount
that consumers intend to pay for each higher level of environment-related
performance, in respect of each environmental factor, was estimated by conjoint
analysis. Based on the results of such research, hints were obtained for the
selection of the target, the formation of a product image suited to the target,
pricing strategy and so forth.
Contents
1.Hypothesis for the Demand for Environment-Conscious Products
2.Analysis of the Characteristics of the Target Buyers of the EnvironmentConscious Products
2.1 Implementation of the Online Survey of Consumers by Questionnaire
2.2 A nalysis of the Potential User Characteristics of an EnvironmentConscious Product
2.3 Analysis of the Image of the Environment-Conscious Products Held in
the Mind of Consumers
3.Consumers’Assessment of the Value of the Environment-Related Performance
– Assessment by Conjoint Analysis -
3.1 Outline of the Valuation Method
3.2 Result of the Valuation of 3 Products
3.3 Comparative Analysis of the Result of the Valuation of 3 Products
4.Future Development
129
130
研究ノート Research Note
1.環境配慮商品の需要に関する仮説
「環境配慮商品」とは、商品のライフサイクル(原料調達、製造、流通・販売、消費、廃棄後)
の環境負荷が低い商品である。また、WWF(世界自然保護基金)への寄付など、商品の販
売益の一部が環境保護等に還元される商品も、環境配慮商品と言える。また、商品を財だけ
でなくサービスまで含めると、エコツアー、フリーマーケット、リサイクルショップなども、
その範疇に含まれると考えられる。
自動車、家電製品から日用雑貨まで、様々な環境配慮商品が製造・販売されている。環境
配慮商品は、既存の商品に代わって販売数が増え、利用機会が増えなければ、実質的な環境
負荷削減にはつながらない。本研究では、環境配慮商品の需要をより的確に把握し、同商品
のマーケティングにつながる分析手法を開発することを目的として、以下の仮説を設定し、
その仮説を検証するために、消費者アンケートを行い、様々な分析を行った。
仮説 1:環境配慮商品の潜在的ユーザーは商品ごとに異なるのではないか
環境配慮商品の購入者、利用者の属性を分析すると、耐久消費財や消耗品、金額の多寡、
利用頻度などにより、潜在的なユーザーの範囲の違いがみえてくるのではないか。
仮説 2:環境配慮商品の環境以外の付加価値やイメージが重要なのではないか
環境配慮商品は、環境配慮や高い環境性能が付加価値であるが、その一方で、価格、品質、
デザインなどの面で制約されている場合が多い。それでも環境配慮商品を購入する動機には、
環境配慮商品に対する、環境以外の付加価値やイメージが大きく作用しているのではないか。
仮説 3:環境性能に対する付加価値認識と購買行動にはギャップがあるのではないか
環境配慮商品の環境性能に対して付加価値を認識していても、購買行動には結びつかない
ことが多い。どの性能がどの程度備わっていると購買行動に結びつくのかを把握することが
できれば、どのような性能を向上していくことが、商品の売上げや利用機会の増加につなが
るかを把握できるのではないか。
環境配慮商品における購買層の特性と環境性能の価値評価に関する調査研究
2.環境配慮商品の購買層の特性分析
2.1 消費者を対象としたインターネットアンケートの実施
第 1 章に示した仮説を検証するため、三菱総合研究所と(株)NTT-X が共同で実施して
いるインターネットアンケートサービス「goo リサーチライト」の登録モニター約 29 万人
(2007 年 9 月時点)の中からサンプルを抽出し、アンケート調査を実施した。実施期間およ
び回答者数、回答者の基本属性は図 1 の通りである。なお、登録モニターには、壮年層、中
年層が多く、高年層が少ないため、我が国の年齢層分布と合致していないことには、留意が
必要である。
図 1.消費者を対象としたインターネットアンケートの基礎情報
調査期間:2007年9月7日∼10日
回答数:1,
038名
2%
回答者の属性:
男性
48%
女性
52%
7%
26%
青年
(25歳未満)
65%
壮年
(25∼44歳)
中年
(45∼64歳)
高年
(65歳以上)
作成:三菱総合研究所
以下では、仮説 1 の検証に係わる「環境配慮商品の潜在的なユーザー特性の分析」の結果
を次節 2.2 に、仮説 2 の検証に係わる「環境配慮商品に対して消費者が持っているイメー
ジの分析」の結果を次々節 2.3 に示す。さらに、仮説 3 の検証に係わる「消費者の環境性
能への価値評価」の分析結果については、次章(第 3 章)に示す。
2.2 環境配慮商品の潜在的なユーザー特性の分析
環境配慮商品の潜在的なユーザーとは、その商品を現在または将来において購入する可能
性のある消費者である。アンケートで把握できる最初の絞り込みは、環境配慮商品であるか
否かにかかわらず、その品目を現在または将来に購入する可能性があり、購入を決定する際
には、自分の意思が反映されるという消費者への絞り込みである。
図 2 は、各商品を購入する際に、どのような意思決定が行われているかを比較したもので
あるが、携帯電話では所有する者の個人の意思による場合が 9 割程度だが、自動車では、同
割合は 6 割程度、住宅では 4 割程度である。
131
研究ノート Research Note
図2.商品購入時の意思決定方法
自動車
携帯電話
おむつ
住宅
給湯器
旅行パック(宿泊施設等)
電球・蛍光灯
ボールペン
トイレットペーパー
洗濯洗剤
衣類・タオル・ハンカチ等
食材
0
20
40
60
80
100 (%)
ほぼ自分一人の意見で決めるもの
家族等と意見を出し合うが、自分の意見が重視されるもの
家族等と意見を出し合うが、自分以外の家族等の意見が重視されるもの
自分の意見はほぼ考慮されないもの
今後購入・利用する可能性もないし、これまでに購入・利用したこともないもの
作成:三菱総合研究所
一方、図 3 は、購入の意思決定権をもつ回答者に対して、商品購入の際に何を重視するか
について尋ねたもので、トイレットペーパーの例を示しているが、購入者のエコ度* 1 により、
重視する基準が異なっていることがわかる。また、図 4 に示すように、商品によっても環境
配慮・環境性能の重要性や購入基準は大きく異なっている。
図3.エコ度による商品特性ごとの購入基準(トイレットペーパーの例)
(%)
100
トイレットペーパーの購入基準
エコ派
非エコ派
80
60
40
20
性
久
耐
新
製
品
0
価
格
デ
ザ
イ
機
ン・
能・
色
性
能・
サ
メ
ー
ー
ビ
カ
ス
ー・
ブ
ラ
ン
ド・
環
産
境
地
配
慮・
環
境
性
大
能
き
さ(
重
さ・
容
売
積
れ
)
行
き・
売
れ
筋
132
作成:三菱総合研究所
* 1
ライフスタイルに関する設問への回答結果をもとに、消費者の環境配慮度合を数値化したもの。
環境配慮商品における購買層の特性と環境性能の価値評価に関する調査研究
図4.商品ごとの環境配慮・環境性能の重要性
環境配慮・環境性能を重視するとした回答者の割合
19%
自動車
3%
携帯電話
17%
おむつ
32%
住宅(戸建・集合マンション)
31%
給湯器
12%
旅行パック
(宿泊施設等)
29%
電球・蛍光灯
11%
ボールペン
46%
トイレットペーパー
47%
洗濯洗剤
13%
衣類・タオル・ハンカチ等
35%
食材
0
10
20
30
40
50(%)
作成:三菱総合研究所
このような結果をもとに、回答者を、個々の商品ごとに、
「商品購入の意思決定者」や「環
境配慮・環境性能を重視する意思決定者* 2」に限定し、各回答者の年齢、性別、所在地、家
族構成などの属性との傾向を分析することで、環境配慮商品の潜在的なユーザーの特性を分
析することができる。さらに、消費者のライフスタイルとの関係を分析すると、環境配慮商
品ごとに、ユーザーの生活志向や商品購入志向の傾向を把握することができる。
表 1 は、商品選択に関係があると考えられるライフスタイルを整理したもので、これらラ
イフスタイルへのあてはまり度のデータから因子分析を行い、エコ度と好奇心を因子軸とし
て設定した。
*2 「環境配慮・環境性能を重視する意思決定者」とは、商品購入の意思決定者のうち、購入・利用する商
品等を選択する際に、
「環境配慮・環境性能」を重視する回答者を指す。
133
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研究ノート Research Note
表1.商品選択に関連すると考えられるライフスタイル
ライフスタイル
適合者の愛称
環境に配慮した生活をするためにどのような工夫ができるか知りたい
環境配慮生活者
多少高くても環境に配慮した商品を選ぶ
エコ消費者
環境や社会に配慮する企業・お店の商品や株式を購入したい
グリーンコンシューマー
自然エネルギーの活用に興味がある(太陽光発電など)
自然エネルギーシンパ
自然と親しむのが好きだ
自然愛好家
健康的な生活をするためにどのような工夫ができるか知りたい
健康生活者
多少高くても健康に配慮した商品を選ぶ
健康配慮消費者
健康管理には気をつけている(適度な運動や定期的に健康診断を受けるなど)
健康管理好き
食生活には気をつけている(有機野菜や科学添加物の少ない食品を選ぶなど)
食生活重視
ヨガや東洋医学、アロマテラピーなどに興味がある
ヨガ東洋アロマ好き
気に入った商品があれば、家族や友人にその良さを知らせたり、購入をすすめる
口コミ好き
自己を高めることに関心が高いほうだ
自己研鑽家
世の中の物事に対して広く関心があるほうだ
広い関心
経済的な豊かさよりも心の豊かさが大切だ
心の豊かさ重視
地域活動やボランティア活動に取り組みたい
地域ボランティア
総じて価格重視で安いものを選んでいる
価格重視
商品を買う前にいろいろと情報を集めてから買う
情報比較好き
多少高くても無名メーカーの商品よりは有名メーカーのものを選ぶ
有名ブランド志向
新しい商品やお店を開拓するのが好きだ
新しいもの好き
好きな分野やこだわりのある分野では出費を惜しまないほうだ
こだわり出費
作成:三菱総合研究所
回答者の中から環境配慮商品の購入者ごとに、エコ度と好奇心を尺度とした散布図にプ
ロットすると、図 5 に示すように、ハイブリッド車や電気自動車の購入者は、エコ度の高い
消費者が多い傾向にあるが、芯の交換が可能なボールペンの購入者は、エコ度や好奇心の有
無、強さとの傾向はみられないことがわかる。
図5.環境配慮商品購入者のライフスタイル特性の分析例
ハイブリッド車・電気自動車購入者のエコ度・好奇心
2.0
芯の交換が可能なボールペン購入者のエコ度・好奇心
エコ度
3
1.5
2
1.0
0.5
-2
-1
0
-0.5
-1.0
-1.5
-2.0
-2.5
-3.0
-3.5
作成:三菱総合研究所
エコ度
1
1
2
3
好奇心
-3
-2
-1
0
-1
-2
-3
-4
1
2
3
好奇心
環境配慮商品における購買層の特性と環境性能の価値評価に関する調査研究
2.3 環境配慮商品に対して消費者が持っているイメージの分析
環境配慮商品に対する消費者全体のイメージと、消費者のうち実際に環境配慮商品を購入
した消費者のイメージを比較し、購入動機に結びつくイメージの分析を行った。分析には、
双対尺度法を用いた。双対尺度法では、商品とイメージの距離で、そのイメージの強さを表
すことができる。
図 6 は、アンケート回答者全員をサンプルとして、各商品と商品に対するイメージの強さ
を示したものである。一方、図 7 は、実際に各商品を購入したことがある回答者をサンプル
として、各商品と商品に対するイメージの強さを示したものである。
2 つの図を比較すると、ソーラーシステムやハイブリッド自動車・電気自動車などでは、
消費者全体と購入者に限定した場合とで、ほとんどイメージに差はない。しかし、バイオマ
スプラスチックを使用した携帯電話(図中では、バイプラ携帯電話)では、消費者全体では、
かっこいい、高級感のある、先進的な、技術が優れているなどのイメージが強いが、実際の
購入者には「温かみのある」というイメージの方が強くなっている。
このような分析から、消費者に響く効果的なイメージ戦略を検討することができる。また、
このような分析は、開発者、販売事業者として、伝えたいイメージが伝わっていない場合に
は、いかにそのイメージを伝えるかという検討の出発点となる。
図6.環境配慮商品とそのイメージ(回答者全体)
1.2
高級感
のある
面倒な
1.0
布おむつ
0.8
先進的な
0.6
ソーラーシステム
0.4
0.2
ハイブリッド車・
電気自動車
-1.0
-0.5
技術が優
れている
バイプラ
携帯電話
かっこいい
温かみのある
余計な
-0.6
オーガニックコットン
1.0
0.5
個性的な
堅実な
-0.4
-0.8
作成:三菱総合研究所
有機農産物
0
-0.2
古めかしい
安心できる
話のネタになる
親しみやすい
再生紙トイレット
ペーパー
フリーマーケット
リサイクルショップ
品質が落ちる
どこにでもある
1.5
135
136
研究ノート Research Note
図7.環境配慮商品とそのイメージ(環境配慮商品購入者)
2.5
2.0
バイプラ
携帯電話
1.5
1.0
先進的な
ハイブリッド車・
電気自動車
技術が
優れている
-0.5
-1.0
かっこいい
ソーラーシステム
0.5
安心できる
0
高級感のある
-0.5
有機農産物
-1.0
作成:三菱総合研究所
古めかしい
話のネタになる
温かみのある
0.5
オーガニック
コットン
堅実な
個性的な
面倒な
布おむつ
1.0
再生紙トイレット
ペーパー
品質が落ちる
親しみやすい
フリーマーケット
余計な
どこにでもある
リサイクルショップ
1.5
環境配慮商品における購買層の特性と環境性能の価値評価に関する調査研究
3.消費者の環境性能への価値評価~コンジョイント分析による評価~
3.1 評価方法の概要
( 1 )価値評価の対象とする品目
評価対象とする品目の選定にあたっては、以下の観点から、3 品目を選定した。
・ インターネットアンケートで対象とした環境配慮商品(20 品目)に含まれる品目と
した。
・ 日用品、耐久消費財、サービス財(嗜好品)など、様々なタイプの商品を 1 品目ずつ
選定した。
・ 属性に対して複数の水準を具体的かつ現実的に設定しやすい品目を選定した。
その結果、日用品として「トイレットペーパー」、耐久消費財として「戸建住宅」、サービ
ス財(嗜好品)として「ホテル宿泊プラン」の各品目を対象として選定した。
( 2 )分析手法
本研究では、消費者の環境性能への価値を計測するにあたり、人々に選好を尋ねることで
価値を計測する表明選好法の 1 つであるコンジョイント分析(選択型実験)* 3 を用いた。
具体的には、回答者に実際の商品をイメージした複数の選択肢(プロファイル)を提示し、
どの選択肢を選ぶかを回答させた。選択肢は複数の項目(属性)から構成されており、その
項目の一部に環境性能を含む環境配慮の項目を含めた。例えば、環境配慮を行うと、一般の
商品性能に対して何らかの制約を与え、環境配慮を行わない商品よりも商品性能が劣る場合
もあり得る。このため、商品によっては、環境配慮が消費者にプラスの効用を与えない可能
性もある。
( 3 )選択肢の設定
アンケートでは、各品目について「基本商品」と、それに対してグレードアップを行った
商品(2 種類)をランダムに提示した。基本商品とグレードアップの考え方は、図 8 の通り
である。このような考え方にもとづき、グレードアップを行う項目(属性)とレベル(水準)
については、それぞれ表 2 の通り設定* 4 した。
*3
コンジョイント分析は、計量心理学の分野で誕生し、その後、主にマーケティングや交通工学などの分
野で研究が進められた手法である。コンジョイント分析は質問の形式によりいくつかの手法があるが、こ
こでは「選択型実験」を用いた。選択型実験は、複数の商品の中から 1 つの商品を購入する消費者の
行動に近い質問形式となっているとともに、ランダム効用モデルと呼ばれる効用理論にもとづいた分析が
行われることから、経済理論との整合性が高いという利点を持っており、効用の貨幣化を行うのに適し
ていると考えられる。
*4
各品目とも属性と水準の数から多くの組み合わせ(プロファイル)が存在するが、推定が効率的に行われ
るよう、直交計画を用いて各 16 種類のプロファイルを作成し、それぞれ商品 A および商品 B に割り当て
を行った。1 人の回答者に対して各品目 4 回ずつ質問を行うため、
調査票は 4 つのパターンが必要となった。
137
138
研究ノート Research Note
このような選択肢の設定にもとづき、実際の調査票では次の質問によって、回答者が 3 つ
の商品の中から購入する商品一つを選択する。
●●について、あなたはお店で以下のような【基本商品】を購入しようと思って、
お店に行ったものとします。ところが、お店の売り場を見たところ、この【基本商
品】をもとにグレードアップされた【商品 A】および【商品 B】が並んでいました。
あなたは、これら 3 種類の商品のうち、どれを購入しますか。
図8.基本商品とグレードアップの考え方(トイレットペーパーの例)
【基本商品】
【オプション】
○紙の質は「パルプ100%」
○紙の質は「再生紙50%」もしくは「再生紙100%」に変更
○形態は「芯なし」もしくは「破れにくい薄紙素材」に変更
→1ロール当たりの紙量が増えることで、交換頻度が減少する。
○形態は「芯あり」
○表面は「通常」
○「国産無名メーカー」
○ウォシュレット対応は「なし」
○価格は12ロールで300円
○表面は「エンボス加工」に変更
→肌触りが柔らかくなる。
○メーカーは「国産大手有名メーカー」に変更
○ウォシュレット対応は「あり」に変更
→濡れても破れにくい素材とし、ウォシュレットトイレでも使いやすい。
○価格は、上記オプションに対して「+50円」
「+100円」もしくは
「+200円」のいずれか。
作成:三菱総合研究所
表2.属性と水準
品目
属性
紙の質
トイレット
ペーパー
(12 ロール)
水準(太字下線が基本商品)
バージンパルプ 100%/再生紙 50%/再生紙 100%
形態(ロール当たり長さ) 芯あり/芯なし/芯あり固まき
表面加工
エンボス加工なし/エンボス加工あり
ブランド
無名メーカー/大手有名メーカー
ウォシュレット対応
ウォシュレット対応なし/ウォシュレット対応あり
価格(300 円)
+ 0 円/ + 50 円/ + 100 円/ + 200 円
耐震性能
免震装置なし/免震装置あり
オール電化対応
オール電化キッチンなし/オール電化キッチンあり
戸建住宅
太陽光発電
(2 階建て、
床面積150㎡) 断熱性能
防犯性能
太陽光発電なし/太陽光発電あり
通常レベル/外張り断熱を装備
通常レベル/防犯合わせ複層ガラス、玄関指紋認証あり
価格(建物 2,000 万円) + 0 円/+ 200 万円/+ 400 万円/+ 600 万円/+ 800 万円
ホテル
宿泊プラン
(1 泊 2 日)
夕食の食材
通常/地元食材メイン/地元食材+有機食材メイン
部屋(1 室 2 名利用)
洋室(30 ㎡)/和洋室(50 ㎡)
個室露天風呂
個室露天風呂なし/個室露天風呂あり
エコアメニティ
エコアメニティなし/エコアメニティあり
エコツアー
エコツアーなし/エコツアー(オオタカ見学)あり
価格(10,000 円/人)
+ 0 円/+ 2,000 円/+ 5,000 円/+ 10,000 円
作成:三菱総合研究所
環境配慮商品における購買層の特性と環境性能の価値評価に関する調査研究
3.2 3 商品に対する価値評価の結果* 5
( 1 )トイレットペーパー
推定結果の詳細はここでは省略するが、すべての属性が有意となったわけではなかった。
影響力を持った属性は「再生紙 100%」「芯なし」「エンボス加工あり」の各属性であり、い
ずれも価格に対してプラスと符号条件も満たしている。これらの各属性について、基本商品
の価値に対するプラスの価値を推定した結果は、表 3 の通りとなった。
表 3 で示した数値は、基本商品の価値を 100 とした時の付加価値を数値化したものである。
例えば、
「再生紙 100%」の付加価値が 29.7 ということは、再生紙 100%の商品は、基本商品(パ
ルプ 100%)の商品に対して約 1.3 倍の価値に相当することを意味している。また、
「芯なし」
の付加価値も 29.7 であることから、「再生紙 100%」と「芯なし」の付加価値が同水準であ
るという解釈も可能である。
各変数についてみると、
「再生紙」については「再生紙 50%」の変数が有意とはならず、
回答者は再生紙割合の違いに影響されるのではなく、再生紙 100%かパルプ 100%かといっ
た二者択一によって、トイレットペーパーを選択している可能性がある。また、1 ロール当
たりの長さが長くなることによる交換頻度の減少を「芯なし」と「芯あり固まき」の 2 種類
の方法で提示したが、「芯なし」についてのみ有意となった。これは、「芯なし」商品は実際
に多く商品化されていることが影響しているものと推測される。
表3.トイレットペーパーの属性変化に対する付加価値
変数
基本商品の価値を 100 とした時の付加価値(解釈)
再生紙 100%
29.7
再生紙 100%商品は、
パルプ 100%商品(基本商品)よりも+ 29.7%の価値がある。
芯なし
29.7
芯なしの商品は、芯ありの商品(基本商品)よりも+ 29.7%の価値がある。
エンボス加工あり
15.7
エンボス加工ありの商品は、エンボス加工なしの商品(基本商品)よりも+ 15.7%の
価値がある。
作成:三菱総合研究所
( 2 )戸建住宅
戸建住宅については、すべての属性が 1%水準で有意となった。「耐震性能」「オール電化
キッチン」「太陽光発電」「断熱性能」「防犯性能」のいずれについても、価格に対してプラ
スとなっており、符号条件も満たしている。これらの各属性について、基本商品の価値に対
するプラスの価値を推定した結果は、表 4 の通りとなった。表 4 の結果によると、
「耐震性能」
の付加価値が突出しており、
「耐震性能を強化するオプションは、強化なしの商品(基本商品)
よりも+ 34.2%の価値がある」と解釈することができる。次いで、
「断熱性能」「太陽光発電」
の順で大きくなっている。
* 5
結果の推定には、離散選択モデルの中で基本的な条件付きロジットモデルを用いた。なお、推定した
各属性のパラメータと価格に対するパラメータとの関係から、各属性の限界的な向上に対する支払意思額
(WTP)についても推定することが可能となる。
139
140
研究ノート Research Note
特に、
「耐震性能」は価格を上回る影響度があり、耐震偽装問題の話題が取り上げられた等、
消費者にとっても非常に関心が高い項目であったことが推測される。また、
「断熱性能」や「太
陽光発電」は省エネに好影響を与える属性であり、結果として電気代の節約等にも寄与する
ことから、消費者の関心が高かったと推測される。一方で、「オール電化キッチン」は、今
回の調査票では属性の内容として「火災リスクなし」と「掃除の手軽さ」を示しており、環
境配慮の項目として評価を受けるものとして位置付けていない。
表 4.戸建住宅の属性変化に対する付加価値
変数
基本商品の価値を 100 とした時の付加価値
耐震性能
34.2
オール電化キッチン
9.5
太陽光発電
13.4
断熱性能
17.7
防犯性能
4.6
作成:三菱総合研究所
( 3 )ホテル宿泊プラン
ホテル宿泊プランについては、すべての属性が有意となったわけではなかった。「食事の
オプション」
「個室露天風呂」
「エコツアー」が有意(「エコツアー」以外は 1%水準で有意)
であり、価格に対してプラスであり、符号条件を満たした。これらの各属性について、基本
商品の価値に対するプラスの価値を推定した結果は、表 5 の通りとなった。
基本商品の価格を 100 とすると、食材のオプションの付加価値は、「地域食材+有機食材」
が 21.1、「地域食材」が 10.9 であった。これは、「通常の食事よりも地域食材を用いた食事
の方が+ 10.9%の価値があり、さらに有機食材も用いた食事であれば、通常の食事よりも+
21.1%の価値がある」と解釈できる。また、「個室露天風呂」については、基本商品に対し
て+ 50%の付加価値があると推定され、突出した結果となった。以上より、食材や個室露
天風呂といった一般的な宿泊プランの属性が、環境配慮を意識した属性よりも相対的に高い
価値として認識された結果となった。
表 5.ホテル宿泊プランの属性変化に対する付加価値
変数
基本商品の価値を 100 とした時の付加価値
食材オプション(地域食材)
10.9
食材オプション(地域食材+有機食材)
21.1
個室露天風呂
49.3
エコツアー
5.2
作成:三菱総合研究所
環境配慮商品における購買層の特性と環境性能の価値評価に関する調査研究
3.3 3 商品の評価結果の比較分析
商品選択にあたり、各属性がどの程度考慮されているかという点については、次のような
違いがみられた。価格が低く日常的に購入するトイレットペーパーは、購入にあたって「価
格」が大きく影響を与えていた。また、ホテル宿泊プランについては、一般的な属性が環境
を配慮する属性より相対的に大きな影響を与えていた。その一方で、一生に一度購入するか
どうかという戸建住宅では、価格を含むすべての属性が、いずれも購入にあたっての決定要
素として大きく影響を与えていた。
ここで、回答機会を与えられた 4 回の選択型実験のすべてにおいて基本商品を選択した回
答者の割合について確認すると、戸建住宅が最も少なく 15.8%であったのに対し、トイレッ
トペーパーは 33.7%という結果となった。
以上のことから、商品選択における各属性の考慮のされ方について、商品の価格帯と購入
頻度から推測すると、トイレットペーパーのように価格帯が低く、日常的に購入する商品に
ついては、消費者は商品属性の水準の違いのうち、価格を中心とした影響力の大きい属性に
絞って判断しているものと推測された。一方で、戸建住宅のように価格帯が高く、購入頻度
の少ない商品については、商品属性の水準の違いを多面的に捉えた上で購買判断を行う傾向
があると推測された。
表 6.選択型実験においてすべて基本商品を選択した回答者の割合
トイレット
ペーパー
戸建住宅
ホテル
宿泊プラン
33.7%
15.8%
24.2%
すべて基本商品を選択した回答者の割合
作成:三菱総合研究所
4.今後の展開
本研究では、インターネットアンケートを用いて、様々な環境配慮商品の潜在的なユーザー
特性や、環境配慮商品のイメージ、環境性能への価値評価の分析を行った。今後は、研究対
象とする商品群を限定し、より詳細な分析の可能性を検討するとともに、ユーザー特性やイ
メージ、価値評価などが、環境問題の顕在化や社会の変化に伴って、どのような方向にシフ
トしていくかについても研究を進め、環境配慮商品の開発普及に向けた政策提言やコンサル
ティングへと展開していく考えである。
141
142
研究ノート Research Note
参考文献
[1]
Forest L. Reinhardt :“Down to Earth”Harvard Business School Pr(1999).
[2]
庄子康,栗山浩一編:『環境と観光の経済評価-国立公園の維持と管理-』,勁草書房
(2005)
.
[3] Louviere et al:“ Stated Choice Methods: Analysis and Application. ”Cambridge
University Press(2000).
謝辞
本稿第 3 章の研究にあたっては、庄子康氏(北海道大学大学院農学研究院 森林政策学研
究室 助教)のアドバイスをいただいており、この場を借りて感謝の意を表したい。
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