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外科的結紮手術を行った犬の動脈管開存症の5例

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外科的結紮手術を行った犬の動脈管開存症の5例
外科的結紮手術を行った犬の動脈管開存症の5例
園田
康広1) 川上
川村奈津子2) 櫻田
正1) 長澤
裕2) 長澤
晶子2) 小山
晃3) 長谷川孝寿4) 大岡
健2)
恵4)
(受付:平成19年1月31日)
Five dogs with patent ductus arteriosus treated by surgical ligation
YASUHIRO SONODA1), TADASI KAWAKAMI1), HIROSI NAGASAWA2),
MASAKO NAGASAWA2), KEN KOYAMA2), NATUKO KAWAMURA2),
AKIRA SAKURADA3), TAKAHISA HASEGAWA4), MEGUMI OOKA4)
1)Sonoda Animal Hospital
2-19-50, Yagi, Asaminami-ku, Hirosima 731-0101
2)Aki Pet Clinic
1-21-29, Yahata, Saeki-ku, Hirosima 731-5116
3)Sakurada Animal Hosipital
1-6-17-1, Senzoku, Hesaka, Higasi-ku, Hirosima 732-0009
4)Misasa Animal Hospital
8-11,Misasakita-mati, Nisi-ku, Hirosima 733-0066
SUMMARY
Between June 2001 and June 2006, 23 dogs were diagnosed as having congenital heart disease in our
hospital, and 10 of them had patent ductus arteriosus (PDA). Five of the 10 dogs underwent radical
operation. Some findings obtained in the surgery of PDA are reported.
要
約
2001年6月から2006年6月までの5年間に当院に来院し,先天性心疾患と診断された例は23例
でそのうちPDAと診断された例は10例であった.さらにそのうち5例について外科的根治術を行
い,PDAの外科的治療について若干の知見をえたので報告する.
序
シェットランド・シープドッグ,ヨークシャ・テリア,
文
コリーなどに見られるが小型犬に多く,雄よりも雌に発
動脈管開存症(以下PDA)は,胎生期の動脈管の遺残
生頻度か高い傾向が認められている.また,PDAは生後
であり,大動脈と肺動脈の間で血液の交通が起こる先天
1年以内に矯正手術をしなければその半数が死亡すると
的心疾患であり,犬の先天性疾患では大動脈弁下部狭窄,
1,
2)
報告されている.
肺動脈弁狭窄と並んで発生頻度が高い.文献上での好発
今回,我々はPDAを根治する目的でドップラ検査を行
犬種は,プードル,ジャーマン・シェパード,マルチー
い,非観血的に肺高血圧症の程度を推測し,PDAの重症
ズ,チャウチャウ,ポメラニアン,各種スパニエル種,
度を把握した上で外科手術を行ったところ,良好な結果
1)園田動物病院(〒731-0101
広島県広島市安佐南区八木2−19−50)
2)安芸ペットクリニック(〒731-5116
広島県広島市佐伯区八幡1−21−29)
3)櫻田動物病院(〒732-0009
広島県広島市東区戸坂千足1−6−17−1)
4)三篠動物病院(〒733-0066
広島県広島市西区三篠北町8−11)
− 43 −
広島県獣医学会雑誌
22(2007)
下であるが3),CTR同様,症例平均VHSは12.7という結
が得られたのでこれを報告する.
果となった(図2).
症例調査
1.対象症例
2001年6月から2006年6月までの約5年間に当院に来
院し,先天性心疾患と診断されたものは23症例でPDAと
診断したものは10例であった.さらにその中の5例(症
例No1,5,6,7,10)(図1,表1)に対して外科
的結紮術を実施した.
2.調査結果と検査犬
図2
胸部X線検査
4.心電図検査
多くの症例(症例No2,3,6,7,9,10)でR
の増高した心電図が認められた.
そのR波に着目し表にまとめたところ,レントゲン同
様高値を示し,症例平均3.04mVと左心系の負荷が認め
られた(図3).
図1
当院でみられた犬の先天性心疾患分類
今回の調査で認められたPDA犬はミニチュアダックス
次いでポメラニアンに多く,また6:4の割合でメスが
多かった.年齢についてはPDAの多くは初診時ワクチン
接種時などの一般検査の際に発見されることがほとんど
であるためこのような結果となったと思われた.また,
23例すべての症例において雑音の強弱はあるが,左前胸
図3
部を最強点とする特徴的な連続性心雑音が聴取された
心電図検査
第二誘導R波高
(表1).
症例
No.
5.心エコー検査
表1 PDA犬種分類
表1
犬
種
性別
年齢
心エコーカラードップラー検査では,すべての症例に
体重
おいて肺動脈内の青く流れる血流に反してモザイク状に
連続性
心雑音
出る乱流が観察された.同時に動脈管開口部径も測定し
1
M.ダックス
M
3ヶ月 1.1kg
+
2
M.ダックス
M
4ヶ月 1.5kg
+
PDA症例の動脈管開口部径は,2キログラムまでは体
3
M.ダックス
M
7ヶ月 3.0kg
+
重が増加するにつれて血管径が増大する傾向にあった
4
M.ダックス
F
4歳
6.3kg
+
5
ポメラニアン
F
2ヶ月 0.8kg
+
6
ポメラニアン
F
3ヶ月 1.5kg
+
7
ポメラニアン
F
6ヶ月 1.8kg
+
8
ポメラニアン
F
9歳
1.8kg
+
9
A.コッカー
F
3歳
8.0kg
+
10
ヨークシャーテリア
M
4歳
3.0kg
+
た(写真1).
3.レントゲン検査
胸部X線検査では,症例No2,4,5,9,10など
の多くの症例が肺血管陰影の増強,左心系の拡大が認め
られた.また,犬の正常心胸郭比は65%以下とされてお
り3),それと比較して,症例は年齢,性に関係なく心
胸隔比(CTR)が高値を示し,症例平均CTR76.21%と
いう結果となった.VHSにおいては正常値9.7±0.5以
− 44 −
写真1 心エコー図検査 カラードップラー検査
PA:主肺動 S:動脈管
主肺動脈(PA)の青い流れに反して動脈管(S)から
ジェット流様にモザイクパターンが観察された.
広島県獣医学会雑誌
22(2007)
が,3キログラム以上になると4mm前後と殆ど変わら
動脈管の連続波ドップラー波形で得られた流速をベル
ヌーイの方程式等4)を用いて推定肺動脈収縮期圧・圧拡
ない結果となった(図4).
張期圧を算出した.正常肺動脈圧を20mmHgとすると症
例No1,2,4,7,9は軽度な肺動脈圧の上昇をき
たしていると推測された(表6).
PDAの推定肺動脈圧
表2
症例
No.
図4
動脈管開口部径
犬
種
性別
年齢
収縮期圧 拡張期圧
(mmHg)(mmHg)
1
M.ダックス
M
3ヶ月 25
3
2
M.ダックス
M
4ヶ月 39
11
3
M.ダックス
M
7ヶ月 14
9
4
M.ダックス
F
4歳
46
15
5
ポメラニアン
F
2ヵ月 18
9
肺動脈圧を推測するため,すべての症例に対してサン
6
ポメラニアン
F
3ヶ月 9
3
プルボリュウムを動脈管開口部に置き流速を測定した.
7
ポメラニアン
F
6ヶ月 23
9
収縮期から拡張期へ移行するに従い徐々に流速が減弱し
8
ポメラニアン
F
9歳
20
0
ているのが確認された(写真2).また,すべての症例
9
A.コッカー
F
3歳
45
6
が大動脈内での乱流がなく写真2のようなドップラー波
10
ヨークシャテリア
M
4歳
20
9
形を示した.
正常肺動脈圧を25mmHgとすると症例No.2,4,9は
軽度な肺動脈圧の上昇をきたしていると推測された。
以上,全ての症例において聴診では特徴的な左前胸部
からの連続性心雑音,レントゲンでは左心系の拡大,心
電図ではR波増高より左心系の負荷,ドップラー検査で
動脈管から肺動脈幹への乱流が認められた等の検査結果
から左右短絡性動脈管開存症と診断した.
次に,解剖学的及び機能学的分類表3)を用いて臨床分
類を試み,タイプ分類を行った.タイプ1から3Aまで
はグレードが上がるにつれリスクも大きくなるが,手術
は推奨レベルである.タイプ3Bまたはタイプ4である
かは手術可能であるか否かの極めて重要なラインである
収縮期から拡張期へ移行するにしたがい徐々に流速が減弱
しているのが確認される.
と考えられた(表3).
以上,臨床症状と各種検査から表3に示したタイプ
写真2
1∼4までのグレードに分かれた分類表を作成し,各供
PDAの犬における動脈管の連続波ドップラー波形
表3
手
術
適
応
手
術
適
応
外
PDAの解剖学的および機能学的分類
TYPE1 小さなサイズの動脈管
無症候性左右短絡 心拍数と脈質正常 外科手術は推奨
TYPE2 中等度のサイズの動脈管
無症候性左右短絡 R波が3mVを超える 外科手術が推奨
TYPE3A 大きなサイズの動脈管でうっ血性心不全症状を伴わない
運動不耐性を示す R波が5mVを超える
TYPE3B 大きなサイズの動脈管でうっ血性心不全症状が認められる
肺水腫による呼吸困難あり 時折心房細動あり コントロールし、手術実施
TYPE4 大きな動脈管で肺高血圧症が認められる
後肢の虚弱 右左短絡症もしくは双方向性短絡症
− 45 −
外科手術は禁忌
広島県獣医学会雑誌
22(2007)
試例のデータをそれに当てはめ,それぞれのグレードを
評価した(表4).
手術方法は開胸下における直接法で迷走神経と横隔神
経を避けて絹糸による結紮を行った(写真3).
表4 PDAの10症例TYPE分類
症例No.
犬
種
結果は5例とも麻酔からの覚醒もよく術後のトラブル
も見られなかった.現在この5例は良好に過ごしている.
性別
1
M.ダックス
1
2
M.ダックス
2
3
M.ダックス
2
4
M.ダックス
2
5
ポメラニアン
1
6
ポメラニアン
1
7
ポメラニアン
1
8
ポメラニアン
2
9
A.コッカー
3A
10
ヨークシャーテリア
2
考
察
PDAは一般的に多く認められる先天性心疾患の一つで
1,000頭の先天性心疾患の犬を対象とした調査結果では
27.7%の発生率と報告されている2)当院では23症例中10
例と約43%の発生率となり文献のデータよりも若干多い
結果であった(図1).
今回の症例ではドップラー検査を取り入れることで
PDAの確定診断と左右短絡の確認が取れ手術可能である
と判断できた.また非観血的に肺動脈圧を数値化するこ
とは,肺高血圧症の程度を知り重症度を判断する上で有
用ではないかと考えられた.また,PDAの解剖学的及び
今回の症例ではタイプ1から3AのPDAで手術推奨期
機能学的分類を行うことは簡易性が高く分類しやすいの
タイプであった.この検査結果を元に飼い主さんと話し
ではあるが,具体的な数値による細分化が無いため主観
同意を得られた症例について外科的手術に踏み切った.
性が入りやすくなるため,重度な症例に対しての手術適
応期を判断するには若干不十分に感じられた.さらなる
新しい基準が確立されることを切望する.
参考文献
1)山根義久監修:小動物
最新
外科学大系:48−57
:インターズー(2004)
2)Bonagua J. D.and Lehmkuhl L. B.: Congenital heart
disease. In: Textbook of canine and feline cardiolody:
principles and clinical practice., 2nd ed., Fox P. R.,
Sisson D. and Moise N. S. eds.,: 471-535: (1999)
3)Buchanan J. W.: Patent ductus arteriosus. Semin. Vet.
Med. Surg (Sm. Animal), 9: 168-176: (1994)
写真3
4)Spencer MP, Greiss FC: Dynamics of ventricular
PDA術中所見
ejection; 274: (1962)
AO;大動脈 LAU;左心耳
PN;横隔神経
PA;肺動脈
D:動脈管
動脈管が絹糸によって確保されているのが観察される
− 46 −
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