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動衛研NIAH NEWS - 農研機構
No.50 2013.5.31 ISSN 1346-4787 NIAH NEWS 動衛研ニュース 2013.5.31 No. 50 特集 旧東北支所の業績 2 巻頭言 就任挨拶 3 特集 旧東北支所の業績 8 研究情報 PCR 法および遺伝子解析によるトリアデノウイルスの同定・型別法と 鶏封入体肝炎発生例への応用 10 研究情報 野生オシドリから分離された高病原性鳥インフルエンザウイルスの 鶏に対する病原性と伝播性 12 海外出張報告 International Meeting on Emerging Diseases and Surveillance (IMED 2013) 出席 14 11th International Symposium on Double Stranded RNA Viruses 出席 15 行事予定 16 会議報告 平成 24 年度動物衛生試験研究推進会議の概要 17 各種講習会等 18 研究業務の紹介 「One Flu, One Health, One World」 動物衛生研究所 巻 頭言 就任挨拶 TSUDA Tomoyuki 津 田 知 幸 農研機構 動物衛生研究所 所長 4 月 1 日付で動物衛生研究所長を拝命いた め、専門研究分野や研究対象ごとに研究領域とセン しました。独立行政法人として、さまざ ターを組織しております。 まな変革が求められているこの時期に、 動物衛生研究所では本年 3 月末日をもち、青森県 その責務の重大さを痛感しております。 七戸町にあった東北支所を廃止し、つくばに統合す 動物衛生研究所は、 「生命あるものを衛る」をモッ ることといたしました。昭和 5 年(1930 年)の設 トーに動物の疾病の予防、診断及び治療に関する基 置以来 83 年間の長きにわたり、馬パラチフスや放 礎研究から応用にわたる幅広い研究を行っていま 牧病研究などに加えて、東北地域に対しても多くの す。農業・食品産業技術総合研究機構の第 3 期中期 貢献をして参りましたが、その機能は今後つくばで 計画(平成 23 ~ 27 年)では「家畜重要疾病、人獣 引き継ぐことになります。青森県や七戸町をはじめ 共通感染症等の防除のための技術の開発」という大 東北各県の関係者の皆様にはこれまで大変お世話に 課題のもとに、重要な問題解決に向けて 12 の中課 なりましたことを、この場を借りて御礼申し上げま 題を設定して研究を実施しています。口蹄疫等の国 す。 際重要伝染病の侵入防止技術、ヨーネ病等の家畜重 また、4 月からはウイルス・疫学研究領域のイン 要感染症の高精度診断技術、鳥インフルエンザや フルエンザ研究部門を動物衛生高度実験施設に移 BSE 等の人獣共通感染症の高感度診断技術等はい し、プリオン病研究と併せてインフルエンザ・プリ ずれも疾病防除にとって不可欠な技術です。また、 オン病研究センターとしてスタートいたしました。 牛乳房炎研究やアルボウイルス病の研究など、現場 バイオセーフティ関連の体制整備と併せて研究の効 に直結した研究に加えて、新たなワクチン素材の開 率化と安全確保を図っていくことにしております。 発や病態研究、効果的な防疫戦略を策定するための 明治 24 年(1891 年)に農商務省仮農事試験場に 疫学研究、飼養環境における有害要因の低減技術開 設置された獣疫研究室を前身として、獣疫調査所、 発、家畜飼養衛生管理システムの開発にも取り組ん 農林水産省家畜衛生試験場と組織形態は変遷してお でいます。これらの研究課題は、すぐに現場で成果 りますが、動物衛生研究所となった現在でも社会か を必要とされるものから、数年あるいは十年単位で ら要請される役割と使命は変わることはないと思い の先を見据えた研究まで様々ですが、いずれにおい ます。国内外の動物衛生をめぐる情勢は大きく変化 ても限られた資源で最大の努力を払わなければなり し、周辺諸国では新興・再興感染症をはじめとする ません。 新たな疾病の発生も相次いでいます。動物衛生研究 動物衛生研究所は、動物疾病の専門研究機関とし 所は歴史と伝統を受け継ぎながら、あらゆる状況に て、家畜伝染病等の確定検査を行うほか、診断液を も対応できるように、常に高い志を持ち未来に向 はじめとする動物用生物学的製剤の製造と配布や、 かってさらに挑戦し続けますので、御支援をよろし 国内外の獣医技術者に対する講習や研修の事業も国 くお願いいたします。 まも に代わって行っています。これらの要請に応えるた 2 2013.5.31 No.50 旧東北支所の業績 平成 25 年 3 月、動物衛生研究所東北支所が閉所となりました。東北支所は昭和 5 年に農林 省獣疫調査所七戸支所として開設されて以来、今日まで 83 年間にわたり、わが国の動物衛生、 家畜防疫史にその名を刻んでおります。当初は馬産地の衛生問題を解決するために設置されま したが、近年では時代の要請を踏まえ、東北の山間公共牧野を利用した夏山冬里方式の肉用牛 生産を支える放牧衛生研究、輸入飼料を基盤とする施設型畜産における生産性阻害要因の排除 を目指した慢性複合感染症研究などに取り組んでまいりました。 これまで東北支所を支えていただいた青森県七戸町の皆様、青森県をはじめとする東北各県 の関係者に心より感謝しつつ、今後の動物衛生研究所の業務推進に対してこれまでと変わらぬ ご支援を賜りますようよろしくお願いいたします(なお、執筆にあたり当所刊行物「東北支場 66 年のあゆみ」1996.9、 「東北支所 83 年のあゆみ」2013.3 を参考にさせていただきました) 。 企画管理部情報広報課 植田 知明 瓦屋根の頃 3 動 衛 研ニ ュ ー ス 昭和 5 年(1930)から昭和 40 年(1965) 大正末期から昭和初頭にかけて東北地域で馬伝染性流 2.リステリア症に関する研究 産(馬パラチフス)が猛威をふるい、甚大な被害が出ま わが国で初めて脳炎病状を呈した 2 頭の山羊からグラ した。馬産の中心であった青森県七戸町からその防除の ム陽性の小桿菌を分離し、Listeria monocytogenes と同定 研究をするよう熱心な要請を受けて獣疫調査所七戸支所 しました。また、山羊のリステリア症感染機序として、 が設置されました。昭和 22 年(1947)には家畜衛生試 リステリア菌が口腔粘膜の微細な傷から侵入して三叉神 験場東北支場に改称しました。 経線維を経て脳幹に達することを立証しました。 1.家畜・家禽のサルモネラ症に関する研究 3.その他 ① 馬伝染性流産(馬パラチフス)に関する研究 ① 骨軟症に関する研究 ・予防液の試作、免疫血清作製およびその無償配布によ 骨軟症を早期に診断できる骨硬度計を考案し、これ り、東北・北海道で流産の 60%を占めた本病を 2%足 を用いて前頭骨の硬度が歯槽部の状況に反映し、咀嚼 らずまで減少させました。 異常が臨床的に早期に現れることを裏付けました。ま ・馬流産菌の性状、発生実態調査、診断法、流産の発 た、高リン酸飼料により、実験的に骨軟症が再現される 生機序、ワクチンの改良等の研究を精力的に実施し ことを明らかにし、骨軟症予防に大きく貢献しました。 ました。 ② 馬の伝染性貧血に関する研究 ② その他のサルモネラ症に関する研究 伝染性貧血馬の血清中の催貧血物質(後にウイルス 養鶏の発展に伴い、鶏のサルモネラ症研究も実施し と判明)について、病的経過との関係、馬体に及ぼす ました。 影響、尿への移行等について明らかにしました。 庁舎風景(撮影年不明) 4 2013.5.31 No.50 昭和 40 年(1965)から平成 8 年(1996) 東北地域は地形的に山林・原野が多く飼料資源に恵ま 4.放牧育成牛における繁殖障害の原因解明と対策の確立 れていることから、放牧を活用した畜産物の低コスト・ 受胎障害の原因解明、繁殖障害防除対策の確立、受胎 安定的生産が可能な地域として大々的な開発が進められ 成績の向上に取り組みました。 てきました。しかし、小型ピロプラズマ病を中心とする 病牛や死廃牛の多発、増体量や受胎率の低迷等が起こる 5.グラム陰性細菌感染症の病理学的研究 放牧地が多く、小型ピロプラズマ病対策、その他の放牧 牛の肝膿瘍、血栓栓塞性髄膜脳炎、豚の内毒素血症等 関連発病要因の解明、繁殖成績の向上など、放牧牛の衛 をモデルに内毒素が引き起こす病変の多様性を解明しま 生管理技術の確立が望まれました。 した。 1.小型ピロプラズマ病対策 6.馬の Rhodococcus equi 感染症に関する研究 薬剤投与試験、放牧牛に対する輸血の効果、小型ピロ わが国で初めて Corynebacterium(Rhodococcus)equi に プラズマ病による貧血の病態生理等について研究を進め よる子馬の肺膿瘍の発生を報告するとともに、分離菌株 ました。 は、モルモット、マウスに対して起病性はないが、子馬 に接種すると自然例と同様の病変が再現されることを確 2.放牧時の疾病発生要因の検討 認しました。その後本菌の性状の解明や本菌感染症の早 放牧牛の行動パターン、行動の異常と原因、群内順位 期診断法の開発、本菌感染症の病理発生等に関わる基礎 と病牛発生との関連性、庇陰林の局地気象と利用性、庇 的な研究を実施しました。 陰舎の利用性と発病率について研究を進めました。 7.鹿飼養における損耗防止技術の開発に関する試験研究 3.放牧牛に見られたグラステタニーの発生とその対策 東北地方に生息する日本鹿の疾病実態の調査、人獣共 昭和 48 年に青森県の放牧場で発生した牛の起立不能 通感染症の病原体に対する日本鹿の感受性およびそれら 等を呈する症例をグラステタニーと診断し、25%の硫酸 の病原体の存続における野生鹿の役割の解明に関する研 マグネシウム液 100ml を注射することで、発症の拡大 究を実施しました。 を阻止できることをつきとめました。また、放牧後は約 1 ないし 2 カ月の間、2 - 3 週間隔で硫酸マグネシウム液 8.牛の生殖関連細胞のウイルス感受性に関する研究 100ml を注射することで、ほぼ完全に予防できることを 牛におけるウイルスの垂直感染機序について、牛受精 明らかにしました。 卵の発生過程におけるウイルスの影響、牛ウイルス性下 痢・粘膜病ウイルス(BVD-MDV)の初期胚の発生に及 ぼす影響、BVD-MDV 持続感染牛の垂 直感染に関する研究等を実施しました。 9.各種環境、管理ストレスが家畜の 生体機能に及ぼす影響 エンドトキシン(LPS)負荷や分娩 および寒冷ストレスが家畜の抗病性に 及ぼす影響、飼養管理上のストレス要 因が牛の代謝および免疫機能に及ぼす 影響について研究しました。 トタン屋根の頃 5 動 衛 研ニ ュ ー ス 平成 8 年(1996)から平成 25 年(2013)まで 3.病理分野 平成 8 年以降は放牧病および寒冷地施設型畜産に関わ る動物の環境・常在性疾病を中心に研究を進めてきまし ① 牛のネオスポラ症に関する研究 た。主な研究課題は以下の通りです。 ② 鹿飼養における損耗防止技術の開発に関する試験 研究 1.細菌分野 ③ 豚離乳後発育不良症候群(PMWS)に関する研究 ① ヒストフィルス・ソムニの菌体表面タンパク質に ④ 豚増殖性腸炎に関する研究 関する研究 4.生化学分野 ② デルマトフィルス菌の遊走子鞭毛の性状に関する 研究 環境要因が家畜の呼吸器免疫能に与える影響について ③ リステリア属菌の共同溶血反応に関する研究 の研究 ④ マンヘミア・ヘモリティカの薬剤耐性などに関す ① アンモニアが肺の免疫機能に与える影響 る研究 ② 放牧牛の血中微量栄養素が免疫能に与える影響 ⑤ 牛乳房炎原因菌の迅速・簡便検出法に関する研究 5.放牧衛生・寄生虫分野 2.ウイルス分野 ① 放牧場における衛生実態および小型ピロプラズマ ① 豚サーコウイルス関連疾病(PCVAD)に関する 病発生実態に関する調査研究 研究 ② 牛の寄生虫感染症の動態およびサイトカインによ ② 牛におけるロタウイルス病に関する研究 る予防技術の開発 ③ 豚 E 型肝炎に関する研究 ③ 小型ピ口プラズマ病を中心とした放牧衛生対策技 ④ 牛ウイルス性下痢・粘膜病ウイルス(BVD-MDV) 術の開発 感染に関する研究 ④ 地方病性牛白血病と吸血昆虫の関係の解明 ⑤ 初乳由来物質による抗ウイルス活性に関する研究 ⑤ 近赤外分光法を利用した放牧牛の貧血検査法の開 ⑥ 呼吸器系牛ウイルス感染症に関する研究 発 ⑥ 家畜の消化管寄生原虫に関する研究 雪に覆われた庁舎 ツツジ咲く頃の庁舎内 6 2013.5.31 No.50 東北支所の沿革 昭和 5 年(1930 年) 1 月 青森県上北郡七戸町字海内 31 に獣疫調査所七戸支所設置。 昭和 22 年(1947 年) 5 月 家畜衛生試験場東北支場に改称。 昭和 58 年(1983 年) 4 月 研究室が増設され、第 1 研究室、第 2 研究室となる。 平成 8 年(1996 年)10 月 東北支場は廃止されて七戸研究施設となる。放牧病研究官を施設の長とし、第 1 研究室、 第 2 研究室はそれぞれ総合診断研究部放牧病研究室、環境衛生研究室となる。 平成 13 年(2001 年) 4 月 独立行政法人農業技術研究機構動物衛生研究所七戸研究施設となり、放牧病研究官が廃 止され七戸研究施設長を設置。 平成 16 年(2004 年)10 月 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構動物衛生研究所七戸研究施設となる。 平成 18 年(2006 年) 4 月 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所東北支所に改組、支所の 長として研究管理監(東北担当)を設置。 研究部、研究室制が廃止され研究チーム制となったことにより、環境・常在疾病研究チー ム(東北支所)となる。 平成 20 年(2008 年) 4 月 研究管理監(東北担当)が廃止され、支所の長として動物衛生研究調整監を設置。 平成 23 年(2011 年) 4 月 研究チーム制から研究領域制となったことにより、ウイルス・疫学研究領域(東北)と なる。 平成 25 年(2013 年) 3 月 東北支所閉所。その研究機能はつくば本所に移転・統合。 東北家畜衛生協議会検討会 病理標本検討会 7 動 衛 研ニ ュ ー ス 研 究情報 PCR 法および遺伝子解析によるトリアデノウイルスの 同定・型別法と鶏封入体肝炎発生例への応用 MASE Masaji 真 瀬 昌 司 ウイルス・疫学研究領域 主任研究員 トリアデノウイルスは常在性ウイルスの一つとして 施できる簡便なウイルスの同定・型別法の確立が望ま 認識されており、不顕性感染が多いものの、しばしば れてきました。 産卵低下、増体重抑制あるいは呼吸器症状の一因とし て考えられてきました。しかし、最近では筋胃びらん そこで、PCR 法を使用した簡便な方法による鳥類 や封入体肝炎などの原因ウイルスとしても知られるよ から分離されるアデノウイルス型別法の確立を試みま うになってきています。また、中には心膜水腫症候群 した。遺伝子データベースには Group ⅠからⅢまで のように高い病原性を有するウイルス株の存在も認め の AAV の遺伝子情報がすでに登録されています。こ られてきています。 れらのウイルス遺伝子情報を基に、鳥類から分離され る 3 種類のトリアデノウイルス全てを検出でき、また トリアデノウイルスには鶏に筋胃びらんや封入体 型別もできるように、ウイルス Hexon 遺伝子の超可 肝炎、心膜水腫症候群を引き起こす Aviadenovirus 変領域を含む部位を増幅できるよう、PCR プライマー (Group Ⅰ avian adenovirus:AAV)、七面鳥に出血 (HexF1:5'-GAY RGY HGG RTN BTG GAY ATG GG- 性腸炎を引き起こす Siadenovirus(Group Ⅱ AAV)、 3’、HexR1:5'-TAC TTA TCN ACR GCY TGR TTC 鶏 に 産 卵 低 下 症 候 群 を 引 き 起 こ す Atadenovirus CA-3’)を設計しました。 (Group Ⅲ AAV)の 3 種類が知られています。さら に現在 Group Ⅰ AAV は 11 種類の血清型に分類され 設計した PCR プライマーを用いて当研究所で保有 ています。トリアデノウイルスの分離には、初代鶏腎 している各グループの代表株について PCR を行った 培養細胞や SPF 発育鶏卵等を使用しなければなりま ところ、全てで約 800bp の明瞭な PCR 産物が確認さ せん。またその血清型別には多くの種類の抗血清を用 れました(図 1)。得られた PCR 産物をダイレクトシー いなければならないことから、実施できるのは抗血清 クエンス法によって塩基配列を決定し、NJ 法による のパネルを常備している専門機関に限られていまし 分子系統樹解析を実施すると、各代表株は血清型に対 た。このような背景があったため、実際の疾病診断を 応したグループに分類することができました(図 2)。 行う都道府県家畜保健衛生所等においては、容易に実 図 1. トリアデノウイルス代表株から得た PCR 産物の電気泳動像 Lane M: 分子量マーカー φ X174-Hae Ⅲ digest、Lane 1: Ote(Group Ⅰ 血清型 1)、Lane 2: SR-48 (Group Ⅰ 血清型 2)、Lane 3: SR-49(Group Ⅰ 血清型 3)、Lane 4: KR-5(Group Ⅰ 血清型 4)、Lane 5: TR-22(Group Ⅰ 血清型 5)、Lane 6: CR-119(Group Ⅰ 血清型 6)、Lane 7: YR-36(Group Ⅰ 血清 型 7)、Lane 8: TR-59(Group Ⅰ 血清型 8a)、Lane 9: UA-TF(Group Ⅱ)、Lane 10: Reed(Group Ⅱ)、 Lane 11: BC-14(Group Ⅲ)、Lane 12: JPA-1/79(Group Ⅲ) 8 2013.5.31 No.50 図 2. 2009-10 年に流行した封入体肝炎由来ウイルス(イタリック体で表示)を含む Group Ⅰ トリアデノウイルスの分子系統樹 株名の後の括弧内の数字は血清型を示す。 そこで、2009 年から 2010 年にかけて全国で発生し 本法については、すでにプライマー情報と反応条件 た鶏封入体肝炎例から分離されたウイルスについて本 を各都道府県や動物検疫所の病性鑑定担当部署に提供 法を検証しました。全症例から分離されたウイルスは しており、鶏封入体肝炎や鶏筋胃びらんの検査にも利 すべて Group Ⅰ AAV 血清型 2 のグループに分類さ 用されています。また現在改訂中の病性鑑定指針(農 れ、この結果は初代鶏腎培養細胞を用いた中和試験の 林水産省 消費・安全局)にも掲載が予定されていま 結果とも一致していたことから、本法は中和試験と同 すので、今後も活用されていくことが期待されます。 様の成績を得られることが示されました。さらに得ら れた PCR 産物の塩基配列を決定したところ、2010 年 掲載誌 発生例由来ウイルスはほぼ同一であったことから、こ 1) Mase M. et al., J. Vet. Med. Sci. 71(9), 2009, 1239-1242. 2) Nakamura K. et al., Avian Dis. 55(4), 2011, 719-723. れらの発生は同一の感染ルートに起因することが推察 3) Mase M. et al., J. Vet. Med. Sci. 74(8), 2012, 1087-1089. されました(図 2)。 9 動 衛 研ニ ュ ー ス 研 究情報 野生オシドリから分離された高病原性鳥インフルエンザ ウイルスの鶏に対する病原性と伝播性 UCHIDA Yuko 内 田 裕 子 インフルエンザ・プリオン病研究センター 主任研究員 2010 年 か ら 2011 年 にか け て 日 本全 土 で H5N1 亜 分節ともに 99%以上で、それぞれの分節について系 型高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生が報告 統樹解析を行った結果、全ての遺伝子分節の由来が同 されました。2004 年に H5N1 亜型 HPAI の発生が国 一であることがわかりました。更に PA 遺伝子分節の 内で初めて確認されて以来最高となる鶏 24 件、野鳥 系統樹解析で、これら 3 株のウイルスが野鳥由来の鳥 60 件および飼養鳥 3 件の発生でした。HPAI ウイル インフルエンザウイルスと HPAIV が遺伝子再集合を ス(HPAIV)の野鳥および鶏の間での感染拡大の要 起こした結果生じたウイルスであることが示唆されま 因は未だ不明な点が多く、宿主における病原性の解析 した。 やウイルスの性質に関する情報の蓄積が必要とされて います。本研究では、2010 年から 2011 年に鶏から分 このように塩基配列がほぼ同一である 3 種類の 離された HPAIV2 株と野生オシドリから分離された HPAIV の鶏に対する病原性を比較するため、それぞ HPAIV1 株について、鶏における病原性および伝播 れ 6log 10EID50 の各ウイルスを鶏に経鼻接種し、感染 性を比較し、野鳥間での HPAIV 感染の拡大に伴って 鶏の生存性について解析を行いました。接種した全て 生じるウイルスの性状変化について検討しました。 の鶏は死亡しましたが、全羽死亡するまでの期間は各 ウイルス群で異なっていました。MD11 感染鶏の平均 H5N1 亜 型 HPAIV の 鶏 由 来 株 で あ る A/chicken/ 生存期間は 75.6 時間、CkS411 および Ck10 感染鶏は Shimane/1/2010(Ck10)と A/chicken/Miyazaki/S4/ それぞれ 51.6 時間および 58.8 時間で、生存分析によ 2011(CkS411)および野生オシドリ由来株の A/man- ると CkS411 と MD11 感染鶏の間で統計的な有意差が darin duck/Miyazaki/22M-765/2011(MD11)の 3 株 認められました(図 1)。各ウイルス感染鶏の上部気 のウイルスの遺伝子分節 8 本の塩基配列の相同性は各 道および排泄腔におけるウイルス量を測定し、ウイル CkS411 51.6時間 Ck10 58.8時間 MD11 75.6時間 図 1. ウイルス感染鶏の生存性 ウイルス名下の時間は平均生存時間。 10 2013.5.31 No.50 CkS411 Ck10 MD11 図 2. 各ウイルス株の鶏に対する伝播性 時間はウイルス感染鶏との同居時間。 ス排泄量の比較も行いました。MD11 感染鶏の上部気 染鶏 4 羽を同一ケージに同居させました。感染鶏およ 道および排泄腔でのウイルス量は、Ck10 感染鶏の上 び同居鶏は全群とも死亡しましたが、全羽死亡するま 部気道のウイルス量と、Ck10 と CkS411 感染鶏の排 での時間は MD11 群で最も遅く、MD11 の伝播性が他 泄腔でのウイルス量よりも統計的に有意に低いことが の 2 株に比べて低いことが明らかになりました(図 2)。 明らかになりました。野生のオシドリから分離された MD11 の鶏体内での増殖能が鶏由来のウイルス 2 株と 本研究の結果から、遺伝子の相同性が非常に高い 比較して有意に低かったことが、MD11 感染鶏の生存 HPAIV 間においても、鶏に対する病原性や伝播性が 時間の有意な延長に関連することが示唆されました。 異なることが示されました。特に、野鳥から分離され た HPAIV の鶏間での伝播性が低かったことから、野 さらに、3 株の HPAIV の鶏間での伝播性を比較す 鳥で維持されたウイルスが農場の鶏に侵入した際に、 るために、鶏を 3 つの群に分け、それぞれの群で鶏 1 鶏でのウイルスの広がりが緩慢となり、感染発見まで 羽に各ウイルスを感染させ、感染から 16 時間後、非感 の時間が遅延する可能性が考えられました。 11 11 動 衛 研ニ ュ ー ス 海外出張報告 International Meeting on Emerging Diseases and Surveillance(IMED 2013)出席 出張期間:平成 25 年 2 月 13 日~ 19 日 出張場所:ウィーン(オーストリア) SHIRAFUJI Hiroaki 白 藤 浩 明 温暖地疾病研究領域 研究員 平 成 25 年 2 月 15 ~ 18 日 に オ ー ス ト リ ア・ ウィーンにて開催された International Meeting on Emerging Diseases and Surveillance(IMED 2013) (新興感染症とサーベイランスに関する国際会議) に出席しましたので、その概要を報告します。こ の会議は、International Society for Infectious Diseases(国際感染症学会)が主催しており、共催者 として FAO(国連食糧農業機関)、OIE(国際獣疫 事務局)、ECDC(欧州疾病予防対策センター)な どの国際機関や感染症の発生速報メールを無償で 提供するプログラムである ProMED-mail が名を連 ねています。この会議は 2007 年 2 月に第 1 回が開 催された後は隔年で 2 月に開催されており、これ までのところオーストリアのウィーンでの開催が 続いています。この会議の大きな特徴の一つとし て、医学、獣医学、疫学、衛生動物学など、様々なバッ クグラウンドを持つ参加者が数多くの国々から集 まるという点が挙げられます。今回の参加者は約 800 名とのことで、国際会議にしては比較的規模が 小さい印象ですが、96 の国から参加があったよう です。様々な国や地域の情報が得られるのもこの 会議の大きな魅力だと思います。また、学術的な 発表内容の多い国際学会とは異なり、各地で発生 した感染症の内容・特徴、感染症あるいは病原体 の監視システム、さらには実際に取り組んだ感染 症対策の内容・成果など感染症対策のために必要 な情報を発表するものが非常に多く、その情報を 参加者間で共有しようという雰囲気もこの会議の 特徴といえると思います。 今回、この会議に私が出席した目的は 2 つあり ます。1 つは、牛に流産、早産、死産、先天異常 子の出産(いわゆる異常産)を引き起こすアルボ ウイルスを検出するために開発したリアルタイム RT-PCR 法 に つ い て 公 表 す る こ と、 も う 1 つ は、 欧州で流行しているシュマレンベルクウイルス (Schmallenberg virus:SBV)感染症に関する情報 収集をすることです。 動物衛生研究所・温暖地疾病研究領域が開発した リアルタイム RT-PCR 法では、合計 4 組のプライ マー・プローブセットを使用します。このうち 1 組 は、ブニヤウイルス科オルソブニヤウイルス属の中 で牛異常産に関連するウイルスに共通な塩基配列 を標的としたプライマー・プローブセットであり、 アカバネウイルスやアイノウイルス、あるいはピー トン、サシュペリ、シャモンダウイルスが検体中に 含まれていればこれらのウイルスに共通な遺伝子 を検出することができます。残りの 3 組は、我が国 で重要度の高いアカバネ、アイノ、ピートンウイル スを個別に検出するためのプライマー・プローブ セットとなっており、これら 3 種類のウイルスのい ずれかが検体中に含まれていれば各ウイルスに特 異的な遺伝子を検出することができます。この方法 により、牛異常産の検体からオルソブニヤウイルス 属の遺伝子を迅速に検出できるものと期待されま す。論文で公表するには若干の改良と検証が必要な 段階ですが、可能な限り早急に本法を完成させて実 用化に結び付けたいと考えています。本法の内容や アカバネ病等の病態については、ドイツ、オースト リア、マレーシア、タイからの参加者が関心を示し、 各国の情報を交換する良い機会となりました。 欧州で発生している SBV 感染症についてはご存 知の方も多いと思いますが、その概要にここで触れ ておきます。本感染症は、2011 年の夏にドイツで 初分離されたウイルスから命名された病気で、牛、 山羊、めん羊などの反芻動物において、発熱や食欲 不振、下痢、泌乳量低下といった症状に加えて、四 肢や脊柱の彎曲といった体形異常や大脳欠損など を示す先天異常子の出産が認められます。SBV は、 我が国で流行するアカバネウイルスやアイノウイ ルスと同じブニヤウイルス科オルソブニヤウイル 12 2013.5.31 No.50 ス属に分類される節足動物媒介性ウイルス(アルボ ウイルス)の一つです。このウイルスに関しては動 物衛生研究所ホームページで紹介していますので、 是 非 ご 覧 く だ さ い(http://www.naro.affrc.go.jp/ niah/disease/schmallenberg/index.html)。2011 年 の夏から 2012 年の春にかけて、SBV はドイツ、オ ランダ、ベルギー、ルクセンブルク、英国、フラン ス、イタリア、スペインで流行が確認されました。 さらに、2012 年の夏以降、欧州各地で SBV 感染症 の発生、あるいは SBV に対する抗体陽転が牛で確 認され、SBV が欧州で越冬したことが示されまし た。今回の会議では、2012 年の夏以降の SBV の流 行状況について、SBV を分離・同定したドイツの フリードリッヒ・レフラー動物衛生連邦研究所の Dr. Martin Beer が紹介していました。彼によると 「欧州における SBV の流行拡大はあまりにも急速で “Unstoppable”である」とのことで、実際に 2012 年の夏以降、前述の発生国に加えてスイス、オース トリア、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、ポー ランド、ハンガリー、アイルランドで SBV の流行 が確認されました。さらに、「SBV 検査費用を畜産 農家が負担する国では、牛、山羊、めん羊の流産や 先天異常子が見つかっても、費用の負担を避けるた めに検査がほとんど実施されない地域もあったよう だ。つまり、診断されている例数よりも相当に多い 数の SBV 感染症が実際には発生していたのだろう」 との見解が示されました。さらに、「この状況を受 けて、SBV 感染症に対する不活化ワクチンの開発 が進められている。開発中のワクチンを感受性家畜 へ 2 回接種することで、ウイルス血症を完全に抑え たデータも得られている」とのことでした。ワクチ ンの実用化の時期について彼は言及していませんで したが、発症予防のために少しでも早く実用化され ることが望まれます。また、ドイツに加えて、オラ ンダ、イタリア、オーストリア、英国からの参加者 による SBV 関連の演題があり、各地でのサーベイ ランス体制、牛およびめん羊の抗体陽性例や流産胎 子からの SBV 遺伝子検出例、ヌカカからの SBV 遺 伝子検出例などについて、最新の情報を得ることが できました。また、英国のグループはリバースジェ ネティクスにより合成した SBV のマウス実験感染 モデルを用いて、感染マウスにおける病変分布を詳 細に調べていました。このようなモデルを使えば、 SBV ゲノムの中で増殖性や病原性に関係しそうな 部位に変異を挿入し、改変 SBV に感染した動物で の SBV 体内分布や病変形成の様子を観察すること で、SBV 感染症の発病機序を理解するための重要 な知見が得られるかもしれません。 我が国では 1972 ~ 1975 年に北海道、青森県、岩 手県を除く全国規模でアカバネ病が発生し、発生頭 数は 42,000 頭、損害は 50 億円を超えるといわれま した。これと同じことがおよそ 40 年経った今、欧 州で起こっているように思います。アルボウイルス の流行により家畜の生産に大きな損害が生じること の怖さを改めて認識させられました。今回の会議で 得られた知見や会議の中で感じたことをこれからの 仕事に必ず活かして、アルボウイルス感染症の診断・ 予防技術の向上のために努めたいと思います。 動衛研ニュースの記事の一部は、当初 WEB サイトでもご覧いただけます。 なお、内容は主に PDF ファイルでご提供しております。 URL: http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/ niah/news/index.html 13 13 動 衛 研ニ ュ ー ス 海外出張報告 11th International Symposium on Double Stranded RNA Viruses 出席 出張期間:平成 24 年 11 月 26 日~ 12 月 2 日 出張場所:サンファン(プエルトリコ) SUZUKI Tohru 鈴 木 亨 ウイルス・疫学研究領域 主任研究員 今 回 初 め て 11th International Symposium on Double Stranded RNA Viruses(第11回二本鎖 RNA ウイルス国 際シンポジウム)に参 加し、「Molecular characterization of porcine rotavirus B」 について 発表しました。本シンポジウムは 1982 年に初めて アメリカで開催されて以来、約 3 年に一回世界各 国(英国、チュニジア、イタリア、南アフリカ、オー ストラリアなど)で開催されています。第 11 回は カ リ ブ 海北東に位置するアメリカ自治連邦区であ るプエルトリコのサンファン市で 2012年 11月 27日 から 12月 1日の 5日間にわたって開催されました。 会場は市内の宿泊施設を兼ね備えたリゾートホテ ルのコンベンションホールでした。参加者は植物、 動物あるいは人由来の二本鎖 RNAウイルスの研究 に携わる大学および公的、民間の研究機関から約 700名が集いました。内訳は北アメリカやヨーロッ パの研究者が大半であり、それら以外には本シン ポジウム会場の近隣国である南アメリカ、ついで アジア・オセアニアやアフリカからも学問分野に関 係なく世界各国の研究者が一堂に会しました。 参加者は皆会場のあるホテルに宿泊し、連日朝食 を共にした後、コンベンションホールに移動して、 ワークショップを聴き、次いでランチを楽しんだ 後、再びワークショップを聴き、さらに夜は食事 や飲物を交えながらポスター発表やワークショッ プの内容について談笑するといったスケジュール であり、参加者全員が一体化した雰囲気の中、連 日早朝から夜半まで情報交換や議論に明け暮れる 大変有意義な時間を過ごしました。本シンポジウ ムにおける話題の中心は数ある二本鎖 RNA ウイ ルスの中でも、主にロタウイルスとレオウイルス が圧倒的な数を占めていました。ワークショップ は開催 2 日目から午前と午後の 2 回(各回 3 時間) 計 7 回行われ、ウイルス粒子の構造解析、ウイル スの多様性と疫学、ウイルスと宿主の相互作用、 免疫および病原性、ウイルス蛋白質の機能解析、複 製とリバースジェネティクス、そして最後にワクチ ンとバイオセラピーといった多岐にわたる話題に ついて各回 10 名の演者が最新の知見や技術情報を 発表・解説しました。また、ポスター発表は開催 2 日目および 3 日目の夜に各日 70 題ずつ(計 140 題) 行われました。発表内容はワークショップと同じ内 容で分類されていましたが、両日ともウイルスの多 様性と疫学に関する話題が大半を占めていました。 特に、最近ではロタウイルスのフルゲノム解析がト ピックであることもあってか、参加したメンバーの 各国におけるロタウイルスの現状が競って発表さ れており、本ウイルスが持つ特異的な変異機構に伴 う多様性の現状を目の当たりにすることができま した。発表時間は 90 分間と設定されていましたが、 その後のスケジュールがないため、誰もが時間を気 にすることなく、連日遅くまで熱い議論が続けら れ、大いに盛り上がりました。最終日の前夜(4 日目) にはディナーパーティーも用意されていました。こ れまで白熱した議論を積み重ねてヒートアップし た会場は一転して一時の安らぎを与える会場に変 貌し、美味しい料理や飲物を堪能しながら同じ課題 に取り組む仲間としてより一層の交流を深め、互い に共通認識を確認し合うことができました。最終日 (5 日目)はワークショップ、ポスター発表とは別に、 サテライトセッション「世界各国におけるロタウイ ルスワクチンの現状」が設けられており、こちらも 本シンポジウムに劣らないほどの白熱した議論が 繰り広げられ、本ワクチンの成功に期待する世界各 国の関心の高さを肌で感じることができました。 参加する前までは開催期間 5 日間は長いようにも 思われましたが、終わってみると一日一日における 内容が充実していたため、満足感・達成感を味わっ て帰国の途につくことができました。さらに、世界 各国の研究者と親交を深めることができたことは、 14 2013.5.31 No.50 今後の自身の研究生活において、大い なる刺激・励みになることと信じてお り ま す。 第 12 回 は 2015 年 に イ ン ド で開催されることが本シンポジウムの close remark で決定しています。今後 も益々精進して、また次回も参加・発 表できるよう、そして仲間との再会を 楽しみに今から心積もりして準備して いきたいと思っています。 今回本シンポジウムへの参加・発表 を通じて私がもっとも印象に残ったこ とは、ロタウイルス感染症は世界各国 で今も発生・蔓延しており、多くの研 究者が強い関心を持って、問題解決に 積極的に取り組んでいることです。日 本では現在ロタウイルスに携わる研究 者は減少傾向にあり、またわが国の家 ポスター発表にて(筆者) 畜衛生分野においてロタウイルス感染 ことはできません。従って、本報告を通じて、わが 症は届出伝染病にも含まれていないため、関係従事 国の家畜衛生分野に携わる多くの関係従事者の方々 者の間で本感染症への関心・注目は希薄になってい に改めて本感染症に対する興味・関心を抱いていた るように感じます。しかしながら、本シンポジウム だき、国内さらには世界中の研究者が共通認識を のように世界的視野で見ると、まだまだ話題性の高 持って本感染症の制圧に向けて足並みそろえて戦っ い厄介な人獣共通感染症の一つであること、また国 ていければ幸いであると存じます。 内における動物および人の症例数もほとんど減少し ていないことを鑑みると、現状のままでは看過する 行事予定 月 日 6 月 14 日 6 月 20 ~ 21 日 6 月 21 日 7 月 24 ~ 26 日 2013年6~8月 曜日 名 称 開催場所 金 農場衛生管理システム・第 4 回マッ チングフォーラム 「畜舎への鳥獣侵入防止と衛生対策」 つくばサイエンス・インフォメーショ ンセンター 木~金 第 69 回九州・山口病性鑑定協議会 ジェイドガーデンパレス(鹿児島市) 第 269 回鶏病事例検討会 農林水産技術会議事務局筑波事務所 サマーサイエンスキャンプ 2013 本所 金 水~金 15 15 動 衛 研ニ ュ ー ス 会議報告 平成 24 年度動物衛生試験研究推進会議の概要 YOSHIOKA Miyako 吉 岡 都 企画管理部業務推進室 企画チーム チーム長 平成 24 年度動物衛生試験研究推進会議が平成 25 用、国のヨーネ病対策に利用されるヨーネ病リアル 年 2 月 13 日(水)に動物衛生研究所本所講堂にお タイム PCR 法、地方病性牛白血病の伝播防止と感 いて開催されました。参集者所属(人数)は以下の 染源対策、牛アルボウイルス病や牛乳房炎の予防法 通りです。 開発、飼料の安全性確保などが挙げられ、また、レ 外部委員(日本大学;1、明治飼糧;1)、農林水 ギュラトリーサイエンス等行政との連携やアジア近 産省農林水産技術会議事務局(2)、農林水産省消費・ 隣国における家畜伝染病の発生に対しての危機管理 安全局(2)、農林水産省・経営局(1)、農林水産省 体制を整えるため、海外研究機関や OIE との国際 動物検疫所(1)、農林水産省動物医薬品検査所(1)、 協力の必要性が提起されました。 農業・食品産業技術総合研究機構本部(2)、中央農 業総合研究センター(1)、畜産草地研究所(4)、食 2.動物衛生に関する今年度の取り組み 品総合研究所(1) 、北海道農業研究センター(1)、 (地独)北海道立総合研究機構畜産試験場および 東北農業研究センター(1)、近畿中国四国農業研究 同根釧農業試験場、栃木県県央家畜保健衛生所、群 センター(1)、九州沖縄農業研究センター(1)、農 馬県家畜衛生研究所、岡山県岡山家畜保健衛生所、 業生物資源研究所(1)、家畜改良センター(1)、北 島根県家畜病性鑑定室、沖縄県家畜衛生試験場の家 海道立総合研究機構(畜産試験場;1、根釧農業試 畜衛生担当者が各々の平成 24 年度計画、成果、今 験場;1)、栃木県県央家畜保健衛生所(1)、群馬県 後の問題点と次年度以降の計画について説明し、動 家畜衛生研究所(1)、岡山県岡山家畜保健衛生所(1)、 物衛生試験研究における推進方向が討議されまし 島根県家畜病性鑑定室(1)、沖縄県家畜衛生試験場 た。また、動物医薬品検査所から最近の課題と動向、 経営局から家畜共済に関する情報提供が行われまし (1)、動物衛生研究所(38)、以上 68 名。 た。 検討議題は以下の通りです。1.動物衛生研究を 巡る情勢、2.動物衛生に関する今年度の取り組み、 3.動物衛生研究の重点推進方向 3.重点研究推進方向、4.連携・協力に関する事項 次年度以降の動物衛生研究推進方向として、「動 (他機関からの要望事項)。 物インフルエンザの効果的な発生予防技術の開発」 1.動物衛生研究を巡る情勢 についてウイルス・疫学研究領域の西藤上席研究員 動物衛生研究所企画管理部長から、最近の動物 から、「高病原性 PRRS および豚コレラの制御技術 衛生問題と動物衛生研究の取り組みについて説明 の開発」について同領域の山川上席研究員から説明 しました。国内の課題として、口蹄疫や高病原性鳥 され、討論が行われました。 インフルエンザでは、現在実施しているより迅速で 高感度な検査法の開発と流行ウイルスを的確に把握 4.連携・協力に関する事項(他機関からの要望事項) し解析できるシステム構築等の研究がより一層重要 農水省消費・安全局動物衛生課から 4 件、同・畜 となっていること、BSE 研究では非定型 BSE の発 水産安全管理課から 1 件、動物医薬品検査所から 2 症機構や異常プリオン蛋白質の超高感度検出法の活 件、栃木県から 1 件の要望事項に対し、動物衛生研 16 2013.5.31 No.50 会議報告 究所からの対応方針を示しました。 報をさらに増やすよう指摘を受けました。研究推進 外部委員からは、研究推進会議に先立って開催さ 会議の検討議題については、動物衛生研究所が現在 れた「家畜疾病防除」の大課題評価会議を含めて動 国内で問題となっている疾病に取り組み成果を上げ 衛研の活動についてコメントがありました。大課題 ていることを評価され、今後も行政部局等と連携し、 評価会議の検討議題については、中課題の総合評価 野外での技術の普及を目指し、また人手不足を解消 で S 評価が 3 課題、A 評価が 9 課題は妥当であり、 する上で外部資金獲得の強化を図るよう指摘を受け 論文発表が多いことが評価され、今後は普及成果情 ました。 ■平成 25 年度家畜衛生講習会等開催計画 講習会名 開催場所 基本講習会 動物衛生研究所本所 総合講習会 動物衛生研究所本所 病性鑑定 ウイルス 細 菌 病 理 生 化 学 定員 開催期間 講習内容 受講対象者 家畜衛生講習会を受講したことがなく、 5 月 15 日~ 畜産の動向、家畜衛生事 50 名 家畜衛生業務の経験が概ね 1 ~ 3 年以内 5 月 31 日 情、基礎学理 である者 概ね 2 ~ 3 年以内に家畜保健衛生所長に 10 月 9 日~ 畜産の動向、家畜衛生事 50 名 なる予定の者又は家畜保健衛生所長であ 10 月 11 日 情、最新学理 ること 動物衛生研究所 本所(つくば) 海外病研究施設(小平) 38 名 北海道支所(札幌) 九州支所(鹿児島) 特殊講習会 基本講習会を修了した者又は都道府 監視伝染病を含めた家畜 県等において伝達講習を受講した者で 疾病の診断技術等の学理 あり、かつ家畜衛生業務に 2 年以上従 及び技術実習 事した経験を有する者 5 月 8 日~ 12 月 6 日 特殊講習会 監視伝染病を含めた牛の 6 月 18 日~ 50 名 疾病に関する学理及び技 6 月 28 日 術実習 監視伝染病を含めた豚の 7 月 2 日~ 50 名 疾病に関する学理及び技 7 月 12 日 術実習 監視伝染病を含めた鶏の 6 月 4 日~ 40 名 疾病に関する学理及び技 6 月 14 日 術実習 監視伝染病を含めた海外 9 月 11 日~ 50 名 悪性伝染病の防疫対策に 9 月 13 日 必要な学理及び演習 牛 疾 病 動物衛生研究所本所 豚 疾 病 動物衛生研究所本所 鶏 疾 病 動物衛生研究所本所 海 外 悪 性 伝 染 病 動物衛生研究所本所 繁 殖 障 害 民間団体 15 名 9 月 25 日~ 牛の繁殖障害等に関する 10 月 25 日 学理及び技術実習 獣 医 疫 学 動物衛生研究所本所 30 名 監視伝染病を含めた家畜 9 月 24 日~ 疾病の防疫対策に必要な 10 月 4 日 獣医疫学の学理及び演習 病性鑑定 当該業務に長期にわたって専任さ せようとする者 海外悪性伝染病 緊急通報時に農場等での初動対応 を行う予定の者 繁殖障害 当該業務に長期にわたって専任さ せようとする者であり、かつ当該業 務に従事している者又は概ね 1 ~ 2 年以内に従事する予定である者 獣医疫学 家 畜 衛 生 業 務 に 3 年 以 上 従事し た経験を有する者であり、かつコン ピューターソフトによる表計算が行 える者 ■平成 25 年度家畜衛生研修会(病性鑑定)開催計画 部 門 開催場所 病 理 動物衛生研究所本所 細 菌 動物衛生研究所本所 ウイルス 動物衛生研究所本所 生 化 学 動物衛生研究所本所 定員 開催期間 講習内容 10 月 15 日~ 50 名 10 月 18 日 受講対象者 監視伝染病を含めた家畜 10 月 22 日~ 疾病に関する最新学理及 病性鑑定特殊講習会の既受講者及びこれ 10 月 25 日 に準ずる素養を有する者 び技術実習 (受講者数は、原則として 1 名とするが、 10 月 29 日~ 60 名 ウイルス部門は 2 名まで可) 11 月 1 日 50 名 50 名 11 月 5 日~ 家畜の生産病等に関する 11 月 8 日 最新学理及び技術実習 17 17 動 衛 研ニ ュ ー ス 動衛研ニュース 研究業務の紹介 SAITO Takehiko 西 藤 岳 彦 インフルエンザ・プリオン病研究センター 領域長補佐 H5N1 亜型高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の 遺伝子診断系の感度の低下を招く可能性があります。 世界的な流行は、発生国の養鶏業界に甚大な損失を与 日本にどのバリアントが侵入してくるか予断の許せな えただけではなく、ヒトの致死的感染を引き起こすな い状況ですから、それぞれの地域で常在化しているバ ど公衆衛生上も大きな問題となっています。2009 年 リアント株やその遺伝子情報を収集して現行の診断系 には 2 種類の豚インフルエンザウイルス(SIV)に由 の再評価を常に行っていくことが我々のグループの大 来する遺伝子再集合ウイルスによるパンデミックが発 きな役割の一つです。 生し、今年は中国で H7N9 亜型低病原性鳥インフルエ SIV も地域による遺伝的多様性の高いウイルスで ンザウイルスによるヒトの致死的感染が発生していま す。アジアでの SIV の多様性と農場での SIV の循環 す。このように近年動物インフルエンザウイルスは畜 要因を突き止め、SIV の制御につなげるため文部科学 産業界にとどまらず、公衆衛生上の脅威にもなってい 省の「感染症研究国際ネットワーク推進プログラム ます。インフルエンザという、家畜にもヒトにも存在 (J-GRID)」の支援で、タイ国立家畜衛生研究所に人 する疾病(One Flu)は、家禽・家畜でのインフルエ 獣共通感染症共同研究センター(ZDCC)を設置して、 ンザウイルスの循環や常在化を防ぐことが、畜産上の タイ、ベトナムで SIV の共同研究を行っています。 利益につながるだけでなく、動物インフルエンザに由 鳥インフルエンザワクチンの開発に関しては、鶏に 来するパンデミックを防ぐことに直結するという、ま 不活化ウイルスを点眼することによって感染防御効果 さに「One World, One Health」のコンセプトのもと が得られることを明らかにしています。アジア各地で で取り組むべき地球規模の課題と言えるでしょう。 常在化している H5N1 亜型 HPAIV のコントロールの 動物衛生研究所では、従来から家禽・家畜のインフ ために、今後、感染防御の可能なワクチンが必要とな ルエンザをそれぞれの宿主ごとに分けて担当するので る局面があるだろうと考えています。点眼法に加えて はなく、動物のインフルエンザとしてインフルエンザ 更に感染防御効果を高める手法を開発し、鳥インフル グループで一括して対応しています。このような研究 エンザのコントロールに活用できるワクチンの開発を 体制は、パンデミックウイルス出現や鳥インフルエン 目指しています。 ザによるヒト感染に対する円滑な対応を可能にしてい インフルエンザグループは、インフルエンザ対策を ます。また、環境省や地方自治体が行っている野鳥で 通した「One World, One Health」の実現のため、国 の鳥インフルエンザウイルスの監視にも積極的に協力 内外の研究、診断機関や大学、民間機関との連携に積 しており、H7N9 亜型鳥インフルエンザ発生の際には、 極的に取り組んでいます。 我々が解析した国内で数年前に野鳥から分離された同 亜型ウイルスの遺伝子情報をいち早く国立感染症研究 所と共有することが出来ました。 現在重点的に取り上げている課題は、家畜における インフルエンザウイルスの生態解明と家禽の免疫機構 の解明、そのワクチン開発への応用です。2004 年以降、 世界的に広がった H5N1 亜型 HPAI は近年アジアを中 心に常在化しており、それぞれの地域でバリアント株 が生じています。バリアント株の発生は抗血清の反応 前列左から:松鵜、竹前、金平、西藤、内田、井口、廣瀬 性や遺伝子配列に基づいて作製されている PCR 等の 後列左から:彦野、鈴木、阿部、谷川、常國 18 No.50 平成25年5月31日発行 編集・発行(独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 企画管理部 〒305-0856 茨城県つくば市観音台3-1-5 Tel: 029-838-7720 Fax: 029-838-7709 URL: http://www.naro.affrc.go.jp/niah/index.html 「One Flu, One Health, One World」