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TF1上のシリーズ表面

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TF1上のシリーズ表面
第9回複合・合成構造の活用に関するシンポジウム
(47)ALCパネルに鋼板を接着した
サンドイッチ構造床版の面内せん断特性
岡
日出夫1・水島
靖典1・菅田
昌宏1・五十嵐
信哉2・山田
聖志3
1正会員
株式会社竹中工務店 技術研究所(〒270-1395 千葉県印西市大塚1-5-1)
E-mail: [email protected] , [email protected] ,
[email protected]
2正会員
3正会員
株式会社竹中工務店 エンジニアリング本部(〒136-0075 東京都江東区新砂1-1-1)
E-mail: [email protected]
豊橋技術科学大学大学院・教授 (〒441-8580 愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1)
E-mail: [email protected]
著者らは,主にビル形式の建築構造物を軽量化する目的で,ALCパネルの表面に薄鋼板を接着接合した
「鋼・ALCサンドイッチ床版」を提案している.一般に,ALCパネルに面内せん断力を負担させることは
できないが,鋼・ALCサンドイッチ床版の場合,表面の鋼板と一体化されているため,一定の面内せん断
力を伝達できると考えられる.本報では,鋼・ALCサンドイッチ床版に面内せん断力が作用する場合の構
造特性を把握するため,基礎的な面内せん断実験を行った結果を示す.また,弾塑性有限要素解析を行い
実験との整合性を確認すると共に,想定架構モデルにおける床版の必要面内せん断剛性,及び同耐力との
対比において,鋼・ALCサンドイッチ床版の適用可能性について考察を行う.
Key Words : slab, sandwich panel, ALC (autoclaved lightweight aerated concrete), steel skin,
adhesive bonding, in-plane shearing
1. はじめに
著者らは,主にビル形式の建築構造物を軽量化する目
的で,サンドイッチ構造の軽量床版部材について研究を
行っている.既報1)では,ALCパネル(軽量気泡コンク
リートパネル)を芯材に利用することを考え,表面に薄
鋼板を接着接合した「鋼・ALCサンドイッチ床版」を
提案した.また,鋼板の幅を主なパラメータとして曲げ
実験を行い,鋼板量と床版の面外剛性,耐力,並びに破
壊形式との関係を明らかにした.
建築構造物の床版部材に求められる構造性能は,固
定・積載荷重等の長期の鉛直荷重を安全に支持できるこ
との他に,強風時や地震時に作用する短期的な面内せん
断力を耐震要素(ブレース,耐震壁等)のある構面に伝
達できることも重要である2).建築構造物で最もよく用
いられる普通コンクリート床版やデッキ合成床版3)は,
面内のせん断剛性,及び強度は共に大きいため,吹き抜
け等で床版に大きな欠損のある場合,あるいは耐震要素
のある構面スパンが非常に大きい場合等を除いて,面内
せん断力の伝達が問題になることはあまりない.
379
一方,ALCパネル床版では,面内のせん断に関する
少数の実験例は見られるものの4),5),現状の設計法では
面内せん断力を負担させないことが前提となっている6).
しかしながら,本研究における鋼・ALCサンドイッチ
床版のようにALCパネルと鋼板が一体化されている場
合,床版自身の面内剛性・強度が向上することに加え,
下面側の鋼板を梁部材に定着させるディテールとするこ
とで,一定の面内せん断力を梁部材を通じて各構面に伝
達できるものと考えられる.
本報では,鋼製の梁部材に定着した鋼・ALCサンド
イッチ床版に面内せん断力が作用する場合について,面
内のせん断剛性,耐力,並びに破壊形式等の基本構造特
性を把握するため,基礎的な面内せん断実験7)を行った
結果を示す.また,同実験について3次元有限要素モデ
ルによる弾塑性解析7)を行い,解析法の妥当性を検証す
る.さらに既往文献8), 9),設計マニュアル10)を参考に鉄骨
造の架構モデルを想定し,同架構モデルの床版に必要と
される面内のせん断剛性,及び耐力と,鋼・ALCサン
ドイッチ床版の面内せん断特性との対比において,本床
版の適用可能性について考察を行う.
部材との接合のため2,360mmとしてALCパネル両端部で
50mmづつ突出させた.幅(bf )は580mmとするが,次章の
面内せん断実験を床版2枚組みで行う場合については,
隣接床版の目地間隔(10mm)を考慮し下面側を595mm
とした.鋼板とALCパネルは,ALC表面にプライマー処
理を施した後,エポキシ樹脂系接着剤により接着した.
次章の実験で用いた試験体の諸元,及び床版の組枚数
の条件を表1に,またALC,補強筋と鋼板,接着剤,並
びに後打ち部(次節参照)に用いた無収縮モルタルの主
な機械的性質を表-2(a)~(d)にそれぞれ示す.
(2) 鋼製梁部材との接合部
本報では,上記床版を鉄骨造の架構に適用することを
想定し,図-2に示すようにALCパネル端部より突出させ
た下面鋼板を鋼製梁フランジ部に焼抜き栓溶接で接合す
ると共に,同梁上を含む隣接パネル間には無収縮モルタ
ルを後打ちする接合部について検討を行う.
なお,次章の実験では図-3(a),(b)に示すように,後述の
加力梁あるいは支持梁と接合するための鋼製スタブに梁
フランジ部を模擬した鋼製梁を設け,同箇所に床版の下
面鋼板を焼抜き栓溶接(φ20×10箇所)で接合するディ
テールとした.
50
bc =600
bf =580 or 595
鋼板
2,260
dc =17.5
bc =600
bf =580
C.L.
ALCパネル
鋼板厚さ
C.L.
(tf ) 1.2
平面図
上面補強筋
2-φ5
鋼板幅 (bf ) 580 or 595
下面補強筋
5-φ5
ALC幅(bc ) 600
断面図
図-1 鋼・ALCサンドイッチ床版試験体(寸法:mm)
表-1 試験体の諸元・実験条件
試験
体名
No.1
No.2
ALC
(共通)
2,260×600
×150
鋼板の長さ×幅(bf )
上面
下面
2,360×580
2,260×580
2,360×595
床版組枚数
(図-4参照)
1枚
2枚
表-2(a) ALCの機械的性質
圧縮強度
(N/mm2)
3.9
ヤング率
(N/mm2)
1,960
密度
(g/cm3)
0.5
表-2(b) 補強筋(主筋),及び鋼板の機械的性質
丸鋼 φ5
鋼板 tf 1.2
降伏強度
(N/mm2)
581
203
引張強度
(N/mm2)
616
336
ヤング率
(kN/mm2)
208
173
表-2(c) 接着剤の機械的性質(材齢7日)
圧縮強度
(N/mm2)
14.7
引張強度
(N/mm2)
9.2
ヤング率
(N/mm2)
170
硬化物密度
(g/cm3)
1.62
表-2(d) 後打ち部モルタルの機械的性質(材齢13日)
圧縮強度
(N/mm2)
61.4
(a) 側面図
図-2 鋼製梁部材との接合部の概念図
2-φ5
5-φ5
50
dt =17.5
(上2-φ5,下5-φ5),及び直交方向の補助筋(φ4)が
配されている.また,パネル長辺側面の片側には凸ない
し凹型の目地が加工されている.主筋のALCに対する定
着効果は,パネル両端部を含む複数本の補助筋と格子状
に溶接することによって確保されている.また,ALC製
造工場における生産性優先の観点から,主筋はALCパネ
ル幅の中心に対して対称な配置とはなっていない.
一方,表面材は塗装が施された薄鋼板(JIS G 3313)
であり厚さ(tf )は1.2mm,長さは上面2,260mm,下面は梁
下面配筋図
C.L.
(1) 試験体の概要と材料の機械的性質
本報で用いた試験体は,図-1に示すように床用ALCパ
ネルの上下両面に薄鋼板を接着接合したサンドイッチ構
造床版である.芯材のALCパネルは一般の市販製品であ
り,長さ2,260×幅(bc )600×厚さ(tc )150mm,内部には主筋
上面配筋図
ALC厚さ
(tc ) 150
2. 鋼・ALCサンドイッチ床版試験体と梁部材との
接合部
引張強度
(N/mm2)
4.03
ヤング率
(kN/mm2)
21.0
(b) 平面図
図-3(a),(b) 試験体における接合部(寸法:mm)
380
3. 鋼・ALCサンドイッチ床版の面内せん断実験
試験体中心
加力梁
±300kNロードセル
(1) 実験の概要
水平移動止め
ニードルローラー
目地部にも無収縮モルタルを充填した.
計測項目は,試験体の主な箇所の水平・鉛直方向の変
位,下面鋼板とタイロッドのひずみ,並びにALCと後打
ちモルタルのひび割れ幅,開き量等とした.
+Q
加力梁
H-300×300×10×15
押500kN引270kN
油圧ジャッキ
T
T
振れ止めローラー
タイロッド
:PC鋼棒φ17
600
H=2400
本章では,表-1の試験体について面内せん断実験を行
った結果を示す.実験は,(財)日本建築総合試験所の
加力試験装置を用いて実施した.
図-4(a),(b)に示す通り,床版試験体を鉛直方向に立てた
状態で支持梁上に設置し,上部に取り付けた加力梁の中
心軸に対して押し引き型油圧ジャッキを用いて正負交番
の水平力を与えた.支持梁,及び加力梁と試験体端部の
鋼製スタブは高力ボルトで接合した.また,水平力に伴
って生じるモーメントに抵抗するためタイロッド(PC
鋼棒φ17)を配置すると共に,上部の加力梁には面外へ
の転倒を防止するため,ゆれ止め装置を設けた.床版を
2枚組みとした試験体No.2については,床版間に沿った
試験体
下面鋼板
ひずみゲージ
PC鋼棒φ26
高力ボルト
12-M20
480
1
ストロングフレーム
支持梁
H-300×300×10×15
2
支持梁
鉄骨梁
球座
1800
(a)
試験体No.1(床版1枚組)
試験体中心
加力梁
±300kNロードセル
水平移動止め
ニードルローラー
+Q
加力梁
H-300×300×10×15
押500kN引270kN
油圧ジャッキ
T
T
振れ止めローラー
600
H=2400
(2) 実験結果と考察
a) 実験結果
荷重-下面鋼板の相当応力関係をそれぞれ示す.なお,
図5(a),6中には次章における有限要素解析の結果も併せ
て示している.加力終了後の試験体の状況は,写真-1,
2(a),(b),(c)に示す.
b) 実験結果の考察
試験体No.2の初期剛性はNo.1の8倍程度であり,概ね
床版2枚分の幅に対する曲げ剛性の比率になっているも
のと理解できる.図-6に示す通り,タイロッドを配置し
たものの加力梁には面内回転が生じていることから,本
実験における床版上部は自由境界に近い条件となり,片
持ち柱的な挙動を示したものと考えられる.
破壊に至る挙動を見ると,試験体No.1では R =3×10-3
rad. 程度の時に鋼板とALCの接着面に剥離が確認され,
その後,図-7(a)に示す通り鋼板応力は増大し塑性化して
いることが分かる.R =12×10-3 rad.程度の時には圧縮側
のALCパネル側面に縦ひび割れが発生して,全体の剛性
が低下している. R =24×10-3 rad.時に最大耐力に至り,
その後は圧縮側ALCの圧壊が進展しながら緩やかに耐力
が低下している.
381
高力ボルト
20-M20
960
1
ストロングフレーム
支持梁
H-300×300×10×15
4
2
鉄骨梁
3
支持梁
球座
1800
(b)
試験体No.2(床版2枚組)
図-4(a),(b) 面内せん断実験の概要(寸法:mm)
30
25
解析(Case-1) 20
SP 15
10
5
0
-20
-10 -5 0
-10
-15
CF
-20
解析(Case-2)
CC
10
SP
20
実験
30
40
試験体No.1
部材変形角:R(×10-3rad)
80
SY
18.5kN
SY
水平荷重:Q(kN)
ついて,対応する荷重・部材角を表-3(a),(b)に示す.図-6,
7(a),(b)には,加力梁の面内回転角-水平変位関係,及び
試験体
下面鋼板
ひずみゲージ
PC鋼棒φ26
水平荷重:Q(kN)
試験体No.1,2の水平荷重(Q )-部材角(R )関係を
図-5(a),(b)に,また同図中に記した主な発生現象(SP:鋼
板の剥離,SY:鋼板の降伏,CC:ALCの縦ひび割れ,
CF:ALCの圧壊,GD:ALCパネル間の目地のずれ)に
タイロッド
:PC鋼棒φ17
1210
CC
51.7kN
60
GD
40
20
0
-10
-5
-20
-40
GD
-60
0
5
10
15
試験体No.2
部材変形角:R(×10-3rad)
図-5(a),(b) 水平荷重(Q)-部材角(R)関係(No.1, 2)
表-3(a) 発生現象と荷重,変形角(試験体No.1)
最大耐力
鋼板剥離(SP)
鋼板降伏(SY)※
ALC縦ひび割れ(CC)
ALC圧壊(CF)
目地ずれ(GD)
加力サイ
クル
4
1
2
3
-3
Q (kN)
18.0
10.0
11.0
16.0
-16.0
-
R
(×10-3rad.)
23.6
3.4
5.0
12.0
-13.0
最大耐力
鋼板剥離(SP)
鋼板降伏(SY) ※
ALC縦ひび割れ(CC)
ALC圧壊(CF)
目地ずれ(GD)
加力サイ
クル
4
2
2
3
-3
Q (kN)
51.7
32.0
39.0
45.0
-
-39.0
加力梁 変形角:R(×10-3rad)
10
5
0
-50 -40 -30 -20 -10-5 0
実験
10
20
-15
40
50
試験体No.1
図-6 加力梁回転角-水平変位関係(No.1)
25
試験体No.1
20
ゲージ1
15
10
5
0
-5 0
50 100 150 200 250 300 350 400 450 500
-10
203 N/mm2
-20
ゲージ2
下面鋼板相当応力(N/mm2)
80
試験体No.2
ゲージ1
60
R
(×10-3rad.)
9.7
1.8
2.3
3.6
30
-10
-15
表-3(b) 発生現象と荷重,変形角(試験体No.2)
発生現象
解析(Case-1)
15
-20
加力梁 水平変位(mm)
水平荷重:Q(kN)
発生現象
20
水平荷重:Q(kN)
一方,試験体No.2についても同様の挙動を示しており,
鋼板の剥離が本サンドイッチ床版における破壊の起点と
なることが明らかとなった.その後,鋼板の降伏と続い
て圧縮側ALCの縦ひび割れによる全体剛性の低下が見ら
れる.ただし,各荷重レベルは試験体No.1に対して大き
く増大しており,鋼板剥離時で3.2倍,ALC縦ひび割れ
時で2.8倍程度となっている.最終破壊は,2枚の床版間
の目地のずれによって生じており,耐力の最大値はNo.1
に対して2.9倍程度である.
加力終了後,鋼板の剥離面を見たところ,ALC表層が
鋼板に付着していたことから,接着剤自身や接着界面で
はなく,ALC表層のせん断破壊によって鋼板が剥離した
ものと理解できる.また,下面鋼板や鋼製梁との焼抜き
栓溶接部の破断は見られなかった.
40
20
0
-20
-40
0
50 100 150 200 250 300 350 400 450 500
ゲージ4
-60
203 N/mm2
下面鋼板相当応力(N/mm2)
図-7(a),(b) 水平荷重-鋼板の相当応力関係(No.1, 2)
-3.2
鋼板降伏は,3軸ひずみゲージから算出した相当応力
(σ0)が降伏強度(σy=203N/mm2)を超えた時.
※
4. 実験モデルの弾塑性有限要素解析
ALCの
付着
下面鋼板
の剥離
前章の面内せん断実験では,試験体上部の加力梁に面
内回転が生じる結果となったが,ビル建築物の地震時の
振動は各構面間の並進的な運動が支配的であり,梁部材
間に設置された床版の端部回転成分は概ね拘束されるも
のと考えられる.従って,本章では床版端部の面内回転
成分を拘束した場合を含めて実験モデルの弾塑性有限要
素(FEM)解析を行い,より実情に近いと考えられる条件
での床版の剛性,及び耐力を評価する.
(1) 解析モデルと解析条件
解析モデルを図-8(a)に示す.同モデルは,3章におけ
る試験体No.1,及び試験装置をほぼ忠実に再現したもの
382
終局時
変形
鋼板の
剥離
下部ALCの圧壊
写真-1(a),(b),(c) 実験後の状況(試験体 No.1)
下面鋼板
の剥離
下面鋼板
の剥離
終局時
変形
下部ALCのひび割れ
写真-2(a),(b),(c) 実験後の状況(試験体No.2)
である.また図-8 (b)中に示す通り,鋼製梁と下面鋼板と
の接合は円形状の焼抜き栓溶接部をモデル化し,同円周
部分の節点を鋼製梁と鋼板で共有した.後打ちモルタル
と鋼製梁間については,接触条件を定義している.
試験体の境界条件は,実験条件に対応する場合として,
試験体下部の支持梁は完全拘束,上部の加力梁は面外方
向の変位(z軸方向変位とy軸周りの回転)を拘束し,実
験結果との整合性と解析手法の妥当性を検証する(以下
Case-1).一方,前述の通り,実際のビル建築物での使
用状況を想定し,Case-1の条件に加え加力梁の面内回転
成分(z軸周りの回転)も拘束したケース(以下Case-2)
についても解析を行った.
加力については一方向の単調載荷とし,加力梁の端部
節点に水平強制変位を与えて解析を行った.また,ALC,
及び後打ちグラウト部はWinfrithコンクリートモデル11)を,
鋼板は別途行った引張試験の応力-ひずみ関係を模擬し
た多直線モデルをそれぞれ用いた.また鋼板の剥離を考
慮するため,鋼板と接するALC要素をその主ひずみが
3%を超えた時点で削除した.なお,解析には汎用有限
強制変位
加力梁(剛体)
Case-1 拘束条件
Z 方向並進
加力梁(剛体)
Y 軸周り回転
Case-2 拘束条件
Z 方向並進
Y,Z 軸周り回転
加力ローラー
X 方向並進拘束
PC 鋼棒
支持ローラー
変位拘束
y
(z)
x
支持梁(剛体)
変位拘束
図-8(a) 解析モデルの概要
(焼き抜き栓溶接部)
円周部節点拘束
円周部節点拘束
要素解析ソフトLS-DYNAを用いた.
(2) 解析結果と考察
既出の図5(a)中に試験体No.1の水平荷重(Q )-部材
角(R )関係,同じく図6中に加力梁の面内回転角-水
平変位関係の各解析結果を実験結果と共に示す.また,
解析結果の一覧を表4に示す.
Case-1では,荷重9.1kNで鋼板の剥離が生じる.その
後鋼板の剥離が進展しつつ,荷重17.5kNで圧縮側鋼板
の座屈が生じて耐力が減少するが,その後ALCの負担
せん断力が増大することにより再び上昇し,17.3kNで
発散して数値解析は終了した.初期剛性は実験結果より
やや大きいが概ね一致していることが分かる.また鋼板
の剥離荷重については,要素の削除判定を主ひずみ3%
とすることで実験を再現することが確認できた.また最
大耐力の値は概ね一致しているものの,Case-1では圧縮
側鋼板の座屈により最大耐力が決まっている.
一方,加力梁の面内回転成分を拘束したCase-2では,
Case-1に対して初期剛性で約4.3倍,鋼板剥離,及び最
大荷重では約1.7倍となっており,端部拘束された場合
の剛性,耐力は共に大幅に増加することが確認された.
5. 床版の必要面内せん断特性と鋼・ALCサンドイ
ッチ床版の適用性
3章の実験,及び4章の解析的検討より,鋼・ALCサ
ンドイッチ床版の面内せん断に関する基本特性を把握す
ることができた.本章では,本サンドイッチ床版の実建
383
接触条件
(後打ちモルタルと鋼製梁間)
接触条件
図-8(b) 試験体端部のモデル化
表-4 解析結果一覧
実験(3章)
Case-1
Case-2
初期剛性
(kN/mm)
1.3
1.5
6.4
鋼板剥離
荷重 (kN)
10.0
9.1
16.7
最大荷重
(kN)
18.5
17.5
29.4
築構造物への適用可能性について考察を行う.
(1) 面内のせん断剛性と耐力に関する必要性能
a) 検討用の鉄骨架構モデル
床版部材に求められる面内せん断性能は,建物の平面
形状,スパン,階数,あるいは耐震要素の配置や床抜け
等の種々の条件に大きく依存するため,床版単独の構造
性能だけではなく,建物全体の架構条件を加味した検討
が必要である.一方で,剛床仮定を満足するための面内
せん断剛性8)や,設計荷重となる最大せん断力9)の算定方
法についての研究例は少なく,設計法が体系的に確立さ
れている状況とは言えない.
従って,本報では鋼・ALCサンドイッチ床版の基本的
な適用可能性を判断する観点から,小規模で整形な架構
モデルとして,文献8)における2層2スパンの鉄骨架構を
検討モデルとして用いることとした.
図-9(a)に架構モデルを示す.同モデルは,スパン
(9,000mm),階高(5,000mm)の鉄骨ラーメン架構で
あり,構成部材はSS400クラスの鋼材の柱(□-400×
16),梁(H-600×200×11×17),及び小梁(H-488×
300×11×18)である.また,鋼・ALCサンドイッチ床
RF
2F
版部材は幅(600mm),長さ(3,000mm)として,図9(b)に示すように小梁,及び大梁間に配置する.
k*
(1)
≥4
k
ここに,k*:構面間の床版面内せん断剛性,k:剛床
仮定時における当該床版直下の1構面層剛性である.同
文献の検討結果より,k*/k=4の時のk*(≡kn*)は2階で
98.1,R階で58.8(単位:kN / mm)であり,本報ではこれ
を必要面内せん断剛性とする.
c) 必要面内せん断強度(Qn*)
文献8)の検討では,層間変形角が1/100の時の1構面間
当たりに作用する最大面内せん断力として,積載荷重が
偏在するケースで約145kNの結果を得ている.これは,
本モデルの床版1枚当たり(600mm幅)に換算すると,
4.9kNの面内せん断力となる.
一方,簡便な評価方法10)として水平震度(0.4),また
床版に作用する水平力は構面間で1/2づつ負担すると仮
定し,床版1枚当たりに作用する面内せん断力(Q*)を
求めると,
Q*=0.4×3.0×0.6×9.0/2=3.2(kN)
本床版の軽量性を考えると,文献8)とのオーダー関係
は妥当であると考えられる.従って,ここでは荷重偏在
の影響等も考慮して床版1枚当たりの必要面内せん断強
度(Qn*)を4.9kNと設定する.
(2) 鋼・ALCサンドイッチ床版の適用性
前節(1)で求めた必要面内せん断剛性(kn*),及び同強
度(Qn*)に対して,鋼・ALCサンドイッチ床版の性能
を比較しその適用性を考察する.
1構面間当たりの初期面内せん断剛性と必要面内せん
断剛性を表-5(a)に示す.なお,実験(解析)モデルの支
持スパンは2,400mm(鋼製スタブの外縁間距離)に対し
架構モデルでは3,000mmであるため,床版1枚当たりの
384
1F
水平力の
作用方向
図-9(a) 鉄骨架構モデル
床版 30枚
水平力の
作用方向
3,000
600
9,000
設計荷重としては床版自重(1,200N/m2)に加え,地
震時の積載荷重(800N/m2),及び小梁や天井仕上げ材
等の荷重(1,000N/m2)の計(3,000N/m2)を想定する.
また,面内せん断力については図-9(b)の通り,床版の短
辺方向に作用する場合について考察を行う.
b) 必要面内せん断剛性(kn*)
文献8)では,図-9(a)モデルの剛床仮定が成立する条
件として,弾塑性増分解析と地震応答解析によるパラメ
トリックスタディから次式の結果を示している.
5,000 5,000
小梁
9,000
9,000
図-9(b) 床版の配置図
面内剛性(ki*)を(2)式のように曲げ剛性(kbi*)とせん断
剛性(ksi*)に分離し,それぞれ支持スパン(L)の変化
に対して補正を行った.
⎛ 1
1 ⎞
ki* = ⎜⎜ * + * ⎟⎟
k
k
Si ⎠
⎝ bi
−1
(2)
kbi* =
12 EI
L3
(3)
k Si* =
GA
κL
(4)
ここに,E I=床版の等価面内曲げ剛性,G A=床版の
等価せん断剛性,L=床版の支持スパン,κ=形状係数
(1.2)である.本ケースで(L)が3,000 /2,400=1.25倍と
なる場合,(3)式の曲げ剛性は0.51倍,(4)式のせん断剛性
が0.80倍, (2)式の全体剛性では0.54倍となる.
また,図-9(b)の床版配置の場合,構面間当たりの面内
剛性(k*)は,床版1枚当たりの面内剛性(ki*)を用いて
次式で計算できる.
⎧ ⎛ 1 ⎞⎫
⎟
k = ⎨3 × ⎜⎜
* ⎟⎬
⎩ ⎝ 30 ⋅ ki ⎠ ⎭
*
−1
= 10 ki*
(5)
表-5(a)の結果より,前章のFEM解析による面内せん断
剛性は,(2)~(4)式に基づいた計算と比較して半分程度
と小さいが,これは床版端部の後打ちモルタル部の有無
や実際の支持スパン等の相違による影響と考えられる.
いずれにしても,現条件下では(1)式の判定条件を満た
すことはできないが,文献8)の検討結果ではk*/k=2以
上であれば架構への影響は比較的小さいことから,支持
スパンの縮小や鋼板の厚さ増し等により,適用可能な範
囲になると考えられる.
一方,床版の面内強度として,最初に鋼板剥離を生じ
る時の荷重,及び必要面内せん断強度を表-5(b)に示す.
床版の面内強度は,実験からも明らかのように床版枚数
が増えるに従って増加すると考えられるが,ここでは安
全側の評価として隣接床版間の一体性の効果は無視し,
1枚当たりでの比較を行う.
表-5(a) 面内せん断剛性の比較(kN/mm)
(2)~(4)式計算値 k*,( ): k*/kn*
Case-1(回転自由)
Case-2(回転固定)
必要剛性 kn*
2F
RF
-
56.6 (0.58)2F, (0.96)RF
FEM解析値 k*,( ): k*/kn*
Case-1(回転自由)
8.1 (0.08)2F, (0.14)RF
Case-2(回転固定)
34.8 (0.35)2F, (0.59)RF
98.1
58.8
表-5(b) 面内せん断強度の比較(kN/600mm)
床版
境界条件
Case-1(回転自由)
Case-2(回転固定)
FEM解析値 Q*
(
): Q*/Qn*
9.1 (1.86)
16.7 (3.41)
必要強度 Qn*
4.9
表-5(b)より,床版1枚単独で考えても耐力的には十分
であることが知れる.なお,文献8)に基づく(Qn*)は剛
床仮定のものであるが,本サンドイッチ床版のように面
けて実施した.また,試験体の製作と加力実験において
内せん断剛性が小さく,端部固定度も完全ではない場合,
は,クリオン(株),コニシ(株),並びに(財)日本
床版応力はさらに緩和されるものと考えられる.
建築総合試験所の関係各位に多大なご協力をいただいた.
記して深甚なる謝意を表します.
6. まとめ
参考文献
本報では,これまでに提案した鋼・ALCサンドイッチ
1) 岡日出夫,山田聖志,五十嵐信哉,水島靖典:ALC パネル
床版について,基本的な面内せん断特性を把握するため
を芯材とする鋼板接着サンドイッチ床版の剛性と耐力,日
実験的,並びに解析的検討を行った.また,鉄骨造の架
本建築学会構造系論文集,第 76 巻,第 660 号,pp.427-435,
2011.2
構モデルを想定し,同床版の適用可能性について考察を
2) 日本鋼構造協会:鋼構造建築物の床構工法,テクニカルレポ
行った.得られた主な知見を以下に記す.
ート No.87,pp.2-3,2009.9
(1)実験では床版端部(上部)に面内回転が生じたため, 3) 日本建築学会:各種合成構造設計指針・同解説,第 2 編 デ
床版の面内剛性は低い結果となった.破壊については,
ッキ合成スラブ構造設計指針・解説,pp.162 –166,2010.11
4) ALC 研究会研究報告書,pp.338 -350,1965
最初に鋼板の剥離が発生し,その後,鋼板の降伏,続い
5) 坂本功,大橋好光,渡辺拓文,横家尚:ALC パネルを用い
てALCの破壊が生じることが明らかとなった.接合部に
た木造軸組床の面内剛性に関する実験的研究(その1),
おける鋼板の破断等は見られなかった.
(その2),日本建築学会大会学術講演梗概集(関東),
(2)実験と有限要素解析はよく整合することを確認した.
構造Ⅱ,pp.51-54,1988.10
6) ALC 協会(監修 独立行政法人建築研究所):ALC パネル構
造設計指針・同解説,2004
7) 水島靖典,岡日出夫,菅田昌宏,山田聖志,五十嵐信哉,足
立将人:軽量材料をコア材とするサンドイッチ構造床版,
(その7)鋼/ALC パネルの面内せん断特性,日本建築学
会大会学術講演梗概集(関東),構造Ⅲ,pp.1127-1128,
の仕様では剛床仮定の成立条件を満たすことはできない.
2011.8
ただし,支持スパンの縮小,鋼板厚さの増加等で実建物
8) 西村拓也,坂本真一,立石寧俊,椚 隆:脱着可能なフル・
に適用可能な範囲に入ると考えられる.
プレキャストスラブを適用した鉄骨架構の構造性能,日本
(4)面内せん断耐力については,想定作用せん断力に対
建築学会構造系論文集,第 602号,pp.233-241,2006.4
9) 聲高裕治,中村敦夫,井上一朗,内田直樹:1層鋼構造骨組
して十分な性能を有している.
の床スラブに作用する最大面内せん断力,日本建築学会構
今後の課題として,面内せん断力の伝達性能を高める
造系論文集,第 653号,pp.1377-1384,2010.7
ための工夫と共に,施工性向上の観点から,接合ディテ
10) JFE 建材株式会社:QL デッキ設計マニュアル,pp.21-24,
ールの簡略化,後打ちグラウトの局所化等についても検
2005.5
11) Broadhouse, B.J. and Neilson, A.J.:Modelling Reinforced Concrete
討を行う必要があると考える.
Structures in DYNA3D, Safety and Engineering Division, United
Kingdom Atomic Energy Authority, Winfrith, AEEW-M 2465, 1987
また,同解析モデルを用いて,より実状に近いと考えら
れる床版端部の面内回転成分を拘束した場合について,
床版の剛性と耐力を評価した.
(3)鋼・ALCサンドイッチ床版の面内せん断剛性は,本報
謝辞:本報の実験は,平成22年度住宅・建築関連先導技
術開発助成事業として国土交通省より補助金の交付を受
385
IN-PLANE SHEAR PROPERTIES OF SANDWICH SLABS
CONSISTING OF AN ALC CORE ADHESIVELY BONDED WITH STEEL SKINS
Hideo OKA, Yasunori MIZUSHIMA, Masahiro SUGATA,
Shinya IGARASHI and Seishi YAMADA
To reduce the weight of buildings, the lightweight sandwich slabs consisting of an ALC (autoclaved
lightweight aerated concrete) core adhesively bonded with steel skins have been studied. In general, the
ALC slabs are designed free from the in-plane shear forces induced by wind or earthquake loads. On the
other hand, these steel/ALC sandwich slabs can be considered to transmit the in-plane shear forces by the
steel skin reinforcements. In this paper, in order to grasp the fundamental structural behaviors under inplane shear force, the in-plane shear loading tests and the elasto-plastic finite element analyses for the
experimental models are carried out. Based on these results, the in-plane shear properties of steel/ALC
sandwich slabs are discussed against the nessesary in-plane stiffness and strength in the standard steel
frame building model.
386
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