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震災を乗り越えて――日本から世界へ――
OVERCOMING THE DISASTER
Gratitude from Japan to the World
事業報告書
国際交流基金 ジャパンファウンデーションとは
はじめに
Contents
独立行政法人国際交流基金は、世界の全地域において総合
2011 年 3 月11日に発生した東日本大震災は、東北地方を中
01
はじめに
02
事業のコンセプト
に特殊法人として設立され、2003 年 10 月に外務省所管の独
04
事業概要
立行政法人として改組された組織です。現在、
本部と京都支部、
06
舞台公演 不明者の捜索が続き、仮設住宅での暮らしを余儀なくされて
、およ
ふたつの附属機関(日本語国際センター、関西国際センター)
10
展覧会
いる人が大勢います。あらためて、亡くなられた方々のご冥福
び海外 21カ国に開設された 22 の海外拠点をベースに、外部
12
講演会
をお祈りするとともに、被災された方々に心からお見舞いを申
団体と連携しつつ、文化芸術交流、海外における日本語教育、
14
上映会 し上げます。
日本研究・知的交流を 3 本の柱として活動しています。
16
世界の会場で
2012 年 3 月、震災から1 年の機会に国際交流基金は、国際
的に国際文化交流事業を実施する機関として、1972 年 10 月
心とする広い範囲に甚大な被害をもたらしました。
あれから1 年以上の月日が経っても、被災地では未だに行方
社会へ向かって東北地方が本来もつ豊穣さ、コミュニティにお
ける人間の絆の強さといった魅力を紹介するとともに、世界中
から日本に寄せられた温かい支援に対する日本人の感謝の気
持ちを表し、あわせて日本の復興への決意を伝えるために、
米国、フランス、中国を中心とした世界各地で舞台公演、展
覧会、講演会、映画・ドキュメンタリーの上映会等の文化事
業を実施しました。震災後の報道が伝えなかったであろう
「東
北」の姿を知ってもらうためです。
この報告書は、国際文化交流を担う私達が復興のためにでき
ることを考え、文化をとおして世界に
「東北」を伝えようとした
一連の事業について、実施の概要と各地での反響の一部をま
とめたものです。
震災を契機に、海外では日本人の精神や日本社会をささえる
文化の力が注目されています。国際交流基金はこれからも日本
の魅力を発信し、日本の被災経験を海外の人達と共有し、被
災地をはじめ日本と海外の交流を促進することにより、復興に
貢献していきます。
2012 年 8 月
表紙写真:
(上から)
湧水神楽、黒森神楽、臼澤鹿子踊
1
「震災を乗り越えてーー日本から世界へーー」事業のコンセプト
2
震 災を乗り越えて
東日本大震災とその後の日本社会について、世界の人
波、車や建物が波にのまれ流されていくようす、瓦礫
世界へ――」はこうした問題認識のもと生まれた企画
した。さらに映画・ドキュメンタリー上映会は、震災
びとはどのように受け止めたでしょうか。地震と津波、
だらけの街、過酷な体験をした被災者の証言、といっ
です。この事業は、震災から1 年を経た 2012 年 3 月
後の日本を、人びとの暮らしという視点からリアリティ
原発事故に関する夥しい数の映像や写真は諸外国の
た震災当時のショッキングな映像や固定的な日本人イ
より世界各地で展開された、舞台公演、展覧会、講
をもって伝えることのできる企画でした。
報道でも幾度も放映され、被害の状況は世界中で衝
メージのみが焼き付けられてしまうことを意味します。
演会、映画・ドキュメンタリー上映会から成ります。
この事業は最終的に世界中で 5 万 6 千人を超える人が
お ん で こ ざ
撃とともに受け止められました。ニュースに接したたく
被災地域がどのような地域か、どういう自然に囲まれ、
公演は、東北民俗芸能と鬼太鼓座& Musicians によ
参加する催しへと発展し、各地で大きな反響を得まし
さんの人達が立ち上がり、各地でチャリティイベントや
人びとはどのように暮らしてきたのか、といった背景
るコンサートで、米国、フランス、中国の 3 カ国で上
た。震災後の日本を伝えることは、海外の人が待ち
募金を通して、被災地域へ温かい支援の手が差し伸べ
を知る情報は報道ではほとんど伝えられません。豊か
演しました。土地に根付き、長い伝統と歴史の中で
望んでいたことでもあったのです。文化芸術交流は言
られたことは日本でも記憶に新しいことです。
な歴史や自然、伝統、文化を誇る都市や町の名前が、
育まれた芸能を通じて、東北の文化を紹介し、復興
葉を越えた共感を生み出します。舞台を見た観客の
しかし震災後の日本社会や、今も続く復興・復旧へ向
未曾有の大惨事のイメージとのみ結びついて海外の人
へ向けて歩む力強い意志を伝えることを目的としまし
反応を、参加した東北出身の人達が直接感じてくだ
けての地道な取り組みについては世界に伝えられたで
達の記憶に刻まれてしまうのは残念なことです。
た。ニューヨークでの公演は、国際連合総会議場を
さったことも大きな喜びでした。催しに参加した世界
しょうか。国際交流基金の海外拠点からの報告によ
震災後の日本社会と復興・復旧への取り組みを発信
舞台に国際社会に対するメッセージを、またフランス
の人達が被災地の復興を末永く応援してくださること、
ると、海外のメディアでは、震災発生当初は甚大な被
し続けること、そして被災地域に伝わる豊かな文化と
では震災復興支援の募金活動等に非常に熱心に取り
それが被災地での歩みを支え、新たな活力を吹き込
害に関する情報が溢れ、次第に
「非常時にも冷静」と
伝統を海外の人達に紹介することが、被災地の再生
組まれたパリ郊外のリセ・インターナショナル・サン
むことを願ってやみません。
いった日本人の国民性を讃える論調が現れて、原発の
と活力回復のためにも必要ではないか――文化交流の
ジェルマン・アン・レー校を会場に選び、感謝の気持
問題が明らかになるにつれ事故と食の安全へ関心の中
現場にたつ私達は震災後こうした課題を意識するよう
ちを伝える機会としました。展覧会は、東北文化を紹
この報告書を発行するにあたり、本プロジェクト実現
心が移り、時間の経過とともに、震災に関する報道自
になりました。被災経験や教訓、その復興への歩み
介する写真展と、震災後、重要な役割を果たした建
のためにともに汗を流してくださった関係団体の皆さ
体が少なくなっていったというのが一般的な傾向のよう
を伝えることは、さまざまな国から支援を受けた日本
築家の取り組みを紹介する建築展で、今後も世界各地
ま、このプロジェクトを支えてくださった多くの方々、
です。未曾有の大惨事とはいえ、海外での報道が数カ
の国際社会に対する責務でもあり、また支援に対す
を巡回する予定です。また、建築展にあわせたトーク
そしてこのプロジェクト参加メンバーの皆さんに心より
月を経た時点で他の話題へと移るのは自然なことです。
る最良の感謝の表明であるとも言えるでしょう。
や、東北学と復興にまつわる諸課題、震災後の日本
感謝を申し上げます。
しかしそれは、多くの人の脳裏に、街に押し寄せる津
今回の総合文化事業
「震災を乗り越えて――日本から
の演劇界の取り組みについて伝える講演会も実施しま
国際交流基金 文化事業部
3
3
事業概要
撮影:Nobuyuki Okada
「震災を乗り越えてーー日本から世界へーー」
Overview
米国
震災から1年が過ぎた 2012 年 3 月、総合文化事業
「震災を乗り越えて」は米国
公演
ロサンゼルスでの公演を皮切りにスタートし、米国、フランス、中国を中心に、
東北民俗芸能(湧水神楽)
と鬼太鼓座 & Musicians
世界各地でさまざまなプログラムを展開しました。
3 月 2 日[金]ロサンゼルス(ミュージック・センター アーマンソン・シアター)
(国際連合 総会議場)
3 月 5 日[月] ニューヨーク
ロサンゼルスでの舞台公演
(リンカーン・センター ローズ・シアター)
3 月 6 日[火] ニューヨーク
中国
講演会
(篠原久美子 「劇団劇作家」
代表)
「Shinsai : The Conversation」
映画上映
公演
3 月12 日[月] ニューヨーク(ジャパン・ソサエティ)
東北民俗芸能(臼澤鹿子踊)
と鬼太鼓座 & Musicians 『東北 夏祭り ~鎮魂と絆と~』
3 月 14 日[水] 北京(国家大劇院)
3 月 16 日[金] 上海(大寧劇院)
3 月 20 日[火] 重慶(重慶大劇院)
3 月 22 日[木] 23 日[金]広州(広州大劇院)
映画上映
『ガレキの中からの再出航
~漁業の町・岩手県大船渡市~』
『春との旅』
『カルテット!』
『ロック わんこの島』
ニューヨークで開催された講演会の聴衆
『東北 夏祭り~鎮魂と絆と~』
上海での舞台公演
(ジャパン・ソサエティ)
3 月11日[日] ニューヨーク
『がんばっぺ フラガール!
~フクシマに生きる。彼女たちのいま~』
3 月 26 日[月] 香港(九龍湾国際展貿センター)
3 月 13 日[火] 瀋陽(瀋陽国際皇冠假日酒店)
展覧会 3 月 16 日[金] 広州(花園酒店)
写真展「東北 ーー風土・人・くらし」
3 月 17 日[土] 北京(日本大使館広報文化センター)
、25 日[日]
、26 日[月]
3 月 10 日[土]~16 日[金] 北京(中華世紀壇世界美術館) 3 月 23 日[金]
北京での写真展会場
香港(九龍湾国際展貿センター)
講演会 (赤坂憲雄 学習院大学教授)
「震災と東北、
そして文化」
3 月 31日[土] 東港(東港日本語学校講堂)
3 月 27日[火] 天津(南開大学日本研究院)
3 月28日[水] 北京(北京日本学研究センター)
北京日本学研究センターでの講演会
●パリ
●瀋陽
●北京 ●東港
●天津
● ニューヨーク
●ロサンゼルス
●重慶
●上海
●広州
●香港
フランス
公演
震災・東北にまつわる日本映画・
ドキュメンタリー 7作品の上映
東北民俗芸能(黒森神楽)
と鬼太鼓座 & Musicians
(パレ・デ・コングレ)
3 月10日[土] パリ
(リセ・インターナショナル・サンジェルマン・アン・レー校)*黒森神楽のみの公演
3 月 11日[日] パリ
パリのパレ・デ・コングレの舞台公演
展覧会
エリア
建築展
「3.11ーー東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」
(パリ日本文化会館)
3 月 6 日[火]~ 31日[土] パリ
講演会
(五十嵐太郎 東北大学大学院教授)
「3.11以降の建築と都市」
(パリ日本文化会館)
3 月 21日[水] パリ
パリ日本文化会館での展覧会会場
映画上映
『東北 夏祭り~鎮魂と絆と~』
『ガレキの中からの再出航 ~漁業の町・岩手県大船渡市~』
(パリ日本文化会館)
3 月13 日[火]、15 日[木]、27 日[火]、31日[土] パリ
パリ日本文化会館での講演会
4
震 災を乗り越えて
上映会場は 86 カ国 138 都市の国際交流基金海外拠点
および在外公館ほか
上映都市数
観客数
左記の各地で上映された作品は以
下の7作品。作品はそれぞれ多国語
東アジア
4カ国10都市
3,076人
東南アジア
10カ国13都市
3,225人
南アジア
5カ国8都市
4,684人
大洋州
4カ国6都市
313人
の字幕付または吹き替えにより上
映された。
上映作品
「東北 夏祭り ~鎮魂と絆と~」
北米
2カ国21都市
中米
7カ国9都市
南米
10カ国17都市
6,314人
西欧
14カ国20都市
2,803人
東欧
11カ国14都市
4,180人 「ロック わんこの島」
中東
7カ国7都市
北アフリカ
アフリカ
2カ国2都市
10カ国11都市
4,151人
1,954人 「ガレキの中からの再出航
~漁業の町・岩手県大船渡市~」
「がんばっぺ フラガール!
~フクシマに生きる。
彼女たちのいま~」
996人 「エクレール・お菓子放浪記」
331人 「春との旅」
3,336人 「カルテット!」
事業概要
5
実施された公演
米国公演
日程
出演者
都市
2012 年 3 月 1 日
湧水神楽と
ロサンゼルス
鬼太鼓座 &Musicians
ワークショップ
2012 年 3 月 2 日
2012 年 3 月 4 日
ニューヨーク
ワークショップ
アベニュー C・スタジオ
公演
リンカーン・センター ローズシアター
公演
国際連合総会議場
2012 年 3 月 6 日
公演・ワークショップ
公演
会場
観客数(概数)
1,400 人
ミュージック・センター アーマンソン・シアター
1,000 人
国連公演
2012 年 3 月 5 日
湧水神楽と
鬼太鼓座 &Musicians
1,600 人
フランス公演
2012 年 3 月 9 日
黒森神楽と
パリ
2012 年 3 月 10 日 鬼太鼓座 &Musicians
ワークショップ
2012 年 3 月 11 日
公演
黒森神楽
公演
パレ・デ・コングレ 600 人
リセ・インターナショナル・サンジェルマン・アン・レー校
350 人
中国公演
2012 年 3 月 13 日 臼澤鹿子踊と
北京
2012 年 3 月 14 日 鬼太鼓座& Musicians
ワークショップ
2012 年 3 月 16 日
ワークショップ
上海
2012 年 3 月 16 日
2012 年 3 月 20 日
公演
重慶
2012 年 3 月 20 日
2012 年 3 月 22 日
ワークショップ
公演
広州
ワークショップ
2012 年 3 月 22 日
公演
2012 年 3 月 23 日
ワークショップ
2012 年 3 月 23 日
公演
2012 年 3 月 26 日
香港
2012 年 3 月 26 日
舞台公演
公演
ワークショップ
公演
1,700 人
国家大劇院
大寧劇院
700 人
重慶大劇院
800 人
広州大劇院
300 人
広州大劇院
300 人
九龍湾国際展貿センター
300 人
出演者
Performing Arts
米国公演:湧水神楽(岩手県遠野市)
東北民俗芸能に、和太鼓ほかジャンルを超えたさまざまなミュージシャンが加わってつくりあげた
フランス公演:黒森神楽(岩手県宮古市)
中国公演:臼澤鹿子踊(岩手県上閉伊郡大槌町)
ステージを、3カ国8都市で展開しました。歴史と伝統のなかに育まれた民俗芸能を通じて、
世界の人に
「東北」を伝える企画です。
厳しい自然風土の中でたびたび飢饉や災害に見舞われた歴史
手県内陸部にあって震災直後から沿岸被災地支援の拠点と
を持つ東北地方に伝わる民俗芸能は、鎮魂、供養の要素を
なった遠野市の湧水神楽、甚大な津波被害を受けた三陸沿岸・
色濃く有していると言われ、そこに住む人びとを常に慰め、力
宮古市と大槌町からそれぞれ黒森神楽と臼澤鹿子踊が、めい
づけてきました。以前より高齢化や過疎化の問題を抱えてい
めい地元の想いを携えて世界の舞台に立ちました。
た東北民俗芸能は、地震と津波によってさらに、ほとんど壊
公演は、これら東北民俗芸能に、エネルギッシュな和太鼓演
滅的と言ってもよい被害を受けました。しかし、
震災直後から、
奏で知られ、震災後は積極的に被災地での瓦礫撤去等ボラン
し
し
お ん で こ
1932 年に地元の農家の人たちで結成された湧水(わく
岩手県宮古市の黒森神社を本拠地とする。この地域に
大槌町を本拠に 5 団体が継承しているこの鹿子踊は、
みず)神楽は、
『遠野物語』で女神が住む山とされた早
は近世以来、山伏が布教の手段として演じていた神楽
約 400 年前、海産物の交易船に伴い関東から伝わった
池峰山(はやちねさん)周辺を本拠地とする。この山に
が数多く伝えられ、各地域の氏神である神社や集落を
とされ、平和祈願、先祖供養、魔除けのため、ことある
入り、神と交信する力を身につけるために修行を積んだ
短期間に巡行していたが、それらの神楽衆の中でも、舞
ごとに舞が催され、現在でも家や蔵、船、馬小屋など
山伏によって生み出された舞が原型とされ、太鼓と鉦、 や囃子の上手を集め、数カ月にわたる長い巡行を行っ
が完成すると舞が呼ばれるという。農業中心の暮らしと
住民自らが残った道具を探し出し、補修し、他地域からの支
ティア活動に取り組んできた鬼太鼓座、さらにジャズミュージ
援も受けながら、命を落とした方たちへの鎮魂の想いを込め
シャンや沖縄三線、女流義太夫など、東北出身のアーティス
て再開した民俗芸能も少なくありません。それは、郷土芸能
トを中心に現代日本を代表する計 18 名のミュージシャンが結
や神事、祭りが、人びとのアイデンティティの拠り所として欠
集したユニークな音楽ユニットにより行われ、各地で観客のス
かせないものであり、被災した故郷から離れた場所で避難生
タンディングオベーションを呼び、会場は熱気に包まれました。
活を送る人達にとっては、心を故郷に結びつけるものであるか
公演に先立ち、各地の子ども達を対象に竹楽器づくりのワー
らかもしれません。
クショップを行い、その子ども達も共演者としてコンサートに
となっている。同地にはアメリカからのボランティアも多
震災から1 年を経て、その東北の民俗芸能を中心とした公演
参加しています。
を、米国、フランス、中国の 3 カ国 8 都市で行いました。岩
6
震 災を乗り越えて
笛の演奏で、面をつけた人が舞う形を基本としている。 てきたのが黒森神楽である。津波で甚大な被害を受け
密接に結びつき、耕す、荷車を押すなどの動作が舞に表
現在は、収穫後や正月に、安全や豊作を祈る舞として地
われる。なかでも、シカの頭を模した兜を着けた舞手と、
た岩手県陸中沿岸地方の広い範囲を、北廻りと南廻り
元の神社に奉納されたり、公民館などで舞われるなど、 と 1 年おきに廻村する巡行を伝承してきた。広範囲に
刀を持ち里の人間に扮した舞手が太鼓と横笛の音にあわ
地域の大切な行事となっている。
長期にわたる巡行を行う神楽は全国的に見ても例がなく、 せて仲良く踊るが、ひとたび互いの境界線を侵せば、人
遠野市は、津波で被害を受けた沿岸部から約 50 キロ
また、山岳信仰の系譜につながる霊山としての黒森神社
内陸に位置し、全国、全世界からのボランティアの拠点
への畏敬の念と、沿岸部で古くから営まれてきた漁業を
互いの領域を侵さず共生しようとする古の伝えが込めら
基礎とした文化が融合した独特の勇壮な舞と囃子であ
れている。大槌町は大きな被害を受け、メンバーに被災
数訪れており、神楽メンバーは舞台に立つにあたり「全
る。この地域の生活に密着した貴重な習俗が現在も受
者がでたほか、衣装や道具も流され、稽古場も避難民
員が、これまでの支援に深く感謝し、世界の平和を祈り
け継がれていることから、2009 年に国の重要無形民俗
であふれたが、町の復興祈願のため 4 月には早くも公演
ながら舞うつもりでおります」と想いを語った。
文化財に指定されている。
を再開した。
は刀を抜き、シカは角を突き、相手を追い返す仕草には、
舞台 公演
7
出演者
ニューヨーク国連総会議場での公演
鬼太鼓座 & Musicians
3 月 5 日、ニューヨークでは、世界から寄せられた支援に謝意を表明し、 かし、我々がより強く、より活力をもちより団結していかなければならない
日本が復興に邁進している姿を国際社会に伝えることを目的に、国際連
鬼太鼓座は、1969 年、創設者の故・田耕
(でんたがやす)の構想のもとに集まったメ
というメッセージを日本語を交えながら述べ、
「今夜のパフォーマンスから
合本部総会議場で公演を行いました。
励ましを得て、明日の困難を克服しましょう。国連も世界も日本を応援し
国際連合本部の総会議場を観衆が埋め尽くすなか、公演に先立ち、潘
ています」と締めくくりました。演奏は、この日の公演が日本にとどまらず
基文国際連合事務総長よりスピーチがありました。潘事務総長は、震災
世界中の災害や紛争による被害者に捧げられるものであるとしてスタート
後訪れた福島での若者たちとの出会いに触れながら、
「世界は忘れていま
し、湧水神楽と鬼太鼓座&Musicians が潘事務総長の言葉に応えるよう
せん。いまだに多くの人が家に帰れないことを私達は知っています。経済
に、力強い演奏を披露しました。広い総会議場には熱気が満ち、公演は
的損失が莫大であることも理解しています。そして、多くの傷は完全に癒
大盛況のうちに終了しました。
えることがないであろうこともわかっています」
、
「しかし希望の兆しも数多
*潘基文事務総長のスピーチは、UN News Centre のホームページ
(英文)および国際
く見られます」と述べました。そして、震災、津波、原発事故の経験を生
連合広報センターのホームページ
(和文)で全文をご覧いただけます。
ンバーによって佐渡を拠点に結成された日
本を代表する太鼓グループ。東日本大震
災復興支援の活動も精力的に行っている。
今回の公演では海外でも活躍する、バン
ブーオーケストラの北村公宏、アルトサッ
クス奏者の梅津和時率いる梅津ちびブラ
ス、パーカッションの越智ブラザーズ、ピ
アノ・シンセサイザー奏者の野崎洋一、沖
縄三線・唄の池田卓、無国籍・ノンジャン
ルのシンガーおおたか静流、義太夫・三
味線の田中悠美子らが加わり、各地で迫
力ある舞台を展開した。
2012 年 2 月11日、鬼太鼓座は、釜石市
撮影:Lee Wexler
スタッフ
1
2
3
で郷土芸能を伝承する集団、桜舞
(おうぶ)
太鼓から太鼓ばちとのぼりを託され、被
総合演出:田村光男 制作:斎藤美乃、若鍋聡志、大石宏樹、霍虹 舞台監督:宇佐美敏彦、佐藤英輔 災地の想いとともに今回の一連の公演に
音響:風上哲也、梶野泰範 照明:岡田勇輔、大久保尚宏
臨んだ。
公演とともにワークショップを開催
公演に先立ち、各地の子ども達とのワークショップも行われました。日本
し、勇壮な太鼓やミュージシャンと合奏する一連のワークショップに、子
に多く自生する竹を素材とし、出演者やスタッフの指導で子ども達が楽器
ども達は真剣なまなざしで取り組みました。ワークショップに参加した子
を制作するものです。竹を細長い板状に加工して打楽器のようにたたい
ども達は自作の楽器を手に舞台に登場し、合奏に加わってステージを盛
たり、竹の筒に穴を開けて笛のように吹いたり、手づくりの楽器で音を出
り上げました。
上段右の撮影:Nobuyuki Okada
4
(中央)
、国連日本政府代表部西田恒夫大使夫妻
(左)らを囲んで/ 2.
「国連も世界も日本を応援しています」と話す潘国連事務総長/ 3. 国連総会議場での公演の
1. 潘基文国連事務総長夫妻
記念として、公演ポスターに潘国連事務総長と出演者全員がサインをした/ 4. 終演後、会場はスタンディングオベーションがやまず、熱気に包まれた
8
震 災を乗り越えて
撮影:Lee Wexler
舞台 公演
9
展覧会
中国
写真展「東北――風土・人・くらし」
3 月10日— 3 月16日 北京 中華世紀壇世界美術館
Exhibitions
入場者数 2,209 人
出展作品
東日本大震災直後から建築家は復興のためにいかに立ち上がってきたのかを示し、また被災した
東北とは本来どのような魅力をたたえた土地なのかを伝える、ふたつの展覧会を制作しました。
3 月にそれぞれフランスと中国で開催されたこの展覧会は、今後、世界各地を巡回します。
フランス
建築展
「3.11――東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」
3 月6 日— 3 月31日 パリ日本文化会館
入場者数 9,238 人
本展覧会は現在の日本の建築史・建築評論の分野をリードし、
東北大学大学院工学研究科の教授でもある五十嵐太郎氏を監
修者に迎え、2011 年 3 月11日に発生した東日本大震災後の
建築家達の多様な動きをとりあげています。
震災発生直後から1 年の間に実施または計画された 50 以上
のプロジェクトを、
「避難所での緊急対応や最初期の取り組み」
「仮設住宅」
「本格的復興計画」の 3 つの段階に分け、また海
外の建築家からの復興に向けての提案もあわせて紹介してい
ます。それぞれのプロジェクトの概要、図面、写真を 1 枚のパ
ネルにまとめたほか、実際に避難所で使用されたダンボール
の家具や関連映像、模型、シェルターなども同時に展示しま
被災したエリアの地理的状況などが模型等の展示によって、日本になじみのない人にもわ
かりやすく説明された
した。
壊滅的な被害を受けた被災地の光景を目の当たりにしながら
も、ただ傍観していただけではなく、いち早く現場に入り災害
に向き合った建築家達の復旧活動のあり方を、わかりやすく、
幅広く世界に伝える構成としました。
展示には、復興への道筋を模索している人びとの姿も表れてお
り、また、建築家達の取り組みは今後も増え、それらのプロジェ
クトも多様化するであろうことが感じられるものでした。
3 月 21日に行った五十嵐氏による講演会と合わせ、復興のため
に建築分野がどのように貢献しうるかを、迫力をもってフランス
展覧会に寄せて
[本展覧会監修者]
震 災を乗り越えて
しかし世代も表現もさまざまな 10 組の写真家による作品で構
成したものです。過去の作品から、現在進行形の作品までを
同時に展示し、過去・現在・未来を貫く個性的な写真家の視
点を紹介しました。
1950 ~ 60 年代の農村を撮影した千葉禎介、小島一郎、東
北各地の民俗儀礼や祭りなどを追った芳賀日出男、内藤正敏、
田附勝、自らの個人史と故郷の光景を重ね合わせる大島洋、
畠山直哉、東北の美しい自然にカメラを向ける林明輝、縄文
時代の遺跡を通じて日本人の精神の起源を探る津田直による
風景」を集団で撮影した
「仙台コレクション」のシリーズです。
東日本大震災後、被害のようすは多くのメディアで報道されま
したが、本展覧会では、被害状況や復興のようすをリポート
するものではなく、さまざまな年代の、異なる表現をもちいた
写真家の視点を通して奥深い東北の魅力を海外の人に伝える
ことを目指しました。東北の豊かな自然や独特な祭りのようす
*本展覧会は、北京の後、イタリア、オーストラリア、マレーシア、インドなど 5 年間にわたっ
東日本大震災は、マグニチュード9.0という強度だったが、日
まな活動を展開した。阪神淡路大震災の時に比べ圧倒的に事
本の建築が耐震化を進めてきたおかげで、地震そのものの
例が多い。被害のエリアが広いのもその一因だろう。とりわけ、
被害はかなり抑えることができた。しかしながら巨大津波は
阪神淡路大震災で救援を行った建築家は初動が早かった。
《幸運の町》大迫町
大島 洋 1979 457×560 ゼラチンシルバープリント 作家蔵
作品、そして伊藤トオルをリーダーに宮城県仙台市の
「無名の
*本展覧会は、パリの後、ロシア、ドイツ、韓国、中国など世界約 20 都市を 2 年間に
わたり巡回します。各会場においては、本展に紹介されている建築家による講演もあわ
500km にわたって沿岸部を襲い、大量の木造家屋が流され、 本展では、東京だけでなく被災地、あるいは国外の建築家の
10
城県出身の飯沢耕太郎氏の監修のもと、東北にゆかりのある、
は来場者に深い印象を与え、会場では 1 枚 1 枚の写真を時間
せて実施していく予定です。
気仙川 2003 年 8 月 23 日 畠山直哉 2003 279×356 タイプ C プリント 作家蔵
本展覧会は、日本の写真評論の第一人者として活躍している宮
の人びとに示し、深く心に訴えることのできた事業となりました。
避難生活のなかで実際に使われたダンボール製のブースも会場に運び込まれた
五十嵐太郎氏のメッセージ
広い会場には 123 点の作品が展示された
をかけて鑑賞する人が多く見受けられました。
て世界約 40 都市を巡回する予定です。
展覧会に寄せて
飯沢耕太郎氏のメッセージ
[本展覧会監修者]
ブナの森の緑の映り込み
林 明輝 2011 728×1030 ラムダプリント 作家蔵
10 組の写真家の作品は、それぞれの視点から東北を照らし出
が互いに呼び交わしている場面に、今回取りあげた写真家たち
している。それらをこう見るべきという方向づけは必要ないだ
は鋭敏に反応してきた。
「縄文の思考」がいきいきと生命力を保
ろう。それでもこれらの作品から、
「東北の写真」のあり方がお
つには、すべてを一元的に秩序づける硬直したグローバリズム
ぼろげに浮かび上がってくるように感じる。東北地方は日本の
から、一定の距離をとる必要がある。中央の権力から見れば縁
ときに鉄筋コンクリート造や鉄骨造のビルさえも倒し、自然の
活動もなるべく拾いながら、それらを海外に向けて紹介する。
文化の基層である縄文文化の影響を色濃く受け継いだ地域 (edge)である東北は、その点においては有利な場所だ。
「東
脅威を前に建築が脆い存在であることを突きつけた。とはい
各プロジェクトを 3 つに分類したうえで、震災
「直後」の建築家
だ。縄文人たちは、人間の居住空間と外部の自然が入り混じ
北の写真」は、
あえてエッジに留まり続けるという強い意志によっ
え、建築家は黙って傍観していたわけではなかった。全国の
の対応に焦点を当てている。
これからは第 3 段階の
「復興計画」
り共存共生している
「ハラ」を舞台に、独自の世界観を育てあ
て支えられている。写真家たちは目に見えない境界線の向こう
建築家が立ちあがり、建築に何が可能かを自問しつつ、さまざ
の実施プロジェクトが増えていくはずだ。
げた。その
「ハラ」にあたる場所、外と内、聖と俗、死者と生者
側を、写真というもう一つの目を通して探り当てようとしている。
展 覧会
11
講演会
フランス
「3.11―東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」展関連講演会
「3.11以降の建築と都市」
3 月 21日 パリ日本文化会館 Lectures
「東北学」を提唱する民俗学者の赤坂憲雄氏を中国に、建築展「3.11ーー東日本大震災の直後、
さまざまな建築物の被災事例を生々しく証言しました。映像や
建築家はどう対応したか」パリ開催に合わせて、同展を監修した建築史家・建築評論家の
メディアを通してのみ被災地をみてきたパリの聴衆は、実際に
五十嵐太郎氏をフランスに、また
「劇団劇作家」代表を務め、震災をテーマに戯曲を書いた
震災を体験した五十嵐氏の話に聞き入っていました。
篠原久美子氏を米国に派遣し、講演を行って、東北と復興について考えました。
五十嵐氏は自らが被災地で感じた印象を交えながらも、建築
史家としての客観的な視点から、震災が建築そのもの、そし
て建築のありように与えたインパクトを解説しました。さらに自
身の研究室が主導する復興プロジェクトをはじめ、建築家に
中国
よる具体的な試みの案をいくつも紹介しながら、復興のために
「震災と東北、
そして文化」講演会
建築分野の専門家がどのように貢献しうるかを示唆しました。
3 月 27 日 天津 南開大学日本研究院
3 月 28 日 北京 北京日本学研究センター
震災の記憶を風化させず、建築はなにができるかを、具体的
な構想を提示しつつ問いかけた講演内容で、展覧会の内容と
パリ日本文化会館にはたくさんの聴衆が集まった
民俗学者である赤坂憲雄氏(学習院大学教授)
は、かねてより
「東
北学」を提唱し、地域学の可能性を追求すると同時に、東北
地方の文化的コンテクストを読み直す研究を進め、東北芸術
工科大学・東北文化研究センターの設立などにも携わってきた
研究者です。今回の講演は、
「震災で大きな被害を受けた東北
の風土や人びとが育んできた文化の特色とその魅力」をテーマ
として行われました。東北が置かれていた状況と、また震災に
よって顕在化したさまざまな問題点、来るべき社会についての
あわせて、今後の社会と建築のあり方を考える機会となりまし
3 月 6 日から 31日まで、パリ日本文化会館において
「3.11―東
た。聴衆は
「東日本大震災後の復興へ向けて実にさまざまな取
日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」展が開かれた
り組みが考えられていることがわかった」といった感想を述べ
機会に、3 月 21日、同展監修者である五十嵐太郎氏
(東北大
ていました。
学大学院教授)による講演会を同じくパリ日本文化会館内の
翌 22 日には、関連の催しとして、ベルギー在住の本展出品者
ホールで開催しました。
ジョフレ・グルロア氏らがコーディネートする
「石巻建築ワーク
五十嵐氏は、講演のなかで、展覧会の企画の意図を説明する
ショップ」やフランスの若手建築家を交えての交流会も開かれ、
とともに、東北大学の自身の研究室が入る建物のようすを含め
専門家同士の活発な意見交換の場となりました。
ビジョンと政治的リーダーの不在を含む、不透明な東北の現
状を指摘しつつ、東北のなかに根付いてきた自然観を振り返る
ことの意義について議論が展開されました。
北京日本学研究センターで講演する赤坂憲雄氏
北京の会場では、ジャーナリストの陳言氏、北京日本学研究
米国
「SHINSAI: The Conversation」演劇関係者トークイベント
3 月12日 ニューヨーク ジャパン・ソサエティ
センター主任の徐一平氏をゲストに迎え鼎談を行うとともに、
に日本劇作家協会も賛同し、日本の劇作家も作品を提供しま
中国社会科学院日本研究所文化研究室メンバーとの
「東北学」
した。
「民俗学」
「復興にまつわる諸課題」に関する活発なディスカッ
公演翌日の 12 日、マンハッタンのジャパン・ソサエティのオー
ションが繰り広げられました。
ディトリアムで、このイベントを巡るトークセッションが行われ、
日本のこれからに対する中国の人びとの関心は高く、聴衆は
日本から
「劇団劇作家」代表の篠原久美子氏がスピーカーとし
みな真剣に赤坂氏の講演に耳を傾けていました。天津と北京
て参加しました。篠原氏は戯曲
『北西の風~ 2011 年 4 月、飯
の講演で合わせて約 160 人の聴衆を集め、
「現在の日本社会の
舘村』を発表し、また、被災地をたびたび訪れ、演劇を通し
ようすや日本人の気持ちが理解できた」
「災害とテクノロジー、
た被災地支援も行っています。篠原氏の他、ジェイムズ八重
エネルギー政策など中国にも参考になる良い視点」などの感
樫氏、作品を提供した三人の米国人劇作家、ジョン・ワイド
想が寄せられました。
マン氏、ジョン・グェア氏、フィリップ・カン・ゴタンダ氏を迎
篠原久美子氏
(左端)をはじめとするトークセッションのスピーカー達
会場には日本を研究する人をはじめ、多くの人が集まった
講演会に寄せて
赤坂憲雄氏のメッセージ
まず、海外の皆さんに震災にまつわり多くのご支援をいただ
ほぼ頂点を迎えているときに起きたとも言え、今後の復興は、
いたことに心より感謝を申し上げたい。
今の状態よりも大きく人口が減った
「8000 万人の日本列島」
この震災により、日本社会がはらんでいたさまざまな問題が
を思い浮かべながら考えなくてはならない。エネルギー政策
むき出しになった。50 年後の日本は、人口が激減して国民
を根本から考え直すことはもちろん、さらには今回の教訓か
震 災を乗り越えて
えました。このセッションは、USTREAM でリアルタイム配信
され、会場の聴衆や視聴者からの質問も受け付け、演劇にな
このトークイベントは、前日、3 月11日にニューヨーク、クー
にが出来るかを語り合う形ですすみました。イベントの終盤、
パー・ユニオン大学をはじめ全米各地で同時上演された「震
篠原氏に対して、日本国内の状況や、震災後、日本の劇作家
災 SHINSAI:Theaters for Japan」の関連イベントとして開
がどのように活動していくのか等、会場からもたくさんの質問
催されました。「震災 SHINSAI:Theaters for Japan」は山
が寄せられました。
形県出身でニューヨーク在住の俳優・演出家、ジェイムズ八
篠原氏は
「演劇に関わるために一番必要な能力は、共感する
の 4 割を高齢者が占める、現在よりさらに進んだ高齢化社会
ら
「災害を完全に防ぐことはできない」という視点をもち、
「防
重樫氏が発案し、アメリカの劇作家や劇場関係者が協力して
となっているはずで、各地で過疎化した集落が増えることに
災」よりも
「減災」を目指して人と自然の関係を新たに構築し、
才能だと聞いたことがある。他者の痛みに共感する才能が演
なるだろう。東北地方はとりわけ厳しい状況に直面すること
新しい復興のシナリオをつくっていくことを考えたい。
実現した企画で、震災をテーマに書き下ろした短編戯曲をチャ
劇には不可欠で、そういう意味で、優れた才能をもつアーティ
リティで上演する団体に著作提供し、公演の収益金を被災し
ストにここで巡り会えた」と述べ、トークセッションを締めくく
た日本の演劇人に支援金として送るというものです。この趣旨
りました。
が予想される。東日本大震災は日本列島の人口や経済力が
12
撮影:Lee Wexler
講 演会
13
上映会
上映作品
Screenings
東北 夏祭り ~鎮魂と絆と~
2011年後半までに発表されていた映画作品やドキュメンタリー映像から、あるがままの東北と、
あらすじ:ねぶたや七夕祭りなど、華やかで情
ドキュメンタリー 48 分
て開催に踏み切った、陸前高田市、相馬市そし
熱的なことで知られる東北の夏祭り。しかし、 て南相馬市。実行委員のメンバーは津波で傷
災害を日本人が克服しようとしている姿について理解しやすい 7 作品を選び、86カ国 138 都市
震災により、多くの地域が数百年続いてきた夏
で上映会を開催しました。東北の姿そのものや東日本大震災、そしてその後の人びとの生活を、
映画やドキュメンタリー映像を通して、広く世界の人に伝えました。
©NHK
ついた山車や太鼓を修復し、散り散りになった
祭りの開催をあきらめた。そのなかで、
「震災で
住民に参加を呼び掛けた。人びとはどんな思い
亡くなった家族や友人の霊を弔いたい」
「祭りを
で夏祭りに臨もうとしているのか、夏祭りに託す
通してもう一度地域の絆を取り戻したい」とあえ
想いを追った作品。
ガレキの中からの再出航 ~漁業の町・岩手県大船渡市~
©NHK
ドキュメンタリー 30 分
あらすじ:岩手県大船渡市の漁師の多くは震災
に。しかし八木さんと地元漁師たちは、震災一
により船や漁具を失い、明日への展望をもてな
カ月後に早くも立ち上がる。震災後初の漁の様
い状況に陥った。魚市場で仕入れ、ネットで魚
子をネットに生中継で配信。失われた魚市場に
を販売するビジネスを営んできた八木健一郎さ
かわる新たな市場をネット上に立ち上げた。震
んも、魚市場が機能しなくなり、事務所やトラッ
災から 3 カ月間、漁業の町の復興への道のりを
ク、パソコンなど商売道具を流され、同じ境遇
探る作品。
今回の企画では、震災後に被災地が直面した現実について語
クシマに生きる。彼女たちのいま~』
、震災以前に宮城県で撮
がんばっぺ フラガール! ~フクシマに生きる。彼女たちのいま~
るものや、深刻な状況を直視しながらも、観る人に勇気を与え
影された映画作品
『春との旅』や
『エクレール・お菓子放浪記』
、
あらすじ:映画
『フラガール』
(2006 年制作)は、 受けた。本作では、風評に苦慮しながら同所
るドキュメンタリーを世界に届けたいという意図をもって作品選
またテレビ番組
『ガレキの中からの再出航~漁業の町・岩手県
定を進めました。
大船渡市~』や
『東北 夏祭り~鎮魂と絆と~』の7作品を、各
選定は震災から半年あまりの時期に行われたため、被災地で
作品の制作会社・配給会社の協力を得ながら選定し、それら
ある東北を舞台にした映画や、天災や事故を題材にした作品
を最大 9 言語に翻訳した字幕(テレビ番組は吹き替えを含む)版の映
を探すことは困難を極めましたが、地震や津波に限らず、
「自然
像を用意し、現地の人の関心や要望を聞きながら、世界各国
災害とそれに立ち向かう人びと」を扱った作品にまで視点を広
に広がる国際交流基金の海外拠点や在外公館 126 カ所に配付
げ、三宅島の噴火と避難した家族を扱った
『ロック わんこの
し、138 都市で上映しました。
島』や、地震により液状化現象がおこった浦安市で撮影され、
作品のなかの、被災した人びとの悲しみと前向きな姿が、世界
「演奏会」を通じて家族がひとつになる様子を描いた
『カルテッ
衰退しつつある炭坑町を舞台に、ハワイと温泉
©「がんばっぺ フラガール!」製作委員会、ジェイ・シネカノン、Yahoo! JAPAN、福
島民報社、福島民友新聞社、電通、アスミック・エース・エンタテインメント
テット!』のように、困難な中にあって家族の結びつきが前向き
また、東北を舞台にした作品として、福島第一原発との関係が
に描かれた作品が、とりわけ歓迎されました。今後も上映会は
色濃く出たドキュメンタリー映画
『がんばっぺ フラガール!~フ
各地で続けられる予定です。
©2011 FUJI TELEVISION NETWORK,TOHO,FNS
上映会開催国・地域名
韓国
台湾
中国
モンゴル
東南アジア
インドネシア
カンボジア
シンガポール
タイ
フィリピン
ブルネイ
ベトナム
マレーシア
ミャンマー
ラオス
南アジア
インド
スリランカ
ネパール
パキスタン
バングラデシュ
大洋州
北米
中米
オーストラリア
ニュージーランド
フィジー
ミクロネシア
カナダ
米国
キューバ
コスタリカ
ジャマイカ
ハイチ
14
震 災を乗り越えて
総計 エリア
105
1184
1507
280 南米
260
400
130
291
320
30
1317
221
206
50 西欧
3322
80
470
732
80
105
134
9
65
1128
3023
690
433
135 東欧
320
上映会開催国・地域名
パナマ
ホンジュラス
メキシコ
アルゼンチン
ウルグアイ
エクアドル
コロンビア
チリ
パラグアイ
ブラジル
ベネズエラ
ペルー
ボリビア
アイスランド
アイルランド
イタリア
英国
オーストリア
オランダ
スイス
スペイン
デンマーク
ドイツ
フィンランド
フランス
ベルギー
ポルトガル
ウズベキスタン
カザフスタン
総計 エリア
164
121
91
1060
960
450
253
123
45
2488 中東
470
105
360
308
255
78
306 北アフリカ
40
500 アフリカ
220
61
70
326
100
359
130
50
420
380
をテーマにした日本初のテーマパークの誕生を
キュメンタリー形式で追う。
『フラガール』で主演
描き、国内の映画賞を独占した。そのモデルと
した女優の蒼井優の語りに乗せて、踊りに希望
なったのは福島県のスパリゾートハワイアンズ
を込めるダンサーたちの姿に迫る。小林正樹監
だが、同施設は東日本大震災で甚大な被害を
督作品。
劇映画作品123 分
あらすじ:三宅島は 20 年ごとに噴火を繰り返し
る。
ある日、
芯たちは噴火災害動物救護センター
てきた火山の島。その三宅島の“6 区”で、民宿
でロックと再会を果たすが、避難住宅では犬は
を営む野山一家。小学生の芯は、生まれた子
飼えず、島に帰れる日も分からないまま、ロック
犬を
「ロック」と名づけ、愛情を注ぐ。2000 年 8
は体調を崩し弱っていく。不安と葛藤のなか芯
月、三宅島の雄山が噴火し、一家が島外避難
はある決意をする。中江功監督作品。
をすることになったその矢先、ロックがいなくな
出演:佐藤隆太、麻生久美子、倍賞美津子 ほか
エクレール・お菓子放浪記
映画上映 観客数
エリア
東アジア
が復興目的で行ったフラダンスの全国巡業をド
ロック わんこの島 各地で強い共感を呼ぶとともに、
『ロック わんこの島』や
『カル
ト!』なども取り上げました。
ドキュメンタリー 102 分
上映会開催国・地域名
グルジア
スロバキア
チェコ
トルクメニスタン
ハンガリー
ポーランド
リトアニア
ルーマニア
ロシア
イスラエル
イラク
オマーン
カタール
クウェート
サウジアラビア
ヨルダン
エジプト
モロッコ
ウガンダ
エチオピア
ガボン
ケニア
コートジボワール
ジブチ
ジンバブエ
ベナン
南アフリカ
モーリタニア
総計
300
19
562
513
183
50
379
120
1254
46
320
45
60
475
50
多数
231
100
143
2300
150
28
110
200
©"eclair" Production Committee
別れのなか、彼の希望の光は、感化院の陽子
入れられるが、脱走を繰り返し、ついに感化院
先生が教えてくれた歌
「お菓子と娘」だった。つ
送りになる。時は昭和 18 年、忍び寄る戦争の
らくても歌をくちずさんだりお菓子のことを考え
影が彼を流転と放浪へと導く。空腹の彼に菓
れば、不思議と生きる力が湧いてくるのだった
子パンをくれた遠山刑事、感化院のホワイトサ
……。 近藤明男監督作品。
タン、養母となったフサノばあさん……出会いと
出演:いしだあゆみ、吉井一肇 ほか
あらすじ:足を痛め、孫の春の世話なくしては生
390
多数
©2011 映画「カルテット !」プロジェクト
劇映画作品134 分
男の居候先を求めて、二人は疎遠となった東北
きていられない老漁師の忠男。小さな町で仕
の親類縁者を訪ね歩く旅に出ることになる。ま
事を失ってしまった18 歳の春。そんな祖父と孫
だ寒さ厳しい 4 月の北海道と宮城の各地を舞台
は、北海道増毛の寂れたあばら家で、ささやか
に物語は展開される。小林政広監督作品。
な二人暮らしを続けていた。しかしある日、春
出演:仲代達矢、徳永えり ほか
が東京に出て職を探すと忠男に告げたため、忠
カルテット!
多数
15
あらすじ:両親を亡くしたアキオは、孤児院に
春との旅
©2010『春との旅』フィルムパートナーズ、ラテルナ、モンキータウンプロダクション
劇映画作品107 分
劇映画作品118 分
あらすじ:バイオリンの才能を持つ少年永江開
ラ。そんななかで父親がリストラにあい、一家
は、音大出身の両親と高校生の姉とともに千葉
は崩壊寸前。みんなで笑い合っていたあの頃に
県浦安市で暮らしている。かつては家族でクラ
戻りたい! そう願った開は、家族カルテットを
シックを演奏する音楽一家だったが、両親は生
結成すべく奮闘するが……。
三村順一監督作品。
活のために音楽を諦め、弟にコンプレックスを
出演:鶴田真由、細川茂樹 ほか
もつ姉はドロップアウト気味で、気持ちはバラバ
上映 会
15
世界の会場で
展覧会
建築展「3.11 ーー東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」
(フランス)
写真展「東北ーー風土・人・くらし」
(中国)
のふたつの展覧会に約11,000人が来場しました。
舞台公演、展覧会、講演会、上映会が行われたところは世界 86 カ国 138 都市にわたり、
総計 5 万 6 千人を超える来場者を得ました。
舞台裏でみられた現地の人との交流のエピソードやメディアの反響、作品を鑑賞した人達
から寄せられた感想、共感、応援のメッセージの一部を紹介します。
びっしりと
書き込まれたのは…
舞台公演
3カ国 8 都市で行われた舞台公演を約 9,000人が鑑賞しました。
被災地の"恩人"も会場に
3 月 2 日、ロサンゼルスの公演に、震災の
3 日後から被災地に入り救援活動を行った
ロサンゼルス郡消防局員の人達が駆けつけ
てくれました。湧水神楽の皆さんは、消防
局員達に直接
「ありがとう」という気持ちを
伝えました。熱気あふれる舞台を局員のみ
なさんも楽しんでくれたようです。
パリ日本文化会館の建築展会
場に置かれたノートには、建築
家の豊富なプランを評価する声
や、復興への姿勢に対する共
感、震災被害に思いを寄せる
メッセージが多数書き込まれて
いました。
フレームのなかに見えた
日本の姿
北 京での写 真 展 への来 場 者
からは、
「撮影者の、人びとと
自然に対する深い愛情を感じ
取った」
「新たな視点から日本
を見直すことができた」などの
反響がありました。
上映会
86カ国138 都市で約 35,000人が日本の映画やドキュメンタリーを鑑賞しました。
ハイチでは
顔と顔が見える距離で
会場がインターナショナルスクールであっ
たこともあり、いろんな国籍の方が観に
来てくれました。子ども達もたくさん集ま
り、気付けば舞台下のスペースを子ども
達が占拠。恵比寿舞のコミカルな場面や、
子供が舞台に上がって必死の形相で釣り
竿を引っ張るようすが笑いを呼びました。
会場は岩手県内の巡行先さながらの温か
さに満ちた雰囲気でした。演舞を終えた
神楽衆も
「やりやすかった~」と満足気。
手づくりの昼食でホッと一息
パリのリセ・インターナショナル・サンジェルマン・
アン・レー校
(インターナショナルスクール)を
会場にした 3 月 11日の黒森神楽の公演を前に、
この学校にお子さんを通わせる日本人のお母さ
ん達が、ほかほかの炊き立てごはんや手づくり
の和菓子、美味しいお茶やコーヒーなどを準備
してくれました。不慣れなヨーロッパの地での
公演を控えて緊張気味の黒森神楽のみなさんも
しばしリラックス。
[中国]
『芸術虫』
誌
[米国]ニューヨーク・タイムズ紙
2012 年 3 月 8 日
3 月 6 日のニューヨーク・リンカーン
センターでの公演は、翌々日のニュー
ヨーク・タイムズ紙芸術欄で、その写
真がトップを飾り、大きく取り上げられ
ました。
2012 年 6月号
中国の芸術専門雑誌『芸術虫』に
批評記事が掲載されました。
「鬼太
鼓座、臼澤鹿子踊の祈り、日本の
その他現代音楽家による共演によ
り、苦境を潜り抜け、未来に向かっ
て努力する日本の姿を中国の観衆
に見せてくれた」
鬼太鼓座座長の松田惺山さん
(福
島県出身)
「自分の身体を通して被
災地のみなさんの想いなどが会場
の方に届けられたら……」
梅津ちびブラスリーダーの梅津和
時さん
(宮城県出身)
「世界中で同じ
気持ちになれたら良いと思っている。
そういう意味で来られてよかった」
アメリカでは
「同じ被災国として、我々も復興に向
けて頑張ろうと思った」
「震災前の漁
村の活気を取り戻そうと、知恵を絞り
復興活動をする人びとの姿が印象的
(ポルトープランスでの上映会で)
だった」
「米国のメディアは福島第一原発の現況ばかり
報道するが、この映画のように、日本の被災
地が復興に向かっている姿や復興に懸命に取
り組んでいる人達のようすをもっと報道すべき
(マイアミの上映会で)
だと強く思った」
ベトナムでは
パラグアイでは
「今回の上映会を通じて日本における災害の多さ、また日
「これから国費留学生として日
本での研究生活を始めるが、こ
の上映を見て、渡航に先立つ不
安を消し、希望を持つことがで
(アスンシオンの上映会で)
きた」
本人のたくましさを理解した」
(ハノイの上映会で)
撮影:Jonathan Slaff
タイでは
「福島でホームステイしたこと
があり、見慣れた風景ががれき
になっていてショックだったが、
頑張っている人達の姿を見て感
(バンコクの上映会で)
動した」
エクアドルでは
ウガンダでは
「福島の人達が逆境に負けず
に立ち向かう姿に感動した。
こちらの報道では伝わらな
い復興の現状を知ることが
(キトの上映会で)
でき満足」
「津波の恐ろしさがあれほどと
は思わなかった。絶望のなか
でも、励まし協力し合う日本
人の姿に復興を祈らずにいら
(カンパラの上映会で)
れない」
エジプトでは
「映画を観て日本に行きた
くなった。そのために日本
(カイ
語の勉強を努力する」
ロの上映会で)
撮影:Jonathan Slaff
カタールでは
「映画を見終えた後、今は亡き
津波で流された人びとの鎮魂
のための祭りであることがわか
(ドーハの上映会で)
り涙した」
スイスでは
「 映 画撮 影 地が震 災と津 波の
被害にあった土地であることを
知り、震 災前の姿を見られて
良かった。被災者のことを想う」
(ローザンヌの上映会で)
撮影:Jonathan Slaff
16
震 災を乗り越えて
17
http://www.jpf.go.jp/
2012 年 8 月発行
編著・発行:国際交流基金文化事業部
〒 160-0004 東京都新宿区四谷 4-4-1
TEL.03-5369-6060 FAX.03-5369-6038
編集:ita&co[長谷川直子] デザイン:岡本健 +[岡本健・阿部太一] 印刷:東京印書館
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