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匂いが着色飲料の味覚強度評定に及ぼす効果
日心第70回大会(2006) 匂いが着色飲料の味覚強度評定に及ぼす効果 ○金井 心1・長田 佳久2 ( 立教大学現代心理学研究科・2立教大学現代心理学部) Key words: 匂い, 味覚強度, 着色飲料 1 結果と考察 実験参加者ごとに比較刺激(0.49%w/v の塩化ナトリウム水溶 液)に対して心理的等価値である塩味の味覚強度(以下,PSE) を算出し,視覚条件間で比較した.実験参加者全員での PSE の 平均値において,着色あり条件が着色なし条件より有意に高 い(t(6)=3.287, p<.05)ことが示された(Figure 1).従って 極限法においても輝度の効果が確認され,輝度の効果に対す る頑健性が示された. <実験 2> 方法 実験参加者:実験 1 と同一の実験参加者であり, 用いられ た嗅覚刺激(アネトール)に対する知識と経験を持っていなか った. 刺激:味覚刺激,視覚刺激は実験 1 と同様であった.嗅覚刺 激として日本人に馴染みがなく,実験参加者間で嗜好及び匂 いから想起される基本味に偏りが生じにくいと推測したアネ トールを用いた.嗅覚刺激は,塩化ナトリウム水溶液を呈示す る際に使用した 60ml 紙コップの側面 1cm2 に約 0.01ml を染み 込ませ味覚刺激と共に呈示した. 手続き:実験 1 と同様の手続きを用い,嗅覚刺激と味覚刺激 を対呈示した.実験参加者は全試行の終了後,実験で用いられ た匂いと味に関する内省報告と質問紙調査に協力した. 結果と考察 実験 1 と同じ方法を用いて PSE を算出し,視覚条件間で比較 した.その結果,実験参加者全員での PSE の平均値において, 着色あり条件と着色なし条件間に有意差はなかった(Figure 2).このことから未知の嗅覚刺激と味覚刺激が対呈示された 場合には,輝度の効果は生じないことが示された.実験 1 の着 色なし条件の PSE と,実験 2 において嗅覚刺激と共に呈示され た着色なし条件の PSE 間にも有意差がなかった(Figure 2)た め,嗅覚刺激によって想起された味が味覚刺激の塩味と混同 され,PSE が変化したとは考えにくい. また実験参加者の内 省報告から,嗅覚刺激から想起された味と実際の味覚刺激の 味の一致度にも偏りは見られなかった.従って本実験結果か ら,嗅覚刺激が輝度の効果を低減させたと考えられた. 引用文献 Indow, T. (1966). A general equi-distance scale of four qualities of taste. Perception and Psychological Reviews, 8, 136-150 金井心・長田佳久. (2006). 着色料飲料の輝度変化が味覚強度の評価 に及ぼす効果.立教心理学研究 , 48, 1-6 ( Kanai, K. & Osada, Y. ) 本研究は立教大学学術推進重点資金,立教アミューズメント・リサーチセンタ ーからの助成を得た. (KANAI Kokoro, OSADA Yoshihisa) 0.7 におけるPSE(%w/v) 比較刺激に対する塩味の味覚強度 目的 これまで味覚研究において味覚強度評定に及ぼす味溶液へ の着色の効果が検討されてきた.しかしこの効果に関する包 括的な理論は現在まで提唱されていない.金井・長田(2006) は,飲料の「色」ではなく輝度(不透明度)に焦点を当て,黒色 に着色された食塩水の濃度と輝度を段階的に操作し,ビジュ アルアナログラインスケールを用いて塩味の強度評定の変化 を検討した.その結果,飲料の特定の輝度が塩味の味覚強度を 増強させることが示された.本研究では 1)効果の頑健性を検 証するため,極限法を用いた場合にも輝度の効果が生じるの かを検討し(実験 1),2)実際の食物摂取状況に近づけ,味覚刺 激と未知の嗅覚刺激が対呈示された際にも,この効果が生じ 得るのかを検討した(実験 2). <実験 1> 方法 実験参加者:実験で用いられた味覚刺激の味覚強度(塩味) について弁別判断能力を持つ大学生 7 名(男性 3 名,女性 4 名, 平均年齢 21.8 歳)であった. 刺激:味覚刺激として塩化ナトリウム水溶液を用いた.味覚 刺激の濃度条件は 7 条件あり,各条件間で心理的強度が等間 隔となる濃度に規定した(0.12・0.19・0.3・0.49・0.76・1.15・ 1.6%w/v; Indow,1966).視覚条件として食用合成着色料(黒 色)を用い,塩化ナトリウム水溶液を着色した.刺激の色度座 標 は X = 0.3326 ~ 0.3576,Y = 0.3970 ~ 0.4122, 輝 度 は 約 95cd/m2 に統制した.視覚条件は着色あり条件と着色なし条件 の 2 条件であった. 手続き:極限法を用いた.標準刺激の濃度は,金井・長田 (2006)の研究において輝度の効果が示された濃度に近い 0.49%w/v であった.実験参加者の課題は,対呈示された各味 覚刺激 5ml を口に含み(全口腔法),標準刺激と比較して,無着 色である比較刺激(全 7 濃度条件)の塩味の強度を「強い・同 じ・弱い」の 3 つの選択肢から口頭で報告することであった. 上昇系列は明らかに標準刺激より味覚強度が「弱い」と知覚 される濃度条件 0.12%w/v から始まり,味覚強度が「強い」に 変化するまで比較刺激の濃度が上昇した.下降系列は明らか に標準刺激より味覚強度が「強い」と知覚される濃度条件 1.16%w/v から始まり,味覚強度が「弱い」に変化するまで比 較刺激の濃度が低下した.標準刺激と同じ着色をしたサンプ ル(15ml)を試験管に入れて呈示した.視覚刺激条件と刺激系 列はランダムな順に呈示し,刺激系列は上昇系列と下降系列 を計 5 回呈示した.試行間は水で口を十分にゆすぎ味の順応 を防いだ.味覚刺激の溶媒及びうがいには蒸留水を用いた.実 験参加者は 2 系列の練習試行を行った後,本実験に移行した. 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 着色なし 匂い+着色な し 匂い+着色あり Figure2 実験1・2結果