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本文 - J
微粒子濃厚サスペンジョンの巨視的レオロジー挙動と微視的粒子間相互作用
Relationship between Macroscopic Rheology Behavior of Dense Suspension and
Microscopic Surface Interaction between Fine particles
東京農工大学大学院共生科学技術研究部 神谷秀博
Dense suspension behavior depended on the aggregation/dispersion properties and surface interaction
between primary particles. Recently, the direct measurement method by using colloidal probe atomic
force microscope (AFM) is developing and applied the characterization of suspension behavior. In this
presentation, by using polymer dispersant with various molecular structure and weight, the surface
interaction between fine particles ranging from several nm to 100 nm was determined by a colloidal
probe AFM method, and discussed the relationship between microscopic surface interaction and
macroscopic suspension behavior and aggregation / dispersion behavior.
力測定法(SFA)や原子間力顕微鏡(AFM)がある。
1. はじめに
セラミックス等の分野で使用される微粒子濃厚系
原子間力顕微鏡は、近年、装置として急速に普及し、
サスペンジョンでは、粒子濃度は 40 vol%以上、原料
市販探針の先端に球形粒子を付けたコロイドプローブ
粒子径もサブミクロンから数十 nm 以下の所謂ナノ粒
法 2 による研究が増えている。
子の利用を試みる例が増えてきている。こうした微粒
コロイドプローブは、数μm 程度の球形粒子が得ら
子の高濃度分散系では、界面電気二重層を利用した
れれば材質を選ばず表面間作用が測定できるが、残念
DLVO 理論
1 に基づく粒子の凝集・分散挙動やサスペ
ながらシリカ、アルミナなどの酸化物やポリマーを除
ンジョン流動特性の制御が困難になる。そこで、高分
くと作成は困難である。また、AFM 測定用 Tip の先端
子分散剤等を用い凝集構造などの制御が試みられてい
は数μmであり、この先端に粒子径、数∼十数μmの
るが、分散剤の分子構造の選定や粒子・溶媒との組み
球形粒子を接着することは大変な困難が伴う。筆者ら
合わせには経験的な要素が多く、その作用機構も十分
は、バイオ領域で使用されるマイクロマニュピレータ
理解されずに使用されてきた。
ーを用いたコロイドプローブ作製装置を開発し 3、簡
本稿では、微粒子濃厚分散系を対象に、分散剤分
便にコロイドプローブが作成できることを示した。
子構造、粒子や溶媒の組み合わせ等による粒子・流体
また、コロイドプローブ法用の球形粒子であるが、
界面構造や粒子間相互作用の変化をコロイドプローブ
現状では顕微鏡で観察しながら作成するため、μmオ
原子間力顕微鏡(AFM)法 2 により微視的に評価解析
ーダーの粒子が下限である。サブミクロン以下の粒子
し、巨視的な凝集状態やレオロジー特性との関係から
でコロイドプローブ法を行うため、著者らは、噴霧乾
高分子分散剤などの作用機構を考察する。
燥法で球形に造粒後、表面状態が極端に変化せず粒子
接触点のネックのみが僅かに成長し、液体につけても
造粒体が壊れない程度の温度、雰囲気で熱処理を行っ
2. 粒子間相互作用の評価法
スラリー中の粒子凝集分散挙動やスラリーのレオロ
た粒子を探針先端に接着してコロイドプローブを作成
ジー特性の評価には、粒子表面間相互作用の評価と制
した。
一例として粒子径 0.1μm の窒化ケイ素粒子から
御が、特に理論体系が完成していない非 DLVO 的な相
作成したコロイドプローブを図1に示した 3。このプ
互作用が支配的な場合には重要となる。固体粒子表面
ローブを用いて水中でイオン濃度等調整して測定した
への高分子分散剤等の吸着により発生する力を直接観
Force curveは、
DLVO理論と良好な一致を示している。
2
察する方法として Israelachivili が開発した表面間
この結果を微視的に解析するため、この分散剤をア
ルミナ燒結体鏡面研磨面に吸着させ、AFM により斥
力を測定した結果を図6に示した。図中には実測条件
および実測したζ-電位の値を(3)式に代入して求めた
理論線も示した。数nm以上の表面間距離では理論と
実測値は一致しているが、それ以上接近しても van
der Waals 引力は観察されず単調に斥力が増加する。
これが分散剤吸着による立体障害効果と考えられ、親
Fig. 1 SEM photograph of colloidal probe of silicon
水基が 30%の時最も大きい。この効果は親水基が増え
nitride fine powder
るほど減少し、親水基 100%の分散剤では、DLVO 理
3. 分散剤構造とスラリー挙動、相互作用の解析例
論線と実測値が全距離でほぼ一致し立体障害効果はほ
以上の理論、AFM を用いた計測法により、セラミ
とんど作用していないと考えられる。分散剤の吸着に
ックス濃厚系スラリーのレオロジー特性と粒子間相互
より表面電位は-70mV 近くまで増加し、静電反発効果
作用の関係を検討した事例を以下にいくつか紹介する。 も期待されるが、電位増加による斥力増加はわずかで
3.1.アルミナ・水系スラリー
あり、この系では立体障害効果による凝集制御が有効
−高分子分散剤構造の影響−4
である。この結果は、図2のスラリー粘度の分散剤構
アクリル酸アンモニウムとアクリル酸メチルの重合
造依存性など巨視的な特性変化とも対応している。
比率により親水基/疎水基比(m:n)を変化させた分子
量約 10,000 の高分子分散剤を用い、高濃度アルミナ
80x10
スラリーの流動特性に及ぼす分散剤構造の影響を評価
親水基 100%の分散剤が最も粘度が高く、親水基 30%
で極小となり、親水基 10%は粘度が急増して測定不能
となった。
2
100:0
30:70
40
0
DLVO theory (m:n = 30:70)
shear stress [Pa]
10
20
30
40
Fig. 3 Force curve between tip and alumina
50:50
2
0.1
CD = 1.36 mg/m
pH=8.6-9.6
8
6
2
adsorbed polymer dispersant.
30:70
2
1
3
pH φ [mV] C 0[M/m ]
8.4 -65.6
1.7
8.4 -61.0
1.28
7.9 -54.3
0.85
7.0 -46.3
0.51
Surface distance, h [nm]
6
4
dtip = 40 nm
-20
75:25
8
2
20
0
1
CD=1.31 mg/m
key eq. 1 m:n
100:0
75:25
50:50
30:70
60
Repulsive Force [nN]
した結果を図2に示した。
流動化した分散剤の中では、
-3
3
4 5 6 7
key m:n
30:70
50:50
75:25
100:0
2
3
4 5
10
shear rate [1/s]
3.2.アルミナ・エタノール系スラリー
―粒子径と分散剤分子量の関係−5、6
アルミナ/エタノール系サスペンジョンを対象
に、分子量、構造の異なるポリエチレンイミン(PEI)
系高分子分散剤を用い、粒子径数∼600nm のアル
Fig. 2 Effect of molecular structure on dense
ミナ粒子の液中分散性、スラリー特性に及ぼす粒子
alumina suspension behavior
径と分散剤分子量の関係を検討した。使用した PEI
系分散剤は分子量を 300~70000 の範囲で数種類に
変化させたものを用いた。エタノールにこの PEI
子量 300, 1200 の PEI を吸着させた場合には、分散
系分散剤を粒子の表面積基準で 1.4mg/m2添加し、
剤未添加の場合に観察される付着力がほぼ消失した。
4種類の粒子径のアルミナ原料微粉体を加えてス
しかし、分子量10000では、数十nm と非常に遠距離ま
ラリーを調整し、24h ボールミル混合した。スラリ
で、非線形的な引力が観察され、無添加時の付着力よ
ー中の粒子濃度は分散剤無添加の条件で粘度が
りも大きな力でもプローブ粒子と平板が分離していな
2.5Pa・s-1になる粒子濃度を選んだ。
い。引力の最大値を示した後も、引力が残存しており、
粒子径の異なる各アルミナ粒子スラリーの見かけ粘度と添加
分散剤が粒子間に架橋を形成している可能性がある。
した分散剤の分子量の関係をFig. 2 にまとめて示した。
この長距離引力により、分子量 10000 以上の PEI を
2 種類のサブミクロンサイズのα-Al2O3 では分子量
用いると、ナノ粒子では粘度が増加したものと考えら
10000 程度で粘度が極小となった。一方、
粒子径 30nm
れる。
のθ-Al2O3 では分子量 600~10000 の範囲で粘度は小さ
30x10
-3
くほぼ一定となり、粒子径 7 nm のγ-Al2O3 では分子量
粘度を極小とする分散剤分子量が小さくなることが確
認された。
Key
Apparent viscosity [Pa・s]
10
4
2
1
Sample dp [nm]
AL160SG4 370
TM-DA
100
TM-100
30
TM-300
7
Repulsive force [nN]
1200 で粘度が極小値を示した。粒子径の減少に伴い、
γ-alumina, dp = 7 nm
MW without PEI with PEI
300
1200
10000
25
20
15
10
5
0
0
5
10
15
20
25
30
Surface distance [nm]
4
Fig. 5
Force curve between γ-alumina with
different dispersant during approaching
process.
2
0.1
4
2
Key
1.0
2
2
10
4 6
2
3
4 6
2
4
10
10
Molecular weight [ g/mol ]
4 6
0.5
5
10
Fig. 4 Apparent viscosity of each alumina
suspension
この粘度に及ぼす粒子径と分散剤分子量の関係を解
析するため、粒子径 7 nm のγ‐アルミナを用いたコ
ロイドプローブにより測定した接近過程での Force curve
を Fig. 4 に示した。分子量の増加に伴い、斥力発生開
始距離、近距離斥力が増加し、他のアルミナでも同様の結
果となった。この結果は、特にナノ粒子スラリー粘度
0.0
Force [nN]
0.01
MW
300
1200
10000
without disp
-0.5
-1.0
MW = 10000
-1.5
0
20
40
60
80
100
Distance [nm]
Fig.6 Force curve between γ-alumina with
different dispersant during separating
process.
の結果と対応していない。
そこで、コロイドプローブと平板間を分離させる際に観察
される Force curve の測定結果を Fig. 5 に示した。分
サブミクロンのα-アルミナを用いた場合には、いずれの分子
量の PEI を用いてもこうした長距離相互作用は観察さ
れず、分散剤の吸着により付着力はほぼ完全に消失し
引用文献
た。また、粒子径 30 nm のθ-アルミナでも、γ-アルミナほど
1) E.Verwey and J.Th.G.Overbeek : “Theory of the
ではないが、Fig. 6 と同様、分子量 10000 の分散剤を
Stability of Lyophobic Colloids”, Elsevier, Amsterdam,
用いた場合には、遠距離相互作用が観察された。
Netherlands, (1948)
この結果を考察するため、同じ比表面積基準の添加
量(1.4 mg/m2)の条件で、粒子径、分子量による分散剤
の吸着率の変化を測定した結果を Fig. 7に示した。サ
ブミクロンのα-アルミナでは分子量の増加につれ吸着率が増
加している。しかし、γ-アルミナナノ粒子では分子量が
10000 になると低分子量の場合に比べ吸着率の低下傾
向が認められた。このナノ粒子への未吸着高分子量
PEI の増加は、粒子間の架橋の形成に関与している可
能性がある。
2) W.A.Ducker and T.J.Senden, Langmuir, 8, 1831-36
(1992)
3) H. Kamiya, S. Matsui and T. Kakui, Ceramic Trans. 152,
83-92 (2004)
4) H.Kamiya et al., J. Am. Ceram. Soc., 82 (12), 3407 –
3412 (1999)
5) T.Kakui, T.Miyauchi, M. Tsukada and H.Kamiya, J. Euro.
Ceram. Soc., in press.
6) 神谷、宮内、角井、日本セラミックス協会 2004 年会
要旨集(2004 年 3 月、神奈川)
100
2
Adsorption ratio [%]
additive cont. = 1.4 mg/m
80
60
Key dp [nm]
370
95
30
7
40
20
0
10
2
2
4 6
2
3
4 6
2
4
10
10
Molecular weight [ g/mol ]
4 6
10
5
Fig. 7 Adsorption ratio of dispersant.
4. おわりに
セラミックス濃厚系スラリーのレオロジー挙動に及
ぼす分散剤の構造、分子量等の影響を、コロイドプロ
ーブ AFM 法により、解析評価した事例を示した。
DLVO 理論は、スラリー中の微粒子分散状態の制御、
それにともなうスラリーのレオロジー特性の解明に静
電的な作用が支配的な系では有効であるが、分散剤吸
着などの場合には実測による評価が重要である。今後
は、分散剤の吸着構造など微視的な解明も実施しなが
ら、分子・ナノレベルから巨視的なレオロジー特性ま
で体系的に評価・解析する手法の確立が重要である。
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