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魅力ある“個店づくり”に動き始めた商店街

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魅力ある“個店づくり”に動き始めた商店街
魅力ある“個店づくり”に動き始めた商店街
~地域商業活性化の新しい流れ~
主席研究員
岸本高昌
Takamasa Kishimoto
要 旨
■商店街は地域商業の約4割を担っているものの、衰退傾向が続いている。来街
者が減っている要因は、 魅力ある店舗の減少や多様な種類の店の不足であり、
商店街には地域住民の日常生活に不可欠な商品・サービスや特産品等地域を代表
する商品の提供が望まれている。
■そうした中、商店街活性化の流れが大きく変わろうとしている。従来のような
“賑わいづくりのイベント”により商店街全体として来街者を増やすのではなく、
「 1 0 0 円商店街」「バル」「まちゼミ」といった魅力ある“個店づくり”を基本に、
来店客を増やすことによって商店街の活性化につなげようという発想の転換で
ある。
■商店街の活性化に新たな流れを作り出していく上でのポイントは、①街に人を
呼び込むのではなく、店に呼び込み、 店のファンになってもらうこと、②商店
街の組織にこだわらず、 志を持った人たちが中心になって取り組むこと、③費
用をかけずに、 自分たちの力だけで取り組んでいくこと、 となる。今後、大型
店等にはない「日常会話のある商店街」を目指し、“魅力ある個店づくり”への参
加の輪が広がっていくことに期待したい。
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SERI Monthly November 2013. No.587
図表1 商店街の最近の景況
(n= 2866、%)
繁栄している
1.0
図表2 最近3年間の商店街への来街者数の変化
(n= 2866、%)
無回答
2.2
繁栄の兆し
がある
2.3
増えた
6.7
無回答
3.4
変わらない
17.3
衰退している
43.2
まあまあ
(横ばい)である
18.3
減った
72.6
衰退の恐れ
がある
33.0
図表3 最近3年間の商店街への来街者数の減少要因
(上位5位、MA)
0
10
20
30
40
(%)
60
50
魅力ある店舗の減少
55.2
業種・業態の不足
52.2
近郊の大型店の進出
50.3
地域の人口減少
駐輪場・駐車場の不足
42.1
13.8
資料:中小企業庁「平成24年度商店街実態調査報告書」
<地域商業の現状と課題>
衰退傾向に歯止めがかからない商店街
商店街・地域商業の衰退・疲弊が続いている。
「減った」とする回答が 7 2 . 6 %にもなる(図表2)。
「商店街実態調査報告書」
(中小企業庁)により
こうした状況の中、地域商業の活性化に向け
最近の景況をみると、
「衰退している」4 3 . 2 %、
て、従来のにぎわいづくりのためのイベント事業
「衰退の恐れがある」3 3 . 0 %で、 7割以上の商店
とは異なる試みが行われるようになってきてい
街で
“衰退”
ないし“衰退の恐れ”に直面している状
る。
況にある
(図表1)。実際、1商店街当たりの空き
本稿では、現在の商店街が抱える課題を概観し
店舗数は、 平成 1 5 年度が 3 . 9 店であったのに対し
た上で、静岡県内で始まっている“魅力ある個店
て、平成 2 4 年度には 6 . 0 店と、 増え続けている。
づくり”に取り組む商店街の活動を通して、これ
また、最近3年間の商店街への来街者数をみる
と、
「 増 え た 」と す る の は 6 . 7 % に と ど ま り、
からの商店街・地域商業活性化のあり方を考えて
みたい。
SERI Monthly November 2013. No.587
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魅力ある“個店づくり”に動き始めた商店街
上に、商店街を構成する個店自体に問題があるこ
減少傾向にある商店街への来街者
~原因は魅力ある個店の減少~
とがわかる。
わが国の商店街の年間小売販売額は 5 3 兆円で、
また、消費者は商店街に対してどのような役割
小売業全体の 3 9 . 4 %を占めている。同様に、商
を期待しているのであろうか。“商店街の経済及
店数は 4 3 万店で 3 7 . 6 %を占め、従業者数も 2 9 4
び社会への貢献”について、 商店街と消費者それ
万人で 3 8 . 8 %と、いずれも約4割を占めており、
ぞれから聞いたところ(中小企業庁「全国商店街調
商店街は小売商業の重要な担い手として大きな存
査」)、「生活に不可欠な製品、サービスの提供」と
在となっている。とくに、商店街は単なる商品・
「生活にゆとりをもたらす製品、サービスの提供」
サービスの提供の場であることを超えて、コミュ
については、商店街、消費者ともに比較的貢献度
ニティやネットワークの場としての機能といった
が高いと評価している(図表4)。
地域住民にとって必要となる公共的機能も担って
一方、商店街と消費者とで、 評価の違いが大き
おり、地域の暮らしを支える中核的な存在であ
かったのは、「地域のイベントや活動への参画」
る。
で、商店街では“貢献している”との回答が多かっ
ところが、前述したように来街者は減り、商店
たのに対して、消費者はそれに対して貢献してい
街は衰退傾向に歯止めのかからない状況が続いて
るとはあまり認識していない結果となっている。
いる。
また、「特産品等、地域を代表する製品やサービ
なぜ、 来街者数は減少しているのか。 同じく商
スの販売」は、 消費者側は“貢献している”と認識
店街実態調査報告書によれば、その要因として上
しているのに対して、商店街では貢献していると
位 に あ げ ら れ る の は、
「魅力ある店舗の減少」
の認識は比較的低い。つまり、商店街では、地域
5 5 . 2 %が最も多く、 次いで「業種・業態の不足」
のイベント等により街のにぎわいづくりに貢献し
5 2 . 2 %となっている(前頁図表3)
。これをみる
ている点に意義を感じているのに対して、消費者
と、来街者が減っている原因は、大型商業施設の
はそうした取組みよりも、 地元ならではの製品、
近隣への進出といった外部要因もあるが、それ以
サービスの提供、 すなわち、商業機能そのものを
図表4 商店街の経済及び社会への貢献
0
5
10
15
20
25
生活に不可欠な製品、サービスの提供
生活にゆとりをもたらす製品、サービスの提供
産業に不可欠な製品、サービスの提供
1.9
企業に付加価値をもたらす製品、サービスの提供
1.7
2.0
12.9
地域の住民、企業への製品やサービスの販売
2.5
地域のイベントや活動への参画
地域への観光客や取引先企業の招致
納税
その他
2.7
3.9
3.1
2.9
6.0
15.8
8.3
SERI Monthly November 2013. No.587
10.2
9.9
9.1
0.7
1.7
資料:㈱三菱総合研究所「中小企業庁委託 全国商店街調査」(平成23年11月)
注)商店街は自らの商店街、消費者は商店街一般について回答。
8
31.9
3.8
特産品等、地域を代表する製品やサービスの販売
地域の人材の雇用
29.9
16.6
(%)
35
30
22.8
商店街
消費者
魅力ある“個店づくり”に動き始めた商店街
図表5
中心市街地活性化基本計画の評価
14 10 施設入込
数等
8 6 50 目標達成数
2 1 5 1 2 1 4 16 目標達成率
14%
10%
63%
20%
50%
33%
67%
32%
7 5 7 1 3 1 5 29 33%
83%
58%
通行量
設定数
基準値改善数
基準値改善率
50%
居住人口等
50%
88%
販売額等
5 公共交通 空き店舗等
機関利用
3 4 75%
20%
その他
計
資料:経済産業省「第1回中心市街地活性化評価・調査委員会資料」
注)平成23年度末を持って計画期間が終了した14市の計50目標の取組み状況を各市が自己評価。
基準値改善:基本計画作成時点の値(基準値)を直近数値が上回っている場合を改善とした。
施設入込数:中心市街地内にある施設への来客数
図表6
評価していることがわかる。
まちづくり3法による再生も苦戦
中心市街地内外の年間小売販売額の推移
(平成 23 年度で基本計画が終了した 14 市)
中心市街地外
中心市街地内
中心市街地内のシェア率
(億円)
7,000
27.0
5,000
法( H 1 0 年〜)、都市計画法改正( H 1 0 年〜)、大
4,000
店立地法( H 1 2 年〜)のいわゆる「まちづくり3
3,000
法」が施行され、 商業等の活性化と市街地の整備
2,000
改善を一体的に取り組むようになった。その後、
1,000
人口減少・高齢化や消費者ニーズの多様化・高度
化が意識され、商業機能に加えて、居住機能や医
0
30.0
26.0
6,000
商店街の活性化に対しては、中心市街地活性化
(%)
22.8
25.0
20.0
17.7
4,767
4,661
4,870
20.0
15.0
4,179
4,368
835
772
10.0
5.0
1,289
1,213
1,110
H14
H16
H19
0.0
21(推計)23(推計)
(年)
資料:経済産業省「中心市街地活性化施策の効果分析事業(平成 24 年度)」
療・福祉等の公共公益機能といった多様な都市機
小売販売額も減少してはいるが、中心市街地外と
能の集積を促進するなどの法改正もなされた。
比べて減少率が大きい。 つまり、中心市街地活性
これまでに、内閣府より認定された中心市街地
化基本計画に基づき、ハードとソフトを両輪とし
活性化基本計画は、延べ 1 1 6 市( 1 4 0 計画)あり、
た総合的なまちづくりの中で商業機能の強化を
政府の産業構造審議会中心市街地活性化部会で
図ってきているにもかかわらず、十分な成果は得
は、平成 2 3 年度末をもって終了した 1 4 市の中心
られているとは言い難い。地域商業の活性化のた
市街地活性化基本計画の 5 0 目標について、 各市
めには、 行政機能や業務機能などの再配置による
の自己評価を公表している(図表5)。これによれ
来街者の創出や、街路灯やベンチといった商業環
ば、 目標達成率は約3割となっており、とくに、
境の整備、イベント等のにぎわいづくりなどの取
商業機能面の目標をみると、販売額等の目標達成
組みだけでなく、改めて新たな取組みが必要であ
率は 2 0 %、空き店舗等の目標達成率は 3 3 %と、
ることを感じさせる。
十分な成果が得られていない状況がうかがわれ
る。
そうした中にあって、魅力ある“個店づくり”を
通じて商店への来客数を増やし、ひいては、魅力
ちなみに、計画期間が終了した 1 4 市における
ある個店の集合体としての商店街を活性化し、来
中心市街地内の年間小売販売額は、 平成 1 4 年の
街客を増やしていこうとの取組みが始まってい
1 , 2 8 9億円から、平成2 3年には7 7 2億円にまで減
る。以下では、 静岡県内の3つの商店街の取組み
少している
(図表6)。この間、当該市全体の年間
を紹介する。
SERI Monthly November 2013. No.587
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<事 例>
魅力ある個店づくりに挑戦する商店街
来店客との会話のきっかけづくり
し ろ こ
『白子100円笑店街』
~藤枝白子名店街~
1 0 時前から行列ができるほどである。
店頭に置く商品は原則 1 0 0 円で、各店が自由に
決めている。自分の店で扱っている商品を特売用
「1 0 0円商店街」とは、平成1 6年に山形県新庄市
にアレンジしている店もあれば、まったく別の商
のNPOから始まった商店街の活性化事業であ
品を並べる店もある。店頭では、 店の人が買い物
る。商店街全体を1店の“1 0 0 円ショップ”に見立
客の応対をする。ただ、会計は店頭では行わな
てて、各店が店頭に 1 0 0 円の商品を並べて販売す
い。店内のレジで行うことにより、買い物客は自
るイベント。全国 1 0 0 カ所以上で同様の取組みが
然と店内に誘導されることになる。1 0 0 円の商品
行われている。
を媒体に、店の人と買い物客との会話が生まれ、
イベント名から“1 0 0 円ショップ”をイメージし
さらに会計のために店内に入ってもらうことで、
がちであるが、その特徴は、“店の人が店頭で応
店内の商品を見てもらえ、新規客の獲得やリピー
対し買い物客との会話があること”、また、“会計
ト客の増加が図られる仕掛けになっている。
は必ず店内で行い店の敷居を低くしていること”
藤枝白子名店街では、毎回、 アンケート調査を
にある。単なる客寄せのためのイベントだと開催
行っており、その結果を元に実行委員会で情報交
時の来街者は増えるものの、一過性に終わってし
換し、次回の開催がより良いものとなるよう努め
まう。 また、 イベントによる来街者がイコール来
ている。こうした地道な取組みを継続してきたこ
店客になるとは限らない。1 0 0 円商店街は、 来街
とで、新規客を増やし、リピート客にしていくと
者と来店客が直結しているのが大きな特徴となっ
いう当初の狙いは一定の成果を見せている。来街
ている。
者の多くは近隣に住む主婦層であるが、小さな子
本年9月7日
(土)に“白子 1 0 0 円笑店街”を開催
供を連れた家族連れや、 市外から訪れる常連客も
した「藤枝白子名店街」は、旧東海道沿いにあっ
少なくない。とくに最近では、セルフ方式のスー
て、藤枝宿の一角に位置する歴史ある商店街であ
パーマーケットでの買い物では味わえない“会話
る。当日は、金融機関や医療機関などを除く地元
のできる商店街”での買い物の醍醐味を、 買い物
商店 4 0 店が参加し、 空き店舗や一般住宅の前に
客は感じ取ってくれているという。
は、藤枝白子名店街以外からの出店者9店も出店
藤枝白子名店街では、白子 1 0 0 円笑店街での来
した。また、空スペースで津軽三味線の演奏会や
昔の藤枝大祭りの写真展を催すなど、来街者に買
い物以外で楽しんでもらう工夫も凝らされてい
る。
取組みのきっかけは、 今から3年前に新庄市の
1 0 0 円商店街の取組みを知り、実施に向けた勉強
会を始めたこと。第1回目の開催は 2 0 1 0 年3月
6日で、 以降、奇数月の第1土曜日を原則とし
て、2カ月に1回のペースで開催し、今回で 2 3
回目となる。来街者数は回を追うごとに増えて、
当初、 2 , 0 0 0 ~ 3 , 0 0 0 人であったのが、最近では
4 , 0 0 0 ~ 5 , 0 0 0 人までになっており、開店時間の
10
SERI Monthly November 2013. No.587
▲店頭に大勢の人だかりができる
“白子 100 円笑店街”
(藤枝白子名店街)
魅力ある“個店づくり”に動き始めた商店街
街者を現状の 5 , 0 0 0 人程度から、1万人にまで増
発祥は北海道函館市で開催された「2 0 0 4 スペイ
やしたいと考えている。そのために必要なことは
ン料理フォーラム inHAKODATE 」のイベントの
“個店の一層の努力”に尽きるという。白子 1 0 0 円
1つとして行われた飲み歩きの企画である。現在
笑店街の開店時間は1 0 : 0 0 ~ 1 6 : 0 0であるが、午
では、全国で 1 0 0 以上の都市で催されており、静
前中は歩道からあふれんばかりの人通りも、 午後
岡県内では、 富士市で最初に催され、その後、静
にはその6~7割の状況になってしまう。来街者
岡市や浜松市、 伊豆の国市などで実施されてい
を増やすためには、 商品構成に工夫を凝らした
る。
り、スタンプラリーやちぎり絵展等、見に来て楽
「吉原バル」は、 吉原バル実行委員会(事務局:
しんでもらう取組みが必要であると考えている。
NPO東海道・吉原宿)が平成 2 3 年2月から取り
実際、白子 1 0 0 円笑店街を歩くと、行列が絶え
組んでおり、今年の9月7日(土)の開催が5回目
ない店とそうでない店との差がかなりはっきり出
となる。
ていることがわかる。同じ商店街の中で同じ販売
今回の参加店は 3 6 店。そのうち、料亭や居酒
条件でありながら、売れる店と売れない店が出て
屋、バーなどの飲食店が 2 6 店、“おみやげバル”
くる。売れない店にとっては、 郊外にショッピン
として菓子店や文具店などが6店、“おとなりバ
グセンターが出店してきたなど、外部環境の変化
ル”として吉原商店街の近隣の商店街からの出店
を言い訳にすることはできない。自ずと、自分の
が4店となっている。客層は、若者から年配まで
店のどこが悪いのかを考えることになる。白子
と幅広く、子連れの夫婦などもおり、とくに、女
1 0 0 円笑店街に取り組んでいくことで、商店街の
性の多さが特徴となっている。入ったことのない
各店が売上増加に向けて創意工夫をしていく環境
店や料亭などの敷居の高い店にも、 気軽に入れる
が作り上げられている。
ことが魅力である。
吉原バルの場合、参加店はどんな店でも良いと
飲食を通じた店と街のファンづくり
『バ ル』
~吉原バル実行委員会~
いうわけではない。吉原バルが街に人を呼び込む
ためにやっていることや、参加店の儲けはあまり
ないことなど、バルの趣旨や実情を説明し、 賛同
「 バ ル 」と は、 ス ペ イ ン の 街 角 に あ る 酒 場
してくれる店にだけ協力してもらっている。実
“Bar
(バル)”からきている。スペインのバル街
際、チケットは1枚 8 0 0 円であるが、参加店の紹
では、 1ドリンクとピンチョス(スペインのバル
で出される、 ひと口かふた口で食べられるおつま
み)で、 バルを“はしご”する文化がある。
日本でのイベントとしてのバルの仕組みは、バ
ル参加者が3~5枚つづりのチケットを主催者か
ら購入し、 チケットを利用できる飲食店が記載さ
れた地図を元に自由に店を巡るというもの。飲食
店では、 1枚のチケットで1ドリンクとおつまみ
が提供される。参加者は、 気に入った店に長居す
ることもできるが、できるだけいろいろなバルを
移動するのがバルの楽しみ方となる。
▲バルで1ドリンクとつまみでくつろぐ ( 吉原バル )
SERI Monthly November 2013. No.587
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魅力ある“個店づくり”に動き始めた商店街
介のためのマップやチケットの作成費などの経費
参加店にとってのメリットは、自分の店を知っ
を差し引いた中で、飲み物とつまみを用意する
てもらうきっかけづくり。 新しい顧客の開拓につ
と、儲けはほとんどない。参加店にとっては、普
なげられることや、店の専門性や特色をアピール
段、人通りの少ない商店街に活気を取り戻したい
できることにある。 また、少人数であるため、お
という強い思いが、 参加の一番の動機となってい
客様の声を直接聞いたり相談を受けたりすること
る。
で、 顧客との信頼関係が築けるなどのメリットも
参加店にとって、 バル自体は儲けにならないと
ある。受講者は、ゼミを通じて新たな知識やノウ
はいえ、新規客やリピート客の獲得には確実につ
ハウ等を無料で得られるとともに、新しい店の開
ながっているという。毎回メニューを変える店や
拓や信頼できる店を見つけることができる。ま
名物料理を出す店などには、 より多くのお客が集
た、受講生同士の新しい出会いが生まれるという
まる。チケットの販売所には、各店が作成するメ
メリットもある。
ニューボードが貼られているが、お客様に来ても
らいたいと、 ボードに工夫をしている店には来店
静岡県内では、焼津市のほか浜松市、沼津市な
どで取り組まれている。
客が多い。つまり、バルは、参加店にとって、 経
「焼津まちなかゼミナール」では、 平成 2 3 年か
営努力がダイレクトに来店客の増加につながると
ら2月と9月の年2回、 まちゼミを開催してきて
いう醍醐味を感じることができるものとなってい
いる。きっかけは、 焼津市の中心市街地活性化事
る。吉原バル実行委員会では、各店の取組み内容
業の1つとして、焼津市商工課が“まちゼミ”の発
については任せているが、バルを通じて、各個店
祥の地である愛知県岡崎市から講師を招へいし、
が魅力アップの必要性に気付いてくれればと考え
講演会を行ったことに始まる。現在の運営は、焼
ている。
津市「まちみがきの会」の援助を受け、商店主らの
今後、吉原バル実行委員会では、吉原商店街と
集まりである「まちゼミ委員会」が推進している。
の連携を強化し、富士駅前商店街とのバルの同時
参加店は第1回目こそ 1 4 店であったが、毎回、
開催を進めていきたいという。2地区を人が行き
各商店街の個店宛てに募集案内の配布と説明会の
来できる仕組みも考え、店同士、商店街同士が切
開催をしており、今年9月7日から 1 0 月 1 3 日に
磋琢磨しつつ、 つながりが深められればと考えて
かけて行った第6回まちゼミの参加店は 2 2 店に
いる。
上った。参加店の業種は、衣料品店、メガネ店、
店主とお客様との信頼関係を築く
『 まちゼミ 』
~焼津まちなかゼミナール~
「まちゼミ」
とは、商店街の店主や店員が講師と
なって、 プロならではの技や知識、ノウハウを受
講者
(お客様)
に無料で伝授するゼミナールのこと
である。受講料は、 原則、無料であり、セールス
はしないルールとなっている。会場は各店の店内
で、受講者数もゼミナールの名称の通り少人数と
している。
12
SERI Monthly November 2013. No.587
▲衣料品店の「スカーフ ・ ストールの巻き方」ゼミ
魅力ある“個店づくり”に動き始めた商店街
茶小売店、化粧品店、電気店、家具店、飲食店、
講座内容については、受講者の9割以上が大満足
スポーツジム、金融機関など多種多様である。ゼ
と答えている。また、参加者の5割強が初めての
ミのテーマも“はじめての手作り無添加ジャム”
参加で、「今後、 参加店を利用したいか」という問
や、
“骨盤矯正体験”、“スカーフ・ストールの巻き
いに対して、 9割近くの人が「ぜひまた来たい」と
方”
、
“調理家電の便利な使い方”などの自店の商
している。
売に関するもののほか、“東海道五十三次を歩く”
このように、焼津まちゼミは、 参加者から高い
や“タロット占いの教室”といった店主の趣味を
支持を得ており、店の敷居を下げ、 新しい顧客を
テーマにしたものなど多彩だ。
開拓するという狙い通りの成果が上がっている。
ゼミ開催期間中の各講座の開催回数や内容はそ
今後、焼津まちゼミでは、参加店をさらに増やし
れぞれの店が決める。 ただ、 任せきりにするので
ていくことや、1店当たりで開催する講座数を増
はなく、参加店による打合せ会を行う中で、互い
やしていくことで、 さらなる顧客開拓を図ってい
にブラッシュアップしている。また、焼津まちゼ
きたいと考えている。
ミでは、毎回必ず、受講者アンケートもとってお
り、改善につなげている。
また、焼津まちゼミでは、まちゼミ参加者に対
して各店からお得なクーポンのプレゼント企画を
受講者数は、第1回の 1 2 2 名から順調に増えて
行っている。まちゼミ参加者の満足度を個店の売
おり、第5回は 4 3 9 名であった。ちなみに、受講
上アップにつなげていく取組みにより、まちゼミ
者アンケートによると、受講者の9割が女性で、
のさらなる充実が期待される。
年代は4 0 ~ 6 0歳代の中高年が7割を占めており、
< まとめ >
発想を転換し、魅力ある“個店づくり”を推進
わが国の人口が減少し、少子高齢化も進む中
も望んでいるものは、 魅力ある個店の存在であ
で、買い物弱者を出していかないためにも、地域
る。これからの地域商業の活性化のためには、個
商業を支える商店街は、 衰退傾向に歯止めをかけ
店をいかに魅力あるものにしていくか、魅力ある
ていかなくてはならない。
個店をいかに増やしていくかがカギになる。そう
商店街は、一国一城の主の集合体であるがゆえ
した中で、「 1 0 0 円商店街」、「バル」、「まちゼミ」
に、容易にスクラップ&ビルドできないなど、立
の取組みは、自店の魅力を消費者に知ってもらう
地環境の変化への対応が困難な側面を持つ。た
のに最適なイベントと言える。「外から見て、 店
だ、その一方で、商店街だからこそ、その集合力
内の雰囲気がわからず入りにくい」とか、「店に入
を利用することで、消費者へのPR、訴求力を高
ると、 何か買わなくてはならない気がする」など、
めていくことができる取組みもある。それが、
店の敷居をまたいでもらうことが第一の関門にな
「 1 0 0 円商店街」、「バル」、「まちゼミ」であろう。
逆転の発想でのチャレンジ
これまでみてきたように、消費者が商店街に最
る個店にとっては、1 0 0 円商店街などの取組み
が、“まずは消費者に来店してもらう”という点で
十分な成果を上げることができる取組みとなって
いる。
SERI Monthly November 2013. No.587
13
魅力ある“個店づくり”に動き始めた商店街
従来の商店街振興では、 イベントの実施により
来街者を集め、集まった来街者を来店者にできる
図表7 地域商業活性化の新しい流れのイメージ
“個店が創意工夫”
する取組み
〔100円商店街、
バル、まちゼミ〕
かどうかは、個店の努力次第と言われてきた。し
かし、1 0 0 円商店街などの取組みは、魅力ある個
店をアピールすることで、来店客を増やし、ひい
ては来街者を増やしていこうという、逆転の発想
での取組みである。来店客が増え、個店の売上増
魅力ある個店づくり
の広がり
個店を知ってもらう、
使ってもらう
加が図られてはじめて、地域商業は活性化したと
来店客増
↓
来街客増
言える(図表7)
。
そこで改めて、今回紹介した3つの事例から、
個店の魅力づくりを起点にした商店街、地域商業
が活性化する上でのポイントを考えてみたい。
第1のポイントは、街に人を呼び込むことが目
担感は低い。主催者側は、 消費者から支持を得て
魅力ある個店づくりを長く続けていくためにも、
的ではなく、店に入ってもらい、知ってもらうこ
低予算で行っていくことは重要なポイントとな
とで、 店のファンになってもらうことを目的とし
る。
ている点である。各取組みとも、 売上増を目的と
参加の輪をいかに広げていくか
していないが、新規客を店内にまで招き入れ、会
話し、店の雰囲気を感じさせ、商品を見てもらう
地 域 商 業 の 一 角 を 担 う 商 店 街 が、 大 型 店 や
ことで、個店の魅力をPRすることに成功してい
ショッピングセンターなどの豊富な品ぞろえや安
る。
さに対抗して、魅力ある個店づくりを進めていく
第2に、商店街の組織にこだわらず、志を持っ
た人たちが中心となって事業に取り組んでいるこ
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ためには、大型店にはない魅力を出していくこと
が欠かせない。
とである。多くの商店街が衰退傾向にあり、商店
それは、地元ならではの品ぞろえや、 店主とし
街組織も弱体化している中、吉原バルでは、 吉原
ての専門知識に基づく相談・アドバイスなどであ
のまちづくり活動に取り組んでいるNPO法人が
り、商店街の個店に足を踏み入れて初めて得られ
中心となって推進しており、また、焼津まちゼミ
るものである。各取組みは、いずれも個店が持つ
は、 まちゼミ委員会が市内5つの商店街の中で事
魅力を消費者に訴えかけることに見事に成功して
業に賛同する商店を横断的に連携させ取り組んで
いた。
いる。商店街活性化の担い手は、商店街組織だけ
今後の課題は、実施した事業での来店客を、 い
でなく、 元気のある個店や市民組織にまで広がっ
かにリピート客にしていくかということと、魅力
ている。
ある個店をいかに増やしていくかになる。
第3に、費用をかけずに、 自分たちの力だけで
静岡県では、「ふじのくに魅力ある個店づくり
取り組んでいる点である。行政の補助金等に頼っ
推進事業」や「地域商業パワーアップ事業」等を
た事業だと、事業内容に制約があったり、補助金
行っている(コラム参照)。魅力ある個店づくりに
が終わったりした時に事業も終了してしまいがち
向けた取組みに今後さらに磨きをかけることで、
になる。各取組みはいずれもチラシ代程度しか費
集積としての商店街が再生していくことを期待し
用がかからないものであり、参加店の金銭的な負
たい。
SERI Monthly November 2013. No.587
魅力ある“個店づくり”に動き始めた商店街
コラム 「静岡県の地域商業活性化に向けた取組み」について
静岡県経済産業部地域産業課 商業まちづくり班長 影山 敦彦 氏
――静岡県の商業活性化に向けた取組みの意義について教えて下さい。
現在、静岡県では“魅力ある個店づくり”に取り組んでいます。地域商業が活性化するというのは、どう
いう状況を想定すればよいのでしょうか。商店街がイベント等を開催し、来街者が増えても、来店者が増
えなければ、地域商業が活性化したとは言えません。
中心市街地活性化法などによるまちづくりの取組みは、街への来街者を増やすことには一定の成果を見
ていますが、来店者の増加には多くの都市が苦戦をしています。
イベント等の開催も一過性になりがちで、継続的な集客を図ることは困難であり、魅力ある個店の集客
力が元となって来街者が増えていくことが、地域商業の活性化のためには必要です。
――具体的にはどのような支援をしていきますか。
現在、静岡県では「地域商業パワーアップ事業」として、個店魅力アップ支援、魅力ある買い物環境づく
り支援、買い物弱者対策支援、タウンマネージャー配置支援などの事業に取り組んでいます。とくに、個
店魅力アップ支援事業は、まちに人を呼ぶことが目的ではなく、店に入って、店を知ってもらい、店の
ファンになってもらうという、今までとは全く違う発想で地域商業の活性化を図っていこうというもので
す。
「 1 0 0 円商店街」や「バル」
、
「まちゼミ」といったイベントは、お店を直接知ってもらえるもので、補助
金なしでも実施できますし、
「ふじのくに魅力ある個店」に登録している店も参加していることもあり、静
岡県としても、積極的に応援しています。また、タウンマネージャー配置支援事業は、商店街や地域商業
の活性化に寄与するために、これまで育成してきたタウンマネージャーを要望のあった地域に配置するも
のです。加えて、
「ふじのくに魅力ある個店」宣言店を募集、インターネット等を通じて、広くPRしてい
きます。
このほかにも、静岡県ではさまざまな支援策を用意していますので、お店の魅力づくりにご活用下さい。
静岡県の商業施策
地域を支える商業の振興=地域商業の活性化
目的
地域商業=大手チェーン店や大型店ではない、県内個店の商業
活 性 化=売上が増えること、店が増えること、そのための活動が続くこと
注)
あくまでも産業振興であり“地域づくり”が目的ではない
視点
県内商業者の支援
消費者の買い物満足度
手段
背景
商業を取り巻く環境
消費者ニーズ
・商店数の減少
・消費構造の変化
・大型店の進出による
地方の画一化 等
・最優先事項は信頼と
安心
・個別のサービス提供
・口コミ情報を信頼 等
産業振興の観点から、
魅力ある個店を増やすことで、地域商業を活性化させる
地域とともに歩み、
良質な商品、環境又はものづかいの提案、サービス等を提供し
経営努力を続ける店を増やす
個性的な個店を増やし、
店舗の周辺環境を創出
地域商業パワーアップ事業
タウンマネージャーの普及促進
点から線、線から面
魅力ある個店の元気
を地域に広げる
魅力的な個店の登録制度を
推進
ふじのくに魅力ある個店
づくり推進事業
SERI Monthly November 2013. No.587
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