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加熱用食品素材モデル系の試作と その有効熱イ云導率

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加熱用食品素材モデル系の試作と その有効熱イ云導率
加熱用食 品素材 モ デル系 の試作 と
その有効 熱伝 導率
長
1.緒
言
尾
慶
子
定 量 的 に 明 らか に さ れ れ ば,経 験:的要 素 の 多
い 調 理 分 野 で の 科 学 的 理 解 に大 い に役 立 つ で
食 品 素 材 の 加 熱 は長 い歴 史 を もつ 重 要 な調
あ ろ う3)・4)。
理 操 作 で あ り,素 材 の種 類 と調 理 法 に適 し た
そ の た め の試 み と して,単 純 な組 成 の 加 熱
多 くの加 熱 方 法 や 加 熱 用 調 理 器 具 が 経 験 の 中
用 食 品 モ デ ル系 を調 製 し,内 部 の 熱 移 動 に お
か ら選 択 され て い る 。 こ れ らは い ず れ も,素
よ ぼ す 成 分 的 お よ び操 作 的 な 要 因 を 明 らか に
材 の 特 性 を生 か し,美 味 で 消 化 ・吸 収 の 良 い
す る こ と を考 え た 。 今 ま で の加 熱 実 験 の 流 れ
食 べ 物 を調 製 す る た め に必 要 な 操 作 で あ る1)。
の 中 で,水 分 の影 響 が 大 きい こ とが 予 測 され
しか し,熱 媒 体 の種 類 の 多 様 性 と,食 品 素 材
た の で,そ の 試 み の 一 端 と して,食
の不 均 質 性 の た め 加 熱 調 理 にお け る 熱 エ ネ ル
う ち ほ とん どの 食 品 素材 に含 まれ,か つ 熱 移
ギ ー の 移 動 を,あ
動 の 成 分 的 要 因 に な る と考 え られ る 水 分 に注
らゆ る 素材 と加 熱 法 に つ い
て 定 量 的 に記 述 す る こ と は 困 難 で あ る。
品成 分 の
目 し,一 定 量 の 固 形 成 分 に対 して水 分 量 を変
食 品 素材 は低 分 子 か ら高分 子 にい た る 生 体
化 させ 得 る モ デ ル 系 の試 作 ・調 製 を 行 な っ た 。
成 分 よ りな り,お よそ 水 溶 性 な い し は親 水 性
同 時 に 定 常 状 態 にお け る 熱伝 導 率 を 測 定 す る
化 合 物 か らな る 区分 と,脂 溶 性 な い しは親 油
装 置 を製 作 し,試 作 モ デ ル系 の 有 効 熱 伝 導 率
性 化 合 物 の 区 分 との混 合 物 で あ る の で,そ
の
にお よぼ す 水 分 量 お よ び加 熱 温 度 の影 響 を測
状 態 は異 質 の 成 分 が 互 い に接 す る界 面 の 面 積
定 した。 これ ま で に 得 られ た結 果 を,以 下 に
が 広 大 な分 散 系 の そ れ に擬 せ られ る2)。 しか
報 告 す る。
も,加 熱 に よ り比 較 的 低 い温 度 領 域 で 変 性 や
糊 化 等 の状 態 変 化 を起 こす こ とが 多 い 。 この
よ う な不 均 質 で熱 応 答 性 の 高 い 食 品 素 材 を加
熱 した 場 合 の,熱
媒体 と食 品素 材 と の 間 の伝
熱機 構や素材 内部 での熱エ ネルギーの移動 が
2.実
験方法
(1)食
品素材モ デル系の調製
食 品 素 材 の モ デ ル化 に あ た り意 図 した こ と
は,水 分 量 を変 え得 る単 純 な組 成 の系 で あ り,
Table1.Compositionofaseriesofthemodelsystemstobetested
.
WaterinliquidphaseO%20%40%60%80%100%
Water(g)
Cornoil(g)
Moisture(%)
03.0
7.411.917.623.2
7.812.2
11.07.94.40
7.112.6
20.929.339.048.7
Solidphase:Mixtureofcocoapowderandwheatflourwith15geither
*Thevaluescontainmoi
stureofthesolidphase.
一81一
.
しか も一 連 の加 熱 操 作 を通 して 可 及 的 に 一 定
存 させ,こ
の保 形 性 が 維 持 で き る もの と した 。 予 備 実 験:
エ マ ル シ ョ ン を液 体 相 と し た。 こ の よ うに し
を重 ね た 結 果 今 回 の 研 究 に採 用 し た一 連 の モ
て 固 体 相 と混 合 す る一 連 の 液 体 相 の 適 量 を決
デ ル系 の 組 成 をTablel.に 示 す 。
定 した の がTablel.に 示 す 数値 で あ る 。
この モ デ ル系 は,水
と コー ン油 とを任 意 の
れ に 所 定 量 の水 を加 え て 調 製 した
適 量 の 水 と コ ー ン油 の 液 体 相 を100回 攪 拌
量 比 で 混 合 した 液 体 相 中 に,固 体 相 と して の
し,こ
コ コ ア粉 末 と小 麦 粉 の 等 量 混 合 物 を分 散 させ
の 固体 相 を加 え て混 ね つ し,以 下 の測 定 用 試
た 系 で あ る 。 固 体 相 の 両 成 分 に含 まれ る水 分
料 を 調 製 した 。
を考 慮 して も,成 分 の種 類 を変 え る こ と な く
一 定 の形 状 を保 ち な が ら全 水 分 量 を7%か
ら
(2)有
約50%ま
正 確 な実 測 値 が種 々 の デ ー ター ブ ック に収 載
で の 範 囲 で 変 化 させ 得 る 一・
連のモ
デ ル系 を 調 製 す る こ とが で きた 。
使 用 した コ コ ァ粉 末 はVanHouten製
ん ぱ く質19%,炭
分8%,お
効 熱 伝 導 率 の測 定
純 物 質 に 固有 の 熱 伝 導 率 に つ い て は,既
され て い る が,食
に
品成 分 に関 す る この 種 の情
報 に は乏 しい 。 特 に多 成 分 の 分 散 系 で あ る食
の市
販 純 コ コ アで あ り,そ の組 成 は 水4%,脂
22%,た
こ に小 麦 粉 と コ コ ア粉 末 の 等 量 混 合 物
品 の 場 合 は,個
質
水 化 物46%,灰
々 の成 分 の 固有 値 を も とに概
算 す る方 法 もあ る が,正 確 に は系 全 体 の有 効
よび少 量 の酸 化 重合 物 か らな る。
値 を実 測 しな け れ ば な ら ない5)。
ま た 調 製 時 に熱 処 理 を 受 け て い る の で各 成 分
本 研 究 で 用 い た 熱伝 導 率 測 定 装 置 は,大 阪
の 熱 安 定 性 が 高 く,水 お よび 油 脂 の い ず れ に
府 立 大 学 名 誉 教 授 松 本 幸 雄 氏 が新 規 に 設 計 し,
も分 散 して 高 い 粘 稠 性 を持 つ た め,水 分 量 の
新 東 科 学株 式 会 社 に製 作 を委 託 した もの で あ
異 な るモ デ ル系 の調 製 に は好 都 合 の 素 材 で あ
る。 そ の 見 取 り図 をFig.1に 示 す 。
この 測 定 装 置 の 特 徴 は,バ ー ニ ア ス ケ ー ル
る。
一 方 の小 麦 粉 は膨 潤 ・糊 化 等 の 熱応 答 性 の
で1/100mmの
あ るで ん ぷ ん 含 量 が 高 く,小 麦 粉 中 の グ ル テ
き試 料 の 正 確 な 厚 み の測 定 が 可 能 で あ る こ と,
ン成 分 は水 分 量 の多 い モ デ ル系 の 保 形 性 に 寄
低 熱 源 部 に脱 着 可 能 な テ フ ロ ンの 円 筒 をつ け
与 す る と考 え られ る 。 使 用 した小 麦 粉 は,日
液 状 試 料 も測 定 が 可 能 で あ る こ と,各 熱 源 に
清 製 粉(株)製
は2台
約14%の
の 市 販 薄 力 粉 フ ラ ワ ー で あ り,
精 度 で 上 下 動 させ る こ と が で
のハ ー ケ 製 循 環 恒 温 槽 か ら一 定 温 度 の
水 を循 環 させ 長 時 聞安 定 した温 度 設 定 が で き
水 分 を含 有 す る 。
る こ と等 で あ る。
液 体 相 を構 成 す る コ ー ン油 は,味 の素(株)
製 の市 販 品 を用 い た 。 コー ン油 は,揚 げ 加 熱
製 作 し た測 定 装 置 の 原 理 はFig.2に
示 した
に汎 用 され る熱 媒 体 で あ る こ とが 使 用 した 理
が,熱 伝 導 率 既 知 の ポ リ カ ー ボ ネー トを基 準
由 で あ る。
物 質 に 用 い,平 行 熱 流 を利 用 し た相 対 的 方 法
6)に よる もの で あ る 。
モ デ ル系 を 試作 す る に 際 し,水 分 量 を変 え
な が ら保 形 性 の あ る系 を混 ね つ ・調 製 す る た
一 般 に ,高 ・低 熱 源 問 の温 度 勾 配(∂T/∂y)
め に は,試 行 錯 誤 に よ り一 定 量 の 固体 相 に対
に 基 づ き熱 エ ネ ル ギ ー(4)の
す る 液 体 相 添 加 量 を微 妙 に調 整 す る 必 要 が あ
が,そ
っ た 。 そ こ で,一 定 量 の 固 体 相 と混 合 す る 一
に した が う。
連 の 液 体 相 の 適 量 を実 験 的 に求 め る た め,コ
ー ン油 に あ らか じ め2%のSpan80(ソ
ルビ
q=一.i(∂T/∂y)
タ ン ・モ ノ オ レ ー ト,和 光 純 薬(株)製)を
溶
一82一
輸送 が起 こ る
の 量 す な わ ち 熱 流 束 は 次 のFourier則
(1)
Fig.1
Apparatusformeasuringthethermalconductivity(designedbyDr
.S.Matsumoto)
Fig.2Schematicillustrationoftheprincipleformeasuringthermalconductivity
こ こ に,λ
は温 度勾 配 中 に存 在 す る物 質 の
λ。(TH-TM)/y。=λ
.
。(Twr-Ti)/YS
(2)
熱 伝 導 率 で あ る。 定 常 状 態 に お い て 輸 送 され
る熱 エ ネ ル ギ ー の 量 は,高 熱 源 と低 熱 源 との
温 度 差(TH-TL)と
熱 伝 導 率 と の積 に 比 例
こ こ に,λpと λ,は基 準 物 質 と試 料 の熱 伝 導
率,ypとy、 は そ れ ぞ れ の厚 さ で あ る。
し,熱 エ ネ ル ギ ー の移 動 距 離 に逆 比 例 す る が,
した が っ て各 温 度,基
さ ら にFig.2の
よ うに 両 熱 源 問 に基 準 物 質 と
お よび 基 準 物 質 の 熱 伝 導 率 か ら,次 の 関係 を
試 料 層 が存 在 す る と き,そ の接 触 面 の 温 度 を
用 い て モ デ ル系 の 有 効 熱 伝 導 率 を求 め る こ と
TMと す る と,次 の 関 係 が 成 立 す る。
が で きる 。 す な わ ち,
一83一
準 物 質 と試 料 層 の厚 さ,
る と,モ デ ル 系 の 形 状 は ほ ぼ完 全 に維 持 され
(3)
λ、=λ 。(TH-TM)y、/(TM-Ti)y。
た。
茹 で加 熱 に相 当 す る熱 水 中 で は,モ デ ル 系
高 低 両 熱 源 に は2台 の 恒 温 水 槽 か らそ れ ぞ
れ 所 定 温度 の 水 を循 環 させ,5℃
の 液 体 相 水 分 量 が0%お
の温度勾 配
よび50%以
上 にお
を 与 え た 。 こ の よ うに して,一 連 の モ デ ル 系
い て いず れ もモデ ル系 の形状 が 維持 さ れた 。
の 有 効 熱 伝 導 率 に は30℃ か ら80℃ の 温 度 範
前 者 の 場 合,モ
囲 で 測 定 し た。 そ の 際,試 料 層 内 部 の対 流 や
で あ るた め,熱 水 中へ の 固 体 相 の 分 散 が 抑 制
装 置 周 辺 部 温 度 の 影 響 を避iけるた め,試 料 層
され る と考 え られ る 。 これ に対 し後 者 の水 分
の 厚 さ を5mm以
量50%以
内 と した 。 前 述 の よ う に,
デ ル系 の 固 体 相 表 面 が 親 油 性
上 の モ デ ル 系 で は,小
麦粉 中の グ
ポ リ カー ボ ネ ー トを本 測 定 の 基 準 物 質 に用 い
ル テ ン成 分 に よ る グル テ ンマ トリ ッ ク ス の 形
た が,そ
伝導 率 は
成 と で ん ぷ ん 成 分 の 糊 化 とに 必 要 な水 分 が 与
あ る。 装 置 各 部 位 の温 度 測
え られ て い る の で,熱 水 中 で保 形 性 が維 持 で
の 厚 さ は5.95mm,熱
0.21W・m-1K-1で
定 に は,厚
さ0.05mmの
リ ツ計 器(株)製)を
帯 状K熱
電 対(ア
き る 。 し か し,液 体 相 の 水 分 量 が50%以
ン
下
の モ デ ル 系 で 揚 げ 油 中へ の 成 分 の 分 散 が 生 じ
使 用 した 。
た の は,固 体 相 表 面 の 親 油 性 の 低 下,お
よび
3.結
果 お よび 考 察
(1)加
熱 用 食 品 素 材 モ デ ル系 の 保 形 性
ん糊 化 等 に起 因 した保 形 性 の 不 足 に よ る もの
水 分 量 の 異 な る一 連 の モ デ ル系 を そ れ ぞ れ
と考 え ら れ る。 こ の よ う な 一 連 の モ デ ル 系
直 径30mmの
不 十 分 な グ ル テ ン マ トリ ッ クス 形 成 とで ん ぷ
の 保 形 性 に 関 す る レオ ロ ジ ー 的考 察 につ い て
球 に 成 型 し,そ れ ら を各 種 の 熱
媒 体 中 に10min置
は 今 後 の検 討 課 題 で あ る。
い て保 形 性 を観 察 した 結 果,
い ず れ に し て も,保 形 性 に 関 して 小 麦 粉 成
天 火 加 熱 や 蒸 し加 熱 の よ うに 熱 媒 体 が 気 相 の
分 中 の グ ル テ ンや で ん ぷ ん の 重 要 性 が 認 識 で
場 合 は いず れ もそ の形状 が ほ ぼ維持 され た。
な お 加 熱 温 度 は天 火 加 熱 で200℃,蒸
き た。 そ こで モ デ ル 試 料 の 固 形 相 の 全 部 を小
し加 熱
麦 粉 の み に して,調 製 した小 麦 粉 試 料 ドウの
で100℃ で あ る 。
これ に 対 し170℃ の コー ン油 を 熱 媒 体 とす
熱 伝 導 率 を 同 様 に 測 定 した 。 そ の 組 成 表 を
る揚 げ 加 熱 で は,モ デ ル 系 液 体 相 中 の 水 分 量
Table2に
が50%以
(2)有
下 に な る と,固 体 相 特 に コ コ ア 成
体 相 の 水 分 量 が55%を
効 熱伝 導 率 に 及 ぼ す 水 分 量 の 影 響
モ デ ル系 お よ び小 麦 粉 ドウの 有 効 熱伝 導 率
分 が 系 の 表 面 か ら揚 げ油 中へ 分 散 し保 形 性 が
失 わ れ る が,液
示す 。
測 定 結 果 をFig.3-1,Fig.3-2に 示 した が,一 連
越え
Table2.Compositionofaseriesofthemodelsystems(Wheatflour)
WaterinLiquidphaseO%20%40%60%80%100%
Water(g)
Cornoil(g)
Moisture*(%)
0
2.5
11.5
10.0
10.1
15.8
6.09.011.214.0
9.06.02.80
22.729.335.041.4
Solidphase:Onlywheatflour30g.
*Thevaluescontainmoistureofthesolidphase
一84一
.
Fig.3-1
Measuredthermalconductivityofaseriesofthemodelsystems
Solidphase:wheatflour/cocoapowder=1/1inw/w
Liquidphase:water/cornoil,definiteratioin-eachsample
Fig.3-2Measuredthermalconductivityofaseriesofthemodelsystems
Solidphase:wheatflouronly
Liquidphase:water/cornoil,definiteratioineachsample
一85一
\、
Fig.3-3Measuredthermalconductivityofaseriesofthemodelsystems
Solidphase:wheatflour/cocoapowder=1/1inw/w
Liquidphase:water/cornoil,definiteratioineachs瀘ple
(Re:5%Span80inthesolidphase)
Fig.3-4Measuredthermalconductivityofaseriesofthemodelsystems
Solidphase:wheatflouronly
Liquidphase:water/cornoil,definiteratioineachsample
(Re:5%Span80inthesolidphase)
一86一
./
の 測 定 温 度(30℃
∼80℃)に
お い て水分 量
の 増 加 と と も に高 くな る。
液 体 相 が 水 だ け の 試 料(水
お よ び41.4%)に
分 含 量48.7%,
な る と測 定 値 の 変 動 を含 め
て 熱 伝 導 率 の 値 は最 大 で 純 水 の 固 有 熱 伝 導 率
の85%近
くにな る。 これ は試 料全 体 の熱 伝
導 にお け る水 の 役 割 が 大 で あ る こ と を示 唆 す
る もの で あ る 。 また 試 料 の水 分 量 が増 す と温
度 変化 に対 す る 熱 伝 導 率 の 変 動 が 目立 っ て く
る 。 この こ とは 固 体 相 に含 まれ る で ん ぷ ん の
膨 潤 と糊 化 に対 応 し た も の と考 え られ る が,
固体相 の分散状 態の不均一 に原因が ある とも
考 え られ る の で,食
固 体 相 の5%添
用 乳 化 剤 の ス パ ン80を
加 して同様 に測 定 を試 み た
(Fig.3-3,Fig.3-4)o
Fig.4は,こ
の 結 果 か ら温 度30℃,50℃
お
よ び70℃ の 状 況 を 特 に 取 り出 し て 示 し た も
の で あ る。 乳 化 剤 を添 加 して 混 合 状 態 を改 善
して も熱 伝 導 率 に対 す る水 分 や 温 度 の 影 響 は
同 じ傾 向 で あ る こ とが わ か る 。
す な わ ち モ デ ル 系 の よ うな 固 体 相 と液体 相
とが 混 合 さ れ た 分 散 系 内部 の 熱 エ ネ ル ギ ー の
Fig.4Effectofmoistureontheeffectivethermal
conductivityofaseriesofthemodelsystems
移 動 は,実 測 温 度 範 囲 に お い て そ の連 続 相 で
あ る液 体 相 の 熱 伝 導 性 に支 配 され る こ とが 明
水 が 重 要 な役 割 を果 た す こ とが示 唆 さ れ た の
らか で あ る 。
で 水 と コ ー ン 油 の 各 固 有 熱 伝 導 率 を用 い て
分 散 系 の 有 効 熱 伝 導 率 は,分 散 相 問 の 巨視
Bruggeman式
の 適 用 を試 み,理
論 式 の数値
的 な 凝 集 構 造 の 形 成 が 進 む ほ ど高 くな る とい
計 算 値 と実 測 値 とを比 較 した の がFig.5で あ る。
う実 験 事 実 が 報 告 さ れ て い る7)が,分
散状態
こ こ でXwは 液 相 中 の水 の 重 量 分 率 で あ る。
散系 の 誘 電
こ の 結 果 か ら,水 分 量 が 増 す と共 に(4)
の 良 好 なエ マ ル シ ョ ンの 場 合,分
現 象 に 適 用 され る次 のBruggemanの
式8)と
式 か ら予 測 さ れ る値 は い ず れ も実 測 値 よ りも
相 似 性 が 成 立 す る との 指 摘 が あ る9)。 す な わ
高 くな り,モ デ ル系 を構 成 す る各 成 分 が系 内
ち,
部 にお い て 複 雑 な混 合 状 態 に あ る こ とが示 唆
1
(λs一
λo)/(λw一
され た 。 モ デ ル 系 の分 散 相 で あ る 固体 相 成 分
の 正 確 な 熱伝 導 率 が 不 明 で あ る の で 、(4)式
λo)=(1-Xo)(λs/λw)3(4)
との 整 合 性 に つ い て は今 後 の 検 討 課 題 で あ る。
こ こ に,λS,λ0お よ び λWは エ マ ル シ ョ ン,油
相 お よ び水 相 の熱 伝 導 率,Xoは
同 様 に小 麦粉 の み の ドウ に つ い て も検 討 を
分 散相の体積
試 み そ の結 果 を併 記 した が,小
麦粉 の み の試
分 率 で あ る 。 本研 究 に お い て モ デ ル 系 の 固体
料 が比 較 的適 合 す る値 を示 し た の は 興 味 深 い。
相 の み の 熱 伝 導 率 が 不 明 で あ る が,液 相 中 の
こ れ は水 と コ ー ン油 が マ ク ロ に混 ざ り合 っ た
一87
Figs.
calculationsfortheBruggeman'stypeequation(TheoreticalandExperimental)
部 分 に,小 麦 粉 つ ま り小 麦 胚 乳 部 の 粒 子 が 互
い に 独 立 に 懸 濁 し て い る状 況 が 考 え ら れ る 。
水 の 量 が 増 加 す る と グル テ ンの マ トリ ッ クス
が 試 料 内 部 全 体 に広 が り液 体 相 中 の 熱 流 を妨
げ る た め 理 論 値 か らの ズ レが 目立 つ の で は な
い か と考 え られ る 。
(3)有
効 熱伝 導 率 に お よぼ す 温 度 の 影 響
加 熱 調 理 の立 場 か らは比 較 的 低 い温 度 範 囲
(30℃ ∼80℃)に
お け る 測 定 結 果 で は あ る が,
水 分 量 が 増 す と と も に モ デ ル系 内 部 の 熱 伝 導
性 に温 度 の 影 響 が 現 わ れ る よ う に な る 。 す な
わ ち,モ
合(全
デ ル系 の 液 体 相 が水 の み か ら な る場
水 分 量48.7%)と,コ
な る 場 合(全 水 分 量7.1%)と
ー ン油 の み か ら
に つ い て,Fig.
6に そ れ ぞ れ の 有 効 熱伝 導率 と測 定温 度 との
関係 を比 較 した 結 果 を示 した 。
液 体 相 が 水 の み か らな るモ デ ル系 の 熱 伝 導
率 に は,温
Fig.6Dependenceoftheeffectivethermalconductivityofaseriesofthemodelsystemsupon
temperaturecomparingwiththatofwheat
flourdoughs.
度60℃ 付 近 に 浅 い ピ ー ク の あ る
凸 な 曲 線 が 現 わ れ る 傾 向 が あ る。 この こ とか
ら,モ デ ル系 を構 成 す る小 麦 粉 成 分 中 の で ん
ぷ ん が 水 と と も に膨 潤 ・糊 化 す る 現 象 が,系
各 温 度 に応 じた 糊 化 状 態 が 平 衡 に到 達 す る の
全 体 の 熱 伝 導 性 に 影 響 す る状 況 を考 え る 必 要
に 約20minの
が あ る で あ ろ う。 で ん ぷ ん の サ ー モ グ ラ フ に
で は各 温 度 の 熱 流 を 定 常 状 態 と して 捉 え る た
関 す る塩 坪 の 研 究10)に よれ ば,一 般 に そ の 糊
め,温
化 開 始 温 度 は50℃ 付 近 に あ り,そ
を設 け て い る の で,測
れ以 上 の
88一
時 間 経 過 が 必 要 で あ る。 本 測 定
度 設 定 か ら測 定 開 始 ま で30minの
時間
定 時 の試 料 状 態 は い ず
れ も平 衡 に あ る と考 え られ る 。
の水 と コ ー ン油 の 液 体 相 中 に分 散 した 状 態 の
参 考 の た め,モ デ ル系 固体 相 の 全 部 を小 麦
系 で あ り,一 定 量 の 固体 相 と混 合 す る 液 体 相
粉 に 置換 した小 麦 粉 ドウ の有 効 熱 伝 導 率 の 温
が 適 量 の と き保 形 性 の あ る系 が 生 成 す る こ と
度 依 存 性 をFig.6に
を 明 らか に した 。
併 せ て 示 した が,50℃
付 近 で ピー ク を持 ち上 述 の傾 向 が 同様 に現 わ
3.モ
デ ル系 の 有 効 熱 伝 導 率 は0.19か ら
れ て い る こ とが わ か る。 水 を加 え な い系 で は
0.43W・m『1r1の
温 度 に よ る影 響 は ほ と ん どみ ら れ な か っ た 。
に増 大 し,水 の存 在 が 熱 エ ネ ル ギ ー の 移 動 を
し た が っ て,で
促 進 す る状 況 が 示 唆 さ れ る。 しか し,系 全 体
ん ぷ ん の膨 潤 ・糊 化 に と も な
範囲 で水分 量の増加 とと も
い 試 料 中 の 自 由水 が で ん ぷ ん 分 子 に捕 捉 され,
の熱 伝 導 性 に対 す るSpan80の
こ の こ とが 系 内 部 の 熱 エ ネ ル ギ ー の 移 動 に 対
め られ ない 。
す る抵 抗 の 原 因 に な る 状 況 を 推 測 で き る が,
4.水
添 加 効 果 は認
分 量 の 多 い モ デ ル系 の 有 効 熱 伝 導 率
熱伝 導 率 の 温 度 依 存 性 の観 測 か ら,で ん ぷ ん
は,温
の 膨 潤 ・糊 化 そ の もの を示 差 熱 分 析 の よ う に
値 を持 つ 浅 い 凸 型 の 温 度依 存 性 を示 す 。 こ れ
度 上 昇 に と も な っ て60℃ 付 近 に 最 大
明 瞭 に検 出 す る こ と は不 可 能 で あ る 。
よ り,温 度50℃ 以 上 に お い て,モ
デ ル系 を
な お,実 験 の項 で 述 べ た よ う に,保 形 性 の
構 成 す る小 麦 粉 中 の で ん ぷ ん が 膨 潤 ・糊 化 し
あ る モ デ ル 系 を調 製 す る た め 固体 相 と混 合 す
て 自由水 を捕 捉 し,系 全 体 の 熱 伝 導 性 を低 下
る 液 体 相 の 適 当 量 を 決 め る の に,少
させ る 状 況 を考 え る こ とが で き る。
Span80を
量の
乳 化 剤 とす る水 と コー ン油 と の エ
マ ル シ ョ ン を用 い た 。 ま た こ の よ う な乳 化 剤
添 加 の影 響 の 有 無,お
よ び 固体 相 の 分 散 状 態
を 均 一 化 す る 試 み と し て,固
Span80を5%添
こ こ に述 べ た 一 連 の研 究 は,(財)す
かい ら
一 く フー ドサ イ エ ンス 研 究所 の平 成8年
度学
体 相 に対 し
術 研 究 助 成 金 を 受 け松 本 幸 雄 氏 と共 同 して 行
加 して 調 製 した 試 料 の 有 効
っ た もの で あ る 。 ご配 慮 を賜 わ っ た 関係 各 位
熱 伝 導 率 をFig.4お
よ びFig.6に 併 せ て 示 し
に対 し,深
く感 謝 申 し上 げ る 。
た 。 しか し,同 図 か ら も明 らか な よ う に,測
定 誤 差 の 範 囲 内 でSpan80の
効 果 はモデル系
内 部 の熱 エ ネ ル ギ ー の 移 動 に 関 す る 限 り認 め
られ な い 。Span80の
添 加 効 果 は,モ
よ う な界 面 活 性 物 質 の
デ ル系 表 面 の 自 由 エ ネ ル ギ ー
の低 下 に寄 与 す る は ず で あ る か ら,熱 媒 体 か
ら被 加 熱 食 材 へ の 熱 伝 達 にか か わ る 効 果 と し
て,今 後 検 討 す べ き課 題 で あ ろ う。
4.要
文
献
1)渋
川 祥 子,1995,食
食 品 加 熱 の 科 学(渋
倉 書 店,東
2)松
品 加 熱 法 の 理 論 と 実 際,
川 祥 子 編)pp.104-138,朝
京
本 幸 雄1991.食
92,弘 学 出 版,川
品 の 物 性 と は 何 かpp.78-
崎
3)Nagao,K.,Hatae,K.andShimada,A.1997.
約
OccurrenceofRupturesontheSurfaceof
1.組
成 を 単 純 化 した水 分 量 の異 な る加 熱
用 食 品 素 材 モ デ ル 系 を試 作 ・調 製 し,そ の 定
常 状 態 に お け る 有 効 熱 伝 導 率 を温 度30℃ ∼
80℃ の 範 囲 で測 定 した。
2.一
FoodsduringFrying,J.TextureStudies,28,
27-46.
4)長
粉
連 モ デ ル 系 は コ コ ア粉 末 と小 麦 粉 の
等 量 混合 物 か らな る 固体 相 が,任 意 の 混 合 比
一89
尾 慶 子,畑
江 敬 子,島
田 淳 子,1997.小
麦
ド ウ の 伝 熱 特 性 に お よ ぼ す 加 熱 法 の 影 響,
調 理 科 学,30,114-121.
5)矢
野 俊 正,1992.食
品 工 学 の 基 礎,食
品工 学
基 礎 講i座1(矢
244,光
6)蒔
琳,東
田
1,基
善,東
啓,中
送 定 数,実
験 化 学 講座
・続
本 化 学 会 編)
ラフ ィ ン中
本 化 学 雑 誌,84,765-770.
8)Hanai,T.1968.ElectricalPropertiesof
Emulsions.lnEmulsionScience,(P.Sherman
ed.)pp.353-478,AcademicPress,London.
一90一
品 の 物 性 ・第1
本 幸 雄,山 野 善 正 編)pp.1-16,食
研 究 会,東
京
川 鶴 太 郎,1963.パ
集(松
10)塩
に金 属 粉 及 び カ ー ボ ンブ ラ ック を分 散 させ た
系 の 熱 伝 導 度,日
本 幸 雄,1975.食 品 の よ う な多 成 分 混 合 系 の
品 質 管 理 に お け る 問 題 点,食
礎 物 理 量 の 測 定(日
辺
9)松
栄 良 三 編)pp.195-
京
薫,1966輸
pp.406-428,丸
7)渡
野 俊 正,桐
品 資材
京
坪 總 子,1983.デ
品 の 物 性 ・第9集(山
ン プ ン糊 化 の 熱 的 性 質 食
野 善 正,松
pp.37-52,食 品 資 材 研 究 会,東
京
本 幸 雄 編)
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