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Title
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Citation
Issue Date
Type
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産
権論
多田, 一路
一橋研究, 22(2): 61-85
1997-07-30
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://doi.org/10.15057/5764
Right
Hitotsubashi University Repository
6
1
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産権論
多
-
田 一 路
は じめに
故 ミッテラン前 フランス大統領の在任中の重要政策の一つ として 「国有化政
策」を挙げることができるであろう。憲法院の違憲判決を受 けて,修正の上で
1
9
8
2
年 2月に公布 された 「
国有化法」(
1
)は ミッテランの目玉政策 とも呼び うる
ものであった。8
6
年か ら8
8
年の保革共存 (
c
o
ha
bi
t
at
i
on)のもとで一部の国有
企業が民営化 されるなどの揺 り戻 しが生 じることになるこの国有化政策 は, フ
ランスに根強 く存在す るディリジスム (
di
r
i
gi
s
me
)(2) と呼ばれ る国家観 の現
れであると言 うことができる。そ して このデ ィリジスムはその性格上,財産権
2
年の国有化法
に関する議論をどうして もせざるをえないものである。事実,8
の議論のなかで も財産権 についての議論が含 まれていた。
そこで本稿では,ディリジスムが意法典上 は じめて現れた第四共和制憲法の
制定過程,なかで も, レフェレンダムで否決 されたとはいえ社会的 ・経済的権
利を含む人権条項が憲法本文に書 き込 まれたという点で意義を持っ四月草案に
おける,財産権 に関する議論 について検討 し,ディリジスムと憲法 との関連を
め ぐる筆者の研究の一端 としたい (3)
。その際の基本的な視点 と して, 財産権
に関す る議論において何が争点であったのか,その争点 はディリジスムとどの
ような関係 にあるのか,つまり,憲法制定過程において財産権の議論 という形
を取 って争われたのは,ディリジスムの適否か,それとも内容か,などという
ことを明 らかにしたい。筆者は,ディリジスムのなかに,国家管理的官僚主導
的契機 と反国家管理的国民参加型の契機 との二つの潮流を見ており,財産権の
議論の中でその二つの潮流がどのように現れるのか, という点 に留意 して論を
進めたいと思 う。
6
2
二
一橋研究 第2
2
巻第 2
号
四月草案の成立過程 における財産権の議論
1 憲法草案の提出
9
4
5
年11
月2
9日に憲法委員会を設置,社会党のアン ド
憲法制定国民議会 は,1
レ ・フィリップ (
And
r
6Phi
l
i
p)(
4
)が委員長 とな った。 委員会 の構成 は議会
の議席数 に応 じて各党 に比例配分 された。その結果,4
2
名の委員の うち,共産
0
名,MRPll
名 となった (5)0
党1
1
名,社会党 1
1
月 2日の憲法的法律 (
6
)は,「
議会 は新
政府 は憲法草案を提出 しなか った。1
6
t
a
bl
i
t
)」 (
第 2条) としているが,草案提 出権 につ い
しい憲法を作成す る (
ては書かれてお らず,考え方 によっては政府が草案を提出する余地がないこと
もなか った。政府 による草案提出がなか ったのは,閣内 (
7
)において不一致が
存在することが明 らかであったか らであろう。またフィリップ委員長 は 「
案は
本委員会 によってのみ作成 される。政府 は介入す る必要 はない」 と述べて (8)
お り,憲法的法律の厳格な適用を志向 していた。
憲法草案 は, 主 に共産党案, 社会党案, および ジ ョゼ フ ・ドラシュナル
(
Jos
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na
l
,独立共和派 (
R昌
publ
i
c
ai
nsi
nd昌
pe
nda
nt
s
)) 個人提案
8
の三つ (
9
)であった。本会議 における憲法草案の審議 は, 3月 7日か ら 4月1
日の間に第一読会, 4月1
9日に第二読会 と最終投票が行われた。権利宣言 につ
いては,3月 7,8日に一般討論,1
2
,1
4
,1
5
,1
9
,2
1日に各条項の個別的審
議が行われた。憲法委員会が本会議 に上程 した権利宣言案 は,基本的に社会党
莱(
1
0
)をベースにした ものであった。すなわち,権利宣言 を複数条 (
憲法委員
9
条,社会党案では全3
5
条)で規定 し,特 にそれを 「政治的権利」
会案では全3
l
l
)
および 「
社会的経済的権利」 と題す る部分 の二部 に分 けている。 共産党案 (
では,第4
条において精神的自由,組合権,労働権,休息権, 労働不能者への
保障,無償教育,無償裁判,法の下の平等を規定 し, 国民経済 (
L'
6c
o
no
mi
e
nat
i
onal
e
) という章で経済的権利 についての規定をおいて いた。 ドラシュナ
ル案 (12)では,第1
条で精神的自由,家族の尊重,生活権,労働不能者への援助,
などを規定するのみで,経済的権利 は規定 されていない。
2 憲法委員会における審議
(
1
) 権利宣言の原則 について, とくに経済的権利の原則の問題 について
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産権論
6
3
では,経済的権利 について委員会案 はどの よ うにま とめ られ たので あろ う
かO
,「検討 プラン」を提出す るが, その中 の
フィ リップ委員長 は審議 に先立 ち
「
F 権利宣言」の項 は,以下 の通 りであった。
「
必要か ? もし必要 な ら :
1. その政治的要素
2.その経済的要素,国有化 と計画
3.その社会的要素 :労働者主体のコン トロール
4.その植民地条項
5.その国際的条項 (
調停,国民主権の制限)
」(
1
3
)
左派 レジスタンスのイデオローグであったフィリップは, このように,権利
の内容 を,政治的権利,経済的権利,社会的権利の三つに類型化 し, しか もそ
の経済的権利の内容 として,国有化,計画 というデ ィリジスムの具体化 にかか
わ る要素を含 ませていた。
このフィ リップ提案 に対 し,社会党,共産党 はおおむね支持 を表 明す るが,
MRPを代表 して ダニエル ・ボア ドン (
Da
ni
e
lBo
i
s
d
o
n) は 「社会 的権利 は
個人的権利 (
1
e
sd
r
oi
t
si
nd
i
vi
d
ue
l
s
)のなかに含め, その個人的権利が もっぱ
ら宣言の第一部を構成す る」 と, フィリップの類型化 に反対 した。 ポア ドンは
l
e
sd
r
oi
t
sd
el
'
i
nd
i
v
i
d
u) と集団の権利の表
さらに,第二部 を個人 の諸権利 (
明,第三部 を国家の主権 とその主権が受 ける制限, とす ることを主張 した (
1
4
)
0
権利宣言 を憲法のなかに含 めることについては特 に意見 は出ず, この点 につ
いて は各党派 ともにそれ ほど問題 に していなか ったように恩われ る0
1
9
4
6
年 1月1
0日,11日,1
5日に行われた,権利宣言 の原則についての討議は,
実際 には, 1,経済的社会的原則, 2,そのすべての結果を含む裁判 の無償の
原則, 3,教育 の問題, 4,国際連帯 の原則, についてなされた。市民の基本
的権利 については全員が一致 しているとい うことで,起草委員会の審議 に任 さ
れることになった (15)。
経済的権利 についての審議 は,1月 1
0日の午前中に集中 してなされた。
フィリップ委員長が表明 した経済的原則の中身 は,具体的には,企業経営へ
の労働者 の参加,所有の役割 とその保障 ・制限,公役務の性格を持つ企業の社
会化,である。加えて ジルベール ・ザクサス (
Gi
l
b
e
r
tZa
ks
a
s
, 社会党) は,
6
4
一橋研究 第2
2
巻第 2号
経済的原則 は経済民主主義の条件であると述べた。
連立与党のMRP,共産党 は, これに対 し,いずれ も一般的な規定にす るよ
う主張 した。
共産党の ピェール ・エルグェ (
Pi
e
r
r
eHe
r
v占) は, 権利宣言 があ らゆ る憲
演 (
c
ons
t
i
t
ut
i
on) に優位する原則であるとの認識か ら,労働者 の経営参加 を
権利宣言に書 き込む ことは,将来 における政治情勢の発展を考慮 に入れてお ら
ず, このような参加 に永久的な性格を与えることになる, と主張, より一般的
な表現,すなわち財産権の定義 こそ権利宣言 に書 き込 まれなければな らない,
1
6
)
0
とした く
Et
i
e
nneFa
j
on) は,共産党
また同 じく共産党のエチエ ンヌ ・ファジョン (
として主張す る財産権の定義 について,私的所有の尊重および不可侵性を主張
し,現時点で社会主義的憲法は不要であると述べた。 さらに, その財産権 は,
「
他人の財産権 によって限界を受 けるものとして理解 されねばな らず, この こ
とは独 占および トラス トの問題を提起す る。それ らの存在 は実際には財産権の
拡大ではな く,姪櫓を構成 している。同時に近年 における経験 は,それが民主
主義を行使す ることに対す る妨害であることを示 した。だか ら,文言のなかに,
独 占的性質を持っ ものに対 してあ らゆる所有を廃棄 し,禁止する原則を記載 し
なければな らない」, と言 うのである。労働者の経営参加 は,国有企業 につい
ては不可欠であるが,私企業が問題 になる場合には不可欠ではない, との見解
も示 した く17)0
このように,共産党 は,特に独 占や トラス トの問題に注 目し,現時点で重要
なことは社会主義憲法を作 ることではな く,独 占および トラス トの規制である,
としている。 これは別の角度で見れば,共産党によれば,独 占および トラス ト
の規制の問題 は社会主義の問題ではな く,資本主義経済の枠内の問題であると
いうことである。 したが って,彼 らの文脈 における 「
財産権の不可侵性」とは,
独 占への規制の契機を含む概念であると言 うことがで きよう。共産党 はその憲
法草案 において, 独 占の国有化 と, 国有化 された企業 をいわゆ る三者 管 理
(
t
r
i
par
t
i
s
me
) によって運営することを明記 していたか ら,私企業を含 めた一
般的な労働者の経営参加 という点で相違があることを除けば,社会党に近い立
場 と言える。
一方,MRPのジャック ・フォンルプ ト-エスベ ラベール (
Ja
c
q
ue
sFon
l
upt
-
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産権論
6
5
Es
pe
r
a
be
r
) は,一般的な原則 として,次の二点が権利宣言 に含 まれて いなけ
ればな らないとした。一点 目は,個人の全面的な経済活動 に対す る権利,実際
には労働す ることをつ うじての十分 に人間的な生活をお くる権利の保障であり,
労働 によって生活を保障で きない場合には社会が生活必需品を保障するという
ことであり,二点 目は,所有の性格の定義 につ き,それ自体を目的 とす るので
はな く,公共の福祉 (
bi
e
nc
ommun) に仕える手段でなければな らない, と
1
8
)
0
いうことである (
フォンルプ ト-エスベ ラベールはさらに,「--1
7
8
9
年 の原則 の基本 はいま
だ有効なままであり,--人間的 ・政治的 ・社会的 ・経済的な次元で他人 もし
くは集団による濫用か ら個人の権利を守 らねばな らない」 と主張するルネ ・カ
ピタン (
Re
n6Capi
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ant
,民主主義社会主義抵抗派 (
R昌
S
i
s
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eD昌mo
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c
i
al
i
s
t
e
)) に賛意を表 した うえで, フ ァジ ョンに反論 して次 のよ
うに言 う。「
権利の境界画定がなされ うるのは,羅列 した相対立 す る権利 の単
純な接触 によってではな く,公正な従属関係によってである」。 そ してその意
味で,所有 は公共の福祉に従位する社会的機能でなければならないと主張す る
のである。 また,労働者の経営参加 については,労働者の労働がその人格か ら
分離 されないという事実の結果,生 じるものである, という認識を示 した (
1
9
)
O
したがってMRPは,独 占についてはその財産権の規制を打ち出そうとす る
共産党よりもさらに一般的な規定を求めている。各人 に生活必需品の保障を規
定するよう求める以上の分 については,「公共 の福祉 に従属 した社会 的機能」
という定義を与えようとしている。
以上のことか ら,与党三党においては,財産権を レッセ-フェールのままに
置かず何 らかの介入を憲法に書 き込む ことを主張するという意味で, いずれ も
ディリジスムを志向 していると言 うことができる。 しか し,その方向性は異なっ
ていたといえよう。すなわち,社会党 は企業経営 に対する労働者の参加を憲法
上の権利 として位置付 けようとするものであ り,共産党 はその当時の時点での
独占の廃棄を意味するそれであり,MRPは生活必需品を保障するという方向
でのそれである。 この相違が実際にはどのような意味を持つのかは,逐条審議
の際に明鹿になるであろう。
Uni
t
昌R昌P
ubl
i
c
ai
n
e
)のロ
そのほか,戦前の右翼の流れを汲 む共和連合 (
ベール ・モンティヨ (
Rob
e
r
tMont
i
l
l
ot
) は,経済的社会的原則を憲法 に含
6
6
一橋研究 第2
2
巻第 2号
めることその ものに反対 (
2
0
)し,農民派 (
p
a
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s
a
n
)のジャック ・パル ドゥ (
J
a
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u
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sBa
r
d
o
u
x
)は,社会的な視点か らそれを完全 な ものにす るとい った こと
は容易ではないとして,1
7
8
9
年の人権宣言を維持す るよう主張 α
1
)した。
(
2
) 逐条審議
憲法案の権利宣言部分 についての逐条審議 は, 1月2
4日,2
5日,2
9臥 31日,
2月 1日に第-読会, 2月1
2日か ら1
5日および2
0日に第二読会が行われた。逐
条審議に先立 って,起草のためにザクサスを報告者 とす る小委員会が設置され
た。小委員会 もおよそ各党の議席配分 に比例 して選出されており,与党三党 に
2
名の委員のうちMRPが 3名,社会党がザクサスを含め 3名,共産
ついては1
党2
名であった (
2
2
)
0
6
条で,
小委員会が憲法委員会 に最初に提出 した草案のうち人権宣言部分は全3
」「社会的経済的権利」の二部に分かれていた (
2
3
)0
さらにそれは 「
政治的権利
このことか ら小委員会では基本的に社会党の案をベースとして議論 されたこと
が窺えるO
「
社会的経済的権利」の部では,健康 に対する保護を受 ける権利,教育を受
ける権利,搾取 に対する保護,労働権,労働 に対す る正当な保障 と最低限の生
活の保障,休息余暇の権利,組合権,経営参加権, ス ト権,労働不能者への保
障,そ して財産権が規定 されていた。
小委員会案は財産権 について 2ヶ条を設けた。
「
3
3
条--=財産権 (
l
ap
r
o
p
r
i
昌
t
6)(
2
4
)は,各個人が有す る,法律で保障 され
た財産の割当分を,享受 し処分する権利である。
a
所有への権利 (
d
r
o
i
t I
ap
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p
r
i
昌
t
6)は,個人的労働 (
t
r
a
v
a
i
l
p
e
r
s
o
n
n
e
l
)
の通常の成果を表す財産 について,な らびに個人的,家族的,集団的性質の
日常品について,すべての個人に対 して保障される。何人 も,適法に確認 さ
れた公益を理由とし,法律によって定め られた補償条件 の もとでなければ,
それを奪われ得ない」
「
3
4
条--所有への権利 は,その社会的機能 に反 して,ない しは,他人の安
全, 自由,生存,財産を侵害するようなや り方で,行使することはできない。
その経営が公役務 または事実上の独 占の性格を有 しまたは獲得 した,すべ
ての財産,すべての企業 は公共団体の所有 とな らなければな らない」
3
3
条 2項 は,社会党案3
9
条 1項 とはぼ同文であるが, 1項 については新たに
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産権論
6
7
加え られたものである. これはザクサスも言 うよ うに (
2
5
)ロペス ピェールの人
権宣言草案 6条を意識 した ものである。
逐条審議第-読会 における議論 は主 に,財産権が法律に従属す るのか否か,
ということであった。MRPのア ンリ-テ トジャン (
He
n
r
iTe
i
t
g
e
n) は3
3
条
1項が 「法律で」 としているのに対 し,「
財産権の根拠 として,法律ではな く,
その社会的機能を考えねばな らない。 どんな場合 にも, (
中略) --財産権が
保障されねばな らない最小限の財産が存在する」 と主張 している。また,他方
ではピェールニコッ ト (
Pi
e
r
r
eCo
t
)(
2
6
)は 「所有が保障される最小限の財産 は
変化する。結局,財産権を普通法 に引き戻 し,法律 に従属 させることが肝要で
ある」 と反論 した。 この対立 は第-読会では収束せず,3
3
条 は再度小委員会に
差 し戻 されることとなった。
3
4
条については,「
所有への権利」を 「
財産権 (
d
r
o
i
td
ep
r
o
p
r
i
昌t
6)」 に,
「
社会的機能」を 「
社会的効用」 に変更す るはかは, さ した る議論 もな く通過
したが,ベースとなっているはずの社会党案 と比べると看過で きない修正が存
在す る。
1項 は,社会党案3
9
条2
項の 「
何人 も,社会的機能 に反 して行使す ることに
よって, この権利を濫用す ることはで きない」 という規定に,「他人 の安全 ・
自由 ・生存 ・財産を侵害す る」 ような行使の禁止を加えたものである。 しかし,
2項 については,社会党案4
0
条で,
「
経済的権力の支配 に対す る保護の権利
あ らゆる個人 は,経済的金融的権力の支配 に対 して保護される権利を持っ。
この保護 は,その経営が公役務 または事実上の独 占の性格を持つ財産および
企業の社会化 (
s
o
c
i
a
l
i
s
a
t
i
o
n
)
,およびすべての人 的物的資源 の十分 な使用
のためのフランス連合の経済活動の組織化によって保障される」
とされていたのが,「
企業の社会化」規定のみを残 し, しか も,その 「
社会化」
が 「
公共団体の所有」 に変更 されている。
社会党案で使われていた 「
社会化」 という概念 は,「
労働者 の管理決定権へ
の参加を必須の要素 とする」(
2
7
)国有化,すなわち反国家管理化 (
a
n
t
i
昌
t
a
t
i
s
a
-
3
条で
t
i
o
n
)を意図するものであ り,共産党案が4
「--これ らの企業 (
国有化 された企業--筆者注) は,譲渡 ・賃貸のでき
ない公企業に転換 され,国家の名 の もとに (
p
o
u
rl
ec
o
mp
t
ed
el
'
Et
a
t
)
,
6
8
一橋研究 第2
2
巻第 2号
国家および,各企業のなかで選挙 という手段で管理者および労働者が代表 さ
c
omi
t
昌
st
r
i
par
t
i
t
e
s
) によって直接運営 される.
」
れる,三者構成の委員会 (
としているのと同様に,企業を国有化する場合には,企業 の所有 のみな らず,
管理を も問題 にしていることの表明であった。 しか もその管理の形態 は三者管
理方式 (
ge
s
t
i
ont
r
i
pa
r
t
i
t
e
) によるものと考え られていた。 したが って,小
委員会案で 「
社会化」 にかわ り 「
公共団体の所有」 とす ることは,国有化 され
た企業の管理 は問題 に しないということになる。
また小委員会案3
0
条(
2
8
)で労働者 による国有企業 ・私企業 の管理 ・運営へ の
参加が認め られているとして も,それは三者管理を要求 されない。別稿で述べ
ることになろうが,国有化 はn
at
i
ona
l
i
s
at
i
on(
2
9
)と昌
t
at
i
s
at
i
onとの対抗 (
3
0
)で捉
えなければな らず,そのメルクマール とな るのが, 三者管理方式 (
3
1
)で ある。
結局,小委員会案では 「
公共団体の所有」 となった企業がどのように運営 され
るかが唆味にされてお り,社会党 ・共産党 はこの点で重大な譲歩を したと言わ
ざるをえない。
この背景 には,当時既に ドゴール臨時政府によって国有化されていたノール ・
パ ドカ レ炭田,ルノー公団がいずれ も三者管理方式を採用せず,デクレによっ
て任命 される社長が大 きな権限を持っようないわゆる 「エタティス ト型 -国家
管理型」の国有企業であった (
3
2
)ことが遠因 となっているとも考 え られ る。 し
か し,そうであって も,憲法論議を現実の国有企業の管理形態に引きず られず
に進めることは可能なはずであったO このように して, もともと戦前の人民戦
線の時期に管理形態 とセ ットで論 じられていた企業国有化問題 は,規範的には
管理の問題を不問にす ることによって,国家管理化への道 も開 くことになって
しまったのである。
3
条が,小委員会 によ って第 3
2条 と して新 しく提案 された
第二読会では旧3
(旧3
4
条 はそのまま3
3
条 となった)
0
「
3
2
条・
-・
・
財産権 (
l
apr
opr
i
昌
t
6
) は,法律で保障された財産を享受 し処分
す る権利である。
l
edr
oi
td
epr
opr
i
占t
昌) は, 個人的労働 (
t
r
ava
i
lpe
r
s
onn
e
l
)
財産権 (
の通常の成果を表す財産 について,な らびに個人的,家族的,集団的性質の
日常品および労働用具 について,すべての個人に対 して保障される。何人 も,
適法に確認 された公益を理由とし,法律 によって定め られた補償条件の もと
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産権論
6
9
でなければ,それを奪われ得ない」
,
第-読会で問題 となった 「
法律で保障 された財産」 とい う規定 は維持 され
た。 したが って,カ ピタンなどか ら,条文案がカバー している財産 とそうでな
い財産 との区別が明確でな く 「
立法府 に都合のいいように収用の条件を自由に
決めさせることによって,保障は否定 されている。1
7
8
9
年宣言 は 『
正当かつ事
3
3
)と批判 されることになるo この補償の問題 と,
前の補償』を問題 にしていた」(
「
集団的」 という用語の問題で再 び小委員会 に差 し戻 されることになった。
,
そのはか, 1項 については 「
各個人 (
c
ha
q
u
ei
n
d
i
v
i
d
u)が有す る」 とい う
文言が削除されている。 これは第-読会で 「
個人の所有のことしか言 っていな
3
4
)と批判を受 けたことに対応 している。旧案 は個人の所有について特 に憲
い」(
法的保障を した, と解す ることも可能であったが,新案では個人以外の者 につ
いて も所有の主体 として認めるものと言えよう。
結局, 委員全案 (
3
5
)の財産権 にかかわ る部 分 は, 次 の よ うに ま とめ られ
た。
「
3
2
条・
・
- 財産権 (
l
ap
r
o
p
r
i
6t昌) は,法律で各人に保障された財産を使用,
享受,処分する不可侵の権利である。
何人 も,適法に確認 された公益を理由とし,法律 にしたが って定め られた
正当な補償の条件の もとでなければ,それを奪われ得ない」
「
3
3
条--財産権 (
d
r
o
i
td
ep
r
o
p
r
i
昌
t
6
) は,社会的効用に反 して, ない し
は,他人の安全 ・自由 ・生存 ・財産を侵害す るようなや り方で,行使するこ
とはで きない
その経営が公役務 または事実上の独 占の性格を有 しまたは獲得 した,すべ
ての財産,すべての企業 は公共団体の所有 とな らなければな らない」
委員会案 は,ザクサスが言 うように妥協の産物で はあ った (
3
6
)が, 所有 ない
し財産権を法律 に従属 させるのかそれとも法律 よりも優位 に措 くのか, という
点では,議会,および委員会の議席数で有利な条件を持 っていた社会党,共産
党の旧人民戦線派 に軍配が挙が ったと言える。
一方で,企業の国有化 については,その内部管理の問題が人民戦線期以来検
討 されていたにもかかわ らず,憲法規範か らは外 されることとなった。 しか し,
管理形態の問題を政治的力関係の問題 として留保 しなが らも,少な くとも今後
の新たな企業国有化の可能性を示唆する規範 としては評価す ることができる。
7
0
一橋研究 第2
2
巻第 2号
蛇足なが ら,委員会案第2
9
条(
3
7
)(
小委員会第一次案3
0
条) は,
「すべての労働者 は,その代表者を通 じて,労働条件の集団的決定,な らび
に企業,私的設備および公役務の管理 ・運営の機能 に参加する権利を有する」
として,公私問わず管理 ・運営 に対 して労働者が参加できることを規定 してお
1
9
4
6
年 5月1
7日の法律 (
3
8
)) へ とつな
り, この精神 は企業委員会制度の確立 (
3
9
)と言えよう。
がるものであった (
3 本会議における審議
(
1
) 一般討論
さて,一般討論 において,憲法委員会の権利宣言担当個別報告者ザクサスは,
委員会が人権宣言をまとめた目的について次のように述べている。
「
1
7
8
9
年の宣言によって宣明された自由が人民の生活 に入 り込 むにつれて,
民主主義の実践 自身が新 しい自由,新 しい権利の承認の必要性を明 らかにし
1
9
世紀半ば前か ら,貧困 と無知 に囚われつづけている限 り人民大衆 が
た」「
自由を真 に享受す ることはできない し,社会がその手段を与えないか ぎり肉
体,知性,道徳の十全な発展を保障することはで きないのだ, ということに
人民の真の解放を保障するためには, 結社 の 自由を承認
気づ きは じめた」「
しなければな らず,労働者 に組合活動,ス トライキを通 じて彼 らの要求を擁
護す る権利を与えねばな らず,労働者各人 に適切な労働条件, 休息 ・余暇,
彼 とその家族が尊厳ある生活をお くるに十分な生活資料を供給す る賃金の権
利を保障 しなければな らず,すべての市民が教育の恩恵にあずか り,健康を
保護 され, 自らの意志 とは無関係の理由で労働不能 になったときの社会保障
今般 の戦争以来, そ
の権利を享受す ることを認めねばな らないのである」「
して特にファシス ト権力の当初の勝利以来, この権利を認める必要性 は全世
常 により広いより完全な民主主義 な くして は人類
界的に承認 されている」「
にとって救 いはない」「
最初の人および市民の権利の宣言 を世界 に与 えた フ
ランスは, いずれにして も,人および労働者の権利の宣言を作 ることによっ
てそれを完全な ものにする最初の国であ らねばな らない」「委員会 が追求 し
たのはこの目的である」(
4
0
)
このように,現在においては1
7
8
9
年の人権宣言では限界があり,新たに労働者
の諸権利や社会保障の権利を認めなければ, 自由を真に享受す ることができな
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産権論
7
1
いか らこそ,「
人および労働者の権利の宣言」で1
7
8
9
年宣言 を 「完全 な ものに
す る」必要があるとす る。
さらに,宣言案第 2款の社会的経済的権利の位置づけにつ いて,「人間の解
放 と十全な開花を現実 に保障す る真の民主主義の実現 は,--・
窮乏か ら人民を
解放 し,社会を人間に奉仕 させるような権利の承認を要求す る」(
4
1
)とい うこと
が理由になっていることを述べる。
そ して特 に財産権について,それが法律 によって各人 に保障された財産を使
用 ・用益 ・処分す る神聖不可侵の権利であるということは,公益を理由としな
ければ奪われないという1
7
8
9
年宣言の原理 と並んで,財産権 は 「
一般的利益の
ほうに優位性を認めなければな ら」ず,「
今 日では,事実上 の独 占の性格 を持
つ巨大企業を出現 させた現代経済の進歩 によって」別の適用が必要 になってお
り,経済的権力が諸個人の権利 と自由を侵害 していることか ら,公役務 ・独 占
の公共団体への返還の必要を内容 としているとする(
4
2
)
0
最後 に,「自由および政治的権利の宣言が社会的権利の宣言 によ って完全 な
ものになることを,社会進歩が要請 した」のであり, このように 「
人権の第一
の宣言を完全なものに し,修正 し,適合 させることで,委員会 は1
7
8
9
年の人達
によって企図された仕事を誇 りを持 って追求 したと感 じている」(
4
3
)と結 んでい
る。
ザクサスの冒頭報告では,なかで も財産権の問題について特 に時間をさいて
説明 している。 このことは,財産権の問題 こそが新 しい人権宣言の目玉である,
ということを表明 した ものだと言 うことができる。
3月 7, 8E
]の一般討論では,各党派か ら発言 (
4
4
)があ ったが, なかで も自
由共和党 (
Pa
r
t
ir
6
p
u
b
l
i
c
a
i
nd
el
al
i
b
e
r
t
昌), 急進党か らは批判 的な発言が
あった。
Ro
b
e
r
tBr
u
y
n
e
e
l
) は,家族手当,
自由共和党のロベール ・ブリュイネール (
p
r
o
mo
t
i
o
n
)の
社会衛生,社会保障,企業委員会などの生活水準の引き上げ (
憲法の冒頭 に加 え ることは不可
問題 は,立法部の所轄 によるものであって,「
欠ではないと思われる」 とし,財産権については,法律のなかにその源を持っ
ものではな く,法律がその存在 と利用 に則 らねばな らない とす る (
4
5
)o 自由共
和党 は, レフェレンダムの時に第四共和制の建設を否定 していた右翼の流れを
汲む ものであ り,その脈絡で以上のような批判を していると思われる。そのこ
7
2
一橋研究 第2
2
巻第 2号
とは,「もう一度,我々は1
7
8
9
年の権利宣言を もっとも純粋 な もっとも平明な
ままにまかせておこう」(
4
6
)と述べていることか らも推測することがで きる。
,「憲法委員
急進党のエ ドゥアール ・エ リオ (
Edo
ua
r
dHe
r
r
i
ot
) の場合 は
7
8
9
年の理念を維持 しつつ,新 しい時代に刻 まれた観念をそれに付 け加
会 は,1
」「第- の方
えることを望んだが,その仕事を実現するには二つの方法がある
法 は1
7
8
9
年 と1
7
9
3
年の宣言を廃止することにある。 これは委員会が選択 した方
」
法である 「
第二の方法 は,私が正 しいと考え, この演壇 で支持す る ものであ
るが,それを完全なものにす ることによって1
7
8
9
年の文書を維持することにあ
7
8
9
年人権宣言 に代わる新たな人権宣言を作成す ることその も
る」(
4
7
)と述べ,1
のに反対す る。その一方で 「
1
7
8
9
年の宣言には隙間がある」(
4
8
)として,急進党
は,生活権 (
d
r
oi
t
a1a.vie),生産 ・分配計画の確立 に寄与す る労働者 の権
刺,財産権,言論の自由の金権支配か らの解放,戦争の廃止などを内容 とす る
反対案を提出 した (
4
9
)
O この反対案 は,三大政党の反対で否決された (
5
0
)が, 忠
進党のこの一連の発言 ・行動は,同党の第三共和制の擁護の立場か ら来 るもの
と思われる。急進党反対案に対する討論のなかでは, このように指摘 した者 は
いなか った。 しか し, エ リオは, ドレフエス事件 (51
)を例に挙 げて 「
(
1
7
8
9
年の)
人権宣言が共和国を救 ったのだ」 と端な くも発言 し,右翼の拍手喝采を浴びる
班。 この 「
共和国」 は明 らかに第三共和国を指 してお り, この ことか ら急
()
進党が 「
第三共和国を救」 う姿勢 にあることが推定 されよう。
以上のように,一般討論における主要な批判 は,人権宣言を新 しく作成する
ことそのものに対する反対であった。 したが ってディリジスムにかかわる二つ
の潮流 は,各条文の審議の過程で現れることになる。
(
2
) 逐条審議
2
,3
3
条) にかかわ る審議 (
5
3
)は, 3月2
1E]に行 われた。
財産権 (
委員全案3
2
条 につ いては, 人権宣言 の各条文 の うちで最 も長 い議 論 が展 開 され
「第 3
5
4
)
0
たJ(
3
2
条について,農民派, 自由共和党,MRP, ジ ョゼ フ ・ドゥネ (
Jos
e
p
h
De
nai
s
, 自由共和党)
,ルネ ・コティ (
Re
n昌Cot
y,独立共和派) か ら修正案
が提出されたO
農民派の修正案 (
5
5
)は 1項を次のように変更するO
「
財産権 は,各人が,他人の自由および共和国の法律を尊重 して, 自己の労
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産極論
7
3
働の成果 と節約 による蓄え (
道具,動産および不動産)を使用 し,処分する不
可侵の権利である」
農民派のパル ドゥによれば,委員会 は財産権についての不安定で一時的な概念
に行 き着いたのであって,将来の立法者に対 して財産の決定,保障の範囲につ
いてどのような義務 も課 してお らず,相続権や不動産所有を制限 ・禁止するこ
とがで きる。農民派の修正案 は,立法者か ら個人的所有を定義 し縮小す る権利
を取 り上 げる目的を持つ ものだ (
5
6
)
, ということであるO
項を次のように修正する(
5
7
)
0
自由共和党 は1
「
財産権 は神聖不可侵の権利である。その労働 と節約の成果である財産を自
らの意志に従 って収益,処分することは各人の権利である」
Fr
昌d昌
r
i
c
Dupont
) も同様 に, 「不可
自由共和党のフレデ リック-デュポン (
侵である財産権の リス トを決定す るのが立法府であると言 うのは特 に重大であ
り危険であると考える」 と言 うが, さらに正直に 「
財産権の不可侵の原理 にか
ってどのような侵害がなされたこともない」(
5
8
)と財産権の絶対的な不可侵 を示
唆す る。
MRPの案 は 1項を以下のように修正する(
5
g
)
a
「
財産権 は財産を使用 ・収益 ・処分す る神聖不可侵の権利である。各人 は労
働および節約によってそこに到達できるはずである」
MRPのポール ・コス ト-フロー レ (
Pa
ulCos
t
e
Fl
or
e
t
)は,当初,「われわ
れの修正の目的は財産権 に正確な定義を与えることである」 (
6
0
)と述べていた。
しか しなが ら,憲法委員会がMRP修正案の後段を受入れ, 「すべての人 は労
働および節約 によってそこに到達 しうるべ きである」 という文言を委員会案第
1
項の後段 として付 け加えることを提案すると,「
『
法律によって保障された財
産』 という言葉 によって,その所有者が自由に収益 ・処分できるすべての財産
として理解す るということを明確 にする用意があるのな らば,委員会 と合意 し
修正案を撤回する」 と述べ る。結局,MRPも財産権の絶対的不可侵が保障さ
れないことが問題であるという姿勢なのであり, 自由共和党に近 い姿勢である
ことが分かる。
2
条,3
3
条に代えて以下の条文を
ジョゼフ ・ドゥネの個人提案は,委員全案3
置 くものである。
「すべての市民 は,その財産権を圧政の手段,他人の労働の正当な成果の纂
7
4
一橋研究 第2
2
巻第 2号
奪の手段 にしないという条件で,財産 ・収入 ・労働および節約の成果を自らの
意志 に従 って収益 ・処分す る権利を有す る。
何人 も,同意なき場合,適法に確認 された公益を理由としない場合,裁判所
によって定め られた正当かつ事前の補償なき場合 は,その財産権のどんな小 さ
な部分 も奪われえない」(
6
1
)
ドゥネは,「この修正案 は我々の同志であるフレデ リック-デ ュポ ン氏, そ し
てコス ト-フロー レ氏, ジャック ・パル ドゥ民 らと同じ精神によって沸き起 こっ
た ものである」 として,「
収入 ・労働および節約の成果」 がない と混乱 す るこ
法律 によって各人に保障 された」 という文言 は中小の財産, 中小産業 に
と,「
もその うち非常 に強い打撃を与えることが可能 となることなどを主張す る。そ
して, ドゥネは,一方で 「その財産権を圧政の手段,他人の労働の正当な成果
の纂奪の手段 にしないという条件で」 という言葉 には, まず第一に経済的独裁,
独 占,濫用 された トラス トの非難が込め られているのだ, と説明する。 しか し,
その解決方法 については沈黙 し,逆 に,事実上の独 占の国有化については立法
者 にその権利があるか ら人権宣言か ら削除すべ きだ, と,立法裁量 に委ねる態
度を明 らかに している。 しか も国有化の観念 として 「国家 の独 占 (
monopol
e
d'
Et
a
t
)」が念頭 に置かれてお り,CNR綱領の 「国民への返還」 とは異なる
α
)
0
観念であることを示 している (
MRPが修正案を撤回 し,残 りの三提案が投票で否決 されたあ とで, コテ ィ
の修正案の審議 に移 った。修正案 は 「
法律によって各人 に保障された財産」 と
いう文言を 「
法律 に従 って獲得 された財産」 に替えるものであった。 これにた
い し, カピタンとコス ト-フロー レが同調 したが,投票 によって否決 され, こ
うして3
2
条 1項 は若干 の変更が加 え られて ほぼ委員会案 どお りに採 択 され
た(
6
3
)
0
3
2
条 2項 については, 自由共和党, ドゥネ,MRPより, いずれ も 「
事前の
補償」を求める修正案が出されたが,否決 された く
6
4
)
0
3
3
条 1項 については何の反対 もな く採択 された。 この点 については 「
本来そ
こで取 り上 げ られるべき問題を第二項 に関す る討議の場に移 し,それ と関連づ
けて展開することが考え られていた, とひとまず見 るべ きであろう」(
6
5
)
0
3
3
条 2項 について, 自由共和党,カ ピタン,MRPか ら修正案が提案 され
た。
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産権論
7
5
自由共和党の修正案 (
6
6
)は次のような長文かつ根本的な ものであった。
d
o
ma
i
n
ep
u
b
l
i
c
)の維持,国内外 の安全 に寄与 す る役務 の直
「
公有財産 (
接の運営の他 は,国家の基本的な使命 は,国の骨組みを形成す る経済的社会
的諸力の活動を調整することである。
国家 は,それ らの紛争を調停 し,その均衡に気を配 り,個人の自由と民族
の独立を保障す る。
公権力は圧政のきざ しとなるような産業ない しは人の集中を予防すること
を基本的な任務 とす る。その規模の大 きさによって経済的均衡 に害を与える
性質を もつ諸制度は,競争 自体が生み出 したものと同 じ条件 に戻す ために,
公権力のコン トロールに服さなければな らない。
いかなる場合にも国家 は,そのような制度を獲得するに足 る正当な理由を
持たない」
,
この修正案 についてフレデ リック-デュポンは 「われわれ は事実上 の独 占の
,
委員会案で不快に思 った点 は,事実上 の
根本的な廃止を支持 している」が 「
独 占の不可欠な消滅 と国家による財産の取得 との間に自動的な連関があり,あ
たか も国家が触手を伸ばすことで取得するより他 に独占の廃止の方法がないか
のようなところである」, と説明する。彼 によれば,国有化 とは 「国家 トラス
ト」 による取得そのものであって,独占をそのようなものに置 き換えることは
重要ではない (
6
7
)
,のである。 このように してフレデ リック-デ ュポ ンら右翼
は,国有化の内容が 「
国民への返還」だとす るCNR綱領の路線に対 して真 っ
向か ら挑戦するのである。結局, 自由共和党の修正案 は否決された。
カピタンの修正案 (
6
8
)は次のとお りであるC
「
事実上 または法上の独 占の利益にあずかるすべての企業 は,公役務 として
経営 されねばな らない」
カ ピタンは,国有化の問題では, どのような時に国有化す る理 由があるのか,
国有化の様式はいかなるものか,の二つの論点があると言 う。
第一の論点につき,委員会案が理由とす るもののうち,事実上の独 占は明白
であるが,公役務 については唆味で,む しろ国有化 したときに公役務が存在す
るのであって,公役務 は事実上の状態ではな く,法上の状態だ, と主張する。
第二の論点については,第一の論点で言明 したように公役務 こそが国有化で
,
あるのだが 「
条文のなかに,収用するにせよ,いろいろな多様性 において必
7
6
一橋研究 第2
2
巻第 2号
ず Lも収用を伴わない公役務の制度に企業を服せ しめるにせよ,立法府 にその
ような可能性を残す ヨリ柔軟な定式を採用す ることが望 ま しい」(
6
9
)とする。
カ ピタンが提示す る第-の論点 は,公役務を国有化 と同一視することによっ
て結果的には独 占のみを 「
公役務化」するという主張 に帰着す る。すなわち対
7
0
)の構想が ここで主張 されているのである。 また,
象を独 占に限 った CGE(
第二の論点では必ず しも所有の移転を伴わないことを主張す るため,結局 は独
占を私有のまま温存す る形態を許容す る。 カピタンは,委員会案の 「
公共団体
の所有」の内容が酸味であることを正当にも指摘す るのであるが,それを,例
えば三者管理方式のような,「国民への返還」 というCNR綱領路線 に沿 って
解決す るのではな く,結論 として独 占を容認する方向へ向か うのである。
MRPの修正案 (71
)は
「
公共団体の所有 にな らなければな らない」 を 「特定
の利益 に奉仕することをやめなければな らない」 とす るものである。
MRPを代表 して ア ンリ-ルイ ・グ リモー (
He
n
r
i
Lo
u
i
sGr
i
ma
u
d
)は,
公役務を充足す るにもっとも適 した解決,つまり混合経済会社や, より有利で
あ りうる他のあ らゆる形式を立法府が採用す るのを許容するのが, この修正案
の理由であるとした。 これに対 し,個別報告者ザクサスは 「
特定の者の所有で
あることをやめることは,公共団体の所有 になることである」 とのべ,委員会
案を維持 しようとした。 しか し,MRPが,特定の者の所有をやめるというの
は我々の主張で (フランソワ ・ド・マ ントン
(
F
r
a
n
c
o
i
sd
eMa
n
t
h
o
n
)発言)
あり,修正案の 「
特定の利益 に奉仕することをやめる」を 「
特定の者の所有で
あることをやめる」 に変更す る (ロベール ・ル クール
(
Ro
b
e
r
tLe
c
o
u
r
t
)発
言) と言 うと,ザクサスはそれに応 じ,両者 は妥協 しようとした。 ところが こ
こで共産党のファジョンが委員会原案 はCNR綱領の適用であることを主張す
ると,ザクサスは結局 「
国民へ返還 しなければな らない」 という文言を提案 し,
MRPはそれに応 じず,MRPの修正案 は否決 されることになった (
7
2
)
.
MRP修正案の提案をきっかけに して,社会党 ・共産党の意図が CNR綱領
7
3
)であ ること
の意法化であることと,MRPは実際にはCNR綱領 に否定 的 (
が明確 になったと言えよう。
(
He
n
r
iJ
o
a
n
n
o
n
,独立共和派) ら三名の修正
3
条 の後 ろに新 たに 1条 を設 け るMRPの提 案 と, デ ロ ン- ソルベ
秦 ,3
(
De
l
o
mS
o
r
b
昌
,UDSR)の提案 は撤回されたO
その他, ア ンリ・ジョアノン
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産権論
7
7
委員会 は 「
公役務」を 「
国民的公役務」 に替えた案を最後 に提案 し,それが
3
3
条 2項 として採択 された。
委員会案3
2
条,3
3
条 は, 4月1
9日の第二読会 において3
5
条,3
6
条 として採択
されることになる。
財産権をめ ぐる議論 における争点 は,財産権を法律の留保 の もとにお くか,
それとも絶対不可侵の自然権 とするか,および,独 占と公役務の性格を もつ企
業を公共団体の所有 にするかどうか,の二点であった。財産権の絶対不可侵性
の否定 と 「
公共団体の所有」 との総合は,国有化を積極的に政策化す る法的根
,「公共団体 の所
拠 となりうるものであった。ただ,既 に述べたことであるが
有」 という表現を妥協的に採用 したことによって,旧人民戦線派 -CNR
綱領
派が戦前か ら主張 して きた 「
三者管理方式」 を内実 とす る6t
at
i
s
at
i
onでない
nat
i
onal
i
s
a
t
i
onは, この段階ですでに意法規範化 か ら抜 け落 ち, 参加 の原理
は企業委員会制度 (
委員全案2
9
条) に解消 されることになって しまったのであ
る。
三
四月草案 における財産権規定の意義--むすびにかえて
1 四月草案のゆくえ
9日に3
0
9
対2
4
9(
社会党,共産党,アルジェリア ・
憲法制定国民議会 は, 4月1
イスラム派など)でほぼ委員全案 どおりの内容の草案 (
7
4
)を可決 した。 委員会
2
,3
3
条 は3
5
,3
6
条 となった。
案3
四月草案 は,1
9
4
6
年 5月 5日に レフェレンダムに付 され,登録有権者2
5
8
2
万
9
4
2
5
人のうち,2
0
5
6
万7
3
7
5
人が投票 し,賛成 9
4
5
万4
0
3
4
票,反対1
0
5
8
万4
3
5
9
票
)
。社会党 ・共産党が賛成のキ ャンペー ンを行 い,MRP .忠
で否決 された (75
進党 ・右翼などが反対運動を行 った。
急進党 は第四共和制その ものに反対す る姿勢を維持 している。 「権利 の戯画
化」 とか 「
国家による個人の吸収,経済活動 におけるあ らゆる自由分野 と市民
,
以前の制度,
の生活におけるあ らゆる実際の独立の抑圧」などと宣伝 したが 「
伝統的な個人的共和主義への愛着のために, ノンのためのあ らゆるキャンペー
7
6
)のである。
ンを行 った」(
右翼 も基本的に第四共和制反対の立場か らの反対であるが,特に 「
憲法案は,
財産権を廃止することを許容 している」(
7
7
)といった経済的支配階級 としての立
7
8
一橋研究 第2
2
巻第 2号
場 も正直に表明 していた。
レフェレンダムに大 きな影響を与えたMRPは,憲法制定議会 における態度
と同 じく反対 した。MRPの宣伝 は基本的には 「
多数党の独裁に道を開 く」 と
いうものであったが,「ウィは臨時状態を長引かせ る」(
7
8
)とい うデマに近 い宣
伝 もあった。
反対派は以上のように様々な立場を含んでいるが,「
共産党 を含 む多数派 の
危険性 という点で一致 して」(
7
9
)いたのである。
ドゴールは沈黙 していたようである(
8
0
)
. しか し, ドゴールが反対 を呼 びか
けているというビラがまかれたことが,その真偽 にかかわ らず レフェレンダム
に一定の影響を与えたことは間違いないであろう。
世論調査 (
8
1
)によれば,反対投票の理由の3
3
%が 「共産党 に反対 して」 とい
うものであったO これは反対派の反共産党キャンペーンが見事に成功 したこと
を表 しており,「
草案の内容 と不可分に結 びついた共産党 の支配す る議会 に対
するn
o
nを意味すると理解 さるべきであろう」¢
2
)
。 しか しここでなぜ 「共産党
に反対」なのかが, さらに問題 となる。私見だが,かつて レジスタンスの闘い
に足を踏みだす ことに蹄曙 した多 くの国民 は,戦後 も根強いカ トリシスムの影
響下にあり,一方で レジスタンス- ドゴールの定式 に囚われていたと思われる.
したが って,カ トリック政党であり,かつ 「ドゴールの信奉者」 と見徹 されて
いたMRPの意志が勝利するよう投票 したのではないだろうか。
2 結
このように四月草案 はレフェレンダムによって否決 された。議会構成で優位
に立 っていた左派主導の憲法草案を国民 は支持するに至 らなか ったのであ る。
しか しなが らあえて ここであ らためて,四月草案 における財産権の議論の意義
を考えて見たい。
まず,経済的社会的権利が,財産権の一定の制限を伴 って承認 されたことは
特筆に値す る。そ してなかで も,独占および公役務の企業を公共団体の所有に
転換す るという規定 は,絶対的神聖不可侵性をはぎ取 られた 「
法律 によって保
障された財産」 という規定 と連動 して,憲法が国有化の積極的な推進を奨励す
ることを意味する。 しか も, この国有化規定 は,条文上,経済的社会的権利の
一環 となるように位置づけられ うるもので,単なる政策ではな く人権保障の内
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産権論
7
9
実をなす もの と して考え られねばな らない。 そ して加えて,CNR綱領 の 「匡l
民への返還」を意法規範化す ることに成功 した ものであると言え るだろう。
戦前か らの右翼を除いては, どの党派 も,特 に与党三党 の レベルにおいては,
何 らかの意味でのデ ィリジスムは承認 していると言 ってよい。問題 はそのデ ィ
I
)ジスムの中身であ り,国民参加型 を 目指 していた勢力 と,管理運営 の問題 を
不問に し,結果 として国家管理型を許容す る勢力 との争 いであ った, と言 うこ
とがで きよう。 そ して結局, 四月草案 も妥協の産物の性格 を免れず,反国家管
理型を明文を もって徹底す ることはで きなか った。 この ことは,それ以後の国
家管理化 の巻 き返 しを許す火種を残 した もの と考え ることがで きる。 しか し,
財産権 の制限 と国有化 に現れたデ ィ リジスムは, その完全 な意味においてでは
ないに して も, ここではどち らか といえばn
at
i
ona
l
i
s
a
t
i
onの指 向性 (
8
3
)を持 っ
ていたのである。
よ く知 られているとお り,1
9
4
6
年1
0月 に第四共和制憲法 が制定 されて以 降,
現在 にいたるまで, フランスは非常 に官僚支配 の強 い国 とな っていった。 なぜ
官僚支配 に至 るのか という問題 は,別途歴史的な分析が必要であろう。 しか し,
国有化,計画化 に現れるよ うなデ ィリジスムによる政策 は, そ こに国民参加 と
い う管理形態を付与 しなければ,容易 に官僚主義 に転化 しうるということは少
な くとも言えるのではないか。
フランスと並んで官僚支配が強いとされる日本 は, フランスのように,憲法
のなかに国有化 に関す る規定があるわけではない。 したが って, この事象 自体
はフランスに特殊 な ものか も知れない。 しか しなが ら,官僚支配が強いとい う
点で は共通 しているのであ り,同様 に考えることは不可能で はないだろう。今
,「国民参加」 の導
般,規制緩和が叫ばれているが,官僚支配 の解決策 と して
入 も検討 の対象 としてあ りうるので はないだろ うか。
一橋研究 第2
2
巻第 2号
(1) J.
0.
,Loi
se
tD昌
c
r
e
t
s,1
9
8
2,pp.
5
6
6
5
7
1
.
(2) ダラン・ラルースによれば, デ ィ リジスムとは,「直接間接 を問わず,
国家が介入すること (
i
nt
e
r
v
e
nt
i
on)によって経済活動を指導す るシステ
ム」 とされ, しか もそれは 「
資本主義経済の枠組みを維持す る」 経済政策
Cf
.Gr
and di
c
t
i
onna
ir
ee
nc
yc
l
op昌di
que
であ る, とな って い る (
。 また,単 に 「
統制経済主義」 とされ る場合 もあ る。
Lar
ous
s
e,p.
3
2
8
3
)
権力的な)統制」的契機を必ず含むのか,「
資本主義経済 の枠
しか し,「(
組みを維持する」 ことを必然 とするのか, については議論の余地 があ ると
思われる し, また,「
i
nt
e
r
v
e
nt
i
onni
s
me
」 と同義で用 い られ ること も多
い。 したが って,私 は当面,一般的な 「
介入主義」の訳語を当て ることに
する。
(3) 日本においてディリジスムを憲法学の側か ら取 り扱 った文献 は殆 どない。
筆者が参腰することがで きたのは,樋 口陽一 『現代民主主義 の憲法思想』
r
i
gi
s
meの観念」 (
創文
第五章 「フランスにおける 「
憲法」のあ りかたとdi
9
7
7
年)のみである。経済学 の側か ら扱 った もの と して遠藤輝 明編
社,1
『国家 と経済
フランス ・デ ィリジスムの研究』 (
東京大学出版会,1
9
8
2
年)
がある。
(4) 後 にグーアン政府 に入閣のため, 社会党 のギイ ・モ レ (
Guy Mol
l
e
t
)
に交替。
(5) Cf
.L'
ann6
epol
i
t
i
que
,1
9
4
4
1
1
9
4
5,pp.
3
6
0
3
6
1.
(6) J.
0.
,Loi
se
tD6
c
r
e
t
s,1
9
4
5,p.
7
1
5
9.
(7) 当時の政府 は,共産党,社会党,MRPの三党連立政府であ り, 社共 と
MRPのあいだでは,戦後構想 についての相違があった。
(8) As
s
e
mb1
6eNat
i
onal
e Cons
t
i
t
uant
e 昌1
ue l
e2
1 oc
t
obr
e1
9
4
5,
S6anc
e
sdel
ac
omm
is
s
i
on del
ac
ons
t
i
t
ut
i
on,c
ompt
e
sr
e
ndus
以下,S.
C.
C,
C.
と略記する) ,p.
1
5.
anal
yt
i
que
s(
mus
ul
manal
g6
r
i
e
n) のモアメ
(9) その他 アルジェ リア ・イスラム派 (
ド・バ ンジェルール (
Mobame
dBe
ndj
e
l
l
oul
) らのアル ジェ リアにつ い
ての擁案, ジャック ・パル ドゥ (
Jac
que
sBar
doux,農民派) の最高法
院についての提案があった。 また,権利宣言 についての第一読会 が終了 し
9
4
6
年 3月2
8日にジャン-ピエール ・ジロ ドゥ (
Je
anPi
e
r
r
e
たあとで,1
Gi
r
audoux,MRP)の個人提案があった。
(
1
0
) J.
0リDoc
ume
nt
sdel
'
As
s
e
mbl
昌
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i
onal
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t
uant
e,Anne
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N
a
4
4,pp.
5
8
6
2;R.
D.
P.
,t
.
6
2,pp.
1
6
4
1
7
4
,後者を参照 したO
(
l
l
) J.
0.
,
Doc
ume
nt
sdel
'
As
s
e
mb1
6enat
i
onal
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t
ua
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e,Anne
xe
N
o
.
2
0,pp.
2
5
2
8;RD .
P.
,i
.
6
2,pp.
1
5
6
1
6
4
,後者を参照 した.
(
1
2
) J.
0.
,
Doc
ume
nt
sdel
'
ss
A
e
mbl
e
占nat
i
onal
ec
ons
t
i
t
uant
e,Anne
xe
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産権論
81
N
m
3
8,pp.
5
0
5
6
(
1
3
) S.
C.
C.
C.
,p.
2
8.
(
1
4
) S.
C.
C.
C"p.
1
6
8.
(
1
5
) S.
C.
C.
C.
,pp.
1
6
8
2
0
8.
(
1
6
) Cf
,S.
C.
C.
C.
,p.
1
6
9.
(
1
7
) S.
C.
C.
Cリp.
1
7
1
.
(
1
8
) S.
C.
C.
C.
,pp.
1
6
91
7
0.
(
1
9
) S.
C.
C.
Cリpp.
1
7
2
1
7
3.
(
2
0
) S.
C.
C.
Cリp.
1
7
0.
(
21) S.
C.
C.
C"p.
1
7
4.
(
2
2
) S.
C.
C.
C.
,p.
2
07.
(
2
3
) 小委員会の案,特に 「
社会的経済的権利」 について は,S.
C.
C.
C.
,pp.
3
0
4
31
9を参照 した。
(
2
4) フランス革命における1
apr
opr
i
占
t
占およびl
e
spr
opr
i
6
t
占
Sの概念 につい
6
2
貢以下 (
創文社,1
9
9
7年) 杏
ては,田村理 『フランス革命 と財産権』1
参照O ここでの 「
l
apropr
i
6
t
6
」 は,いわゆる民法上の所有権よ りも広 い
7
8
9
年人権宣言 2条の 「
l
apr
opr
i昌
t
昌
」のような,
概念 と考えられる一万,1
財
「自己に対する所有」 という概念まで含んだ ものとは考えがたいため,「
産権」 と訳 した。
a
民法上の所有権 という意味では, 2項の 「
droi
t l
apropr
i
6
t
昌
」 がそ
4条で も使用 してお り, ここで
れに近いと思われるが,一方で同 じ用語を3
a
の 「
droi
t l
apr
opr
i
6
t
昌
」 はむ しろ民法上 の所有権 を超 えた様 々な経
済的利益を含みうるものであると考え られる。用語上の区別が原文でなさ
れていないため, こちらについては機械的に 「
所有への権利」 と訳 した。
(
2
5
) S.
C.
C.
C.
,p.
3
1
8.
(
2
6
) コットは人民戦線内閣に空軍大臣として急進党か ら入閣 した人物 だが,
解放後 は急進党に所属 しなが ら共産党のシンパであった。
(
2
7
) 渡辺司 「フランス戦後再建期 「国有化」 と公企業管理法制の展開 (
-)」
早稲田大学大学院法研論集3
1
号2
1
9頁。社会党 の 「社会化」概念 について
は同論文を参照。 また,あわせて,稲本洋之助 「フランスにおける戦後改
97
4
年)を参照。
学出版会,1
(
2
8
)3
0条 「
すべての労働者は,代表者を介 して,労働条件の集団的決定, 企
業,私的施設および公役務の指導および経営の作用に参加す る権利 を有す
る」
(
2
9
) 中木康夫氏 は, この概念について,「
国有化」 と区別 して 「国民化」 と
国民的所有 ・国民代表 による管理」 を
表記する。国家的所有ではな く,「
5
5頁以下 (
未来社,
表す ものである。中木康夫 『フランス政治史 中』1
8
2
一橋研究 第2
2
巻第 2号
1
9
7
5
年)
0
(
3
0
) 原輝史 『フランス資本主義 成立 と展開』3
6
1
貢以下 (日本経済評論社,
1
9
8
6
年)参照。
(
3
1
) 原輝史氏 は,「国有企業の経営管理への国民 の参加度 を分類 の基準 とす
べ き」(
原前掲書3
8
1
貢)だとして,管理主体による分類を提唱 し,三者管
理方式の導入の度合で分類する。なお,三者管理方式について は, 席 田功
『
現代 フランスの史的形成 両大戦間期の経済 と社会』1
2
3
貢以下 (
東戻大
9
9
4
年)参照。
学出版会,1
(
3
2
) ノール ・パ ドカ レ炭田については,1
9
4
4
年1
2
月1
3日のオル ドナ ンス,∫.
0.
,0r
donnanc
e
se
tD占
c
r
e
t
s,1
9
4
4,pp.
1
8
7
6
1
8
7
9
.ルノーについては,
1
9
4
5
年 1月1
6日のオル ドナンス,J.
0.
,0r
donnanc
e
se
tD昌c
r
e
t
,1
9
4
5,
pp.
2
2
2
2
2
4
。 もっとも, ドゴールが政府首班を辞任 した後に, 三者管理方
式を採用 した企業国有化が囲 られるが,それは憲法草案の議論 が本会議 に
移 されてか らさらに しばらくたって,四月に入 ってか らのことである。
(
3
3
) S.
C.
C.
C.
,p.
3
9
1
.
(
3
4
) ピェールニコットの発言。S,
C.
C.
C.
,p.
3
1
8.
0日に採択 された3
2
条 1項 は,「
不可侵かっ神聖 な権利」 と してい
(
3
5
) 2月2
たが,3
月1
5日の修正で 「
神聖な」が削除された。S.
C.
C.
C.
,p.
5
6
7
;J.
0.
,
D昌
bat
sdel
'
ss
A
e
mb1
6
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,p.
9
5
4.
f
.S.
C.
C.
C.
,p.
5
6
7.
(
3
6
)C
.J.
0.
,D占
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
占
eNat
i
ona
leCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
(
3
7
) Cf
p.
8
8
0.
(
3
8
) J.
0.
,Loi
se
tD6
c
r
e
t
s,1
9
4
6,p.
4
2
5
1
.
(
3
9
) 田端博邦 「フランスにおける労働者参加制度一 企業委員会制度 の成立
6巻 6号 ・2
7
巻
と展開 (
-)(
二)」東京大学社会科学研究所社会科学研究2
1号参照。
(
4
0
) Cf
.J.
0.
,D昌
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
占
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
p.
6
0
6.
(
4
1
)i
bi
d.
(
4
2
) Cf
.i
bi
d.
(
4
3
) 以上,C
f
.i
bi
d.
(
4
4
) 各発言については,中村睦男 「フランス憲法における社会権の発展 (
三)
(
完)」北大法学論集1
5
巻 2号1
3
7
1
4
4
貢参照。
(
4
5
) Cf
.a.
0.
,D占
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
占
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
p.
6
1
0.
(
4
6
) Cf
.J.
0.
,D占
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
占
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
p.
6
0
8.
(
4
7
)C
f
.J.
0.
,D占
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
昌
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
ua
,
n上
e,1
9
4
6,
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程における財産権論
8
3
p.
6
3
6.
0.
,D6
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
占
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
(
4
8
) Cf
.J.
p.
6
3
8.
0.
,D昌
bat
sdel
'
As
s
e
mb1
6
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
(
4
9
) Cf
.J.
p.
6
7
0.
(
5
0
) Cf
.J.
0りD6
bat
sdel
'
ss
A
e
mbl
占
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e
,1
9
4
6,
pp.
6
7
3
6
8
0.
年にユダヤ人の ドレフエス (
Al
f
r
e
dDr
e
yf
us
)大尉 が無実 の罪で
(
5
1
)1
8
9
4
逮捕,流刑に処された事件で, これをきっかけに反議会共和制勢力 (
反ド
レフエス派) と議会共和制擁護勢力 (ドレフエス派) との対抗が激化する。
ドレフエスは再審無罪 となり,議会共和制が擁護 されるが, ドレフエス派
の有力な勢力 として植民地帝国主義路線をとる上層金融界もいた。 ドレフエ
ス事件の意義について,さしあたり,中木康夫 『フランス政治史 上』3
1
2
頁参腰 (
未来社,1
9
7
5
年)
.
3
3
7
(
5
2
) Cf
.J.
0リD占
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
占
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
p.
6
3
8.
(
5
3
) 経済的社会的権利の部分についての各条文の審議は, 中村前掲論文 1
5
0
1
7
2
頁O
(
5
4
) 同1
5
9
頁。
(
5
5
) Cf
.J.
0リD昌
bat
sdel
'
ss
A
e
mb1
6
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e
,1
9
4
6,
p.
9
5
4.
(
5
6
) Cf
.J.
0リD昌
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
占
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
pp.
9
5
4
9
5
5.
(
5
7
) Cf
.J,
0.
,D占
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
昌
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
p.
9
5
4.
(
5
8
) 以上 Cf
.J.
0.
,D古
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
占
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
ua
nt
e,
1
9
4
6,p.
9
5
5.
(
5
9
) Cf
.J.
0.
,D6
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
占
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
p.
9
5
4.
0.
,D昌
bat
sdel
'
ss
A
e
mbl
占
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,p.
(
6
0
) J.
9
6
0.
-
1
) J.
0.
,D占
bat
sdel
'
ss
A
e
mbl
占
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,p.
(
6
9
6
0.
(
6
2
) 以上 Cf
.J.
0.
,D6
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eCons
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i
t
uant
e,
1
9
4
6,pp.9
6
0
9
6
1
。 なお, CNR綱領 の該当部分 につ いて は, He
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i
Mi
c
he
le
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Gue
t
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0
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i
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s
i
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e
",pp.
2
1
5
2
1
8,Par
i
s,1
9
5
4
(
6
3
) 以上 Cf
.J.
0.
,D6
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
昌
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
ua
nt
e,
8
4
一橋研究 第2
2
巻第 2号
1
9
4
6,pp.
9
6
4
9
6
7
。
(
6
4
) Cf
.J.
0.
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bat
sdel
'
ss
A
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mb1
6
eNat
i
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e,1
9
4
6,
pp.
9
6
7
9
6
8.
(
6
5
) 稲本洋之助 「フランスにおける戦後改革 一 意法制定国民議会期 の国育
化問題を中心 として」東京大学社会科学研究所編 『
戦後改革 2 国際環境』
1
9
0
頁 (
東京大学出版会,1
9
7
4
年)
0
(
6
6) J.
0.
,D昌bat
s de l
'
As
s
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i
ona
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t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
p.
9
6
8.
(
6
7
) 以上,Cf
.i
bi
d.
(
6
8) J.
0.
,D6bat
s de l
'
As
s
e
mbl
占e Nat
i
onal
e Cons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
p.
9
6
8.
(
6
9
) 以上,Cf
.J.
0.
,D占
bat
sdel
'
As
s
e
mb1
6
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,
1
9
4
6,pp.
9
6
8
9
6
9.
(
7
0
) Comi
t
6g占
n6
r
ald'
Et
ude
s
, レジスタンス運動 の中で比較的 ドゴール
に近い人たちによって結成 された戦後政策の研究機関。 政策文書 と して,
1
9
4
3年 11月 に 「戦 後 の経済 政策 につ いて の報 告 」 (Re
n昌 cour
t
i
n,
'
'
Rappor
ts
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r
r
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r,
1
9
4
4
)を発表 した。
(
71) J.
0.
,D昌bat
s de l
'
As
s
e
mbl
占e Nat
i
onal
e Cons
t
i
t
uant
e,1
9
4
6,
p.
9
6
9.
(
7
2
) 以上,Cf
.J.
0.
,D昌
bat
sdel
'
As
s
e
mbl
昌
eNat
i
onal
eCons
t
i
t
uant
e,
1
9
4
6,pp.
9
6
9
9
7
0,
(
7
3
) MRPはCNR綱領の文言をそのまま採用するザクサスの最終的な提莱
国民の処分下 に置かれねばならない」 とい う逆提案 を し, これ
に対 し,「
CNRと同 じ定式だ」 とした。 しか し, もしMRPが CNR綱領 に忠
を 「
実ならばザクサス提案 は当然受け入れなければならないはずである。
(
7
4
) 四月草案全文については,Cf
.LDugui
t
,H.
Monni
e
r,R.
Bonnar
d,
e
tG.
Be
r
l
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且,"Le
島Cons
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s1
7
8
9",pp.
5
1
8
5
3
5,Par
i
s,1
9
5
2
0
(
7
5
) Cf.L'
ann昌
epol
i
t
i
que,1
9
4
6,p,
1
2
5,
(
7
6
) Cf
.Gi
l
be
r
tBor
t
ol
i
,"Soc
i
ol
ogi
edur
6
f
6
r
e
ndum damsl
aFr
anc
e
mode
r
ne'
'
,p.
5
2,Par
i
s,1
9
6
5.
(
7
7
)i
bi
d"p.
5
2.
(
7
8
) Cf
.i
bi
d.
,p.
5
1
.
(
7
9
) 清田雄治 「フランス第四共和国意法制定国民議会における 「
議会統治制」
9
号1
0
8
貢。
論 (
三)」愛知教育大学社会科学論集2
(
8
0
) Cf
.Bor
t
ol
i
,op.
°
i
t
.
,p.
5
4.
(
8
1
) Cr
.Bor
t
ol
i
,op,
°
i
t
.
,pp.
5
8
5
9.
フランス第四共和制憲法四月草案制定過程 における財産権論
8
5
(
8
2
) 清田前掲論文1
11
頁。
(
8
3
) この同 じ時期の憲法制定国民議会が,相次いでいわゆる三者管理型 の企
業国有化を決めたことは象徴 的で あろ う。 例 えば, 全石炭産業 の国有化
(
I.
0.
,Lo
i
se
tD昌
c
r
e
t
s
,1
9
4
6
,pp.
4
2
7
2
4
2
7
7
)は四月草案が レフェ レン
月2
7日の ことであった。 この点 につ き, 原前掲
ダムで否決 されたのちの5
書3
8
2
頁以下。
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