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台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観
福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 [研究論文] 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 ― 医療・福祉関係者へのアンケート調査から ― 小林 明子1)・塚本 利幸1)・酒井 美和2)・後藤 真澄3) 三上 章充3)・森田 直子3)・片桐 史恵3)・包 敏4)・徐明!5) Ⅰ 研究の背景 1.在宅から病院へと変化した日本の高齢者の終末期ケアの場 わが国の6 5歳以上の高齢者人口は、1 9 7 0年に7%を超え、「高齢化社会」に突入した。さら に1 9 9 4年にはその倍化水準である1 4%を超え、「高齢社会」となり、その後も高齢化率は上昇 を続け、2 0 1 0年には2 1%を超える「超高齢社会」へと突入し、2 0 1 2年には高齢化率が2 4. 4 0% となり、世界一となった。さらに将来予測では、2 0 5 0年には3 5%を超えるとされる。 厚生労働省「人口動態調査」によると、高度医療が発達した日本において、20 0 0年には、病 院死が8割を超えている。また、医療経済研究機構の「要介護高齢者の終末期における医療に 関する研究報告書」によると、かつての日本では、高齢者は要介護状態になっても、終末期を 自宅で向かえ、家族に見守られながら最期を迎えたが、近年、高齢者が終末期を迎えるのは、 圧倒的に病院である。自宅死が減少した理由は、単純ではないが、高齢化の進展と同時に少子 化、女性の社会進出、核家族化などが挙げられる。同報告書では、死亡者数の実績値は20 1 0年 で1 1 9. 2万人、2 0 3 0年推計値では1 5 9. 7万人で、4 0. 5万人増となっている。さらに、死亡場所別、 死亡者数の年次推移の詳細は、1 9 5 1年には自宅が8 2. 5%、病院が9. 1%、老人ホームが2. 6%で あったが、1 9 7 5年を過ぎると自宅と病院が逆転し始め、2 0 0 6年には、病院死が7 8. 4%、自宅死 が1 2. 4%、老人ホームでの死亡が3. 2%となっている(厚生労働省2 0 1 4) 。 超高齢社会においては、要介護状態に陥る後期高齢者の増加、さらには後期高齢者の死亡が 0 2 5年度以 急増し、長期の介護の延長線上にある終末期のケアが政策課題となる1)。政府は、2 降に要介護状態に陥る後期高齢者の増加が予測されていることを鑑み、20 0 5年に介護保険制度 の大幅な改正を行った。この改正では、介護予防の重視と同様に、人生の最期まで地域での生 活を可能にするサービス体系の整備が図られた。この改革において、介護老人福祉施設におけ る重度化・看取りへの対応策として、看護体制の強化や夜間の2 4時間連絡体制の整備、各職種 受付日 2014.9. 30 受理日 2014. 11. 13 所 属 1)看護福祉学部、2)関西福祉科学大学、3)中部学院大学、4)広島国際大学 5)中臺科技大學(台湾) ―5 5― 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 協働による看取り介護の実施体制の充実として、予算的な支援案、看取り加算等が取りあげら れた2)。 2.日本の終末期ケアを担う医療・福祉専門職と看取り観・死生観と先行研究 終末期ケア体制づくりの基本として、今後重要になるのは、本人と家族が終末期ケアの在り 方について明確にしておくことである。具体的には、どこで最期を迎えたいか、又、延命治療 をどうするか等である。そして、もう一方で重要なのは、高齢者と家族の終末期ケアを支える 医療・福祉従事者の終末期ケアの考え方や質であろう。病院死の看取りを中心的に行うのは主 (以下「SW」 に看護職3)と医師であり、施設死の場合、看護職、介護職4)、ソーシャルワーカー5) と略す)等、また、自宅死の場合は、家族を中心に医師、看護職、介護職等であることが予測 される。そして、終末期ケアを担う職種の中でも、医療職として病院で働く看護職は、終末期 ケアに関わる現場経験が豊富であることが予測され、養成教育の中で、死に対する基本的な知 識を学んでいる。また、前述したように、近年、日本における終末期ケアの場として高齢者施 設が少しずつ増加してきている。施設死の場合は、日常的な生活のケアを担う、介護職や SW などの福祉職も重要な役割を果たしている。しかし、介護職や SW など福祉職は、養成教育の 中でこれまで死に対する教育を受ける機会はほとんど設けられていなかった。 内田は、近年では、介護福祉教育における死と看取り教育が必要であることを主張し、その 理由として以下3点を挙げている。①現在の社会生活の中で在宅死の減少に伴い看取り経験が 減少している、②医療福祉政策の転換による高齢者の看取りの場が病院から介護施設へ移動し ている、③今後、介護福祉士に高齢者の看取りが期待されている(内田2 0 0 8) 。また、早坂は、 看護及び介護職員の看取り後の悲嘆感情の比較検討を目的に、現場職員へのアンケート調査を 行った。その結果、医療職である看護師と福祉職である介護職では、看取り時の感情はやや異 なっていた。介護職員では自分方向の感情が増えているのに対し、看護職員は相手を思う感情 が増えていたと分析している。つまり、介護職員は、患者の死を主観的にとらえ、悲嘆感情を 自分の内に抱えこんでしまうのに対し、看護職は死を客観的にとらえることができていると説 明できる。その要因として、看取り経験や利用者と関わる時間等があげられると考えられるが、 介護職員は、基本的に死に対する医学的知識を学ぶ機会が少なく、看取りのための教育が十分 でないことを示唆している(早坂2 0 1 0) 。 以上が日本の高齢者の看取りの現状であるが、果たして、日本と近接する東アジア地域では、 どうであろうか。 3.東アジア各国・地域においても課題になることが予測される終末期ケアへの対応 第一に、高齢化についてである。高齢化は、日本だけでなく世界中の国々で起こっている現 ―5 6― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 象であるが、近年特に顕著な高齢化が進展しているのは、アジア地域である。中でも、韓国・ 台湾・中国などの東アジアの国と地域は、2 0 0 0年代に入り、高齢化が急速に進展している。国 連の人口推計によると、2 0 1 0年には、韓国、中国、台湾が高齢化率7%を越える「高齢化社会」 に突入した。特に、韓国、台湾においては、日本よりも早いスピードで高齢化が移行し、20 2 0 年には高齢化率1 4%を超える「高齢社会」へと進行し、高齢対策が切実な政策課題となってく る。2 0 5 0年には、韓国や台湾も日本と同様に3 5%前後となり、要介護高齢者や後期高齢者の数 が増加することが予測される(大泉2 0 0 7) (表Ⅰ‐1参照) 。そこで、その結果として、介護の 延長線上の終末期ケアへの対応が迫られることになる。少子高齢化の急速な進行による高齢者 ケアの社会的支援体制の構築は、日本のみならず東アジアの国と地域の共通課題であるといえ る。 表Ⅰ‐1:東アジア地域の6 5歳以上の人口構成比 日本 韓国 中国 台湾 65歳以上の 65歳以上の 65歳以上の 65歳以上の 総人口 総人口 総人口 総人口 対総人口比率 対総人口比率 対総人口比率 対総人口比率 (千人) (千人) (千人) (千人) (%) (%) (%) (%) 2 0 1 0年 1 2 8, 0 5 7 2 3. 0 4 8, 4 5 4 1 1. 1 1, 3 5 9, 8 2 1 8. 4 2 3, 2 1 6 1 0. 7 2 0 2 0年 1 2 4, 1 0 0 2 9. 1 5 0, 7 6 9 1 5. 5 1, 4 3 2, 8 6 8 1 1. 7 2 3, 2 7 7 1 5. 7 2 0 3 0年 1 1 6, 6 1 8 3 1. 6 5 2, 1 9 0 2 3. 4 1, 4 5 3, 2 9 7 1 6. 2 2 2, 9 0 6 2 3. 6 2 0 5 0年 9 7, 0 7 6 3 8. 8 5 1, 0 3 4 3 4. 9 1, 3 8 4, 9 7 7 2 3. 9 2 0, 1 5 6 3 5. 7 出典:日本・韓国・中国は「世界の統計20 1 4」総務省統計局。台湾は「国連人口推計20 1 0年版(United Nations, The Population Prosects : The 2010 Revision)」 第二に、死亡場所についてである。東アジア地域の状況をみると、まず、韓国統計庁によれ ば、韓国において、2 0 1 0年には2 5. 5万人であった死亡者数は、2 0 3 5年にはほぼ5 0. 7万人、2 0 6 0 年には7 5. 1万人になると推計される。2 0 1 0年の死亡場所では、韓国でも日本同様、医療機関が 6 7. 6%と多く、自宅は2 0. 4%である。中 国における死亡場所についての統計デー 表Ⅰ‐2:東アジアの国と地域の死亡場所の割合 タは見つけることができなかったが、中 日本 韓国 台湾 2 0 1 0年 2 0 1 0年 2 0 1 2年 国では、高齢者のケアとして「9 0 6 4( 」高 自宅 1 2. 6% 2 0. 4% 4 4. 5% 齢者の9割は家族介護、残りの1割のう 医療機関 8 0. 3% 6 7. 6% 4 7. 1% 7. 1% 8. 4% 1 2. 0% 1 0 0% 1 0 0% 1 0 0% ち6割は地域の在宅ケアサービス、4割 は施設入所)という政策を推進しており、 圧倒的に在宅死が多いことが予測される (北京週報日本語版2 0 0 9年1月1 6日) 。 その他 参考:(日本) 人口動態統計年報 主要統計表(平成22年) 、 (韓国)統計庁2 0 1 0年出生死亡統計、(台湾)Taiwan Statistical Data、 (中国)統計データなし ―5 7― 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 一方、台湾での死亡場所については、日本や韓国とやや様相が異なっており、20 1 2年現在、 医療機関が最も多いものの(4 7. 1%) 、自宅が4 4. 5%と医療機関とほぼ同じ割合で、全体の半 数に近く、その他は1 2. 0%で、老人保健施設(以下「老健」と略す)等の高齢者施設である(表 Ⅰ‐2参照) 。 看取りの国際比較の先行研究として、2 0 1 0年に実施された『在宅介護・医療と看取りに関す る国際比較研究』がある(長谷川2 0 1 1) 。この研究では、日本を含む8か国(日本・フランス ・イギリス・イスラエル・オーストラリア・オランダ・韓国・チェコ)を対象に、典型的な終 末期の在り方として想定される2つの仮想ケース(末期がんケース、認知症ケース)に対して 専門職としての理想的及び現実的判断について質問紙調査を行った。対象者は本研究と同様に 医師・看護職・介護職・SW 等であるが、質問内容は、仮想ケースを用いるという方法をとり、 対象ケースは、日本を除くと各国とも1 0∼5 0ケース前後であり、数量的な調査研究ではなく事 例研究といえる。また、長谷川らの研究目的は、文化的・制度的背景の大きく異なる国々を幅 広く対象とし、各国関係者の看取りにおける環境の違いを比較し、看取りに関わる倫理的課題 及び制度的課題等を示唆することとしている。 本研究で日本と比較したのは、韓国・中国・台湾という歴史的に日本との関係性が強く、ま た文化的背景の一部が日本と類似し、地理的にも日本に近い東アジアの国と地域である。それ ぞれ、おおよそ2 0 0件を超えるアンケートのデータを基に数量的な分析を行った。アンケート は、2つの尺度を軸に実施している。一つは、死にゆく患者に対する医療者のケア態度を測定 する尺度である「看取り観」であり、もう一つは、死生観の主要な構成要素を含む「臨老式死 生観尺度」である。このような方法で得た結果は、同一の価値基準で客観的、構造的に捉える ことが可能である。さらに、それらの結果を用いて、医療・福祉関係者の看取り観と死生観お よび相関関係を客観的に分析し、主に看取りを行う専門職についての各国の傾向や課題を比較 分析することが可能となる。 以上を踏まえた上で、本論文では、その中の「台湾」を対象に実施したアンケート結果の分 析・考察を中心にまとめた。 4.台湾の高齢者の終末期ケアの特徴 台湾の2 0 1 0年前後の高齢化率は、東アジアの国と地域の中では、日本、韓国に次いで10%前 後であるが、死亡場所の割合をみると、東アジアの国と地域の中では、最も自宅死の比率が高 いという特徴があることは前述したとおりである。図1で示されるように、台湾においても、 半数以上の人が自宅で亡くなった2 0 0 8年以降、自宅死は減少し、20 0 9年には半数を割り、2 0 1 2 年には医療施設で亡くなる人の割合が自宅死の数を上回った。このように病院死の割合は少し ずつ増加しつつあるものの未だに半数近くの人が自宅で亡くなっている。 ―5 8― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 台湾において自宅死の割合が比較的高い理由の一つに、「最後一程(最後の旅) 」 または、「留 一口氣(一息を残す) 」 と呼ばれる伝統的な慣行が存在する。これは、自宅で亡くなることを「善 終(善い死) 」 としてとらえる台湾人の死生観の特徴の一つである。そして、この慣行に従い最 期を自宅で迎えるために、本人の事前意思または家族の代理決定に基づいて、病院で危篤状態 になった時に患者を退院させ、救急車で自宅まで搬送し、そこで亡くなる”終末期退院“とい う看取りの方法が台湾の医療法に規定されている6)。 さらに2 0 0 0年には、本人の事前意思もしくは家族の代理決定による延命治療の拒否に関する 法律「安寧緩和医療法」が成立した。この法律は、終末期における延命治療の事前指示書を全 民健康保険のデータベースに保存することができ、保険 IC カードを読み込むだけでその意思 が確認できる仕組みになっている。延命治療を希望せず緩和医療を選択する人は、病院でのケ アを受けた後、最後に自宅へ搬送されて亡くなる場合や、そのまま病院で死亡する場合もある。 また、介護施設から病院へ搬送され、病院で亡くなる場合や自宅へ搬送される場合もある。い ずれにせよ、死に場所による終末期ケアの差をなくし、患者の意思を尊重することが法制化の 目的である(鍾2 0 1 3) 。 以上のような身近な家族の死と向き合う自宅死の比率が高いという台湾の終末期の実態から、 台湾においては、医療・福祉従事者も同様に家族の自宅死を経験している比率が高いことが予 測される。その結果、台湾と日本の医療・福祉従事者の看取り観や死生観には差異が生ずるの ではないかと思われる。日本において、看護職と介護職では、職場での看取り経験や教育的な 背景の違いにより、看取り観や死生観が異なるという先行研究も見られる。このようなことは、 教育的な背景からみて、台湾の看護職と福祉職である介護職と SW においても共通しているこ とが予測される。また、台湾では、SW は、施設における配置率が比較的高く、高齢者ケアに 関わる福祉職として重要な位置づけにある。 終末期ケアの背景となる台湾の高齢 者のサービスは、在宅サービスと施設 サービスに大別される。前者には居宅 サービス(ヘルパー、看護師、保健師 等の訪問や福祉用具貸与他)および地 域サービス(デイサービス、食事サー ビス等)がある。訪問看護は、病院ま たは個人の独立型の訪問看護ステーシ ョンが健康保険による訪問を実施して いる(陳2 0 0 7) 。 後者は、設置主体や対 象者により多様である。「護理之家」 、 図Ⅰ‐1:過去2 0年間(1 9 9 3∼2 0 1 2)の台湾における 死亡場所別に見た構成割合 (%) の推移 出典:http : //www.ritsumei‐arsvi.org/news/read/id/541 ―5 9― 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 「長期照護」は、医療的なケアを有する日本の老健にあたり介護度が高く終末期ケアと関わり が深いが、前者は保険適応の医療体系施設(衛生局主管)であり、後者は福祉体系施設(社会 局主管)である。「養護機構」は日本の特養に近く、介護や気管切開以外のチューブ管理(鼻 管、尿管)や認知症のケアが必要な社会局主管の施設である。他に、「失智照顧(認知症を主 とした施設) 」 、 「安養機構(養護老人ホーム) 」 などがある。また、「栄誉国民之家」は、「外 省人7)」を対象にしている台湾独自の施設である。他に、高齢者の住宅系サービスがあり、「老 人社区(退職者コミュニティ) 」 と「老人公萬(高齢者アパート) 」 がある。そして、いずれの高 齢者ケアの場において、それぞれが私的契約をしている外国人介護士が存在する(宮本2 0 1 0) (小林2 0 1 3) 。 Ⅱ 研究方法 ― 台湾の医療・福祉従事者へのアンケート調査 台湾の医療・福祉関係者の「看取り観」「死生観」についての特徴を提示するために、以下 の要領でアンケート調査を実施した。以下、対象者、調査の倫理的配慮、調査内容を記す。な お、調査実施に至るまでに、事前調査の目的で数回、台湾(台北市、台中市)を訪問し、調査 対象となりうる高齢者施設、高齢者や障害者の自宅を訪問し、関係者に聞き取りを行い、アン ケートついて打ち合わせを行った。 1.調査の対象者 対象者は、都市部や農村部を含む台中市を中心にその周辺地域の新北市・台南市・彰化県・ 苗栗県・南投県・台東県において高齢者施設の医療・福祉従事者である。対象となる施設の選 定やアンケート用紙の配布、回収は、台中市在住の共同研究者に依頼し、協力者を確保した。 協力施設は、表Ⅱ‐1(a・b)に記載された4 1ヶ所であり、それぞれ台中市・新北市・台 南市・彰化県・苗栗県・南投県・台東県に位置する施設である。これらの施設は入所型施設を 中心に通所系・訪問系の施設を合わせ持っている。形態別職員数は、それぞれ介護福祉施設(養 護型施設)6 7名、老健(護理之家) 8 3名、グループホーム4名、療養型医療施設(長期照護型) 3 0名、在宅サービス系2 8名、病院2 4名、クリニック4名、その他4 7名、合計2 8 9名である。そ の他が4 7名あるが、職員の職種形態は分類不能であった。アンケートの質問項目によっては、 その他も含めて分析している。 職種別対象者数は、看護職7 9名、介護職1 0 6名、SW4 2名、医師5名、その他5 7名の合計2 8 9 名である。職種ごとの比較分析を行う際は、極端に数が少なかった医師5名と職種の分類が不 能であったその他は分析対象から外し、看護職、介護職、SW を分析対象とした。 ―6 0― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 表Ⅱ‐1: 「アンケート対象者/協力施設一覧」筆者作成 a 施設種別一覧(合計41ヶ所) 護理之家 1 5 老人長期照顧中心 1 老人養護中心 1 2 教養院 2 老人長期照護中心(長期照護型) 2 医院 1 老人長期照護中心(養護型) 6 養護中心 1 老人長期照護中心(不明) 1 b 地域別一覧(合計41ヶ所) ①中市(計2 0) ②彰化縣(計1 1) ③苗栗縣(計3) ⑤新北市(計2) ⑥台東縣(計1) ⑦台南市(計1) ④南投縣(計3) 2.調査内容 紙面によるアンケート調査の質問項目は、以下の1)から3)に大別できる。分析にあたっ ては、基本統計処理には統計ソフト SPSS Ver.16を用いた。看取り観や死生観では、それぞれ の尺度の各因子、下位尺度ごとに得点を集計し、職種による平均値の差の検定を行った。また、 各因子、下位尺度に関連する要因を明らかにするために対象者の宗教、年齢、現在勤務する施 設での経験年数との Spearman の順位相関係数を算出した。 (1)調査の倫理的配慮 施設の全職員に無記名・自記式の調査票を配布し、担当者が回収した。その際、施設長に同 意を得た後、研究者が口頭で説明を行い、調査票を配布した。回答は任意であり回答しないこ とによる不利益は生じないこと、回答は研究のみに用い、また個々の回答を外部に出すことは せず、プライバシーに配慮し回答者を特定できないようになっていることなどである。 (2)調査内容 1) 「終末期ケアに関するアンケート」と質問項目(資料①) 本調査研究の基本的属性を示すもので、質問内容は、性別、年齢、職種、職場形態、経験年 数、居住形態、宗教、終末期ケアの経験の有無、終末期ケアの希望場所、積極的治療の希望の 有無、終末期の人工栄養の希望の有無、治療方針、家族の最後を誰に看取ってもらいたいかな どである。 2) 「看取り観に関するアンケート」と質問項目(資料②) 看取り観に関するアンケートでは「日本語版ターミナルケア態度尺度(FATCOD‐FormB‐J) 」 を用いた。この尺度:FATCOD(Frommelt Attitude Toward Care Of Dying scale)は、米国 Clark College の Frommelt 博士によって開発され、死にゆく患者に対する医療者のケア態度を測定す る尺度である。当初は看護師用として開発されたが、医師やコメディカルでも用いることがで ―6 1― 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 きるよう Form B という形で改訂された。日本語版はこの Form B を基にしたもので、死にゆ く患者のケアに関わる全ての関係職種で使用が可能である。 日本語化の作業はバックトランスレーションという翻訳手順により行われ、信頼性・妥当性 を検討した結果、日本語版(FATCOD−Form B−J)は十分な信頼性・妥当性を有することが既 に示された。オリジナルの FATCOD は3 0項目、1因子で使用するものだが、わが国では信頼 性・妥当性研究による計量心理学的検討により、2つの下位尺度を用いて計算することも可能 となっている。この2つの下位尺度は「Ⅰ.死にゆく患者へのケアの前向きさ」、 「Ⅱ.患者・ 家族を中心とするケアの認識」と命名されている。 前者は、死にゆく患者へのケアに対し恐れない態度、死にゆく患者のケアに価値を見出す態 度などの1 6項目で構成されている。後者は、家族が患者をサポートすることの必要性の認識・ 患者の利益、意思決定を尊重する態度、家族へのケアに対する考え方からなる13項目で構成さ れている。回答は「非常にそう思う」 、 「そう思う」 、 「どちらとも言えない」 、 「そう思わない」 、 「全くそうは思わない」の5件法であり、ターミナルケア態度が積極的なほど得点が高くなる (半数は逆機能項目) (中井2 0 0 8) 。 3) 「死生観に関するアンケート」 (資料③) 「死生観」に関するアンケートは、多次元的、包括的に捉えることができ、死生観の主要な 構成要素を含む「臨老式死生観尺度」を用いた。これは、①死後の世界観(4項目)、②死へ の恐怖・不安(4項目) 、③解放としての死(4項目) 、④死からの回避(4項目) 、⑤人生に おける目的意識(4項目)、⑥死への関心(4項目)、⑦寿命観(3項目)の7因子2 7項目から 構成されている。各因子とも得点が高いほど態度が強く表れている。回答選択肢は、「1. 当て はまらない」∼「7. 当てはまる」の7件法で構成されている(平井2 0 0 0) 。 3.調査結果 基本属性に関しては、単純集計を行い、その上で必要に応じて属性間の関係について、クロ ス集計を実施し分析した。看取り観・死生観のそれぞれの因子に関しては、職種間での比較を 一元配置分散分析と Bonferroni 法による多重比較で、看取り経験の有無による比較をt検定の 手法でそれぞれ行った。また、看取り観と死生観の因子間の相互関係については、Spearman の順位相関係数を算出し検討した。 ―6 2― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 終末期ケアに関する国際比較アンケート調査 資料① ◇あなたご自身のことについてお尋ねします。 問1 あなたはおいくつですか? 満( 問2 )内に記入してください。 )歳 あなたの性別はどちらですか? 1.男性 問3 満年齢を( (1つ選んで○) 2.女性 あなたは何人の家族と同居していらっしゃいますか? ( )内にあなたご自身を含 めた同居家族の人数を記入してください。 自分を含めて( 問4 問5 )人 あなたがお住まいの地域は、次のどれにあてはまりますか? 1.古くからの中心市街地 2.新興の住宅地域 3.農山漁村的な集落 4.いずれにも該当しない あなたのお住まいは、次のどれにあてはまりますか? (1つ選んで○) 1.持ち家・一戸建て 2.持ち家・マンションなどの集合住宅 3.賃貸住宅・一戸建て 4.賃貸住宅・アパートなどの集合住宅 5.その他(具体的に 問6 (1つ選んで○) ) あなたの現職の職種はどれにあてはまりますか? 1.医師 2.看護職 3.介護職 (1つ選んで○) 4.ソーシャルワーカー 5.その他(具体的に 問7 問8 ) 現在の職種での経験年数は合計で何年になりますか? 1.1年未満 2.1∼2年未満 3.2∼3年未満 4.3∼5年未満 5.5∼1 0年未満 6.1 0年以上 あなたの職場の形態は、次のどれにあてはまりますか? 1.介護福祉施設 2.老人保健施設 8.クリニック(訪問診療無し) あなたの宗教はどれですか? 1.仏教 2.神道 6.ヒンドゥー教 (1つ選んで○) 3.グループホーム 5.在宅サービス系(訪問系、 通所系等) 6.病院 問9 (1つ選んで○) 4.療養型医療施設 7.クリニック(訪問診療有り) その他(具体的に ) (あてはまるものすべてに○) 3.道教 4.キリスト教 7.その他の宗教(具体的に 5.イスラム教 ) 8.無宗教 問1 0 あなたの日々の生活の中で、宗教は重要な部分を占めていますか? 1.非常に重要 2.やや重要 3.あまり重要でない ―6 3― (1つ選んで○) 4.全く重要でない 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 ◇終末期ケアに関してお尋ねします。 問1 1 あなたは、ご家族の終末期ケアを経験されたことがありますか? 1.ある (1つ選んで○) 2.ない 問1 2 あなたは、職場で終末期ケアを経験されたことがありますか? 1.ある (1つ選んで○) 2.ない 問1 3 あなたは、ご家族の終末期ケアをどこで受けたいとお考えですか? 1.自宅 2.病院 3.施設など 4.その他(具体的に 問1 4 あなたは、ご自身の終末期ケアをどこで受けたいとお考えですか? 1.自宅 2.病院 3.施設など (1つ選んで○) ) (1つ選んで○) 4.その他(具体的に ) 問1 5 あなたは、もし家族が「不治の病」と宣告されたとしたら、最後まで積極的治療を望み ますか? (1つ選んで○) 1. かなり望む 2. やや望む 3. あまり望まない 4. 全く望まない 5. 分からない 問1 6 あなたは、もし、ご自身が「不治の病」と宣告されたとしたら、最後まで積極的治療を 望みますか? (1つ選んで○) 1. かなり望む 2. やや望む 3. あまり望まない 4. 全く望まない 5. 分からない 問1 7 あなたは、もし、家族が終末期に「食事が食べられない状態」になったときに、人工栄 養を望みますか? 1. かなり望む (1つ選んで○) 2. やや望む 3. あまり望まない 4. 全く望まない 5. 分からない 問1 8 あなたは、もしご自身が終末期に「食事が食べられない状態」になったときに、人工栄 養を望みますか? 1. かなり望む (1つ選んで○) 2. やや望む 3. あまり望まない 4. 全く望まない 5. 分からない 問1 9 利用者の治療方針に関して、本人の生前の希望と家族の意見が異なる場合に、どのよう に対応したいとお考えですか? 1.本人の意思を優先 (1つ選んで○) 2.家族の意志を優先 3.専門家の意見を優先 4.その他(具体的に ) 問2 0 あなたは、最後を看取ってくれる人として、どのような人を希望しますか? 1番に希望(1つ選んで○)2番に希望(1つ選んで△)を記入して下さい。 1.家族 2.親しい人や友人 3.医療関係者(医師、看護師) 4.日々世話をしてくれている介護士、ヘルパー等 5.その他(具体的に ) 問2 1 あなたは、どこで、葬儀をおこなうことを望みますか? 1.自宅 (1つ選んで○) 2.葬祭場、宗教施設など 3.施設や医療機関等(最後を看取った場所) 5.どこでもよい 6.葬儀は不要 ―6 4― 4.地域の集会 7.その他(具体的に ) 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 資料② ◇看取り観についてお尋ねします。 下記の設問ごとに、あてはまる番号を1つ選んで○を付けてください。 全 く そ う は 思 わ な い ―6 5― そ う 思 わ な い ど ち ら と も 言 え な い そ う 思 う 非 常 に そ う 思 う 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 資料③ ―6 6― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 Ⅲ 結果 前述したように、2 8 9名から有効回答を得た。アンケートの配布は担当者が説明後すぐに行 い、各施設の責任者を通して後日回収した。以下、終末期ケア、看取り観、死生観の順で結果 の分析を行った。 1.対象者の属性 (1)性別・年齢・居住関係 対象職員の年齢は、4 0代が最も高かったが(2 6. 0%) 、3 0代と5 0代は2 5%台で大差なかった (表Ⅲ‐1) 。平均年齢は4 0. 7歳で、性別では、男性2 2. 6%、女性7 7. 4%と、女性が圧倒的に多 い。同居家族数別にみると、自分も含め3∼5人家族が最も多く、次いで6∼8人家族、二人 暮らし、一人暮らし、9人以上の順であった。 (表Ⅲ‐2) 。居住地域別にみると、古くからの 中心市街地が最も多く4 4. 4%、次いで農村漁村的な集落、新興の住宅地域の順であった(表Ⅲ ‐3) 。居住形態は、持ち家・一戸建てが最も多く5 5. 9%、次に持ち家・集合住宅であった(表 Ⅲ‐4) 。 表Ⅲ‐1:年齢 (n=2 8 9) カテゴリ 表Ⅲ‐ 2 :同居家族数 (n=2 8 6) カテゴリ % % 表Ⅲ‐3:居住地域 (n=2 8 8) カテゴリ % 2 0代以下 1 9. 4 一人暮らし 4. 9 古くからの中心市街地 4 4. 4 3 0代 2 5. 6 二人暮らし 1 1. 5 新興の住宅地域 2 1. 9 4 0代 2 6. 0 3∼5人家族 6 3. 6 農村漁村的な集落 2 5. 0 5 0代 2 5. 3 6∼8人家族 1 8. 2 いずれにも該当しない 6 0代以上 3. 8 9人以上 8. 7 1. 7 表Ⅲ‐4:居住形態 (n=2 8 8) カテゴリ % 持ち家・一戸建て 5 5. 9 持ち家・マンション等の集合住宅 2 8. 1 賃貸住宅・一戸建て 6. 6 賃貸住宅・アパート等の集合住宅 8. 3 その他 1. 0 (2)職種・経験年数・職場形態 対象者を現職の職種別にみると、介護職が最も多く36. 7%、次いで看護職2 7. 3%、SW1 4. 5% の順であった(表Ⅲ‐5) 。現職の経験年数では1 0年以上が最も多く、次いで5∼1 0年未満であ った(表Ⅲ‐6) 。職場形態は老健(護理之家)が最も多く2 8. 9%、次いで介護福祉施設(安養) (2 3. 3%) 、 その他、療養型医療施設、在宅サービス系、病院の順であった(表Ⅲ‐7) 。 ―6 7― 福井県立大学論集 表Ⅲ‐5:職種 (n=2 8 9) カテゴリ 医師 表Ⅲ‐6:現職経験年数(n=284) カテゴリ % 1. 7 第44号 2 0 1 5. 2 表Ⅲ‐7:職場形態(n=2 4 0) % 1年未満 8. 8 カテゴリ % 介護福祉施設(安養) 2 3. 3 2 8. 9 2 7. 3 1∼2年未満 1 5. 5 老人保健施設(護理之家) 介護職 3 6. 7 2∼3年未満 1 4. 8 グループホーム SW. 1 4. 5 3∼5年未満 1 3. 7 療養型医療施設(長期照護) 1 0. 5 その他 1 9. 7 5∼1 0年未満 2 0. 8 在宅サービス系(訪問・通所) 9. 8 1 0年以上 2 6. 4 病院 8. 4 クリニック(訪問診療あり) 0. 3 クリニック(訪問診療なし) 1. 0 看護職 1. 4 その他 1 6. 4 (3)職種による特徴 看護職の平均年齢は3 6. 4歳で、3 0代が最も多 表Ⅲ‐8:各職種の平均年齢 く(4 3. 0%) 、次いで5 0代、介護職の平均年齢 度数 は4 4. 9歳で、5 0代が最も多く(4 2. 5%) 、4 0代 がこれに次いだ。SW の平均年齢は3 7. 9歳で、 2 0代が最も多く(3 1. 0%) 、3 0代、4 0代がこれ に続いた(図Ⅲ‐1) 。性別ではいづれも女性が 医師 平均年齢 標準偏差 5 3 1. 6 看護職 7 9 3 6. 4 8. 9 3 介護職 1 0 6 4 4. 9 1 1. 3 1 ソーシャルワーカー 4 2 3 7. 9 1 2. 6 3 その他 5 7 4 1. 8 1 2. 2 5 2 8 9 4 0. 7 1 1. 7 1 多いが、その割合は、看護職9 2. 3%、SW7 1. 4%、 全体 1 3. 8 5 介護職6 6. 7%であった。(図Ⅲ‐2) 図Ⅲ‐1:職種による年代別割合 図Ⅲ‐2:職種による性別割合 現在の職種での合計経験年は、看護職では1 0年以上の割合が最も高く(45. 6%) 、5∼1 0年 未満が続き、全体の半数近くが1 0年以上仕事を継続している。これに比べて、介護職では、2 ∼3年未満と5∼1 0年未満がともに最も高く(2 1. 9%) 、これに1∼2年未満が続き、全体の 4 0%以上が3年未満の経験である。SW では、1∼2年未満と5∼1 0年未満が最も高く(2 1. 4%) 、 次いで1年未満と2∼3年未満であり、5 5%近くが3年未満の経験である(図Ⅲ‐3) 。 看護職の職場形態は、老健が最も高く(5 5. 1%) 、次に在宅サービス(訪問系・通所系)、介 ―6 8― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 護福祉施設の順であった。介護職では介護福祉施設(3 7. 0%) 、老健、療養型医療施設と上位 はすべて入所系であった。SW は、老健(2 7. 0%) 、介護福祉施設、在宅サービス(訪問系・ 通所系)の順であった(図Ⅲ‐4) 。3職種を比較すると、介護職は圧倒的に入所型施設で働き、 看護職と SW は、入所型サービス以外の在宅系サービスにも関与することが示された。 図Ⅲ‐3:各職種の合計経験年数 図Ⅲ‐4:各職種の職場形態 (4)宗教の関係について 宗教別では、仏教が最も多く(3 2. 3%) 、道教、神道、キリスト教を合わせると8 0%を超え る。無宗教は1 5. 6%である。(表Ⅲ‐9) 。日々の生活の中での宗教の位置づけについては、「重 要」と考えている人は全体で6割を超えていた。(表Ⅲ‐ 1 0) 。 表Ⅲ‐9:宗教(n=2 8 8) 日常生活における宗教の重要性について、看護職、介護職、 カテゴリ % SW のどの職業の対象者も、過半数以上の人が、重視して 仏教 3 2. 3 いる傾向がみられた(図Ⅲ‐5) 。年齢と宗教については、 神道 1 3. 9 いずれの年代も仏教がもっと多く、次いで道教であるが、 道教 2 2. 9 キリスト教 1 1. 8 イスラム教 0. 0 一方、無宗教は若年層ほど高率となっていた(図Ⅲ‐6) 。 ヒンドゥー教 0. 0 居住地域と宗教についてみると、古くからの中心市街地に その他 3. 5 住む人では仏教が最も多く(3 9. 8%) 、次いで道教、神道 無宗教 1 5. 6 6 0代以上では、キリスト教が仏教と並んで第一位であった。 であった。新興の住宅地域に住む人では同様に仏教が最も 高く、次いで道教、キリスト教であった。農村漁村的な集 落に住む人では道教が最も多く、次いで仏教、キリスト教 であった。しかし、それらについては、統計学的に有意な 差とはいえない(図Ⅲ‐7) 。 表Ⅲ‐ 1 0:宗教の重要性(n=2 8 8) カテゴリ 1 6. 7 やや重要 4 4. 8 あまり重要でない 3 5. 4 全く重要でない ―6 9― % 非常に重要 3. 1 % 6 1. 5 3 8. 5 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 図Ⅲ‐6:宗教の年齢別割合 図Ⅲ‐5:職種による宗教観 図Ⅲ‐7:居住地域の宗教の割合 2.終末期ケアについて ここでは、第一に終末期ケア経験の有無と終末期ケアの希望場所について、第二に積極的治 療希望の有無について、第三に終末期の人工栄養の希望の有無について、第四に治療方針につ いて、第五に家族の最後を誰に看取ってもらいたいかについて、第六に葬儀場所の希望につい て、それぞれ結果を示す。 (1)ケア経験の有無、希望場所など 1)ケア経験の有無、希望場所 表Ⅲ‐ 1 1:家族・職場いづれかの終末期ケア経験 (n=2 8 8) 家族の終末期ケア経験がある人が4 5. 1%、 職場での経験のある人が3 9. 2%で、家族ま たは職場での終末期ケア経験がある人は 5 7. 7%と過半数を超えていた(表Ⅲ‐ 1 1) 。 家族の終末期ケアの希望場所についてみる と、自宅が最も多く(4 8. 6%) 、次いで、 病院、施設などの順で、自分について、家 族とほぼ同様の結果であった(表Ⅲ‐ 1 2) 。 カテゴリ 家族 (%) 職場 (%) 家族と職場 (%) ある 4 5. 1 3 9. 2 いづれか5 7. 7 ない 5 4. 9 6 0. 8 いづれも4 2. 3 表Ⅲ‐ 1 2:家族の終末期ケア希望場所(n=2 8 8) カテゴリ 家族 (%) 自分 (%) 自宅 4 8. 6 5 0. 3 病院 3 1. 9 3 3. 0 施設など 1 6. 3 1 3. 9 3. 1 2. 8 その他 ―7 0― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 2)ケア経験の看護職・介護職・SW の特徴 家族の終末期ケア経験を経験している割合は看護職が最も高く(5 5. 7%) 、次いで介護職 (4 6. 2%) 、SW(4 0. 5%)であった(図Ⅲ‐8) 。一方、職場での終末期ケアを経験している割 合も看護職は(5 8. 2%) 、介護職は(4 3. 8%) 、SW は(2 3. 8%)の順であった(図Ⅲ‐9) 。ま た、 家族と職場の両方の経験者は看護職 (3 8. 0%) 、 介 護 職(3 3. 3%)と SW(9. 5%)で 大 き く 異 なり、職場のみの経験者は看護師、SW、介護 職の順、家族のみの経験者は、SW、看護職、 介護職の順であった。いづれかも経験なしは、 SW、介護職、看護職の順であった。 (Ⅲ‐ 1 0) 図Ⅲ‐ 8:職種別の家族の終末期ケア経験 図Ⅲ‐9:職種別の職場の終末期ケア経験 図Ⅲ‐ 1 0:職種別の終末期ケア経験4区分 3)ケアの希望場所と年代別、同居家族数、居住地域による傾向 家族の終末期ケア希望場所について、看護職は自宅(6 2. 8%) 、施設など(1 6. 7%) 、病院 (1 4. 1%)の順であり、介護職は、病院(4 6. 2%) 、自宅(3 6. 8%) 、施設など(1 6. 0%) 、SW は、自宅(5 4. 8%) 、病院(2 8. 6%) 、施設など(1 4. 3%) (図Ⅲ‐ 1 1)となり、各職種の希望は、 それぞれ異なる傾向にあった。一方、自分の場合の希望場所についても、各職種において家族 の場合と同様の傾向を示す結果となった(図Ⅲ‐ 1 2) 。 年代別にみると、ほとんどの年代において家族の場合と自分の場合とで同じ傾向を示してい るが、6 0代以上では自分の場合と比べ、家族には病院での終末期ケアを望む傾向がみられた。 また、2 0代・3 0代の若い人は、入院より自宅でのケアを望む傾向がみられた(図Ⅲ‐ 1 3) 。 同居家族数ごとの家族と自分の終末期ケア希望場所は、いずれの場合も二人以上の場合は自 宅が最も多かったが、9人以上の家族では顕著な差で自宅が高かった。一方、一人暮らしでは 病院が最も高かった(図Ⅲ‐ 1 4) 。またどの居住地域でも終末期ケア希望場所は自宅が最も多く、 ―7 1― 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 次いで病院、施設などであり、自分の場合についても同様の傾向であった(図Ⅲ‐1 5) 。 宗教別では、全ての宗教で自宅が最も多く、次いで病院、施設などであり、自分の場合も同 様の傾向で、家族・自分のいずれの場合も宗教間に大きな差はなかった。(図Ⅲ‐ 1 6) 。 図Ⅲ‐ 1 1:職種別の家族の終末期ケア希望場所 図Ⅲ‐ 1 2:職種別の自分の終末期ケア希望場所 図Ⅲ‐ 1 3:年齢×家族の終末期ケア希望場所 図Ⅲ‐ 1 4:同居家族数×家族の終末期ケア希望場 図Ⅲ‐ 1 5:居住地域×家族の終末期ケア希望場所 図Ⅲ‐ 1 6:宗教×家族の終末期ケア希望場所 (2)積極的治療希望の有無 家族が「不治の病」と宣告された場合の積極的治療希望の有無について、望む人は53. 7%、 望まない人は3 9. 2%(表Ⅲ‐ 1 3) 、自分の場合、望む人は4 7. 2%、望まない人は4 6. 2%(表Ⅲ‐ 1 4)であり、若干自分より家族に対して積極的治療を望む傾向が見られた。職種別にみると、 看護職では、家族に対して望む割合は3 9. 7%、介護職では6 3. 1%、SW では5 6. 1%であった(図 Ⅲ‐ 1 7) 。自分の場合も同様で、望む割合は看護職で低く、介護職では高かった。宗教別にみる と、無宗教を除けば、宗教ごとの大きな差は見られなかった(図Ⅲ‐ 1 8) 。 ―7 2― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 表Ⅲ‐ 1 4:自分への積極的治療希望の有無 (n=2 8 8) 表Ⅲ‐ 1 3:家族への積極的治療希望 (n=2 8 3) カテゴリ % かなり望む 1 8. 4 やや望む 3 5. 3 あまり望まない 2 9. 7 全く望まない 9. 5 分からない 7. 1 % カテゴリ 5 3. 7 3 9. 2 7. 1 % % かなり望む 1 4. 9 やや望む 3 2. 3 あまり望まない 2 6. 4 全く望まない 1 9. 8 分からない 4 7. 2 4 6. 2 6. 6 7. 1 図Ⅲ‐ 1 8:宗教と家族への積極的治療の希望の有無 図Ⅲ‐ 1 7:職種による積極的治療の希望の有無 (3)人工栄養の希望の有無 もし家族が終末期に「食事が食べられない状態」になったときに人工栄養(経鼻栄養や胃ろ うなど)を望むかどうかについて、望む人、望まない人はほぼ同率の半数であった(表Ⅲ‐1 5) 。 一方、自分の場合に望む人は3 8. 2%で、自分 表Ⅲ‐ 1 5:家族/自分への人工栄養希望 (n=2 8 7) 家族 より家族に対して人工栄養を望む傾向がみら カテゴリ れた。 % かなり望む 1 5. 7 やや望む 3 2. 8 (5 0. 7%) 、介護職(5 0. 5%) 、SW(4 1. 5%) あまり望まない 3 5. 2 と約半数が望むと回答した(図Ⅲ‐ 1 9) 。自分 全く望まない 1 3. 2 職種別にみると、家族に対しては、看護職 の場合は、家族よりもやや低いが、同様に職 分からない 3. 1 自分 % 4 8. 5 4 8. 4 3. 1 % 7. 6 3 0. 6 3 5. 4 2 2. 9 3. 5 % 3 8. 2 5 8. 3 3. 5 種間での傾向の差はほとんどなかった。 居住地域別の結果では、家族に対して、古 くからの中心市街地と新興の住宅地域に比べ、 農村漁村的な集落では、自分と家族双方とも に、強く望む割合が、他の地域に比べて大き く出る結果が得られた。 (図Ⅲ‐ 2 0) (図Ⅲ‐ 2 1) 。 図Ⅲ‐ 1 9:職種別×家族への人工栄養希望有無 ―7 3― 福井県立大学論集 図Ⅲ‐ 2 0:居住地域×家族への人工栄養希望有無 第44号 2 0 1 5. 2 図Ⅲ‐ 2 1:居住地域×自分への人工栄養希望有無 (4)治療方針について 利用者の治療方針に関して「本人の生前の希望と家族の意見が異なる場合にどのように対応 したいと考えるか」については、全職員では、「本人の意思を優先」が41. 6%、「家族の意志 を優先」が1 5. 4%、「専門家の意見を優先」が3 9. 5%、「その他」が3. 5%であった(表Ⅲ‐ 1 6) 。 職種別の比較では、看護職と SW では本人の意思を尊重し(5 7. 1%、5 2. 4%) 、介護職は医療 専門家の意見を優先する(5 1. 9%)傾向がみられた(図Ⅲ‐2 2) 。 表Ⅲ‐ 1 6:意見が違う場合の対応(n=2 8 6) カテゴリ 表Ⅲ‐ 1 7:家族を看取る人 第一希望 (n=2 8 9) % カテゴリ 本人の意思を優先 4 1. 6 家族 家族の意志を優先 1 5. 4 親しい人や友人 専門家の意見を優先 3 9. 5 その他 医療関係者(医師・看護師) 世話をしてくれている介護士・ヘルパー等 3. 5 その他 % 7 8. 5 3. 8 6. 6 1 0. 0 1. 0 (5)家族の最後を誰に看取ってもらいたいか 家族の最後を看取る人の希望について、第一希望では家族が最も多く(7 8. 5%) 、次に介護 職(1 0. 0%) 、医療関係者(医師・看護師) (6. 6%)と大差があった(表Ⅲ‐ 1 7) 。職種別希望 では、看護職、介護職、SW ともに「家族」を第一希望とする割合が最も高かった(図Ⅲ‐ 2 3) 。 一方、第二希望では、介護職と SW がそれぞれ 5 0. 0%、4 8. 6%と介護士やヘルパーなどの介護 職を一番に挙げている。看護職は、友人と介護 職が3 5. 6%で同率であった(図Ⅲ‐ 2 4) 。 図Ⅲ‐ 2 2:職種別の治療方針が異なる場合の対応 ―7 4― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 図Ⅲ‐ 2 4:職種別の家族を看取る人の第二希望 図Ⅲ‐ 2 3:職種別の家族を看取る人の第一希望 家族の看取りを行う人の第一希望を居住地域にみると、全ての居住地域で家族が最も多く、 介護士・ヘルパー等がこれに次いだ。農村部においては市街地・住宅地より介護士等を希望す る割合が高かった(図Ⅲ‐2 5) 。ただし、第一希望については統計学的に有意な結果とはいえな い。居住形態別にみると、家族を看取る人の第一希望について、すべての形態で家族であった が、借家・アパート等の居住形態では、施設や医療機関の比率が他と比べて高かった(図Ⅲ‐ 2 6) 。 図Ⅲ‐ 2 5:居住地域×家族を看取る人の第一希望 図Ⅲ‐ 2 6:居住形態×家族を看取る人の第二希望 (6)葬儀場所の希望 家族の葬儀場所の希望は全体では自宅が最も多(4 5. 5%)かったが、葬祭場・宗教施設等も ほとんど同比率(4 3. 1%)であった(表Ⅲ‐ 1 8) 。家族の葬儀場所を職業別に比較すると、看護 職では自宅が最も高く、葬祭場・宗教施設がこれに次いだ。介護職は葬祭場・宗教施設が最も 高く、自宅がこれに次いだ。SW は、自宅と葬祭場・宗教施設が同割合で最も高かった(4 7. 6%) (図Ⅲ‐ 2 7) 。家族の葬儀の希望場所は、同居家族数ごとにみると、一人暮らし、二人暮らし、 3∼5人暮らしの人では、葬祭場・宗教施設などの割合が自宅より高く、9人以上(8 0%) 、 6‐8人(5 6. 9%)と家族数の多い世帯では、自宅の希望が高かった(図Ⅲ‐ 2 8) 。居住地域ごと ―7 5― 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 にみると、古くからの中心市街地に住む人、新 表Ⅲ‐ 1 8:家族の葬儀場所希望(n=2 8 8) カテゴリ 興の住宅地域に住む人では、葬祭場・宗教施設 などを希望する割合が最も高く、農村漁村的な 集落に住む人では自宅を希望する人の割合が最 % 自宅 4 5. 5 葬祭場・宗教施設など 4 3. 1 施設や医療機関(看取った場所) 1. 0 も高かった(図Ⅲ‐ 2 9) 。ただし、有意な差とは 地域の集会場 0. 3 いえない。居住形態ごとにみると、持ち家・一 その他 3. 1 どこでもよい 4. 9 葬儀は不要 2. 1 戸建ての人は自宅が最も高く、賃貸・一戸建て、 賃貸・集合住宅の人は葬祭場・宗教施設の比率 が最も高かった(図Ⅲ‐ 3 0) 。宗教による比較で は、仏教では自宅、神道では自宅と葬祭場・宗 教施設など、道教では葬祭場等が最も高く、キ リスト教では葬祭場等、無宗教では葬祭場等が 最も高かった(図Ⅲ‐ 3 1) 。ただし、統計学的に 有意な差とはいえない。 図Ⅲ−2 7:職種×家族の葬儀を行いたい場所 図Ⅲ‐ 2 8:同居家族数×家族の葬儀希望場 図Ⅲ‐ 2 9:居住地域×家族の葬儀希望場所 図Ⅲ‐ 3 0:居住形態×家族の葬儀を行いたい場所 図Ⅲ‐ 3 1:宗教×家族の葬儀を行いたい場所 ―7 6― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 3.看取り観について 2つの下位尺度は「Ⅰ.死にゆく患者へのケアの前向きさ」 、 「Ⅱ.患者・家族を中心とする ケアの認識」と命名されている。「Ⅰ.死にゆく患者へのケアの前向きさ」は、死にゆく患者 へのケアに対し、恐れない態度、死にゆく患者のケアに価値を見出す態度などの16項目で構成 されている。「Ⅱ.患者・家族を中心とするケアの認識」は、家族が患者をサポートすること の必要性の認識、患者の利益/意思決定を尊重する態度、家族へのケアに対する考え方からな る1 3項目で構成されている。 (1)職種と「死にゆく患者のケアの前向きさ」と「患者・家族を中心とするケアの認識」 、 「総 得点」の関係(表Ⅲ‐ 1 9) 1)看取り観の下位尺度の関係 一元配置分散分析の結果、「死にゆく患者へのケアの前向きさ」と「総得点」に関して、1% 水準で有意差があった。また、「患者・家族を中心とするケアの意識」に関して5%水準で有 意差がみられた。 2)看取り観と各職種の比較 Bonferroni 法による多重比較の結果、「死にゆく患者へのケアの前向きさ」と「総得点」に 関して、看護職と介護職の間に、1%水準で有意差があった。また、「患者・家族を中心とす るケアの認識」に関して、看護職と介護職の間に、5%水準で有意差があった。 (2)看取り経験の有無と看取り観 1)看取り経験の有無によって看取り観に有意差あり(表Ⅲ‐ 2 0) 看取り経験の有無によって、看取り観に差があるかについて、t検定を行ったところ、死に ゆく患者へのケアの前向きさ、患者・家族を中心とするケアの認識、総得点のすべての項目で、 1%水準で有意差があった。 2)看取り経験の有無が看取り観に与える影響は職種間で異なる(表Ⅲ‐ 2 1) 職種別で、死にゆく患者へのケアの前向きさ、患者・家族を中心とするケアの認識、総得点 において、t検定を実施したところ、看護職では、患者・家族を中心とするケア意識の平均値 について有意差が見られなかったが、介護職では、有意差が得られた。また、SW においても 有意差が得られた。 以上より、看護職では、看取り経験の有無に左右されず、患者・家族を中心とするケア意識 は変わらず持っており、介護職と SW では、看取り経験がある人は、ない人よりもケア意識が 高いといえる。また、看取り経験の有無は、どんな看取り観にも共通して影響を及ぼしていた。 ―7 7― 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 表Ⅲ‐ 1 9:職種と看取り観の関係 死にゆく患者へのケアの前向きさ 患者・家族を中心とするケアの認識 看護職 5 6. 1 8 4 8. 6 2 度数 7 8 7 6 7 6 6. 6 9 9 1 2. 4 4 4 標準偏差 9. 1 3 1 平均値 介護職 5 2. 1 7 度数 1 0 6 標準偏差 9 8. 1 3 9 9 9 9 5. 0 1 7 5 4. 4 0 4 7. 1 2 4 2 4 1 6. 7 1 0 平均値 度数 4 7. 2 5 2 2 6 標準偏差 2 1 6 8. 3 8 9 1 0. 7 7 1 1 0 1. 6 3 4 1 6. 5 6 2 5 3. 9 7 1 0 4. 8 0 4 6. 2 5 8. 0 6 8 平均値 ソーシャル 度数 ワーカー 標準偏差 全体 総得点 平均値 1 1. 8 7 0 1 0 1. 1 4 2 1 6 6. 0 2 2 1 1. 9 1 9 表Ⅲ‐ 2 0:看取り経験の有無と看取り観の関係 度数 平均値 標準偏差 死にゆく患者への ケアの前向きさ いずれかで看取り経験あり 1 6 4 5 5. 2 6 8. 5 9 2 いずれでも看取り経験無し 1 1 9 5 1. 4 6 6. 8 0 2 患者・家族を中心 とするケアの認識 いずれかで看取り経験あり 1 5 9 4 8. 3 4 5. 9 8 6 いずれでも看取り経験無し 1 1 2 4 5. 3 2 5. 5 1 7 いずれかで看取り経験あり 1 5 9 1 03. 5 2 1 2. 1 9 1 いずれでも看取り経験無し 1 1 2 9 6. 8 8 1 0. 0 6 8 総得点 有意確率 (両側) 0. 0 0 0 0. 0 0 0 0. 0 0 0 4.死生観について (1)死生観の7因子間における相関関係 死生観の7因子の間には1 3の有意な相関関係が確認され、この内1 1が正の相関であった。 1) 「死後の世界観」との相関 「死後の世界観」と相関がみられるのは、「死への恐怖・不安」 、 「解放としての死」 、 「人生 における目的意識」 、 「寿命観」であり、死後の世界の存在を信じている人ほど、死をおそれな がらも、死を苦しみからの解放と捉え、生きている理由を明確にし、寿命を受け入れる傾向が みられた。 2) 「死への恐怖」との相関 「死への恐怖」との相関は、「死後の世界観」 、 「死からの回避」で見られ、「死からの回避」 との間には、0. 4 5 8という比較的大きな相関が確認された。死を恐れている人ほど、死につい て考えることを回避する傾向が強い。 3) 「解放としての死」との相関 「解放としての死」との相関は「死後の世界観」 、 「死からの回避」 、 「人生における目的意識」 、 ―7 8― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 表Ⅲ‐ 2 1:看取り経験の有無と看取り観 看護職 死にゆく 患者への ケアの 前向きさ 介護職 ソーシャル ワーカー 看護職 患者・家族 を中心と 介護職 するケアの 認識 ソーシャル ワーカー 看護職 総得点 介護職 ソーシャル ワーカー 度数 平均値 標準偏差 いずれかで看取り経験あり 6 0 5 6. 8 5 9. 6 0 7 いずれでも看取り経験無し 1 8 5 3. 9 4 7. 1 0 0 いずれかで看取り経験あり 6 0 5 3. 8 3 8. 6 8 7 いずれでも看取り経験無し 4 5 5 0. 2 7 6. 4 8 9 いずれかで看取り経験あり 2 3 5 6. 3 5 6. 5 8 2 いずれでも看取り経験無し 1 9 5 2. 0 5 6. 2 4 0 いずれかで看取り経験あり 5 9 4 9. 1 9 6. 8 7 2 いずれでも看取り経験無し 1 7 4 6. 6 5 5. 8 2 0 いずれかで看取り経験あり 5 7 4 7. 3 7 5. 3 7 4 いずれでも看取り経験無し 4 1 4 4. 5 9 4. 0 0 6 いずれかで看取り経験あり 2 2 4 9. 5 5 4. 6 4 7 いずれでも看取り経験無し 1 9 4 4. 3 2 7. 4 1 7 いずれかで見取り経験あり 5 9 1 0 6. 1 7 1 3. 1 0 6 いずれでも看取り経験無し 1 7 1 0 0. 0 6 8. 5 1 1 いずれかで看取り経験あり 5 7 1 0 0. 7 0 1 1. 9 2 5 いずれでも看取り経験無し 4 1 9 4. 7 8 7. 8 8 2 いずれかで看取り経験あり 2 2 1 0 6. 1 8 1 0. 2 0 6 いずれでも看取り経験無し 1 9 9 6. 3 7 1 1. 7 0 6 有意確率 (両側) 0. 2 3 9 0. 0 1 8 0. 0 3 7 0. 1 7 0 0. 0 0 4 0. 0 0 9 0. 0 2 8 0. 0 0 4 0. 0 0 7 「寿命観」で見られた。 4) 「死からの回避」との相関 「死からの回避」と「人生における目的意識」 、 「死への関心」との間には負の相関がみられ、 死について考えることを回避しない人ほど、生きている理由を明確にしている傾向がみられた。 5) 「人生における目的意識」との相関 「人生における目的意識」と「死への関心」、 「寿命観」では、いずれも正の相関があり、生 きる理由を明確にしている人ほど、死への関心が高く寿命を受け入れる傾向がみられた。 (2)各職種と死生観の関係(表Ⅲ‐ 2 2) 1)各職種と因子間の一元配置分散分析の結果 「死後の世界観」 、 「死からの回避」 、 「寿命観」の3項目に関して看護職と介護職、SW 間に、 1%水準で、「死への関心」に5%水準で、それぞれ有意差があった。 2)各因子と職種間の Bonfferroni の多重比較の結果 次の3項目に有意な差が見られた。 ①「死後の世界観」に関して、看護職と他の2職種の間に1%水準で有意差があった。 ②「死からの回避」に関して、看護職と介護職の間に1%水準で有意差があった。また、 看護職と SW の間に5%水準で、有意差があった。 ―7 9― 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 ③「死への関心」に関して、看護職と介護職の間に5%水準で有意差があった。 表Ⅲ‐ 2 2:職種と死生観の関係 平均値 看護職 介護職 度数 死への恐怖 解放 としての死 死からの 回避 2 1. 8 8 1 4. 8 8 1 9. 1 0 1 1. 8 6 人生の目的 死への関心 意識 2 0. 9 2 1 5. 8 6 寿命観 1 5. 0 6 7 8 7 8 7 9 7 9 7 9 7 9 7 9 標準偏差 4. 9 3 1 6. 9 9 3 6. 3 1 4 6. 1 7 4 4. 3 7 9 5. 9 7 6 4. 5 2 2 平均値 1 8. 9 6 1 4. 2 3 1 9. 6 0 1 6. 5 1 2 0. 4 4 1 3. 5 3 1 2. 7 1 1 0 5 1 0 6 1 0 2 1 0 4 1 0 3 1 0 5 1 0 6 標準偏差 4. 3 5 4 5. 3 6 0 5. 2 6 6 6. 0 8 7 4. 2 7 2 5. 4 9 7 4. 3 6 9 平均値 1 9. 0 5 1 4. 9 5 1 7. 7 8 1 5. 0 2 2 1. 1 2 1 4. 5 1 1 3. 2 0 4 2 4 0 4 0 4 1 4 1 4 1 4 1 5. 1 1 3 4. 7 9 3 5. 5 4 9 6. 0 8 5 2 0. 7 4 0 5. 0 6 5 3. 7 7 6 1 9. 9 9 1 4. 5 8 1 9. 0 9 1 4. 6 0 2 0. 7 4 1 4. 5 3 1 3. 6 2 度数 ソーシャル 度数 ワーカー 標準偏差 平均値 全体 死後の 世界観 度数 標準偏差 2 2 5 2 2 4 2 2 1 2 2 4 2 2 3 2 2 5 2 2 6 4. 8 8 4 5. 8 7 8 5. 7 2 3 6. 4 4 0 4. 1 2 5 5. 6 6 9 4. 4 3 7 5.看取り観と死生観 第一に、看取り観(総得点および下位尺度2項目( 「看取り観の前向きさ」 、 「看取り観認識」 ) と死生観の7因子、これらに影響することが予想される因子としての年齢、日々の生活に占め る宗教の位置(以下「宗教観」と略す) 、現在の職場での経験年数(以下「経験」と略す)の 関係性を Spearman の順位相関係数を用いて分析した。 次に、看護職・介護職・SW による看取り観と死生観について、分析した。(表Ⅲ‐ 2 3) 総得点と②死への恐怖・不安、④死からの回避との各間、「Ⅰ看取り観の前向きさ」と②死 への恐怖・不安、④死からの回避との各間、「Ⅱ看取り観認識」と④死からの回避との間に負 の相関関係が見られた。また、総得点と⑤人生における目的意識との間、「Ⅰ看取り観の前向 きさ」と⑤人生における目的意識との間、「Ⅱ看取り観認識」と⑤人生における目的意識との 間に正の相関が確認された。 宗教観と看取り観との間には有意な相関は見られなかった。宗教観と⑤人生における目的意 識、⑥死への関心との各間に負の相関がみられた。つまり、日常生活に占める宗教の位置づけ が低い人ほど、人生の意義や目的を明確にイメージできず、死への関心が低く、前向きな看取 りや患者の意思決定を尊重するケアができない傾向がみられた。年齢と看取り観・死生観との 間には大きな相関はみられなかった。 経験年数と総得点、「Ⅰ看取り観の前向きさ」 、 「Ⅱ看取り観認識」との各間には正の相関が みられた。経験を重ねた人ほど前向きな看取りや患者中心のケアができている傾向がみられた。 また、経験年数と死生観の結びつきについては、大きな相関は見られなかった。 ―8 0― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 表Ⅲ‐ 2 3:看取り観と死生観と年齢、宗教観、経験年数の関係 Ⅳ 考察 ―台湾の終末期ケアに関する看取り観・死生観の特徴 1.看護職・介護職・SW の背景の特徴 (1)各職種と職種の継続経験と年齢、職種の形態 看護職では全体の半数近くが1 0年以上、6 5%近くが5年以上仕事を継続しており、年齢は3 0 代半ばが最も多い。看護職は、経験を積み重ね、専門性が確立している職種であることが予測 できる。これに比べて介護職では、全体の4 0%以上が3年未満の経験者で、年齢は4 0代半ばと 比較的高いという特徴がある。経験の積み重ねの構築が難しく、転職者が多い職種であること が推測される。また、SW は5 5%近くが3年未満の経験者であったが年齢層は介護職に次いで 高く、ベテランと駆け出しが混在していると予測できる。 職場形態は、介護職の職場は圧倒的に入所施設だが、看護職は老健が過半数で、次に多いの は通所・訪問系の在宅サービスである。SW も看護職同様、老健が第一位だったが、これに続 くのは介護福祉施設、次に在宅サービスの順であった。在宅サービスにも看護職、SW が関与 する割合が高いのは職種別でみた場合の台湾の特徴の一つであろう。 経験年数は看取り観において、重要なファクターの一つとなっていた。どんな職種でも職業 としての経験のキャリアが重要であり、職種として積み重ねることができる待遇面、給与面の 環境整備が重要となる。経験年数が長いほど看取り観の得点が大きい結果が示されたが、看護 職は、前述したように3職種の中で最も経験年数が高いことがその理由となっている。 ―8 1― 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 (2)各職種の看取り経験の有無が看取り観に及ぼす影響 台湾において、職場での終末期ケア経験がある者の割合は、看護職、介護職、SW の順に高 く、3職種計では3 9. 2%であった。家族の終末期ケア経験の有無も同様に、看護職、介護職、 SW の順に高く、3職種を合わせると4 5. 1%である。これらを職場または家族の終末期ケア経 験の有無として見た場合、57. 7%の人が職場または自宅で看取り経験を有していた。 この結果は、自宅死の割合が比較的高い台湾では、看護職、介護職、SW の約半数近くが、 家族の終末期ケアの経験を有していることを裏付けたと解釈できるだろう。また、介護職と SW は看取り経験の有無と看取り経験の前向きさに相関関係が見られ、看取り経験のある介護職と SW は、看取り経験のない介護職と SW よりケア意識が高いといえる結果となった。 一方、看護職では、看取り経験の有無と看取り観との間には関連性が見られなかった。つま り、介護職と SW の看取り観は、経験の有無によって左右されるが看護職は看取り経験の有無 には左右されない。 看護職の看取り観の得点は、介護職・SW に比べて高く、しかも、看取り経験の有無の影響 を受けない。その背景として、専門職としての体系的な教育トレーニングの存在が推察される。 (3)台湾における SW の配置率 日本においては、高齢者ケアの現場では、介護職、看護職が中心的な位置を占めており、日 本で相談員と呼ばれている SW は、ほんの一握りである8)。しかし、今回の調査では、調査対 象者の高齢者ケアに関わる医療、福祉職の中で、SW が全体の1 8. 5%を占めているという結果 が示された。前述した日本の状況と比較すると、台湾の高齢者ケアの現場において、SW が2 0% 弱という配置は、かなり大きい比率であることが推察できる。近年、台湾において、高齢者福 祉や児童福祉分野等での SW のニーズが高まっているという宮本の報告はその裏付けの一端を 示していると考えられる(宮本2 0 1 3) 。 2.終末期ケアの特徴 (1)終末期ケアの希望場所と希望する人 家族の終末期ケアを受けたい場所については、東アジアの国と地域の中では、自宅死の比率 の最も高い台湾において、自宅で受けたい人の割合が半数近くになるのは当然の結果であろう。 一方、職種別にその特徴をみると、看護職が終末期ケアを受けたい場所は、家族に対しては、 ①自宅、②施設、③病院の順であったが、介護職は、①病院、②自宅、③施設の順、SW は、 ①自宅、②病院、③施設の順であった。この結果から、医療職である看護職にもまして、福祉 職である介護職と SW は、それぞれ病院を第一、第二に挙げ、医療に対する期待度が高いと考 えていると分析できた。また、自分の場合も同様であった。 また、看取りの希望について、第一に家族を希望する割合が圧倒的に高いが、二番目に、日々 ―8 2― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 の世話をしてくれる介護職であるヘルパーに看取りを希望する人が挙げられていた。この結果 は、台湾において、在宅の場をはじめ病院や施設などの現場において貢献している20万人近い 外国人ヘルパーの存在との関わりが深いことが予測され、台湾の高齢者ケアの特徴の一つであ ると思われる。 家族数との関係では、一人暮らしは病院、二人以上の家族では自宅、9人以上では顕著な差 で、自宅において終末期ケアを希望しており、終末期ケアと家族の関係が大きいことが示され た。 (2)積極的治療の有無 家族が「不治の病」と宣告されたとしたら最後まで積極的治療を望むかどうかについて、全 体では、望む人は半数を超えていた。自分に対しては、望むと望まないが約半数ずつで拮抗し ていた。 さらに、これを職種別にみると、積極的治療希望を望む割合は、家族に対して看護職の希望 は4割程度であり、介護職と SW は6割前後であった。自分に対しても同様に、看護職が希望 する割合は低く、介護職が高かった。 医療専門職の看護職は、医療での現場経験を通して、延命措置をすることを回避しようとす る傾向がみられると解釈できる。一方で、福祉職の介護職、SW は、医療への期待度が高いこ とが読み取れた。 (3)人工栄養の希望の有無と経鼻栄養、胃ろう もし家族が終末期に「食事が食べられない状態」になったときに人工栄養を望むかについて は、望む人と望まない人はいづれも5割前後であり、職種による有意差は認められなかった。 自分より家族に対して人工栄養を望む傾向にあった。 同じ人工栄養でも、台湾の場合の人工栄養はほとんどが経鼻栄養を意味するのに対し、日本 では多くの場合、胃ろうを意味する。経鼻栄養は開始・中止が簡単であるが、胃ろうの場合は、 胃ろう増設のために入院や手術が必要である。中止する場合も同様である。この違いは、人工 栄養の希望の有無を比較する際に考慮する必要があるだろう。 (4)終末期の治療方針の決定 家族の終末期の治療方針決定を誰が行うかについては、全体では、本人の意思を優先するが 圧倒的に多く、次に医療などの専門家、家族の順であった。これを職種別に分析すると、看護 職と SW は本人の意思が過半数を超え、介護職では医療などの専門家が過半数を超えるという 結果となり、職種による違いが見られた。 (5)宗教の存在 台湾において、日々の生活の中で宗教は重要であると考えられ、どの医療・福祉関係職種も 宗教に関して、日常生活における宗教の存在を重視している。最も多いのは仏教で、次に道教 ―8 3― 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 が続いた。また、6 0才代はキリスト教が仏教と並んで高かった。一方、無宗教は、若年層ほど 高率であった。 古くからの市街地や新興住宅地域に住む人は仏教の割合が高く、農村的な集落に住む人は道 教が多い。 当初、台湾において、宗教は様々な意思決定時に大きな影響を及ぼすことを予測したが、ア ンケート結果では、それほど大きな関係性は認められなかった。 3.職種と看取り観、死生観、宗教観 死生観に関しては、看護職が「死後の世界観」で他の2職種より、「死への関心」と「寿命 観」で介護職より、それぞれ有意に得点が高かった。「死からの回避」に関しては、介護職と SW が、看護職より死を回避する傾向にあることが分かった。看取り観に関して、「死にゆく ケアの前向きさ」、 「患者・家族を中心とするケア意識」のいづれでも、看護職、SW、介護職 の順で得点が高く、看護職と介護職の間には、有意差が見られた。さらに SW は福祉職である が、介護職に比べれば、医療職である看護職に近い傾向を示していた。これらの結果から、台 湾の高齢者ケアを担う医療・福祉専門職の中で、看護職は前向きな看取りを行う専門職として 大きな存在観があることが確認できた。しかし一方で、今後は、当分野において絶対数の最も 多い介護職の看取りに対するケアの質を高めてゆく必要があることが示唆される。 台湾において日常生活に根付いている宗教に関しては、宗教を重要であると考える者ほど、 死生観に関して「死への恐怖」 、 「死からの回避」以外の得点が高く、看取り観の得点も高かっ た。どの医療・福祉関係職種も宗教に関して、日常生活における宗教の存在を重視していた。 そこで、台湾において、宗教は様々な意思決定時に大きな影響を及ぼすことが予測されたが、 分析結果からは、大きな影響関係は確認されなかった。看取り観との相関関係の大きさは0. 1 5 前後に止まり、直接には影響関係はさほど大きいとは言いがたい。 Ⅴ 終わりに 今回の質問紙では、基本属性、終末期ケアに関する死生観、看取り観を問い、複合的な視点 からデータを収集した。分析は、2変量間の関係に重点を置き、看取り観に影響を与える要因 の絞り込みを中心に行った。これらのことから、死と向かい合うことを回避することなく、最 も積極的に終末期ケアに取り組んでいるのが医療職としての看護職であり、それに比べて、積 極性が乏しいのが福祉職としての介護職であった。 今後の課題として、今回明らかになった要因間の影響関係を多変量解析の手法を用いて、明 確にしていくことが挙げられる。 本論文では、台湾の関係者を対象にしたアンケート結果をまとめたが、今後は、日本の関係 ―8 4― 台湾の高齢者の終末期ケアに関する看取り観・死生観 者との比較分析を行う一方、各国の関係者の看取り観、死生観の共通点や相違点を導き出し、 国際比較をしていく予定である。国際比較を行うことで、日本の高齢者の看取りケアに関する ケアの質を高める一助となるだけでなく、 東アジア地域の高齢者の終末期ケアに関わる看護職・ 介護職・SW が、より QOL の高い終末期ケアを行うための一助となると考えている。 謝辞 今回のアンケート調査にご協力いただきました台湾の関係者の皆様に心より感謝申し上げたい。 〔付記〕 本研究は科研費「挑戦的萌芽研究」 (H2 4∼H2 6「 )国際化に対応する『看取りケア』の再構築 に関する研究−東アジアの介護労働者の死生観と看取りケアに対する意識、実践知を手がかり に」の研究成果の一部である。 <注> 1)近年、後期高齢者は、前期高齢者の伸びを上回る増加数で推移している(総務省統計局2 0 1 4) 。 2)介護保険制度改革の概要−介護保険改正と介護報酬改定(厚生労働省)介護保険法等の一部を改正す る法律:平成1 8年4月(ただし、施設給付の見直しについては平成1 7年1 0月施行) . 3)日本では、“看護職”とは主に国家資格を有する看護師、保健師、助産師、准看護師を指す。台湾で も日本とほぼ同様の国家資格制度が存在する。そこで、本論文では、“看護職”は、日本と同様の有資 格者の医療職として働く看護専門職を指す。 4)日本では、介護職員は介護福祉士の国家資格合格者の介護福祉士、所定時間の研修と実技の修了者で 都道府県の認定資格をもつホームヘルパー(訪問介護士)であるが、日本以外のアジア諸国では、介護 者に関して国家資格の制度はない。本論文では、資格の有無を問わず、介護労働に携わる職員を“介護 職”と表記する。 5)台湾では、ソーシャルワーカーの有資格者は“政府認定ソーシャルワーカー”と名乗れるが合格率は 低い。そこで、社会福祉系の大学卒業者が、高齢者施設で未認定のソーシャルワーカーとして働いてい る例も多い(宮本2 0 1 3) 。 本論文では資格の有無を問わず、高齢者や障がい者の直接ケアにあたる介護職 員と区別し、患者や家族との調整や事務手続きなどを行い、ソーシャルワーカーと標榜している職員を ソーシャルワーカー(SW)と表記する。 6)台湾の医療法(Medical Law)の第5 2条第2項に、延命治療を拒否し、最期を自宅で迎えることを希 望をする場合、患者本人または家族がその意思を文書に示すことで退院できると規定されている。 7)外省人とは、戦前、国民党兵士として中国大陸から台湾に渡り、独身のまま老年期を迎えた「老兵」 あるいは「栄民」と呼ばれる退役軍人である。 8)平成2 4年3月に出された公益社団法人全国老人保健施設協会の「介護老人保健施設が持つ多機能の一 環としての看取りのあり方に関する調査研究事業 報告書」施設の従業員数平均値(8頁)では、看護 職1 1. 1 4人(看護師5. 1 9人、准看護師5. 9 5人)介護職3 1. 4 3人に対して、支援相談員は1. 8 5人(うち社会 福祉士は0. 9 7人)となっている。 ―8 5― 福井県立大学論集 第44号 2 0 1 5. 2 <参考文献> ・長谷川和夫(2 0 1 1) 「日本の看取り、世界の看取り」 『在宅介護・医療と看取りに関する国際比較研究』 国際長寿センター, (www.ilcjapan.org/about/doc/report22.pdf,2014.5.1) . ・早坂寿美(2 0 1 0) 「介護職員の死生観と看取り後の悲嘆心理―看護師との比較から」 『北海道文教大学研 究紀要』3 4, 2 5 ‐ 3 2. ・平井啓,坂口幸弘,安部幸志ほか(2 0 0 0) 「死生観に関する研究」 『死の臨床』2 3 (1) , 7 1 ‐ 7 6. ・厚生労働省(2 0 1 4) 「死亡場所の推移」 「人口動態調査」医療介護の連携について(その2) , (www.mhlw. go.jp/stf/shingi/...att/2r98520000010l2k.pdf,2014.4.20) . ・小林明子・酒井美和(2 0 1 3) 「台湾における高齢化と高齢者ケアの現状」 『人間福祉学会誌』1 3 (1) , 2 5 ‐ 3 3. ・埋橋・木村・戸谷編(2 0 0 9) 『東アジアの社会保障』ナカニシヤ出版. ・宮本義信(2 0 1 0) 「台湾における「老人社区」 (退職者コミュニティ)の新傾向」 『同志社女子大学学術 研究年報』6 1, 8 1. ・宮本義信(2 0 1 3) 「台湾における政府認定ソーシャルワーカーの動向―高まる『社会工作師』の需要」 『同 志社女子大学学術研究年報』4 7, 1 ‐ 1 0. ・中井裕子,宮下光令,笹原朋代・ほか(2 0 0 8年) 「Frommelt のターミナルケア態度尺度 日本語版(FATCOD−B−J)の因子構造と信頼性の検討―尺度翻訳から一般病院での看護師調査、短縮版の作成まで」 『がん看護』1 1 (6) , 7 2 3 ‐ 9. ・大泉啓一郎(2 0 0 7) 『老いてゆくアジア』中公新書. ・「北京週報日本語版」 (2 0 0 9年1月1 6日) ( ,japanese.beijingreview.com.cn/yzds/txt/2009−01/.../content_174887. htm,2014.5.1) . ・総務省統計局(2 0 1 4) 「高齢者の人口」 (http : //www.stat.go.jp/data/topics/topi181.htm(2014.4.20) . ・鍾宜錚(2 0 1 3) 「台湾における終末期医療の議論と『自然死』の法制化―終末期退院の慣行から安寧緩 和医療法へ」 『生命倫理』2 3 (1) , 2 4, 1 1 5 ‐ 2 4. ・陳真鳴(2 0 0 7) 「台湾の介護サービスとホームヘルパー」 『日本台湾学会』 (9) , 2 1 7 ‐ 3 0. ・内田富美江(2 0 0 8) 「介護福祉養成教育における死と看取り教育の必要性」 『川崎医療短期大学紀要』 2 8, 5 3 ‐ 5 8. ―8 6―