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基礎マスター答練 刑法 第1回 答案の書き方講義

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基礎マスター答練 刑法 第1回 答案の書き方講義
0622W009
伊 藤 塾
基礎マスター答練 刑法 第1回
答案の書き方講義
■
1
⑴
⑵
2
手順をしっかり踏む
構成要件(Tb)→違法(Rw)→有責(S)→処罰阻却
客観→主観
の流れ重視
論理矛盾を起こさない
自説を固める(必要に応じて反対説を意識)
3
⑴
⑵
⑶
4
答案作成上の視点・観点
答案構成をしっかりと
被害者ごとに検討
行為者ごとに検討
場面ごとに時系列で検討
条文の文言を大切にする
問題文の事情を、評価した上で、条文に当てはめるという作業をする
e.g.本問において甲は、~しており(問題文の事情)、住居権者の意思に反
する立入りといえるので(評価)、「侵入」(130 条前段)に当たる
* なお、問題文に、「侵入して」等、既に行為に法的評価が加えられている
場合には、評価は不要である
e.g.本問甲は「侵入」しているので、住居侵入罪(130 条前段)が成立する
⑵ 条文は丁寧に挙げる
~条だけでなく、~項、前段、後段まで挙げると印象がよい
e.g.住居侵入罪(130 条前段)、観念的競合(54 条1項前段)、
併合罪(45 条前段)
⑴
5
⑴
⑵
⑶
⑷
⑸
刑法各論のポイント
構成要件を正確に覚える
争いがある場合は保護法益から導く
事実認定を素直に行う
あてはめを慎重に
罪数関係も忘れずに
⑴
⑵
⑶
⑷
⑸
内容における視点・観点
法益保護と自由保障
行為無価値と結果無価値
形式論と実質論
規範的な見方と自然主義的見方
客観面で問題になる論点が主観面で聞かれることもある
6
刑法
-1-
第1回
伊 藤 塾
■
1
類型別対処方法
罪責検討型問題
行為者の行為に着目し、問題文中の行為をすべて拾い上げる
Tb→Rw→Sの流れに沿って、各行為ごとに犯罪の成否を検討する
複数の犯罪が成立する場合には、成立する犯罪の重要性に応じて、犯罪間の
バランスをとる
⑷ 複数の犯罪が成立する場合、最後に罪数処理を忘れずに行う
⑴
⑵
⑶
2
事例問題
行為が広範・多岐にわたる場合が多いので、時系列に沿って各行為を漏らさず
に拾い上げることが特に重要
→拾い上げた行為のうち、刑法的評価に値するものについての罪責を検討
e.g.「~」の行為は~条の「~」に当たる
→中心論点となる犯罪以外は、簡潔に認定(又は否定)してしまうことも大切
→自分の結論と逆の結論につながりやすい事情も、「確かに~、しかし~」や
「~であるとはいえ、~」等の形で拾うとよい
⑵ 問題文の事例の事実から論点を発見・抽出するパターンを覚える
→普段から問題となる具体例を常に意識して論点を押さえること
e.g.「致死量に至らなかった」→方法の不能
「かわいそうになり」→中止犯の要件としての任意性
「丙が処置を誤った」→第三者の行為の介在=因果関係の有無
⑶ Tbの解釈を正確に丁寧に
⑴
3
一行問題
自説の弱点(批判)を意識する
→学説自体を深めたり完全なものを目指すよりどこに問題があるかを知る
⑵ 具体例で勝負
⑴
4
反対説批判型問題
反対説については、一方的に批判するだけではなくメリットにも言及する
複数の論点がある場合は、中心論点で反対説を紹介・批判する
紹介する反対説は、自説と結論が異なるものを選ぶ
e.g.具体的事実の錯誤で法定的符合説を自説とした場合
ⅰ 法定的符合説/抽象的符合説
→結論同じ
ⅱ 法定的符合説/具体的符合説
→結論異なる
⇒自説(法定的符合説)と結論が異なる具体的符合説を反対説として紹介
⑷ 違法性の本質に関する争いは刑法の目的から書く
⑴
⑵
⑶
5
共犯の問題
狭義の共犯
ⅰ 正犯から検討する←共犯従属性説から
ⅱ 結果的加重犯の教唆、共犯の錯誤が問題になることが多い
⑵ 共同正犯
ⅰ 主犯格から書く→最後にどの範囲で共同正犯になるのか書く
ⅱ 被害者ごと又は時系列で同時に書いていく
⑴
基礎マスター答練
-2-
伊 藤 塾
故意犯の成立要件(答案の流れ)
構成要件
客観的構成要件
実行行為
因果関係
結果
主観的構成要件
⇨ 故意がなけれ
ば過失犯検討
構成要件的故意
構成要件該当
違法性阻却事由
正当行為
法令行為
正当業務行為
一般的正当行為
緊急行為
正当防衛
緊急避難
自救行為
違法性阻却なし
責任能力
責任要素
違法性阻却事由を基礎
づける事実の不認識
責任故意
⇨ 故意がなけれ
ば過失犯検討
違法性の意識の可能性
期待可能性
責任あり
故意犯成立
処罰条件・処罰阻却事由
刑法
-3-
第1回
伊 藤 塾
【MEMO】
基礎マスター答練
-4-
伊 藤 塾
参考問題①
司法試験昭和 59 年度第1問
甲は、一人暮らしのAを殺害しようと考え、致死量の数倍に当たる毒薬を混
入した高級ウイスキーをその情を知らない知人Bに渡し、これをA方へ届けて
くれるよう依頼した。ところが、Bは間違ってC方に右ウイスキーを届けたた
め、Cの長男である大学生DがCあてのウイスキーであると誤信してこれを友
人E、Fと共に飲み全員中毒死した。
甲の罪責を論ぜよ。
使用OHC
依頼
甲
B
A
C方
DEF
死亡
刑法
-5-
第1回
伊 藤 塾
【答案例】
<1頁目>
1
甲はAを殺害しようとして毒薬を混入したウイスキーを
情を知らないBにA方に届けてくれるよう依頼したところ、
Bが間違ってC方に届けたためCの長男Dと友人EFがこ
れを飲み死亡しているので、Aに対する殺人未遂罪(203
条、199条)とDEFに対する殺人罪(199条)の成否が問 5
題となる。
2⑴ まず、正犯といえるには実行行為が必要と解されるが、
甲は毒入りウイスキーをA方に届けてくれるようBに依
頼しただけであり、これでも「人を殺」(199条)す行
為といえるか、甲の行為の実行行為性が問題となる。
10
思うに、実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的
危険性を有する行為であるところ、規範障害のない他人
を道具として利用するとき(間接正犯)は、被利用者の
行為は因果の流れにすぎず、利用者の行為に構成要件的
結果発生の現実的危険性が認められる。
15
よって、このような場合は利用行為に実行行為性が認
められると解する。そして、利用行為が実行行為であり、
被利用者の行為は因果の流れにすぎない以上、間接正犯
においては、利用行為の開始が実行の着手(43条本文)
と認められる。
20
本問の場合、Bは高級ウイスキーを届けることを認識
しているのみなので規範障害はなく、友人甲から頼まれ
<2頁目>
れば依頼どおりに配達すると思われるので、甲の利用行
為自体に人の生命に対する現実的危険性が認められる。
よって、甲の行為には殺人罪の実行行為性が認められ、25
実行の着手ありといえる。
⑵ もっとも、結果が発生していないので、Aに対しては
殺人未遂罪が成立するにとどまる。
しかし、Bが配達先を間違えたため、C宅でウイスキ
ーを飲んだDEFには死亡の結果が発生している。
30
そこで、この結果についても甲の実行行為と因果関係
があるとして甲に帰責できるかが問題となるも、配達先
を誤ることも、その家の家人や居合わせた者が誤りに気
付かず配達されたものを飲食してしまうことも社会通念
上相当といえるので、肯定し得る。
35
⑶ 以上より、甲は、Aに対する殺人未遂罪とDEFに対
する殺人罪の構成要件の客観面を充足する。
3⑴ 問題は、甲はAを殺すことを意図しており、そのほか
の者に対する罪については主観と客観に齟齬が生じてい
るが、これらの罪に対する故意(38条1項)を認め得る 40
かという点である。
ア 思うに、故意責任(38条1項)の本質は、規範に直
面し反対動機形成可能であるのにもかかわらずあえて
行為に出たところに直接的反規範的人格態度が見出せ、
基礎マスター答練
-6-
伊 藤 塾
───────ここから下はさわらないでください───────
<3頁目>
重い道義的非難を加え得ることにある。
そして、この規範は構成要件の形で与えられている
ので、同一構成要件内で故意は抽象化でき、その中で
具体的事実につき錯誤があっても故意は認められると
解する(法定的符合説)。
イ これに対して、「その人」というような客体を重視
して、方法の錯誤の場合には故意を阻却するという見
解もある(具体的符合説)。
しかし、方法の錯誤と客体の錯誤の限界はあいまい
であるし、方法の錯誤が故意を阻却するならば、同一
人所有のペットについて、殺そうとした客体の隣の客
体を殺した場合不可罰になるという不合理な結果にな
ることがあり、妥当でない。
よって、法定的符合説により、主観と客観が構成要
件内で符合すれば故意が認められると解する。
ウ 本問の場合、甲はAを殺害しようと思っていたので
あり、DEFを殺す意図はなかったとしても、主観と
客観の齟齬は殺人罪という同一構成要件内にあるにす
ぎない。
したがって、DEFに対する故意は阻却されないと
考える。
⑵ もっとも、甲は一人暮らしのAを殺そうとしたのであ
45
50
55
60
65
<4頁目>
り、1人を殺す意思しかなかったにもかかわらず数個の
故意犯を成立させると故意の内容以上の刑責を負わせる
ことになると批判して、故意の個数を問題にし、1個の
殺意であれば殺人罪は一つしか成立せずその余の結果は
過失犯しか問題とならないとする説がある
(一故意犯説)
。
しかし、これによると狙った客体に重傷を負わせたの
に過失傷害罪となったり、後の死亡によって故意犯の対
象が変化したりすることになり、妥当でない。
思うに、故意は構成要件の範囲内で抽象化されている
と解するのであるから、故意の個数というものは観念し
得ないはずである。そして、かように解しても観念的競
合(54条1項前段)として処断すれば刑責の面でも不都
合はない。
したがって、故意の個数は観念せず、意図した人数に
かかわらず故意犯は成立し得ると解する。
4 以上より、甲にはAに対する殺人未遂罪(203条、199条)
とDEFに対する殺人罪(199条)が成立し、これらは毒
入りウイスキーの配達依頼をするという1個の行為でなさ
れているので、観念的競合(54条1項前段)として処断さ
れる。
以上
70
75
80
85
刑法
-7-
第1回
伊 藤 塾
【MEMO】
基礎マスター答練
-8-
伊 藤 塾
参考問題②
司法試験昭和 54 年度第1問
甲は、乙と路上で口論していたが、乙が突然隠し持っていた短刀で切りかか
ってきたので、とっさに足もとにあったこぶし大の石を拾って投げつけたとこ
ろ、石は、乙の額をかすり、さらに、たまたま、その場を通行中の丙の目に当
たった。そのため、乙は全治三日間の傷を負い、丙は片目を失明した。
甲の罪責を論ぜよ。
使用OHC
刀
甲
石
乙
傷
丙
失明
刑法
-9-
第1回
伊 藤 塾
【答案例】
<1頁目>
1
乙に対する罪責
⑴ 甲は乙に石を投げつけ、全治3日間の傷を負わせてお
り、これは人の身体に対する有形力の行使により人の生
理的機能を害したといえるので、傷害罪(204条)の構
成要件に該当する。
5
しかし、当該行為は乙が短刀で切りかかる行為に対す
るものであるから、正当防衛(36条1項)の成否が問題
となる。
⑵ 乙は突然隠し持っていた短刀で甲に切りかかっており、
「急迫不正の侵害」(同条項)ありといえる。また、甲 10
のこぶし大の石を投げつけた行為は甲の生命、身体の安
全を守るための必要な限度での相当な防衛行為と認めら
れ正当防衛の客観的要件は満たす。
⑶ しかし、甲は「とっさに」石を投げつけているため、
防衛の意思はなさそうである。そこで、正当防衛の主観 15
的要件として防衛の意思は必要であろうか。
思うに、違法性の本質は社会的相当性を逸脱した法益
侵害・危険の惹起であり、正当防衛の根拠は、法の自己
保全のため社会的相当行為として違法性が阻却される点
にある。
20
とすれば、正当防衛(社会的相当性)の判断には行為
の態様も考慮に入れなくてはならず、主観的要素も判断
<2頁目>
対象となる。
したがって、防衛の意思は必要である。
そして、この防衛の意思の内容は、急迫不正の侵害を
意識しつつ、これを避けようとする単純な心理状態と解
すべきである。なぜなら、本能的な自衛行為であっても
自らを防衛する意思に基づくことは否定できず、防衛の
意図・動機まで必要とすべきではないからである。
本問では、甲は「とっさに」行為しているものの、急
迫不正の侵害を意識しつつ、これを避けようとする単純
な心理状態にあると認められ、防衛の意思を肯定できる。
よって、甲には正当防衛が成立し、乙に対する犯罪は
不成立になる。
2 丙に対する罪責
⑴ 甲が乙に対し投げつけた石が丙に当たり、丙は失明し
た。そこで、丙に対する傷害罪が成立するかが問題とな
る。
まず、路上でこぶし大の石を投げる行為は、身体を害
する危険があるから、実行行為性は肯定される。また、
路上で投げた石がその場を通行中の人に当たるのは、社
会通念上相当といえ、実行行為と結果との因果関係も認
められる。
⑵ 次に、行為の結果が認識内容(乙)と異なる客体(丙)
基礎マスター答練
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伊 藤 塾
───────ここから下はさわらないでください───────
<3頁目>
にも生じていることから、丙に対する傷害の故意は認め
られるか、方法の錯誤が問題となる。
思うに、故意責任の本質は、規範に直面したにもかか
わらず、あえて行為した反規範的意思活動への責任非難
である。とすれば、規範は構成要件により示されている
から、同一構成要件の範囲内で錯誤があっても、同じ構
成要件的評価を受ける事実を認識・認容していれば、規
範に直面しているといえ、故意責任を問い得るというべ
きである(法定的符合説)。また、1つの故意で複数の
結果を生じても、故意を抽象化する以上故意の個数は問
題とならないと解する。
本問において、甲は乙という「人」に対する傷害の故
意があるので、丙という「人」に対する傷害の故意が認
められる。
よって、甲の行為は傷害罪の構成要件に該当する。
⑶ 次に、丙は侵害の主体ではないから、正当防衛(36条
1項)は成立しないが、緊急避難(37条1項本文)が成
立して犯罪が不成立とならないかが問題となる。
まず、乙が甲に切りかかっており、「現在の危難」(同
条項)があるといえる。
次に、緊急避難は、いわゆる正対正の関係において認
められることから、甲の行為が避難行為として唯一の方
45
50
55
60
65
<4頁目>
法か(補充性の原則)、その行為により生じた害がその
避けようとした害の程度を超えないか(法益権衡の原則)
が問題となる。
思うに、口論するような近距離から切りかかられれば、70
逃げるのは困難である。また、生じた害も避けようとし
た害も、ともに身体を保護法益とするものであり、法益
は権衡していることから、上記2要件は満たされる。
最後に、甲に避難の意思があるか。
思うに、正当防衛と同様の理由から、緊急避難におい 75
ても避難の意思は必要と解する。また、防衛の意思は侵
害を回避するという意思を含むので、緊急避難の意思を
包摂しているといえる。よって、甲には防衛の意思があ
ることから、避難の意思もあるといえる。
この点、自説に対しては、丙が石に当たったから、甲 80
が危難を免れたわけではないので、甲に避難効果がない
という批判もあるが、社会的相当性の判断時点は行為時
であり、行為時では避難効果をもたらすはずの行為と評
価できるので、この批判は当たらないと考える。
以上より、甲には緊急避難が成立し、丙に対する犯罪 85
は不成立となる。
以上
刑法
-11-
第1回
伊 藤 塾
【MEMO】
基礎マスター答練
-12-
伊 藤 塾
参考問題③
司法試験平成 12 年度第1問
甲は、友人乙、丙に対して、Aが旅行に出かけて不在なので、A方に侵入
し、金品を盗んでくるように唆した。乙、丙は、A方に侵入したところ、予期
に反しAが在宅しているのに気付き、台所にあった包丁でAを脅して現金を奪
い取ろうと相談し、Aに包丁を突き付けた。ところが、Aが激しく抵抗するの
で、乙は、現金を奪うためにAを殺害しようと考え、その旨丙にもちかけた。
丙は、少なくとも家人を殺したくないと思っていたことから、意外な展開に驚
き、「殺すのはやめろ。」と言いながら乙の腕を引っ張ったが、乙は、丙の制
止を振り切って包丁でAの腹部を刺し、現金を奪いその場から逃走した。丙
は、Aの命だけは助けようと考え、乙の逃走後、直ちに電話で救急車を呼んだ
が、Aを介抱することなくその場に放置してA方を立ち去った。結局Aは、救
急隊員の到着が早く、一命を取り留めた。
甲、乙及び丙の罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く。)。
使用OHC
侵入・セットー
教
甲
乙・丙
侵入
A宅
乙
A
刺す
+セットー
刑法
-13-
第1回
伊 藤 塾
【答案例】
<1頁目>
1
乙の罪責について
⑴ 乙は、A方に侵入しており、住居侵入罪(130条前段)
が成立する。
⑵ そして、乙は、「現金を奪うためにAを殺害しようと
考え」、「包丁でAの腹部を刺し」ていることから、強 5
盗殺人罪の実行に着手したといえるか。240条後段は、
殺人の故意ある場合を含むかが問題となる。
同条は、強盗の機会に人が殺傷される事態が刑事学的
に頻繁にみられることから規定された以上、殺人の故意
10
ある場合も含むと解する。
よって、乙は強盗殺人罪の実行に着手したといえる。
⑶ もっとも、Aは「一命を取り留め」ているが、乙は、
「現金を奪」っていることから、乙が240条後段の既遂
の罪責を負うかが問題となる。
同条の保護法益は、人の生命・身体の安全であるから、15
240条後段の既遂・未遂は財物奪取の有無ではなく、死
亡の結果の有無で決すべきである。
よって、死亡の結果が生じていない以上、乙は、強盗
殺人罪の未遂(243条、240条後段)の罪責を負う。
⑷ 以上より、乙は住居侵入罪、強盗殺人未遂罪の罪責を負 20
い、両者は牽連犯(54条1項後段)となる。
2 丙の罪責について
<2頁目>
⑴
⑵
丙にも、住居侵入罪(130条前段)が成立する。
丙も、乙と共謀の上、包丁で脅していることから、強
盗罪(236条1項)の実行の着手があり、少なくとも丙
には、同罪の限度で、乙との共同正犯(60条)が成立す
る。
⑶ それでは、丙は強盗殺人未遂罪(243条、240条後段)
の罪責まで負うか。
丙は、乙にAの殺害をもちかけられたが、「少なくと
も家人を殺したくないと思っていたこと」から、乙丙間
に殺人の共謀はなく、丙に強盗殺人未遂罪の共同正犯は
成立しない。
⑷ア しかし、Aは、乙に「腹部を刺」され傷害を負って
いることから、丙は、Aの致傷の結果について強盗致
傷罪(240条前段)の罪責を負わないか。結果的加重
犯の共同正犯の成否が問題となる。
結果的加重犯は基本犯たる故意犯の中に重い結果
を生じさせる高度の危険性を含んだ犯罪である以上、
基本犯の共同行為と重い結果との間に相当因果関係が
ある場合には、結果的加重犯の共同正犯が成立する。
乙丙がAから現金を奪い取るためAに包丁を突き付
ける行為とAが致傷を負うこととの間には相当な因果
関係があるといえるから、丙には強盗致傷罪の共同正
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伊 藤 塾
───────ここから下はさわらないでください───────
<3頁目>
45
犯が成立し得る。
イ しかし、丙は、乙に
「殺すのはやめろと言いながら、
乙の腕を引っ張っ」ていることから、共犯関係からの
離脱が認められないか。実行着手後の離脱が認められ
るための要件が問題となる。
実行の着手後に離脱が認められるためには、結果防 50
止のための積極的行為により、因果性が遮断されるこ
とが必要である。
本問では、丙は乙の腕を引っ張っているにすぎず、
乙は丙の制止を振り切ってAの腹部を刺しているため、
結果防止のための積極的行為があったとまでは認めら 55
れず、丙の行為により因果性が遮断されたとはいえな
い。
よって、丙の共犯関係からの離脱は認められず、丙
に強盗致傷罪の共同正犯が成立する。
⑸ もっとも、丙は、「Aの命だけは助けようと考え」て、 60
直ちに救急車を呼んでいることから、中止犯の規定(43
条ただし書)により、刑の必要的減免ができないか。
中止犯は、あくまでも未遂犯について認められる。
本問では、致傷の結果が生じている以上、丙に同条た
65
だし書を直接適用することはできない。
なお、中止犯が責任減少を根拠とすることから、同条
<4頁目>
ただし書の準用の余地はないかが問題となり得る。
しかし、丙は、Aを介抱することなく放置して立ち去
っている以上、結果防止に対する真摯な中止行為をした
とはいえず、同条ただし書の準用も否定される。
70
⑹ 以上より、丙は、住居侵入罪と強盗致傷罪の罪責を負い、
両者は牽連犯(54条1項後段)となる。
3 甲の罪責について
⑴ まず、甲には、乙と丙に対する住居侵入罪(130条前
段)の教唆犯(61条1項)が成立する。
75
⑵ 次に、乙に対しては、強盗殺人未遂罪の教唆犯、丙に
対しては、強盗致傷罪の教唆犯の結果を生じているが、
甲には、窃盗罪(235条)の教唆犯の故意しかないこと
から、これらの罪の教唆犯の責めは負わない
(38条2項)
。
⑶ もっとも、強盗殺人未遂罪、強盗致傷罪と窃盗罪は、 80
構成要件上、窃盗罪の限度で重なり合う。
よって、甲には、窃盗罪の教唆犯が成立する。
⑷ 以上より、甲は、乙と丙に対する住居侵入罪と窃盗罪
の教唆犯の牽連犯(54条1項後段)が成立する。そして、
甲の教唆行為は1個なので、観念的競合(同条同項前段) 85
となる。
以上
刑法
-15-
第1回
伊 藤 塾
【MEMO】
基礎マスター答練
-16-
伊 藤 塾
参考問題④
司法試験昭和 61 年度第2問
甲は、同じ下宿の隣室に住んでいるAが他から盗んできたカメラを持ってい
るのを知り、これを一泊旅行の記念撮影のため一時借用しようと思い、旅行の
前日、Aの留守をねらってその部屋に入った上、右カメラを持ち出し、翌日、
これを持って旅行に出かけ、旅行先で写真を撮影し、旅行から戻った日に、右
カメラを元の場所に返しておいた。
甲の罪責を論ぜよ。
刑法
-17-
第1回
伊 藤 塾
【答案例】
<1頁目>
1
まず、「Aの留守をねらってその部屋に入っ」ている甲
は、住居侵入罪(130条前段)の罪責を負うか。
ここで、下宿の部屋はAが日常生活に使用する場所たる
「住居」に当たり、甲の行為は、住居権者たるAの意思又
は推定的意思に反した立入りと認められるから「侵入」と
いえる。
よって、甲は住居侵入罪(130条前段)の罪責を負う。
2 次に、Aの部屋から「カメラを持ち出し」た甲は、窃盗
罪(235条)の罪責を負うか。
⑴ア まず、当該カメラは「他人の財物」といえるか。当
該カメラは盗品であり甲の行為により新たな本権侵害
があるとはいえない。そこで、窃盗罪の保護法益を本
権と考えると窃盗罪は成立しないとも思われるので、
窃盗罪の保護法益をいかに解するかが問題となる。
この点、窃盗罪の保護法益は、所有権その他の本権
であるとする考え方がある。
しかし、実際問題として、財物の占有が侵害される
時点で、その占有が権原に基づくものか否かを個別に
確認することは非常に困難である。
思うに、現代社会における複雑な財産関係を前提と
して、財産秩序を維持するためには、本権に基づく占
有のみならず、権原によらない占有までをも直接保護
5
10
15
20
<2頁目>
の対象とすべきである。
よって、窃盗罪の保護法益は、事実上の占有そのも
のと解する。
とすれば、「他人の財物」とは、他人が事実上占有
する財物をいい、Aが事実上支配していた当該カメラ
もこれに当たる。
イ そして、甲はAの意思に反してカメラに対するAの
占有を排除し、それを自己の占有に移しているから、
甲はカメラを「窃取した」といえる。
ウ したがって、甲がカメラを持ち出した行為は、窃盗
罪の客観的構成要件を充足する。
⑵ア 次に、甲は、上記の客観的構成要件に該当する事実
を認識しており、窃盗罪の故意(38条1項)が認めら
れる。
もっとも、甲はカメラを一時借用しようとしたにす
ぎないことから、使用窃盗の可罰性が、故意を超えた
主観的要件としての不法領得の意思の要否及び内容と
関連して問題となる。
思うに、不可罰的な使用窃盗との区別のために、窃
盗罪の主観的要件としては単に占有侵害の意思では足
りず、本権者として振る舞う意思が書かれざる主観的
構成要件要素として必要になると解すべきである。ま
基礎マスター答練
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伊 藤 塾
───────ここから下はさわらないでください───────
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た、領得罪と毀棄罪とを区別する基準として物を利用・ 45
処分する意思も必要となる。
つまり、窃盗罪の故意を超えた主観的構成要件要素
として、不法領得の意思、すなわち①権利者を排除し
本権者として振る舞う意思、及び②物の経済的用法に
従い、利用・処分する意思を要し、単なる一時使用目 50
的による占有取得の場合には、振る舞う意思としての
不法領得の意思に欠けるから、使用窃盗は原則として
不可罰と解すべきである。
イ それでは、甲は不可罰的な使用窃盗に当たるか。甲
に振る舞う意思としての不法領得の意思が認められる 55
か否かが問題となる。
思うに、一時使用目的による占有取得もそれが本権
の侵害を伴う態様において行われた場合は、単なる一
時使用ではなく、権利者を排除して本権者として振る
舞う意思すなわち不法領得の意思を認め得る場合があ 60
る。
そして、本権者として振る舞う意思を要求する以上、
社会通念上使用借権又は賃借権によらなければ使用で
きないような形態において財物を利用する意思が認め
られるときには、振る舞う意思があると解すべきであ 65
る。
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本問では、甲は、単にカメラを短時間一時的に持ち
出してその場で使用する意思にとどまらず、これを一
泊旅行の記念撮影のためという比較的長期かつ遠隔地
で使用する意思を持って持ち出しており、このような 70
利用形態は、社会通念上、使用借権又は賃借権によら
なければなし得ないと考えられる。
したがって、甲には本権者として振る舞う意思が認
められ、カメラを利用・処分する意思もある。よって、
不法領得の意思が認められ、甲は不可罰的な使用窃盗 75
には当たらない。
ウ よって、甲の行為は窃盗罪の主観面も充足する。
⑶ 以上より、甲は窃盗罪(235条)の罪責を負う。
3 なお、甲は、カメラ返却の際にAの部屋に再度侵入して
おり、別途住居侵入罪(130条前段)の罪責を負う。
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4 以上より、甲は住居侵入罪(130条前段)と窃盗罪(235
条)、さらに別の住居侵入罪の罪責を負い、前二者は手段・
目的の関係にあるから牽連犯
(54条1項後段)
の関係に立ち、
これと後の住居侵入罪とは併合罪(45条)になると解する。
以上 85
刑法
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第1回
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