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Journal Article / 学術雑誌論文 ILL文献複写の需給状況の変化と学術情報 の電子化 小山, 憲司 Koyama, Kenji 図書館雑誌. 2008, 102(2), p. 97-99. http://hdl.handle.net/10076/10426 図 書 館 雑 誌 Vol.102, ILL文 献 複 写 の 需 給 状 況 の 変 化 と 学 術情 報 の電 子化 小 山憲司 は じめに 学術情報 の電子化 は,今 日の大学図書館活動全 体 に大 きな影響 を及 ば して い ることは,言 を侯 た ない。特 に,学 術雑誌 の電子化 は,そ の契約方法 や予算確保 といった図書館経営 にかかわること, 保存 およびアクセス権 に関す る問題,そ して今回 のテーマ として取 り上 げる図書館相互貸借 (以下, ILL)へ の影響 など,印 刷体 の雑誌 とは異 なった, さまざまな変化 を もた らして い る。 ある大学図書館 の風景 として,新 着雑誌架 に雑 誌 がまば らに並んで い る様子 を見て,学 術雑誌 の 電子化 の影響 を実感 したとの指摘 があるが1), こ れには二つの相異 なる状況 が考 え られる。一 つ 目 に, この図書館 が印刷体 の雑誌 の購読 をやめ,電 子 ジ ャー ナ ルのみ の購読 と した ことがあ げ られ る。 この場合,図 書館 で 目 にす るタイ トル数 は 減 ってい るが,実 質 はこれまで と同数 か,そ れ以 上 の タイ トル数 が利用 で きるようにな ってい る。 いわゆる ビッグ ・ディール契約 (当該出版社の発行 ッケージ化 した包括的契約)に よって, これ 雑誌をパ、 まで購読 して いなか った,あ るいはできなか った 雑誌 もある一定 の条件 の もとで契約す ることによ り,利 用 で きるようになるので ある。 もう一 つの状況 として,受 入 タイ トル数 その も のの減少があげ られる。文部科学省 が毎年実施す る「 大学図書館実態調 学術情報基盤実態調査 (1日 査)」によれば,過 去10年の間 に,一 大学あた りの 平均受入 タイ トル数 は,国 立大学 で約 1割 ,公 私 立大学 で約 2割 減少 して い る。購入外国雑誌 に 限 っていえば,国 立大学 で約27%,公 立大学で約 34%,私 立大学で約32%の 減少 とな ってい る2)。 後者 の場合,受 入あるい は購入中止 となった雑 誌 が ビッグ ・ディール契約 によって電子 ジャーナ ル として利用 できればよいが,そ うでない場合, 研究者 は必要 とす る文献 を入手 できず,ま た図書 館 はこれまで満 たす ことので きた需要 を満 たせな くなる。 こうした需要をは じめ,学 内の文献 ニーズに学 内の コ レク ションで応えることができなか った も のが ILLリ クエス トという形 で外在化す るが,そ の状況 が電子 ジャーナルの普及 によって大 きく変 化 して きて いる。本稿 では,以 上 のよ うな背景 の もと,大 学図書館 における ILLの 現状,特 に文献 複写依頼 の現状 について,い くつかの調査研究等 を紹介 しなが ら検討 し,そ の背景 につ いて考 え る。 l.大 学図書館 における ILLの 状況 わが国 の大学図書館 における ILLは ,主 に次 の 二つの統計 デー タか らその状況 を確認す ることが できる。一 つ は,国 内の大学図書館 の多 くが参加 す る国立情報学研究所 (以下,NII)の 提供 す る NACSIS―ILLの 統計 デー タである。もう二 つ は, れた 「 大学図書館 先 に遮ゝ 学術情報基盤実態調査 (1日 実態調査)」である。 ここでは,NACSIS… ILLの 統 計 デー タを用 いて,1994年 度 か ら2006年度 までの 大学図書館 における ILLの 状況 を概観す るの。 図 1は ,NACSIS― ILLを 利用 して行 われた文献 複写 と現物貸借依頼 の推移 を示 した もので ある。 文献複写依頼 は,1994年 度 に約 47万件 で あ った □ 文献複 写 囲 現 物 貸借 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 図 l NACSIS― ILLの 依頼 レコー ド件数 の推移 θ∂ 図 書 館 雑 誌 2 0 0 8 . 2 . 回 国立 大 学 ■ 公立大学 国 私立大学 □ 国洋 その他 田和 700,000 1,200,000 600,000 1,000,000 500,000 800,000 400,000 600,000 300,000 400,000 200,000 200,000 100,000 0 図 2 文 献複写依頼の機関別件数の推移 が,2005年度 には約110万件 に達 した。しか しなが ら,2006年度 には初 めて減少 に転 じて い る。一方, 現物貸借依頼 は,1994年 度 に約 2万 件 であ った が,2005年 度 には10万件 に達 し,2006年 度 もほぼ 横 ばいとい う状況である。 文献複写 について,設 置者 ごとに依頼件数を表 した ものが 図 2で あ る。文献複写依頼件数 は, 1999年度 まではいずれの機関 において も増加 して い るが,2000年 度以降,国 立大学か らの依頼件数 が減少 に転 じる一方,公 立,私 立大学か らの依頼 によって,全 体 の件数 が押 し上 げ られて い ること が確認 で きる。 2.ILLに おける電子 ジ ャーナルの影響 さて, 1で 示 した ILLの 推移 は,国 立大学 の動 向 による影響 が大 きいことが確認 された。 このこ とについて,千 葉大学 の土屋氏を代表 とす る 「 電 の にお ける大学図書館機能 再検討 子情報環境下 (略称,REFOttM)」 4)の研究 グル ープは, これ は国 立大学 の外国雑誌 タイ トルヘ の依頼件数 の減少が もた らした ものであ り,電 子 ジャーナルの普及 に よるところが大 きい とオ 旨摘 して い る。 たとえば,佐 藤氏 は,NⅡ か ら提供 された1994 年 度 か ら2005年 度 まで の NACSIS‐ILLの ロ グ デー タを分析 し,外 国雑誌 の複写依頼件数 が2000 年度以降減少 して い ること,ま た2005年度 に和雑 誌 と洋雑誌 へ の依頼件数 が逆転 して い ることを確 認,電 子 ジャーナル化 の進展 と国立大学 における 大規模出版社 との ビッグ ・ディール契約 が主たる 要因であると考 え られることを指摘 している5)。 この研究成果 を受 けて,小山 らは,同様 の枠組 み を用 いて,1994年度 か ら2006年度 までの NACSIS― ILLの ログデ ー タを分析 して い る6)。その結果, 文献複写依頼件数 について,2005年 度 に和洋 の依 頼件数 が逆転 した傾向が2006年度 に顕著 にな った 図 3 文 献複写依頼の和洋別件数の推移 ことを指摘 したほか (図3), ビ ッグ ・ディール契 約 との関連 について検討 している。 たとえば Els¨ e宙er社 の ScienceDirectに 収録 され るタイ トル ヘ の依頼件数 に注 目 したところ,そ の減少 の時期 が1999年の SD21の 導入 や2002年度 の文部科学省 による電子 ジャーナル導入経費 の措置 など,国 立 大学 における電子 ジャアナルの利用可能 タイ トル 数 が急激 に増加 した時期 に重なることが明 らか と な った。 このほか,個 別 の大学 の事例 として, ビ ッグ 0 ディール契約 による電子 ジャーナルの導入 によっ て文献複写依頼件数 が減少 したという,大 阪府立 大学 の報告 もあるつ。 報告 によれば, 2006年 1月 時点 で約 6,000タイ トルの電子 ジャーナルが利用 可能 にな った ことを受 け,2006年 度 の NACSIS― ILLへ の文献複写依頼件数 が2004年 度 と比 較 し て,約 30%減 少 したとのことである。 一方,外 国雑誌 タイ トルヘ の文献複写依頼件数 の減少 とは逆 に,和 雑誌,特 に看護分野 やその関 連分野 にお ける依頼件数 の増加を指摘す る報告 も あるの。こ れは, 看 護 という特定分野 に対す る需 要増加 に加 え, こ の分野 において電子 ジャーナル 化 が進んでいないことの二 つの要因が輻榛 した結 果 であると佐藤氏 は指摘 して い るの。 このことは, 学術雑誌 の電子化 の影響 を逆説的 に示す事例 とい えよう。 3.文 献 の可視性 の向上 と入手可能性 電子 ジャーナル は, ビ ッグ ・ディール契約 とい う新 たな契約 モデル によって広 く普及 し,い まや な くてはな らない学術情報基盤 の一 つ となってい る。 それは,ILLの 減少 に影響を与 える一方 で, 電子環境下での文献利用 の可能性 を拡大 させたと い うことがで きる。 たとえば,電 子 ジャーナルを提供す る各出版社 図 の Webサ イ トでは,掲 載 されて い る論文 の著者 や タイ トルの ほか,そ の論文 の抄録 まで無料 で公 開 されて いる。 これ までは購読誌以外 に掲載 され ている文献 は,書 誌 デー タベースなどを利用す る ことで しか知 ることがで きなか ったが,現 在 は出 版社 の Webサ イ トをは じめ,Googleや Google Scholarと いった検索 エ ンジン, ポ ー タルサイ ト を通 じて これ らの情報 を入手す ることができるよ うにな った。 また,一 部 の大学 で はあ るが リン ク ・リゾルバ を活用す ることで,書 誌デー タベー スなどの検索結果 か らその情報 の入手先を シーム レスに検索 で き,学 内環境 によっては求 める文献 をその場 で入手す ることも可能 になっている。 さ らに,出 版社間 の リンキ ング ・サ ー ビスであ る CrodsRefを 通 じて,引 用関係 など文献 と文献 の つ なが りによって新 たな文献 を入手す ることもで きるようにな って きた。 つ まり,学 術雑誌 の電子 化 は,そ の雑誌 に掲載 されて い る個 々の文献 の発 見 を容易 に し,そ の入手 を格段 に向上 させ たほ か,Webの 特徴 で もあ る リンキ ングによ って文 献 の発見 が新 たな文献 の発見 につながる検索手法 を提供す ることにな ったのである。 さらに,オ ープ ン ◆アクセスとい う新 たな学術 情報流通環境 にも注 目す る必要 がある。 そのなか には,最 近,国 内の複数 の大学図書館 が積極的 に 取 り組 んでい る機関 リポ ジ トリの存在 も含 まれ る。 たとえば,ILL担 当者 は,学 内利用者 か らの文 献複写依頼 について,そ の文献 が本当 に学内で所 蔵 して いないか をチ ェ ックし,入 手 が不可能 な場 合 に,学 外 に依頼 して きた。現在では,学 内での 入手可能性 はもちろん,国 内外 の機関 リポジ トリ などに該当文献 が公開されていないかを もチ ェ ッ クしていると聞 く。機関 リポジ トリをはじめとす る学術情報 の入手経路 の多様化 は;今 後 の ILLに 新 たな影響 を与 えることが予想 される。 おわ りに 本稿 では,い くつかの調査 ・統計 デー タに基 づ き,わ が国 の ILL文 献複写依頼 の現状を示す とと もに,そ の背景 にあるさまざまな変化 について, い くつかの研究成果 を用 いて検討 した。 しか しな が ら, ビ ッグ ・ディール契約 によって実現 される 学術情報環境 は,等 しくすべ ての大学図書館 にあ てはまるものではな く,今 なお ILLと い う互助制 書 館 雑 誌 Vol.102, " 度 が機能 して い ることも指摘 しておかなければな らない。 また, こ こでは外国雑誌 の電子 ジャーナ ル化 を中心 に検討 したが,国 内の学術雑誌 の電子 化 の状況やその影響 などについて も検討す る必要 がある。これ らについて は,NⅡ が提供す る CiN五 や メテオが提供す る Medica1 0nline, さ らには 機関 リポジ トリによる文献 の提供 などを視野 に入 れた検討 が必要 であ る。 こ うした研究 につ いて お いて継続 も,現 在筆者 も参加す る REFORMに べ して研究 を進めて い ることを最後 に述 ておきた い。 ー 謝 辞 :本 稿 で 使 用 した NACSIS― ILLの デ タは, 国 立 情 報 学 研 究 所 か ら提 供 を 受 けた もの で あ る。 こ こに記 して,感 謝 の 意 を表 す る。 注 0引 用文献 1)竹 内比 呂也 。 「 視点 :今 どきの新入生 を見なが ら大学図書 館を考 える」『 情報管理』Vol.48,No.3,2005,p.185-187. 2)文 部省学術国際局学術情報課 『 大学図書館実態調査結果報 告』平成 8年 度 か ら16年度および文部科学省研究振興局情報 課 『 学術情報基盤実態調査結果報告』平成17年度 の該当項 目 か ら算出 した。 ILL流 動 統 計 (館種 別)」入手 先 3)国 立 情 報 学 研 究 所。「 http://wwW.n五 . a c . j p / C A TI‐ LL/archiVe/illStat/flow 〈 この うち,平 成 6年 度か ら data.html〉 , (参 照2007-12-18)。 平成18年度までを利用 した。 4)本 プ ロジェク トは,平 成16年度か ら18年度 までの科学研究 電 費補助金 によるものである。平成 19年度以降は,名 称を 「 子情報環境下 において大学 の教育研究 を革新す る大学 図書館 機能 の研究」 として,活 動を継続 している。なお,略 称 はそ のまま REFORMで ある。 jp/ REFORM」 入 手 先 〈 h t t p : / / c o g S C i . 1 . cu h. ia bc a. ― 「 REFORM/〉 ,(参 照2007-12-24). 5)佐 藤義則。 「 大学図書館 を中心 とする ILLと 文献需要 の動 電子情報環境下 における大学図書館機能 の再検討研究 向」 『 成果報告書』土屋俊 (研究代表者),2007,p.卜 18。 6)小 山憲司 [ほか]。「日本 の大学図書館 における ILL需 給状 況 の変化 とその要因 :NACSIS‐ILLロ グデー タ (1994-2006) の分析」『 第 55回 日本 図書館情報学会研究大会発表要綱』 2007, p■17-120。 7)高 辻功一,大 前冨美。「 電子 ジャーナル導入 によるNACSIS ‐ ILL経 由の文献複写依頼件数 の減少効果 :大 阪府立大学 に おける調査」『 大学図書館研究』No.80,2007,p.74-78. 8)米 田奈穂 [ほか].「 ビッグ ・ディール後 の ILL:千 葉大学 大学図書館研究』No. 附属図書館亥鼻分館 における調査」『 76, 2006, p.74-81. 9)佐 藤義則。「 近年 の NACSIS―ILLに おける看護文献 の受容 と供給 :ロ グ分析 の結果 か ら」『 看護 と情報』Vol.14,2007, p.69-76 [NDC9 :017.7 (こやま け ん じ :二重大学人文学部) 1。 大学図書館 2.複 写 3.電 子資料]