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わが国における胃がん死亡はかつて癌死亡の第一位 を占めていたが
03-3752-3391 わが国における胃がん死亡はかつて癌死亡の第一位 を占めていたが、その座を肺癌に譲って二番目に多い 癌となってから久しい。ここでは、その死亡統計を振 り返り、胃がん対策についての私見を述べてみたい。 わが国の胃がん死亡 者数を顧みると、図1 に示すごとく1950年 には31,211人であった ものが、年々増加し、 1958年には40,749人 と4万人を超え、1973 年に初めて50,678人と 5万人超えた。その後、 1975年と1978年に 京都府立医科大学大学院医学研究科 地域保健医療疫学教授 渡 邊 能 行 年代 1950年 1951年 1952年 1953年 1954年 1955年 1956年 1957年 1958年 1959年 人数 31,211 32,356 33,915 34,765 35,991 37,306 38,723 39,484 40,749 41,884 年代 1960年 1961年 1962年 1963年 1964年 1965年 1966年 1967年 1968年 1969年 人数 42,750 43,241 43,503 44,536 45,693 46,385 46,772 47,665 49,300 49,538 図1 年代 1970年 1971年 1972年 1973年 1974年 1975年 1976年 1977年 1978年 1979年 人数 48,823 49,445 49,943 50,678 50,390 49,857 50,092 50,132 49,564 50,620 年代 1980年 1981年 1982年 1983年 1984年 1985年 1986年 1987年 1988年 1989年 人数 50,443 50,134 49,013 49,366 49,785 48,902 48,266 48,340 48,004 48,225 年代 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 人数 47,471 47,896 48,041 47,311 47,791 50,076 50,165 49,739 50,680 50,676 年代 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 人数 50,650 49,958 49,213 49,535 50,562 50,311 50,415 50,597 わが国の胃がん死亡者数の推移 49,000人台になったものの、1981年までは5万人をわ ずかに超える程度であった。そして、1982年より 1994年までは47,000人台∼49,000人台の死亡者であっ たが、1995年には50,076人と久しぶりに5万人を超え、 以後5万人前後の死亡者を呈し、2007年には50,597人 となっていた。この胃がん死亡者数の推移を年齢階級 別死亡者数も含めて5年おきと最新の2007年について 示したものが図1であり、1975年以後、5万人前後で 推移している状況が見て取れる。もちろん、分母の日 本人の人口が増加傾向にあった影響もある。高齢者の 割合が一貫して増加傾向にあるわが国の人口の年齢構 成を補正して年次推移を妥当なものとしている年齢調 整死亡率では胃がん死亡率は減少傾向にあるものの、 死亡者数としては過去35年間あまり変化していないと いうことである。癌対策の基本は死亡者数を減らし、 その死亡率を減少させることであることは周知のこと である。しかし、胃がんについては年齢調整死亡率が 減少傾向にあるものの、死亡数についてはこの35年間 横ばいであるという乖離が問題である。 65歳以上の高齢者が胃がん死亡の8割を占めている 年齢階級別胃がん死亡数の推移として特徴的なこと は、年々高齢者の占める割合が増えてきており、2007 年では65歳以上の高齢者が約4万人で、全体の80%を 占めていたことである。もちろんこの背景として、幼 少年期にヘリコバクタ・ピロリ菌感染を受けた戦前生 れの世代が胃がんの発生しやすい老年期を迎えている ことがあり、実際2004年の地域がん登録資料から推定 される胃がん罹患状況でも65歳以上の高齢者が胃がん 死亡者全体に占める割合は男で67%、女で71%となっ ていた。高齢者においては、多い罹患数の中から一定 の確率で救命できない進行期の胃がんとして発見され て、死亡数も多くなっていることが推察される。他方で、 若年世代は発生も少ないし、また人間ドックや職域・地 域における検診を受けて、早期発見され、治療を受けて、 死亡者数が少なくなっていることも考えられる。 これからの胃がん対策 高齢者の胃がん死亡者数が増えて、若年世代の胃が ん死亡者数はむしろ減少していることは望ましい推移 である。生活環境や食習慣の変化、診断と治療といっ た医療の進歩、そして部分的には胃がん検診の影響も あった推移と推察されるが、この推移をさらに推進す ることが必要である。 働き盛りの40歳代や50歳代の胃がん死亡者を現在以 上に減らす必要があることには異論がないであろう。 死亡者数は相対的に少ないが死亡すると家庭に多大な 負担を課すことになる40歳代や50歳代の胃がんをかか りつけ医の健康管理として濃密に計画的に管理するこ とが必要である。ヘリコバクタ・ピロリ菌の除菌は感 染率の低い40歳代や50歳代をターゲットとすることで 対象者も限定され、妥当かもしれない。他方で死亡者 数が相対的に多い高齢者の胃がん死亡に対しては、特 に元気な65歳∼74歳の前期高齢者をターゲットとした 取り組みが必要である。広島のフィールドで実施され たペプシノゲン法の症例・対照研究は主に高齢者の胃 がん症例において胃がん死亡率減少効果を証明したの で、報告は1つだけではあるが、高齢者の胃がん対策 として期待される。このように世代の現状に応じた、 アクセントを変えた取り組みをすることが肝要であ る。すなわち、地域や職域において、いわゆる organized screeningを推進する必要がある。その中で 特に重要なことは医療として受療している胃内視鏡検 査も含めて胃の検査の受療の有無を把握して、効率的 なチェックを行うことである。そのためには、検診を 医師の管理下の予防医療として実施するべきと考え る。現在の行政が実施主体として行っている地域のが ん検診は、住民にとって行政への依頼心を煽り、受け 身の姿勢を醸成しており、他方で財政難の市町村にと って受診者が増えるとかえって財政を圧迫するので本 腰を入れて実施しない風潮も見受けられる。保険者が 医師と契約し、定期的ながん検診受診者へは保険料の 割引をする等、リスク分散を主機能とする保険の中に 上手に組み込むべきである。早期胃がんに対する内視 鏡的治療が外科手術よりも費用が低額であり、保険財 政にとって望ましいことも保険者のインセンティブと なると考えられる。 そして、何に増してもこのような方向性を打ち出す ための科学的根拠を示していくことが最も必要である。 おわりに 蛇足ではあるが、医療崩壊を起こしつつあるわが国 の地域医療の現場を鑑み、胃がん対策を地域医療対策 の中で位置付ける必要がある。医師の都市部への偏在 と診療科の偏在という地域の医療崩壊が進行中であ り、医療費全体のかさ上げが必要であるが、国の税収 不足も顕著であり、無い袖は振れない状況がある。そ ういう意味で費用を十分に勘案することと、地域の医 師の労働負荷を低減させる計画的な健康管理という点 で胃がんの検診を位置付けていくことも忘れてはなら ない。 会員の皆様からの機関紙Gastro-Health Nowへのご寄稿を歓迎致します。(原稿をE-mailにて事務局迄1200 字程度、図表2−3枚でご送付下さい。)編集委員会・事務局で採否を検討の上、2週間以内にご返事致します。 1月19日に大塚幸男・東邦大学名誉教授の訃報が届きました。小生の東邦大学在任中は、 第一内科(現・消化器内科)の前任教授としてご指導を賜わり、当NPOに対してもご支援 をいただいておりました。ご冥福をお祈りいたします。これからも先輩として、消化器内 視鏡と胃がんスクリーニングの将来を見守っていただけると信じております。 Gastro-Health Now の2010年最初の号となる9号では、京都府立医科大学大学院研究 科・地域保健医療疫学教授 渡邊能行先生より「胃がんの死亡統計から考える胃がん対策」 をご寄稿戴きました。厚生労働省研究班三木班の班員時代から、現在は当NPOの社員とし て、終始ご指導ご助言を賜り、小生が最も頼りにしてきた共同研究者のおひとりであります。ご多忙のところ、ご 寄稿下さり、編集部一同心より感謝申し上げます。 わが国の胃がん死亡者数は1975年以降35年間5万人前後で推移していること。年齢調整死亡率では胃がん死亡率 は減少傾向にあるが、死亡者数としては過去35年間あまり変化していないという乖離が問題であること。年齢階級 別胃がん死亡者数の推移では、年々高齢者の占める割合が増えており、高齢者では一定の確率で救命できない進行 がんとして発見され、死亡数も増えていることが推察されること。対策として前期高齢者をターゲットとした取り 組みが必要なこと。など、先生のお考えや提言を死亡統計というエビデンスに基づいてご報告いただきました。今 後の胃がん対策に大変有益な指針になることとおもいます。 日本消化器内視鏡学会の話題ですが、小生を代表世話人として新たな附置研究会「消化器内視鏡検診研究会」を 発足させていただきました。賛同者の皆様のご尽力に感謝いたします。5月の総会において、第1回消化器内視鏡 検診研究会(当番世話人;細川 治:国家公務員共済連合会横浜栄共済病院院長)が、5月15日(土)午前9:00∼ 11:30に開催されます。多くの演題が集まり活発な討論が行われ、消化器内視鏡検診が、学会の総力を結集して全 国に普及するとともに世界に向けた発信ができることを期待しています。 (三木) ■ 速報!第3回学術講演会の開催が決定いたしました。詳細は次号に掲載予定です。 日 時:平成22年10月9日(土)15:00∼ 場 所:京都国際ホテル 特別講演:北海道大学大学院消化器内科主任教授・病院長/日本ヘリコバクター学会理事長 浅香 正博 先生(予定) ■ 平成21年度(会期平成21年4月∼平成22年度3月)会費未納の皆様は、ご確認の上、本年度中にご納入くだ さい。皆様のご支援ご協力をお待ちしております。(1口3,000円、1口以上) ■ 『Gastro-Health Now』のバックナンバーをご希望の方は、電話・FAX・メールにてお申込みください。 ■ 転居・退会・変更等がございましたら、お早めに電話・FAX・メールにてお知らせください。 (自2009年11月∼至2010年1月)(敬称略・五十音順) 赤羽根 巖、浅野 茂太郎、伊藤 都、大塚 幸雄、小越 和栄、川瀬 定夫、河津 捷二、多賀須 幸男、 福田 直子、増山 仁徳、明治乳業㈱ 多くの方々からご寄付をいただきまして誠にありがとうございました。厚く御礼申し上げます。 今後とも宜しくお願いいたします。