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記憶 (Memory)
2012/11/6 記憶 (Y. I.) 記 憶 (Memory) ☆ 本章の目標 ① 記憶に関する概念、および、記憶の 3システムを理解する。 ② 忘却を生じさせる要因を理解する。 ☆ Key Words 2 1 • 記憶の種類 味 (リンゴ、桃) 匂い (石鹸、タバコ) 皮膚感覚 (畳、グラス) 聴覚的 (蝉の鳴き声、滝の音) 視覚的 (佐々木希の顔、自宅の玄関) 操作的 (ネクタイ) 知的操作 (かけ算) スクリプト (履修登録の手順) ☆ 重要な用語の定義 記憶 (memory)とは、 符号化(記銘)、貯蔵 (保持)、検索(想起)の3段階から構成され ているもの」である。 学習: 新しい行動パタンの獲得 記憶: 3 4 • 記憶痕跡: 記憶の過程において、生活体 内部に保持されていると仮定されるもの。 • 忘却: 保持されていたはずのものが 想 起できなくなってしまうこと。 • 再生: • 再認: ある1つの刺激を提示され、 それが以前に学習したリストの中に あったかどうかを答えること。 McGaugh (2003) 記憶と情動の脳科学 講談社ブルーバックス 5 6 1 2012/11/6 記憶 (Y. I.) ☆ アイコニック記憶(視覚情報保存) (1) 記憶の3システム ① 感覚受容器が受け取った刺激情報をほぼそ のままの形で短時間保持する記憶システム アイコニック記憶、エコーイック記憶 (視覚) (聴覚) 刺激情報があまり加工されておらず、容量 の大きい、急速に減衰する記憶である。 Sperling(1960) 【実験Ⅰ】 手掛かりが刺激の空間的位置 の場合 8 2 S O CL 8 K M8HW a. 全体条件 3×4に配列した12文字を被験者に50㍉秒 提示した後、できるだけ多くの文字を再生させ た。500㍉秒の場合、平均4.3文字再生 感覚記憶容量の限界 ↑ 7 b. 部分条件 同じような刺激を提示して、その 内の1行分4文字を報告させた。 行の指定は音(高、中、低)を用いてランダ ムに行った。 ↓ 提示直後の正答率 =約 (9.1文字分) 300㍉秒後の正答率=約60% 約1秒後の正答率 =約 (約4.8文字) • 約4.8文字という結果は、全体条件の結果と 同じ ↓ 部分報告の方が全体報告よりも好成績 8 【実験Ⅱ】 手掛かりが「文字」の場合 上記の実験と同じように数字と文字を 混在させた刺激を提示し、文字だけを回 答させた(文字と数字を識別させた)。 しかし、全体報告に対する部分報告の 優位性は認められなかった。 ↓ 視覚情報をほぼそのままの形で一時 的に保持する感覚記憶が存在している。 9 例) 10 ② • 感覚記憶に入れられた情報のうち、 注意の向けられた情報を符号化(意味 化)し一時的に貯蔵する記憶システム。 cf. パソコンのクリップボード 「A」 アルファベットのA(文字)として認識す る前の段階(パターン認識) 斜めの線2本と横線1本からなる図形 として認識 • 感覚記憶 • 記憶保持時間: 大容量のバッファ・メモリ 記憶保持時間=15~30秒 容量= (チャンク: 情報の単位) 11 12 2 2012/11/6 記憶 (Y. I.) • チャンク: 情報貯蔵の記憶単位 ↓ • チャンキング:情報貯蔵に有利な記憶 単位の生成 保持期間中に情報を次の長期記憶に移 行させる処理( リハーサル(復唱)) がなされなければ、情報は忘却される。 • 入力された刺激情報が脳内の内的処理 に可能な形式に変換され、記憶として貯蔵 されるまでの一連の情報処理プロセス 例) 101100111010 → 5472 794119214921600 → 794‐1192‐1492‐1600 13 14 短期記憶の特徴 米山公啓 (2003) 「『記憶』で鍛える 私の脳・あなたの 脳」 宝島社 15 16 17 18 3 2012/11/6 記憶 (Y. I.) • 短期記憶と関連。新しい事実、新しい情 報に関する知識の保存 感覚受容器→ (情報の認識) →海馬(情報の必要性の解析) → (記憶の貯蔵場所) 陳述記憶の固定化(長期記憶化) エピソード記憶、意味記憶 位置関係の情報(地図)の処理 • 尾状核: 身体の運動機能の調整 • 扁桃体: 脳の感情中枢 • Peterson & Peterson (1959) a. 大学生に“QNV”のような子音 3文字からなる無意味綴りを提示。 b. 3桁の数字を提示し、合図がある まで「3」ずつ引き算をさせる。 c. 次の合図で、先の子音3文字を 再生させた。 ↓ 3秒間の引き算: が正反応 18秒間の引き算: 19 箱田ら「認知心理学」より 21 20 <Petersonらの実験への批判> • 1人の実験参加者が (経過時間が異なる)6つの実験条件に 8試行ずつ参加=合計48試行 ↓ 順向性干渉の影響があるのではないか (先行の試行→後続の試行) → 試行ごとにデータを取ってみた。 22 この実験からわかること • 短期記憶における忘却は、 時間経過に伴う記憶強度の減衰 ではなく、 が原因であるようだ。 箱田ら「認知心理学」より 23 24 4 2012/11/6 記憶 (Y. I.) • • 短期記憶内に貯蔵された情報を意図 的、無意図的に何回も反復して想起す ること a. リハーサル:情報の単なる反復 想起 (情報の保持時間の伸長) b. リハーサル:当該情報のイ メージの構成、既有知識との関連づけ ( ) ・ 短期記憶の概念を発展させたもの ・ 会話、読書、計算、推理などの認知行 動遂行中の情報を一時的に貯蔵する記 憶システム ・ 作業記憶のために、一時的に情報を 記憶しておく場所は、前頭葉のようである。 25 26 : 短期間、音声を保存す る。容量に限界 • :視・空間情報 を保持し、操作する機能 • :上記2つの情報や長期 記憶情報を統合 適切な情報に注意を向け、不適切 な情報を排除する機能をもつ。 → 刺激独立思考(ながら反応) 例) • 箱田ら「認知心理学」より 28 27 箱田ら「認知心理学」より 29 あか みどり きいろ あお しろ みずいろ 30 5 2012/11/6 記憶 (Y. I.) ③ (long‐term memory) • 情報が最終的に貯えられる、ほぼ無 限の容量をもち、永続的に情報が保持 される記憶システム • 記憶: 言葉によって記述できる ことに関する記憶 エピソード記憶+意味記憶 記憶: ものごとの手続きに関 する記憶 箱田ら「認知心理学」より 例) 割り算の仕方、車の運転の仕方 31 32 Tulving (1972, 1983) • エピソード記憶: 特定の時間的、空間的 文脈の中に位置づけられるできごと (エピソード)に関する記憶 例) 昨日は昼食をどこで食べたか? 先週はどこまで講義したか? • : 言葉の意味や一般的知識 などに関する辞書、辞典的な記憶 例) 日本の首都は東京である。 「自由」とは○○という意味である。 箱田ら「認知心理学」より 33 34 35 36 • 記憶情報の表象 6 2012/11/6 記憶 (Y. I.) 【実験】 「カナリアは鳥である」 「カナリアは生物である」 というような文章を提示して、それらの 正誤をできるだけ早く答えさせ、反応時間 を測定した。 ↓ : 主語と述語の距離が モデルにおいて遠くにあるほど反応時間が 長くなる現象 意味記憶のモデル • a. ネットワーク・モデル (Collins & Quillian, 1969) ・ 長期記憶=「心の中の辞書」と考える。 ・ 五十音順ではなく、意味によって編集 された辞書を想定する。 ・ 概念同士がある階層を形成しながら ネットワークで結ばれていると考える ことができる。 37 38 b. 意味的特徴モデル (Rips, Shoben & Smith (1973) 「コマドリは鳥である」 「ニワトリは鳥である」 → 前者の方が反応潜時が短かった。 ↓ 一般に、述語のカテゴリにおける主語の が高いほど反応潜時は 短くなる。 40 39 • • 意味的特徴モデルでは、ある概念が その「特徴の集合」によって定義される。 主語と述語の関係が緊密であるほど、 被験者はより早く「正しい」と反応する。 • 主語と述語の関係が緊密であるほど、 被験者は「誤り」であると反応するのに 時間がかかる。 例) 「ダイヤモンドは動物である」 「木は動物である」 41 42 7 2012/11/6 記憶 (Y. I.) • 記憶における情報の処理プロセス (まとめ) Atkinson & Shiffrin (1968) ☆ プライミング 先行刺激の受容が後続刺激の処理に無意識的 に(本人が気づかぬうちに)促進効果もしくは抑制 効果を及ぼすこと。 ( の一種) • a. 刺激情報は、まず、一時的に に 保持され、 b. そこで注意などにより選択された情報が に入力され、一定期間保持され る。 c. その内、リハーサルを受けた情報は、 へ転送され、永続的に貯蔵され ることになる。 顕在記憶: 記憶テストにおいて意図的、意識的 に再生を求める際に用いられる記憶 過去経験を想起したという意識が伴う場合 • : 過去経験(学習したときの場面)を 想起したという意識がない場合 (手続き的記憶: 水泳、自転車等) • 43 • プライミングの種類 a. 直接プライミング:知覚的プライミング b. 概念的プライミング c. 間接プライミング • 例1 例2 ぶつりがく ぶつりがく しんりがく しんりがく せいりがく せいりがく ↓ ↓ し□り□く せ□じ□く 44 a. プライム刺激(先行刺激): だいどころ ↓ 一定時間後 単語完成テスト: だい□□ろ (穴を埋めやすくなる) 事前に提示した単語の単語完成テスト 項目は、提示されなかったテスト項目より も正答率が高い。 45 46 c. 間接プライミング b. 概念的プライミング プライム刺激(先行刺激): だいどころ を提示し、その認知閾を測定する。 ↓ 一定時間後 テスト刺激(たべもの)の認知閾を測定 する。 プライム刺激(先行刺激): だいどころ ↓ 一定時間後 自由連想テスト: 料理→?? 先に提示した単語の方が、提示されな かった単語よりも連想されやすい。 両刺激間に連想関係がある場合は、 ない場合に比べて、テスト刺激の認知閾 が低下する。 47 48 8 2012/11/6 記憶 (Y. I.) ☆ ☆目撃証言の事後情報の効果 (prospective momery) Loftus & Palmer (1974) • に行うべき行為の記憶 a. 時間的展望的記憶 明日の21時にA君に電話する。 b. 事象的展望的記憶 B君に会ったら、C君からの伝言を伝え る。 • 外部記憶の利用、加齢による低下 • 警察から借りてきた車同士の衝突事故 の映画(5~30秒)を大学生に見せ、視聴 した事故について説明させた後、質問項目 に回答させた。 • 「車が当たったとき、どのくらいの速度で 走っていたか?」 • このとき、下線部の表現を5種類設定し て質問した。 49 50 ☆ 記憶の変容 • 各表現において推測された平均速度 接触した km/h 当たった 54.4 ぶつかった 61.0 衝突した 62.9 激突した ↓ エピソード記憶の想起において、 図形や文章の場合には、その再生内容が 変容されやすい。 • 図形の場合 a.常態化: ふだん見慣れている事物に変容 する( )。 b. : 図形のある特徴が強調される。 c.水準化: 図形のある特徴が弱められる。 d.構造的変化:図形が安定化される。 e.相称化: 左右対称化される。 • によって想起内容が 異なる。 51 52 • 系列的再生法 Bartlett (1983) 53 54 9 2012/11/6 記憶 (Y. I.) • 文章の場合 (2) ・ 内容が合理化され、首尾一貫したもの になる。 ☆ 皆さんの記憶力を確認してみましょう。 ・ 一般に短縮される。 • • 忘 却 (forgetting) <問題> 9歳の時の誕生日を思い出して下さい。 思い出せない? それはなぜでしょうか? 既有の知識やスキーマに合うような形で しか、ものを記憶することはできない。 スキーマ: 55 ① 「9歳の時から時間が経ったから」 記憶痕跡が大脳のどこかに形成され、 それが時間の経過と共に消失し、つい には再生されなくなるという考え方 この考え方の基礎を提供しているのが、 Ebbinghausの記憶実験である。 57 • 再学習法: 一度学習が完成した刺激材料 を、時間をおいて再学習する際には学習が 容易になることを利用した方法 • 節約率が大きいほど、少ない時間や反復 回数で再学習が完成したことを示している。 ↓ • 記銘後1時間で50%以上の情報を忘却して いる。 • 記銘後6日後も1ヶ月後も情報の保持量に 差はない。 59 56 ☆ Ebbinghaus (1885)の記憶実験 • 彼自身が被験者になり、“cag”のよう な無意味綴りを記憶した。 • 無意味綴りの刺激リストを一定の スピードで読み上げ、それを再生した。 • その学習完成までに要した時間と 反復回数を測定した。 ↓ =(原学習で要した時間- 再学習で要した時間)/ 原学習で要した時間 58 60 10 2012/11/6 記憶 (Y. I.) Ebbinghausの主たる発見事項 • 1. を計算し、忘却の指標とした。 2. 時間が経過するほど忘却しやすい。 3. 系列の長いものほど記憶しにくい。 4. 10‐11時の成績 > 18‐20時の成績 5. > 集中学習 6. と新近効果 7. による効果 62 61 • ② (自然崩壊説に対する1つの反証) McGeoch(1932) 刺激材料の記銘前後に行われた、さま ざまな精神活動の干渉を受けて、忘却が 生じるという考え方。 多くの刺激項目が少数の手がかりを 共有し、記憶痕跡同士の弁別がつきに くくなり、検索が困難になるから生じる。 例) ケネディ暗殺事件、9.11テロ事件 • 批判 a. 他の一般的な記憶とはメカニズムが 違うのだ。 b. 単に何度も繰り返して思い出していた のでよく覚えているのだ。 順向抑制: A → B 逆向抑制: A ← B(時間的に逆向) 63 64 ☆ 逆向抑制を増大させる要因 リスト形式の刺激材料を学習する際、刺 激項目の成績がリスト内の位置の影響を 受けること。 a. (逆U字型の関係) b. 第2学習と第1学習が時間的に 接近している。 c. 第2学習の学習量が第1学習よりも 多い。 初頭効果: 中間部の項目よりも多数回リハーサル されたり、深く処理されたりするために長期 記憶化しやすい。 *忘却に及ぼす影響: 65 66 11 2012/11/6 記憶 (Y. I.) 新近性効果: リストの終末部にある項目 の成績が優れていること。 短期記憶から直接検索されるために 再生が優れている。 ↑ しかし、長期新近性効果も見出され、 新たな説明原理が求められている。 *長期新近性効果: 長期記憶課題に おける新近性効果 67 ③ 「9歳の時を思い出す手掛かりがないから」 • 忘却は検索の失敗によって生じるという考 え方 • 刺激情報を符号化するときには、その 関連情報(手掛かり)も同時に符号化される。 • 関連情報が検索時に利用された場合 には、ターゲット情報の検索に成功する。 68 • 検索手掛かりが有効となるためには、 その手掛かりが記銘語(覚えるべき言葉) と共に(対にして)符号化される必要がある こと 関連手掛かりが検索に利用されると、 ターゲット情報の検索に成功する可能性 が高くなる。 しかし、無関連情報が手がかりに利用 されると検索に失敗する。 69 70 ⑤ ④ 「9歳の誕生日後に頭を打ったから」 気質性障害、心因性障害 「9歳の誕生日に嫌な思い出があったか ら」 不愉快な事柄、自我に脅威を与える事柄 ↓ 意識の世界から無意識の世界へ抑圧 (再度、意識課されないように抑圧) ↓ 忘却 脳打撲、薬物使用、強度の心理的スト レスなどによる脳損傷 ↓ 忘却 71 72 12 2012/11/6 記憶 (Y. I.) ☆ 記憶増進法 ① ある材料の学習が完成した後も、引き続き 学習を継続すること。 ② 効率的な記憶単位の生成 ③ 材料を視覚イメージ化する方法 生き生きしたイメージ、特殊なものにする。 ④ 無意味な材料を意味のあるものに変換する。 73 74 • ☆神経細胞から見た 記憶 シナプス結合部にお けるスパインという突 起部=記憶素子 スパインが小さいとき は「書き込み可能」状 態で、記憶が保持され るとスパインが膨らみ、 さらに「書き込み不可」 状態になる。 Newton 2010年3月号 「脳」研究の最前線 75 76 77 78 13 2012/11/6 記憶 (Y. I.) 79 • 参考図書追加 ・ 坂井克之 (2008) 心の脳科学 -「わたし」は脳から生まれる- 中公新書 ¥945 ・ 河野哲也 (2008) 暴走する脳科学 -哲学・倫理学からの批判的検討- 光文社新書 ¥777 80 それでは、また来週... ☆ 次のテーマは、「リーダーシップ」です。 15分以上時間がある場合には、もう少し 授業を続けることに します。 ☆ 「質問・意見カード」 を提出したい人は 教壇へどうぞ… 81 82 14