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長尺CNTが一方向に配向したカーボンナノチューブシートの 電気伝導特性

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長尺CNTが一方向に配向したカーボンナノチューブシートの 電気伝導特性
関連文献:”Anisotropic carbon nanotube papers fabricated from multiwalled carbon nanotube
webs”, Yoku Inoue et al., Carbon 49, 2437-2443, 2011 DOI:10.1016/j.carbon.2011.02.010
長尺CNTが一方向に配向したカーボンナノチューブシートの
電気伝導特性、熱伝導特性および機械特性
静岡大学 井上翼
1 はじめに
も 1mm 程度であった[5,7,9,12]。我々は
カーボンナノチューブ(CNT)は電気特
塩化鉄を用いる CVD 法を開発したことに
性[1]、機械特性[2]、熱特性[3]などに大変
より、2mm 以上の CNT においても高い紡
優れたナノ素材であり、1991 年の発見当
績性能を持つアレイを得ることが可能とな
初より工業応用を見据えた精力的な研究が
った。本稿ではこの長尺 CNT アレイから
多くすすめられている。一般に、CNT の長
作製した一方向配向 MWCNT シートの電
さは数μm 程度であり粉末状であるため、
気、熱、機械特性について解説する。
樹脂や溶液などに分散して利用されること
がほとんどである。そうすると CNT の優
2
れた特性はマトリクス材料の特性に打ち消
紡績性 CNT アレイ
塩化鉄支援 CVD 法では、塩化鉄(FeCl2)
されるため、本来の性能を十分に引き出す
を鉄触媒の前駆体として使用した。反応過
ことは困難である。
程初期に塩化鉄とアセチレンが反応して鉄
近年、CNT の乾式紡績による長繊維化に
ナノ粒子を基板上に形成する。このため、
関する研究報告がなされている[4-9]。乾
CNT 合成でよく用いられる金属触媒薄膜
式紡績とは、基板上に垂直に配向成長した
は不要である。本方法の優れた特長は、
CNT アレイから水平方向に次々と引き出
MWCNT
される現象である。このプロセスにより、基
0.1mm/min と非常に高速であることであ
板上に三次元的に成長している CNT が二
る。また、合成したアレイの紡績性能が大変
次元ネットワークを形成した“CNT ウェブ”
高い点も特徴の一つである。成長後の
という結合体に変換される。この形態変化
MWCNT アレイは成長したままの状態で
は蚕の繭から糸を紡ぎだす動作と似ている。
高い紡績性能を示す。
ア レ イ の 成 長 速 度 が
ただし、CNT 同士は強いファンデルワール
MWCNT の平均直径は触媒サイズの制
ス力で結合されるため、従来の紡績とは異
御により 15~50nm の範囲で可変である。
なり、CNT ウェブは撚りを加えなくとも紡
基板上に高密度に垂直配向している。また、
績可能である。さらには、積層してシートを
基板上に成長した状態で基板全域において
形成することもできる[10-12]。
強くバンドル化している。このアレイ状態
我々は、多層 CNT(MWCNT)アレイを
での広いバンドル状態が紡績性能には大変
ミリメートル級の長さに短時間で成長させ
重要である。CNT ウェブは直線度の高い
る化学気相堆積法(CVD)を開発してきた
CNT が強くバンドル化し、バンドル同士が
[13]。このアレイは高い紡績性能を有して
連結することにより形成される。我々の
いることが特徴である。従来報告されてい
MWCNT アレイは根元から先端まで大変
る CNT 紡績においては、CNT 長は長くと
直線性が高く、それゆえ配向度も高い
1
( Fig.1(a) )。 成 長 し た
MWCNT の面密度は 5×109
/cm2 以上である。面密度は、
成長時の圧力やガス流量を変
化させて制御可能であり、こ
の制御は高い紡績性能を得る
ためには重要な要素である。
MWCNT アレイの紡績性能
は大変高いため、ウェブを引
き出すのに特殊なツールは不
要であり、ピンセットなどで
つまみ出すだけで良い
(Fig.1(b))。走査型電子顕微
鏡(SEM)により立体的(三
Fig.1 CNT 紡績。(a)MWCNT アレイ、(b)MWCNT ウェブ
を引き出している様子、(c)アレイからウェブを引き出して
いる境界部、(d)MWCNT ウェブ。
次元)なアレイが平面的(二次
元)なウェブに移り変わる様子を観察した
グラフェン構造に起因した G ピーク
(Fig.1(c))
。引き出された MWCNT バン
(1580 cm-1 )とその欠陥に起因した D
ドルが隣のバンドルを引き出し、その現象
ピーク(1350 cm-1)の比(IG/ID)は 3 以
が連続してウェブが形成される。ウェブ紡
上であった。従来の MWCNT アレイの報告
績は基板上の MWCNT が無くなるまで続
と比べると、高い値であり、MWCNT の結
き、本質的には終わりのない現象である。
晶性が非常に高いことを示している。これ
MWCNT およびそのバンドルは引き出さ
は、830℃という CNT 成長においては高
れた方向に良く配列しており、その様子は
温で成長したことにより、欠陥密度が低減
Fig.1(d)に示されている。この自己配列現
されことに起因する。また、10 分程度とい
象は CNT が本来の特徴として持ち合わせ
ているものであり、従来のバッキーペーパ
ーと呼ばれる CNT シートの作製方法[14]
と比較して飛躍的に単純で容易な方法であ
る。また高度な配向性を有しており、このウ
ェブ技術は今後 CNT を産業に応用する上
で一つのキー技術になると考えられる。
CNT の配列度を調べるため、偏光ラマン
散乱測定を行った。基板上アレイの側面に
波長 532nm の入射光を垂直入射し、偏光
を MWCNT 配向の向きに対して平行と垂
Fig.2 偏光ラマン散乱スペクトル
直に変化させた。どちらの偏光に対しても、
2
う短時間で成長が終了しているため、熱分
解により堆積するアモルファスカーボンの
堆積量が少ないことにもよると考えられる。
G ピーク強度の偏光比は、CNT の配向度
を反映した値となる。ラマン散乱高強度は、
入射光の偏光方向が CNT の成長軸方向
(長
尺方向)と一致したとき最大となり、直交す
るとき最小となる[14]。そのため、より多
くの MWCNT が基板に対して垂直方向に
配向するほど散乱光強度比は大きくなる。
本 MWCNT アレイの強度比は 4.4 である。
これまで報告されている高配向アレイ
[15] と 比 較 し て 非 常 に 大 き く 、 我 々 の
MWCNT アレイが大変高い配向度を有し
ていることを示している。
3 一方向配向 CNT シート
一方向配向 MWCNT シートは、
MWCNT
ウェブをドラムに巻きとる方法により比較
的容易に、かつ短時間で作製される(Fig.3
( a ))。 紡 績 性 能 が 高 い た め ウ ェ ブ は
10m/s 以上の速さで引き出すことも可能
である。積層したシートを高密度化するた
め、エタノールを噴霧し揮発させて凝集化
させた。CNT 同士はファンデルワールス力
のみで安定に結合しているため、結合剤は
不要である。シート厚は巻き取る CNT 量
を変化させて制御した。Fig.3(b)に A4 サ
イズの MWCNT シートを示す。本研究で作
Fig.3 一 方向 配向 MWCNT シー ト 。 (a)幅
500mm のドラムに MWCNT ウェブを巻き
取っている様子、(b)A4 サイズの MWCNT シ
ート、(c)MWCNT シートの SEM 像。
製した MWCNT シートの厚みは 1.8 ±
0.1 μm であり、密度は約 0.84 g/cm3 で
あった。なお、厚み、密度ともCNTシート
の凝集の度合いで大きく変化するので、取
扱い上注意が必要である。拡大してみると
いる(Fig.3(c))
。このため、電気特性、機
少々CNTはうねっているが、CNTウェ
械特性および熱特性は顕著な異方性を示し
ブの配列性がそのままシートにも反映して
た。
3
5
熱伝導特性
Table 2 に MWCNT シートの熱伝導特
性を示す。これまでバッキーペーパーの電
気特性についてはいくつか報告はなされて
いるが、熱伝導特性についてはよく理解さ
れていない。MWCNT シートのように非常
に薄い素材の面内方向の熱伝導測定は容易
ではないが、本研究ではレーザー加熱型熱
拡散率熱伝導度測定装置(アルバック
Laser PIT)にて熱拡散率αを測定した。
5mm×25mm の MWCNT シートを室温、
0.01Pa の真空下で測定した。熱伝導率 K
Fig.4 電流電圧特性。赤プロットは MWCNT
配向に対し平行方向、青プロットは垂直方向
の結果である。
は K = αρC の式より求められる。ここで
ρは密度、C は比熱である。MWCNT シー
トの比熱値として、報告されているグラフ
4 電気伝導特性
ァイトの比熱 0.713 J/g•K を使用した
1cm 角サイズの MWCNT シートについ
[18]。配向方向と平行な方向の熱伝導率は
て、MWCNT 配向と平行及び垂直方向につ
69.6 W/m•K であった。報告されている
いて電流電圧特性を測定した。オーミック
バッキーペーパー[19]と比較すると優れ
接触を得るために Pd 板を電極として用い
た値であるが、個々の CNT の場合[3]に比
た。Fig.4 に示すよう線形特性が得られた。
べると非常に小さな値である。MWCNT シ
シート抵抗は平行方向に 13.8Ω/sq、垂直
ートは非常に多くの MWCNT の凝集体で
方向には 100 Ω/sq であり、その異方比
ある。熱伝導は主にフォノン伝導で生じる
は 7.3 となる。長尺 MWCNT を用いて高
ため、マクロスコピックな熱伝導率は
度配向させたことにより、このような高い
MWCNT 界面の熱抵抗に支配され CNT
異方性が得られたと考えられる。シート厚
個々の熱伝導に比べ小さな値となると考え
は 1.8μm であるので、体積抵抗率は 2.5
られる[20]。配向方向と直交方向の熱伝導
-3
× 10
Ωcm となる。このように、一方向
率は 8.6 W/m•K であり、異方比は 8.1
配向 MWCNT シートは軽量かつ低抵抗、高
である。配向方向には熱抵抗が小さくなり
異方性材料である。
このような異方性が表れている。
Table 1. MWCNT シートのシート抵抗と体
積抵抗率
Table 2. MWCNT シートの熱拡散係数と熱
伝導率
シート抵抗
(Ω/sq)
抵抗率
(Ωcm)
配列方向
13.8
2.5×10-3
垂直方向
100.1
1.8×10-2
4
熱拡散係数
(m2/s)
熱伝導率
(W/m・K)
配列方向
1.2×10-4
69.6
垂直方向
1.5×10-5
8.6
6 機械特性
7
おわりに
Fig.5 に MWCNT シートの引張応力歪特
本 MWCNT シートは CNT を紙状に成
性を示す。幅 1cm、長さ 2cm 程度のシー
型したバッキーペーパーに類するものであ
トを測定長が 1cm になるようにして試験
るが、作製方法、作製時間、材料特性すべて
タグに取り付けて測定した。配向方向の引
において一線を画するものである。これま
張強度は 75.6MPa であった。これまでに
でにない新炭素材料として、今後の新たな
報告されている等方性バッキーペーパーの
応用開発に大きな可能性を秘めていると考
結果[16]と比べて強度は高く、アルミニウ
えている。
ムと同程度の強度である[17]。結合剤は使
用していないため CNT 同士はファンデル
参考文献
ワールス力のみで結合されていることを考
[1] Ebbesen TW, Lezec HJ, Hiura H,
慮すると、広い CNT の表面積のため単位
Bennett JW, Ghaemi HF, Thio T. Electrical
conductivity of individual carbon
断面積あたりの剪断応力は大きくなりマク
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ロスコピックなシートとしての引張強度は
[2] Demczyk BG, Wang YM, Cumings J,
高くなったと考えられる。MWCNT が徐々
Hetman M, Han W, Zettl A, et al. Direct
に滑りながら破断するため、滑らかなピー
mechanical measurement of the tensile
ク構造となった。MWCNT シートの引張特
strength and elastic modulus of multiwalled
carbon nanotubes. Mater Sci Eng A
性には非常に大きな異方性が観測された。
2002;334:173–8.
MWCNT 配 向 と 垂 直 方 向 に は 隣 接 す る
[3] Pop E, Mann D, Wang Q, Goodson K,
CNT 同士の相互作用が小さいのに対し、平
Dai H. Thermal Conductance of an
行方向では CNT 同士が相互に重なりなが
individual single-wall carbon nanotube
らファンデルワールス結合していることに
above room temperature. Nano Lett
起因していると考えられる。
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Fig.5 MWCNT シートの応力歪特性。赤お
よび青プロットはそれぞれ MWCNT 配向に
対し平行および垂直方向の引張特性。
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strength of carbon nanotube spun yarns
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