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貝類 - 沖縄県

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貝類 - 沖縄県
貝類
(1
0)貝類
1)絶滅
(EX)
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
ミヤコオカチグサ
吸腔目 カワザンショウガイ科
Paludinella miyakoinsularis Minato, 1980
なし
絶滅(EX)
環境省カテゴリー: 絶滅(EX)
形
態: 貝殻は、殻高約6mm、殻径約4.
8mm程度の円錐形で、やや硬質、縫合は浅い。体層周縁に角を持たな
い。殻表は平滑。殻口は全縁。臍孔は狭く開く。
近似種との区別: 本種は、ウスイロオカチグサ P. ”devilisとは、螺塔が高く、殻口が全縁であることによって、キバオ
カチグサConacmella vagansとは、体層周縁に角を持たないこと、殻口が全縁であること、臍孔が狭い
ことで識別できる。
分 布 の 概 要: 琉球列島の宮古島の野原岳のみから知られる。
近縁な種及び群との分布状況の比較: ウスイロオカチグサは琉球列島に広く分布し、キバオカチグサは小笠原諸島の母
島の石灰岩地にのみ分布する。
生 態 的 特 徴: これまでに生貝の採集記録がなく、生態は不明。ただ、死殻の確認される地点が石灰岩地の森林であ
るので、このような場所の石灰岩礫間に生息していた可能性が高い。
生 息 地 の 条 件: 不明。ただ唯一の確認地である野原岳は宮古島の中で、比較的自然度の高い林が残存している地域で
ある。
個 体 数 の 動 向: これまでに生貝が確認されていないことと、堆積物中から死殻が得られているので、明治期以前に絶
滅した可能性も高い。
現在の生息状況: 絶滅。
学術的意義・ 評 価: 宮古島の固有種で、絶滅要因を探れる好材料である。
生存に対する 脅 威: 絶滅したのでなし。その要因は、基本的には森林環境の改変が原因と考えられる。
特 記 事 項: 本種の属名は変わる可能性がある。
原
記
参 考 文
執
筆
載: 湊 宏,1980.宮古群島の陸産貝類相.Venus,39
(2): 83―99.
献: Chinen, M., 1976. Land shells of Miyako―jima and adjacent islands. Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., II :
89―94.
東 正雄,1995.原色日本陸産貝類図鑑 増補改訂版.保育社,大阪,xvi+343pp, +80pls.
者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
名:
ー:
トクノシマケハダシワクチマイマイ
有肺目 ナンバンマイマイ科
Moellendorffia(Trichelix)tokunoensis Pilsbry & Hirase, 1905
なし
絶滅(EX)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧 類(VU)
態: 殻は中型(殻径約2
3mm)で、殻高は低く(約12mm)
、分厚い円盤形で、殻頂・螺塔は陥没する。体
層周縁は丸い。殻は赤褐色で、殻表にやや粗い毛が規則的にある。殻口は肥厚・反転し、黄白色。
近似種との区別: 本種は、中型で、生殖器の鞭状器がやや長いことで、琉球列島の同属他種と識別できる。
分 布 の 概 要: 徳之島と沖縄島北部からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 近縁なケハダシワクチマイマイM.(T.)eucharistusとコケハダシワクチマイマイM.
(T.)diminutaは奄美大島に分布する。
生 態 的 特 徴: 森林の倒木下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: これまでに僅かな死殻の記録しかなく、絶滅したと考えられる。
312
貝類
現在の生息状況: 沖縄島では、明治期と1
970年代に僅かな記録があるだけで、後者は比較的古い死殻である。それ以
外、多数の調査によっても、死殻すら確認されず、現在では絶滅したものと考えられる。
学術的意義・ 評 価: 徳之島と沖縄島北部の固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1905. New land mollusks of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila.,
57 : 705―719.
参 考 文 献: 黒田徳米,1958.日本及び隣接地域産陸棲貝類相(4).Venus,20
(1)
:132―158.
湊 宏,19
80.日本産陸棲貝類の生殖器の研究―XVI.徳之島産トクノシマケハダシワクチマイマイ.
Venus,39
(3)
:190―192.
湊 宏・山本愛三,1983.沖縄本島で採集されたシワクチマイマイ属.ちりぼたん,14
(2)
:29―30.
執 筆 者 名: 黒住耐二
2)絶滅危惧 A類(CR)
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
オキナワムシオイ類似種
原始紐舌目 ムシオイガイ科
Chamaricaeus sp. cf. okinawaensis Uozumi, Yamamoto & Habe, 1979
なし
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 貝殻はこの属としては小型(殻径約3.
3mm)で、殻高は低い(約1.
5mm)、やや円盤型。螺塔は低
く、縫合は深い。体層の殻口から約1/5のところで弱く括れ、次体層側は弱く括れ、この部分から次
体層側縫合下に虫様管と呼ばれる呼吸管を持つ。虫様管は極めて短い。殻口は円形で、全縁で、肥
厚・反転するが、明瞭には二重にならない。殻表の肋は細かく規則的で、頚部にもより弱いが明瞭な
肋を持つ。
近似種との区別: 本種は、オキナワムシオイC. okinawaensisに類似するが、殻が小型であること、殻口があまり下降し
ないこと、虫様管がより短いことで、またヒメムシオイC. purusとは頚部の括れが弱く、殻口が伸び
ないこと、殻口縁が二重にならないこと、虫様管がより短いこと、肋が細かいことによって識別され
る。
分 布 の 概 要: 沖縄島のネクマチヂ山およびその周辺からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 類似種のオキナワムシオイは、沖縄島南部の石灰岩フィッシャーの化石として記
載され、現在までのところタイプ産地のみ知られている。ヒメムシオイは、奄美諸島に分布してい
る。
生 態 的 特 徴: 比較的自然度の高い森林の石灰岩礫下の落葉下に生息する。
生 息 地 の 条 件: 自然度が高く、湿度の保たれた樹冠の閉じた森林が不可欠である。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度は極めて低い。
現在の生息状況: 確認当初は、ある程度の個体数が確認されたが、近年の調査では個体数に顕著な減少が認められる。
学術的意義・ 評 価: 未記載ではあるが、沖縄島固有であることは確実である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採や林床の乾燥化が進むような環境変化と採集圧。
特 記 事 項: 特になし。
原
参
記
考
文
載: なし
献: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1904. Description of new snails of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat. Sci.
Phila., 56 : 616―638.
魚住賢司・山本愛三・波部忠重,1979.沖縄本島産化石ムシオイガイの新種.Venus,38
(3)
:167―
168.
知念盛俊,1989.沖縄島北部の陸産貝類・淡水産貝類.
“昭和62年度沖縄島北部地域調査報告書 南西
諸島における野生生物種の保存に不可欠な諸条件に関する研究”
,環境庁自然保護局,東京,4
33―
313
貝類
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
451.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1995.大宜味村の陸・淡水棲貝類.“大宜味村の自然,大宜味村動植
物調査報告書,大宜味村文化財調査報告書”,大宜味村教育委員会,沖縄,(4): 295―327.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
名:
ー:
キビオカチグサ類似種
吸腔目 カワザンショウガイ科
Acmella sp. cf. minima Habe, 1942
なし
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 貝殻は微小(殻高約2mm)で、殻径はやや幅広く(約1.
3mm)、丸みを帯びた円錐形、厚質。殻表は
平滑で、縫合はほとんど窪まない。半透明白色で、光沢がある。殻口は、肥厚するが、反転しない。
臍孔は少し開く。
近似種との区別: 本種は、キビオカチグサA. minimaとは殻高が低く、臍孔がやや広いことによって識別できる。殻形態
の多少類似したホラアナゴマオカチグサとは、縫合が窪まず、厚質で、殻口が肥厚することによって
区別できる。
分 布 の 概 要: 大東諸島の南北大東島からのみ報告されている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: キビオカチグサは小笠原諸島に分布する。ホラアナゴマオカチグサは琉球列島を
含む日本の石灰岩洞窟に生息する。
生 態 的 特 徴: 新鮮な死殻が北大東島の長幕下の森林内土壌から得られているので、自然度の高い森林の石灰岩礫に
生息する地上性種であると考えられる。
生 息 地 の 条 件: 不明。ただ確認地点は、比較的自然度の高い林が残存している地域である。
個 体 数 の 動 向: 生貝の確認ができておらず、個体数はかなり少ないものと考えられる。
現在の生息状況: 近年、生きた個体が得られておらず、個体数は減少していると考えられる。
学術的意義・ 評 価: 小笠原諸島との類縁性を考える上で、重要である。
生存に対する 脅 威: 各種の行為による森林伐採。
特 記 事 項: 特になし。
原
参
考
記
文
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
形
載: なし
献: 波部忠重,1942.日本産カワザンショウガヒ科.Venus,12(1―2)
:32―56,3pls.
黒住耐二,1
992.北大東島の陸産貝類.“沖縄県天然記念物調査シリーズ ダイトウオオコオモリ保護
対策緊急調査報告書”
,(31)
:73―90.
東 正雄・東 良雄,1994.大東島の陸産貝類相.Venus,53
(3)
:161―173.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
名:
ー:
ナガヤマヤマツボ
吸腔目 カワザンショウガイ科
Allepithema nagayamai Kuroda, 1960
なし
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
態: 貝殻は小型(殻高約2.
1mm)で、殻径はやや幅広く(約1.
6mm)、高い円錐形。やや堅固。殻は濁褐
色で、殻表に細かい螺状脈を持ち、生時には殻表に土壌を付ける。殻口は丸く、肥厚・反転しない。
臍孔は広く開く。石灰質で少旋形の蓋を持つ。
近似種との区別: 類似種のイトマキヤマツボA. sp.は、未記載であるので比較はできない。本種は、殻形の類似したヤマ
タニシ科のヤマトガイ属の種Japonia spp.とは殻表に毛を持たないことによって、ミジンヤマタニシ
Nakadaella micronとはより大型で殻高が高く、殻表に螺状脈を持つことによって区別できる。
314
貝類
小形で、高い円錐形、濁褐色。殻表に細かい螺状脈を持つ。殻口は丸く、肥厚・反転しない。臍孔は
広く開く。蓋を持つ。奄美諸島の与論島と八重山諸島の波照間島とにのみ分布する。
分 布 の 概 要: 奄美諸島の沖永良部島・与論島と八重山諸島の波照間島とにのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 類似種のイトマキヤマツボは、台湾の南東の蘭嶼(旧名:紅頭嶼)にのみ分布す
る。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い森林の石灰岩礫に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: 不明。ただ確認地点は、比較的自然度の高い林が残存している地域である。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度はかなり低い。
現在の生息状況: 与論島と波照間島では、内陸部の隆起石灰岩地帯から知られている。ただ、実際の確認地点は多くな
い。また、本種は、沖縄島南部の豊見城市の14世紀の遺跡から報告されており、過去には、かなり広
く分布していたことがわかる。
学術的意義・ 評 価: 琉球列島の固有種であり、分布が散在的であるので、その分布様式の解明が求められている種であ
る。
生存に対する 脅 威: 与論島・波照間島とも島の中央部の崖下や森林中の石灰岩礫に生息している。つまり、ある程度の湿
度が保証された生息場所が必要である。しかし、与論島・波照間島とも、多くの場所で、改変が行わ
れていると言えよう。沖縄島の14世紀の遺跡から出土したことから、本種の分断された分布は歴史時
代に生じ、現在残された生息地が最後の大きなダメージを受けていると考えられる。
特 記 事 項: 特になし。
原
参
執
記
載: 黒田徳米,1
960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
考 文 献: 湊 宏,1979.日本最南端・波照間島の陸貝.南紀生物,21
(2): 107―110.
黒住耐二,1984.与論島の陸産貝類相,特にナガヤマヤマツボの記録.ちりぼたん,1
5
(2・3): 60―
64.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1996.陸・淡水産貝類.“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
ワキシメゴマガイ
原始紐舌目 ゴマガイ科
Diplommatina(Sinica)lateralis Pilsbry & Hirase, 1904
なし
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻はこの属としては中型(殻高約3.
8mm)で、殻径はやや大きく(約1.
7mm)、短い紡錐形、螺塔
は細く尖らず、幅広の円錐形。次体層は少し括れ、体層は殻口が次体層と隣接することにより、一部
で殻口縁に被われる。淡明褐色。螺層には弱く、やや規則的な成長肋を持つ。殻口は、円形で、内唇
側の隅は丸い。
近似種との区別: 本種は、ヨナグニゴマガイに類似するが、体層が殻口縁によって隠れる程より強く捩れ、螺塔が低
く、幅広いこと、成長肋が細かいことによって識別される。
分 布 の 概 要: 宮古島の固有種で、現在知られている分布域は著しく限定されている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 類似するヨナグニゴマガイは、与那国島にのみ分布する。
生 態 的 特 徴: 比較的自然度の高い森林の林床落葉下に生息する。
生 息 地 の 条 件: 自然度が高く、湿度の保たれた樹冠の閉じた森林が不可欠である。
現在の生息状況: 近年の調査報告例がないので不明だが、生息地周辺では、農道の拡大など環境の改変が進行してい
る。
学術的意義・ 評 価: 宮古島のみの固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採や林床の乾燥化が進むような環境変化。
特 記 事 項: ここでは、コシボソゴマガイvespaを種内変異として取り扱った。
個 体 数 の 動 向: 現在は極めて密度が低い。
原
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1904. Description of new snails of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat. Sci.
315
貝類
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
Phila., 56 : 616―638.
献: Otuka, Y., 1941. The non―marine molluscan fauna of Miyako Island, Okinawa Prefecture (Loo Choo), Japan,
biogeographical condidered. Proc. Imp. Acad. Tokyo, 17 : 43―47.
黒田徳米,1963.日本非海産貝類目録.日本貝類学会,東京,vi+71pp.
湊 宏,1980.宮古群島の陸産貝類相.Venus,39
(2)
:83―99.
湊 宏,1985.再びワキシメゴマガイとコシボソゴマガイ.ちりぼたん,16
(1)
:17―19.
大原健司,1994.宮古諸島の陸産貝類相.かいなかま,28
(3)
:1―7.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
アマミカワニナ
腹足綱 新紐舌目 トウガタカワニナ科
Stenomelania costellaris(Lea, 1850)
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
形
態: 殻は大型で、非常に高い塔状で、やや堅固、老成すると縫合直下の螺層が張りだす。殻表は平滑で漆
黒色だが、赤褐色の酸化鉄皮膜に被覆されることがある。殻表は微細な螺条を多数めぐらす。蓋は黒
褐色。殻長70mmに達する。
近似種との区別: 近似種スグカワニナはより大型で、螺塔の細まりがより強く、直線的。アマミカワニナは螺塔がより
急激に細まり、各螺層がやや膨らみ、縫合部が張り出す。
分 布 の 概 要: 沖縄本島北部の数河川
生 態 的 特 徴: 汽水性で川底の砂泥に潜りこみ、デトライタスや水草の屑等を摂食する。
生 息 地 の 条 件: 自然度が高く、汽水性貝類の多様性の高い川(アマオブネ類等が1
0種類以上見られるのが普通)の、
下流から中流の常に流れている場所の泥礫底に生息する。
現在の生息状況: かつては沖縄本島南部にも生息していたが、ほとんどの産地で絶滅し、現在、確実に観察できる河川
は知られておらず、沖縄本島北部の2河川に数個体が確認されたのみである。
学術的意義・ 評 価: 本種を含む、汽水性カワニナ類は南西諸島に1
0種弱記録されており、各島嶼において遺伝的に分化し
ている可能性があるが、分類学や生態学的知見が非常に乏しく、今後の研究資源として、その学術的
意義は大きい。本種は県内に現存する成熟個体群が5
0未満と推定されることから絶滅危惧 A類の要
件と合致する。
生存に対する 脅 威: 河川周辺環境の改変や河川改修に伴われる河川の自然環境多様性の低下。人工あるいは自然的原因に
よる河口閉塞と、それに伴う両側回遊的生活史の遮断。
原
記
載: Lea and Lea, 1850. Descriptions of a new genus of the family Melaniana, and of many new species of the genus Melania, Chiefly collected by Hugh Cuming, esq., during his zoological voyage in the East, and now
first described. Proc. Zool. Soc. London, 179―197.
参 考 文 献: 黒田徳米,1929.日本産カワニナ類について.ヴェナス, (5)
:179―193,pl. IV.
福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
ー:
ナズミガイ
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Cylindrotis quadrasi Moellendorff, 1895
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本属中、大型で、縦に長い棍棒状、殻表は平滑で光沢があり、淡黄緑色の殻皮をまとう。殻口外
唇は老成個体でやや肥厚して、中央部内側がやや突出し、内唇軸に明瞭な垂直の襞が1個ある。殻長5
∼9mm。
近似種との区別: ナガオカミミガイと殻色や光沢のある点で似ているが、より小型で細い棍棒状であることから区別さ
316
貝類
れる。
沖縄島羽地内海および塩屋湾周辺のマングローブ林周辺の塩性湿地。
泥礫の隙間に潜りこんで生活し、泥中の有機物等を摂食すると考えられる。
マングローブ林や河口干潟の塩性湿地周辺の潮間帯上部の礫泥地に生息する。
本種は国内で、今までのところ、沖縄島北部の羽地内海と塩屋湾のみで発見されており、生息環境も
局所的で、近年、個体数が非常に減少している。特に地理的に特異な分布を有することも考慮すれ
ば、その保護は緊急を要すると考えられる。
学術的意義・ 評 価: 本種群は熱帯太平洋に分布の中心があり、沖縄周辺はその分布北限にあたる他、特に本種は沖縄島北
部のみに隔離的分布をする点からも動物地理学的にきわめて重要である。また、本種はオカミミガイ
類の中でも解剖学的見解から特殊な進化をした種とされ、進化生態学的にも重要であろう(Fukuda,
1994)。本種は出現範囲が極めて狭く、生息地が過度に分断され、近年の羽地内海および塩屋湾におけ
る海岸域の人工的改変等によって生息地面積が極度に減少していると考えられ、絶滅危惧 A類の要
件と合致した。
生存に対する 脅 威: 本種の生息地は潮間帯上部で干出時間が長く、乾燥しやすい環境でありながら、海岸林などの木陰や
立体的な自然岩による遮蔽によって、適度な湿度が保たれた人工的には容易に創出できない自然の絶
妙のバランスの保たれた場所と考えられ、そうした場所を今後は保全していくことが重要であろう。
すなわち、羽地内海・塩屋湾における海浜埋め立て、護岸造成等で、海岸の環境が改変される場合に
は、本種の生息環境消失の可能性がある。
分 布 の 概 要:
生 態 的 特 徴:
生 息 地 の 条 件:
現在の生息状況:
原
記
載: Quadras & Moellendorff, 1895. Diagnoses specierum novarum ex insulis Philippinis. Nachrichtsblatt der Deutschen Malazoologischen Gesellscchaft, 27 : 73―149.
参 考 文 献: Fukuda, 1994. The anatomy of Cylindrotis quadrasi from Okinawa Island, Japan and subfamilial position of
the genus Cylindrotis Moellendorff, 1895. J. Molluscan Studies, 60(1) : 69―81.
福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report ,和田恵次他編,3:11―63.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
サキシマヒシマイマイ
有肺目 ナンバンマイマイ科
Camaena(Miyakoia)sakishimana(Kuroda, 1960)
なし
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧I類(CR+EN)
形
態: 貝殻は中型(殻径約2
4mm)で、殻高は低く(約1
3mm)、ソロバン玉形で、薄質。体層周縁は鋭く尖
り、この部分に色帯を持つ。殻表はほぼ平滑。殻は淡黄色。殻口はやや厚く肥厚し、反転する。臍孔
はやや広く明瞭に開く。
近似種との区別: 本種は、ウスヒシマイマイC.(M .)melleaとは、殻が薄質で、臍孔が広く、殻口底部に歯状突起を必
ず欠落させることによって識別できる。
分 布 の 概 要: 宮古島と伊良部島からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 台湾にウスヒシマイマイが分布するが、琉球列島には同属の種は分布しない。
生 態 的 特 徴: 林床の倒木下や落葉下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 各地で減少しており、生貝の確認個体数は少ない。
現在の生息状況: 両島で、森林の残っている場所に比較的広く生息していたが、各種の開発により生息域は、改変・分
断されて、生きた個体はかなり稀である。
学術的意義・ 評 価: 宮古島と伊良部島のみの固有種であり、類似種を八重山諸島では欠き、台湾との関係を考える上で重
要である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
参
記
載: 黒田徳米,1
960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
考 文 献: 知念盛俊,1976.陸産貝類.In 生態写真集 沖縄の生物,新星図書,沖縄,212―243.
317
貝類
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
Chinen, M., 1976. Land shells of Miyako―jima and adjacent Islands. Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., II :
89―94.
湊 宏,1980.宮古群島の陸産貝類相.Venus,39
(2)
:83―99.
大原健司,1994.宮古諸島の陸産貝類相.かいなかま,28
(3)
:1―7.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
名:
ー:
ベッコウマイマイ科の一種
有肺目 ベッコウマイマイ科
Helicarionidae gen. & sp.
なし
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 貝殻はこの科としては中型(殻径約6mm)で、殻高はやや高く(約4mm)、卵形で、螺塔はやや高
く、螺層数も多い。最終層は急激に広くならない。螺塔は僅かに突出し、螺層の膨らみは弱い。体層
周縁には角を持たない。殻表はほぼ平滑で、周縁に1本の細い褐色帯を持ち、他は半透明白色。臍孔は
狭いが、明らかに開く。殻口縁は肥厚・反転しない。
近似種との区別: 本種は、オビウラジロベッコウChalepotaxis cinctaに殻形態が類似しているが、歯舌の形態も未詳で、
現時点では所属も不確実である。
分 布 の 概 要: 沖縄島北部の辺戸石山からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: オビウラジロベッコウは台湾南部高雄の石灰岩上に生息すると報告されている。
生 態 的 特 徴: 不明。
生 息 地 の 条 件: 石灰岩地に生息するものと考えられる。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度は極めて低い。
現在の生息状況: 近年確認されたものであるが、これまで比較的新鮮な死殻が得られているだけで、生きた個体は確認
されていないようである。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島北部の極めて限られた石灰岩地にのみ分布し、台湾南部との関係も示唆する種である。
生存に対する 脅 威: 森林伐採等の乾燥化を引き起こす生息環境の変化。
特 記 事 項: 報告では、オナジマイマイ属の一種とされたが、殻口縁の肥厚・反転した個体が得られていないこと
とオビウラジロベッコウに類似していることから、ベッコウマイマイ科とした。
原
参
考
記
文
執
筆
者
載: なし
献: Pilsbry, H. A., 1901. New Mollusca from Japan, the Loo Choo Islands, Formosa and the Philippines. Proc.
Acad. Nat. Sci. Phila., 54 : 193―210.
波部忠重,1943.日本産ベッカフマイマイ科の再検討(1).Venus,13
(1―4)
:92―96.
波部忠重,1945.日本産ベッカフマイマイ科の再検討(2).Venus,14
(1―4)
:22―29.
知念盛俊,1989.沖縄島北部の陸産貝類・淡水産貝類.“昭和62年度沖縄島北部地域調査報告書,南西
諸島における野生生物種の保存に不可欠な諸条件に関する研究”
,環境庁自然保護局,東京,4
33―
451.
名: 黒住耐二
ヌカルミクチキレの一種
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
形
態: 殻長3.
5mm、蛹型の巻貝。殻はアメ色で、鈍い光沢がある。殻口軸唇に褶がある。
318
異旋目 トウガタガイ科
Sayella ? sp.
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
貝類
分 布 の 概 要: 沖縄島佐敷干潟のみから見出されている。
生 態 的 特 徴: 河口付近の干潟泥底にウミゴマツボの一種と同所的に個体群を形成する。
生 息 地 の 条 件: 河口域の底質環境が安定的に保たれていることが生息地の条件となる。したがって、河川流域の土地
開発に伴う干潟への急激な土砂流入は、個体群の消滅を招く。
現在の生息状況: 1999年までの調査では、佐敷干潟浜崎川河口の泥底に高密度で生息し、少なくとも1
000個体程度の個
体群が存在していたが、2000年以降の調査では確認できていない。
学術的意義・ 評 価: 日本におけるヌカルミクチキレ類の生息地は、瀬戸内海、伊勢湾、三河湾、沖縄島中城湾(佐敷干
潟)の4箇所の干潟のみから知られているにすぎない。佐敷干潟のヌカルミクチキレの一種は、地理的
に隔離されているため、本州のヌカルミクチキレとは別種の未記載種の可能性がある(掘成夫氏私
信)。したがって、ヌカルミクチキレの一種は、トカゲハゼやシオマネキ、コオキナガイなどととも
に、佐敷干潟の「かけがえのなさ」(irreplaceability)を評価する指標となりうる。
生存に対する 脅 威: 佐敷干潟浜崎川河口域では、1
999年からの激しい土砂流入によりヌカルミクチキレの一種の生息域に
クチャ土が厚く堆積した。2000年から2004年にかけての調査では、ヌカルミクチキレの一種は再確認
されていない。佐敷干潟では埋め立てが計画されており、ヌカルミクチキレの一種の絶滅回避は困難
な状況となっている。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・西川輝昭・五島聖冶・鈴木孝男・加藤
真・島村賢正・福田 宏,199
6.日本の干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状.WWF Japan
Science Report, Vol.3.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
サンゴガキ
カキ目 所属未定
Anomiostrea coraliophila Habe, 1975
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長2∼2.
5cmのカキ。黄白色。右殻は蓋状で、椀状の左殻に抱かれる。殻表には分岐状の肋を刻む。
二枚貝の殻や死サンゴ片に左殻で付着している。
分 布 の 概 要: 沖縄島およびフィリピン∼インドネシアに地理分布を持つ。
生 息 地 の 条 件: サンゴガキは、内湾域や海草藻場付近の礫砂底を生息場所としている。赤土堆積により底質環境が撹
乱されると生息できなくなる。
現在の生息状況: サンゴガキは、沖縄島東海岸(大浦湾、辺野古、久志、億首川河口沖、泡瀬)から特徴的に見出され
る。辺野古海域が分布中心域となっているが(黒住ほか,2003)、生息密度は低く、個体数も少ない。
大浦湾沿岸や久志海岸では、台風後に合弁の新鮮な殻が打ちあげられる。
学術的意義・ 評 価: サンゴガキは、限られた地域のみに分布する希少種であり、貝類の種多様性の高い安定した海域にし
かみられない。したがって、本種は、沿岸域の自然度を評価するための指標となる。また、地理的に
隔離された北限の個体群としても重要である。
生存に対する 脅 威: 宜野座カタバルなど赤土堆積の著しい海域では、サンゴガキは多数の死殻を残して死滅している。分
布の中心となっている大浦湾と辺野古沖では、埋め立てが計画されている。サンゴガキの沖縄個体群
は、存続困難な状況に追い込まれている。
参
考
文
執
筆
者
和
分
献: 黒住耐二・大須賀健・石川裕・竹之内孝一・宮城弘樹・村山 望,2
003.沖縄島北東岸のサンゴ礁性
貝類相の現状調査.プロ・ナトゥーラ・ファンド第12期助成成果報告書.
稲葉明彦・鳥越兼治,2004.西宮市貝類館研究報告 第3号 世界のカキ(2)各論.西宮市貝類館.
名: 名和 純
名: ヒナキンチャク
類: カキ目 イタヤガイ科
319
貝類
学
名: Decatopecten plica(Linnaeus, 1758)
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長3cm内外の扇形(ホタテガイ型)の二枚貝。6、7本の波型の放射肋をもつ。殻色は、白色からク
リーム色、橙色などで雲状斑の表れる個体もある。
近似種との区別: 近縁種のDecatopecten amiculumリュウキュウキンチャクは、ヒナキンチャクよりも小型で放射肋の数
も9から10本と多い。
分 布 の 概 要: 奄美群島以南のインド・西太平洋域に分布するとされているが、琉球列島における分布域は極めて狭
い。沖縄県内では、沖縄島東岸(金武湾および中城湾)の海草藻場のみから生貝が確認されている。
生 態 的 特 徴: 海草藻場の表面に横たわって生息している。殻の腹縁から水を噴射して、遊泳する。
生 息 地 の 条 件: 安定的で大規模な海草藻場環境の維持が生息条件となる。埋め立て工事などの影響で海水が濁ると死
滅することから、水質の変化に弱いと思われる。
現在の生息状況: ヒナキンチャクの沖縄県内における生息域は、沖縄島東岸の金武湾海中道路周辺と中城湾泡瀬干潟の2
地域しか知られていない。このうち、海中道路では、1
990年代後半以降、生貝が確認されていない。
また、泡瀬干潟では、2
001年度までは、海草藻場に生貝や新鮮な死殻が散見されたが、2
002年夏以
降、生貝は見られなくなり、新鮮な死殻もほとんど見られなくなった。これらの地域と貝類相のよく
似た辺野古周辺の海草藻場にも生息している可能性がある。
学術的意義・ 評 価: ヒナキンチャクは、泡瀬干潟および海中道路周辺の海草藻場のみに特徴的に見出される。これらの地
域は、琉球列島において最も貝類の種多様性の高い海草藻場である。つまり、本種は、海草藻場の種
多様性の高さと健全さを示す指標として重要である。
生存に対する 脅 威: 金武湾海中道路周辺のヒナキンチャクは、近年の養浜により生息域が埋没するなどしてまったく見ら
れなくなった。また、泡瀬干潟では、埋め立て工事によって生息域が砂泥に埋没したり、濁りにさら
された(水間・山下,2002)。その結果、2002年の夏以降、生貝は見られなくなった。このように、沖
縄県のヒナキンチャク個体群は、消滅寸前の状態となっている可能性が高い。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
献: 水間八重・山下博由,2002.泡瀬干潟における機械による大規模な海草移植実験の現状について −主
に海草場に生息する貝類に注目して−.九州の貝,59.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
アダンソンタママキ
マルスダレガイ目 バカガイ科
Mactra(Telemactra)adansoni(Philippi, 1848)
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻長2.
5cm以内のハマグリ型の二枚貝。殻は薄く、横長の三角形。殻頂は中央にある。殻表は、腹縁
両端で成長脈がやや粗くなる他は、平滑。薄茶色の地に褐色の放射彩がある。
近似種との区別: 近縁種のMactra pulchellaトウカイタママキは、殻長1.
5cm程度とアダンソンタママキより小型で、殻
頂が中央でなくやや前方に寄る。
分 布 の 概 要: 紀伊半島以南に分布するとされているが、本州から九州にかけて確実な分布記録はない。琉球列島で
は、奄美大島、徳之島、沖縄島に合計5地点の生息地がある。
生 態 的 特 徴: 低潮帯から潮下帯にかけての良く淘汰された細砂底に浅く潜るか横たわって生息している。ホシヤマ
ナミノコザラやオガタザクラと同所的に見られる。
生 息 地 の 条 件: 生息条件は、砕波や潮流により常に淘汰されることによって粒径が均質に保持された状態、すなわ
ち、清澄な細砂底環境の維持である。したがって、近隣の埋め立てによる遮蔽化(水域の停滞)や土
砂流入による底質環境の変化は、個体群の消滅をもたらす。
現在の生息状況: アダンソンタママキの沖縄県における分布は、沖縄島東海岸に限られる。沖縄島における生息地は、
大浦湾瀬嵩浜、中城湾与那原浜、中城湾佐敷干潟の3ヶ所のみである。このうち与那原浜の個体群は、
1997年からの埋め立てにより消滅した。瀬嵩浜でも近年は極めて稀で、複数個体を確認することがで
きない。佐敷干潟では、大潮干潮線付近の細砂底に1m2あたり2個体程度見られるが(2
003年8月調
査)、生息範囲は狭い(約1ha)。
学術的意義・ 評 価: アダンソンタママキが生息する細砂底環境(砂浜海岸∼細砂質干潟)は、沖縄県では非常に限られた
320
貝類
生物生息環境である。アダンソンタママキは、沖縄の海岸自然環境の多様性を理解するうえで重要で
ある。
生存に対する 脅 威: 与那原浜では、1
998年の出島式埋め立てによりアダンソンタママキ個体群は消滅した。唯一、個体群
が維持されている佐敷干潟の生息域は、埋め立て予定区域となっている。このように、アダンソンタ
ママキは沖縄県内においては、個体群維持が極めて困難な状況となっている。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 肥後俊一・後藤芳央,1
993.日本及び周辺地域産軟体動物総目録.エル貝類出版局.
波部忠重,1966.原色世界貝類図鑑〔 〕.保育社,大阪.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
チトセノハナガイ
マルスダレガイ目 チトセノハナガイ科
Anatinella nicobarica(Gmelin, 1791)
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約3cm、殻の薄い二枚貝。殻表は、細い放射条と成長脈が交わって布目状となる。後端は斜めに
切断状。殻頂内側にスプーン状の弾帯受けが突き出す。
分 布 の 概 要: 四国、九州、奄美大島、沖縄島、石垣島、西表島、中国大陸南岸に分布。
生 態 的 特 徴: 内湾低潮帯∼潮下帯の粗砂泥底(ウミジグサ、ウミヒルモ海草藻場)に低い密度で生息している。
生 息 地 の 条 件: 赤土堆積等により底質環境が撹乱されると生息できなくなる。
現在の生息状況: 沖縄県内において1998年∼2004年にかけてチトセノハナガイが確認(新鮮な死殻を含む)された地点
は、羽地内海饒平名、大浦湾、久志、泡瀬、恩納村山田、石垣島名蔵、西表島船浦および美田良浜と
なっている。このうち、名護市大浦湾∼久志にかけては比較的多く記録されているが、その他の地域
では1∼2個体が見出されたにすぎない。
学術的意義・ 評 価: チトセノハナガイは、限られた地域のみに不連続に分布する希少種であり、貝類の種多様性の高い安
定した内湾域にしかみられない。したがって、本種は、琉球列島の内湾域において種多様性の高さや
生物生息環境の健全さ(自然度)を評価するための指標となる。
生存に対する 脅 威: チトセノハナガイの分布中心域である名護市大浦湾∼久志にかけての海域では、依然として赤土汚染
が拡大しつつある。赤土堆積の著しい場所においては、チトセノハナガイは多数の死殻を残して死滅
しており、現在では大浦湾二見沖と辺野古沖の海草藻場帯に生息範囲が限られていると考えられる。
しかし、この区域では、埋め立て計画が進行している。泡瀬干潟の生息域でも埋め立て工事が行われ
ており、羽地内海と名蔵湾の生息域では赤土堆積に歯止めがかからない。内湾域の貝類の種多様性が
琉球列島全域において開発渦により急激に喪失していく中で、チトセノハナガイは真っ先に絶滅して
しまいかねない状況である。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
モモイロサギガイ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Macoma nobilis(Hanley, 1844)
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は薄く卵形。殻色は薄いピンク色で真珠光沢がある。套線湾入は深く左右の殻で同形。
近似種との区別: 近縁種のMacoma praetextaオオモモノハナとは、殻がより丸みのある卵形であること、套線湾入が左
右で異ならないこと、殻表に光沢があることで区別できる。
分 布 の 概 要: 日本では奄美大島と沖縄島のみに分布する。海南島、トンキン湾、ルソン島(マニラ湾)などの南中
国海沿岸に地理分布を持つ。
生 態 的 特 徴: 河口干潟の泥底にオキシジミと同所的に見られる。泥中から長い水管を伸ばして干潟表面のデトライ
321
貝類
タスを吸い取る堆積物食者である。
生 息 地 の 条 件: 安定した泥底域が広範囲に形成される河口域にのみ個体群が形成されている。赤土などの土砂流入で
粒度組成が不均一になるなど、底質の撹乱された場所には見られない。漫湖における本種の生息域の
底質は、泥質分が約60%を占め、中央粒径値は0.
063mm以下である。
現在の生息状況: 沖縄島における生息地は、漫湖、比謝川河口、大井川河口の3ヶ所のみである。これら3地点での生息
範囲と生息密度(最大値)は、漫湖:約10ヘクタール、8個体/m2(2003年2月調査);比謝川河口:
1ヘクタール以下、1個体以下/m2(2000年2月調査);大井川河口:1ヘクタール以下、1
2個体/m2
(2003年1月調査)となっている。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のモモイロサギガイは、分布の中心である南中国海から隔離された個体群として生物地理学的
に重要。沖縄の自然史を解明するための貴重な遺伝子資源である。
生存に対する 脅 威: 漫湖では近年、饒波川と国場川流域の土地造成に起因するクチャ土が急激に流入、堆積し、底質環境
が一変しつつある。また、比謝川河口では親水公園整備が行われ底質環境が変化した。大井川河口で
は、赤土の激しい流入が続いている。これらのことから、モモイロサギガイは、既知のすべての個体
群で年々生息範囲が急激に狭められ、個体数が明らかに減少している。このように、本種の沖縄個体
群は極めて厳しい状況におかれており、存続が危ぶまれる。
原
記
載: Hanley, S., 1844. Description of New Species of Tellina, collected by H. Cuming. Esq. Proc. Zool. Soc. Lon.,
PartX , 164―165.
参 考 文 献: 斯下拉脱,O. A., 1965.中国海双殻類軟体動物的桜蛤総科.海洋科学集刊,(8)
:27―114.
名和 純,2000.沖縄県における干潟と低湿地の貝類の現状.
“特殊鳥類等生息環境調査XI(改訂
版) −沖縄県内の水辺環境に生息する生物種の概況−”,沖縄県文化環境部自然保護課.
名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.
4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
ー:
オガタザクラ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Aeretica tomlini(Smith, 1915)
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻径2cm未満の卵円形で、藤色(薄紫色)を帯びる。殻表の成長脈は輪肋状となり、中央から後方に
かけて斜めの条筋が刻まれる。套線湾入は深く、前閉殻筋痕に達する。殻の内面には、殻頂から後腹
縁にかけて2本の白帯が現れる。
近似種との区別: 本種と近縁または近似する種は、琉球列島には生息していない。
分 布 の 概 要: 本種の地理分布は、紀伊半島以南、東南アジア、北オーストラリアとされているが、日本における分
布は、和歌山県串本や高知県大方町および沖縄島東海岸等に局限される。
生 態 的 特 徴: 波が打ち寄せる吹き上げの砂浜などの低潮帯砂底に、やや深く潜って生息する。沖縄島において本種
の生息する海岸には、タイワンキサゴ、ホシヤマナミノコザラ、アダンソンタママキ、ナミノコガイ
などが特異的に見出され、琉球列島特有の砂浜貝類群集が成立している。
生 息 地 の 条 件: 本種の生息環境は、サンゴ礁(リーフ)の切れ目の入り江奥に発達した砂浜海岸に限定される。そう
した砂浜海岸の、砕波作用によってよく淘汰された細砂底のみにオガタザクラの個体群は形成され
る。このように、砂浜から沖合いにかけての大スケールでの連続性保持が生息地の条件である。
現在の生息状況: 本種の琉球列島における分布は、沖縄島東海岸に限られる。沖縄島における生息地は、大浦湾瀬嵩
浜、中城湾与那原浜、中城湾佐敷干潟の3ヶ所のみである。このうち、与那原浜のオガタザクラ個体群
は、埋め立てにより、1998年に消滅した。佐敷干潟では、1
990年の記録を最後に見られなくなった。
現在、大浦湾瀬嵩浜のみにまとまった個体群が残されているが、生息密度は低く、生息範囲も1ヘク
タールに満たない(2003年1月調査)。
学術的意義・ 評 価: オガタザクラの生息環境となっている「砂浜海岸」は、琉球列島においては非常に限られた自然環境
である。沖縄島の海岸生物の多様性維持や海岸環境の成立を考える上で、オガタザクラは貴重な指標
生物である。
生存に対する 脅 威: 与那原浜埋め立てにより沖縄島最大の個体群が消滅した。佐敷干潟の生息域は、埋め立てが予定され
ている。また、瀬嵩浜は、赤土流入の影響を受けて底質環境が急激に悪化しつつある。沖縄のオガタ
322
貝類
参
考
文
ザクラ個体群は、絶滅寸前に追い込まれている。
献: 松隈明彦,2000.ニッコウガイ科.“日本近海産貝類図鑑”
,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,970
―983.
名和 純,2000.沖縄県における干潟と低湿地の貝類の現状. 特殊鳥類等生息環境調査XI(改訂
版) −沖縄県内の水辺環境に生息する生物種の概況−”,沖縄県文化環境部自然保護課.
名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report,Vol.
4.
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ナノハナガイ
マルスダレガイ目 アサジガイ科
Leptomya adunca(Gould, 1861)
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長2∼3cm、後端の尖った卵形。殻は薄く淡黄色。内面は黄色。殻表には細い同心板脈がある。弾帯
受けがある。
分 布 の 概 要: 奄美大島、沖縄島、久米島、石垣島に分布。
生 息 地 の 条 件: 内湾域の海草藻場低潮帯∼潮下帯の粗砂泥底を生息場所とする。
現在の生息状況: 近年の調査で生貝が見出されたのは、泡瀬干潟のみ。屋我地島済井出、久米島泊、石垣島名蔵湾など
では、比較的新しい死殻が見出される。名護市久志周辺の海域では、古い死殻を残すのみで、消滅寸
前か消滅したと思われる。
学術的意義・ 評 価: ナノハナガイは分布域の限られる稀少種であり、泡瀬干潟のように撹乱の少ない健全な海草藻場でし
か見ることができない。そのため、海草藻場の健全さ(自然度)と種多様性の高さを示す指標とな
る。
生存に対する 脅 威: 泡瀬干潟の生息域では、埋め立て工事が行われている。屋我地島済井出の生息域では、港湾整備によ
る埋め立てが行われている。また、生息している可能性のあるほとんどの海域で赤土汚染が進行して
いる。沖縄県のナノハナガイ個体群は、絶滅リスクの高い状態にあると考えられる。
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
名:
ー:
純
オオズングリアゲマキ
マルスダレガイ目 キヌタアゲマキ科
Azorinus scheepmakeri(Dunker, 1852)
イーミナー
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は厚質、大型(殻長80mm内外)で長楕円形、前後端が開く。殻表は平滑で、黄褐色の殻皮を被
る。殻頂から腹縁にかけて斜めに浅い溝がある。
近似種との区別: 近縁種のAzorinus abbreviatusズングリアゲマキは、オオズングリアゲマキより小型(殻長5
0mm以下)
で、殻質は薄く、生息環境も異なる。また、海草藻場に見られるAzorinus minutusホソズングリアゲマ
キの殻は、ズングリアゲマキ、オオズングリアゲマキよりも細長く後方に伸び、3
5mm内外。これら
近縁3種の生息域は重ならない。
分 布 の 概 要: オオズングリアゲマキは、日本では沖縄島のみから知られている。地理分布は、台湾西岸から海南
島、フィリピン、マレー半島にかけての南中国海沿岸に形成される。
生 態 的 特 徴: 内湾泥質干潟の低潮帯域の泥砂底に、長さ40cm以上の生息孔を干潟表面に対して斜めに掘って生息す
る。生息孔内側は、コーティングされたように固められており、捕らえようとすると素早く孔の底の
ほうに逃げる。また、生息孔は、水管の形に合わせて上方で二分岐している。
生 息 地 の 条 件: オオズングリアゲマキは、粒径の均一なしまりのある泥砂底でなければ深い生息孔を作ることができ
323
貝類
ない。そうした安定した底質環境が広範に形成される干潟でなければ、個体群維持ができないと考え
られる。羽地内海における本種の生息場所の中央粒径値は、0.
063mm以下で、泥質分の占める割合は
50%以上であった。
現在の生息状況: 沖縄島におけるオオズングリアゲマキの生息地は、羽地内海最奥部の泥質干潟のみに局限される。そ
の生息範囲は、約4ヘクタ ー ル。生息密度(最大 値)は、8個体/m2(2002年8月調査)となっ てい
る。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島羽地内海のオオズングリアゲマキは、地理分布の北限にあたり、日本唯一の個体群として生物
地理学的に重要。
生存に対する 脅 威: 羽地内海におけるオオズングリアゲマキの生息地では、近年、流入河川からの赤土流入が激しさを増
し、干潟は赤土に厚く覆われつつある。それに伴い、底質は礫混じりの粘土質に変化し、オオズング
リアゲマキの生息域は次第に狭められてきている。こうしたことから、オオズングリアゲマキ沖縄個
体群は、絶滅リスクが高まっていると考えられる。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
献: 斯下拉脱,O.A.,1965.中国海双殻類軟体動物的桜蛤総科.海洋科学集刊,(8)
:27―114.
名和 純,2000.沖縄県における干潟と低湿地の貝類の現状.
“特殊鳥類等生息環境調査XI(改訂
版) −沖縄県内の水辺環境に生息する生物種の概況−”,沖縄県文化環境部自然保護課.
名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
ダンダラマテガイ
マルスダレガイ目 マテガイ科
Solen kurodai Habe, 1964
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻長5cm程度の筒形の二枚貝。殻の前後端が開く。黄褐色で光沢のある殻皮を被る。赤い縦の条線に
よりまだら模様を呈する。
近似種との区別: 琉球列島には、本種も含めて少なくとも5種のマテガイ科貝類が生息しているが、いずれも殻形からダ
ンダラマテガイとは容易に区別できる。このうち、羽地内海に分布するSolen strictusマテガイは、外
套膜が黒く縁取られ、厚い殻皮を被り模様のないことで区別できる。
分 布 の 概 要: 房総半島・男鹿半島以南、四国、九州にかけての日本列島沿岸に地理分布を持つ温帯性種とされてい
たが、近年の沖縄島東岸からの記録により、琉球列島まで分布域の及ぶことが示された。
生 態 的 特 徴: 内湾砂質干潟の低潮帯域に深く潜って生息している。夏期に多数の個体が表面に飛び出す現象が見ら
れることがある。刺激で水管を自切する。
生 息 地 の 条 件: 粒径の均一に淘汰された細砂底域を生息場所としている。したがって、陸域からの土砂流入などによ
る底質の撹乱(粒径の不均一化、還元化)は、個体群の消滅を招く。佐敷干潟における本種の生息域
の底質中央粒径値は0.
15mmとなっている。
現在の生息状況: 沖縄島における本種の生息地は、中城湾佐敷干潟、金武湾海中道路北側、大浦湾二見干潟の3ヶ所に局
限される。このうち、金武湾海中道路北側では、近年の養浜工事により生息域が埋没するなどして見
られなくなった。大浦湾二見干潟の生息域は、橋梁工事により大半が消滅した。佐敷干潟では、1
999
2
年まではまとまった個体群(約10個体/m )が見られたが、2
002年8月以後の調査では、まったく見
出されなくなった。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のダンダラマテガイは、地理分布から隔離された地域個体群であり、分布南限にあたる。その
ため、生物地理学的な重要性が高い。
生存に対する 脅 威: 佐敷干潟におけるダンダラマテガイの生息域は、1
990年代後半以降急激に狭められてきている。その
原因は、浜崎川と苗代川流域より流入する土砂の堆積である。大雨の度に干潟は大量の土砂に覆わ
れ、ダンダラマテガイの生息できるような安定した細砂底域は、泥質還元化しつつある。また、ダン
ダラマテガイの生息域の全域が、埋め立て計画区域となっている。このように、ダンダラマテガイの
沖縄島個体群は絶滅リスクが高まっている。
特 記 事 項: ダンダラマテガイのレッドデータブック評価
WWF Japan サイエンスレポート:危険(危急種)
相模湾レッドデータ:減少
324
貝類
レッドデータブックあいち:情報不足
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
献: 肥後俊一・後藤芳央,1993.日本および周辺地域産軟体動物総目録.エル貝類出版局.
池田 等・倉持卓司・渡辺政美,2001.相模湾レッドデータ −貝類−.葉山しおさい博物館.
木村昭一,2002.貝類(内湾産),“愛知県の絶滅のおそれのある野生生物 レッドデータブックあいち
−動物編−”,愛知県環境部自然環境課.
名和 純,2000.沖縄県における干潟と低湿地の貝類の現状.
“特殊鳥類等生息環境調査XI(改訂
版) −沖縄県内の水辺環境に生息する生物種の概況−”,沖縄県文化環境部自然保護課.
名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・西川輝昭・五島聖冶・鈴木孝男・加藤
真・島村賢正・福田 宏,1996.日本の干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状.WWF Japan
Science Report, Vol.3.
名: 名和 純
名:
類:
名:
名:
ー:
トゥドゥマリハマグリ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Meretrix sp.
トゥドゥマリハマグリ、トゥドゥマリ貝
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長5cm程度の三角形の二枚貝。殻は厚質、殻表は平滑で光沢がある。外套線は浅く湾入し、後端が
腹縁側に突き出す。腹縁は、平らで張り出さない。白色の個体が多いが、濃褐色、黄褐色など変化に
富む。
近似種との区別: 本種は、外套線湾入の形状などからMeretrix lamarckiiチョウセンハマグリに最も近縁な種と考えられ
る。Meretrix lusoriaハマグリとMeretrix meretrixタイワンハマグリは、丸みの強い三角形、殻はやや薄
質、外套線湾入は極めて浅く三日月状で後端は突き出さない。また、腹縁は丸く張り出す。なお、ハ
マグリとタイワンハマグリは琉球列島には分布していない。
分 布 の 概 要: トゥドゥマリハマグリは西表島トゥドゥマリ浜のみに生息する。近縁種チョウセンハマグリの地理分
布は、本州∼九州(鹿島灘から種子島)および朝鮮半島南岸∼中国大陸南岸(台湾、ベトナムを含
む)に形成されている。
生 息 地 の 条 件: トゥドゥマリハマグリは、河口付近に形成された砂浜海岸の潮下帯細砂底を生息場所としている。こ
うした環境は、砕波作用によって常に淘汰され、清澄に保たれている。
現在の生息状況: 唯一の生息地である西表島浦内川河口トゥドゥマリ浜(月が浜)では、1
990年代初めまでは汀線沿い
や河口部砂底にまとまった個体数が見られたが、2000年以降は明らかに個体数が減少し続けている。
学術的意義・ 評 価: トゥドゥマリハマグリは、琉球列島の海産貝類の中で最も分布域の狭い種であり、琉球列島の海岸生
物の由来や海岸環境の成立を考える上で重要な種である。
生存に対する 脅 威: 食用や貝殻収集目的による採集圧は、トゥドゥマリハマグリ減少の要因の一つとなっている可能性が
ある。また、現在この浜では、リゾート開発計画が進行中であり、水質や底質環境への配慮が不充分
な場合は、トゥドゥマリハマグリ個体群に影響を及ぼす可能性がある。
特 記 事 項: トゥドゥマリハマグリについては、戦前に台湾あるいは日本本土から移入されたタイワンハマグリか
チョウセンハマグリの末裔とする見解もある。しかしながら、トゥドゥマリ浜後背地の貝塚からは、
センニンガイなどとともにトゥドゥマリハマグリの殻が多量に出土する。この殻は、現在トゥドゥマ
リ浜にみられる個体と同じ特徴をもつことからも、トゥドゥマリハマグリは在来種と考えられる。
沖縄島にも、かつてハマグリ属の一種が生息していた。この種は、外套線湾入の形状などからチョ
ウセンハマグリに近い種と考えられ、1940年代まで中城湾佐敷干潟と与那原海岸に生息していたこと
が知られている。このハマグリ属の一種は、金武湾沿岸の貝塚群(アカジャンガー貝塚など)からも
殻が多量に出土している。
参
考
文
献: 小菅丈治,2
003.西表島浦内川河口に生息するチョウセンハマグリ.南紀生物,45
(2).
山下博由・佐藤慎一・金 敬源・逸見泰久・長田英己・山本茂雄・池口明子・水間八重・名和 純・
高島 麗,2004.沈黙の干潟 ハマグリを通して見るアジアの海と食の未来.高木基金助成報告集
325
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
市民の科学をめざして.Vol.1.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
オフクマスオ
オオノガイ目 オオノガイ科
Distugonia decurvata(A. Adams, 1851)
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長2∼4cmの殻の薄い卵型の二枚貝。殻は白色、膨らみ強く、後端が開く。弾帯は、左殻の殻頂下に
突き出す弾帯受けに載っている。殻頂から後腹縁にかけて斜めの稜が表れる。
近似種との区別: 近縁種のVenatomya truncataクシケマスオは、オフクマスオよりも小型で(殻長1cm内外)、丸く、膨ら
みが弱い。
分 布 の 概 要: オフクマスオは、本州から熱帯西太平洋に分布するとされているが、日本国内での分布記録は非常に
少なく、瀬戸内海や響灘などからわずかに知られているにすぎない。琉球列島における分布は、沖縄
島北部と石垣島名蔵湾および西表島東岸のみに局限される。
生 態 的 特 徴: 河口干潟の河口水路周辺の砂泥底に深く潜って生息している。
生 息 地 の 条 件: 赤土堆積などの土砂流入により死滅することから、底質の変化や濁りに弱いと考えられる。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるオフクマスオの生息地は、沖縄島塩屋湾(大保大川河口)および大浦湾二見干潟、
石垣島名蔵、西表島仲良川河口の4地点のみである。いずれの生息地でも生息範囲はわずか数十mと非
常に狭く、生息密度も低い。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島の海岸生物の由来や海岸環境の成立を考える上で、重要な種である。
生存に対する 脅 威: 塩屋湾大保大川河口では、オフクマスオの生息域が赤土に覆われ、2002年6月の調査では死殻しか確認
できなかった。大浦湾二見干潟では、橋梁工事により、底質環境が変化した結果、生貝は見られなく
なった。西表島仲良川河口でも死殻は多いが、生貝は見られなくなっている。沖縄県のオフクマスオ
は、絶滅寸前に追い込まれている可能性が高い。
特 記 事 項: オフクマスオのレッドデータブック評価
WWF Japan サイエンスレポート:危険(危急種)
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
献: 和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・西川輝昭・五島聖冶・鈴木孝男・加藤
真・島村賢正・福田 宏,1996.日本の干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状.WWF Japan
Science Report, Vol.3.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
コオキナガイ
ウミタケガイモドキ目 オキナガイ科
Laternula boschasina(Reeve, 1864)
絶滅危惧 A類(CR)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は極めて薄質。殻長2
5mm内外の楕円形で、後端は吻状に細まり鈍く尖る。後端両殻間は、やや開
いている。殻表に微顆粒を密布する。弾帯は、殻頂下に突き出す弾帯受けに載っている。殻表周縁
は、褐色の殻皮に縁取られる。
近似種との区別: 近縁種のLaternula marilinaソトオリガイは、横長の楕円形で、コオキナガイのように後端が細くなら
ない。また、Laternula truncataヒロクチソトオリガイは後端が裁断状となり、両殻の間が大きく開
く。これらの近縁種は沖縄島において、コオキナガイの分布域である中城湾には分布していない。
分 布 の 概 要: コオキナガイは、本州から九州の内湾(三河湾、瀬戸内海、有明海)および中国大陸沿岸(黄海∼海
南島)、台湾西岸に地理分布をもつ。琉球列島では、沖縄島の中城湾のみから知られている。
生 態 的 特 徴: 内湾奥泥質干潟の中潮帯泥砂底に浅く潜っている。
生 息 地 の 条 件: 本種は、粒径の均一な安定した泥砂底域にしか見られない。したがって、陸域からの土砂流入などに
326
貝類
現在の生息状況:
学術的意義・ 評 価:
生存に対する 脅 威:
特
記
事
項:
より、二次的に泥質化した場所には定着しない。また、底質が還元化したり、土砂流入の影響を受け
ると死滅するため、底質の変化に極めて弱いと思われる。佐敷干潟における本種の生息域の底質は、
泥質分が約40%を占め、中央粒径値は0.
09mm。
沖縄島における本種の生息地は、中城湾川田干潟と泡瀬干潟(比屋根湿地地先)および佐敷干潟の3地
点のみである。これら3地点での生息範囲と生息密度(最大値)は、川田干潟: 約1ヘクタール、4個
体/m2(2003年1月調査);泡瀬干潟:1ヘクタール以下、1個体以下/m2(2002年9月調査);佐敷干
潟:約4ヘクタール、4個体/m2(2002年8月調査)となっている。
沖縄島のコオキナガイは、中国大陸沿岸から隔離された地域個体群として生物地理学的に重要であ
る。また、コオキナガイの琉球列島における分布は、絶滅危惧種のトカゲハゼと一致している。こう
したことからも、コオキナガイの沖縄個体群は、琉球列島の干潟の歴史性を解明する重要な情報源と
考えられる。
川田干潟では、1
993年からの埋め立てにより、中潮帯下部から低潮帯にかけての210ヘクタールの干潟
が埋め立てられた。そのため、コオキナガイの生息域は、埋立地との間に水路状に残された形とな
り、環境の連続性が失われた。その結果、底質環境が還元化し、工事浚渫土砂の流入で底質粒径の不
均一化を生じた。こうしたことから、コオキナガイの生息域は、埋め立て前の半分以下に狭められ、
個体数が激減した。泡瀬干潟の個体群も、現在進行中の埋め立て工事が完了すれば、川田干潟の個体
群と同じ経過をたどるであろう。佐敷干潟では、1
996年頃からの激しい土砂流入により、コオキナガ
イの個体数は生息密度4分の1以下にまで激減した。このように、コオキナガイ沖縄個体群は、極めて
存続困難な状況に追い詰められている。
コオキナガイのレッドデータブック評価
WWF Japan サイエンスレポート:危険(危急種)
相模湾レッドデータ:消滅
レッドデータブックあいち:絶滅危惧 類
熊本県の保護上重要な野生生物リスト:絶滅危惧 B類
参
考
文
執
筆
者
献: 波部忠重,1
961.続原色日本貝類図鑑.保育社,大阪,182pp.
池田 等・倉持卓司・渡辺政美,2001.相模湾レッドデータ −貝類−.葉山しおさい博物館.
木村昭一,2002.貝類(内湾産),“愛知県の絶滅のおそれのある野生生物 レッドデータブックあいち
−動物編−”,愛知県環境部自然環境課.
熊本県希少野生動植物検討委員会,2004.熊本県の保護上重要な野生生物リスト.レッドリストくま
もと2004.熊本県環境生活部自然保護課.
名和 純,2000.沖縄県における干潟と低湿地の貝類の現状.
“特殊鳥類等生息環境調査XI(改訂
版) −沖縄県内の水辺環境に生息する生物種の概況−”,沖縄県文化環境部自然保護課.
名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report,Vol.
4.
和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・西川輝昭・五島聖冶・鈴木孝男・加藤
真・島村賢正・福田 宏,1996.日本の干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状. WWF Japan
Science Report, Vol.3.
庄 啓謙,1982.中国近海鴨嘴蛤科的分類研究.海洋及湖沼,13
(6)
:553―561.
名: 名和 純
3)絶滅危惧 B類
(EN)
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
タイワンキサゴ
腹足綱 古腹足目 ニシキウズ科
Umbonium suturale(Lamarck, 1822)
なし
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は小型でやや厚く、低円錐形で殻表は光沢が強い。殻径20mm程度。
近似種との区別: 近似種イボキサゴとは縫合が顆粒状にならないこと、キサゴとは殻のジグザク模様が細かく、より小
327
貝類
型であることから区別される。
沖縄本島東岸の開放性内湾の細砂底。
砂底生活に適応した腹足をもち、砂上の珪藻等微細藻類を摂食すると考えられる。
均質な細砂質の海域が広域に存在する場所のみに生息する。
与那原町与原は県内における本種の最大の生息場所のひとつであったが、1
997年からはじまった海浜
埋め立てにより、消滅した(名和,2000)。その後、1990年代後半に汀間川および大浦川河口沖の細砂
域において、新鮮な死殻がわずかに確認されたが、生貝は確認されておらず、個体群規模は小さいと
考えられる。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島の内湾の細砂底のみに分布し、その分布様式は特異であり、先島海域では確認されておらず、
動物地理学的にも重要である。本種は主な生息地であった与那原湾奥の埋め立てによる消失の結果、
他にまとまった個体群の確認されている場所がないため、絶滅危惧 B類の生息地の過度の分断と出
現範囲、生息地面積、成熟個体数等の極度の減少が見られると判断される要件に合致する。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て等による生息場所の直接的な消失。
分 布 の 概 要:
生 態 的 特 徴:
生 息 地 の 条 件:
現在の生息状況:
原
参
執
記
載: Lamarck, 1822. Histoire naturelle des animaux sans vertebres. 5―7.
考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名和 純,2000.沖縄県における干潟と低湿地の貝類の現状.
“特殊鳥類等生息環境調査XI”,沖縄県
文化環境部自然保護課,103―129.
筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ミニカドカド
新紐舌目 カワザンショウガイ科
Ditropisena sp.
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻径2mm以下、螺塔は低く、そろばん型。縫合下と周縁に強い螺肋をめぐらす。
分 布 の 概 要: 沖縄島羽地内海沿岸のみに分布。
生 息 地 の 条 件: ミニカドカドは、マングローブや海岸林内(高潮帯∼潮上帯)の泥に埋もれた石や漂着木の下のすき
まを生息場所としている。生息条件が非常に限られているために、乾燥化などのわずかな環境変化で
も個体群の消滅を招く。
現在の生息状況: 屋我地島南岸(羽地内海)にいくつかの個体群が点在している。なかでも屋我地小中学校付近(饒平
名)には、数十個体からなる最大の個体群が形成されている。
学術的意義・ 評 価: ミニカドカドは、羽地内海のみに分布する固有種である。羽地内海とその周辺部のマングローブや海
岸林内(高潮帯∼潮上帯)に分布域の限定される種として、ミニカドカドの他に、ナラビオカミミガ
イ近縁種、ナズミガイ、デンジハマシイノミガイ、ヒメカワザンショウ等が知られている。こうした
羽地内海固有の貝類群集は、琉球列島の干潟環境の歴史性を評価する上で極めて貴重な存在である。
生存に対する 脅 威: 現在、屋我地島南岸のミニカドカドの生息域では、護岸新設工事が進行しているため、生息域の消滅
が懸念される。ミニカドカドは絶滅リスクの極めて高い状態に置かれている。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
方
328
言
献: 和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・西川輝昭・五島聖冶・鈴木孝男・加藤
真・島村賢正・福田 宏,1996.日本の干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状.WWF Japan
Science Report, Vol.3.
名: 名和 純
名:
類:
名:
名:
スグカワニナ
腹足綱 新紐舌目 トウガタカワニナ科
Stenomelania uniformis(Quoy & Gaimard, 1834)
なし
貝類
B類(EN)
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
形
態: 殻は大型で、非常に高い塔状、殻表は平滑で漆黒∼黒褐色だが、赤褐色の酸化鉄皮膜に被覆されるこ
とがある。蓋は黒褐色。最大殻長80mmに達する。
近似種との区別: 近似種ヨシカワニナはより小型で、殻表に多数の螺条を有する。
分 布 の 概 要: 沖縄本島北部、石垣島、西表島、与那国島の限られた河川。
生 態 的 特 徴: 汽水性で川底の砂泥に潜りこみ、デトライタスや水草の屑等を摂食する。
生 息 地 の 条 件: 自然度が高く、汽水性貝類の多様性の高い川(アマオブネ類等が1
0種類以上見られるのが普通)の、
下流から中流の常に流れている泥礫∼砂底に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島では1990年代まで数河川の産地が知られ、多産する場所もあったが、その後、多くの産地で大
規模な河川改修等があり、大幅に生息個体数が減少し、現在、確実に観察できる河川はほとんどな
い。石垣島、西表島、与那国島においても生息記録のある河川はわずかで、また個体数も非常に少な
い。
学術的意義・ 評 価: 本種を含む、汽水性カワニナ類は南西諸島に1
0種弱記録されており、各島嶼において遺伝的分化の可
能性があるが、分類学や生態学的知見が非常に乏しく、今後の研究資源として、その学術的意義は大
きい。本種は、殆どの河川で大幅に生息数が減少し、生存場所においても、その個体群の成熟個体数
が非常に少ない上、その範囲も極めて限られていることから、絶滅危惧 B類の諸要件に合致する。
生存に対する 脅 威: 河川周辺環境の改変や河川改修等に伴われる河川の自然環境多様性の低下。人工あるいは自然的原因
による河口閉塞と、それに伴う両側回遊的生活史の遮断。
原
記
載: Quoy & Gaimard, 1834. Voyage de Decouvertes de l’Astrolabe excute par ordre du Roi, Pendant les anees
1826―1829. sous le commandment de M. J. Dumont d’urville. Zoologie : Mollusca.
参 考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
黒住耐二,2003.13章 軟体動物. 琉球列島の陸水生物 ,西島信昇監修,西田睦・鹿谷法一・諸喜田
茂充編著,東海大学出版会,東京,572pp.
黒田徳米,1929.日本産カワニナ類について.ヴェナス, (5)
:179―193,pl. IV.
福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
増田 修・小野正人,1988.与那国島の淡水産貝類.神奈川自然保全研究会報告書,7:52―60.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
コハクオカミミガイ
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Ellobium incrassatum(H. & A. Adams, 1854)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、大型で、縦にやや延びた卵球形、殻表は殆ど平滑だが、微細な成長脈を有し、殻色は肌
色∼淡黄白色。殻口は広く、内側は白色。殻長30mmに達する。
近似種との区別: 県内に近似種は他にない。
分 布 の 概 要: 沖縄島、宮古島、西表島のマングローブ林周辺の塩性湿地。
生 態 的 特 徴: 湿潤な環境の朽ちた木や泥上の有機物等を摂食すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: マングローブ林周辺の塩性湿地の潮間帯上部に生息し、特に幼期は朽木の中を住処とすることが多
い。
現在の生息状況: 本種はマングローブ林周辺のユウナなどの大型海岸性木本に覆われるような塩性湿地に生息し、その
周辺に堆積する朽木の中で成長すると考えられる。こうした環境は完全に陸化すると本種は生息でき
ない。沖縄島周辺の塩性湿地は埋め立て、護岸造成等で消失が著しいが、本種の生息場所は特に陸に
近いレベルに形成されるため、最も生息地の消失が著しく、現在、生息の確認できる産地は僅かであ
る。
学術的意義・ 評 価: 沖縄は分布の北限で生物地理的に重要であるほか、生息環境が陸域と海域との境界に形成され、貝類
の陸上進出の観点からも進化生物学的に重要と考えられるが、詳細な研究が殆ど行われていない。本
種は殆どの塩性湿地で大幅に生息数が減少し、生存場所においても、その個体群の成熟個体数が非常
に少ない上、その範囲も極めて限られていることから、絶滅危惧 B類の諸要件に合致する。
329
貝類
生存に対する 脅 威: 本種の生息地は主にユウナなど海岸林に遮蔽され、かつ低地であることで湿潤な環境を保持した後背
湿地であり、人工的には容易に創出できない自然の絶妙のバランスの保たれた場所と考えられる。こ
れまで沖縄では海浜埋め立て、護岸造成等により、このような塩性湿地がかなり消失してきたと考え
られ、今後も、そうした生息場所の消失が本種の生存脅威となる。今後は残された僅かな生息地をい
かに保全していくかが課題となろう。
原
記
載: H. & A. Adams, 1854. Monograph of Ellobium and Melampus, two genera of Pulmoniferous Mollusca. Proc.
Zool. Zool. London, 22 : 7―13
参 考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
ラッパガイ
有肺目 サナギガイ科
Hypselostoma insularum Pilsbry, 1908
なし
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
形
態: 貝殻は微小(殻高約1.
6mm)で、殻径は幅広く(約1.
5mm)、円錐形で、薄質だが、やや堅固。螺塔
はやや高く、円錐形。体層は大きく、周縁は角張る。殻は黄褐色で鈍い光沢を持ち、ほぼ平滑。殻口
は突出し、卵形で、肥厚・反転する。殻口内部に多くの歯を持つ。
近似種との区別: 日本産の本科の種とは、幅の広い円錐形で、殻口が突出することで識別できる。
分 布 の 概 要: 宮古島・波照間島・与那国島にのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 日本産は一属一種であり、同属の種は東南アジアやフィリピン等に分布する。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い石灰岩地の岩や転石表面に生息する。
生 息 地 の 条 件: 比較的自然度の高い林の林内が生息地である。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度は極めて強い減少傾向にある。
現在の生息状況: 石灰岩地の林内に生息しており、近年は個体数が減少している。
学術的意義・ 評 価: 同属の種が東南アジアやフィリピンに分布するという特異な分布様式を持っている。
生存に対する 脅 威: 森林の様々な開発により、林が開け、林内が乾燥することである。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
参 考 文
執
筆
載: Pilsbry, H. A., 1908. Two gerera of land snails new to Japan and Korea. Conch. Mag., 2 : 39―42.
献: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
湊 宏,1976.与那国島の陸産貝類相.Venus,35
(4)
:163―184.
湊 宏,1977.与那国島のラッパガイ覚え書き.Nature Study,23
(9)
:11―12.
湊 宏,1980.宮古群島の陸産貝類相.Venus,39
(2)
:83―99.
者 名: 黒住耐二
ニシキキセルモドキ
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
形
態: 貝殻はこの属としては大型(殻高約26mm)で、殻径はやや太く(約1
2mm)、やや高い円錐形で、螺
層数は多い。螺層の膨らみは弱い。体層は幅広くなる。やや厚質。殻表はほぼ平滑で、弱い光沢を持
ち、紫褐色の地に極めて強い黄白色の火炎彩を持つ。殻口は肥厚し、内部は紫。
330
有肺目 キセルモドキ科
Luchuena eucharista eucharista(Pilsbry, 1901)
なし
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
貝類
近似種との区別: 本亜種は、リュウキュウキセルモドキやオオシマキセルモドキL. e. oshimanaより、大型で、体層が幅
広くなり、殻口内が紫色になることによって識別できる。
分 布 の 概 要: 西表島にのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: リュウキュウキセルモドキは八重山諸島に、オオシマキセルモドキは奄美諸島の
奄美大島・喜界島・徳之島に分布し、本種は西表島の比較的標高の高い山地帯にのみ分布する。
生 態 的 特 徴: 森林の主に大径木の樹幹に生息する樹上性種である。
生 息 地 の 条 件: 自然度の高い森林に生息する。
現在の生息状況: 人為的撹乱の少ない西表島の山地帯でも、本種の確認個体数はかなり少ない。
学術的意義・ 評 価: 西表島のみの固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採による生息環境の変化や採集圧。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
参 考 文
執
載: Pilsbry, H. A., 1901. Notices of new Japanese land snails. Nautilus, 14 : 127―129.
献: 黒田徳米.1945.キセルモドキ属に就いて.Venus, 14
(1―4)
:43―62,1pl.
波部忠重,1956.日本産陸産貝類の解剖学的研究.キセルモドキ科の種群.動雑,65:262―266.
知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
知念盛俊,1990.西表島の陸産貝類.“平成元年度西表島崎山半島地域調査報告書”
,環境庁自然保護
局,東京,267―275.
東 正雄,1995.原色日本陸産貝類図鑑 増補改訂版.保育社,大阪,xvi+343pp, +80pls.
者 名: 黒住耐二
筆
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
ニシキコギセル
有肺目 キセルガイ科
Proreinia elegans(Habe, 1962)
なし
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
形
態: 貝殻は中型(殻高約17.
5mm)で、殻径はやや太く(約4.
5mm)、短い紡錘形で、薄質。殻は縫合下に
淡黄色の帯状部を持ち、他は濃紫褐色で、成長に沿った火炎彩がある。殻表の成長肋は弱く、やや光
沢がある。殻口縁は薄く、特に内唇付着部で弱く、殻口はやや四角形。殻口内の上板・下板とも弱
く、下軸板はない。主襞・上腔襞・下腔襞とも短い。
近似種との区別: 本種は、大型であること、殻が淡黄色と濃紫褐色に染め分けられることで同属の他種と区別できる。
分 布 の 概 要: 西表島にのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 本種は西表島にのみ分布し、同属の種は、奄美諸島・トカラ列島から本州南岸・
伊豆諸島に分布する。
生 態 的 特 徴: 樹幹で見られる樹上性種である。卵胎生。
生 息 地 の 条 件: 比較的自然度の高い森林。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度は極めて低い。
現在の生息状況: 西表島の各地で確認されているが、いずれの地点でも確認個体数は少ない。
学術的意義・ 評 価: 西表島のみの固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
参
記
考
文
載: 波部忠重,1
962.沖縄八重山群島西表島産キセルガイ科2種.ニシキコギセル(新種)とイリオモテ
コギセル.Venus,22
(2)
:113―117.
献: 波部忠重・知念盛俊,1974,八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―128,3pls.
知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
湊 宏,1984.日本産陸棲貝類の生殖器の研究―XXII. キセルガイ科(8)イーストレーキコギセル属と
ヒロクチコギセル属.Venus, 43
(2)
:172―181.
冨山清升,1985.ニシキコギセルとイーストレーキコギセルの生殖器.ちりぼたん,16
(2)
:49―51.
331
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
ヨナグニダワラ(ヨナクニダワラ)
有肺目 ネジレガイ科
Sinoennea yonakunijimana(Pilsbry & Hirase, 1909)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
形
態: 貝殻は小型(殻径約1.
9mm)で、殻高は高く(約4mm)、俵型で、この属としては中型で、螺層中部
が最も幅広くなり、殻頂部はやや尖り、やや薄質。殻表には明瞭で規則的な縦肋が密にある。殻口は
小さく、長方形で、やや全体に広がり、上部に1歯を持ち、内部にも歯状突起がある。軟体部は黄色。
近似種との区別: 本種は、中型で、螺層中部が最も幅広くなり、殻頂部は細くなることによって、近接地域の同属の種
と容易に識別できる。
分 布 の 概 要: 本種は、与那国島にのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 沖縄島にはコメツブダワラが、宮古島にはミヤコダワラが分布する。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い森林の落葉下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 確認されている個体数はかなり少ない。
現在の生息状況: 本種は、与那国島でも、確認地点数・個体数とも極めて少ない。
学術的意義・ 評 価: 与那国島の固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
参
考
執
筆
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1909. New land Mollusca of Japanese Empire. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 60 :
586―599.
文 献: 湊 宏,1976.与那国島の陸産貝類相.Venus,35
(4)
:163―184.
東 正雄,1995.原色日本陸産貝類図鑑 増補改訂版.保育社,大阪,xvi+343pp, +80pls.
者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
名:
ー:
イヘヤヤマタカマイマイ
有肺目 ナンバンマイマイ科
Satsuma(Luchuhadra)iheyaensis(Pilsbry & Hirase, 1905)
なし
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
態: 貝殻は中型(殻径約2
3mm)で、殻高は高く(約2
1mm)、円錐形で、殻頂はやや尖る。やや厚質。体
層周縁には弱いが明瞭な角を持つ。殻皮は弱い光沢を持つ。色帯の有無には変異があり、持つ場合に
もいくつかのタイプがある。臍孔は狭く開く。殻口は白色で、やや強く肥厚し、反転する。
近似種との区別: 本種は、琉球列島の同亜属の種とは、小型でやや厚質、周縁角が明瞭で、殻口の肥厚がやや強いこと
によって識別できる。
分 布 の 概 要: 伊平屋島からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 琉球列島の多くの島には、本亜属の種が地理的に種分化して分布し、伊平屋島に
は本種しか分布していない。
生 態 的 特 徴: 樹木の樹幹に生息する樹上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 極めて限られた地域にのみ小さな個体群が生存しているのみであり、減少傾向にある。
現在の生息状況: 本来は連続していた森林に分布していたと考えられるが、これらの森林が分断され、近年では賀陽山
332
貝類
山塊でしか確認されていない。
学術的意義・ 評 価: 伊平屋島のみの固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1905. New land mollusks of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila.,
57 : 705―719.
参 考 文 献: 知念盛俊・治井正一,1
976.伊平屋島・伊是名島の陸・淡水貝類(予報)
.沖縄生物教育研究会誌,
(9)
:37―43.
湊 宏,1982.伊平屋島のイヘヤヤマタカマイマイ.ちりぼたん,13
(2)
:33―34.
東 良雄,2000.伊平屋島で再発見されたイヘヤヤマタカマイマイの生殖器について.ちりぼたん,
31
(3)
:85―89.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
川名美佐男,2003.伊平屋島の陸産貝類の近況.かいなかま,37
(1)
:20―24.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
クメジママイマイ
有肺目 ナンバンマイマイ科
Satsuma(Satsuma)mercatoria kumejimaensis M. Azuma, Y. Azuma & Hirata, 1992
なし
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧 類(CR+EN)
形
態: 貝殻は中型(殻径約30mm)で、殻高はやや高く(約2
6mm)、球形で、やや厚質。螺層は少し膨れ、
上面に規則的で弱い皺状彫刻がある。体層は大きく、周縁には角を持たない。殻皮はほとんど光沢を
持たない。殻は黒紫色で、周縁に細い黒帯を巡らす。臍孔は軸唇に被われるが、狭く開く。殻口は栗
色で、やや強く肥厚し、反転する。
近似種との区別: 本種は、琉球列島の同亜属の種とは、やや小型で、殻高が高く、体層が大きく、周縁角を持たないこ
とによって識別できる。
分 布 の 概 要: 久米島からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 琉球列島の多くの島には、本亜属の種が地理的に種分化して分布し、久米島には
本種とシュリマイマイS.(S.)m. mercatoriaしか分布していない。島内で本種は、宇江城地域の小地域
にのみ分布し、ほぼシュリマイマイとは側所的に分布域を分けている。
生 態 的 特 徴: 林床の倒木下や落葉下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: 自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 個体数は着実に減少している。
現在の生息状況: 久米島の小地域にのみ生息しており、生息環境の改変は少ないようである。
学術的意義・ 評 価: 久米島のみの固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化と採集圧。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
参 考 文
執 筆 者
載: 東 正雄・東 良雄・平田義浩,1992.久米島の陸産貝類相.Venus,50
(4)
:264―269.
献: 品川和久,1978.沖縄県久米島における陸貝採集記録.かいなかま,12
(2)
:4―14.
名: 黒住耐二
和
分
学
名: ウロコケマイマイ
類: 有肺目 オナジマイマイ科
名: Aegista lepidophora lepidophora(Gude, 1900)
333
貝類
B類(EN)
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
形
態: 貝殻は小型(殻径約10mm)で、殻高は低く(約5mm)、ソロバン玉状で、螺塔は低く、やや薄質。体
層周縁の角は明瞭。殻皮は明茶褐色で、剥がれやすい粗い三角状突起を持つ。殻口はやや弱く肥厚
し、反転する。臍孔は広く開き、その縁は角立たない。
近似種との区別: 本種は、小型であること、殻表の三角状突起が明瞭で粗いこと、周辺に角を持つことで、琉球列島の
他種や他の亜種と識別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄島からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 別亜種のカドマルウコロケマイマイは沖縄島を除く沖縄諸島の島嶼に、マメヒロ
ベソマイマイA. minimaは奄美諸島に分布する。
生 態 的 特 徴: 林床の倒木下や落葉下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林の主に林縁に生息する。
個 体 数 の 動 向: 近年の生貝の確認は比較的稀で、明瞭に個体数は減少している。
現在の生息状況: 沖縄島の北部・南部に渡って広く生息していたが、各地で生息地の消滅・改変等で個体数が減少して
いる。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 本種が八重山諸島に分布するという記述は誤りであり、粟国島の記録は別亜種のカドマルウロコケマ
イマイと考えられる。
原
記
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
載: Gude, G. K., 1900. Further notes on helicoid land snails from Japan, the Loo―Choo, and Bonin Islands, with
description of seven new species. Proc. Malac. Soc. London, 4 : 70―80.
献: 加藤次雄,1959.沖縄の陸棲貝.三重生物,(9)
:73―75.
知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I).沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
知念盛俊,1989.佐敷町産陸棲貝類.“佐敷町史 三 自然”,佐敷町役場,沖縄,324―334.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
ヘリトリケマイマイ
有肺目 オナジマイマイ科
Aegista marginata(Pilsbry & Hirase, 1903)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
態: 貝殻は中型(殻径約3
0mm)で、殻高はやや高く(約1
7mm)、ソロバン玉形、螺層はやや膨らみ、厚
質。体層周縁の角は明瞭で竜角として突出し、その部分は白色。殻は淡黄褐色で、殻表に明瞭な殻皮
の突起や毛を持たない。殻口は強く肥厚し、反転する。臍孔はやや狭く、その縁は角立たない。
近似種との区別: 本種は、周縁角が竜角として突出し、殻表に明瞭な毛状付属物を持たないことで、琉球列島の同属の
種から識別できる。
分 布 の 概 要: 本種は、沖縄島北部の石灰岩地である辺戸石山・本部半島の嘉津宇岳およびその周辺部にのみ分布す
る種である。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 殻形態の類似するイトマンマイマイは沖縄諸島に広く分布するが、沖縄島北部の
石灰岩地では生息個体数は稀である。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い石灰岩地の落葉下や礫間に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林の林床に生息する地上性種である。
個 体 数 の 動 向: 顕著に減少している。
現在の生息状況: 本種の生息地である辺戸石山・嘉津宇岳とも、近年の大きな環境改変はないように思われる。しか
し、近年の嘉津宇岳からの確認はないと思われ、本種の生存に影響を与えるような小規模な森林の変
革が生じているものと考えられる。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島北部の石灰岩地の固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化と採集圧。
特 記 事 項: 特になし。
334
貝類
原
参
執
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1903. Notices of new Japanese land shells. Nautilus, 17 : 44―46.
考 文 献: 波部忠重,1955.日本産陸産貝類の解剖学的研究(3).Venus,18
(4)
:221―234.
湊 宏,19
79.沖縄本島産ケマイマイ亜属3種の生殖器知見.南紀生物,21
(1)
:19―21.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
知念盛俊,1989.沖縄島北部の陸産貝類・淡水産貝類.“昭和62年度沖縄島北部地域調査報告書,南西
諸島における野生生物種の保存に不可欠な諸条件に関する研究”
,環境庁自然保護局,東京,433―
451.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
トウガタホソマイマイ
有肺目 オナジマイマイ科
Pseudobuliminus turrita(Gude, 1900)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
形
態: 貝殻は小型(殻径約6.
5mm)で、殻高は高く(約1
1mm)、高円錐形、螺層は僅かに膨らみ、やや薄
質。体層周縁の角は明瞭で強く尖る。殻は淡黄褐色で、殻表に明瞭な殻皮の突起や毛を持たず、ほぼ
平滑。殻口は弱く肥厚し、反転する。臍孔は反転した軸唇に被われて狭い。
近似種との区別: 本種は、周縁角が明瞭で強く尖ることにより、ナガシリマルホソマイマイP. meiacoshimensisやタカラ
ホソマイマイと容易に識別できる。
分 布 の 概 要: 本種は、沖永良部島と沖縄島を含む沖縄諸島に分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: ナガシリマルホソマイマイは八重山諸島に、タカラホソマイマイは尖閣列島に分
布する。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い森林の林縁の落葉下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 近年では、沖縄島南部を中心として、生貝の確認が少なく、個体数は減少している。
現在の生息状況: 本種の記録地は、比較的沖縄島では石灰岩地域を中心に各地から報告されている。しかし、その分布
は散在的である。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島諸島と沖永良部島の固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
載: Gude, G. K., 1900. Further notes on helicoid land snails from Japan, the Loo―Choo, and Bonin Islands with
description of seven new species. Proc. Malac. Soc. London, 4 : 70―80.
献: 知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I).沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
知念盛俊,1989.佐敷町産陸棲貝類.“佐敷町史 三 自然”,佐敷町役場,沖縄,324―334.
東 正雄・東 良雄・平田義浩,1992.久米島の陸産貝類相.Venus,50
(4)
:264―269.
知念盛俊,1992.中城城跡と周辺の陸産貝類.“中城村史 第二巻 資料編1”,中城村役場,沖縄,238―
243.
名: 黒住耐二
名: ウチワガイ
類: フネガイ目 タマキガイ科
名: Tucetona auriflua(Reeve, 1843)
335
貝類
B類(EN)
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約4cm、円形の二枚貝。殻質は厚く、殻表に放射肋がある。
分 布 の 概 要: 奄美諸島、沖縄島、フィリピン、インドネシア。
生 息 地 の 条 件: ウチワガイは、海草藻場の間のサンゴ礫底を主な生息場所としている。したがって、本種の生息条件
として、海草藻場とその周辺環境の連続性が維持されていなければならない。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるウチワガイの生息確認地点(1990∼2003年)は、次の4地点となっている。金武湾海
中道路周辺、中城湾(泡瀬干潟、久場崎、浜)。このうち、最大の生息地である泡瀬干潟では、海草藻
場帯の沖側(低潮帯下部∼潮下帯)において、約2
0haの範囲に最大約1
5個体/m2の密度で個体群が形
成されている。なお、本種は、リーフ外からも浚渫などにより古い死殻が得られることがあるが、生
息状況は不明。
学術的意義・ 評 価: ウチワガイは、海草藻場における生物生息環境の多様性を認識するうえで重要な種である。
生存に対する 脅 威: 泡瀬干潟のウチワガイの生息域では、埋め立て工事が進行している。海中道路周辺と中城村浜の生息
域では、人工ビーチ造成工事が進行している。このように、沖縄県のウチワガイの生息条件は、既知
のすべての生息地において著しく悪化している。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
献: 松隈明彦,200
0.タマキガイ科.“日本近海産貝類図鑑”
,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,8
58―
861.
水間八重・山下博由,2002.泡瀬干潟における機械による大規模な海草移植実験の現状について −主
に海草場に生息する貝類に注目して−.九州の貝,59.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
ヌバタママクラ
イガイ目 イガイ科
Modiolus aratus(Dunker, 1857)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻長4∼5cmの長方形の二枚貝。殻は薄質。濃褐色の殻皮を被り、輪肋に覆われる。後背縁が角張るた
め、全体として箱型を呈する。内面は赤紫色。
近似種との区別: 近縁種のModiolus philippinarumホソスジヒバリガイは、ヌバタママクラよりも大型(最大殻長10cm)
になり、後背縁は角張らず、幅が広く(殻高が大きい)丸みがある。また、両種は、同所的には見ら
れない。ヌバタママクラは、殻形の良く似ているカラスノマクラやコケガラスに誤同定されることが
あるが、これらの種は琉球列島には分布していない。
分 布 の 概 要: 熱帯インド・西太平洋域に地理分布を形成するとされているが、日本国内では、奄美大島、沖縄島、
石垣島、西表島に極めて局所的に分布するにすぎない。
生 態 的 特 徴: 内湾中潮帯の滲出水(陸水)のある礫混じり砂泥底に生息する。足糸で砂利の塊に付着して埋在して
いる。同所的にアラスジケマンガイやサメザラモドキなどの二枚貝類が見られる。このような場所に
は、高潮位でありながら、小規模な海草藻場(コアマモ、マツバウミジグサ、ウミヒルモ)が形成さ
れている。
生 息 地 の 条 件: ヌバタママクラは、護岸工事などで海岸移行帯が切断されると死滅する。陸域からの水脈および安定
した底質環境(礫混じり砂泥底)の維持が個体群維持の条件である。
現在の生息状況: ヌバタママクラは、琉球列島においては極めて不連続かつ局所的な分布を呈している。沖縄県内にお
ける生息地は、屋我地島南岸(羽地内海)、石垣島名蔵、西表島船浦および仲良川河口の4地点のみと
なっている。いずれの産地も、個体数密度は極めて低く(1個体以下/m2)、生息範囲も1haに満たな
い。
学術的意義・ 評 価: ヌバタママクラは、特殊な生息環境に特徴的に見られることから、干潟の生物生息環境の多様性を知
るうえで大切な存在であるといえよう。また、特定の地域に不連続に分布することから、生物地理学
的に重要な種である。
生存に対する 脅 威: 屋我地島南岸の生息域では、護岸新設工事が進行しているため、生息域の消滅が懸念される。名蔵の
生息域は、赤土流入の影響が大きい河口部に位置している。
336
貝類
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
ヒレナシジャコ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 シャコガイ科
Tridacna derasa(Röding, 1798)
マーギーラ
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、大型で、非常に厚質で重く、後方に延びた亜三角形、殻表には太い肋が隆起するが、肋
状のヒレの発達が乏しく、概ね平滑で、成長輪脈が刻まれる。色彩は白色。足糸開口は非常に狭く、
僅かに隙間が開く。殻長約60cm以下。
近似種との区別: 近似種ヒレジャコは殻に鰭上突起が発達し、シラナミ、ヒメジャコとは背縁部が開口することにより
区別される。
分 布 の 概 要: 宮古島、多良間島、石西礁湖。
生 態 的 特 徴: 外套膜に渦鞭毛藻類を共生させ、その光合成産物から栄養を摂取する。
生 息 地 の 条 件: 水深のあるリーフ内の潮通しのよいサンゴ礁の礫砂底に半ば埋没して生息する。
現在の生息状況: 1990年代まで、先島海域において、10数個体の生息が認められ、一部は水産試験場八重山支場に人工
繁殖のために生体が持ち込まれた。沖縄県では本種の人工繁殖のため、県下の漁協に生体採捕の協力
を依頼してきたが、2000年多良間島で1個体の生体が確認されて以来(多良間島の個体は採捕者が同海
域地先に確保していたが、水産試験場へ輸送前に盗難され、消失)、生体確認の記録が無い。著しく大
型な上、外套膜の色彩も鮮やかで、比較的目立ちやすい貝であり、頻繁に海域を探索している漁業関
係者から、報告が全くないことから、極めて野生絶滅の可能性が高い種である。なお、1
990年に人工
繁殖が成功し、その人工貝が100個体以上、水産試験場の管理のもと、石垣島川平保護水面で保護され
ている。
学術的意義・ 評 価: 同種群は共生藻をもちいた特殊な独立栄養的な摂食様式を獲得し、進化学的、生態学的に興味ある研
究素材であり、生物地理的にも分布の北限域にあたり、その遺伝的資源保持は重要である。本種は人
工繁殖によって、養殖が行われるまで人工貝の個体数が増加し、その結果、その人工貝が産卵して、
天然海域において自然発生が期待されるが、今のところ、そうした事例は全く確認されていない。し
たがって、野生下における天然個体群の存続基盤は未だにきわめて脆弱であり、その個体数も著しく
少ないと推定されるため、近い将来における野生での絶滅の危険性もある。
生存に対する 脅 威: 先島海域における天然貝の採捕。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Röding, 1798. Museum Boltenianum sive catalogus cimelorime tribus regnis naturae quae olim collegerat Joa.
Fried. Bolten, M. D. P. p. d. per XL. Annos Protophysicus Hamburgensis, Pars secunda contineus conchylia
sive tetacea univalvia, bivalbia et multivalvia. vii―199pp.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
ハートガイ
マルスダレガイ目 ザルガイ科
Lunulicardia hemicardium(Linnaeus, 1758)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長(殻径)2cm、殻高3cm以内のひし形の二枚貝。殻の膨らみは強く、殻頂から後腹縁に稜角があ
る。後部は扁圧され、両殻合わさるとハート型となる。
分 布 の 概 要: 熱帯域に広く分布するとされているが、日本国内では奄美大島と沖縄島に局所的に見られるのみであ
る。
337
貝類
生 態 的 特 徴: 海草藻場帯のくぼみに形成されている砂底に浅く潜っている。海草群落の中に転がっている個体も見
られる。
生 息 地 の 条 件: ハートガイは大規模で安定した海草藻場にしか見られない。したがって、個体群維持には、海草藻場
環境のトータルな保全が最低条件である。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるハートガイの産出記録は、沖縄島東海岸に限られる。主な生息地は、金武湾海中道
路周辺および中城湾泡瀬干潟の海草藻場。このうち、海中道路周辺では、近年はほとんど見出されな
くなっている。最大の生息地であった泡瀬干潟でも、2002年以降、明らかに個体数が減少している。
学術的意義・ 評 価: ハートガイの産地は、琉球列島で最も貝類の種多様性の高い海草藻場である(泡瀬干潟など)
。した
がって、本種は、海草藻場の種多様性の高さを示す指標種といえよう。また、隔離分布することか
ら、生物地理学的な情報源としても重要性が高い。
生存に対する 脅 威: 金武湾海中道路周辺では、近年、ハートガイの個体数が激減した。その要因は、養浜にともなう養浜
砂流出の影響によるものと考えられる。泡瀬干潟では、ハートガイの生息域で埋め立て工事が行われ
ている(水間・山下,2002)。このように、ハートガイ沖縄個体群は、近年急激に絶滅に追い込まれて
いる。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 水間八重・山下博由,2002.泡瀬干潟における機械による大規模な海草移植実験の現状について −主
に海草場に生息する貝類に注目して−.九州の貝,59.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
トウカイタママキ
マルスダレガイ目 バカガイ科
Mactra pulchella Philippi, 1852
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約1.
5∼2cm、三角形の二枚貝。殻頂は後方に寄り、紫彩される。殻表は紫褐色、2本の白い放射
色帯がある。内面は紫色。
分 布 の 概 要: 屋久島、種子島、奄美大島、沖縄島に分布。中国大陸南岸にも分布するとされている。
生 息 地 の 条 件: トウカイタママキは、内湾低潮帯∼潮下帯の砂底域を生息場所とする。本種の生息する砂底域は、内
湾域全体における環境傾度の推移の上に成り立っている安定した環境である。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるトウカイタママキの生息域は、沖縄島大浦湾および中城湾泡瀬干潟に限られる。い
ずれの地域でも、一回の調査で1,2個体が見出される程度と生息密度は低い。
学術的意義・ 評 価: トウカイタママキは、琉球列島の海産貝類の中で最も分布域の狭い種のうちの一つであり、琉球列島
の海岸生物の由来や海岸環境の成立を考える上で重要な種である。
生存に対する 脅 威: 泡瀬干潟の生息域では、埋め立て工事が行われている。また、大浦湾の生息域では流域開発や橋梁工
事に伴う土砂堆積が進行している。トウカイタママキの沖縄個体群は、絶滅リスクの高い状態にある
と考えられる。
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
献: 松隈明彦,1986.バカガイ科.“決定版生物大図鑑 貝類”,奥谷喬司編,世界文化社,東京.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
ナミノコガイ
マルスダレガイ目 フジノハナガイ科
Latona cuneata(Linnaeus, 1758)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻長2∼3cmくらいの亜三角形の二枚貝。殻は厚質で、殻表後部に布目状の彫刻がある。様々な色の放
射色帯をもち、内面が紫彩または橙彩される個体が多い。
近似種との区別: 近縁種のLatona fabaリュウキュウナミノコは、ナミノコガイと比べてより小型で丸みがある、殻表に
338
貝類
粗い成長脈が刻まれる、殻表後部に布目状の彫刻がないことなどで区別できる。
分 布 の 概 要: 房総・男鹿半島以南、四国、九州、奄美大島、徳之島、沖縄島、伊良部島、西表島に分布する。熱帯
インド−太平洋域に地理分布を形成する。
生 態 的 特 徴: 入江に成立した砂浜海岸の汀線付近細砂底に生息している。満潮時には波が寄せるとき、干潮時には
波が引くときに砂上に飛び出す。そうすることで、波に乗って汀線を上下する。
生 息 地 の 条 件: 本種の生息域は、サンゴ礁(リーフ)の切れ目の入り江に成立した砂浜海岸に限定される。そうした
砂浜海岸の、砕波作用によってよく淘汰された細砂底のみにナミノコガイの個体群は形成される。こ
のように、砂浜から沖合いにかけての連続性保持が生息地の条件である。
現在の生息状況: ナミノコガイは、琉球列島においては極めて不連続かつ局所的な分布を示す。琉球列島における産地
は、奄美大島嘉徳、徳之島山、沖縄島半地浜、大浦湾瀬嵩浜、久志、金武湾石川、中城湾与那原浜、
伊良部島渡口浜、西表島トゥドゥマリ浜(月が浜)など1
0ヶ所程度にすぎない。なかでも、与那原浜
の個体群は最大級であったが、埋め立てにより1
998年に消滅した。沖縄県内の現存産地は、いずれの
産地でも生息範囲が非常に狭く、個体数密度も低い。
学術的意義・ 評 価: 琉球列島のナミノコガイは、産地ごとに殻の形態などに特徴があることから、遺伝的な分化の起こっ
ている可能性がある。また、ナミノコガイの生息環境となっている「砂浜海岸」は、琉球列島におい
ては非常に限られた自然環境である。このように、ナミノコガイは、沖縄島の海岸生物の由来や海岸
環境の成立を考える上で、重要な種である。
生存に対する 脅 威: 最大の個体群であった与那原浜のナミノコガイは、浜の沖合いが出島方式により埋め立てられた後に
消滅した。西表島トゥドゥマリ浜(月が浜)のナミノコガイは、八重山諸島で唯一の個体群である
が、この浜で施工中のリゾート開発の影響が懸念される。また、名護市久志では、養浜による生息域
の埋没、底質変化などの影響を受けている。また、半地浜の生息域では、人工ビーチ造成が行われて
いる。このように、沖縄県内のナミノコガイは、様々な開発事業により近年、急激に絶滅リスクが高
まっている。
特 記 事 項: ナミノコガイのレッドデータブック評価
相模湾レッドデータ:消滅寸前
熊本県の保護上重要な野生生物リスト:絶滅危惧 B類
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 池田等・倉持卓司・渡辺政美,2001.相模湾レッドデータ ―貝類―.葉山しおさい博物館.
熊本県希少野生動植物検討委員会,2004.熊本県の保護上重要な野生生物リスト レッドリストくまも
と2004.熊本県環境生活部自然保護課.
黒住耐二・土田英治,1997.奄美諸島徳之島 山の海岸の貝類 ―特に外洋性砂浜群集について−.ち
りぼたん,27
(3,
4)
:75―79.
名和 純,2000.沖縄県における干潟と低湿地の貝類の現状.
“特殊鳥類等生息環境調査XI(改訂
版) −沖縄県内の水辺環境に生息する生物種の概況−”,沖縄県文化環境部自然保護課.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
トガリユウシオガイ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Moerella culter(Hanley, 1844)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長1∼1.
5cmの卵三角形の二枚貝。殻色はピンク色、稀に白色を呈し、真珠光沢がある。外套線は深
く湾入し、先端が前閉殻筋痕に達する。
近似種との区別: 近縁種のMoerella rutilaユウシオガイとは、外套線湾入の形状などから区別できる。また、Moerella phillippinarumリュウキュウザクラは、トガリユウシオガイより大きくて殻が厚く、殻形は三角形。
分 布 の 概 要: トガリユウシオガイの地理分布は、海南島やフィリピンなどの南中国海沿岸にあり、琉球列島はその
北限付近にあたる。琉球列島では、奄美大島、沖縄島、西表島に分布するが、生息域は局限される。
生 態 的 特 徴: 内湾奥の河口付近の中潮帯砂泥∼泥砂底にMerisca capsoidesイチョウシラトリやCyclina sinensisオキシ
ジミと同所的に生息している。
生 息 地 の 条 件: トガリユウシオガイは、しまりのある安定した泥砂底域に個体群を形成している。そのような底質
が、陸域からの土砂流入により撹乱されると生息できなくなる。佐敷干潟におけるトガリユウシオガ
339
貝類
イの生息場所の底質は、泥質分が約40%を占め、中央粒径値は0.
09mmである。
現在の生息状況: 沖縄県内において1990年から2003年にかけてトガリユウシオガイの生息が確認された地点は、次の1
2
ヶ所の干潟である。汀間川河口、羽地内海(我部井、呉我、仲尾次)
、塩屋湾(大保大川河口)
、大浦
湾(二見)、中城湾(川田、泡瀬、佐敷)
、西表島西部(船浦、仲良川河口、クイラ川河口)
。このう
ち、沖縄島の3地点(大浦湾二見、泡瀬、佐敷)での生息範囲は比較的広い(1∼3ヘクタール)が、そ
の他の地点では、数十m程度と非常に狭い。
学術的意義・ 評 価: トガリユウシオガイの生息環境となっている内湾泥質干潟は、沖縄県内では極めて限られた自然環境
である。トガリユウシオガイは琉球列島において泥質干潟の健全さ(自然度)を評価する指標種とし
て有効性が高い。また、西表島の個体は、沖縄島のものとは形態的な差異が認められるため、遺伝的
な隔離の生じている可能性がある。
生存に対する 脅 威: 羽地内海我部井干潟では、赤土流入、堆積の激しくなった1
990年代半ば以降、生貝が見られなくなっ
ている。中城湾川田干潟では、1990年ごろまでは多産していたが、干潟の埋め立てに伴う底質の変化
後、見られなくなった。泡瀬干潟の生息域は、埋め立てが予定されている。佐敷干潟では、1
990年頃
2
までは多産(約20個体/m )していたが、土砂流入の激しくなった1
998年以降は、稀にしか見出され
なくなった(1個体以下/m2)。唯一の健全な産地である大浦湾二見干潟では、現在も多産しているが
(約40個体/m2)、橋梁工事による底質環境の変化にともない、急速に生息域を狭めつつある。以上
のことから、沖縄県のトガリユウシオガイは、乱開発のために生息域ごと消滅しつつあるのが現状で
ある。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
名:
ー:
ニッコウガイ
Tellinella virgata(Linnaeus,1758)
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
アカイナ(屋我地島)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻長5∼6cmの二枚貝。殻は卵形で前縁は丸く、後背縁は直線状。殻色は黄白色で紅色の放射帯があ
る。成長肋脈は明瞭。
近似種との区別: 近縁種のTellinella staurellaヒメニッコウガイは、ニッコウガイとは、より小型(4.
5cm以下)で楕円
形、光沢がある、放射帯が成長肋脈によって切断される、左殻表面の稜角付近が平滑となるなど多く
の点で区別できる。また、ニッコウガイが内湾域を中心に局所的に分布するのに対して、ヒメニッコ
ウガイは礁池に広い分布域を持つ。
分 布 の 概 要: 国内では、奄美大島、沖縄島、石垣島に分布。熱帯インド−太平洋域域に地理分布を形成する。
生 態 的 特 徴: 内湾域の海草藻場粗砂泥底に殻を横斜めにして深く潜っている。
生 息 地 の 条 件: ニッコウガイは、内湾域の大規模な海草藻場のしまりのある粗砂泥底を生息環境としている。こうし
た安定した環境が、赤土などの土砂流入や埋め立てによる分断化の影響を受けると、海草藻場の衰退
とともに底質が不安定になり、ニッコウガイは死滅してしまう。
現在の生息状況: ニッコウガイは、琉球列島においては不連続で局所的な分布を呈している。琉球列島における産地
は、奄美大島笠利湾、大島海峡沿岸、沖縄島大浦湾沿岸、辺野古∼久志、金武湾海中道路周辺、中城
湾泡瀬、与根(豊見城市)、大嶺(那覇市)、屋嘉田潟原、屋我地島南岸(羽地内海)、石垣島浦底湾、
川平湾、名蔵湾。現在、沖縄県内で生貝の確認できる産地は、屋我地島南岸、中城湾泡瀬、名蔵湾な
ど数ヶ所程度にすぎない。なかでも、泡瀬干潟は、生息範囲、個体数(最大8個体/m2)ともに最大
である。
学術的意義・ 評 価: ニッコウガイは、内湾域の安定した海草藻場に特徴的に分布している。そのため、海草藻場の歴史性
や自然度を評価する指標種として有効である。また、分布域が不連続であるため、地域個体群間で遺
伝的隔離の生じている可能性がある。
生存に対する 脅 威: 沖縄島久志や金武湾海中道路周辺では、赤土などの土砂流入で死滅した後の古い死殻ばかりで、生貝
は極めて稀にしか見つからない。豊見城市与根の生息域は1
998年の埋め立てにより消滅した。屋我地
島南岸では、赤土堆積による海草藻場の衰退とともに、急速に生息域が狭められつつある。最大の生
340
貝類
特
記
事
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
息地である泡瀬干潟では、生息域で埋め立て工事が行われている。名蔵湾の生息域は、赤土の堆積が
著しい。このように沖縄県内のニッコウガイは、急速に絶滅リスクが高まっている。
項: ニッコウガイのレッドデータブック評価
WWF Japan サイエンスレポート:危険(危急種)
献: 名和 純,2000.沖縄県における干潟と低湿地の貝類の現状.
“特殊鳥類等生息環境調査XI(改訂
版)−沖縄県内の水辺環境に生息する生物種の概況−”,沖縄県文化環境部自然保護課.
和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・西川輝昭・五島聖冶・鈴木孝男・加藤
真・島村賢正・福田 宏,1996.日本の干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状.WWF Japan
Science Report, Vol.3.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
なし
マルスダレガイ目 シオサザナミ科
Psammotaea inflata(Bertin, 1880)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長40mm∼70mmの楕円形の二枚貝。殻はやや厚質でスプーン型、後端が少し開く。殻頂は前方に寄
る。殻表にはオリーブ色の殻皮を被り、殻の内面は紫色。殻を光に透かすと殻頂から後腹縁にかけて2
本の色帯が認められる。外套線湾入は深く、下端は外套線に近づくが、その大部分は外套線と合わさ
ることはない。
近似種との区別: 近縁種のPsammotaea elongataマスオガイは、前後に長い長方形であること、外套線湾入の下端が外套
線に途中で合わさることでPsammotaea inflataとは区別できる。また、Psammotaea inflataとマスオガイ
は、生息環境も異なる。
分 布 の 概 要: Psammotaea inflataは、中国広東省沿岸から海南島にかけてとオーストラリア北岸に地理分布を持つ種
で、琉球列島はその北限に当たる。琉球列島における生息地は、奄美大島1ヶ所、沖縄島10ヶ所の計11
ヶ所となっている。
生 態 的 特 徴: 河川感潮域の礫砂底に深く潜って生息している。琉球列島の海産二枚貝類のなかででは、最も塩分の
低い環境に生息域を持つ種と考えられる。カノコガイの生息域と重なるところが多い。
生 息 地 の 条 件: Psammotaea inflataは、清澄な河川の礫砂底に深く潜って生息しているため、赤土堆積などにより底質
中の水流が停滞すると死滅する。すなわち、水質および底質環境の維持が個体群存続の条件である。
現在の生息状況: 沖縄島において1993年から2003年にかけてPsammotaea inflataの生息が確認された地点は、次の10河川
の河口である。田嘉里川、羽地大川、湧川、大井川、大浦川、久志大川、志嘉座川、美留川、長浜
川、比謝川。このうち、まとまった個体数が見られたのは、湧川と大浦川(1
6個体/m2)の2河川の
みで、他の河川では稀に見出されるにすぎない。
学術的意義・ 評 価: Psammotaea inflataは、沖縄島において河川河口域の自然度を評価するための指標種として有効性が高
い。また、地理分布から隔離された北限付近の個体群として生物地理学的にも重要な種である。
生存に対する 脅 威: Psammotaea inflataのすべての生息地において、赤土等の土砂堆積により生息環境が悪化しつつある。
最大の個体群が維持されていた大浦川河口では、近年の河川改修などにより急激に川床の底質環境が
悪化した。その結果、Psammotaea inflataは、1998年から200
3年にかけて、生息密度1
0分の1以下に激
減した。大浦川に次ぐ多産地であった湧川でも、川床への激しい赤土堆積に歯止めがかからず、生息
範囲は次第に狭められつつある。以上のことから、沖縄島のPsammotaea inflata個体群は、存続困難な
状況に追い込まれている。
参
考
文
執
筆
者
献: 斯下拉脱,O.A., 1965.中国海双殻類軟体動物的桜蛤惣科.海洋科学集刊,
(8)
:27―114.
Willan, R. C., 1993. Taxonomic revision of the family Psammobiidae (Bivalvia : Tellinoidea) in the Australian
and New Zealand Region. Records of the Australian Museum ,Supplement 18 : 1―134.
名: 名和 純
341
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ジャングサマテガイ
マルスダレガイ目 マテガイ科
Solen soleneae Cosel, 2002
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長4∼5cmの筒型の二枚貝。殻は背側に反る。殻表は白地に赤褐色のまだら模様を呈し、黄褐色の殻
皮を被る。和名のジャングサとは、方言で海草の意。
近似種との区別: ジャングサマテガイは、Solen roseomaculatusバラフマテガイに似るが、太短く、殻表に光沢がないこ
とで区別できる。また、筋痕の形状からも両種は明瞭に区別できる。なお、沖縄島大浦湾や西表島の
干潟細砂底に生息するSolen sp. は、ジャングサマテガイよりも小型で殻が細く薄質。
分 布 の 概 要: 沖縄島および中国大陸南岸、マレー半島に地理分布がある。沖縄島における分布は、金武湾および中
城湾に局限される。
生 態 的 特 徴: 海草藻場帯の粗砂泥∼サンゴ礫まじりの砂泥底に生息する。掘り出すと水管を自切することがある。
生 息 地 の 条 件: ジャングサマテガイは、大規模な海草藻場のしまりのある粗砂泥底に個体群を形成する。このような
場所は、二枚貝類やゴカイ類の生息密度が高く、海草藻場のなかで最も安定した生物生息環境であ
る。
現在の生息状況: 琉球列島におけるジャングサマテガイの生息地は、金武湾屋慶名(海中道路周辺)、中城湾泡瀬、中城
湾佐敷の3干潟のみである。このうち、海中道路周辺では、近年は稀にしか見られなくなっている。佐
敷干潟(冨祖崎)でも、稀に見出される程度である。唯一の健在産地である泡瀬干潟では、海草藻場
域に1m2あたり8個体程度見られるが、生息範囲は狭い。
学術的意義・ 評 価: ジャングサマテガイは、北限の個体群である沖縄島の3産地(泡瀬干潟、佐敷干潟、屋慶名干潟)を含
めて世界で6ヶ所からしか記録のない希少種である。泡瀬干潟におけるジャングサマテガイの生息域
は、琉球列島において最も貝類の種多様性の高い海草藻場である。つまり、本種は、泡瀬干潟の海草
藻場が日本の生物多様性保護上極めて重要な地域であることを示す指標種といえよう。
生存に対する 脅 威: 金武湾海中道路周辺のジャングサマテガイは、近年の養浜により生息域が埋没するなどしてほとんど
見られなくなった。佐敷干潟の生息域でも、土砂流入により底質環境が悪化し、見られなくなってい
る。泡瀬干潟では、生息域が埋め立て予定区域となっている。このように、沖縄島のジャングサマテ
ガイ個体群は、絶滅リスクが極めて高くなっている。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
献: Cosel, R. V., 2002. Seven new species of Solen (Bivalvia : Solenidae) from the tropical Western Pacific, with
remarks on other species. Collectanea Malacologica.
水間八重・山下博由,2002.泡瀬干潟における機械による大規模な海草移植実験の現状について −主
に海草場に生息する貝類に注目して−.九州の貝,59.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
マテガイ
マルスダレガイ目 マテガイ科
Solen strictus Gould, 1861
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻長5∼7cmの筒型の二枚貝。殻は細長い筒型で、前端は斜めに裁断状、背側に弱く反る個体が多い。
殻表は光沢のある殻皮に覆われる。軟体部の外套膜は、黒色に縁取られる。沖縄島の個体は、日本本
土や中国大陸沿岸のものに比べて小型であるが、軟体部の色彩パターンや殻の形態は一致する。
分 布 の 概 要: マテガイは、日本本土の内湾と黄海などの中国大陸沿岸に地理分布を形成する。琉球列島において
は、沖縄島羽地内海および塩屋湾のみに分布している。
生 態 的 特 徴: 干潟低潮帯の砂底∼砂泥底にやや深く潜って生息する。掘り出して衝撃を与えると水管を輪状に自切
する。
生 息 地 の 条 件: マテガイの生息地の条件は、粒径の均一なしまりのある砂底環境の維持である。こうした環境が、赤
土堆積などにより撹乱されると死滅する。
現在の生息状況: 1993年から2003年までに確認されたマテガイの生息地は、羽地内海の呉我と饒平名および塩屋湾南岸
の3干潟のみとなっている。これらの生息地での生息密度および範囲は次の通り。呉我(8個体/
342
貝類
m2、約5ha)、饒平名(1個体以下/m2、約10ha)、塩屋湾南岸(4個体/m2、約1ha)。
学術的意義・ 評 価: 羽地内海と塩屋湾のマテガイは、琉球列島唯一の個体群である。マテガイとともに琉球列島の中でこ
の海域の干潟のみに隔離分布している種には、アラムシロ、タマキビ、ソトオリガイなどがある。こ
れらの種は、日本本土の内湾から中国大陸にかけての温帯域に地理分布を形成している。こうした種
は、分布中心域の日本本土(例えば瀬戸内海)では普通種であっても、琉球列島においては分布の非
常に狭い希少種として位置付けられる。つまり、これらの種群、いわゆる羽地内海・塩屋湾要素は、
日本本土において有明海の干潟などに分布の局限される大陸沿岸系種群の「琉球列島版」とみること
もできる。マテガイをはじめとする羽地内海・塩屋湾要素の貝類群集は、大陸沿岸域や日本本土の個
体群とは遺伝的に分化している可能性が高く、琉球列島の干潟環境の成立(歴史性)を探る上で貴重
な生物群集である。
生存に対する 脅 威: マテガイのすべての生息地において、赤土堆積が恒常化しており、明らかに生息域が縮小しつつあ
る。呉我と饒平名では、緩傾斜護岸の建設計画があり、塩屋湾では流入河川上流においてダム建設が
進んでいる。このようにマテガイの沖縄個体群は、絶滅リスクの極めて高い状態に置かれていると考
えられる。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
マテガイの一種
マルスダレガイ目 マテガイ科
Solen sp.
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長3.
5cmの筒型の二枚貝。殻は薄質、細長い筒型で、背側に反る。赤褐色のまだら模様を呈し、光
沢のある黄褐色の殻皮を被る。
近似種との区別: ジャングサマテガイとは、小型で細長く、殻が薄く殻皮に光沢があることで明瞭に区別できる。本州
の内湾に生息するSolen roseomaculatusバラフマテガイに酷似するが、より小型で細長いことなどから
区別できる。
生 態 的 特 徴: 内湾低潮帯∼潮下帯の淘汰の良い細砂底を生息場所とする。夏期に多数の個体が表面に飛び出してい
ることがある。
生 息 地 の 条 件: 粒径の均質な細砂底環境の維持が生息地の条件である。土砂流入による底質環境の変化は、個体群の
消滅をもたらす。
現在の生息状況: マテガイの一種は、ごく限られた地域でのみ生息が確認されている。1
990年以降に記録された地点
は、沖縄島大浦湾、金武湾海中道路周辺、西表島浦内川河口トゥドゥマリ浜および仲良川河口沖の4ヶ
所となっている。このうち大浦湾では、1ha程度の範囲に約20個体/m2の密度で生息している(2
004年
12月調査)。
学術的意義・ 評 価: マテガイの一種は、琉球列島のごく狭い範囲のみに分布する希少種である。また、生息環境となって
いる非サンゴ礁の砂底域は、琉球列島においては非常に限られた環境である。このように、マテガイ
の一種は、琉球列島における海岸環境と海岸生物の多様性を把握するうえで重要な指標となる。
生存に対する 脅 威: 最大の個体群が見られる大浦湾の生息域では、流域開発や橋梁工事による土砂堆積が急激に進行して
いる。金武湾海中道路付近の生息域では、養浜により生息域が埋没するなどして見られなくなった。
西表島トゥドゥマリ浜の生息域では、リゾート開発の影響が懸念される。このように、マテガイの一
種は、すべての生息地において危機的状況におかれている。
執
和
分
筆
者
名: 名和
純
名: ハナグモリ
類: マルスダレガイ目 ハナグモリ科
343
貝類
学
名: Glauconome chinensis Gray, 1828
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長2cm内外の楕円形の二枚貝。殻は薄く、薄紫色の地に褐色の殻皮を被る。殻表には、しわ状の成
長脈を刻む。
分 布 の 概 要: 中国大陸沿岸(黄海以南)と日本本土の内湾(有明海,瀬戸内海など)に地理分布を形成する。琉球列
島では、沖縄島の内湾(羽地内海,中城湾など)と西表島北部に不連続に分布する。
生 息 地 の 条 件: ハナグモリは、沖縄島では河口付近(マングローブ海側辺縁部)の中潮帯上部礫まじり泥砂底を生息
場所としている。西表島ではマングローブ林内においてヤエヤマヒルギの髭根のからまった砂泥底を
生息場所としている。ハナグモリの生息する干潟移行帯(エコトーン)は、周辺環境と一体となって
維持されている。
現在の生息状況: 1990年から20
04年にかけて確認された沖縄県内におけるハナグモリの生息地は、次の1
1ヶ所となって
いる。沖縄島塩屋湾、羽地内海(饒平名、我部井、仲尾次)、中城湾(川田、泡瀬、小那覇川河口、佐
敷)、漫湖、豊見城与根、西表島船浦。このうち、饒平名、我部井、川田、泡瀬の4地点は、2
004年時
点で、まとまった個体群が維持されている。
学術的意義・ 評 価: 琉球列島のハナグモリは、中国大陸沿岸などの主分布域から隔離された地域個体群として生物地理学
的に重要であり、琉球列島の干潟の歴史性を解明するうえでの重要な情報源と考えられる。また、沖
縄島と西表島のハナグモリは、殻の形態や生息場所が異なり、遺伝的に隔離された個体群の可能性が
ある。
生存に対する 脅 威: 豊見城市与根干潟には、ハナグモリの沖縄県最大の個体群が存在していたが、埋め立てにより1
999年
までに消滅した。漫湖では、現在は古い死殻しか見出されない。小那覇川河口の個体群は、埋め立て
により1998年までに消滅した。佐敷干潟では、1
998年以降、生貝が確認できなくなっている。泡瀬干
潟と川田干潟の生息域は、埋め立て工事の影響が懸念される。饒平名の生息域では、護岸工事が行わ
れている。塩屋湾、我部井、仲尾次の生息地は、赤土堆積により年々狭められつつある。このよう
に、ハナグモリ沖縄個体群は、すべての生息地で生息条件が急激に悪化している。
特 記 事 項: ハナグモリのレッドデータブック評価
WWF Japan サイエンスレポート:危険(危急種)
千葉県レッドデータブック:要保護生物
相模湾レッドデータ:消滅
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
献: 池田 等・倉持卓司・渡辺政美,2001.相模湾レッドデータ −貝類−.葉山しおさい博物館.
黒住耐二,2000.千葉県の保護上重要な野生生物 −千葉県レッドデータブック動物編 − 貝類.千葉
県環境部自然保護課.
名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・西川輝昭・五島聖冶・鈴木孝男・加藤
真・島村賢正・福田 宏,199
6.日本の干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状.WWF Japan
Science Report, Vol.3.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
マダライオウハマグリ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Pitar limatulum(Sowerby, 1851)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻長2.
5cm内外の卵円形の二枚貝。殻の膨らみは強く、殻頂は前傾する。殻表はクリーム色で、褐色
の放射彩のある個体が多い。小月面と楯面は黒褐色に彩られる。殻の内面は橙色。殻表腹縁に砂粒を
付着させている。
近似種との区別: 近縁種のPitar sulfreumイオウハマグリは、殻が厚い、模様のない単色、干潟上部に生息することなど
からマダライオウハマグリと区別できる。
分 布 の 概 要: 紀伊半島・九州西岸以南、奄美大島、沖縄島、東南アジアに分布するとされているが、日本本土にお
ける記録はほとんどなく、琉球列島においても奄美大島と沖縄島の内湾域のみに分布が限られる。
344
貝類
生 息 地 の 条 件: 沖縄島のマダライオウハマグリは、内湾域の海草藻場の最も安定した部位に低い密度で生息してい
る。そのため、個体群維持のためには、大規模な海草藻場の存在が不可欠である。泡瀬干潟の海草藻
場は、マダライオウハマグリの個体群が安定して維持されている唯一の場所である。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるマダライオウハマグリの分布域は、沖縄島東海岸のの大浦湾と中城湾および羽地内
海に局限される。1996年から2004年にかけての調査でマダライオウハマグリの生息が確認された地点
は、大浦湾大浦、中城湾川田、中城湾泡瀬、中城湾佐敷、羽地内海呉我の5地点のみである。このうち
中城湾泡瀬干潟以外の地点では、産出は極めて稀である。
学術的意義・ 評 価: マダライオウハマグリは、泡瀬干潟のような安定した海草藻場に特徴的に見出される希少種である。
そのため、本種は、海草藻場の歴史性や種多様性の豊かさを判定するための指標種として有効であ
る。
生存に対する 脅 威: マダライオウハマグリは、もともと生息地が限られている種であったが、近年の大規模な埋め立てや
干潟への土砂流入の影響を受けてますます希少な種になりつつある。例えば、中城湾川田では、1
993
年に海草藻場が大規模に埋め立てられ分断された後、埋立地周辺にマダライオウハマグリの死滅した
殻が多量に打ち上げられた。また、佐敷干潟では、土砂流入による底質環境の撹乱とともに見られな
くなった。最大の生息地である泡瀬干潟では、生息域において埋め立て工事が行われている。このよ
うに、マダライオウハマグリは、生息地ごと沖縄県内から消滅する寸前の状態におかれている。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 肥後俊一・後藤芳央,1
993.日本及び周辺地域産軟体動物総目録.エル貝類出版局.
水間八重・山下博由,2002.泡瀬干潟における機械による大規模な海草移植実験の現状について −主
に海草場に生息する貝類に注目して−.九州の貝,59.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
リュウキュウアサリ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Tapes literatus(Linnaeus, 1758)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約8cmの楕円形の平たい二枚貝。殻質はやや薄く、殻表に同心円肋がある。
分 布 の 概 要: 中国大陸南岸(広東省以南)、フィリピン∼オーストラリア北西部、紅海のインド・太平洋域に地理分
布を形成する。琉球列島においては、奄美大島、加計呂麻島、沖縄島、久米島、宮古島、伊良部島、
石垣島、西表島に分布する。
生 息 地 の 条 件: リュウキュウアサリは、海草藻場のサンゴ礫砂底を主な生息場所としている。本種の生息地の条件
は、分断化されていない大規模な海草藻場、水の濁りが少ない、底質が安定していることなどであ
る。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるリュウキュウアサリの生息確認地点(1
990年∼2004年)は、以下のとおり。済井出
(屋我地島)
、饒平名、久志、屋嘉田潟原、宇座(読谷村)
、屋慶名(海中道路)、中城湾川田沖、泡瀬
干潟、久場崎、宇地泊(宜野湾市)、大嶺(那覇市)、与根(豊見城市)、久米島泊、宮古島久貝、伊良
部島佐和田、石垣島崎枝、名蔵、新川、西表島仲間崎。以上の生息地のうち、まとまった個体数の見
出された多産地は、済井出、川田沖、泡瀬干潟、大嶺の4地点であった。
学術的意義・ 評 価: リュウキュウアサリは、琉球列島において、海草藻場の自然度を評価するための指標種として有効性
が高い。
生存に対する 脅 威: リュウキュウアサリは、1
980年代前半には食用として市場に出まわるほど沖縄島周辺の至るところに
分布していたが、現在は極めて稀にしか見られない(久保,2000)。中城湾川田沖のリュウキュウアサ
リ個体群は、埋め立てによる濁りの発生後、大量に死滅し、激減した。宜野湾市宇地泊の個体群は、
埋め立てにより1996年までに消滅した。済井出の生息域は、現在行われている埋め立てにより、大き
く分断されつつある。饒平名では、赤土流入の影響が低潮帯域に顕著に現れ始めた1
998年以降、リュ
ウキュウアサリの生貝が確認できなくなっている。泡瀬干潟のリュウキュウアサリは現存する最大の
個体群であるが、生息域で埋め立て工事が行われている。豊見城市与根の個体群は、1
998年までに埋
め立てにより消滅した。その他の残されているすべての生息地で、赤土などの土砂堆積による生息条
件の悪化が著しい。このように沖縄県のリュウキュウアサリ個体群は、急激な衰退を余儀なくされて
いる。
345
貝類
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 久保弘文,2000.宜野湾市の貝類.“宜野湾市誌 第9巻 資料編8自然”
,宜野湾市教育委員会文化課
編,宜野湾.
Lamprell, K. and T.Whitehead., 1992. Bivalves of Australia Vol.2. Backhuys Publishers.
名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
庄 啓謙,1964.中国近海簾蛤科的研究.海洋科学集刊,第5集.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
シラオガイ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Circe scripta(Linnaeus, 1758)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長4.
5cm内外の平たい二枚貝。殻は厚く丸みのある三角形。殻表面は、規則的な輪肋で覆われ、殻
頂前後に斜めの彫刻がある。八の字型の放射彩が途切れて表れる個体が多い。
分 布 の 概 要: 房総半島、能登半島以南の内湾に分布するとされているが、琉球列島における分布は、沖縄島東海岸
の内湾域と南部西海岸(那覇市)のみに局限される。
生 息 地 の 条 件: シラオガイは、沖縄島においては干潟低潮帯の細砂底および海草藻場帯を生息環境とし、横たわった
状態あるいは殻を半ば砂中に埋没させている。干潟や海草藻場の埋め立てによる分断化を回避するこ
とが、シラオガイの生息条件を守る最低限の保護策である。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるシラオガイの分布域は、沖縄島の大浦湾から中城湾にかけてと那覇市から豊見城市
にかけての干潟や海草藻場域のみに局限される。1990年から2003年にかけてシラオガイの生息が確認
された地点は、次の7ヶ所の干潟である。大浦湾、久志(名護市)
、金武湾屋慶名(海中道路周辺)
、
中城湾泡瀬、中城湾佐敷、与根、瀬長。このうち、金武湾屋慶名、中城湾泡瀬、中城湾佐敷の3ヶ所
は、現在でもまとまった個体群が維持されている。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のシラオガイは、琉球列島で唯一の個体群として生物地理学的に重要。沖縄島の干潟の歴史性
や種多様性の豊かさを示す指標種として有効である。
生存に対する 脅 威: シラオガイの最大の生息地である泡瀬干潟と佐敷干潟では、埋め立て計画が進行中である。泡瀬干潟
のシラオガイの生息域では埋め立て工事が行われており、シラオガイ個体群は衰退している(水間・
山下,2002)。佐敷干潟では、シラオガイの生息している干潟低潮帯細砂底域のすべてが埋め立て予定
区域となっている。屋慶名(海中道路周辺)では、近年の養浜により激減した。与根干潟(豊見城
市)は、多産地の一つであったが、大規模埋め立てにより1
998年に個体群ごと消滅した。このよう
に、シラオガイ沖縄個体群は、干潟の埋め立てラッシュにより一時に絶滅に追い込まれつつある。
特 記 事 項: シラオガイのレッドデータブック評価
WWF Japan サイエンスレポート:危険(危急種)
相模湾レッドデータ:消滅
千葉県レッドデータブック:絶滅
熊本県の保護上重要な野生生物リスト:絶滅危惧 類
参
考
文
執
筆
者
346
献: 池田 等・倉持卓司・渡辺政美,2001.相模湾レッドデータ −貝類−.葉山しおさい博物館.
熊本県希少野生動植物検討委員会,2004.熊本県の保護上重要な野生生物リスト レッドリストくまも
と2
004.熊本県環境生活部自然保護課.
黒住耐二,2
000.千葉県の保護上重要な野生生物 −千葉県レッドデータブック 動物編− 貝類.千葉
県環境部自然保護課.
水間八重・山下博由,2
002.泡瀬干潟における機械による大規模な海草移植実験の現状について −主
に海草場に生息する貝類に注目して−.九州の貝,59.
名和 純,2
001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・西川輝昭・五島聖冶・鈴木孝男・加藤
真・島村賢正・福田 宏,1996.日本の干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状.WWF Japan
Science Report, Vol.3.
名 : 名和 純
貝類
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
オキシジミ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Cyclina sinensis(Gmelin, 1791)
クルー
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻高約5cm、円形の二枚貝。殻質は厚く、光沢のある殻皮を被る。
分 布 の 概 要: オキシジミは、本州から九州の内湾および中国大陸沿岸(黄海∼台湾西岸∼海南島∼ベトナム北部)
に地理分布を形成する。琉球列島では、沖縄島のみに隔離分布する。
生 息 地 の 条 件: オキシジミは、河川の流入する内湾干潟の中潮帯泥砂∼砂泥底を生息場所としている。このような内
湾泥質干潟は、琉球列島では非常に限られた自然環境である。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるオキシジミの生息確認地点(1
990年∼2004年)は、以下のとおり。塩屋湾大保大川
河口、羽地内海(我部井、呉我、饒平名)、大井川河口、中城湾(川田、泡瀬干潟、佐敷干潟)、豊見
城与根、那覇市具志、漫湖、比謝川河口。以上の生息地のうち、まとまった個体数(約1
0個体/m2)
の見出された多産地は、我部井、大井川河口、川田、佐敷干潟、豊見城与根、漫湖の6地点であった。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のオキシジミは、中国大陸沿岸などの主分布域から隔離された地域個体群として生物地理学的
に重要であり、琉球列島の干潟の歴史性を解明するうえでの重要な情報源と考えられる。
生存に対する 脅 威: 豊見城与根干潟では、1
990年代初めまで数人のカイトゥヤー(貝採り)によって、一日1
0kg以上のオ
キシジミが採捕されていたが、1998年の埋め立てによる生息域の消失および底質のヘドロ化進行後、
オキシジミはほとんど消滅してしまった(干潟全域で2、3個体確認できるのみ)。漫湖や我部井干潟で
は、土砂流入の激化とともに、1993年から2000年にかけて生息密度10分の1以下まで激減した。饒平名
では、護岸工事による生息域の破壊にともない多数の個体が死滅した。このように、オキシジミ沖縄
個体群は、生息環境の破壊とともに急激に衰退し、希少な種になりつつある。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 名和 純,2000.沖縄県における干潟と低湿地の貝類の現状.
“特殊鳥類等生息環境調査XI(改訂
版) −沖縄県内の水辺環境に生息する生物種の概況−”,沖縄県文化環境部自然保護課.
名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
庄 啓謙,1964.中国近海簾蛤科的研究.海洋科学集刊,第5集.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
ソトオリガイ
ウミタケガイモドキ目 オキナガイ科
Laternula marilina(Reeve, 1863)
絶滅危惧 B類(EN)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は極めて薄質。殻長3cm内外の楕円形。前後端が開く。殻頂下内側にさじ型の弾帯受けが突き出
す。弾帯受けの横にV字型の殻帯がある。
近似種との区別: 近縁種のLaternula truncataヒロクチソトオリガイは後端が裁断状となり、両殻の間が大きく開くこと
で区別できる。
分 布 の 概 要: オホーツク海、サハリン、北海道から九州の内湾域、朝鮮半島、中国大陸沿岸に分布域を持つ。琉球
列島においては、近年になって奄美大島北部と沖縄島北部に分布域を形成することが明らかにされ
た。
生 態 的 特 徴: 内湾奥の中潮帯砂泥底に浅く潜って生息している。
生 息 地 の 条 件: 赤土堆積や還元化により底質が変化した部位には、死滅したソトオリガイの殻が多数みられることが
ある。このように、ソトオリガイは、底質が撹乱されると個体群を維持できない。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるソトオリガイの分布域は、羽地内海と塩屋湾のみに局限される。これらの地域にお
ける生息地は、羽地内海の饒平名(屋我地島)と呉我および塩屋湾大保大川河口周辺の3地点のみと
なっている。いずれの地点においても、生息範囲は非常に狭く、1ヘクタールに満たない。個体数は、
3地点とも1m2あたり最大で16個体程度である。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のソトオリガイは、地理分布(中国大陸沿岸など)から隔離された地域個体群として生物地理
学的に重要である。
347
貝類
生存に対する 脅 威: ソトオリガイの生息域になっている羽地内海饒平名干潟、呉我干潟、塩屋湾干潟は、2
0年以上にわ
たって激しい赤土汚染に晒され続けてきた。そのため、ソトオリガイの生息域は、干潟への赤土堆積
に伴い分断され、現在では、わずかな範囲に点在しているにすぎない。そうしたなかで、かろうじて
まとまった個体数がみられる饒平名付近では、護岸工事が進行しているため、存続が危ぶまれる。こ
のように、ソトオリガイの沖縄個体群は、極めて存続困難な状況下におかれている。
特 記 事 項: ソトオリガイのレッドデータブック評価
WWF Japan サイエンスレポート:危険(危急種)
相模湾レッドデータ:消滅寸前
レッドデータブックあいち:準絶滅危惧
千葉県レッドデータブック:要保護動物
参
考
文
執
筆
者
献: 池田 等・倉持卓司・渡辺政美,2001.相模湾レッドデータ −貝類−.葉山しおさい博物館.
木村昭一,2002.貝類(内湾産),“愛知県の絶滅のおそれのある野生生物 レッドデータブックあいち
−動物編−”,愛知県環境部自然環境課.
黒住耐二,2000.千葉県の保護上重要な野生生物 −千葉県レッドデータブック動物編− 貝類.千葉
県環境部自然保護課.
名和 純,200
0.沖縄県における干潟と低湿地の貝類の現状.
“特殊鳥類等生息環境調査XI(改訂
版) −沖縄県内の水辺環境に生息する生物種の概況−”,沖縄県文化環境部自然保護課.
名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・西川輝昭・五島聖冶・鈴木孝男・加藤
真・島村賢正・福田 宏,199
6.日本の干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状.WWF Japan
Science Report, Vol.3.
名: 名和 純
4)絶滅危惧 類
(VU)
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
アラハダカノコ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Neritina asperulata Rècluz, in Sowerby, 1855
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は中型で、へしゃげた半球形、殻表はざらざらした殻皮が被覆し、荒肌状となる。殻口内唇は橙黄
色で蓋は黒褐色。殻径10∼20mm程度。
近似種との区別: 近似種キジビキカノコはより小型で内面滑層は灰白色である。
分 布 の 概 要: 沖縄本島、石垣島、西表島。
生 態 的 特 徴: 岩盤や貝殻上にドーム上の卵嚢を産み付け、卵嚢からベリジャー幼生が浮出し、海へ下って、成長
し、再び河川を遡上すると考えられている。
生 息 地 の 条 件: 自然度が高く、汽水性アマオブネ類の多様性の非常に高い川(1
0種類以上見られるのが普通)の、下
流から中流の常に流れている場所の石の下などに生息する。
現在の生息状況: 本種は久保(2002)に国内初記録で報告された種で、沖縄島では読谷村の1河川のみ産地が知られてい
たが、その後、大規模な河川改修があり、現在は生息が認められなくなった。石垣島、西表島におい
ても生息記録のある河川は少なく、また個体数も非常に少ない。本種の生息場所は、多様な河川環境
が保持されたアマオブネ類の多様度が高い河川に限られている。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。世界的にも報告例の極めて少ない種で、国内では沖縄から知られるのみである。
生存に対する 脅 威: 河川周辺環境の改変や河川改修等に伴われる河川の自然環境多様性の低下。
原
記
載: Sowerby II, 1855. Thsaurus conchchyliorum, or monographs of genera of shells, 11.
参 考 文 献: 久保弘文,2002.沖縄県産陸水性アマオブネガイ類の日本新記録2種.ちりぼたん,33
(1―4)
:33―39.
執 筆 者 名: 久保弘文
348
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
アカグチカノコ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Neritina petiti Rècluz, 1841
絶滅危惧 類(VU) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、大型で、半卵形、殻表は褐色の殻皮が被覆し、殻口内面滑層は深紅色で光沢が強い。蓋
には黒褐色の放射彩を有する。殻径40mm以下。
近似種との区別: 近似種カバグチカノコは殻口内面滑層は橙褐色、クリグチカノコは淡灰褐色である。
分 布 の 概 要: 沖縄島、八重山。
生 態 的 特 徴: 汽水性。岩盤や貝殻上にドーム上の卵嚢を産み付け、卵嚢からベリジャー幼生が浮出し、海へ下っ
て、成長し、再び河川を遡上すると考えられている。
生 息 地 の 条 件: 河口閉塞のない、水深のある淵が存在する河川の中・上流域に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島では中部の1河川の記録のみ、八重山ではアマオブネ類の多様性が高い限られた河川のみに分布
するが、個体数は多くない。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。本種を含む陸水性アマオブネガイ類は、鮭などと同様、両側性があるといわれ、幼生期に一
旦、川を下って、海で着底し、その後、遡河する生態を有し、巻貝類の陸上進出の一経路として、生
態学的に重要な研究対象である。また、様々な河川環境へ適応放散しており、進化学的にも学術的意
義は大きい。
生存に対する 脅 威: 河川周辺環境の改変や河川改修等に伴われる河川の自然環境多様性の低下。
特 記 事 項: 本種は2
000∼2005年まで、特定の河川で毎年若貝が認められている現状から、ベッコウフネアマガイ
に見られるような海流伝搬による一時的な発生がみられる種とは異質のものと考えられる。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Rècluz, 1841. Revue Zool. Soc. Cuviernne, 373.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
ツバサカノコ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Neritina auriculata Lamarck, 1816
絶滅危惧 類(VU) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、偏圧したドーム型、外唇上部が鰭状に延び、その形状を翼にみたてて命名され
たと考えられる。殻口内面滑層は灰白色で薄質。殻径20mm以下。
近似種との区別: 近似種ヒロクチカノコは本種より止水環境を好み、貝殻内唇が肥厚し、背面に山鳥模様を有する。
分 布 の 概 要: 沖縄本島北部、八重山・与那国。
生 態 的 特 徴: 岩盤や貝殻上にドーム上の卵嚢を産み付け、卵嚢からベリジャー幼生が浮出し、海へ下って、成長
し、再び河川を遡上すると考えられている。
生 息 地 の 条 件: 常に流れのある河川下流域の沈木や岩礫に付着して生息。
現在の生息状況: 現在、下流域の水質悪化、人工護岸化等により、殆ど生息が確認できない状況で、生息確認が可能な
生息河川は極めて限られる。
学術的意義・ 評 価: 本種は現在、生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のD
に該当する。本種を含む陸水性アマオブネガイ類は、鮭などと同様、両側性があるといわれ、幼生期
に一旦、川を下って、海で着底し、その後、遡河する生態を有し、巻貝類の陸上進出の一経路とし
て、生態学的に重要な研究対象である。また、様々な河川環境へ適応放散しており、進化学的にも学
術的意義は大きい。さらに、本種は貝殻が扁平化し、形態的に流水への適応とも考えられ、形態変異
もあり、分類学的課題が残されている。
生存に対する 脅 威: 河川周辺環境の改変や河川改修等に伴われる河川の自然環境多様性の低下。
原
参
記
載: Lamarck, 1816. Liste des objets representes. In Bruguiere (1782―1832).
考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
349
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
オカイシマキ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Neritodryas cornea(Linnaeus, 1758)
絶滅危惧 類(VU) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は大型で、亜球形、殻表は黄土色で多数の螺条を巡らす。また個体によっては、紫褐色の小斑紋を
散在させる。内唇は白く、蓋は黒色。最大殻径約30mm。
近似種との区別: 国内に近似種は知られていない。
分 布 の 概 要: 沖縄本島北部、石垣島、西表島、与那国島。
生 態 的 特 徴: 岩盤や貝殻上にドーム上の卵嚢を産み付け、卵嚢からベリジャー幼生が浮出し、海へ下って、成長
し、再び河川を遡上すると考えられている。
生 息 地 の 条 件: 自然環境が保全された河川の源流域の苔むした岩の上等に生息するが、偶存的には堰等の人工的な環
境に認められることがある。
現在の生息状況: 沖縄島では産出例がきわめて少なく、現在は北部の数河川のみに偶存的に見られ、1
990年代まで中部
に産地があったが、大規模な河川改修後に消滅した。かつて(1990年代前半まで)は、与那国島では
普通に観察されたが、現在は著しく減少した。また、石垣島では確認可能な河川は非常に少なく、西
表島でも限られた少数の川を除いて、その数はきわめて少ない。本種は遡河性アマオブネ中、最も上
流部に生息し、河口から源流までのトータルな環境がなくては、まとまった個体群を維持できないと
考えられる。
学術的意義・ 評 価: 本種は県内における生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要
件のDに該当する。上述の生息生態は貝類の陸上進出の一適応段階として、進化学的にきわめて重要
であろう。
生存に対する 脅 威: 河川周辺環境の改変や河川改修等に伴われる河川の自然環境多様性の低下。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Linnaeus, 1758. Systema naturae. ed. 10.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
カミングフネアマガイ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Septaria cumingiana(Rècluz, 1843)
絶滅危惧 類(VU) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、扁平なドーム型で殻口は全面が開口し、舟形となる。殻表は黒褐色の殻皮が被
覆し、殻頂は摩滅する個体が多い。蓋は内在し、亜長方形で雌雄に形態的差が見られる。腹足は卵
色。殻長30mm以下。
近似種との区別: 近似種フネアマガイは蓋が菱形で、殻表に放射彩やテント状斑紋等の模様をもち、腹足が乳白色の個
体が多い。
分 布 の 概 要: 沖縄島北部・石垣島・西表島・与那国島。
生 態 的 特 徴: 岩盤や貝殻上にドーム上の卵嚢を産み付け、卵嚢からベリジャー幼生が浮出し、海へ下って、成長
し、再び河川を遡上すると考えられている。
生 息 地 の 条 件: 沖縄島北部・石垣島・西表島・与那国島の限られた河川の中流域の流れの速い岩上に強く吸着して生
息し、その生息場所は局限される。
現在の生息状況: 現在、沖縄島北部の1河川、石垣島2河川および西表島の4河川、与那国島1河川で記録されている。な
お、与那国島では渇水による上流域の干出で激減した。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
350
貝類
する。本種を含む陸水性アマオブネガイ類は、鮭などと同様、両側性があるとされ、ふ化後、幼生期
に一旦、川を下って、海で着底し、その後、遡河する生態を有し、巻貝類の陸上進出の一経路とし
て、生態学的に重要である。また、様々な河川環境へ適応放散しており、進化学的意義がある。
生存に対する 脅 威: 渇水、収集家による乱獲、岩盤表面の赤土沈着。
特 記 事 項: 本種の学名は別種とする説もある。
原
記
載: Rècluz, 1843. Descriptions of new species of Nerites, collected by H. Cuming Esq. in the Philippine Island.
Proc. Zool. Soc. London, 168―176.
参 考 文 献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
増田 修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑2.ピーシーズ,東京,240pp.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヨシカワニナ
腹足綱 新紐舌目 トウガタカワニナ科
Stenomelania plicaria(Born, 1778)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
形
態: 殻はやや大型で、非常に高い塔状で殻長は著しく細まる。殻表は赤褐色で多数の螺条を有する。蓋は
黒褐色。殻長60mmに達する。
近似種との区別: 近似種スグカワニナはより大型で堅固、殻表が平滑。
分 布 の 概 要: 国内では現在、与那国島田原川のみに分布(西表島の生息地は宅地造成で消滅した:増田修氏私信)。
生 態 的 特 徴: 汽水性で川底の砂泥に潜りこみ、デトライタスや水草の屑等を摂食する。
生 息 地 の 条 件: 下流から中流の緩やかな流れの泥底に生息する。
現在の生息状況: 与那国島田原川では個体数は少なくないが、国内で他に生息記録のある河川はない。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。本種を含む、汽水性カワニナ類は南西諸島に1
0種弱記録されており、各島嶼において遺伝的に
分化している可能性があるが、分類学や生態学的知見が乏しく、研究資源として、非常に重要であ
る。また田原川は多様度が非常に高く、小河川ながら河川環境も多様であり、河川自体の保護策が必
要と考えられる。
生存に対する 脅 威: 河川周辺環境、特に汽水環境の改変や河川改修に伴われる河川の自然環境多様性の低下。
原
記
載: Born, 1778. Index rerum naturalium Musei caesarei vindobonensis. Part. Testacea. J. P. Kraus, Vindobonae.
458pp, pl. 1.
参 考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヒメカワザンショウ
腹足綱 新紐舌目 カワザンショウガイ科
Assiminea sp.
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科の中では中型、螺塔は円錐状で殻底は丸い。臍孔が開き、体層に明瞭な2褐色帯を有する。殻
長約5mm以下。
近似種との区別: 沖縄全域(大東島等を除く)のマンガル周辺に普通に生息しているオイランカワザンショウはより螺
塔が高く、濃い赤褐色で光沢が強いことで区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島羽地内海および塩屋湾周辺のマングローブ林周辺の塩性湿地。
生 態 的 特 徴: 繁殖等についての詳しい生態は不明。
生 息 地 の 条 件: マングローブ林や河口干潟の塩性湿地周辺の潮間帯上部に生息する。
351
貝類
現在の生息状況: 今までのところ、県内では沖縄島北部の羽地内海と塩屋湾のみで発見されており、生息環境も局所的
で、近年、個体数が減少している。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。羽地内海、塩屋湾に特異的な内湾湿地性貝類の一つと考えられ、生物地理学的に非常に重要と
考えられるが、本種の生態学的知見はきわめて乏しく、研究が殆ど行われていない。
生存に対する 脅 威: 羽地内海・塩屋湾における海浜埋め立て、護岸造成による塩性湿地の消失。
参 考 文 献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ドームカドカド
腹足綱 新紐舌目 カワザンショウガイ科
Ditropisena sp.
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科の中では小型、螺塔はドーム状で周縁に稜角をもち、殻底が平坦な円盤状、殻表は微細な螺
条脈を多数有する。殻長約2mm。
近似種との区別: 他のカドカドガイ類とは肩部に角のないドーム状の殻を有することで区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄本島、与那国島。
生 態 的 特 徴: 食性、繁殖など詳しい生態は全く知られていない。
生 息 地 の 条 件: 外洋に面した岩礁域に陸水の染み出すような環境があって、樹木が覆って、陰をつくるような自然海
岸の潮間帯上部の岩礫下に生息するが、生息場所がきわめて局限され、数m範囲に限定される。
現在の生息状況: 沖縄全域において自然海岸率が著しく低くなっている現状下で、先述の潮間帯最上部の環境は著しく
攪乱されており、多くの生息場所が消失したと考えられる。本種の第一発見地である恩納村仲泊の小
湿地は埋め立てられ、生息場所が消失して、絶滅した。現在、与那国島の特定の岩礁にのみ、産地が
あるが、その生息範囲は極めて狭い(渡辺正夫氏私信)。本種を含むカワザンショウガイ類はそうした
生息場所を生息圏としているため、全般に減少傾向が著しいが本種は特に自然度が高い場所のみで少
ないながら発見される。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。本種群は半陸生生活をし、多くの固有種が存在する可能性があるが、研究はまだ緒に付いたば
かりである。生息環境が陸域と海域との境界に形成され、貝類の陸上進出の観点からも進化生物学的
に重要と考えられるが、詳細な研究が殆ど行われていない。
生存に対する 脅 威: 自然海浜の人工護岸化による生息場所の直接的な破壊。
特 記 事 項: 本種群は、微小種で、陰に隠れ込む習性があり、発見が難しく、他の岩礁域に生息地が存在する可能
性も高いが、現在、本種は与那国島の極めて狭い一カ所でしか生息が確認されていないため、 類と
した。
参 考 文 献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
名: シマヤマトガイ類似種
類: 原始紐舌目 ヤマタニシ科
学
名: Japonia sp. cf. zebra Pilsbry & Hirase, 1905
方
言
名: なし
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
352
態: 貝殻は、殻高4mm、殻径4mm程度の円錐形で、縫合は深く、体層周縁は丸い。殻表にやや密な螺状脈
を持ち、体層に上下二列の細いが短い毛状突起を持つ。殻色は、赤褐色と淡黄褐色の斑紋を持つ。殻
貝類
口縁は僅かに肥厚するが、反転しない。臍孔はやや広く開く。
近似種との区別: 本種は、琉球列島に分布する本属の中で、唯一殻色がマダラ状になることによって、単色の他種と識
別できる。
分 布 の 概 要: 現在までのところ、与那国島からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: シマヤマトガイJ. zebraは台湾北部の山地から知られている。
生 態 的 特 徴: 自然度の高い森林の林床落葉下に生息する。
生 息 地 の 条 件: 自然度が高く、湿度の保たれた樹冠の閉じた森林が不可欠である。
個 体 数 の 動 向: 確認されている個体数が極めて少ない。
現在の生息状況: 近年の調査報告例がないので不明だが、生息地では環境の改変は少ないものと考えられる。
学術的意義・ 評 価: 詳細な検討の結果、与那国島の固有種になる可能性が高い。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採や林床の乾燥化が進むような環境変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
参
執
記
載: なし
考 文 献: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1905. Catalogue of the land and fresh―water Mollusca of Taiwan (Formosa), with
descriptions of new species. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 57 : 724, 726, 739―740.
湊 宏,19
76.与那国島の陸産貝類相.Venus,35
(4)
:163―184.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
クメジマゴマガイ
原始紐舌目 ゴマガイ科
Diplommatina(Sinica)kumejimana Pilsbry & Hirase, 1904
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻はこの属としては中型(殻径約3.
0mm)で、殻径はやや小さく(約1.
4mm)、短い紡錐形。螺塔
はやや細く尖る。体層は次体層より小さいが、強く括れることはない。淡明褐色。螺層には明瞭でや
や細かく規則的な成長肋を持つ。殻口は、円形で、内唇側の隅はやや尖り、肥厚し、反転する。軸唇
に弱い1歯を持つ。体層の内部にある緊線と呼ばれる縦肋は次体層の終わりに位置する。腔襞と呼ばれ
る体層内部の横肋は長い。
近似種との区別: 本種は、ミヤコゴマガイに類似するが、殻頂がより細くなること、殻表の成長肋が細かいことなどに
よって識別できる。琉球列島の本属の他種とは、サイズや体層が括れないことによって、区別でき
る。
分 布 の 概 要: 久米島の固有種で、島内には石灰岩の有無にかかわらず比較的広く分布している。
近縁な種及び群との分布状況の比較: ミヤコゴマガイは宮古諸島にのみ分布する。久米島には、本種以外に、シリコケ
ゴマガイとリュウキュウゴマガイが棲息している。
生 態 的 特 徴: 比較的自然度の高い森林の林床落葉下に生息する。
生 息 地 の 条 件: 自然度が高く、湿度の保たれた樹冠の閉じた森林が不可欠である。
個 体 数 の 動 向: 減少傾向。
現在の生息状況: 近年の調査報告例がないので不明だが、生息地の兼城では開発が及んでいるものと考えられる。
学術的意義・ 評 価: 久米島の固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採や林床の乾燥化が進むような環境変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
参
考
文
執
筆
者
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1904. Description of new land snails of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat.
Sci. Phila., 56 : 616―638.
献: 知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
品川和久,1978.沖縄県久米島における陸貝採集記録.かいなかま,12
(2)
:4―14.
東 正雄・東 良雄・平田義浩,1992.久米島の陸産貝類相.Venus,50
(4)
:264―269.
名: 黒住耐二
353
貝類
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
リュウキュウゴマガイ
原始紐舌目 ゴマガイ科
Diplommatina(Sinica)luchuana Pilsbry, 1901
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻はこの属としては小型(殻高約2.
4mm)で、殻径はやや小さく(約1.
1mm)、紡錐形、螺塔は細
く尖り、螺層数は少ない。体層は次体層より小さい。淡明褐色。殻表の成長肋はやや明瞭で、極めて
細かく規則的。殻口は、円形で、内唇側の隅は丸い。緊線は体層の中央やや右よりにあり、腔襞は短
い。
近似種との区別: 本種は、ヤクシマゴマガイD.(S.)yakushimaeに類似するが、より大きく、殻形が紡錐形なことによっ
て識別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄諸島と周辺島嶼の固有種。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 類似種のヤクシマゴマガイは屋久島にのみ分布する。
生 態 的 特 徴: 比較的自然度の高い森林の林床落葉下に生息する。
生 息 地 の 条 件: 自然度が高く、湿度の保たれた樹冠の閉じた森林が不可欠である。
個 体 数 の 動 向: 減少傾向。
現在の生息状況: 慶良間諸島では比較的個体数が多いが、沖縄島では生息地が限定されている。
学術的意義・ 評 価: 沖縄諸島の固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採や林床の乾燥化が進むような環境変化。
特 記 事 項: 八重山諸島からの本種の記録は誤りであると考えられる。
原
記
載: Pilsbry, H. A., 1901. New land Mollusca from Japan and Loo Choo Islands. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 53 :
344―353.
参 考 文 献: 知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I).沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
知念盛俊,1978.阿嘉・慶留間・屋嘉比島の陸・淡水貝類.
“沖縄県天然記念物調査シリーズ ケラマ
ジカ実態調査報告 III”,沖縄県教育委員会,沖縄,(12)
:163―170.
黒住耐二,1
981.慶良間列島座間味村の陸産貝類相.沖縄生物学会誌,(19)
:47―51.
知念盛俊,1989.沖縄島北部の陸産貝類・淡水産貝類.
“昭和6
2年度沖縄島北部地域調査報告書 南西
諸島における野生生物種の保存に不可欠な諸条件に関する研究”
,環境庁自然保護局,東京.4
33―
451.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
名:
ー:
クニガミゴマガイ
原始紐舌目 ゴマガイ科
Diplommatina(Sinica)lyrata lyrata(Gould, 1859)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
態: 貝殻はこの属としては大型(殻高約3mm)で、殻径はやや大きく(約1.
5mm)、やや俵型。螺塔は細
く尖り、螺層数は多い。体層は次体層より小さいが、その差は大きくない。淡明褐色。螺塔部の成長
肋はやや明瞭で、細かく規則的。次体層・体層の成長肋はやや弱い。殻口は、やや四角形で、側面観
で歪み、内唇側の隅は細く溝状に突出する。緊線は体層の中央右よりにあり、腔襞はやや長い。
近似種との区別: 本亜種は、別亜種のトクノシマゴマガイD.
(S.)l.tokunoshimanaより大きく、殻口内唇側の溝状突出
部が長いことによって識別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島の主に北部地域に分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 別亜種のトクノシマゴマガイは奄美諸島に分布する。
生 態 的 特 徴: 比較的自然度の高い森林の林床落葉下に生息する。
生 息 地 の 条 件: 自然度が高く、湿度の保たれた樹冠の閉じた森林が不可欠である。
354
貝類
個 体 数 の 動 向:
現在の生息状況:
学術的意義・ 評 価:
生存に対する 脅 威:
特 記 事 項:
原
個体群密度はかなり低い。
環境改変の少ない場所から、知られている。
沖縄島の固有亜種。
森林の伐採や林床の乾燥化が進むような環境変化。
特になし。
記
載: Gould, A. A., 1859. Descriptions of shells collected in the north Pacific exploring expedition under captains
Ringgold and Rodgers. Proc. Boston Soc. Nat. Hist., 7 : 138―142.
参 考 文 献: 知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I).沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
知念盛俊,1976.陸産貝類.In 生態写真集 沖縄の生物,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1995.大宜味村の陸・淡水棲貝類.“大宜味村の自然,大宜味村動植
物調査報告書,大宜味村文化財調査報告書”,大宜味村教育委員会,沖縄.(4)
:295―327.
湊 宏,2004.ゴマガイ科.“改訂新版 貝類”,奥谷喬司(編),世界文化社,東京,68―69.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
マルタニシ
腹足綱 新紐舌目 タニシ科
Cipangopaludina chinensis laeta(Martens, 1860)
ターンナ
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧
(NT)
形
態: 殻は大型で緑褐色、亜球形で螺層がよく膨らみ、螺塔がやや高まる。殻質は薄く、殻表はおおむね平
滑だが、細い刻点上の彫刻を数条めぐらす。蓋は淡褐色。殻長40mmに達する。
近似種との区別: 近似種オオタニシはより大型で、螺塔がより細まり、ヒメタニシはより小型で、殻底に角を有する。
分 布 の 概 要: 沖縄島北部(福地ダム)、久米島、与那国島?
近縁な種及び群との分布状況の比較: 沖縄からオオタニシの記録はないが、人為的に移入されたヒメタニシが南風原ダ
ムから発見されている(知念,1997)。
生 態 的 特 徴: 雌雄異体の卵胎生で、殻径8mm内外のそろばん玉状の稚貝を産出する。精子に2型あり、通常の精子
以外に役割のはっきりしない異型精子をもつことや、右触角が湾曲し、有性生殖器として機能するな
ど特異な生態をもつ。
生 息 地 の 条 件: 安定した水量と良好な水質が保持された陸水環境、主に水田や湿地、ため池等の泥底に生息する。
現在の生息状況: 沖縄ではかつては食用や民間療法に利用されていたほど、普遍的な種であったが、稲作の衰退や農薬
等の影響により、生息数が大幅に減少し、沖縄島では1
960年以降、沖縄島以外では石垣島:1
9
62、西
表島:1962、伊平屋:1
974、阿嘉島:1978以降生息が確認されていなかった(知念,1996)。また、
1988
年に与那国島田原川周辺の水田において、本種が移入種スクミリンゴガイPomacea canaliculata(Lamarck,1819)に混じって、観察されているが、その後、具体的な記録はない(増田修氏私信)。一方、
沖縄島では1999年に沖縄島北部の福地ダムで本種が多数生息していることが確認され、北部ダム統合
管理事務所により、本種の個体数変動などのモニリングが継続されている。同ダムでは2003年に350個
体まで個体数が減少したが、その後、ダム貯水池の中で再び増殖し、2
004年には約1万5千個まで復活
した。同事務所によれば,今後も本種のモニタリングを継続し、ダム湖の貴重な生物として危険分散
も検討中とのことである。久米島では2005年に極めて狭い場所ながら推定約千個の生息が確認され、
本生息地は他にも貴重な生物が多数記録されていることから、久米島町立ホタル館により保全がはか
られている(佐藤文保氏私信)。本生息地に関しては、開発の手が殆どはいっていない貴重な環境であ
ることから、今後、保全に関する行政的措置を検討する必要があろう。
学術的意義・ 評 価: 本種は、地史的な在来種ではなく、中国南部からのいわゆる史前帰化種と考えられているが(黒住,
2003)、与那国島の個体群については食用として台湾から移入された可能性もあるとされる(増田修氏
私信)。こうした課題について、今後は他地域との形態および遺伝的な比較検討が必要であり、生物地
理学的重要性のみならず社会学的重要性を含んでいる。知念(1
996)が指摘しているように、本種は
歴史的に沖縄の人々の生活と深い関わりを持つ動物であり、その保全的意義は大きい。なお、本種の
355
貝類
ランクは1
996年以降にダム湖や久米島での多数個体の生息が確認されたことから、諸要件を判断し
て、 類から 類に変更した。
生存に対する 脅 威: すでに多くの産地が消失し、生息場所がきわめて限られていることから、当面は残存生息地の消失や
水質・底質等の環境悪化、移入動物・食害動物の侵入が脅威となる。
原
記
載: Lea and Lea, 1850. Descriptions of a new genus of the family Melaniana, and of many new species of the genus Melania, Chiefly collected by Hugh Cuming, esq., during his zoological voyage in the East, and now
first described. Proc. Zool. Soc. London, 179―197.
参 考 文 献: 黒田徳米,1929.日本産カワニナ類について.ヴェナス, (5)
:179―193,pl.IV.
増田 修・小野正人,1988.与那国島の淡水産貝類.神奈川自然保全研究会報告書,7:52―60.
黒住耐二,2003.第13章 軟体動物.“琉球列島の陸水生物”,西島信昇監修,西田睦・鹿谷法一・諸喜
田茂充編著,東海大学出版会,東京,572pp.
知念盛俊,1996.陸・淡水産貝類 マルタニシ.“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 −レッドデー
タおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,447―448.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
997.南風原町の陸・淡水産.
“南風原町史 第2巻 自然・地理資料
編”,南風原町編,南風原町,835pp.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
イソマイマイの一種
新紐舌目 イソコハクガイ科
Sigaretornus sp.
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻径5mm内外、カタツムリ型の巻貝。殻は扁平で、琥珀色。臍孔が広く開く。生時は殻表に黒い還元
鉄が付着する。
近似種との区別: 本州の内湾潮下帯に分布するSigaretornus planusイソマイマイとは、小型であること、より低平なこと
で識別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄島のみから確認されている。
生 態 的 特 徴: イソマイマイの一種は、砂干潟の中潮帯∼低潮帯においてタテジマユムシの生息孔から数個体ずつ見
出されるため、タテジマユムシと共生関係にあると考えられる。生息場所を掘り返すと、泥中から多
数の個体が現れ、螺旋状の這い跡をつくりながら敏速に匍匐するのが観察される。
生 息 地 の 条 件: 赤土堆積などで底質環境が撹乱されると、タテジマユムシとともに死滅する。
現在の生息状況: 沖縄島羽地内海の2干潟(饒平名、仲尾次)のみから記録されている。饒平名干潟では、タテジマユム
シの大きな個体群が形成される中潮帯域に多産するが、生息範囲は狭い。仲尾次干潟における生息範
囲は、中潮帯の数十m範囲に限られる。
学術的意義・ 評 価: イソマイマイの一種は、羽地内海に特徴的に分布する特異な生態を持つ種であり、生態学的、生物地
理学的に重要な研究対象。
生存に対する 脅 威: 饒平名では、降雨時に繰り返される赤土堆積により生息域が明らかに狭められつつある。また、現在
行われている護岸建設工事による底質環境への影響が懸念される。仲尾次の生息域は護岸建設により
狭められたうえに、残されていた場所も底質環境が悪化し、イソマイマイの一種は死殻しか見出され
なくなった。現状からしてイソマイマイの一種の個体群は、衰退の一途をたどると思われる。
執
和
分
学
方
356
筆
言
者
名: 名和
名:
類:
名:
名:
純
リュウキュウダカラ
腹足綱 新紐舌目 タカラガイ科
Cypraea luchuana(Kuroda, 1960)
モーモー
貝類
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中やや小型、卵球形、殻表は光沢が強く、灰青色で、灰褐色の小斑を散在させる。最大殻長
約20mm。
近似種との区別: 近似種ウスムラサキダカラは殻頂部に黒褐色彩を有するとされるが、個体変異もあり、分類学的な検
討が必要と考えられる。
分 布 の 概 要: 沖縄本島とその周辺離島に分布し、先島での記録はなく、沖縄島の固有種である。
生 態 的 特 徴: 海藻類の他、海綿等も摂食する雑食性と考えられ、ドーム上の卵塊を産み、それを保護する習性をも
つ。
生 息 地 の 条 件: 潮通しがよく、底質が清浄なアマモ場やリーフ内の岩、死サンゴ塊の下等に生息する。
現在の生息状況: 1980年代には糸満市南岸、本部町西岸等で普通に見られたが、現在、埋め立てによるアマモ場の減
少、富栄養化によるアマモ場周辺環境の悪化で、生息数は著しく減少し、生息確認が困難な状況と
なっている。
学術的意義・ 評 価: タカラガイ類はサンゴ礁性貝類の代表的種群であるが、本種はその中でも沖縄島固有種であり、系統
分類学的および生物地理学的に極めて重要である。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立てによる生息場所の直接的な破壊や陸土沈積や富栄養などによるアマモ場周辺環境の悪
化。
原
記
参 考 文
執 筆 者
載: 黒田徳米,1
960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
テンセイダマガイ
腹足綱 新紐舌目 タマガイ科
Notocochlis robillardi(Sowerby, 1893)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、亜球形、殻表は全体的に平滑だが、縫合直下は弱い皺ができる。殻色は殻口の
肥厚した成貝では体層が光沢のある茶褐色で、殻口の肥厚しない亜成貝では褪せた灰褐色で、体層中
央部に弱い螺条をめぐらす場合がある。縫合及び臍孔付近のみ帯状に白く色が抜ける。原殻および殻
頂付近はやや黒ずむ。臍孔は狭く、わずかに開口し、臍盤は発達が悪く、ゆるやかに湾曲して肥厚す
るのみ。蓋は石灰質で、平滑で光沢があり、外縁に弱く細い溝を2本刻む、蓋の色は白く、下位にある
核のみ焦茶色に染まる。殻径約20mm。
近似種との区別: 近似種ホウシュノタマガイは蓋に褐色点を持たないことから、区別される。
分 布 の 概 要: 石垣島川平湾、崎枝湾および名蔵湾のみから知られる。
生 態 的 特 徴: 貝食性、主に夜行性で、砂底を匍匐し、砂粒を付けた卵塊(通称砂茶碗)を産む。
生 息 地 の 条 件: 内湾のアマモ場周辺の細砂底∼砂泥底に生息する。
現在の生息状況: 石垣島川平湾、崎枝湾および名蔵湾の限られた海域のみで生息が確認されているが、個体数は少な
い。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。同種群は砂底環境に多数種が適応放散し、貝類を専食する特有の摂食生態を持ち、進化学的、
生態学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 生息海域における底質悪化や環境改変による個体群の死滅。
特 記 事 項: 本種の1974年の最初の採集記録から、現在も生息が認められ、偶存種ではなく、定着種と考えられ
る。
原
記
載: Sowerby, G. B., 1893. Description of twelve new species, chiefly from Mauritius. Proc. Malac. Soc. London,
1 : 45―50, pl. 4.
参 考 文 献: 久保弘文・石川 裕,2004.石垣島川平湾のタマガイ類.かいなかま,38
(1)
:1―6.
執 筆 者 名: 久保弘文
357
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ネコガイ
腹足綱 新紐舌目 タマガイ科
Eunaticina papilla(Gmelin, 1791)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや小型で、洋梨形、臍孔が開口し、殻表は細い螺溝が多数刻まれ、薄い淡黄色の殻皮
に覆われる。殻の地色は白い。蓋は革質で薄く半月型。殻長20mm内外。
近似種との区別: 近似種ヒメミミガイは臍孔が開かないことから、区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域。
生 態 的 特 徴: 貝食性、砂底に埋在したまま匍匐し、砂粒を付けた卵塊(通称砂茶碗)を産む。
生 息 地 の 条 件: やや開放的な大規模干潟のアマモ場に生息する。
現在の生息状況: 泡瀬干潟、今帰仁村沿岸等沖縄島の干潟では少ないながら生息が確認されているが、糸満等西海岸を
中心に沿岸埋め立てにより、著しく生息場所が減少した。今後も埋め立てと関連して生息場所がさら
に減少する可能性がある。石垣島・西表島でも、赤土沈積などの底質悪化で生息数は著しく減少して
いる。
学術的意義・ 評 価: 同種群は砂底環境に多数種が適応放散し、貝類を専食する特有の摂食生態を持ち、進化学的、生態学
的に重要である。
生存に対する 脅 威: 干潟埋め立てによる生息場所の直接的な破壊や陸土の沈積による底質悪化。
特 記 事 項: 愛知県レッドデータブックで 絶滅危惧 類に掲載されている。
原
参
執
記
載: Gmelin, 1791. Caroli a Linne Systema Naturae.
考 文 献: 木村昭一,2002.貝類(内湾産),“愛知県の絶滅のおそれのある野生生物 レッドデータブックあいち
−動物編−”,愛知県環境部自然環境課.
齋藤 寛,20
00.タマガイ科.“日本近海産貝類図鑑”
,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,2
50―
267.
筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ナマリレイシダマシ
新腹足目 アッキガイ科
Orania livida(Reeve, 1846)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約3cm、縦長の紡錘形。太い縦肋をめぐらし、肩が張る。水管溝は太く、殻口内は濃紫色。
分 布 の 概 要: 熱帯西太平洋域に地理分布があり、その北限にあたる琉球列島においては、奄美大島焼内湾と沖縄島
羽地内海および塩屋湾のみから見出されている。
生 息 地 の 条 件: ナマリレイシダマシは、内湾干潟低潮帯の沈木などの下に付着して生息している。赤土の堆積に伴う
付着基質の埋没は、生息場所の喪失をもたらす。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるナマリレイシダマシの生息確認地点(1
994年∼2003年)は、羽地内海饒平名、呉
我、塩屋湾南岸の3地点のみとなっている。このうち、最大の生息地である饒平名では、沈木下に5、6
個体ずつ付着しているが、付着している沈木自体が干潟全体で1
0∼20本程度と少ないため、個体群サ
イズは小さい。呉我の個体群サイズは饒平名の半分以下であり、塩屋湾では1
994年以降確認されてい
ない。
学術的意義・ 評 価: ナマリレイシダマシは、特定の地域に不連続に分布することから、生物地理学的に重要な研究対象と
なり得る。また、特殊な微生息環境に見られることから、干潟の生物生息環境の多様性を認識するう
えで重要な指標となる。
生存に対する 脅 威: 羽地内海と塩屋湾の干潟では、依然として赤土の流入、堆積が続いており、1
990年代後半からは、そ
の影響が低潮帯域に顕著に現れ始めた。これに伴い、ナマリレイシダマシの付着できるような沈木は
減少している。ナマリレイシダマシの生息条件は、既知のすべての生息地において著しく悪化してい
る。
参
358
考
文
献: 土屋光太郎,2000.アッキガイ科.“日本近海産貝類図鑑”,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,364
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
―421.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
ヒメオリイレムシロ
新腹足目 ムシロガイ科
Niotha nodifer(Powy, 1835)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約1.
5cm。殻表には太くて明瞭な縦肋がある。灰白色またはクリーム色。
分 布 の 概 要: インド−西太平洋域に地理分布を形成し、その北限にあたる琉球列島においては、奄美大島、加計呂
間島、沖縄島、宮古島、石垣島、西表島に分布する。
生 息 地 の 条 件: ヒメオリイレムシロは、内湾干潟の湾口域低潮帯において、河川や滲出水などの陸水の影響下にある
砂底、粗砂泥底、サンゴ礫まじり粗砂泥底を生息場所としている。こうした場所は、ウミジグサやウ
ミヒルモが生育する安定した環境となっており、周辺環境との連続性によって維持されている。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるヒメオリイレムシロの生息確認地点(1
998年∼2003年)は、次の10地点となってい
る。久志、屋慶名(金武湾)
、泡瀬干潟、佐敷干潟、与根干潟、港川(浦添市)
、宮古島大浦湾、宮古
島与那覇湾、石垣島名蔵、西表島ゲータ川河口。このうち、港川では比較的普通に見出されるが(2004
年調査)、その他の生息地では消滅したか稀に1個体が見出される程度である。
学術的意義・ 評 価: ヒメオリイレムシロは、限られた特殊な生息環境に個体群を形成する。したがって、本種は、干潟の
生物生息環境の多様性を認識するうえで重要な指標となる。
生存に対する 脅 威: 豊見城市与根干潟(保栄茂川河口域)は、1998年までヒメオリイレムシロの沖縄最大の生息地であっ
たが、埋め立てによりヒメオリイレムシロ個体群は消滅した。現存する最大の生息地である浦添市港
川をはじめ、泡瀬干潟、佐敷干潟の生息地は、いずれも全域が埋め立て予定区域となっている。さら
に、久志、屋慶名、宮古島与那覇湾、石垣島名蔵、西表島ゲータ川河口の生息域は、長年にわたる赤
土などの土砂堆積により、生息範囲が狭められ、死殻しか確認できなくなってきている。このよう
に、沖縄県のヒメオリイレムシロは、近年急激に個体群が衰退しつつあり、生息条件も既知のすべて
の生息地において著しく悪化している。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
アラムシロ
腹足綱 新腹足目 エゾバイ科
Reticunassa festiva(Powys in Powys & Sowerby, 1835)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや小型、長細い卵球形、殻表は小結節を持った粗い格子状彫刻と縦張肋を有する。殻
口外唇内側に小歯が3∼4個並ぶ。殻長10mm内外。
近似種との区別: 近似種ナミヒメムシロは彫刻がより細かく、殻色が淡色である。
分 布 の 概 要: 沖縄本島北部(羽地内海、塩屋湾)。
生 態 的 特 徴: 腐肉食性であるが、完全に腐敗したものは摂食せず、魚やカニ等の死体に集合して摂食する。
生 息 地 の 条 件: 内湾潮間帯の砂底∼砂礫底に分布するが、生息場所は限定される。
現在の生息状況: 1990年代はじめまでは砂質干潟に普通に見られた(名和,2000)。羽地内海の一部に比較的多産する場
所が残っているが、赤土堆積や富栄養化による底質の悪化で生息場所は減少している。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。本種は沖縄においては羽地内海と塩屋湾のみに生残した大陸系遺存種と考えられ、動物地理学
的に非常に重要であり、地理的隔離による遺伝的分化がおこっている可能性もある。
生存に対する 脅 威: 本土での生息状況から比較的富栄養など水質汚染には強いと考えられるので、海浜埋め立て等による
359
貝類
生息場所の直接的な消失が脅威となろう。
原
記
載: Powys & Sowerby, 1835. Characters of new species of shells collected Mr. Cuming. Proc. Zool. soc. London,
93―96.
参 考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名和 純,2000.沖縄県における干潟と低湿地の貝類の現状.
“特殊鳥類等生息環境調査XI”,沖縄県
文化環境部自然保護課,103―129.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
ウスイロバイ
腹足綱 新腹足目 エゾバイ科
Babylonia kirana Habe, 1959
バイガイ
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや大型で厚く、殻表は平滑で光沢が強いが、生時は厚い殻皮を被る。殻色は不明瞭な
紫桃色の斑紋を有し、蓋は革質で木葉型。最大殻長約60mm。
近似種との区別: 県内においてバイ属の種は他にない。
分 布 の 概 要: 沖縄本島東岸および羽地外海の潮通しのよい細砂底。
生 態 的 特 徴: 20個程度の卵(直径約0.
5mm)をもつ卵塊から稚貝が直接産まれる卵胎生種。
生 息 地 の 条 件: 均質な細砂質の海域が広域に存在する場所のみに生息する。
現在の生息状況: 与那原湾は県内における本種の最大の生息場所のひとつであったが、海浜埋め立てにより、生息場所
が大幅に減少した。金武湾石川沖は与那原湾に次ぐ、生息場所であるが、都市排水等の流入による底
質環境の悪化が危惧される。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島の固有種であり、開放性湾域の細砂底のみに分布し、動物地理学的に非常に重要な種である。
すなわち、生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに
該当する。
生存に対する 脅 威: 本土産の近似種バイでは環境ホルモン汚染による雌の偽雄化による生殖阻害が問題視され、本種に関
しても同様に影響のある可能性がある。また、海浜埋め立て等による生息場所の直接的な破壊や底質
環境の悪化が懸念される。
特 記 事 項: 本種は水産重要種であり、石川漁協では地先資源の保護を実施していて、狭い海域ではあるがかなり
の密度で生息する海域がある。今後、水産利用の観点からも当海域の保護を考慮する必要がある。な
お、最大の生息地であった与那原湾の生息場所消失などを鑑みれば、より高ランクを考慮する必要性
もあるが、上記の保護事例を考慮し、条件付きで 類にランクした。
原
記
参 考 文
執 筆 者
載: 波部忠重,1959.原色日本貝類図鑑.保育社,in 吉良,1959.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
形
ミノムシガイ
腹足綱 新腹足目 ミノムシガイ科
Vexillum balteolatum(Reeve, 1844)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本科中、大型で、やや長い紡錘形、殻表は薄い殻皮を被覆し、殻は平滑で灰青色及び灰黒色帯を
めぐらし、等間隔に縦肋を有する。軸唇に強い襞と殻口外唇内側に弱い襞をもつ。蓋は欠く。殻長4
0
∼70mm。
近似種との区別: ミスジミノムシガイは色帯が近縁するが、体層肩部がなで肩で角張らないこと、縦肋がより細かく数
360
貝類
分 布 の 概 要:
生 態 的 特 徴:
生 息 地 の 条 件:
現在の生息状況:
学術的意義・ 評 価:
生存に対する 脅 威:
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
が多いことから区別され、オオミノムシガイは殻形が似るが、より太く、体層の黒色帯が途切れるこ
とで区別される。
沖縄全域。
海藻等にドーム状の卵嚢を産み付け、ホシムシ等を摂食する。
大規模干潟のアマモ場や周辺の砂泥底に生息する。
沖縄島の干潟では埋め立てにより、東海岸を中心に著しく生息場所が減少し、その結果、生息確認が
相当困難な状況となっている。
同種群は小型から大型まで1
00種以上に熱帯域のアマモ場や砂泥環境に適応放散し、進化生態学や種多
様性の研究素材として重要であり、本種はその中でも内湾に表徴的な大型種で、自然度の高いアマモ
場には頻出することから環境指標種としても重要である。
海浜干潟埋め立てによる生息場所の直接的な破壊や水質・底質の悪化に伴うアマモ場環境の荒廃。
載: Reeve, 1849. Conchologica Iconica, figures and descriptions of the shells of molluscks ; with remarks on their
affinities, synonymy, and geographical distribution.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
ヒメシイノミミミガイ
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Cassidula nigrobrunnea Pilsbry & Hirase, 1905
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型で、縦にやや延びた卵球形、殻表は濃褐色の殻皮をまとい、微細な螺溝を多数めぐ
らす。殻口は広く、内唇に2歯、軸唇に1歯、外唇中央に弱い1歯と強い1歯の突起を備える。原殻は白
色半透明で壊れやすい。殻長6∼10mm。
近似種との区別: 近似種クリイロコミミガイは殻表彫刻が螺溝ではなく、やや顆粒状の螺条である点で区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島、先島。
生 態 的 特 徴: 紐状の卵塊を螺旋状に産み付ける。泥礫の隙間に潜りこんで生活し、泥中の有機物等を摂食すると考
えられる。
生 息 地 の 条 件: マングローブ林周辺の塩性湿地の潮間帯中部に生息するが、泥質域でかつ礫がある限られた環境に限
られ、常にある程度湿気のある条件がないと生息を認めない。
現在の生息状況: 本種は沖縄島と先島のマングローブ林周辺の塩性湿地に生息するが、特に沖縄島周辺の塩性湿地では
埋め立て、護岸造成等でほとんどの産地が消失し、著しく生息数が少ない。一方、先島地域でも一部
のマングローブ湿地周辺では個体数は少なくないが、生息場所が少数箇所に限られている。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。沖縄から新亜種として報告された種であるが、インド太平洋に広く分布し、本県は北限分布域
にあたる。生息環境が陸域と海域との境界に形成され、貝類の陸上進出の観点からも進化生物学的に
重要と考えられるが、詳細な研究が殆ど行われていない。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て、護岸造成による塩性湿地の消失。
原
参
執
和
分
学
記
考
筆
文
者
載: Pilsbry & Hirase, 1905. New land molluscks of the Japanese Empire. Proc. Academy Nat. Sci. Phila, 57 : 705
―719.
献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
名: 久保弘文
名: ヘゴノメミミガイ
類: 腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
名: Cassidula schmackeriana Moellendorff, 1885
361
貝類
類(VU)
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、やや角張った卵球形、殻表は先端が分岐する毛状の殻皮と波状の螺溝を多数有
し、殻色は黒褐色∼淡黄褐色で帯状の色彩をもつものもある。殻口は広く、内唇に2歯、軸唇に1歯の
牙状突起をもち、外唇内側には3∼4個の歯が連続したような突起をもつ。殻長約8∼10mm。
近似種との区別: シイノミミミガイに似ているが、本種はより幅が広く、螺溝が粗く明瞭である。
分 布 の 概 要: 石垣島の限られたマングローブ林内の塩性湿地。
生 態 的 特 徴: 休止時は泥上の倒木等の隙間に潜りこんでいるが、活動時には表在的になり、倒木や泥の表面の有機
物等を摂食すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: マングローブ林周辺の塩性湿地の潮間帯上部に生息する。
現在の生息状況: 本種は今のところ、石垣島の数河川のマングローブ林内にのみ生息が確認されており、個体数は多く
はない。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。フィリピン、パラオ等熱帯域に分布し、石垣島が分布の北限で、動物地理学的に重要である。
また、生息環境が陸域と海域との境界に形成され、貝類の陸上進出の観点からも進化生物学的に重要
と考えられるが、詳細な研究が殆ど行われていない。
生存に対する 脅 威: 国内における生息場所が石垣島の非常に狭い場所に限定されているため、こうした生息場所における
環境改変や生息環境の消失。
特 記 事 項: 和名については印刷中の論文で木村・久保・木村・増田(2005)参照。
原
参
執
記
考
筆
載: Moellendorff, 1885. Materialien zur Fauna von China. Jahrbuch der Deutschen Malazoologischen Gesellscchaft, 12 : 349―398., pls. 9―11.
文 献: 増田 修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑2.ピーシーズ,東京,240pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ニハタズミハマシイノミガイ
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Melampus sculptus Pfeiffer, 1855
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本属中、中型で、縦にやや延び、先端が尖る紡錘形、螺塔と殻底に明瞭な縦肋を多数刻む。殻表
は薄い殻皮をまとい、殻色は淡黄色∼焦褐色。殻口外唇は老成個体でやや肥厚するが、一般に薄い。
内唇軸に1つの襞と内唇内側に襞が1個あり、外唇内側には細かい歯が多数並ぶ。殻長8∼12mm。
近似種との区別: ホソハマシイノミと殻形が類似するが螺塔部と殻底の明瞭な縦肋により区別され、スジハマシイノミ
とは螺塔部の縦肋が強い点で似るが、殻形がより細いことから区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島、先島のマングローブ林周辺の塩性湿地。
生 態 的 特 徴: 泥礫の隙間に潜りこんで生活し、泥や礫上の有機物等を摂食すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: マングローブ林や河口干潟の塩性湿地周辺の潮間帯上部に生息する。
現在の生息状況: 本種は沖縄島北部と先島のマングローブ林周辺の限られた環境に局所的に生息し、石垣島では一部の
河川で個体数は少なくないが、生息地点はごく限られている。特に沖縄島地域において、産地、個体
数が非常に減少している。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。また、熱帯太平洋に分布の中心があり、沖縄周辺はその分布北限に辺り、生物地理学的に重要
である。また、生息環境が陸域と海域との境界に形成され、貝類の陸上進出の観点からも進化生物学
的に重要と考えられるが、詳細な研究が殆ど行われていない。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て、護岸造成による塩性湿地の消失。
原
参
執
362
記
載: Pfeiffer, 1855. Drei neue Auriculaceen. Malakozoologische Blatter, 2 : 7―8.
考 文 献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
増田 修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑2.ピーシーズ,東京,240pp.
筆 者 名: 久保弘文
貝類
和
名:
分
類:
学
名:
カ テ ゴ リ ー:
形
態:
近似種との区別:
分 布 の 概 要:
生 態 的 特 徴:
生 息 地 の 条 件:
現在の生息状況:
学術的意義・ 評 価:
生存に対する 脅 威:
オウトウハマシイノミガイ
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Melampus sp.
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻は本属中、やや小型で、卵球形、螺塔と体層上部および殻底に明瞭な螺条を多数めぐらすが体層中
央部は平滑になることが多い。なお、螺塔部は多数の縦肋を刻み、螺条と交差して格子状になる。殻
頂はやや突出する。殻色は淡橙黄色∼淡灰褐色。殻口外唇は老成個体でやや肥厚する。内唇軸に強く
明瞭な1つの襞と弱い襞が2∼3個並び、外唇内側には細かい歯が多数並ぶ。殻長7∼10mm。
普通種であるチビハマシイノミと類似するが、体層の螺条と螺塔部の彫刻により、区別される。
沖縄島、先島のマングローブ林周辺の塩性湿地。
繁殖等についての詳しい生態は不明。
マングローブ林や河口干潟の塩性湿地周辺の潮間帯上部に生息する。
本種は沖縄島と先島のマングローブ林周辺の限られた環境に局所的に生息し、全域にわたって、産
地、個体数とも減少しているが、中でも沖縄本島の生息場所が埋め立て等により著しく減少してい
る。こうした環境は現在も護岸造成等で環境が改変される機会が多く、生息場所がさらに減少する傾
向にあり、他種と共に何らかの保護を要すると考えられる。
本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。また、本種の学術的知見はきわめて乏しく、未記載種の可能性もあり、国外における分布状況
も不詳である。生息環境が陸域と海域との境界に形成され、貝類の陸上進出の観点からも進化生物学
的に重要と考えられるが、詳細な研究が殆ど行われていない。
海浜埋め立て、護岸造成による塩性湿地の消失。
参
考
文
献: 福田
執
筆
者
増田 修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑2.ピーシーズ,東京,240pp.
名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
ウルシヌリハマシイノミガイ
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Melampus nucleus Martens, 1865
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本属中、中型で、やや角張った卵球形、殻表はやや光沢をおび、螺塔と体層上部および殻底に弱
い螺条脈をめぐらす。殻色は濃褐色。殻口外唇は老成個体でやや肥厚し、白色の小歯が多数並ぶ。内
唇軸に1つの襞と弱い襞が2∼3個並ぶ。殻長10mm内外。
近似種との区別: 普通種であるチビハマシイノミやハマシイノミと類似するが、前者に対し、より大型となり、外唇内
側の多数の小歯の特徴により、後者とは殻表の螺条脈の有無により区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島、先島のマングローブ林周辺の塩性湿地。
生 態 的 特 徴: 礫の隙間で生活し、礫や岩上の有機物等を摂食すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: マングローブ林や河口干潟の塩性湿地周辺の潮間帯上部に生息する。
現在の生息状況: 本種は沖縄島北部と先島のマングローブ林周辺の限られた場所に局所的に生息するが、全域にわたっ
て、産地、個体数とも非常に少なく、特に1990年代前半は比較的豊かであった沖縄本島北部の塩屋湾
や石垣島南部ではその個体数が著しく減少している。こうした環境は現在も護岸造成等で環境が改変
される機会が多く、生息場所がさらに減少する傾向にあり、何らかの保護を要すると考えられる。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。また、熱帯太平洋に分布の中心があり、沖縄周辺はその分布北限で、生物地理学的に重要で、
生息環境が陸域と海域との境界に形成され、貝類の陸上進出の観点からも進化生物学的に重要と考え
られるが、詳細な研究が殆ど行われていない。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て、護岸造成による塩性湿地の消失。
原
記
参 考 文
載: Martens, 1865. Descriptions of new species of shells. Ann. Mag. Nat, hist. ser. 3, 16 : 428―432.
献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
363
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
デンジハマシイノミガイ
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Detracia sp.
絶滅危惧 類(VU) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は小型で、卵形、殻表は平滑で光沢があり、黒褐色の稲妻模様あるいは網代模様を有する。殻口外
唇はあまり肥厚せず、この内側に多数の襞をもつほか、内唇軸に明瞭な襞が1個、内唇中央下部に1歯
をもつ。殻長5∼7mm。
近似種との区別: 本種特有の山鳥模様により、おおむね区別されるが、八重山から分類不詳の別種が知られており、今
後、分類学的検討が必要である。
分 布 の 概 要: 沖縄島羽地内海および塩屋湾周辺のマングローブ林周辺の塩性湿地。
生 態 的 特 徴: 泥礫の隙間で生活し、礫や泥上の有機物等を摂食すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: マングローブ林や河口干潟の塩性湿地周辺の潮間帯上部に生息する。
現在の生息状況: 本種は国内で、今までのところ、沖縄島北部の羽地内海と塩屋湾のみで発見されており、局所的に多
産する場所もあるが、地理的に特異な分布を有する。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。特に本種の場合、正確な分類学的研究が行われておらず、熱帯域に同種が存在するか、あるい
は新種かどうかも不明である。先島海域での生息が確認されていない点からも動物地理学的にきわめ
て重要である。
生存に対する 脅 威: 羽地内海・塩屋湾における海浜埋め立て、護岸造成による塩性湿地の消失。
参
考
執
筆
文
献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3: 11―63.
増田 修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑2.ピーシーズ,東京,240pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ナラビオカミミガイ沖縄型
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Auriculastra duplicate(Pfeiffer, 1855)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本属中、小型で、卵形。殻表は平滑で光沢があり、淡黄緑色の殻皮をまとう。老成貝では殻口外
唇はやや肥厚し、中央部内側がやや突出する。内唇に明瞭な垂直の1歯と軸に襞が2個ある。殻長5∼7
mm。
近似種との区別: ナガオカミミガイと殻色や光沢のある点で似ているが、より小型で卵形であることから区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島羽地内海および塩屋湾周辺のマングローブ林周辺の塩性湿地。
生 態 的 特 徴: 泥礫の隙間で生活し、礫や泥上の有機物等を摂食すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: マングローブ林や河口干潟の塩性湿地周辺の潮間帯上部に生息する。
現在の生息状況: 三河湾以西の本土の内湾に生息するナラビオカミミガイと同種あるいは地方型と考えられ、今までの
ところ、県内では沖縄島北部の羽地内海と塩屋湾のみで発見されており、生息環境も局所的で、近
年、個体数が減少している。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。羽地内海、塩屋湾に特異的な大陸沿岸要素を有する貝類の一つと考えられ、動物地理学的に非
常に重要と考えられるが、本種の生態学的知見はきわめて乏しく、研究が殆ど行われていない。
生存に対する 脅 威: 羽地内海・塩屋湾における海浜埋め立て、護岸造成による塩性湿地の消失。
特 記 事 項: 沖縄島の個体は本土産と比べ、小型で、なで肩であり、地方型として区別が必要かどうか、遺伝的な
研究が望まれる。
364
貝類
A)、熊本県(絶滅危惧B)、鹿児島県(絶滅危惧
他県レッドデータブックで愛知県(絶滅危惧
)にランクづけされている。
原
参
執
記
載: Pfeiffer, 1855. Drei neue Auriculaceen. Malakozoologische Blatter, 2 : 7―8.
考 文 献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
増田 修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑2.ピーシーズ,東京,240pp.
筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
トウキョウヒラマキ
有肺目 ヒラマキガイ科
Gyraulus tokyoensis(Mori, 1938)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻径約5mm、車輪状に扁圧された巻貝。周縁部はキール状に張り出す。
分 布 の 概 要: 本州から沖縄にかけて分布。沖縄県内では沖縄島のみから確認されている。
生 息 地 の 条 件: トウキョウヒラマキは、河川後背湿地などの抽水植物群落中を生息場所としている。こうした湿地が
護岸整備によって河川と切断されるなどして流れが停滞すると、水質悪化により生息できなくなると
考えられる。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるトウキョウヒラマキの生息確認地点(2
003∼2004年)は、沖縄島天願川下流および
恩納村の小河川の2ヶ所となっている。天願川下流では、クルマヒラマキとともにパラグラス・イヌク
ログワイ群落中に生息するが、クルマヒラマキ約100個体に対してトウキョウヒラマキは1∼2個体しか
見出されない。トウキョウヒラマキは1969年に行われた調査では、沖縄島の8ヶ所(久志村、本部町備
瀬、屋我地村前垣、豊見城村伊良波、佐敷村冨祖崎、知念村山里、玉城村ミーガーラ)から確認され
ているが(Davis・Yamaguchi,1969)、これらの地域では現在、トウキョウヒラマキ個体群は消滅して
いると考えられる。
学術的意義・ 評 価: トウキョウヒラマキは、開発から免れた本来的な低湿地環境のみに生き残っている在来種であり、沖
縄島の低湿地の自然度を評価する指標となる。
生存に対する 脅 威: 恩納村の生息域では農地整備が計画されている。また、天願川下流の生息域では護岸整備工事が進行
している。沖縄島におけるトウキョウヒラマキの生息条件は、既知のすべての生息地において危機的
状況におかれている。
参 考 文 献: George M. Davis・Shohei Yamaguchi, 1969. The Freshwater Gastropoda of Okinawa. Venus, 28 : 137―153.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
イオウジマノミガイ
有肺目 ハワイマイマイ科
Elasmias kitaiwojimanum(Pilsbry & Hirase, 1903)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は小型(殻高約2.
8mm)で、殻径は幅広く(約2mm)、卵円形、極めて薄質。螺塔は小さいが、
やや尖り、体層は大きく、周縁は丸い。殻は淡黄褐色で光沢を持ち、平滑。殻口は丸く、肥厚・反転
しない。殻口内唇に弱い一歯を持つ。臍孔はない。
近似種との区別: 日本産の本科の種とは、幅広い殻径を有し、体層が大きいことで識別できる。
分 布 の 概 要: 小笠原諸島・火山列島および南北大東諸島に分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 日本産は一属一種であり、同属の種は太平洋の諸島に分布する。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い森林の生葉の裏面に生息する。
生 息 地 の 条 件: 比較的自然度の高い林が残存している地域である。
365
貝類
個 体 数 の 動 向:
現在の生息状況:
学術的意義・ 評 価:
生存に対する 脅 威:
特 記 事 項:
原
記
参 考 文
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
減少傾向。
南北大東島の主に崖下の森林に生息する。しかし、この場の環境が変化を受けている。
沖縄では数少ない太平洋に広く分布するグループに属する種である。
様々な要因による森林の伐採。
特になし。
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1903. Notices of new land shells of the Japanese Empire. Nautilus, 17 : 52―55.
献: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
黒住耐二,1992.北大東島の陸産貝類.“沖縄県天然記念物調査シリーズ ダイトウオオコオモリ保護
対策緊急調査報告書”,沖縄県教育委員会,沖縄,(31)
:73―90.
東 正雄・東 良雄,1994.大東島の陸産貝類相.Venus,53
(3)
:161―173.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
名:
ー:
エリマキガイ
有肺目 サナギガイ科
Ptychalaea dedecora(Pilsbry, 1902)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
形
態: 貝殻は微小(殻高約1.
6mm)で、殻径はやや幅広く(約1mm)、卵形、堅固。螺塔はやや低い。体層
は小さく、周縁は丸い。殻は赤褐色で鈍い光沢を持ち、平滑。殻口は卵形で、肥厚・反転し、後方の
体層に隆起部を持つ。殻口内部に多くの歯を持ち、外唇側面に溝を持つ。
近似種との区別: 日本産の本科の種とは、卵形、堅固であり、殻口も強く肥厚し、殻口内部の腔襞も長いことで識別で
きる。
分 布 の 概 要: 小笠原諸島と南北大東島にのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 日本産は一属一種であり、同属の種はヨーロッパの化石種と北マリアナ諸島に分
布する。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い森林の林床の落葉下に生息する。
生 息 地 の 条 件: 比較的自然度の高い林の林縁部が生息地である。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度はかなり減少傾向にある。
現在の生息状況: 主に石灰岩地で確認されているが、その確認地点と個体数は、微小なこともあってかなり少ない。
学術的意義・ 評 価: 極めて隔離された分布域を持つことが他のグループと異なる。
生存に対する 脅 威: 農業基盤整備事業等、様々な開発による森林の伐採。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
載: Pilsbry, H. A., 1902. New land Mollusca from Japan and Bonin Islands. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 54 : 25―
32.
参 考 文 献: 黒住耐二,1992.北大東島の陸産貝類.“沖縄県天然記念物調査シリーズ ダイトウオオコオモリ保護
対策緊急調査報告書”,沖縄県教育委員会,沖縄,(31)
:73―90.
東 正雄・東 良雄,1994.大東島の陸産貝類相.Venus,53
(3)
:161―173.
東 正雄,1
995.原色日本陸産貝類図鑑 増補改訂版.保育社,大阪,xvi+343pp, +80pls.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
366
名:
類:
名:
名:
ー:
ミジンサナギガイ
有肺目 サナギガイ科
Truncatellina insulivaga(Pilsbry & Hirase, 1904)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝類
形
態: 貝殻は微小(殻高約1.
6mm)で、殻径は狭く(約0.
7mm)、円筒形、やや薄質。螺塔は高く、初期層
は幅広くなり、丸みを帯びる。体層は小さく、周縁は丸い。殻は茶褐色で鈍い光沢を持ち、平滑。殻
口は卵形で、肥厚・反転する。殻口内唇に弱い一歯を持つ。臍孔は開かない。
近似種との区別: 日本産の本科の種とは、円筒形で、螺塔が高く、殻口は反転し、内部にほとんど歯を持たないことで
識別できる。
分 布 の 概 要: 現生は、与論島と沖縄諸島に分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 日本産は一属一種であり、同属の種は主に新旧北区に分布する。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い森林の林床の落葉下に生息する。
生 息 地 の 条 件: 比較的自然度の高い林の林縁部が生息地である。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度はかなり低い。
現在の生息状況: 主に石灰岩地で確認されているが、その確認地点と個体数は、微小なこともあってかなり少ない。
学術的意義・ 評 価: 琉球列島では数少ないヨーロッパ等との同属の陸産貝類である。
生存に対する 脅 威: 様々な開発行為による森林伐採。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1904. Description of new snails of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat. Sci.
Phila., 56 : 616―638.
参 考 文 献: Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
知念盛俊,1984.沖縄の陸産貝.“全国大会記念誌「沖縄の生物」”,沖縄生物教育研究会,沖縄,337―
355.
知念盛俊,1992.中城城跡と周辺の陸産貝類.“中城村史 第二巻 資料編1”,中城村役場,沖縄,238―
243.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1995.大宜味村の陸・淡水棲貝類.“大宜味村の自然,大宜味村動植
物調査報告書,大宜味村文化財調査報告書”,大宜味村教育委員会,沖縄,(4)
:295―327.
東 正雄,1995.原色日本陸産貝類図鑑 増補改訂版.保育社,大阪,xvi+343pp, +80pls.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
ヤエヤマクチミゾガイ
柄眼目 クチミゾガイ科
Enteroplax yaeyamensis Habe & Chinen, 1974
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 殻は微小(殻高約1.
7mm)で、殻径は大きく(約2.
2mm)、低い円錐形。殻表には規則的で明瞭な縦
肋があるが、体層底面はほぼ平滑で、濃褐色。殻口は、肥厚・反転し、殻口内の次体層壁に2本、体層
底部に2本の歯を持つ。臍孔は狭く開く。
近似種との区別: 国外の同属の種とは、螺塔が高いこと、体壁滑層があまり発達せず、殻口が縁取られないことで識別
できる。
分 布 の 概 要: 石垣島と西表島から、散在した分布地が知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 日本産は一属一種であり、同属の種はフィリピンにのみ分布する。
生 態 的 特 徴: 海岸林とやや標高の高い林内の落葉下やオオタニワタリの内部等に生息する。
生 息 地 の 条 件: 比較的自然度の高い林の林内が生息地である。
個 体 数 の 動 向: 減少傾向が顕著である。
現在の生息状況: 海岸林の生息地では近年の報告がなく、減少が著しいようである。
学術的意義・ 評 価: 琉球列島の陸産貝類の中では、台湾から記録がなく、フィリピンとの共通の属の種は他になく、その
分散経路の研究に重要である。
生存に対する 脅 威: 森林の様々な開発により、林が開け、林内が乾燥することである。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
載: 波部忠重・知念盛俊,1
974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
367
貝類
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
科学博物館専報,(7)
:121―1
28,3pls.
献: 山中典和,1980.西表の陸貝採集報告.ISOKOJIKI,(41)
:8―10.
湊 宏,1982.日本のクチミゾガイ類.ちりぼたん,13
(2)
:30―31.
知念盛俊,1990.西表島の陸産貝類.“平成元年度西表島崎山半島地域調査報告書”
,環境庁自然保護
局,東京,267―275.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
名:
ー:
ウスチャイロキセルモドキ
有肺目 キセルモドキ科
Luchuena fulva Minato, 1977
なし
絶滅危惧 類(VU)
類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
形
態: 貝殻は中型(殻高約18mm)で、殻径はやや細く(約7mm)、やや高い円錐形で、螺層数は多い。螺層
の膨らみは弱い。臍孔は裂け目状。やや薄質。殻表はほぼ平滑で、弱い光沢を持ち、淡黄褐色で火炎
彩は極めて弱い。殻口は肥厚するが、やや薄い。生時には殻表にゴミを付けていることもある。
近似種との区別: 本種は、リュウキュウキセルモドキやオオシマキセルモドキL. e. oshimanaより、殻表の火炎彩が弱
く、殻口も薄く、生殖器では陰茎付属肢柄部が著しく長いことによって識別できる。
分 布 の 概 要: 沖永良部島と沖縄島・伊江島にのみ分布し、後者では北部から南部まで確認されている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: リュウキュウキセルモドキは八重山諸島に、オオシマキセルモドキは奄美諸島の
奄美大島・喜界島・徳之島に分布する。
生 態 的 特 徴: 森林の主に大径木の樹幹に生息する樹上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 減少傾向が顕著である。
現在の生息状況: 本部半島・伊江島の石灰岩地域では比較的個体数が多かったが、森林伐採による環境変化や採集圧に
より減少しており、沖縄島北部のシイ林では個体数は少なく、南部では生息地が限定されている。
学術的意義・ 評 価: 沖永良部島と沖縄諸島の固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採による生息環境の変化や採集圧。
特 記 事 項: 過去に、沖縄島の個体群は、チャイロキセルモドキL. nesiotica等として報告されていた。
原
記
参 考 文
執
筆
者
載: 湊 宏,1978.沖永良部島・与論島の陸産貝類相.日本生物地理学会会報,33
(1)
:1―8.
献: 加藤次雄,1959.沖縄の陸棲貝.三重生物,(9)
:73―75.
黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
知念盛俊,1989.佐敷町産陸棲貝類.“佐敷町史 三 自然”,佐敷町役場,沖縄,324―334.
名: 黒住耐二
キンチャクギセル
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
形
態: 貝殻は中型(殻高約2
3mm)で、殻径はやや細く(約5.
5mm)、細長い塔型で、螺塔は初期層で細ま
り、腹太になる。堅固。殻は黄白色から黄褐色で、殻表には規則的でやや細かく明瞭な縦肋を密に持
つ。殻口は厚く、反転し、洋梨形で歪まず、内唇側の縁は細かく刻まれる。殻口内の上板・下板・下
368
有肺目 キセルガイ科
Luchuphaedusa callistochila(Pilsbry, 1901)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
貝類
軸板は明瞭に認められる。体層内部側面の腔襞では、主襞と上腔襞は長く、月状襞は下腔襞と連続
し、腹面に位置する。
近似種との区別: 本種は、中型で、殻表に明瞭な縦肋を持ち、殻口は歪まず、月状襞は下腔襞と連続し、腹面に位置す
ることによって区別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄島にのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 本種は、沖縄島にのみ分布し、同島には同属のリュウキュウギセルとツヤギセル
も分布し、徳之島・奄美大島・九州の一部にはそれぞれ別種が分布する。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い森林の倒木下や礫間等に生息する地上性種である。卵生。
生 息 地 の 条 件: 比較的自然度の高い林が残存している地域である。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度はかなり減少傾向にある。
現在の生息状況: 沖縄島南部の石灰岩地に広く分布していたが、現在では確認地点は散在的である。沖縄島北部のシイ
林でも比較的個体数は少ない。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のみの固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による林床の乾燥化。
特 記 事 項: 沖縄島南部の石灰岩地のものと、沖縄島北部のシイ林のものでは、殻形や縦肋の形状に相違が認めら
れる。
原
記
載: Pilsbry, H. A., 1901. The land mollusks of the Loo Choo Islands : Clausiliidae. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila.,
53 : 409―424.
参 考 文 献: 知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I).沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
知念盛俊,1989.佐敷町産陸棲貝類.“佐敷町史 三 自然”,佐敷町役場,沖縄,324―334.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1995.大宜味村の陸・淡水棲貝類.“大宜味村の自然,大宜味村動植
物調査報告書,大宜味村文化財調査報告書”,大宜味村教育委員会,沖縄,(4)
:295―327.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
リュウキュウギセル
有肺目 キセルガイ科
Luchuphaedusa inclyta(Pilsbry, 1908)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は中型(殻高約2
8mm)で、殻径はやや細く(約6.
5mm)、細長い塔型で、螺塔は初期層で細ま
る。堅固。殻は黄白色で、殻表には規則的で粗く明瞭な縦肋を持つ。殻口は厚く、反転し、洋梨形で
歪まず、内唇縁の付着部の一部は刻まれる。殻口内の上板・下軸板は明瞭に認められ、下板はやや弱
い。体層内部側面の腔襞では、主襞は短く、上腔襞を欠き、月状襞は下腔襞と連続し、
「入」形とな
る。
近似種との区別: 本種は、やや大きく、殻表の縦肋が粗く、極めて強く、殻口は歪まず、月状襞は下腔襞と連続し、
「入」形となることによって区別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄島の中・北部の石灰岩地にのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 本種は、沖縄島中・北部の石灰岩地にのみ分布し、同島には同属のキンチャクギ
セルとツヤギセルも分布し、徳之島・奄美大島・九州の一部にはそれぞれ別種が分布する。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い森林の石灰岩洞窟や凹所の礫間等に生息し、好洞窟性と考えることもできる。卵
生。
生 息 地 の 条 件: 比較的自然度の高い林の湿度の高い洞窟的な環境。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度はかなり強い減少傾向にある。
現在の生息状況: 沖縄島本部半島の石灰岩地で確認されており、他の石灰岩地ではほとんど生息が確認できていない。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のみの固有種であり、琉球列島では唯一の好洞窟性キセルガイである。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による洞窟的な環境の乾燥化と洞窟の改変。
369
貝類
特
記
事
原
記
参 考 文
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
項: 特になし。
載: Pilsbry, H. A., 1908. New Clausiliidae of the Japanese Empire, XI. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 59 : 499―513.
献: 加藤次雄,1959.沖縄の陸棲貝.三重生物,(9)
:73―75.
知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I).沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−,沖縄県環境保健部自然保護課”,沖縄,447―456.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
名:
ー:
イトヒキツムガタノミギセル
柄眼目 キセルガイ科
Pulchraptyx longiplicata(Pilsbry, 1908)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は小型(殻高約1
1mm)で、殻径はやや幅広く(約2.
6mm)、細長い塔型で、螺塔はやや太く、短
い。やや堅固。殻は明黄緑褐色で、殻表は平滑で、光沢を持つ。殻口縁は厚く、殻口内の上板は明瞭
だが、下板は見えず、下軸板は弱く、殻口縁に出現する。体層内部側面の腔襞では、主襞・上腔襞と
も極めて長く、殻口からも端部が見え、月状襞に連続しない。
近似種との区別: 本種は、単一種で一属を形成し、他の属の種とは、螺塔が太短いことや主襞・上腔襞とも極めて長
く、殻口からも端部が見え、月状襞に連続しないことで区別できる。
分 布 の 概 要: 慶良間諸島の一部の島にのみ生息する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 慶良間諸島の固有属であり、比較対象がない。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い森林の落葉下等に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: 不明。ただ確認地点は、比較的自然度の高い林が残存している地域である。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度は着実に減少傾向にある。
現在の生息状況: 現在のところ、渡嘉敷島と阿嘉島の2島でのみ生息が確認されており、林道の建設等で、森林が伐採さ
れている。
学術的意義・ 評 価: 慶良間諸島のみの固有属の単一種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による林床の乾燥化。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
参 考 文
執
370
筆
者
載: Pilsbry, H. A., 1908. New Clausiliidae of the Japanese Empire, XI. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 59 : 499―513.
献: 知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
知念盛俊,1978.阿嘉・慶留間・屋嘉比島の陸・淡水貝類.“沖縄県天然記念物調査シリーズ ケラマ
ジカ実態調査報告 III”,(12)
:163―170.
湊 宏,1981.日本産陸棲貝類の生殖器−XVII. キセルガイ科(4)
: 琉球列島産の5種.Venus, 39
(4)
:
236―242.
湊 宏,1994.日本産キセルガイ科貝類の分類と分布に関する研究,Venus, suppl.,(2)
:1―212,5tables,
74pls.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
名: 黒住耐二
貝類
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
サカヅキノミギセル
有肺目 キセルガイ科
Selenoptyx inversiluna(Pilsbry, 1908)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は小型(殻高約9.
5mm)で、殻径はやや細く(約2.
4mm)、細長い塔型で、螺塔は細まり、腹太
になる。やや堅固。殻は明褐色で、殻表は平滑で、光沢を持つ。殻口縁は厚く、殻口内の上板は明瞭
だが、下板は見えず、下軸板は弱く、殻口縁に出現する。体層内部側面の腔襞では、主襞は長く、上
腔襞と月状襞は連続して、緩やかなカーブを描く。主襞と月状襞は体層腹面中央部から位置し、両襞
の端部はほぼ同じ位置にある。
近似種との区別: 本種は、上腔襞と月状襞が連続することによって、キセルガイ科の他の属と区別され、螺塔が細ま
り、主襞と月状襞の端部がほぼ同じ位置にあることによって、同属のミカヅキノミギセルと区別でき
る。
分 布 の 概 要: 沖縄島・渡嘉敷島・久米島にのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 同属のミカヅキノミギセルは伊平屋島にのみ分布する。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い森林の倒木下等に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: 不明。ただ確認地点は、比較的自然度の高い林が残存している地域である。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度はかなり低い。
現在の生息状況: 分布している3島のうち、久米島での近年の生息確認はなされておらず、沖縄島でも南部では生きた個
体はほとんど得られず、北部のシイ林でも確認地点は極めて少ない。
学術的意義・ 評 価: 沖縄諸島のみの固有属の一種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による林床の乾燥化。
特 記 事 項: 従来、同属のミカヅキノミギセルが沖縄島に分布するとされてきたが、この島のものは、本種である
と考えられる。
原
参
執
記
載: Pilsbry, H. A., 1908. New Clausiliidae of the Japanese Empire, XI. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 59 : 499―513.
考 文 献: Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
魚住賢司・山本愛三・品川和久・反田栄一,1980.サカヅキノミギセルZaptyx(Selenoptyx)inversilunaとミカヅキノミギセルZaptyx(Selenoptyx)novilunaの比較研究.九州の貝,(15)
:5―12.
湊 宏,1994.日本産キセルガイ科貝類の分類と分布に関する研究,Venus, suppl.,(2)
:1―212,5tables,74pls.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
ミヤコオキナワギセル
有肺目 キセルガイ科
Phaedusa striatella(Pilsbry, 1901)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は中型(殻高約27mm)で、殻径はやや太く(約6.
5mm)、細長い塔型で、成貝になると螺塔を自
ら脱落させる。やや堅固。殻は濃紫褐色で、殻表には明瞭で細かい成長肋を密に持ち、光沢はない。
殻口縁は薄く、殻口内の上板・下板・下軸板は明瞭で、強い。体層内部側面の腔襞では、主襞は短
く、月状襞を欠き、短く同程度の長さの上腔襞と下腔襞を持つ。
近似種との区別: 本種は、小型であること、殻が濃紫褐色であること、生殖器の盲管が交尾嚢よりも短いことで、オキ
ナワギセルと区別できる。
分 布 の 概 要: 現在は、宮古島の野原岳周辺にのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 本種は、宮古島にのみ分布し、近似種のオキナワギセルは沖縄島にのみ分布す
371
貝類
る。
やや自然度の高い石灰岩の森林の樹幹で見られる樹上性種である。卵胎生。
比較的自然度の高い森林。
個体群密度は強い減少傾向にある。
宮古島の野原岳周辺でのみ確認されている。近世ー近代期には平良市街地でも確認されており、確実
に生息域が縮小し、個体数も減少している。
学術的意義・ 評 価: 宮古島のみの固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 本種は、オキナワギセルの亜種とされることもある。
生 態 的 特 徴:
生 息 地 の 条 件:
個 体 数 の 動 向:
現在の生息状況:
原
記
載: Pilsbry, H. A., 1901. The land mollusks of the Loo Choo Islands : Clausiliidae. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila.,
53 : 409―424.
参 考 文 献: 知念盛俊,1976.陸産貝類. 生態写真集 沖縄の生物 ,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1976. Land shells of Miyako―jima and adjacent islands. Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls.,
:
89―94.
湊 宏,1988.日本陸産貝類総目録.日本陸産貝類総目録刊行会,白浜,和歌山,x+294pp.
大原健司,1994.宮古諸島の陸産貝類相.かいなかま,28
(3)
:1―7.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
カズマキノミギセル
有肺目 キセルガイ科
Zaptyx dolichoptyx(Pilsbry, 1908)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は小型(殻高約1
1mm)で、殻径はやや幅広く(約2.
6mm)、細長い塔型で、螺塔はやや太く、長
く伸びる。やや堅固。殻は明褐色で、殻表は平滑に見え、やや光沢を持つ。殻口は全縁で、肥厚・反
転し、本種では小さく洋梨形である。殻口内の上板・下板とも弱く、不明瞭。下軸板もほとんど殻口
縁に出現しない。体層内部側面の腔襞では、主襞は短く、上腔襞は長く、下部で月状襞に連続し、下
腔襞を欠く。
近似種との区別: 本属の他種とは、螺塔がやや太く伸びること、上腔襞が長いことで識別できる。
分 布 の 概 要: 主に辺戸石山等の沖縄島北部の石灰岩地にのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 類似種のノミギセルZ .hyperoptxyは、沖縄諸島に広く分布する。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い森林の石灰岩礫下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: 不明。ただ確認地点は、比較的自然度の高い林が残存している地域である。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度は強い減少傾向にある。
現在の生息状況: 辺戸石山・嘉津宇岳等から報告されているが、前者では生息地の林が改変され、後者では近年の確認
記録がほとんどないと思われる。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島の小地域の固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による林床の乾燥化と高い採集圧。
原
記
参 考 文
372
載: Pilsbry, H. A., 1908. New Clausiliidae of the Japanese Empire, XI. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 59 : 499―513.
献: 知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
湊 宏,1980.日本産陸棲貝類の生殖器の研究―XIV.キセルガイ科(3)琉球列島の4種.Venus, 39
(1)
:56―62.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1995.大宜味村の陸・淡水棲貝類.“大宜味村の自然,大宜味村動植
物調査報告書,大宜味村文化財調査報告書”,大宜味村教育委員会,沖縄,(4)
:295―3227.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
コメツブダワラ
有肺目 ネジレガイ科
Sinoennea densecostata(Böttger, 1892)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は小型(殻径約2.
8mm)で、殻高は高く(約7mm)、俵型で、この属としては大型で、螺塔上部
が最も幅広くなり、殻頂部は平巻き状で、厚質。殻表には明瞭で規則的な縦肋が密にある。殻口は長
方形で、強く肥厚し、やや全体に広がり、上部に1歯を持ち、内部にも歯状突起がある。軟体部は黄
色。
近似種との区別: 本種は、大型で、螺塔上部が最も幅広く、平巻き状になることによって、近接地域の同属の種と容易
に識別できる。
分 布 の 概 要: 本種は、沖縄島の中部以北の石灰岩地に分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 宮古島にはミヤコダワラが、与那国島にはヨナグニダワラが分布する。
生 態 的 特 徴: やや自然度の高い森林の主に礫地に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 沖縄島中・南部での減少が顕著で、北部でも確実に減少している。
現在の生息状況: 本種は、知花グスクや辺戸石山等、比較的報告されている生息地が少なく、いずれの地域でも個体数
は激減している。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島の固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化と採集圧。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Böttger, O., 1892. Die meeresmollusken der mittleren Liukiu―inseln. Nach. Deutsch Malak. Gesell., 24(9―10) :
153―163.
献: 加藤次雄,1959.沖縄の陸棲貝.三重生物,(9)
:73―75.
知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
ミヤコダワラ
有肺目 ネジレガイ科
Sinoennea miyakojimana(Pilsbry & Hirase, 1904)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は小型(殻径約1.
7mm)で、殻高は高く(約4mm)、俵型で、この属としては中型で、螺塔上部
が最も幅広くなり、殻頂部はやや高まり、厚質。殻表には明瞭で規則的な縦肋が密にある。殻口は長
方形で、強く肥厚し、やや全体に広がり、上部に1歯を持ち、内部にも歯状突起がある。軟体部は黄
色。
近似種との区別: 本種は、中型で、螺塔上部が最も幅広くなり、殻頂部はやや高まることによって、近接地域の同属の
種と容易に識別できる。
分 布 の 概 要: 本種は、宮古島にのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 沖縄島にはコメツブダワラが、与那国島にはヨナグニダワラが分布する。
373
貝類
生 態 的 特 徴:
生 息 地 の 条 件:
個 体 数 の 動 向:
現在の生息状況:
学術的意義・ 評 価:
生存に対する 脅 威:
特 記 事 項:
原
やや自然度の高い森林の落葉下に生息する地上性種である。
やや自然度の高い森林に生息する。
顕著に減少している。
本種は、宮古島各地で確認されていたが、現在では確認地点数・個体数とも少なくなっている。
宮古島の固有種である。
森林の伐採等による生息環境の変化。
特になし。
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1904. Description of new land snails of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat.
Sci. Phila., 56 : 616―638.
参 考 文 献: Chinen, M., 1976. Land shells of Miyako―jima and adjacent islands. Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls.,
:
89―94.
大原健司,1994.宮古諸島の陸産貝類相.かいなかま,2
8
(3)
:1―7.
東 正雄,1995.原色日本陸産貝類図鑑 増補改訂版.保育社,大阪,xvi+343pp, +80pls.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
イトカケマイマイ
有肺目 イトカケマイマイ科
Plectopylis(Sinicola)hirasei Pilsbry, 1904
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は小型(殻径約6mm)で、殻高は低く(約3mm)、円盤形で、螺塔は僅かに高まり、螺層数は多
い。臍孔はやや狭く、殻径の1/3程度。やや薄質。殻表には厚い濁褐色の殻皮を持ち、規則的に殻皮が
突出し、周縁部では毛状となる。殻口は肥厚・反転し、内唇部に明瞭で厚い半月状の隔板を持つ。殻
口内部の体層内壁には数個の腔襞を持つ。
近似種との区別: 本種は、小型で、臍孔が狭く、殻口の肥厚が弱いことで、中国南部から知られる同属の種と区別でき
る。中国貴州省のP. diptychiaとは、本種で突出する殻皮が細かく、内唇部の隔板が厚いことで、また
台湾のタイワンイトカケマイマイP. ishizakiiとも、内唇部の隔板が厚く明瞭であることで区別でき
る。
分 布 の 概 要: 宮古島と伊良部島にのみ分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 本種は宮古島と伊良部島にのみ分布し、同属の種は、台湾および中国南部に分布
する。
生 態 的 特 徴: 湿度の高い森林の落葉下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: 比較的自然度の高い森林。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度はかなり減少傾向にある。
現在の生息状況: 宮古島と伊良部島の中でも、現在は、野原岳等の数地点でのみ確認されているだけである。
学術的意義・ 評 価: 宮古諸島のみの固有種であり、日本では本属の唯一の種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
参
執
374
記
載: Pilsbry, H. A., 1904. Plectopylis in the Riukiu Islands. Nautilus, 18 : 58―59.
考 文 献: Chinen, M., 1976. Land shells of Miyako―jima and adjacent islands. In Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls.,
II : 89―94.
湊 宏,1980.宮古島の陸産貝類相.Venus,3
9
(2): 83―99.
大原健司,1994.宮古諸島の陸産貝類相.かいなかま,28
(3)
:1―7.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
筆 者 名: 黒住耐二
貝類
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
マサキベッコウ
有肺目 ベッコウマイマイ科
Bekkochlamys masakii(Kuroda, 1960)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 情報不足(DD)
形
態: 貝殻はこの科としては大型(殻径約15mm)で、殻高は低く(約7.
5mm)、円盤形で、螺層数は多く、
最終層は急激に広くならない。螺塔は僅かに突出し、螺層の膨らみは弱い。体層の膨らみも弱く、周
縁には角を持たない。縫合は窪まない。殻表はほぼ平滑で、明瞭な螺状脈を持たず、やや褐色がかっ
た黄色で、光沢を持つ。臍孔は軸唇によって被われ、この部分は白色となる。
近似種との区別: 本種は、タイワンベッコウ B.”formosanusとは殻表に明瞭な螺状脈を持たないことによって、ベッ
コウマイマイB. perfragilisとは最終層は急激に広くならず、黄褐色で、臍孔部が白色になることで識別
できる。
分 布 の 概 要: 石垣島・西表島・与那国島・尖閣諸島から知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: タイワンベッコウは台湾に、ベッコウマイマイは奄美・沖縄両諸島に分布する。
生 態 的 特 徴: 森林の倒木下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度は極めて低い。
現在の生息状況: 石垣島・西表島では、個体数は比較的少なく、与那国島でも1
970年代前半の調査では確認されていな
い。尖閣列島の魚釣島では比較的高密度であったが、この島では野生化したヤギによる植生破壊が進
行中である。
学術的意義・ 評 価: 八重山諸島と尖閣列島の固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採や野生化したヤギによる生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
参 考 文
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
載: 黒田徳米,1
960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
献: 黒田徳米,1963.日本非海産貝類目録.日本貝類学会,東京,vi+71pp.
波部忠重・知念盛俊,1974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―128,3pls.
知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
知念盛俊,1990.西表島の陸産貝類.“平成元年度西表島崎山半島地域調査報告書”
,環境庁自然保護
局,東京,267―275.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
名:
ー:
リュウキュウカドベッコウ
有肺目 ベッコウマイマイ科
Luchuconulus okinawanus Pilsbry, 1928
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は小型(殻径約8mm)で、殻高はやや高く(約6.
5mm)、やや高い円錐形で、螺層数は多い。螺
層の膨らみはやや強く、体層も良く膨らみ、体層周縁に弱いが明瞭な角を持つ。螺層上面に明瞭な成
長肋や粗い盛り上がりを持たない。臍孔は狭い。薄質。殻表はほぼ平滑で、強い光沢を持ち、緑黄
色。
近似種との区別: 本種は、薄質で、緑黄色の殻を持ち、生殖器の陰茎付属肢が小さく、鞭状器を持たないことで、他種
や類似の他属のグードベッコウ等と区別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄島北部のシイ林と久米島に分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 本種は沖縄諸島に分布し、八重山諸島からは別種が、沖縄島北部から同属とされ
るエイコベッコウが、沖縄諸島・徳之島・奄美大島からは別属だが殻形態の類似したグードベッコウ
が知られている。
生 態 的 特 徴: 森林の落葉下に生息する地上性種である。
375
貝類
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度は低い。
現在の生息状況: 沖縄島北部では、比較的広範囲から知られているが、各地点での個体数は少なく、また生貝の確認も
稀である。また久米島では近年の確認例がない。
学術的意義・ 評 価: 沖縄諸島の固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1904. Description of new land snails of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat.
Sci. Phila., 56 : 616―638.
参 考 文 献: 加藤次雄,1959.沖縄の陸棲貝.三重生物,(9)
:73―75.
知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1995.大宜味村の陸・淡水棲貝類.“大宜味村の自然,大宜味村動
植物調査報告書,大宜味村文化財調査報告書”,大宜味村教育委員会,沖縄,(4)
:295―327.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
リュウキュウカドベッコウ類似種
有肺目 ベッコウマイマイ科
Luchuconulus sp. cf. okinawanus Pilsbry, 1928
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 貝殻は小型(殻径約6.
5mm)で、殻高は低く(約3.
7mm)、低い円錐形で、螺層数は多い。螺層の膨
らみは弱いが、体層は比較的膨らみ、体層周縁に弱いが明瞭な角を持たない。縫合は深く窪む。殻表
はほぼ平滑で、光沢を持つ。
近似種との区別: 本種は、螺塔が低く、周縁に角を持たないことで、同属の他種と識別できる。
分 布 の 概 要: 現在までのところ、与那国島からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 本種は八重山諸島の与那国島からのみ知られており、同属の種は、沖縄諸島に
リュウキュウカドベッコウとエイコベッコウが分布しているだけである。
生 態 的 特 徴: 森林の落葉下に生息する地上性種と思われる。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度は極めて低い。
現在の生息状況: 現在までのところ、与那国島の宇良部岳から1個体のみが報告されているだけである。
学術的意義・ 評 価: 八重山諸島の未記載の固有種である可能性が高い。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
376
記
載: なし
献: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1904. Description of new land snails of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat.
Sci. Phila., 56 : 616―638.
湊 宏,1976.与那国島の陸産貝類相.Venus,35
(4): 163―184.
名: 黒住耐二
名: オーステンキビ(オオステンキビ)
類: 有肺目 ベッコウマイマイ科
名: Parakaliella austeniana(Pilsbry, 1901)
貝類
方
言
名: なし
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧
類(VU)
環境省カテゴリー: 情報不足(DD)
形
態: 貝殻は微小(殻径約4mm)で、殻高はやや高く(約4mm)、低い円錐形で、螺層数は多い。螺層およ
び体層の膨らみは弱い。体層周縁に明瞭な角を持たないが、体層上部に鈍い屈曲部がある。臍孔は狭
い。やや薄質。殻表に明瞭な彫刻等を持たないが、やや粗面である。淡褐色。殻口は肥厚・反転しな
い。
近似種との区別: 本種は琉球列島に分布する類似種とは、体層周縁に明瞭な角を持たないことでナハキビP. nahaensisと
区別され、螺層数が多く、体層上部に鈍い屈曲部があることでマルキビP. bimarisやキカイキビP. kikaigashimaeと区別できる。また、殻表が平滑であることでコスジキビLiardetia yaeyamensisとも異なる。
分 布 の 概 要: 八重山諸島から奄美諸島までのいくつかの島嶼から報告されている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 類似種のナハキビは琉球列島に広く分布し、マルキビは主に沖縄諸島に、キカイ
キビは奄美諸島の喜界島からのみ知られている。
生 態 的 特 徴: 森林の落葉下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林の主に林縁部に生息する。
個 体 数 の 動 向: 個体群密度は低い。
現在の生息状況: 確実に同定・報告された地点が少なく、明瞭ではないが、林縁に生息すると考えられるので、開発の
影響を多大に受けていると考えられる。
学術的意義・ 評 価: 琉球列島の固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
参
執
記
載: Pilsbry, H. A., 1901. New land shells from Loo Choo Islands and Japan. Nautilus, 15 : 18―24.
考 文 献: 平瀬輿一郎,1908.日本陸産貝類図説(13).介類学雑誌,2
(7)
:221―226,pl.18.
波部忠重・知念盛俊,1974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―128,3pls.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
アマノヤマタカマイマイ
有肺目 ナンバンマイマイ科
Satsuma(Luchuhadra)amanoi Kuroda, 1960
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は中型(殻径約2
2mm)で、殻高は高く(約2
6mm)、円錐形で、殻頂はやや尖る。体層周縁には
弱い角を持つ。殻は黄白色で、色帯を持たず単色で、やや薄く、やや弱い成長肋を有する他は平滑。
殻口は肥厚・反転し、やや強い。
近似種との区別: 本種は、琉球列島の同亜属の種とは、殻高が高く、色帯を持たず、殻口の反転が強いことで識別でき
る。
分 布 の 概 要: 沖縄島南部の石灰岩地域から知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 琉球列島の多くの島には、本亜属の種が地理的に種分化して分布し、沖縄島南部
には本種とオキナワヤマタカマイマイの2種が分布している。
生 態 的 特 徴: 主にイヌビワ等の樹幹に生息する樹上性種で、産卵は樹幹や石灰岩塊の窪みに行う。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 何れの生息地でも個体数は激減しており、絶滅した場所もある。
現在の生息状況: 様々な開発による森林伐採で、既知の生息地で絶滅が生じ、また個体群が分断されている。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島南部のみの固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化と採集圧。
特 記 事 項: 特になし。
377
貝類
原
記
参 考 文
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
載: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
献: 知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
湊 宏,1976.日本産陸棲貝類の生殖器の研究−VII, アマノヤマタカマイマイとタネガシママイマイ
の生殖器.Venus,35
(2)
:83―86.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
知念盛俊,1989.佐敷町産陸棲貝類.“佐敷町史 三 自然”,佐敷町役場,沖縄,324―334.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
名:
ー:
ハンミガキマイマイ(イヘヤマイマイ)
有肺目 ナンバンマイマイ科
Satsuma(Satsuma)ammiralis(Pfeiffer, 1857)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は中型(殻径約3
5mm)で、殻高はやや高く(約2
6mm)、ソロバン玉形から球形で、やや厚質。
螺層は少し膨れ、上面にのみ規則的で強い皺状彫刻を持つ。周縁は丸い。殻皮は弱い光沢を持つ。体
層周縁に栗色の色帯を持ち、殻は濁緑褐色。臍孔は狭いが明瞭に開く。伊是名島の個体群は、伊平屋
島のものと比較して、小型で螺塔がより高い。
近似種との区別: 本種は、琉球列島の同亜属の種とは、やや大型で厚質、螺塔が低く、螺層上面のみに規則的で強い皺
状彫刻を持つことによって識別できる。
分 布 の 概 要: 久米島からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 琉球列島の多くの島には、本亜属の種が地理的に種分化して分布し、伊平屋島と
伊是名島には本種のみが分布する。
生 態 的 特 徴: 林床の倒木下や落葉下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
現在の生息状況: 両島で、森林の残っている場所に生息しているが、各種の開発により生息域は、改変・分断されてい
る。
個 体 数 の 動 向: 各地で着実に減少している。
学術的意義・ 評 価: 伊平屋島と伊是名島のみの固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
載: Pfeiffer, L., 1857. Descriptions of 58 new species of Helicea from the collection of H. Cuming, Esq. Proc.
Zool. Soc. London, 24 : 324―336
参 考 文 献: 知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
知念盛俊・治井正一,1
976.伊平屋島・伊是名島の陸・淡水貝類(予報)
.沖縄生物教育研究会誌,
(9)
:37―43.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
湊 宏,2001.シュリマイマイ種群とオオシママイマイ種群の種類とその分布.ちりぼたん,3
2
(1/
2)
:24―31.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
378
記
名: ウラキヤマタカマイマイ
類: 有肺目 ナンバンマイマイ科
貝類
学
名: Satsuma(Luchuhadra)hemihelvus Minato, 1980
方
言
名: なし
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は中型(殻径約2
6mm)で、殻高は高く(約2
0mm)、長卵形で、殻頂はやや丸みを帯びる。やや
薄質。螺層はやや膨れる。体層周縁には角を持たない。殻皮は光沢を持つ。色帯の有無には変異があ
るが、周縁に紫褐色の色帯を持つ個体が多い。体層底面は黄褐色に彩色される。臍孔は狭く開く。殻
口は白色で、弱く肥厚し、反転する。
近似種との区別: 本種は、琉球列島の同亜属の種とは、小型で薄質、周縁角がなく、体層底面は黄褐色に彩色されるこ
とによって識別できる。
分 布 の 概 要: 宮古島と伊良部島からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 琉球列島の多くの島には、本亜属の種が地理的に種分化して分布し、宮古諸島に
は本種しか分布していない。
生 態 的 特 徴: 樹木の樹幹に生息する樹上性種で、産卵は樹幹や石灰岩塊の窪みに行う。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 各地で顕著に減少している。
現在の生息状況: 宮古島と伊良部島に広く分布していたが、様々な開発による森林伐採等で着実に生息地が減少してい
る。
学術的意義・ 評 価: 宮古諸島のみの固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
参
執
記
載: 湊 宏,1980.宮古群島の陸産貝類相.Venus,39
(2)
:83―99.
考 文 献: 知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1976. Land shells of Miyako―jima and adjacent islands. Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., II :
89―94.
大原健司,1994.宮古諸島の陸産貝類相.かいなかま,28
(3)
:1―7.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
オキナワヤマタカマイマイ
有肺目 ナンバンマイマイ科
Satsuma(Luchuhadra)largillierti(Pfeiffer, 1849)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は中型(殻径約2
7mm)で、殻高は高く(約2
9mm)、円錐形で、殻頂はやや尖る。薄質。螺層は
やや膨れる。体層周縁には弱い角を持つ。殻皮は光沢を持つ。色帯の有無には変異があり、持つ場合
にもいくつかのタイプがある。臍孔は狭く開く。殻口は白色で、弱く肥厚し、反転する。
近似種との区別: 本種は、琉球列島の同亜属の種とは、大型で薄質、周縁角が弱く、殻口の肥厚が弱いことによって識
別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄島と周辺の小島嶼からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 琉球列島の多くの島には、本亜属の種が地理的に種分化して分布し、沖縄島と周
辺の小島嶼には、本種と白色で殻径の小さいアマノヤマタカマイマイしか分布していない。
生 態 的 特 徴: 樹木の樹幹に生息する樹上性種で、産卵は樹幹や石灰岩塊の窪みに行う。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島各地に広く分布していたが、様々な開発による森林伐採等で着実に生息地が減少している。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島と周辺の小島嶼のみの固有種であり、島内で分化しつつあり、その対象として貴重である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: クマドリヤマタカマイマイS.(L.) adelinaeとして、沖縄島から報告されたものは、タイプ産地の種と
379
貝類
は明らかに異なり、本種に含まれると考えられる。
個 体 数 の 動 向: 各地で顕著に減少している。
原
記
参 考 文
執
筆
載: Pfeiffer, L., 1849. Nachtrage zu L. Pfeiffer Monographia Heliceorum. Zeitschr. Malak., 6(7) : 106―107
献: 波部忠重.1955.日本産陸産貝類の解剖学的研究(3).Venus,18
(4)
:221―234.
知念盛俊,1
976.陸産貝類. 生態写真集 沖縄の生物 ,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae,
Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
湊 宏,1995.古宇利島の陸産貝類.ちりぼたん,26
(2)
:44―48.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1995.大宜味村の陸・淡水棲貝類.“大宜味村の自然,大宜味村動植
物調査報告書,大宜味村文化財調査報告書”,大宜味村教育委員会,沖縄,(4)
:295―3227.
者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
オモロヤマタカマイマイ
有肺目 ナンバンマイマイ科
Satsuma(Luchuhadra)omoro Minato, 1982
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は中型(殻径約2
7mm)で、殻高は高く(約2
4mm)、円錐形で、殻頂はやや丸みを帯びる。やや
厚質。螺層はあまり膨れない。体層周縁には鈍いが明瞭な角を持つ。殻皮は光沢を持つ。色帯の有無
には変異があるが、周縁を挟んで上下に見られるものが多い。臍孔は狭く開く。殻口は白色で、やや
強く肥厚し、反転する。
近似種との区別: 本種は、琉球列島の同亜属の種とは、やや大型で厚質、螺塔が低く、周縁角が明瞭なことによって識
別できる。
分 布 の 概 要: 久米島からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 琉球列島の多くの島には、本亜属の種が地理的に種分化して分布し、久米島には
本種しか分布していない。
生 態 的 特 徴: 樹木の樹幹に生息する樹上性種で、産卵は樹幹や石灰岩塊の窪みに行う。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息し、主に石灰岩地で確認されている。
個 体 数 の 動 向: 各地で着実に減少している。
現在の生息状況: 久米島の石灰岩地から報告されており、様々な開発による森林伐採等で着実に生息地が減少してい
る。
学術的意義・ 評 価: 久米島のみの固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
参
執
和
分
学
380
記
載: 湊 宏,1982.沖永良部島・久米島のオキナワヤマタカマイマイ種群.Venus,40
(4)
:187―194.
考 文 献: 知念盛俊,1976.陸産貝類. 生態写真集 沖縄の生物 ,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
品川和久,1978.沖縄県久米島における陸貝採集記録.かいなかま,12
(2)
:4―14.
東 正雄・東 良雄・平田義浩,1992.久米島の陸産貝類相.Venus,50
(4)
:264―269.
筆 者 名: 黒住耐二
名: クンチャンマイマイ
類: 有肺目 ナンバンマイマイ科
名: Satsuma(Satsuma)mercatoria euterpe(Pilsbry & Hirase, 1903)
貝類
方
言
名: なし
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧
類(VU)
類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
形
態: 貝殻は中型(殻径約3
2mm)で、殻高はやや高く(約2
1mm)、ソロバン玉形で、やや厚質。螺層は少
し膨れ、上面の成長肋はやや強いが、皺状彫刻にはならない。周縁には弱いが角を持ち、栗色の色帯
がある。殻は黄白色で、少し光沢がある。臍孔はやや広く開く。
近似種との区別: 本種は、琉球列島の同亜属の種とは、周縁に角を持ち、螺層上面の成長肋がやや粗く、黄白色の殻色
であることによって識別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄島北部の辺戸石山周辺の石灰岩地からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 琉球列島の多くの島には、本亜属の種が地理的に種分化して分布し、沖縄島のも
のは、全島に広く分布するシュリマイマイS.(S.)m. mercatoria、北部のシイ林に分布するヤンバルマ
イマイS.(S.)m. atrata、および辺戸石山周辺に分布する本亜種に区別されており、基本的に同所的に
は2亜種が混生しない。
生 態 的 特 徴: 林床の石灰岩礫下や落葉下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 各地で着実に減少している。
現在の生息状況: 辺戸石山周辺では、森林の改変や採集圧によって、個体数が減少している。
学術的意義・ 評 価: 辺戸石山周辺のみの固有亜種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化と採集圧。
特 記 事 項: 本部半島のシュリマイマイ個体群も、本亜種とされることも多いが、ここではクンチャンマイマイを
辺戸石山周辺の個体群に限定して取り扱った。
原
参
執
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1903. Nortice of new Japanese shells. Nautilus, 17 : 44―46.
考 文 献: 知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I).沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
湊 宏,1995.古宇利島の陸産貝類.ちりぼたん,26
(2)
:44―48.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
リュウキュウヒダリマキマイマイ
有肺目 ナンバンマイマイ科
Satsuma(Satsuma)perversa(Pilsbry, 1931)
なし
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は左巻きで、中型(殻径約28mm)で、殻高はやや高く(約2
0mm)、螺塔もやや高く、やや厚
質。体層周縁は丸く、この部分に色帯を持ち、その上下に色帯を持たない。殻は淡黄色。臍孔は狭い
が明瞭に開く。
近似種との区別: 本種は、琉球列島の同亜属の種とは、左巻き、厚質、螺塔がやや高く、体層周辺に細い色帯のみを持
つことによって識別できる。
分 布 の 概 要: 久米島からのみ知られている。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 琉球列島における左巻きの本亜属の種は、八重山諸島にクロイワヒダリマキマイ
マイ、尖閣列島にタダマイマイ、久米島に本種が分布する。
生 態 的 特 徴: 林床の倒木下や落葉下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林に生息する。
個 体 数 の 動 向: 各地で減少している。
現在の生息状況: 両島で、森林の残っている場所に生息しているが、各種の開発により生息域は、改変・分断されてい
る。
学術的意義・ 評 価: 久米島のみの固有種である。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
381
貝類
特
記
原
参
記
載: Pilsbry, H. A., 1931. Japanese land mollusks. Nautilus, 45 : 29―30.
考 文 献: 波部忠重,1955.日本産陸産貝類の解剖学的研究(3).Venus,18
(4)
:221―234.
知念盛俊,1
976.陸産貝類.In 生態写真集 沖縄の生物,新星図書,沖縄,212―243.
品川和久,1978.沖縄県久米島における陸貝採集記録.かいなかま,12
(2)
:4―14.
東 正雄・東 良雄・平田義浩,1992.久米島の陸産貝類相.Venus,50
(4)
:264―269.
筆 者 名: 黒住耐二
執
事
和
分
学
カ テ ゴ リ
項: 特になし。
名:
類:
名:
ー:
カドマルウロコケマイマイ
有肺目 オナジマイマイ科
Aegista lepidophora scutifera(Pilsbry & Hirase, 1908)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 貝殻は小型(殻径約7.
5mm)で、殻高は低く(約4mm)、低い円錐形、螺塔は低く、やや薄質。体層
周縁の角は不明瞭。殻皮は明茶褐色で、剥がれやすいやや密な三角状突起を持つが弱い。殻口はやや
弱く肥厚し、反転する。臍孔は広く開き、その縁は角立たない。
近似種との区別: 本種は、名義タイプ亜種のウロコケマイマイとは、周辺の角が不明瞭であること、三角状突起が密で
弱いことによって識別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄島を除く久米島・慶良間諸島等の島嶼に分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 名義タイプ亜種のウロコケマイマイは沖縄島に、マメヒロベソマイマイは奄美諸
島に分布する。
生 態 的 特 徴: 林床の倒木下や落葉下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林の林縁に生息する。
個 体 数 の 動 向: 生息地が開発によりせばめられ、着実に減少している。
現在の生息状況: 各地で生息地の消滅・改変等で個体数が減少している。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1908. New land and fresh―water Mollusca of the Japanese Empire. Proc. Acad.
Nat. Sci. Phila., 60 : 31―36.
参 考 文 献: Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
品川和久,1978.沖縄県久米島における陸貝採集記録.かいなかま,12
(2)
:4―14.
知念盛俊,1978.阿嘉・慶留間・屋嘉比島の陸・淡水貝類.“沖縄県天然記念物調査シリーズ ケラマ
ジカ実態調査報告 III”,沖縄県教育委員会,沖縄,(12)
:163―170.
黒住耐二,1981.慶良間列島座間味村の陸産貝類相.沖縄生物学会誌,(19)
:47―51.
執 筆 者 名 : 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
ー:
イトマンマイマイ(イトマンケマイマイ)
有肺目 オナジマイマイ科
Aegista scepasma(Reeve, 1854)
絶滅危惧 類(VU)
類(VU)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
態: 貝殻は中型(殻径約2
3mm)で、殻高は低く(約12mm)、ソロバン玉形、螺塔は低く、螺層はやや膨
らみ、厚質。体層周縁の角は明瞭だが竜角として突出しない。殻皮は濃褐色で、細かい三角状突起を
密に持つ。殻口は強く肥厚し、反転する。臍孔はやや狭く、その縁は角立たない。
近似種との区別: 本種は、周縁角が明瞭なこと、厚質なこと、殻表に三角状突起を密に持つことで、琉球列島の同属の
382
貝類
種から識別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄島を含む沖縄諸島の島嶼に分布する。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 周縁に角のないマルテンスオオベソマイマイA.squarrosaとその亜種やオオシマ
フリーデルマイマイA.friedeliana vestitaは奄美諸島に、三角状突起を持たないヘリトリケマイマイは
沖縄島北部の石灰岩地にのみ分布する。
生 態 的 特 徴: 林床の倒木下や落葉下に生息する地上性種である。
生 息 地 の 条 件: やや自然度の高い森林の林床に生息する地上性種である。
個 体 数 の 動 向: 沖縄島南部を中心に生息地の環境が悪化し、減少が著しい。
現在の生息状況: 本来は沖縄島の広範囲な森林に分布していたと考えられるが、現在では沖縄島南部の石灰岩地域での
生貝の確認地点は散在的であり、沖縄島北部のシイ林でも確認地点は面的な広がりを持たない。
生存に対する 脅 威: 森林の伐採等による生息環境の変化。
特 記 事 項: 特になし。
原
参
記
考
文
載: Reeve, L. A., 1854. Conch. Icon., vol. 7, Helix, no. 1293.
献: 波部忠重,1
955.日本産陸産貝類の解剖学的研究(3).Venus,18
(4)
:2
21―234.
知念盛俊・治井正一,1
976.伊平屋島・伊是名島の陸・淡水貝類(予報)
.沖縄生物教育研究会誌,
(9)
:37―43.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
上門清春,1
991.古宇利島の倍脚類と陸産貝類について. 沖縄県立博物館総合調査報告書,古宇利
島 ,VIII:7―14.
知念盛俊,1989.佐敷町産陸棲貝類.“佐敷町史 三 自然”,佐敷町役場,沖縄,324―334.
名: 黒住耐二
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
イシワリマクラ
イガイ目 イガイ科
Modiolus vagina(Lamarck, 1819)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長9cm内外、長方形の二枚貝。殻は薄く壊れやすい。光沢のある褐色の殻皮を被る。殻の内面は銀
白色。
分 布 の 概 要: 奄美大島を北限とし、熱帯西太平洋域に分布域を持つ。琉球列島における分布域は、奄美大島と沖縄
島の内湾域に不連続に形成される。
生 態 的 特 徴: イシワリマクラは、干潟低潮帯の粗砂泥底に30cm以上深く潜って生息している。干潮時に干潟表面か
ら黄色い水管を出しているのが観察される。水管が引っ込んだ跡に干潟表面に8の字型の水管孔を残
す。
生 息 地 の 条 件: イシワリマクラの生息地の条件は、しまりのある粗砂泥底環境の維持である。こうした場所が、赤土
堆積により不安定な底質になると生息できなくなる。
現在の生息状況: イシワリマクラは、羽地内海屋我地島南岸のみから生息が確認されている。約3haの範囲に生息密度約
4個体/m2でパッチ状に個体群を形成している。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のイシワリマクラは、隔離個体群として生物地理学的に重要である。イシワリマクラは、特異
的で多様性の高い羽地内海の干潟貝類相を特徴付ける種の一つである。
生存に対する 脅 威: イシワリマクラの生息域は、赤土流入の影響が低潮帯域に顕著に現れ始めた1
998年以降、明らかに狭
められ、個体数が減少している。今後も干潟への赤土流出が続いていく限り、イシワリマクラの絶滅
リスクは増加すると考えられる。
参
考
文
執
筆
者
献: 黒住耐二,20
00.イガイ科.“日本近海産貝類図鑑”,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,862―877.
名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
名: 名和 純
383
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヒナノヒオウギの一種
二枚貝綱 翼形目 イタヤガイ科
Mimachlamys cf. asperulata(Adams & Reeve, 1850)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型でやや薄く、縦に長い扇形、殻表に23本内外の放射肋をもち、殻色は赤褐色の地に
細かい雲状斑を散在させる。前耳は後耳より遙かに大きい。殻長20∼30mm。
近似種との区別: 瀬戸内海や伊勢湾などに生息するヒナノヒオウギと近縁であるが、肋の形態が異なり、数が多い。
分 布 の 概 要: 沖縄島羽地内海の低潮線付近。
生 態 的 特 徴: 岩礫に足糸で付着して生息し、プランクトンを摂食すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: 羽地内海の潮通しの良い干潟の前縁に接する岩礫帯にのみ生息する。
現在の生息状況: 本種は国内で、今までのところ、沖縄島北部の羽地内海のみで生貝が発見されており、生息環境も局
所的で、個体数も少ない。なお、死殻は金武湾でも確認されている。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。また、近縁種が日本本土の内湾域に生息する種で、温帯的要素と熱帯要素が混在する羽地内海
の貴重な貝類相の一つである。分類学的にも不詳であり、特に地理的に特異な分布を有することも考
慮すれば、生物学的意義はきわめて重要である。
生存に対する 脅 威: 羽地内海における海浜埋め立てによる干潟浄化力の低下や陸土流出等に伴う生息地の環境悪化。
原
記
参 考 文
執
筆
載: Adams & Reeve, 1850. Mollusca. Zool. Voy ., H. M. S. Samarang, 1843―1846, 1848―1850, 87pp. pls. 24.
献: 速水 格,2000.イタヤガイ科.
“日本近海産貝類図鑑”
,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,8
97―
911.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ハボウキガイ
ウグイスガイ目 ハボウキガイ科
Pinna bicolor Gmelin, 1791
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 長三角形の大型(殻長最大30cm)二枚貝。殻はやや薄質で壊れやすい。
分 布 の 概 要: インド−太平洋域に地理分布を持つ。日本国内では、房総・能登半島∼九州の内湾、奄美大島、沖縄
島に分布する。
生 態 的 特 徴: 内湾干潟の低潮帯から潮下帯にかけての粗砂泥底に突き刺さるようにして生息している。殻頂近くか
ら足糸の束を出して、小石や砂利に付着して体を支えている。中城湾および金武湾では、海草藻場帯
を生息場所としている。
生 息 地 の 条 件: ハボウキガイの生息地の条件は、しまりのある粗砂泥底環境の維持である。中城湾泡瀬干潟では、海
草の地下茎が密に絡み合った安定した粗砂泥底にハボウキガイが多くみられる。
現在の生息状況: ハボウキガイは、琉球列島においては奄美大島と沖縄島のいくつかの内湾域に限って、不連続な分布
を示す。沖縄県内における生息地は、羽地内海(我部井∼呉我、屋我地島南岸)
、金武湾海中道路周
辺、中城湾(泡瀬干潟、久場崎)の5ヶ所となっている。このうち、まとまった個体数の見られるのは
泡瀬干潟と屋我地島南岸の2箇所である。泡瀬干潟におけるハボウキガイの生息範囲は約10ha、個体数
密度は約4個体/m2で、沖縄最大の生息地である。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のハボウキガイは、隔離個体群として生物地理学的に重要である。また、ハボウキガイは、内
湾域の安定した海草藻場に特徴的に生息していることから、海草藻場の歴史性や自然度の高さを評価
するための指標種として有効と思われる。
生存に対する 脅 威: ハボウキガイの最大の生息地である泡瀬干潟では、生息域において埋め立て工事が行われている。ま
た、潮干狩り人が未成貝まで根こそぎ乱獲して行くケースも目立ち、泡瀬干潟のハボウキガイは急速
に減少しつつある。金武湾海中道路周辺のハボウキガイは、養浜工事にともない減少した。羽地内海
沿岸のハボウキガイは、赤土流入の影響が低潮帯域に顕著に現れ始めた1
998年以降に激減し、これに
乱獲が追い討ちをかけている。このように沖縄県(沖縄島)のハボウキガイ個体群は、すべての生息
地において急激に衰退しつつある。
384
貝類
特
記
事
項: ハボウキガイのレッドデータブック評価
WWF Japan サイエンスレポート: 危険(危急種)
熊本県の保護上重要な野生生物リスト: 絶滅危惧 類
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 熊本県希少野生動植物検討委員会,2004.熊本県の保護上重要な野生生物リスト レッドリストくまも
と2004.熊本県環境生活部自然保護課.
名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・西川輝昭・五島聖冶・鈴木孝男・加藤
真・島村賢正・福田 宏,1
996.日本の干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状.WWF Japan
Science Report, Vol.3.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
ユキミノガイ(オオユキミノ)
ミノガイ目 ミノガイ科
Limaria basilanica(Adams & Reeve, 1850)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻高約4cmの卵形の二枚貝。殻頂両側に耳状部がある。殻表は35本内外の放射肋に覆われる。外套膜
縁に多数の長い触手が発達する。
分 布 の 概 要: 房総半島∼九州、奄美大島、沖縄島、宮古島、石垣島、西表島、熱帯西太平洋域に分布。
生 態 的 特 徴: 内湾域を中心に生息域を形成し、海草藻場に多い。死サンゴ塊の下に足糸とサンゴ礫とを束ねたトン
ネル状の巣をつくる(久保・黒住,1995)。殻を開閉させて泳ぎ回る。
生 息 地 の 条 件: 赤土などの土砂流入により転石のすきまが埋もれると生息できなくなる。
現在の生息状況: 沖縄県内において1
998年から2
003年にかけてユキミノガイの生息が確認された地点は、大浦湾、久
志、羽地内海饒平名、泡瀬干潟、宮古島与那覇湾久貝、石垣島名蔵湾、西表島ゲータ川河口沖。この
うち饒平名と泡瀬干潟では、比較的普通に見出されるが、他の地域では稀。
学術的意義・ 評 価: ユキミノガイの多数生息する泡瀬干潟や羽地内海は、琉球列島において最も貝類の種多様性が高い内
湾域である。本種は、海草藻場や内湾域の自然度(健全さ)を判定するための指標となり得る。
生存に対する 脅 威: ユキミノガイの最大の生息地である泡瀬干潟では、生息域の大半が埋め立て予定区域となっている。
羽地内海沿岸の生息域は、赤土堆積により明らかに狭められつつある。沖縄県のユキミノガイは、個
体群サイズの大きい泡瀬干潟や羽地内海沿岸において危機的状況であり、ほとんどの生息地において
生息条件が明らかに悪化しつつある。
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
オオツヤウロコガイ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ウロコガイ科
Ephippodonta gigas Kubo, 1996
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態:
近似種との区別:
分 布 の 概 要:
生 態 的 特 徴:
殻は本科中、大型で薄く、幅広く扁平な扇型、殻表は平滑で光沢があり、純白色。最大殻長20mm。
近似種は多いが、本種は大型で彫刻がなく、他種と区別される。
沖縄本島、石垣島。
泥岩や泥質干潟の埋もれ石下にすむが、アナジャコ類等の巣穴で見られることが多く、他動物と共生
する生態をもつ可能性がある。
生 息 地 の 条 件: 泥礫干潟の石の下。
現在の生息状況: 本種の模式産地(豊見城市与根干潟等)は埋め立てにより絶滅した。現在、糸満市の一部と羽地内
385
貝類
海、石垣島の限られた場所で生息が認めらている。しかし、いずれの産地とも流出陸土の沈積による
石下の目詰まりや富栄養化によるアナアオサの腐敗などにより、底質環境が還元化し、個体数は著し
く減少している。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。近年、沖縄から新種記載された新しい種であり、国外からは記録が無く、生物地理学的に重要
である。なお、ウロコガイ科は干潟の様々な環境の石の下等に他生物と共生して、適応放散してお
り、進化学的重要性があるが、その研究はほとんど手つかずの状態である。
生存に対する 脅 威: 埋め立てによる生息場所の消失、赤土等陸由来の微粒子沈積による環境悪化等。
原
記
参 考 文
執 筆 者
載: Kubo, 1996. Ephippodonta gigas n. sp. from Okinawa Island, Southwestern Japan. Venus, 55(1) : 1―5.
献: 同上
名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
カブラツキガイ
マルスダレガイ目 ツキガイ科
Anodontia edentula(Linnaeus, 1758)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約3cmの円形の二枚貝。殻質は薄くて膨らみが強い。
分 布 の 概 要: 琉球列島から東南アジアにかけて地理分布を形成する。琉球列島では、奄美大島、沖縄島、伊良部
島、宮古島、多良間島、石垣島、西表島に分布する。
生 息 地 の 条 件: カブラツキガイは、礁池に成立した干潟の低潮帯∼潮下帯のサンゴ礫砂底、サンゴ砂底、海草藻場粗
砂泥底に深く潜入して生息している。赤土などの土砂流入により底質が還元化すると死滅する。
現在の生息状況: 1
998年∼2003年にかけての調査により沖縄県内19ヶ所からカブラツキガイの生息が確認された。この
うち屋嘉田潟原、泡瀬干潟、大嶺(那覇市)の3ヶ所では、海草藻場帯の広い範囲(5∼10ha)にまと
まった個体数(約1
0個体/m2)が見られるが、他の地点での個体数密度はきわめて低い(1個体以下
/m2)。
学術的意義・ 評 価: カブラツキガイは、海草藻場における生態的指標種として有効性が高い。
生存に対する 脅 威: カブラツキガイの最大の生息地である泡瀬干潟では、生息域の大半が埋め立て予定区域となってお
り、すでに埋め立て工事の影響による大量死滅が水間・山下(2
002)によって報告されている。屋嘉
田潟原では、赤土堆積による底質環境の悪化とともに、カブラツキガイの生息域が年々狭められつつ
ある。大嶺の生息域は、埋め立てが計画されている。久志∼古知屋潟原のカブラツキガイは、赤土堆
積により死滅した多量の死殻ばかりで生貝はみられなくなっている。沖縄県のカブラツキガイは、す
べての生息地において、土砂流入や埋め立てによる海草藻場の衰退とともに生息条件が明らかに悪化
しつつある。
特 記 事 項: カブラツキガイのレッドデータブック評価
WWF Japan サイエンスレポート: 危険(危急種)
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
386
献: 水間八重・山下博由,2
002.泡瀬干潟における機械による大規模な海草移植実験の現状について −主
に海草場に生息する貝類に注目して−.九州の貝,59.
和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島 哲・山西良平・西川輝昭・五島聖冶・鈴木孝男・加藤
真・島村賢正・福田 宏,1996.日本の干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状.WWF Japan
Science Report, Vol.3.
名: 名和 純
名: カゴガイ
類: マルスダレガイ目 カゴガイ科
名: Fimbria soverbii(Reeve, 1841)
貝類
類(VU)
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約9cmの楕円形の二枚貝。殻は厚質、殻表に同心円肋がある。
分 布 の 概 要: 熱帯西太平洋に地理分布を形成する。琉球列島では、奄美大島、沖縄島、宮古島、石垣島に分布。
生 息 地 の 条 件: カゴガイは、礁池の海草藻場砂底とリーフ外の砂底を生息環境としている。潮間帯域では、泡瀬干潟
のような大規模かつ安定した海草藻場でしか見出されない。
現在の生息状況: 1995年から2004年にかけて沖縄県内においてカゴガイの生息が確認された地点は、沖縄市泡瀬干潟、
那覇市大嶺、那覇市チービシ沖、宮古島久松、石垣島名蔵湾の5地点であるが、リーフ外における生息
状況は不明。泡瀬干潟では、低潮帯∼潮下帯の海草藻場で毎回1、2個体が見出されるが、その他の地
域での産出は稀である。
学術的意義・ 評 価: カゴガイの生息する泡瀬干潟などの海草藻場は、琉球列島において最も貝類の種多様性が高い海草藻
場である。そのため、本種は、海草藻場の種多様性の豊かさと健全さを判定するための指標となり得
る。
生存に対する 脅 威: カゴガイの最大の生息地である泡瀬干潟では、生息域の全域が埋め立て予定区域となっている。大嶺
の生息域は、埋め立てが計画されている。チービシ沖では、海岸埋め立て工事用の海砂採取によりカ
ゴガイ生息域が破壊され続けている。このように、沖縄県におけるカゴガイの生息条件は、大部分の
生息地で急激に悪化しつつある。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
献: 松隈明彦,2
000.カゴガイ科.
“日本近海産貝類図鑑”
,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,9
30,
933.
名: 名和 純
名:
類:
名:
名:
ー:
カワラガイ
マルスダレガイ目 ザルガイ科
Fragum unedo(Linnaeus, 1758)
マースクェー(恩納村屋嘉田)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻高6cm内外の箱型の二枚貝。淡黄白色の地に3
0本内外の放射肋を備える。肋上には、赤い結節があ
り、赤瓦屋根のように見える。外套膜に褐虫藻を共生させている。
分 布 の 概 要: 熱帯インド・西太平洋域に地理分布を形成する。琉球列島では、奄美大島、加計呂麻島、徳之島、沖
縄島、座間味島、宮古島、伊良部島、多良間島、石垣島、西表島に分布する。
生 息 地 の 条 件: カワラガイは、礁池干潟のサンゴ礫砂∼サンゴ砂底を生息場所とし、海草藻場に多くみられる。赤土
などの土砂流入や埋め立てによる海草藻場の分断は、個体群の衰退や消滅を招く。
現在の生息状況: 1998年∼2003年にかけての調査により沖縄県内1
4ヶ所からカワラガイの生息が確認された。このう
ち、まとまった個体数が見出されたのは、泡瀬干潟と恩納村屋嘉田潟原の2ヶ所であり、その他の地点
では稀に見出される程度。
学術的意義・ 評 価: カワラガイの個体群は、埋め立てなどにより分断化されていない健全な礁池干潟で維持されている。
したがって本種は、礁池干潟とそこに成立する海草藻場の自然度を評価する指標種として有効であ
る。
生存に対する 脅 威: 泡瀬干潟の海草藻場には、カワラガイの琉球列島最大の個体群が維持されているが、生息域で埋め立
て工事が行われている。また、すべての生息地において赤土などの土砂流入に伴う底質の変化、海草
藻場の衰退とともに生息域が急激に狭められつつある。
執
和
分
筆
者
名: 名和
純
名: リュウキュウアリソガイ
類: マルスダレガイ目 バカガイ科
387
貝類
学
名: Mactra grandis(Gmelin, 1791)
方
言
名: タンパラミナー(名護市呉我)
カ テ ゴ リ ー: 絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長7∼10cmの亜三角形の二枚貝。殻頂部は紫彩される。
分 布 の 概 要: 沖縄島を分布北限とし、フィリピン、インドネシア、北オーストラリアに分布域がある。琉球列島に
おいては、沖縄島、石垣島、西表島の内湾域に不連続に分布する。
生 息 地 の 条 件: リュウキュウアリソガイは、内湾域の低潮帯砂底∼粗砂底を生息場所とし、海草藻場からも見出され
る。赤土流入による濁りや底質環境の変化に弱い。
現在の生息状況: 1990年∼2003年にかけての調査により沖縄県内13ヵ所からリュウキュウアリソガイの生息が確認され
た。このうち、まとまった個体数が確認されたのは、饒平名(羽地内海)、泡瀬干潟、与那原海岸、佐
敷干潟、石垣島名蔵、西表島仲良川河口の6ヶ所。
学術的意義・ 評 価: リュウキュウアリソガイは、琉球列島において内湾域に不連続かつ局所的に個体群を形成することか
ら、生物地理学的に注目すべき種である。また、沖縄島の個体群は、地理分布の北限として重要であ
る。
生存に対する 脅 威: 与那原海岸のリュウキュウアリソガイ個体群は、埋め立てにより1
998年までに消滅した。泡瀬干潟の
生息域では、埋め立て工事が行われている。佐敷干潟では、1
990年頃まで多産していたが、1
998年以
降ほとんど見られなくなった。饒平名では、食用として多量に採捕されていたが、赤土流入の影響が
低潮帯域に顕著に現れ始めた1998年以降、稀にしか見出されなくなっている。名蔵と仲良川河口は、
赤土流入により生息条件が悪化している。このように、リュウキュウアリソガイの生息条件は、大部
分の生息地で明らかに悪化しつつある。特に沖縄島では、個体群サイズが急激に縮小している。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
カモジガイ
マルスダレガイ目 バカガイ科
Lutraria arcuata Reeve, 1854
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約9cm、横長の楕円形。殻頂は前方に寄る。後背縁は反り、殻の後端は両殻の間が広く開く。後
端は、褐色の殻皮を被る。
分 布 の 概 要: 房総半島以南に分布するとれているが、琉球列島においては、沖縄島、石垣島、西表島の内湾域に分
布が局限される。
生 息 地 の 条 件: カモジガイは、内湾や河口水路の低潮帯∼潮下帯にかけての粗砂底∼礫砂底を生息場所とする。赤土
堆積により底質環境の変化した場所では、死殻を残して死滅している。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるカモジガイの生息地は、沖縄島羽地内海沿岸および石垣島名蔵湾周辺、西表島仲間
川河口、船浦の4地域。このうち名蔵湾周辺と仲間川河口では、近年は古い死殻しか見出されない。
学術的意義・ 評 価: カモジガイの生息する規模の大きい河口水路は、琉球列島では非常に限られた生物生息環境である。
カモジガイは、沖縄の海岸自然環境の多様性を理解するうえで重要な指標種である。また、沖縄島と
石垣・西表島のカモジガイ個体群は、それぞれ隔離個体群として生物地理学的に重要な研究対象であ
る。
生存に対する 脅 威: 羽地内海のカモジガイの生息域は、1990年代後半から赤土の堆積が著しく、明らかに生息域が狭めら
れつつある。名蔵湾と仲間川の生息域では、全域に赤土が堆積している。船浦では生息域が航路とし
て使用されているため、航路浚渫が行われた場合、個体群が消滅する危険性もある。沖縄県における
カモジガイの生息条件は、すべての生息地において明らかに悪化しつつある。
特 記 事 項: 羽地内海屋我地と我部井では、カモジガイが食用として採捕されている。
執
388
筆
者
名: 名和
純
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
キュウシュウナミノコガイ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 フジノハナガイ科
Tentidonax kiusiuensis(Pilsbly, 1901)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型で、比較的薄質、後方に延びた亜三角形、殻表はやや光沢があり、透明感のある白
色で、殻頂部が青みを帯びる。後背縁の成長輪肋は明瞭であるが、他は平滑である。殻長8mm以下。
近似種との区別: 同科に近似種はない。
分 布 の 概 要: 沖縄県中北部東岸。
生 態 的 特 徴: ろ過食性で、潮汐周期と関連した生態をもつと考えられる。
生 息 地 の 条 件: 沖縄全域のやや開放的な砂底の汀線直下に生息する。
現在の生息状況: 北海道南部以南の日本本土から台湾に分布する種であるが、生息場所が各地域で局限される。沖縄で
はかつては金武湾や中城湾の限られた砂底域に生息していたと考えられるが、現在は名護市東海岸の
限られた河口に生息地が知られるのみである。当海域では河川改修などによる陸域からの赤土、汚水
の流入で、生息個体数が減少している。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されており、絶滅危惧 類の定量的要件のDに該当
する。日本本土から台湾の砂底に生息し、生物地理学的に重要であり、渚線直下に限られた垂直分布
をすることから、生態学的にも重要と考えられる。
生存に対する 脅 威: 沿岸の埋め立て、砂質域の底質悪化。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Pilsbry, 1901. New mollusca from Japan, the Loo―Choo Islands, Formosa and the Philippines. Proc. Acad.
Nat. Sci. Phila., 53 : 193―210.
献: 波部忠重,1961.続原色日本貝類図鑑.保育社,大阪,182pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
トンガリベニガイ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Pharaonella pharaonis(Hanley, 1844)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長5.
5cmの細長い楕円形の二枚貝。殻はエンジ、ピンク、レモンイエローなど色彩変異に富む。後
端は吻状に伸びて捩れる。
近似種との区別: 近縁種のPharaonella pernaダイミョウガイは、トンガリベニガイよりも大型で、吻状部が短く、光沢
が鈍いことで区別できる。
分 布 の 概 要: トンガリベニガイはオーストラリア北東岸までの熱帯西太平洋域に地理分布を形成し、琉球列島はそ
の北限に当たる。琉球列島における分布は非常に局所的で、奄美大島と沖縄島の数ヶ所から記録され
ているにすぎない。
生 態 的 特 徴: トンガリベニガイは、内湾域低潮帯∼潮下帯において、粒径の均一に淘汰されたしまりのある砂底域
に殻をやや斜めにして潜っている。
生 息 地 の 条 件: トンガリベニガイの生息する砂底域は、内湾域全体における環境傾度の推移の上に成り立っている安
定した環境である。赤土堆積や航路浚渫などによる直接的な底質の撹乱はもちろん、内湾や干潟の埋
め立てによる周辺環境からの分断も生息条件を悪化させる。
現在の生息状況: 沖縄島において1993年から2003年にかけてトンガリベニガイの生息が確認された地点は、大浦湾、泡
瀬干潟、名護湾許田(久保弘文氏私信)の3ヶ所となっている。また、金武湾の浚渫泥からも新しい死
殻が得られている。このうち、大浦湾では、安定的に個体群が形成されている。
学術的意義・ 評 価: トンガリベニガイの生息環境である内湾細砂底域は、サンゴ礁の卓越する沖縄においては極めて限ら
れた環境である。そのため、本種は、沖縄の海岸環境の多様性や種多様性の豊かさを評価するための
指標となり得る。
生存に対する 脅 威: 赤土堆積、埋め立て事業、浚渫。トンガリベニガイのすべての生息地において、赤土等の土砂堆積に
より生息環境が悪化しつつある。唯一のまとまった個体群の維持されている大浦湾では、湾を縦断す
るバイパス橋梁の建設や赤土の流入により、急激に生息範囲が狭められている。泡瀬干潟の生息域で
389
貝類
は、埋め立て工事が行われている。このように、沖縄島のトンガリベニガイ個体群は、極めて危機的
な状況に追い込まれている。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ホシヤマナミノコザラ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Cadella hoshiyamai Kuroda, 1960
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長1cm程度の丸みのある三角形型の二枚貝。殻頂は後方に寄り、殻表には細かい成長肋脈が刻まれ
る。
分 布 の 概 要: 奄美大島、徳之島、沖縄島、西表島に分布する。
生 態 的 特 徴: 低潮線以下の良く淘汰された清澄な細砂底にのみ生息する。
生 息 地 の 条 件: 砕波や沿岸流の作用によって常に淘汰されている粒径の均質な細砂底環境の維持が生息地の条件であ
る。したがって、近隣の埋め立てによる遮蔽化(水域の停滞)や土砂流入による底質環境の変化は、
個体群の消滅をもたらす。
現在の生息状況: ホシヤマナミノコザラは、沖縄県内ではごく限られた地点でのみ生息が確認されている。1
990年以降
に記録された地点は、大浦湾二見、中城湾与那原浜、中城湾佐敷干潟、西表島トゥドゥマリ浜(月が
浜)の4ヶ所となっている。このうち、与那原浜では、埋め立ての影響により1999年までに消滅した。
佐敷干潟では、1999年まで1ha未満の範囲に1m2あたり8∼10個体程度見られたが、2002年から生息が確
認できなくなった。西表島トゥドゥマリ浜でも生息範囲は狭く、個体数も少ない。大浦湾では、2
002
年に1個体のみ採集された。
学術的意義・ 評 価: ホシヤマナミノコザラが生息する細砂底環境は、沖縄県では非常に限られた生物生息環境である。ホ
シヤマナミノコザラは、沖縄の海岸自然環境の多様性を理解するうえで重要な指標種である。
生存に対する 脅 威: 与那原浜では、生息域の沖合いに出島方式埋め立て地が造成され、ホシヤマナミノコザラは個体群ご
と消滅した。佐敷干潟の生息域は、埋め立て予定区域となっている。また、土砂流入の激化で底質環
境が細砂底から礫混じり泥砂底に変化してから生息がほとんど確認できていない。西表島トゥドゥマ
リ浜では、生息域の後背地で進行しているリゾート開発の影響が懸念される。このように沖縄県内の
ホシヤマナミノコザラは、存続困難な状況に追い込まれつつある。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
献: 松隈明彦,2000.ニッコウガイ科.“日本近海産貝類図鑑”,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,970
―983.
肥後俊一・後藤芳央,1993.日本及び周辺地域産軟体動物総目録.エル貝類出版局.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
ダイミョウガイ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Pharaonella perna(Spengler, 1798)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻長約7cmの長楕円形の二枚貝。殻は薄質。後端は、吻状に伸びて右にねじれる。白、黄、ピンク色
など。
分 布 の 概 要: 奄美大島、沖縄島、座間味島、伊良部島、石垣島、西表島、オーストラリア北東岸までの熱帯域に分
布。
生 息 地 の 条 件: ダイミョウガイは、底質の安定した大規模な海草藻場の粗砂泥底に深く潜って生息している。した
がって、本種の生息地の条件は、安定的で大規模な海草藻場環境。
現在の生息状況: 1998年∼2003年にかけての調査により沖縄県内13ヵ所からダイミョウガイの生息が確認された。この
390
貝類
うち、まとまった個体数の見られた生息地は、饒平名(羽地内海)と泡瀬干潟の2箇所。この2箇所以
外の産地では、稀にしか見出されない。
学術的意義・ 評 価: ダイミョウガイは、安定した海草藻場にのみ見出されるため、海草藻場の自然度を評価するための指
標となる。
生存に対する 脅 威: ダイミョウガイの最大の生息地である泡瀬干潟では、生息域の全域が埋め立て予定区域となっている
(現在施工中)。大嶺の生息域は、埋め立てが計画されている。大浦湾(名護市)の生息地は、橋梁工
事による工事砂流出の影響を受けている。饒平名など多くの生息域では、赤土などの土砂流入による
底質環境の悪化が著しい。このように、沖縄県のダイミョウガイの生息条件は、大部分の生息地で急
激に悪化しつつある。
特 記 事 項: ダイミョウガイのレッドデータブック評価
熊本県の保護上重要な野生生物リスト: 絶滅危惧 A類
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 熊本県希少野生動植物検討委員会,2004.熊本県の保護上重要な野生生物リスト レッドリストくまも
と2004.熊本県環境生活部自然保護課.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
ヒノデガイ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Tellinella crucigera(Lamarck, 1818)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約4cm、長楕円形。後端は、吻状に伸びてねじれる。殻形はダイミョウガイに似るが、殻表は細
い輪脈に覆われ、鈍い光沢がある。褐色の放射彩がある。
分 布 の 概 要: 熱帯西太平洋に地理分布を形成する。琉球列島では、奄美大島、沖縄島、宮古島、西表島に分布。
生 息 地 の 条 件: 低潮帯∼潮下帯の淘汰の良い砂底を生息場所とする。
現在の生息状況: 沖縄島では、屋嘉田地先など恩納村沿岸に生息域がある。宮古島では島尻地先、西表島では星立地先
に生息域がある。いずれの生息地でも個体数は少ない。
学術的意義・ 評 価: ヒノデガイは、撹乱のない安定した砂底域を生息場所とする稀少種なため、自然度を評価するための
指標となる。
生存に対する 脅 威: 屋嘉田地先の生息域では、恒常的な赤土汚染にさらされている。星立の生息域では、2
003年から行わ
れている養浜にともなう養浜砂の流出により、生息域が狭められている。沖縄県におけるヒノデガイ
の生息条件は、悪化の一途をたどっている。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
アマサギガイ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Macalia bruguieri Hanley, 1844
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約4cmの卵円形の二枚貝。殻はやや厚質で白色。
分 布 の 概 要: 奄美大島、沖縄島、南中国海沿岸。
生 息 地 の 条 件: アマサギガイは、内湾湾口部中潮帯下部∼低潮帯上部の滲出水(陸水)のあるサンゴ礫砂底を生息場
所としている。したがって、本種の生息地の条件は、水脈と安定したサンゴ礫砂底環境の維持。
現在の生息状況: 1993年∼2003年にかけての調査により沖縄県内8ヶ所(羽地内海、中城湾、与根)からアマサギガイの
生息が確認された。いずれの生息地でも、生息範囲はわずか数十メートル程度と非常に狭く、個体群
サイズが小さい。
学術的意義・ 評 価: 琉球列島におけるアマサギガイの分布は、奄美大島笠利湾、沖縄島羽地内海、中城湾のごく狭い範囲
391
貝類
に局限される。したがって、本種は、隔離個体群として生物地理学的に注目すべき種である。また、
アマサギガイは、限られた特殊な環境を生息場所としていることから、沖縄島の海岸自然環境の多様
性を認識する上で重要な種である。
生存に対する 脅 威: 沖縄島における8ヶ所のアマサギガイ生息地のうち小那覇(西原町)
、与那原海岸、与根干潟(豊見城
市)の3ヶ所は、近年(1996年から1998年)の埋め立てにより消滅した。残された産地のうち、中城湾
浜(中城村)の生息域は人工ビーチ造成により破壊されつつあり、泡瀬干潟の生息域は、全域が埋め
立て予定区域となっている。また、羽地内海の生息地(饒平名、我部井)は、赤土堆積による底質環
境の悪化が著しい。このように、アマサギガイの沖縄島個体群は、絶滅リスクが急速に高まっている
と考えられる。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヘラサギガイ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Tellinides timorensis Lamarck, 1818
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約4cmの楕円形の二枚貝。殻質は薄く、扁平で白色。
分 布 の 概 要: ヘラサギガイは、中国大陸南岸、フィリピン、インドネシアなどの南中国海沿岸に地理分布を形成す
る。分布北限の琉球列島においては、沖縄島と西表島に不連続に分布する。
生 息 地 の 条 件: ヘラサギガイは、内湾干潟中潮帯の粒径の均一なしまりのある砂底を生息環境としている。こうした
安定した底質環境が赤土堆積などにより撹乱されると、ヘラサギガイは死滅する。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるヘラサギガイの生息確認地点(1990年∼2003年)は、沖縄島10地点、西表島3地点の
計13地点。このうちまとまった個体数の見られた4ヶ所のおおよその生息範囲と個体数密度は、以下の
5ha、最大1
6個体/m2)、羽地内
とおり。佐敷干潟(約10ha、最大36個体/m2)、羽地内海饒平名(約1
海呉我(約4ha、最大20個体/m2)、西表島船浦(約1ha、最大12個体)。
学術的意義・ 評 価: ヘラサギガイの生息環境となっている安定した内湾砂質干潟は、琉球列島では、非常に限られた自然
環境である。そのため、ヘラサギガイは、琉球列島の海岸自然環境の成立や多様性を認識する上で、
重要な指標となる。また、沖縄島のヘラサギガイは、地理分布の北限の隔離個体群としても重要であ
る。
生存に対する 脅 威: 佐敷干潟のヘラサギガイ生息域は、全域が埋め立て予定区域となっている。中城湾川田干潟は、ヘラ
サギガイの多産地の一つであったが、埋め立てにより1
994年までに消滅した。泡瀬干潟の生息域は、
埋め立て予定区域となっている。饒平名、呉我、古知屋潟原など沖縄島北部の生息地では、赤土堆積
による生息域の縮小が続いている。このように、ヘラサギガイの生息条件は、大部分の生息地で急激
な悪化傾向にある。そのため、沖縄県のヘラサギガイは、今後、絶滅リスクが増大すると考えられ
る。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
ヒラザクラ
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
形
態: 殻長約3.
5cmの楕円形の二枚貝。殻は薄くて平たく、真珠光沢のあるピンク色を呈し、放射色帯が現
れる。
392
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Tellinides ovalis(Sowerby, 1825)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
貝類
分 布 の 概 要: 房総半島から九州、奄美大島、沖縄島、宮古島、石垣島、西表島、南中国海沿岸、オーストラリア北
東岸に分布。
生 息 地 の 条 件: ヒラザクラは、干潟の低潮帯∼潮下帯の砂底∼細砂底を生息場所とし、海草藻場帯のウミヒルモの生
育する部位から見出されることが多い。そうした場所は、ダイミョウガイやミガキヒメザラなど何種
ものニッコウガイ科貝類が混生する安定した生物生息環境である。
現在の生息状況: ヒラザクラの沖縄県内における生息確認地点(1
998年∼2004年)は、羽地内海饒平名、屋嘉田潟原、
泡瀬干潟、宮古島大浦湾、石垣島新川、西表島仲良川河口の6地点となっている。このうち、仲良川河
口では、比較的普通に見られる(8個体/m2)が、その他の生息地では、稀にしか見出されない(1個
体以下/m2)。
学術的意義・ 評 価: ヒラザクラは、海草藻場における生物生息環境の多様性を認識する上で重要な種である。
生存に対する 脅 威: 饒平名干潟のヒラザクラは、赤土流入の影響が低潮帯域に顕著に現れ始めた1
998年以降、生貝が確認
できなくなっている。屋嘉田潟原と石垣島新川の生息域も赤土堆積による底質環境の悪化が著しい。
泡瀬干潟の生息域は埋め立て予定区域となっている。このように、沖縄県内のヒラザクラの生息条件
は、大部分の生息地で急激に悪化しつつある。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ヒラセザクラ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Clathrotellina carnicolor(Hanley, 1846)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約2cm、卵形。殻は薄く、赤みがかった淡黄色。殻頂部に放射斑がある。殻表は細い同心円脈と
放射脈が交わり布目状。
分 布 の 概 要: 琉球列島においては奄美大島、沖縄島、宮古島、西表島に分布。
生 息 地 の 条 件: 海草藻場(低潮帯∼潮下帯)の安定した(しまりのある)粗砂泥底、サンゴ礫まじり砂泥底を生息場
所とする。
現在の生息状況: 1998年∼2003年にかけての調査により沖縄県内8ヶ所からヒラセザクラの生息が確認された。このう
ち、泡瀬干潟では、まとまった個体数が確認されたが、他の地域では1∼数個体見出されたのみ。潮下
帯における生息状況は不明。
学術的意義・ 評 価: ヒラセザクラは、海草藻場における底質環境の健全さを示す指標種として有効。
生存に対する 脅 威: 個体群サイズの大きい泡瀬干潟では、生息域で埋め立て工事が行われている。佐敷干潟の生息域は埋
め立てが予定されている。また、すべての生息地において、赤土などの土砂堆積が著しい。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
なし
マルスダレガイ目 シオサザナミガイ科
Gari sp.
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長3cm内外、楕円形の二枚貝。殻は薄く、殻表は藤色、成長脈と斜交する多数の稜が刻まれる。内
面は、赤紫色。
分 布 の 概 要: 奄美大島、沖縄島、石垣島、西表島。
生 息 地 の 条 件: 内湾域低潮帯上部∼下部の粗砂泥∼礫まじり砂泥底を生息場所とし、ウミジグサの優占する海草藻場
帯から見出されることが多い。他の二枚貝類と同様、しまりのある底質に生息し、赤土などの堆積し
た不安定な場所には見られない。
現在の生息状況: 1998年∼2003年にかけての調査により沖縄県内10ヶ所からGari sp.の生息が確認された。このうち、羽
393
貝類
地内海饒平名と泡瀬干潟では、比較的普通に見出されたが、その他の地点での産出は稀(1∼数個
体)。いずれの生息地でも生息範囲は狭い。
学術的意義・ 評 価: Gari sp.は、琉球列島の内湾域において不連続かつ局所的な分布を示すことから、生物地理的に注目
すべき種である。また、内湾干潟低潮帯域における生物生息環境の健全さを示す指標となり得る。
生存に対する 脅 威: 饒平名では、赤土流入の影響が低潮帯域に顕著に現れ始めた1
998年以降、Gari sp.の生息範囲は明ら
かに狭められつつある。泡瀬干潟におけるGari sp.の生息域は、埋め立て予定区域となっている。佐
敷干潟の生息域には、埋め立て計画がある。また、すべての生息地において、赤土などの土砂流入に
よる底質環境の撹乱が進んでいる。沖縄県におけるGari sp.の生息条件は、既知のすべての生息地で
急激に悪化しつつある。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ホソズングリアゲマキ
マルスダレガイ目 キヌタアゲマキ科
Azorinus minutus(Dunker, 1861)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長3.
5cm、細長い楕円形の二枚貝。殻は白く薄質、黄褐色の殻皮を被り、後端が伸びる。
分 布 の 概 要: 本州南部(紀伊半島など)、琉球列島(奄美大島、加計呂麻島、沖縄島、西表島)
、オーストラリア北
西部に地理分布がある。
生 息 地 の 条 件: ホソズングリアゲマキは、内湾干潟低潮帯の粗砂泥底に深く潜って生息している。泡瀬干潟では海草
藻場帯に生息域がある。赤土堆積等によって底質環境の撹乱された部位には見られない。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるホソズングリアゲマキの生息確認地点(1
998年∼2003年)は、羽地内海饒平名、大
浦湾、泡瀬干潟、西表島仲良川河口の4地点となっている。生息密度は、饒平名:約1
0個体/m2、大
2
2
2
浦湾:1個体以下/m 、泡瀬干潟:1個体以下/m 、西表島仲良川河口:8個体/m 。生息範囲は、い
ずれの産地も5∼10ヘクタール程度と推定される。
学術的意義・ 評 価: ホソズングリアゲマキは、琉球列島において不連続かつ局所的な分布を呈しているため、生物地理的
に注目すべき種である。また、内湾干潟低潮帯域における生物生息環境の健全さを示す指標となり得
る。
生存に対する 脅 威: 饒平名では、赤土流入の影響が低潮帯域に顕著に現れ始めた1
998年以降、ホソズングリアゲマキの生
息範囲は狭められつつあり、明らかに個体数が減少している。泡瀬干潟では、ホソズングリアゲマキ
の生息域の大半が埋め立て予定区域となっている。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 吉良哲明,1
959.原色日本貝類図鑑.保育社.大阪,240pp.
Lamprell, K. and T. Whitehead., 1992. Bivalves of Australia Vol. 2. Backhuys Publishers.
名和 純,2
001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
リュウキュウマテガイ
マルスダレガイ目 マテガイ科
Solen sloanii Hanley, 1843
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長6cm、筒形の二枚貝。殻は直線的で殻の前後端が開く。白色の地に赤褐色斑を散らす。
分 布 の 概 要: 四国以南、熱帯西太平洋域に分布するとされているが、琉球列島においては沖縄島のみから見出され
ている。
生 息 地 の 条 件: 潮通しのよい大規模な海草藻場を生息場所とする。
394
貝類
現在の生息状況: 沖縄島恩納村沿岸と泡瀬干潟から見出されるが、産出は稀。泡瀬干潟では、夏季に海草藻場の表面に
とびだしている個体が見られる。
学術的意義・ 評 価: リュウキュウマテガイは、貝類の種多様性の高い安定した海草藻場を生息場所とする稀少種である。
したがって、海草藻場の自然度と生物多様性の高さを示す指標となる。
生存に対する 脅 威: 泡瀬干潟におけるリュウキュウマテガイの生息域では、埋め立て工事が行われている。恩納村沿岸で
は、赤土汚染による海草藻場の生物生息環境の劣化が進行している。沖縄県におけるリュウキュウマ
テガイの生息条件は、既知のすべての生息地で急激に悪化しつつある。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 松隈明彦,2
000.マテガイ科.“日本近海産貝類図鑑”
,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,9
90―
991.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
マメシジミ属の一種
マルスダレガイ目 マメシジミ科
Pisidium sp.
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長2∼4mm、丸みのある二枚貝。殻にはオキナワドブシジミのような光沢はなく、殻頂は前方に寄
る。
分 布 の 概 要: 伊平屋島、沖縄島、宮古島、石垣島、与那国島に分布する。
生 息 地 の 条 件: マメシジミ属の一種は、湧水湿地や河川渓流域の淵を生息場所とする。河床への赤土堆積や湧水水脈
の分断は、個体群の消滅を招く。
現在の生息状況: 1997年以降の調査でマメシジミ属の一種の生息が確認されたのは、伊平屋島1ヶ所、沖縄島6ヶ所、宮
古島1ヶ所、与那国島1ヶ所の計9ヶ所となっている。
学術的意義・ 評 価: 日本列島のマメシジミ類は2
0以上の種と亜種が記載されているが、琉球列島からは屋久島のPisidium
habeiハベマメシジミと宮古島のPisidium cavernicumホラアナマメシジミの2種が記載されているのみ
で、その他の地域の種は分類学的検討がなされていない。そのため、沖縄県内の「マメシジミ属の一
種」には複数の種が含まれている可能性があり、分類学的、生物地理学的に重要な研究対象である。
また、湧水域の環境指標種としても有効性が高い。
生存に対する 脅 威: 河川改修、水質の悪化、湧水の親水公園整備、赤土堆積など。
1
997年から1999年にかけて沖縄島で確認されていた6ヶ所の生息地のうち、すでに3ヶ所(恩納村屋嘉
田、浦添市安波茶湧水、那覇市山川湧水)が河川改修と湧水の枯渇により消滅している。このよう
に、沖縄県のマメシジミ属の一種は、水脈の分断とともに急速に生息域が狭められつつある。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 波部忠重,1
977.日本産軟体動物分類学.二枚貝綱/掘足綱.図鑑の北隆館.
名和 純,2000.沖縄県における干潟と低湿地の貝類の現状.
“特殊鳥類等生息環境調査XI(改訂
版) −沖縄県内の水辺環境に生息する生物種の概況―”.沖縄県文化環境部自然保護課.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
スリガハマ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Tapes platyptycha Pilsbry, 1901
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長6cm、楕円形。殻表は太い同心円肋に覆われる。不連続な放射色帯と網目模様がある。内面は橙
色を帯びる。
分 布 の 概 要: 相模湾∼中国大陸南岸に地理分布を形成するが、琉球列島における分布は加計呂間島と沖縄島の狭い
地域に限られる。
395
貝類
生 息 地 の 条 件: 内湾湾口部の中潮帯下部∼低潮帯上部礫砂底を生息場所としている。
現在の生息状況: 沖縄県におけるスリガハマの分布は、沖縄島羽地内海とその周辺に限られる。羽地内海では、屋我地
島南岸(饒平名)と呉我に生息域があるが、個体数密度は低い。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のスリガハマ個体群は、温帯域(本州)や中国大陸南岸から隔離された地域個体群として生物
地理学的に重要。
生存に対する 脅 威: スリガハマの生息域である羽地内海饒平名と呉我の中潮帯域では、赤土の堆積による底質環境の劣化
が著しい。また、両地域ともに護岸工事が進行している。スリガハマ沖縄個体群は、すべての生息地
で生息条件が急激に悪化しつつある。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 松隈明彦,2000.マルスダレガイ科.“日本近海産貝類図鑑”,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,
1002―1019.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
フジイロハマグリ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Callista erycina(Linnaeus, 1758)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約6cm、卵楕円形。殻頂は前方に寄る。殻表には光沢があり、太い成長輪肋に覆われる。放射彩
を持つ。内面後端は紫彩される。
分 布 の 概 要: 奄美以南に分布するとされているが、琉球列島における分布域は、沖縄島金武湾などの特定の地域に
限られる。
生 息 地 の 条 件: フジイロハマグリは、内湾域潮下帯の安定した砂底域を生息場所としている。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるフジイロハマグリの生息確認地点は、金武湾湾口部(平安座島沖)および中城湾泡
瀬干潟の2地域。泡瀬干潟では、照屋清之介氏により通信施設南岸沖の低潮帯砂底域から見出されてい
る。
学術的意義・ 評 価: フジイロハマグリの生息環境である内湾潮下帯砂底域は、琉球列島においては限られた生物生息環境
である。フジイロハマグリは、沖縄の海岸環境の多様性を認識するうえで重要な指標種である。ま
た、沖縄島のフジイロハマグリ個体群は、隔離個体群として生物地理学的に重要。
生存に対する 脅 威: 泡瀬干潟におけるフジイロハマグリの生息域では、埋め立て工事がおこなわれている。金武湾の生息
域では、大規模な浚渫が行われている。沖縄県内のフジイロハマグリの生息条件は、すべての生息地
で急激に悪化しており、個体群の存続が危ぶまれる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
カミブスマ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Clementia papyracea Gray, 1846
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は薄く卵型でふくらみが強い。波状の成長輪脈がある。殻表に砂粒を付着させる。水管の先端は黒
色。
分 布 の 概 要: 琉球列島(奄美大島、加計呂麻島、沖縄島、石垣島、西表島)、インド・太平洋域。
生 息 地 の 条 件: カミブスマは、内湾干潟において低潮帯∼潮下帯のしまりのある安定した粗砂泥底を生息場所として
いる。円形の水管孔を作る。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるカミブスマの生息確認地点(1990年∼2003年)は、次の5地点となっている。羽地内
海饒平名、与根干潟(豊見城市)、大浦川河口、石垣島新川川河口、西表島仲良川河口。以上の生息地
のうち、饒平名干潟は毎回の調査で数個体ずつ見出されることから、個体群として維持されていると
396
貝類
考えられるが、生息密度は低い(1個体以下/m2)。饒平名干潟以外の産地では、極めて稀にしか見出
されない。なお、本種は、中城湾熱田沖の浚渫砂泥中から多数の死殻が見出されていることから、内
湾域の潮下帯にも生息域を形成していると考えられる。
学術的意義・ 評 価: カミブスマが個体群を形成している場所には、ホソズングリアゲマキやコヅツガイなど多くの種の二
枚貝類が同所的に生息している。したがって、本種は、琉球列島の内湾干潟低潮帯において種多様性
の高さや生物生息環境の健全さを評価するための指標種として有効である。
生存に対する 脅 威: 最大の生息地である饒平名干潟では、赤土流入の影響が低潮帯域に顕著に現れ始めた1
998年以降、カ
ミブスマの生貝は稀にしか確認できなくなっており、明らかに個体数が減少している。豊見城市与根
干潟の生息域は、1
998年の埋め立てにより消滅した。その他の産地も赤土流入が著しい。このよう
に、沖縄県内のカミブスマの生息条件は、大部分の生息地で急激に悪化している。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ウスカガミ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Pardosinia amphidesmoides(Reeve, 1850)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長2.
5cm以下、円形の二枚貝。殻は白色で、褐色の放射彩がある。殻頂は紫褐色。
分 布 の 概 要: 琉球列島では奄美大島と沖縄島に分布。地理分布は、オーストラリア北部までの熱帯域に形成され
る。
生 息 地 の 条 件: 湾口部に形成される海草藻場の粗砂∼サンゴ礫砂底に低い密度で生息する。
現在の生息状況: ウスカガミは、1
992年∼2003年にかけて、中城湾浜、泡瀬干潟、大嶺(那覇市)において生息が確認
された。泡瀬干潟では、2003年まで、一回の調査で生貝が約5個体ずつ記録されている。浜と大嶺では
1個体づつ見出されたのみ。
学術的意義・ 評 価: ウスカガミは、安定した海草藻場を生息場所とする稀少種である。したがって、海草藻場の生物多様
性の高さを示す指標となる。
生存に対する 脅 威: 泡瀬干潟の生息域では埋め立て工事が行われていることから、ウスカガミの沖縄島個体群は、絶滅リ
スクが高まっていると考えられる。
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: Lamprell, K. and T. Whitehead., 1992. Bivalves of Australia Vol. 2. Backhuys Publishers.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
ツキカガミ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Phacosoma aspera(Reeve, 1850)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約2.
5cm以下、円形、白色の二枚貝。殻頂は前方に傾く。小月面は深く窪む。殻表には、弱い光
沢があり、成長輪肋を密に刻む。
分 布 の 概 要: 西表島を北限とし、中国大陸南岸、フィリピンマニラ湾など南中国海沿岸に地理分布を形成する。
生 息 地 の 条 件: ツキカガミは、河口干潟中潮帯の安定した砂泥底域を生息場所としている。赤土などにより底質の撹
乱された部位には見られない。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるツキカガミの生息確認地点(1
990年∼2003年)は、西表島ゲータ川河口、船浦、浦
内川河口、仲良川河口の4地点となっている。仲良川河口干潟と浦内川河口干潟では、中潮帯のごく狭
い潮位に1m2あたり2個体程度の密度で生息している。船浦とゲータ川河口干潟では1個体が確認され
たのみ。
397
貝類
学術的意義・ 評 価: 西表島のツキカガミは、地理分布の北限の個体群として生物地理学的に重要。
生存に対する 脅 威: 仲良川河口干潟におけるツキカガミの生息域は、陸域から過剰に流入する土砂に覆われ、撹乱されて
きている。浦内川の生息域付近では、リゾート開発が進行している。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
庄 啓謙,1964.中国近海簾蛤科的研究.海洋科学集刊,第5集.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
オトコエシハマグリ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Pitar subpellucidum(Sowerby, 1851)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約4cm、卵形の二枚貝。殻表の地色は茶褐色で、白色の放射彩の現れる個体が多い。内面後端と
小月面は紫褐色に彩られる。生時は殻表に砂粒を固めて付着させ、水管は伸長した殻皮で包まれる。
分 布 の 概 要: 奄美大島を北限とし、沖縄島、石垣島、西表島に分布。地理分布は、オーストラリア北部までの熱帯
域に形成される。
生 息 地 の 条 件: 潮通しの良い大規模な海草藻場の粗砂∼サンゴ礫砂底に低い密度で生息する。したがって、海草藻場
の航路浚渫や埋め立てによる分断化、赤土の堆積による底質環境の劣化は、個体群の衰退を招く。
現在の生息状況: 1
998年∼2003年にかけての調査により沖縄県内1
0ヶ所からオトコエシハマグリの生息が確認された。
屋嘉田潟原から宇座(読谷村)にかけての海草藻場では比較的普通に見出されることから、この海域
が沖縄島におけるオトコエシハマグリの分布中心域になっていると考えられる。その他の地域での産
出は稀(1∼数個体)。
学術的意義・ 評 価: オトコエシハマグリは、大規模で安定した海草藻場を生息場所とする稀少種である。したがって、海
草藻場の生物多様性の高さを示す指標となる。
生存に対する 脅 威: オトコエシハマグリの分布中心域となっている沖縄島恩納村から読谷村にかけての海草藻場は、赤土
堆積による底質の撹乱が著しい。また、宇座の生息域は、人工ビーチ造成に伴う砂流出により生息条
件が悪化している。港川(浦添市)の生息域では、埋め立て計画が進行している。沖縄県におけるオ
トコエシハマグリの生息条件は、すべての生息地において年々悪化しつつある。
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
献: Lamprell, K. and T. Whitehead., 1992. Bivalves of Australia Vol. 2. Backhuys Publishers.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
オイノカガミ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Bonartemis histrio(Gmelin, 1971)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は厚く円形。殻表には板状の成長輪脈を刻む。沖縄島の個体は、灰紫色で無班であるのに対して、
宮古・八重山の個体は白色の地に褐色の山形斑をもつ。
分 布 の 概 要: 琉球列島(奄美大島、加計呂麻島、沖縄島、久米島、宮古島、伊良部島、石垣島、西表島)、インド・
太平洋域。
生 息 地 の 条 件: オイノカガミは、礁池に発達した干潟(礁池干潟)の低潮帯付近のサンゴ砂底∼サンゴ礫砂底を生息
場所とする。
現在の生息状況: 1990年∼2003年にかけての調査により沖縄県内12ヶ所からオイノカガミの生息が確認された。このう
ち、まとまった個体数(8個体以上/m2)の見出された多産地は、大嶺(那覇市)と与根干潟(1
998
年に消滅)の2ヶ所であった。また、伊良部島佐和田 で は、比較的普通に見出された(約4個体/
m2)。その他の産地では個体数が少ない。
398
貝類
学術的意義・ 評 価: オイノカガミは、礁池干潟の生物生息環境の健全さを評価するための指標となり得る。また、沖縄個
体群と宮古・八重山個体群との間には、殻の色彩パターンなどに違いが認められるため、遺伝的に隔
離された個体群の可能性がある。
生存に対する 脅 威: 浦添市港川から那覇市大嶺を経て豊見城市与根干潟、糸満市名城にかけての沖縄島中南部西海岸は、
かつてオイノカガミの多産地であった。なかでも、大嶺と与根干潟には、1
997年頃まで、約10メート
ル四方に100個体以上が見いだされるほど多産していた。しかしながら、与根干潟の個体群は埋め立て
事業に伴う生息地の破壊により1999年までに消滅した。また、大嶺干潟では近年、底質環境の変化に
伴い個体数が減少しつつあるうえに、生息域が埋め立て計画地となっている。伊良部島、石垣島、西
表島の生息地は、近年、土砂流入による底質環境の変化が急激に進行している。このように、沖縄県
内のオイノカガミの生息条件は、大部分の生息地で急激に悪化している。
参 考 文 献: 名和 純,20
01.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
コヅツガイ
オオノガイ目 ツクエガイ科
Eufistulana grandis(Deshayes, 1855)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長3.
5cmの殻の薄い細長い二枚貝。石灰質の棍棒状の棲管(長さ約1
0cm)に入って底質中に埋在
し、その先端を干潟表面にわずかに出す。棲管の表面には砂粒が付着している。
分 布 の 概 要: 房総半島以南、熱帯西太平洋域に分布。琉球列島では沖縄島のみから記録されている。
生 息 地 の 条 件: コヅツガイは、内湾干潟低潮帯の安定した粗砂泥底に個体群を形成する。赤土などの土砂流入により
底質環境が撹乱されると死滅する。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるコヅツガイの生息確認地点(1
990年∼2003年)は、羽地内海の饒平名と呉我および
0個体記録されたが、いず
大浦湾大浦川河口沖の3ヶ所。饒平名では1m2あたり約40個体、呉我では約2
れも生息範囲は低潮帯上部の狭い範囲に限られる。大浦湾では1個体確認されたのみ。なお、中城湾の
浚渫泥中からも古い死殻が多数見出されたことから、生息している可能性がある。
学術的意義・ 評 価: コヅツガイの生息域には、ホソズングリアゲマキやカミブスマなど多くの種の二枚貝類が同所的に生
息しており、特有の貝類群集が成立している。したがって、コヅツガイは、沖縄島における内湾低潮
帯貝類群集の生態的指標種として位置付けられる。また、沖縄島のコヅツガイ個体群は、隔離個体群
として生物地理学的に重要な研究対象である。
生存に対する 脅 威: 最大の生息地である饒平名干潟では、赤土流入の影響が低潮帯域に顕著に現れ始めた1
998年以降、次
第に死滅し、現在ではもとの生息域の大部分は大量の死殻が残されているのみとなっている。呉我干
潟の生息域でも赤土流入により底質環境が急激に変化し続け、2
000年以降の調査では確認されていな
い。このように、沖縄県内のコヅツガイの生息条件は、急激に悪化している。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヒロクチソトオリガイ
ウミタケガイモドキ目 オキナガイ科
Laternula truncata(Lamarck, 1818)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長4∼6cmの殻の非常に薄い二枚貝。殻は長楕円形、後端は裁断状となり広く開く。
分 布 の 概 要: ヒロクチソトオリガイの地理分布は、琉球列島(沖縄島、宮古島、石垣島、西表島)
、中国大陸南岸
(福建省以南)、フィリピンに形成されている。
399
貝類
生 息 地 の 条 件: ヒロクチソトオリガイは、マングローブ林海側縁辺(中潮帯上部)の礫まじり砂泥底や砂泥底を生息
場所としており、赤土堆積などにより底質が急激に撹乱されると死滅する。
現在の生息状況: 1990年∼2003年にかけての調査により沖縄県内1
2ヶ所からヒロクチソトオリガイの生息が確認され
た。このうち、まとまった個体数(8∼12個体/m2)の見出された多産地は、羽地内海我部井、大浦
湾二見(2002年に消滅)、石垣島名蔵アンパル、西表島仲良川河口の4地点であった。
学術的意義・ 評 価: ヒロクチソトオリガイは、マングローブ域から干潟に連なるエコトーンに個体群を形成するため、両
環境の生態的連続性の健全さを評価する指標種として有効。また、沖縄島のヒロクチソトオリガイ個
体群は、地理分布の北限であり、生物地理学的な重要性が高い。
生存に対する 脅 威: 大浦湾二見(名護市)には、ヒロクチソトオリガイの大きな個体群(3
2個体/m2)が存在していた
が、橋梁工事により2002年までに消滅した。我部井のヒロクチソトオリガイは、湧川流域からの赤土
堆積により個体数が急減している。宮古島と石垣島の生息地では、生息域への赤土堆積が続いてい
る。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
庄 啓謙,1982.中国近海鴨嘴蛤科的分類研究.海洋及湖沼,1
3
(6)
:553―561.
名: 名和 純
名:
類:
名:
ー:
オキナガイ
ウミタケガイモドキ目 オキナガイ科
Laternula anatina(Linnaeus, 1758)
絶滅危惧 類(VU)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長約3cm、後端の細まった楕円形。殻は薄く、殻表は微小な顆粒に覆われる。後端は反りかえり、
両殻の間が開く。内面は真珠光沢がある。近縁種ソトオリガイよりも殻は前後に短い(殻高が高い)。
分 布 の 概 要: 本州∼九州の内湾域および中国大陸沿岸に地理分布を形成する。琉球列島では石垣島のみから見出さ
れている。
生 息 地 の 条 件: 内湾低潮帯の粗砂泥底を生息場所とする。
現在の生息状況: 沖縄県内におけるオキナガイの確認地点は、石垣島名蔵湾のみとなっている。名蔵湾では、河口水路
沿いの赤土の堆積していない粗砂泥底から得られているが、生息範囲は狭く、個体数密度も低い。
学術的意義・ 評 価: 石垣島のオキナガイ個体群は、主分布域(大陸沿岸など)から隔離された地域個体群として生物地理
学的に重要な研究対象である。
生存に対する 脅 威: 名蔵湾沿岸では、長年にわたって陸域からの赤土流入が続いており、すでに干潟の大部分に赤土が著
しく堆積している。そのため、オキナガイの生息域は、生息条件の悪化に伴い次第に狭められていく
と考えられる。
参
考
文
執
筆
者
献: 奥谷喬司,2000.オキナガイ科.“日本近海産貝類図鑑”,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,1
036―
1037.
名: 名和 純
5)準絶滅危惧
(NT)
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヒメケハダヒザラガイ
新ヒザラガイ目 ケハダヒザラガイ科
Acanthochitona achates(Gould, 1859)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
体長3cm内外。肉体が幅広く、殻板は小さい。肉体上に殻板列に沿って9対の棘束がある。琉球列島では、奄美大島
400
貝類
と沖縄島(分布南限)に分布する。内湾域中潮帯の転石帯を生息場所とする。沖縄島では、塩屋湾口(塩屋∼安
根)、羽地内海、大井川河口、金武湾(昆布)に不連続に生息地がある。生息域が特定の地域に限られるうえ、もと
もと個体群サイズが小さいために、近年の急激な海岸環境破壊に伴い明らかに減少している。例えば、塩屋湾口(塩
屋∼安根)の個体群は、2004年までに埋め立てにより消滅した。ヒメケハダヒザラガイの沖縄個体群は、絶滅リスク
が高まっていると考えられる。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヤジリスカシガイ
腹足綱 古腹足目 スカシガイ科
Macroschisma cuspidata(A. Adams, 1851)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は細長い笠型で前端が狭まる。貝殻の頂部が開口し、殻質は薄く、淡白色の地に黒色斑を散在させ
る。殻長10mm内外。
近似種との区別: 殻が細長く、前端が狭まる種は他になく、区別は明瞭。
分 布 の 概 要: 沖縄島、与那国島をのぞく先島。
生 態 的 特 徴: 藻食性と考えられるが、詳しい生態は不明である。
生 息 地 の 条 件: 潮通しがよく、底質が清浄なアマモ場に生息する。
現在の生息状況: 現在、恩納村屋嘉屋嘉田潟原、本部町備瀬、与那城町海中道路周辺、沖縄市泡瀬等のアマモ場では現
在も局所的に少ないながら生存がみとめられる場所があるが、1
980年代にアマモ場内に生息が確認さ
れていた糸満市、豊見城市の沿岸等では、その後の海浜埋め立て、底質の悪化等により、著しく生息
場所が減少し、羽地内海、名蔵湾、川平湾等ではアマモ場内の底質環境が悪化して、生貝の確認が困
難となっている。
学術的意義・ 評 価: 一般的なスカシガイ類は岩盤などハードボトムに生息するが、本種は砂質干潟というソフトボトムに
生息適応した非常に特殊な生態を有し、学術的に貴重な種である。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て等による生息場所の直接的な破壊や富栄養化や泥質化によるアマモ場内の環境悪化。
原
参
執
記
考
筆
載: Adams, 1851. A monograph of Macroschisma, a genus of gastropodous mollusca belonging to the family Fissurellidae. Proc. Zool. Soc. London, 18 : 202―203.
文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
オオベソスガイ
腹足綱 古腹足目 リュウテン科
Turbo cinerea(Born, 1778)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は厚く、背の低い球形で殻表は殆ど平滑でくすんだ緑灰色。殻径30∼50mm。
近似種との区別: カンギクとは殻表が平滑で大型化する事により区別は明瞭。
分 布 の 概 要: 与那国島をのぞく八重山諸島。
近縁な種及び群との分布状況の比較: 小笠原にもオオベソスガイは生息するが、形態が異なり、分類学的検討が必要と
される。
生 態 的 特 徴: 藻食性で夜間ならびに満潮時に活動する。
生 息 地 の 条 件: 非石灰岩質の岩礁及び玉石海岸に生息する。
現在の生息状況: 食用習慣のある地域(西表島北西部、石垣島北西部)では地元住民の漁獲により著しく減少してい
る。
401
貝類
学術的意義・ 評 価: 沖縄島およびその属島、宮古諸島では確認されておらず、近縁種が小笠原に飛び地分布するという特
異な分布様式は動物地理学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 護岸改変による生息場所の攪乱や地元住民による食用としての採取圧。
原
記
載: Born, 1778. Index rerum naturalium Musei caesarei vindobonensis. Part 1. Testacea xiii+458pp., J. P. Kraus,
Vienna.
参 考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
サラサダマ
腹足綱 古腹足目 ニシキウズ科
Chrysostoma paradoxum(Born, 1780)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は小型、亜球形、殻表は平滑で光沢が強く、鮮やかな灰緑色の不明瞭な模様を有する。最大殻径約20
mm。
近似種との区別: 一属一種で近似種はない。
分 布 の 概 要: 大東島を除く県内全域。
生 態 的 特 徴: 厳密な夜行性で日中はサンゴ砂中に隠れ込む。
生 息 地 の 条 件: 潮通しがよく、底質が清浄なアマモ場のサンゴ砂に被われる岩礫地等に生息する。
現在の生息状況: 糸満市南岸、豊見城市沿岸では、海浜埋め立てにより、著しく生息場所が減少した他、玉城村、知念
村沿岸ではアマモ場の砂地が都市下水や畜産排水などの富栄養化により還元するなどで汚染され、生
息数が著しく減少している。
学術的意義・ 評 価: 本種は岩礁に生息するニシキウズ類と砂底域に適応したキサゴ類との中間的な生活様式を持ち、進化
学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て等による生息場所の直接的な破壊やアマモ場の富栄養化に伴う貧酸素状態などの底質悪
化。
原
記
参 考 文
執 筆 者
載: Born, 1780. Testacea Musei caesarei vindobonensis. Xxxvi+442pp, pls. 1―18. J. P. Kraus, Vienna.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
形
オオアシヤガイ
腹足綱 古腹足目 ニシキウズ科
Granata sulcifera Lamarck, 1820
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は小型、やや低い亜球形、殻表は多数の細螺条をめぐらし、灰褐色の小斑紋を散在させる。革質円
形の蓋をもつ。殻径20mm程度。
近似種との区別: 近似種アシヤガイは小型薄質、ヘソアキアシヤエビスとは臍孔が開かないことにより区別できる。
分 布 の 概 要: 県内全域。
生 態 的 特 徴: 微細藻食性で、やや活発に匍匐し、刺激を与えると腹足の一部を自切する。
生 息 地 の 条 件: 潮通しがよく、底質が清浄なアマモ場やリーフ上の海藻の生えた岩盤上や死サンゴ礫の隙間に生息す
る。
現在の生息状況: 元来、少産種であるが、埋め立てによるアマモ場の減少で、生息場所は狭められていると考えられ、
1990
年代に与那城町のアマモ場で確認以来、未確認である。
学術的意義・ 評 価: 本科貝類は岩礁域に拡げたニシキウズガイ類と砂底域のキサゴ類が繁栄しているが、本種はその中間
的生息生態を有し、進化生態的に未知な点が多く、学術上重要な位置にあると考えられる。
402
貝類
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て等による生息場所の直接的な破壊や赤土沈積及び畜産排水などの流入による生息環境の
貧酸素化などの底質悪化。
原
参
執
記
載: Lamarck, 1816. Liste des objets representes. In Bruguiere (1782―1832).
考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
レモンカノコ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Clithon souverbiana(Montrouzier, 1866 in Sowerby & Montrouzier, 1859―1879)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は小型で、亜球形、殻表は平滑で光沢があり、鮮やか色彩の模様を有する。蓋はレモン色。殻径約10
mm以下。
近似種との区別: 近似種ハナガスミカノコ、ヒメカノコは蓋が濁灰色であることから区別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄県全域。
生 息 地 の 条 件: 清浄な陸水が渚線付近へ伏流してしみ出す潮間帯上部の砂礫∼砂底にのみ生息する。
現在の生息状況: 自然海岸の減少、河川改修による伏流水の枯渇等により、生息場所自体が減少している。
学術的意義・ 評 価: 本種は陸水影響を受けた潮間帯のみに生息し、貝類の淡水域への進出過程を研究する上で重要であ
り、学術的意義は大きい。
生存に対する 脅 威: 海岸の埋立て、護岸造成等による人工海岸化後の伏流水の枯渇。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Sowerby & Montrouzier, 1859―1879. Description d’especes nouvelles de l’ Archipel Caledonian. J. de. Conch.
11 : 276―287, pls. 5, 12.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
カバグチカノコ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Neritina pulligera(Linnaeus, 1767)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、大型で、半卵形、殻表は褐色の殻皮が被覆し、殻口内面滑層は橙褐色(樺色)で蓋には
黒褐色の放射彩を有する。殻径約40mm以下。
近似種との区別: 近似種クリグチカノコは殻口内面滑層は灰褐色(栗色)、アカグチカノコは深紅色である。
分 布 の 概 要: 沖縄本島中北部、八重山。
生 息 地 の 条 件: 河口閉塞のない、ある程度の水深がある淵が存在する河川の中・上流域に生息。
現在の生息状況: 分布は広いが沖縄島南部の河川では水質が悪化し、生息地の岩上が汚損して、全く生息が認められな
い状況であり、河川規模の小さい宮古島でも記録がない。河川規模が大きく、自然度の高い石垣島、
西表島の河川では生息数は比較的多いが、与那国島ではホテイアオイの大繁殖や渇水による流れの停
滞で激減している。
学術的意義・ 評 価: 本種を含む陸水性アマオブネガイ類は、鮭などと同様、両側性があるといわれ、幼生期に一旦、川を
下って、海で着底し、その後、遡河する生態を有し、巻貝類の陸上進出の一経路として、生態学的に
重要な研究対象となる。また、様々な河川環境へ適応放散しており、進化学的にも興味ある種群であ
る。
生存に対する 脅 威: 河川周辺環境の改変や水質悪化や河川改修等に伴われる河川の自然環境多様性の低下。
原
記
載: Linnaeus, 1767. Caroli a Linne Systema naturae. ed.16th. vol. 2 : 533―1327. Sweden.
403
貝類
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
クリグチカノコ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Neritina squamipicta(Rècluz, 1843)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、大型で、半卵形、殻表は褐色の殻皮が被覆し、殻口内面滑層は灰褐色(栗色)で蓋には
黒褐色の放射彩を有する。殻径約40mm以下。
近似種との区別: 近似種カバグチカノコは殻口内面滑層は橙褐色(樺色)、アカグチカノコは深紅色である。
分 布 の 概 要: 沖縄本島中北部、八重山。
生 息 地 の 条 件: 河口閉塞のない、ある程度の水深がある淵が存在する河川の中・上流域に生息する。
現在の生息状況: 分布は広いが沖縄島南部の河川では水質が悪化し、生息地の岩上が汚損して、全く生息が認められな
い状況であり、河川規模の小さい宮古島でも記録がない。河川規模が大きく、自然度の高い石垣島、
西表島の河川では生息数は比較的多いが、与那国島ではホテイアオイの大繁殖や渇水による流れの停
滞で激減している。
学術的意義・ 評 価: 本種を含む陸水性アマオブネガイ類は、鮭などと同様、両側性があるといわれ、幼生期に一旦、川を
下って、海で着底し、その後、遡河する生態を有し、巻貝類の陸上進出の一経路として、生態学的に
重要である。また、様々な河川環境へ適応放散しており、進化学的にも意義ある種群である。
生存に対する 脅 威: 河川周辺環境の改変、水質悪化や河川改修等に伴われる河川の自然環境多様性の低下。
原
記
載: Recluz, 1843. Descriptions of new species of Nerites, collected by H. Cuming Esq. in the Philippine Island.
Proc. Zool. Soc. London, 168―176.
参 考 文 献: 土屋光太郎,2000.アマオブネ目.日本近海産貝類図鑑,“奥谷喬司編”
,東海大学出版会,東京,102
―113.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
ー:
クロズミアカグチカノコ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Neritina sp.
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本科中、中型で、半卵形、殻表は黒褐色の殻皮が被覆し、殻口内面滑層は濃褐色で蓋は漆黒色。
殻径20mm以下。
近似種との区別: 近似種カバグチカノコ、クリグチカノコ等は蓋に放射彩を有する。
分 布 の 概 要: 石垣島・西表島。
生 息 地 の 条 件: 定常的に流れが保持された河川上流域の滝等の岩上に生息する。
現在の生息状況: 石垣島では上流域の渇水や湧水の枯渇で生息数が減少している。
学術的意義・ 評 価: 本種を含む陸水性アマオブネガイ類は、鮭などと同様、両側性があるといわれ、幼生期に一旦、川を
下って、海で着底し、その後、遡河する生態を有し、巻貝類の陸上進出の一経路として、生態学的に
重要である。また、様々な河川環境へ適応放散しており、進化学的にも意義ある種群である。
生存に対する 脅 威: ダム建設など河川上流域の環境改変に伴われる渇水や自然環境多様性の低下。
特 記 事 項: 本種の学名については、ボルネオ北岸のラブアン島を模式産地とするNeritina cryptospira Martens,
1897が、原記載の図と「殻径2
3mm、厚く黒っぽい殻皮と不明瞭な網目状模様をもつ殻、内巻状の螺
塔、内唇滑層が黒ずみ、かつ赤みがかる」等の記載が、和名の種とよく一致するが、本和名クロズミ
の由来である蓋が黒ずむ特徴については原記載に蓋の記載がなく、検討できなかった。今後、タイプ
標本の探索および検討により、種の確定が望まれる(Martens,1879)。
404
貝類
参
考
執
筆
文
献: 福田 宏,1996,腹足綱. WWF Japan Science Report ,和田恵次他編,3:11―63.
増田修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑2.ピーシーズ,東京,240pp.
Martens, E., 1879. Die gattung Neritina. in : vol. 2, pt. 10 of Systematisches Conchylien― cabinet von Martini und Cheminitz. Edited by H. C. Kuster. von Bauer und Raspe, Nurnberg. 303pp, 33pls.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
シマカノコ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Neritina turrita Gmelin, 1791
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、縦にやや延びた亜球形、殻表は細かい縦縞模様、殻口内面滑層は乳白色で蓋は
灰色。殻高30mmに達する。
近似種との区別: 近似種ドングリカノコのイナズマカノコ型は螺塔がより低い。
分 布 の 概 要: 沖縄本島中北部、先島。
生 息 地 の 条 件: マングローブの発達する河口、下流域に生息する。
現在の生息状況: マングローブの発達する沖縄島北部東海岸の数河川、石垣島、西表島の河川では生息数が少なくない
が、水質悪化の著しい沖縄島中南部の河川ではマングローブがあったとしても殆どまとまった個体群
の生息が確認されない。
学術的意義・ 評 価: 本種を含む陸水性アマオブネガイ類は、鮭などと同様、両側性があるといわれ、幼生期に一旦、川を
下って、海で着底し、その後、遡河する生態を有し、巻貝類の陸上進出の一経路として、生態学的に
重要な研究対象である。また、様々な河川環境へ適応放散しており、進化学的にも学術的意義は大き
い。
生存に対する 脅 威: 河川改修等に伴われる河川下流域の生息環境の攪乱や都市や農畜産排水等による水質・底質の悪化。
原
参
記
載: Gmelin, 1791. Caroli a Linne Systema Naturae.
考 文 献: 久保弘文,2
000.宜野湾市の貝類.“宜野湾市誌 第9巻 資料編8自然”
,宜野湾市教育委員会文化課
編,宜野湾.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
キジビキカノコ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Neritina spiralis Reeve, 1855
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型で、ドーム型、外唇上部がやや鰭状に延び、貝殻背面に多数の螺条をめぐらす。殻
口内面滑層は灰白色。殻径10mm以下。
近似種との区別: 近似種ヒロクチカノコは本種より止水環境を好み、貝殻内唇が肥厚し、背面に山鳥模様を有し、ツバ
サカノコは内唇滑層が翼状に突出し、扁平、アラハダカノコは貝殻内唇が薄い肉色に染まる特徴か
ら、いずれの種とも区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄本島中北部、八重山。
生 息 地 の 条 件: 河川下流の汽水域にある沈木や岩礫のくぼみに生息。
現在の生息状況: 比較的水質の悪化した環境にも見られる場合があるが、人工護岸、三面張り等により、生息場所の窪
みがない底面や、沈木や岩礫が洗い出されているような場合は生息が認められず、生息地は限定され
ている。
学術的意義・ 評 価: 本種は沈木等の表面に開いた小さな穴に埋没して生息する特殊な生息環境へ適応した種とも考えら
れ、生態学的に重要と考えられる。
生存に対する 脅 威: 河川底質環境の改変等による河川下流域の生息場所、特にマイクロハビタットの消失。
405
貝類
原
記
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Reeve, 1855. Conchologica Iconica, figures and descriptions of the shells of molluscks ; with remarks on their
affinities, synonymy, and geographical distribution.
献: 久保弘文,2000.宜野湾市の貝類.“宜野湾市誌 第9巻 資料編8自然”,宜野湾市教育委員会文化課
編,宜野湾.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
ムラクモカノコ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Neritina variegata Lesson, 1831
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、亜球形、殻表は光沢が強く、橙色の斑紋や虎斑等の模様がありバリエーション
が著しい。殻口内面滑層は乳白色で一部が鮮赤色に染まる。蓋は黒色。殻径20mm内外。
近似種との区別: 近似種ドングリカノコは蓋が灰色であることで区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 息 地 の 条 件: 湧水域や水質の清浄な流れのある河川に生息する。
現在の生息状況: 1990年代まで沖縄島南部の湧水域でも生息が認められたが、現在はほとんど生息が確認できない。し
かし、河川規模が小さく、都市部であっても、湧水のしみ出し等で水質の清浄な場所が局所的にでも
形成されれば、生息地が形成されることがある。
学術的意義・ 評 価: 本種を含む陸水性アマオブネガイ類は、鮭などと同様、両側性があるとされ、ふ化後、幼生期に一
旦、川を下って、海で着底し、その後、遡河する生態を有し、巻貝類の陸上進出の一経路として、生
態学的に重要である。また、様々な河川環境へ適応放散しており、進化学的意義がある。
生存に対する 脅 威: 海域と連続する湧水域の攪乱、河川周辺環境の改変に伴われる河川下流域の生息環境の悪化。
原
参
執
記
考
筆
載: Lesson, 1831. Voyage autour du monde sur la conquille, pendant 1822―1825 par M. L. J. Duperry. Zoophytes,
1―128.
文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヒラマキアマオブネ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Nerita planospira Anton, 1838
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は大型で厚く、角張った半卵形、殻表は細螺条を多数めぐらし、内唇に皺がよる。蓋は黒灰色で微
顆粒を有する。殻径30mm以下。
近似種との区別: 近似種アマオブネはより小型で螺層が偏圧せず、球状となる。
分 布 の 概 要: 沖縄本島中北部・石垣島・西表島。
生 態 的 特 徴: マングローブの樹上に生息し、藻食性で下げ潮時に活動することが多い。
生 息 地 の 条 件: マングローブの発達する河口、下流域に生息する。樹上性。
現在の生息状況: マングローブが発達し、自然度の高い西表島の河口域では生息数が少なくないが、沖縄島中北部では
生活排水等による腐泥化、石垣島では赤土堆積等でマングローブ域が攪乱され、個体数、生息場所共
に減少している。
学術的意義・ 評 価: マングローブ樹上性で生態的に特殊であるほか、沖縄では主要分布の北限に当たり、生物地理的に重
要である。
生存に対する 脅 威: マングローブ域の改変や河川水質悪化に伴われる生息環境の悪化。
原
406
記
載: Anton, 1838. Verzeichniss der Conchylien welche sich in der Sa ulung von H. E. Anton befinden. Germany,
貝類
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
110pp.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
クサイロカノコ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Smaragdia rangiana(Rècluz, 1841)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型で、歪んだ卵球形、殻表は平滑で鮮やか黄緑色の地に白斑列が彩る。蓋は薄い黄緑
色。殻径5mm内外。
近似種との区別: 近似種キンランカノコとはより大型、黄緑の色彩であることから、区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 春期から秋期に出現し、単年性と考えられる。
生 息 地 の 条 件: 潮通しのよいアマモ場の、ある程度葉幅が広く、密集するアマモ葉上に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島の干潟では埋め立てにより、著しく生息場所が減少し、石垣島・西表島でも、アマモ葉上への
陸土沈着等で生息環境が悪化し、生息地が減少している。
学術的意義・ 評 価: アマモ葉上を生息圏とし、色彩もカムフラージュと考えられ、生態学的に重要な研究素材である。
生存に対する 脅 威: 河口干潟埋め立て等による生息場所の直接的な破壊やアマモ葉上への陸土の沈着による生息環境の悪
化。
原
記
載: Rècluz, 1841. Description de quelques nouvelles especes de Nerites vivants’ Revue Zoologique par la Societe
Cuvierienne, 4 : 102―153.
参 考 文 献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
コハクカノコガイ
腹足綱 アマオブネ目 コハクカノコ科
Neritilia rubida(Pease, 1865)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、微小で、卵球形、殻表は平滑で光沢の緑黄褐色。蓋は薄く、牙状突起を欠く。殻径3mm
以下。
近似種との区別: 和名の付いていない複数種が存在するが、本種は最も大型。
分 布 の 概 要: 沖縄本島中北部、石垣島、西表島、与那国島。
生 態 的 特 徴: 1卵嚢に1卵を岩に産み付ける。
生 息 地 の 条 件: 自然度が高い川の、下流から中流の常に流れている場所の石の下や小穴などに生息し、河川規模は小
さくとも生息は認められるが、河川底質の微環境が単純化したり(コンクリート三面張り等)、陸土の
沈着で覆われたりすると生息が認められなくなる。
現在の生息状況: 本種は1992年に国内初記録で報告された種で、沖縄島では数河川、与那国島では1河川のみ産地が知ら
れていたが、生息環境の悪化で、現在は減少した。しかし、石垣島、西表島においては生息記録のあ
る河川も多く、また個体数も少なくない。
学術的意義・ 評 価: 近年、進化学的検討がなされ、巻貝類の陸上進出の1系統を担うグループであることが発見され、進化
学的意義の大きい種である(宮崎大学狩野泰則氏私信)。
生存に対する 脅 威: 河川周辺環境の改変や河川改修に伴われる河川の自然環境多様性の低下。
特 記 事 項: 海流の分散による卓越的定着の可能性があるが、そうした定着を可能とする自然環境の保全無くして
は、多様性の維持は保てない。
407
貝類
原
記
載: Pease, 1865. Descriptions of new genera and species of marine shells from islands of the central Pacific. Proc.
Zool. Soc. London, 512―517.
参 考 文 献: 久保弘文・小池啓一,1992.日本新記録のアマオブネ類Neritilia rubidaコハクカノコガイ(新称).Venus,20:22―30
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ユキスズメ
腹足綱 アマオブネガイ目 ユキスズメ科
Phenacolepas crenulatus(Broderip, 1834)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中では大型、やや低い円錐笠形、殻表には縮れた毛が放射状に生えた殻皮を被り、殻自体に
は細かい放射状の顆粒状彫刻を有する。軟体は赤橙色。殻長20mm程度。
近似種との区別: 近似種ミヤコドリはより小型で縮れた毛状の殻皮を欠く。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 埋没した岩盤の下で殆ど移動しないと考えられ、アマモ場のアナエビ類と同所的にみられるため、こ
れに共生する可能性がある。
生 息 地 の 条 件: 陸水が染み出している汀線に近接する場所で、かつ、潮通しの良いアマモ場やリーフ内の砂礫底に深
く埋まった岩の下で、アナエビの巣穴等により外界と通じていて、硫化水素が発生する等の著しい還
元状態とならない環境に生息する。
現在の生息状況: 上記のような遮蔽された生息環境では生活排水等の富栄養化により還元し、貧酸素状態で本種は死滅
している場合がある。特に沖縄島中南部では海浜埋め立て等による生息場所の直接的な消失と共に個
体数がかなり減少している。
学術的意義・ 評 価: 遮蔽環境という特殊な生息生態を有することから、生態学的重要性は高いが、生態に関する知見はほ
とんどない。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て等による生息場所の直接的な消失や陸土沈積や生活排水等の流入によるアマモ場周辺の
環境悪化。
原
参
執
記
載: Broderip, 1834. Description of new genus of Gastropoda (Scutella). Proc. Zool. Soc. London, 47―49.
考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
ー:
タオヤメユキスズメ
腹足綱 アマオブネガイ目 ユキスズメ科
Phenacolepas tenuisculpta(Thiele, 1909)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本科中では小型、やや長い楕円笠形、殻表は褐色の殻皮を被り、殻自体には細かい格子状彫刻を
有する。軟体は赤橙色。殻径5mm程度。
近似種との区別: 近似種ミヤコドリはより大型で丸みが強い。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 埋没した岩盤下で殆ど移動しない可能性があり、その詳しい生態などは全く不明。
生 息 地 の 条 件: 泥礫干潟の石の下。
現在の生息状況: 沖縄島の生息地(豊見城市与根干潟等)は埋め立てにより消滅し、石垣島周辺でも赤土等の沈積によ
る石下の目詰まりにより環境が悪化しているが、自然度の高い海域で生貝が観察できる場所が残って
いる。
学術的意義・ 評 価: ユキスズメ科は干潟の様々な環境の石の下等に適応放散しており、進化学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 埋め立て等による生息場所の消失、赤土微粒子沈積による環境の悪化。
408
貝類
原
記
載: Thiele, 1909. Cocculinoidea und die Gattungen Phenacolepas und Titiscania. In Kuster, Systematisches conchylien cabinet von Martini and Chemnits. 2(11a) : 1―48, pls. 1―6.
参 考 文 献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
フクダゴマオカタニシ
アマオブネ目 ゴマオカタニシ科
Georissa hukudai Kuroda, 1960
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は微小(殻径約2mm)で、螺塔は高く、臍孔はなく、殻表には微細な螺状脈を持つか平滑で、淡紅色か濁黄
色。蓋は石灰質で、棒状突起を持つ。本種は、沖縄島にのみ分布し、久米島の記録は再検討を要すると考えられる。
石灰岩壁に生息する。本種は、琉球列島に広く分布するゴマオカタニシとは殻表に明瞭な螺状脈を持つことで識別で
き、リュウキュウゴマオカタニシは、殻が球形に近く、殻表に明瞭な螺状脈を持ち、殻色は黄色であり、樹上性であ
ることで本種と区別される。本種は、林縁部に生息していたが、生息地の森林が様々な要因で伐採され、乾燥化する
ことによって、減少している。
原
参
執
記
載: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
考 文 献: Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isls., III : 127―149.
知念盛俊,1989.佐敷町産陸棲貝類.“佐敷町史 三 自然”,佐敷町役場,沖縄,324―334.
東 正雄・東 良雄・平田義浩,1992.久米島の陸産貝類相.Venus,50
(4)
:264―269.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
オカクビキレガイ
吸腔目 クビキレガイ科
Truncatella guerinii oagariensis Kuroda, 1960
なし
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
貝殻はこの属としては中型(殻高約8.
5mm)で、殻径は小さく(約3mm)、細長い円筒形で、螺塔は高く、殻頂は成
貝になると脱落する。殻表には、明瞭で、やや粗い成長肋を全面に持つ。紅褐色で、弱い光沢がある。殻口は全縁
で、卵形、肥厚し、反転し、一重。蓋は角質で、少旋型。本亜種は、南北大東島にのみ分布し、インド−西太平洋に
広く分布するクビキレガイT. g. gueriniiとは、肋に弱い角を持ち、臍孔部が肋状にならないことで識別できる。大東
諸島の隆起に伴い、本来海浜性の種から分化しつつあると考えられている。石灰岩崖下のやや自然度の高い森林の林
床に生息し、この森林の改変により個体数が減少している。
原
参
執
記
載: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
考 文 献: 安藤保二・波部忠重,1981.陸産貝類図説(2)
.クビキレガイ属Truncatellaとクビキレガイモドキ属
Cecina. ちりぼたん,12
(4)
:79―82.
黒住耐二,1
992.北大東島の陸産貝類.“沖縄県天然記念物調査シリーズ ダイトウオオコオモリ保護
対策緊急調査報告書”
,沖縄県教育委員会,沖縄,(31)
:73―90.
東 正雄・東 良雄,1994.大東島の陸産貝類相.Venus,53
(3): 161―173.
筆 者 名: 黒住耐二
409
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ダイトウヘソカドガイ
吸腔目 カワザンショウガイ科
Paludinellassiminea stricta daitoensis(Habe, 1942)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
貝殻はこの属としては中型(殻高約4.
7mm)で、殻径はやや幅広く(約3.
3mm)、やや塔高の円錐形。殻表は平滑
で、縫合は浅い。明褐色で、弱い光沢がある。殻口は三角形で、肥厚・反転しない。蓋は角質で、少旋型。本亜種
は、南北大東島にのみ分布し、琉球列島の海浜部に広く分布するウスイロヘソカドガイP. s. stirictaとは肩角を持た
ず、殻が細く、周縁角が弱いことで、識別できる。大東諸島の隆起に伴い、本来海浜性の種から分化しつつあると考
えられている。石灰岩崖下のやや自然度の高い森林の林床に生息し、この森林の改変により個体数が減少している。
原
参
執
記
載: 波部忠重,1942.日本産カワザンショウガヒ科.Venus,12
(1―2)
:32―56,3pls.
考 文 献: 波部忠重,1
960.A.A.Gouldの記載した日本産の貝類.Venus, 21
(1)
:10―31.
湊 宏,1977.日本産ヘソカドガイ属について.南紀生物,19
(2)
:46―48.
黒住耐二,1992.北大東島の陸産貝類.“沖縄県天然記念物調査シリーズ ダイトウオオコオモリ保護
対策緊急調査報告書”,沖縄県教育委員会,沖縄,(31)
:73―90.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ホラアナゴマオカチグサ
吸腔目 カワザンショウガイ科
Cavernacmella kuzuuensis(Suzuki, 1937)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は微小(殻高約2.
5mm)で、殻径はやや幅広く(約1.
3mm)、やや高い円錐形、やや薄質。殻表は平滑で、縫合
は深く、螺層はやや膨らむ。半透明白色で、光沢がある。殻口は、肥厚・反転しない。蓋は角質で、少旋型。本種
は、一属一種で、大東諸島を含む沖縄島等の石灰岩洞窟に生息する真洞窟性の種で、日本列島にも広く分布する。た
だ、琉球列島のものは、別種の可能性も指摘されているので、今後の詳細な検討が必要である。石灰岩洞の開発や石
灰岩地の造成によって、生息場所が減少している。
原
参
記
考
載: Suzuki, K., 1937. Some fossil terrestrial gastropods from Tuizi, Kuzuu―mati, Totigi Prefecture. Trans. Proc.
Palaeont. Soc. Japan, 7 : 87―92.
文 献: 下謝名松栄,1972.八重山群島の石灰岩洞窟の動物相調査報告.沖縄生物教育研究会誌,(6)
:1―25.
下謝名松栄,1978.南・北大東島および沖縄島南部の洞穴動物相.“沖縄県天然記念物調査シリーズ沖
縄県洞穴実態調査報告 ”,沖縄県教育委員会,沖縄,(14)
:75―111.
知念盛俊,1984.沖縄の陸産貝.“全国大会記念誌「沖縄の生物」
”,沖縄生物教育研究会,沖縄,337―
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
355.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
リュウキュウヤマタニシ
原始紐舌目 ヤマタニシ科
Cyclophorus turgidus angulatus Pilsbry, 1902
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は中型(殻径約30mm)で、螺塔は低く、臍孔は開く。殻表は平滑で、褐色斑を持つ。縫合はやや深く窪む。体
層周縁には明瞭な角を有する。殻口は全縁で、肥厚・反転し、口縁は比較的伸びる。蓋は円形、薄く角質で、中央に
乳頭状突起を持つ。本亜種は、沖縄諸島に広く分布するオキナワヤマタニシC. t. turgidusと比較して、大型になり、
体層周縁の角が強いことによって識別できる。本亜種は、本部半島を含む沖縄島の北部地域の自然度の高い森林の林
床に生息する。林道建設等、様々な要因で森林が伐採され、林床環境の変化によって減少している。
410
貝類
原
参
執
記
載: Pilsbry, H. A., 1904. New land mollusks of Japanese Empire. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 53 : 545―549.
考 文 献: 平瀬信太郎・瀧 庸,1951.天然色写真版 日本貝類図鑑 日本列島及その附近産.文教閣,東京,
xxvii+134,pls.+46pp.
知念盛俊,1989.沖縄島北部の陸産貝類・淡水産貝類.“昭和62年度沖縄島北部地域調査報告書 南西
諸島における野生生物種の保存に不可欠な諸条件に関する研究”
,環境庁自然保護局,東京,4
33―
451.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1995.大宜味村の陸・淡水棲貝類.
“大宜味村の自然 大宜味村動植
物調査報告書 大宜味村文化財調査報告書”,大宜味村教育委員会,沖縄,(4)
:295―327.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヤエヤマヤマタニシ
原始紐舌目 ヤマタニシ科
Cyclophorus turgidus radians Kuroda, 1960
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は中型(殻径約25mm)で、螺塔は低く、臍孔は開く。殻はやや薄質で、体層は良く膨らむ。殻表は平滑で、褐
色斑を持つ。縫合はやや深く窪む。体層周縁の角は弱い。殻口は全縁で、肥厚・反転し、口縁は伸びず、淡橙色。本
亜種は、沖縄諸島に広く分布するオキナワヤマタニシと比較して、良く膨らみ、殻がやや薄質で、殻口縁が伸びない
ことによって識別できる。本亜種は、八重山諸島の石垣島と西表島にのみ分布し、自然度の高いシイ林の林床に生息
する。様々な開発による森林の破壊で、生息地が改変されている。
原
参
執
記
載: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
考 文 献: 知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I).沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
波部忠重・知念盛俊,1974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―128,3pls.
知念盛俊,1990.西表島の陸産貝類.“平成元年度西表島崎山半島地域調査報告書”
,環境庁自然保護
局,東京,267―275.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヤエヤマアツブタガイ
原始紐舌目 ヤマタニシ科
Cyclotus taivanus peraffinis Pilsbry & Hirase, 1905
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は小型(殻径約15mm)で、螺塔・殻高とも低く、臍孔は開く。殻はやや薄質。殻表は平滑で、褐色斑を有し、
強い光沢を持つ。縫合は深く窪む。体層周縁に角を持たない。殻口は全縁で、肥厚・反転し、口縁は伸びず、白色。
蓋は石灰質で、厚い。本亜種は、台湾に分布するタイワンアツブタガイC. t. taivanusとは、殻高が低く、螺管が細
く、臍孔が広いことによって識別できる。本亜種は、八重山諸島の石垣島と西表島にのみ分布し、自然度の高いシイ
林の林床に生息する。様々な開発による森林の破壊で、生息地が改変されている。
原
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1905. New land Mollusca of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila.,
57 : 705―719.
参
考
文
執
筆
者
献: 池辺進一,1973.西表島の陸貝.貝なかま,6
(4)
:9―12.
波部忠重・知念盛俊,1974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―128,3pls.
知念盛俊,1976.陸産貝類. 生態写真集 沖縄の生物 ,新星図書,沖縄,212―243.
名: 黒住耐二
411
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヒラセアツブタガイ
原始紐舌目 ヤマタニシ科
Platyrhaphe hirasei hirasei(Pilsbry, 1901)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は小型(殻径約9mm)で、螺管は細く、臍孔は広く開く。殻はやや薄質。殻表の縫合下はやや粗面となり、体
層には不規則な成長肋が顕著で、螺状肋は認められない。殻皮は黄褐色で、光沢はない。縫合は深く窪む。体層周縁
に角を持たない。殻口は全縁で、ほとんど肥厚せず、反転しない。蓋は石灰質で、厚い。生時は、殻表全体に泥を付
着させる。本亜種は、宮古・八重山両諸島に分布する別亜種とは、殻皮が黄褐色であること、体層に螺状肋を持たな
いことによって識別できる。本亜種は、沖縄島と周辺島嶼(久米島等)に分布し、やや自然度の高いシイ林の林床に
生息する。様々な開発による森林の破壊で、生息地が改変されており、特に沖縄島南部で生息地が著しく分断されて
いる。
原
記
参 考 文
執
筆
載: Pilsbry, H. A., 1901. New land shells from the Loo Choo Islands and Japan. Nautilus, 15 : 18―24.
献: 安里 進・上間康伸・安里はるみ,1969.渡嘉敷島の生物(I).Loochoo,2
(1)
:2―2―11.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., III : 127―149.
知念盛俊,1992.中城城跡と周辺の陸産貝類.“中城村史 第二巻 資料編1”,中城村役場,沖縄,238―
243.
者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ハダカアツブタガイ
原始紐舌目 ヤマタニシ科
Platyrhaphe hirasei nudus(Pilsbry & Hirase, 1904)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は小型(殻径約8mm)で、螺管は細く、臍孔は広く開く。殻はやや薄質。殻表の縫合下は粗面となり、体層に
は微細な螺状肋を持ち、黄白色で、光沢はない。縫合は深く窪む。体層周縁に角を持たない。殻口は全縁で、ほとん
ど肥厚せず、反転しない。蓋は石灰質で、厚い。生時は、殻表全体に泥を付着させる。本亜種は、沖縄・八重山両諸
島に分布する別亜種とは、殻高が高いこと、殻皮は黄白色であること体層の螺状肋が微細であることによって識別で
きる。本亜種は、宮古島と周辺島嶼(伊良部島等)に分布し、森林の林床に生息する。森林の様々な開発により、生
息地が改変されている。
原
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1904. Description of new snails of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat. Sci.
Phila., 56 : 616―638.
参 考 文 献: Chinen, M., 1976. Land shells of Miyako―jima and adjacent islands. Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., III :
89―94.
東 正雄・東 良雄,1984.宮古島の陸産貝類(予報)
.さつき,(20)
:85―98.
大原健司,1994.宮古諸島の陸産貝類相.かいなかま,28
(3)
:1―7.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヤエヤマヒラセアツブタガイ
原始紐舌目 ヤマタニシ科
Platyrhaphe hirasei yaeyamensis Kuroda, 1960
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は小型(殻径約9mm)で、螺管は細く、臍孔は広く開く。殻はやや薄質。殻表の縫合下は粗面で明瞭で平坦と
なり、体層には微細な螺状肋を持ち、淡黄褐色で、光沢はない。縫合は深く窪む。体層周縁に角を持たない。殻口は
412
貝類
全縁で、ほとんど肥厚せず、反転しない。蓋は石灰質で、厚い。生時は、殻表全体に泥を付着させる。本亜種は、沖
縄・宮古両諸島に分布する別亜種とは、殻高が低いこと、縫合下が平坦になること、殻皮は淡黄褐色であることに
よって識別できる。本亜種は、石垣島・西表に分布し、やや自然度の高い森林の林床に生息する。特に低地部の開発
により、生息地が改変されている。
原
参
執
記
載: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
考 文 献: 知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I).沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
波部忠重・知念盛俊,1974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―128,3pls.
知念盛俊,1990.西表島の陸産貝類.“平成元年度西表島崎山半島地域調査報告書”
,環境庁自然保護
局,東京,267―275.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
ミヤコゴマガイ
原始紐舌目 ゴマガイ科
Diplommatina (Sinica) immersidens Pilsbry & Hirase, 1904
なし
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
貝殻はこの属としては中型(殻高約3.
8mm)で、殻径はやや大きく(約1.
7mm)、俵型。螺塔は細く尖らず、幅広の
円錐形。体層は次体層より小さいが、ほぼ同等の大きさ。淡明褐色。殻表の成長肋は明瞭で、粗く規則的。殻口は、
円形で、内唇側の隅は丸い。緊線は体層のほぼ中央にあり、腔壁はやや長い。本種は、久米島に分布するクメジマゴ
マガイに類似するが、殻形が俵型で、殻表の成長肋が粗いことによって識別される。宮古島と周辺島嶼にのみ分布す
る。比較的自然度の高い森林の林床落葉下に生息するが、近年の開発で、生息場所の森林が消失・改変されて、個体
数は減少傾向にある。
原
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1904. Description of new snails of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat. Sci.
Phila., 56 : 616―638.
参 考 文 献: Ikehara, S., T. Abe, T. Omine, M. Chinen and M. Shimojana, 1977. Pleliminary study on forest floor macrofauna in the Ryukyu Islands. Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., III : 55―74.
湊 宏,1980.宮古群島の陸産貝類相.Venus,39
(2)
:83―99.
大原健司,1994.宮古諸島の陸産貝類相.かいなかま,28
(3)
:1―7.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ウオズミゴマガイ
原始紐舌目 ゴマガイ科
Diplommatina(Sinica)uozumii Minato, 1976
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻はこの属としては中型(殻高約3.
5mm)で、殻径はやや小さく(約1.
5mm)、短い紡錐形。螺塔は細く尖る。淡
明褐色。螺層には明瞭でやや板状に発達したやや粗く規則的な成長肋を持つ。殻口は、円形で、内唇側の隅はやや尖
り、肥厚し、反転する。軸唇に弱い1歯を持つ。体層の内部にある緊線と呼ばれる縦肋は体層正面の右側の殻口縁上
端部に位置する。腔襞と呼ばれる体層内部の横肋は短い。本種は、同じ与那国島に分布するヨナグニゴマガイに類似
するが、体層が次体層より極端に小さくならないことで識別できる。本種は、与那国島にのみ分布し、自然度の高い
森林の林床に生息する。森林の改変により生息が脅かされ、個体群密度は極めて低い。
原
参
記
載: 湊 宏,1976.与那国島の陸産貝類相.Venus,35
(4)
:163―184.
考 文 献: 湊 宏,1988.日本陸産貝類総目録.日本陸産貝類総目録刊行会,白浜,和歌山,x+294pp.
413
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
東 正雄,1995.原色日本陸産貝類図鑑 増補改訂版.保育社,大阪,xvi+343pp, +80pls.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
ヨナグニゴマガイ
原始紐舌目 ゴマガイ科
Diplommatina(Sinica)yonakunijimana Pilsbry & Hirase, 1909
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻はこの属としては中型(殻高約3.
2mm)で、殻径はやや小さく(約1.
4mm)、短い紡錐形。螺塔は細く尖る。淡
明褐色。螺層には明瞭でやや粗く規則的な成長肋を持つ。殻口は、円形で、内唇側の隅はやや尖り、肥厚し、反転す
る。軸唇に弱い1歯を持つ。体層の内部にある緊線と呼ばれる縦肋は体層正面の右側の殻口縁上端部に位置する。腔
襞と呼ばれる体層内部の横肋はやや長い。本種は、宮古諸島に分布するワキシメゴマガイに類似するが、体層の捻れ
やや弱く、螺塔が高く、成長肋が粗いことによって識別される。また、同じ与那国島に生息するウオズミゴマガイに
類似するが、体層が次体層より極端に小さくなることで識別できる。本種は、与那国島にのみ分布し、自然度の高い
森林の林床に生息する。森林の改変により生息が脅かされている。
原
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1909. New land Mollusca of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila.,
60 : 586―599.
参 考 文 献: 湊 宏,1976.与那国島の陸産貝類相.Venus,35
(4)
:163―184.
前田和俊・太田 秀・鹿野康裕・上島 励,1987.横須賀市自然博物館所蔵平瀬貝類標本目録( )陸
産貝類(2)前鰓亜綱,有肺亜綱(オナジマイマイ科を除く).横須賀市自然博物館資料集,(1
1)
:1―
71.
東 正雄,1995.原色日本陸産貝類図鑑 増補改訂版.保育社,大阪,xvi+343pp, +80pls.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ゴマガイ属の一種
原始紐舌目 ゴマガイ科
Diplommatina(Sinica)sp.
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
貝殻はこの属としては小型(殻高約2.
2mm)で、殻径はやや大きく(約1.
3mm)、俵型。螺塔は鈍角。体層は次体層
より僅かに小さい程度。淡橙褐色。殻表の成長肋はやや明瞭。殻口は、円形で、内唇側の隅はやや角張る。緊線は次
体層よりにあり、腔襞は長く、体層腹面の半分程度。リュウキュウゴマガイ等より、殻径が大きく、いわゆる腹太
で、緊線は次体層よりにあることで、琉球列島の種と識別できる。尖閣列島の黄尾嶼と魚釣島にのみ分布し、後者で
は野生化したヤギによる森林改変で今後減少する可能性もある。
原
参
考
執
筆
和
分
学
414
記
載: なし
献: Pilsbry, H. A., 1901. New land Mollusca from Japan and Loo Choo Islands. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 53 :
344―353.
知念盛俊,1979.尖閣列島の陸産貝類.沖縄生物学会誌,
(17)
:19―27.
者 名: 黒住耐二
文
名: コゲツノブエ
類: 新紐舌目 オニノツノ科
名: Cerithium coralium Kiener, 1841
貝類
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約3cm、細長い巻貝。殻表は3列の螺肋に縦肋が交わり顆粒状。殻口外唇は肥厚する。琉球列島における分布域
は、奄美大島、沖縄島(羽地内海、大浦湾、中城湾)、宮古島(島尻)、伊良部島(国仲入江)、石垣島(アンパル)、
西表島に形成される。内湾干潟中潮帯において陸水の影響の強い部位の礫まじり砂泥底に、局所的に個体群を形成す
る。いずれの生息地でも生息範囲が狭いため、護岸建設などの影響が懸念される。特に沖縄島では、すべての生息地
において、埋め立てや傾斜式護岸建設が計画されている。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
カヤノミカニモリ
新紐舌目 オニノツノ科
Clypeomorus bifasciata(Sowerby, 1822)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長1.
5∼2cm、紡錘形の巻貝。殻表は縦肋と螺肋が交わり顆粒状となる。産地によって殻型に変異が多い。琉球列
島における分布域は、奄美大島、徳之島、沖縄島、宮古島、伊良部島、石垣島、西表島に形成される。干潟中潮帯に
おいて陸水の影響下にあるサンゴ礫砂底や岩盤上を生息場所とする。沖縄県内での分布域は広く、もともと個体数の
多い種であるが、傾斜式護岸建設や養浜(人工ビーチ)
、埋め立てなどによる局所個体群の消滅が近年相次いでい
る。例えば、豊見城市与根干潟のカヤノミカニモリ個体群は、出島工法による埋立地造成後、生息域が残されたにも
かかわらず消滅した。このように、本種は琉球列島における干潟の環境指標種として有効である。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ミツカドカニモリ
新紐舌目 オニノツノ科
Clypeomorus pellucida(Hambron & Jacquinot, 1852)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約2cm、紡錘形の巻貝。殻表には強い縦肋をめぐらす。体層には、殻口外唇、左側、背側の3方向に縦張肋が張
り出し、三つ角状となる。琉球列島における分布域は、沖縄島、宮古島、伊良部島、西表島に不連続かつ局所的に形
成される。マングローブを伴う干潟中潮帯の礫底やヒルギの根元を生息場所とする。沖縄島3ヶ所(羽地内海饒平
名・呉我・大浦湾二見)、宮古諸島3ヶ所(島尻、与那覇湾・国仲入江)、西表島6ヶ所(仲間川河口・船浦など)に個
体群が形成されている。いずれの生息地でも生息範囲が狭いため、護岸建設などの影響が懸念される。特に沖縄島で
は、ミツカドカニモリのすべての生息地において、埋め立てや傾斜式護岸建設が計画されている。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
マルシロネズミ
腹足綱 新紐舌目 シロネズミガイ科
Vanikoro helicoidea(Le Guillou, 1842)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
415
貝類
形
態: 殻は本科中では大型、亜球形、明らかな臍孔を開口する。殻表は多数の微細螺条をめぐらし、灰白
色。殻径20mm程度。
近似種との区別: 類似種カゴメシロネズミは殻表に縮れた縦肋があることで区別される。
分 布 の 概 要: 県内全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 岩盤の下で殆ど移動せず、定在的生活を行い、雄性先熟で雄雌が同所的に生息し、成熟と共に緑がか
るドーム状の卵嚢を自ら生息する狭い空間の岩表面に産み付ける。
生 息 地 の 条 件: 潮通しの良いアマモ場やリーフ内の砂礫底にあるサンゴ塊や岩下に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島中北部や石垣島海域では上記生息場所に少なからず生息が認められるが、糸満市から北谷町に
かけての沖縄島西海岸のアマモ場については、これまでの埋め立てによって、生息海域自体が消失し
ている。
学術的意義・ 評 価: 遮蔽環境という特殊な生息生態を有することから、生態的に未知な点が多く、学術的に重要と考えら
れるが、生態に関する詳細な知見は皆無である。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立てによる生息場所の直接的な消失や陸土沈積や畜産排水流入による岩盤下の還元化等によ
り、生息環境自体が狭まる。また、遮蔽された生息環境は都市排水などによる富栄養化で還元し、貧
酸素状態となる場合が多く、都市部周辺を中心にこうした環境悪化が懸念される。
特 記 事 項: 類似の2種がアマモ場とリーフ上にそれぞれ分布し、分類学的課題が残っている。
原
参
執
記
考
筆
載: Le Guillou, 1842. Description de quelques especes nouvelles des genres Natica, Sigaret, et Ampullaire ; par
M. E. Le Guillou, Chirurgienpmajor de la Zelee. Revue Zoologique par la Societe Cuvierienne, 5 : 104―
105.
文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
イロタマキビ
新紐舌目 タマキビ科
Littoraria pallescens(Philippi, 1844)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻径2∼2.
5cm、円錐形の巻貝。周縁は強く角張る。殻色は黄色、黄白色、橙色、斑模様など変化に富む。琉球列島
においては沖縄島、宮古島、伊良部島、石垣島、西表島に分布。マングローブ林のヒルギ類の葉に付着する。ウズラ
タマキビやヒメウズラタマキビに比べて個体数が少ない。生息場所が安定したヒルギ群落中に限られるため、今後、
急減する可能性がある。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
タマキビ
新紐舌目 タマキビ科
Littorina brevicula(Philippi, 1844)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻径約1cm、ソロバン玉形の巻貝。殻表には5本内外の強い螺肋を巡らす。北海道∼九州と中国大陸沿岸に地理分布
を形成する温帯性種で、琉球列島における分布は沖縄島羽地内海および塩屋湾に局限される。有明海や黄海の個体が
殻径1.
5cm程になるのに対して、沖縄個体群は1cm以下と常に小型。高潮帯の転石や護岸などに群生する。羽地内海
では仲尾次∼呉我、塩屋湾では大保川河口付近が生息域の中心となっている。生息地の全域で傾斜式護岸建設工事が
進行しており、赤土堆積が著しいため、今後減少する可能性もある。羽地内海と塩屋湾のタマキビは、琉球列島唯一
の個体群として重要な研究対象である。
執
416
筆
者
名: 名和
純
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ゴマツボモドキ
腹足綱 新紐舌目 カワグチツボ科
Iravadia bella(A. Adams, 1853)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は薄質で小さく、円柱形、殻表は多数の微細な螺条を多数巡らす他は平滑で半透明淡黄褐色。殻長7
mm内外。
近似種との区別: 同属のニセゴマツボ、ミジンゴマツボとは大型で彫刻が弱いことで、ワカウラツボとはより殻が細長
いことで、区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄本島、八重山諸島。
生 態 的 特 徴: 埋没した石の下の閉鎖的な間隙に隠れ込む生態をもつ。
生 息 地 の 条 件: 泥礫干潟の石の下。
現在の生息状況: 沖縄島の生息地(豊見城市与根干潟等)は埋め立てにより減少し、石垣島周辺でも赤土の沈積による
石下の目詰まりにより環境が悪化し、生息場所が狭まっている可能性がある。
学術的意義・ 評 価: カワグチツボ科は干潟の様々な環境の石の下等に適応放散しており、陸水域への進出等の観点から進
化生態学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 埋め立てによる生息場所の消失、赤土微粒子沈積による石の下の環境悪化。
原
記
載: A. Adams, 1853. Descriptions of sixteen new species of Rissoina, a genus of marine Gastropodous Mollusca
from Cumingian collection. Proc. Zool. Soc. London, 19 : 264―267.
参 考 文 献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
マンガルツボ
腹足綱 新紐舌目 カワグチツボ科
Iravadia quadrasi(Boettger, 1902)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は厚質で小さく、縦長の卵球形、殻表は格子状彫刻を有し、殻色は白色だが、赤褐色の酸化鉄皮膜
を被ることが多い。最大殻長約3mm。
近似種との区別: 国内の他のカワグチツボ類とは明らかな格子状彫刻と太い殻形により区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄本島、八重山諸島。
生 態 的 特 徴: 繁殖や食性等詳しい生態は不明。
生 息 地 の 条 件: マングローブ周辺の干潟の泥上または石下。
現在の生息状況: 沖縄本島、石垣島周辺で赤土の沈積による石下の目詰まりや富栄養化で環境が悪化し、生息場所が減
少している。
学術的意義・ 評 価: カワグチツボ科は干潟の様々な環境の石の下等に適応放散しており、進化生態学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 埋め立て等による生息場所の消失、赤土微粒子沈積による環境の悪化。
原
載: Boettger, 1902. Zur Kenntnis der fauna der mittelmiocanen schichten von Kostej im Krasso―Szorenyer Komitat, II. Verhandlungen und Mitteilungen des Siebenbur-gischen Vereins fur Naturwissenschaften in Herrmannstadt, 51 : 1―200.
参 考 文 献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
記
名: ウミゴマツボの一種
類: 新紐舌目 ミズゴマツボ科
名: Stenothyra sp.
417
貝類
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長3mm以下、卵形の巻貝。殻は前後に偏圧され、殻口はすぼまり、円形。本州∼九州の内湾干潟にはStenothyra
edogawensisエドガワミズゴマツボが分布するが、琉球列島からはウミゴマツボの一種が沖縄島のみから知られてい
る。河口付近の干潟泥底を生息場所とする。沖縄島における生息地は、漫湖、中城湾の佐敷干潟と川田干潟、羽地内
海の呉我干潟の4箇所となっている。このうち漫湖では干潟全域に多産するが、他の生息地では個体群サイズが小さ
く、佐敷干潟と川田干潟では1999年以降、明らかに減少している。今後、絶滅リスクが高まる可能性がある。
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 名和
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol. 4.
純
マドモチウミニナ
新紐舌目 ウミニナ科
Telebralia sulcata(Born, 1778)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約5cm、紡錘形の巻貝。殻口は半月形。外唇は肥厚し、その下端は湾曲して水管を管状に閉じる。琉球列島にお
ける分布は沖縄島のみ。マングローブ林海側辺縁部を生息場所とする。沖縄島における生息域は、塩屋湾、羽地内
海、北部東海岸のマングローブ干潟に限定される。金武湾沿岸、中城湾、漫湖の海底堆積物中からは、本種の化石状
の殻が見出される。このことから、本種は、かつては沖縄島中南部まで分布していたが、地史的変遷にともない沖縄
島北部のみに分布域を縮小したと考えられる。いずれの生息地でも生息範囲は非常に狭い。すべての生息地におい
て、埋め立てや護岸建設が計画されているうえに、赤土の堆積が著しい。沖縄のマドモチウミニナ個体群は、今後、
絶滅リスクが急速に高まると考えられる。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヘナタリ
新紐舌目 フトヘナタリ科
Cerithidea cingulata(Gmelin, 1790)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長2∼3cm、細長い巻貝。体層の左側に太い縦肋があり、角張る。殻口底唇が突き出す。琉球列島における分布域
は、奄美大島、沖縄島、西表島に不連続に形成される。内湾干潟中潮帯において陸水の影響下にある泥砂底∼粗砂底
を生息場所とする。沖縄島では羽地内海、塩屋湾、大井川河口、大浦湾、中城湾(川田・泡瀬・佐敷)
、那覇市具志
∼豊見城与根、西表島では古見、船浦、仲良川河口に個体群を形成する。沖縄におけるヘナタリの生息域は、埋め立
てや緩傾斜護岸建設による急激な干潟環境破壊に伴い、明らかに狭められつつある。沖縄のヘナタリ個体群は、今
後、急速に衰退していく可能性がある。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
418
名: カワアイ
類: 新紐舌目 フトヘナタリ科
名: Cerithidea djadjariensis(Martin, 1899)
貝類
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長3∼4cm、細長い巻貝。殻表には3本の螺肋が縦溝で区切られた顆粒列をめぐらす。琉球列島における分布域は、
沖縄島と西表島に不連続に形成される。内湾干潟の中潮帯の泥砂底を生息場所とする。沖縄島では羽地内海、大井川
河口、大浦湾および久志大川河口、中城湾(川田・泡瀬・佐敷)
、那覇市具志∼豊見城与根、西表島では古見と仲良
川河口に個体群を形成する。生息域が特定の地域の内湾干潟に限られるために、近年の急激な干潟環境破壊に伴い個
体群が衰退してきている。沖縄島では、カワアイの現存産地の干潟すべてにおいて、埋め立てや護岸および養浜が計
画されている。すでに那覇市具志∼豊見城与根の個体群は、近年の埋め立ておよび道路建設により消滅寸前となって
いる。沖縄のカワアイ個体群は、今後、絶滅リスクが急速に高まると考えられる。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol. 4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
イボウミニナ
新紐舌目 ウミニナ科
Batillaria zonalis(Bruguière, 1792)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約3.
5cm、細長い巻貝。殻頂は尖る。殻表には縦肋をめぐらし、殻口外唇は湾入する。琉球列島では、沖縄島と
西表島のみに分布する。内湾干潟の中潮帯の砂底∼礫砂底を生息場所とする。沖縄島では羽地内海、塩屋湾、金武湾
(屋慶名)、中城湾(川田・泡瀬・佐敷)、那覇市具志∼豊見城与根、西表島では仲間川河口∼古見、船浦、仲良川河
口に個体群を形成する。生息域が特定の地域の内湾干潟に限られるために、近年の急激な干潟環境破壊に伴い個体群
が衰退してきている。例えば、豊見城市与根干潟のイボウミニナ個体群は琉球列島最大規模のものであったが、1998
年の埋め立てにより、個体群サイズは10分の1以下に縮小してしまった。沖縄島では、イボウミニナの現存産地の干
潟すべてにおいて、埋め立てや護岸および養浜が計画されている。そのため、沖縄のイボウミニナ個体群は、今後、
絶滅リスクが急速に高まると考えられる。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
オハグロガイ
腹足綱 新紐舌目 スイショウガイ科
Strombus urceus Linnaeus, 1758
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型で、やや角張った紡錘形、殻表は平滑で殻口外唇内壁が紫褐色に染まり、さらに多
数の襞を有する。殻色は灰白色の地に茶褐色の不定形斑紋を散らす。蓋は赤褐色で細い爪形。殻長4
0
mm内外。
近似種との区別: 近似種ムカシタモトは螺塔が低く、より小型で、殻口内が紫褐色に染まらないことから、区別され
る。
分 布 の 概 要: 沖縄島(主に金武湾、中城湾、羽地外海)、宮古、石垣、西表。
生 態 的 特 徴: アマモ場の海藻の間に紐状の卵嚢を産み付ける。藻食性。
生 息 地 の 条 件: 潮通しのよい内湾やリーフ内のアマモ場に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島の干潟では埋め立て等により、生息場所が減少し、石垣島・西表島でも、生息数は減少傾向に
ある。
学術的意義・ 評 価: 同種群はサンゴ礁リーフ内の様々な環境に適応放散し、中でも外洋∼内湾的なアマモ場の諸環境にそ
れぞれ特有の種類が見られ、生態学的に重要な研究素材である。また、主要分布の北限域にあたり、
動物地理学的に重要である。
419
貝類
生存に対する 脅 威: アマモ場埋め立て等による生息場所の直接的な消失や赤土の沈積による底質環境の悪化。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
載: Linnaeus, 1758. Systema naturae. ed. 10.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
名:
ー:
ネジマガキ
腹足綱 新紐舌目 スイショウガイ科
Strombus gibberulus Linnaeus, 1758
ティラジャー(マガキガイを含む総称)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや小型で、歪んだ紡錘形、殻表は平滑で褐色彩を飾る。殻の巻きが歪んで、殻軸が捻
れ、ねじれた螺管となる。蓋は赤褐色で細い爪形。殻長60mmに達する。
近似種との区別: 近似種マガキガイは螺塔が低く、殻口内が鮮やかな橙色であることから、区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域でみられるが、沖縄島では散在的である(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: アマモ場の海藻の間に紐状の卵嚢を産み付ける。藻食性。
生 息 地 の 条 件: 潮通しのよい干潟やアマモ場の中潮帯に生息する。
現在の生息状況: 本種は同科貝類の中で最も高潮位に生息する種の一つで、埋め立ての影響を受けやすいと考えられ
る。沖縄島の干潟では中南部を中心に埋め立てや底質の泥質化により、生息場所が減少し、石垣島・
西表島でも、陸土沈積等の底質悪化で生息数は減少している。
学術的意義・ 評 価: 同種群はサンゴ礁リーフ内の様々な環境に適応放散し、中でも外洋∼内湾的なアマモ場の諸環境にそ
れぞれ特有の種類が見られ、生態学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 干潟埋め立て等による生息場所の直接的な破壊や陸土沈積や富栄養化による藻場環境の悪化。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Linnaeus, 1758. Caroli Linnaei Systema naturae. Sweden, Iv+823pp.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
アラゴマフダマ
腹足綱 新紐舌目 タマガイ科
Naticarius onca(Röding, 1798)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、亜球形、殻表は平滑で、薄い褐色の殻皮に覆われる。殻の色彩は白地で、体層
において黒褐色の斑が5列に並ぶ。蓋は石灰質で半月型で多数の溝を有する。殻長30mm内外。
近似種との区別: 近似種モザイクタマガイはより小型で蓋に多数の溝を持たないことから、区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 貝食性、主に夜行性で、砂底を匍匐し、砂粒を付けた卵塊(通称砂茶碗)を産む。
生 息 地 の 条 件: やや開放的なアマモ場やリーフ内の砂底に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島のアマモ場・干潟では埋め立て等により、生息場所が減少し、石垣島・西表島でも、赤土沈積
などの底質悪化で生息数は減少している。
学術的意義・ 評 価: 同種群は砂底環境に多数種が適応放散し、貝類を専食する特有の摂食生態を持ち、進化学的、生態学
的に興味ある研究素材である。
生存に対する 脅 威: 干潟埋め立て等による生息場所の直接的な破壊や赤土等の沈積による砂底域の底質悪化。
原
420
記
載: Röding, 1798. Museum Boltenianum sive catalogus cimelorime tribus regnis naturae quae olim collegerat Joa.
Fried. Bolten, M. D. P. p. d. per XL. Annos Protophysicus Hamburgensis, Pars secunda contineus conchylia
貝類
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
sive tetacea univalvia, bivalbia et multivalvia. vii―199pp.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995,沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
ヒロクチリスガイ
腹足綱 新紐舌目 タマガイ科
Mammilla melanostmoides(Quoy and Gaimard, 1833)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、洋梨形、殻表は平滑だが、成長脈が粗い。生時は薄い淡黄色の殻皮に覆われる
が、死殻では剥がれやすい。殻の地色は白く、不明瞭な黒斑列が2列ある。蓋は革質で薄く、半月型。
殻長30mmに達する。
近似種との区別: 近似種ヌノメリスガイは殻が厚質で殻表に布目彫刻があり、ユキネズミガイは殻がより丸みを帯びて
膨らみ、軸唇が直線的で強いことで区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 貝食性、主に夜行性で、砂底を匍匐し、砂粒を付けた卵塊(通称砂茶碗)を産む。
生 息 地 の 条 件: 陸水流入箇所が隣接し、かつ潮通しのよい礫砂質の砂浜の汀線直下に生息する。
現在の生息状況: 元々多産する種ではないが、沖縄島では北部西岸域を中心に、種々の人工的海岸改変の影響等による
潮流の変化で河口付近を中心に汀線部の礫砂が洗い出され、流失している場合があり、生息場所自体
が減少している。
学術的意義・ 評 価: 同種群は砂底環境に多数種が適応放散し、貝類を専食する特有の摂食生態を持ち、進化学的、生態学
的に重要である。また、主要分布の北限域にあたり、動物地理学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 人工護岸や埋め立て等の沿岸域改変に伴われる海岸地形変化、特に汀線付近の礫砂の流失とそれに伴
う直接的な生息場所の消失。
原
参
執
記
考
筆
載: Quoy & Gaimard, 1832―1835. Voyage de Decouvertes de l’Astrolabe excute par ordre du Roi, Pendant les
anees 1826―1829. sous le commandment de M. J. Dumont d’urville. Zoologie : Mollusca.
文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ツツミガイ
腹足綱 新紐舌目 タマガイ科
Sinum haliotoideum(Linnaeus, 1758)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、扁平なマイマイ形、殻表は平滑で、黄褐色の殻皮に覆われる。殻は乳白色で、
殻口が非常に大きく開口する。蓋は革質で退化的で小さい。殻長40mm以下。
近似種との区別: 近似種ネコガイはより小型で、扁平にならないことから、区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 貝食性、主に夜行性で、砂中を埋在して匍匐し、砂粒を付けた卵塊(通称砂茶碗)を産む。
生 息 地 の 条 件: 干潟のアマモ場に隣接する細砂∼砂泥底に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島の干潟では中南部、特に糸満(与根、南浜)を中心に埋め立てにより、生息場所が著しく減少
した。
学術的意義・ 評 価: 同種群は砂底環境に多数種が適応放散し、貝類を専食する特有の摂食生態を持ち、進化学的、生態学
的に重要である。
生存に対する 脅 威: 干潟埋め立て等による生息場所の直接的な消失。
原
記
載: Linnaeus, 1758. Caroli Linnaei Systema naturae. Sweden, Iv+823pp.
421
貝類
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
名:
ー:
ホラガイ
腹足綱 新紐舌目 フジツガイ科
Charonia tritonis(Linnaeus, 1758)
ブラ、ブラゲー
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態:
近似種との区別:
分 布 の 概 要:
生 態 的 特 徴:
生 息 地 の 条 件:
現在の生息状況:
殻は大型で殻長40cmに達し、高い螺塔をもつ。殻表は光沢が強く、鮮やかな山鳥模様を飾る。
近似種ボウシュウボラとは体層に結節を欠くことから明瞭に区別される。
沖縄全域。
夜行性。棘皮動物(ヒトデ類)食。
外洋に面したリーフ内外のサンゴ礁のひさし下や隙間に生息する。
かつては比較的多産したが、殻が美しく、観賞用として高価に取り引きされ、乱獲により、著しく減
少した。浮遊期が長く、国外海域からの定着により、新規加入が期待できるが、少なくとも個体数は
激減しており、準絶滅危惧の要件に合致する。
学術的意義・ 評 価: 本種はサンゴ礁の代表的な大型巻貝であり、水産重要種であるが、幼生の着底機構などの発生生物学
的知見が乏しく、幼生飼育に関する研究が重要である。またオニヒトデの捕食者としての有用種とし
て取りざたされる特殊な捕食生態を有し、学術的に重要である。
生存に対する 脅 威: 収集目的の採集や潜水漁業等による乱獲。また、幼生の着底環境であるサンゴ礁浅海域の環境攪乱。
特 記 事 項: ヤコウガイなど他の水産有用種は人工種苗生産技術が確立しているが、本種は成功していない。日本
水産資源保護協会の日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料では減少種にランクづけされた(久
保,1995)。
原
参
執
記
載: Linnaeus, 1758. Caroli Linnaei Systema naturae. Sweden, Iv+823pp.
考 文 献: 久保弘文,1995.ホラガイ.“日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料( )平成6年度希少水生
生物保存対策試験事業”,(財)日本水産資源保護協会,88―92.
久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
ー:
イワカワトキワガイ
腹足綱 新紐舌目 ヤツシロガイ科
Malea pomum(Linnaeus, 1758)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本科中、小型で、卵球形、殻表は光沢が強く、多数の螺溝を刻み、淡褐色の地に白色の斑を散在
させる。殻口はやや広く、外唇内側に強い襞を有し、蓋はない。殻長約50mm∼80mm。
近似種との区別: 国内のヤツシロガイ科で殻口内唇に襞をもつ種は本種のみ。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 昼間は砂中に埋在するが、夜間は活発に匍匐し、ナマコ類を索餌する。
生 息 地 の 条 件: 主に大規模干潟のアマモ場やその周辺砂底の潮間帯下部に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島中南部の干潟を中心とした埋め立て等により、著しく生息場所が狭まった。浮遊期が長く、国
外海域からの定着により、新規加入が期待できるが、生息場所はかなり減少しており、準絶滅危惧の
要件に合致する。なお、本種は同科貝類中で最も浅い干潮時に干出するような場所に生息するため、
陸域からの影響を受けやすく、生息条件が悪化しやすいと考えられる。
学術的意義・ 評 価: 同種群は砂底環境に適応放散し、特有の摂食生態を持ち、進化学的、生態学的に学術的意義は大き
い。また、主要分布の北限域にあたり、動物地理学的に重要である。
422
貝類
生存に対する 脅 威: 干潟埋め立て等による生息場所の直接的な消失、富栄養化や赤土等沈積による砂質域の底質悪化。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Linnaeus, 1758. Caroli Linnaei Systema naturae. Sweden, Iv+823pp.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
ハブタエセキモリ
腹足綱 新紐舌目 イトカケガイ科
Epitonium lyra(Sowerby, 1844)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、円柱状の螺管を巻き上げた高円錐形、殻表には非常に繊細な縦肋を多数有し、
殻色は白色地に不明瞭な褐色帯をめぐらす。蓋は丸く、革質で黒色。殻長10mm内外。
近似種との区別: 近似種リュウキュウイトカケはより殻が大きく、螺塔が細いこと、色帯を欠くことから、区別され
る。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 夜行性、刺胞動物食。
生 息 地 の 条 件: やや外洋に面したアマモ場の浅く、岸寄りの砂泥底に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島の干潟、特に南部では埋め立てにより、生息場所が減少し、石垣島・西表島でも、浅瀬の環境
悪化で生息確認が困難な状況となっている。
学術的意義・ 評 価: 同種群は分類学的に不詳な種が多いが、特定の刺胞動物を寄生(専食)することで、多数の種に分化
したと考えられ、進化生態学的に重要である。また、沖縄周辺海域はその分布北限にあたり、動物地
理学的重要性がある。
生存に対する 脅 威: 干潟埋め立てによる生息場所の直接的な消滅や富栄養化や陸土沈積による還元化等の底質悪化。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
載: Sowerby, 1844. Descriptions of new species of Scaralia collected Hugh Cuming Esq. Proc. Zool. Soc. London,
12(132) : 10―31.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
名:
ー:
ヨウラクレイシガイダマシ
腹足綱 新腹足目
Cronia sp.
なし
準絶滅危惧(NT)
アッキガイ科
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は小型、太短く、角張った紡錘形、殻表は粗い格子状彫刻と縦張肋を有する。殻口は紫で外唇内側
に歯が並ぶ。殻長20mm内外。
近似種との区別: ヨウラクレイシダマシには2型あり、内湾の潮間帯の岩礫地に生息するタイプと外洋に面したサンゴ礁
の岩礫下に生息するタイプCronia fiscella(Gmelin, 1791)があるが、当掲載種は内湾タイプである。外
洋タイプは国内では稀であり、本和名は前者につくものと推定され、後者は新和名を当てるべきであ
ろう。
分 布 の 概 要: 沖縄本島北部(羽地内海、塩屋湾)、八重山(名蔵湾)等。
生 態 的 特 徴: 貝類を中心に捕食する肉食性。
生 息 地 の 条 件: 潮通しのよい内湾中潮帯の岩礫底に分布するが、生息場所は限定される。
現在の生息状況: 羽地内海等内湾の岩礫上は、赤土堆積や富栄養化等による還元化等で環境が悪化し、死滅している場
所もあり、生息数はかなり減少している。
学術的意義・ 評 価: ヨウラクレイシダマシ類は分類学的に不詳なタイプをいくつか包含し、種内変異や種分化を研究する
423
貝類
上で重要と考えられる。また、主要分布の北限域にあたり、動物地理学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立てによる生息場所の直接的な破壊や赤土沈積及び畜産排水などの流入による岩礫表面の環
境悪化。
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 久保弘文・黒住耐二,1995,沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
コガンゼキ
腹足綱 新腹足目 アッキガイ科
Chicoreus strigatus(Reeve, 1849)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや小型、角張った紡錘形、殻表は赤褐色の螺条を巡らし、棘を伴う縦張肋が発達す
る。蓋は革質、木葉型。殻長30mm内外。
近似種との区別: 近似種ガンゼキボラはより太短く、濃紫褐色で、縦張肋上の突起がより顕著であることから、区別さ
れる。
分 布 の 概 要: 沖縄全域。
生 態 的 特 徴: 微細な海藻の生える入り込んだ岩盤上で主に付着性二枚貝類を捕食していると考えられる。
生 息 地 の 条 件: 主に潮通しの良いモート内で、凹凸があり、かつ干出する岩盤上∼潮下帯の岩礫下に生息する。
現在の生息状況: かつて沖縄島の潮間帯岩礁域にはポピュラーな種であったが、南部から中部の西海岸において、埋め
立て等により、干出岩盤域が消失し、生息場、数ともに減少した。なお、沖縄市泡瀬沖に点在する干
出岩盤域には本種の豊かな生息場所がある。
学術的意義・ 評 価: 同科貝類は肉食で、サンゴ礁域の多様な環境に適応放散しており、進化学、生態学的に重要な種群で
あるが、本種はその中でも最も岸よりの岩盤域を生息圏とした特異な生態をもつ。また、主要分布の
北限域にあたり、動物地理学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て等による岩盤消失や護岸造成等による自然海岸岩礁域上部の攪乱。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
載: Reeve, 1849. Conchologica Iconica, figures and descriptions of the shells of molluscks ; with remarks on their
affinities, synonymy, and geographical distribution.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
イガムシロ
腹足綱 新腹足目 エゾバイ科
Hebra horrida(Dunker, 1847)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本科中、小型、亜球形、殻表は粗い縦肋と細かい螺条が交差し、暗褐色帯をめぐらす。殻口外唇
内側に多数の襞を刻む。殻長10mm程度。
近似種との区別: 近似種トゲムシロは殻表に光沢を有することで、区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 腐肉食性。
生 息 地 の 条 件: やや開放的な河口干潟の中潮線付近のアマモ場(コアマモ帯等)に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島、八重山の干潟では最も岸寄りに形成されることの多いコアマモ場を中心として、アマモ場環
境が悪化しており、生息数は減少している。
学術的意義・ 評 価: 本科貝類は腐肉食貝類としてサンゴ礁∼内湾域の多様な環境に適応放散して、5
0種以上が分化し、進
化学、生態学的に学術的意義のある種群である。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て等による生息場所の直接的な消失や赤土沈積及び生活排水などの流入による生息環境の
424
貝類
富栄養化などの底質悪化。また、主要分布の北限域にあたり、動物地理学的に重要である。
原
記
参 考 文
執 筆 者
載: Dunker, 1847. Diagnosus Buccinorum quorundam novorum. Zeitschr. F. Malac., 4 : 59―64.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
リュウキュウムシロ
新腹足目 ムシロガイ科
Zeuxis margaritifer(Dunker, 1847)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長2.
5cm内外の円錐形の巻貝。白色の地に黒褐色のまだら模様。殻表は小結節におおわれ、むしろ状。琉球列島で
は、奄美大島、沖縄島、久米島、石垣島、西表島に分布するが、産地は局所的である。礁池干潟の中潮帯において陸
水の滲出するサンゴ礫砂泥底を生息場所とする。なかでも、沖縄島浦添市港川干潟と読谷村宇座干潟には、大きな個
体群が形成されていたが、宇座干潟では人工ビーチ造成に伴う生息域の破壊によりリュウキュウムシロ個体群は消滅
した。また、港川干潟の生息域も埋め立てが計画されている。このように、海岸移行帯の破壊による局所個体群の消
滅が続いた場合、リュウキュウムシロの絶滅リスクは増加すると考えられる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
カニノテムシロ
新腹足目 ムシロガイ科
Pliarcularia bellula
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長1.
5cm内外の円錐形の巻貝。殻口の内唇の滑層が体層前面を覆い、カニのはさみのように見える。琉球列島で
は、奄美大島と沖縄島に分布する。石垣島と西表島には殻の背面がこぶ状に隆起するオオカニノテムシロが分布す
る。内湾干潟の中潮帯砂泥底を生息場所とする。沖縄島では大浦湾、塩屋湾、羽地内海、漫湖、与根干潟、中城湾に
個体群が形成されている。それぞれの個体群ごとに、殻の形態に特徴がある。与根干潟の個体群は、埋め立てに伴い
1998年までに消滅した。中城湾の佐敷干潟と泡瀬干潟の生息域は、埋め立てが予定されている。このように、沖縄島
のカニノテムシロ個体群は、干潟埋め立てに伴う局所個体群の消滅により、絶滅リスクが高まりつつある。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヤタテガイ(シロオビヤタテガイ)
腹足綱 新腹足目 フデガイ科
Strigatella scutulata(Gmelin, 1791)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は中型、やや太短い紡錘形、殻表はやや光沢があり、殻底と縫合下に十数の螺溝を有する。殻口は
白く、内唇軸に明瞭な4つの襞が並ぶ。殻長30mm内外。
近似種との区別: 沖縄産ヤタテガイ類中最大種で、体層に縞模様がほとんど無く、螺塔が高く延びる点で他種と区別さ
れる。
分 布 の 概 要: 沖縄島(豊見城市与根、糸満市真栄里、佐敷町、羽地内海)、八重山(川平湾)等、沖縄全域に散在的
425
貝類
に確認されている。
生 態 的 特 徴: 肉食性でホシムシ類を捕食すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: 内湾の岩礫底に分布するが、個体数が少なく、生息場所は限定される。
現在の生息状況: 内湾の海藻の生えた潮間帯岩礫地に分布するが、豊見城市、糸満市沿岸では生息地が埋め立てにより
消滅し、佐敷町沿岸、羽地内海では富栄養化等で岩盤上の底質環境が悪化した場所では確認が困難な
状況である。
学術的意義・ 評 価: 同種群は100種以上が熱帯域のアマモ場や岩礁性海岸に適応放散し、進化生態学や種多様性の研究素材
として重要である。なお、本土の内湾に生息するヤタテガイとは別種とする説もあり、学術的に重要
と考えられる。
生存に対する 脅 威: 同属貝類は沖縄周辺の潮間帯中部の岩盤上に多数生息しているが、本種はその中でも、外海水の影響
を受け、かつ内湾的な岩礁に生息し、埋め立てや底質悪化の影響を受けやすいと考えられる。
特 記 事 項: 熊本県レッドデータブックで絶滅危惧 類に位置づけられている。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Gmelin, 1791. Caroli a Linne Systema Naturae.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
クダボラ
腹足綱 新腹足目 クダボラ科
Turris crispa(Lamarck, 1816)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや大型で、細長い紡錘形、殻表は細い螺糸を多数めぐらし、白色の地に小褐色斑を散
在させる。水管は長く延び、蓋は木葉型。殻長40∼60mm内外。
近似種との区別: 本土に生息するミノボラはクダボラの一型とされるが、色彩がより鮮明で殻質が厚く、大成する事に
より区別され、生息水深も異なることから、別種の可能性がある。
分 布 の 概 要: 沖縄島(主に金武湾、中城湾、羽地外海)東海岸、一定規模以上のアマモ場のある先島諸島
生 態 的 特 徴: 多毛類を捕食すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: やや外洋に面したアマモ場の砂底に生息する。
現在の生息状況: 先島、沖縄島のアマモ場に生息するが、特に沖縄島では埋め立てによるアマモ場の消失で多くの生息
場所が消失した。
学術的意義・ 評 価: 同種群は小型から大型まで100種以上が熱帯域のアマモ場や砂質環境に適応放散し、進化生態学や種多
様性の研究素材として重要であり、本種はアマモ場に表徴的な種である。
生存に対する 脅 威: 埋め立てによる生息場所の直接的な消失や陸土沈積等によるアマモ場の環境攪乱。
原
参
執
記
載: Lamarck, 1816. Liste des objets representes. In Bruguiere(1782―1832).
考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
ー:
ツヤイモ
腹足綱 新腹足目 イモガイ科
Conus boeticus Reeve, 1844
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本科中やや小型、太短く、やや角張った倒立円錐形、殻表は毛羽立つ殻皮をまとい、殻表はほと
んど平滑で殻底付近にのみ顆粒を生じることがあり、色彩は赤褐色の2帯と1
0数本の褐色点列を有す
る。殻口は白く、蓋は退化的で小さい。殻長25mm内外。
近似種との区別: 本科貝類は殻の色彩パターンが種ごとに比較的安定しており、本種の場合、褐色点列により種判別が
426
貝類
比較的容易である。
分 布 の 概 要: 沖縄島中部(中城湾、金武湾、那覇∼北谷)、先島(宮古島、西表島)等。
生 態 的 特 徴: 肉食性。歯舌(縁歯)が特殊化した矢舌を発達させ、矢舌に毒嚢より貯留した毒を餌食に注射して麻
痺させ捕食する。
生 息 地 の 条 件: 内湾域の岩礫地の岩礫下に生息するが、生息場所は少ない。
現在の生息状況: 内湾の岩礫底に分布し、比較的還元した場所でも認められることがあるが、埋め立てにより生息場所
自体が減少し、生息確認の可能な場所が減少している。
学術的意義・ 評 価: イモガイ類は熱帯域において種多様性が高いが、本種は本土にも広く分布し、むしろ温帯性要素のあ
る種であり、生物地理学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て等による生息場所の直接的な消失や赤土・クチャの沈積及び富栄養化等による転石裏面
の環境悪化。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Reeve, 1849. Conchologica Iconica, figures and descriptions of the shells of molluscks ; with remarks on their
affinities, synonymy, and geographical distribution.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
スジイモ
腹足綱 新腹足目 イモガイ科
Conus figulinus Linnaeus, 1758
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、大型、太短く、倒立円錐形。殻皮はやや厚く、螺条状。殻は平滑で光沢があり、青灰色
の地に紫褐色の線状彩を多数めぐらす。殻口は白く、蓋は退化的で小さい。殻長80mm内外。
近似種との区別: 近縁種ダイミョウイモは殻色がより薄く、黄色みを帯び、より大型となることから、区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島、八重山。
生 態 的 特 徴: 肉食性。歯舌(縁歯)が特殊化した矢舌を発達させ、矢舌に毒嚢より貯留した毒を餌食に注射して麻
痺させ捕食する。
生 息 地 の 条 件: 河口付近のやや泥っぽい細砂底に分布するが、生息場所は限定される。
現在の生息状況: 1980年代は沖縄島南部や八重山で普通に見られたが、現在、河口付近の環境が様々な要因(陸土の沈
積、埋め立て、都市下水等)で攪乱され、生息数が大幅に減少した。
学術的意義・ 評 価: イモガイ類は熱帯域において種多様性が高いが、本種はその中でも河川水の影響を受ける河口域周辺
の砂泥域に主な分布域をもつ大型種で、生息圏が環境影響を受けやすい場所に形成される典型的なイ
モガイ類と考えられる。また、主要分布の北限域にあたり、動物地理学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 水質悪化、陸土沈積等による河口砂泥域の環境悪化。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Linnaeus, 1758. Caroli Linnaei Systema naturae. Sweden, Iv+823pp.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
ヤナギシボリタケ
腹足綱 新腹足目 タケノコガイ科
Acuminia penicillata(Hinds, 1844)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや小型で、細く高い螺塔を有し、殻表は光沢があり、乳白色で、縦の黒い縞模様(柳
絞り模様)を装う。殻長約40mmに達する。
近似種との区別: 近似種シマタケはより大成し、縞模様が直線的であり、区別される。
427
貝類
分 布 の 概 要:
生 態 的 特 徴:
生 息 地 の 条 件:
現在の生息状況:
沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
埋在性の虫型動物を捕食すると考えられる。
やや開放的な細砂底の汀線直下に生息するが、底質は特に清浄な場所に限られる。
インド・太平洋の熱帯海域に広く分布する種とされるが、その分布の中心はハワイなど大洋州諸国に
ある。沖縄では元来希少であると考えられるが、沖縄島糸満市南西岸の限られた砂浜には少なからず
生息が確認できた。しかし、その産地は埋め立ての影響により大幅に縮小した。現在、沖縄島では北
部の限られた海浜でごく希に見られるのみである。与那国島では田原川河口の延長線上にあるナンタ
浜において、清浄な底質の白砂海浜が発達し、本種をはじめ、多様なタケノコガイの生息する海域が
あったが、港湾造成のため、ケーソンがその海域に設置され、内側に陸域からの泥土が沈積し、生息
環境が消滅した(渡辺正夫氏私信)。
学術的意義・ 評 価: 同種群は砂底環境に多数種が適応放散し、進化学的、生態学的に重要である。また、主要分布の北限
域にあたり、動物地理学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 沿岸の埋め立て、砂質域の底質悪化。
特 記 事 項: 本種群は河口域に近接する細砂底に豊かな生息場所が形成され、陸土流入による泥質化や人工的海岸
改変による砂底消失で、本種のみならず種群全体的にみても生息条件が悪化している。今後、河口や
干潟のみならず、砂浜域の貝類についても生息数の減少等の実態をモニタリングしていく必要があ
る。
原
記
載: Hinds, R. B, 1844. On new species of Terebra ; Synopsis of the known species of Terebra. Proc. Zool. Soc.
London, 11(1843) : 149―168.
参 考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
土田英治,2000.タケノコガイ科.“日本近海産貝類図鑑”,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,6
68
―685.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
カエンタケ
腹足綱 新腹足目 タケノコガイ科
Terebra chlorata Lamarck, 1822
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや大型で、高い螺塔を有し、殻表はやや光沢に乏しく、白色の地に、縦の紫褐色の火
炎模様を散在させる。殻長50∼90mm内外。
近似種との区別: 近似種ゾウゲタケは黒褐色の点列、リュキュウタケは地の色が淡黄褐色であり、区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 埋在性の虫型動物を捕食する。
生 息 地 の 条 件: 本種は本科貝類中最も高い垂直的位置に生息する一種で、開放的な粗砂からなる海浜の中潮線付近に
生息する。
現在の生息状況: 生息環境が開放的な海浜の潮間帯中部の粗砂底を中心に形成され、種々の海岸域の人工的改変等によ
り、潮間帯中部の粗砂質の海浜が浸食されて、生息場所が消失している場合がある。特に沖縄島北西
岸では多くの海岸域が人工的に改変されており、生息場所の消失が少なくない。
学術的意義・ 評 価: 同種群は砂底環境に多数種が適応放散し、進化学的、生態学的に重要である。また、主要分布の北限
域にあたり、動物地理学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 沿岸域の人工的改変に伴う砂質海浜の浸食による生息場所の消失。
原
参
執
428
記
載: Lamarck, 1822. Histoire naturelle des animaux sans vertebres. 5―7.
考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
土田英治,2000.タケノコガイ科.“日本近海産貝類図鑑”,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,6
68
―685.
筆 者 名: 久保弘文
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
オオシイノミクチキレ
腹足綱 異旋目 トウガタガイ科
Milda ventricosa(Guerin, 1830)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、大型で、太短い滴型、殻表は薄い殻皮を被覆し、殻は平滑で白灰青色の地に灰黒色の火
炎及び斑状模様を有する。軸唇に強い3襞と殻口外唇内側に7襞をもつ。蓋は革質で三日月型。殻長
約30mm。
近似種との区別: シイノミクチキレ類は近縁種が多いが、本種は特に大型で殻表が平滑であり、区別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 本科貝類は歯舌をもたず、寄生性とされているが、本種の宿主については不明。
生 息 地 の 条 件: 大規模干潟のアマモ場や周辺の砂泥底に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島中南部では埋立て等により、アマモ場を中心とした生息場所が大きく消失し、本種の生息数も
著しく減少した。
学術的意義・ 評 価: 同種群は寄生性で小型から大型まで100種以上が熱帯海域に適応放散し、進化生態学や宿主特異性等の
研究素材として学術上重要であるが、その生態は殆ど知られていない。また、主要分布の北限域にあ
たり、動物地理学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 海浜干潟埋め立て等による生息場所の直接的な消失。
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
カヤノミガイ
腹足綱 頭楯目 オオシイノミガイ科
Pupa sulcata(Gmelin, 1791)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや大型で、卵形、殻表は薄い殻皮を被覆し、殻は灰白色の地に絣状の黒褐色彩を有
し、殻表は多数の細かい螺溝をめぐらす。蓋は革質で三日月型。殻長約10∼20mm。
近似種との区別: 近似の普通種コシイノミはより小型で細く、黒色の方形斑を有することで区別は容易である。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 食性、繁殖など詳細な生態はほとんど知られていない。
生 息 地 の 条 件: アマモ場周辺や内湾等の潮間帯砂底に生息する。
現在の生息状況: 先島のアマモ場周辺では少ないながら生貝が認められるが、沖縄島では死殻は散見されるが、生貝は
非常に少ない。
学術的意義・ 評 価: 同種群は熱帯域のアマモ場や砂質環境に生息しているが、分類学的、生態的にも研究知見が乏しいた
め、学術的研究の必要性がある。
生存に対する 脅 威: 海浜干潟埋め立てによる生息場所の直接的な破壊や底質の悪化。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Gmelin, 1791. Caroli a Linne Systema Naturae.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
ナガケシガイ
有肺目 オカミミガイ科
Carychium cymatoplax Pilsbry, 1901
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
429
貝類
殻は微小(殻高約1.
8mm)で、殻径は細い(約0.
6mm)、細長い円筒形、各層の膨らみは弱い。殻表は平滑で、光沢
を持ち、半透明白色。殻口は、肥厚・反転する。殻口軸唇に弱い一歯を持つ。本種は、琉球列島の各島の主に海岸部
等の低地に分布し、日本列島に分布するケシガイC. pessimumやニホンケシガイC. nipponenseに類似するが、各層の
膨らみが弱く、殻口外唇が張り出さないことや殻内の螺状板が強く波打つことによって識別できる。古代の砂丘遺跡
からは、本種が多く出土する場所が知られているが、現在の確認地域や個体数は比較的少ない。主に海浜部に生息し
ていたものが減少しているようである。
原
参
執
記
載: Pilsbry, H. A., 1901. New land shells from the Loo Choo Islands and Japan. Nautilus, 15 : 18―24.
考 文 献: Chinen, M., 1976. Land shells of Miyako―jima and adjacent islands. Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., II :
89―94.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., III : 127―149.
黒住耐二,1992.北大東島の陸産貝類.“沖縄県天然記念物調査シリーズ ダイトウオオコオモリ保護
対策緊急調査報告書”,沖縄県教育委員会,沖縄,(31)
:73―90
狩野泰則・後藤好正,1996.横浜市の陸産貝類.神奈川自然保全研究会報告書,(14)
:43―106.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
キヌメハマシイノミガイ
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Melampus sulculosus Martens, 1865
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本属中、大型で、縦にやや延びた卵球形、殻表には淡褐色の薄い殻皮をまとい、多数の微細な螺
条をめぐらす。殻色は黄褐色∼赤褐色で色帯をもつ個体もある。殻口外唇は薄く、内唇軸に強く明瞭
な1つの襞と弱い襞が2∼3個並び、外唇内側には細かい歯が多数並ぶ。殻長9∼14mm。
近似種との区別: 本土産の近似種キヌカツギハマシイノミはより殻幅が広く、小型である。また、本種ときわめて類似
した小型種トリコハマシイノミについては貝殻形態的に明確な区別が困難であり、分類学的検討が必
要と考えられる。
分 布 の 概 要: 沖縄島、先島のマングローブ林周辺の塩性湿地。
生 態 的 特 徴: 泥礫の隙間で生活し、礫や泥上の有機物等を摂食すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: マングローブ林や河口干潟の塩性湿地周辺の潮間帯上部に生息する。
現在の生息状況: 本種は沖縄島北部と先島のマングローブ林周辺の塩性湿地に生息し、沖縄島北部東岸や石垣島では多
産するところがあるが、その他では全域にわたって、産地、個体数とも減少している。こうした環境
は現在も護岸造成等で環境が改変される機会が多く、生息場所がさらに減少する傾向にある。特に沖
縄島南部の塩性湿地は埋め立て、護岸造成等で消失が著しい。
学術的意義・ 評 価: 本種群は熱帯太平洋に分布の中心があり、沖縄周辺はその分布北限で、生物地理学的に重要である。
また、生息環境が陸域と海域との境界に形成され、貝類の陸上進出の観点からも進化生物学的に重要
と考えられるが、詳細な研究が殆ど行われていない。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て、護岸造成等による塩性湿地の消失。
特 記 事 項: 本結果は場所により多産するトリコハマシイノミを包含させて考慮したため、準絶滅危惧とランクし
たが、より大成するタイプ(典型的なキヌメハマシイノミ)のみを扱う場合はより上位ランクに位置
づける必要がある。
原
参
執
430
記
載: Martens, 1865. Descriptions of new species of shells. Ann. Mag. Nat, hist. ser. 316 : 428―432.
考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
筆 者 名: 久保弘文
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
サカマキオカミミガイ
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Blauneria leonardi Crosse, 1872
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は微小で、縦に長い紡錘形で左巻、殻表は平滑で光沢があり、薄い淡黄緑色。殻口外唇は肥厚せ
ず、内唇軸に明瞭な垂直の襞が2個ある。殻長6mm以下。
近似種との区別: 特徴的な左巻の微小種で近縁種はない。
分 布 の 概 要: 沖縄島・先島のマングローブ林周辺の塩性湿地。
生 態 的 特 徴: 湿潤な環境の朽ちた木や泥上の有機物等を摂食すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: マングローブ林や河口干潟の塩性湿地周辺の潮間帯上部に生息する。
現在の生息状況: 本種は沖縄島と先島のマングローブ林周辺の限られた環境に局所的に生息しているが、特に沖縄島南
部の生息地が著しく消失し、個体数が減少している。
学術的意義・ 評 価: 本種群は熱帯太平洋に分布の中心があり、沖縄周辺はその分布北限で、生物地理学的に重要である。
また、生息環境が陸域と海域との境界に形成され、貝類の陸上進出の観点からも進化生物学的に重要
と考えられるが、詳細な研究が殆ど行われていない。
生存に対する 脅 威: 塩性湿地の埋め立て、護岸造成等による生息場所の消失。
原
記
載: Crosse, 1872. Description d’especes inedites provenant de la Nouvelle―Caledonie. J. Conch., 20 : 62―69 ; 218
―22, pls. 2, 13.
参 考 文 献: Franc, 1956. Mollusques terrestres et fluviatiles de L’archipel Neo―Caledonien. Mem. Mus. D’Histoire nat. A.,
8 : 1―200, 24pls.
増田 修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑2.ピーシーズ,東京,240pp.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヒラマキモドキ
基眼目 ヒラマキガイ科
Polypylis hemisphaerula(Benson, 1842)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻径約5mm、側面から見ると扁圧された台形の巻貝。周縁は角張らない。水田やため池を生息場所とし、クルマヒ
ラマキよりも止水的な水域に見られる。沖縄県内では、伊平屋島、沖縄島、宮古島、石垣島、西表島、与那国島に分
布する。1996年以降、まとまった個体数の確認された生息地は、伊平屋島田名池、沖縄島天願川下流域、宜野湾市宇
地泊、石垣島名蔵ブネラ湿原など。このうち、宜野湾市宇地泊と石垣島名蔵ブネラ湿原の生息域は、埋め立てにより
消滅した。与勝半島照間湿地の個体群は、湿地の埋め立てにより消滅寸前となっている(2
004年調査)。かつての水
田地帯の堆積物中からは、ヒラマキモドキの古い死殻が多量に見出されるが、現在は、開発から免れた本来的な低湿
地環境に断片的に生息地を残すのみとなっている。ヒラマキモドキは、沖縄島の低湿地の自然度を評価する指標種と
なり得る。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ヒラマキミズマイマイ
基眼目 ヒラマキガイ科
gyraulus chinensis Dunker, 1854
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻径約5mm、扁平な巻貝。周縁は弱く角張る。河川や流れのある湿地を生息場所とし、沈水植物(エビモやササバ
モ)の葉や小石に付着する。沖縄県内では、伊平屋島、沖縄島、石垣島、与那国島に分布。1996年以降、まとまった
431
貝類
個体数の確認された生息地は、伊平屋島田名川、天願川中流域、石垣島轟川中流域など。生息地は少なくないが、水
質の良好な改修工事の及んでいない河川に限られる。石垣島宮良川や名蔵川水系では、1990年代の農地基盤整備によ
る河川の直線コンクリート化とともに生息域の多くが失われた。ヒラマキミズマイマイは、河川の自然度を評価する
指標種となり得る。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
カワコザラの一種
基眼目 カワコザラガイ科
Laevapex sp.
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻径約3mm、笠形。殻は薄く、半透明。河川の淵や湧水の水底に沈んだリタ−(落ち葉)や水草に付着している。
沖縄県内では、伊平屋島、沖縄島、久米島、石垣島、西表島から見出されている。河川改修による淵やワンドの消
失、湧水のコンクリートによる改修、水質の悪化などにより生息域が狭められている。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ドロアワモチ
腹足綱 原始有肺目 イソアワモチ科
Onchidium hongkongensis Britton, 1984
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本属中、やや大型で、膨らんだナメクジ型。外套背面には疣状の突起が多数あって、中央背面部
の突起がより大きい。殻長50∼60mm。
近似種との区別: イソアワモチ、ヒメアワモチとは背面の疣がより大きいことで区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島および先島。
生 態 的 特 徴: 雌雄同体で泥上の微細な藻類や有機泥を摂食すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: マングローブ林や河口干潟の塩性湿地周辺の潮間帯上部に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島および先島に広く分布するが、生息場所は局所的であり、特に沖縄島中南部では1
990年代に普
通に見られた場所でも、現在は埋め立て等で消失した産地が多い。
学術的意義・ 評 価: 原始的な有肺類として、進化系統学的に非常に重要な種群であるが、近年、ようやく研究が緒に付い
てきたばかりであり、今後、学術的にいっそう重要視される可能性が高い。
生存に対する 脅 威: 塩性湿地の埋め立て、護岸造成等による生息場所の消失。
特 記 事 項: 愛媛県レッドデータブックで絶滅危惧 類、熊本県レッドデータブックで絶滅危惧 A類にランクづ
けされている。
原
参
執
和
分
学
432
記
考
筆
文
者
載: Britton, 1984. The Onchidiacea of Hong Kong with a worldwide review of the genera. Journal of Molluscan
Studies, 50 : 179―191.
献: 同上
名: 久保弘文
名: ダイトウジマスナガイ
類: 有肺目 サナギガイ科
名: Gastrocopta(Sinalbinula)armigerella daitojimana Kuroda, 1960
貝類
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
殻は微小(殻高約1.
8mm)で、殻径はやや太い(約0.
9mm)、卵形で、螺塔は高い。殻表は平滑で、やや光沢を持
ち、半透明白色。殻口は、肥厚・反転し、殻口内に多数の歯を持つ。本種は、南大東島から記載され、南北大東島の
比較的自然度の高い森林の林床に生息する。琉球列島にも広く分布するスナガイG.(S.)a. armigerellaとは、殻が短
く、縫合が浅く、下軸歯が二分される傾向が強い。森林の伐採で、減少している。
原
参
執
記
載: 黒田徳米,19
60.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
考 文 献: 湊 宏,1988.日本陸産貝類総目録.日本陸産貝類総目録刊行会,白浜,和歌山,x+294pp.
黒住耐二,1992.北大東島の陸産貝類.“沖縄県天然記念物調査シリーズ ダイトウオオコオモリ保護
対策緊急調査報告書”,沖縄県教育委員会,沖縄,(31)
:73―90.
東 正雄・東 良雄,1994.大東島の陸産貝類相.Venus, 53
(3)
:161―173.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
リュウキュウキセルモドキ
有肺目 キセルモドキ科
Luchuena eucharista luchuana(Pilsbry, 1901)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
貝殻は中型(殻高約2
3mm)で、殻径はやや細く(約6mm)、やや高い円錐形で、螺層数は多い。螺層の膨らみは弱
い。臍孔は裂け目状。やや薄質。殻表はほぼ平滑で、弱い光沢を持ち、淡紅褐色の地に黄白色の火炎彩を持つ。久米
島・石垣島・西表島・与那国島に分布し、久米島の個体群に関しては、詳細な分類学的な検討が必要であると考えら
れる。なお、宮古諸島の伊良部島からも本種が報告されているが、誤記の可能性が高い。自然度の高い森林の樹幹に
生息する。与那国島以外では、低密度であり、高密度であった与那国島でも減少が顕著である。
原
参
記
載: Pilsbry, H. A., 1901. Notices of new Japanese land snails. Nautilus, 14 : 127―129.
考 文 献: 黒田徳米,1945.キセルモドキ属に就いて.Venus,14
(1―4)
:43―62,1pl.
知念盛俊,1
976.陸産貝類. 生態写真集 沖縄の生物 ,新星図書,沖縄,212―243.
湊 宏,1976.与那国島の陸産貝類相.Venus,35
(4)
:163―184.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
キカイキセルモドキ
有肺目 キセルモドキ科
Luchuena reticulata(Reeve, 1849)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は中型(殻高約2
0mm)で、殻径はやや太く(約9mm)、紡錘形で、螺層数は多い。螺層の膨らみは弱い。臍孔
は裂け目状。やや厚質。殻表はほぼ平滑で、ほとんど光沢を持たない。淡黄褐色の地に白色の火炎彩を持つが目立た
ない。喜界島・沖永良部島・与論島・沖縄島およびその北西部の古宇利島等に分布し、沖縄島では北西の海岸部に生
息が限られる。沖縄島の大型個体群はマダラキカイキセルモドキL. r. variegataとして識別されることもあるが、沖縄
島にも小型の個体群も存在し、変異は連続的と考えられ、区別の必要はないと思われる。やや自然度の高い風衝林の
樹幹に生息する。道路整備等による環境改変や採集圧によって減少が顕著である。
原
参
記
考
文
載: Reeve, L. A., 1849. Conch. Icon., no. 443.
献: 知念盛俊,1976.陸産貝類. 生態写真集 沖縄の生物 ,新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., III : 127―149.
湊 宏,1995.古宇利島の陸産貝類.ちりぼたん,26
(2)
:44―48.
433
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
センカクコギセル
有肺目 キセルガイ科
Euphaedusa senkakuensis Kuroda, 1960
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は小型(殻高約1
3mm)で、殻径はやや細く(約3mm)、細長い塔型で、殻頂部へ緩やかに細まる。やや薄質。
殻は暗褐色で、殻表には明瞭で細かい成長肋を密に持ち、やや光沢を持つ。殻口は洋梨形で、やや歪み、殻口縁はや
や薄く、殻口内の上板と下軸板は明瞭で強く、下板はほとんど見えない。体層内部側面の腔襞では、主襞はやや短
く、月状襞を欠き、短い上腔襞を持つ。尖閣諸島の魚釣島と南小島にのみ分布し、自然度の高い森林の林床に生息す
る。野生化したヤギによる森林破壊により、個体数の減少が懸念される。
原
参
執
記
載: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
考 文 献: 知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
知念盛俊,1976.尖閣列島の陸産貝類.沖縄生物学会誌,(17)
:19―27.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
スターンズギセル(スタアンズギセル)
有肺目 キセルガイ科
Euphaedusa stearnsii stearnsii(Pilsbry, 1894)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は中型(殻高約2
3mm)で、殻径はやや細く(約4.
5mm)、細長い塔型で、殻頂部へ緩やかに細まる。やや薄
質。殻は明褐色で、殻表には明瞭で細かい成長肋を密に持ち、やや光沢を持つ。殻口は洋梨形で、歪まず、殻口縁は
やや薄く、殻口内の上板と下軸板は明瞭で強く、下板はほとんど見えない。体層内部側面の腔襞では、主襞・上腔襞
はやや短く、下腔襞は不明瞭。石垣島にのみ分布し、自然度の高い森林の林床に生息する。各種の開発により、森林
が伐採され、生息地が減少している。
原
参
執
記
載: Pilsbry, H. A., 1894. Notices of new Japanese mollusks. Nautilus, 8(4) : 47―48.
考 文 献: 波部忠重・知念盛俊,1974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―1
28,3pls.
知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
湊 宏,1994.日本産キセルガイ科貝類の分類と分布に関する研究,Venus, suppl.,(2)
:1―212,5tables,74pls.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
イリオモテコギセル
有肺目 キセルガイ科
Euphaedusa stearnsii iriomotensis Kuroda, 1960
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は中型(殻高約2
0mm)で、殻径は細く(約3.
9mm)、細長い塔型で、殻頂部へ緩やかに細まる。やや薄質。殻
434
貝類
は暗褐色で、殻表には明瞭で細かい成長肋を密に持ち、やや光沢を持つ。殻口は洋梨形で、歪まず、殻口縁は厚く、
殻口内の上板と下軸板は明瞭で強く、下板はほとんど見えない。スターンズギセルと同種とされることもあり、小型
で、殻口がやや小さく、丸みを帯び、口縁が肥厚すること等で区別される。西表島にのみ分布し、自然度の高い森林
の林床に生息する。各種の開発により、森林が伐採され、生息地が減少している。
原
記
参 考 文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: 黒田徳米,1
960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
献: 知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I).沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
知念盛俊,1976.陸産貝類. 生態写真集 沖縄の生物 ,新星図書,沖縄,212―243.
知念盛俊,1990.西表島の陸産貝類.“平成元年度西表島崎山半島地域調査報告書”
,環境庁自然保護
局,東京,267―275.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
ツヤノミギセル
有肺目 キセルガイ科
Hemizaptyx polita(Kaüfel, 1930)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
殻は小型(殻高約1
0.
5mm)で、殻径はやや細い(約2.
0mm)、細長い塔型で、螺塔は緩やかに細まり、細く尖る。
やや堅固。殻は黄褐色で、殻表は平滑に見え、光沢を持つ。殻口は細長く、殻口縁の肥厚はやや弱い。殻口内の上板
は明瞭で、下板は見えず、下軸板は殻口縁に出現する。体層内部側面の腔襞では、主襞は長く、その端部が殻口から
見え、上腔襞は短く月状襞に連続する。石垣島・西表島・与那国島の3島のみの比較的自然度の高い森林の倒木下に
生息する。森林の改変により、生息地の環境が悪化している。
原
参
記
載: Kaüfel, F., 1930. Beitrag zur Kenntnis der zaptychoiden Phaedusinen. Arch. Moll., 2 : 51―55.
考 文 献: 波部忠重・知念盛俊,1974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―128,3pls.
湊 宏,1976.与那国島の陸産貝類相.Venus,35
(4)
:163―184.
知念盛俊,1990.西表島の陸産貝類.“平成元年度西表島崎山半島地域調査報告書”
,環境庁自然保護
局,東京,267―275.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
タカラノミギセル
有肺目 キセルガイ科
Hemizaptyx takarai(Kuroda, 1960)
なし
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
殻は小型(殻高約1
2mm)で、殻径はやや細い(約2.
6mm)、細長い塔型で、螺塔は緩やかに細まり、細く尖る。や
や薄質。殻は赤褐色で、殻表には明瞭な成長肋を持ち、特に殻口付近で粗くなる。殻口は細長く、上部で強く括れ、
殻口縁の肥厚はやや弱い。殻口内の上板は見えづらく、下板も見えず、下軸板は殻口縁に出現する。体層内部側面の
腔襞では、主襞はやや短く、上腔襞は短く月状襞に連続する。尖閣諸島の魚釣島にのみ分布し、比較的自然度の高い
森林の倒木下に生息する。野生化したヤギによる森林の改変により、生息地の環境が悪化している。
原
参
記
載: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄.iv+1―104pp.
考 文 献: 知念盛俊,1976.尖閣列島の陸産貝類.沖縄生物学会誌,17:19―17,pl.1,f.6.
湊 宏,1985.日本産陸棲貝類の生殖器の研究−XXIII.キセルガイ科
(9)
: ピントノミギセル属の4
種.Venus, 44
(4)
:278―284.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
435
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
ニセノミギセル
有肺目 キセルガイ科
Parazaptyx thaumatopoma(Pilsbry, 1905)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
殻は小型(殻高約10mm)で、殻径はやや細い(約2.
4mm)、細長い塔型で、螺塔は緩やかに細まり、初期層は尖
る。やや薄質。殻は濃紫褐色で、殻表には明瞭で細かく規則的な成長肋がある。殻口内の上板は明瞭で、下板はほぼ
見えず、下軸板は殻口縁に出現する。体層内部側面の腔襞では、主襞は長いが、上腔襞は短く、月状襞に連続しな
い。閉弁に板状突起を持つことが沖縄のキセルガイ科の中で特異である。沖縄島と附属島嶼を除く沖縄諸島の森林に
生息し、特に林縁で密度が高い。森林伐採により、個体数が減少している。
原
参
執
記
載: Pilsbry, H. A., 1905. New Clausiliidae of the Japanese Empire, X. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 56 : 809―838.
考 文 献: Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., III : 127―149.
黒住耐二,1981.慶良間列島座間味村の陸産貝類相.沖縄生物学会誌,(19)
:47―51.
上門清春,1
991.古宇利島の倍脚類と陸産貝類について.
“沖縄県立博物館総合調査報告書,古宇利
島”,VIII:7―14.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ミカヅキノミギセル
有肺目 キセルガイ科
Selenoptyx noviluna(Pilsbry, 1908)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は小型(殻高約9.
3mm)で、殻径はやや太く(約2.
4mm)、細長い塔型で、螺塔は緩やかに細まる。やや堅固。
殻は明褐色で、殻表は平滑で、やや光沢を持つ。殻口縁は厚く、殻口内の上板は明瞭だが、下板は見えず、下軸板は
弱く、殻口縁に出現する。体層内部側面の腔襞では、主襞は長く、上腔襞と月状襞は連続して、短く、緩やかに逆三
日月状にカーブする。主襞と月状襞の端部では、前者の方が背面側に伸びる。殻形と腔襞の形態および分布域で同属
のサカヅキノミギセルと区別できる。伊平屋島の比較的自然度の高い森林の主に林縁部の倒木下に生息する。森林の
改変により、生息地の環境が悪化している。
原
参
執
和
分
学
436
記
載: Pilsbry, H. A., 1908. New Clausiliidae of the Japanese Empire, XI. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 59 : 499―513.
考 文 献: 知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
知念盛俊・治井正一,1
976.伊平屋島・伊是名島の陸・淡水貝類(予報)
.沖縄生物教育研究会誌,
(9)
:37―43.
魚住賢司・山本愛三・品川和久・反田栄一,1
980.サカヅキノミギセルZaptyx(Selenoptyx)inversiluna
とミカヅキノミギセルZaptyx(Selenoptyx)novilunaの比較研究.九州の貝,(15)
:5―12.
筆 者 名: 黒住耐二
名: オキナワギセル
類: 有肺目 キセルガイ科
名: Phaedusa valida valida(Küster, 1847)
貝類
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は中型(殻高約3
0mm)で、殻径はやや太く(約7.
3mm)、細長い塔型で、成貝になると螺塔を自ら脱落させ
る。やや堅固。殻は明褐色で、殻表には明瞭で細かい成長肋を密に持ち、光沢はない。殻口縁は薄く、殻口内の上
板・下板・下軸板は明瞭で、強い。体層内部側面の腔襞では、主襞は短く、月状襞を欠き、短く同程度の長さの上腔
襞と下腔襞を持つ。沖縄島の本部半島と中・南部に分布し、北部には別亜種のスジイリオキナワギセル(フイリオキ
ナワギセル)P. v. fasciataが分布する。活動期には、樹幹で見られる樹上性種である。卵胎生。生息地の改変や周辺
の森林伐採で、生息環境が悪化している。
原
記
載: Küster, H. C., 1847. Die Guttung Clausilia. Systematisches Conchylien―Cabinet von Martini and Chemnitz, 1
(14) : 1―355.
参 考 文 献: Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., III : 127―149.
湊 宏,1994.日本産キセルガイ科貝類の分類と分布に関する研究,Venus, suppl.,(2)
:1―212,5tables,74pls.
久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
サキシマノミギセル
有肺目 キセルガイ科
Tyrannozaptyx adulta Kaüfel, 1930
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
殻は小型(殻高約1
0mm)で、殻径はやや細い(約2mm)、細長い塔型で、螺塔は緩やかに細まり、細く尖る。やや
堅固。殻は黄褐色で、殻表は平滑に見え、やや光沢を持つ。殻口上部はやや括れ、殻口縁は厚く肥厚する。殻口内の
上板は明瞭で、下板は見えず、下軸板は殻口縁に出現する。体層内部側面の腔襞では、主襞は長く、上腔襞は短く月
状襞に連続し、T字形になる。石垣島と西表島のみの比較的自然度の高い森林の主に林縁部の倒木下に生息する。森
林の改変により、生息地の環境が悪化している。
原
参
記
載: Kaüfel, F., 1930. Beitrag zur Kenntnis der zaptychoiden Phaedusinen. Arch. Moll., 2 : 51―55.
考 文 献: 波部忠重・知念盛俊,1974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―128,3pls.
知念盛俊,1976.陸産貝類. 生態写真集 沖縄の生物 ,新星図書,沖縄,212―243.
知念盛俊,1990.西表島の陸産貝類.“平成元年度西表島崎山半島地域調査報告書”
,環境庁自然保護
局,東京,267―275.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヨワノミギセル
有肺目 キセルガイ科
Tyrannozaptyx deminuta Kaüfel, 1930
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
殻は小型(殻高約1
0mm)で、殻径はやや細い(約2mm)、細長い塔型で、螺塔は緩やかに細まり、細く尖る。殻口
上部はやや括れ、殻口はサキシマノミギセルとほぼ同様。体層内部側面の腔襞では、主襞は長く、上腔襞は短く月状
襞に連続し、フ字形になる。石垣島と西表島のみの比較的自然度の高い森林の主に林縁部の倒木下に生息する。森林
の改変により、生息地の環境が悪化している。
原
記
載: Kaüfel, F., 1930. Beitrag zur Kenntnis der zaptychoiden Phaedusinen. Arch. Moll., 2 : 51―55.
437
貝類
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I).沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
波部忠重・知念盛俊,1974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―1
28,3pls.
知念盛俊,1990.西表島の陸産貝類.
“平成元年度西表島崎山半島地域調査報告書”
,環境庁自然保護
局,東京,267―275.
名: 黒住耐二
名: ダイトウノミギセル
類: 有肺目 キセルガイ科
名:Zaptyx daitojimana Kuroda, 1960
ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
殻は小型(殻高約8mm)で、殻径はやや太い(約1.
9mm)、細長い塔型で、螺塔は緩やかに細まり、太短い。やや堅
固。殻は黄褐色で、殻表は平滑に見え、やや光沢を持つ。殻口内の上板は明瞭で、下板は奥部に位置するが比較的明
らか。下軸板は殻口縁に出現する。体層内部側面の腔襞では、主襞・上腔襞はやや長く、下部で月状襞に連続し、下
腔襞を欠く。主襞の上に2つの縫合襞がある。南北大東島において比較的自然度の高い崖下(はぐした)等の森林の
落葉下等に生息する。森林の伐採により乾燥化が進み、生息地の環境が悪化している。
原
参
執
記
載: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄.iv+1―104pp.
考 文 献: 黒住耐二,1992.北大東島の陸産貝類.“沖縄県天然記念物調査シリーズ ダイトウオオコオモリ保護
対策緊急調査報告書”,沖縄県教育委員会,沖縄,(31)
:73―90.
湊 宏,1994.日本産キセルガイ科貝類の分類と分布に関する研究,Venus, suppl.,(2)
:1―212,5tables,74pls.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
トクノシマベッコウ
有肺目 ベッコウマイマイ科
Nipponochlamys subelimatus(Pilsbry & Hirase, 1904)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 情報不足(DD)
貝殻は小型(殻径約4mm)で、殻高はやや高く(約2.
5mm)、円盤形で、螺層数は多く、最終層は急激に広くならな
い。螺塔は僅かに突出し、螺層の膨らみはやや強い。体層周縁には角を持たない。螺層上面には、やや粗く規則的な
皺を持ち、光沢はなく、縫合は窪む。体層底面は、ほぼ平滑で、光沢を持ち、黄褐色、臍孔は狭く開く。奄美・沖縄
両諸島のシイ林等の自然度の高い森林の林床に生息する。各地で個体数は少ない。なお、宮古諸島から本種として報
告されている種は、螺層部に皺を持たない別種である。
原
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1904. Description of new land snails of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat.
Sci. Phila., 56 : 616―638.
参 考 文 献: Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., III : 127―149.
黒住耐二,1981.慶良間列島座間味村の陸産貝類相.沖縄生物学会誌,(19)
:47―51.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
438
記
名: トクノシマベッコウ類似種
類: 有肺目 ベッコウマイマイ科
貝類
学
名: Nipponochlamys sp. cf. subelimatus(Pilsbry & Hirase, 1904)
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
貝殻は小型(殻径約4mm)で、トクノシマベッコウとほぼ同様な殻形態を持つが、螺層上面は平滑で、皺を持た
ず、縫合もやや浅い。殻色もより明るく、殻全体に光沢を持つ。宮古島のやや自然度の高い森林の林床に生息する。
近年急激に個体数を減少させているようである。
原
参
執
記
載: なし
考 文 献: Chinen, M., 1976. Land shells of Miyako―jima and adjacent islands. Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., II :
89―94.
湊 宏,1980.宮古群島の陸産貝類相.Venus,39
(2)
:83―99.
東 正雄,1995.原色日本陸産貝類図鑑 増補改訂版.保育社,大阪,xvi+343pp, +80pls.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
グードベッコウ(グゥドベッコウ)
有肺目 ベッコウマイマイ科
Takemasaia gudei(Pilsbry, 1901)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は中型(殻径約9mm)で、殻高はやや高く(約6mm)、やや高い円錐形で、螺層数は多い。螺層の膨らみはやや
強く、体層も良く膨らみ、体層周縁に弱いが明瞭な角を持つ。臍孔は狭い。やや厚質。殻表はほぼ平滑で、強い光沢
を持ち、濃褐色。奄美大島・徳之島・沖縄島北部に分布し、沖縄島北部では辺戸石山や嘉津宇岳等の石灰岩地では比
較的個体数が多いが、シイ林では極めて低密度である。森林の伐採によって、個体数が急激に減少する可能性が高
い。
原
記
載: Pilsbry, H. A., 1901. New land Mollusca from Japan and Loo Choo Islands. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 53 :
344―353.
参 考 文 献: 東 正雄・湊 宏,1976.奄美群島産グウドベッコウの生殖器と歯舌について.Venus,35
(1)
:1―4.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., III : 127―149.
東 正雄,1982.原色日本陸産貝類図鑑.保育社,大阪,xv+333pp, +64pls.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
イッシキマイマイ
有肺目 ナンバンマイマイ科
Satsuma(Satsuma)caliginosa caliginosa(Adams & Reeve, 1850)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は中型(殻径約3
5mm)で、殻高はやや低く(約25mm)、螺塔もやや低く、やや厚質。体層周縁は丸く、この部
分に色帯を持つ。成貝の殻口下部に傷状の平坦部を持ち、臍孔は小さく、さらに軸唇によって大きくふさがれる。石
垣島と西表島の自然度の高い森林の林床に生息する。殻口下部に傷状の平坦部を持つことによって、同亜属の他種と
識別できる。各種の開発により、森林が伐採され、生息地が減少している。
原
参
記
考
文
載: Adams, A. and L. A. Reeve, 1850. Mollusca. In The Zoology of the Voyage of H. M. S. Samarang,
under the command of captain Sir E. Belcher, 1843―1846.
献: 知念盛俊,1970.八重山の陸産貝類( ).沖縄生物教育研究誌,(4)
:26―30.
波部忠重・知念盛俊,1974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―128,3pls.
439
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
奥谷喬司・波部忠重,1
975.学研中高生図鑑
社,東京,294pp.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
貝[二枚貝・陸貝・イカ・タコほか].学習研究
ヨナグニマイマイ(ヨナクニマイマイ)
有肺目 ナンバンマイマイ科
Satsuma(Satsuma)caliginosa picta(Pilsbry & Hirase, 1909)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は中型(殻径約28mm)で、殻高はやや高く(約23mm)、やや厚質。体層周縁は丸く、この部分に色帯を持ち、
通常その上下に幅広い赤褐色の色帯がある。成貝の殻口下部に傷状の平坦部を持つが弱い。臍孔は小さく、さらに軸
唇によって大きくふさがれる。与那国島の自然度の高い森林の林床に生息する。殻高が高く、殻口下部に傷状の平坦
部を持ち、しかし弱いことによって、同亜属の他種と識別できる。各種の開発により、森林が伐採され、生息地が減
少している。
原
記
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1909. New land Mollusca of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila.,
60 : 586―599.
参 考 文 献: 知念盛俊,1976.陸産貝類. 生態写真集 沖縄の生物 ,新星図書,沖縄,212―243.
湊 宏,1976.与那国島の陸産貝類相.Venus,35
(4)
:163―184.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
タダマイマイ
有肺目 ナンバンマイマイ科
Satsuma(Satsuma)tadai(Kuroda, 1960)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は左巻きで、小型(殻径約20mm)で、殻高はやや高く(約14mm)、やや厚質。体層周縁は丸く、この部分に色
帯を持ち、通常その上下に幅広い赤褐色の色帯がある。殻は黄褐色。臍孔はやや広く開く。左巻きで、小型、螺塔が
高いことによって、同亜属の他種と識別できる。尖閣列島の自然度の高い森林の林床に生息する。同列島では、野生
化したヤギによる森林改変が報告されており、乾燥に弱い本種など陸産貝類では絶滅が懸念される。
原
参
執
記
載: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
考 文 献: 知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
知念盛俊,1979.尖閣列島の陸産貝類.沖縄生物学会誌,(17)
:19―27.
湊 宏,2001.シュリマイマイ種群とオオシママイマイ種群の種類とその分布.ちりぼたん,3
2
(1/
2)
:24―31.
筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
クロイワヒダリマキマイマイ
有肺目 ナンバンマイマイ科
Satsuma(Satsuma)yaeyamensis(Pilsbry, 1894)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は左巻きで、中型(殻径約3
0mm)で、殻高は低く(約17mm)、平巻状、やや薄質。体層周縁は丸く、この部分
に色帯を持ち、通常その上下に幅広い赤褐色の色帯がある。殻は黄褐色。臍孔は広く開く。左巻きで、中型、螺塔が
440
貝類
低いことによって、同亜属の他種と識別できる。石垣島と西表島の自然度の高い森林の主に林縁の林床に生息する。
各種の開発による森林改変により生息地が減少している。
原
記
参 考 文
執
筆
載: Pilsbry, H. A., 1894. Notices of new Japanese mollusks, II. Nautilus, 8 : 9―10
献: 知念盛俊,1970.八重山の陸産貝類( ).沖縄生物教育研究誌,(4)
:26―30.
波部忠重・知念盛俊,1974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―128,3pls.
知念盛俊,1990.西表島の陸産貝類.“平成元年度西表島崎山半島地域調査報告書”
,環境庁自然保護
局,東京,267―275.
者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ミズイロオオベソマイマイ
有肺目 オナジマイマイ科
Aegista caerulea Kuroda & Habe in Kuroda, 1960
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は中型(殻径約2
3mm)で、殻高は低く(約8mm)、円盤形で、螺層は窪み、やや薄質。体層周縁には弱い角を
持ち、この部分は細い白帯を形成する。殻はやや光沢を持ち、明褐色。殻口はやや弱く肥厚し、反転する。臍孔は広
く開き、その縁は弱く角立つ。薄質で、螺層が窪み、臍孔の縁が角立つことによって、他の種と識別できる。石垣島
と西表島の自然度の高い森林に生息し、同一島嶼に分布するオオベソマイマイA. vermisとは、ほぼ側所的に住み分け
ている。個体数は比較的少なく、各種の開発による森林改変により生息数が減少している。
原
参
執
記
載: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
考 文 献: 知念盛俊,1970.八重山の陸産貝類( ).沖縄生物教育研究誌,(4)
:26―30.
波部忠重・知念盛俊,1974.八重山群島石垣・西表両島の陸産貝類相とその生物地理学的意義.国立
科学博物館専報,(7)
:121―128,3pls.
知念盛俊,1990.西表島の陸産貝類.“平成元年度西表島崎山半島地域調査報告書”
,環境庁自然保護
局,東京,267―275.
筆 者 名: 黒住耐二
名: シュリケマイマイ
類: 有肺目 オナジマイマイ科
和
分
学
名: Aegista elegantissima(Pfeiffer, 1849)
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は小型(殻径約1
8mm)で、殻高は低く(約8mm)、円盤形で、螺塔はやや高まる。殻はやや厚質で、半透明黄
白色。体層周縁には強い角を持ち、縁取られ、この部分に比較的長い毛を密生させる。他の殻表には明瞭な毛はな
く、やや粗い成長肋を持つ。殻口は白色で、強く肥厚し、反転する。臍孔は広く開き、その縁は弱く角立つ。周縁角
が強く、螺層上面に毛状殻皮を欠くことで、琉球列島の同属他種と識別できる。沖縄島と周辺の小島嶼にのみ生息す
る。本部半島の大型個体群は、クンチャンケマイマイcaraとして区別されることもあるが、ここでは同一のものとし
て取り扱った。やや自然度の高い林縁の石灰岩岩塊に生息し、表面の藻類等を摂食する。各種の開発によって、直接
的な生息地の着実な減少とともに、林が開けることにより乾燥化が進み、生息できなくなっている。
原
参
記
考
載: Pfeiffer, L., 1849. Nachtrage zu L. Pfeiffer Monographia Heliceorum. Zeitsch. Malak., 6 : 106―107
文
献: 波部忠重,1955.日本産陸産貝類の解剖学的研究
(3).Venus,18
(4)
:221―234.
知念盛俊,1
976.陸産貝類.In 生態写真集 沖縄の生物.新星図書,沖縄,212―243.
Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., III : 127―149.
441
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
湊 宏,1995.古宇利島の陸産貝類.ちりぼたん,26
(2)
:44―48.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
ヘソアキアツマイマイ
有肺目 オナジマイマイ科
Nesiohelix omphalina omphalina(Hirase, 1915)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は中型(殻径約24mm)で、殻高はやや低く(約16mm)、低い円錐形、極めて厚質。体層周縁に角を持たない。
殻は淡黄褐色で、様々な色帯型を持つが、必ず臍孔周辺には色帯を欠く。殻表はほぼ平滑で、顆粒を持たない。殻口
は強く肥厚し、反転する。臍孔はやや狭いが明瞭に開く。大東諸島の北大東島にのみ分布し、これまで南大東島のも
のも亜種レベルでも区別されることは少なかったが、最近の研究で南・北大東島のものは、周縁角や殻表の形態に
よって、異なった亜種と考えられており、ここではこの見解に従った。自然度の崖下等の森林の林床に生息する地上
性種で、農地整備事業等で森林が伐採され、個体数が減少している。
原
参
考
記
執
筆
載: 平瀬輿一郎,1915.貝千種 III.芸艸堂,京都.
献: 黒田徳米・江村重雄,1943.新属アツマイマイに就いて.Venus,13
(1―4)
:18―34.
知念盛俊,1976.沖縄の陸産貝類.生態写真集沖縄の生物,新星図書,那覇,212―243.
湊 宏,1977.日本産陸棲貝類の生殖器の研究―IX. 琉球列島のアツマイマイ属.Venus, 36
(1)
:43―
47.
黒住耐二,1992.北大東島の陸産貝類.“沖縄県天然記念物調査シリーズ ダイトウオオコオモリ保護
対策緊急調査報告書”,沖縄県教育委員会,沖縄,(31)
:73―90.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
者 名: 黒住耐二
文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
サメハダヘソアキアツマイマイ
有肺目 オナジマイマイ科
Nesiohelix omphalina proximata Kuroda & Emura, 1943
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
(ヘソアキアツマイマイとして)
貝殻は中型(殻径約27mm)で、殻高はやや低く(約18mm)、ソロバン玉形、極めて厚質。通常体層周縁に強い角を
持ち、竜骨状に突出するが、個体群によっては明瞭に突出しないものもある。殻は淡黄褐色で、様々な色帯型を持つ
が、必ず周縁角と臍孔周辺には色帯を欠く。微細な顆粒が殻表全面を被う。殻口は強く肥厚し、反転する。臍孔はや
や狭いが明瞭に開く。ヘソアキアツマイマイとは周縁角が明瞭で、殻表に顆粒を有することで識別できる。また、本
亜種はオオアガリマイマイbipuramidalisと別種や同種とされるが、ここではサメハダヘソアキアツマイマイとオオア
ガリマイマイは同じ亜種での個体群間の変異と考える。このように取り扱った時、サメハダヘソアキアツマイマイの
方がオオアガリマイマイより、前のページで記載されているので、サメハダヘソアキアツマイマイを用いることにな
る。南大東島の自然度の高い森林の林床にのみ生息し、様々な開発によって生息地が減少している。
原
参
執
442
記
載: 黒田徳米・江村重雄,1943.新属アツマイマイに就いて.Venus,13
(1―4)
:18―34.
考 文 献: 知念盛俊,1976.陸産貝類. 生態写真集 沖縄の生物 ,新星図書,沖縄,212―243.
東 正雄・東 良雄,1994.大東島の陸産貝類相.Venus,53
(3)
:161―173.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”
,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
湊 宏,2001.大東諸島のアツマイマイ属とダイトウジママイマイ.南紀生物,43
(2)
:117―12
2.
筆 者 名: 黒住耐二
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
アツマイマイ
有肺目 オナジマイマイ科
Nesiohelix solida Kuroda & Emura, 1943
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は大型(殻径約40mm)で、殻高はやや低く(約2
7mm)、マイマイ型。極めて厚質。体層周縁に角を持たない。
殻は濃赤褐色で、濃淡があり、色帯型を持たない。殻表には粗い成長脈に沿った皺を持つが、顆粒状とならない。殻
口は強く肥厚し、反転する。臍孔はやや狭いが明瞭に開く。大型で周縁が丸く、皺状彫刻を持ち、色帯を持たないこ
とによって、他種と識別できる。本種は、やや自然度の高い森林の林床に生息する。尖閣列島の黄尾嶼と魚釣島にの
み分布し、後者では、同島で野生化したヤギによる森林改変で今後減少する可能性もある。
原
参
執
記
載: 黒田徳米・江村重雄,1943.新属アツマイマイ属に就いて,Venus,13
(1―4)
:18―34.
考 文 献: 知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I)
.沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
知念盛俊,1979.尖閣列島の陸産貝類.沖縄生物学会誌,(17)
:19―27.
知念盛俊・治井正一・儀間一恵,1
996.陸・淡水産貝類.
“沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−
レッドデータおきなわ−”,沖縄県環境保健部自然保護課,沖縄,447―456.
筆 者 名: 黒住耐二
名: タカラホソマイマイ
類: 有肺目 オナジマイマイ科
和
分
学
名: Pseudobuliminus takarai (Kuroda, 1960)
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は小型(殻径約7.
5mm)で、殻高は高く(約8mm)、高円錐形、螺塔は殻頂に向かって細くなり、やや薄質。体
層周縁に角はなく丸い。殻は淡黄褐色で、殻表に明瞭な殻皮の突起や毛を持たず、ほぼ平滑。殻口は弱く肥厚し、反
転する。臍孔はやや広い。体層周縁が丸く、殻頂が細くなることによって、他種と明瞭に識別できる。尖閣列島の魚
釣島にのみ分布する。本種は、やや自然度の高い森林の林床に生息し、同島で野生化したヤギによる森林改変で今後
減少する可能性もある。
原
記
載: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
参
考
文
執
筆
者
献: 知念盛俊,1976.陸産貝類.“生態写真集 沖縄の生物”,新星図書,沖縄,212―243.
知念盛俊,1979.尖閣列島の陸産貝類.沖縄生物学会誌,(17)
:19―27.
名: 黒住耐二
名: リュウキュウサルボウ
類: フネガイ目 フネガイ科
和
分
学
名: Anadara antiquata (Linnaeus, 1758)
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長6cm内外、殻の厚い長方形の二枚貝。ビロード状の殻皮に覆われる。軟体部は血中ヘモグロビンにより赤色を呈
する。食用種。「県産赤貝」として流通している。沖縄県内における分布域は、沖縄島、座間味島、宮古島、伊良部
島、石垣島、西表島。海草藻場の発達する低潮帯∼潮下帯のサンゴ砂礫底を生息場所とする。なかでも、中城湾泡瀬
干潟、金武湾海中道路周辺、宮古島大浦湾の海草藻場には、大きな個体群が維持されており、盛んに採捕されてい
る。沖縄最大のリュウキュウサルボウ個体群を擁する泡瀬干潟の海草藻場では、埋め立て事業が進行している。与根
干潟周辺の個体群は、近年の埋め立てにより消滅した。その他の産地でも海草藻場の衰退とともに個体数が明らかに
減少し続けている。
執
筆
者
名: 名和
純
443
貝類
名: ワシノハガイ
類: フネガイ目 フネガイ科
和
分
学
名: Arca navicularis(Bruguière, 1789)
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長4cm以下、前後に長い箱型の二枚貝。殻表は放射肋に覆われる。内面はチョコレート色に彩られる個体が多い。
内湾低潮帯∼潮下帯の死サンゴ塊に足糸で付着している。海草藻場から見出されることが多い。琉球列島において
は、沖縄島金武湾および中城湾周辺海域に生息域が限定される。特に、金武湾海中道路周辺と泡瀬干潟に生息域の中
心があるが、これらの地域では養浜および埋め立て工事が進行している。ワシノハガイ沖縄個体群の絶滅リスクは、
今後、急激に高まることが予想される。
執
筆
者
名: 名和
純
名: ソメワケグリ
類: フネガイ目 タマキガイ科
和
分
学
名: Glycymeris reevei(Mayer, 1868)
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長4cm、円形の殻の厚い二枚貝。毛状の殻皮を被る。沖縄島の個体は全体が栗色を呈するが、伊良部島などでは前
半が栗色、後半が白色に染め分けられる個体が見られる。沖縄県内における分布域は、沖縄島、久米島、伊良部島、
石垣島、西表島。低潮帯∼潮下帯のサンゴ砂∼サンゴ礫底を生息場所とする。沖縄島の泡瀬干潟と大嶺干潟(那覇
市)に最大級の個体群が維持されているが、埋め立て計画が進行している。沖縄県内のほとんどの生息域において、
埋め立てや浚渫などによる分断化が急激に進行している。
執
筆
者
名: 名和
純
名: ホソスジヒバリガイ
類: イガイ目 イガイ科
和
分
学
名: Modiolus philippinarum (Hanley, 1843)
方
言
名: スベンガル(屋我地島)
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長7cm内外、殻の薄い二枚貝。光沢のある褐色の殻皮を被る。殻の内面は紫色。奄美大島を北限とし、熱帯西太平
洋域に分布域を持つ。沖縄県内における分布域は、沖縄島、宮古島、石垣島の内湾域に不連続に形成される。足糸の
束に砂利を付着させて体を固定し、殻の後端を突き出して底質中に埋在する。内湾域の海草藻場(低潮帯∼潮下帯)
の粗砂泥底を生息場所とする。個体群サイズの大きい産地は、羽地内海饒平名、金武湾海中道路周辺、中城湾泡瀬干
潟、宮古島大浦湾の4地点。豊見城市与根のホソスジヒバリガイ個体群は、埋め立て事業により1
998年に消滅した。
琉球列島最大のホソスジヒバリガイ個体群が維持されている泡瀬干潟の海草藻場では、埋め立て事業が進行してい
る。海中道路の個体群は、土砂流出(養浜砂など)にともない急減した。羽地内海饒平名の個体群は、赤土流入の影
響が低潮帯域に顕著に現れ始めた1998年以降に激減した。このように沖縄県のホソスジヒバリガイ個体群は、分布中
心域で危機的な状況にあるうえに、大部分の生息地において生息条件が明らかに悪化しつつある。ホソスジヒバリガ
イは、琉球列島の内湾海草藻場の生態的指標種として有効。また、分布が不連続なため、局所個体群間で遺伝的な隔
離の生じている可能性もある。
執
444
筆
者
名: 名和
純
貝類
名: クログチ
類: イガイ目 イガイ科
和
分
学
名: Xenostrobus atratus(Lischke, 1871)
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約1cm、横長の三角形。腹縁は湾曲する。殻表は平滑で黒い殻皮を被る。内湾中潮帯上部の転石や石積護岸に密
集して付着している。本種は本州から中国大陸沿岸の温帯域に地理分布を形成し、琉球列島における分布は奄美大島
と沖縄島の内湾域に局限される。沖縄島における生息域は、塩屋湾、羽地内海、中城湾の3地域。羽地内海では今の
ところ多産しているが、護岸建設工事の影響が懸念される。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
サザナミマクラ
二枚貝綱 イガイ目 イガイ科
Modiolus flavidus(Dunker, 1856)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科では中型、丸みを帯びた細長い長方形。殻表は光沢が強く、淡灰褐色の殻皮をまとい、背縁
部と腹縁部の間が淡く色が抜けたようになる。一般に殻は薄いが、大成するタイプではやや厚くな
る。殻長30∼60mm。
近似種との区別: 近縁種ホソスジヒバリガイ、ヌバタママクラとは殻の後端が丸みを帯びること、リュウキュウヒバリ
ガイとは背縁部に毛状殻皮を欠くことにより区別できる。しかし、他にも分類学的に未知の種があ
り、今後、詳細な研究が必要である。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 内湾の潮通しの良い細砂泥底に生えるアマモ類(主にリュウキュウスガモやベニアマモ等)の根部に
自ら巣をつくって、それに連結させ、その中に生息する。
生 息 地 の 条 件: 主に内湾域の潮間帯下部の潮通しの良い海草の生える細砂泥域に生息する。
現在の生息状況: 沖縄全域のアマモ場に生息するが、沖縄島海域では埋め立てや陸土の沈積によって海草帯が減少し、
これに伴って個体数は減少していると考えられる。
学術的意義・ 評 価: 本種は細砂泥質のアマモ帯に巣をつくって生息する生態は特殊であり、アマモ場の表徴動物として生
態学的意義は大きい。また、恩納村屋嘉田海域では大型化する本種の変異型か、あるいは非常に近縁
の別種が確認されており、特に、当海域での保護は重要であろう。
生存に対する 脅 威: 海浜埋め立て等による生息場所の直接的な消失や陸土の大量流入による底質の泥質化による埋没。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Dunker, 1856. Mytilacea nova collectionis Cumingianae, descripta a Guil. Duker’. Proc. Zool. Soc. London,
24 : 358―366.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
サンゴナデシコ
二枚貝綱 翼形目 イタヤガイ科
Coralichlamys madreporatum(Sowerby, 1842)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型でやや薄く、縦に長い扇形、殻表に鱗片を伴う太さが不均一な6
0本以上の細かい放
射肋をもち、殻色は灰白色の地に灰色と黒褐色の絣模様をもつ。前耳は後耳より遙かに大きい。殻長20
∼30mm。
近似種との区別: 近似種ヤガスリヒヨクは本種より肋数が少なく鱗片も少ない。シロスジナデシコは殻の色彩が類似す
445
貝類
るが、より縦長で大型となり、肋の大きさが均等で数が少ないことで、区別される。
沖縄全域。
生きた造礁サンゴ類上に選択的に生息する。
造礁サンゴの発達する潮通しの良い亜潮間帯に生息する。
本種は生きた造礁サンゴ類上に生息し、1
998年以降、サンゴ白化やオニヒトデの食害によって造礁サ
ンゴが死滅し、生息場所が減少したことによって、個体数が減少したと考えられる。
学術的意義・ 評 価: 本種は特異な生息生態から造礁サンゴ類と生態的に密接な関わりがあると考えられ、生態学的に重要
である。
生存に対する 脅 威: 自然白化、食害、および人為的要因等による造礁サンゴ類の死滅・減少。
分 布 の 概 要:
生 態 的 特 徴:
生 息 地 の 条 件:
現在の生息状況:
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
載: Sowerby, 1842. Thesauras conchyliorum, monographs of genera of shells. Part2. London.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
名:
ー:
ウミギク
マルスダレガイ目 ウミギク科
Spondylus barbatus(Reeve, 1856)
ブタラフ(饒平名)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻高7cm、刺状突起に覆われた二枚貝。殻表には、平たい刺を伴った多数の放射肋がある。琉球列島では、奄美大島
瀬戸内と沖縄島羽地内海に分布域が限定される。低潮帯∼潮下帯の岩礫底を生息場所とし、右殻の殻頂部で岩などに
固着する。羽地内海沿岸では盛んに採捕され、かつては干物にして名護に出荷されていた。屋我地島南岸と呉我∼仲
尾次には、大きな個体群が維持されているが、1990年代後半から明らかに個体数が減少している。その原因は、採集
圧と赤土汚染にあると考えられる。今後、絶滅リスクが高まると予想される。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
アケボノガイ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ウロコガイ科
Barrimysia cumingii(A. Adams, 1856)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本科中、大型でやや薄く、幅広く膨らみのある扇型、殻表は殻頂部では平滑で光沢があるが、周
縁部は緑褐色の殻皮をまとう。殻色は淡灰褐色∼灰桃色。最大殻長約25mm。
近似種との区別: 近似種はない。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: アマモ場周辺の石下に生息し、殆ど移動しない可能性があり、アナエビ類などが同居する場合が多
い。
生 息 地 の 条 件: 陸水が染み出している汀線に近接する場所で、かつ、潮通しの良いアマモ場やリーフ内の砂礫底の石
の下で、硫化水素の発生等の還元状態とならない環境に生息することが多い。
現在の生息状況: 糸満市から北谷町にかけての沖縄島西海岸のアマモ場で、これまでの埋め立てによって、生息場所が
消失したと考えられる。また、本種特有の遮蔽された生息環境は都市下水や畜産排水などの富栄養化
により還元して、貧酸素状態となり、生存できなくなると考えられ、現在、沖縄島中南部周辺では死
殻は見られるが、生貝が殆ど見られなくなっている。
学術的意義・ 評 価: 遮蔽環境という特殊な生息生態を有することから、生態的に未知な点が多い。ウロコガイ科は干潟の
様々な環境の石の下等に他生物と共生して、適応放散しており、進化学的重要性があるが、その研究
はほとんど手つかずの状態である。
446
貝類
生存に対する 脅 威: アマモ場埋め立て等による直接的な生息場所の消失や陸土沈積や生活排水などの流入よる岩盤下の還
元化。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Adams. A., 1856. Discriptions of thirty―four new species of bivalve mollusca (Leda, Nucula and Pythina) from
Cuming collections. Proc. Zool. Soc. London, 47―53.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
セワケガイ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ウロコガイ科
Byssobornia adamsi(Yokoyama, 1924)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー : 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型でやや薄く、やや角張った扁平な扇型、殻表は錆色の殻皮をまとい、殻表は中央か
ら左右に分かれる微顆粒を伴う放射肋を多数刻む。殻皮をはがした場合の殻色は白色。最大殻長1
0
mm。
近似種との区別: 錆色の殻皮をもつ点でナタマメケボリと類似するが、より殻高が高く、角張った殻形であることから
区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 泥岩や泥質干潟の石下にすむが、多毛類やホシムシ類が同居する場合が多く、何らかの共生生態をも
つ可能性がある。
生 息 地 の 条 件: 泥礫干潟の石の下。
現在の生息状況: 本種はこれまでのところ、羽地内海周辺、金武湾沿岸、宮古島、石垣島で見つかっているが、いずれ
の産地とも流出陸土の沈積による石下の目詰まりや富栄養化による還元化により、個体数は減少して
いると考えられる。
学術的意義・ 評 価: ウロコガイ科は干潟の様々な環境の石の下等に他生物と共生する等して、適応放散し、進化学的重要
性があるが、その研究はほとんど手つかずの状態である。
生存に対する 脅 威: 埋め立て等による生息場所の消失、赤土等の微粒子沈積による生息環境の悪化。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Yokoyama, 1924. Mollusca from the coral bed of Awa. J. College sci., Imp. Univ. Tokyo, 45(1) : 1―62, pls. 1
―4.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
ウロコガイ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ウロコガイ科
Galeomma takii(Kuroda, 1945)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや大型で半透明で非常に薄く、横長の扁平な扇型、殻表は多数の微細な顆粒を伴う。
生時は軟体部の一部(外套膜)が伸展して、殻全体を覆う。最大殻長16mm。
近似種との区別: 横長扁平の殻をもつ点でオオツヤウロコガイと類似するが、殻表に多数の微細顆粒をもつことにより
区別される。なお、本種群にはこれ以外にも希少な類似種が多く存在するが、その殆どが分類学的に
不詳で、未記載種を多く含んでいる。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 泥岩や泥質干潟の石下にすむが、多毛類やホシムシ類が同居する場合が多く、何らかの共生生態をも
つ可能性がある。
生 息 地 の 条 件: 泥礫干潟の石の下。
447
貝類
現在の生息状況: 本種はこれまでのところ、塩屋湾、羽地内海周辺、糸満市真栄里、豊見城市与根干潟、宮古島与那覇
湾、石垣島名蔵湾、西表島等で確認されているが、糸満市真栄里、豊見城市与根干潟は埋め立てによ
り生息場所が大きく減少した。沖縄島北部と与那覇湾、名蔵湾では生息環境が悪化しており、個体数
の減少が懸念されるが、自然の保たれた場所には、少なからず生息が確認できる。
学術的意義・ 評 価: ウロコガイ科は干潟の様々な環境の石の下等に他生物と共生するなどして、適応放散しており、進化
学的重要性があるが、その研究はほとんど手つかずの状態である。
生存に対する 脅 威: 埋め立て等による生息場所の消失。
原
記
参 考 文
執 筆 者
載: 黒田徳米,1945.日本産新貝類.貝類学雑誌,14:1―4
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ツキガイ
マルスダレガイ目 ツキガイ科
Codakia tigerina(Linnaeus, 1758)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長7cm内外、円形の二枚貝。殻表は同心円脈と放射肋が交わって布目状。内面は黄彩され、紅色で縁取られる。礁
池のサンゴ砂底またはサンゴ礫砂底を生息場所とし、海草藻場からも見出される。琉球列島全域に分布すると思われ
るが、個体数は少ない。屋我地島済井出、沖縄島屋嘉田周辺、那覇市大嶺などでは、低潮帯付近から得られるが、済
井出と大嶺の生息域では埋め立ておよび浚渫計画が進行中、屋嘉田では赤土堆積が著しい。潮下帯においても浚渫な
どによる生息域の断片化が進行している。今後、絶滅リスクが高まると予想される。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
クチベニツキガイ
マルスダレガイ目 ツキガイ科
Codakia punctata(Linnaeus, 1758)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長6∼7cm、円形。殻表は、放射状の溝が間隔をあけて刻まれている。内面は赤紫色で縁取られる。潮下帯の淘汰
された砂底域を生息場所とする。琉球列島全域に分布すると思われるが、個体数は少ない。かつては、恩納村沿岸に
まとまって生息していたようであるが、現在は、屋嘉田潟原以外の海域では古い死殻しか見られなくなっている。泡
瀬干潟の低潮帯砂底では、現在でも稀に生貝が見出されるが、埋め立て工事が行われている。沖縄県内のクチベニツ
キガイ個体群は、埋め立てや沖合いの浚渫などによる環境劣化により消滅寸前となっている可能性がある。
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
名:
ー:
純
ウラキツキガイ
マルスダレガイ目 ツキガイ科
Codakia paytenorum(Iredale, 1937)
ミッパギジナ(宮古島久松)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長3∼3.
5cm、円い二枚貝。殻は白色、殻表は同心円脈と放射肋が交わり布目状となる。内面は黄彩される。宮古
448
貝類
諸島の個体群は腹縁内面が紅彩されるので、クチベニツキガイと誤同定されることがある。沖縄島(屋慶名・泡瀬・
屋嘉田)、宮古島(与那覇湾)、伊良部島(佐和田)、石垣島(名蔵湾)、西表島(仲間崎)に分布。海草藻場のサンゴ
礫砂底に生息する。宮古島与那覇湾久松地先では、1980年代まで盛んに採捕されてきたが、海草藻場環境の劣化とと
もに激減したため、現在では採られていない。泡瀬干潟には大きな個体群がみられるが、埋め立て予定区域となって
いる。すべての生息地において、赤土堆積、埋め立て、航路浚渫などによる環境劣化が急激に進んでいる。沖縄県の
ウラキツキガイは、今後、海草藻場の衰退とともに個体数が減少し続けていくと思われる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
シワツキガイ
マルスダレガイ目 ツキガイ科
Eamesiella corrugata(Deshayes, 1843)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長4∼5cm、殻の脆い二枚貝。殻表は板状輪肋に覆われ、褐色の殻皮を被る。殻頂から後背縁にかけて褶状の段差
がある。琉球列島においては、石垣島と西表島のみに北限の個体群として分布する。マングローブ林辺縁部のヤエヤ
マヒルギの根元を生息場所とし、ヒルギの細根の絡まった砂泥底に深く埋在している。生息地は、石垣島1ヶ所(名
蔵アンパル)、西表島4ヶ所(東部∼北部)の計5ヶ所のみ。いずれの生息地でも個体群サイズは小さい。西表島後良
川河口のマングローブ辺縁部には、まとまった個体数で生息していたが、橋梁架け替えの付帯工事(駐車場、階段な
ど)により、生息域の大半が破壊された。このように、マングローブ移行帯の生物生息環境に無配慮な親水工事の影
響を受け続けた場合、シワツキガイの絶滅リスクは増加すると考えられる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
チヂミウメノハナ
マルスダレガイ目 ツキガイ科
Wallucina striata(Tokunaga, 1906)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長1
0mm内外、円い二枚貝。殻は白色、膨らみがあり成長脈は明らか。殻頂は前方に寄る。沖縄島、宮古島、石垣
島、西表島に分布。海草藻場の粗砂底または粗砂泥底に生息する。泡瀬干潟、屋嘉田潟原、宮古島与那覇湾には、大
きな個体群が見られる。埋め立て、航路浚渫、土砂堆積による海草藻場の衰退とともに明らかに個体数が減少してい
る。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
なし
マルスダレガイ目
Diplodonta sp. B
準絶滅危惧(NT)
フタバシラガイ科
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長7mm内外、ゆがんだ円形。殻は薄く、薄い殻皮を被る。沖縄島、宮古島、伊良部島、多良間島、西表島に分
布。低潮帯の海草藻場砂底を主な生息場所としている。宜野座村カタバル、恩納村屋嘉田、浦添市港川地先、伊良部
島佐和田では、まとまった個体数が見られるが、その他の地域では稀。赤土堆積や埋め立てなどによる海草藻場の断
片化にともない、生息条件が悪化し続けている。
449
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
オキナワヒシガイ
マルスダレガイ目 ザルガイ科
Fragum loochooanum Kira, 1959
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約1cm、四角形の二枚貝。殻表は鱗片突起をそなえた23本内外の放射肋に覆われる。開放的な海草藻場を主な生
息場所とする。琉球列島においては、奄美大島、沖縄島、宮古島、石垣島、西表島に分布。沖縄島や西表島の海草藻
場では古い死殻は多量に見られるが、生貝は稀であることから、かつての赤土堆積などの影響で激減し、消滅寸前と
なっていると考えられる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
エマイボタン
マルスダレガイ目 ザルガイ科
Fulvia aperta(Bruguière, 1789)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約4cm、円形の殻の薄い二枚貝。殻は膨らみ強く、後方に伸びる。後端の両殻の間が開く。殻表には、毛羽立っ
た殻皮が放射溝に沿って生える。内面後端は赤紫色に彩られる個体が多い。内湾域の低潮帯∼潮下帯の粗砂泥底を生
息場所とし、海草藻場からも見出される。表在して見出されることが多いが、埋在している個体もある。琉球列島に
おいては、奄美大島、沖縄島、石垣島、西表島に分布。沖縄島羽地内海と泡瀬干潟では、まとまった個体数で生息し
ているが、これらの海域では赤土汚染や埋め立て事業が進行している。その他の生息地においても、生息条件は悪化
し続けている。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
リュウキュウアオイ
マルスダレガイ目 ザルガイ科
Corculum cardissa(Linnaeus, 1758)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長5cm内外、両殻合わさるとハート形の二枚貝。殻は前後に圧され、殻の縁は刺列をともなうキールが走る。礁池
の岩盤上や海草藻場に表在する。琉球列島全域に広範に分布するが、生息密度は低い。沖縄島屋嘉田周辺の岩礁海岸
では、1990年代までリュウキュウアオイが比較的普通に見られ、毎回数個体ずつ生貝が観察された。しかし、岩盤上
のシルトの堆積(護岸建設土砂と赤土由来)に伴い、死殻を残してほとんど見られなくなった。宜野湾市大山では、
養浜(人工ビーチ)後の岩盤上へのシルトの堆積に伴い見られなくなった。浦添市港川や泡瀬干潟では、現在でも比
較的普通に見出されるが、これらの地域では埋め立て計画が進行している。このように、沖縄県におけるリュウキュ
ウアオイの生息条件は、明らかに悪化し続けており、生息域の断片化が急激に進行している。
執
450
筆
者
名: 名和
純
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
リュウキュウアオイガイモドキ
マルスダレガイ目 ザルガイ科
Corculum monstrosum(Gmelin, 1791)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長4.
5cm、両殻合わさるとハート形の二枚貝。殻後面は圧され、前面は膨れる。殻の縁はキール状となる。奄美大
島以南に分布するとされているが、産出は稀。海草藻場のサンゴ礫砂底に表在する。沖縄島泡瀬干潟では、20
01年の
調査で3個体の生貝が確認され、新鮮な死殻も時折見出されることから、貴重な現存産地として位置付けられる。ま
た、金武湾海中道路周辺と恩納村屋嘉田の海草藻場からも確認されている。泡瀬干潟の生息域では、2004年から埋め
立て工事が行われている。本種は、海草藻場における貝類の種多様性の高さを示す指標として重要である。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
インドアオイ
マルスダレガイ目 ザルガイ科
Corculum impressum(Lightfoot, 1786)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長4cm、両殻合わさるとハート形の二枚貝。殻前面は圧され、後面は強く膨れる。殻の縁はキール状となる。殻色
は、黄白色、紫色、黄色など変化に富む。開放的な海域のサンゴ礫砂底に表在するが、産出は稀。沖縄島泡瀬干潟、
久米島真泊、石垣島崎枝などから生息が確認されている。いずれの生息地も、貝類の種多様性の高い安定した海域で
ある。泡瀬干潟の生息域では、埋め立て工事が進行している。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
イレズミザルガイ
マルスダレガイ目 ザルガイ科
Vasticardium compunctum Kira, 1959
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
縦長楕円形の二枚貝。殻高約4cm。殻表は、鱗片状突起のある放射肋で覆われ、後部に黒い斑紋がある。琉球列島に
おいては、奄美大島と沖縄島に分布。開放的な海草藻場のサンゴ礫まじり砂底を生息場所としている。屋我地島済井
出と沖縄市泡瀬干潟の海草藻場では比較的普通に見出されるが、その他の海域での生息密度は低い。イレズミザルガ
イは、安定した海草藻場のみに生息する希少種であり、海草藻場の自然度を評価する指標となり得る。イレズミザル
ガイの最大の生息地である泡瀬干潟では、埋め立て工事が行われている。屋我地島済井出の生息域では、埋め立てと
航路浚渫工事が行われている。イレズミザルガイの生息条件は、沖縄島の海草藻場の衰退とともに急激に悪化しつつ
ある。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
献: 水間八重・山下博由.2002.泡瀬干潟における機械による大規模な海草移植実験の現状について −主
に海草場に生息する貝類に注目して−.九州の貝,59.
名: 名和 純
名: ユキガイ
類: マルスダレガイ目 バカガイ科
名: Meropesta nicobarica(Gmelin, 1791)
451
貝類
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長4∼5cm、楕円形の二枚貝。殻表は放射細肋で覆われる。殻は白色、薄い殻皮を被る。殻頂は前方に寄る。琉球
列島では、奄美大島、沖縄島、石垣島、西表島に不連続に分布する。内湾域の低潮帯∼潮下帯にかけての粗砂泥底を
生息場所とする。泡瀬干潟と羽地内海では比較的普通に見出される。名護市久志∼宜野座カタバルでは多量の死殻が
干潟上に散在しているものの、生貝は稀にしか見られないことから、赤土堆積の影響により個体群が著しく衰退して
いる可能性が高い。泡瀬干潟の生息域は、埋め立て予定区域と重なっている。豊見城市与根干潟の個体群は、1998年
の埋め立てにより消滅した。大部分の生息地において生息条件が悪化しているため、絶滅危惧 類以上のランクに該
当する可能性もある。今後、急激に絶滅リスクが高まると考えられる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
チドリマスオ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 チドリマスオ科
Donacilla picta Dunker, 1877
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや小型で、比較的薄質、後方に延びた亜三角形、殻表はやや光沢があり、淡黄緑褐色
の地に緑褐色の放射状色彩を有する。殻長10mm以下。
近似種との区別: 同科に近似種はないが、外見が似ているリュウキュウナミノコガイは同所的に見られる場合があり、
特に幼貝は査定上混乱する可能性がある。しかし、リュウキュウナミノコガイは輪肋が明瞭で、殻質
もより厚質であることで区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島、石垣島。
生 態 的 特 徴: ろ過食性で、潮汐周期と関連した生態をもつと考えられる。
生 息 地 の 条 件: やや開放的な細砂底の汀線直下に生息する。
現在の生息状況: 能登半島以南の日本本土に分布する種で、色形が可愛く、渚線に普通に見られたことから、かつては
和歌にも詠み込まれた貝である。しかし、本土では個体数が各地で減少した(加藤,1
996)。沖縄で
は、1990年代前半に沖縄島南部で生息が確認できる生息地があったが、現在は埋め立てによって消滅
した。一方、石垣島では北東岸の砂浜域において、少数個体が確認されたが、現状は不明である(Takada
et al,2002)。本種は元来、沖縄において、希少な種の可能性も高いため、ランクづけは容易ではな
いが、少なくとも沖縄島南部の生息地が消失したことは確かであり、準絶滅危惧の要件には合致す
る。現在、確実に生息が確認できる場所は知られていないため、今後の精査によって、再び発見され
る可能性もあり、そうした場合には、その個体群の状況を考慮して、再度ランクづけを行う必要があ
る。
学術的意義・ 評 価: 同種群は砂底環境に多数種が適応放散し、進化学的、生態学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 沿岸の埋め立て等による生息地の消失、砂質域の底質悪化。
原
記
参 考 文
執
筆
載: Dunker, 1877. Mollusca nonnulla nova maris Japonici. Malakozoologische Blatter, 24 : 67―75.
献: 加藤 真・福田 宏,1996.二枚貝綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
Takada T. & T. Kosuge, S. Nishihama, M. Katoh, 2002. Vertical distributions of Atactodea striata and Lotona
faba (Bivalvia) on a subtropical sandy beach in Ishigaki Island, Japan. Venus, 61(3―4) : 203―213.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
452
名:
類:
名:
ー:
クチバガイ
マルスダレガイ目 チドリマスオ科
Coecella chinensis Deshayes, 1855
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
貝類
殻長2∼3cm、楕円形の二枚貝。白色の地に黄褐色の殻皮を被る。殻頂内側に弾帯受けがある。中国大陸や日本本土
の温帯域の内湾に地理分布を形成するが、琉球列島では奄美大島、沖縄島、久米島、石垣島に不連続に分布する。内
湾河口付近の中潮帯上部礫砂底を生息場所とする。羽地内海、大浦湾など生息地は特定の地域に限られるが、個体数
密度は低くない。赤土堆積や護岸建設工事により生息域は明らかに狭められてきている。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ナミノコマスオ
マルスダレガイ目 チドリマスオ科
Davila plana(Hanley, 1843)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約2cm、卵形。殻頂は後ろに寄る。殻は白色、平滑、殻頂下に黄褐色の不明瞭な放射彩がある。外洋に面した汀
線(砂浜中潮帯上部)を生息場所とする。イソハマグリとともに見出されるが、個体数は多くない。琉球列島全域に
分布し、座間味島や波照間島などの小さな島のサンゴ砂海岸にまとまった個体群が形成されている。恩納村沿岸など
の沖縄島の生息域は、近年の護岸建設工事により大幅に縮小した。離島の個体群も護岸建設や砂浜侵食にともない急
速に縮小しつつある。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
コニッコウガイ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Tellinella radians(Deshayes, 1855)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約2.
5cmの二枚貝。殻は丸みのある三角形。紅色の放射帯がある。琉球列島では、奄美大島、沖縄島、久米島、
伊良部島、石垣島と広範囲に分布する。礁池の海草藻場帯のサンゴ砂底∼サンゴ礫砂底を生息環境とする。産地は少
なくないが、生息密度は低く、複数個体が見出されることは稀である。屋嘉田潟原と泡瀬干潟では、比較的普通に見
られる。本種は、安定した海草藻場にのみ見出される希少種であり、海草藻場の種多様性の豊かさを評価するための
指標となり得る。泡瀬干潟や大嶺(那覇市)など沖縄島の主な生息地では、埋め立て計画が進行している。また、赤
土流入による海草藻場環境の衰退により、沖縄県のコニッコウガイの生息条件は、大部分の生息地で明らかに悪化し
つつある。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ミガキヒメザラ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Pinguitellina pinguis(Hanley, 1844)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約1cmの二枚貝。殻は薄く、膨らみのある卵形。殻頂部は赤褐色。琉球列島では、奄美大島、沖縄島、石垣島、
西表島に分布する。内湾域や河口沖に形成されたウミヒルモなどからなる海草藻場のしまりのある細砂底を主な生息
環境としている。沖縄島大浦湾と西表島仲良川河口では比較的普通に見られるが、赤土などの土砂流入により生息条
件が悪化しつつある。
453
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ウラキヒメザラ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Pinguitellina robusta(Hanley, 1844)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型で、殻はやや厚質、よく膨らみ、殻表は平滑で光沢があり、殻色は乳白色だが、内
面が黄色味を帯びる。殻長10mm内外。
近似種との区別: ミガキヒメザラは殻の膨らみが本種より弱く、小型で薄質、殻内面が黄色くならない。
分 布 の 概 要: 主に与那国島を除く先島諸島
生 態 的 特 徴: 本科貝類は水管で海底面の有機物(デトライタス)を吸い取って食べる。
生 息 地 の 条 件: 内湾や河口付近のアマモ場に隣接する細砂底に分布するが、個体数が少なく、生息場所は限定され
る。
現在の生息状況: 本種は熱帯系のニッコウガイ科貝類で、先島諸島のアマモ場に見いだされるが、沖縄島では記録が少
なく、情報が不足している。石垣島川平湾では水路部の潮通しのよい砂底に生息するが個体数が少な
く、泥質化の進行した湾奥では生息が確認できなくなっている。
学術的意義・ 評 価: 本種群は浅海砂底域に多様な種を適応放散させ、亜熱帯域において種多様性が非常に高く、進化生態
学的意義は大きい。また、沖縄周辺海域はその分布北限にあたり、動物地理学的重要性がある。
生存に対する 脅 威: 陸土沈積等よる内湾砂底域の泥質化による環境悪化。
原
参
執
記
考
筆
載: Hanley, 1844. Descriptions of new species of Tellina, collected by H. Cuming Esq. Proc. Zool. Soc. London,
59―149.
文 献: 波部忠重,1961.続日本貝類図鑑.保育社,大阪,182pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
イチョウシラトリ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Merisca capsoides(Deshayes, 1855)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長3∼4cm、三角形の二枚貝。殻は白色。殻表には成長輪肋がある。琉球列島では、奄美大島、加計呂麻島、沖縄
島、久米島、石垣島、西表島と広範囲に分布するが、産地は不連続かつ局所的である。石垣島や西表島では生息範囲
が狭く個体数も少ないが、沖縄島の中城湾や羽地内海の干潟には大きな個体群が見られる。内湾干潟や河口干潟の中
潮帯砂泥底を生息場所としている。沖縄全域で進行している干潟の埋め立てや親水護岸建設ラッシュにより、次々と
局所個体群が消滅している。例えば、1998年には、宜野湾市宇地泊と豊見城市与根のイチョウシラトリ個体群が埋め
立て事業により消滅している。沖縄島に現存する9ヶ所の生息地のすべてにおいて、埋め立てや護岸計画があり、赤
土などの土砂堆積が著しい。今後、急激に絶滅リスクが高まると考えられる。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
454
名: リュウキュウサラガイ
類: マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
名: Laciolina chloroleuca(Lamarck, 1818)
貝類
カ テ ゴ リ ー: 準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約7cm、楕円形。殻表は平滑、クリーム色。殻頂は紅彩され、紅い放射彩のある個体が多い。内面は淡い黄色。
沖縄県における分布は、沖縄島(恩納村沿岸)、座間味島、宮古島、石垣島、波照間島など。潮通しのよい低潮帯∼
潮下帯の粒径の均一に淘汰された砂底を生息場所とする。個体数は少ない。かつては潮下帯に広い生息域が存在して
いたと思われるが、赤土汚染や埋め立てに伴う浚渫により、急速に生息域が狭められている。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
オオトゲウネガイ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Quadrans gargadia(Linnaeus, 1758)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約3.
5cm、三角形の平たい二枚貝。殻は白色で光沢があり、後背縁に刺列を生じる。琉球列島では沖縄島、宮古
島(与那覇湾・大浦湾)、石垣島(名蔵湾)、西表島(東部∼北部)に分布。海草藻場の粗砂底を生息場所とする。ほ
とんどの生息地において土砂堆積による底質環境の変化にともない生息条件が悪化している。もともと稀な種である
ため、現状の把握が難しいが、絶滅危惧 類以上のランクに該当する可能性がある。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
トゲウネガイ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Quadrans spinosa(Hanley, 1844)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約1cmの三角形の二枚貝。殻頂は後方により、後背縁に刺列を生じる。琉球列島においては、沖縄島から生息が
確認されている。大規模な海草藻場の安定した砂底を生息場所としている。トゲウネガイは、1
997年以降の調査で
は、大嶺(那覇市)と泡瀬干潟の2ヶ所から生息が確認されているが、これらの場所では埋め立て計画が進行してい
る。大嶺の生息域は埋め立て計画地となっている。生息密度の低い希少種なため現状の把握が難しいが、絶滅危惧
類以上に該当する可能性もある。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ハスメザクラ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Jactellina transculpta Sowerby, 1915
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長2∼2.
5cm、楕円形の二枚貝。殻は橙色または白色、殻表には多くの斜めの彫刻がある。琉球列島では、奄美大
島、加計呂麻島、沖縄島、石垣島、西表島に分布する。海草藻場の砂底∼粗砂泥底を生息場所とする。生息地は広範
に存在し、個体数も少なくないが、海草藻場の衰退とともに個体数が明らかに減少しつつある。海草藻場の環境指標
種として有効と思われる。最大級の個体群が成立している沖縄島泡瀬干潟の海草藻場では、埋め立て工事が行われて
いる。また、ほとんどの生息地で赤土などの土砂堆積により生息条件が急激に悪化しつつある。
455
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ネコジタザラ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Scutarcopagia lingaefelis Linnaeus, 1758
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約4cm、卵形。殻表全面が鱗片状突起に覆われ、ざらざらしている。紅い殻頂部から放射色帯がのびる。沖縄島
や宮古島から記録されているが、個体数は少ない。内湾湾口部の海草藻場周辺(低潮帯∼潮下帯)のサンゴ礫砂底を
生息場所とする。古い死殻の見出される地域は多いが、生貝や新鮮な死殻が見られるのは沖縄島泡瀬干潟や宮古島与
那覇湾など数ヶ所に限られている。泡瀬干潟の生息域では埋め立て工事が行われている。与那覇湾の生息域は、陸域
からの土砂堆積による底質環境の劣化が急激に進んでいる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ヒメニッコウガイ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Tellinella staurella(Lamarck, 1818)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約4cm、楕円形の二枚貝。レモンイエローの地に赤い放射彩が現れる。殻表には弱い光沢がある。琉球列島で
は、奄美大島、加計呂麻島、沖縄島、久米島、渡名喜島、宮古島、伊良部島、多良間島、石垣島、西表島、波照間島
と広範囲に分布する。海草藻場のサンゴ砂底∼サンゴ礫底を生息場所とする。沖縄島屋嘉田潟原周辺と石垣島名蔵湾
に琉球列島最大規模の個体群が形成されているが、底質環境の劣化により個体数が明らかに減少している。沖縄県内
におけるすべてのヒメニッコウガイの生息地において、赤土堆積、埋め立て事業、航路浚渫などによる環境劣化が急
激に進んでいる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ゴイシザラ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Arcopaginula inflata(Gmelin, 1791)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長5cm、卵形の二枚貝。殻は白色、前縁は円く後端は角張る。弱い真珠光沢があり、褐色の薄い殻皮を被る。琉球
列島では、沖縄島と西表島に分布する。河口沖や内湾域の低潮帯∼潮下帯の砂泥底を生息場所とする。沖縄島金武湾
と中城湾では、埋め立てなどに伴う浚渫砂泥に死殻が多量に含まれていることがある。西表島船浮湾では、低潮帯∼
潮下帯の海草藻場砂泥底から見出される。ゴイシザラは、琉球列島において限られた地域の内湾域に不連続に分布し
ていると考えられる。内湾の浚渫や埋め立てにより生息域が急速に狭められてきている可能性が高い。
執
456
筆
者
名: 名和
純
貝類
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
マスオガイ
マルスダレガイ目 シオサザナミ科
Psammotaea elongata(Lamarck, 1818)
クバク(恩納村屋嘉田)、スパフ(名護市呉我)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長5∼7cm、前後に細長い二枚貝。殻色は紫色で褐色の殻皮を被る。琉球列島における分布域は、奄美大島、加計
呂麻島、徳之島、沖縄島、久米島、宮古島、伊良部島、石垣島、西表島と全域に及ぶ。主に内湾域に生息する。中潮
帯上部において、陸水の影響下にある礫砂底に局所的に個体群を形成する。沖縄県内での分布域は広く、もともと個
体数の多い種であるが、傾斜式護岸建設や養浜(人工ビーチ)による埋め立てで個体群ごと消滅するケースが近年相
次いでいる(読谷村宇座、恩納村屋嘉田、宜野湾市宇地泊、豊見城市与根など)
。そのため、今後も生物生息環境に
無配慮な護岸建設などの影響を受け続けた場合、生息域の分断化の進行により絶滅リスクが増加すると考えられる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ウラジロマスオ
マルスダレガイ目 シオサザナミ科
Psammotaea togata(Deshayes, 1855)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長6.
5cm内外の楕円形の二枚貝。殻は白色で粗い成長脈をしわ状に刻み、暗緑色(オリーブ色)
の殻皮を被る。沖縄
県内における分布域は西表島のみであり、分布北限にあたる。マングローブ林内の砂泥底に深く潜って生息してい
る。西表島北部の1河川からしか確認されておらず、生息範囲も狭い。貝殻収集目的による採集圧や護岸建設の影響
が懸念される。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ハスメヨシガイ
マルスダレガイ目 シオサザナミ科
Gari squamosa(Lamarck, 1818)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長3cm以下、楕円形。殻表は斜めの褶に覆われる。白色、橙色、黄色、藤色など色彩変異に富む。奄美大島以南、
沖縄島、石垣島に分布。低潮帯∼潮下帯の粗砂底∼サンゴ礫砂底を生息場所とし、海草藻場から見出されることが多
い。生息地、個体数ともに少ないが、沖縄島泡瀬干潟の海草藻場では、唯一まとまった個体数が見出されている。浦
添市港川地先の海草藻場でも毎回見出される。しかしながら、これらの分布中心域では、埋め立て工事中(泡瀬干
潟)または、埋め立て計画進行中(港川)となっている。今後、絶滅リスクが高まると考えられる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ハザクラ
マルスダレガイ目 シオサザナミ科
Psammotaea minor(Deshayes, 1855)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
457
貝類
殻長2.
5cm以下の楕円形の二枚貝。紫色の放射彩のある個体が多く、黄褐色の薄い殻皮を被る。陸水に直接晒される
部位に生息する。特に、河口干潟において、河口水路周辺の砂礫底にまとまった個体群が形成される。沖縄県内にお
ける分布域は、沖縄島、久米島、石垣島、西表島と広範囲に及ぶが、産地は少なく不連続である。大保大川河口や石
垣島名蔵川河口(アンパル)には、1m2当たり100個体を越す大きな個体群が維持されているが、激しい赤土流入の
影響を受けて生息域は狭められつつある。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
シレナシジミ
マルスダレガイ目 シジミ科
Polymesoda(Geloina)erosa(Solander, 1786)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長7∼1
2cm、マングローブ性のシジミ。殻皮が毛羽立ち丸みの強い個体をヤエヤマヒルギシジミ(タイワンヒルギ
シジミ)、殻皮が薄く殻が前方に伸びる個体をリュウキュウヒルギシジミとして区別する見解もある。マングローブ
林とその周辺に半ば埋在して生息する。琉球列島における分布域は、奄美大島、沖縄島、石垣島、西表島。沖縄島の
ほとんどの局所個体群が危機的状況に置かれている。例えば、羽地内海のすべての生息域で、親水護岸工事が進行し
ている。佐敷など中城湾の生息域では、埋め立て計画が進行している。また、すべての生息地において赤土などの土
砂堆積により生息条件が悪化している。西表島の後良川河口の生息域では、橋梁架け替えの付帯工事(駐車場、階段
など)により生息域が破壊され、周辺の個体も多量に斃死した(少なくとも100個体)。今後もマングローブ移行帯の
生物生息環境に無配慮な親水工事や土砂堆積などの影響を受け続けた場合、シレナシジミの絶滅リスクは増加すると
考えられる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
オキナワドブシジミ
マルスダレガイ目 ドブシジミ科
Sphaerium okinawaense Mori, 1937
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長8mm内外、殻の薄い円い二枚貝。殻は琥珀色で半透明、鈍い光沢がある。殻頂は中央にある。低湿地を生息環
境とする。河川後背湿地(放棄水田など)の抽水植物群落中の泥底から見出されることが多い。沖縄島、石垣島、西
表島、与那国島に分布する。模式産地の首里龍潭池とその周辺では1960年代まで見られたが、その後、消滅している
(知念盛俊氏私信)。かつて、石垣島名蔵川流域ブネラ湿原には約10haにわたって高密度で生息し、最大の個体群が
成立していたが、1998年の湿原の埋め立てとともに消滅した。このように、オキナワドブシジミの生息域は急激な断
片化の末に、現在では、河川改修や農地基盤整備のされていない流域にわずかに残されているにすぎない。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
458
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
オオヌノメガイ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Periglypta clathrata(Deshayes, 1854)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
貝類
殻長約9cm、膨らみの強い卵形。殻表は同心円板脈と放射肋が交わりタイル状。白色の地に褐色の放射色帯がある。
内面は白色。沖縄島を中心に分布。内湾域湾口部の低潮帯∼潮下帯サンゴ礫砂底を生息場所とする。中城湾沿岸から
は比較的普通に見出され、特に泡瀬干潟地先の潮下帯に生息域があるが、この海域では埋め立て工事が行われてい
る。分布域が限られ、個体数も少ないことから、今後絶滅リスクの高まることが予想される。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ヒメリュウキュウアサリ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Tapes belcheri Sowerby, 1853
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長5cm以下、楕円形の二枚貝。殻表は細い同心円脈に覆われる。リュウキュウアサリより膨らみが強い。放射色帯
が現れ、後端腹縁が弱くくびれる個体が多い。琉球列島においては、沖縄島、久米島、宮古島、伊良部島、石垣島、
西表島に分布。内湾湾口付近の低潮帯∼潮下帯の粗砂底∼サンゴ礫砂底を生息場所とし、海草藻場に多く見られる。
沖縄島泡瀬干潟と羽地内海には、まとまった個体群が維持されているが、その他の地域での生息密度は低い。地域個
体群ごとに殻の形態に特徴がある。例えば、羽地内海の個体は、大型で同心円脈が粗い、膨らみが強い、後端腹縁の
くびれが明らかなどの特徴から他の個体群と区別できる。豊見城市与根干潟の個体群は、埋め立てに伴い1998年に消
滅した。泡瀬干潟の生息域では、埋め立て工事が進行している。羽地内海の生息域は、赤土堆積により狭められてき
ている。このように、沖縄県におけるヒメリュウキュウアサリの生息条件は、急激に悪化している。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
オミナエシハマグリ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Pitar pellucidum(Lamarck, 1818)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長4∼5cm、丸く、膨らみの強い二枚貝。殻はクリーム色で、褐色のジグザグ模様が放射状に現れる。生時は殻表
に砂粒を固めて付着させ、水管は伸長した殻皮で包まれる。大規模な海草藻場の粗砂底に低い密度で生息する。琉球
列島における分布域は、沖縄島、久米島、宮古島、伊良部島、多良間島、石垣島、西表島と広範に及ぶ。地域集団ご
とに殻の色彩パターンに特徴がある。泡瀬干潟、宮古島与那覇湾、石垣島名蔵湾では比較的普通に見られるが、その
他の地域では稀である。本種は健全な海草藻場の指標となり得るが、沖縄島のほとんどの生息地(辺野古、屋我地済
井出、泡瀬、浦添港川)で埋め立て計画が進行している。また、宮古島や石垣島の生息域では、土砂流入や浚渫によ
る環境劣化が著しい。今後、急激に絶滅リスクが高まると考えられる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ケショウオミナエシ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Pitar prora(Conrad, 1837)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約5cm、卵型の二枚貝。オミナエシハマグリより膨らみは弱く、白色。腹縁に砂粒を付着させる。前縁が角張
る。開放的な海草藻場に低い密度で生息する。琉球列島における分布域は、沖縄島、渡名喜島、久米島、石垣島、竹
459
貝類
富島、波照間島と広範に及ぶ。ほとんどの生息地では、産出は稀であるが、沖縄島の恩納村∼糸満にかけての海草藻
場では比較的普通に見出される。特に、まとまった個体数が見られる港川(浦添市)と大嶺(那覇市)の海草藻場で
は、数百ヘクタール規模の埋め立て計画が進行している。沖縄県のケショウオミナエシ個体群は、今後、生息域の断
片化により急激に衰退する可能性が高い。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ユウカゲハマグリ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Pitar citrinus(Lamarck, 1818)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長4∼5cm、丸く、膨らみの強い二枚貝。黄白色、後部は茶褐色に彩られる。内面後部は紫褐色。殻表腹縁に石灰
が沈着する個体が多い。琉球列島では、奄美大島、加計呂麻島、沖縄島、久米島、宮古島、伊良部島、石垣島、西表
島と広範囲に分布するが、産地は不連続かつ局所的で個体数も少ない。干潟中潮帯下部から低潮帯上部の礫まじり砂
泥底、粗砂底を生息場所とする。滲出水(陸水)のあるウミジグサ藻場にも見られる。沖縄全域で進行している干潟
の埋め立てや親水護岸建設ラッシュにより、急激に生息域が狭められている。例えば、1998年には、与那原∼西原町
小那覇川河口と豊見城市与根の生息域が埋め立てにより消滅している。泡瀬干潟には沖縄島最大の個体群が見られる
が、埋め立て工事が進行している。沖縄県内の大部分の生息地において、埋め立てや護岸計画があり、赤土などの土
砂堆積が著しい。今後、急激に絶滅リスクが高まると考えられる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
イオウハマグリ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Pitar sulfreum Pilsbry, 1904
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約3cm、丸みのある二枚貝。殻は厚く膨らみが強い、黄白色。内面は黄橙彩される。琉球列島では、奄美大島と
沖縄島および西表島に不連続に分布する。内湾干潟中潮帯の礫まじり砂泥底、砂泥底、砂底を生息場所とする。沖縄
島では羽地内海、塩屋湾、大浦湾、中城湾(川田・泡瀬・佐敷)
、西表島では仲間川河口∼古見、船浦、仲良川河口
に個体群を形成する。生息域が特定の地域の内湾干潟に限られるために、近年の急激な干潟環境破壊に伴い個体群が
衰退してきている。例えば、中城湾川田干潟のイオウハマグリ個体群は、新港地区埋め立て工事後の1996年には消滅
した。泡瀬干潟には、沖縄最大規模のイオウハマグリ個体群が形成されているが、干潟埋め立て工事がおこなわれて
いる。沖縄島に現存する8ヶ所の生息地のすべてにおいて、埋め立てや護岸計画があり、赤土などの土砂堆積が著し
い。今後、急激に絶滅リスクが高まると考えられる。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
学
カ テ ゴ リ
460
名:
類:
名:
ー:
スダレハマグリ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Katelysia japonica(Gmelin, 1791)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
貝類
殻長約5cm、後方に伸びた三角形の二枚貝。殻表は、輪肋に覆われ、内面は橙彩される。琉球列島では、奄美大島と
沖縄島および西表島に不連続に分布する。河口干潟および内湾干潟中潮帯∼低潮帯の泥砂底∼砂泥底を生息場所とす
る。沖縄島では羽地内海、塩屋湾、与根干潟(豊見城市)とその周辺、西表島では西部の河口干潟に個体群を形成す
る。生息域が特定の地域の内湾干潟に限られるために、近年の急激な干潟環境破壊に伴い個体群の衰退、局所個体群
の消滅がおきている。例えば、1998年には、豊見城市与根干潟に形成されていた大きな個体群が埋め立てにより消滅
している。沖縄島に現存する生息地のすべてにおいて、埋め立てや護岸計画があり、赤土などの土砂堆積が著しい。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ヤエヤマスダレ
マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Katelysia hiantina(Lamarck, 1818)
準絶滅危惧(NT) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻長約4.
5cm、丸みのある楕円∼卵型の二枚貝。殻表は輪肋に覆われる。後背縁は猫背状。内面は黄彩される。琉球
列島では、沖縄島、石垣島、西表島に不連続に分布する。内湾干潟中潮帯∼低潮帯の砂底∼粗砂底、サンゴ礫砂底を
生息場所とする。沖縄島では羽地内海、中城湾(川田、泡瀬、佐敷)、宜野湾市∼豊見城市(宇地泊、港川、瀬長)、
石垣島では名蔵湾、西表島では北西部の干潟に個体群を形成する。このうち泡瀬干潟の個体群は現存する最大のもの
で、食用貝として多量に採捕されている。近年の急激な干潟環境破壊に伴い局所個体群の消滅が相次ぎ、残された個
体群でも明らかに個体数が減少している。例えば、1997年には、中城湾川田に形成されていた大きな個体群が埋め立
てにより消滅している。また、1998年には宇地泊(宜野湾市)の個体群が埋め立てにより消滅している。沖縄島に現
存する生息地のすべてにおいて、埋め立てや護岸計画があり、赤土などの土砂堆積が著しい。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
クシケマスオ
オオノガイ目 オオノガイ科
Venatomya truncata(Gould, 1861)
準絶滅危惧(NT)
環境省カテゴリー: 該当なし
殻長1∼1.
5cm、卵形の殻の薄い二枚貝。殻表には放射肋が密に刻まれる。左殻の殻頂内側には弾帯受けが突き出
す。両殻の間は開く。琉球列島では、奄美大島、沖縄島、西表島に不連続に分布域を形成する。内湾干潟や河口干潟
の低潮帯砂底を生息場所とする。羽地内海沿岸(呉我、仲尾次など)や西表島仲間川河口に大きな個体群が形成され
ている。沖縄島塩屋湾や佐敷干潟では、1990年代半ばまでまとまった個体数で生息していたが、2000年以降は確認さ
れていない。生息域が特定の地域の内湾干潟に限られるために、今後、急激に衰退する可能性がある。
執
筆
者
名: 名和
純
6)絶滅のおそれのある地域個体群
(LP)
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
セムシツノブエ
新紐舌目 オニノツノガイ科
Clypeomorus irrorata(Gould, 1849)
絶滅のおそれのある地域個体群(沖縄島)
(LP)
環境省カテゴリー: 該当なし
461
貝類
形
態: 殻長約2cm、殻表は平滑で太い縦肋を巡らす。
分 布 の 概 要: セムシツノブエは、インド・熱帯西太平洋域に地理分布を形成するが、琉球列島においては、分布北
限の奄美大島と沖縄島、石垣島に不連続かつ局所的に分布する。
生 態 的 特 徴: 内湾域中潮帯の礫底において、陸水の影響の強い場所にパッチ状に個体群を形成する。
生 息 地 の 条 件: 護岸建設などによる水脈の分断や土砂堆積は、個体群を消滅させる。
現在の生息状況: 石垣島では名蔵湾と川平湾に多産するが(久保弘文氏私信)、沖縄島では大浦湾と塩屋湾周辺のみに小
さな個体群が見られる。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のセムシツノブエは、限られた地域に隔離された個体群として生物地理学的に重要である。ま
た、生息環境が限定されることから、干潟の生物生息環境の多様性を把握するための指標種となる。
生存に対する 脅 威: 大浦湾(二見)では、1993年頃まで高い密度で生息していたが、赤土流入の激化とともに生息域の礫
底域が赤土に埋没し、セムシツノブエは全く見られなくなった。塩屋湾口部の個体群は、埋め立て事
業により2003年に消滅した。このように、セムシツノブエの沖縄島個体群は、近年、急激に絶滅寸前
に追い込まれている。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
コブムシロ
新腹足目 ムシロガイ科
Pliarcularia grobosus(Quoy & Gaimard, 1833)
絶滅のおそれのある地域個体群(沖縄島)
(LP)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長1.
5cmの球形の巻貝。殻口の滑層が肥大し体層を覆う。殻表の螺肋は、螺溝に細かく区切られて
タイル状。
近似種との区別: 近縁種のPliarcularia bellulaカニノテムシロは、殻表の縦肋が強く、殻高が高いことでコブムシロとは
区別できる。
分 布 の 概 要: コブムシロは、インド・熱帯西太平洋域に地理分布を形成する。琉球列島においては、分布北限の奄
美大島と沖縄島、西表島に不連続かつ局所的に個体群を形成する。
生 態 的 特 徴: 河口内湾干潟の中潮帯∼低潮帯砂底を生息場所とする。腐肉食性。
生 息 地 の 条 件: コブムシロは、底質の安定した砂干潟に個体群を形成している。したがって、陸域からの土砂流入や
埋め立てにより底質が撹乱されると生息できなくなる。
現在の生息状況: 西表島では、船浮湾とその周辺の河口干潟に高い密度で見られ、個体群サイズも大きいが、沖縄島で
は北部東海岸のみに小さな個体群が見られる。沖縄島において1
990年から2003年にかけてコブムシロ
の生息が確認された地点は、大浦湾干潟1ヶ所のみとなっている。個体群サイズは小さく、生息範囲は
1ヘクタールに満たない。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のコブムシロは、奄美大島の個体群とともに分布北限付近の隔離個体群として生物地理学的に
重要である。沖縄島大浦湾の河口干潟には、西表島の河口干潟との共通種(コブムシロ、カタシイノ
ミミミガイ、リュウキュウザクラなど)が隔離分布する傾向がある。このように、沖縄島のコブムシ
ロ個体群は、琉球列島の干潟環境や干潟生物群集の成立過程を探る上で貴重なものである。
生存に対する 脅 威: コブムシロの沖縄島唯一の生息地である大浦湾では、1
990年代後半以降、河川改修工事による赤土流
入、堆積が進行し、干潟を縦断する橋梁が建設されるなど、底質環境が激変した。その結果、コブム
シロの生息可能な範囲(健全な砂底域)は、ごくわずかな場所に狭められた。このように、コブムシ
ロの沖縄島個体群は、絶滅リスクが極めて増大していると考えられる。
参 考 文 献: 名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report Vol.4.
執 筆 者 名: 名和 純
和
分
462
名: リュウキュウザクラ
類: マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
貝類
学
名: Moerella philippinensis(Hanley, 1844)
カ テ ゴ リ ー: 絶滅のおそれのある地域個体群(沖縄島)
(LP)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻長2∼2.
5cmの亜三角形の二枚貝。殻色はピンク色。膨らみは弱い。
近似種との区別: 近縁種のMoerella culterトガリユウシオガイは、小型で、膨らみが強い、卵三角形、真珠光沢がある
ことでリュウキュウザクラとは区別できる。また、リュウキュウザクラが砂底域を生息場所とするの
に対して、トガリユウシオガイは泥砂底∼泥底に生息域がある。
分 布 の 概 要: リュウキュウザクラの地理分布は、海南島やフィリピンなどの南中国海沿岸にあり、琉球列島はその
北限付近にあたる。琉球列島では、奄美大島、沖縄島、石垣島、西表島に分布するが、生息域は局限
される。
生 態 的 特 徴: マングローブを伴う河口付近の中潮帯砂底を生息場所とする。
生 息 地 の 条 件: リュウキュウザクラは、しまりのある安定した砂底域に個体群を形成している。そのような底質が、
陸域からの土砂流入により撹乱されると生息できなくなる。
現在の生息状況: 西表島では、全域の河口付近の干潟砂底に見られ、個体群サイズも大きいが、沖縄島では北部東海岸
のみに小さな個体群が見られる。沖縄島において1
990年から2003年にかけてリュウキュウザクラの生
息が確認された地点は、汀間川河口、大浦川河口、久志大川河口、億首川河口の4ヶ所の干潟。この
うち、大浦川河口では、生息範囲が比較的広い(約1ヘクタール)が、その他の地点では数十m四方と
非常に狭い。
学術的意義・ 評 価: 沖縄島のリュウキュウザクラは、奄美大島の個体群とともに分布北限付近の隔離個体群として生物地
理学的に重要である。大浦湾を中心とする沖縄島北部東海岸の河口干潟には、リュウキュウザクラの
ほかにコブムシロ、カタシイノミミミガイ、ナガオカミミガイ近似種などが特徴的に見出される。こ
の種群は近隣の中城湾や羽地内海の干潟には見出されず、西表島の河口干潟の種相と共通している。
このように、沖縄島のリュウキュザクラ個体群は、琉球列島の干潟環境や干潟生物群集の成立過程を
探る上で貴重なものである。
生存に対する 脅 威: リュウキュウザクラの沖縄島最大の生息地である大浦湾では、赤土流入、堆積の激しくなった1
990年
代後半以降、生息域が明らかに狭められ、個体数が急減している。他の3ヶ所の生息地でも赤土の堆積
による干潟の陸化にともない、消滅寸前の状態となっている。以上のことから、リュウキュザクラの
沖縄島個体群は、絶滅リスクが極めて増大していると考えられる。
参
考
文
執
筆
者
献: 斯下拉脱,O. A., 1965.中国海双殻類軟体動物的桜蛤総科.海洋科学集刊,(8)
:27―114.
名和 純,2001.琉球列島における内湾干潟の貝類相.WWF Japan Science Report, Vol.4.
名: 名和 純
7)情報不足
(DD)
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ウニヒザラガイ
多板殻綱 新ヒザラガイ目 ヒザラガイ科
Acanthopleura spinosa(Bruguière, 1792)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は漆黒色で光沢があり、肉帯上に多数の顕著な棘状剛毛が発達する。体長100mmに達する。
近似種との区別: 漆黒色光沢のある殻と顕著な棘状剛毛により、多種とは明瞭に区別できる。
分 布 の 概 要: 宮古島・与那国島。
近縁な種及び群との分布状況の比較: オニヒザラガイ・リュウキュウヒザラガイは沖縄全域の岩礁域全般に分布する
が、本種は宮古島、与那国島の海蝕崖の発達する限られた場所に生息する。
生 息 地 の 条 件: 波あたりの強い海蝕崖の岩盤上。
現在の生息状況: 外洋域で開発の影響は少なく、今のところ、生息環境は保たれている。
学術的意義・ 評 価: ヒザラガイ類中で特に棘状剛毛を発達させた特異な種で、形態的捕食回避等の観点から生態的に重要
な研究資源であり、進化学的にも注目できる。
特 記 事 項: 準絶滅危惧の要件Cについて、具体的な情報が乏しく、現状は情報不足である。
463
貝類
原
記
載: Bruguiere, 1792. Histoire naturelle des vers. 1.
参 考 文 献: 齋藤 寛,2000.多板綱.“日本近海産貝類図鑑”,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,4―23.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
サンゴウラウズ
腹足綱 古腹足目 リュウテン科
Astralium nakamineae(Habe & Okutani, 1981)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は小型、低円錐形で、周縁に棘はない。蓋は白く滑層をかぶり、光沢が強く、中央部に卵形の浅い
窪みがある。
近似種との区別: 1属1種で近似種は知られていない。
分 布 の 概 要: 名護市久志。
現在の生息状況: サンゴ礁亜潮間帯に生息するとされるが、現状は不詳。
学術的意義・ 評 価: 沖縄県名護市東岸のサンゴ礁から新属新種として記載され、固有種の可能性もあるが、記載以来、再
発見のない希少種であって情報が極めて乏しく、ランクづけに必要な定性的要件を論議できない。
原
執
記
筆
載: T. Habe & Okutani T., 1981. Unusual Turbinid Gastropod from Okinawa Island, Japan, Okinawastraea nakamineae n. gen. et sp. Venus, 40(2) : 68―70
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
オキナワチグサ
腹足綱 古腹足目 ニシキウズ科
Cantharidus gilberti(Montrouzier in Fischer, 1878)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態:
近似種との区別:
分 布 の 概 要:
生 息 地 の 条 件:
殻は小型で、高円錐形、殻表は平滑で光沢が強く、鮮緑色∼黄緑色の個体が多い。殻径10mm程度。
近似種イワカワチグサはより小型で螺層は丸みを帯び、殻表に明瞭な螺条彫刻を有する。
沖縄全域。
外洋に面したサンゴ礁礁斜面や潮通しの良いリーフ内の死サンゴ礫の隙間等に生息するが、生態の詳
細は不明。
現在の生息状況: 本種は死サンゴ礫の堆積する隙間奥部などに生息するため、調査が困難で生息実態が詳しく把握され
ていない。しかし、死サンゴ礫の堆積する隙間の奥部には赤土が沈積して、目詰まりを来し、貧酸素
状態となる場合が多く、今後、こうした環境変化の影響について、具体的情報を掌握する必要があ
る。
学術的意義・ 評 価: チグサガイ類は地方固有種がいくつか知られており、本種もその可能性があり、学術的意義は大きい
が、生態学的知見が極めて乏しく、軟体部を含めた形態学的研究もなされていない。
原
参
執
464
記
考
筆
文
者
載: Fischer, 1878. Catalogue des mollusques appartenant aux genres Turbo, Calcar et Trochus recueillies dans les
mers de l’Archipel Caledonien (supplement) suivi de la liste des especes des genres Daphinila, Liotia et
Phasianella’. J. Conch. 26 : 205―211.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
クマノコ
腹足綱 古腹足目 ニシキウズ科
Chlorostoma xanthostigma(A. Adams, 1853)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は中型でやや厚く、円錐形で殻表はやや光沢があり、濃緑灰色の殻と鮮緑色の内唇を有する。最大
殻径約40mm。
近似種との区別: 沖縄に産する他の大型のニシキウズ類は模様があるが、本種はこれを欠くので明瞭に区別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄島北部。
生 息 地 の 条 件: 外洋に面し、かつ陸水の影響が多少ある非石灰岩質の転石海岸の中潮線付近に生息する。
現在の生息状況: 沖縄北西部の玉石性海岸では護岸造成等により、中潮線付近が攪乱されており、生息場所が減少して
いる可能性があるが、テトラポットなど人工的な環境にも生息することから個体数の減少等が不明で
ある。本土では普通種だが、沖縄では北部岩礁域に分布が限られている。
学術的意義・ 評 価: 本種は台湾にも分布するが、分布の中心は温帯域で、亜熱帯環境の沖縄においては限定された場所に
のみ生息が認められ、動物地理学、生態学的に重要である。
特 記 事 項: 沖縄島北西岸の転石地帯には本種をはじめ、エナメルアマガイやクロタマキビモドキ等地理的に特異
分布をする種が多いが、先述の通り、具体的な減少等に関する情報が不足している。学術的に重要で
あるので、今後、ランクづけに必要な情報の整備が望まれる。
原
参
執
記
考
筆
載: A. Adams, 1853. Contributions towards a monograph of the trochidae, a family of Gastropodous Mollusca.
Proc. Zool. Soc. London, 19 : 150―192.
文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ウロコイシマキ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Clithon squarosus(Rècluz, 1843)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は中型で、亜球形、殻表は細かく凹凸を伴う殻皮が被覆し、緑灰色の横帯をめぐらす。蓋は灰色で
裏側の中央が黒ずむ。殻径約10∼20mm。
近似種との区別: 近似種イガカノコ、イシマキガイとは殻表にある多数の凹凸の特徴により区別される。
分 布 の 概 要: 石垣島、西表島。
生 態 的 特 徴: 岩盤や貝殻上にドーム上の卵嚢を産み付け、卵嚢からベリジャー幼生が浮出し、海へ下って、成長
し、再び河川を遡上すると考えられている。
生 息 地 の 条 件: 主に石垣島、西表島の限られた河川の流れの速い中・上流の石の上に生息するが、農業用小水路等に
も生息できる。
現在の生息状況: 本種は2002年に国内初記録で報告された種で、石垣島、西表島の限られた河川と一部、農業用小水路
から生息が記録され、個体数は少ない。
学術的意義・ 評 価: 本種は生息地面積あるいは分布地点が極めて限定されているが、人工的に改変されたコンクリート小
河川でも確認されていることから、環境順応性のある種と考えられる。また、熱帯域に分布の中心が
あり、海流による幼生伝搬の影響を考慮して、長期的な生息状況をモニタリングした上で、ランクづ
けが必要である。
原
記
載: Rècluz, 1843. Descriptions of new species of Nerites, collected by H. Cuming Esq. in the Philippine Island.
Proc. Zool. Soc. London, 168―176.
参 考 文 献: 久保弘文,2002.沖縄県産陸水性アマオブネガイ類の日本新記録2種.ちりぼたん,33
(1―4)
:33―39.
執 筆 者 名: 久保弘文
465
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ベッコウフネアマガイ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Septaria lineata(Lamarck, 1816)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、縦長の扁平なドーム型で殻口は全面に開口し、舟形となる。殻表は黄褐色の殻
皮が被覆し、殻頂は尖る。蓋は内在し、亜長方形。殻長20mm内外。
近似種との区別: 近似種フネアマガイ、カミングフネアマガイとは殻が著しく縦に延びること、殻頂が三角形状に尖る
こと等の特徴により、区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域。
生 態 的 特 徴: 繁殖生態など詳しい生態は不明。
生 息 地 の 条 件: 主に緩やかに流れる下流汽水域の沈木や岩上の他、水質の比較的安定した都市部の人工的河川までの
下流域に生息する(久保,2000)。
現在の生息状況: 上記生息環境に稀に生息が認められる。
学術的意義・ 評 価: 本種は従来より個体数の少ない希種として知られていたが、1
999年∼2000年に八重山から奄美大島に
かけて、比較的多く確認され、海流による幼生伝搬がもたらした「擬個体群」である可能性が指摘さ
れた(小菅,2001)。その後、2004年現在に至って、本種は全県的に再び希種となっており、一時的な
卓越発生があったことは確かであろう。絶滅のおそれのある種の指定を行う際には、このような現象
を考慮する必要がある。すなわち、海流による幼生伝搬のもたらす個体群消長に関する長期的なモニ
タングとその種のもつ環境順応性(自然度等に対する棲場要求)、あるいは他地域との遺伝子交流の度
合い等についての知見を整備すると共に、その個体群が受け入れられる自然環境の保全状況等を総合
的に考慮する必要があろう。上記観点から、出現の消長が激しく、人工的環境にも発生する本種につ
いて、現在の知見でのランクづけは困難である。
原
記
参 考 文
執
筆
載: Lamarck, 1816. Encyclopaedie mathodique, zoologie (Liste dans les planches de cette livraison), 456, fig. 2.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
久保弘文,200
0.宜野湾市の貝類.“宜野湾市誌 第9巻 資料編8自然”
,宜野湾市教育委員会文化課
編,宜野湾.
小菅丈治,2001.ベッコウフネアマガイの八重山諸島における生息記録.南紀生物,43
(1)
:55―57.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
オオアマガイ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Nerita ocellata Le Guilou, 1841
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は中型で非常に厚く、半卵形、殻表は灰黒色で平滑、蓋は濁黄褐色で微顆粒を有する。殻径2
0mm
内外。
分 布 の 概 要: 主に沖縄本島北部、慶良間諸島。
生 態 的 特 徴: 夜行性で藻食性。
生 息 地 の 条 件: 陸水の影響のある非石灰岩質の転石海岸の中潮線付近に生息する。
現在の生息状況: 沖縄北部の玉石海岸では護岸造成等により、中潮線付近が攪乱され、生息場所自体が減少している可
能性があるが、階段式護岸等の人工的な環境にも生息する。
特 記 事 項: テトラポットなど人工的な環境にも生息することから個体数の減少等が不明で、準絶滅危惧の要件に
ついて、具体的な情報が乏しく、現状は情報不足である。
参
執
466
考
筆
文
者
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ベニツケアマガイ
腹足綱 アマオブネ目 アマオブネ科
Nerita reticulata Karsten, 1789
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は中型で厚く、半卵形、殻表は粗く、灰白色で強弱交互の粗い螺条を巡らし、殻口内唇が紅色に染
まる。蓋は濁灰色で微顆粒を有する。殻径15mm内外。
近似種との区別: 近似種マルアマオブネは内唇の明らかな赤色色斑がなく、背面の螺条が細かい。
分 布 の 概 要: 沖縄本島、石垣島、与那国島。
生 態 的 特 徴: 藻食性で干潮時に活動する。
生 息 地 の 条 件: 外洋に面し、かつ陸水の影響が多少あるサンゴ礁石灰岩質の転石海岸の中潮線付近に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島では希、石垣、与那国でも生息場所は限られ、個体数は少ない。
学術的意義・ 評 価: 分布の北限であり、生息地が局限され、姉妹種マルアマオブネより常に劣勢で、種間関係など動物地
理学、生態学的に重要と考えられるが、熱帯域に分布の中心があり、海流による幼生伝搬の影響を考
慮して、長期的な生息状況をモニタリングした上で、ランクづけが必要である。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Karsten, 1789. Museum Leskeanum. Regnum Animale quod ordine systematico disposuit atque descripsit D.
L. Gustavus Karsten.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
カタツノブエ
腹足綱 新紐舌目 オニノツノガイ科
Cerithium munitum Sowerby, 1855
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は中型、細長い紡錘形、太く短いが明らかな水管を形成し、殻表は小結節を伴う4∼6条の螺条をめ
ぐらし、殻底部に縦張肋が張り出す。殻色は淡黄白色∼淡褐色で単色の場合と小褐色斑や褐色帯を伴
うこともあり、殻口内は白い。最大殻長約30mm。
近似種との区別: 近似種ヨロイツノブエは縫合下に結節状の太い螺条をめぐらし、水管がやや短く太いことで区別され
る。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
近縁な種及び群との分布状況の比較: なし。
生 態 的 特 徴: 微細な海藻の生える岩盤上で砂と共に微細藻類を摂食していると考えられる。
生 息 地 の 条 件: 潮通しの良いリーフ内または内湾の微細な藻類が被覆している岩盤の隙間や死サンゴ礫下に生息す
る。
現在の生息状況: 沖縄島中城湾、名護湾、本部町西岸等の生息地では1
990年代にすでにサンゴ礫下や岩盤の間隙に赤
土、クチャ等のシルトが堆積していて、そうした場所から死滅した本種の殻のみが多くみられたが、
この死因との因果関係について、それ以前の情報がなく、科学的に証明できない。現在でも本種はこ
のような環境でわずかに生息が認められるが、上記の死因が不明であること、自然の高い場所で多産
する場所が他に見つかっていないこと等から、確実な定性的要件を満たす情報がない。
原
参
執
和
分
記
載: Sowerby II, 1855. Thsaurus conchchyliorum, or monographs of genera of shells, Part 16 : Cerithium.
考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
筆 者 名: 久保弘文
名: ヒメカニモリ
類: 腹足綱 新紐舌目
オニノツノガイ科
467
貝類
学
名: Rhinoclavis sordidula(Gould, 1849)
カ テ ゴ リ ー: 情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は中型、細長い紡錘形、太く短いが明らかな水管を形成し、殻表は顆粒状の螺条を7∼8本めぐら
し、殻色は淡褐色に濃褐色の色帯をもつ。最大殻長約25mm。
近似種との区別: 近似種はない。
分 布 の 概 要: 沖縄島。
生 態 的 特 徴: 微細な海藻の生える岩盤上で砂と共に微細藻類を摂食していると考えられる。
生 息 地 の 条 件: やや水深のある潮通しの良い内湾、礁水路等のやや堅いシルト底に生息する。
現在の生息状況: 内湾の堅いシルト底は金武湾・中城湾の亜潮間帯以深に多いが、クチャの流入や港湾化等の地形変化
による潮流の変化等により底質が軟泥化(ヘドロ化)している場所が広がっており、そうした場所で
の生息実態が不明で、ランクづけを見合わせた。
学術的意義・ 評 価: 本科貝類は微細藻あるいはデトライタス食で、サンゴ礁域の多様な環境に適応放散し、数十種類に分
化しており、進化学、生態学的に重要である。
生存に対する 脅 威: 軟泥(ヘドロ)化による底質環境の変化により、生息条件に悪影響のある可能性がある。
特 記 事 項: レッドデータブック愛媛(2003)では絶滅にランクされている。
原
参
執
記
考
筆
載: Gould, 1849. Shells collected by the United States Exploring Expedition under the command of Charles
Wilkes. Proc. Boston Soc. Nat. Hist., 3 : 83―144
文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
クチムラサキカニモリ
腹足綱 新紐舌目 オニノツノガイ科
Clypeomorus purpurastoma Houbrick, 1985
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は中型、太短い搭状円錐形、短いが明らかな水管を形成し、殻表は濃褐色の顆粒を伴う螺条を巡ら
し、殻色は濁白色。殻口内唇、外唇ともに濃紫色に染まる。殻長25∼30mm以下。
近似種との区別: クロフカニモリはより太短く、小型である。
分 布 の 概 要: 久米島、石垣島。
生 態 的 特 徴: 微細な海藻の生える岩盤上で砂と共に微細藻類を摂食していると考えられる。
生 息 地 の 条 件: 潮通しの良いリーフ内の干出する岩盤上の緑藻等の藻類が被覆している潮間帯上部に生息する。
現在の生息状況: 既往の生息場所は数少なく、沖縄に分布する潮間帯性の本種群中、最も生息知見の少ない種の一つと
考えられるが、ランクづけに必要な定性的要件について、確実な情報がない。
学術的意義・ 評 価: 本科貝類は微細藻あるいはデトライタス食で、サンゴ礁域の多様な環境に適応放散し、数十種類に分
化しており、進化学、生態学的に興味深い種群である。
原
執
記
筆
者
載: Houbrick, R. S., 1985. Genus Clypeomorus. Smithonian contributions to zoology No. 403. Pub. Smithonian
Institution, Washington DC, USA, 131pp.
名: 久保弘文
ヨレカワニナ
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
形
態: 殻は中型で、非常に細く高い塔状で、殻頂が捩れる。殻表は等間隔で細い螺条を有する。蓋は黒褐
468
腹足綱 新紐舌目 トウガタカワニナ科
Stenomelania sp.
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
貝類
色。殻長50mmに達する。
近似種シャジクカワニナはより大型とされるが、殻頂の形態が不詳で分類学的課題がある。
座間味島小河川からのみ記録。
繁殖生態など詳しい生態は不明。
下流の流れの緩やかな泥底に生息する。
1985年に座間味島で死殻が確認されて以来、生息記録はない(福田,1996)。絶滅の可能性もあるが、
座間味島の河川における現状は不詳である。
学術的意義・ 評 価: 本種を含む、汽水性カワニナ類は南西諸島に1
0種弱記録されており、各島嶼において遺伝的に分化し
ている可能性があるが、分類学や生態学的知見が非常に乏しく、今後の研究資源として、その学術的
意義は大きいが、ランクづけに必要な定性的要件を論議できる状況にない。
生存に対する 脅 威: 河川周辺環境の改変や河川改修に伴われる河川の自然環境多様性の低下。人工あるいは自然的原因に
よる河口閉塞と、それに伴う両側回遊的生活史の遮断。
近似種との区別:
分 布 の 概 要:
生 態 的 特 徴:
生 息 地 の 条 件:
現在の生息状況:
参 考 文 献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
シャジクカワニナ
腹足綱 新紐舌目 トウガタカワニナ科
Stenomelania hastula(Lea, 1850)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は大型で、成熟個体は殻頂部が摩滅脱落し、非常に長い寸胴な円柱形、殻表は多数の螺条を巡ら
し、漆黒∼黒褐色。蓋は黒褐色。殻長90mmに達する。
近似種との区別: 近似種スグカワニナはより小型で、寸胴ではなく、殻表は平滑。
分 布 の 概 要: 黒田(1929)で八重山に産すると報告されたのみで他は全く記録がない。
生 態 的 特 徴: 不明。
生 息 地 の 条 件: 不明。
現在の生息状況: 不明。
学術的意義・ 評 価: 本種を含む、汽水性カワニナ類は南西諸島に1
0種弱記録されており、各島嶼において遺伝的に分化し
ている可能性があるが、分類学や生態学的知見が非常に乏しく、ランクづけに必要な定性的要件を論
議できる状況にない。
特 記 事 項: 絶滅の可能性もあるが、過去の生息記録に関して、詳細な産地情報や標本も見つかっておらず、記録
そのものについて再検討する必要がある。なお、ヨレカワニナとの分類学的比較検討も必要である。
原
記
載: Lea and Lea, 1850. Descriptions of a new genus of the family Melaniana, and of many new species of the genus Melania, Chiefly collected by Hugh Cuming, esq., during his zoological voyage in the East, and now
first described. Proc. Zool. Soc. London, 179―197.
参 考 文 献: 黒田徳米,1929.日本産カワニナ類について.ヴェナス, (5)
:179―193,pl. IV.
執 筆 者 名: 久保弘文
ムチカワニナ
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
形
態: 殻は大型で、高い塔状、典型的な個体は殻表に石畳状の彫刻があるが、平滑な部分が多い個体は、ス
グカワニナと区別が困難な場合がある。殻色は黒褐色∼灰褐色で、赤褐色の酸化鉄皮膜に被覆される
ことがある。蓋は黒褐色。殻長50mmに達する。
腹足綱 新紐舌目 トウガタカワニナ科
Stenomelania crenulatus(Deshayes, 1838)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(CR+EN)
469
貝類
近似種との区別: 近似種スグカワニナとは軟体部(肝臓)の色彩が異なるとされるが、複数種混在の可能性やスグカワ
ニナの変異の可能性もあって、分類学的に課題があり、今後、遺伝子解析手法による種判別等の客観
的な分類研究が必要と思われる。
分 布 の 概 要: 沖縄本島北部の限られた河川。
生 息 地 の 条 件: 本種に該当する型は自然度が高い川の、下流から中流の常に流れている場所の泥礫底に生息する。
現在の生息状況: 本種に該当する型の出現する河川は沖縄島北部の1河川で知られるのみであり、個体数は少ない。
特 記 事 項: 本種は今後、スグカワニナとの分類学的関係を再確認する必要があると考え、情報不足として扱っ
た。
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 増田 修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑2.ピーシーズ,東京,240pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
デリケートカドカド
盤足目 カワザンショウガイ科
Ditropisena sp.
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
宮古島の固有種。与那覇湾沿岸の咲田川河口域から見出されていたが、緩傾斜護岸建設により生息域が消滅した。現
状は不明。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
エレガントカドカド
盤足目 カワザンショウガイ科
Ditropisena sp.
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
石垣島および西表島の固有種。石垣島磯辺川河口から記録されていたが、埋め立て工事ににより消滅した(福田ほ
か,1996)。西表島浦内川河口域でも見出されているが、現状は不明。
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
献: 和田恵次・西平守孝・風呂田利夫・野島哲・山西良平・西川輝昭・五島聖冶・鈴木孝男・加藤真・島
村賢正・福田宏,1996.日本の干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状.WWF Japan Science Report, Vol.3.
名: 名和 純
名:
類:
名:
名:
ー:
シリコケゴマガイ
ゴマガイ科
Diplommatina(Sinica)ventriosa Pilsbry & Hirase, 1904
なし
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 情報不足(DD)
貝殻はこの属としては中型(殻高約2.
8mm)で、殻径はやや小さく(約1.
5mm)、膨れた紡錐形。体層は次体層より
かなり小さい。淡明褐色。螺層には明瞭でやや細かく規則的な成長肋を持つ。殻口は、円形で、肥厚し、反転する。
体層の内部にある緊線と呼ばれる縦肋は外唇の殻口付着部にあり、腔襞と呼ばれる体層内部の横肋は長い。本種は、
久米島からクメジマゴマガイと共に記載されたが、原記載以来再発見されていない。
470
貝類
原
記
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1904. Description of new land snails of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat.
Sci. Phila., 56 : 616―638.
献: 黒田徳米,1963.日本非海産貝類目録.日本貝類学会,東京,vi+71pp.
安藤保二,1972.ゴマガイ銘々伝(第6回).貝なかま,5
(4)
:1―5.
品川和久,1978.沖縄県久米島における陸貝採集記録.かいなかま,12
(2)
:4―14.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
ヨナクニカタヤマガイ
腹足綱 新紐舌目 イツマデガイ科
Oncomelania shini(Habe, 1961)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
形
態: 殻は微小で、螺塔は円柱形で縫合はくびれ、殻表は平滑で黄褐色。成貝は殻頂が欠落する。殻長約3mm
以下。
近似種との区別: 国内に近似種はなく、カタヤマガイとも別属という見解があり、分類学的位置については今後検討を
要する。
分 布 の 概 要: 与那国島。
生 息 地 の 条 件: 地下水のしみ出す石灰岩地帯の湿地、井戸。
現在の生息状況: 与那国島内の上述した環境の落ち葉の下や石灰岩壁上において、個体数は少なくない。
学術的意義・ 評 価: 与那国島固有種で生物地理学的に重要であるが、湧水の枯渇等による具体的な減少状況は確認でき
ず、ランクづけは見合わせた。
原
記
参 考 文
執 筆 者
載: 波部忠重,196
1.八重山群島与那国島のタイワンカタヤマガイの1新亜種.Venus,21
(3)
:279.
献: 増田修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑2.ピーシーズ,東京,240pp.
名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ユキネズミガイ
腹足綱 新紐舌目 タマガイ科
Mammilla sebae(Rècluz, 1844)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、洋梨形、殻表は平滑。生時は薄い淡黄色の殻皮に覆われるが、死殻では剥がれ
やすい。殻の地色は白く、小さく不明瞭な褐色斑がある。蓋は革質で薄く、半月型。最大殻長約4
0
mm。
近似種との区別: 近似種ヒロクチリスガイは殻口より大きく、蓋が殻口の3分の1程度の大きさしかないことから、区別
される。
分 布 の 概 要: 沖縄島西岸海域(名護湾及び羽地内海)、チービシ沖浚渫砂(死殻のみ)。
生 息 地 の 条 件: 潮通しのよい内湾の砂底域。
現在の生息状況: 紀伊半島以南の本土にも生息するが、元来、希少種で、生貝は沖縄島北部西岸の潮通しがよく、均質
でかつ泥分の少ない細砂底の汀線直下で確認されている。現在、陸域からの汚水や陸土流入で清浄な
砂底環境が悪化しているので、本種の生息に悪影響のある可能性があるが、希少種であることから生
息知見が乏しく、外洋性の細砂底にも生息場所がある可能性が高いこと等から、今のところ、絶滅危
惧のランクづけを論議できるだけの情報は不足していると考えられる。
学術的意義・ 評 価: 同種群は砂底環境に多数種が適応放散し、貝類を専食する特有の摂食生態を持ち、進化学的、生態学
的に重要である。
原
参
記
載: Recluz, 1844. On new species of Natica. Prc. Zool. Soc. London, 11 : 136―141.
考 文 献: 齋藤 寛,2000.タマガイ科. 日本近海産貝類図鑑 ,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,2
50―
471
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
267.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
ヒメツメタガイ沖縄型
腹足綱 新紐舌目 タマガイ科
Glossaulax cf. didyma(Roding, 1798)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、ドーム状の半球形、殻表は平滑で光沢があり、淡灰褐色。臍孔は大きく開き、
小さいが明瞭な臍盤を形成する。蓋は革質、半月型。殻径4cm内外。
近似種との区別: 沖縄では近似のツメタガイ類は他に知られていない。
分 布 の 概 要: 沖縄本島羽地海域、金武湾・中城湾(死殻のみ)。
生 態 的 特 徴: 貝食性、主に夜行性で、砂底を匍匐し、砂粒を付けた卵塊(通称砂茶碗)を産む。
生 息 地 の 条 件: アマモ場に隣接する潮通しのよい細砂底の汀線直下で生息が確認されている。
現在の生息状況: 沖縄島西岸の羽地外海で生貝の生息が確認され、他では浚渫であげられた砂泥中より古い死殻のみが
確認されている。現在、陸域からの汚水や陸土流入による砂底環境の悪化や埋め立て等の内湾域の砂
質環境の消失によって、本種の生息に悪影響のある可能性があるが、希少種であることから生息知見
が乏しく、ランクづけに必要な要件を満たす情報は不足している。
学術的意義・ 評 価: 同種群は砂底環境に多数種が適応放散し、貝類を専食する特有の摂食生態を持ち、進化学的、生態学
的に重要である。また、本種は房総以南、日本海西部にも生息するヒメツメタガイに似るが、殻質が
薄く、臍孔の形状などが若干異なるため、遺伝的検討が必要である。
原
記
載: Roding, 1798. Museum Boltenianum sive catalogus cimelorime tribus regnis naturae quae olim collegerat Joa.
Fried. Bolten, M. D. P. p. d. per XL. Annos Protophysicus Hamburgensis, Pars secunda contineus conchylia
sive tetacea univalvia, bivalbia et multivalvia, vii―199pp.
参 考 文 献: 齋藤 寛,2000.タマガイ科. 日本近海産貝類図鑑 ,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,2
50―
267.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヘシャゲフトコロ
腹足綱 新腹足目 フトコロガイ科
Euplica deshayesi(Crosse, 1859)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型、丸い紡錘形、太く短い水管を形成し、殻表はほとんど平滑で、薄い黄褐色の殻皮
を被り、体層下部に螺条を数本有する。殻色は白地に淡褐色に斑紋を散らす。殻径10mm程度。
近似種との区別: 近似種マルフトコロはより丸く、褐色の螺条を多数めぐらすことにより、ヒメマルフトコロはより小
型で、殻が細いことから、区別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄島(金武湾、中城湾、名護湾等)。
近縁な種及び群との分布状況の比較: なし。
生 態 的 特 徴: 微細な海藻の生える岩盤上で砂と共に微細藻類を摂食していると考えられる。
生 息 地 の 条 件: 内湾域のやや水深のある潮通しの良い場所の微細な藻類が被覆している岩盤上に生息する。
現在の生息状況: これまで本種の生きた貝が確認された場所は名護湾のみ、金武湾、中城湾ともに浚渫によりもたらさ
れた砂泥中から死殻が確認されたにすぎない。熱帯域の内湾には多産し、おそらく、過去には繁栄し
ていた種と考えられるが、現在は、その生息数がかなり減少している可能性がある。特に近年の内湾
域における様々な要因による底質環境の悪化によって、さらに生息に不向きな条件となっている可能
性が高いが、過去からの衰退要因が定かではないので、具体的なランクづけは困難であった。
学術的意義・ 評 価: 本科貝類は肉食種が中心の新腹足類の中で独自に微細藻食に分化したグループで、サンゴ礁域の多様
472
貝類
な環境に適応放散し、数十種類に分化しており、進化学、生態学的に重要な種群である。
原
参
執
記
載: Crosse, 1859. Description des conquilles nouvelles. J. Conch. 7 : 380―384, pl. 14.
考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
クリイロムシロ
新腹足目 ムシロガイ科
Zeuxis olivaceus(Bruguière, 1789)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
奄美大島以南に分布するとされているが、沖縄県内(沖縄島以南)からの生貝の記録はなく、現状は不明。沖縄島金
武湾から古い死殻が見出されている。奄美大島では、内湾干潟低潮帯砂底において生貝が見出される。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
オリイレヨフバイ
腹足綱 新腹足目 エゾバイ科
Nassarius arcularia(Linnaeus, 1758)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや大型、角張った卵球形で縫合は折り入る。殻表は肩部に強い縦肋を刻み、殻口内唇
滑層が広く張り出して肥厚する。殻色は乳白色で縦肋間が暗色に染まる。殻長25mm程度。
近似種との区別: 近似種イボヨフバイはより縦に長く、縫合下が等間隔に褐色に染まり、縦肋が弱いことから、区別で
きる。
生 息 地 の 条 件: 沖縄全域のやや開放的な大規模干潟のアマモ場やその周辺の砂地に、死殻が散見されることから、生
息環境はアマモ場周辺の砂底域と考えられる。
現在の生息状況: 本種は沖縄全域のアマモ場において、死殻が少なからず確認されるが、生貝は具体的記録が全くな
い。有史以前に絶滅した可能性があるが、現在の知見では不明であり、情報不足にとどめた。なお、
国内のほとんどの主要文献には南西諸島以南に分布するとされている。
学術的意義・ 評 価: 本科貝類は腐肉食貝類としてサンゴ礁∼内湾域の多様な環境に適応放散して、5
0種以上に分化し、進
化学、生態学的に学術的意義のある種群である。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Linnaeus, 1758. Systema naturae. ed. 10.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
マタヨフバイ
腹足綱 新腹足目 エゾバイ科
Nassarius luridus(Gould, 1850)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや大型、角張った卵球形、殻表は平滑で不明瞭な雲状斑を有し、殻底に数条の螺溝を
めぐらす。殻口内は紫褐色に染まり、殻口外唇内側に多数の襞を刻む。最大殻長約25mm。
近似種との区別: 近似種ヨフバイモドキはより小型、肩部が丸いことから、区別できる。
473
貝類
分 布 の 概 要: 石垣島、西表島。
近縁な種及び群との分布状況の比較: なし。
生 態 的 特 徴: 腐肉食性であるが、完全に腐敗したものは摂食せず、魚やカニ等の死体に集合して摂食する。
生 息 地 の 条 件: 河口干潟のアマモ場やその周辺の砂泥地に生息する。
現在の生息状況: 本種は県内では八重山のみで記録され、生息場所は限定されるが、比較的底質の汚れた泥分の多い場
所にも見られる場合もある。奄美大島にも記録があるが、沖縄島からは未記録である。
学術的意義・ 評 価: 本科貝類は腐肉食貝類としてサンゴ礁∼内湾域の多様な環境に適応放散して、5
0種以上に分化し、進
化学、生態学的に学術的意義のある種群である。
特 記 事 項: 今後、先島海域における海浜埋め立てによる生息場所の直接的な消失が考えられるが、現在の生息状
況から個体数の減少や生息場所の消失などに合致する要件はないため、ランクづけは困難である。
原
記
載: Gould, 1850. Shells collected by the United States Exploring Expedition under the command of Charles
Wilkes. Proc. Boston Soc. Nat. Hist., 3 : 151―348.
参 考 文 献: 大須賀 健,2000.奄美・沖縄におけるオリイレヨフバイ科の産出記録2.九州の貝,54:35―3
9.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
オキナワハナムシロ
腹足綱 新腹足目 エゾバイ科
Nassarius nodifer(Powys, 1835)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型、角張った卵球形で、縫合はテラス状。殻表は強い縦肋を刻み、光沢が強い。殻色
はやや紫がかった灰色で、体層上には不明瞭な褐色帯がとりまく。殻長25mm程度。
近似種との区別: 近似種ヒメオリイレムシロはより小型、殻色が蝋色で、縦肋がより粗いことから、区別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄島。
生 態 的 特 徴: 腐肉食性であるが、完全に腐敗したものは摂食せず、魚やカニ等の死体に集合して摂食する。
生 息 地 の 条 件: 河口沖合の潮下帯泥底に生息する。
現在の生息状況: 本種は生産性の高い河口沖合の潮通しの良い泥底に生息するが、糸満市西崎沖のような埋め立て後に
二次的に形成された泥底にも生息する。学術的に重要な種であるため、今後、赤土沈積や畜産排水な
どの流入による底質悪化の影響を調査する必要があるが、現状でのランクづけは困難であった。
学術的意義・ 評 価: 本科貝類は腐肉食貝類としてサンゴ礁∼内湾域の多様な環境に適応放散して、5
0種以上に分化し、進
化学、生態学的に学術的意義のある種群である。
特 記 事 項: 本学名は以前、ヒメオリイレムシロに使用されていたが、検討の結果、本種に当たることが判明し
た。なお、ヒメオリイレムシロはN. stoliczleana G & H. Nevill, 1874を用いる。
原
参
執
記
考
筆
載: Powys in Sowerby & Powys, 1835. Characters of new species of shells collected by Mr. Cuming. Proc. Zool.
Soc. London, 3(30) : 93―96.
文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
ー:
ハイイロミノムシ
腹足綱 新腹足目 ミノムシガイ科
Vexillum gruneri(Reeve, 1844)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本科中、中型で、やや長く角張った紡錘形、殻表は平滑で淡灰青色の地に濃灰色帯と褐色螺糸を
めぐらす。軸唇に4襞を有し、殻口外唇奥の内側に多数の弱い襞をもつ。蓋は欠く。殻長30mm内外。
近似種との区別: ミノムシガイ類は近縁種が多いが、色帯パターンが種によって比較的安定しており、本種は淡灰青色
474
貝類
の地に濃灰色帯と褐色螺糸をめぐらす特徴から他種と区別される。
沖縄島東海岸および与那国島を除く先島諸島。
砂中の虫型動物を摂餌すると考えられるが、繁殖生態等は不明。
潮通しのよいアマモ場の砂∼砂礫底に生息する。
先島では川平湾や名蔵湾等のアマモ場に少なからず認められるが、沖縄島では希少である。本種の沖
縄島における少ない産状については、元々多産したものが、諸開発で減少したとは言えず、現状では
ランクづけができないが、先島については個体群の動向を見極めて、次の改訂時に再検討する必要が
あろう。
学術的意義・ 評 価: 同種群は小型から大型まで1
00種以上が熱帯域のアマモ場や砂質環境に適応放散し、進化生態学上、重
要である。また、本種は分布の北限域にあたり、動物地理学的にも意義がある。
分 布 の 概 要:
生 態 的 特 徴:
生 息 地 の 条 件:
現在の生息状況:
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Reeve, 1849. Conchologica Iconica, figures and descriptions of the shells of molluscks ; with remarks on their
affinities, synonymy, and geographical distribution.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
カノコミノムシ
腹足綱 新腹足目 ミノムシガイ科
Vexillum sanguisuga(Linnaeus, 1758)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや大型で、長い紡錘形、殻表は薄い殻皮を被覆し、殻は布目状で鮮紅色斑を帯状にめ
ぐらし、等間隔に縦肋を有する。軸唇に強い襞と殻口外唇内側に弱い襞をもつ。蓋は欠く。最大殻長
約50mm。
近似種との区別: ベニシボリミノムシガイと赤色の斑が有することで類似するが、本種は点列が2列で数が少ないことで
区別される。
分 布 の 概 要: 与那国島を除く先島海域。
生 態 的 特 徴: 砂中の虫型動物を摂食する。
生 息 地 の 条 件: 潮通しの良いアマモ場周辺の細砂底に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島では正式な記録がなく、南方系要素の強い種と考えられ、今のところ、先島では少なくない。
今後、赤土沈積等による細砂域の泥質化に伴い生息範囲が狭まる可能性もあり、減少の有無を見極め
る必要があるが、現状ではランクづけできるだけの情報はない。
学術的意義・ 評 価: 同種群は小型から大型まで1
00種以上に熱帯域のアマモ場や砂泥環境に適応放散し、進化生態学や種多
様性の研究素材として重要であり、本種は先島海域のアマモ場に特有の種で、生物地理的にも重要で
ある。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Linnaeus, 1758. Systema naturae. ed. 10.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
ヒロクチイモ
腹足綱 新腹足目 イモガイ科
Conus spectrum Linnaeus, 1758
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型、太短く、やや丸みのある倒立円錐形、殻表は薄い殻皮をまとい、平滑で黄褐色彩
を有し、殻質はやや薄い。殻口はやや広く、白く、蓋は退化的で小さい。殻長40mm内外。
近似種との区別: 本科貝類は殻の色彩パターンが種ごとに比較的安定しており、種判別が比較的容易である。
475
貝類
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 肉食性。歯舌(縁歯)が特殊化した矢舌を発達させ、矢舌に毒嚢より貯留した毒を餌食に注射して麻
痺させ捕食する。
生 息 地 の 条 件: 内湾の潮通しの良い底質の清浄な岩礫の多い砂底に生息する。
現在の生息状況: 本種は死殻が沖縄島東海岸を中心に比較的多く散見されるが、生きた個体の確認例がほとんどない。
しかし、過去においての生息状況がはっきりせず、現在の生貝確認の困難な状況が、人為的原因とは
判断しがたく、今のところ、情報が不足している。今後、比較的多く見られる死殻の年代測定などを
行って、死滅時期を調査する必要がある。
学術的意義・ 評 価: イモガイ類は熱帯域において種多様性が高く、摂餌選択等生態的特性にも種特異性がみられ、進化生
物学的に重要である。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Linnaeus, 1758. Caroli Linnaei Systema naturae. Sweden, Iv+823pp.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
ニライカナイゴウナ
腹足綱 異旋目 イソチドリ科
Leucotina ? sp.
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型で、丸みを帯びた細長い円錐形、殻表は褐色の薄い殻皮を被覆し、殻は灰白色∼黒
灰色で、多数の刻点状に刻まれた螺溝をめぐらす。蓋は革質で三日月型。殻長約5∼10mm。
近似種との区別: 同科の小型種シロヒメゴウナとは殻色や光沢のある殻質などから区別は容易である。
分 布 の 概 要: 沖縄島中北部。
生 態 的 特 徴: ソメワケグリ、リュウキュウザルガイなどの二枚貝に外部寄生する。
生 息 地 の 条 件: アマモ場周辺や内湾等の細砂底に生息する。
現在の生息状況: 沖縄島中部の泡瀬干潟で初めて発見され、津堅島周辺でも生息が確認された(沖縄総合事務局,
2003)。また、沖縄島北部の名護湾の南部および北部の潮下帯から水深10mでも生息が認められ、国頭
村佐手沖の浚渫細砂中からも死殻が見つかっている(久保,未発表)。
学術的意義・ 評 価: 同種群は二枚貝に寄生する特異な種群で、進化生態学や宿主特異性等の研究素材として重要である
が、その生態は殆ど知られていない。
特 記 事 項: 本種は泡瀬干潟関連で社会的な関心のある種であるが、もとより少産種であり、1
0mm程度の小型種
で発見しにくい可能性のあること、外洋性の細砂底にも生息場所がある可能性が高いこと等から、今
のところ、絶滅危惧のランクづけに必要な情報は不足していると考えられる。
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
献: 内閣府沖縄総合事務局開発建設部,2003.平成15年度中城湾港泡瀬地区環境監視調査報告書.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
コウモリミミガイ
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Cassidula vespertilionis(Lesson, 1831)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本科中、中型で、卵球形、殻表は等間隔に毛羽立つ毛状殻皮と薄い皮膜状の殻皮をまとい、明瞭
な螺溝を多数めぐらす。殻口は広く、内唇に2歯、軸唇に1歯、外唇中央に強い1歯の突起を備える。殻
長12∼17mm。
近似種との区別: ウラシマミミガイ、およびカタシイノミミミガイは近似した形態であるが、螺溝がより細かいこと、
螺塔が低く、より大型化することで区別できる。
476
貝類
分 布 の 概 要: 沖縄島、先島のマングローブ林周辺の塩性湿地。
生 態 的 特 徴: 活動期にはマングローブ樹上に這い上がる。
生 息 地 の 条 件: マングローブ林周辺の塩性湿地の潮間帯中部に生息し、個体数が少ない。偶来分布という説もある
が、石垣島の一部では発見頻度が高く、過去数年に渡って生息が認められていることから定着してい
る可能性もある。いずれにしても、定着する自然環境が攪乱されている場合は幼生が南方から到達し
ても生息に至ることは不可能であるので、着底に必要な環境の保全は必要である。
現在の生息状況: 本種は沖縄島と先島のマングローブ林周辺の塩性湿地に生息し、沖縄島では豊見城市の一部で数個体
が確認されているに過ぎない。先島地域でも、宮古、石垣、西表の一部のマングローブ湿地周辺に確
認されているが個体数は非常に少ない。
学術的意義・ 評 価: 本種はインド太平洋に広く分布する種であるが、沖縄周辺海域はその分布北限にあたり、動物地理学
的重要性がある。本種の沖縄島での産出についてはその希少さから偶因分布の可能性が高く、ランク
づけの諸要件に該当しないと考えられるが、石垣島個体群については今後、幼生の移動分散等の情報
集積と共にモニタリングを継続して、ランクづけの必要性を考察すべきであろう。
原
参
執
記
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Lesson, 1831. Voyage autour du monde sur la coquille pendeant par M. L. J. Dupery, etc. Zoologie. 2 vols.
And atlas. Paris, 1688pp, pls. 157.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
アツクチハマシイノミガイ
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Melampus cristatus Pfeiffer, 1854
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科の中では中型、卵形に近い紡錘形、殻表はやや光沢のある赤褐色、微細な螺条脈を多数有す
る。殻頂は乳頭状に突出し、殻底に臍帯をもつ。殻口は白く肥厚し、内唇軸に強く明瞭な1つの襞と弱
い襞が数個並び、外唇内側には細かい歯が多数並ぶ。殻長7∼12mm。
近似種との区別: ハマシイノミ類は近似種が多いが、本種は乳頭状の殻頂と殻口が肥厚することから区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島、先島。
生 息 地 の 条 件: 外洋に面し、かつ入江状になった岩礁域の潮間帯上部の岩礫下に生息するが、生息場所は限定され、
個体数が少ない。
現在の生息状況: 本種は夜行性で個体数が少ない種とされ、発見自体が困難なため、その実態が殆ど知られておらず、
木村(1998)により宮古島狩俣等での記録が数少ない具体的な産出事例である。石垣島では入江状に
なった岩礁域の岩礫下に生息を確認しているがかなり開放的な環境であった。オカミミガイ科はすべ
て潮間帯上部に生息圏を有し、沖縄では沖縄島を中心に自然海岸率が著しく低くなっている現状から
これらの生息する潮間帯最上部の環境は相当攪乱されており、多くの生息場所が消失したと考えられ
る。しかし、本種のような希少種では、確実な減少等のランクづけに必要な具体的データが殆どな
い。オカミミガイ科は内湾湿地性種が多いが、本種のような開放性岩礁域に生息圏を広げている種が
他にもカドバリコミミガイやコベソコミミガイ等多くあり、生息実態が殆ど不詳である。これまでの
観察例から、これらの種は岩礁内部に複雑に存在する空隙に巧妙に隠れ込んでいて、観察が容易に行
えない可能性がある。今後、情報の不足している外洋海岸の最上部に生息するオカミミガイ科貝類の
生息実態を把握する必要があろう。
学術的意義・ 評 価: 本種群は熱帯太平洋に分布の中心があって、沖縄周辺はその分布北限にあたり、生物地理学的に重要
である。また、幼生の移動分散等の生態学的知見はきわめて乏しい上、陸域と海域との境界に生息環
境が形成され、貝類の陸上進出に関して進化生物学的に重要と考えられるが、詳細な研究が殆ど行わ
れていない。
原
参
記
考
載: Pfeiffer, 1854 Descriptions of six new species of Auriculacea from the collection of H. Cuming. Proc. Zool.
Soc. London, 121―122.
文 献: 木村昭一,2000.宮古島のオカミミガイ科貝類相.ちりぼたん,31
(3)
:69―81
増田 修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑2.ピーシーズ,東京,240pp.
477
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
イササコミミガイ
腹足綱 原始有肺目 オカミミガイ科
Laemodonta octanflacta(Jonas, 1845)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本属中、小型で、卵球形、殻表は螺溝を多数めぐらし、淡黄褐色。殻口外唇は老成個体でやや肥
厚して、2個の歯状突起をもち、内唇に2個、軸1個の歯状突起がある。最大殻長約3mm。
近似種との区別: 近似種マキスジコミミガイとは、より小型であること、シュジュコミミガイとは外唇に2歯あることか
ら区別される。
分 布 の 概 要: 宮古島および石垣島・西表島。
生 態 的 特 徴: 埋まった岩の下部に潜りこんで生活すると考えられる。
生 息 地 の 条 件: 河口干潟周辺の潮間帯上部泥礫地に生息する。
現在の生息状況: 本種はきわめて産出が少ない種で、今までのところ、先島諸島から少数個体が得られたのみの希少種
であり、現在の生息状況を推しはかるだけの情報が不足している。
学術的意義・ 評 価: 本種群は熱帯太平洋に分布の中心があり、沖縄周辺はその分布北限にあたり、動物地理学的に重要で
あるが、メラネシア等大洋州では比較的多産するところもあり、今後、幼生の移動分散等の観点から
の生態学的研究が必要である。
特 記 事 項: 本種は情報不足であるが、陸域との境界付近に生息場所が形成されることから、埋め立て等で生息が
脅かされやすいことは確かであり、今後、確実な生息環境を把握し、具体的な分布知見を整備して、
ランクづけされることが望ましい。
原
記
参 考 文
執
筆
載: Jonas, 1845. Neue Conchylien. Zeitschrift fur Malakozoologie, 2 : 168―173.
献: 福田 宏,1996.腹足綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
増田 修・内山りゅう,2004.日本産淡水貝類図鑑2.ピーシーズ,東京,240pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
リュウキュウノミガイ
有肺目 ハワイマイマイ科
Lamellidea(Tornatellinops)rucuana(Pilsbry & Hirase, 1905)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 情報不足(DD)
殻は小型(殻高約3.
3mm)で、殻径はやや細い(約1.
9mm)、細長く、螺塔の高い円錐形、各層の膨らみは弱い。殻
表は平滑で、やや光沢を持ち、淡黄褐色。殻口は、肥厚・反転しない。殻口軸唇上部に弱い一歯を持つ。本種は、慶
良間列島から記載され、その後の報告が比較的少ない。今後の詳細な検討が必要であり、現時点では情報不足とし
た。
原
記
参
考
文
執
筆
者
478
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1905. New land and fresh―water Mollusca of the Japanese Empire. Proc. Acad.
Nat. Sci. Phila., 57 : 705―719.
献: Chinen, M., 1977. Land shells of Okinawa―jima and adjacent islands (Exclusive of Truncatellidae, Assimineidae and Ellobiidae). Ecol. Stud. Nat. Cons. Ryukyu Isl., III : 127―149.
知念盛俊,1984.沖縄の陸産貝.“全国大会記念誌「沖縄の生物」”,沖縄生物教育研究会,沖縄,337―
355.
名: 黒住耐二
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
キバサナギガイ
有肺目 サナギガイ科
Vertigo hirasei(Pilsbry, 1901)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 絶滅危惧
類(VU)
殻は微小(殻高約1.
5mm)で、殻径はやや太い(約0.
9mm)、卵形で、螺塔は高い。殻表は平滑で、やや光沢を持
ち、淡黄褐色。殻口は、肥厚・反転し、殻口内に多数の歯を持つ。本種は、九州から記載され、南千島から本州・四
国・九州および沖縄島を含む琉球列島のいくつかの島から記録されているが、報告されている地点は比較的少ない。
さらに、本種を含み近縁な種の間で分類学的な混乱が存在するようで、現時点では情報不足とした。
原
参
記
載: Pilsbry, H. A., 1901. Notices of new Japanese land snails. Nautilus, 14 : 127―129.
考 文 献: Pilsbry, H. A., 1902. Additons to the Japanese land snail fauna, IV. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 53 : 465―485.
知念盛俊,1984.沖縄の陸産貝.“全国大会記念誌「沖縄の生物」”,沖縄生物教育研究会,沖縄,337―
355.
大原健司,1994.宮古諸島の陸産貝類相.かいなかま,28
(3)
:1―7.
執 筆 者 名: 黒住耐二
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
エイコベッコウ
有肺目 ベッコウマイマイ科
Luchuconulus eikoae Azuma, 1982
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 情報不足(DD)
貝殻は小型(殻径約6.
5mm)で、殻高約4mm、低い円錐形で、螺層数は多い。螺層の膨らみは弱く、体層は良く膨
らみ、体層周縁は丸く角を持たず、底面はやや膨らむ。臍孔は狭い。やや薄質。殻表の成長肋は粗く、不規則で、一
部で強まる。体層底面にやや密に螺脈を有する。濃褐色で、光沢を持つ。沖縄島北部の西銘岳から報告されたのみで
ある。個体数は少ないものと考えられる。ただ、他種との詳細な検討が必要であると思われる。
原
参
考
記
執
筆
載: 東 正雄,1982.原色日本陸産貝類図鑑.保育社,大阪,xv+333pp, +64pls.
献: 知念盛俊,1965.沖縄産陸産貝の採集と標本の作り方(I).沖縄生物学会誌,2
(4)
:77―88.
平田義浩・仲宗根幸男・諸喜田茂充,1973.沖縄の貝・カニ・エビ.風土記社,沖縄,144pp.
東 正雄,1983.沖縄産陸貝(ベッコウマイマイ科)新種.兵庫生物,8
(4)
:197―198.
者 名: 黒住耐二
文
和
分
学
方
言
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
名:
ー:
カサネシタラガイ
有肺目 ベッコウマイマイ科
Coneuplecta insignis(Pilsbry & Hirase, 1904)
なし
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 準絶滅危惧(NT)
貝殻は微小(殻径約1.
7mm)で、殻高はやや高く(約1.
6mm)、低い円錐形で、螺層数は極めて少ない。螺層および体
層の膨らみは弱い。体層周縁に明瞭な少し突出した角を持ち、体層では周縁角が縫合より上部に位置し、重なった状
態となっている。臍孔は閉じる。薄質。殻表に明瞭な彫刻等を持たないが、やや粗面である。淡褐色。殻口は肥厚・
反転しない。本種は、本州から九州の主にブナ林等の高標高で自然度の高い森林に分布している種であるが、与那国
島から1個体のみ報告されている。与那国島の個体群の今後の詳細な検討が望まれる。
原
参
記
考
載: Pilsbry, H. A. and Y. Hirase, 1904. Description of new land snails of the Japanese Empire. Proc. Acad. Nat.
Sci. Phila., 56 : 616―638.
文
献: 平瀬輿一郎,1908.日本陸産貝類図説.
(15).介類学雑誌,2
(9)
:288―292,pl.20.
479
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
湊 宏,1976.与那国島の陸産貝類相.Venus,35
(4)
:163―184.
名: 黒住耐二
名:
類:
名:
ー:
イソスジサルボウ
フネガイ目 フネガイ科
Tosarca vellicata(Reeve, 1844)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
沖縄島金武湾および中城湾の浚渫砂泥中に殻皮の残った新鮮な死殻が含まれていることから、これらの地域の湾央部
砂泥底に生息域があると考えられるが、現状は不明。琉球列島における分布域は、沖縄島金武湾および中城湾に限ら
れる可能性がある。そのため、これらの海域で大規模に行われている浚渫により、生息条件が悪化していると考えら
れる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
コンゴウイシマテ
二枚貝綱 イガイ目 イガイ科
Lithophaga canalifera(Hanley, 1944)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科では中型、細長い砲弾型で、最後部はやや尖る。殻表は光沢がある褐色の殻皮があるが、殻
の後部から背部に厚く石灰化し、それが放射状かつ矢羽状の特有の彫刻となる。殻長50mm内外。
近似種との区別: 背部に見られる石灰質沈着の彫刻が特有で、他種と明瞭に区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島南部。
生 態 的 特 徴: 岩盤に穿孔し、ろ過食性と考えられる。
生 息 地 の 条 件: ある程度の陸域からの栄養供給があって、ろ過食性に必要なプランクトン等が供給される潮間帯下部
のやや硬質の砂岩が露出する環境のみに生息するが、生息場所は限定され、個体数は少ない。
現在の生息状況: 沖縄島南部(糸満市)の一部でのみ発見され、県内の他地域からは記録がない。
学術的意義・ 評 価: 本種は中国沿岸海南省およびフィリピンの熱帯域から和歌山県の暖海域で記録されるが、その具体的
な生息知見のきわめて少ない希少種である。また、硬質砂岩の岩盤に穿孔し、その生息生態は特殊で
あるが、生息情報が非常に少ないため、現在はランクづけが困難である。今後、現在の生息地の動向
や、他の生息地の発見等により、情報を整備してランクづけの検討を行う必要がある。
原
記
参
考
執
筆
載: Hanley, 1844. Descriptions of new species of Mytilidae, Amphidesma and Odostomia. Proc. Zool. Soc. London, 12(132) : 14―18.
文 献: 王 禎瑞,1997.Order Mytiloida, Fauna Sinica 中国動物志.
T. Okutani & Matsukuma A., 2004. Supplement to a catalogue of Molluscs of wakayama pref. 1 Bivalvia,
Scaphopoda and Cephalopoda, 51pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
480
名:
類:
名:
ー:
ヤマホトトギス
二枚貝綱 イガイ目 イガイ科
Musculus japonica(Dunker, 1856)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
貝類
形
態: 殻は本科では小型、細長い長方形。殻表は光沢が強く、淡黄褐色の薄い殻皮をまとい、緑褐色のジグ
ザク模様を有し、殻は非常に薄い。殻長20mm内外。
近似種との区別: 非常に長い長方形の殻とジクザク模様により、他種と明瞭に区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島中北部。
生 態 的 特 徴: 内湾の潮通しの良い細砂泥底に生える小型アマモ類(主にウミヒルモ類)に自ら巣をつくって、それ
に連結させ、その中に生息する。
生 息 地 の 条 件: 内湾域の潮間帯下部から水深2
0m付近までの潮通しの良い細砂泥域に生息するが、生息場所は限定さ
れる。
現在の生息状況: 今のところ、羽地内海、名護湾、金武湾で見つかっているが、いずれの産地においても個体数は非常
に少ない。
学術的意義・ 評 価: 本種は中国沿岸から日本本土の内湾域で記録されているが、沖縄では内湾域に分布が限定され、動物
地理学的に重要である。また、細砂泥質のアマモ帯に巣をつくって生息する生態は特殊であるが、生
態的知見はほとんど明らかとなっていない。現在、陸域からの汚水や陸土流入による砂底環境の悪化
や埋め立て等の内湾域の底質環境の悪化によって、本種の生息に悪影響のある可能性があるが、潮下
帯の垂直分布幅が広く、少産種であることから具体的知見が乏しく、ランクづけに必要な情報が不足
している。
特 記 事 項: 愛知県レッドデータブックにより、絶滅危惧 A類にランクされている
原
記
参
考
文
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
載: Dunker, 1856. Mytilacea nova collectionis Cumingianae, descripta a Guil. Duker’. Proc. Zool. Soc. London,
24 : 358―366.
献: 木村昭一,2002.貝類(内湾産),“愛知県の絶滅のおそれのある野生生物 レッドデータブックあいち
−動物編−”,愛知県環境部自然環境課.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
バライロマメアゲマキ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ウロコガイ科
Scintilla rosea Deshayes, 1856
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや大型で横長、半透明で非常に薄く、やや膨らみのある卵型、殻表は多数の微細な顆
粒を伴い、殻色は薄いバラ色またはレモン色。生時は濁灰黄色の外套膜が伸展して、殻全体を覆い、
殻は見えない。最大殻長16mm。
近似種との区別: 近似種ニッポンマメアゲマキは、生時に殻の一部が外套膜から露出すること、貝殻腹縁が大きく開口
することで区別される。なお、本種群にはこれ以外にも希少な類似種が多く存在するが、その殆どが
分類学的に不詳である。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: アマモ場周辺の埋もれ石下にすむが、多毛類やホシムシ類が同居する場合が多く、何らかの共生生態
をもつ可能性がある。
生 息 地 の 条 件: アマモ場周辺からサンゴ礁潮下帯までの半ば埋もれた石の下に生息。
現在の生息状況: 本種は名護市大浦湾、恩納村屋嘉田潟原、石垣島川平湾等の潮通しの良いアマモ場の低潮線から水深5
m程度のアマモ場の延長線上の岩礫帯に確認されている。本種は他のウロコガイ類と比べ、生息範囲
が広く、産出も少なくない上、具体的な生息地の消失や個体数の減少等ランクづけに必要な情報がな
いため、今回は情報不足にとどめた。
学術的意義・ 評 価: ウロコガイ科は干潟の様々な環境の石の下等に他生物と共生するなどして、適応放散しており、進化
生態学的重要性があるが、その研究はほとんど手つかずの状態である。
原
参
執
記
載: Deshayes, 1856. Sur le genre Galeomma. Proc. Zool. Soc. London, 167―171.
考 文 献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
筆 者 名: 久保弘文
481
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
フィリピンハナビラガイ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ウロコガイ科
Fronsella philippinensis Habe & Kanazawa, 1981
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、やや大型でやや厚質、膨らみのある卵円型、殻表は平滑で光沢があり、殻色は薄黄色。
最大殻長10mm。
近似種との区別: 九州に生息するハナビラガイは、本種と同じくスジホシムシの後端に付着共生するが、殻形が亜三角
形で、膨らみがより小さいことで区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島中北部、先島。
生 態 的 特 徴: アマモ場および周辺の砂底域に生息するスジホシムシの後端に付着共生する。
生 息 地 の 条 件: 潮間帯下部のスジホシムシの棲むアマモ場とその周辺の砂底で発見されているが、潮下帯にも生息圏
が及ぶ可能性が高い。
現在の生息状況: 本種は名護市瀬嵩、恩納村屋嘉田潟原、沖縄市泡瀬、本部町浜元、石垣島名蔵湾で採集され、瀬嵩で
は大型台風後の打ち上げにより、それ以外は潮通しの良いアマモ場の低潮線で採集されたが、いずれ
の場所においても個体数は非常に少ない。
学術的意義・ 評 価: 本種はフィリピンを模式産地とし、沖縄の生息分布についてはその北限にあたり、生物地理学的に重
要である。また、スジホシムシとの共生関係については生態学的に重要な研究課題であるが、詳細な
着底時の選択性や共生メカニズム等は殆ど明らかになっていない。
特 記 事 項: 本種は、大型台風後の打ち上げの状況、魚類の腸管内容物の出現状況を考慮し、生息範囲が潮下帯に
及ぶ可能性が十分あり、主要な生息場所が未だ確定しておらず、本種の着生率が非常に低いことから
も、ランクづけの諸要件に必要な情報が不足している。
原
記
載: 波部忠重・金沢俊雄,1981.フィリピン産共棲二枚貝の新種(ブンブクヤドリガイ科).貝類学雑誌,
40
(3)
:123―125.
参 考 文 献: 小菅丈治・久保弘文,2002.スジホシムシに着生する二枚貝フィリピンハナビラガイの琉球列島から
の記録.ちりぼたん,33
(1―4)
:41―46.
小菅丈治・木曾克裕,2003.イソフエフキの腸管内容物として出現したフィリピンハナビラガイ(ブ
ンブクヤドリガイ科).南紀生物,45
(2)
:92―93.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
ー:
ナタマメケボリガイ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ウロコガイ科
Pseudopythina ochetostoma Morton & Scott, 1989
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本科中、やや大型でやや厚く、横長で扁平な楕円型、殻表は錆色の殻皮をまとい、靱帯は内在す
る。殻表は全面に微細な放射状彫刻があり、いわゆる毛彫り状となるほか、老成個体では成長輪肋が
数本刻まれる。殻皮をはがした場合の殻色は白色。最大殻長13mm。
近似種との区別: 錆色の殻皮をもつ点でセワケガイと類似するが、殻形が横長で彫刻に微細なことにより区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島中北部および八重山の内湾域。
生 態 的 特 徴: 砂泥∼砂質干潟のタテジマユムシ及びスジユムシの生息する穴に同居し、何らかの共生関係がある可
能性がある。
生 息 地 の 条 件: 砂泥∼砂質干潟のタテジマユムシ及びスジユムシの生息する場所。
現在の生息状況: 本種はこれまでのところ、羽地内海、名護市東岸、沖縄市与儀干潟、石垣島名蔵湾および川平湾、西
表島で見つかっており、石垣島では個体数は少なくない。いずれの産地共に、生息地の消失や個体数
の減少等の具体的な情報はないので、ランクづけは見合わせたが、干潟特有の学術的重要種であり、
今後、生息地の動向を見極めておく必要がある。
学術的意義・ 評 価: ウロコガイ科は干潟の様々な環境の石の下等に他生物と共生する等して、適応放散しており、進化学
的重要性があるが、その研究はほとんど手つかずの状態である。
482
貝類
原
記
載: Morton & Scott, 1989. The Hong Kong galeommatacea and their hosts, with descriptions of new species.
Asian Mar. Biol., 6 : 129―160.
参 考 文 献: 小菅丈治・久保弘文・西川輝昭,2
003.ユムシ類の巣孔に棲む二枚貝ナタマメケボリガイの琉球列島
における分布と生態.沖縄生物学会誌,41:7―13
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ヒノマルズキン
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ウロコガイ科
Anisodevonia ohshimai(Kawahara, 1942)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型で殻は退化的で薄質、やや膨らみのある亜三角形、殻表は光沢に乏しく、殻頂付近
がうっすらと赤みがかる。軟体部は殻を覆い、斧足が虫状に延び、一見して貝には見えない。最大殻
長4mm。
近似種との区別: 同様に無足ナマコに共生する類似種ヒナノズキンは、沖縄に分布しないが、殻頂付近が赤くならない
ことで区別される。
分 布 の 概 要: 石垣島名蔵湾および川平湾。
生 態 的 特 徴: 砂泥∼泥干潟の無足ナマコの一種ヒモイカリナマコ上に共生する。
生 息 地 の 条 件: ヒモイカリナマコの棲む泥干潟。
現在の生息状況: 本種はこれまでのところ、沖縄においては石垣島の名蔵湾と川平湾のみで見つかっているが、個体数
は少なくない。おそらく、微小種で、しかも一見して貝に見えない形態であり、他にもヒモイカリナ
マコがいる場所では見られる可能性がある。現在、生息地の消失や個体数の減少等の具体的な情報は
ないので、ランクづけは見合わせたが、極めて特殊化した学術的重要種であり、今後、生息地の個体
群動向を見極めておく必要のある種であろう。
学術的意義・ 評 価: 無足ナマコ上で寄生的に生息し、ろ過食者の多い二枚貝類の中では著しく特殊化した種であって、進
化学的に非常に重要な種である。
原
記
載: Kawahara, 1942. On Devonia ohshimai sp. Nov., commensal bivalve attached to the synaptid Leptosynapta
ooplax. Venus, 11(4) : 153―164, pl. 3.
参 考 文 献: 小菅丈治,2001.ヒノマルズキンの石垣島における生息状況.沖縄生物学会誌,39:5―10.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
オサガニヤドリガイ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ウロコガイ科
Pseudopythina macrophthalmensis Morton & Scott, 1989
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型でやや硬質、膨らみのある亜三角形、殻表はやや光沢があり、紫褐色∼淡褐色。最
大殻長3mm。
近似種との区別: 類似種チリハギガイは、殻形がより角張った亜方形で光沢がより弱いことにより区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等外洋域を除く)。
生 態 的 特 徴: 砂泥∼泥干潟のオサガニ類の脚等に付着しているが、砂泥域のドレッジサンプルによっても複数個体
が得られる場合がある。
生 息 地 の 条 件: 主にオサガニ類が生息する砂泥∼砂質干潟。
現在の生息状況: 本種はこれまでのところ、羽地内海、金武湾(石川沖)、沖縄市泡瀬および与儀干潟、石垣島名蔵湾お
よび川平湾、西表島で見つかっており、石垣島では個体数は多い。本種のランクづけに関して、現
在、石垣島では生息地の消失や長期的な個体数の減少等の具体的な情報はなく、全県的に考えても、
単年生で季節的な消長が激しく、浮遊幼生期の分散等も不明であることから、情報が不足しており、
483
貝類
ランクづけはできなかった。しかし、沖縄島海域では一部生息海域の埋め立てが計画されているの
で、今後、個体群の動向を見極めて、次の改訂時にランクづけを検討する必要があろう。
学術的意義・ 評 価: ウロコガイ科は干潟の様々な環境の石の下等に他生物と共生する等して、適応放散しており、進化学
的重要性がある。
原
記
載: Morton & Scott, 1989. The Hong Kong galeommatacea and their hosts, with descriptions of new species.
Asian Mar. Biol., 6 : 129―160.
参 考 文 献: 小菅丈治・伊谷 玄,1994.オサガニ類に着生する二枚貝オサガニヤドリガイ
(新称)西表島からの記
録.Venus,53
(3)
:241―244.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ケヅメガイ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 イソカゼガイ科
Anisodonta angulata(H. Adams, 1870)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー : 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型でやや薄く、やや歪んだ台型でよく膨らむ。殻表は粗く、多数の微細な疣状突起を
有する。殻の状態がよい個体では後背縁を中心に褐色の殻皮が認められる。殻色は濁灰白色。最大殻
長14mm。
近似種との区別: 近似種はない。
分 布 の 概 要: 沖縄本島中北部、先島。
生 息 地 の 条 件: 潮通しのよいアマモ場周辺の岩盤下や隙間の奥深くに隠れ込み、殆ど移動しない可能性があり、ユム
シ類、ホシムシ類などが同居する場合が多い。
現在の生息状況: 石垣島周辺では上記の生息環境に少ないながら生息するが、具体的な減少等の情報がないため、ラン
クづけは困難である。しかし、こうした遮蔽環境は富栄養化による還元や、陸土沈積による目詰まり
等で、貧酸素状態となりやすく、生存できなくなる可能性が考えられるので、今後、生息場所におけ
る個体群の動向を見極めて、次の改訂時にランクづけを検討する必要があろう。
学術的意義・ 評 価: 遮蔽環境という特殊な生息生態を有することから、生態的に未知な点が多く、分類学的、生態学的研
究が必要な種である。
特 記 事 項: 熊本県レッドデータブックでは絶滅危惧 類にランクされている。
原
記
載: H. Adams, 1871. Descriptions of twenty ―six new species of shells collected by Robert MacAndrew Esq. in
the Red sea. Proc. Zool. Soc. London, 788―793, pl. 48.
参 考 文 献: 松隈明彦,2000.イソカゼガイ科.“日本近海産貝類図鑑”,奥谷喬司編,東海大学出版会,東京,940
―941.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
イセシラガイ
マルスダレガイ目 ツキガイ科
Anodontia stearnsiana Oyama, 1954
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
本州(陸奥湾以南)から沖縄に分布するとされているが、沖縄からの産地の特定された記録は、近年の泡瀬干潟から
の産出が最初である。泡瀬干潟では低潮帯砂泥底域において新鮮な死殻が見出されるが、生息状況は不明。また、沖
縄島塩屋湾の低潮帯泥砂底域からもイセシラガイと思われる種の生息が確認されている。分布域が限られているた
め、埋め立てや赤土堆積などにより、絶滅リスクが高まっている可能性が高いが、現状は不明。
執
484
筆
者
名: 名和
純
貝類
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
オボロヅキ
マルスダレガイ目 ツキガイ科
Monitilora simplex(Reeve, 1850)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
沖縄島、宮古島、伊良部島から打ち上げや浚渫砂などで得られる。潮下帯の砂底域に生息域があると考えられる。泡
瀬干潟では、海草藻場の間の砂底域から新鮮な殻が得られているので生息している可能性が高い。埋め立てや浚渫に
より生息条件が悪化していると考えられ、絶滅危惧 類以上に該当する可能性があるが、現状は不明。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
なし
マルスダレガイ目 フタバシラガイ科
Diplodonta sp. A
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
殻はDiplodonta sp. Bよりも大きい。名護市久志地先から生息が確認されているが、生息状況は不明。海草藻場を生
息域とするため、生息条件が悪化していると考えられる。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
コハゼガイ
マルスダレガイ目 チドリマスオ科
Monterosatus amamiensis Sakurai & Habe, 1973
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
奄美大島から沖縄島に分布するとされているが、産地の特定された記録はない。近年、浦添市港川地先の海草藻場粗
砂底から見出された。潮通しの良い大規模な海草藻場域を生息場所とする稀少種と思われるが、生息状況は不明。港
川地先の海草藻場では、埋め立て計画が進行している。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
オオシマホクロガイ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 バカガイ科
Oxyperas aspersa(Sowerby, 1825)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、中型で、横長の亜三角形、殻表は薄い殻皮が覆い、弱い成長輪脈が多数刻まれる。殻色
は灰白色地にほくろの様な黒褐色斑を散在させ、その多少は個体変異があり、様々であるが、ほくろ
貝の名の由縁である。殻長5cmに達する。
近似種との区別: 日本本土の内湾に生息するホクロガイは輪肋がより粗く、殻色が灰褐色であることで区別できる。
分 布 の 概 要: 沖縄全域(大東島海域等を除く)。
生 態 的 特 徴: 埋在ろ過食性であるが、その他、繁殖等の詳しい生態は不明。
生 息 地 の 条 件: やや外洋に面し、アマモ場内にパッチ状に存在する清浄な細砂礫底やリーフ内外の砂礫底に生息す
る。
485
貝類
現在の生息状況: 1980∼90年代に沖縄周辺のアマモ場周辺の清浄な底質の礫砂底では少なからず産出が認められたが、
その後の陸土や富栄養化による泥質化で清浄な砂礫域が減少すると共に、ほとんど見られなくなっ
た。しかし、外洋の浅海域にも広く分布し、全体的な個体群の減少傾向については今後の調査を待ち
たい。
学術的意義・ 評 価: バカガイ類はニッコウガイ類、マルスダレガイ類と同様、熱帯域のアマモ場や砂質環境に適応放散
し、進化生態学や種多様性の研究素材として学術的に重要で、いくつかの地域固有種も存在する可能
性が高いが、未だ分類学的研究が不十分である。
原
参
執
記
考
筆
載: Sowerby, 1825. A catalogue of the shells contained in the collection of the late Earl Tankerville. London, i―vii,
1―92.
文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ユウヤケバカガイ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 バカガイ科
Mactra artensis(Fisher, 1859)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型で、やや横長の亜三角形、殻表は薄い淡褐色の殻皮が覆い、きわめて弱い成長輪脈
が刻まれる。殻色は淡い橙色を帯びた灰白色地に淡橙褐色の細い放射状彩色と殻頂部と背面に紫褐色
彩を有する。殻長20∼30mm。
近似種との区別: 近似種ベニハマグリは殻がより薄く、膨らみも弱い上、鮮やかな橙赤色に白点を散在させ、殻長40mm
以上に大成し、形態的に本種と区別されるが、生息場所による形態変異も考慮して、今後、より詳細
な分類学的検討が必要であろう。
分 布 の 概 要: 沖縄島(金武湾、名護湾および那覇沖)。
生 態 的 特 徴: 埋在ろ過食性であるが、その他、繁殖等の詳しい生態は不明。
生 息 地 の 条 件: 潮通しのよい亜潮間帯の細砂底に生息する。
現在の生息状況: 1990年代に名護湾、金武湾の清浄な底質の細砂底でわずかな産出が認められ、現在、陸域からの汚水
や陸土流入による砂底環境の悪化によって、本種の生息に悪影響のある可能性があるが、潮下帯の少
産種であることから生息知見が乏しく、情報的にランクづけに必要な要件を満たしていないので、今
後の情報蓄積が望まれる。
学術的意義・ 評 価: バカガイ類はニッコウガイ類、マルスダレガイ類と同様、熱帯域のアマモ場や砂質環境に適応放散
し、進化生態学や種多様性の研究素材として重要で、いくつかの地域固有種も存在する可能性が高い
が、未だ分類学的研究が不十分である。
原
記
載: Fischer, P., 1859. Description d’une espese nouvelle. J. De. Conchyl., 7 : 299―301, pl. 10.
参 考 文 献: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名:
類:
名:
ー:
チリメンジュロウジン
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Hemimetis plicatus(Valenciennes, 1846)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本科中、大型で薄質、膨らみは弱く、後方に弱く湾曲し、殻表は明瞭な成長輪肋が刻まれ、殻色
は白色で、薄い淡灰色の殻皮をまとう。殻長70mmに達する。
近似種との区別: 類似種リュウキュウシラトリとは殻は白色で湾曲した扁平な形態が似ているが、より殻が厚く、成長
輪肋が縮れることで区別される。
486
貝類
分 布 の 概 要: 沖縄本島、先島。
生 態 的 特 徴: 本科貝類は水管で海底面の有機物(デトライタス)を吸い取って食べる。
生 息 地 の 条 件: 内湾や河口付近のアマモ場に隣接する細砂底に分布するが、個体数が少なく、生息場所は限定され
る。
現在の生息状況: 本種は元来からニッコウガイ科貝類の中では希少な種であるが、沖縄島名護湾や石垣島浦底湾で生息
が確認されてきた。しかし、これらの産地では近年、陸土等の沈積で砂質環境が泥質化している。今
後、底質の変化に伴い生息範囲が狭まる可能性もあるが、現状ではランクづけできるだけの情報はな
い。
学術的意義・ 評 価: 本種群は浅海砂底域に多様な種を適応放散させ、亜熱帯域において種多様性が非常に高く、進化生態
学的に重要である。特に本種は大型種でありながら、産出記録が乏しく、知見が乏しく、学術的に貴
重と考えられる。
特 記 事 項: 希少種は絶対的な個体数が少ないため、種の存続基盤の乏しい種が多いと考えられる。しかし、特に
埋在性の二枚貝に関しては、生息密度など具体的な情報が得がたく、しかも希少種であるため、情報
が非常に少なく、ランクづけが難しい。
原
記
参 考 文
執 筆 者
載: Valenciennes, 1846. Atlas zoologie, Mollusques. Petit―Thouars , A. du. Pls. 27. numbered 1―24. Paris.
献: 波部忠重,1961.続日本貝類図鑑.保育社,大阪,1
82pp.
名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
コノハザクラ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Phylloda foliacea(Linnaeus, 1758)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、大型でやや厚質、膨らみは非常に弱く扁平で、横長の角張った楕円形、後方に弱く湾曲
し、殻表は弱い成長輪肋が刻まれ、後背縁の端にはやや粗い棘が並ぶ。殻色は鮮橙色で、薄い淡褐色
の殻皮をまとう。殻長80mmに達する。
近似種との区別: 近似種はない。
分 布 の 概 要: 沖縄島・先島。
生 態 的 特 徴: 本科貝類は水管で海底面の有機物(デトライタス)を吸い取って食べる。
生 息 地 の 条 件: 内湾や河口付近のアマモ場に隣接する細砂底に分布するが、個体数が少ない。
現在の生息状況: 本種は沖縄ではニッコウガイ科貝類の中では希少な種であるが、沖縄島糸満市、名護湾、金武湾、中
城湾で生息が確認されてきた。これらの産地では富栄養化や陸土等の沈積で底質が変化しており、生
息範囲が狭まる可能性もあるが、現状ではランクづけできるだけの情報はない。
学術的意義・ 評 価: 本種群は浅海砂底域に多様な種を適応放散させ、亜熱帯域において種多様性が高く、進化生態学的に
重要である。特に本種は大型種でありながら、産出記録の少ない希少種と考えられる。
原
参
執
記
考
筆
文
者
載: Linnaeus, 1758. Systema naturae. ed. 10.
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
ウネイチョウシラトリ
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
形
態: 殻は本科中、やや小型で薄質、膨らみは弱く、亜三角形、後背縁に強い稜角をもち、殻表は細かいが
明瞭な成長輪脈を多数刻む。殻色は純白色ので、灰白色の薄い殻皮をまとう。殻長25mm内外。
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Merisca perplexa(Hanley, 1844)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
487
貝類
近似種との区別:
分 布 の 概 要:
生 態 的 特 徴:
生 息 地 の 条 件:
現在の生息状況:
近似種イチョウシラトリはより厚質で横長であることから区別される。
沖縄本島および八重山の内湾の泥砂∼細砂底。
本科貝類は水管で海底面の有機物(デトライタス)を吸い取って食べる。
内湾の潮通しのよい泥砂∼細砂底に生息する。
沖縄では、羽地内海、金武湾、中城湾等泥分の多い内湾の砂泥から泥砂底や糸満市西崎沖のような埋
め立て後に二次的に形成された泥砂底の他、やや外洋的な名護湾などの細砂底の潮間帯から水深2
0m
付近まで幅広く分布し、砂泥∼泥砂域に分布するタイプと外洋的内湾の細砂底に分布するタイプとで
殻形が異なる。特に外洋的内湾のタイプは稜角が顕著で、異名とされるMerisca monomera Habe,
1961
にあたる。両タイプは分類学的再検討が必要と考えられる。本種は生態的に泥底の海底面に蓄積した
有機物を水管で吸い取って摂餌する生態を有し、赤土沈積など無機質陸土の沈積により、生息地が減
少している可能性があるが、二次的に形成された泥砂底に生息が認められる点や、分類的課題もある
ことから、情報が不足しており、ランクづけは見合わせることとした。
学術的意義・ 評 価: 本種群は浅海泥底域に多様な種を適応放散させ、亜熱帯域において種多様性が非常に高く、進化生態
学的研究対象として重要と考えられるが、生態的知見が乏しい。
原
記
載: Hanley, 1844 Descriptions of new species of Tellina collected by H. Coming Esq. Proc. Zool. Soc. London, 12
(134) : 59―144.
参 考 文 献: Habe, T., 1961. Descriptions fifteen new species of Japanese shells. Venus, 21(4) : 416―431, figs. 1―16.
久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,2
63pp.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
モチヅキザラ
マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Cyclotellina remies(Linnaeus, 1758)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
石垣島真栄里海岸、西表島南風見田海岸、星立などから新鮮な殻が打ち上げで得られているが、生息状況は不明。沖
縄島では、恩納村沿岸の干潟などで化石状の殻が見出だされるのみ。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
形
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
アオサギ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Psammotreta praerupta(Salisbury, 1934)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
態: 殻は本科中、やや大型で薄質、膨らみはやや強く、丸みのある横長の亜三角形、後背縁に弱い稜角を
もち、殻表は殆ど平滑だが、きわめて微細な成長輪脈を有する。殻色は灰白色で、青みがかった淡灰
色の薄い殻皮をまとう。殻長70mmに達する。
近似種との区別: 泥底に生息する近似種がいくつかあるが、そのうち、アワジチガイはより小型で、ゴイシザラはより
丸みが強く、タイワンシラトリはより扁平であることから区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄本島および八重山の内湾泥底。
生 態 的 特 徴: 本科貝類は水管で海底面の有機物(デトライタス)を吸い取って食べる。
生 息 地 の 条 件: 内湾の潮通しのよい泥底に生息する。
現在の生息状況: 本種は日本本土の内湾泥底域からも知られる種であったが、各地で生息数が減少している(加藤・福
田,1996; 木村,2002)。沖縄では、大浦湾、金武湾、中城湾、羽地内海等内湾や糸満市西崎沖のよ
うな埋め立て後に二次的に形成された泥底で潜水により、極めて新鮮な死殻が散見されてきた。本種
は生態的に泥底の海底面に蓄積した有機物を水管で吸い取って摂餌する生態を有し、赤土沈積など無
488
貝類
機質陸土の沈積により、生息が維持できなくなる可能性があるが、二次的に形成された泥底に生息が
認められた点や、軟泥底に生息し、調査が困難であることから、情報が不足しており、ランクづけは
見合わせることとした。なお、本土の内湾域では貧酸素水塊の発生等の影響があるとされ、沖縄島で
も富栄養化により海水交流の乏しい内湾域においては同様の現象が懸念される(木村,2002)。
学術的意義・ 評 価: 本種群は浅海泥底域に多様な種を適応放散させ、亜熱帯域において種多様性が非常に高く、進化生態
学的研究対象として重要と考えられるが、調査が難しい泥底の埋在種であるため、生態的知見が乏し
い。
特 記 事 項: 愛知県レッドデータブックでは絶滅危惧 A類にランクされている。
原
記
載: Salisbry, 1934. On nomenclature of Tellinidae, with descriptions of new species and some remarks on distribution. Proc. Malac. Soc. London, 21 : 79―91, pls. 9―13.
参 考 文 献: 加藤 真・福田 宏,1996.二枚貝綱.“WWF Japan Science Report”,和田恵次他編,3:11―63.
木村昭一,2002.貝類(内湾産),“愛知県の絶滅のおそれのある野生生物 レッドデータブックあい
ち−動物編−”,愛知県環境部自然環境課.
久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
執 筆 者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
ハツヒザクラ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 ニッコウガイ科
Arcopella isseli(H. Adams, 1871)
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型で薄質、膨らみはやや強く、丸みを帯び、後背縁は弱い稜ができる。殻表は微弱な
成長輪肋が刻まれ、殻色は白色の地に不鮮明な橙∼黄色の放射状彩を有する。殻長10mmまで。
近似種との区別: 近似種ミガキヒメザラ、サツマヒメザラは、放射状色彩を欠く。
分 布 の 概 要: 沖縄島中北部内湾域。
生 態 的 特 徴: 本科貝類は水管で海底面の有機物(デトライタス)を吸い取って食べる。
生 息 地 の 条 件: 内湾や河口付近のアマモ場に隣接する細砂底に分布するが、個体数が少なく、生息場所は限定され
る。
現在の生息状況: 本種は沖縄島金武湾、中城湾、名護湾で水深数mのウミヒルモ帯の砂底に生息が確認されてきた。現
在、陸域からの汚水や陸土流入による砂底環境の悪化や埋め立て等の内湾域の底質環境の悪化によっ
て、本種の生息に悪影響のある可能性があるが、潮下帯の少産種であることから生息知見が乏しく、
ランクづけに必要な要件を満たしていないので、今後の情報蓄積が望まれる。
学術的意義・ 評 価: 本種群は浅海砂底域に多様な種を適応放散させ、亜熱帯域において種多様性が非常に高く、進化生態
学的に重要である。
原
参
執
記
考
筆
載: H. Adams, 1871. Descriptions of twenty―six new species of shells collected by Robert MacAndrew Esq. in the
Red sea. Proc. Zool. Soc. London, 788―793, pl. 48.
文 献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
者 名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
コバコガイ
マルスダレガイ目 アサジガイ科
Montrouzieria clathrata Souverbie, 1863
情報不足(DD)
環境省カテゴリー: 該当なし
沖縄島中城湾のみから知られている。中城湾泡瀬干潟と佐敷干潟では新鮮な死殻が見出されるが、生息状況は不明。
これらの海域では、埋め立て計画が進行しているため、今後コバコガイの絶滅リスクは高まる可能性が高い。
489
貝類
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
ホラアナマメシジミ
マルスダレガイ目 マメシジミ科
Neopisidium cavernicum Mori, 1938
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
宮古島盛加ガー付近の石灰洞から1938年に見出されて記載された種であるが、現状は不明。
執
筆
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
名: 名和
名:
類:
名:
ー:
純
オウギカノコアサリ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Veremolpa laevicostata(Kuroda, 1960)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型で、横長のやや角張った楕円形、殻表は多数の明瞭な放射肋があり、成長輪肋と交
差して、弱い甍状となる。色彩は淡黄白色地に細かな灰褐色斑を散在させ、その濃淡などは個体変異
で様々である。殻長16mm以下。
近似種との区別: リーフ内の砂底に普通に分布するカノコアサリは後背縁に鱗片状突起を有すること、チリメンカノコ
アサリはより膨らみが強く、丸みを帯びた殻形とより放射肋が弱く格子状彫刻となることで区別され
る。
分 布 の 概 要: 沖縄島。
生 態 的 特 徴: 埋在ろ過食性であるが、その他、繁殖等の詳しい生態は不明。
生 息 地 の 条 件: 潮間帯直下∼水深数mまでの内湾域のアマモ場に隣接した清浄な細砂底に生息する。
現在の生息状況: 沖縄周辺の名護湾、羽地外海等砂底が卓越する海域では少ないながら生息しているが、中城湾等アマ
モ場周辺の清浄な底質の細砂底が減少している海域では産地がかなり減少していると考えられる。し
かし、分布の中心と考えられる亜潮間帯以深の具体的情報がほとんど無いため、今回はランクづけは
見合わせた。今後、生息場所における個体群の動向を見極めて、次の改訂時にランクづけを検討する
必要があろう。
学術的意義・ 評 価: マルスダレガイ類は二枚貝類最大のグループで、熱帯域のアマモ場や砂質環境に適応放散し、進化生
態学や種多様性の研究素材として重要で、いくつかの地域固有種も存在する可能性が高く、学術的意
義は大きいが、未だ分類学的研究が不十分である。
原
参
執
記
考
筆
載: 黒田徳米,1960.沖縄群島産貝類目録(頭足類を除く).琉球大学教務部普及課,沖縄,iv+1―104pp.
文
者
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
チリメンカノコアサリ
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
形
態: 殻は本科中、小型で、丸みを帯びた台形、殻表は成長輪肋と多数の放射肋が交差して、格子状とな
り、色彩は淡黄白色地に不定形の褐色斑を散在させ、その濃淡などは個体変異で様々である。殻長1
8
490
二枚貝綱 マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Veremolpa costellifera(Adams & Reeve, 1850)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
貝類
mm以下。
近似種との区別: リーフ内の砂底に普通に分布するカノコアサリは後背縁に鱗片状突起を有することから、オウギカノ
コアサリはより前後に広がる楕円形の殻形とより強い放射肋を有することで区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄全域。
生 態 的 特 徴: 埋在ろ過食性であるが、その他、繁殖等の詳しい生態は不明。
生 息 地 の 条 件: 潮間帯直下∼水深40mまでのアマモ場(ウミヒルモ類を含む)に隣接した清浄な細砂底に生息する。
現在の生息状況: 沖縄周辺の名護湾、羽地外海等砂底が卓越する海域では少なくないが、中城湾、金武湾等アマモ場周
辺の清浄な底質の細砂底が減少している海域でかなり産地が減少していると考えられる。しかし、分
布の中心と考えられる亜潮間帯以深の具体的情報がほとんど無いため、今回はランクづけは見合わせ
た。今後、生息場所における個体群の動向を見極めて、次の改訂時にランクづけを検討する必要があ
ろう。
学術的意義・ 評 価: マルスダレガイ類は二枚貝類最大のグループで、熱帯域のアマモ場や砂質環境に適応放散し、進化生
態学や種多様性の研究素材として重要で、いくつかの地域固有種も存在する可能性があり、学術的に
重要である。
原
記
参 考 文
執 筆 者
載: Adams & Reeve, 1850. Mollusca. Zool. Voy ., H. M. S. Samarang, 1843―1846, 1848―1850, 87pp, pls. 24.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
和
分
学
カ テ ゴ リ
名:
類:
名:
ー:
トモシラオガイ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Circe sulcata(Gray, 1838)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
形
態: 殻は本科中、小型で膨らみがあり、薄質、丸みを帯びた亜三角形、殻表は明瞭な成長輪肋を多数刻
み、殻色は白地に黒褐色∼褐色の模様を散らす。殻長20mm内外。
近似種との区別: シラオガイおよびアツシラオガイは遙かに大型化することで区別され、同サイズの幼貝では殻が扁平
であることで区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島および周辺離島、先島。
生 態 的 特 徴: 埋在ろ過食性であるが、その他、繁殖等の詳しい生態は不明。
生 息 地 の 条 件: 潮通しのよい、底質の清浄なアマモ場周辺の粗砂底に生息する。
現在の生息状況: 金武湾、中城湾を中心に亜潮間帯から水深4
0mまでの生息が確認されているが、分布の中心と考えら
れる亜潮間帯以深の具体的情報が少ないため、ランクづけは見合わせた。しかし、こうした亜潮間帯
であっても、富栄養化による還元や、埋め立てに伴うアマモ場周辺域の底質が悪化し、生存できなく
なる可能性が考えられるので、今後、生息場所における個体群の動向を見極めて、次の改訂時にラン
クづけを検討する必要があろう。
学術的意義・ 評 価: マルスダレガイ類は二枚貝類最大のグループで、熱帯域のアマモ場や砂質環境に適応放散し、進化生
態学や種多様性の研究素材として重要で、いくつかの地域固有種も存在する可能性が高いが、未だ分
類学的研究が不十分である。
参
執
考
筆
文
者
和
分
学
カ テ ゴ リ
献: 久保弘文・黒住耐二,1
995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
名:
類:
名:
ー:
フキアゲアサリ
二枚貝綱 マルスダレガイ目 マルスダレガイ科
Gomphina undulosa(Lamarck, 1818)
情報不足(DD) 環境省カテゴリー: 該当なし
491
貝類
形
態: 殻は本科中、小型で膨らみがあり、厚質、亜三角形、殻表は石灰皮膜が薄く覆われるが、殻自体は平
滑。殻色は白地に褐色の細かい山形模様を散らす。殻長15∼25mm。
近似種との区別: サラサガイおよびムラヤマサラサガイは殻質および色彩的に近似するが、殻形がより丸みを帯び、大
型化することで区別される。
分 布 の 概 要: 沖縄島および周辺離島、先島。
生 態 的 特 徴: 埋在ろ過食性であるが、その他、繁殖等の詳しい生態は不明。
生 息 地 の 条 件: 潮通しのよい、清浄な粗砂底に生息する。
現在の生息状況: 1980年代に中城湾南部、羽地外海等に多産地があったが、その後、底質の泥質化が進行すると共に個
体数が減少し、生息範囲がかなり縮小している可能性があるが、具体的な減少に関する情報がなく、
ランクづけを見合わせた。
学術的意義・ 評 価: マルスダレガイ類は二枚貝類最大のグループで、熱帯域のアマモ場や砂質環境に適応放散し、進化生
態学や種多様性の研究素材として重要で、いくつかの地域固有種も存在する可能性が高いが、未だ分
類学的研究が不十分である。
原
参
執
492
記
考
筆
文
者
載: Lamarck, 1818. Histoire naturelle des animaux sans vertebres. 5 : 612pp.
献: 久保弘文・黒住耐二,1995.沖縄の海の貝・陸の貝.沖縄出版,浦添,263pp.
名: 久保弘文
Fly UP