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10月7日「第3回新たな社会的養育の在り方に関する検討会」提出資料 1

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10月7日「第3回新たな社会的養育の在り方に関する検討会」提出資料 1
第3回 新たな社会的養育の在り方に関する検討会
平成28年10月7日
資料5
藤林構成員提出資料
10月7日「第3回新たな社会的養育の在り方に関する検討会」提出資料
1「家庭における養育環境と同様の養育環境」と「できる限り良好な家庭的環
境」に関する定義とそのあり方
(1)国連・児童の代替的養護に関する指針(29)
(i)親族による養護 Kinship care
(ii)里親による養護 Foster care
(iii)家庭を基本とした、又は家庭に類似したその他の形式の養護の実施
Other forms of family-based or family-like care placements
(iv)施設養護:緊急時養護を提供する児童保護施設、緊急事態における一時保護
所、その他全ての短期・長期の施設養護による施設(グループホームを含む)など、
家庭を基本としない集団環境で提供される養護
Residential care: care provided in any non-family-based group setting,
such as places of safety for emergency care, transit centres in emergency
situations, and all other short- and long-term residential care facilities,
including group homes
(v)児童のための監督つきの独立居住体制 Supervised independent living
(2)国連・児童の代替的養護に関する指針(23)
施設養護 residential care facilities と家庭を基本とする養護 family-based
care とが相互に補完しつつ児童のニーズを満たしていることを認識しつつも、大
規模な施設養護 large residential care facilities (institutions) が残存する現状に
おいて、かかる施設の進歩的な廃止を視野に入れた、明確な目標及び目的を持つ
全体的な脱施設化方針 an overall deinstitutionalization strategy に照らした上
で、代替策は発展すべきである。かかる目的のため各国は、個別的な少人数での
養護 individualized and small-group care など、児童に役立つ養護の質及び条件
を保障するための養護基準を策定すべきであり、かかる基準に照らして既存の施
設を評価すべきである。公共施設であるか民間施設であるかを問わず、施設養護
の施設 residential care facilities の新設又は新設の許可に関する決定は、この脱
施設化の目的及び方針を十分考慮すべきである。
-1-
(参考)Moving Forward: Implementing the ‘Guidelines for the Alternative
Care of Children’
i. Alternative care in an existing family
The Guidelines pinpoint three types of care under this heading
• Other family-based care (§ 29.c.iii)
同居する家族が里親に似た正式な養育の役割を果たすが、里親制度の枠組みでそれを
行なわない。たとえば、その家族は代替的養育の子どもが施設から出るときに世話をし
たり、長期的に代替的養育が必要な子どもの後見人の役割を果たしたりする。
Other family-based care (§ 29.c.iii) covers care settings where an existing family
plays a formal care role similar to that of a foster carer – but does not operate within
the foster care service. For example, families may be designated to look after
children transitioning out of residential care, or to act as ’guardians’ for children
with long-term alternative care needs.
ii. Other care settings
•‘Family-like’ care(§29.c.iii)
これもレジデンシャルケアに含まれるが、それは家庭に根ざした養育と比較すると、
既存の家庭養育よりも、組織された(organized)養育手段を意味するためである。家庭
のような養育は、可能な限り家庭に似た、主に自主的な小規模グループの中で提供され
る。一人か複数の親代わりの大人が養育者となるが、その養育者自身の住む家で養育さ
れるわけではない。
‘Family-like’ care is included under residential care because, in contrast to
‘family-based’ care, it refers to the way that care is organized rather than to any
pre-existing ‘family’ status of the care setting. Family-like care is provided in largely
autonomous small-groups under conditions that resemble a family environment as
much as possible. One or more surrogate parents serve as caregivers, although not in
those persons’ normal home environment.
© Centre for Excellence for Looked After Children in
Scotland (CELCIS) at the University of Strathclyde;
International
Social Service (ISS); Oak Foundation; SOS Children’s
Villages International; and United Nations Children’s
Fund (UNICEF) 2012
(3)里親・ファミリーホーム・施設類型
a 養育里親
b ファミリーホーム(里親の生活基盤がホーム内にある場合)
c ファミリーホーム(職員の生活基盤が外にあり通って来る場合)
d 地域小規模児童養護施設
e 自立援助ホーム
f 分園型(分散型)小規模グループケア
g 本園型小規模グループケア
h 本園のユニットケア(グループケア加算対象外)
i 本体施設
-2-
(4)国連指針と改正児童福祉法を、現状の施設類型に当てはめた場合の定義
上の論点
①ファミリーホーム(里親の生活基盤がホーム内にある場合)の位置付け
国内的には「家庭における養育環境と同様の養育環境」に当てはまるが、国
連指針でも、Foster care にあてはまる。
②ファミリーホーム(職員の生活基盤が外にあり通って来る場合)の位置付け
国内的には「家庭における養育環境と同様の養育環境」に当てはまるとして
いるが、国連指針では、family-like care placements であり、施設ケアの一類
型であり、里親委託率には含まれないのではないか?
③上記表の d〜i は、指針 29 においては residential care に当てはまるが、指針
23 における large residential care facilities (institutions) としては、d〜i のど
のタイプが当てはまるのか?
④また、指針 29 における individualized and small-group care は児童福祉法3
条の2と同義か?指針 29 における individualized and small-group care と児童
福祉法3条2「できる限り良好な家庭的環境」が同義だとしたら、d〜i のどの
タイプが当てはまるのか?
(参考)Moving Forward: Implementing the ‘Guidelines for the Alternative
Care of Children’
レジデンシャルファシリティとインスティテューションを区別することは極めて重要であ
る。後者は、大規模施設を表現するときにガイドラインで一度だけ使われている。
(23)
「脱
施設化戦略」でターゲットとするのは、もちろん大規模施設であり、施設全体ではない。
It is vital to distinguish between ‘residential facilities’ and ‘institutions’. The latter term
is used only once in the Guidelines – to describe ‘large residential facilities’ (§ 23). It is of
course ‘institutions’, and not residential facilities as a whole, that are to be targeted
through a ‘de-institutionalisation strategy’ [see Focus 3].
(5)課題と将来像の目標設定について
国 連 指 針 で は 、 大 規 模 な 施 設 養 護 large residential care facilities
(institutions) の進歩的な廃止と、個別的な少人数での養護 individualized and
small-group care など児童に役立つ養護の質及び条件を保障するための養護基
準を策定すべき、となっている。この指針の考え方と、平成 24 年「社会的養護
の課題と将来像」における、本体施設(すべて小規模グループケア化した本体
施設)3分の1の計画は矛盾しないか。
また、改正児童福祉法においても「できる限り良好な家庭的環境」と明記さ
れており、この理念と本体施設(すべて小規模グループケア化した本体施設)
3分の1の計画は矛盾しないか。
-3-
2
里親支援事業体制の在り方
(1)里親支援事業体制のあり方
多くの子どもが「家庭における養育環境と同様の養育環境」、つまり里親家庭
やファミリーホームが暮らすことができ、あるいは、養子縁組に移行できるた
めには、
「支援」だけではなく、質の高い里親養育事業(フォスターケア)が各
自治体で展開される必要がある。その体制のあり方として、下記の3通りが考
えられる。
A) 児童相談所内に複数の職員で構成される里親専従チーム(大阪市、福
岡市など)
B) 児童相談所外の民間機関(施設・NPO)に里親養育事業を包括的に
委託(静岡市、乳児院による養育里親事業)
C) 児童相談所職員と施設職員(里親支援専門相談員を含む)の役割分担
した事業展開
B タイプの事業(リクルート、研修、評価、委託前交流、委託後支援、子ど
ものケア、実親交流等の包括的な事業)が継続性を持って安定して事業者が行
うためには、十分な制度的財政的裏付けが必要である。そうでなければ全国に
広がらない。
また、C の体制を残し、かつ、発展させるとするのであれば、里親支援専門
相談員のあり方も含めた制度設計を一から検討すべきである。手始めに、現在
の里親支援専門相談員の成果を検証してもいいのではないか。
(2)里親支援専門相談員の成果の検証
役割として、1 所属施設の児童の里親委託の推進、2 退所児童のアフターケア
としての里親支援、3 地域支援としての里親支援が挙げられている。
2と3については、定量的に効果があったかどうか測定困難であるが、1に
ついては実際に成果があがったかどうか測定できる。成果指標としては、施設
職員によって新たに開拓された登録里親人数、施設から里親委託に措置変更さ
れた児童数、この2つの人数が配置前3年間と配置後3年間で差が出たかどう
かを示していただきたい。そして、成果が出た施設と出ていない施設があるの
であれば、その差は何に起因するのかについて検討いただきたい。
なお、家庭支援専門相談員の役割で一番にあがっているのは、
「対象児童の早
期家庭復帰のための保護者等に対する相談援助業務」である。今年度より複数
配置されているが、配置されたことでいっそうの早期家庭復帰の成果が期待で
きる。配置前後3年間での実績をぜひ調べるべきである。
-4-
(参考資料)
改正後全文
各
雇児発0405第11号
平成24年4月5日
[一部改正]平成 27 年 12 月 11 日 雇児発 1211 第4号
平成 28 年 6月 20 日 雇児発 0620 第 16 号
都 道 府 県 知 事
指 定 都 市 市 長 殿
中 核 市 市 長
児童相談所設置市市長
厚生労働省雇用均等・児童家庭局長
家庭支援専門相談員、里親支援専門相談員、心理療法担当職員、個別
対応職員、職業指導員及び医療的ケアを担当する職員の配置について
<抜粋>
児童養護施設等の入所児童については、早期の家庭復帰等を支援する体制を強化する
とともに、被虐待児童等に対する適切な援助体制を確保するため、平成11年度より家
庭支援専門相談員(ファミリーソーシャルワーカー)及び心理療法担当職員の配置を行
い、平成13年度より個別対応職員の配置を行い、順次対象施設を拡大するなど、その
推進を図ってきたところである。
今般、新たに児童養護施設及び乳児院に里親支援専門相談員(里親支援ソーシャルワ
ーカー)を配置し、里親支援の充実を図ることとし、次に定めるところにより平成24
年4月1日から実施することとしたので、その適切かつ効果的な運用を期されたく通知
する。
なお、この通知の施行に伴い、家庭支援専門相談員、心理療法担当職員、職業指導員
及び医療的ケアを担当する職員についての既存通知を整理し、平成16年4月28日雇
児発第0428005号当職通知「乳児院等における早期家庭復帰等の支援体制の強化
について」、平成18年6月27日雇児発第0627002号当職通知「児童養護施設、
乳児院及び児童自立支援施設における虐待を受けた子ども等に対する適切な援助体制の
確保について」、平成13年8月2日雇児発第508号当職通知「母子生活支援施設に
おける夫等からの暴力を受けた母子及び被虐待児等に対する適切な処遇体制の確保につ
いて」、平成17年4月20日雇児福発第0420003号当局家庭福祉課長通知「児
童養護施設等の職業指導員加算分保護単価の採択方針について」及び平成20年6月1
2日雇児発第0612014号の4当職通知「児童養護施設における医療的支援体制の
強化について」は、廃止する。
おって、この通知は地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の
-5-
規定に基づく技術的な助言である。
第1
家庭支援専門相談員(ファミリーソーシャルワーカー)
1
趣旨
虐待等の家庭環境上の理由により入所している児童の保護者等に対し、児童相談
所との密接な連携のもとに電話、面接等により児童の早期家庭復帰、里親委託等を
可能とするための相談援助等の支援を行い、入所児童の早期の退所を促進し、親子
関係の再構築等が図られることを目的とする。
2
配置施設
家庭支援専門相談員を配置する施設は、児童養護施設、乳児院、情緒障害児短期
治療施設及び児童自立支援施設とする。また、定員30人以上の上記施設にあって
は、家庭支援専門相談員を2人配置する施設。
3
資格要件
家庭支援専門相談員は、社会福祉士若しくは精神保健福祉士の資格を有する者、
児童養護施設等において児童の養育に5年以上従事した者又は児童福祉法(昭和2
2年法律第164号)第13条第2項各号のいずれかに該当する者でなければなら
ない。
4 家庭支援専門相談員の業務内容
(1)対象児童の早期家庭復帰のための保護者等に対する相談援助業務
① 保護者等への施設内又は保護者宅訪問による相談援助
② 保護者等への家庭復帰後における相談援助
(2)退所後の児童に対する継続的な相談援助
(3)里親委託の推進のための業務
① 里親希望家庭への相談援助
② 里親への委託後における相談援助
③ 里親の新規開拓
(4)養子縁組の推進のための業務
① 養子縁組を希望する家庭への相談援助等
② 養子縁組の成立後における相談援助等
(5)地域の子育て家庭に対する育児不安の解消のための相談援助
(6)要保護児童の状況の把握や情報交換を行うための協議会への参画
(7)施設職員への指導・助言及びケース会議への出席
(8)児童相談所等関係機関との連絡・調整
(9)その他業務の遂行に必要な業務
5 留意事項
(1)施設長は、対象児童の措置を行った児童相談所と密接な連携を図りその指導・
助言に基づいて、家庭支援専門相談員をして具体的な家庭復帰、親子関係再構築
-6-
等の支援を行わせるよう努めること。
(2)施設長は、家庭復帰等が見込まれる対象児童を把握し、家庭復帰等に向けた計
画を作成し、それに基づき、家庭支援専門相談員をして支援を行うこと。
(3)家庭支援専門相談員は、支援を行った内容について記録を備えるとともに、施
設長はその評価を行うこと。
第2
里親支援専門相談員(里親支援ソーシャルワーカー)
1
趣旨
児童養護施設及び乳児院に地域の里親及びファミリーホームを支援する拠点とし
ての機能をもたせ、児童相談所の里親担当職員、里親委託等推進員、里親会等と連
携して、(a)所属施設の入所児童の里親委託の推進、(b)退所児童のアフターケアと
しての里親支援、(c)所属施設からの退所児童以外を含めた地域支援としての里親支
援を行い、里親委託の推進及び里親支援の充実を図ることを目的とする。
2
配置施設
里親支援専門相談員を配置する施設は、里親支援を行う児童養護施設及び乳児院
とする。
3
資格要件
里親支援専門相談員は、社会福祉士若しくは精神保健福祉士の資格を有する者、
児童福祉法第13条第2項各号のいずれかに該当する者又は児童養護施設等(里親
を含む。)において児童の養育に5年以上従事した者であって、里親制度への理解
及びソーシャルワークの視点を有するものでなければならない。
4 里親支援専門相談員の業務内容
(1)里親の新規開拓
(2)里親候補者の週末里親等の調整
(3)里親への研修
(4)里親委託の推進
(5)里親家庭への訪問及び電話相談
(6)レスパイト・ケアの調整
(7)里親サロンの運営
(8)里親会の活動への参加勧奨及び活動支援
(9)アフターケアとしての相談
5
施設の指定等
里親支援専門相談員を配置して里親支援を行おうとする施設は、都道府県知事、
指定都市又は児童相談所設置市市長(以下「都道府県知事等」という。)が定める
期間内に都道府県知事等へ申請を行い、次に定めるところにより都道府県知事等が
年度ごとに指定するものとする。
なお、都道府県、指定都市又は児童相談所設置市(以下「都道府県等」という。)
-7-
の民生主管部(局)長は、当該年度の4月末日までに別紙様式1により、この指定
の結果を、また、実施状況については、翌年度4月末日までに別紙様式2により、
当局家庭福祉課長まで報告すること。
(1)児童福祉法第45条第1項の規定により都道府県等が条例で定める最低基準が
遵守されており、かつ、施設の運営が適正に行われている場合に限ること。
(2)1か所の施設について里親支援専門相談員の加算は1人分とすること。
(3)指定する施設については、平成20年4月1日雇児発0401011号当職通
知「里親支援機関事業の実施について」に基づき、あわせて里親支援機関に指定
することが望ましい。
6 留意事項
(1)里親支援専門相談員は、児童と里親の側に立って里親委託の推進と里親支援を
行う専任の職員とし、施設の直接処遇職員の勤務ローテーションに入らないこと。
(2)里親支援専門相談員は、必要に応じて、施設の所在する都道府県等の所管区域
を越えて里親支援を行うことができる。
第3
1
心理療法担当職員
趣旨
虐待等による心的外傷等のため心理療法を必要とする児童等及び夫等からの暴力
等による心的外傷等のため心理療法を必要とする母子に、遊戯療法、カウンセリン
グ等の心理療法を実施し、心理的な困難を改善し、安心感・安全感の再形成及び人
間関係の修正等を図ることにより、対象児童等の自立を支援することを目的とする。
2
配置施設
心理療法担当職員を配置する施設は、次の施設とする。
(1)児童養護施設にあっては、心理療法を行う必要があると認められる児童10人
以上に心理療法を行う施設
(2)児童自立支援施設にあっては、心理療法を行う必要があると認められる児童1
0人以上に心理療法を行う施設及び定員10人以上につき1人心理療法担当職員
を配置する施設
(3)乳児院にあっては、心理療法を行う必要があると認められる乳幼児又はその保
護者10人以上に心理療法を行う施設
(4)情緒障害児短期治療施設にあっては、定員9人につき1人、定員8人につき1
人又は定員7人につき1人、心理療法担当職員を配置する施設
(5)母子生活支援施設にあっては、心理療法を行う必要があると認められる母又は
子10人以上に心理療法を行う施設
3
資格要件
心理療法担当職員は、次の資格要件を満たす者でなければならない。
(1)乳児院、児童養護施設又は母子生活支援施設に配置する場合
学校教育法(昭和22年法律第26号)の規定による大学の学部で、心理学を
-8-
(福岡市こども総合相談センター事業概要(平成28年度版)より抜粋)
施設入退所調査と英国研修に基づく「家庭移行支援」の試み
―在宅支援と社会的養育の現代化を目指して―
こども支援課 家庭移行支援係
はじめに
福岡市こども総合相談センター(以下,当所)では,乳児院及び児童養護施設(以下,施
設)入所児童の家庭復帰や里親等委託,必要なら特別養子縁組といった家庭移行支援を充実
させるため,2016 年 4 月,
「家庭移行支援係」が新設されました。当所はこれまで,国が示
した親子関係再構築や里親委託優先の原則の実現に取り組んできてきましたが,今年度取
り入れられた「家庭移行支援」は,実家庭や特別養子縁組・里親等の家庭への移行に加えて,
実家庭養育の維持(以下,家庭維持)や家庭復帰に必要な在宅支援と地域サービスへの資源
の移行を包む概念です。これは,英国の実践をもとに欧州で推進されている児童・障がい者・
高齢者等の「施設ケアから家庭と地域を基盤としたケアへの移行 i 」(Transition from
institutional to family-based and community-based care)に着想を得た試みです。
家庭移行支援係が設置された背景には,当所において 2015 年 11 月~2016 年 1 月に実施
した施設入退所調査で明らかとなった児童養護施設入所の長期化や家族交流状況等の実態,
及び 2016 年 2 月に所長はじめ 3 名が参加した英国での家庭養護推進視察研修(LUMOSii・
日本財団共催)等で得られた知見があります。
本稿では,第 1 章で,施設入退所調査の結果と考察を述べて本市の社会的養育の現状を
確認することで家庭維持や永続的家庭保障の観点から課題を提示し,第 2 章で,英国研修
や文献等から学んだ具体的な英国の家庭移行支援及び施策に触れ,第 3 章で,施設入退所
調査結果(第 1 章)と英国の知見(第 2 章)を踏まえて当所が取り組み始めている家庭移行支援
の試みと必要施策について報告します。
第1章
施設入退所調査の結果と考察 (現状と課題提示)
調査実施の端緒,目的,方法
福岡市は 2005 年から NPO と共働で里親普及に取り組み,2004 年度から 2013 年度まで
の里親委託率の伸び率が全国 1 位となり,2014 年度末時点の里親委託率は 32.4%でした
(国の同年度末目標値は 16%)
。しかしながら,社会的養育の大部分を現在も施設が担って
おり,措置権者である児童相談所として,施設入所児童に対し,家庭環境で育つ権利を保障
(実家庭への復帰,特別養子縁組への移行,里親等への措置変更)するための支援や施策を
十分に届けられているか,必要以上に施設入所が長期化していないかなどを検証する必要
がありました。そこで,当所が措置している施設入所児童について,入退所状況や家庭状況,
家族との交流状況等の調査を実施し,続く英国研修での学びとあわせて,次年度以降の当所
や本市の取り組みに活かすことを目指しました。
- 34 -
-9-
具体的な調査目的は,施設入退所の全体像を把握し,家庭維持,家庭復帰,親族・里親等
養育,養子縁組の推進に必要な支援の対象・方法・体制及び地域資源を特定することでした。
調査の方法は,3 年間(2012.11.1~2015.10.31)に施設入退所した全児童の入所期間・退所
理由・年齢等の集計,2015.11.1 時点の施設入所児童(乳児院 33 名・児童養護施設 274 名)の
入所理由・家庭状況等に関する児童福祉司への質問紙調査,及び 3 年以上児童養護施設に入
所している全児童と親族の 1 年間(2014.11.1~2015.10.31)の交流頻度等に関する施設への
質問紙調査を用いました。結果の公表にあたり,個人が特定される情報は含んでいません。
以下,調査の結果と考察を記します。
(1) 児童養護施設入所の長期化と乳児院からの継続入所児童
児童養護施設に入所している 274 名の入所期間(児童養護施設入所日起算)は,平均 5.0 年,
3 年以上 6 年未満 66 名(24.1%),6 年以上 9 年未満 37 名(13.5%),9 年以上 54 名(19.7%)で
した。3 年以上入所児童割合 57.3%(157 名)は厚労省全国調査(H27.3.1)の 60.3%に近く,本
市も全国的な児童養護施設入所の長期化傾向の例外ではないことがわかりました。
274 名のうち乳児院から継続して入所している児童は 76 名(27.7%)に上り,乳児院から
児童養護施設への措置変更児童は年平均 6 名(2012.4.1~2015.3.31)でした。3 年以上の
入所児童のうち乳児院からの継続入所児童が占める割合は 36.9%(58 名),9 年以上では
50.0%(27 名)でした。(図 1)
図1
児童養護施設入所児童の入所期間
N=274
50
45
40
児童数
35
乳児院から継続して入所している児童(N=76)
44
90名(32.8%)が
37
乳児院入所を経験したことがある
36
33
76名(27.7%)が
30
乳児院から継続して入所している
25
9年以上入所している児童54名のうち
15
50%(27名)が乳児院からの継続入所児童である
19
20
14
15
14
12
11
10
7
8
7
7
5
5
4
1
0
0
0
児童養護施設入所期間(年数)
考察:乳児院入所児童に対する家庭復帰又は特別養子縁組による永続的家庭保障,あるいは
里親等委託による家庭養育への移行に重点を置き,乳幼児の児童養護施設への措置変更を
不必要に実施しないことが,全体として施設入所長期化の予防につながると考えられます。
- 35 -
-10-
(2) 退所理由と入所期間からみえた「3 年の壁」
過去 3 年間(2012.11.1~2015.10.31)に児童養護施設を退所した児童 184 名のうち,家庭
復帰は 89 名(48.4%),18 歳又は措置延長期限の年齢到達による退所 57 名(31.0%),他の児
童養護施設への措置変更 11 名(6.0%),里親等委託 9 名(4.9%),その他 18 名(9.8%)でした。
家庭復帰した児童の 75.3%(67 名)が入所期間 3 年未満であった一方,入所期間 3 年以上
であった退所児童の 64.7%(55 名)が年齢到達による退所でした。
(図 2)
図2
児童養護施設退所児童の退所理由と入所期間
:3年間(2012.11.1-2015.10.31)の退所児童
N=166*
*その他(移管,家裁送致,自立援助ホーム入所等)9.8%を除く
実親又は親族宅への家庭復帰
里親等(親族里親・養育里親・FH)委託
年齢到達による措置解除(18歳到達又は措置延長後の退所)
児童数
・家庭復帰した児童の75.3%が入所期間3年未満
・入所期間3年以上の退所児童の64.7%が年齢到達退所
児童養護施設入所期間(年数)
考察:児童養護施設入所後 3 年を超えると家庭復帰となる児童は減り,多くの場合,高校卒
業の年齢まで長期入所となる傾向がうかがえます。これは,入所後 3 年間の家庭支援や親
子関係再構築支援の重要性を示唆すると同時に,入所後 3 年を超えて長期入所の可能性が
高まった児童に対し,永続的な家庭(特別養子縁組等)又は里親等の家庭養育をどのように
保障していくかという課題を我々に突き付けています。
(3) 3 年以上入所している児童の長期見通し変化と家族交流頻度
そこで,3 年以上児童養護施設に入所している児童 157 名の現状を把握するため,入所時
と現在の長期見通しの変化,及び実親等の家族との交流頻度を調査しました。
長期見通しの変化
まず,157 名のうち 57.3%(90 名)に現在家庭復帰見込みがないことがわかりました。また
入所時の長期見通しが家庭復帰であった 101 名のうち 45.5%(46 名)に現在家庭復帰見込み
がないことがわかりました(図 3-1)。
- 36 -
-11-
長期見通しの変化
図3-1
:3年以上児童養護施設に入所している児童(N=157)
入所時の長期見通し
現在の長期見通し
(n=101)
その他
不明
4名
11名
2.5%
7.0%
家庭復帰の
見込みがある
長期代替養育
29名
家庭復帰
49名
101名
48.5%
家庭復帰の
見込みがない
64.3%
18.5%
46名
45.5%
親族引取り
その他 3名 3.0%
12名
7.6%
半年以内に家庭復帰予定である 3名 3.0%
家族交流頻度
3 年以上児童養護施設に入所している児童 157 名と家族の直接接触(面会・外出・外泊の合計)
回数は,年 0 回 29 名(18.5%),年 1~3 回 36 名(22.9%)であり,3 年以上入所児童の 41.4%
が年 3 回以下しか交流がありませんでした。年 12 回以上は 35 名(22.3%)でした。
(図 3-2)
接触 0 回であった 29 名の入所理由(第一主訴)は,ネグレクト 6 名,養育者の精神疾患・
障害 4 名,経済困窮 4 名,棄児 3 名,就労 3 名,身体的虐待 2 名,養育者の知的障害 2 名
であり,当所が親に施設名を知らせていない又は面会制限をしている児童は 0 名でした。
1年間(2014.11.1-2015.10.31)の家族との直接接触(面会+外出+外泊)回数
:児童養護施設に3年以上入所している児童 N=157
図3-2
35
30
29
30
30
19.1%
25
9
5.7%
18
児童数
20
36
19
16
12.1%
15
11
10
11
7
7
7
22.9%
34
21.7%
8
5
4
5
2
2
10
11
0
0
1
2
3
4
5
6
7
接触回数
8
9
12
13-
考察:入所後 3 年を超えた児童の多くが高卒年齢で退所となることから,年間交流回数 0 回
の 29 名(18.5%)をはじめ家族交流が希薄な児童は,所属家庭のないまま自立を強いられる
可能性が高いといえます。この事態を防ぐには,交流を妨げる家庭事情や意欲低下への働き
かけなど入所後の持続的な交流支援が求められる一方,交流支援の結果として交流増加等
が見込めない場合は,3 年を待たず早期に見極め,永続的家庭を保証する特別養子縁組ある
いは里親等への移行支援が必要であると考えられます。反面,家族交流の多い児童は継続交
流できる家庭状況にあると考えられ,家庭復帰支援の検討対象となりえます。
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-12-
(4) 施設入所理由と家庭維持
家庭復帰支援や入所に至る前の家庭維持に必要な地域サービスを考える重要指標となる
のが入所理由です。なぜ施設入所に至ったのかを考察することは,どうすれば家庭維持や家
庭復帰できるのかに直結するからです。入所理由間の児童数の多寡を分析することは,拡充
が求められる地域サービスの種類や優先順位,必要量を特定する根拠となりえます。
3 年間(2012.11.1~2015.10.31)に施設入所した児童 270 名の入所年齢をみると,0-3 歳と
13-14 歳にピークがみられ,3 歳未満が 105 名(38.9%),6 歳未満が 141 名(52.2%)でした。
児童養護施設入所中の児童 274 名の入所理由は,ネグレクトが最も多く,続いて身体的
虐待,養育者の精神疾患・障害,養育者の拘禁,経済的理由,養育者の就労でした(図 4-1)
。
入所理由(第一主訴)別児童数:児童養護施設入所児童(N=274)
図 4-1
*乳児院からの継続入所児童76名は乳児院入所時の入所理由
0
10
20
30
40
50
60
養育者の長期入院・入所(2か月以上)
養育者の精神疾患・障害(長期入院・入所除く)
養育者の知的障害(長期入院・入所除く)
養育者の身体疾患・障害(長期入院・入所除く)
養育者による身体的虐待
養育者による心理的虐待
養育者による性的虐待
養育者によるネグレクト
養育者の行方不明,棄児,置き去り
養育者の死亡(遺児)
経済的理由
養育者の拘禁
実母
養母又は継母
実父
養父又は継父
その他の家族
主体分類なし
養育者の就労
養育者の出産又は他の児童の養育
DVからの避難
児童の疾患・障害に必要なケアの不足
児童の問題行動(家庭内暴力含む)
養育者との親子関係不良
その他
同 274 名のうち,入所時に,①生活保護又は非課税世帯であった児童は 70.0%(図 4-2),
②母子家庭であった児童は 46.4%(図 4-3),③精神疾患診断のある親をもっていた児童は
25.2%(69 名),④6 歳未満であった児童は 51.1%(140 名)でした。
同 274 名のうち入所理由がネグレクトであった児童 52 名について同じ構成割合をみる
と,それぞれ 52 名のうち①77.1%,②53.1%,③17.3%(9 名),④67.3%(35 名)でした。
入所時の家族形態:同左(N=274)
入所時の世帯所得:児童養護施設入所児童
(N=274)
不明
実父と養・継母
6.9%
2.9%
所得税
生活保護
課税
世帯
12.8%
その他
12.8%
母子家庭
実母と養・継父
36.1%
46.4%
8.8%
住民税
非課税世帯
のみ課税
33.9%
実の両親
14.6%
4.7%
父子
家庭
9.9%
図4-2
図4-3
考察:施設入所理由のマジョリティは,低所得・母子家庭が重複したネグレクトであり,特
に乳幼児期のネグレクトが多いこと,次いで父母からの身体的虐待,実母の精神疾患,実父
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母の拘禁,実父の就労が理由となっていることがわかりました。よって,施設入所となる児
童の中には,経済的補助,子育てを補完するホームヘルプサービス,親の治療支援,保育等
の地域サービス拡充によって家庭維持や家庭復帰が可能となる児童が一定数含まれている
と考えられます。これらの拡充はニーズの早期把握や児童の安全確保にも寄与します。
(5) 特別養子縁組が適当と判断される児童数と阻害要因
しかしながら,支援の結果,家庭維持や家庭復帰(実家族による永続性保障)が見込めな
い児童に対しては代わりの永続的家庭となる特別養子縁組が重要な選択肢となります。
調査日(2015.11.1)現在,市内乳児院入所中の児童 33 名のうち将来的にも家庭復帰が見込
めないと担当児童福祉司が判断した児童は 12 名であり,うち 2 名は養子縁組里親委託が決
定していました。残り 10 名は,父又は母へ特別養子縁組未提案 3 名,父又は母へ特別養子
縁組を提案したが不同意 5 名,児童の障害による養親候補不在 1 名,父母同意以外の手続
上の課題 1 名でした。不同意 5 名のうち 2 名は養育里親委託が決定していました。
同じく児童養護施設入所中の児童 274 名のうち将来的にも家庭復帰が見込めないと担当
福祉司が判断した児童は 136 名(入所期間 3 年以上では 90 名)であり,うち 46 名にとって
特別養子縁組が適当であるとの福祉司回答でしたが養子縁組里親委託予定は 0 名でした。
46 名のうち 36 名が児童の高年齢による養親候補不在又は 6 歳以上のため特別養子縁組未
提案であり,5 名が父又は母へ特別養子縁組提案したが不同意,その他 5 名でした。
考察:調査日時点で少なくとも施設入所中の 10 名が,将来的に家庭復帰が見込めないにも
かかわらず父母の不同意により特別養子縁組による永続性保障を実施できなかったことが
わかりました。また,年齢の高い児童 36 名については,家庭復帰見込みがないにもかかわ
らず養親候補不在や 6 歳未満要件により特別養子縁組提案にすら至らず,永続的家庭の保
障が断念されている実態が明らかとなりました。これら 46 名の児童は,所属する家庭や頼
れる家族のないまま高卒年齢での措置解除を迎える可能性が高いと考えられます。今回は
未調査ですが,所属する家庭がないまま措置解除となった人たちのその後の家族との関係
や社会適応状況は大きな課題であると思われます。
(6) まとめ
児童養護施設入所児童の 57%(157 名)が入所後 3 年を超えており,うち 36.9%(58 名)が
乳児院入所後一度も家庭を経験していません。入所期間 3 年を超えると高卒年齢まで長期
入所となる傾向がみられ,3 年以上入所児童の 41.4%が年 3 回以下しか家族交流がない状況
です。入所の多数派は低所得やひとり親を伴う乳幼児期のネグレクトであり,経済的補助,
ホームヘルプサービス,保育等により安全に家庭維持や家庭復帰できる可能性があります。
このことは,在宅支援と地域サービスの拡充による入所前の家庭維持と入所後 3 年以内
の交流促進や家庭復帰支援が重要であることを示しています。一方,入所後 3 年を超えて
家族交流がない児童 29 名(18.5%)をはじめ,所属する家庭や頼れる家族のないまま自立を
強いられる児童も多いため,家庭復帰見通しを早期に評価して代わりとなる永続的家庭を
確実に保障する仕組み(父母が不同意のときの手続や 6 歳要件の緩和等)の確立,あるいは
養育里親の開拓と委託後の十分な支援が急がれます。
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