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黒田ゼミナール卒業論文 「終身雇用について考える」

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黒田ゼミナール卒業論文 「終身雇用について考える」
黒田ゼミナール卒業論文
「終身雇用について考える」
経営学部 公共経営学科
4 年 30 組 113 番
川口 恭平
目次
はじめに
第1章
終身雇用制の現状の問題点
第1節
日本的終身雇用制とは
第2節
日本的雇用慣行の背景
(1)終身雇用という言葉
(2)終身雇用の歴史
第3節
第2章
日本における終身雇用の変容
終身雇用制がもたらしたメリット・デメリット
第1節 終身雇用制がもたらしたメリット
第2節 終身雇用制がもたらしたデメリット
(1)格差社会
(2)女性進出の遅れ
(3)転職、長時間労働
第3章
今後の変化 ― 例:政府の定年 40 歳構想
終身雇用に関する意識調査アンケート
第 4 章 おわりに
参考文献
はじめに
私が今回卒業論文のテーマとしたのは「終身雇用」である。社会に出て働き始める人生
の転機の年であり、個人と社会を繋ぐ大切なもののひとつである雇用に関して研究したい
と考えたこと。また、グローバル化に伴い今後変化していくであろう終身雇用に対して、
多少とも議論に寄与すればと思ったからである。
近年、日本では従来の「終身雇用」
「年功序列型賃金」「企業別労働組合」を 3 つの柱と
する日本的雇用慣行が変化しつつある。長引く不況の影響もあり、希望退職やリストラが
行われ、個人の能力評価に成果主義を取り入れる企業も現れた。事実上の終身雇用が行わ
れなくなっている状況である。日本的雇用制度は、一般的には、主として我が国の大企業
の基幹労働者に多くみられるいわゆる「終身雇用制」、「年功制」及び「企業別労働組合」
をいうものと解されている。長期雇用及び勤続年数とともに賃金が増加するシステムにつ
いては、程度の差はあるものの、欧米諸国においてもみられるものとなっている。
このような日本的雇用制度については、戦前の官営企業や財閥系企業に萌芽がみられ、
また、戦後、不安定な雇用関係の下、労働組合の解雇反対闘争、給与に対する経営側の恣
意的な介入反対等の動きの中で広まってきたものとされている。これらの雇用制度は、昭
和 30 年代、40 年代に我が国経済社会が飛躍的な発展を遂げる中で確立するとともに、持続
的な経済成長の原動力ともなり、一層定着していったと考えられる。
しかしながら、長期に及んだいわゆる「平成不況」、1ドル 100 円を切る水準にまで達し
た未曾有の円高や国際競争の激化により企業の経営環境が厳しくなる一方、いわゆる団塊
の世代をはじめとする中高年労働者の処遇や定年延長、今後予想される若年労働者の減少
など、我が国の雇用を取り巻く状況は大きく変動している。企業が社員を入社から定年ま
での長期間について、雇用する終身雇用制度は、年功序列とともに、日本経済が最も繁栄
した時代から現在まで、世界中から関心を持たれてきた。
しかしながら、戦後世界経済のリーダーになっている日本は、急速なグローバーライゼ
ーションの中で行き残っていくため、日本的雇用制度を構成し直すべきかという差し追っ
た問題に直面している。これに関しては本や記事や論文などにさまざまな意見が述べられ
ている。今の全世界的な競争時代にこの制度が障害になっているのか、また、それが日本
経済に必要であり、継続されるべきなのかは簡単に言うことはできない。けれども、終身
雇用と年功序列の二つの制度になにか変化が起きているとも言われている。このような時
代に、日本はどう問題と取り組んでいくのだろうか。
本論文では、このような中で,長きにわたり効率的に機能してきた日本的雇用制度につ
いて,従来発揮してきたメリットを最大限活かしつつ,新たな状況にいかに対応すべきか
を検討する。
なお,
「終身雇用制」や「年功制」が適用されている労働者はむしろ一部にすぎず,多く
の女子労働者,パートタイム労働者等,日本的雇用制度の枠外にあり,自らはそのメリソ
トを享受できない層も存在していることにも注意を払わねばならないことは言うまでもな
い。また,官公庁などの公的セクターの労働者については,定年,再任用,俸給等が法定
されているなど,雇用制度が異なることから直接の分析対象とはしないこととする。
第1章
終身雇用制度の現状の問題点
第1節
日本的終身雇用制とは
現在、日本ではよく「終身雇用制度」という言葉を耳にする。しかし、日本の終身雇用
の現状を正確に知っている人は少ないと思われる。そこで日本の「終身雇用制度」が制定
された背景と現状についてしっかりと確認していきたい。
終身雇用制度とは新卒者が企業に採用され、原則として定年まで同じ企業で働くという
就業形態である。企業は不景気となってもなるべく解雇を回避し雇用を維持しようとする。
しかし、これは制度と呼ばれるものの雇用契約ではなく、あくまで企業と労働者間の「暗
黙の契約」である。企業側としては労働者に長期にわたる雇用を保障し、また労働者側と
しては、企業側のそれに応えるべく会社に忠誠を尽くすという形で成立している。日本で
は太平洋戦争後、一般的となった。学校を卒業した時点で就職した会社に定年までずっと
勤めるというなんとも奇妙な制度である。その代わり特に市場価値のあるスキルを身につ
けずとも、とにかく会社が倒産さえしなければ定年までの雇用と賃金が保障されたのであ
る。1
この終身雇用制度は日本経済にはプラスに作用した。特に大企業では身分が保障されて
いたために社員は安心して仕事に打ち込むことができ、なにより愛社精神というものが育
った。
「わが社」という言葉が示していたとおり、まさに私=会社なのであった。モーレツ
社員なる言葉もあった。とにかく社員が会社のために働き、会社もまたできるだけ社員に
応えることができた。こうして日本経済は成長した。高度成長時代、終身雇用制度は定着
し、日本人にとっては当たり前の制度となった。
第2節
日本的雇用慣行の背景
(1)終身雇用という言葉
終身雇用という言葉はいつから使われるようになったのであろうか。言葉の発生史を説
明しておくことは重要である。というのは、言葉のもつイメージそのものに引きずられて
1以上の論述は、八代尚宏「雇用問題を考える」
、『経済政策の考え方』
、有斐閣、1999
pp.112-115 による。
年,
いると思えるからである。すなわち、はじめに終身雇用という言葉があり、この言葉のイ
メージから終身雇用の定義が考えだされているように見える。もともとある事実発見がな
され、その事実に対して終身雇用なり年功制という名称が与えられた。ところが、ひとた
び言葉が有名になるや、もとの事実発見から離れはじめ、言葉それ自体のイメージが一人
歩きしはじめたように思える。
日本的雇用慣行を表す終身雇用、年功賃金、企業別組合という言葉の中で、誕生が最も
遅かったのが、終身雇用という言葉である。終身雇用という言葉は、アメリカで出版され
た小さな本の翻訳語として登場した。
1958 年、アメリカ人ジェイムズ・アベグレン氏は、アメリカで 142 頁の小さな本を出版
した。タイトルは『The Japanese Factory. Aspects of its Social Organization』とい
うものであった。直訳すれば『日本の工場―その社会組織の諸側面』ということになる。
この本はただちに日本語に訳され、同じく 1958 年、『日本の経営』というタイトルで出版
された。2『日本の経営』はベストセラーとなり、終身雇用という言葉も驚くほどの勢いで
普及した。この本の成功の一部は、著者アベグレン氏、監訳者の占部都美氏の巧みなマー
ケティング技術に負っていた。
まず、英語版原著のタイトルを直訳すれば「日本の工場」となるはずである。ところが、
日本語版では『日本の経営』とタイトリングされていた。1955 年から日本経済の高度成長
がはじまったことを背景に、当時、日本の最初の経営学ブームが起きていた。もともと日
本人はいわゆる「日本人論」が好きで、外国(といってもほとんど先進国に限られるが)
からの日本人論、日本社会論を好んで読んでいる。アベグレン氏の『日本の経営』は、先
進国のアメリカ人による一種の「日本人論」であり、かつ、
『日本の経営』というタイトル
で経営学ブームにも乗るという二重の強みをもっていた。監訳者のマーケティングのセン
スがよかったのである。
また、著者も自己の売り込みに長けていた。序文において、アベグレン氏は、「日本の経
営者は、会社における労務者と経営者の間に社会的な隔たりがあるために、会社従業員に
ついてより多く知ろうとすることに非常に関心を持っている。不幸にして、実態調査や態
度調査の技術はアカデミックな日本にはほとんど発達していない。日本の産業と大学との
関係は限られているので、こういうことでさえほとんど利用されていない」と書いている。
では、
『日本の経営』においてアベグレン氏は「終身雇用制度」という言葉のなかに、ど
のような内容を込めていたのであろうか。彼は 1955 年から 1956 年にかけて多くの日本企
業を訪問し、そのなかの 5 社の分析が中心となっている。5 社は日本電気、住友電気工業、
住友化学、東洋レーヨン、富士製鉄(1970 年に八幡製鐵と合併して、現在は新日本製鐵)
。
アベグレンはこの 5 社について「新・日本の経営」の前書きで「この 5 社は繊維と鉄鋼か
Abegglen,James C., The Japanese Factory. Aspects of its Social Organization, The
Free Press, 1958. 邦訳、J・アベグレン、占部都美監訳『日本の経営』
、1958 年、ダイヤ
モンド社。
2
ら化学、エレクトロニクスにいたる幅広い技術分野を代表する企業で、全体として、事例
研究の対象として最適な組み合わせになっている」と述べており、日本企業の経営手法を
「日本的経営」として分析し、戦後の日本の企業の発展の源泉が、
「終身雇用」、
「年功序列」、
「企業内組合」であることをつきとめた。
アベグレンの著書によれば、日本の経営者が終身雇用の理由として強調しているのは、
訓練した従業員の継続雇用によって得られる個別企業の利益ではなく、より大きな国家的
問題なのである。すなわち、アベグレンによれば、日本の経営者が頻繁に使う終身雇用の
理由は、日本は貧乏国であり、過剰人口の国であり、仕事が少なく雇用が困難な国である
ということだ。従業員が解雇されれば他に仕事を見つけることができないために彼らは餓
死するしかないだろう。だから従業員のために会社はどんなときでも継続的な給与を保障
していかなくてはならないというのが、経営者が頻繁に口にする終身雇用の説明だったの
である。さらにアベグレンは、経営者たちのこの雇用方針は国家の福祉の点からも正当化
されるとしている。仕事が少なく、人口が多いため職位の数をできるだけ増やし、労働力
削減を抑えることは経営者の義務であり、国民経済の利益のために経営者はどんなときで
も、できる限り多くの国民を雇う義務をおっている、というのが当時の経営者の考え方で
あったのである。
これは現在通説として通っているイメージそのものとなっている。現在流布している通
説の終身雇用という言葉そのものと、その言葉にともなうイメージは、明らかにアベグレ
ン氏の『日本の経営』にその源流を見ることができる。3
(2)終身雇用の歴史
戦前の日本では、年功給による賃金形態であった。年功給とは時間軸賃金ともいい、誰
から見ても分かりやすい時間を基に賃金を決定する仕組みである。年齢や勤続年数が長く
なればなるほど、それに比例して賃金が決定する。明治政府は「殖産振興、富国強兵」を
スローガンのひとつに掲げ、国営の製鉄所として第一号の近代製鉄所を完成させた。1901
年の八幡製鉄所の設立を契機に本格的に日本の工業化、近代化が進み、社内で技術や技能
の定着を目的とした熟練者を育成するため年功賃金、終身雇用という制度が誕生した。こ
の時点で確立された年功賃金、終身雇用が昭和前期までの労使関係に寄与することとなる。
戦後、民主化を進める意図で GHQ4は労働組合の社会的発言力の強化や電産型賃金体系等の
新しい賃金体系を提案した。電産型賃金体系は、1946 年 10 月に日本電気産業労働組合が要
5
求し、47 年から実施された。内容としては、本人給と家族給を合わせて生活保障給(68.2%)
3
以上の論述は、野村正實著『終身雇用』
、岩波書店、1994 年、13-19 ページによる。
GHQ(General Headquarters)とは、連合国最高司令官総司令部のこと。第二次世界大
戦後、最高司令官(マッカーサー)が日本政府に対し指令を出し、それを施行していた。
5生活維持に主眼を置いた給与で、生活費を保障するもの。家族手当や住宅手当、物価給な
どがそれにあたる。
4
とし、それに能力給(19.4%)と勤続給(3.7%)を加えたものを基本賃金(91.3%)とする。
そのうえ、基本賃金に地域給6(8.7%)を加えて基準賃金とし、超過労働、特殊労働等の諸
手当を基準外賃金として加えるというものである。戦前の年功給から、生活年功給として
の賃金形態となった。
しかし、1973 年のオイルショック以降、日本の経済成長率は失速した。そのため、生活
年功給を維持することが難しくなり、賃金体系は職能給へと転換した。職能給とは、職能
資格制度をベースに個々の労働者を等級づけすることによって賃金が決定するものである。
一種の資格制度と能力給制度が結合しており、雇用を維持するためにとられた賃金体系で
ある。ここでの能力給制度によって、より現代の成果主義に近い能力評価が行われている。
この後 1975 年以降、職能資格制度を多くの企業が採り入れ、本格的な能力主義となった。
1995 年以降は能力主義を見直す動きがあり、2001 年以降職能給に役割給を加えた賃金形態
となる。
このように、戦前から戦後の変化を見ても、日本的雇用慣行は雇用が保障され、失業率
が高くなりにくくなった仕組みであることが分かる。7
図-1 学歴、性、年齢階級別賃金8(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より)
5%下げて物価の高い都会は手当金を上乗せするもの。寒冷地給という暖房
費等を保障するものもある。
7楠田丘著『日本型成果主義』
生産性出版、2004 年、34 ページ、52-53 ページ。
8厚生労働省 賃金構造基本統計調査、平成 24 年度、第3図。
6全体の給料を
表-1 学歴、性、年齢階級別賃金、対前年増減率及び年齢階級間賃金格差9(厚生労働省「賃
金構造基本統計調査」より)
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より図-1及び表-1から分かるように、現在の労
働者を学歴別に賃金をみると、男性では、大学・大学院卒が 398.6 千円(前年比 0.2%減)
、
高専・短大卒が 303.8 千円(同 0.9%増)
、高校卒が 285.7 千円(同 0.2%減)となってお
り、高専・短大卒が前年を上回っている。女性では、大学・大学院卒が 282.7 千円(同 0.2%
減)
、高専・短大卒が 246.3 千円(同 0.4%増)、高校卒が 200.4 千円(同 0.4%増)となっ
ており、高専・短大卒及び高校卒が前年を上回っている。
学歴別に賃金がピークとなる年齢階級をみると、男性では、大学・大学院卒及び高校卒
で 50~54 歳、高専・短大卒で 55~59 歳、女性では、大学・大学院卒で 65~69 歳、高専・
短大卒で 55~59 歳、高校卒で 45~49 歳となっている。
学歴別に賃金カーブをみると、男女いずれも大学・大学院卒の賃金カーブが急になって
いる。
(図-1、表-1)10
このことから日本的雇用慣行は、能力主義が採り入れられたといっても、その中に終身
雇用制と年功主義を組み込む形で成り立ってきたと分かる。
9厚生労働省
10厚生労働省
賃金構造基本統計調査、平成 24 年度、第3表。
賃金構造基本統計調査、平成 24 年度。
第3節
日本における終身雇用の変容
終身雇用制と呼ばれる日本の雇用慣行は以前に比べ、変化が起こっている。そして冒頭
に示したようにこの変化が本論文執筆の動機でもある。雇用施策に見直しに関しては、厚
生労働省の雇用管理調査により、バブル崩壊から2000 年代初めにかけての長期の経済停滞
の中で、事業主都合の離職者は増加し、雇用の安定も大きく揺らいだと分かった。しかし、
企業の競争力を担う人材の採用や育成は経営にとっての重大な関心事であり、長期的視点
から計画的に新規学卒者を採用し、企業内での人員配置や養成を通じて人材を育てる長期
雇用の人事方針は、引き続き企業の人材活用方針の基本であるように思われる。
図-2により企業の人事方針をみると、長期雇用については、それを重視するとした企業
割合から、重視しないとした割合を差し引いた値(D.I.)は、極めて大きく、企業は長期
雇用慣行を非常に重視している。また、この値は特に製造業で高い。さらに、このような
長期雇用の人事方針の下にある正規雇用の活用についても、D.I. は高く、正規雇用の活用
が重視されていることが分かる。なお、新卒採用を重視するか否かでは、サービス業でD.I.
がマイナスとなり、重視しない企業割合の方が高くなっている。長期雇用の下で活躍する
人材については、新規学卒者ばかりでなく、他企業からの転職者を中途で採用し、即戦力
として期待する場合もあるが、サービス業では、こうしたケースが増えているものと考え
られる。11
図-212
日本型雇用慣行と企業の人事方針(厚生労働省「労働経済の分析」より)
20 年版、183‐184 ページ。
厚生労働省「労働経済の分析」平成 20 年版、184 ページ図。
11厚生労働省「労働経済の分析」平成
12
また、長期安定雇用の状況の推移を勤続年数、転職率、新規学卒者の入職者割合の三つ
の視点から見ていきたい。まずは勤続年数であるが、図-3からも明らかなように、35歳以
上では長期化の傾向は見られる一方で、35歳未満の層では平勤続年数にほとんど変化が見
られない。このように、勤続年数においては35歳といった年齢層を境に、二極分化の傾向
が見られ、長期安定雇用の深化は35歳以上において限定的に見られる。勤続年数における
こうした傾向はこの後考察をする転職率や新規学卒者の入職者割合と微妙に関連性がある
ものと予想される。
そこで、次に転職率の推移を見ていきたい。図-4によれば、有業者の転職率は15~24歳
層と25~34歳層において上昇しており、なかでも15~24歳の層においては転職率の水準が
高いばかりでなく、近年、各年齢層で転職率は上昇している。こうした傾向は最近の若年
層を中心とするジョブ・ホッピング現象に顕著に現れており、若年層の転職率の高さが勤
続年数の二極化を生んでいると言えよう。
以上みてきたように、長期安定雇用は若年層における転職率の上昇や中途採用の増加に
より、35歳以上の層においてその深化現象が見られるものの、35歳未満の若年層において
はそうした深化現象は見られない。こうして、長期安定雇用は35歳といった層を境に分断
化(二極化)が進行していると要約できよう。
図-3 年齢階級別勤続年数の推移(企業規模計,男女計,学歴計)13
13厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より。
図-4 年齢階級別転職率の推移14(総務省「就業構造基本調査」より)
(注)転職率は、有業者(ふだん収入を得ることを目的として仕事をしており、調査日以
降もしていくことになっている者及び仕事は持っているが現在は休んでいる者)に転職者
(1年前の勤め先(企業)と現在の勤め先が異なる者)が占める割合。
第2章
第1節
終身雇用制がもたらしたメリット・デメリット
終身雇用制がもたらしたメリット
日本的雇用慣行のメリットとして挙げられるのが、雇用の保障と低失業率であろう。長
期的な雇用が、従業員の安定的な生活を実現するので、従業員もそれに応えて忠誠心、愛
社精神を発揮し高い労働生産性の実現へとつながる。
終身雇用を前提にすると、社員と企業の間で、複数年の貸し借りが可能になる。「若い
時は我慢してもらい、部長になってから報いる」とか、「景気の悪い時は我慢してもらっ
て、いい時には、その分、上乗せする」というふうに。日本企業は分厚い皮下脂肪(バッ
ファ-)を抱えることで危機対応している。そのバッファーとして社員が協力してくれる
と、経営者はとても楽である。自分の経営が失敗してもバッファーが吸収してくれる。し
かし長期雇用でないと誰も組織のバッファーになんてならない。また短期雇用が前提だと、
その年の落とし前はその年に付ける必要がある。景気が悪ければボーナスも人員数もカッ
トして、よければ多額に払う、という体制になるだろう。
14総務省「就業構造基本調査」より。
しかし日本企業は「今年の業績が良かったのは社員の働きもあるが、景気の影響も大き
い」「今年赤字なのは経営方針がまずかったのもあるが、円高の影響も大きい」と思って
いる。組織の結果は、必ずしも社員や経営者の力ではなく、「他力」によってより大きく
左右される。だから、短期の業績によって社員や経営者の単年度の報酬が大きくぶれる制
度は、必ずしも公正な制度ではない、と思っている。
すなわち、長期間の公正を期すためには「全体を長期間に均す」ことが望ましく、その
ためには組織と構成員の間で長期間の貸し借りを可能とする制度である「終身雇用」が必
要になるのだ。前述したのに加え、考え付いたメリットは以下の通りである。
・組合活動が企業に対し敵対的でなくなる
・労働者の生活の安定がひいては社会安定につながる
・従業員の企業への高い士気・モラルの維持
・教育訓練投資が無駄にならず熟練工確保可能
・企業のリスク負担により長期的、創造的な研究開発が可能
・日本の最大のセーフティネット(社会保障)となっている
・従業員の定着率が高くなる
第2節
終身雇用制がもたらしたデメリット
(1)格差社会
当たり前の話だが、終身雇用というハードルの高い超長期雇用を全ての企業が担保でき
るわけではない。それが実現できるのは大手企業および一部の優良中小企業だけである。
なぜならば、合理的と認められれば解雇可能なのだから、体力の無い中小企業が従業員を
解雇すること自体は違法でも何でもない。その点からみると、日本の企業は大きく分けて 2
つに分類することができる。「終身雇用が保証できる大手企業を中心とした体力のある企
業」と「必ずしも終身雇用は保証できない多くの中小企業」である。
問題なのは、終身雇用制度が、事実上、日本の現役世代向け社会保障の柱となってしまっ
ている点だ。それを作って企業に守らせるだけで、国は職業訓練や再就職斡旋、失業給付
といった現役世代向けの支出を大きくカットできる。結果、大手企業を中心とした体力の
ある企業に採用してもらえるエリート層だけが民営社会保障の恩恵を享受でき、必ずしも
終身雇用は保証できない多くの中企業に勤める労働者及び非正規雇用労働者にはそういっ
たものがほとんど行きわたらないことになる。(図-5および表-2)
図-5 政策分野別社会支出の国際比較15(国立社会保障・人口問題研究所、「社会保障費用
統計」2009 年度より)
表-2 政策分野別社会支出の対国内総生産比の国際比較16(国立社会保障・人口問題研究所、
「社会保障費用統計」2009 年度より)
15国立社会保障・人口問題研究所、「社会保障費用統計」2009
16国立社会保障・人口問題研究所、「社会保障費用統計」2009
年度。
年度。
(2)女性進出の遅れ
2 つ 目 の 問 題 点 と し て は 、女 性 の 社 会 進 出 の 遅 れ が あ げ ら れ る 。幾 つ も の 国 際
的 な 調 査 に お い て 、日 本 の 男 女 間 格 差 は 先 進 国 中 最 大 で あ る が 、そ れ も ま た 日 本
特有の労働市場に由来するものだ。
表 -3
男 女 間 格 差 指 数 国 際 比 較 17( The Global Gender Gap Report 2012 より)
まず、大前提として、終身雇用を維持するためには、従業員は一定程度の残業や全国転
勤を前提としなければならない。残業時間の増減を通じて雇用調整し、転職のかわりに人
員に空きの出た拠点に転勤するためだ。となると、夫婦のどちらかが組織の事情を優先し
て全国を異動する以上、もう一方は家庭に入ってそれを支える側に回らねばならない。こ
れが、企業が女性を全国転勤前提の総合職としては雇いたがらず、一般職もしくは派遣労
働者としてしか採用しない理由である。総合職に占める女性割合は 5.6%に過ぎず、コース
別採用(及びそれを要する終身雇用制度)が男女間格差拡大の原動力となっているのは明
らかだ。18
くわえて、勤続年数に応じて賃金が上がる職能給制度では、40 歳前後までは割安、それ
以降の人材は割高と判断されることになる。出産や育児で一段落し、キャリアの再開を希
望する女性の多くは、日本企業から見れば割安期間がほとんど残されていないか、既に割
高な人材と映ってしまう。これが、女性の職場復帰が進まない理由であり、出産の機会費
用を高止まりさせ、結果的に少子化を後押ししてしまっている構造的原因である。19
17
The Global Gender Gap Report 2012 より。
18厚労省「コース別雇用管理制度の実施・指導状況」、2011
19
城秀樹著『解雇で変わる?日本人の働き方』
、2013 年度。
年度。
(3)転職、長時間労働
3 つ目は、外部労働市場20が未発達であるため、転職によるキャリアアップが難しい点で
ある。希望退職やリストラによって、暗黙の契約とされてきた終身雇用が守られなくなっ
ている状況である。このようにして排除された中高年の労働者は、新たな仕事を求めても
転職が難しく失業しやすい。また長時間労働もデメリットとして挙げられる。欧米人に比
べて、日本人はよく働きすぎだと言われる。これは企業が大きな利益を得るために、熟練
労働者の稼働率を引き上げることが必要なのである。
メリット同様に、デメリットに関しても前述したことに加え、考え付いた限りのことを
要点にまとめると以下のようになる。
・労働力が低下した年齢層の増加
・能力のある者が出世しにくい
・高齢化による労務コストの増大
・緊張感がなくなる、無気力がはびこる恐れがある
・管理費用が高い
・機動力のための従業員削減(雇用調整)が困難になる
・転職による自発的キャリア形成機会の喪失と企業への依存
・指示待ち族が増え続け、自主的に仕事をしなくなる
また終身雇用によるデメリットと共に、90 年代以降、働く能力の違いに対して年功序列
型賃金への疑問の声が出始め、成果主義を唱える企業も多くなった。しかし、仕事を頑張
った分の成果が目に見えて出なければ処遇を受けられないという成果主義は、日本には浸
透しにくい。能力評価を任されるのは直属の上司ではなく、自分と遠い上司が能力評価を
行うために公正な評価が難しいのである。21
第3章
今後の変化
―
例:政府の定年 40 歳構想
2012 年 7 月末に「日本再生戦略」を発表した国家戦略会議の下に設置された部会の一つ
に、繁栄のフロンティア部会がある。再生戦略には盛り込まれなかったが、部会報告のな
かで非常に注目されたのが『40 歳定年制』の提言だ。日本企業の多くが採用する現在の
定年制度とは大きく異なるだけに、賛否の議論が巻き起こっている 40 歳定年制の中身や
狙いは何か。
発案者である東京大学大学院 経済学研究科 教授の柳川範之氏は WISDOM という NEC
が運営するビジネス情報サイトにて、2012 年 10 月 15 日に以下のように述べている。
20
21
一般的に労働市場のこと。企業から企業への競争的な労働力の移動が行われる。
楠田丘著『日本型成果主義』
、生産性出版、2004 年、26-28 ページ。
近年は少子高齢化の影響でお年寄りが増え、働ける人の割合が減っている。働ける
世代がお年寄りの社会保障を支えていかねばならないため赤字国債が増加し、社会保
障の負担額が増え、全体的に苦しくなっているのが日本の現状。そんな中、定年のあ
り方も変化している。かつて定年は 55 歳でしたが、高齢化に伴って 60 歳まで伸び、
さらに今回の法改正で「65 歳まではなるべく同じ会社で働けるようにしよう」という
動きになっている。今までは、人々が働いて安心を得るという流れをひとつの企業内
で完結させ、なるべく同じ会社で働けるようにし、うまくいかなくなっても年功賃金
で給料をもらえる状況にして社会を回してきたのだ。長期間にわたって雇い続ける
「長期雇用」には、同じ会社でみんなが働くことによって団結力が高まり、やる気を
出していけるというそれなりのメリットがある。
ところが、一方で社会の変化が激しくなっているので、大企業でも生き残りのため
に大幅なリストラを行う必要性が生じる、あるいは倒産する企業も出てきている 。同
じ会社で働き続けることが安心のベースではなくなってきているのである 。また、終
身雇用のなかでずっと安心感を得られる人はごく一部となり、実際には非正規雇用の
働き方をしている人が増えている。
また女性や、途中で会社を様々な理由で辞めざるを得ない人もいる為、長期で安定
した雇用を守れている人はごく一部になっているのが現状だ。会社ですべてを支えら
れないとなると、会社に頼らなくても安心できるような社会全体のシステムが求めら
れる。つまり、そこに 40 歳定年制の意義があるのだという。 22
40 歳定年制というと、
「40 歳で解雇され、それ以降は働けないか、もしくは非正規とし
てしか働けないのでは?」と誤解を生みがちだが、そうではないようだ。正確には「75 歳
まで働くための 40 歳定年制」ということである。つまり「今よりも長く 75 歳まで働ける
ような社会にしよう」ということなのだという。
貧困化を防ぐためには、
「働ける人がよりよく働けるようにする」という考え方が必要で
ある。ポイントは、皆が適材適所で働けるようにし、雇用のミスマッチを減らすこと。そ
の時代、環境のなかで発揮できる能力や技能を可能な限り皆が身につけるようにするので
ある。企業内で働き続けるとなれば、社内で適材適所を見つけることになりますが、産業
構造の変化が早いとそれは難しい。しかし企業の外まで選択肢を広げると、可能性が広が
る。
現在は「あの企業で働いてみたい」と思っても簡単には実現できず、働ける場所がある
のかさえわからない場所に移るのは不安である。その為、皆が今よりもう少し短い雇用期
間のなか、その会社にずっといなくても、転職してもやっていけるような「雇用の流動化」
22柳川範之「WISDOM」
、
https://www.blwisdom.com /linkbusiness /linktime /future /item/2279 -23.html、ア
クセス日 2014.1.5
を狙っている。
そして 40 歳で定年を迎えるにあたってもう一度新しい勉強をし、新しい知識や技能を身
につけるチャンスを増やすのだ。大学で得た知識や新入社員のときに学んだことで充分だ
という時代でもなくなってきている為、40 歳というタイミングで世のなかに通用する知識
をもう一度身につけておかないと、よりよい生き方をしていけないし、経済全体を支える
働き方ができないという発想に基づく提案である。
雇われているから安心だと会社に執着すると、中年でリストラにあった場合、本当に再
就職先が無くなる。また、そういう人が大量に現れると、社会に働けない人たちが溢れて
しまう。もちろん、その人たちに充分な保証をできるのなら良いのだが、現実にはある程
度働いてもらわないと社会は回らない。だから、再就職先のない人を大量に生み出してし
まう前に、40 歳位できちんと能力を身につけてもらい、安心して働ける職場を見つけられ
るようにしましょうというのがこのシステムの狙いなのだ。
日本では、成果主義が浸透したといわれる近年でも年功序列型の賃金体系が依然として
残っており、若年層に比べて圧倒的に高い中高年労働者の賃金は企業にとって大きな負担
となっているが、一方、能力面で見ると、40 歳以降の能力・スキルの伸びは 40 歳以前に比
べ鈍化するのが一般的であり、賃金とパフォーマンスが比例しないものと考えられる。中
高齢者の雇用が若年層の採用抑制、昇給の抑制に影響していることは否定できない。はっ
きり言えば、企業は 40 歳以上の労働者のうち有能なパフォーマンスの高い人だけを都合の
よい時まで残し、それ以外は辞めてもらいたいと考えているが、現在の日本の解雇規制の
中ではそれは容易ではない。
また、定年とは雇用における年齢差別である。年齢のみを理由に雇用関係を終了させる。
それがいいか悪いかはともかく、新卒一括採用、年功賃金、解雇規制という雇用システム
の中で、定年という制度が果たしてきた役割は大きいといえる。
今後、年齢に関わりなく能力・技能によって広く高齢者まで活躍できる社会を目指すの
であれば、これは年齢差別をなくすということであり、定年規制を廃止するのが本来の正
しい方向性ではないかと思う。定年を 40 歳にするということは、むしろ年齢差別を強化す
ることとも受け取れ、それと有期雇用契約を中心にしていくという考えとの間には整合性
は見られない。
また、定年を廃止することと併せて採用や退職、賃金の決定等についても年齢的要素を
排除する必要があり、何よりも現行の解雇規制に手を加えることが必須であると思われる。
年齢差別を廃止し、20 歳でも 80 歳でも能力があれば正当な評価を受けて活躍できる、それ
は反面、定年までの雇用保証というものはもはやなく、本人のパフォーマンス次第では退
場を余儀なくされることも当然あり、しかし不当な解雇・雇止めはもちろん許されず、そ
して流動性のある労働市場が存在する、そのような社会にするために果たして「40 歳定年」
が必要なのだろうか。
終身雇用に関する意識調査アンケート
【問1.終身雇用について、どう思いますか。
】
・賛成 ・どちらかと言えば賛成 ・どちらかと言えば反対 ・反対
賛成 24.5%(75 人) どちらかと言えば賛成 75.4%(231 人) ⇒82.9%(306 人)
どちらかと言えば反対 13.2%(49 人) 反対 3.8%(14 人)
⇒17.1%(63 人)
【終身雇用について賛成・反対の理由を教えてください。】(自由記述)
※任意回答より一部抜粋
・男性 大学 3 年生 賛成
雇用に対する不安は、モチベーションを低下させると感じる
からです。
・女性 入社 1 年目 どちらかと言えば賛成 安定した将来を想定できるので、人生プラ
ンが立てやすい。
・女性 入社 3 年目 反対
人材の流動性を上げた方が生産性と効率が上がり、社員のモ
チベーションも変わるので。
【問2.年功序列について、どう思いますか。
】
・賛成 ・どちらかと言えば賛成 ・どちらかと言えば反対 ・反対
賛成 3.5%(13 人) どちらかと言えば賛成 41.4%(153 人) ⇒44.9%(166 人)
どちらかと言えば反対 45.8%(169 人) 反対 9.3%(34 人)
⇒55.1%(203 人)
【年功序列について賛成・反対の理由を教えてください。】(自由記述)
※任意回答より一部抜粋
男性 入社 1 年目 賛成 経験年数とともに安定した給与が得られるため。
男性 入社 1 年目 どちらかと言えば賛成 年上が部下だと扱いづらい。
男性 大学 4 年生 どちらかと言えば反対 年上は敬うべきだと思うが、実際の仕事の力
量、会社への貢献度によって評価されるべき
だと思う。
男性 入社 1 年目 反対 仕事ができる人が責任のある仕事に就き、
高い給料を貰うべき。
【問3.これから日本型雇用制度は無くなって行くと思いますか?】
・はい ・いいえ
はい 10.6%(39 人) いいえ 89.4%(330 人)
アンケートは、大学生および入社 3 年目までの社会人(以下、若手社員)に意識/実態調査
を行い、
369 名から回答を得ました
(調査期間は 2013 年 11 月 25 日(月)
~12 月 16 日(月))
。
友人を中心とした大学生および若手社員に、インターネットを通じて終身雇用の賛否に
ついて尋ねたところ、82.9%(306 人)が賛成と回答してくれた。また、年功序列について
賛否を尋ねたところ、賛成した割合は 44.9%(166 人)と半数以下となった。終身雇用に
対する賛成が高く、年功序列に対する賛成が低いことから、大学生および若手社員は、現
在(または将来)の勤務先で長期的に働きたいと考えるとともに、年齢に捉われず、成果
を出した社員が評価される制度を希望していると推測する。
また、図-6 より長期雇用・年功賃金を良い制度と考える割合が 1999 年から 2007 年まで
年々上がっていることからも労働者に深く浸透しており、安定を求めているのが分かる。
しかし、日本の年功賃金は、労働能力が最も高い若年期においては、その労働生産性を下
回る賃金が適用され、労働能力の向上がそれ程望めない中高年期には自己の労働生産性以
上の賃金が適用される。つまり、年功賃金は定年時までに賃金の支払総額の収支のバラン
スが成立するように設計されており、極めて経済的合理性の高い賃金制度と言えよう。別
の表現をするならば,年功賃金は若年期においては、労働生産性を下回る賃金が適用され、
本来の適用されるべき賃金の一部が企業の設備投資や人的資本形成のための一種の貯蓄
(投資)に振り向けられる。労働者は定年まで長期勤続しなければ、こうした貯蓄を引き
出すことができず、経済的損失を被ることとなる。このように考えると年功賃金は経済的
合理性が高いばかりでなく,労働者の長期勤続を促すインセンティブに富んだ制度と言え
よう。
図-6 長期雇用・年功賃金を良い制度と考える割合23(厚生労働省大臣官房統計情報部「賃
金構造基本統計調査」より)
第4章
おわりに
1990 年代の不況が始まってから現在まで、雇用情勢は好転していない。私は、
「ゆとり世
代」と呼ばれる年代であり、これから社会に出ていく。グローバル化が近年言われ続け、
これまでの終身雇用がどのように変容するかは分からないが、失業という事態に追い込ま
れたら、人員整理・失業の残酷さ故に、物理的精神的に何に依拠するか分からない。
雇用は、個人と社会とを結ぶ最も需要なものの 1 つである。雇用を巡る議論には、2 つの
次元がある。1つの次元は、雇用の維持・創出の為にどのような方策が実行されるべきか、
という点である。もう1つは、雇用の削減が不可避であるとするならば、その痛みを誰が
負うべきなのか、そして痛みを少しでも軽くするにはどのような方法が取られるべきか、
という点である。2つの議論に多少とも寄与するものがあれば、という気持ちが、本論文
を執筆した動機である。
今後は人事考課による早期の選別など、いわゆる「実力主義」の側面が強まり、労働者
23厚生労働省大臣官房統計情報部「賃金構造基本統計調査」平成
20 年度、付 2-2-2。
の主体的な転職の増加も考えられる。こうした状況を踏まえ、自己啓発の推進など労働者
のキャリア設計と能力開発を容易にすすめられるシステム、女性をはじめ多様な人材が参
加しうるシステム等、労働者が創造性を発揮する機会に恵まれ、安定し、納得のいく職業
生涯を送れるよう新たな雇用制度について提案したいところである。
そして、新しい環境に適した、より良い能力を身につけるための人材育成・教育訓練シ
ステムを、産業政策的視点で大胆に導入していくことも重要なチャレンジであろう。
参考文献
【1】小越洋之助著『終身雇用と年功賃金の転換』
、ミネルヴァ書房、2006 年。
【2】楠田丘著『日本型成果主義』
、生産性出版、2004 年
【3】国立社会保障・人口問題研究所、「社会保障費用統計」2009 年度。
【4】財団法人 日本生産性本部『終身雇用制度の将来予測調査報告書~わが国雇用制度
の展望と選択~』
【5】城秀樹著『解雇で変わる?日本人の働き方』
、2013 年度。
【6】総務省「就業構造基本調査」。
【7】野村正實著『終身雇用』
、岩波書店、1994 年
【8】野村正實著『雇用不安』
、岩波新書、 2003 年。
【9】中條毅編著『日本の雇用システム 産業構造改革と労使関係の再編』、中央経済社、
2002 年。
【10】厚生労働省「労働経済の分析」2008 年度。
【11】厚生労働省大臣官房統計情報部「賃金構造基本統計調査」
、2008 年度
【12】厚労省「コース別雇用管理制度の実施・指導状況」、2011 年度。
【13】森岡孝二著『就職とは何か―〈まともな働き方〉の条件』、岩波新書、2011 年度。
【14】八代尚宏「雇用問題を考える」、『経済政策の考え方』
、有斐閣、1999 年
【15】柳川範之、山田久、原ひろみ、安藤至大著『NIRA 日本の雇用制度を考える会』。
【16】Abegglen,James C., The Japanese Factory. Aspects of its Social Organization,
The Free Press, 1958. 邦訳、J・アベグレン、占部都美監訳『日本の経営』
、1958 年、
ダイヤモンド社。
【17】NHK 取材班、ジョージ・フィールズ、ジェームス・C・アベグレン、牛尾治朗著『日
本解剖1経済大国の源泉 社長・日本の会社はだれのものか 終身雇用・その神話と現
実』日本放送出版協会、昭和 62 年。
【18】The Global Gender Gap Report 2012。
【19】柳川範之「WISDOM」、
https://www.blwisdom.com /linkbusiness /linktime /future /item/2279 -23.html、ア
クセス日 2014.1.5。
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