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PDF, 779KB - 東京大学公共政策大学院
東京大学公共政策大学院「医療政策教育・研究ユニット」(HPU)主催
~医療政策実践コミュニティー(H-PAC) 第5回公開シンポジウム~
協力:地域医療計画実践コミュニティー第2期(RH-PAC2)
「地域の医療計画を、ともに作る」
レポート
開会あいさつ
立場の違う人の意見を一度に聞けるのが H-PAC のシンポの特徴
東京大学公共政策大学院教授(HPU 運営委員長)岩本康志
東京大学に 2004 年、公共政策のプロフェッショナルを養成する専門職大学院「東京大学公共政策大学
院」が開設されました。その中に 2010 年に医療政策教育・研究ユニット(HPU)が発足しています。
ユニットの活動としては、教育、研究、社会活動があり、社会活動の一環として医療政策実践コミュニ
ティー(H-PAC)が誕生しました。患者支援者、医療者、政策立案者、メディアという4つのステーク
ホルダーが集まって医療を動かすことをモットーに政策提言などを作成しています。それから、R-HPAC
は、H-PAC、HSP の卒業生たちが集まって発足したプロジェクトです。
HPU、H-PAC が発足して 6 年目に入り、締めくくりの年が今年度です。今回のイベントの特徴は、
さまざまな立場の人たちのご意見を一度に聞けることです。地域医療計画の策定については多くの問題
がありますが、さまざまな立場の考え方を聞くことで、新たな知識が生まれます。有意義な時間を過ご
していただければと思います。
パート1
講演
「地域医療計画の今後」
1. 「これからの地域医療計画」
厚生労働省医政局地域医療計画課課長
北波孝さん
血の通った地域医療構想が計画の実効性を高める
今年 3 月に「地域医療構想ガイドライン」をとりまとめました。3 月にガイドラインを出してあとはや
ってくれということではなく、定期的に都道府県と意見交換をし、6 月から 3 回にわたって研修会を実施
する予定です。地域医療構想は 10 年後のニーズを展望して、それに向けて地域ぐるみで医療機関が相談
して変わって行こうということです。
(医療計画の基準病床制度のように)これまでは動きたい人を動か
ないようにする計画でしたが、これからは動かない人をも動かしていく計画になります。
それぞれのプロセスで関係者が合意、認識の共有をしながら進めていくことが必要です。5 月後半に都
道府県にデータブックをお渡しして推計ができる態勢を取ります。10 年後の地域住民の医療需要を考え
たとき、
(一定割合の住民が地域外の医療機関に入院するという)現在の住民の受診行動を 10 年後も続
けるのか、住民を含めた議論が必要です。住民サイドからみると「最後はどうなるのか」
、慢性期の医療
を考えるときには介護サービスとの関係をみることも必要になってきます。ぜひ、地域医療構想を立て
る時には隣の県とも話をしてほしい。
今回 10 年後の病床数を算定します。今の提供体制を続けてはどうにもならなくなるのではないかとい
うことを関係者が共有することが必要だと思います。情報を共有するとともに、共感を持ってみんなで
進めていくために何をしたらいいかということを考えていただく。汗をかいてほしいということです。
既に、地域医療構想の策定に関してコンサルティング会社に委託を計画している県があります。それ自
体はいいのですが、コンサル会社が作った地域医療構想の構成・原案を地域にそのまま提示するような
丸投げでは共感は得られにくいのではないでしょうか。
スタートラインで何をやらなければならないかですが、まずは、誰がその地域の実質的なキーパーソ
1
ンなのか、誰を動かせばみんながやる気になるかを考えていただくのが重要です。都道府県の担当の方
は原案を自分のものとして語れるようになってほしいですね。一番問題になるのは、地域医療構想調整
会議です。地域医療構想を策定する段階から、地域の関係者にその気になっていただく。その後も総論
賛成・各論反対が絶対出てきますので、そのときは私どもも県の皆さんと知恵を絞りたいと思います。
そのときに、
「でも、みんなでやらなければだめだよね」と言えるようになるためには、最初に作る地域
医療構想自体を血の通ったものにしていただくことが大切です。丁寧なプロセスで熱意をもって語られ
たものであれば、必ず実現すると思います。
2. 「都道府県が地域医療計画を意味あるものにするために」
三重県健康福祉部医療対策局局長 佐々木孝治さん
まちづくりまで意識した地域医療計画づくりをしたい
地域医療構想がベッドコントロールの話だけにとどまっていてはいけないのではないでしょうか。自
県の課題、取り組みの方向性、基本方針を柱として持っていて、地域医療構想を策定する中で考え、保
健医療計画の次の改定のときにフィードバックしていくことが大事ではないかと思います。
今回、各都道府県に緊急のアンケート調査をさせていただきました。
「地域医療構想を医療計画にどの
ように反映させるか」は、次期改定で一体化していくというのが圧倒的に多かったです。今後は、より
住民目線、地域目線で患者さんからみてよく分かる記載ができるのではないかと期待しています。
今回の地域医療構想等の動きを都道府県としてどうとらえるですが、多くの県が不安を感じていると
いうのが正直なところです。一つは、病床機能の転換に関する調整の困難性です。三重県でも、すでに
「病床機能の転換ありきではないだろう。医療提供者側の自主的な議論に任せるべきだ」
「経営面が心配
だ。次の診療報酬の改定をみてからでも遅くないのではないか」といった意見が聞かれます。これらの
課題は認識して我々として解決しなければいけないと思っているところです。
もう一つ、住民の理解を得られるかについては、38 県中 31 県が「分からない」と答えています。我々
としては今回の動きをもっと前向きにポジティブに展開していきたい。今回のプロセスは次のように活
用できるのではないかと考えています。一つは、地域単位による自主的かつ、きめ細やかな議論が可能
になる点です。もう一つは、意思形成のプロセスが地域単位と広域のものと両方活性化され、地域づく
り、まちづくりにも貢献するでしょうし、これまで意識してこなかった隣接県との連携も認識されてい
くのではないでしょうか。地域医療構想調整会議の話し合いの中で、三重県では、病床機能だけではな
く、在宅、地域包括ケアとの連携の話、それから予防の話、地域づくり、まちづくりに反映させていく、
将来的な地域の自主的な議論の場にしていきたいと考えています。
三重県は南北に長いので、4つの二次医療圏を8つの構想区域に分けて、それぞれに調整会議を立ち
上げる予定で準備を進めているところです。さまざまな施策との連携ですが、昨年度末に総務省が出し
た新しい「公立病院改革ガイドライン」の中で、公立病院改革も地域医療構想と整合性を持つようにい
われています。地域医療連携推進法人制度(仮称)も法案審議中ですが、場合によっては地域の病院の
再編・統合の背中を押すツールになり得ると思います。それから、国民健康保険の広域化も視野に入れ
ていきたい。医療だけでできるものではないので、都市計画など他の部局も巻き込んでいって生活圏に
寄り添う医療を視野に入れていくことが効果的な医療計画を作っていくための大切なことではないでし
ょうか。地域医療計画を意味あるものにしていく都道府県でありたいと思います。
3. 「地域医療計画は“ホンモノ”になれるか」
日経 BP 社 医療局編集委員・日経ビジネス編集委員
庄子育子さん
すべての取り組みを監視できるのは住民・患者
地域医療計画が“ホンモノ”になるために最も重要なのは、地域医療構想の「策定」プロセスだと私は考
えます。地域医療構想は 2025 年時点で目指すべき医療提供体制、いわば青写真ですから、そこへ向かっ
て突き進むことへの共感が得られるものでなければ誰もついて来ないのではないでしょうか。
2
もちろん、地域医療構想策定後も大きな課題が待ち受けています。どんなに素晴らしい青写真を描い
ても、実行に移されなければ意味がありません。青写真の実現を大きく阻む要因は、(1)医療提供者の
非協力、
(2)都道府県の怠慢、
(3)住民の無関心――の 3 つではないかと考えています。地域医療構想の
実現に当たっては、医療機関相互の協議や PDCA サイクルの運用の徹底などの取り組みが行われます。
それらの責任主体は医療提供者や行政ですので、それぞれしっかり役割を果たしてもらわねばなりませ
ん。一方で、全体を通してすべての取り組みの監視・お目付け役ができるのは患者・住民しかいません。
ですから、住民が無関心なようでは、チェック機能が働かなくなる恐れがあります。
このほか、
「協議の場」で、果たして本当に必要な調整が進むのか、という問題もあります。医療提供
者が機能分化や再編に抵抗することは想像にかたくありません。その打開策として地域医療介護総合確
保基金が活用できますが、実際に転換を促すような基金の使い方ができるのか疑問です。そもそも十分
な財源を確保できるのか、今の財政状況では厳しいのも事実でしょう。
協議が不調に終わった場合、都道府県知事には一定の権限が与えられました。ただ、それもどこまで
行使されるのか、よくわかりません。制度の仕組み上、都道府県知事は、医療審議会の意見を聞いた上
で、過剰な病床機能への転換の中止やいわゆる休眠病床の削減を民間病院に要請、公的医療機関であれ
ば指示・命令できます。ですので、都道府県知事は、特に公的病院に対しては今後おそらくかなり圧力
をかけることになるのだろうと私自身は受け止めていました。けれど、取材を通じてある事例を知り、
必ずしもそうならないことを痛感させられました。
それはこんな事例です。某都道府県にある市立病院 A と公的病院 B。両病院はいずれも急性期医療を
志向する病院で、機能がだいぶ重複していました。そこで、県の方針で、3 年前に、B 病院に高度急性期
機能を集約化する一方、A 病院は新築移転を機に、B 病院の後方病院になることが決まりました。とこ
ろが後に、A 病院は、新病院の手術室を当初予定の 3 倍にするよう方針転換し、かつ積極的に外科医の
リクルートも始めました。その“援軍”となったのが、市議会議員です。「A 病院の機能縮小、機能再編は
認められない」と声高に叫んだのです。それに対し、県知事は及び腰で、選挙で票を失いたくないのか
何も言うことがありませんでした。それで結局は、来年オープンする A 病院は、B 病院と機能が重なる
ことになりそうです。
この事例を通して、公立病院の改革を促すには、民間病院側からの働きかけが不可欠だと思いました。
また、選挙の票にとらわれない都道府県職員が妥協しないことも肝心です。
以上見てきたように、地域医療計画が“ホンモノ”になるためには、各種様々な辛苦が待ち受けています。
しかし、あきらめたら終わりです。医療提供者、行政、そして住民・患者のいずれも決してあきらめな
いこと。その点をとにかく強調させていただきたいと思います。
<質疑応答>
3 人の講演を受けての質疑応答では、
「公立病院を管轄する総務省と厚生労働省の連携はうまくいって
いるのか」
「患者・住民の代表として協議の場に参加しても、専門家に議論で負けてしまうことがある。
どうやって勉強したらよいのか」などの質問が出ました。前者の質問に対して、厚生労働省の北波さん
は、
「総務省と連携していますし情報は来ていますので安心してやっていただきたい」と回答。後者の質
問に、庄子さんは、
「行政が支援するのが一番の近道」と強調しました。県の行政担当者として、佐々木
さんは、
「われわれが期待しているのはそれぞれの目線でみた生の声なので、日頃思っていることを述べ
てください。データのようなものは揃えて支援したいと思います」と答えました。
また、
「今回の計画の策定では、人の確保や育成が見えにくい」という意見も。北波さんは、「基金の
使い道の一つが人の確保です。この基金は少なくとも 2025 年まで消費税財源で賄われるものです。医師
の偏在の問題は大きいので、地域医療支援センターでも目標を立てて考えていくことが必要だと思いま
す」と話しました。
3
パート 2「地域医療計画の策定のポイント
プロセス編」
趣旨説明/ステップ(1) 体制と基本方針の整備
地域医療計画実践コミュニティー代表世話人 伊藤雅治さん
策定カレンダーを使って、いつ何をやるか整理を
今年 1 月に RH-PAC2 を立ち上げ、5 月に「地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン(実践編)
」
の暫定版の完成に漕ぎつけました。基本方針として最も重要なのは、地域住民の立場に立って考えるを
一番の判断基準にしたことです。それから、多様なステークホルダーの協働による策定を重視しました。
RH-PAC2 ガイドラインも、RH-PAC1 ガイドラインと同様、厚生労働省のガイドラインと相互補完的な
機能を期待しています。RH-PAC1 での 10 のプロセスを(1)~(7)の7つに再編成しました。
私からは、旧バージョンではステップ1と2をまとめた RH-PAC2 のステップ①の「体制と基本方針
の整備」について説明します。実践への大きな課題は、マルチステークホルダーの参画による策定体制
の整備で、特に患者・住民の参画にどのような対応をしていくかです。保険者がどのように県の医療計
画に意見を出していくか、さらに、医療審議会や同部会に参加する患者・住民をどう選出し、どう支援
をしていくかが課題ではないかと思います。
基本方針の策定の実践への課題は、最も根幹の基本方針は、2025 年の医療需要に対応できる提供体制
の構築であることを確認し、病床機能に偏りすぎない地域医療提供体制の構築を目指すことです。医療
審議会と地域医療構想調整会議の役割分担と連携、地域医療構想調整会議にも必ず患者・市民の代表が
関わるようにすることが重要です。
推奨ツールとしては「地域医療計画策定カレンダー」を提案します。これは、RH-PAC1 でも示してい
ますが、地域医療構想の策定を経て地域医療計画を策定するプロセスを前提としてカレンダーを作り直
していく必要があります。単年度ではなく、場合によっては 2 年、3 年のカレンダーを作っていくことが
必要ではないかと思います。
ステップ(2) 審議会等での検討・計画のとりまとめ
日本経済新聞社大阪本社社会部デスク 前村聡さん
時事通信社記者 井上愛彩さん
住民・患者の立場の委員の発言を促すシナリオと読本の作成を推奨
今回、千葉県をモデルケースとして審議会のあり方を検討しました。千葉県では、県の審議会の下に
4つの部会が設けられ、医療圏ごとに協議会が置かれています。委員には、患者の立場からは 3 人入っ
ていますが、住民の委員は市町村の役場の方になってしまっています。また、医療圏ごとの協議会には
患者・住民の立場の方が入っていないのが現状です。
検証として、千葉県の医療審議会委員全員にアンケートを送り、34 人中 12 人から回答をいただきまし
た。千葉県計画策定委員アンケート等を通じて改めて確認されたのは、実質的な議論を確保することの
重要性です。推奨施策として、RH-PAC1 での「審議会等委員のミッションステートメントの作成」の他
に、新たに「モデル審議会シナリオの作成」と「住民委員支援策」を盛り込んでいったらいいのではな
いかと思います。
「モデル審議会のシナリオの作成」というのは、こういう形でやっていけば今までと全く違う審議会に
なると分かるようなシナリオを作ったらどうかということです。もう一つの新しいツールとして、患者・
住民の立場の委員が、そういった場に参加してどういうふうに発言していったらいいのか分かりやすく
まとめた「患者・住民読本」の作成を提案します。計画を実行していくときに、住民を含めて納得して
理解を進めていくには、計画を作るプロセスが大事です。RH-PAC2 のガイドラインは、住民の声を実際
にどういうふうに吸い上げていくのか、実践的なマニュアルにしていきたいと考えています。
4
ステップ(3) データの収集と分析 ~意味が見いだせる“編集”を~
東京大学公共政策大学院医療政策・研究ユニット特任教授 埴岡健一
データの収集と分析を全国共通でできる仕組みづくり必要
RH-PAC1 ガイドラインでは、推奨施策として「地域医療計画情報・指標サービス」挙げました。また、
推奨ツールとして、
「施策・指標マップ」を推奨しています。千葉県の医療審議会委員のアンケートでは、
「データを集めるだけではなく情報として生かす仕組みが必要」との意見がありました。RH-PAC2 メン
バーからも、データを収集し意味を読み解けるようにすることの重要性が指摘されています。また、デ
ータをさらに取得し、ないものは開発する、データを評価して取捨選択してフィードバックする目利き
の役割の必要性、中間アウトカムを充実させ増やしていく必要性も指摘されています。
RH-PAC1 で推奨した施策である「地域医療計画情報支援センター」は、医療計画策定のプロセスを支
援し、都道府県の政策スキルを高めるためのセンターですが、そういった総合的なセンターに対しては
ニーズが高いことが分かりました。運用が第三者的に行われることが重要という指摘もありました。
「施
策・指標マップ」に関しては有効なツールであり、一望性があって直感的に分かりやすいと好評でした。
より活用と普及が重要です。中間アウトカムに関しては指標が少ないので、それを作る努力が大事です。
47 都道府県、各医療圏で、
「データの収集と分析」はやり方においては共通性がありますので、全国で共
有できる仕組みを作るのがいいのではないでしょうか。推奨施策としては、
「データの収集と整備 6 カ年
計画の策定」、
「施策・指標マップの作成」
、指標を集めた「構造化資料集」、医療の需給ギャップの問題
に特化した「地域医療構想指標集」などのツールの充実を提案します。データの収集と分析に関しては、
各地の創意工夫と全国的な知恵の共有の相互作用が働く仕組みが必要だと考えられます。
ステップ(4) 既存施策の評価
帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科
准教授 渡邊清高さん
「施策・指標マップ」を使った現状把握が新たな計画の出発点に
既存施策の振り返りについては、通常はさらっと流されることが多いかもしれません。しかし、過去
の計画の振り返りと現状把握は、今後の施策を考えるうえでの出発点になります。RH-PAC1 ガイドライ
ンでは、
「施策・指標マップによる現状把握/施策効果に関する評価の実施」と「施策概要シートを用い
た立案と評価プロセスの振り返り」を推奨施策にしていました。千葉県がん対策推進協議会委員へのア
ンケートでも、
「施策・指標マップは必要である」という意見が大半を占めました。
RH-PAC1推奨施策を踏まえた課題のまとめとして、
「施策の課題を可視化すること」
「患者・住民、医療
関係者などいろいろの立場の方が共通の場で意見交換すること」が挙げられました。施策の評価を行う
ための指標を設定すること、それには関係者が納得感を得られるような指標を作ることが必要です。
RH-PAC2 では、実践のシミュレーションとして、千葉県の地域医療計画を参照し、3 疾病 2 事業(がん、
脳卒中、糖尿病、救急医療、在宅医療)について評価を行いました。その結果、提供体制に関するスト
ラクチャー指標が多く、アウトプット/アウトカム指標が少ない、予防と医療だけでなく罹患後のアフ
ターフォローやリハビリまで含めた対応が必要、といった課題が見えてきました。また、医療機関のリ
スト作成は必須ですが、対象となる施設の手挙げ方式から、将来的には質のチェックを伴う相互評価や、
検証を行う方式へ移行していくことも必要ではないでしょうか。データの参照先として適切か、代替で
きるものはあるかの確認も重要です。
RH-PAC2 のこの分野の推奨施策は前回同様、
(1)「施策・指標マップ」を使った現状把握に関する評
価を行うこと、
(2)
「施策・指標マップ」に基づいた施策効果に関する評価の実施、(3)「施策概要シー
ト」を用いた立案と評価プロセスの振り返りです。
ツールとして「施策効果チェックシート」を使うことを提案しています。施策番号と名称を入れ、それ
に指標と評価を記載していきます。書けないものは空欄にし、代替できるものがあるか検討します。評
価は、セオリー、プロセス、インパクト、費用対効果の観点で記載し、それに至るまでのコメントを書
き込みます。
まとめですが、既存施策の評価の目的は、これまでの医療計画の目的、理念、基本骨子などを再確認
5
し今後の施策の策定に活用することです。
「施策・指標マップ」を活用し、施策がアウトカムにどのよう
な効果をもたらしたかの観点から評価を実施する、地域医療計画策定の全ステップに沿って、立案と合
意形成、評価のプロセスを振り返る。将来の「評価」に向けて、策定プロセスから基準や指標を議論す
る、こういったことが重要です。
ステップ(5) 住民等と医療提供者の意見聴取
東京大学公共政策大学院医療政策教育・研究ユニット特任研究員 吉田真季
住民と医療提供者の合同タウンミーティングを推奨
住民と医療提供者の意見をどのように聴取し集約するか、実際に「住民・医療提供者合同タウンミー
ティング」を開いて検証しました。RH-PAC1 ガイドラインでは、推奨施策として、
「審議会等への患者・
住民参画の必須化」、
「地域医療計画タウンミーティングの開催」、「医療提供団体中期計画の策定」の 3
つを挙げました。千葉県医療審議会委員へのアンケートでは、3 つの推奨施策についてはいずれも「必要
である」とお答えいただきました。さらに、住民からの意見聴取は計画の策定段階から議論に組み込む
べき、住民と医療提供者が共通の場で意見交換するのも大事だという意見がありました。RH-PAC1 では、
住民と医療関係者を分けて意見聴取のステップを分けていましたが、共通する課題が多かったので
RH-PAC2 では住民と医療関係者を 1 本化して聴取方法について提案を行うことにしました。
私たちは、千葉県船橋市で 4 月に、
「住民・医療提供者合同タウンミーティング」を住民・医療関係者
の両方から幅広くニーズを集めることを目的に開催してみました。実施主体は、今回私たちボランティ
ア団体なので第三者ですが、幸い、船橋市や市内の在宅医療ネットワークから後援をいただくことがで
きました。参加者の募集は、ウェブ告知、口コミ、チラシの配布、市内の NPO 法人各団体に積極的に声
をかけていただきました。
船橋市での合同タウンミーティングには 22 人が参加しました。規模は小さかったのですが、事前アン
ケートの共有、参加者への情報提供としてミニ講演を 2 本実施し、その後、グループディスカッション
を行いました。事後アンケートで地域医療計画策定への参画意向を聞いたところ、アンケート、タウン
ミーティングに関してはかなり多くの方が「希望する」と回答し、パブコメや個別ヒアリング、審議会
にも一定の方が参加意向を持っていました。
RH-PAC2 ガイドラインでは、この分野の推奨施策として、合同タウンミーティングに関しては、構想
区域ごと、分野別に計画を作る前と、施策案ができたときの 2 回行う、幅広い人に集まっていただき、
主催側がファシリテートを行うことを提案します。意見聴取を行う際には、今回私たちが行ったような
ミニ講演による情報提供が望ましいと思います。同様に、アンケートやパブリックコメントによる幅広
いニーズの把握も必要であり、併用する推奨施策として、グループインタビューやヒアリング等も提案
しています。
推奨ツールとしては、
「住民・医療提供者合同タウンミーティング仕様書」を提案します。主催者とし
ては都道府県が基本ですが、今回私たちが行ったように地域の NPO 等の第三者に都道府県が共催・後援
する形もいいのかもしれません。その分野に関心の高い参加者に集まっていただく、さらに、保険者、
議員、メディア、行政にもオブザーバーとして参加していただくと生の声を聞いていただけると思いま
す。事前の情報提供として、お住まいの地域の医療の現状と将来がどうか、医療計画策定において住民
と医療提供者の参画がいかに重要か、この 2 つを知っていただくと意識が高まり、有用な意見が出ます。
ステップ(6) 施策の作成 ~成果に至る道筋をどう描くか~
帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科准教授 渡邊清高さん
施策優先度判定シートを活用し優先施策を考えよう
千葉県の医療審議会委員へのアンケートでは、RH-PAC1 の推奨施策である「施策作成ツールキット」
の使用について「必要」という意見が大半を占めました。RH-PAC2 メンバーからの意見では、効果的な
施策の立案とともに、優先度を判断する観点が必要ではないかという意見がありました。声の大きい関
6
係者だけの意見が反映されすぎないように患者住民や保険者などの意見を取り入れる、行政担当者の調
整能力が重要です。また、好事例などを紹介しつつ、アウトカムを成果として出すことが重要との意見
もありました。
実践へのシミュレーションとして、RH-PAC2 メンバーで千葉県の地域医療計画を参照し、3 疾病 2 事
業(がん、脳卒中、糖尿病、救急医療、在宅医療)について評価を行いました。評価の方法は、RH-PAC1
で設定した 5 つの観点(1)ニーズ性スコア(喫緊のニーズ性)、(2)論理性スコア(中間アウトカムへ
のつながり)
、
(3)インパクト期待スコア(アウトカムへの影響)、(4)対象の大きさスコア(広さや大
きさ)
、
(5)実現可能性(実現性)スコアを、各ステークホルダーの優先度によって 5 段階で評価し、グ
ループディスカッションを実施しました。
その結果、
「優先度シートをどう使うか審議会委員へのオリエンテーションが大切」、
「施策担当者の人
材育成が必要」という意見が出ました。制度変更など、大枠の変化をどう入れ込むか、施策の現状や効
果、中間アウトカムが示されていない場合は判断が困難との課題もあります。ニーズは小さいが重要な
ものをどう訴求していくのかとの指摘もありました。優先度の判定にあたっては、決定プロセスの可視
化が必要ですし、施策は、短期的なものと中長期的な施策を分けたほうがいいのではないでしょうか。
RH-PAC2 ガイドラインでは推奨ツールとして、施策が挙がってきたときに 5 つの観点で評価する「施策
優先度判定シート」を提案しています。実効性を考慮し、決定プロセスが可視化されている施策を優先
すべきといえるでしょう。また、各施策について短期的あるいは中長期的な目標を設定し、それに至る
までの方向性を共有することが大切です。成果に至る道筋を描くためにさまざまな関係者が地域で取り
組むことが重要です。
ステップ(7) 評価指標の作成 ~患者・現場・地域に意味ある効果を~
東京大学公共政策大学院医療政策・研究ユニット特任教授 埴岡健一
各都道府県を支援する「地域医療計画情報支援センター」の創設を
この分野では、
「施策・指標マップ」の活用が基本的な推奨内容です。これを使うことで本当の PDCA
サイクルを回す全国共通の仕組みを作ろうというのが以前からの推奨施策です。いま、47 都道府県の地
域医療計画を見ようと思うとページ数が膨大で何がどこに書いてあるか探すのが大変です。次回の地域
医療計画でフォーマットとして 47 都道府県が「施策・指標マップ」を採用すれば、簡単に 47 都道府県
の施策、指標、PDCA の考え方などの比較ができるようになります。
一番大事なのは、このマップに当てはめて表記することで自動的にアウトカム評価に結び付くこと、
そして、施策をやって何を生んだかを定期的に見ていけることです。RH-PAC1 ガイドラインにはこれが
5 疾病・5 事業・在宅医療で計 18 セット含まれています。
事例として紹介したいのは、国のがん対策推進基本計画での指標指標策定の動きです。がん対策推進基
本計画は、施策・指標マップの形にかなり忠実に移し替えられるようになっています。国のがん対策で
は、中間評価のために 100 くらいの指標を作りました。これから各都道府県が評価指標を作成しそれを
計測していく段階となっています。
論点を整理すると、ほぼステップ(3)と同じ結果になりました。推奨施策としては、前回より改訂・
改善した「PDCA サイクル向上ツールキット」と「評価指標データサービス」の提供、そして、そうい
ったデータの集積を「地域医療計画情報支援センター」の事業の大きな柱の一つとしていただきたいと
考えています。施策・指標マップは好評ですが、誰でも無理なく作成するためには、基本用語集、アウ
トプットとアウトカムを区別する基本的な考え方の解説、
「施策・指標マップ 10 のポイント」の強化や、
よくある質問の回答集の作成などを含めた作り方のガイドをつくることが必要です。
施策・指標マップを作るコツとしては、基本的に表の右から順番に考えていくことが重要だと分かって
きました。ない指標をどうやって開発すればいいのかといった課題も出てきています。そもそも医療計
画の策定スキル改善しようとしていのはなぜかといえば、2025 年に最適な医療体制を作るためで、医療
計画が実効性のあるものになっていなければならないからです。そのためには、全国共通の支援システ
ムとして、「地域医療計画情報支援センター」をぜひ作るべきという声がたくさん寄せられています。
RH-PAC1 では国が作るべきとしていましたが、多くの方から、透明性を確保し情報が十分に活用される
7
ためには、第三者的な仕組みが必要ではないかとの指摘がありました。簡単ではない評価指標の作成を
苦行ではなくやりがいのある活動にするためには、こうしたセンターの存在が重要です。7 つのステップ
すべてのためにも必要と考えられます。
<質疑応答>
会場の参加者からは、
「患者・地域住民の本音を拾うのは本当に難しい。タウンミーティングに参加す
るような医療に関心の高い人と、情報過疎になっている住民をつなぐエキスパートの養成のようなもう
一つ踏み込んだ知恵が必要ではないか」
、「一般の人にとって医療は大きな問題ではない。医療費が増え
税金が高くなったら困る納税者を意識した資源配分をしていただきたい」といった意見が出ました。
吉田は、実践例を踏まえて、
「タウンミーティングに参加しない人の意見も含めた事前アンケートの内容
を共有すること、当日にミニ講演を行うことで、タウンミーティングでの議論をある程度偏らないよう
にすることができた」と報告。埴岡が「7つのステップの中には、費用対効果評価につながる、データ
の収集と分析、評価指標の作成、既存施策の評価などの話も入っています。データを基に住民参加があ
ると、
『私たちはこれがいらない』などと、医療機関や施策の選別もできるようになるのではないでしょ
うか」と指摘し、このパートをまとめました。
パート 3
パネルディスカッション「地域医療計画は有効になりえるか」
納得感のあるデータが地域の医療を動かす
パネルディスカッションでは、最初に、NPO 法人ささえあい医療人権センターCOML 理事長で、
「地
域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」メンバーの山口育子さんが講演。
「私自身は、10 年で本
当に 2025 年問題への準備ができるのか危惧していますが、現状を知らない人も多いのが実態です。昨年、
医療法に『国民の責務』が加えられ、適切に医療機関を選択するために、どういう情報が必要かどうあ
ってほしいのかと声をあげてもいい時代になりました。地域医療構想の策定段階から患者・住民の声を
聞く必要がありますし、協議の場にも成熟した市民が入っていってほしいですね。行政の方には、住民
の意見を育てる意識を持っていただき、住民の声を生かすことを取り入れていただきたい」と強調しま
した。その後、パート 1 の 3 人の演者と山口さん、パート 2 で発表した前村さんと吉田をパネリスト、
当ユニットの埴岡をコーディネーターに議論しました。
1 つ目の議論のテーマは「地域医療計画を有効にするにはどこがポイントか」
。これに対して地域医療
計画や地域医療構想の策定に関わるフロアの参加者から、次のような意見が出されました。
「そこに住む住民及び患者の幸せのために計画を作るということをアピールし、このままでは病院、介
護施設、住民も共倒れになるということを共有することが重要」
(患者関係者)
「地域の問題を発見して、それを解決する方向へ動いていってほしい」(患者関係者)
「地域医療ビジョンと包括ケアのビジョンを連携させながら動かすことがポイント」
(医療提供者)
「いかに地域の医療ニーズにとらえるか、県民の意見をどう吸い取るかに尽きると思います。キーパー
ソンに各地域で活動してもらうことも大事」
(行政担当者)
「医療法人にどう動いていただくかが重要。病院が意思決定をして実際に動かない限りは何も動きませ
ん。経営者向けのアプローチを模索しています」
(行政担当者)
「納得感の得られるデータをいかに準備してあきらめずにいかに丁寧に説明していくかにかかっている。
現場に出て行ってデータを集め、いろいろな立場の住民・患者の声も聞いていきたい」(行政担当者)
「地域のどのくらい多くの方と膝を交えていかに分かりやすい言葉で皆さんと話をするか、そこが最大
のポイントになると思う」
(行政担当者)
三重県の佐々木さんは、
「本質的に地域で何が困ってどんなことが課題か議論の中身を明確化すること
が重要」と発言。パネリストからは、下記のような意見が出されました。
「誰を審議会のファシリテーターにするかがカギ」
(庄子さん)
「住民の方の意見をどう挙げてもらうか。そのためには、地域医療構想、医療計画があること自体を知
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ってもらわなければ、理解もしていないのに声を出すことはできない。住民に届く形で公表し、行政担
当者が地域へ行っていただき、住民が医療計画に対して意見を言うことを当たり前にしていっていただ
きたい」
(山口さん)
「マルチステークホルダーが集まって話をすることで行動変容を促せる」
(吉田)
総論賛成・各論反対を防ぐには住民・患者による監視が不可欠
もう一つ議論のテーマになったのが、庄子さんが講演の中で挙げたある県の事例についてです。A 病
院と B 病院の再編が地域にとって理想的な形で進む構想が実現段階で崩れました。この事例のように、
総論賛成・各論反対にならずに地域の医療を改革にしていくためには何が必要なのでしょうか。
厚労省の北波さんは、
「再編の議論を最初からオープンにして、全住民に周知していくことが大事。地
域のニーズに合わない無駄な施設は作ってはだめだと声を挙げるのは納税者の役割だと思います」と強
調。他のパネリストからも、次のように、住民・患者、保険者による監視体制の重要性が指摘する意見
が出ました。
「住民・患者は、直接の利害がないから意見を言いやすい。住民が地域の状況を理解していけば、なぜ
この地域にそんなに手術室が必要なのという声も挙がっていくのではないでしょうか。住民がいい意味
で監視する役割ができるような体制を作っていくことが必要」(山口さん)
「現状と将来のデータの見える化が大事」
(前村さん)
「保険者が加入者意見をきちんと伝えることも重要ではないでしょうか」
(吉田)
一方、全国一療養病床の多い高知県の担当者からは、昨年、県医師会が医療ビジョン対策委員会を立
ち上げ、病院関係者が率先して地域医療の改革に取り組んでいることが報告されました。
最後に、北波さんは、
「回復期は単なるリハビリ病床ではありません。急性期を脱した方、入退院を繰
り返している方の退院指導をやるところで、リハビリの病床だけではなく、地域に密着した病床も含ま
れている広い概念だと理解していただきたい」と発言。前村さんは、
「納得のいく医療計画を作るために
はプロセスが大事。RH-PAC2 ガイドラインを使って自分が住んでいる都道府県の医療計画を使って実験
していただきたい」と呼びかけました。埴岡は、
「地域医療計画を作るプロセスが変わること自体が地域
の医療を変えていくのではないでしょうか」と期待感を示し、パネルディスカッションをまとめました。
2 日目開始挨拶
東京大学公共政策大学院医療政策教育・研究ユニット特任教授
千葉県を例に、地域の医療計画作りの実践を進めよう
埴岡健一
H-PAC 主催の公開シンポジウムは 5 回目ですが、2011 年に開いた 1 回目から地域医療計画を重要な
テーマとして取り上げてきました。当初は、どうあるべきかという方向性が話し合われましたが、昨年
は、RH-PAC という、ガイドラインを実際に作る実践に結び付けて開催しました。今回はそれにとどま
らず、都道府県が実際に地域医療計画を作り込むときの指針として実践編を作成し、それを発表してい
ただく形としました。また、今までは 10 月ごろの開催でしたが、都道府県が地域医療構想の作成を本格
化する前にということで、時期を前倒しして開催したわけです。
H-PAC は、大学のユニットである HPU の社会活動の実践コミュニティーです。RH-PAC ガイドライ
ンは H-PAC 、HSP の修了生らが集まって作成したものです。こうした場では、一貫して、マルチステ
ークホルダー、違う立場のものが共に考え、共に医療を動かすのがモットーでありキャッチフレーズに
なっています。まさに実践的な取り組みが目指されています。今日は、全国のことを考えるきっかけと
して、千葉県の 3 つの医療圏を主に念頭に置いて議論を進めます。
「地域の医療計画を、共に作る」をテ
ーマとし、最後のパネルディスカッションでは、
「地域で医療計画をどう作り、活かすか」を巡って話を
進めたいと思います。
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趣旨説明
地域医療計画実践コミュニティー代表世話人
RH-PAC ガイドラインは特に住民・患者がターゲット
伊藤雅治さん
今年の1月にさらに実践編を作ろうということで RH-PAC2 が立ち上がりました。目的は、実践編、
実際に役立つガイドラインを作ることです。提供者側の利益より地域住民のために、2025 年の需要予測
に基づく、都道府県の取り組みと連携しながら作っていくことを基本方針に据えました。厚労省のガイ
ドラインは主として都道府県の担当者向けですが、RH-PAC2 のガイドラインは、多様なステークホルダ
ー、特に住民・患者をターゲットにしました。
RH-PAC2 ガイドラインでは、RH-PAC1 ガイドラインの 10 ステップを 7 つに再編成し、
機能分化と連携は千葉県編で具体的に取り組みました。今回のシンポジウムで皆さんの意見を取り込み、
完成版をまとめていきたいと考えています。
パート 4「地域に合わせて医療計画を策定する(実地編:千葉県を取り上げて)」
地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン 実践編」【医療圏別検討】
1. 千葉県及び 3 つの医療圏の現況と課題
岡山大学医学部教授 浜田淳さん
千葉県は 2025 年問題が端的に表れる日本の縮図
千葉県は人口が 625 万人で二次医療圏は 9 つに分かれており、
医療圏ごとの人口が多いのが特徴です。
その中で、我々が取り上げたのは、人口密度が非常に高く大都市型の東葛南部医療圏(人口 170 万人)
、
地方都市型の君津医療圏(同 33 万人)
、山武長生夷隅医療圏(同 46 万人)です。
千葉県は 75 歳以上の人口が 2025 年までに 10 年間で 36 万人増加すると予測され、2025 年問題が最
も端的に表れる地域です。現状では医療提供体制、介護体制、人口 10 万人当たり医師数など医療資源、
介護資源が少なすぎ、迅速な対応が必要です。特に、65 歳以上人口 10 万人当たりの介護福祉施設の定
員は全国平均を 26%下回り、全国最下位です。千葉県は、大都市型、地方都市型の多様な医療圏があり、
日本の縮図ともいえる県です。
3 つの医療圏の特徴を見ると、東葛南部医療圏では、75 歳以上人口が倍増します。大学病院、高機能
病院、地域の基幹病院が複数存在しますが、患者の流出流入が多い地域で、25 年までに入院需要も介護
需要も 5 割くらい増える見通しです。一方、君津医療圏はすでに人口が減りはじめており、75 歳以上人
口は 25 年までに少し増えますが、その後は増えない地方都市型です。高機能病院はあるが急性期の病床
は不足しています。4 分の 1 は他の医療圏に入院しており、入院需要が 3 割、介護需要も 3 割増えると
みられます。次に、山武長生夷隅医療圏は人口が減っており、75 歳以上人口は 25 年までに少し増える
がその後は増えない。地域の中核病院がなくて地域医療が手薄です。人口 10 万人医師数が 102 人で、現
在は、他の医療圏に依存していますが、14 年に東千葉メディカルセンターが開院し来年フルオープンす
るので、今後、どのくらい機能を果たせるか注目されます。25 年に向けて入院需要が 2 割、介護需要も
25%くらい増加します。
全国的に、県における地域医療構想、それから、市町村における地域包括ケアビジョンをどうやって
連携させて策定し、どう実現していくかが課題です。特に、療養病床を大幅に減らそうとしていますが、
在宅医療、在宅ケアの受け皿の整備が進まないと現実的には困った問題が起きます。千葉県の中でも、
東金市の NPO 法人の活動や在宅医療を広げた柏方式から学ぶ意義は大きいのではないかと思います。特
に、柏市役所、地区医師会、東京大学、千葉大学が強い連携を構築して、物事をダイナミックに進めて
いるという点で他県のわれわれも学ぶところが大きいですね。柏方式では、開業医の研修事業の実施、
在宅を担う開業医の負担軽減策、コーディネートの方法などが理論的に詰められています。
もう一つの課題は、機能分化と連携に向かって医療機関の連携や統合をどのように進めていくかです。
医療機関同士の協調を進めようということで、医療法を改正して地域医療連携推進法人の認定制度を創
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設する動きがあります。統合に期待する向きも多いのですが、現実的には難しいのが現状です。地域医
療連携推進法人のような枠組みを使って、連携からスタートするのが現実的な方策ではないでしょうか。
岡山でも、岡山大学病院が中心になって、公立・公的病院 6 病院の連携を進めようとしています。
2. 地域医療構想から~千葉県を取り上げて~
国際医療福祉大学大学院准教授 石川雅俊さん
東京圏全体の医療・介護需要の急増と人材不足への対応が課題
医療機関にとって地域医療構想の本質は、経営用語でいうマーケティングです。すわなち、地域で求
められる医療を適切に把握し、自らの有する資源を踏まえて提供する医療機能を再定義し、地域医療に
貢献していくことです。
医療提供体制には大きな地域格差がありますが、千葉県は、医療費が安くて病床数も少ない、ある意
味特殊な県です。東京圏全体の特徴として、(1)高齢人口の急増による医療・介護需要の増加、(2)東
京と横浜を除く地域は人口当たり医師数が日本一少ない、(3)東京に急性期患者が流入している、とい
う 3 点を理解しておく必要があります。
千葉県には大都市型の医療圏が多く、人口規模とアクセス面を考えると、どの範囲で疾病が完結する
必要があるのか、もう少し病院の集約化が図れないか、過疎地域であればどこまでアクセスを確保しな
がら診療機能を絞り込むかといった議論が必要になります。二次医療圏の人口規模は全国的に格差があ
り、平均は 37.2 万人、100 万人を超える二次医療圏もある一方で、10 万人を下回る医療圏が 83 もあり
ます。千葉県でも東葛南部医療圏が 171 万人である一方で、亀田メディカルセンターのある安房医療圏
は 14 万人です。100 万人以上の医療圏は管理しづらいので、例えば東葛北部、南部を割ることを考えて
はいかがでしょうか。
首都圏では、二次医療圏と住民の生活医療圏は必ずしも合致していません。急性期医療や東京に通勤
している人の外来は東京に流出していますが、回復期、慢性期は東京から千葉県に流入しています。医
療機関へのアクセスはいいところが多いのですが、山武長生夷隅医療圏については、周辺医療圏へのア
クセスが悪いことから当該医療圏に所在する医療機関の機能強化が必要でしょう。地域医療構想区域の
設定にあたっては、急性心筋梗塞に対する緊急 PCI、t-PA の適用のある脳梗塞など主要な救急疾病に対
するアクセスを地理情報システムを用いて検討し、目標とする完結率を設定していく必要があります。
全国的には、外来需要は 2025 年にピークを迎えて以降減少し、入院需要は 2040 年まで増えて以降は横
ばいになると推計されます。地域によって傾向は異なり、都市部の東葛南部、東葛北部、千葉はまだま
だ入院需要が伸びますが、君津医療圏は全国平均的な傾向で需要が下がっていくと推計されます。入院
需要が増加する地域でも急性期が減り回復期や慢性期の需要が増える、求められる医療とやりたい医療
とのギャップが拡大していく地域が多い点を理解しておく必要があります。また、地域医療構想策定ガ
イドラインには盛り込まれていない、将来的な罹患率の低下や在院日数の短縮、予防医療の進展等をど
こまで見込むのかも将来需要推計のポイントになります。
次に、提供体制の検討ですが、東京圏の場合、都道府県間の流出入をどのように補正するか検討が必
要です。ポイントは、(1)将来人口はどうなっていくか、(2)患者さんがどこを受診したいか、(3)提
供体制を確保してまで流出を抑えるべきかという 3 点です。東京との関係でいうと、千葉県が回復期、
慢性期、介護をどこまで受け入れるかを考えないといけません。病床の議論になりがちですが、介護も
含めて人材確保の問題のほうが大きい点にも留意が必要です。東京圏は土地の確保が難しい、人件費単
価が高いという点では、日本創生会議が提言している地方への移住や ICT の活用、更には地域全体での
費用対効果の高いケアに対する千葉県独自の報酬等を含め、持続性のあるケアシステムを構築するため
の様々な施策を検討していくことが有用でしょう。
最後に、地域医療構想ガイドラインではあまり述べられていませんが、医療機関の事業モデルのあり
方、具体的には急性期に特化するのか在宅療養支援までやるのか、どのように医療資源の集約化、症例
の集積を進めていくのか、医療機関の組織的統合を進めていくのかといった検討や、地域単位で患者さ
んのフローを把握していくことも重要である点に言及しておきたいと思います。地域医療構想では、医
療圏の再編、医療機能別の病床再編に加えて、公立・公的病院等を対象とする組織的統合についても各
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構想区域で検討すべきでしょう。
3. 次期地域医療計画の方向性
IMC 株式会社代表取締役 池田美智雄さん
千葉大学医学部付属病院地域医療連携部准教授 井出博生さん
住民がかかりつけ医を選べるよう保険者が支援を
機能分化と医療・介護の連携の確保ですが、千葉県の医療計画では、5 疾病 4 事業で循環型地域医療連
携システムを二次医療圏ごとに構築し、医療機関名を明示しています。ただ、名簿の内容は手挙げ方式
になっているので、住民としては何らかの基準を満たした医療機関を掲載していただきたい。
また、医療機関の連携を効率的に進めるために、2009 年度から全県共用型連携パスを作っていますが、
脳卒中は運用されているものの、その他の疾病に関してはあまり使われていません。県主導で連携パス
の電子化を進めていただきたいと思います。加入者の受診行動は保険者が把握しているはずなので、明
らかに循環型医療連携システムからはずれた行動をしている加入者には注意をすることも考えていただ
きたい。
在宅医療連携拠点事業に関しては、地域医療再生基金などから補助が出されていますが、東葛南部、
北部の特定の市町村が熱心に取り組んでいるのに対し、それ以外がどうなっているのか分かりません。
県の役割として市町村間のサービスの均てん化もあります。奈良県は、県事務職、保健師・看護師、主
任ケアマネ、理学療法士等の専門職からなる「地域包括ケア推進支援チーム」を新たに設置し、取り組
みが遅れている市町村、地域包括支援センターに対して集中的支援を実施しています。今の取組を継続
するだけでは格差が拡がる一方なので、お金の使い方の見直しをしたほうがいいのではないでしょうか。
循環型医療連携システムに入るには入口として、かかりつけ医の機能が重要です。しかし、そういう医
師をどう探すか情報がありません。病院から診療所に戻れるように病院がかかりつけ医の情報を提供し
たり、地区医師会と保険者が協力して、住民に対して地域の医療提供状況やかかりつけ医の選び方など
の啓発活動をしたりする必要があります。医療の相談ができる場所として薬局の活用も必要で、民間の
会社を有効活用するのも一つの方法です。医療と安全の確保としては、千葉県がんセンターで医療事故
がありましたが、二度と起こらないように、現状の医療監視等でそもそも充分なのか、根本から考え直
していただきたい。
千葉県は医療資源が全国平均に比べて少なく、特に、今回取り上げた 3 医療圏では、医師と看護師が
不足しています。東葛南部の医師・看護師増加率は全国平均を上回っているのですが、もともとの水準
が低いために、いまだに人口当たりの医師・看護師数少ないのが現状です。このまま需要が増加したと
すると、東葛南部では約 1000 人、君津では 120 人、山武長生夷隅では 110 人くらい医師の増加が必要
になります。東葛南部では看護師も 3000 人以上増やさないといけません。女性医師が増加していますが、
東京、神奈川は女性医師の比率が多い一方で、千葉、埼玉は女性医師の比率が低い。看護師も含めて、
女性に来ていただける対策も考えないといけません。介護職員の不足もさらに深刻です。
医師・看護師の確保推奨施策としては、1 つは将来の人口を踏まえた病床の配分、研修医枠の設定などを
国に対して働きかけていくこと、もう 1 つは、県内出身者の県内就業促進、3 つ目は女性医師の短時間勤
務、ワークシェアリング、女子学生への就学支援です。千葉県に限らず女性医師の活躍のためには、ロ
ールモデルの提示が必要です。看護職員に対しても修学資金の貸付対象の拡大、離職防止に力点を置き、
再就業支援、新人確保を考えてはいかがでしょうか。転居や結婚を機にした流入流出者に対する就業支
援も大切です。多施設協働による保育所整備なども考えられます。
医療に関する情報化に関しては、医療機関や多職種の連携を進めるために在宅医療の ICT の必要度が高
く、ここを支援すべきではないでしょうか。家庭から病院まで地域の疾病を管理していく視点で、地域
疾病管理までを念頭に入れ、
「社会インフラ」として位置づける必要があります。
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<質疑応答>
フロアからは、
「効率的にいいサービスを提供しつつコストのことも考えていかないといけない。コス
トに関しては RH-PAC22ガイドラインを作る中でどのような議論があったか」、
「病気の予防についてど
う考えるか」などの質問が出ました。
コストについては、当ユニットの埴岡が、
「昨日も、施策の評価のところで費用対効果の分析もしてい
く、足りないから増やすのではなく効果があるか評価していこうという話がありました」と回答しまし
た。また、病気の予防に関しては、浜田さんが、保険者による特定健診・保健指導をどうやって具体的
に病気の予防に生かしていくか データヘルス計画が動いていることを紹介。
「健康水準を上げ医療費が
下げられるように成果を上げたい」と話しました。井出さんは、
「高齢者の運動水準が上がったり、病気
の予防をしたりしたら医療・介護の需要がどうなるのか分からないところがあります。しかし、予防は
必要で、RH-PAC2 ガイドラインでも予防施策について書き込むことを検討したい」とコメントしました。
地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン 実践編」【医療圏別検討】
1. がん
東大 HSP(医療政策人材養成講座)4期生 三井貴子さん
帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科准教授 渡邊清高さん
連携体制づくりでがん医療の空白 をなくし、初期からの緩和ケアの浸透を
千葉県の将来人口推計をみますと 2025 年の高齢化率は 34%で、全国 3 番目のスピードで高齢化が進
むと見込まれています。高齢化率とともにがんの罹患も死亡も増えるので、25 年に向けてがん対策が非
常に重要といえます。推計患者数の増加率も入院、外来共かなり高く、全国平均を上回ります。山武長
生夷隅医療圏は千葉県の 5 分の 1 の面積を占めるにもかかわらず、がん診療連携拠点病院の空白域であ
ることも大きな課題になっています。千葉県では、2011 年からの「がん診療連携協力病院制度」が創設
されており、7 つの二次医療圏に 14 の協力病院が指定されています。少ない医療従事者が医療を回して
いるのは、がん医療でも同じです。がん医療を専門とする医療従事者数も全国でも下から数えたほうが
早い状況です。
次に緩和ケアですが、千葉県が 2012 年に実施した患者・住民アンケートでは、終末期、緩和ケアが主
体となる時期には自宅で過ごし、何かあったときに病院に入りたいという意向が強く出ていました。千
葉県が推奨している循環型地域医療連携システムの考え方と患者さんの希望は同じ方向に向かっている
のではないでしょうか。ただ、同システムの認知度は低く、住民との対話・コミュニケーションが必要
です。初期段階からの緩和ケアは受けた患者さんが 7~8 割という回答でしたので、さらなる改善が必要
と思われます。
がんの施策マップと推奨施策についてまとめました。分野アウトカム、中間アウトカム、個別施策は
RH-PAC1 で挙げたものを継続しています。千葉県に関しては、地域連携クリティカルパス、チーム医療
の推進、在宅医療 との連携という点で、千葉県がんセンターをはじめとして先駆的な取り組みがなされ
ています。一方、このたび同センターががん診療連携拠点病院の指定が更新されないということがあり、
県内のがん医療提供体制をどのように構築していくか引き続き注視し、さらなる充実に向けて議論を進
めていく必要があります。
2. 脳卒中
在宅総合ケアセンター成城センター長 井上智貴さん
株式会社富士通総研 公共事業部 赤田啓伍さん
パスを効果的に利用し地域循環型医療連携システムの運用が重要
千葉県の人口 10 万人対年齢調整死亡率は 81.4 で全国平均(98.2)より低いのですが、医療圏別にみ
ると、高齢化の進んでいる地域ほど高い傾向がみられました。急性期の医療機関は東葛南部にはたくさ
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んあるのですが、山武長生夷隅、君津は少ない状況です。介護施設数の地域差はそれほど大きくありま
せんでした。
2025 年の脳卒中疾患の患者推計では、千葉県全体で入院 66%、外来 42%増え、全国平均よりも増加
率が高くなっています。3 つの医療圏のうち一番増加率が高いのは東葛南部です。脳卒中は他の疾患より
共用パスの普及率が高いとの指摘が先ほどありましたが、脳卒中でも共用パスの使用実績は 24.7%で、4
分の 3 の医療機関は用いていないとの結果です。
現況と課題の需給ギャップですが、患者数増加に向けた対応が必要です。東葛南部では比較的回復期
の病床が充実していますが、山武長生夷隅、君津では不足しています。課題としては、(1)脳卒中予防
の推進、
(2)病期や需要に応じた医療資源の適正配置、
(3)医療機関間の連携も大事です。予防も含め、
病期や患者の状態等に応じた医療・介護が適切かつ円滑に提供されるために、地域連携クリティカルパ
ス等を活用し、各関係機関による連携体制の構築していくことが重要です。
分野別アウトカムは、年齢調整死亡率の低下と QOL の改善です。推奨施策としては、脳卒中の危険因
子の改善が必要ということで、1 つは、
「行政と保険者と医療提供者が連携し、住民の脳卒中危険因子に
対する理解を促す」
。2 つ目は、
「特定健診の受診率の向上と保健指導の推進」です。医療機関の適正配置
としては、急性期は都市部、回復期は地方型の医療圏で整備が必要です。
医療圏等の円滑な連携のためにはパスをしっかり使うことが大切ですが、船橋市は、行政、医療機関、
介護保険サービス事業所が一堂に会して顔の見える関係を築いています。他の地域にもそういう取り組
みが参考になるのはないでしょうか。推奨施策の進捗度の指標の中で、地域住民の脳卒中の理解度につ
いては、アンケート調査で理解度を測定することができますが、どういうふうに実施するかは議論が必
要です。パスの使用については利用率を把握してフォローすることが大事です。
3. 糖尿病
日本医師会総合政策研究機構 坂口一樹さん
三井記念病院総合健診センター 町井健二さん
潜在患者の発掘と患者の行動変容を促す施策が急務
糖尿病分野では、生活習慣の改善、予防医療、治療の継続、合併症・重症化予防まで、切れ目のない
対策が課題です。すでに地域ごとに存在する「予防医療のフロー」、「発症予防のフロー」、「合併症・重
症化予防のフロー」に、住民・患者を乗せていくための様々な仕掛けが重要です。そのために、
「人々の
行動変容を起こせるか」がポイントとなります。したがって、医療提供者だけではなく、保険者をはじ
め、住民の生活を取り巻く多様なステークホルダーを政策に巻き込むことが必要です。なかでも、保険
者は、健診データとレセプトデータを併せ持つキープレーヤーです。
より効果の高い糖尿病対策を展開するには、全国データだけでは十分ではありません。都道府県別、
二次医療圏別でのデータの把握・分析が必須です。千葉県では、ストラクチャー指標、すなわち医療資
源に関わるデータは把握されていますが、プロセス指標、アウトカム指標に関わる地域別データは十分
把握されていません。今後、これらのデータを整備するにあたっても、健診・レセプトデータを有する
保険者の役割は大きいと考えます。
今後の糖尿病対策にあたっては、まずは潜在患者対策が急務です。過去のトレンドから粗く推計すれ
ば、2025 年の糖尿病有病者数は約 1200 万人です。今後、潜在患者対策が進めば、糖尿病治療への需要
は飛躍的に高まると考えられます。対応するには、「発症予防による糖尿病有病者の削減」「かかりつけ
医の機能強化」
「専門医とかかりつけ医との連携強化」等の施策が必須です。
分野別アウトカムは、
(1)糖尿病の発症患者を減らす、
(1)糖尿病患者の重症化を防ぐ、の 2 つです。
それを実現するための中間アウトカムを 5 つ、個別施策を 10 個挙げました。推奨施策は、保険者による
健診の実施と保健指導の実施です。H-PAC3 期で行った患者アンケートでは、透析患者のうち健診を受
けていなかった人は 4 割程度、健診を受けないと発見が遅れます。取り組むべきは市区町村国保の加入
者と健診を受ける機会のない専業主婦です。特定健診の実施率や保健指導の終了率が指標になります。
先駆的な事例としては、従業員の宿舎近くで出前健診を行う、薬局での血糖測定スクリー二ングの実施
などがあります。健診結果が悪くても受診しない人、治療を途中で中断してしまう人に対しては、受診
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勧奨をしなければなりません。受診勧奨ができるのは保険者と医療機関です。保険者は健診データやど
のような治療を受けているかデータを持っています。2015 年度よりデータヘルス事業が始まりましたが、
市区町村国保にも広げてほしい。広島県呉市の事例が有名ですが、厚労省も対策の横展開に予算をつけ
ています。
糖尿病患者の行動変容には生活指導が肝心です。医師と看護師や管理栄養士からなる糖尿病療養指導
士による指導が大事です。それから、医療機関名を公表して患者がどこでどのような治療が受けられる
のかの情報開示が必要になってきます。日常的な気づきとして患者会の活動、生活習慣改善のための社
会全体へのアプローチが重要と考えます。患者の行動変容をどう起こすかという視点を入れて、さまざ
まなステークホルダーを巻き込む計画が必要です。糖尿病対策には大いに改善の余地があります。
4. 救急医療
日本経済新聞社大阪本社社会部デスク(H-PAC メンター)前村聡さん
横浜市立みなと赤十字病院心臓外科部長 田渕典之さん
ビックデータを活用した二次三次救急の連携と集約化の議論が必要
今回、私たちは、どのような医療情報があれば、どのような医療計画を策定できるかという点に限っ
てお話しします。千葉医療計画では 医療機関リストの列挙のみで、実稼働の明示と機能改善への具体
的提案に乏しい状況です。東葛南部に限って今回分析しましたが、この医療圏の中では、三次救命救急
センターが 2 カ所、二次救急・救急告知病院 26 病院でした。この東葛南部で住民に分かりやすい医療情
報を提供するためには、分かりやすい案内図が必要です。
どう分かりやすくできるかを検討しました。救命救急センターでは、約 20 項目の病名に当てはまる重
症患者を年間何件緊急入院させたか総務省に報告するデータが本来あるのですが、現時点では非公開で
それを使うことはできません。そこで今回の作業では、それに類似した疾患を DPC6 桁の公開データ
(2013 年)の中で急性心筋梗塞など重症なものに絞って抽出することで、東葛南部で重症患者がどう流
れて入院しているかを症例数で分布を示しました。DPC 病院は二次救急病院で対応している病院は 10
カ所しかないので、限られた分析です。数だけで見ると二次救急病院もかなりの重症患者を扱っていま
す。医師不足が叫ばれている中で、救急病院が分散しているより集約化したほうが医師の負担も減り医
療内容も充実できるのではないかという推論もできます。一方、各医療圏の最大規模の病院の重症受入
数を比較しますと、隣の香取医療圏は人口 29 万人ですが旭中央病院が年間 350 人、安房医療圏も人口
13 万人で亀田総合病院が年間 300 人弱の重症患者を受け入れています。ベンチマークが本当に目標とし
て正しいのかという疑問はありますが、具体的なデータが出ると、重症受け入れが多数の病院に分散し
ている東葛南部医療圏の医療計画を具体的に考える基盤になります。
医療計画作成の第一歩として、医療の実情を俯瞰できる詳細データが必要です。いま取得できるデー
タにのみ基づく推論を例示すると、東葛南部医療圏では二次と三次の役割分担、機能分化が不完全では
ないかという疑問がわきます。三次救急に投入されるべき医療資源を考えると複数以上の病院に分散し
ているよりも合併したほうがよいので、補助金を出しても集約化が必要という議論も出てくるかもしれ
ません。さらに、急性期相当の患者数は将来的に減っていきます。特に、君津、山武長生夷隅は、東葛
南部よりも早く医療需要が減りますから、そういったことも踏まえて需給ギャップの是正が急務になっ
てきます。
施策・指標マップは RH-PAC1 とほぼ同じですが、二次三次救急をどうやって連携させてどうやって
集約化していくかは、われわれの解析だけみても今後の大きな政策課題になっていくと思います。ただ
し、限られたデータに基づいているので、今日のお話はあくまでも一つの推論だとご理解ください。デ
ータの提供には保険者の参加が必要です。いろいろなビックデータが公開されれば、住民対象の医療情
報提供がさらに明解になると思います。
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5. 在宅医療
地域医療計画実践コミュニティー代表世話人 伊藤雅治さん
まずは在宅療養を希望する患者の実態把握を
在宅医療に関しては、県民の希望と現況には大きなギャップがあります。千葉県の調査で、病気で長
期に渡る治療が必要になったときに入院ではなくて在宅を希望するとした人が 39%、最期を迎える場と
して居住の場を希望する人は 39%。ところが、千葉県の在宅看取り率は 17.1%です。在宅医療に関係す
る指標をみても、医療機関、医療従事者は全国最下位に属する県の一つです。在宅医療を支える診療所
と訪問看護事業所も人口当たりの数も全国最低レベルです。
そもそも、在宅医療については何を測って需要測定とするのか、厚労省のガイドラインでもそこがは
っきりしていません。需要がどのくらいかわからないとギャップも記載しようがない。県全域、医療圏
ごとの在宅医療の需要測定、将来予測も行われていません。計画を作る担当者の立場に立てば、仮に目
標を立てたとしてもそれを実現するための手段が確保されていないという問題があります。
アウトカム指標をどうするかですが、現状は、在宅看取り率を上げることが設定されているだけです。
看取りの場が自宅であったというだけではなく、行われているケアの質を測る指標設定が可能か、在宅
医療の需要予測をどのように測定するのか、が課題です。また、現在は、入院外のデータがほとんどな
いのが実情です。在宅医療計画策定を考慮したデータ収集の方法を検討する必要があります。それから、
在宅医療の対象者が多様化にどう対応するかという課題もあります。がんのターミナル、小児、難病の
人、精神障害者に対する在宅医療の仕組みをどう作っていくか。日常生活圏域、市町村の小さな単位で
は在宅医療計画は一律に作れないということです。対象者によって圏域をフレキシブルに対応していく
仕組みが必要です。
もう一つは、在宅の定義で、住み慣れた自宅と広義の在宅を使い分けて計画を作ったほうがよいので
はないでしょうか。さらに、あるべき姿とアウトカムを考えたときに、病院に入院している人で医学的
に退院可能で在宅療養を希望する患者の実態把握が必要だと思います。一昨年、横浜市医療局が、市内
全病院に対して退院可能な患者がなぜそこで滞っている全件調査を実施しました。その結果、老健入居
待ち、訪問看護がないなど、いろいろ分かってきました。それを解消するような形で在宅医療計画を作
る。横浜市を好事例として、全国の在宅医療計画に生かしていくべきです。
在宅看取り率の向上が目指されていますが、在宅や老健施設で療養していても最後はまた病院へ行っ
てしまうのです。最後まで看取れる体制が必要です。推奨施策は、在宅医療を希望する人の実態把握と、
退院から在宅への円滑な移行を支援するコールセンターの設置による司令塔機能の仕組みの創設、これ
も好事例として千葉県柏市の事例があります。在宅看取り率の向上、それから、市町村担当職員への支
援の仕組みも重要ですし、これから医療・介護の一体化を進めなければいけません。機能強化型訪問看
護ステーションのように、連携ではなく、一体的にサービスを提供していく。連携は時代遅れとしても
う一度在宅の仕組みを考えていったらよいのではないでしょうか。
<質疑応答>
質疑応答では、保険者への期待にどう応えるか、保険者の立場の参加者から、次のようなコメントが
ありました。
「レセプトデータと健診データは持っていますが、どういう治療がどこまで必要なのかレセ
プトデータだけでは見えにくいのが現状です。都道府県によって 1 人当たりの医療費の差がありますが、
ベッド数の差なのか、治療内容の差なのか、検査・投薬の効果なのかどうか、細かいデータを国で集約
化して社会で活用することが必要ではないでしょうか」
また、フロアの参加者からは、
「脳卒中の連携パスの利用率が低い理由」、
「糖尿病に関して、開業医の
先生方の新しい薬の使い方、データに基づく治療の統一化が全くない。今後、どのように専門医を増や
し、開業医の先生方の啓発活動をどう進めたらよいのか」といった質問が出ました。前者に対しては、
脳卒中を担当した井上さんが、
「推測ですが、パスを用いることによって診療の質が上がっているか実感
がわいていない人もいるのではないでしょうか。ただ、連携パスは、脳卒中全体のデータを集めるツー
ルになります。現場の負担感を軽減しながら、今後は、協議の場が設けられる中でパスの重要性が再認
識されるといいのではないか」と答えました。
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2 つ目の質問に関しては、糖尿病を担当した坂口さんが「個別の医療機関を取り上げるのは難しいので、
まずは二次医療圏別、市町村別に糖尿病の治療のアウトカムを取って、改善を図るのが第一歩ではない
でしょうか」と指摘しています。これに関連して、伊藤さんは、熊本大学が中心になって、熊本県医師
会に所属する開業医の先生方の糖尿病治療のレベルアップを図っている好事例を紹介。
「聖路加国際病院
では主治医ごとの HbA1c の改善率をみてドクター個人の指導にバラツキがあることが分かってきていま
す。ドクター別の評価もこれからの課題です」とまとめました。
パート 5
パネルディスカッション「地域で医療計画をどう作り、活かすか」
病院を動かすには施設別のミクロデータが必要
パート 5 では、パネルディスカッションの前に、千葉県、高知県、奈良県の地域医療計画担当者が、
各県で地域医療構想と地域医療計画をどう作るか 5 分間の講演を行いました。
千葉県健康福祉部保健医療担当部長の古元重和さんは、同県では、2025 年の先を見据えた地域医療ビジ
ョンができないか検討を始めていることに言及。
「予防施策の効果、在宅医療の充実を見越してどこまで
増やすか、特に保険者の役割は大きいと思います。市町村長の考え方には、いい意味でも悪い意味でも
バラつきがあり、地域創生のストーリーの中で小児科、産婦人科に力を入れたいと思っている市町村長
が多いのも事実です。いろいろな価値観がある中で、地域包括ケアをどう進めるのか。地域医療構想の
中で、医療の質と専門医の育成などにまで踏み込むことができればベストかなと考えています」と話し
ました。
高知県健康政策部医療政策課主幹の伴正海さんは、1 人当たり医療費が日本一高く、人口 10 万人当た
りの病院常勤医師数も病院勤務看護師数、療養病病床も日本一多いものの、救急医療を担えるような 40
歳未満の医師や産婦人科医が減っている現状を説明。県医師会が昨年度、関係機関の代表が集まって議
論する地域医療ビジョン対策委員会を発足させたことから、実質的な議論はそこで行い、普段から定期
的に地域住民を交えて地域の医療・介護・福祉を話し合う機会がある各福祉保健所から住民の意見を吸
い上げる方向性を示しました。伴さんは、
「歴史を踏まえたうえで現場と共に未来を語りたい。つらい思
いをするのは病院経営者ですので、そういったところをこちらも勉強していきたいですね。計画を作る
のがゴールではなく、秋の当初予算に向けて、課題を見つけて合意をしたらどんどん予算を取り、基金
を使っていこうという体制になっています」と強調しました。
奈良県医療政策部部長の渡辺顕一郎さんは、県内で 2006 年に発生した妊婦の救急搬送死事例をきっか
けに、知事を筆頭に、県立病院再編、タブレット端末を利用した救急搬送システム「E⁻MATCH」
、急性
期や回復期の病院のクオリティーインディケーター(奈良県版見える化事業)、糖尿病診療の現状調査な
ど独自の施策が進んでいることを紹介。
「地域医療構想を作るにあたって、適患者、適病院の理念のもと
に、まずは 5 疾病 5 事業・在宅の現状確認から始めたいと考えています。本シンポジウムで紹介があっ
た施策シートも参考になると感じています」と語りました。
続いて、医療提供者の立場で参加した日本病院会会長の堺常雄さんと、加入者数約 3600 万人で全国最
大の保険者である全国健康保険協会理事の伊奈川秀和さんが、主に、次のような内容で 5 分間のミニ講
演を行いました。
「病院の機能分化や地域偏在を解消するためには、マクロデータだけではなくミクロデータによる見
える化が必要で、5 疾病について施設ごとの個別データを収集して比較する必要があります。また、病床
の機能分化だけではなく、大事なのはかかりつけ医の機能です。われわれが目指しているのは地域住民
の安心安全のヘルスケア。医療だけではないチームヘルスケア、病院機能を明確化して、地域での病診
連携を進めることです。重要なのは地域特性に根差した体制整備です。日本病院会では各都道府県に支
部を増やしており、支部の活動が期待されます。協議の場が機能していただきたいので日本医師会、郡
市医師会との連携が必要です。かかりつけ医については、日本医師会と 4 病院団体と合同で、2013 年 8
月に『医療提供体制のあり方』の中で提言を行いました。理想的なかかりつけ医の定義がそこに出てい
るのでぜひ見てください」
(堺さん)
「保険者の機能は加入者の利益を実現していくことで、保険者としても医療の中身に関心を持つべき
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ですし持たざるを得ません。地域医療構想や地域医療計画、医療費適正化計画の策定などを通して、今
後、医療提供体制との関わりが強くなっていきます。私どもとして重視しているのは、なるべくいい医
療を効率的に提供していただくことです。今後、日本全体で人口減少に直面しますから、今まで以上に
医療提供体制の偏在が問われます。加入者が同じようにいい医療が受けられるように発信していきたい。
各都道府県の地域医療構想、地域医療計画の案を作る前に、ぜひ、協会けんぽにもご相談ください」
(伊
奈川さん)
実効性のある計画に仕上げるポイントとは
パネルディスカッションでは、パート 5 で講演した 5 人と H-PAC 代表世話人の伊藤さんの 6 人をパネ
リスト、当ユニットの埴岡をコーディネーターに、まず、
「実効性のある計画に仕上げるポイント」につ
いて議論が進みました。
行政の立場から、千葉県の古元さんは、
「院長先生たちにデータをお示ししながらいかに一緒に考えて
いくかにかかっています。保険者が持っているデータもわかりやすく開示してほしい」と発言。奈良県
の渡辺さんも、
「納得感のあるデータを出していきたい。5 月末くらいに出る厚労省のデータブックが画
一的なものだとすると、どこまで県で味付けできるか。現場に出てきめ細やかな情報を集めたい」と話
しました。
医療提供者の立場から堺さんは、
「いまが 25 年までに新たな道筋を作る最後のチャンス。 病院の管
理者もずいぶん変わってきています。都道府県、郡市レベルでは病院会と医師会の連携が難しい面があ
りますが、実際には診療所と病院との連携が必要になっています。連携パスは患者さんのために必要だ
からとやっている地域が増えているので、頑張っているところは評価してほしい。一方で、地域の需要
に合った医療を提供しない病院の経営は立ち行かなくなると思います。国、都道府県、地域、施設別の
データを開示すれば、医師はデータに説得されやすいので自助努力が働く可能性があります。俺が俺が
といいながらも、実績・成果のないところは消えていく運命ではないかと思います」と指摘しました。
保険者の伊奈川さんは、
「医療のファイナンスとデリバリーをつなぐ役割を保険者が負っている。レセ
プトデータは万能ではありませんし、診療行為がどうだったか結果まで分かるわけではありませんし、
個人情報保護の観点などからの制約はありますが、ファクトやデータというところで保険者は貢献でき
るのではないでしょうか。協会けんぽ、国保、健保、保険者同士の連携はこれからの取り組みに負うと
ころが大きいのですが、もともとある保険者協議会を活用して、保険者全体で今回のビジョンに対して
どう貢献できるか考えていきたい」とコメントしました。
伊藤さんは、都道府県によって取り組み体制のバラつきが大きいことから、次のように指摘しました。
「ステップ 1 では、知事、副知事を先頭に医療提供体制を変えていくのだという意思決定が必要です。
また、保険者には、医療計画を作る最初の段階から策定に関わってほしい。今のままでいったら国民皆
保険の維持が難しくなってくるので、医療の提供体制の効率化を図っていくという立場から何ができる
かを検討していただきたい」
計画の実現にはメディアと患者・市民、市町村長の理解が不可欠
最後に、1 日目に日経 BP 社の庄子育子さんが講演の中で触れた事例について、総論賛成・各論反対に
ならずに地域医療改革を実現していくためには何が必要か、議論しました。事例は、市立 A 病院が公的
B 病院の後方支援病院になり病院再編が地域にとって理想的な形で進むはずが、A 病院の院長が 3 つの
手術室を作り急性期病院としての役割を前面に出し、市議会議員もそれに加担、県知事は傍観しており
構想実現が危うくなっているケースです。
これに対しては、次のように、患者・市民、市町村長やマスコミの役割の重要性を強調する意見が相
次ぎました。
「患者・市民の役割が重要です。救急車を受け入れる病院だけがいい病院なのではなく、
『あの病院はい
いリハビリやっているよ』などと回復期病床も評価するような価値観をメディアと協力して作っていた
だければ、市議会議員の考えも変わってくるのではないでしょうか。行政としても、患者・住民の方と
一緒にそういう価値観を作っていけたらうれしいです」
(古元さん)
「最終的な意思決定の場に、市町村の首長を入れる必要があります。高知県では地域医療構想策定ワー
キンググループに市町村会にも参加していただいています。また、メディアの役割は重要で、特に地元
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紙に正しく理解していただけば、正しい記事を読んで市町村議員の方にも理解していただけるのではな
いでしょうか」
(伴さん)
「マスコミの役割非常に重要。住民はそういった決定について知るチャンスがないので、マスコミがど
んどん取り上げていただきたい。住民と一緒になっていい医療の実現を考えて欲しい」(堺さん)
渡辺さんは、
「担当者と知事がしっかり意見交換し県の方針をまとめておくことが重要、知事のリーダ
ーシップが発揮されるのではないか」と強調。奈良県では、市町村長を集めたサミットを年 2 回開催し
ており、今後、そういった場を通じて地域医療構想、包括ケアについて理解を求めていく予定だといい
ます。
また、伊奈川さんは、
「各論にしたら自分の問題になるので考えざるを得ない。これが今回の地域医療
構想の一つのポイントです。まずは見える化をして考えることではないでしょうか」とデータの重要性
を指摘しました。伊藤さんは、
「患者・市民代表がいかに声を出していくかが最終的な課題だと思います。
わが町に病院をではなく、地域全体でいいサービスにつなげていくという方向に声を上げてもらうため
には、計画の策定段階から患者・市民に参画してもらって変えていくのが筋ではないでしょうか」と強
調しました。
RH-PAC1 と RH-PAC2 はマルチステークホルダーの参画による地域医療計画をスローガンにしてきま
した。伊藤さんは、
「都道府県が患者・市民団体の参画に支援をしていく、それも都道府県の役割です」
と言及しました。コーディネーターの埴岡が、
「いろいろ環境が整い、具体的な道具立ても見えてきまし
た。マルチステークホルダーで作った RH-PAC2 ガイドラインを参考にしていただいて、各地でいい流
れを作ってください」と呼びかけ、2 日間に渡ったシンポジウムは閉会しました。
○医療政策教育・研究ユニット(HPU=Health Policy Unit)とは
東京大学公共政策大学院の 1 ユニットで、大学院生向けの医療政策講義、研究、社会人向けの社
会活動を行っている。
○医療政策実践コミュニティー(H-PAC=Health Policy Action Community)とは
HPU の社会活動として行っている人材養成のための実践的勉強会で、患者支援者、政策立案者、
医療提供者、メディアの 4 つのステークホルダーが集まって、「医療を動かす」をモットーに政策
提言、事業計画などを作成している。
○地域医療計画実践コミュニティー(RH-PAC=Regional Health Plan Action Community)とは
あるべき地域医療計画の姿を検討し社会に発信しようとするプロジェクト。4 つのステークホル
ダーの有志が参加。第 2 期は 1 月から約 70 人が参加して活動し、RH-PAC2 版ガイドライン実
践編の策定に取り組んできた。
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