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バブル崩壊後における地域銀行の生存競争

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バブル崩壊後における地域銀行の生存競争
バブル崩壊後における地域銀行の生存競争
2005 年 1 月 17 日 行平享史
目次
はじめに
1,全国でみた地方銀行と信用金庫の店舗数での比較
2,地域別で見た地方銀行と信用金庫の店舗数での比較
おわりに
はじめに
日本の高度成長を支えてきた銀行は貸し渋りの状態に陥ってしまい、今なお、日本経済
の足を引っ張っている。そして、銀行が甦るかどうかは、日本経済が浮上するかどうかの
カギをも握っているといえるだろう。日本の金融機関自体は、戦後半世紀の間にしみつい
てしまった甘えた経営体質を払拭し、利益を最優先する姿勢を打ち出そうという再生への
模索を続けている。確かに、現在の日本の銀行は、バブルの後遺症を依然として多く抱え
ており、経営は非常に厳しい状態にある。とりわけ、都市金融機関に比べ、地域金融機関
の生存の道は厳しい。このような状況であるため、各地域金融機関は自身の役割を見直し、
経営再生のための活路を見出さなければならなくなった。しかし、この経営効率の改善を
求める行為こそ、甘えた経営体質であった日本の金融機関に必要なことであったのである。
バブル崩壊後には、地域銀行の合併や解体など再編成が急速度で動き出した。現在でさえ、
各地で信用金庫、信用組合、農業協同組合が合併に経営の活路を求めようとしている。 合
併にまで至らなくても、システム共同開発や銀行POS(販売時点情報管理)共同開発な
ど地域的提携の動きがみられる。さらに情報や資金のネットワークづくりのため「情報連
絡会」が各地でスタートしている。いずれも何らかのリスクを伴う経営判断であり、生存
のための選択といえるだろう。これは、地域銀行が地域密着型の渉外体制と店舗網を活か
し、大手銀行がなし得ないであろう、キメ細やかな金融サービスの提供に努めることであ
る。地域銀行のなかでも生存競争は、激化している。地方銀行は、バブル時には大都市圏
にまで営業範囲を拡大していったが、バブル崩壊とともに都市銀行の少ない大都市圏外に
基盤を戻していった。そのため同じ大都市圏外を営業基盤とする信用金庫などの他の地域
銀行と営業範囲が重なってしまうことが多くなってしまったのである。そのため各行の勢
力に大きな差が生じてしまう。この地域銀行のなかでの力関係も地域により大きく異なっ
てくるが統計によりはっきり出ている。何がそのような数値を生んでいるのか。
1
1. 全国でみた地方銀行と信用金庫の店舗数での比較
まずは、地方銀行の近年の動向のひとつである地元への回帰について統計からみてみる。
地方銀行は、バブル時には大都市圏にまで営業範囲を拡大していったが、バブル崩壊とと
もに都市銀行の少ない大都市圏外で各行の本店が置かれている地元へと基盤を戻していっ
た。この動向を表 1 より、貸し出しの割合から分析してみた。対象は全国地方銀行協会に
加盟している 64 行で、1990 年度末から 2000 年度末への貸し出しの割合を表している。地
元外における貸し出しの割合はマイナスになっている銀行が大半を占めている。一方、各
行の本店を置いている地元における貸し出しの割合は、プラスになっている銀行が多い。
このことから大多数が貸し出しを地元外から地元へとシフトしていることが見うけられる。
バブル崩壊後のあたりから地方銀行の各行は、都市銀行を避けるために経営の基盤を地元
へ戻し、そこで生き残りの活路を見出そうとしているのである。
表1
地元における貸し出しの割合
(%,90年度末→00年度末)
地方銀行の貸し出しの動向
12
10
8
6
4
2
-20
-15
-10
-5
系列1
0
-2 0
5
10
-4
地元外における貸し出しの割合(%,90年度末→00年度末)
備考
・ 全国地方銀行協会に加盟している 64 行が対象
・ 地元は各行が本店を置く都道府県
・ ニッキンデータより作成
この地方銀行の地元への回帰は、他の地域銀行に多大な影響を及ぼしている。表 2 より
信用金庫の店舗数は全国でみると、1998 年度をピークとして 1999 年度以降減少し続けて
いる。また、合併数は 2000 年から大幅に増加している。表 1 と比較すると地銀の地元回帰
と信用金庫の店舗数の減少の時期がほぼ重なっていることがわかる。つまり、信用金庫は
地銀の地元回帰の影響を受けたのではないだろうか。そして、生き残りのために採算性の
乏しい店舗を統廃合していったのである。この数値は、信用金庫の苦しい状況と衰退を表
2
している。
表2
信用金庫の店舗数の変化(全国)
信用金庫の合併数(全国)
年度
店舗数
年度
合併数
1990
8146
1990
3
1991
8232
1991
7
1992
8371
1992
4
1993
8454
1993
5
1994
8524
1994
7
1995
8600
1995
4
1996
8643
1996
6
1997
8668
1997
8
1998
8673
1998
3
1999
8638
1999
5
2000
8480
2000
13
2001
8400
2001
14
備考
・ 信用金庫統計レポートより作成
表 2 では、地方銀行の地元回帰による信用金庫の店舗数への影響が窺うことができた。
さらに表 3 では、大都市圏内と圏外での信用金庫の店舗数の比較ができる。県内で人口が
最多である市町村以外の市町村では信用金庫の店舗数は常に増加傾向となっている。しか
し、人口が最多の市町村での店舗数は 1997 年度を境に減少傾向にある。つまり、信用金庫
は大都市圏外を営業の基盤としているが、さらにその比重が上がってきているのである。
地方銀行に比べると動きは小さいものである。地方銀行は、バブル時には大都市圏に店舗
数を増やして営業範囲を拡張していたからである。同じ営業範囲である以上、相手より動
きは少ない分、受ける影響は大きいものになってしまう。つまり私は、地方銀行より信用
金庫の方が多大な影響を受けたと思っている。もちろんマイナス要素の多い影響である。
地域銀行の衰退した原因は、景気悪化により企業や家計の資金が減少したため、各信用金
庫の資本金の減少したことが最も大きな原因であろう。それとともに、表 1∼3 を用いて説
明したように、地域銀行間での競争、具体的にいうと地方銀行の地元への回帰による競争
の激化も原因の 1 つに挙げることができるだろう。
3
表3
信用金庫店舗数の推移
125
120
最多の市町村
115
それ以外の市町
村
110
105
20
00
19
98
19
96
19
94
19
92
19
90
100
年
備考
・ 信用金庫統計レポート、ニッキンデータより作成。
・ 1990 年の店舗数を 100 としている。
・ 最多の市町村とは、各都道府県のなかで人口が最多の市町村である。
ここまでで信用金庫の衰退については説明してきた。その一方で地方銀行は地元回帰の
動きはわかったが、経営状況はどうなっているのか。この不景気のなかで厳しい状態にあ
ることはわかるが、統計を使って検証してみる。まず表 4 により店舗数の推移がみてとれ、
信用金庫と同様に近年減少傾向にあることがわかる。採算性の低い店舗を統廃合している
のである。この統計だけでも、経営状態は苦しく、衰退していることが窺うことができる。
さらに表 5 では、地方銀行の給与支給総額の内訳を表している。給与支給総額、給与単価、
人員数すべてがほぼ減少傾向にある。2000 年に給与単価が増加しているが、これは同年に
給与支給総額と人員数を大きく減らしているために上がっただけであって明らかに一時的
なものである。このように表 5 からも地方銀行の経営の悪化をみてとれた。
表4
4
地方銀行の店舗数(全国)
8000
7900
7800
7700
店舗数
7600
7500
7400
7300
2000
2001
2002
2003
2004
年度
備考
・全国地方銀行協会ホームページより作成
表5
地方銀行の給与支給総額の内訳
4
2
前年比%
0
-2
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002
-4
給与単価
人員数
給与支給総額
-6
-8
-10
備考
・全国地方銀行協会ホームページ、ニッキンデータより作成
地方銀行の状況は 2004 年に全国地方銀行協会から提出された要望書によってみることが
5
できる。その内容は、
「社団法人全国地方銀行協会は、7月の理事会・例会におい
て、地方公共団体に指定金融機関業務の合理化の推進、ならびに同業務等にか
か る コ ス ト に つ い て 適 正 な 負 担 を お 願 い す る こ と な ど を 目 的 に 、平 成 17 年 度 予
算編成に際して要望を行うことを決定し、地方公共団体関係の5団体(全国知
事会、全国市長会、全国町村会、全国出納長会、全国都市収入役会)の会長、
ならびに総務省自治行政局長あてに要望書を提出いたしました。地方銀行は、
全 国 約 1700 の 地 方 公 共 団 体 の 指 定 金 融 機 関 と し て 、 年 間 4 億 8000 万 件 も の 地
方公金の収納・支払に係る事務を取扱っています。この事務コストは、一般的
には地方公共団体との資金取引による収益の中で賄うことを前提にほとんどの
場 合 手 数 料 無 料 と な っ て お り 、地 方 銀 行 全 体 で 1000 億 円 を 大 き く 上 回 る 負 担 と
なっております。地方銀行では、リレーションシップバンキングの機能強化の
た め 、収 益 力 の 向 上 に 向 け た 一 層 の 取 組 み が 強 く 求 め ら れ て お り ま す が 、近 年 、
地方公共団体において、資金取引に入札制を導入や歳出資金運用の多様化や資
金取引の条件の見直しを進めており、資金取引による収益が期待できない状況
に な っ て い る た め 、 今 回 要 望 す る も の で す 。」 と い る も の で あ る 。 つ ま り 、 地 方
銀行は地方公共団体を取引の中心とするなど地域密着の姿勢を強化する反面、
それだけではとても採算が取れないということである。
上記で示してきたとおり苦しい状況にある地銀や信用金庫など地域金融機関のあり方を
検討してきた金融審議会(首相の諮問機関)は、3 月 27 日に報告書を発表した。2004 年度
中の不良債権比率の半減を求められている大手銀行とは違い、地域金融機関には一律の期
限を設けるのは不適当としたのである。地域経済や中小企業再生を重視する内容であるが、
不良債権処理を柱とする経営健全化の動きが遅れる可能性も出てきた。報告書では中小・
地域機関に「大手銀と同様の手法をとることは必ずしも適当ではない」と明記されている。
そして、期限を切った無理な不良債権処理を強いると再生可能な中小企業まで廃業・清算
に追い込まれかねないと指摘した。これに対して、27 日の金融審第二部会では、一部委員
から「期限がないことを根拠に不良債権処理が進まない恐れがある」などという反発の声
も出た。2002 年 9 月期末の不良債権残高は大手銀が 3 月期末に比べ 2.9%減ったのに対し、
地方銀行など地域銀行は 0.2%増えている。報告書は不良債権処理の期限を設けない代わり
に、2003 年度から 2 年間を「集中改善期間」と位置づけ、融資や企業再生機能を強化し、
地域経済の金融円滑化に寄与できる態勢づくりを強く求めている。査定や検査についても
「基本的に大手銀と同じように進めていくべきだ」としている。しかし現在の地域銀行の
業務内容だけでは、不良債権処理は進まないだろう。
2. 地域別で見た地方銀行と信用金庫の店舗数での比較
1 章では、地方銀行と信用金庫を全体の店舗数を比較しながら、動向や影響について述べ
6
てきた。そして、ここでは地域別による比較を行い、より深く探っていく。まず表6は、
信用金庫の地域別の店舗の合併数である。地域によって元々の店舗数に大きな差があるた
め、そのままの数値で比較することはできないだろうが、やはり、大都市が存在する地域
に合併数が集まっているようにみえる。関東、近畿、中国、九州地方である。東海地方に
は、名古屋という大都市があるが合併数は少ない。元々の店舗数が少ない上に経済状況が
良好であることが原因ではないだろうか。
表6
信用金庫の合併数(1990∼2001年度間)
30
25
件数
20
15
系列1
10
5
九
州
四
国
中
国
近
畿
東
海
関
東
北
陸
東
北
北
海
道
0
備考
・信用金庫レポートより作成
地方銀行はどうであろうか。こちらも表 7 をみてわかるとおり、信用金庫と類似した数
値が出ている。関東、近畿地方では店舗数の減少傾向が著しく、明らかに勢力を失ってい
る。関東では、大手の都市銀行が圧倒的に資本金を占めており、近畿では京都で信用金庫
の方が強いとされていることがこの数値となっているのであろう。中国地方は、関東や近
畿地方ほどではないが、減少傾向にある。大都市のない地域では、やや減少か現状維持程
度である。しかし、地方銀行でも東海地域は 2 期ともに増加という数値を示している。や
はり名古屋の景気状態を反映しているだろうか。
表7
7
地方銀行の店舗の増減
200
150
100
50
90∼95年度
95∼00年度
九
州
四
国
中
国
近
畿
東
海
関
東
北
陸
-50
東
北
北
海
道
0
-100
-150
備考
・全国地方銀行協会ホームページ、ニッキンデータより作成
おわりに
地方銀行と信用金庫は、景気の悪化とともに大都市圏内から追われ、圏外を営業範囲と
せざるをえなくなってしまった。そのため重複し、競争が激化していった。この競争での
勢力を探るために、この論文では店舗数を中心として考えてきた。結果としては、地方銀
行、信用金庫ともに大都市圏内での店舗数減少、圏外でも現状維持程度であることが統計
から窺えた。しかし、東海地方だけは大都市をもっているにもかかわらず、増加または維
持を示していた。詳細な経済的要因までは、わからなかったが、この数値には関心を持っ
た。地方銀行と信用金庫は細かくみれば取引先が異なっているものの、同じ地域密着型と
いうところで類似した数値が出たのであろう。この 2 行はこれからも生き抜くために大手
銀行がなしえないきめ細やかなサービスを追及していかなければならない。さらに近年み
られるようになった地方自治体や大学などとの連携が復建への鍵となるであろう。
<参考文献>
8
1. 堀江康煕『地域金融機関の経営分析−大都市圏から地元への回帰が鮮明に』金融ジャー
ナル、2001 年。
2.高野正樹『金融新時代の地方銀行∼64 行の素顔と特色』社会法人金融財政事情研究会、
1995 年。
3.村上雄次『90 年代の中小専門金融機関の動向と今後の課題・下』商工金融、2002 年。
4.菊池英博氏『銀行ビッグバン』東洋経済新報社、1997 年。
5.多胡 秀人『地域金融ビッグバン』日本経済新聞社、1997 年。
6.菊池英博『銀行ビッグバン』東洋経済新報社、1997 年。
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