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偏光ビームによるマイクロ光造形物の回転駆動
平成 17 年度 修士論文 偏光ビームによるマイクロ光造形物の回転駆動 Rotational drive of photofabricated micro-devices by using polarized light 高知工科大学 工学研究科 大学院 基盤工学専攻 知能機械システム工学コース 光物性工学研究室 潮 亮佐 目次 第 1 章 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 第2章 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 マイクロ光造形・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 1 光子吸収過程を利用した光造形法・・・・・・・・・・・・・・・6 2 光子吸収過程を利用したマイクロ光造形法・・・・・・・・・・・7 1 光子吸収と 2 光子吸収の比較・・・・・・・・・・・・・・・・9 光硬化性樹脂とフォトレジスト・・・・・・・・・・・・・・・・11 開口数と回折限界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 第3章 3.1 3.2 3.3 円筒レンズを用いたマイクロ光造形装置の開発・・・・・・・・・17 円筒レンズを使用した光学系の作製・・・・・・・・・・・・・・17 従来法と円筒レンズを使用した造形法との比較・・・・・・・・・21 実験装置の構成部品・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 第4章 円筒レンズを使用したマイクロ造形装置の性能評価・・・・・・・27 第5章 5.1 5.2 5.2 レーザーマニュピレーション・・・・・・・・・・・・・・・・・34 レーザーマニュピレーション・・・・・・・・・・・・・・・・・34 捕捉と走査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 回転駆動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 第6章 6.1 6.2 6.3 6.4 円偏光レーザーを使用したマイクロ構造物の回転駆動装置の開発・40 偏光・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 ローダミン色素・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 1/4 波長板・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 円偏光装置の構築・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 第 7 章 円偏光レーザーを使用したマイクロ構造物の回転駆動・・・・・・49 7.1 作製した構造物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 7.2 円偏光レーザーによるマイクロ構造体の回転駆動・・・・・・・50 第8章 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 -2- 付録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59 -3- 第1章 序論 近年、ナノテクノロジーに関する研究が進んできており、その利用範囲は工学、電子、 光学、医療、環境、宇宙産業などの多くの分野に及んできている。1~3)この様な背景から、 多様な技術分野の融合からマイクロマシンの基盤技術を確立し、マイクロマシンを産業、 社会、生活などの場で有効に利用されるよう開発・促進することが求められている。 我々の研究室では「マイクロマシンの作製と駆動」を目的とし、研究を行ってきた。マ イクロ構造物の作製方法として、非線形光学効果の 1 つである 2 光子吸収を利用したマイ クロ光造形を用い、マイクロマシンの駆動と操作を行うためレーザーマニュピレーション を使用してきた。 現在、一般的に光造形と呼ばれているものは、紫外光を感光樹脂に照射し樹脂を硬化さ せて造形を行うことを言う。この方法はラピッドプロトタイピングと呼ばれマイクロスケ ール以上のサイズの試作品を作るのに使用されている。この方法では、紫外光レーザーの 軌跡がそのまま樹脂を硬化させるため、マイクロメータ以下の造形を行うのに適していな い。そのため、本研究室では、マイクロ構造物を作製するために、近赤外超短パルスレー ザーである Ti:Sapphire フェムト秒レーザーを使用することで、非線形光学効果である 2 光子吸収を利用し、マイクロ構造物の作製を行ってきた。この方法の利点は 2 光子吸収の 発生確率が光子密度に強く依存するため、樹脂の硬化が極めて小さい領域に限られること から回折限界を超える分解能を得られる点である。2 光子吸収の起きる集光点を電動ミラー で走査することで、2 次元的に造形物を作製し、それを積層することで 3 次元構造物を作製 する。 本研究では従来の光学系に円筒レンズを入れることで、点ではなく線で集光させ、従来 法より簡単に面を作製できる手法の開発も行った。 1970 年に A.Ashkin により 2 本の対向レーザーにより誘電体微粒子のトラッピングが報 告され、大きな開口数のレンズで回折限界まで集光したレーザー光による新しい光トラッ プ法が開発された。7)これにより、現在、レーザーマニュピレーション法は光ピンセットと も呼ばれ生物、物理、医学などの分野で広く応用されている。8~14)本研究室ではレーザーマ ニュピレーション法をマイクロマシンの駆動法として取り上げ、いろいろな駆動方法を開 発してきた。造形物にトラップポイントを作りそこをトラップすることで行う回転駆動、 非鏡面対称性を持たせたマイクロ構造物に放射圧を与えることによる回転駆動などを行っ てきました。5~6)しかし、それらにはそれぞれ欠点がある。第 1 の方法は高い回転駆動を行 うことができない。第 2 の方法では造形物の形によって回転方向が限定される。そのため、 本研究ではレーザービーム自体にトルクを持たせる方法である円偏光レーザーによる回転 駆動法の開発を行った。 本論文では、第 2 章で、1 光子吸収を利用した造形法と 2 光子吸収を利用した造形法を比 較し、2 光子吸収法の優位性を示す。また、造形に使用する感光性樹脂やレーザーの回折限 -4- 界、レンズの開口数について述べる。第 3 章では、円筒レンズを使用した造形装置の開発・ 設計・使用した実験器具について説明する。第 4 章では、3 章で構築した装置を使用し、フ ォトレジスト SU8-3000 での性能評価を行った。第 5 章ではレーザーマニュピレーション の原理説明を行い、今までに本研究室で行ってきた回転駆動法について示す。第 6 章では 円偏光レーザーを使用したマイクロ構造物の回転駆動の原理と装置の開発・設計、使用し た装置の説明を行う。第 7 章では先の章で作製した装置を使用し、円偏光を使ってマイク ロ構造物を回転駆動させた。最後に第 8 章では、第 2 章から第 7 章まで行ってきたことを まとめ、本研究の今後の課題と将来の展望を示す。 -5- 第 2 章:マイクロ光造形 光造形とは、紫外線を照射すると硬化する樹脂に紫外線レーザーを対物レンズで集光し、 集光点を走査することによって構造物を作製する技術のことである。この樹脂として光硬 化性樹脂(2.4.1 参照)、またはフォトレジスト(2.4.2)を使う。 光造形には、マイクロ光造形という非線形光学効果の一つである2光子吸収過程を利用 した方法がある。本研究ではこのマイクロ光造形法を使用し、マイクロ構造物を作製した。 また、通常のレンズではなく、円筒レンズを使用した造形法の開発を行った。 本章では、2.1 に従来の 1 光子吸収過程を利用した光造形法について述べ、2.2 では 2 光 子吸収過程を利用したマイクロ光造形法について述べる。2.3 でそれらを比較することで、 2 光子吸収過程を利用したマイクロ光造形法の優位性を示す。2.4 で感光性樹脂である光硬 化性樹脂とフォトレジストについて述べ、2.5 で開口数と回折限界について述べる。 2.1 1 光子吸収過程を利用した光造形法 紫外光を利用した光造形法は液状の光硬化樹脂にレンズで集光した紫外光を照射して平 面パターンを造形する。一層分の造形ができたら、台を下げて上層の造形を行う、この作 業を繰り返すことで、積層による 3 次元造形物を作製する方法である。 紫外光 紫外光 移動 光硬化性樹脂 図 2.1.1 光造形 -6- 2.2 2 光子吸収過程を利用したマイクロ光造形法 2.2.1 2 光子吸収 2 光子吸収とは非線形光学現象の 1 つである。この現象は、原子や分子がまれに 2 つの光子を同時に吸収することによって、2 倍のエネルギーに相当するエネルギー吸収 が生じる現象である。2光子吸収の起こる確率は、通常の 1 光子吸収と比べると、非 常に低いため、2 光子吸収を誘起するためには高い光強度(光子密度)を必要とする。 よって、本研究室では、近赤外・チタンサファイ・フェムト秒レーザー(Spectra-Physics 社製, Tsunami, Millennia Vs)を用いた。このレーザーは、瞬間的に高い強度を持ち ながら、平均強度が低いという特性を持った超短パルスレーザーである。このレーザ ーを使用することで時間的に光子を集めることができ、また、対物レンズを使用する ことで空間的にも光子を集中させることができた。これによって、サブピコ秒(∼ 100ps)といった短い時間に、狭い空間に高い光子密度を形成することで、そこに非線 形光学効果(2 光子吸収)現れる。1~6) ω:角振動数 ν:振動数 h:プランク定数 光子エネルギー:ħω ħ=h/2π ω=2πν 励起準位 ħω 2ħω τ ħω ħω ħω 仮想準位 基底準位 2光子励起(赤外光) 1光子励起(紫外光) 図 2.2.1.1 1 光子励起と 2 光子励起 -7- 2.2.2 マイクロ光造形 この 2 光子吸収過程を利用した造形法であるマイクロ光造形はチタンサファイア・フ ェムト秒レーザーから出た近赤外光を対物レンズで光硬化性樹脂内に集光し、集光点を電 動ミラーで走査することで、2 次元的に樹脂を硬化さる。次に焦点位置を z 軸方向に移動さ せ、積層することで、マイクロ構造物を作製する。この際、樹脂内で硬化された造形物は 樹脂内で浮いた状態で作ることができる。 光硬化性樹脂 移動 赤外光 赤外光 移動 光硬化性樹脂 赤外光 赤外光 図 2.2.2.1 マイクロ光造形 -8- 2.3 1 光子吸収と 2 光子吸収の比較 ここでは,1 光子吸収と 2 光子吸収を比較することで、2 光子吸収を利用するマイクロ 光造形の優位性について説明する。 従来の 1 光子吸収を利用している光造形は図 2.1.1 のように紫外光のレーザーを使い対 物レンズで集光する。そして、Z ステージを移動させることで光硬化性樹脂の表面を硬化 させて,それらを積層させることで 3 次元構造物を造形していた。このような方法を用い ると下記のような3つの問題が生じる. ① 積層する樹脂の厚みによって奥行き方向の加工分解能が制限される ② 積層する樹脂の表面張力によって加工精度にばらつきが生じる ③ レーザーの回折限界を超えて造形を行うことができない 以上の理由により,サブマイクロメータースケールの微細な加工は困難である。 図 2.3.1 はレーザーの集光点付近の強度分布を表わす。 紫外線レーザー I(光強度) X 図 2.3.1 1 光子吸収 -9- 1 光子吸収を利用した造形法より図 2.2.2.1 のような 2 光子吸収を利用すれば,焦点位置 のみ硬化しそれ以外は硬化しないので光硬化性樹脂内に構造物を作製することができる。 また、2 光子吸収が起きる範囲が非常に小さく回折限界を超えた加工分解能で造形物を作 製できるなど 1 光子吸収で問題となったことが 2 光子吸収を使うことで改善できる。 近赤外パルスレーザー I2(光強度2) X 図 2.3.2 2 光子吸収 2 光子吸収の起こる確率は光強度の 2 乗に比例すると考えられるので、レーザーの集光点 付近で光強度の 2 乗の分布を表わしたものが図 2.3.2 である。この分布が硬化反応の確率を 表わすものであり、1 光子吸収に比べて、強度分布のピーク幅が狭くなるのがわかる。 - 10 - 2.4 光硬化性樹脂とフォトレジスト ここでは、感光性樹脂である光硬化性樹脂とフォトレジストについて説明する。 2.4.1 光硬化性樹脂 本研究で使用した光硬化性樹脂は、エポキシ系汎用光造形樹脂:SCR701((株)ディーメ ック社製)で、パルスレーザーおよび Ar レーザー用に開発されている。 この樹脂の特徴として、 ①薄肉造形が可能 ②反り変形が極端に少ない ③寸法の経時変化も小さい などの3つがあげられる。 成分は主にモノマー,オリゴマー,光重合開始剤,各種添加剤から構成されており 図 2.4.1.1 のように紫外線を吸収することで液体から固体に変化する性質を持っている。 紫外線 モノマー モノマー オリゴマー 開始剤 オリゴマー 開始剤 液体 固体 図 2.4.1.1 光硬化性樹脂 モノマーとは、重合して大きな分子となりプラスチックを形成する有機材料である。 オリゴマーとは、モノマーを予め幾つか反応させてあるものでモノマーと同様に重合し て大きな分子となりプラシチックを形成する材料である。モノマーやオリゴマーは簡単 には重合反応を起こさないので、光重合開始剤を配合することで、反応を開始させる。 光重合開始剤は、光を吸収し励起をする。 SCR701 の光吸収スペクトルを分光光度計で測定した結果を図 2.4.1.2 に示す。 - 11 - 4 3.5 3 吸光度 2.5 2 1.5 1 0.5 0 300 -0.5 350 400 450 500 550 600 650 700 750 800 波長[nm] 図 2.4.1.2 光硬化性樹脂の吸収スペクトル 図から本研究で使用した Ti:Sapphire フェムト秒レーザーの波長である 730nm あたり の光には吸収がないのに対して、その半分の波長 365nm 付近では大きな吸収を持つこと が解る。したがって、この光硬化性樹脂に近赤外光を照射しても、2 光子吸収が起こらな ければ、硬化しないことが解る。 2.4.2 フォトレジスト(SU8-3000) フォトレジストは、SU8-3000(化薬マイクロケム株式会社)と呼ばれるエポキシ樹脂ベー スのフォトレジストで、UV露光(365nm)するように開発されている。 このフォトレジストの特徴は ①低応力 ②密着性 ③耐溶剤性・アルカリ性・酸性 ④耐クラック性 などの 4 つがあげられる。 SU8-3000 の光吸収スペクトルを分光光度計で測定した結果を図 2.4.2.1 に示す。 - 12 - 4 3.5 3 吸光度 2.5 2 1.5 1 0.5 0 300 350 400 450 500 550 600 650 700 750 800 波長[nm] 図 2.4.2.1 SU8 の吸収スペクトル 上の図より、SCR701 を使用した際とほぼ、同じ条件で造形物を作製できることが解かる。 これらの吸光度の測定方法は付録:吸光度に示す。 2.4.3 樹脂の比較 SCR701 と SU8-3000 の性能評価について示す。 SCR701 作製時間 造形物 1 個の作製時間:15 分∼1 時間 加温時間:5 時間 洗浄:10 分 最高加工分解能 走査速度 45μm/s レーザーパワー:5mW のとき XY 方向:190nm Z 方向:230nm 利点 光量に対して、反応が過敏でないため、上書きによる増幅が少ない - 13 - 欠点 6%の収縮現象 最低作製時間が 5 時間以上 SU8-3000 作製時間 造形物 1 個の作製時間:5 分∼15 分 加温時間:造形前 20 分、造形後 10 分 洗浄:10 分 最高加工分解能 走査速度:405μm/s レーザーパワー:7mW のとき XY 方向:340nm Z 方向:640nm 利点 作製時間の短さ 収縮率 0% 欠点 SCR701 比べて、光量に対する反応が過敏なため、上書き走査を行うと大幅な増幅が見 られる 上記の比較より、本研究室では、微細な造形物を作製する際は SCR701 を使用し、造形 物を手早く、大量に作製したい際は SU8-3000 を使用している。 - 14 - 2.5 開口数(NA)と回折限界 2.5.1 対物レンズの開口数 対物レンズの性能のひとつとして開口数、NA(Numerical Aperture)がある。図 2.5.1.1 で示すθを使うと NA は NA=n sinθ(n:媒質の屈折率)と定義され、本研究では Z 方 向の加工分解能を左右する大きな要因のひとつで、図 2.5.1.1 に示すようにこの値が大 きいほど加工分解能が上がる。さらに、光子密度が高くなるので、2光子吸収反応も起 きやすくなる。 θ θ 硬化範囲 NA 大 NA 小 図 2.5.1.1 NA による加工分解能の差 今回の実験では、開口数が 1.4(Plan Flour, Nikon 社製)で倍率が 100 倍の対物レンズ を使用した。この対物レンズは油浸対物レンズでイマージョンオイルを塗布することで開 口数を適正化している。 - 15 - 2.5.2 回折限界 ここでは図 2.5.2.1 に示すように光を対物レンズなどで集光させるとき、その集光点の大 きさの限界を回折限界と言い、その回折限界について示す。 ε= kλ (ε:集光点の直径, NA k :コンデンサーの開口数と対物レンズの開口数の比, λ:波長, NA:開口数,k=0.61)で表される。 拡大 ε 回折限界 図 2.5.2.1 光の回折限界 - 16 - 第 3 章:円筒レンズを用いたマイクロ光造形装置の開発 本章では円筒レンズを本研究室のマイクロ光造形装置に組み込むことで、従来、点で集 光していた装置を線で集光できるようにする実験装置を作製した。 3.1 では既存のマイクロ光造形装置の光学系に円筒レンズを組み込んだ光学系の作製、3.2 では従来の造形法と円筒レンズを組み込んだものとの比較、3.3 で造形装置の構成部品につ いて示す。 3.1 円筒レンズを使用した光学系の作製 3.1.1 で円筒レンズの特性について、3.1.2 では円筒レンズを使用したマイクロ光造形装置 の光学系の作製について示す。 3.1.1 円筒レンズ 本研究では図 3.1.1.1 のようなシリンドリカルレンズ(円筒レンズ)を使用 レーザー光 集光線 円筒レンズ 図 3.1.1.1 円筒レンズ この円筒レンズの特徴は一方向のみを収束するという特色を持っており、これを従来の 造形装置に組み込むことで、点で集光していたものを、線で集光できるようになり、造形 を行う際に、より、短時間に面を作製できると考えられる。 - 17 - 3.1.2 円筒レンズを使用したマイクロ光造形装置の光学系 用いた光学系を図 3.1.2.1 に装置全体写真を図 3.1.2.2 に示す。 CCD 感光樹脂 TV 円筒レンズ f2 対物レンズ f1 顕微鏡 スペイシャルフィルタ GM λ:730nm Driver PC Mode-Locked Ti: Sapphire Laser 図 3.1.2.1 円筒レンズを使用したマイクロ光造形装置 円筒レンズ 顕微鏡 スペシャルフィルタ ガルバノミラー Mode-Locked Ti: Sapphire Laser 図 3.1.2.2 装置の全体写真 - 18 - 近赤外 Ti:サファイヤフェムト秒レーザー(波長:730nm パルス幅:130fs)から出た レーザー光はスペイシャルフィルタを通ることにより、造形に必要の無い余分な光がカッ トされ、焦点距離 300mm と 400mm のレンズを通り、焦点距離 500mm の円筒レンズと対 物レンズとで集光される。 従来の光学系では f1 と f2 のレンズを図のように配置することで対物レンズのひとみ上に ガルバノミラー上の像を結像させることができ、ガルバノミラーを走査してもレーザー光 はひとみから外れることはない。さらに、レーザーの径を対物レンズの径にあわすことで、 対物レンズの NA を最適になるように、設計されている。 対物レンズf=2 ガルバノミラー スペイシャルフィルタ f1=300 f2=400 10 35 300 400 (×100,NA=1.3) 2 400 図 3.1.2.3 マイクロ光造形光学系の詳細図 この光学系の f2 レンズの次に円筒レンズを置くことで、集光点が線で集光するように設 計した。 対物レンズf=2 ガルバノミラー スペイシャルフィルタ f1=300 f2=400 fs=500 (×100 NA=1.3) 縦 横 10 35 300 400 50 400 図 3.1.2.4 円筒レンズを使用した光学系の詳細図 - 19 - 2 円筒レンズを使用した場合、問題点として、2 個の集光ポイントができるというものがあ る(図 3.1.2.5)。そのため、光学系は、その 2 個の集光ポイントをできるだけ、遠ざけるよ う設計をし、第 1 集光点で造形を行う際に、第 2 集光点はガラス基板の中に来るよう設定 した。設定の仕方は以下のようになる。 f2 fs f 第1集光点 縦 第2集光点 横 b L x a 図 3.1.2.5 円筒レンズを使用した光学系の設定図 公式は以下のような公式で出すことができる。 − 1 1 1 + = a b f f と a を決定することで、b を求め、x(集光ポイント間の距離)をできるだけ大きくなるよ うに設定したのを図 3.1.2.4 に示す。15) - 20 - 3.2 従来法と円筒レンズを使用した造形方法の比較 3.2.1 では従来法の造形手順を、3.2.2 では円筒レンズを使用した際の造形手順を記述し、 それらを比較する。 3.2.1 マイクロ光造形における造形手順 従来の造形法では、対物レンズで集光した点をガルバノミラーで走査することで、線を 描いて面を作製する。作製順序は以下の図 3.2.1.1 のように行う。 レーザー径 平凸レンズ 集光点 図 3.2.1.1 集光点における造形方法 従来の方法で面を作製する場合、点の走査によって作製している為どうしても凹凸がで きてしまい、凹凸をなくすためにはより走査線の間を密集させなければいけない、そうす ると、作製時間が大幅に多くなる上に、作製した造形物は設定した条件より、膨脹して造 形物ができてしまうなどの欠点が生じてしまう。 - 21 - 3.2.2 円筒レンズを使用したマイクロ光造形における造形手順 円筒レンズを使用した造形法では線で集光するので、線をスライドすることで、面の造 形が可能である。作製手順は以下の図 3.2.2.1 に示す。 レーザー径 集光線 円筒レンズ 図 3.2.2.1 集光線における造形方法 円筒レンズを使用することで、滑らかな面を従来法より、より早く、簡単に作製するこ とができると考えられる。 - 22 - 3.3 実験装置の構成部品 3.3 では使用した実験装置の説明をする。 近赤外 Ti:Sapphire フェムト秒レーザー(Spectra-Physics 社製 Tsunami, ポンプレーザ ー:Millennia Vs) 図 3.3.1 にマイクロ光造形で使用しているレーザーの写真を示す。このレーザーの特徴と して、平均出力は低いがパルス幅はフェムト秒オーダーと非常に短く、ピーク出力は数十 kW と大きい。このようなレーザーを使用するとパルス幅が熱伝導の特性時間より短くなる ので、熱影響がほとんど現れなくなる。また、焦点位置でのみ赤外光から紫外光に変化す るため樹脂内に 3 次元構造物を作製することができるため、サブマイクロの 3 次元構造物 の作製が可能となる。 パルスレーザーを発生させる方法はいくつかあるが、Ti:Sapphire フェムト秒レーザーを はじめ半導体レーザーなど短パルス光を発振するレーザーの多くはモード同期により短パ ルス光を発生させている。 図 3.3.1 Ti:Sapphire フェムト秒レーザー - 23 - ガルバノミラー(GSI Lumonics 社製 SC2000) 図 3.3.2 はガルバノミラーおよびミラーボックスの写真である.1 対のミラーはコンピュ ーターにより制御されておりプログラムで X-Y の走査を自在に行うことが可能となる。 図 3.3.2 ガルバノミラー(電動ミラー) - 24 - 倒立顕微鏡(Nikon 社製 ECLIPSE TE2000-U) 今回の研究に使用した顕微鏡を図 3.3.3 に示す。倒立顕微鏡を使用した理由は,正立顕微 鏡では感光性樹脂と油浸対物レンズに使用するイマージョンオイルが混ざってしまう。し かし、倒立にすることで樹脂とオイルとの間にカバーガラスをはさむことができ混ざるの を防ぐことができるためである。 図 3.3.3 倒立顕微鏡 - 25 - シリンドリカルレンズ(シグマ光機社製、円筒平凸レンズf=500) シリンドリカルレンズ(円筒レンズ)の説明は 3.1.1 で示す。 図 3.3.4 円筒平凸レンズ - 26 - 第4章 円筒レンズを使用したマイクロ光造形装置の性能評価 第 4 章では、第 3 章で構築した造形装置を用いて、SU8-3000 を使用して造形装置の性能 評価を行った。 SU8-3000 による性能評価 本実験では、作製時間が短い上に SCR701 より、露光反応に過敏な SU8-3000 で新しい 造形方法の確認実験および性能評価を行った。 性能評価に使ったサンプル構造物は図 4.2 に示すものであり、レーザーパワーと走査速度 を変化させて測定を行った。 測定条件 レーザー・・・・・・波長:730nm パワー:52,58,64mW 対物レンズ・・・・・100 倍(NA1.3) 走査速度・・・・・・45,90,135,180μm/s 測定装置・・・・・・走査型電子顕微鏡(SEM) (フィリップス社製 XL20, 高知工科大 河田研所有) 10μm 5μm 5μm 図 4.2 性能評価用に作ったサンプル - 27 - 走査速度:45μm/s 12 11.5 11 線幅[μm] 10.5 10 9.5 9 8.5 8 50 52 54 56 58 レーザーパワー[mW] 図 4.3 硬化 ma 線幅のレーザーパワー依存性 60 62 64 片道走査(▲)往復走査(●) 0.9 0.8 高さ[μm] 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 50 52 54 56 58 レーザーパワー[mW] 図 4.4 硬化高さのレーザーパワー依存性 - 28 - 60 62 64 片道走査(▲)往復走査(●) 走査速度:90μm/s 9.5 9 線幅[μm] 8.5 8 7.5 7 6.5 6 50 52 54 56 58 レーザーパワー[mW] 図 4.5 硬化線幅のレーザーパワー依存性 60 62 64 片道走査(▲)往復走査(●) 0.6 0.55 高さ[μm] 0.5 0.45 0.4 0.35 0.3 50 52 54 56 58 レーザーパワー[mW] 図 4.6 硬化高さのレーザーパワー依存性 - 29 - 60 62 64 片道走査(▲)往復走査(●) 走査速度:135μm/s 8.1 8 線幅[μm] 7.9 7.8 7.7 7.6 7.5 7.4 50 52 54 56 58 レーザーパワー[mW] 図 4.7 硬化線幅のレーザーパワー依存性 60 62 64 片道走査(▲)往復走査(●) 0.5 0.45 0.4 高さ[μm] 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 50 52 54 56 58 レーザーパワー[mW] 図 4.8 硬化高さのレーザーパワー依存性 - 30 - 60 62 64 片道走査(▲)往復走査(●) レーザーパワー:64mW 走査速度:45μm/s 角度 15° 片道走査(左)往復走査(右) 角度 45° 片道走査(左)往復走査(右) - 31 - レーザーパワー:52mW 走査速度:45μm/s 角度 15° 片道走査(左)往復走査(右) 角度 45° 片道走査(左)往復走査(右) - 32 - 円筒レンズを使用した造形法では、従来、点で集光していた集光ポイントが線になるた め、大幅なレーザーパワーの上昇が見込まれた。 レーザーパワー90mW 以上で樹脂は急激に反応を起こし、造形物の作製することができ なくなった。逆にレーザーパワー52mW 以下になると、樹脂はちゃんと硬化させることが できなくなった。これにより、52mW のときの線幅 9.845μm 高さ 0.388μm が最高加工 分解能であるといえる。 しかし、この実験を通して幾つかの欠点を発見した。 ① 集光線で 2 光子吸収反応を起こすために高いパワーを必要とする。 ↓ 重ね書きをした際、樹脂の増幅率が通常の方法以上に増幅する。 ② 線で集光しているが、光子の密度が端に行くほど弱くなる。 ↓ 走査速度が速く成ったり、レーザーパワーが低くなると、線幅が急激に狭くなる もしくは、造形ができなくなる。 ③ 走査開始点では線の端が造形できない ↓ 片道走査のみだと、作製した面は開始点側がまるくなる。 これらの結果から、円筒レンズを使用した造形法では、SU8-3000 より、樹脂の露光によ る増幅率の低い、SCR701 の方が適していると考えられる。また、造形する際の走査方法は 往復走査を基本とするとよいと思われる。 - 33 - 第 5 章:レーザーマニュピレーション 本研究室ではマイクロ光造形装置で作製したマイクロ構造物を走査するためにレーザー マニュピレーション法を使用し、マイクロ構造物の捕捉と走査、また回転駆動を行った。 レーザーマニュピレーションとは、別名光ピンセットとも呼ばれ、光の放射圧を利用する ことで、微小な物体を非接触で捕捉することができる技術のことである。またレーザーを 走査することで、微小物体を操作することもできる。5.1 ではレーザーマニュピレーション の原理について述べ、5.2 では微小物体の捕捉と走査について、5.3 では回転駆動について 述べる。 5.1 レーザーマニュピレーション A B 微粒子 n 1 > n2 F(放射圧) A B レンズ レーザー光 図 5.1.1 放射圧の発生原理 A,B:レーザービーム n1,n2:微粒子と周囲の媒質の屈折率 - 34 - F:放射圧 レーザー光の焦点付近に微粒子を近づけると、レーザー光は微粒子と微粒子の周りの媒 質の屈折率の差から屈折し、レーザー光の進行方向を変える。そのため、微粒子の入射後 と前とでは、運動量が変化する。変化した運動量は、運動量保存則に従って微粒子に受け 渡される。受け渡された運動量は放射圧として、微粒子に掛かる。 放射圧は n1(微粒子の屈折率)>n2(周囲の媒質の屈折率)の場合、レーザー光の集光点に向 かって働くことになるため、微粒子は焦点付近に引き寄せられる。その力によってブラウ ン運動を抑え、重力と釣り合う位置で 3 次元的に捕捉することができる。7~8) - 35 - 5.2 捕捉と走査 本研究室では以下の図 5.2.1 のようなレーザーマニュピレーション用の光学装置を構築し た。GM(ガルバノミラー)を走査することで、微粒子を XY 方向に自由に操作することに 成功している。 TV CCD f1 f2 対物レンズ 顕微鏡 GM Driver PC Nd:YAG Laser λ:1064nm 図 5.2.1 レーザーマニュピレーション装置 - 36 - このレーザーマニュピレーションを使用し、マイクロ光造形で作製した回転体を回転操 作した。光学顕微鏡で観測した写真を図 5.2.2 に示す。 (a) (b) (c) (d) 図 5.2.2 レーザーマニュピレーションによる回転駆動造形物の回転 回転は(a)→(b)→(c)→(d)の順に時計回りをしている これらの写真は「レーザー光を用いた微小物体の作製と操作」(高市智章,高知工科大学 修 士論文,2003).より抜粋したものである。6) - 37 - 5.3 回転駆動 5.2 で行った、回転構造体の回転操作をより発展させた別の回転法がある。捕捉する構造 体に非鏡面対称性を持たせることで、反射屈折を利用した回転駆動を行う方法である。 図 5.3.1 のように物体に高い NA でレーザー光を集光することで、造形物の側面で反射・ 屈折が起こる。この際に①、②の側面で放射圧が発生する。③の側面はレーザー光に対し て平行なため放射圧が発生しない。しかし、側面①と②で発生した放射圧が回転トルクと なり、図の場合には反時計回りに構造物を回転させることができる。10~14) 屈折光 レンズ 放射圧 レーザー光 λ=1064nm 回転方向 図 5.3.1 放射圧による回転原理 7 nm 6 nm 2 nm 10 nm 5nm 12 nm 回転させた構造物の設計図を図 5.3.2 に示し、図 5.3.3 に回転した際の写真を示す。 図 5.3.2 作製したマイクロ構造物 - 38 - (a) (b) (c) (d) 図 5.3.3 放射圧による回転駆動 回転は(a)→(b)→(c)→(d)の順に時計回りをしている。またこの形状の際の回転速度は 5rpm であった。 これらの写真は「サブマイクロ分解能を持つマイクロ光造形と光マニュピレーションの 開発」(交久瀬大五,高知工科大学 修士論文,2004)より抜粋したものである。5.10) - 39 - 第 6 章:円偏光レーザーを使用したマイクロ構造の 回転駆動装置の開発 この第 6 章では、放射圧を利用した回転駆動に代わり、円偏光を利用した回転駆動の研究・ 開発について書く。円偏光を用いる利点としては、1/4 波長板を 90°回転させることで任 意に回転方向を決定することができ、放射圧を利用した回転駆動方法にくらべ、造形物の 形状にほとんど制限がないことである。6.1 で偏光について、6.2 ではローダミン色素、6.3 では 1/4 波長板、6.4 では円偏光装置の構築について述べる。 6.1 偏光 偏光とは、光の波が特定の方向に振動しているものをいう。偏光の分類は楕円偏光を 基準として、特定の条件下により直線偏光、円偏光となる。15) 光が z 方向に伝播している場合、電界の x,y 成分は以下のようになる。 E x = Ax 0 cos(ωt − nk0 z + δ x 0 ) E y = Ay 0 cos(ωt − nk0 z + δ y 0 ) ・・・(6.1.0.1) Ez = 0 ここで A j 0 (j=x,y)は振幅、 δ j 0 は初期位相、 n は屈折率、 k 0 は真空中波数を表わす。ただし 電界は時間に依存しないものとした。 上の式から時間と位置に依存する項を消去すると、電界ベクトルの端点は以下のような 式で表わされる。 2 E Ex E y − 2 E x y cos δ 0 = sin 2 δ 0 ・・・(6.1.0.2) + A A x 0 y 0 Ax 0 Ay 0 2 δ 0 = δ y 0 − δ x 0 は x と y 成分間の相対位相差である。 式(6.1.0.1)から式(6.1.0.2)への変形は付録:偏光に書く。 - 40 - 6.1.1 直線偏光 直線偏光とは、ある特定の方向だけに光が振動している状態をいう。 式(6.1.0.2)で相対位相差が δ 0 = mπ (m:整数)のとき Ey m A = (− 1) y 0 Ex Ax 0 となり、軌跡が直線になる。 すなわち、m が奇数のときは 90°回転された直線偏光、m が偶数のときは元と同じ方 向の直線偏光になる Ex E Ey E 図 6.1.1.1 直線偏光 - 41 - 6.1.2 円偏光 円偏光とは、x 成分と y 成分の間に位相差がπ/2 の奇数倍となる場合をいう。 式 6.1.0.2 で Ax 0 = Ay 0 = A0 , δ 0 = (2m'+1)π / 2 (m’:整数)のとき E x2 + E y2 = A02 となり、軌跡が円を描くようになる。 Ex E Ey Ez 図 6.1.2.1 円偏光 sin δ 0 > 0(< 0) となるとき、右(左)回りの円偏光となる。 δ0 = ± π 2 のとき、x 成分と y 成分とでは 1/4 波長だけずれるので、このような位相差を 作る位相板を 1/4 波長板と呼ぶ。 - 42 - 6.2 ローダミン色素 ローダミン色素は発光色素の一種で、緑色付近の波長の光を吸収し、橙色で発光がする 物質である。本研究ではローダミン 610(1mol=543.02g)という色素を使用した。 ローダミン 610 の吸収スペクトルを図 6.2.1 に示す。 吸光度は、0.01mg/ml の濃度のローダミン 610 の水溶液を 10mm 長のセルに入れて測定 したものである。 2.5 2 吸光度 1.5 1 0.5 300 325 350 375 400 425 450 475 500 525 550 575 600 625 650 675 700 725 750 775 800 825 850 0 -0.5 波長 図 6.2.1 ローダミンの吸光度 本研究では、この発光色素を SU8 に混ぜて造形を行った。この造形物に緑色のレーザーを 照射することで光を吸収するように設定した。これにより、緑色の円偏光を吸収させるこ とで、回転トルク与えることができる。 - 43 - 6.3 1/4 波長板 1/4 波長板とは、入射光線に 1/4 波長の位相差を生じさせる機能をもった波長板である。 1/4 波長板に、レーザーなどのような直線偏光化された入射光線を、その振動方向が 1/4 波 長板の光軸方向に対して、θ=+45°の角度で入射したとき、射出光線は右回りの円偏光と なる。一方、θ=−45°の場合は左回りの円偏光になる。それらを図 6.3.1 図 6.3.2 に示す。 Ex Ey ¼波長板 E Ez 図 6.3.1 θ=+45° Ex ¼波長板 Ey E Ez 図 6.3.2 θ=−45° - 44 - 6.4 円偏光装置の構築 6.4.1 で円偏光レーザーを照射するための光学系の実験装置の作製、6.4.2 では造形装置の 構成部品を示す。 6.4.1 光学系の作製 円偏光を用いるために作製した装置を図 6.4.1.1 と図 6.4.1.2 に示す。 TV CCD ¼波長板 対物レンズ 顕微鏡 YAG Laser λ:1064nm 図 6.4.1.1 円偏光装置 - 45 - ¼波長板 顕微鏡 YAG Laser Mode-Locked Ti: Sapphire Laser 図 6.4.1.2 装置の全体写真 レーザートラップと円偏光を同時に起こすために、波長が 1064nm の CW Nd:YAG レーザーを用いた。このレーザーを NA=1.3 の顕微鏡の油侵対物レンズを使用し集光する ことで、集光点付近で 2 光子吸収が起こり、ローダミンを内包した構造物に円偏光の回転 トルクを置換できるようにした。また、吸収しきれない光子はレーザートラッピングとし て働き、マイクロ構造物を捕捉することができる。観測は顕微鏡に CCD カメラを接続しそ の映像をモニターで観測した。 - 46 - 6.4.2 構成部品 CW Nd:YAG レーザー(Laser Compact 社製,LCS-DTL-322, 波長:1064nm,パワー:750mW) 近赤外光は、高分子、有機材料などに対して吸収が少ないので,光の吸収による物体の 損傷を抑えることができるため、本研究で、レーザーマニュピレーションを行う際に、も っとも適している。 図 6.4.2.1 CW Nd:YAG レーザー - 47 - 1/4 波長板(シグマ光機社製,水晶波長板:λ/4 板,適応波長:1064nm) 1/4 波長板とは位相板の一種で説明は 6.3 に示す。 図 6.4.2.2 1/4 波長板 - 48 - 第7章 円偏光レーザーを使用した マイクロ構造体の回転駆動 第 7 章では先の章で説明した。ローダミン色素を混入した SU8でマイクロ構造物を作製 し、円偏光レーザーを用いて回転させる実験を行った。7.1 では作製した構造体の作製条件、 7.2 には円偏光による回転駆動について示す。 7.1 作製した構造物 本研究では、ローダミン色素を SU8に混入することで、緑色付近の波長の光を吸収する ような構造体を作製した。 作製条件 モードロックパルスレーザー・・・・・波長:730nm パワー:10mW 対物レンズ・・・・・・・・・・・・・100 倍(NA=1.3) ローダミン濃度・・・・・・・・・・・1.84, 1.288, 0.92 (×10−2 mol/L) 3μm 8μm 図 7.1.1 ローダミンを混入したマイクロ構造物 - 49 - 7.2 円偏光レーザーによるマイクロ構造体の回転駆動 7.3 の条件で作製したマイクロ構造物に YAG レーザーの円偏光を照射し、レーザーパワ ーを変化させてものが以下の図 7.2.1 で示す。また、回転した写真を図 7.2.2 に示す。 条件 レーザーパワー:50∼750mW (50mW 間隔で計測) ローダミン濃度:1.84, 1.288, 0.92 (×10−2 mol/L) 60 1.84×10^-2 mol/L 0.92×10^-2 mol/L 0.184×10^-2 mol/L 50 回転速度[rpm ] 40 30 20 10 0 0 100 200 300 400 500 600 レー ザー パワー [m W] 図 7.2.1 ローダミンの濃度とレーザーパワーの関係 - 50 - 700 800 (a) (b) (c) (d) 図 7.2.2 マイクロ構造物の回転駆動 回転順:(a)→(b)→(c)→(d) このように、マイクロ光造形でローダミンを混入した SU8 を使用しマイクロ構造物を作 製することができ、また、円偏光レーザーで左右の回転駆動を行うことができた。回転速 度はレーザーパワー750mW、ローダミン濃度 1.84×10-2mol/L のとき 48rpm を超える回転 速度を得ることができた。この物体の回転速度は、ローダミンの濃度、円偏光レーザーの 回転トルクと媒質の粘性抵抗により決まる。 - 51 - 第8章 結論 本研究では、マイクロ光造形法とレーザーマニュピレーションの応用法である、円筒レ ンズを使用したマイクロ光造形法と円偏光を用いた回転駆動を開発した。 第 2 章で、1 光子吸収を利用した造形法と 2 光子吸収を利用した造形法を比較し、2 光子 吸収の優位性を示した。第 3 章では、円筒レンズを使用した造形装置の開発を行い、装置 を完成させた。第 4 章では、3 章で構築した装置を使用し、フォトレジスト SU8-3000 でレ ーザーパワーと硬化線幅と効果厚みの関係についての測定を行い、レーザーパワー52mW のときに最小加工分解能が得られ、そのときの硬化線幅は 9.845μm 硬化厚み 0.388μm で あることを示した。第 5 章ではレーザーマニュピレーションの原理説明と、今までに本研 究室で行ってきた回転駆動方法について示した。第 6 章では円偏光レーザーを使用したマ イクロ構造物の回転駆動の原理と装置の開発し、装置を完成させた。第 7 章では先の章で 作製した装置を使用し、マイクロ構造物を円偏光で回転駆動が可能であることを示し、現 像液中でレーザーパワー750mW、ローダミン濃度が 1.84×10-2mol/l のとき回転速度 48rpm を得ることができた。 今回の研究の今後の課題は、円筒レンズを使用したマイクロ造形法では光硬化性樹脂 SCR701 での性能評価と円筒レンズの設置場所による線幅の増減、円偏光による回転駆動で は粘性の高い現像液中から粘性の低いアセトンに変えた際の回転速度の測定装置の開発す ることである。 - 52 - 付録 1.偏光 光が z 方向に伝播しているとすると電界の xy 成分は以下のようになる。 E x = Ax 0 cos(ωt − nk0 z + δ x 0 ) E y = Ay 0 cos(ωt − nk0 z + δ y 0 ) ・・・ (1) Ez = 0 ここで A j 0 (j=x,y)は振幅、 δ j 0 は初期位相します。この際、時間に依存しないものとしま す。また、 n は屈折率、 k 0 は真空中波数である。 上の式から時間と位置に依存する項を消去すると、電界ベクトルの端点の以下のような 式になる。 2 E Ex E y − 2 E x y cos δ 0 = sin 2 δ 0 ・・・ + A A x 0 y 0 Ax 0 Ay 0 2 (2) 上記の式は以下のようにして解ける。 2 Ex E y Ex E y , + A A A A x0 y0 x0 y0 2 これらをそれぞれと式(1)代入して解くと、時間と位置に依存する項を消去することができ る。 2 Ex E y = cos 2 (ωt − nk0 z + δ x 0 ) + cos 2 (ωt − nk0 z + δ y 0 ) + Ax 0 Ay 0 2 + cos(2ωt − 2nk0 z + 2δ x 0 ) + cos(2ωt − 2nk0 z + 2δ y 0 ) = 2 = 1 + cos(2ωt − 2nk0 z + δ x 0 + δ y 0 )cos δ 0 2 Ex E y = cos(ωt − nk0 z + δ x 0 )cos(ωt − nk0 z + δ y 0 ) Ax 0 Ay 0 = 1 {cos(2ωt − 2nk0 z + δ x0 + δ y 0 ) + cos δ 0 } 2 2 Ex E y −1 + E E Ax 0 Ay 0 共通項 = = 2 x y − cos δ 0 cos δ 0 Ax 0 Ay 0 2 - 53 - 2 Ex E y E − 1 = 2 Ex y cos δ 0 − cos 2 δ 0 + Ax 0 Ay 0 Ax 0 Ay 0 2 2 Ex E y E − 2 E x y cos δ 0 = sin 2 δ 0 + Ax 0 Ay 0 Ax 0 Ay 0 2 となる。 δ 0 = δ y 0 − δ x 0 は x と y 成分間の相対位相差である。 - 54 - 2.吸光度 I0 I = I 0 e − ax I log x I0 = log e (e ax ) = ax I 例) 溶媒:水 試量:SU8 Iw I1 log Is I2 I s I1 = SU 8 の吸光度 IwI2 x 上の方法で、以下の吸光度を調べた。 1 0.8 吸光度 0.6 0.4 0.2 0 300 350 400 450 500 550 600 650 700 750 800 -0.2 -0.4 レーザーパワー[mW] 図 2.1 溶媒:SU8 溶質:ローダミン - 55 - 溶液濃度:1.84×10-5mol/L 3 2.5 吸光度 2 1.5 1 0.5 0 300 350 400 450 500 550 600 650 700 750 800 -0.5 レーザーパワー[mW] 図 2.2 溶媒:SU8 溶質:ローダミン 溶液濃度:1.84×10-4mol/L 2.5 2 吸光度 1.5 1 0.5 0 300 350 400 450 500 550 600 650 700 750 -0.5 波長[nm] 図 2.3 溶媒:水 溶質:ローダミン - 56 - 溶液濃度:1.84×10-5mol/L 800 7 6 吸光度 5 4 3 2 1 0 300 350 400 450 500 550 600 650 700 750 800 700 750 800 レーザーパワー[mW] 図 2.4 溶媒:水 試料:SU8 7 6 吸光度 5 4 3 2 1 0 300 350 400 450 500 550 600 レーザーパワー[mW] 図 2.5 溶媒:無 - 57 - 650 試料:SU8 参考文献 (1) S.Kawata, et al, Nature, 412(2001) 697. (2) 河田聡,田中智一, 「フェムト秒を用いた 3 次元超微細立体光造形」光学,第 30 巻,第 4 号(2001)258-261. (3) 丸尾昭二, 「光で操るマイクロ・ナノマシン」日本物理学会誌,第 60 巻,第 3 号,(2005) 180-185. (4) 交久瀬大五,「2 光子吸収によるマイクロ光造形」(高知工科大学 卒業論文,2003). (5) 交久瀬大五,「サブマイクロ分解能を持つマイクロ光造形と光マニュピレーションの開 発」(高知工科大学 修士論文,2004). (6) 高市智章, 「レーザー光を用いた微小物体の作製と操作」(高知工科大学 修士論文,2003). (7) A.Ashkin, J.M.Dziedzic, J.E.Bjorkholm, and S.Chu, Opt. Lett, 11(1986)228-230,. (8) 三澤弘明,「光圧による分子マニュピレーション」応用物理,第 72 巻,第 6 号(2003) 716-720. (9) 大原實,神成文彦,佐藤俊一, 「レーザー応用光学」(共立出版,1998). (10) 澤田廉士,羽根一博,日暮栄治,「光マイクロマシン」(オーム社,2002). (11) 浮田宏生,日暮栄治,「光マニュピレーション-マイクロ駆動源-」応用物理,第 63 巻, 第 5 号 483-486. (12) E.Higurashi, O. Ohguchi, T.Tamamura, H.Ukita, R.Sawada, Optically induced rotation of dissymmetrically shaped fluorinated polyimide micro-objects in optical traps, J.Appl.Phys. Vol.82, No.6, 2772-2779(1997). (13) P.Galajda and P.Ormos, Complex micromachine produced and driven by light, Appl.Phys.Lett, Vol.78, 249-251(2001). (14) P.Galajda, P.Ormos, Rotation of microscopic propellers in laser tweezers, J. Opt. B,Quantum Semiclass. Opt,Vol.4,S78-81(2002). (15)左貝潤一,「光学の基礎」(コロナ社,1997). (16)杉浦忠男,河田聡,南茂夫,「円偏光レーザービームを用いた顕微鏡下での粒子の回転 操作」 分光研究,第 39 巻,第 6 号,(1990)342-346. - 58 - 謝辞 本研究にあたり、終始丁寧な御指示、御指導を賜りました高知工科大学電子・光システ ム工学科 木村正廣教授に心から深く感謝申し上げます。 また、本研究に対して電子顕微鏡を快くお貸し頂いた高知工科大学知能機械システム工 学科 河田耕一教授、また河田研究室の方々に深く御礼申し上げます。 さらに、分光光度 計をお貸し頂いた高知工科大学物質・環境システム工学科 古江正興教授に深く御礼申し上 げます。 そして、共同研究者である畑勝也氏、伊藤基巳紀氏、小野田有吾氏をはじめ、研究のサ ポートをしていただいた光物性工学研究室の研究生の皆さん、ご協力ありがとうございま した。 - 59 -