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5,9 位にアルキルフェニル基を導入した 21DNFU 誘導体の有機単結晶

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5,9 位にアルキルフェニル基を導入した 21DNFU 誘導体の有機単結晶
2PS-2201
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
5,9 位にアルキルフェニル基を導入した 21DNFU 誘導体の有機単結晶トランジスタ
東海大学 大学院 工学研究科
ウシオケミックス㈱
○荒川 哲平、功刀 義人
筒井 雅宣、岡本 一男
はじめに
有機トランジスタは柔軟性、軽量化、低コスト等の魅力的な特徴を有しているため、次世代のデバイスとして注目
を集めている。有機トランジスタは使用される半導体材料によって特性が大きく異なるため、新規半導体材料の研究
開発が活発に行われている。V 型の含ヘテロ縮環系芳香族化合物はその非対称性の分子構造から高い溶解性が期待さ
れる。そこで、我々は V 型の含ヘテロ縮環系芳香族化合物である Dinaphtho[2,1-b:1’,2’-d]furan (21DNFU)に注目し
た。21DNFU の 5,9 位にアルキルフェニル基を導入した化合物を単結晶化し、単結晶 X 線構造解析及び単結晶有機
トランジスタの作製と特性評価を行った。
R=
R
R
R=
C 3H 7
3P-21DNFU
C5H11
5P-21DNFU
O
Fig. 1. 21DNFU 誘導体の分子構造
実験
21DNFU 誘導体の単結晶はトルエン/エタノールを用いて、貧溶媒添加晶析によって析出させ、単結晶 X 線構造解
析を行った。次に、Si/SiO2 基板上にスピンコート法によってポリマー絶縁膜を形成させ、SiO2 とポリマーの二重絶
縁膜を作製した。その上に、得られた単結晶を針を用いて張り付け、結晶の両端にカーボンペースト塗布し、ソース・
ドレイン電極とし、トランジスタ素子を作製した。
作製した素子は減圧下で FET 測定を行い、キャリア移動度、閾値電圧、Ion/Ioff を算出した。
結果および検討
21DNFU 誘導体の結晶は貧溶媒添加晶析によって容易に生成した。得られた 21DNFU 誘導体の結晶で X 線構造
解析を行ったところ、すべてのサンプルで結晶構造の解析を行うこと
8.0x10
10
が出来た。このことから、貧溶媒添加晶析によって得られた 21DNFU
(a)
7.0x10
誘導体結晶は、単結晶であるということが分かった。
6.0x10
10
21DNFU 誘導体単結晶で FET 測定を行ったところ典型的な p 型の
5.0x10
トランジスタ応答が得られた。Fig. 2 に 21DNFU 誘導体の一つであ
4.0x10
10
る、5P-21DNFU のトランジスタ応答曲線を示す。得られた応答曲線
3.0x10
より最高で、キャリア移動度が 0.2 cm2V-1s-1、閾値電圧が-9 V、Ion/Ioff
2.0x10
10
が 103 というトランジスタ特性が算出された。Table 1 に 21DNTT 誘
1.0x10
導体単結晶のトランジスタ特性をまとめたものを示す。3P-21DNFU
0
10
20
0
-20
-40
-60
-80
-100
及び 5P-21DNFU は共に、CYTOP よりも PS を絶縁膜に用いた物の
V /V
g
方が高いキャリア移動度が得られた。本実験で用いた 21DNFU 誘導
-1.6x10
体は非常に溶解性が高く、多くの有機溶媒に可溶な為、今後移動度を
V = -100V
(b)
-1.4x10
更に向上することが出来れば溶液プロセスによる素子作製という点に
-1.2x10
-80V
おいて期待できる。
-4
-6
-4
1/2
-4
-7
d
-8
d
(-I )
1/2
-4
-4
-4
-9
-4
-10
-7
-7
g
-7
-7
I /A
-1.0x10
-8
-8.0x10
-60V
d
Table 1. 21DNTT 誘導体単結晶のトランジスタ特性
-8
化合物
3P-21DNFU
5P-21DNFU
表面処理
/ cm2V-1s-1
Vth / V
Ion/Ioff
PS
0.2
-5
103
CYTOP
3.7x10-2
-32
102
PS
0.2
-9
103
CYTOP
8.0x10-2
-57
102
-I / A
/A
-4
-6.0x10
-8
-4.0x10
-40V
-8
-2.0x10
0V, -20V
0
0
-20
-40
-60
-80
-100
V /V
d
Fig. 2. 5P-21DNFU トランジスタの
(a) Id, Id½-Vg 曲線(b)Id-Vd 曲線
2PS-2202
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
二層絶縁膜処理を施した Picene 薄膜トランジスタの特性評価
東海大学大学院 工学研究科
ウシオケミックス株式会社
○高橋 義之、功刀 義人
筒井 雅宣、岡本 一男
1.はじめに
有機電界効果トランジスタ(OFET)は、フレキシブル、溶液プロセスによる大量生産が可能といった無機トランジ
スタにはない特長があるが、無機トランジスタに比べ移動度が低いことが欠点となっている。この欠点を改善するた
めに新規化合物の合成や表面処理などが近年盛んに研究されている。今回我々は、表面処理に注目し、二層絶縁膜処
理を行った基板に Picene を用いてトップコンタクト型素子の作製し、トランジスタ特性を測定し、比較した。
有機絶縁膜
OTS
ODTS
HMDS
PS
CYTOP
Picene
Fig. 1. 二層絶縁膜処理を施したトップコンタクト型トランジスタの素子構造
2.実験
Picene 薄膜は Si/SiO2 基板(bare)、Octyltricholorosilane(OTS)、Octadecyltrichlorosilane(ODTS)を液相法で、
HMDS を気相法で、Polystyrene(PS)、CYTOP をスピンコート法によって二層絶縁膜処理を施した基板上に、真空
蒸着法により 50nm 堆積させた。その上にソースドレイン電極となる金を電子ビーム法によって 80nm 蒸着し、トッ
プコンタクト型素子(L=50μm、W=1.5mm)を作製した。なおトランジスタ特性は減圧条件下で測定を行った。
Picene
bare
OTS
ODTS
HMDS
PS
CYTOP
0.1
2.5x10-2
3.7x10-2
0.2
0.5
0.3
-81
-58
-77
-55
-53
-63
Ion/Ioff
d-spacing / Å
103
103
103
103
105
104
13.6
13.5
13.5
13.5
13.7
13.5
0.008
10 -5
0.006
10 -6
0.004
10 -7
0.002
10 -8
0
20
0
-20
-40
-60
-I d / A
Table 1. Picene を用いた有機トランジスタ特性
化合物
基板処理
µFET / cm2V-1s-1 Vth / V
(- Id)1/2 / A 1/2
3.結果と考察
全てのトランジスタできれいに成膜が出来ている事が分かった。また、全てのトランジスタ素子で典型的な p 型ト
ランジスタ応答を得ることが出来た。
Fig. 2 に示すのは PS による二層絶縁膜処理を行った時のトランジスタ特性で、
移動度が最大で 0.5cm2V-1s-1 という値が得られた。また、bare では 0.1cm2V-1s-1、OTS では 2.5x10-2cm2V-1s-1、ODTS
では 3.7x10-2cm2V-1s-1、HMDS では 0.1cm2V-1s-1、CYTOP で 0.3cm2V-1s-1 という値が得られた。また、XRD 測定よ
り全ての基板においても d-space が 13.5~13.7Åという値が得られた。これらの値を Picene の分子長と比較したと
ころ、Picene はどの基板に対してもほぼ垂直に配向しているという事が分かった。Table 1 に得られたトランジスタ
特性を示す。bare 基板から HMDS や PS、CYTOP 二層絶縁膜処理を行うことで移動度を向上させることが出来た。
その中でも PS による二層絶縁膜処理を行った時、移動度が最も向上した。しかし、OTS、ODTS 二層絶縁膜では移
動度が低下した。この理由として XRD 測定でピーク強度が弱くなっていることから OTS、ODTS 二層絶縁膜処理を
行う事で bare 基板のときよりも配向性が悪くなってしまったため移動度が低
0.012
10 -3
下したのではないかと考えられる。
0.010
10 -4
10 -9
-80
Vg / V
Fig. 2. PS 処理を施した Picene
素子の Id,Id1/2-Vg 曲線
4.まとめ
Picene はPS による二層絶縁膜処理を行うことにより最も移動度を向上させることが出来た。
XRD 測定よりPicene
は全ての基板に対してもほぼ垂直に配向していることが分かった。
2PS-2203
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
光学薄膜の水分吸着による波長シフトの測定
東海大学 工学研究科 光工学専攻 ○奥田 良 室谷 裕志
1.背景・目的
近年、光学薄膜は光学機器だけではなく電子機器等様々な分野で用いられている。それにともない光学特性の変
化は重要な問題となっている。光学薄膜は高温高湿の環境下に置かれた際に分光特性の波長シフトを示す。
(Fig.1)。これは膜中への水分の出入りにより膜の平均屈折率が変化することが波長シフトの原因と考えられている。
しかし高温高湿環境下での膜の分光スペクトルの変化に関する評価方法および基準は確立されていない。そこで本
研究では高屈折率膜としてよく用いられている TiO2 薄膜を、様々な環境下で光学特性の変化を測定し、成膜条件
の異なる TiO2 膜の水分吸着による波長シフトの構造と評価方法について比較、検討を行うことを目的とした。
2.実験方法
測定サンプルとして成膜条件の異なる単層膜(TiO2)、厚さ1μm を用いた。EB 蒸着法(電子ビーム加熱蒸着)で
成膜したものと、IAD 蒸着法(Ion beam Assisted Deposition)における、イオン銃の加速電圧と電流を変化させて成
膜を行ったものを用いた。サンプルを真空状態に置けるようミニチャンバーを用意し、チャンバー内にサンプルを入れ、
環境試験機(ESPEC 社製,SH-641)内に設置した。環境試験機内を温度 25℃、湿度 90%とし、環境をチャンバーに
導入した。そのときの波長シフトをマルチチャンネル分光光度計(Ocean optics 社製、USB4000)を用いて in-situ 測
定を行った。EB 法および IAD 法により成膜された膜は柱状構造を示し、XRD(X 線回折測定装置)による結晶構造評
価では、EB 法により成膜された膜は Anatase 構造、IAD 法により成膜された膜は、Anatase および Rutile の構造を有
する膜であった。
3. 実験結果及び考察
Fig.2 の縦軸に波長シフト量を示し、横軸に環境導入開始からの時間を示した。Fig.2 より、水分吸着は数秒以内に
飽和点に達成することが分かった。IAD 法により成膜された膜では吸着量は減少し、イオンアシストが大きくなるととも
に吸着量は減少した。これは Anatase 構造単体から Anatase 構造と Rutile 構造の混晶が増えることにより、柱状構造
が減少するためだと考えられる。
2.5
2.0
85
Drift
Drift(nm)
Transmittence(%)
90
3.0
Temperature:55℃
Vacuum state ~ Relative Humidity:90%
80
75
Vacuum state
Expose in the Air
1.5
EB
350-350
500-500
1.0
0.5
70
0.0
485
490
495
500
505
Wavelength(nm)
Fig.1 Transmittance Spectra Drift
of a TiO2 Optical Thin Film.
510
0
5
10
15
Drift late(sec)
Fig. 2 Speed of Spectral drift.
謝辞:サンプルを提供して頂きましたシンクロン(株)および構造測定に協力してくださった、東海大学未来技術共同研究センター技術管理室の原
木氏、宮本氏に感謝致します。
参考文献 [1] H.A.MACLEOD AND D.RICHMOND, MOISTURE PENETRATION PATTERNS IN THIN FILMS. Thin Solid Film, 37 (1976)
163-169
[2]TANG Q. KIKUTI K, OGURA S, MACLEOD A Mechanism of columnar microstructure growth in titanium oxide thin films deposited
by ion-beam assisted deposition,
2PS-2204
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
スパッタリング法によるランタンチタン複合酸化物(H4)による成膜技術の開発
東海大学
工学研究科
光工学専攻
○奥田良、中野良太、室谷裕志
1.背景・目的
近年、光学薄膜は高度な光学特性が求められ、それに伴い層数が多くなる傾向にある。この層数の増加に
伴い膜の剥離や基板のソリが問題となってくる。また、光学部品の小型化に伴い、基板の厚さが薄くなる傾
向がある。基板の厚みが薄くなると、膜の応力は小さいことが要求される。これらの膜の要求特性を満たす
上で、成膜材料には応力の制御ができることが望まれる。メルク社の蒸着材料ランタンチタン複合酸化物
(H4)は、高屈折材料として良く用いられている。また、蒸着材料 H4 の IAD(Ion beam Assisted Deposition)
成膜の条件を変えることで応力を制御できることを報告している 1)。さらに、成膜条件を適正にすることで
応力の経時変化もない。
この様に優れた蒸着材料 H4 であるが、スパッタリング成膜の報告は少ない。そこで本研究では、蒸着材
料 H4 のスパッタリング成膜の可能性を検討することを目的とした。
2.実験方法
2.1 成膜
本研究では、高周波(RF:Radio Frequency)マグネトロンスパッタリングを用いて成膜を行った。また、成
膜条件としては、RF 出力、酸素導入量を変化させた成膜条件を Table1 に示す。ターゲットは製造方法の異
なる 2 種類(プレス、焼結)を使用した。
2.2 膜の評価
紫外から近赤外線の分光特性は分光光度計(V570,JASCO 社製)を用いた。膜の構造解析として、X 線回析
測定(X'Pert PRO MRD,フィリップス社製)を行った。膜の表面状態は SEM(S-4800,日立製作所社製)観察
により評価した。膜の応力はレーザー干渉計を用いて基板の変形量より求めた。また、ターゲット組成およ
び膜組成に関しては XPS(Quantam 2000-TK,アルバック・ファイ社製)により評価した。
Table1 RF マグネトロンスパッタリング法によるパラメータ
スパッタリング出力
(W)
酸素導入レート
(sccm)
ターゲット製造方法
100,200,300
0,20,40
プレス、焼結
謝辞
H4 スパッタリングターゲットの作製に協力していた
だいた株式会社湘南電子材料研究所の戸張氏、木村氏に
感謝いたします。測定サンプルの援助をしていただいた
ファインクリスタル株式会社の買手氏に感謝いたしま
す。また材料を提供していただいたメルク株式会社の斉
藤氏、山口氏に感謝致します。
参考文献
1)白石藍 "光学薄膜材料 H4 の内部応力の経時変化、
"第 68 回応用物理学会の秋季大会、vol.68 p. 657
(2007)
Transmittance(%)
3.結果および考察
プレスターゲットを使用し、成膜した H4 光学薄膜の分光透過スペクトルを Fig.1 に示す。紫外および近
赤外領域における透過スペクトルには、成膜条件が不適切な場合吸収が見られる。しかし、成膜条件を最適
化することによりほとんど吸収のない膜が作製可能である。H4 のスパッタリングにおいては、スパッタリン
グ出力の影響が大きいことが分かる。これは、ランタンとチタンの複合酸化物である H4 において複合酸化
物の分解が発生していることを示唆している。この複合酸化物の分解により金属的になったランタンとチタ
ンの吸収が、透過率の減少の主な原因ではないかと考えられる。
4.結論
100
本研究では、蒸着材料 H4 がスパッタリング条件の最
適化により、光学薄膜として使用可能であることを示
80
した。また、成膜時のターゲットの分解による組成の
変動が吸収の原因と考えられる。
60
BK-7(Substrate)
200W_0sccm_Powder pressed
200W_20sccm_Powder pressed
200W_40sccm_Powder pressed
300W_0sccm_Powder pressed
300W_20sccm_Powder pressed
40
20
0
200
350
550
750
950
1150
1350
1550
1750
1950
Wavelength(nm)
Fig.1 異なる成膜条件で BK7 ガラス基板上に成
膜した H4 膜の分光透過率(プレスターゲット)
2PS-2205
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
巻取りロール内部の半径方向応力を
ロール幅方向に対して複数点同時に測定可能なセンサの製作
東海大学 工学研究科 機械工学専攻
東海大学 工学部 機械工学科
○杉石 光
橋本 巨,砂見 雄太
4点センサの測定精度を確認するため,感圧フィルム
を用いた場合の半径方向応力の測定結果と比較した.な
お,圧力センサと感圧フィルムは測定値が実験時の温度
や湿度の影響を受けるため,測定前に校正を行った.ま
た,本研究では,図4に示す巻取り試験機を用いて実験
を行った.なお,巻取り時にはロール内部にセンサを投
入し,内層付近である 52[mm]の半径位置で測定した.
3. 実験結果
図5にウェブ幅方向に対する半径方向応力の測定結果
を示す.測定結果より,4点センサは感圧フィルムと概
ね同様の傾向を示しており,
また良い一致を示している.
したがって,本研究で製作した4点センサは半径方向応
力の測定が精度良く行えていることがわかる.
以上より,
製作したセンサはウェブ幅方向に対して半径方向応力を
4点同時に測定できることがわかった.
半径方向応力 σr [MPa]
1.はじめに
紙やプラスチックフィルムなどの薄く柔軟な連続媒体はウェブと呼ばれる.近年,ウェブ素材を用いた高機能フレ
キシブル製品を製造するプリンティッド・エレクトロニクス技術が注目されており,リチウムイオン二次電池や,有
機 EL 照明などへの展開が進められている.上記製品はプラスチックフィルムを基板としていることからガラスを基
板とした従来の製品より省資源である.したがって,今後さらなる需要の拡大に対応するため,製品の大量生産が必
要不可欠となる.そこで,ウェブを多数のローラによって支持・搬送しながら,ロール状に巻取るロール・ツー・ロ
ール方式の適用が期待されている.この生産方式は製膜や塗布,ラミネートなど多数の工程を一連して行えることか
ら低コスト・大量生産を可能としている.しかし,この生産方式にプリンティッド・エレクトロニクスの工程を取り
入れた場合,ウェブが多層化されることでウェブ幅方向に厚みムラが生じやすくなる.その結果,ウェブ幅方向の厚
みムラに起因して巻取りロールの表面にゲージバンドと呼ばれる凹凸が生じる可能性が高くなる.この不具合を生じ
させることなく大量のウェブを安定して巻取るためには,ウェブ幅方向の厚みムラを考慮したロール内部の応力状態
を把握する必要がある.そこで,本研究では巻取りロール内部の応力測定に感圧フィルムと圧力センサを使用してい
る.しかし,感圧フィルムは測定値が実験時の温度や湿度に影響されやすい.一方で,圧力センサは巻取りロール内
部の応力をウェブ幅方向の全域に対して測定することができない.したがって,正確なロール内部の応力測定は困難
である.そこで本研究では,半径方向応力をロール幅方向に対して複数点同時に測定可能なセンサの製作を行った.
80[mm]
銀層
2. センサの製作および実験方法
2.1 センサの製作
図1に製作に用いた圧力センサを示す.この圧力セン
感圧部
サは測定値が実験時の温度や湿度に影響されにくいとい
図1 圧力センサ
う特長を有している.同図のセンサは導電部が銀層でで
製作したセンサ
カバーフィルム
きており,銀層はフィルムで覆われている.また,図中
の感圧部に荷重が加わることで抵抗値が変化し,その抵
抗値を測定することで応力を算出する.このセンサを用
いて図2に示す4点センサを製作した.同図に示すよう
にセンサの周囲をカバーフィルムで囲むことで応力集中
図2 4点センサ
を緩和している.また,本研究では感圧部を含めた
接着部
80[mm]の長さで切断し,図3に示すようにセンサを製
作した.なお,同図の接着部には非金属材料の接着に適
するポリエステル用接着剤を用いた.なお,通電の妨げ
図3 製作したセンサ
を防ぐために銀層部を避けて接着している.
巻出し部
巻取り部
2.2 ウェブ幅方向に対する半径方向応力の測定方法
0.8
0.6
図4 巻取り試験機
r = 52[mm]
感圧フィルム
4点センサ
0.4
0.2
0
50
100 150 200 250 300 350
ウェブ幅 W [mm]
図5 ウェブ幅方向に対する半径方向応力の測定結果
2PS-2206
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
ITO 薄膜の新規合成法に関する研究
東海大学大学院工学研究科
東海大学工学部
○武田 純輝
久慈 俊郎
はじめに
透明かつ電気伝導を有する透明導電膜は、フラットパネルディスプレイや太陽電池の電極部材として用い
られている。この透明導電膜の中で最も広く利用されているのがインジウム錫酸化物(Indium-Tin-Oxide:
ITO)である。この ITO 薄膜の製造方法は主に、酸化インジウム (Indium Oxide: In2O3) 粉末と錫酸化物 (Tin
Dioxide: SnO2) 粉末を焼結したターゲットを用いてスパッタリングすることにより薄膜を形成するプロセ
スである。
本研究では、In-Sn 合金ターゲットを用い、スパッタリングにより形成した In-Sn 合金薄膜を、高温水蒸
気で水蒸気処理を施す事により In-Sn 合金薄膜を酸化する合成法について報告を行う。
実験方法
In-Sn 合金ターゲット(In-10wt%Sn)を用いて、ガラス基板へ DC スパッタリング法により薄膜を形成した。
その後、反応管内において、温度 110~200℃とし、0~60 分の水蒸気処理を行なった。得られた試料は、紫
外可視分光光度計による光透過率測定、直流四端子法による電気伝導性測定、SEM による表面分析、XRD
による構造解析、XPS による結合種の同定などの評価を行なった。
結果ならびに考察
図 1 にスパッタリング法によりガラス基板上へ堆積させた In-Sn 薄膜の水蒸気処理後の写真と可視光領域
での光透過率を示す。図 1 中の写真が 60 分-200℃の水蒸気処理を行った後の試料である。この試料の可視光
領域(波長 550nm)における光透過率は処理前が 6%T であったのに対し水蒸気処理後は 84%T と高くなるこ
とを確認した。これら水蒸気処理前後の薄膜について XRD を行った結果を図 2 に示す。未処理の試料では
In のみからの回折であったのに対し、水蒸気処理を行った後の試料は In2O3 からの回折がみられた。XPS 測
定においても同様の結果であることから、In-Sn 合金薄膜を水蒸気処理することによって In-Sn 酸化物が合
成されることを確認した。
■:In2O3
○:In
80
処理後
未
Intensity (a.u.)
Transmittance T (%)
100
200℃
60
40
20
処理前
■
処理後
○
処理前
0
350
図1
450
550
650
20
750
Wavelength λ (nm)
In-Sn 薄膜の水蒸気処理前後の
可視光領域での光透過率
30
40
50
60
70
2Theta (degrees)
図2
In-Sn 薄膜の水蒸気処理前後の XRD 結果
未
200℃
2PS-2207
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
インジウムフリーの透明導電膜の開発
東海大学大学院
東海大学
工学研究科
工学部
○加藤誉高、高石 達也、高尾 智希
金景元、瀬戸春菜、久慈俊郎
【緒言】
透明導電膜は、透明かつ電気が流れる材料として、スマートフォンやタブレット型コンピューターに使用
されているタッチパネルの構成材料や、環境関連技術のひとつとして注目されている太陽光発電等の透明電
極として必要不可欠な材料である。しかし、現在透明導電膜として実用的に使われているインジウム錫酸化
物(Indium Tin Oxide:ITO)に含まれるインジウム(Indium:In)は希少金属であり、インジウムの枯渇が懸念さ
れ、代替透明導電膜の開発が求められている。当研究室では、以前よりマグネシウム(Magnesium:Mg)と炭
素(Carbon:C)を共スパッタリングし、大気中の水蒸気と反応するプロセスを経ることで、インジウムフリー
の透明導電膜の開発を目指している。この材料は、ITO に含まれるインジウムなどの希少金属を全く使用せ
ず、比較的クラーク数の大きな元素のみで構成されている。この材料はこれまでの結果から、結晶成長によ
る光学および電気的異方性が存在する可能性があると示唆しており、結晶成長の制御が重要な課題であると
考えている。
そこで、今回はこの材料の作成条件による結晶配向性の変化について報告する。
【実験方法】
Table. 成膜条件
薄膜の合成は、Mg(純度 99.99%)、C(灰分<20ppm)ターゲット
Sputter Conditions
を用いて DC マグネトロンスパッタ装置による共スパッタリング
Mg:C
6:4
にて行った。成膜方法はターゲットに対して基板を通過させる移
Base Pressure(Pa)
<2.0×10-4
動成膜にて薄膜を堆積させた。成膜後得られた試料を大気中にて
DC Power(kW/m2)
透明化させ、紫外可視分光光度計により光学特性評価、構造解析
Sputter gas
Gas flow (sccm)
Pressure(Pa)
Transport
Velocity(mm/sec)
Substrate
(XRD)、深さ方向分析(XPS)を行った。
Mg:8.0
C:57.7
Ar
20
0.6
30→10
SiO2Glass/Ti Substrate
【結果】
:Mg(OH)2
スパッタリング法により、狙い膜厚を 200nm とし、搬送速度
を 30mm/sec から 10mm/sec に変更させ成膜し、その後、透明化
(110)
これは、薄膜はまず、基板自身の結晶方位に影響されることか
10mm/sec
(101)
200nm の場合、蒸着速度に関わらずアモルファス薄膜となった。
Intensity(a.u.)
させた薄膜の XRD の結果を図に示す。この結果より、狙い膜厚
10mm/sec
30mm/sec
ら、基板にガラス基板を使用したことによるエピタキシャル成長
30mm/sec
によるものであると考えている。
当日は、Mg(OH)2 の格子定数に近い基板を使用することによる
結晶配向性の検討を行なう予定である。また、各元素の実効の電
荷と形式電荷の比較についても報告する。
15
25
35
45
2θ(deg.)
55
Fig. XRD 結果
65
75
2PS-2208
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
SThM 用多機能カンチレバープローブを用いた熱伝導率計測
明治大学大学院 理工学研究科
明治大学
理工学部
1. 緒論
ナノテクノロジの進展に伴い,半導体や電気回路の微
細化が進んでいる.電子デバイス内の微小化,高集積化
によって発熱密度の上昇し,動作不良や寿命の低下など
の原因となっている.電子デバイスの寿命と信頼性の確
保のためデバイス内の熱が及ぼす影響を調査し,改善す
ることがナノテクノロジには必要不可欠となっている.
その必要性にこたえるべく,本研究グループでは原子間
力顕微鏡(AFM)のカンチレバープローブに熱センサデ
バイスを付加した走査型熱顕微鏡(SThM)を開発し,局
所熱計測技術の研究を行っている.
本報では,定量的な局所熱伝導率計測を目的とし,開
発した多機能カンチレバープローブを用いて熱伝導率計
測を行った結果を報告する.
2. SThM 用多機能カンチレバープローブ
多機能カンチレバープローブのデザインと製作プロー
ブの写真を図 1 に示す.プローブは全長 500 m,厚さ
約 1.5 m の SiO2 基板上に MEMS (Micro Electro
Mechanical Systems) 技術を用いて金属パターンを蒸
着し製作した.三角形状の先端の接触径は数十 nm であ
り,高空間分解能な計測を可能とした.熱センサデバイ
スとして先端から,接触熱電対用 Ni 電極,較正用ヒー
タ,熱量計測用サーモパイル,温度計測用熱電対,プロ
ーブ加熱用ヒータを有している.
3. 熱伝導率計測法
熱伝導率計測は,熱コンダクタンス- 接点温度併用法
を用いる.この計測方法はまず,ヒータで加熱したプロ
ーブを試料に接触させ,プローブから試料に流出する熱
流 Q と接点温度 Tc をサーモパイルと接触熱電対で同時
に計測する.次に,計測した熱流と接点温度より接点試料内部の熱コンダクタンス Hs を式(1)から求める.
Q  H p T p  Tc   H s Tc  Ts 
○新倉 祥弘,新谷 昌之,中里 拓也
中別府 修
計測実験の試料として参照試料に銅バルク材を,計測
試料にカバーガラス上に厚さ 440 nm 蒸着した白金薄膜
を用いた.この二つの試料に対してフォースカーブモー
ドにより接触径を変化させながら熱流量と接点温度を同
時に計測した.計測した熱流量を横軸に,接点温度を縦
軸にとったものを図 2 に示す.図 2 では,(0,Tp )から
(Q,Tc )まで引いた線の傾きは Hp-1 となり,(0,Ts )から
(Q,Tc )まで右上方向に引いた線の傾きは Hs-1 となる.Hp
が一定の条件下で計測すると接触径は等しいため,参照
試料と計測試料の計測結果を(2)式で利用できる.計測結
果より熱コンダクタンス比 Hs,Pt /Hs,Cu は 0.11~ 0.17 とな
り,この比から熱伝導率を算出すると,白金バルク値 72
W/mK に対して,接触径が 18 nm 程度では 66.3 W/mK
となり,
接触径が 24 nm 程度では 47.4 W/mK となった.
接触径が18 nm 程度の領域でPt 薄膜を大きく反映する
ことが分かった.
4. 結論
・熱コンダクタンス- 接点温度併用法により熱伝導率を
計測した.
・参照試料を銅バルク材,計測試料を膜厚 440nm の白
金薄膜とした場合,熱伝導率は白金バルク値の 7~ 33 %
小さな値となった.
Fig.1 Schematic drawing (left) and microscopic image
(right) of the multifunctional cantilever probe
(1)
ここで,プローブに搭載されたヒータ- 接点間の熱コ
ンダクタンスを Hp,プローブ温度を Tp,試料温度を Ts
とする.
また,計測試料に加え,熱伝導率が既知な参照試料を
用意し,これらの熱コンダクタンス計測を行う.接触径
が等しいときの試料側の熱コンダクタンスの比は熱伝導
率の比に一致するため,式(2)から計測試料の熱伝導率を
算出する.
sample  ref . H sample H ref .
4. 走査型熱顕微鏡を用いた熱伝導率計測実験
(2)
Fig.2 Experimental results for the Pt and Cu bulk
regions with multifunctional cantilever probe
2PS-2209
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
MEMS カロリメータを用いたナノ熱分析技術の研究
明治大学大学院 理工学研究科 ○中村 大貴
明治大学
理工学部
中別府 修
1.緒論
熱分析は相転移温度や潜熱,比熱など,物質の熱物性
値を測定する手法である.近年では MEMS(Micro
Electro Mechanical System )を導入した微量薄膜
MEMS カロリメータの開発が可能となり,g~ng オー
ダーの微量試料に対する高感度・高速熱分析を行えるよ
うになった.本研究ではナノグラム級試料に対する高速
熱分析に加え,カンチレバーの共振特性を利用した質量
計測を目的としたカンチレバー型の MEMS カロリメー
タを開発した.本稿ではg レベルの Cu-Sn 合金に対す
る熱分析と共振質量計測を行い,その定量性を評価した
結果について報告する.
2.カンチレバー型 MEMS カロリメータ
カンチレバー型 MEMS カロリメータのデザインと写
真を図 1 に示す.本カロリメータは,カンチレバー型
SiO2 基盤上に MEMS 技術を用いて集積した熱電対や温
度走査用ヒータを備えており,ng~g 級微量試料に対す
る熱分析を行うことができる.試料は先端付近の熱電対
上に設置し熱分析を行い,また,共振周波数特性を利用
した 10 ng レベルの分解能を持つ質量計測が可能である.
明治大学大学院 修了
石井 淳市
5.結論
開発したカンチレバー型カロリメータを用いて微量試
料に対する熱分析を実施し,試料設置位置による影響を
調べた.結果として,現デザインのカロリメータでは試
料を正確に所定位置へ置くことが求められ,設置位置を
有する温度勾配の小さなカロリメータの開発が必要であ
る.また,微量試料に対する共振質量計測を実施し,試
料設置位置の影響を補正可能であることを示した.
図 1 MEMS カロリメータ
3.示差熱分析(DTA)
微量試料に対する高速 DTA(Differential Thermal
Analysis)
の実施例を図 2 に示す.
試料は Cu-Sn 合金
(相
転移点:227 oC)約 6 g を用い熱電対接点上に設置した.
室温から約 310 oC まで,1 秒での高速温度走査により,
Cu-Sn 合金の相転移に伴う吸熱・発熱ピークがそれぞれ
確認された.潜熱は加熱過程で 27.6 J,冷却過程で
27.4 J,熱容量は 1.91 J/K と評価された.また,カン
チレバー上に試料を設置する位置を変えて同一試料に対
して同条件で DTA を行った結果を図 3 に示す.試料設
置位置と熱電対接点との距離が増加するにつれて相転移
温度の上昇と潜熱の減少が確認された.カロリメータに
局所的な温度勾配が生じており,試料温度と計測温度に
ずれが生じてしまうことが要因だと推測される.
図 3 DTA に対する試料設置位置の影響
4.共振質量計測
前節で用いた Cu-Sn 合金試料に対する共振質量計測
の結果を図 4 に示す.質量は 6.66 g と評価された.ま
た,本実験では試料設置位置により共振振動数が変動す
ることが確認されたため,質量既知の試料を用いた補正
を実施した結果,質量は 5.86 g と評価された.試料質
量と共振振動数の関係を予め求めておくことで試料設置
位置の影響を補正することができ,定量性の高い質量計
測を行うことができる.
図 4 共振質量計測
図 2 示差熱分析
2PS-2210
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
走査型熱顕微鏡を用いた局所温度計測の研究
明治大学大学院
理工学研究科
明治大学大学院修了
明治大学
理工学部
1. 諸論
プロセスルールの微細化による発熱密度の上昇に伴い,
ナノスケールの空間分解能を有する熱計測技術が必要と
なっている.そこで我々は,原子間力顕微鏡(AFM)の
カンチレバープローブに熱計測機能を付加し,形状画像
と熱画像を同時に取得できる走査型熱顕微鏡(SThM)
の開発を行っている.本報では,微細加工技術によって
製作した多機能カンチレバープローブを用いた,局所温
度計測の結果について報告する.
2. 多機能カンチレバープローブ
図 1 に,製作した多機能カンチレバープローブのセン
サパターンと顕微鏡写真を示す.本プローブは全長
500m,厚さ 3m であり,SiO2 スパッタ膜の本体上に
接触熱電対用 Ni 電極,較正用ヒータ,熱流計測用サー
モパイル,プローブ温度計測用熱電対,プローブ加熱用
ヒータを搭載している.
3. 温度計測手法
計測では,受動法と能動法の二種類の手法を用いた.
受動法は,試料走査時に流入する熱流を計測し,熱流の
大小から試料温度を求める手法である.本手法は,計測
系がシンプルであるが試料とプローブ間の接触状態の影
響を受けてしまう.そこで,定量的な温度計測を目指し
能動法が開発された.能動法は,試料走査時にプローブ
内に流入する熱流が 0 となるように,プローブ温度にフ
ィードバック制御を行うことで,プローブ温度を試料温
度と一致させ,
その温度を熱電対で計測する手法である.
本手法を用いると,試料とプローブ間の接触状態の影響
を少なく出来る.
4. 微小試料に対する局所温度計測
試料は,カバーガラス上に蒸着された線幅 5m,膜厚
50nm の Ni ラインを用いた.
試料表面は 160nm の SiO2
保護膜で覆われている.試料温度は,抵抗変化から求め
られ 48.1oC であった.測定は,気温 20oC,真空環境下
(3.0×10-4Pa)で行い,走査速度は 0.10Hz である.測
定結果を図 2 に示す.図 2(a)の温度画像から受動,能動
法ともに Ni ラインが発熱している様子が計測されてい
る.図 2(b)の測定された温度に着目すると,受動法では
試料・大気間温度差 28.1oC に対してサーモパイルの温度
変化に対応する計測値は 5%以下の温度上昇に止まって
いる.一方,能動法では 99%の温度上昇を示し,試料温
度に近い値を示した.図 2(b)内に示した緑の曲線はシミ
ュレーションソフト MemsONE を用いた 3 次元熱伝導
○中里拓也,新倉祥弘
新谷昌之
中別府修
解析により得た温度分布である.実際の試料の材質・形
状を想定し,Ni ライン上に試料温度を与え,試料裏面が
断熱条件であると仮定することで得た.能動法とシミュ
レーションの温度分布は良い一致を示している.今後,
シミュレーションの妥当性を検討し,温度分布について
評価を行っていく.
5. 結論
・Ni ライン上で発熱する様子が計測され,能動法では試
料温度 48.1oC に対し 47.9oC と近い値を示した.
・能動法によって計測された温度分布は,シミュレーシ
ョン結果と良い一致を示した.
図 1 多機能カンチレバープローブの
センサパターン(左)と顕微鏡写真(右)
(a) 形状画像と温度画像
(b) 測定された平均温度分布とシミュレーション結果
図 2 微小発熱試料に対する温度計測
2PS-2211
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
アルミ合金を対象としたマイクロ成型用電鋳金型の開発
神奈川県産業技術センター 電子技術部
株式会社 LEAP
○安井 学,金子 智,小沢 武
佐野 孝史
1.はじめに
加熱して軟化した材料に金型形状を転写する技術を熱
インプリントと呼ぶ。発表者らはガラスへの熱インプリ
ントを目的にニッケル-タングステン(Ni-W)電鋳金型
を開発した1)。一方,アルミ合金を用いた燃料電池用マ
イクロリアクタでは,水素の変換効率が高いことが報告
されている2)ため,今後はアルミ合金のマイクロ加工の
需要増が期待できる。
以上の点から,本発表では,Ni-W電鋳金型を用いたア
ルミ合金のマイクロ成型の実施結果を報告する。
2.Ni-W電鋳金型
発表者らは,六フッ化硫黄 (SF6)等の温暖化ガスを加
工プロセスで使用せず,かつ低コストで製造できる熱イ
ンプリント用金型として,Ni-W電鋳金型の開発に取り組
んでいる。
Ni-W電鋳金型の製作工程を図1に示す。a) 低膨張係数
合金(Incoloy909)上に電析でNi-W膜を形成する。b) ネガ
型レジストであるSU8-10(Microchem社製)に紫外線露光
を行い,SU8パターンを形成する。c) SU8パターンの凹
部分に,電鋳によりNi-Wパターンを形成する。d) SU8パ
ターンを剥離して,Ni-W電鋳金型が完成する。
図2に開発した最小寸法:40 m周期,高さ:9 mのNi-W
電鋳金型のSEM写真を示す。
3.アルミニウム合金への熱インプリント実験
高純度アルミニウムの長所は軽量な点であるが,短所
として軟らかい点が挙げられる。そのため,他の金属を
添加することで強度などの特性向上を図っている。本発
表では,
アルミニウム合金として,
機械部品に多用され,
3)
溶融温度が513℃以上 と比較的低いA2017を選択した。
Ni-W電鋳金型にかける負荷を軽減するために,できる
だけ圧力を小さくする必要がある。使用した熱インプリ
ント装置の最小圧力が0.89MPaであることから,実験条
件は,圧力:0.89MPa,加熱温度:500℃,圧力保持時間:
10分とした。熱インプリント結果を図3に示す。A2017 表
面に40 m周期,高さ:3.4 mのパターンが転写されてい
ることを確認できた。このことから,Ni-W電鋳金型はア
ルミ合金表面の微細成型に利用できる可能性を見出した。
なお,この研究成果については,技術開発に参加して
いた株式会社LEAPと共同で特許出願(特願2011-56385)
した。
図1 Ni-W電鋳金型の製作工程
200 m
図2 Ni-W電鋳金型のSEM写真
200 m
図3 熱インプリントしたA2017の表面SEM写真
参考文献
1) 安井学:硼珪酸ガラスを対象とした熱インプリント用Ni-W
電鋳金型の作製,日本機械学会論文集(A 編),第 79 巻
800 号,pp.507-511(2013)
2) http://www.pecj.or.jp/japanese/report/2006report/06sin05.
pdf
3) 軽金属学会編:アルミニウムの組織と性質,(1991)
2PS-2212
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
巻線応力がリング試料の直流磁気特性に及ぼす影響
電子技術部
○馬場
1. はじめに
磁性材料は発電機や電磁弁などの鉄心や磁気回路の構
成に広く使用されている。磁性材料の磁化特性を測定す
る方法の一つにリング状試料を用いた積分方式直流 BH
測定方法がある。この測定方法は励磁用の一次コイルと
誘起電力を検出するための二次コイルを試料に巻くので,
巻線によって締め付ける力が試料にかかる。磁性材料の
多くは磁歪特性を持っているため,この巻線応力の影響
によって,測定した磁化特性が材料本来の磁化特性と異
なることが懸念される。
そこで,本研究では積分方式直流 BH 測定において,
手巻き程度の大きさの応力が磁化特性に与える影響につ
いて調べた。
康壽
2.5
ケース無し
ケース入
磁束密度B (T)
神奈川県産業技術センター
2
1.5
1
0.5
-600
-400
0
-200
0
-0.5
200
400
600
磁界強度H (A/m)
-1
-1.5
-2
-2.5
図 1 磁界強度 500A/m の時の BH 曲線
2.5
2
磁束密度B (T)
2. 試料作製
リング試料には巻線応力による影響が磁化特性に現れ
やすい材料として,大きい磁歪を持つことで知られてい
るパーメンジュール(FeCoV)を用いた。リング試料は
外径 45mm,内径 37.5mm,高さ 3mm とし,巻線は一
次コイルが 140 ターン,二次コイルが 40 ターンを手巻
きした。巻線応力(絶縁用巻テープの応力も含む)によ
る影響を比較測定するために,リング試料に直接コイル
を巻いた試料と,リング試料に応力が加わらないように
樹脂ケースに入れてからコイルを巻いた試料を作製した。
ケース無
ケース入
1.5
1
0.5
0
0
1000
2000 3000 4000 5000
磁界強度H (A/m)
6000
図 2 磁界強度 5000A/m の時の BH 曲線
表 1 磁界強度 500A/m 及び 5000A/m の磁気特性値
磁界強度500A/m 磁界強度5000A/m
ケース無し ケース有り ケース無し ケース有り
最大磁束密度B m (T)
残留磁束密度B r (T)
保磁力H c
(A/m)
最大透磁率μ m
2.000
1.596
130.0
6094
1.964
1.507
146.4
4953
2.297
1.648
133.7
5769
2.298
1.572
153.7
4812
30
Bm
Br
μm
Hc
20
誤差率 (%)
3. 測定結果
リング試料の直流 BH 特性について,理研電子㈱製の
B-H カーブトレーサ BHU-60 を用いて測定した。ここ
で,ケースに入れた試料の測定結果については,リング
試料と二次コイル間に生じる空隙の補正を行った。磁界
強度が 500A/m と 5000A/m の時の BH 曲線を図 1 と図
2 に示す。磁界強度 500A/m の測定では,試料に直接コ
イル巻きした試料とケースに入れてからコイル巻きした
試料の磁化曲線が全体的に異なった。これに対して,磁
界強度 5000A/m の測定では,磁界強度が 2000A/m より
大きい領域では,両者の磁化曲線は重なり始めて磁束密
度に殆ど差が無くなったが,磁界強度が 2000A/m より
小さくなると徐々に差が生じ,肩の部分で違いが大きく
なった。その結果,表 1 に示すように最大磁束密度以外
の磁気特性値は異なった。測定磁界強度を変えた時の各
磁気特性値の誤差率を図 3 に示す。測定磁界強度が
500A/m から 5000A/m の範囲では磁気特性値はほぼ一
定の誤差率を示し,最大透磁率では約 20%,保磁力では
約 12%,残留磁束密度では約 5%であった。
このようにリング試料に直接コイル巻きした場合,試
料に加わる力が手巻き程度の応力であっても,積分方式
直流 BH 測定の BH 曲線や磁気特性値に影響することが
分かった。
10
0
-10
-20
-30
0
1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000
磁界強度H (A/m)
図 3 測定磁界強度による各磁化特性値の誤差率
(誤差率 = (差分/ケースに入れた時の値)×100)
2PS-2213
平成25年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
X 線回折法による結晶評価の紹介
〜薄膜のエピタキシャル成長〜
電子技術部
金子智、伊藤健、安井学
東京工業大学総合理工
吉本護
X線回折(XRD)法として、θ-2θ法やロッキン
グカーブ法がよく用いられている。θ-2θ法では
(a)
(b)
結晶がどの向きに揃っているか(配向性)を判断し、
ロッキングカーブ法では配向性の質を評価する。
しかし、これらの評価法は基板垂直方向の情報を
得るものであり、図1に示す2つの結晶を区別でき
ない。基板面内での結晶性(面内配向性)を判断する
ためには、基板を傾けた状態で測定するファイス
キャンや極点図が使われる。この他にも、基板と
薄膜との格子整合評価のための逆格子マッピング
図 1 配向性結晶の図。面内で様々に回転してい
る配向性膜(a)と面内でも結晶の揃っているエピ
タキシャル膜(b)。θ-2θ法では、この 2 つは区
別出来ない。
法や、薄膜の粗さ、膜厚と密度の評価が可能なX
線反射率(XRR)測定等がある。図2に示すように
XRR法では、X線を低角(0.2〜5°)に入射すること
で膜の表面での干渉を評価する手法である。X線は
結晶構造と干渉するのではなく、光のニュートン
リングのように膜厚と干渉する。そのため、結晶
構造を持たない有機膜やDLC(ダイヤモンドライ
クカーボン)等の材料評価も可能である。
本発表ではパルスレーザ蒸着法やECRプラズ
マ・スパッター法で作製された酸化物薄膜・窒化
物を例にXRD法による逆格子マッピング(図3)を
図 2 X 線反射率測定(XRR)の模式図。X 線を低
角(0.2〜5°)に入射することで膜の表面での干渉
を評価するため、結晶性のない有機膜での評価
も可能である。
含む様々な結晶評価について紹介する。通常のθ
-2θ法に加えて、面内結晶評価法であるインプレ
ーン測定も用いることで、成長した酸化物結晶が
縦にも横にも縮んでいることを示し、その理由と
してショットキーと呼ばれる欠陥が大きく影響し
ていることを報告する。また、コーティング材と
して幅広く使われているDLCをとりあげる。DLC
の密度評価では、硬度測定との相関があることが
示されている。
参考文献
金子他 Appl. Phys. Lett. 85 2301 (2004)
金子他 Phys. Rev. B 74 054503 (2006)
金子他 J. Appl. Phys. 107 073523 (2010)
図 3 X 線逆格子マッピング(RSM)。X 線を基板
に斜めに入射することで、θ-2θ法では観察で
きない結晶面の評価が可能になる。
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