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福島県中・高国語教員の古文指導に関する アンケート調査及び考察
（7974） 福島大学地域創造 第26巻 第２号 2015.2 福島大学地域創造 Journal of Center for Regional 第26巻 第２号 82∼91ページ 2015年２月 Affairs, Fukushima University 26 (2):82-91, Feb 2015 調査報告 福島県中・高国語教員の古文指導に関する アンケート調査及び考察 福島大学人間発達文化学類特任教授 渡 邊 州 福島大学人間発達文化学類教授 井 実 充 史 Questionnaire survey about the instruction of ancient writings in junior high schools and high schools of Fukushima WATANABE Shu, IJITSU Michifumi はじめに ⑴ 調査の目的 2009年４月１日に教員免許更新制が導入されてか ら６年が経過した。福島大学では，制度導入以来， 教員免許更新講習を開講して地域のニーズに応えて きた。 国語科教育分野においても， 「国語セミナー（小 学校教諭向け） 」，及び中学校・高等学校教員向けの 「国語セミナー：日本語学Ⅰ，同Ⅱ，日本文学（古 典文学） ，日本文学（近代文学） ，漢文学，国語科教 育」の７講習を開講してきた。 調査対象内訳 ○中学校教員 24名 高等学校教員 25名 ○福島県内教員 48名 福島県外教員 １名 ○33∼35歳 ８名 43∼45歳 20名 53∼55歳 19名 その他 ２名 調査項目 １．読むことの領域で指導を得意（不得意）とす る分野について ２．古文教材で指導を得意（不得意）とする分野 について ３．古文指導における目標について ４．古文指導におけるあなた自身の指導方法につ いて 今回の調査では，教員免許更新講習「国語セミナ ー」に参加する現職教員のニーズを探るべく，分野 を限定して試験的にアンケートを実施した。 ⑵ 調査の対象・方法 ５．古典和歌の指導について ６．古文指導・古典和歌指導で困難に感じている こと なお，本調査報告における分担は以下の通りであ 2014年６月21日開講の「国語セミナー 日本文学 （古典文学） 」 （於福島大学）に参加した中学校・高 る。 渡邊州：「１∼５」及び「まとめ」の執筆 井実充史：「６」の執筆 等学校教員（49名）に対して，主として古文指導に 関するアンケート調査を実施した。以下，調査対象 の内訳及び調査項目について記す。なお，教員免許 更新講習は受講対象者の生年月日が決まっているの で，年齢の内訳もそれに合わせて示している。 また，グラフ作成に当たっては半沢康氏の協力を 得た。 82 ― ― 福島県中・高国語教員の古文指導に関するアンケート調査及び考察 （7975） ⑵ 逆に，読むことの領域で指導が不得意な分野を選 １．読むことの領域で指導を得意（不得意） とする分野について んで○をつけて下さい。 ＊（「選択肢」は⑴と同じもの） ⑴ 「読むこと」の領域で指導を得意とする分野につ いて，上位３つを選んで順位をつけて下さい。 指導の不得意な分野 （ 「読む」領域） 100％ ａ．古文 ｂ．漢文 ｃ．説明・評論・論説 ｄ．近現代の随筆 ｅ．小説 高校 不得意はない 読書指導 近現代の詩 短･歌 俳･句 近現代の随筆 小説 中学校 漢文 高校 1.5 説明 評･論 論 ･説 指導の得意な分野（ 「読む」領域） 古文 0% 2.0 中学校 50% ｆ．近現代の詩・短歌・俳句 ｇ．読書指導 ｈ．その他（具体的に→ ） 1.0 0.5 読書指導 近現代の詩 短･歌 俳 ･句 近現代の随筆 小説 漢文 説明 評 ･論 論･説 古文 0.0 「読むこと」の領域で，中学・高校とも「詩歌」 の指導がいちばん不得手であると答えている。理 由は，生徒の語彙力や生活経験の不足，文語体へ の抵抗感，比喩理解の困難さ，オノマトペ感性の 欠如などさまざまに考えられる。しかし，教師が 授業実践で，表現に隠された作者の思いや真実を 生徒に伝えるのにどのように授業を組み立ててい ったらよいのか分からない，というのが本当なの ではないか。詩歌は作者の強い思いが言葉として 結晶化したものであり，形態もさまざまである。 「重みづけ」集計 １位 ３点，２位 ２点，３位 １点を与え，総計点を中 高別に算出した結果。 グラフは高校のスコアで降順ソート。 一読しても我々の理解を拒んでいるような感すら 受ける。その事情は生徒も同じだろう。やはり何 度も読み，イメージをふくらましておぼろげなが らテーマをつかんでいくという手法をとらざるを 得ないのではないか。音読・黙読を問わず，とっ かかりはやはり「読み」が大事だと思う。その後 ＊（以下，３位まで答えてもらうものは上記の「重みづけ」 集計とする。） 中学校で第１位にあげられているのは説明文だ が，これは序論・本論・結論など論理構成が明ら についてはいろいろな方策が考えられるが，筆者 はやはり大まかな状況把握が大事だと考えて「５ かであるものが多く，教えやすいということが考 えられる。高校では古文だが，これは教科書に採 Ｗ１Ｈ」の手法を多く用いてきた。状況を生徒と ともに詰めていって，だからこういうことがテー マになるのでは，というふうにまとめた気がする。 韻文の指導法についてもたくさんの先行研究があ るので，参考にされたい。 録される教材はある程度限定されており，それら を何度か授業で取り上げていればその指導の要領 はつかめているので，教えやすいということにな っているのではないか。 「読むこと」の領域で中学校の「読書指導」が不 得意というのが２番目にきている。忙しくてそこ 83 ― ― （7976） 福島大学地域創造 第26巻 第２号 2015.2 や展開がおもしろいもの，緊張感があるもの，男 まで手が回らないというのが実情だと思う。しか し， 「全国学校図書館協議会」の24年５月の調査 女の愛情に関するものなど，生徒の興味を引きや すいものがまた先生方の得意の教材となってい る。そう考えれば，他の教材でも生徒の興味を喚 では，５月１か月間の平均読書冊数は小学生が 11.4冊，中学生が3.9冊，高校生は1.6冊となって ＊１ 校種が上がるごとに本を読まなくなって いる。 いるという傾向が見て取れる。中・高ともにこの 起することができれば，得意の教材として自信が 持てることになる。要はそれを掴んで自分のもの にすることにある。 数では何とも心許ない。若い心の成長に読書は欠 かせないものだと思う。やはり担当である国語教 師が先頭に立って，図書館等とタイアップするな ⑵ 古文教材で指導が不得意なジャンル・作品を選ん で○をつけて下さい。（複数回答可） どして読書活動を推進していくべきだと考える。 ２．古文教材で指導を得意（不得意）とする 分野について 指導の不得意な分野 （作品） 100% ⑴ 古文教材で指導を得意とするジャンル・作品につ いて，上位３つを選んで順位をつけて下さい。 高校 中学校 ａ．説話（宇治拾遺物語など） ｂ．枕草子 ｃ．徒然草 ｄ．伊勢物語 ｅ．竹取物語 ｆ．土佐日記 ｇ．和歌 ｈ．平家物語 ｉ．おくのほそ道 ｊ．古文は不得意である ｋ．その他（具体的に→ ） 50% その他 不得意はない おくのほそ道 平家物語 和歌 土佐日記 竹取物語 伊勢物語 徒然草 枕草子 指導の得意な分野 （作品） 説話 0% 2.0 前に「読むこと」の領域で不得意が中・高ともに 「詩歌」とあったが，古文教材でも不得意の一番 手に中・高ともに「和歌」があげられた。本県の 先生方は韻文指導が苦手らしい。言葉を手がかり 高校 中学校 1.5 1.0 にイメージを構成する，テーマは何かを考える， これら一連の作業は本来楽しいものであるはずだ 0.5 その他 古文は不得意 おくのほそ道 平家物語 土佐日記 和歌 竹取物語 枕草子 徒然草 伊勢物語 説話 0.0 が，古語や修辞が障害となって教えにくいものに なっているのだろうか。言葉をたどり作者の真率 な心情に至り得た感動は生徒にとっても忘れ得な いものだと思うので，あらゆる方策を尽くして子 どもたちをそこまで連れて行ってほしい。他の優 れた授業実践例の研究などもぜひ参考にしてほし い。また，教えるべき歌数に対して指導の絶対時 間が足りないことも間接的な要因ともなっている と考えられる。 次に中・高ともに「おくのほそ道」が不得意ジャ ＊（高校と中学で極端に数が分かれるのは教科書に採択さ れているかいないのかによる） 中学では第１位に『竹取物語』 ，第２位に『平家 物語』 ，高校では第１位に『説話』 ，第２位に『伊 勢物語』があげられている。既に知っているもの ンルの第２位となっている。叙述が平板で生徒の 感興を惹き起こさないのがその理由だろう。さら 84 ― ― 福島県中・高国語教員の古文指導に関するアンケート調査及び考察 （7977） に「無常観」や「わび」 「さび」なども生徒には なかなか理解しがたい概念だと思う。そこで福島 明確に区別することは困難だが項目「ｂ・ｄ・ｅ・ ｉ」を理解を中心とした目標ととらえるならば， 県は実際に芭蕉が通っていった場所なので， 「（福 島版）おくのほそ道俳句地図」などを作成して生 徒にもっと興味関心を持ってもらうのはどうか。 中学に比べて高校の方がその比率が高くなってい る。中学では導入期の目標と思われる項目「ｆ・ｇ・ ｈ」の比率が高い。 「ｊ．進んで読書する態度」の項目が中学で第３ 位に１名，高校ではすべて０＜ゼロ＞である。他 の選択肢で３つまで埋まってしまったというのが ３．古文指導における指導目標について ⑴ 古文指導における指導目標について，重視してい る順に上位３つを選んで順位をつけて下さい。 本当だろうが，取り上げた教材のエピソードや関 連図書の紹介などを通して，歴史的事実や時代背 景・有職故実など，広く系統的な学びを促す意味 でも目標として掲げ推進していくべきと考える。 ａ．国語を適切に表現する能力 ｂ．国語を的確に理解する能力 実際は日本史などとの関連を意識しながら授業を 進めていくといった方法が考えられる。 ｃ．伝え合う能力 ｄ．思考力や想像力 ｅ．豊かな心情や人生を豊かにする態度 ｆ．言語感覚 ｇ．言語文化に対する関心 ｈ．国語を尊重する態度 ｉ．人間・社会・自然についての見方や考え方 ｊ．進んで読書する態度 ｋ．その他（具体的に→ ） 「ｈ．国語を尊重する態度」の項目は中学では５ 名の先生が目標に入れているが，高校では０＜ゼ ロ＞である。これは『学習指導要領』の小・中・ 高の「国語科の目標」の最後に出てくる文言であ る。古文は多くの場合古典であり，ゆえにわれわ れが次代に引き継がなければならない民族の言語 的コモンセンスである。まずは教員がそのことを 自覚し，古文を愛護していく姿勢を生徒に示すこ とによって，生徒にもそうした考えを醸成してい くことになる。 古文指導の目標 （重視するもの） ４．古文指導におけるあなた自身の指導 方法について 1.5 ⑴ 古文の授業で普段よく用いている指導方法を３つ 高校 1.0 選んで○を付けて下さい。 中学校 ａ．音読・朗読・暗唱させる 0.5 ｂ．視写させる ｃ．教師自身による解説 ｄ．発問して解答させる 進んで読書する態度 国語を尊重する態度 伝え合う能力 国語を適切に表現する能力 言語感覚 思考力や想像力 言語文化に対する関心 豊かな心情や人生を 豊かにする態度 国語を的確に理解する能力 人間 社･会 自･然についての 見方や考え方 0.0 ｅ．練習問題を解かせる ｆ．古語辞典や副読本の便覧などで調べさせる ｇ．図書館等の参考図書で調べさせる ｈ．グループで話し合いをさせる ｉ．感想などをスピーチさせる ｊ．事前調査に基づく報告会・発表会を行う ｋ．テーマを立てて討論会・シンポジウムなどを 行う 85 ― ― （7978） 福島大学地域創造 第26巻 第２号 2015.2 ⑵ 古文指導の際に気をつけていることについて，重 視している順に上位２つを選んで順位をつけて下さ ｌ．あらすじや要約を書かせる ｍ．意見文や感想文を書かせる い。 ｎ．キーワードや難解な語句について調べて詳述 させる ｏ．脚本化や現代の物語への書き換え ａ．生徒による振り返りや見通し ｂ．指導内容の精選 ｐ．古文同士の読み比べ ｑ．古文と漢文の読み比べ ｒ．古文と近代文学の読み比べ ｃ．指導内容の系統化 ｄ．基礎的知識・技能の定着 ｅ．既習知識・技能の活用 ｓ．古文について書かれた現代の随筆・評論の 読解 ｔ．その他（具体的に→ ） ｆ．課題探究能力の養成 ｇ．読書活動の充実 ｈ．その他（具体的に→ よく用いる指導法 古文指導の目標 （注意点） 150% 3.0 高校 100% 2.5 中学校 2.0 50% 高校 1.5 グループ活動 意見 感･想文 視写 中学校 1.0 0.5 その他 課題探究能力の養成 読書活動の充実 指導内容の系統化 既習知識 技 ･能の活用 の大事な指導法と考えている。24人中23人が指導 法の一つとしている。高校では14人が選択してい るだけである。私は以前高校に籍を置いていたの で，どうして中学でこのように音読指導がなされ るのか疑問に思った。しかしその効果を推察して 指導内容の精選 中学校では音読指導をほとんどの先生が古文指導 生徒による振り返りや見通し 0.0 基礎的知識 技･能の定着 辞典 便･覧の活用 音読 朗･読 暗･唱 教師の解説 発問 解･答 0% ） みると，古文特有の主体の特定しづらさ，文中の 何が省略されているのか，どこで意味が切れるの 中学・高校とも第１位に「ｄ．基礎的知識・技能 か，難しい漢字の読み方は，など，正確に読む行 為によってすべてがクリアされるように感じた。 音読の効果は多方面の課題を一挙に解決してくれ るのである。高校においても古文入門期において の定着」があげられた。中学は古文の導入期とい うこともあり，次の段階につなげるため基礎的な ことをみっちりやっておこうというのだろう。高 校入試においても，歴史的仮名遣いの読みや簡単 はこうした指導法を積極的に活用した方がいいの ではないかと思った。 な内容把握問題なので，基礎をやっておけば対応 は可能と思われる。一方高校では，年次進行で複 数の担当者が授業を持つ場合が多く，基本的なと ころで抜けがないように足並みをそろえておかな ければならない。そうした意味から基礎基本を大 86 ― ― 福島県中・高国語教員の古文指導に関するアンケート調査及び考察 （7979） のではないか。 一方，高校では圧倒的に「古今集」が指導しや すいものとして挙げられている。しかしこれは， 教えやすいというものではなく，和歌といえば「古 今集」，王朝の美意識や雅びを教えるには格好の 事にしているのではないか。また基礎ができてい なければその後の応用もきかないとの認識もある のだろう。 中学・高校とも第２位に「ｂ．指導内容の精選」 がきているが，これは前述したが，採択されてい 教材との意識が教師の側に先行して強くあり，そ れで選択してしまったということではないか。 「古 今集」は和歌の王道なのである。中学校では取り 上げない「源氏物語」や「伊勢物語」の歌も同趣 であるということも影響しているかもしれない。 る教材すべてはやりきれないということだろう。 学年教科担当者間で十分な話し合いをもち，共通 理解のうえでの指導がなされるべきものと考え る。 ５．古典和歌の指導について ⑵ 古文学習全体における和歌学習の重要度について どう思っていますか。 ⑴ いわゆる三大集のうち，最も指導しやすい（指導 がうまくいく）教材はなんですか。 また逆に，最も指導しにくい（指導がうまくいか ない）教材はなんですか。 和歌学習の重要度 「三大集」 で最も指導しやすい教材 中学校 重要だ やや重要だ どちらとも 中学校 万葉集 あまり重要ではない 高校 古今集 新古今集 0% 意識しない 高校 0% 20% 40% 60% 80% 100% 中・高ともに多くの先生方は和歌学習を重要だと 考えている。若く柔らかな心をもった時代に日本 人の伝統的な美意識や感性の洗礼を受けることは とても大事なことだと思う。それは，その後さま 100% ざまな場面で反芻され，独自の感性や美意識を養 うことになる。 「三大集」で最も指導しにくい教材 中学校 50% ⑶ 和歌の授業において時間をかけて指導している内 容はなんですか。時間をかけている順に上位３つを 選んで順位を付けて下さい。 万葉集 古今集 新古今集 意識しない 高校 0% 20% 40% 60% 80% ａ．古文の基礎（歴史的仮名遣いや品詞分類など） ｂ．語彙・文法 100% 中学校では素朴・率直な感情を吐露する「万葉集」 を指導しやすいものとして挙げており，唯美的・ 象徴的な「新古今集」を不得手なものとして挙げ ている。分かりやすさの点で中学生の実情に合っ ているのでこのようなパーセンテージが出ている 87 ― ― ｃ．現代語への訳し方 ｄ．リズム（句切れなど）と音読 ｅ．修辞（枕詞，掛詞など） ｆ．歌われた情景や心情 ｇ．言葉のイメージ ｈ．作者の見方や感じ方 （7980） 福島大学地域創造 第26巻 第２号 2015.2 かび上がってくる課題について考察する。 ｉ．歌風（古今風など） ｊ．作者についての文学史的情報 ＜中学校で困難に感じていること＞ ｋ．鑑賞文・感想文 ｌ．作品の歴史的・文化的背景 ｍ．他の和歌や作品との影響関係 ① ９人が授業時数の不足をあげている。特に， ３年生が従来の週４時間から週３時間に削減さ れたとの指摘は注視したい。 ｎ．和歌に関する評論・随筆の読解 ｏ．その他（具体的に→ ② ８人が，苦手な生徒，学習意欲の低い生徒へ の対応をあげている。特に，生徒自身の古語的 語彙や自然理解への不足に関する指摘が注目さ ） れる。古文指導も，生徒自身の言語生活や言語 和歌指導の目標 （重視するもの） 感覚をいかに豊かにしていくかという課題と連 動する。 ③ ４人が指導範囲の不明確さをあげている。ま た，２人が高校入試で多くを求められていない 2.0 1.5 1.0 高校 中学校 0.5 和歌に関する評論 随･筆の読解 他の和歌や作品との影響関係 作者についての文学史的情報 歌風 作品の歴史的 文 ･化的背景 鑑賞文 感･想文 言葉のイメージ 古文の基礎 語彙 文･法 作者の見方や感じ方 リズムと音読 現代語への訳し方 修辞 歌われた情景や心情 0.0 中学では音読と内容理解（ 「歌われた情景や心情」 と「作者の見方や感じ方」）に時間を多くかけて いる。高校では内容理解に加え，「修辞」や「現 代語訳」 にも時間を多く割いていることが分かる。 知識や技術指導に走って和歌本来の情景や心情把 握を怠ってはならない。本末転倒になる。 ことをあげている。入試で出ない古文をどこま で教えればよいのか迷っている中学校教員がい るようだ。 【課題】授業時数の不足（①）や指導範囲の不明 確さ（③）などに対応するためには，指導内容の 精選と効率的な指導法の開発が必要となってくる だろう。たとえば，多種多様な教材に含まれる共 通の読解方法や分析・思考方法などを意識した指 導の在り方などが考えられる。また，苦手な生 徒，学習意欲の低い生徒への対応（②）は急務で あり，苦手意識克服のための手立ての開発が強く 求められている。ただし，苦手意識や意欲低下の 根本原因とないっている生徒の言語生活や言語感 覚の貧困さについては，古典教育だけでは対応し きれぬ問題であり，国語科教育全体で考えていく 必要がある。やはり，国語教材全体の関連性・系 統性を整理して構造化する試みが検討されねばな るまい。 ＜高等学校で困難に感じていること＞ ① 11名が生徒の基礎学力不足，意欲の低さ，古 典との感覚的ギャップを挙げた。（進学校４名， 非進学校７名） ② 高校入試における古典の配点の低さを原因に 挙げた人が１名いた。 ③ ６名が受験対策の指導に追われ，作品の味読 にまでに至らない点を挙げた。（すべて進学校） ④ 指導時間の少なさを挙げた人が２名（進学校 ６．古文指導・古典和歌指導で困難に感じ ていること（自由記述） ⑴ 古文指導について 日ごろの古文指導において困難に感じていること １名，非進学校１名） ⑤ 複数教員による分担指導の弊害を挙げた人が を自由記述でたずねた。そのなかで見られた特徴を 中学校，高等学校別にまとめたうえで，そこから浮 ２名（すべて進学校） 88 ― ― 福島県中・高国語教員の古文指導に関するアンケート調査及び考察 【課題】生徒の基礎学力不足や意欲の低さ（①）は， 中学校における授業時数の不足と関係しているの であろう。その原因が高校入試など制度的問題に ある（②）とすれば，中学校における現状の改善 はあまり望めそうにない。そうであれば，実質的 （7981） や，生徒に心情や情景を想像させることの難し さを挙げている。 ③ ６人が和歌の心情や世界観が深すぎて十分に 教え切れていないと考えている。 ④ ５人が教師からの説明が多くなり，生徒主体 の学習となりにくいと考えている。 な古典入門期である高校一年生第一期の指導が極 めて重要となろう。逆に言えば，小・中学校での 古典教育は，古典に馴れ親しむことを目的とした 【課題】多くの人が困難と考える修辞指導法（①） の基準の確立は急務であろう。これは高校特有の 課題であり，典型例で基本を指導して教科書教材 「古典を楽しむ言語活動」に思い切って舵を切っ てもよいのではないかとも思われる。高等学校で は，新一年生のそうした学習歴をきちんと理解し たうえで，中学校からのスムーズな接続を意識し で活用させるなどが考えられるが，それ以前に， 修辞そのものも面白さについて普段から意識させ る必要があるのではないか。また，心情や情景を 把握させるという和歌指導の基本について困難を た入門指導法を開発するべきであろう。 感じている人が多いようである（②③）。この点 については，教材自体に問題がないかチェックす ⑵ 古典和歌の指導について 古典和歌を指導するうえで困難に感じていること を自由記述でたずねた。そのなかで見られた特徴を 中学校，高等学校別にまとめたうえで，そこから浮 かび上がってくる課題について考察する。 る必要があると思う。教科書に掲載されている教 材が，高校生という発達段階にあって，語感上， 技巧上，思想及び心情上，理解可能なテキストと なっているか，あるいは，取り扱う順番は妥当で あるのか。いわゆる名歌のみを教えればそれでよ いというものでもあるまい。和歌教材の難易度（教 材のレベルチェック）について明確にするべきで あろう。具体的に言えば，基礎指導用の和歌，標 準指導用の和歌・応用指導用の和歌の明確化であ る。 ＜中学校で困難に感じていること＞ ① ７人が和歌理解の背景となる知識の指導の困 難さを挙げている。 ② ５人が教師自身の苦手意識・知識不足を挙げ ている。 ③ ５人が生徒の語彙や感性と教材とのギャップ や，生徒に心情や情景を想像させることの難し さを挙げている。 ＜中高の比較という観点からの考察＞ 中学校では量が多い・時間が足りないことを挙 げている教員が６名いる。一方，高校では，量 の多さや時間不足を挙げる教員はおらず，むし ④ ３人が文法や修辞の指導の困難さを挙げてい る。 【課題】和歌理解の背景となる知識の指導の困難 さ（①）については，背景的知識の精選と効果的 ろ時間をかけていないと記述している教員が２ 名いた。指導したことがほとんどないと回答し ている教員すらいた。この違いは，中学校では 教科書掲載歌をすべて取り扱っているのに対し な示し方（具体的には，過不足のない説明及び資 料提示であるかどうかなど）について検討するこ とが求められよう。また，「読むことの領域」お よび「古文教材」で指導が不得意な分野の一番手 に詩，短歌，俳句，和歌が挙げられていたが，こ れらはすべて韻文教材であり，系統的に指導する て，高校は選択的に取り扱っているためであろ う。中学校の場合，量的指導が可能となる方法 の開発と同時に，取り扱う和歌の精選が必要で ある。高校の場合，指導すべき和歌の選択が適 切に行われているかに問題がありそうだ。 知識・背景の指導に困難を感じている教員が中 ことが可能であると考える。こうした韻文指導の 系統性についても考えていくべきであろう。 ＜高等学校で困難に感じていること＞ ① 12人が修辞の指導に何らかの困難を感じてい 学校では７名と多いが，高校では２名と少ない。 一方，修辞の指導に困難を感じている教員は， 中学校が１名だけであるが，高校では12名と多 る。 ② ７人が生徒の語彙や感性と教材とのギャップ い。この違いは，中学校が修辞の指導がない分， 知識・背景の指導が課題であると捉えているた 89 ― ― （7982） 福島大学地域創造 第26巻 第２号 2015.2 めではないか。高校は，知識・背景の指導より も，修辞の指導に重点を置いていることの表れ うことであれば，自分のやり方を潔く捨て去り新しい 方法に就くというのもまた教師の姿なのではないか。 であろう。知識・背景に関する指導は別の教材 でも行えることもその要因かもしれない。中学 校の場合，知識・背景の指導法について（どの これは中学に限らず高校の先生でも状況は同じであ る。 そうしたことで大学では先生方の力となるため，微 力ながら古文・和歌に限らず，国語全般の指導法の研 程度指導するのか，あるいはその必要性そのも のも含めて）検討するべきであろう。個人的に は近代短歌の延長上に位置付けたほうがよいと 究・開発，優れた実践指導の発掘・紹介などに尽力し ていきたいと考えている。 つぎに，私は以前高校に籍を置いていたが，正直申 考える。高校の修辞指導については，心情読解 とのバランスも含めて課題は多い。 心情や情景の読解指導に困難を感じている教員 は，中学校が５名，高校が７名いた。中高とも し上げて中学校の教科書をよく読んだことがなかっ た。高校１年生の古文の授業の最初には「ある程度は に主な指導内容の１位に上がっているだけに， この点も重要な課題である。 ま と め 今回の「古文と和歌の指導についてのアンケート結 果」を受けて，またそれに関連するいろいろな関係図 書を見て感じたことを２， ３述べてみたい。 まず，中学・高校の先生とも韻文指導にたいそう手 こずっている状況が見て取れる。 「詩歌」にしても「和 歌」にしてもそもそも詩人・歌人の個別・特殊な心情・ 状況を述べているのであって，それを詩や歌に表れた ことばを頼りに逆に追っていくのだから，これは大変 な労力を強いられる作業であることは間違いがない。 ましてそれにかけられる時間は他教材との関係で制限 されているのだから本当に途方に暮れてしまう。しか し，おざなりにやってしまっては意味がない。なんと か作者の心情・状況にまでたどり着いてそれを共有さ 中学でやってきているんだろう」ぐらいの気持ちで授 業に入っていたが，今回中学の教科書を見てみて，本 当にわずかばかりのことしかやっていないんだなとい うことに気がついた。本文にも全訳か部分訳が付いて いる。取り上げられている分量も少ないし，授業は秋 の一時期に集中してやることになっている。まさに『学 習指導要領』の「伝統的な言語文化に関すること」の 目標「古典の世界に触れること（１年）」「古典の世界 を楽しむこと（２年）」「古典を読み，その世界に親し むこと（３年）」＊２ の域を出ない内容だと思った。こ のような学習歴しかない生徒にのっけから古語を辞書 で調べろだの古典文法はこうだとかいっても無理な話 に思えた。ますます古文嫌いを増産してしまう結果に なるのではないかと思った。 そこで高校の先生に申し上げたいのは，中学の教科 書を十分に読んでから古文の指導に着手していただき たいということだ。ついては高校の導入期の指導をも っと慎重にしていただきたいということだ。ある高校 の先生は文学史的な流れや既習事項の復習などを導入 期に時間を十分にとってやり，うまく古文学習につな せたい。 そう考えるとどうしても短歌や俳句の場合 “精 選化”をせざるをえない。高校の場合は共通理解のも げられたと回答している。「つなぎ教材」の各校独自 の開発ということも考えられる。ぜひ工夫をしていた だきたい。 また，これも中学の教科書を見ていて気づいたこと だが，高校の古典文法をやるにあたって，ぜひ中学の とある程度はできるが，中学の場合は教科書に載せら れている教材がほぼ同じなので“精選化”は不可能で ある。 そんな状況の中で求められるのはやはり工夫であ 先生にお願いしたいことは，口語文法をちゃんとやっ てきてほしいということだ。形容詞や形容動詞，副詞， る。中学３年で「三大集」を教えるのに工夫をしない 先生はいないのではないか。誰しも独自の工夫を持っ ている。要はそうした工夫をオープンにしてだれでも 使える状況にすることが大事なのではないか。教師は 助動詞などその概念を把握していれば高校の古典文法 にはすんなりと入っていけると思う。おおもとの概念 理解が大事なのだ。「取り立て指導」であったり，教 科書の最後に置かれていたりで，少し軽視される向き 基本的に孤独であって自分で何とかしようとして試行 錯誤する。試行錯誤の結果得られた指導法は確かなも のであって，その後いかようにも形を変えて使えるも もあるのかもしれないが，あの口語文法をきちんとや っていれば十分対応できると確信する。口語文法をぜ のである。しかし，自分より有効で効率的な指導法を 採用することによって生徒がより良く理解が進むとい ひともなおざりにしないでやってほしいと思う。 90 ― ― 福島県中・高国語教員の古文指導に関するアンケート調査及び考察 【注】 ＊１ 『学校図書館』（2014年11月号）p.13 2014.11.1 公益社団法人全国学校図書館協議会 ＊２ 文部科学省 『小学校学習指導要領解説 （国語編）』 20.8.31 東洋館出版社 文部科学省 『中学校学習指導要領解説 （国語編）』 20.9.25 東洋館出版社 文部科学省『高等学校学習指導要領解説（国語 編） 』22.6.15 教育出版 91 ― ― （7983）