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離島限界集落住民の健康維持に影響する要素と 看護介入の可能性

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離島限界集落住民の健康維持に影響する要素と 看護介入の可能性
離島限界集落住民の健康維持に影響する要素と
看護介入の可能性
申請者名:近藤松子
所属機関・職名:日本赤十字九州国際看護大学
大学院修士課程
所属機関所在地:福岡県宗像市アスティ 1 丁目 1 番地
提出年月日:平成 22 年 3 月 26 日
第1章
序章
Ⅰ.研究の背景
1.日本の離島の概要
日本は 6,852 の島嶼により構成されており、このうち北海道、本州、四国、九州、沖縄
本島を除く 6,847 が離島である。これらのうち、261 島の有人離島が離島振興法による離
島振興対策実施地域に含まれている 1 )。離島の年齢別人口割合の全国との比較を表 1 に、
人口別離島数を表 2 に示す。
表 2 人口別離島数
表1 年齢階層別人口割合
離島
全国
%
%
12.6
15 歳~64 歳 (生産年齢人口)
65 歳以上
14 歳以下
(年少人口)
(老年人口)
人口
離島数
10,000 以上
9
13.7
1000~10,000 未満
43
54.4
65.8
100~1,000 未満
33.0
20.1
50~100 未満
25
20~50 未満
37
20 未満
30
平成 17 年度国勢調査
117
計 261
平成 17 年度国勢調査
2.離島の限界集落
65 歳以上の高齢者が集落人口の半数を超え、冠婚葬祭などの社会的共同生活の維持が困
難に置かれている集落を限界集落という。その区分は質的規定の評価が困難なことから、
一般的には量的規定に依拠している 2 )。限界集落が増え税収入の減少と高齢者医療福祉関
連の支出で、財政維持が困難な自治体を限界自治体というが、この殆どが小規模な山村自
治体と離島である 3 )。ただ、表 1 で示すように離島の 65 歳以上の高齢化率は 33,0%であ
り、離島すべてが限界集落とはいえない。
3.限界集落の危機的状況
国土交通省の平成 18 年の調査では、近い将来消滅の可能性のある集落は 2,393 と報告
されている。また平成 11 年の同様の調査で、現在も存続していると判断されていた集落
のうち 110 がこの 7 年間に消滅している 4 )。
4.離島限界集落住民の暮らしを守る重要性
限界集落とされている地域は、豊かな自然と独特の伝統文化を有し、地域内の住民はも
とより外部の人々に食料、水、木材などの資源や癒しの場を提供しているところも少なく
ない。集落が消滅するとこれらが提供されないばかりか、森林の手入れが不備となり、自
然災害を誘発し、近隣住民にも被害が及ぶことにもなりかねない。また、限界集落は外部
の目が行き届きにくいため、人々の健康が周囲からなおざりにされている上、安全保障の
1
問題が発生する危険性もある。平成 14 年に改正された離島振興法では、目的条項に離
島が我が国の領域、排他的経済水域等の保全、海洋資源の利用、自然環境の保全等に重要
な役割を担っていることが明記されている 1 )。国土審議会第 3 回離島振興対策分科会議事
概要(平成 18 年 2 月 22 日)でも「離島に人が住むということは、国の危機管理上、国土
保全上も重要である」とある 5 )。離島に人々が安心して住み続けられることは、全国民の
安心、安全な生活に通じるものと考える。
5.離島限界集落住民の健康に関する行政の対応と現状
国は離島などのへき地に住む住民の健康に関する対応として、第 10 次へき地保健医療
計画 6 ) を策定している。しかし、へき地保健医療の問題として、2005 年からの市町村合
併により無医地区の存在が不明瞭になっていることに加え、公立病院改革や 2004 年に始
まった新研修医制度により、医師の都市集中がいっそうへき地の医師確保を困難にしてい
る。看護の独自性が確立していないことから、医師不在地での看護業務は成り立ちにくい。
Ⅱ.研究目的
本研究の目的は、離島限界集落住民の健康維持に影響する要素はどのようなものかを明
らかにし、人々が尊厳と安全を守られて生きていくために可能な方策はどういうものなの
か、その中で看護が担えることは何かを考察することである。
目標
離島限界集落住民の健康維持に影響する要素を、住民に対するインタビューと参与観察
で得たデータ、そしてそれらを踏まえた研究者の考えに基づいて明らかにする。そして、
看護介入の是非とその具体策の検討をする。
Ⅲ.研究の意義
行政や外部からの支援が乏しい離島住民は様々な健康問題や不安をもっているばかり
でなく、居住地域の存続が危機的状況にあると推測される。離島限界集落住民が、健康を
維持し安心して暮らしていくためには、どのような要素が影響しているのかが明らかにな
れば、住民の健康維持ができ集落が存続されるための新たな看護の役割や、他の分野から
の介入の可能性を導き出すための示唆を得られる。
Ⅳ.用語の定義
離島:
本研究での離島とは、離島振興法による離島振興対策実施地域に含まれている、261 の
有人離島を指す 1 )。
限界集落:
65 歳以上の高齢者が集落の半数を超え、冠婚葬祭などの社会的共同生活が困難におかれ
ている集落をいう。その区分は質的規定の評価が困難なことから、一般には量的規定に依
2
依拠している。 2)
健康:
レイニンガーは理論上の主張で、政治、宗教、経済、血縁関係、文化的価値観、環境の
状況は、個人、家族、集団の文化的実践と安寧に大きな影響を及ぼすとしている。そして
健康の定義を、所属する文化によって規定され、実践されている良好な状態をさし、個人
(または集団)が、一定のパターンに沿った生活様式のなかで、その文化においてよいと
認められる役割を、日々果たすことができる状態を意味する 7 ) としている。
本研究対象である離島住民は、健康を守る上で政治、経済、環境などの影響を大きく受
けていると考えられることから、上記のレイニンガーの定義を用いる。
3
第2章
文献検討
Ⅰ.医療施設が不十分な離島限界集落住民の健康維持に関する研究
小野は「離島における高齢者の健康維持とその意味
第 1 報―超高齢社会における医療
体制と健康―」の中で、高齢化率 62%の島民に半構成的面接を行い、島民にとっての健康
維持とは、島の医療の限界である緊急事態への不安を抱えながらも、それをなるべく防ぐ
個人と隣人同士の予防といえる。また、他者の緊急事態に対し、島民間で助け合うことが
島全体での生活を維持するために必要であると示唆されたと述べている
8 )。
草平は「過疎地域高齢者の生活問題とサービス供給の関連について」の中で、血縁相互
扶助、地縁を媒介にする相互扶助に代わり、機能的目的集団による相互扶助、金銭媒介等
による相互扶助等の組織化が今後過疎地域において展開される必要があると述べている
9 )。
上記の 2 つの論文は、共にへき地高齢者住民の健康、生活に関わることであるが、それ
らを守るために必要と考えることには違いがみられる。これは離島と農村という違いによ
り、住民同士の結びつきの強さや、緊急時対策の現状にそれぞれ特殊性があるからではな
いかと考える。
篠原らは「地域在住高齢者の 3 年後の要介護状態の関連要因に関する研究」の中で、大
都市近郊農村の 65 歳以上の在宅居住者に対し調査を行った結果、
「期待役割の遂行」、
「社
会貢献の可能性」といった日常生活における社会との関りの促進が、心身機能の維持増進
につながると述べている
10 )。
大森は「高齢者にとっての健康:『誇りをもち続けられること』農村地域におけるエス
ノグラフィーから」の中で、高齢者の捉える健康とは『自分への誇りをもち続けられるこ
と』であったと述べている
11 )。
この 2 つの文献からは、農村の高齢者にとって、役割があり、誰かのために役立つ存在
であること、誇りをもち続けられるという、生きがいに関することが、健康維持にとても
重要なことであるとしている。これに関しては、農村のみならず、離島の高齢者にも当て
はまる可能性があるのではないかと考える。
へき地住民の健康に関する文献は高齢者を対象にしたものが多く、全住民を対象とした
看護の文献はわずかであった。
限界集落の存続のために高齢者以外の住民にも調査を試みた研究としては、岡村の「少
子化した高齢社会での集落運営と保健福祉の課題―老年人口が 60%を超えた離島漁村集
落の事例検討を踏まえて―」があった。岡村はこの研究の前段階の研究として「離島地域
における持続発展型地域社会形成の課題と方向―高齢者に対する保健福祉の視点から―」
12 ) の中で、青壮年の健康づくり対策、高齢者に対する生きがい対策、高齢者の介護福祉対
策、産業振興対策をとりあげている。そして今回の研究では、これらの対策が限界集落化
した集落で高齢者が定住し、集落を維持できる条件として有効であるかを検討するために、
別の離島地域で 50 歳から 87 歳の住民 7 名を対象に面接調査を行っている。それぞれの対
策からは、高齢者が定住できる要因の仮説が考えられ、更に集落運営・活動の維持の方法
4
についても仮説が加わっている
13 )。
これらの文献からは、離島住民の健康維持には多岐にわたる要素が含まれることが考えら
れる。
成田らは「へき地における成人期にある人々、女性、子どもの健康ニーズに関する研究」
において離島で生活する 30 代女性にインタビュー調査を行った結果、離島は本土と定期
船で 40 分程度であるが、島内に成人系医療施設、小児科診療所はあり産科的な対応はあ
る程度事前の予測が可能なことから大きな問題を感じていない。しかし、小児科に関して
は基礎疾患を有している場合、緊急時の対応に不安をもっていたと述べている
14 )。これに
関しては医療施設が存在していても、離島ということから緊急時対応への不安があること
が考えられる。
Ⅱ.医療施設が不十分な離島限界集落住民への看護介入の可能性に関する研究
1.看護のヴィジョン
麻原は「保健師活動を説明する新たな視点―組織的知識創造理論に基づく活動モデルの
提案―」の中で、個人の暗黙知を組織の形成知として組織的に創り上げていく組織的知識
創造理論を用いて保健師活動の説明を試みている。変動しつつある社会において、保健師
には、従来の既存の枠組みにとらわれることなく、新たな視点を身につけ、創造的活動を
行うとともに自己改革していくことが求められるとしている
15 )。
小池らは「ひととケアと地域をつなぐ在宅ケアのニュー・デザイン」の中で、今後、在
宅医療における医療従事者の不足の深刻化が予測され、医療専門職の機能と役割分担の再
考は避けられず、山積みする課題に対し、既存の枠組みからではなく、新しい在宅サービ
ス供給デザインが求められていると述べている
16 )。
これら 2 つの論文に共通することは既存のシステムに捉われない、新たな看護の可能性
を検討する重要性である。
2.看護の役割
春山らは「へき地の健康危機管理体制づくりにおける保健所保健師の機能・役割―診療
所看護職の活動の現状と認識から―」の研究で、役割・機能として、防災マニュアル等を
周知し、へき地診療所看護職の健康危機管理の意識を高めること、地域の健康危機管理に
ついてへき地診療所看護職が話しあったり、考えたりする場や機会づくり、健康危機発生
時地域住民と共に診療所看護職が対応できる体制づくりが示唆されたと述べている
17 )。
中尾は「訪問看護ステーションのない離島における高齢者の療養場移行の特徴と看護の
役割」で、離島の特徴として①診療所が療養場所の要で、高齢者の一時保護の役割も果た
している。②専門医療機関やリハビリ施設がないため島外に移行せざるをえない。③島外
への転出者はほぼ自立しており「子どもの近く」の意向が理由である。看護の役割は①地
域包括支援センターとのすりあわせ
②医療機関の看護者の予防の観点からのケアと家族
への指導
④住民にヘルパーへの理解を得る働きかけとヘルパ
③島内の看護者間の連携
5
ーの教育
⑤島外の移行者への支援があると述べている
18 )。
この 2 つの文献から、へき地での看護の役割は、医療・保健・福祉に幅広く関っている
ことがわかる。更に、大平らも「日本におけるルーラルナーシングの役割モデルについて
の研究」において、ルーラルナースは地域のスペシャリストであり、看護実践では幅広い
知識と実践能力を持つジェネラリストであり、保健・医療・福祉にまたがる役割を担って
いることが特徴であったと述べている
19 )。
3.遠隔看護システムに関する文献
吉川は「離島を結ぶ遠隔看護・教育の実際―遠隔支援システムの開発―」で、東京医科
歯科大学大学院、若松教授らにより開発された Flash Communication Server(FCS と称
す)はインターネット環境下でパソコン、ウェブカメラ、マイクロフォンがあれば使用で
き、教育、看護、リハビリテーション、セミナーなどの看護教育や看護活動に広く利用す
ることが可能になったと述べている
20 )。
東らは「各事業についての 3 年間の活動報告
2.遠隔看護
A 地域住民支援」の中で、
川口らが 1998 年頃より検討を重ねてきた「次世代型遠隔看護システム」とその実現化に
向けて筆者らが取組んできた活動を報告している
21 )。
これらより、新たな看護介入の可能性として、遠隔看護システムの活用が考えられる。
へき地はそれぞれ地域差がありすべてが限界集落ではない。また、文献から、離島と山
村では環境の違いによる特殊性がわかる。離島限界集落において、島民全体をトータルに
研究した看護の文献はみあたらなかった。限界集落化は予想を超えた速さで進行しており、
離島でも限界集落の増加が予測される。このことから離島限界集落において、住民全体を
対象とし、新たな看護の可能性を視野に入れた研究が必要であると考える。
6
第3章
対象および方法
Ⅰ.研究デザイン
研究デザインは、離島限界集落住民の健康維持に影響する要素とそれに対する看護介入
の可能性を探る質的探索型研究である。
Ⅱ.対象の概要
1.
対象地域
研究対象地域は、九州にある小離島の一つでB市に所属する。以後A島と呼ぶ。
A島の地理的環境
1) 立地環境
面積:1,1km2
周囲:4,0km
周囲には大小無数の岩礁、切り立った海食崖がある。国定公園の第一種特別地域に指定
されている。年平均気温 17℃、年降水量 2094ml と高温多雨である。台風時などは激しい
塩害を受けやすい。歴史的には江戸時代に大きな津波の被害が記録されている。地形は瓢
箪型でその括れた部分に集落がある。
2) 人口および人口構成
住民基本台帳に登録されているものと実際の状況にはかなり差があった。A島は高齢化
率が住民基本台帳では 55%、実際の状況では 75%であり限界集落といえる。
表 3 A島の人口・世帯数
住民台帳録
総人口(人)
年齢別人口(人)
実際の状況
33
20
男
女
男
女
0~14 歳
1
1
0
0
15~64 歳
8
5
4
1
65 歳以上
5
13
3
12
最小年齢
9歳
42 歳
最高年齢
92 歳
92 歳
高齢化率
55%
75%
15 世帯
12 世帯
世帯数
2009 年 3 月 3 日
2009 年 5 月 31 日
3) 交通
島内では車、単車、自転車等は使用されていない。
A島~九州本土の近い港まで
定期船:1 日 3 便、片道 25 分、運賃(往復)
7
一般 1,330 円、島民は半額
港~市街地まで
タクシー:運賃(往復)12,000 円、島民は半額
バス:便数が少なく不便なため、島民は利用していない。
4) 産業
十分に生計を立てられる産業は無く、婦人部が味噌を作り市内での販売と全国発送も行
っているが、それのみで生計が成り立つほどの収入にはならない。以前は漁業が盛んであ
ったが、過疎化、漁獲高の減少などにより衰退している。
5) 教育
1995(平成 7)年、中学校休校
2004(平成 16)年、小学校(分校)休校
6) 医療・保健・福祉
(1)
巡回診療の中断
2003(平成 15)年まで、九州本土にある公的診療
所から月 1 回の巡回診療が行われていた。医師 1 名と看護師 1 名が訪問し、診療は勿論の
こと処方薬が当日又は翌日の定期船で島に届けられるなど島民にとってとても助かる存在
であった。医師は固定ではなく県内の医科大学病院から数ヶ月~2 年単位で派遣されてい
た。同年に市内の病院勤務医がその診療所に赴任したが、1 ヶ月も満たないうちに他界し、
それに伴い診療所が閉鎖され巡回診療も完全に途絶えた。以後、島民は各自で島外にある
医療施設に通院している。診療所閉鎖後、それに代わるA島住民への新たな医療支援はな
されていず、この研究にあたり聞き取りをした範囲では今後の計画もない。
(2)
現在の保健・福祉支援
「ふれあいいきいきサロン」
高齢者が生きがいをもてること、不安が軽減することと介護予防を目的とした活動で、
市の高齢者福祉課が福祉協議会に委託し実施している。月 2 回ヘルパー2 名、2 ヶ月に 1
回保健師 1 名が訪問している。島に冠婚葬祭がある場合や定期船が運休した場合は中止と
なる。集会所や広場でグランドゴルフ、転倒予防体操、カラオケ、ゲーム、折り紙、新年
会、ひな祭り、七夕祭りなどのレクレーションを行うほか、保健師による血圧測定と約 15
分間の一般的な健康指導、インフルエンザの予防行動など時期的な指導の他、講話などが
されている。
2.対象者
本研究ではデータ収集の対象者を情報提供者と呼ぶ。そのなかで、本研究に関わる面接
を繰り返した島民を重要情報提供者、彼ら以外の島民を島内の一般情報提供者、その他本
研究にて聞き取りをした島外に住む人々を島外の一般情報提供者とする。
1)
重要情報提供者
A島住民 20 名の内、17 名に文書と口頭で研究の主旨を説明し、15 名から同意書を得ら
れた。しかし、時間的問題(1名)や途中拒否(2 名)があり、実際に面接を行えたのは
12 名であった。健康維持に影響する要素は世代により異なること考え、健康状態や多忙さ
8
などを配慮し、重要情報提供者として各世代から1名ずつに絞った。42 歳女性、49 歳男性、
65 歳女性、71 歳女性、87 歳女性の計 5 名を重要情報提供者とした。
2) 島内の一般情報提供者
A島住民で研究の同意が得られた住民のうち、重要情報提供者以外の住民を島内の一般
情報提供者とした。
3)
島外の一般情報提供者
A島民の健康や生活に関わっている人々として、行政組織職員(県、市、振興局、福祉
保健分室、社会福祉協議会職員)、近隣の住民がいると考え、電話または直接会い研究の主
旨を口頭で説明し、口頭で同意を得られた人々を対象とした。
表4
一般情報提供者の概要
行政職員
県職員 1 名、市職員 3 名、振興局職員 3 名
福祉保健分室 保健師 1 名、看護師 1 名
社会福祉協議会職員 1 名、ヘルパー6 名
近隣住民
定期船乗務員 2 名、
瀬渡し(釣り人の釣り場移送)の男性 1 名
商店主 1 名、タクシー運転手 3 名
Ⅲ.調査方法
1. データ収集方法
1) 半構成的面接法
1)
2)写真誘い出し面接法
3) 参与観察法
半構成的面接
インタビュー・ガイドを参考に、住民に自由に語ってもらった。インタビュー・ガイド
作成においては、カナダ公衆衛生機関が表明している健康の決定要因
22)
を参考にした。
(1) 重要情報提供者および島内の一般情報提供者
①
A島区長に挨拶をし、研究の趣旨を口頭と文書で説明し許可を得た。
②
A島住民宅、全 15 世帯を訪問し、研究の趣旨を口頭と文書で説明した。
③ 研究の協力を得られた住民から同意書を得た。
④
2 ヶ月間、ふれあい生き生きサロンに同行し島民と顔見知りになることからはじめ、
その後、繰り返し島を訪問し数日間滞在するなどして島民と交流を深めていった。情報
提供者が思いを語ってくれそうだと判断した頃から面接を始めた。
⑤
面接の際に口頭で会話の録音、記録の許可を得た。
⑥
情報提供者の自発的な話題に重点を置き、あえてインタビュー・ガイドの項目に従わ
なかった。
⑦
インタビュー・ガイド以外にも面接の内容から必要と思われる質問を追加した。
⑧
面接時間は 30 分~1 時間程度とした。(適宜休憩を入れた)
9
⑨
面接した情報提供者の中から、重要情報提供者として 40 代から 80 台の各世代 5 名を
絞り込んだ。
⑩
重要情報提供者との面接は、4 名には少なくとも2回、1 回に約 1 時間、1 名には 1 回、
約 1 時間半であった。
⑪
重要情報提供者が撮影した写真(以下に方法を述べる)とインタビュー・ガイドに沿
った面接を行った。
⑫
非公式の面接から得られたデータも情報として扱った。これについては研究協力の追
加のお願いとして住民に説明文を渡し、説明し承諾を得た。
⑬
島内の一般情報提供者との面接結果も聞き取り結果とした。
(2) 島外の一般情報提供者
行政組織職員、近隣の住民に研究の主旨を口頭で説明し聞き取りをした。県職員、一部
の市職員については電話での聞き取りをした。
2) 写真誘い出し面接法
インタビューのみでは、住民の思いや考えを十分に引き出せない可能性があるため、そ
れらをより深く理解するために、住民自身の健康維持に影響すると考えられるものについ
て写真撮影を依頼した。
①
重要情報提供者に対し写真誘い出し面接の目的を口頭で説明した。
②
研究者自身が自分の健康維持に影響すると考えて撮影した写真(猫を抱いた母親、実
家の仏壇、ペットの猫、犬、夫、庭のバラ、パソコン、時刻表、マンションの前の坂道、
スーパー等)を例として紹介しながら、住民自身の自由な撮影を依頼した。
③
使い捨てカメラを配布し、カメラの使用法を説明した。
④
約 1 週間後にカメラを受け取り現像した。
⑤
半構成的面接の際に、その写真を話しのきっかけとした。
⑥
写真は他者に漏洩しないことを説明した。
3) 参与観察法
A島住民宅に滞在し住民との会話や催し物に参加しながら暮らしぶりを観察した。
(1)
観察項目
カナダ公衆衛生機関が表明している健康の決定要因
22)
の 12 項目、所得と社会的地位、
社会支援ネットワーク、教育と識字能力、雇用/労働環境、社会環境、物理的環境、ストレ
ス・コーピングスキル、健康な小児の成長、生物的素質と遺伝的素質、医療、性別、文化
を参考にした。
(2)
データの記録
観察中、観察後にフィールドノートにつけ、許可を得て写真を撮った。
2.データ収集期間
2009(平成 21)年 5 月~7月まで、研究協力者の都合に合わせて実施した。
3.分析方法
10
1)
重要情報提供者 5 名の半構成的面接結果、写真誘い出し面接結果と参与観察結果から
健康維持に影響する要素を抽出する。
2)
重要情報提供者 5 名の結果と参与観察結果から抽出した要素を類似性の視点で分類す
る。
3)
類似性で分類した要素を必要性の視点で分類する。
4. 信頼性と妥当性の確保
データ分析の過程では質的研究の経験をもつ研究者の指導を受けた。
Ⅴ. 倫理的配慮
1)
研究参加者に研究の主旨を文書と口頭で説明した。
2) 説明には平易な言葉をつかい、高齢者でも理解できるようにした。
3) 研究参加は自由意志であり、不参加でも何の不都合もないことを説明した。
4)
研究参加の同意が得られた後でも、いつでも辞退できることを説明した。
5)
得られた情報は漏洩がないように努めることを説明した。
6)
以上の説明により同意を得られた参加者には同意書の署名を得た。
7)
研究成果の公表については研究参加者にあらかじめ伝え、希望者にはまとめたものを
配布することを説明した。
8) 本論文では個人の特定を避けるため、話の筋を変えずにデータに修正を加えた。
9)
本研究は日本赤十字九州国際看護大学研究倫理審査委員会の承認を得た。平成 21 年 5
月 28 日付け 09-7 号
11
第4章
結果
Ⅰ.重要情報提供者の概要
A島で現在暮らしている住民は 20 名であった。そのうち研究協力の同意が得られ、面
接を実施できたのは 12 名であった。その内わけは、40 代は 42 歳女性 1 名、49 歳男性 1
名、50 代は不在、60 代は 65 歳女性 1 名、70 代は女性 5 名、80 代も同じく女性 5 名であ
った。そして、70 代の 4 名と 80 代の 1 名は婦人部に入っており味噌作りを行っていた。
本研究では健康に影響する要素は世代により異なると考え、各世代から情報を得るために、
42 歳女性、49 歳男性、65 歳女性、71 歳女性、87 歳女性の 5 名を重要情報提供者とした。
その概要を表 5 に示す。
Ⅱ.重要情報提供者 5 名の写真誘い出し面接および半構成的面接結果と参与観察結果から
の要素の抽出と分類、分析
巡回診療が中断した離島限界集落住民の健康維持に影響する要素を明らかにするにあ
たり、面接では時間的問題などから情報提供者のすべての思いを知ることは困難であるこ
と、離島限界集落の住民の暮らしぶりやおかれている環境を知るためには、参与観察がか
なり重要な情報となると判断し、参与観察結果は単に面接結果の補足データではなく、面
接結果と同等の重要性をもつデータとして扱うこととした。1.A氏:写真誘い出し面接
および半構成的面接結果からの要素の抽出とその分類
1)
要素の抽出
A氏の概要は表 5 に示したが、近隣から島に嫁いだ 42 歳の女性である。
A氏は島の生活で困ることについて「そうやなあ、お店がないこと、病院がないこと、
台風で船が出ないことかなあ。緊急の時が怖いわ」と語ったが、その後、食料品の調達の
話では他の住民が利用している電話注文について「私はあんまり・・週 1 回はお母さんの
表 5 重要情報提供者の概要
住民
年齢
性別
家族
仕事 (現在)
仕事 (以前)
A
42
女性
夫
義母
家事
夫の漁の手伝い
地元の真珠工
場
24 歳、近隣から島に嫁ぐ
喘息
B
49
男性
母
近場で釣り
関東で会社員
港湾関係
45 歳、交通事故
会社を辞め帰郷
頚椎損傷後
知覚鈍麻
C
65
女性
夫
家事、畑仕事
関東で商売
(小売)
夫の健康のため仕事を
辞め 62 歳、夫婦で帰郷
特になし
D
71
女性
義姉
家事、畑仕事
味噌工場
県外の商店
漁、畑仕事
婦人部長
味噌工場責任者
以前民生委員
狭心症
高血圧
腰痛、歯痛
E
87
女性
息子
家事
家事・育児
息子の仕事がある時は
しばらく一人で暮らす
高血圧
12
背景
疾患
ところに帰ってるしな」とあり、ほぼ対処できているが、あると便利というものとして<
食料品・日用品を扱う店の不在>が読みとれる。また医療に関しては、「巡回(診療)・・
別にいらん。まあ年寄りにはあった方がいいのかもしれんけど」と語った。これより、自
分は対処できているが、住民全体を考え高齢者に影響するものとして、<医療施設の不在
>が読みとれる。
「緊急の時が怖いわ」ということからは<災害時船が運休時の緊急時対応
>が読みとれる。次に、A氏は洗濯物の写真(写真 1)を指して、
「まあ、それしかするこ
とねえけえな」と笑いながら語った。これより、役割としての<家事>が読みとれる。A
氏は趣味として、
「本かな、私一人でずっと家にいるから、そんなに話す人もいないし、た
まに 1 日 1 冊読む時もあるわ」と答えた。他には音楽、テレビ(写真 2)、猫と遊ぶといっ
たものであった。A氏はA島で一番若く、最も近い世代は 7 歳年上の 49 歳の男性、女性
で最も近い世代は 23 歳年上の 65 歳であり、同年代、同性といった住民がいない。以上よ
り要素として<相談相手の少なさ>が読みとれる。また、A氏は定期船で毎週実家に帰っ
ている。これからは<島外家族とのふれあい>が読みとれるが、島内にはA氏と宗教を同
じくしている人がいず、実家の家族が同じ宗教であることも影響していると考える。これ
より<新興宗教>が影響していると読み取れる。
「私メールとかしないんよ」と言い携帯電
話を写真に撮っており(写真 3)、コミュニケーションの手段として重要なものである要素
<携帯電話>が読みとれる。
島内での交流が乏しいA氏の一番の相談相手は夫であった。A氏の夫は生産人口世代男
性が少ないA島において漁業を営み、体力があり、台風襲来時には豪雨の中、雨合羽を着
て住民を背負い集会所に運ぶなど島にはなくてはならない人物であった。この夫に対し、
「まあ、網引いてるし腕力もつくわな。腕相撲とかしたら強いんよ。船外機の付いた小さ
い船もってる人は多いけど、お父さんは大きいのと、小さいのと二つ船もってるんよ」
A氏が撮影した写真
写真 1
写真 4
洗濯物
(1 枚)
冷凍庫のイカ
(1 枚)
写真 2
写真 5
テレビ
(1 枚)
氷川きよしポスター(1 枚)
13
写真 3
写真 6
携帯電話
(1 枚)
家から見える風景(2 枚)
と笑顔で話すなどA氏には<島の中心人物である夫への誇り>が読みとれた。また自分た
ちの生活を支えている<夫の仕事>が読み取れた。夫が漁をしていることもあり家には複
数の冷凍庫がある。(写真 4)「ここは皆冷凍するけえな、うちも4つか5つある。うちが
一番多いんじゃないかな。何でもとりあえず冷凍してるわ」ということから必需品であり
自慢でもある<大型冷凍庫>が読みとれる。
更に、「これ(写真 5)お父さん(夫)がおばあちゃん(義母)に買ってきてやった。お
ばあちゃん氷川きよし好きやから」という言葉からは<家族同士の思いやり>が読みとれ
る。
「これ(写真 6)家から撮った」と家から見える美しい海岸の風景を写真に撮っていた。
これより<素晴らしい自然>という要素が読みとれる。
A氏は体調について「喘息があって 3 回くらい入院したわ。今も吸入とかもらってるん
よ」ということから持病である<喘息>と発作時の対処として吸入薬をもつという<自己
管理意識>と<自己管理行動>が読みとれる。
表 6 A氏 要素の類似性による分類
分類名
《人との相互作用》
要素
島内家族<家族の助け合い><家族への思いやり><家族の健康>
<家族団欒>
島外家族<島外家族とのふれあい>
住民同士<住民同士の助け合い><住民同士の健康><習慣の維持>
<集団への入り難さ><複雑な人間関係>
<相談相手の少なさ>
島外の人々<観光客のマナーの悪さ>
《自然環境》
素晴らしい自然<美しい海岸の景色>
《生活環境》
<食料品・日用品を扱う店の不在><医療施設の不在>
必需品<大きな冷凍庫><携帯電話>
《政治・法律》
<不十分な災害対策><不十分な緊急時対策>
<高齢者への巡回診療再開>
《経済》
<夫の仕事><夫の漁の手伝い>
《疾病》
<喘息>
《能力》
<自己管理意識><自己管理行動>・吸入薬
《生きがい》
役割意識<家事>
誇り<島の世話役である夫><大型冷凍庫>
楽しみ<猫とのふれあい><読書><音楽><アイドル>
<テレビ><パクロス><空想>
《スピリチュアル》
<新興宗教>
14
2)類似性での要素の分類
抽出された要素を類似性で分類すると表 6 のとおりとなった。A氏の健康維持に影響す
る要素の類似性で分類は、
《人との相互作用》、
《自然環境》、
《生活環境》、
《能力》、
《生きが
い》、《スピリチュアル》、《政治・法律》、《経済》、《疾病》9種類となった。
3)必要性での要素の分類
表 6 から更に、必要性という視点での分類を試みた。必要性の視点とは、そこに無く、
或いは不足しており必要としている、また、既に十分に存在し、それに対し介入などを必
要としていないという見方である。
A 氏の要素について、この方法で分類を試みると、まず、
《人との相互作用》の<家族の
助け合い>、<家族への思いやり>、<家族の健康>、<家族の団欒>については、A氏
は家庭のなかで<家事>の役割を果たし、家族を助け、また夫にいろいろなことを相談し
家族から助けられていること、夫は義母の好みのCDを買ってきたり、付いていたポスタ
ーを A 氏が壁に貼ってあげるなど家族を大事にしていること、テレビを観ながらの家族の
団欒を楽しんでいることなどから、介入の必要はなく、十分に存在する要素と判断する。
また、A 氏は週 1 回、定期船で実家に帰り、その際に食料品、日用品を購入してくるとい
う生活をしている。これより、<島外家族とのふれあい>は特に介入の必要にない十分に
存在する要素と判断する。<住民同士の助け合い>は、夫は島の中心人物であり、島民の
世話をよくしており、A 氏はそれを誇りに思っていることから十分に存在していると判断
する。<集団への入り難さ>、<複雑な人間関係>は、島の狭い社会や現在に至るまでの
住民同士の関係の経過などが影響しており、直ぐに変化を期待しにくいため、介入が難し
いという面での十分に存在する要素と判断する。<相談相手の少なさ>は、A 氏は、同世
代、同性の住民がいない A 島の中で相談相手が少ないが、夫が相談にのってくれており、
義母との仲も悪くはないことから、存在するが不十分と判断する。島外の人々の<観光客
のマナーの悪さ>、<習慣の維持>は「波止場にお弁当の空き箱置いてる人がいたわ。多
分釣り人やろう。マナーの悪い人がいるんよな」と語っていた。住民はその都度対処して
いるが、他にも対策は講じられるのではないかと考え、不十分であり、必要と考える要素
と判断する。
<素晴らしい自然>はA島には豊かな自然があり、A氏も自ら写真に撮っていることか
ら十分に存在すると判断する。
《生活環境》の<医療施設>、<食料品・日用品を扱う店>は、A氏は必要と言いなが
ら、実際は対処できていることから、重要性の低い存在せず必要とする要素と判段する。
必需品である<大きな冷凍庫>、<携帯電話>は、不足による不便さについての発言がな
いことから十分に存在していると判断する。
《政治・法律》の<不十分な災害対策>、<不十分な緊急時対策>は、「ヘリポートの
話はあるけど、場所がないし、車がないし・・・そのままや、らちがあかん」と対策の不
十分さを語っており、不十分で必要と考える要素と判断する。<高齢者への巡回診療再開
15
>は「巡回・・別にいらん。まあ年寄りにはあった方がいいのかも」という発言があり、
A氏は自分には不要だが高齢者には必要かもしれないと考えていた。このため、存在せず、
必要と考える要素と判断する。
《経済》の<夫の仕事>、<夫の漁の手伝い>は、A島には
漁以外の産業は殆どなく、A氏の夫も漁のみの収入に頼れず、島の測量の手伝いなどの副
業をしていることから、不十分と考え必要な要素と判断する。
《疾病》の<喘息>は阻害する十分な要素と判断する。
《能力》の<自己管理意識>、<自己管理行動>は、喘息発作の対処法を理解し対応し
ているため、特に現在介入の必要はないと考え、十分に存在する要素と判断する。
《生きがい》の<役割意識>や<誇り><楽しみ>は十分に存在すると判断する。
《スピリチュアル》の<新興宗教>はA氏が生まれたときから家族が信仰し、A氏も自
然とそれを信仰するようになっており、十分に存在するものと判断する。
以上より、A氏の必要性での要素の分類は次ページの図 1 のとおりとなった。
16
17
生活環境
必需品
・大型冷凍庫
・携帯電話
自然環境
素晴らしい自然
・美しい海岸の景色
住民同士
住民同士の助け合い
住民同士の健康
習慣の維持
集団への入り難さ
複雑な人間関係
島外家族
島外家族とのふれあい
人との相互作用
島内家族
家族の助け合い
家族への思いやり
家族の健康
家族団欒
能力
自己管理意識
自己管理行動
・吸入
疾病
喘息
スピリチュアル
新興宗教
経済
夫の仕事
夫の漁の手伝い
政治・法律
災害対策
緊急時対策
生活環境
食料品・日用品を扱う店
医療施設
人との相互作用
住民同士
相談相手
島外の人々
観光客のマナーの悪さ
政治・法律
高齢者への巡回診療再開
存在せず
必要と考える要素
存在するが、
不十分で必要と考える要素
A氏が必要とする要素
図1 A氏:健康維持に影響する要素の必要性での分類
生きがい
役割意識
・家事
誇り
・島の世話役である夫
楽しみ
・猫とのふれあい
・読書
・音楽
・アイドル
・テレビ
・パクロス
・空想
十分存在していると考える要素
存在している要素
2.B氏:写真誘い出し面接および半構成的面接からの要素の抽出とその分類
1)
要素の抽出
B氏の概要は表 5 に示すが、B氏は 49 歳、男性、高校卒業後都会で働いていたが、5
年前、交通事故に遭い頚椎損傷したため会社を退職し帰郷した。当初は車椅子の生活であ
ったが、現在、ADLは自立している。
B氏は写真 1 を指し「ここは俺がヘリポートにいいと思ってる所なんですよ」
「1 年前に
市議会議員の人がきて、住民とヘリポートの話しをしたんですよ。でも一向にそれからな
しのつぶてで。こんなところだから一番につけてもらわないとね」と語った。これより<
ヘリポートの未設置><要望に対する行政対応の遅れ>が読みとれる。
写真 2 を指し「これが船着場、大きな地震でもきたら崩れると思うよね。人が集まると
ころやからね。よそから来る人もおるし」と島にいくつかある崖崩れ危険場所の写真を撮
っていた。これより<不十分な崖崩れ対策>が読みとれる。
「A島は離島振興のために補助金がかなり出てるはずなんですけどね」と語っているこ
とから、<離島補助金使用の不明瞭さ>が読みとれる。「ここは産業が漁しかないからね、
民宿をやっても殆ど、夏くらいしかやれないしね」という発言から<雇の乏しさ>が読み
とれる。また、
「若い衆が帰ってくることはないやろうしね」
(苦笑)
「女の若い人でも帰っ
てくれば、味噌を作ってるのを後継できるんやろうけど」
「山は個人の。伐採する人がいな
いから荒れ放題になる」と語り、<過疎化の進行>や<味噌つくり後継者の不在>、<森
林の手入れをする人の不在>が読みとれる。そして写真 3 を指し(こういう男性が帰って
くれてありがたいですね)という話に対し「そりゃあ、そうです」と答えていた。これよ
り島にとって重要である<帰郷する人>が読みとれる。そして、
「草取りなんかは、ボラン
ティアの人に頼めばやってくれると思うんやけどね」と時折島の清掃や蒔き割りにやって
来るボランティアについて語った。これより<ボランティアの協力>が読みとれる。
B氏が撮影した写真
写真1 ヘリポートに適した場所(1 枚)
写真 4
写真 1
猫
(10 枚)
写真 2
崖崩れ危険箇所(9 枚)
写真 5
18
明神様
(4 枚)
写真 3
帰郷した男性(1 枚)
B 氏は「やっぱり自分の故郷やからね。一応ここに帰ってきた以上、自分がなんとかせ
せなあね。自分はこういう体になっとるからね、医療関係とか福祉関係のことをすること
が一番大事やと思ってるしね」と多くの問題を抱えるA島において<島の暮らしを守る役
割意識>をもっていることが読みとれる。
B氏は相談する相手についての質問に対し、はっきり答えず沈黙になった。B氏が撮影
した写真は 24 枚中、10 枚は猫の写真であった。
(写真 4)猫たちに自らキャットフードを
買ってきて与えており、猫たちもB氏には特別になついていた。そして「まあ好きなこと
は好きですね」と照れくさそうに話していた。B氏は母親と一緒に住み、食事の時は近く
に住む叔母2人が加わり、夕食後は皆でテレビを観て団欒するといった生活をしている。
A島には B 氏と近い年代の同性として 49 歳男性、56 歳男性が 1 名ずついるが、それぞれ
の暮らしがあり、彼らと語り合うことは滅多にない様子であった。このことから、<相談
相手の少なさ>が読みとれる。また、そのような人との関わりの少なさの中、気持ちを癒
してくれる<猫とのふれあい>が読みとれる。
B 氏は明神様の写真を指し、(写真 5)「海の神さんやからね。瀬渡し(釣り人を磯へ運
ぶ仕事)の船長さんなんかも祭りになったらお神酒をあげたりしよるから」
「このお神酒も
週 1 回くらいは代えてるんですよ」と語り、「まあリハビリがてら」と言いながら、毎朝
境内の掃除を自分から行っていることから<明神様信仰>が読みとれる。いつも仏様を拝
みますが、子供の頃からですかという問いに「いや、こっち帰ってきてから」と答えてい
た。これより<先祖への畏敬>が読みとれる。
B氏は5年前、深夜同僚と車で移動中、同僚の居眠り運転で車が横転し頚椎損傷をきた
した。そのため仕事の続行が困難となり島へ帰郷した。そのことについてB氏は「仕事が
ずっと徹夜、夜もしよったんやね。まあ、皆もうバテとるからね」「最初は先生が家族に、
下半身動かないかもって・・」「リハビリはねえ、まあ結構、力なんかはあったんですよ。
1 日か 2 日くらいしたら立てるようになって・・」と語った。これらからは疾病の<頚椎
損傷・知覚鈍麻>と<過酷な仕事に耐えた経験>、そしてスムーズなリハビリに繋がり、
誇りでもある<仕事で鍛えられた体力>が読みとれる。また、
「うちの会社○県では結構有
名なんですよ」と会社の話をよくしていた。ここからは誇りである<やってきた仕事>が
読みとれる。
B 氏は「温度感覚がわかりにくい。だからお風呂なんかは最初に手でこう・・・やけど
とかが一番ねえ・・」と語り、知覚鈍麻熱による熱傷予防に注意していた。ここから<身
体損傷予防>が読みとれる。
島の環境において「俺が記憶にあるだけでは認知症になった人はいないんじゃないかな。
俺の本家のお爺さんが一回ちょっとボケたくらいで」と認知症が殆ど発症していないこと
を語った。これより<認知症発症の少なさ>が読みとれる。
「俺は楽しみは殆どパチンコやね」と言い、たまに市街へ出た際はパチンコをして楽し
むとのことであった。これより楽しみである<パチンコ>が読みとれる。
19
A島のきれいな海と空気のよさについて研究者が話すと「そう」と頷き、素晴らし自然
環境の中の<新鮮な空気>が読みとれる。
2)
類似性での要素の分類
B氏の要素について、A氏に行ったように分類すると表 7 のとおりであった。B氏の類
似性での分類は、《人との相互作用》、《自然環境》、《生活環境》、《政治・法律》、《経済》、
《社会現象》、《疾病》、《能力》、《生きがい》、《スピリチュアル》であった。A氏の分類と
比較すると<過疎化進行>、<漁業衰退>という要素から《社会現象》が追加となった。
表 7 B氏 類似性による要素の分類
分類名
《人との相互作用》
要素
住民同士<住民同士の助け合い><住民同士の健康>
<住民同士の強い繋がり>
<相談相手の少なさ>
島外の人々<ボランティア協力><近隣の店の協力>
《自然環境》
素晴らしい自然<新鮮な空気>
《生活環境》
<インフラ整備><古くからの店の協力(電話注文)>
<定期船運航><悪天候時の定期船運休><公共交通機関の不便さ>
<生活にかかる費用の安さ><認知症発症の少なさ>
《政治・法律》
<不十分な災害対策><不十分な高波対策><不十分な崖崩れ対策>
<ヘリポート設置案>
<不十分な緊急時対策>
<不十分なし尿処理対策><生ゴミ対策の無さ>
<診療所閉鎖><巡回診療中止>
<要介護時の支援の受け難さ>
<要望に対する行政対応の遅れ><県の医療・福祉対策の遅れ>
<行政視察の不十分さ><離島振興補助金使用の不明瞭さ>
《経済》
《社会現象》
<雇用の乏しさ><収入を得る手段の少なさ>
<過疎化進行><漁業衰退>
<味噌作りの後継者の不在><森林を手入れする人材の不足>
《疾病》
<頚椎損傷後知覚鈍麻>
《能力》
<自己管理行動><身体損傷予防><仕事で鍛えられた体力>
《生きがい》
役割意識<島の暮らしを守る役割意識>
誇り<やってきた仕事><過酷な仕事に耐えた経験>
楽しみ・癒し<猫とのふれあい><パチンコ>
《スピリチュアル》
<先祖への畏敬><明神様信仰>
20
3) 必要性での要素の分類
A 氏に行った同様の方法で、B氏の要素を必要性の視点で分類した。
《人との相互作用》の<住民同士の助け合い>、<住民同士の健康>、<住民同士の強
い繋がり>については、台風襲来時「夜中に○さんが、住宅におった C さんのお孫さんと
かを迎えに行った」という発言や、B 氏は災害対策や巡回診療のことなど、島民全体の健
康維持について深く考えた発言が多いことから、十分に存在する要素と判断する。<味噌
作り後継者>、<森林を手入れする人材>については、
「若い女性でも継いでくれれば」や
「山は手入れをする人がいないから荒れ放題になる」と語った。これより、存在せず必要
と考える要素と判断する。
<相談相手の少なさ>は、B氏は島では同世代、同性の住民と話しをする機会が少なく、
研究者の相談相手の質問にも言葉を濁していた。そして、可愛がっているA島の猫たちの
写真を 10 枚も撮っていた。これより、不十分で必要とする要素と判断する。「草刈なんか
もボランティアに頼めばやってくれると思うんやけど」という発言から、島外の人々であ
る<ボランティアの協力>は存在するが、不十分な要素と判断する。
<素晴らし自然>は A 氏と同様の理由で、十分に存在すると考える要素と判断する。
《生活環境》の<インフラ整備>、<古くからある店の電話注文>、<定期船運航>に
ついてはは「この島に電気がついたのは小学校 5 年で、テレビもその頃です。それまでは、
バッテリーをまわして、夜 7 時から夜 10 時までしか、電気がつきませんでした」とあり、
以前に比べれば生活環境が改善していることから、これらは《生活環境》の中の十分に存
在する要素と判断する。
《生活環境》の<公共交通機関>は「もう全然バスなんか乗ったこ
とがないから」と語り、バスの便が悪いため使用する住民は殆どいないことから、存在す
るが、不十分で必要と考える要素と判断する。
《政治・法律》の<災害対策>、<緊急時対策>等については「昔はこんなに堤防もよ
くなかったんです。テトラポットも無かったんです」と現状の問題だけでなく、改善され
ている点も認めていることから、不十分で必要と考える要素と判断する。<ヘリポート設
置>は唯一の傷病者移送手段が定期船であるA島住民にとっては、是非必要とB氏は強く
語っていた。このため、存在せず、必要と考える要素と判断する。<し尿処理対策>に関
しては、
「市営住宅があるけど、まだ水洗トイレじゃないんですよ。市に工事を依頼したん
ですけど・・」と語った。これより不十分であり必要とする要素と判断する。<診療所再
開>と<巡回診療再開>については、「一番いいのは、診療所が再会されることやろうね。
巡回診療がね」と語っていることから、存在せず必要とする要素と判断する。
<要介護時の支援>に関しては、「ヘルパーもね、日にちを決めてても、波が高いとこ
れないですよ」と定期的に要介護支援受ける困難さを語っていた。これより、<要介護時
の支援>は存在していず、必要と考える要素と判断する。<生ゴミ対策>に関しては、
「こ
の前、有名な議員さんが来たときに、生ゴミ処理機を置いてくれって言うたんですよ」と
あり、存在せず、必要と考える要素と判断する。
21
《経済》の<雇用の乏しさ>、<収入を得る手段の少なさ>は「ここは漁しかないでし
ょう。○さんとこが、民宿やってたけど、夏くらいしかやれないしね」
「このへんにキャン
プ場をしたらいいと思うんですよ」と A 島で収入を得る手段は少ないが、全くないわけで
はないことから、存在するが、不十分と考える要素と判断する。
《社会現象》の<過疎化進行>、<漁業衰退>については「若い衆が帰ってくることは
ないやろうしね」と語っていたことから、対策が困難という点において十分に存在する要
素と判断する。疾病》の<頚椎損傷後知覚鈍麻>は健康維持を阻害する十分な要素である
と判断する。
《能力》の<身体損傷予防>などの<自己管理行動>は存在する十分な要素と
判断する。
《生きがい》の<島の暮らしを守る役割意識>は写真や面接からB氏がA島にある様々
な問題について考え、自分なりの対策を考えていることから十分に存在していると判断す
る。
《生きがい》の<楽しみ>特に<猫とのふれあい>も介入の必要性はないと考え、十分
に存在する要素と判断する。
《スピリチュアル》の<先祖への畏敬>、<明神様信仰>は、「海の神様やからね」と
毎日自分から明神様の掃除をして、写真にも撮っていることから、十分に存在する要素と
判断する。
以上より、B 氏の要素の必要性での分類は次ページ図 2 のとおりとなった。
22
23
生活環境
インフラ整備
古くからある店の電話注文
定期船運航
悪天候時の定期船運休
生活にかかる費用の安さ
認知症発症の少なさ
自然環境
素晴らしい自然
・新鮮な空気
人との相互作用
住民同士
住民同士の助け合い
住民同士の健康
住民同士の強い繋がり
経済
雇用
収入を得る手段
政治・法律
災害対策
・高波対策、
・崖崩れ対策
緊急時対策
し尿処理対策
要望に対する行政対応
県の医療・福祉対策
離島振興補助金の適切な使用
行政視察
生活環境
公共交通機関
島外の人々
ボランティアの協力
人との相互作用
相談相手
帰郷する人
存在するが
不十分で必要と考える要素
政治・法律
ヘリポート設置
要介護時の支援
生ゴミ対策
診療所再開
巡回診療再開
存在せず
必要と考える要素
B氏が必要とする要素
図2 B氏:健康維持に影響する要素の必要性での分類
社会現象
過疎化進行
味噌作りの後継者の不在
森林を手入れする人の不在
漁業衰退
能力
仕事で鍛えられた体力
自己管理行動
・身体損傷予防
疾病
頚椎損傷後知覚鈍麻
生きがい
誇り
やってきた仕事
過酷な仕事に耐えた経験
役割意識
島の暮らしを守る役割
楽しみ,癒し
・猫とのふれあい
・パチンコ
スピリチュアル
先祖への畏敬
明神様信仰
十分に存在していると考える要素
存在している要素
3.C氏:写真誘い出し面接および半構成的面接結果からの要素の抽出とその分類
1)
要素の抽出
C 氏の概要は表 5 に示したが、65 歳、女性で 3 年前に夫の体調不良を理由に夫婦で帰郷
した方である。それまでは関東で商店を営んでいた。
C氏は面接のはじめに、「私いつまでここにいるかわかりませんよ」と語り、将来の希
望、プランとして<島の暮らし存続の不明瞭さ>が読み取れた。
C氏は帰郷するまでやっていた仕事や生き方について「万屋みたいなお店を何十年と二
人でやってきたんですよ」(高齢者のお宅に)「配達行ったついでにゴミを持っていったり
とか。本当に些細なことがボランティアだと思って二人でやってきたんです」
「苦労したと
か、やってあげ過ぎたとかは全然ないんです。楽しませてもらいました」と語り、誇りと
して<今までの生き方(ボランティア)>が読みとれる。しかし、
「ここに来たらそういう
の必要ないのかなあって」
「気持ちが通じてない。わかります。それは絶対ない」と断言し
た。そして「戻ってきて 3 年過ぎましたけど、生まれたとことはいえ、もうよそ者です」
と語った。
「何かしてあげたらお返しみたいなのがあるんですよ。だから手伝っていいもの
か、悪いものか・・」というC氏の発言から、<元の住民との気持ちの通じ難さ>、<集
団への入り難さ>、<お返しの習慣故のボランティアのやり難さ>が読みとれた。また「商
売してた関係でどなたにでも話しをするのが・・だから来れたんです」と語り、新たな土
地で暮らすための<コミュニケーション能力>が読みとれる。
「中学卒業して、すぐ外に出ましたから、本当にもういろんな方に親以上に色々してい
ただいたんで、だから少しでもっていう気持ちはあります。していただいた方でなくても」
と語り、人に助けられた分、人を助けたいというC氏の<道徳的価値観>が読みとれる。
C氏が撮影した写真
写真 1 孫が作った壁飾り (2 枚)
写真 3 梅を漬けたビン (3 枚)
写真 2 美しい海
(2 枚)
写真 4 家庭菜園
24
(1 枚)
C氏は住民に対し、「なんでもかんでも役場に買ってもらうのは無理だと思いますよ。
少しは自分でも出して役場にも補助してもらうとかねえ」
と強い口調で語った。これより<住民の自助努力の少なさ>、<住民の行政への消極的な
関わり>が読み取れる。
「これ(写真 1)孫が作った壁飾りなんです。孫は 5 人、今年も来るんです。この自然
がね。何もいらない。海があればって言ってました」と海を撮影していた。
(写真 2)この
ことより<島外家族とのふれあい>、<美しい海>が読みとれる。
「ここの水が嫌なんです。あの淵をみてから 「井戸水も貯めてると澱がたまるんです」
と言い、定期的に水を購入していた。このことから水質の悪さ>が読みとれる。
「もうなんでもかんでも冷凍です」と野菜、肉など 1 回分ずつラップし大きな冷凍庫に
保存していた。このことから生活の必需品である<冷凍庫>が読みとれた。
C氏は梅を漬けたり(写真 3)、野菜やハーブを育てていた。(写真 4)これらから楽し
みとしての<保存食作り>、<家庭菜園>が読みとれる。
2)
類似性からの要素の分類
C氏の要素に関してA氏と同様に類似性で分類した結果は表 8 のとおりである。C氏の
類似性による分類では、
《人との相互作用》、
《自然環境》、
《生活環境》、
《政治・法律》、
《能
力》、《生きがい》、《スピリチュアル》があった。A氏、B氏と比較し新たなものはなく、
Cには《経済》、《社会現象》、《疾病》はみられなかった。
表 8 C氏 類似性による要素の分類
分類名
《人との相互作用》
要素
島内家族<家族の助け合い><家族の健康>
><家族の帰省>
島外家族<島外家族とのふれあい、支え
住民同士<住民同士の助け合い><住民同士の健康><行事の参加
(協働)><集団への入り難さ><新たな人間関係構築の難しさ><過干渉な関係><
元住民との気持ちの通じ難さ><プライバシーの保ち難さ><お返しの習慣故のボラン
ティアのやり難さ><複雑な人間関係>
《自然環境》
素晴らしい自然<美しい海>
《生活環境》
<インフラ整備><スレスの少なさ>
島外の人々<知人の訪問>
厳しい自然<台風>
必需品<大きな冷凍庫>
水質の悪さ(水道水・井戸水)><図書館閉鎖>
《政治・法律》
不十分な対策<災害対策><高波対策><緊急時対策><救急法講習><生ゴミ対策>
<住民の行政への消極的な関わり>
《能力》
《生きがい》
<高い自己管理意識>
<自己管理行動><磯での危険回避><健康的な食生活><質
のよい飲料水入手>
<住民の自助努力の少なさ><コミュニケーション能力>
誇り:<今までの生き方(ボランティア)><今までの仕事>
ィア><島民との協働>
楽しみ
《スピリチュアル》
役割意識:<ボランテ
将来の夢・希望:<島での暮らし存続の不明瞭さ>
<読書><貝拾い><保存食作り><家庭菜園>
<道徳的価値観>(恩返し:人に助けられたから、人を助ける)
25
3)
必要性での要素の分類
A氏に行った同様の方法で、C 氏の要素を必要性の視点で分類した。
《人との相互作用》の<家族の助け合い>、<家族の健康>は、隣の実姉の家の汲み取
りについて「それはもう、うちの姉だからやります」と家族が助け合うことを厭う隙はな
かった。夫の体調について「空気がいいから、それを第一に」と夫の体調を理由に A 島へ
帰郷したほどであった。このことより十分に存在する要素と判断する。島外家族の<島外
の家族とのふれあい、支え><家族の帰省>は、孫が作った飾りや、孫たちが喜ぶ海の写
真を撮影していたり、
「今年も来るんです」と嬉しそうに話していたことから、十分に存在
する要素と判断する。住民同士の<住民同士の助け合い>、<住民同士の健康>は、
「雨の
中、合羽をかぶって子供背負って・・」と台風襲来時、A 島の男性が家族を集会所へ運ん
でくれたことに対する感謝や、AED について「集会所に 1 個しかないでしょう。いざって
いう時に波止場の方にも置いたらいいのに」と住民全体の健康について考えていた。これ
らより、十分に存在する要素と判断する。<集団への入り難さ>、<元の住民との気持ち
の通じ難さ>、<お返しの習慣故のボランティアのやり難さ>については、
「何かしてあげ
たらお返しみたいなのがあるんですよ。だから手伝っていいものか、悪いものかわからな
いんですよ」と語った。これはその土地の文化でもあり、直ぐに変えることは困難と考え、
効果的な介入は難しいため、対処困難な十分に存在する要素と判断する。島外の人々の<
知人の訪問>は「関東から鹿児島に帰る途中寄ってくれて・・交通の不便な A 島まで、わ
ざわざ訪れてくれるという喜びがあり、十分に存在する要素と判断する。
《自然環境》の<素晴らしい自然>は写真にも撮っていることから、十分に存在する要
素、そして襲来を阻止できない<台風>は対処困難な十分に存在する要素と判断する。
《生活環境》の<インフラ整備>は「でも私が帰ってきてからいろいろ立派になって」
とあり、十分に存在すると判断する。
「向こう(関東)にいた時は休みでもお客さん来てま
したから、ここでの人間関係のストレスなんで微々たるもんですよ」からは<ストレスの
少なさ>は十分に存在すると判断する。必需品<大きな冷凍庫>は、特に不自由さの訴え
はなく、十分に存在すると判断する。<水質の悪さ>は「月 2 回くらいお父さん(夫)こ
この水が嫌で、買いに行きます」とあり、飲料水としての質が劣るという点で存在するが
不十分な要素と判断する。<図書館再開>は「私ここに来てショックだったのは、図書館
が閉鎖になってることなんです」とあり、存在せず必要とする要素と判断する。
《政治・法律》の災害対策>、<緊急時対策><救急法講習>は「去年かその前は玄関
のとこまで波がきました」との発言や、先に述べた AED についての発言から、存在する
が不十分と考える要素と判断する。<生ゴミ対策>については「ここの人は皆生ゴミを海
に捨てるでしょう。ここに来て 3 年経ちますけど、海は汚れてますよ」と語り、存在せず
必要と考える要素と判断する。
《能力》の<自己管理行動>、<質のよい飲料水入手>は、井戸水をろ過したり「娘に
カロリー摂りすぎって言われて相当野菜を食べるようになりました」とあり、十分に存在
26
する要素と判断する。<住民の行政への消極的な関わり>、<自助努力の少なさ>は「な
んでもかんでも役所に買ってもらうのは無理だと思いますよ」と自助努力を促す必要性と
語っており、存在するが不十分な要素と判断する。また<コミュニケーション能力>は、
「うちは商売してたからどなたでも話しするのが・・だから来れたんです」とあり、介入
の必要はなく十分に存在すると判断する。
《生きがい》の誇りである<今までの生き方(ボランティア)>、<仕事>、役割意識
の<島民との協働>、楽しみである<読書><保存食つくり>《スピリチュアル》の<道
徳的価値観>は介入の必要なく十分に存在する要素と判断する。
以上より、C 氏の必要性での要素の分類は、次ページの図 3 のとおりとなった。
27
28
島外の家族
島外家族との
自然環境
ふれあい、支え
素晴らしい自然
家族の帰省
・美しい海
住民同士
台風
住民同士の助け合い
生活環境
住民同士の健康
インフラ整備
行事の参加(協働)
スレスの少なさ
集団への入り難さ
必需品 元住民との気持ちの通じ難さ
・大きな冷凍庫
新たな人間関係構築の難しさ
お返しの習慣故の
ボランティアのやり難さ
プライバシーの保ち難さ
過干渉な関係
島外の人々
知人の訪問
人との相互作用
島内家族
家族の助け合い
家族の健康
能力
住民の自助努力の少なさ
行政・法律
災害対策
・高波対策
緊急時対策
救急法講習
住民の行政への消極的な関わり
生活環境
水質の悪さ
(水道水・井戸水)
存在するが
不十分で必要と考える要素
C氏が必要とする要素
図3 C氏:健康維持に影響する要素の必要性での分類
スピリチュアル
道徳的価値観
(人に助けられたから人を助ける)
能力
自己管理意識
自己管理行動
・磯での危険回避
・健康的な食生活
・質のよい飲料水入手
コミュニケーション能力
生きがい
役割意識
島民との協働(ボランティア)
島での暮らし存続の不明瞭さ
誇り
やってきた仕事
ボランティア
今めでの生き方
楽しみ
・読書
・貝拾い
・保存食作り
・家庭菜園
十分存在していると考える要素
存在している要素
政治・法律
生ゴミ対策
生活環境
図書館再開
存在せず
必要と考える要素
4.D氏:写真誘い出し面接結果および半構成的面接結果からの要素の抽出とその分類
1)
要素の抽出
D氏の概要は表 5 で示したが、71 歳、女性、婦人部長、味噌工場の責任者でもある。以
前は民生委員もしていた。
「味噌はもう 14 年になる。最初は県の人も 10 年できるかっていいよったけどな。県の
人はやめるなって言うし、されるまですりゃあいいわ」と言い、味噌工場の写真(写真 1)
も撮っていることから、誇りである<味噌工場の設立・運営>が読みとれる。
「昔は離島交流があって味噌工場の視察で○○にも行ったんよ。Dさん、何か発表して
って言われて、私は学校もそんなに出てないし、ものを言うんは苦手やけど、県の人がフ
ォローしてくれて何とかやったんよ」
「ここの島の人は皆、学校でてないし、字を書いたり
するのを嫌がるんよ」
「B が帰ってきてくれて本当助かってるんよ」という発言から、<不
十分な教育>とそれに伴う<読み書きの苦手さ>があると言える。また「合併になってそ
んなのが無くなってしまった」とあり<合併後のサービスの後退>がいえる。更に、
「教員
住宅も潮風で荒れてしまって、もったいないことやわ。私たちに任せてくれれば来た人に
貸したりして役立てるのに」との発言から低い基礎教育に伴う<外部へ意見を発信する能
力の低さ>が読みとれる。
「私は人のお世話をするのが好きやから、人がきたらご飯食べさすんや」「叔父、めし
はもう食うたんか?うちで食うたらいいわ」と近所に住む高齢者に声をかけている。これ
よりA氏にとっては生きがいのような<人の役に立つこと>と<住民同士の助け合い>が
読みとれる。
A氏が撮影した写真
写真 1 味噌工場
(2 枚)
写真 4 植木と猫の親子 (2 枚)
写真 2
テレビ
(1 枚)
写真 5 ブーゲンビリア (4 枚)
29
写真 3 海
(1 枚)
写真 6 観葉植物 (1 枚)
「狭心症と高血圧とあってな、薬は忘れずに飲んでるよ。血圧も朝晩測ってる」「船が
止まったら困るから薬は多めにもらってるんや」と悪天候による定期船の運休を考慮した
<高い自己管理意識>と<自己管理行動>が読みとれる。また「(ヘリポートの話は)あっ
たんですよ、消防団も来て、私たちも訓練もして、電気でするやつ(AED)も習った。
・・
けどもう忘れた。まあお陰でそういう人もないけどね。でもなかなかヘリコプターも決ま
ってないんですよ」とあり、<不十分な緊急時対策>、<不十分な防災訓練>が読みとれ
るとともに、自らが狭心症であるA氏に深く影響するAEDの扱いの不十分さを述べてお
り、<不十分な救急法講習>が読みとれる。
「ここはお金儲けがないでしょう。それで皆都会に出てしまうんよ」「昔は巻き網船が
盛んだったからね。でも、そげなもんもうできんしね」とあり、<漁業衰退>による<雇
用の少なさ>、<過疎化進行>が読みとれる。また、ここはダイバーが来るからね。それ
のご飯炊きしよったんです。でももうやめたんです。お金儲けできん」とあり<収入を得
る手段の少なさ>が読みとれる。過疎化が進行するA島で「Cさんとこが帰ってきてくれ
た。ああいう人がいるから本当に助かってるんよ」とあり、とても重要であり感謝してい
る<帰郷した人への感謝>が読みとれる。そして、
「 子供たちは皆ここがいいって言うんよ」
「盆と正月は皆でご飯食べるんや、賑やかよ」とあり子供たちの郷土愛の表れである<家
族の帰省>が生きがいのようになっていると読みとれる。
「息子が大工やからな、車椅子で
もいけるように家を工事しちゃるって言うんよ」と将来のことを考慮した<車椅子生活を
考慮した室内の改造計画>が読みとれる。
「まあ、どうにもこうにもならんなったら、子供のしょわ(世話)にならなあってな」
「それまではどこにも行かん。ここがいい」という発言からは<島での暮らし存続の願い
>と生活するからには<ADLの自立>が条件であること、そして<気持ちの持ち方(現
状の受け入れ)>が読みとれる。
「こないだ美空ひばり 4 時間あったんで。Tさんも来て皆で一緒に観たわ」
(写真 2)と
いう発言からは楽しみであるテレビを観ながらの<家族の団欒>、<仲間との集い>が読
みとれる。人との関わりでは「(サロン)ははじめから皆入った」とあり、<島民の社交的
な雰囲気>が読みとれる。(写真 3)を指し、「朝陽の写真なかったっけ。息子が来た時に
撮れって言うたように思うたんやけど。明日 5 時に起きて朝陽見にいきましょうか」とい
う発言からは<美しい島の風景>が読みとれる。
「この神様は先祖や家族を大事にしなさいって教えてるんよ。今度大会があって全国か
ら集まるんよ。私たちも皆タクシーで行く」と言い、毎朝お水とご飯を供え、お祈りをし
ていることから、<新興宗教>、<先祖への畏敬>が読みとれる。
A氏は庭に植木や花を沢山植えて、室内も花を飾っており写真も撮っていた。(写真4、
写真 5、写真 6)「草がいっぱいやからとらないと」と言い、楽しみとして<園芸>がある
と読みとれる。写真 6 には猫の親子も写っており、A氏は島の猫 20 匹に全部名前をつけ、
エサも与えていることから、楽しみとして<猫とのふれあい>があると読みとれる。
30
2)
類似性での要素の分類
D氏の要素をA氏と同じ方法で、類似性で分類すると、表 9 のとおりであった。《人と
の相互作用》、
《自然環境》、
《生活環境》、
《政治・法律》、
《経済》、
《教育》、
《社会現象》、
《疾
病》、《能力》、《生きがい》、《スピリチュアル》であった。A氏、B氏、C氏になく追加し
たものとして、
《教育》、<不十分な基礎教育>と《能力》、<外部へ意見を発信する能力の
低さ>があった。
表 9 D氏 類似性による要素の分類
分類名
《人との相互作用》
要素
島内家族<家族団欒>
島外家族<島外の家族とのふれあい、支え><家族の帰省><家族の助け合い>
<家族の健康><家族の心配(不良の孫、病気の孫)>
住民同士<住民同士の助け合い><帰郷した人への感謝・安心>
島外の人々<島外の人とのふれあい>
全対象
<贈り物やりとり>
《自然環境》
素晴らしい自然<美しい島の風景><恵みの海>
《生活環境》
<下水道整備><し尿による土壌・水質汚染の危険性>
<島民の社交的な雰囲気>
<診療にかかる高い交通費><特殊診療の受け難さ>
《政治・法律》
不十分な対策<災害対策><防災訓練><緊急時対策><救急法講習>
<医療情報の少なさ>
<し尿処理対策(水洗トイレ未整備)>
<要望を訴える機会><要望に対する行政対応>
<合併後の行政サービスの後退>
《経済》
<雇用の少なさ><収入を得る手段の少なさ>
<観光収入の低さ>
《教育》
《社会現象》
<高齢者の不十分な基礎教育><多くの高齢者の読み書きの苦手さ>
<過疎化進行><漁業衰退>
《疾病》
<狭心症><高血圧><白内障><坐骨神経痛><歯科・口腔科疾患>
《能力》
<高い自己管理意識>
<自己管理行動><確実な内服・受診><毎日の血圧測定>
<バランスのよい食生活><健康補助食品摂取>
<車椅子生活を想定した家の改造計画>
<ADLの自立>
<気持ちの持ち方(現状の受け入れ)>
《生きがい》
役割意識<人の役に立つこと>
リーダー的役割<婦人部長><味噌工場設立・運営>
夢・希望<島での暮らし存続への願い>
楽しみ<仲間との集い><テレビ><猫とのふれあい><園芸>
《スピリチュアル》
<先祖への畏敬><明神様信仰><新興宗教>
31
3)必要性での要素の分類
A氏に行った同様の方法で、D氏の要素を必要性の視点で分類した。
《人との相互作用》の島内家族、島外家族の<家族の助け合い>、<家族の健康>、<
家族団欒>、<家族の帰省>は、
「私は歯悪くて噛めんからって、娘が野菜ジュースとかよ
く送ってくれるんよ」「こないだ息子が診察に連れて行ってくれた」「こどもたちは盆と正
月に帰ってくりゃあ、ここがいいって言うしな」とあることから、十分に存在する要素と
判断する。<住民同士の助け合い>、<島外の人々とのふれあい>は「叔父、飯はもう食
うたか。うちで食べたらいいわ」と気軽に声をかけていることや「前、島にいてお世話し
てた先生から素麺が送ってきた」などの発言から、十分の存在する要素と判断する。
《自然環境》の<素晴らしい自然>は写真にも撮っていることから十分に存在する要素と
判断する。
《生活環境》の<下水道整備>は D 氏宅は水洗トイレにしてあり「月 3,200 円くらいよ。
歳いったらどんな楽か」とあり、十分にお存在する要素と判断する。<島民の社交的な雰
囲気>については、A島の文化であり、十分に存在していると判断する。
《政治・法律》の<災害対策>、<緊急時対策>、<救急法講習>、<要望にお対する
行政対応>は「もう訓練にはなってるんですけど、なかなかどこにヘリコプターも。まだ
決まってないんですよ。まともには」
「消防団もきて、私たちも訓練して、電気でするやつ
(AED)も習った」「教えてもらったけど、もう忘れた」とあり、存在するが、不十分な
要素と判断する。<し尿による土壌・水質汚染の危険性>についてはD氏は「畑の近くと
か埋めるんよ。よくないんよなあ」と語り、不十分であり必要と考える要素と判断する。
<合併後の行政サービスの後退>については、B氏は「合併する前は一人暮らしのお年寄
りに公民会で演芸があったり、離島交流会があって他所の離島の人たちと勉強会したりし
よったのに、全部無くなってしもうたわ」と語った。このため存在せず必要とする要素と
判断する。
《経済》の<雇用>、<収入を得る手段>、<観光収入の低さ>は「ここはお金儲けが
ないでしょう」
「前はダイバーのご飯炊きしよったんです。でもやめたんよ。お金儲けでき
ん」ということから、存在するが不十分な要素と判断する。
《教育》の<高齢者の不十分な基礎教育>、<多くの高齢者の読み書きの苦手さ>につ
いては、事実であり変えることができないため、十分に存在する要素と判断する。
《社会現象》の<過疎化進行>、<漁業衰退>は改善が困難であり、十分に存在する要
素と判断する。
《疾病》の<高血圧>、<狭心症>等は十分に存在する要素と判断する。
《能力》の<高い自己管理意識>、<自己管理行動>、<確実な内服、受診>等は「薬
は忘れずに飲んでる。船が止まったら困るから、薬多めにもらってるんや」と語り、十分
に存在する要素と判断する。<車椅子生活を想定した家の改造計画>については将来をみ
こした行動がとれており十分に存在すると判断する。<現状の受け入れ(気持ちの持ち方)
32
>については健康行動のひとつであり、現状を悲観しすぎることなく暮らしているため十
分に存在する要素と判断する。
「よういごかんなればしょうがねえけど。それまではどこに
も行かん。ここがいい」とあり、要介護支援を受け難いA島では<ADLの自立>は健康
維持に影響する十分な要素と判断する。
《生きがい》の役割意識<味噌工場の設立・運営>、<婦人部長>、楽しみである<仲
間との集い>、<猫とのふれあい>、<贈り物のやり取り>は介入の余地はないと考え、
十分に存在する要素と判断する。
《スピリチュアル》の<先祖への畏敬>、<明神様信仰>、<新興宗教>も介入の必要
性はないため十分に存在する要素と判断する。
以上より、D 氏の必要性の視点で分類した要素の構造は、図 4 のとおりとなった。
33
34
D氏が必要とする要素
疾病
狭心症
高血圧
白内障
坐骨神経痛
歯科・口腔科疾患
図4 D氏:健康維持に影響する要素の必要性での分類
生きがい
スピリチュアル
役割意識
先祖への畏敬
人の役に立つこと
明神様信仰
リーダー的役割
新興宗教
人との相互作用
・味噌工場
存在するが
存在せず
設立、運営
不十分で必要と考える要素
必要と考える要素
島内家族
家族団欒
・婦人部長
生活環境
能力
人との相互作用
島外家族
夢・希望・願い
診療にかかる高い交通費
家族の助け合い
高い自己管理意識
島での暮らし存続
帰郷する人 特殊診療の受け難さ
家族の健康
自己管理行動
楽しみ
島外の家族との
・確実な内服、受診
・猫とのふれあい
生活環境
政治・法律
ふれあい、支え合い ・毎日の血圧測定
・仲間との集い
し尿による土壌・水質汚染の危険性 合併後の行政サービスの後退
家族の帰省
・バランスのよい食生活 ・テレビ
(一人暮らし高齢者支援)
政治・法律
家族の心配 ・健康補助食品
・園芸
(離島交流会)など
自然環境
不良の孫、病気の孫)・車椅子生活を想定した
災害対策
住民同士
家の改造計画
素晴らしい自然
防災訓練
住民同士の助け合い
・現状の受け入れ
・新鮮な空気
緊急時対策
(気持ちの持ち方)
・恵みの海
救急法講習
生活環境
帰郷した人への感謝
ADLの自立
し尿処理対策(水洗トイレ未整備)
島外の人々
下水道整備(水洗トイレ)
医療情報
島外の人とのふれあい
島民の社交的な雰囲気
行政に要望を訴える機会
・定期船乗務員
要望に対する行政対応
教育
・仕事に来た人々
経済
・観光客
高齢者の不十分な基礎教育
・宗教関係者
多くの高齢者の 読み書きの苦手さ
雇用
・行政関係者
収入を得る手段
社会現象
全対象
観光収入の低さ
贈り物やり取り
過疎化進行
漁業衰退
十分に存在していると考える要素
存在している要素
5.E氏:半構成的面接結果による要素の抽出とその分類
1)要素の抽出
E氏はカメラの扱いに不慣れという理由で写真撮影を拒否された。
E氏の概要は表 5 に示したが、87 歳、女性で息子と二人暮しである。息子が他の地域で
の漁の仕事がある時は一定の期間不在となりE氏は一人になる。
「ここで大変なことはなお店がないことよ。もう本当困りよったんよなあ」(でも電話
かけたらA店が)送ってくれるんよ。鍋もあるし何でも揃うけえ、滅多に町に行ったこと
はない」という発言からは、店があれば便利だがA店の電話注文で殆どのものは賄えてい
ると読みとれる。
「困りよった」という言葉からも過去の意味が強い。このため、軽度に影
響する要素として<食料品・日用品を扱う店の不在>が読みとれる。更に「A店さんはお
金が無いときは待ってもらうしな。請求なんかせんよ。うちは若いときからそこと付き合
いしよったきい」と、A店との長い付き合いに対し<長い信頼関係>に対する誇りと、生
活に必要なものを殆ど揃えているA店に対し<古くからの店の協力>が読みとれる。
「しけん時が一番苦になる。船も通わんにいな。病人ができないいが、そればっかりい
つも頭にのかん」
「薬だけは絶対に飲み忘れん。それだけは欠かさん」いうことからは、定
期船運休時、A島は孤立し救急隊も出動不可能という生活条件の中で<住民同士の健康>
を心配する気持ちと<高い自己管理意識>、<自己管理行動>が読みとれる。また「ヘリ
コプターが来るかてどこに降りるんか。ほじゃあけど、せんじゃあねえか」という発言か
ら、<不十分な緊急時対策>が読みとれる。一方で「わしゃあ、この前血圧が上がってな。
夜、定期船に来てもらった」「妹が来てくれて布団ひいてくれたけどやっぱ行く(病院に)
ちゅうて」
「歩けるから救急隊呼ばんでもいいやろって」ということから、現在利用可能な
サービスとして<緊急時の定期船出動>、<救急隊出動>があり、体調が悪いときの<住
民同士の助け合い>があると読みとれる。他に疾病に関することでは「この前目医者に行
ったんですよ。ほしたら医者代は 400 なんぼで、タクシー代は 6,000 円とられた。じゃけ
え、もう行かん」
「皮膚科もタクシー代結構とられる。そこ(もっと近く)に皮膚科がある
のを知らんかったけえ市内に行ったわ」
「つぶし(膝)に水が溜まって整形にも行った」と
あり、<診療にかかる高い交通費>、<特殊診療の受け難さ>、<医療情報の乏しさ>と
バスの不便による<公共交通機関の不便さ>が読みとれる。
「クーラー掃除せなあ悪いけど手が届かんけなあ。壁も汚れちょるけど、掃除機があっ
たってようせんの。掃除機は飾り」
「うちがようせんごとなったら、娘んとこ行くか、養老
院にはいるか。
・・・おられるまでなあ、おられんごとなったらもうしようがない」という
発言からは、島で暮らすために必要なこととして<ADLの自立>があり、高齢による機
能低下に対する<在宅介護サービスの受け難さ>が読みとれる。
「うったちが学校行く時分はなあ、先生も 1 年から 6 年まで教えよったきいな。大変じ
ゃったよ。じゃけえ頭も悪いんよ」という発言や「そっちで書いちょいて」と書類の記載
を依頼する行動からは、<不十分な基礎教育>、<読み書きの苦手さが読みとれる。
35
「A島一番いいけどなあ。暢気でなあ」
「ここは空気がいいから人は長生きするのよ。じ
ゃけえおわれるまで、おりゃあいい」という語りからは<穏やかな島の雰囲気>、<素晴
らしい自然、新鮮な空気>中での<島での暮らし存続への願い>が読みとれる。
「味噌作りは年寄りはしてない。若いしだけ。もう若いちゅうたって 70 超えたしじゃ
けどなあ。まあ、なんぼでもでくるけどのう、すると思えば。うちどもは家で一人でしよ
ったわ」という発言からは、まだできるのにする機会がないという<能力を認められる機
会の少なさ>が読みとれる。
2)類似性での要素の分類
E氏の要素の類似性での分類は、表 10 のとおりであった。《人との相互作用》、《自然環
境》、《生活環境》、《政治・法律》、《経済》、《教育》、《社会現象》、《疾病》、《能力》、《生き
がい》、《スピリチュアル》であった。D氏の 11 項目に追加、不足はなかった。A氏、B
氏、C氏になくD氏、E氏にあったものとして、
《教育》の<不十分な基礎教育>があった。
表 10 E氏 類似性による要素の分類
分類名
《人との相互作用》
要素
島内家族<家族の助け合い>
島外家族<島外の家族とのふれあい、支え>
住民同士<住民同士の助け合い><住民同士の健康>
島外の人々<島外の人とのふれあい>・定期船乗務員・近隣の商店
《自然環境》
素晴らしい自然
《生活環境》
<インフラ整備><定期船運航><古くからある店の電話注文>
<近隣医療施設><穏やかな雰囲気><食料品・日用品を扱う店の不在>
<公共交通機関の不便さ><定期船荷物運賃負担>
<通院にかかる高い交通費><特殊診療の受け難さ>
《政治・法律》
不十分な対策<災害対策><緊急時対策><防災訓練>
<在宅介護サービスの受け難さ><医療情報の乏しさ>
<診療所閉鎖><巡回診療中止>
<救急隊出動><緊急時定期船出動><緊急時定期船使用時公的運賃割引>
《経済》
<収入を得る手段の少なさ>
《教育》
<不十分な基礎教育><読み書きの苦手さ>
《社会現象》
<過疎化進行><高齢化進行>
《疾病》
<高血圧><白内障>
《能力》
<自己管理意識>
<自己管理行動><確実な内服・受診><身体損傷予防>
<気持ちの持ち方(なるようにしかならない)>
<ADLの自立>
《生きがい》
誇り<長い信頼関係>
役割意識<周囲から能力を認められる機会の少なさ>
夢・希望<島での暮らし存続の願い>
《スピリチュアル》
<先祖への畏敬>
36
楽しみ<介護予防・生きがい支援サロン>
3)必要性での要素の分類
A氏と同様の方法で、E氏の要素を必要性の視点で分類した。
《人との相互作用》の<家族の助け合い>、<住民同士の助け合い>は、「こないだ、
悪うなってな。下の妹も来てくれて布団ひいてもろうて・・」とあり、十分に存在する要
素と判断する。<住民同士の健康>は「しけんときが一番苦になる。病人ができないいが、
そればっかりいつも頭にのかん」とあり、十分に存在する要素と判断する。<島外の人々
とのふれあい>では、定期船乗務員や古くからある店との良好な関係があり、十分に存在
する要素と判断する。
《自然環境》の<素晴らしい自然>は介入の余地はなく、十分に存在する要素と判断す
る。
《生活環境》の<インフラ整備>、<定期船運行>は「昔は道が狭うて、水も出らんで
困りよった」とあり、既に存在している十分な要素と判断する。<食料品・日用品を扱う
店の不在>は、その後の発言で「A 店が(電話注文)でなんでも送ってくれる。町に買い
に行ったことはない」とあり、軽度に影響するものとして、存在せず必要な要素と判断す
る。<古くからある店の電話注文>は十分に存在する要素と判断する。
「 目医者に行ったら、
往復のタクシー代は 6,000 円。じゃけえもう行かん」「皮膚科もタクシーで結構とられる」
「膝に水が溜まって整形にも行った」とあり、<診療にかかる高い交通費>、<特殊診療
の受けがたさ>は、何らかの介入を必要とする、存在せず必要な要素と判断する。また同
時に<公共交通機関の不十分さ>があり、これは存在するが不十分な要素と判断する。
「う
ったちは皆 A 医院だけ。そこで目薬ももらいよる」とあり、十分に存在する要素として<
近隣の医療機関>があると判断する。<穏やかな島の雰囲気>は、十分に存在する要素と
判断する。
《政治・法律》の<災害対策>、<緊急時対策>、<防災訓練>は「ヘリコプターが来
るかて、どこから(人)を積んでいくんか・・せんじゃあねえか」とあり、存在するが、
不十分な要素と判断する。
「うちはこないだ悪うなって、救急隊に船で来てもろうた」とあ
り、<救急隊出動>は十分に存在する要素と判断する。<診療所閉鎖>、<巡回診療中止
>は「便利がよかったんじゃけどな。無くなったけえ、A 医院に変わった」とあり、実際
は診療は継続できてはいるが、存在せず必要とする要素と判断する。<在宅介護の受け難
さ>は「ようせんごとなったら、行かな悪い」とあり、存在せず必要とする要素と判断す
る。<医療情報の乏しさ>は「(そこに皮膚科があるのを)知らんじゃったけ、市内に行っ
たわ」とあり、存在するが、不十分な要素と判断する。
《経済》の<雇用の少なさ>、<収入を得る手段の少なさ>は「うちの息子は、仕事が
のうて去年からずっと遊びどうし」とあり、わずかに存在するが、不十分な要素と判断す
る。
《教育》の<不十分な基礎教育>は過去の事実であるため、十分に存在する要素と判断
する。
37
《社会現象》の<過疎化進行>、<高齢化進行>、<漁業衰退>は介入困難なため、十
分に存在する要素と判断する。
《疾病》の<高血圧>、<白内障>も十分に存在する要素と判断する。
《能力》の<自己管理意識>、<自己管理行動>は「薬だけは絶対に飲みわすれはねえ、
絶対に」とあり、十分に存在する要素と判断する。<ADL の自立>は「ようせんごとなっ
たら、行かな悪い」と、ADL が自立が島の暮らしに欠かせないことを意味しており、十分
に存在する要素と判断する。
《生きがい》の<長い信頼関係>、<島での暮らしの存続の願い>、<仲間との集い>
は介入の余地はなく十分に存在する要素と判断する。<周囲から能力を認められる機会の
少なさ>は、サロンへの参加はあるが、味噌作りに入れないことなどから、存在するが不
十分な要素と判断する。
《スピリチュアル》の<先祖への畏敬>、<明神様信仰>などは、介入の余地はなく十
分に存在すると判断する。
以上より、E 氏の要素の必要性での分類は、図 5 のとおりとなった。
38
39
社会現象
過疎化進行
高齢化進行
生活環境
インフラ整備
古くからある店の電話注文
定期船運航
近隣医療施設
穏やかな雰囲気
自然環境
素晴らしい自然
島外家族
島外の家族との
ふれあい、支え
住民同士
住民同士の助け合い
住民同士の健康
島外の人々
島外の人々とのふれあい
・定期船乗務員
・近隣の商店
人との相互作用
島内家族
家族の助け合い
スピリチュアル
先祖への畏敬
明神様信仰
新興宗教
生きがい
能力を認められる機会
経済
雇用
収入を得る手段
政治・法律
災害対策
・防災訓練
緊急時対策
医療情報
生活環境
公共交通機関
存在するが
不十分で必要と考える要素
図5 E氏:健康維持に影響する要素の必要性での分類
政治・法律
救急隊出動
緊急時定期船出動
緊急時定期船使用時公的運賃割引
教育
不十分な基礎教育
読み書きの苦手さ
疾病
高血圧
白内障
能力
自己管理意識
自己管理行動
・確実な内服・受診
・身体損傷予防
・気持ちの持ち方
なるようにしかならない
という気持ち
ADLの自立
介護予防・生きがい支援サロン
生きがい
誇り
長い信頼関係
(古くからある商店)
夢・希望・願い
島での暮らしの存続
楽しみ
十分に存在していると考える要素
存在している要素
政治・法律
在宅介護の受け難さ
要介護時の支援
診療所再開
巡回診療再開
生活環境
食料品・日用品を扱う店
定期船荷物運賃支援
通院にかかる高い交通費
特殊診療の受けの受け難さ
存在せず
必要と考える要素
E氏が必要とする要素
6.参与観察結果
1)
要素の抽出
参与観察結果に関しては、結果をまとめるにあたり、カナダ公衆衛生機関により表明さ
れている健康の決定要因を記述枠組みとした。記述の過程において、11 項目すべてについ
ての記述、要素の抽出は可能であった。ただ、項目毎に得られたデータの量、要素の数は
かなり差があり、また重複する要素があった。健康な小児の成長では、現在A島は小学校、
中学校とも休校になっているため、住民の受けてきた教育の視点で考えた。
所得と社会的地位では、<少ない現金収入>であった。
社会支援ネットワークでは、<家族の支え><住民同士の助け合い><催し物参加><
集い><私的共同作業><プライバシーを保ち難い環境><集団に入り難い環境><血縁
の多さ><行事への全員参加><秩序維持><家族の帰省><家族との会話><親族や知
人との贈り物のやり取り><漁師からの魚の提供>(写真1,2)<定期船乗務員とのふれ
あい><仕事に来た人々とのふれあい><介護予防・生きがい支援サロン><ボランティ
アの協力><観光客とのふれあい>であった。
教育と識字能力では、<多くの高齢者の読み書きの苦手さ>であった。
雇用/労働環境では、<漁業の衰退><雇用>であった。
社会環境では、<高波対策><崖崩れ対策><緊急時傷病者移送対策><防災訓練><
防災マップ><AED設置><救急法講習><行政に要望を訴える機会の少なさ><要望
に対する行政対応の遅れ><合併後行政サービス後退>(離島交流会・ふるさと祭り・一
人暮らし高齢者支援等)<ヘリポート設営><緊急時漁船での傷病者移送未許可><公的
診療所中止><市営住宅改修><下水道整備><在宅サービスを受け難さ><保健師訪問
><困りごと相談の活用のし難さ><過疎化進行><高齢化進行>であった。
物理的問題では、<台風・強風><新鮮な空気><ゴミ焼却によるダイオキシンの危険
性><水質の問題(水道水・井戸水)<有害物質土壌汚染危険性><治安のよさ><広場
><機能的な集会所><ダイオキシン発生の危険性>(重複)<生ゴミ処理対策><古く
からの店の協力><廃棄ガス・騒音のない環境><定期船運航><定期船会社の運賃割引
><悪天候時の定期船運休><タクシー会社の運賃割引><公共交通機関><猫たちとの
ふれあい>(写真 3)であった。
個人の保健行動とストレスへの対応では、<高い自己管理意識><健康補助食品><バ
ランスのよい食生活><塩分の多い食事><猫たちとのふれあい>(重複)<園芸>であ
った。
健康な小児の成長では、<高齢者世代の不十分な基礎教育><多くの高齢者の読み書き
の苦手さ>(重複)<外部へ意見を発信する能力の低さ>であった。
生物的素質と遺伝的素質では、<高齢者の殆どが高血圧、白内障、腰・膝関節痛><高
齢者 2 名が狭心症><認知症発症の少なさ>であった。
医療では、<診療所閉鎖>(重複)<巡回診療中止><近隣医療施設><通院にかかる
40
高い交通費><特殊診療にかかる高い交通費><救急隊出動><緊急時の定期船出動><
緊急時の公的運賃割引><救急法知識の不十分さ><緊急時傷病者移送対策>(重複)<
医療情報入手の不十分さ>であった。
性別では、<女性区長の不在>であった。
文化では、<明神様信仰><先祖への畏敬><新興宗教><伝統的治療>(写真 4)<
言い伝えの遵守><更なる情報入手手段>であった。
研究者が撮影した写真
写真 1 漁師からの魚の提供
写真 2 提供された魚を皆でさばく
週 1 回程度、早朝家の前に置いていく
写真 3 島の猫たち
約 20 匹の猫がいる
島の守り神である明神様
魚は皆で分け合う
アラは猫へ与える
写真 4 伝統的治療(まじない)
皮膚疾患の住民に清めの水を掛ける
は犬を嫌うため、犬を飼った家には病人がでる
という言い伝えがあり、島に犬はいない
2)
類似性での分類
参与観察結果から抽出した要素を 5 名と同様に類似性で分類した。参与観察結果の要素
の類似性での分類は表 11 のとおりであった。要素の種類は《人との相互作用》、《自然環
境》、《生活環境》、《政治・法律》、《経済》、《教育》、《社会現象》、《能力》、《疾病》、《生き
がい》、《スピリチュアル》の 11 であった。5 名の分類の結果に追加するものはなかった。
41
表 11 参与観察結果 類似性による要素の分類
分類名
《人との相互作用》
要素
島内家族<家族の助け合い>
島外家族<家族との連絡><家族の帰省>
住民同士<住民同士の助け合い><血縁の多さ><行事への全員参加>
<公的催し物参加><私的協働作業><習慣維持><女性区長不在>
<集団への入り難さ><プライバシーの保ち難さ>
<島外の人とのふれあい>・定期船乗務員・仕事で訪れた人々・観光客
<漁師からの魚の提供><ボランティア協力><贈り物のやりとり>
《自然環境》
素晴らしい自然環境<新鮮な空気><美しい海・景色・草花><海・農産物>
過酷な自然環境<台風・強風>
《生活環境》
<インフラ整備><広場><古くからある店の協力><近隣医療施設><治安の
よさ><廃棄ガス・騒音のなさ><認知症発症の少なさ><定期船運航><定期
船会社の運賃割引><タクシー会社の運賃割引>
<通院にかかる高い交通費><特殊診療にかかる高い交通費><公共交通機関の
不便さ><悪天候時の定期船運休>
<井戸水の水質の問題><し尿による水質・土壌汚染の危険性><放置トラック
による有害物質土壌汚染の危険性><ゴミ焼却によるダイオキシンの危険性>
必需品<大型冷凍庫><運搬用の一輪車><船>
《政治・法律》
不十分な対策
ップ>
<災害対策><高波対策><崖崩れ対策><防災訓練><防災マ
<緊急時対策><緊急時漁船での傷病者移送未許可><救急法講習><
ヘリポート設置案>
<在宅介護の受け難さ><医療情報の不十分さ><保健師
訪問の不十分さ><生ゴミ対策><し尿処理対策><市営住宅要改修(水洗トイ
レ)><合併後の行政サービスの後退><困りごと相談の活用し難さ><行政に
要望を訴える機会の少なさ><要望に対する行政の対応の遅れ>
<公的診療所
閉鎖><巡回診療中止>
<AED設置><介護予防・生きがい支援サロン>
<救急隊出動><緊急時定期船出動><緊急時定期船使用時公的運賃割引>
《経済》
<雇用の少なさ><収入を得る手段の少なさ>
《教育》
<高齢者の不十分な基礎教育><高齢者の多くの読み書きの苦手さ>
《社会現象》
《疾病》
《能力》
<漁業衰退><過疎化進行><高齢化進行>
<多くの高齢者の高血圧、白内障、腰・膝関節痛><2 名の狭心症>
<高い自己管理意識>
<自己管理行動><確実な内服・受診>
<バランスのよい食生活><健康補助食品>
<塩分の多い食生活><救急法の
知識・技術不足><外部へ意見を発信する能力の低さ>
《生きがい》
《スピリチュアル》
<ADLの自立>
楽しみ:<仲間との集い><猫とのふれあい><園芸>
<先祖への畏敬><明神様信仰><新興宗教><伝統的治療><言い伝え遵守>
42
それぞれの分類においての参与観察として特徴的な要素は以下のとおりであった。
《人との相互作用》では<私的共同作業>、<血縁の多さ>、<漁師からの魚の提供>、
<女性の区長不在>があった。
《自然環境》では<海産物・農産物>があった。
《生活環境》では<治安のよさ>、<廃棄ガス・騒音の少なさ>、<広場・集会所>、
必需品<一輪車(運搬用)>、<船>、<放置トラックによる有害物質土壌汚染の危険性
>、<ゴミ焼却によるダイオキシンの危険性>、<タクシー会社運賃割引>、<定期船会
社運賃割引>があった。
《政治・法律》では<困りごと相談の活用し難さ><保健師訪問>、<防災マップ>、
<緊急時漁船での傷病者運搬許可>があった。
《能力》では<更なる情報入手手段>、<外部へ意見を発信する能力の低さへの支援>
があった。
《疾病》では<狭心症住民への救命処置対策>、<多くの高血圧住民への食事指導><
多くの白内障住民への支援>、<多くの腰・膝関節痛住民への支援>、<肥満対策>があ
った。
《スピリチュアル》として<伝統的治治療(まじない)>、<言い伝え遵守>があった。
《経済》、《教育》、《社会現象》では新たなものはなかった。
3)
研究者の視点を入れた要素の必要性での分類と促進、阻害での分類
A氏に行った同様の方法で、参与観察の要素を必要性の視点で分類した。参与観察から
は研究者が必要と考えるかという視点が入る。
十分に存在すると考える要素については、促進・阻害の視点で、その分類も行った。
《人との相互作用》
家族については、家庭内でそれぞれが、家事、漁、家の修理など、各自ができる役割を
協力しあいながら行っていること、島外の家族とはよく電話で連絡を取り合っていること、
盆や正月は家族が帰省し、島が活気づくことから<家族の助け合い><家族との連絡>、
<家族の帰省>は、特に介入の必要はなく十分に存在する、健康維持を促進させる要素と
判断する。
住民同士の<私的共同作業>では、お互いの畑の草を刈ったり、数名で集まって魚のス
リミを沢山作ったりして協力しあっていた。このため十分に存在する促進させる要素と判
断する。<血縁の多さ>は、結びつきの強さを増すが、他の住民にとっては<集団への入
り難さ>の原因にもなる。事実であり介入不可能なため、十分に存在する両義的な要素と
判断する。
島外の人々については、A島の住民は冷凍した魚や自家製のスリミを親族や知人に送っ
ている。またお返しとしていろんなものを受けとっている。これより<親族や知人との贈
り物のやり取り>は十分に存在する促進させる要素と判断する。住民は近隣の漁師から週
43
1 回程度、魚を提供され皆で分けている。住民は漁師に感謝しているため<漁師からの魚
の提供>は十分に存在する促進させる要素と判断する。
《自然環境》
A 島には豊かな美しい自然があり、ダイバーや観光客も多く訪れる。住民もこの豊かな
自然を大切に思っており、<素晴らしい自然>は十分に促進させる要素と判断する。A 島
住民は、近隣でとれた魚を食べ、スリミを作ったり、畑で採れた野菜やツワ・フキなどの
山菜を佃煮にしたりして食したり、人に贈ったりして、自然の恵みを生かしている。この
ため<海産物・農産物>は十分に存在する促進させる要素と判断する。A島住民は 1 日 3
回の定期船が生活に大変重要な役割を果たしているが、悪天候時は運休となるため、島民
は天気予報や風の状況にはとても敏感である。このため<台風・強風>は十分に存在する
阻害する要素として存在すると判断する。
《生活環境》
<インフラ整備>は、水道水、井戸水、両方使用でき、約半数の世帯は水洗トイレにも
していることから十分に促進させる要素と判断する。
<井戸水の水質の問題>は半数の世帯は汲み取りで家の近くに埋めていることから<
し尿による土壌、水質汚染の危険性>がある。これは住民も心配しており、存在するが不
十分で、研究者も住民もそう考える要素と判断する。
<治安のよさ>、<廃棄ガス・騒音の少なさ>があるが、住民の殆どは自宅に鍵もかけ
ていず、A島に警察が来ることは滅多にない。また、車が走っていないことから、これら
は十分に存在する促進させる要素と判断する。
A島には車検の切れた軽トラックが放置され、雨風に曝されている。このため有害物質
の土壌汚染が心配される。しかし、住民は誰もこれについて問題と考える人はいず、研究
者のみが考えた。危険性という点から不十分と判断し<放置トラックによる有害物質土壌
汚染の危険性>を不十分で研究者が考える要素と判断する。
A島では一般ゴミは小さな焼却炉で各自で焼却している。住民はこれに対し殆ど気に留
めていないことから<ゴミ焼却によるダイオキシンの危険性>を不十分で研究者が必要と
考える要素と判断する。
<医療施設>、<食料品・日用品を扱う店>は住民は必要と言いながら、実際は対処で
きていることから研究者は必要ないと考え、住民のみ必要とする要素と判断する。
必需品としてはどの家庭にも<大型冷凍庫><一輪車>(運搬用)があり、効果的に使
用されている。このため十分に存在する促進させる要素と判断する。
長年 A 島は男性が区長を勤め、現在もそうである。前区長は元来の性格から、住民の訴
えを一言で打ち消すような態度をとる時があったらしい。区長の選出は介入が困難なこと、
女性に対してのみの態度かは不明であることから、十分に存在する両義的な要素とする。
<公共交通機関>は、バスは便が悪いため使用する住民は殆どいず、皆高い交通費を払
いタクシーで移動しており、住民も研究者も存在するが、不十分で必要と考える要素と判
44
断する。
《政治・法律》
<災害対策>、<緊急時対策>は、防波堤、テトラポット設置、がけ崩れ危険箇所の補
強工事、防災訓練の実施、防災マップの掲示等、対策は講じられているが、ヘリポートの
計画は一向に進展していず、テトラポットも設置された当時よりは波で低くなっている。
これらのことから、研究者も住民も、存在するが不十分と考える要素と判断する。<緊急
時漁船での傷病者移送>は、一般には禁止であるが、定期船が唯一のA島では、救急隊連
絡から到着までは 40 分以上はかかると想像され、緊急時に間に合わないことが予測され
るため、住民も研究者も必要と考える要素と判断する。
<巡回診療再開>は、高齢者には必要かもしれないと考えている住民もいたが、研究者
は県職員からの聞き取りなどから、A島の巡回診療再開の可能性は殆どないことを理解し
ている。このため、存在せず、住民のみ必要と考える要素と判断する。
<要介護時の支援>に関しては、実際の高齢化率 75%のA島で、まだ誰も在宅介護サー
ビスを受けていない。必要になった住民はA島を出て行くからである。しかし、殆どの高
齢者は可能な限り、A島で暮らし続けることを願っている。悪天候による定期船の運休な
ど、定期的に要介護支援受ける困難さもあり、<要介護時の支援>は存在していず、住民
も研究者も必要な要素と判断する。
診療は、通常の通院ならばそれ程問題はないが、高齢に伴い、眼科、歯科、整形外科な
どの特殊診療が必要になることが多くなる。近隣に医療施設が十分にあると言いにくいA
島では、高いタクシー代を払い受診している。あまり情報がないため、遠くの医療施設ま
で行き、さらに高い交通費を払うこともある。医療施設は市報に掲載されたりしているが、
詳細な情報はない。このため、<医療情報>は住民も研究者も不十分であり必要と考える
要素と判断する。
A 島では市が実施する困りごと相談を全く利用していず、市も定期船の運休への考慮は
ない。このことから<困りごと相談の活用し難さ>は不十分で研究者が必要と考える要素
と判断する。
A島には保健師は 2 日月に 1 回生き生きサロンに同行し訪問しているが、住民全員と関
わることは無く、住民も保健師に健康面での相談をするわけではない。保健師の更なる活
躍の可能性があると考え、<保健師訪問>を不十分で研究者が必要とする要素と判断する。
<合併後の行政サービスの後退>については、合併前はふるさと祭り、一人暮らしの高
齢者を対象の公民会で演芸会、離島交流会等があり、住民が作ったイワシ寿司を販売した
り、他の離島の人たちと勉強会が開催されていたが、全部中止となった。研究者はこれら
は地理的に孤立しがちなA島の住民たちが、外部の人と触れ合い、また能力を他者から認
めてもらう大事な機会と考える。住民も再開を希望していることから、存在せず、住民も
研究者も必要とする要素と判断する。
45
《経済》
<雇用の少なさ>、<収入を得る手段の少なさ>は、A 島では漁業のみで生計を立てる
ことが困難であり、就労人口世代もとても少ないこと、味噌づくり以外には収入を得る手
段がないことから、研究者も住民も存在するが、不十分と考える要素と判断する。
《教育》
<高齢者の不十分な基礎教育>は既にある事実であり、<高齢者の読み書きの苦手さ>
は改善のための介入は困難なことから研究者も住民も十分に存在する阻害する要素と判断
する。
《社会現象》
<過疎化進行>、<高齢化進行>、<漁業衰退>はA島が、直面している対処困難な問
題であることから、研究者も、住民も十分に存在する健康維持を阻害する要素と判断する。
《疾病》
高齢者に多い疾患に対し、保健師などの介入の可能性が考えられること、また住民はそ
れを気づいていないことから、不十分で研究者が考える要素として<多くの高血圧住民へ
の食事指導>、<多くの腰痛、膝関節痛住民への支援>、<多くの白内障住民への支援>
があると判断する。
A氏はかなりの肥満であるが、それに対しての対処はみられず、<肥満対策>を存在せ
ず研究者が必要と考える要素と判断する。
D氏は狭心症にて内服治療している。防災訓練の際に救急法の講習会があり、D氏を含
む数名がAEDの使用法を学んでいるが、
「もう忘れたわ」と発言し、心配停止した人にA
EDによる救命処置は適切に実施されない可能性が高い。救急隊は定期船を臨時で呼んで
からの出動になるため片道 40 分以上かかると予想される。このため、研究者のみ不十分
で必要と考える要素として<狭心症住民への救命処置対策>をあげる。
《能力》
A島では電話は普通に使用できており、インターネットは設定すれば使用可能であるが、
誰も使用していない。40 代男性の B 氏は「テレビがあるから情報はまあね」「インターネ
ットとかは電話線ひいてあるから使えるやろうけど」と現在の状況で情報入手に不便は感
じていないようであった。しかし、行政の情報などはインターネット等の使用で多くの情
報を得られる。また、遠隔看護システムが開発されており
20 ) ,21 )、今後その活用において
もインターネットは必要になることから、研究者のみ必要と考える要素として<更なる情
報入手の必要性>があると判断する。
<高齢者の不十分な基礎教育>、<読み書きの苦手さ>や 40 代の住民の<相談相手の
少なさ>、<不十分な情報入手手段>などから、存在せず、研究者が必要と考える要素と
して<問題を外部へ発信する能力の低さ>(代弁者)があると判断する。
市町村合併前までは、高齢者支援の催し物やふるさと祭りなどあり、A島の住民もイワ
シ寿司などをだして良く売れていたが、そのようなサービスが後退し、現在は高齢者の生
46
きがい支援は、ふれあい生き生きサロンくらいになっている。婦人部の味噌つくりに対し
ても「まあ、なんぼでもでくるけどのう、すると思えば」とまだまだやれるという思いが
伺われた。これらより<能力を認められる機会>は住民も研究者も不十分で必要とする要
素と判断する。
《生きがい》
仲間との集いや猫とのふれあいなどの楽しみは、研究者も住民も十分に存在する促進さ
せる要素と判断する。
《スピリチュアル》
A島の高齢者は帯状疱疹などの罹患時、まじないを施術してもらっている。清めの水を
かけて祈るといったものであり、強制もないため阻害する要素とは考えにくい。これより
<伝統的治療(まじない)>は研究者も住民も十分に促進させる要素と判断する。
殆どの高齢者は 1 日か2日に 1 回はお墓に参っていた。40 代の男性も毎朝仏壇に手を合
わせていた。これより<先祖への畏敬>は、研究者も住民も十分に存在する促進させる要
素と判断する。
A 島では 5 名の島民がある<新興宗教>、1 名が別の<新興宗教>にはいっていた。こ
れらは個人の心の支えとなり、健康維持を促進させる反面、住民同士の人間関係に影響す
る阻害の影響もあり、両義的と判断する。<明神様信仰>は、
「海の神様やからね」と住民
が毎日自分から明神様の掃除をしたり、前を通るときは手を合わせている。毎年神主を呼
びお祭りも開催していることから、研究者も住民も十分に存在する促進させる要素と判断
する。<言い伝え遵守>は、
「明神様が犬を嫌い、犬を飼うとその家から病人がでる」とい
う言い伝えがあり、実際に A 島には犬がいず、今までもいなかったとのことである。その
ことで島民の間でトラブルになったことはないとのことであり、研究者も住民も十分に促
進的に影響する要素と判断する。
以上のように、参与観察には研究者の視点が大きく影響するため、要素の必要性の分類
は図 6 のとおりとなった。
Ⅲ.半構成的面接の中の聞き取り結果
1.
島内の一般情報提供者
76 歳女性:帯状疱疹になった時は医者に行かず、まじなってもらい治した。
ここは狭いところやから、いろいろややこしいこともある。人に気を遣う。
82 歳女性:昔は臨月でも水を汲んで運んだ。
2.
島外の一般情報提供者
県職員:A島での巡回診療再開は困難であり、検討していない。
市職員:県の方針に沿い、A島での巡回診療再開の検討はしていない。
振興局職員:市町村合併後、中止したサービスの再開は困難であり検討していない。
保健師:A島の住民に必要なものは介護予防である。
47
看護師:巡回診療再開はないだろう。A島の高齢者はとても生き生きとしている。ふるさ
と祭りでのA島の住民の作るイワシ寿司はとても好評ですぐに売り切れていた。
ヘルパー:介護予防・生きがい支援サロンに行くが、A島の高齢者から反対に元気を貰っ
ている。
定期船乗務員:A 島で漁業を営んでいるのは数名であるが、漁獲高の減少などから、漁業
のみで生計を立てるのは困難であろう。
瀬渡しの男性:海に落ちた人や、怪我をした人を約 3 人助け、自分の船で病院へ運んだ。
48
49
-
-
+
+
+
+
+
-
+
+
+
+
+
+
+
存在している要素
住民が必要と考える要素
+ 促進させるもの
± 両義的なもの
- 阻害するもの
図6 参与観察結果:健康維持に影響する要素の必要性での分類
研究者が必要と考える要素
スピリチュアル
+ 先祖への畏敬
住民も研究者も、十分に存在していると考える要素
+ 明神様信仰
存在せず、住民のみ
± 新興宗教
必要と考える要素
人との相互作用
能力
+ 伝統的治療
島内家族
+ 高い自己管理意識
+ 言い伝え遵守
+ 家族の助け合い
+ 自己管理行動
政治・法律
公的診療所再開
島外家族
+ ・バランスのよい食生活
自然環境
巡回診療再開
+ 家族との連絡
+ ・健康補助食品
+ 素晴らしい自然 + 家族の帰省
+ ADLの自立
+ ・新鮮な空気
住民同士
存在するが不十分で
+ ・美しい海,景色 + 住民同士の助け合い
社会現象
住民も研究者も必要と
+ 海産物・農産物 ± 血縁の多さ
- 過疎化進行
考える要素
- 台風・強風
+ 行事への全員参加
- 高齢化進行
+ 公的催し物参加
- 漁業衰退
政治・法律
生活環境
+ 秩序維持
災害対策
井戸水の水質
生活環境
インフラ整備
・高波対策
公共交通機関
+ 私的協働作業
古くからある店の協力
・危険箇所補強工事 し尿による水質,
- 集団への入り難さ
存在するが、不十分で
定期船運航
防災訓練
土壌汚染の危険性
- プライバシーの保ち難さ
研究者のみ必要と
悪天候時の定期船運休
防災マップ
経済
± 女性区長の不在
考える要素
存在せず、
定期船会社の運賃割引
島外の人々
緊急時対策
収入を得る手段
住民も研究者も
生活環境
タクシー会社の運賃割引
し尿処理対策
雇用
+
ふれあい
必要と考える要素
近隣医療施設
・定期船乗務員
放置トラックによる
市営住宅改修
治安のよさ
・仕事に来た人々
有害物質土壌汚染の危険性
行政に要望を訴える機会
生活環境
通院にかかる高い交通費
廃棄ガス,騒音のなさ
・観光客
ゴミ焼却による
要望に対する行政の対応
特殊診療の受け難さ
認知症発症の少なさ
+ 漁師からの魚の提供
ダイオキシンの危険性
医療情報
広場,集会所
+
親族,知人との
人との相互作用
政治・法律
必需品
贈り物やり取り
疾病 住民2名の狭心症
ボランティア協力
緊急時漁船での傷病者移送未許可
・大きな冷凍庫
多くの高齢者にある高血圧
・一輪車・船
在宅介護の受け難さ
政治・法律
腰・膝関節痛
+ 救急隊出動
ヘリポート設置
能力 更なる情報入手手段
+ 緊急時定期船出動
生ゴミ対策
(インターネット等)
教育
+ 緊急時定期船使用時
政治・法律
合併後の行政サービスの後退
生きがい
高齢者の不十分な基礎教育
公的運賃割引
困りごと相談
読み書きの苦手さ
+ AED設置
楽しみ
保健師訪問
・猫とのふれあい
+ ・仲間との集い
+ ・介護予防,生きがい
存在せず、研究者のみ必要と考えるる要素
支援サロン
能力 外部へ意見を発信するのY力の低さ
+ ・園芸
疾病 多くの住民にある白内障
第5章
考察
Ⅰ.健康維持に影響する要素
1.要素の世代的・背景的特長
要素は類似性の分類で 11 種類に分けられた。この中で《人との相互作用》、
《自然環境》、
《生活環境》、《政治・法律》、《能力》、《生きがい》、《スピリチュアル》は全員に共通した
が、
《経済》、
《教育》、
《社会現象》、
《疾病》は共通に見られなかった。また、各分類の中の
要素は各世代で違いがみられた。これらの違いは個人的なものではなく、世代的・背景的
特徴であるかを検討した。
1) A 氏、B 氏、C 氏になかった《教育》
高齢者 70 代、80 代には<不十分な基礎教育>による<読み書きの苦手さ>という《教
育》に関する要素があったが、他の世代にはみられなかった。各世代の基礎教育の背景を
分析すると以下のことがわかった。A 島の学校の記念誌によると、87 歳 E 氏の子供の頃
は、やっと A 島に小学校ができ中学校はなかった。D 氏が子供の頃は、小学校低学年で終
戦を迎え、やっとできた中学校にも週毎に九州本土から教師が 1 名派遣されるといった状
況であった。C 氏が小、中学校に行く頃には教育環境は以前に比べかなり改善されていた。
また、C 氏は読書を楽しみにしている。B 氏が高校に進学する頃は日本の高校進学率は 9
割を超えていた。これらのことより、70 代、80 代の世代的特長として、<不十分な基礎
教育>、<読み書きの苦手さ>があると判断する。
2) C 氏になかった《疾病》
面接の結果では C 氏は体調に問題はなかった。しかし、疾病は全世代に起こりうること
であり、C 氏の個人的特長と判断する。
3) A 氏、C 氏になかった《社会現象》
A 氏の要素には《社会現象》の<過疎化進行>、<高齢化進行>、<漁業衰退>はみら
れなかった。しかし、参与観察結果で漁業のみでは生計は困難ということがわかった。A
氏宅の主たる収入は夫の漁と副業、A 氏の夫の漁の手伝いである。A 氏の生活に関わる漁
業衰退は A 氏に影響する要素と考える。
一方、C 氏に関しては、A 島にあるこの様な《社会現象》を承知した上で帰郷している。
このことより、《社会現象》は、A 氏には影響するが C 氏にはあまり影響せず、社会現象
に世代的・背景的特長はないと判断する。
4) C 氏になかった《経済》
C 氏は仕事をリタイアし、夫の健康を考え A 島に帰郷した。A 島には<雇用の少なさ>
などの《経済》的問題があることを十分に承知であった。これより、C 氏には《経済》は
あまり影響しない要素と判断する。
5)A 氏、B 氏に共通する<相談相手の少なさ>
42 歳、49 歳の 2 名には<相談相手の少なさ>が共通していたが他の世代にはみられな
かった。A 島は実際の高齢化率は 75%であり、人口が 20 人であることから、65 歳未満の
50
人口は 5 人である。この 2 名には、同世代、同性といった住民が全く、或いは殆どいず、
一人で家にこもっていたり、猫たちを可愛がったりしていた。これより、<相談相手の少
なさ>は 40 代 2 名の世代的特徴と判断する。
6)A 氏、C 氏に共通する<集団への入り難さ>
<集団への入り難さ>は A 氏、C 氏に共通した要素であった。この 2 名に共通している
ところは、新たに外部から入ってきたことである。A 氏は 20 代で島へ嫁いできた。C 氏
は A 島の生まれであるが、50 年程島を離れ最近帰郷した。これより、新たに島に入って
きたという同じ背景を持つ 2 名に共通の要素として<集団への入り難さ>があると判断す
る。
7)D 氏、E 氏に共通する<能力を認められる機会の少なさ>
80 代には<能力を認められる機会の少なさ>があり、70 代にも<合併後のサービスの
後退>(離島交流会、ふるさと祭りの中止)という能力を発揮する機会の減少が含まれる
ものがあったが他の世代にはなかった。能力を認められたいという願いは誰にも共通に存
在するが、加齢とともに活動の範囲が減少する高齢者に特に大きく影響する要素と判断す
る。
8)D 氏、E 氏に共通する<高血圧、白内障、腰・膝関節痛>
これらの疾病は加齢による影響が大きいため、D 氏、E 氏の世代的特長と判断する。
9)D 氏、E 氏に共通する<診療にかかる高い交通費>、<特殊診療の受け難さ>
これらは、加齢による身体的問題の増加とそれに関する診療面での問題であり、D 氏、
E 氏に共通する世代的特徴と判断する。
10) C 氏のみにあった、<住民の自助努力の少なさ>、<住民の行政への消極的な関わり
>、<島での暮らし存続の不明瞭さ>
仕事をリタイアし帰郷した 60 代には上記の住民への批判的な要素があったが、他の住
民にはなかった。<住民の自助努力の少なさ>、<住民の行政への消極的な関わり>は 50
年ぶりに帰郷した C 氏が、住民を客観的に見られることからくるものと判断する。団塊世
代の大量定年時代を迎え、C 氏のように帰郷する人の存在が考えられることから世代的な
特徴と判断する。<島での暮らし存続の不明瞭さ>は C 氏の個人的な要素と判断する。
以上より、要素の世代的・背景的特長として、40 代の 2 名の世代的特長である<相談相
手の少なさ>、新たに島へ移り住んだ住民の背景的特長である<集団への入り難さ>、帰
郷した団塊世代の世代 1 名の世代的、背景的特長である<住民の自助努力の少なさ>、<
住民の行政への消極的な関わり>、70 代、80 代の世代的特長である<不十分な基礎教育
>、<読み書きの苦手さ>、<能力を発揮する機会の少なさ>、<高血圧、白内障、腰・
膝関節痛>、<診療にかかる高い交通費>、<特殊診療の受け難さ>があることがわかっ
た。
51
2.各分類名が指すもの
要素を類似性で分類した結果、
《人との相互作用》、
《自然環境》、
《生活環境》、
《政治・法
律》、《経済》、《教育》、《社会現象》、《疾病》、《能力》、《生きがい》、《スピリチュアル》の
11 項目の分類名があがった。しかし、分類名が抽象的であるため、それぞれの分類名は何
を指しているのかについて、各分類に含まれている要素を類似性で統合し考察した。
《人との相互作用》
《人との相互作用》では 5 名全員に共通した要素として<住民同士の助け合い>があっ
た。これは、A 島は悪天候時、定期船が運休になり孤立した状況におかれること、島民は
20 名しかいず殆どが高齢者であるため、常にお互いの健康を気遣い助け合う関係にあるこ
とからきていると考える。このため<住民同士の健康>はこれに含まれると考える。<血
縁の多さ>という状況は、<住民同士の強い繋がり>の要因となり、これは、更に<住民
同士の助け合い>を促進させていると考える。<帰郷した人への感謝>は、帰郷した C 氏
夫妻と、彼らの島民に対する協力的な姿勢を評価していると考える。このため、これも<
住民同士の助け合い>に含められると考える。家族に関しては、4 名が<家族の助け合い
>を挙げ、他にも<家族の思いやり>、<家族の健康>、<家族の団欒>があった。そし
て、島内のみならず、<島外の家族との助け合い>、<島外家族とのふれあい、支え>を
あげ、連絡を取り合い、帰省を楽しみにしていた。これらは<家族の助け合い>としてま
とめられると考える。家族以外の島外の人々との相互作用として<島外の人々とのふれあ
い(定期船乗務員・仕事で来た人々・観光客・行政関係者・近隣商店店員)>、<ボラン
ティアの協力>、<漁師からの魚の提供>、<贈り物のやり取り>があった。島民は仕事
で島に来ている人々に休憩場所を提供したり、昼食のおかずを差し入れたりしており、そ
のお返しとして広場の草刈をしてもらったりとお互い助け合う関係をつくっていた。これ
らは<島外の人々との助け合い>にまとめられると考える。この他に、<習慣の維持>、
<観光客のマナーの悪さ>、<行事への全員参加>、<私的共同作業>がある。小さな島
では島民同士の協力が不可欠であり、そのための島の習慣を守ることに対しての意識が高
いと考える。このため、これらの要素は<習慣の維持>としてまとめられると考える。ま
た、新たに島へ移り住んだ住民からは<集団への入り難さ>、<新たな人間関係構築の難
しさ>、<元住民との気持ちの通じ難さ>、<お返しの習慣故のボランティアのやり難さ
>、<複雑な人間関係>があった。これらは<集団への入り難さ>としてまとめられると
考える。アメリカの政治学者、ロバート・パットナムは、ソーシャルキャピタルの定義を
「人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる『信頼』
『互酬性の規範』
『ネットワーク』といった社会組織の特徴であり、これには結合型と橋渡
し型とがある」と述べている。そして「結合型は社会の接着剤ともいうべき強い絆、結束
によって特徴づけられ、内部志向的であると考えられる。このため、この性格が強すぎる
と『閉鎖性』『排他性』に繋がる場合もありえる」 23 ) としている。A 島の状況は正にこれ
をよく表していると考える。
52
3 年前に帰郷した 65 歳の女性には、A 島での暮らしで<新たな人間関係構築の難しさ>、
<気持ちの通じ難さ>、<お返しの習慣故のボランティアのやり難さ>がみられた。砂場
らは農村地域における転入状況からみた居住地の整備要件に関する研究の中で、居住後の
評価として「I ターン、U ターンともに転入の選択時には重視されなかった人間関係や伝
統・行事が居住後の評価に影響する」 24 ) と述べている。離島限界集落である A 島に一人
でも多くの住民が帰郷し、定住できるためにはこの点を視野におく必要性があると考える。
<過干渉な関係>、<プライバシーの保ち難さ>は類似した内容であり、<プライバシ
ーの保ち難さ>にまとめられると考える。島では若い 40 代住民の男女各 1 名には<相談
相手の少なさ>があった。これは A 島では高齢者を支える重要な人材である 40 代住民に
共通する問題と考える。《人との相互作用》が指しているものは、「住民同士、家族、島外
の人々との助け合い」「習慣の維持」「集団への入り難さ」「プライバシーの保ち難さ」「相
談相手の少なさ」と考える。
《自然環境》
《自然環境》の中の要素は、5 名全員に<素晴らしい自然>がみられた。具体的なもの
として、<美しい海岸の景色>、<新鮮な空気>、<恵みの海>という要素があがってい
る。これらは<素晴らしい自然>に含まれると判断する。また、<過酷な自然環境>とし
て、<台風、強風>があった。A 島は平地が少なく風速が海上と殆ど変わらない。台風の
際は住宅がある平地を波が通過することもある。これらは、<素晴らしい自然>に対し<
厳しい自然>としてまとめられると考える。以上より、《自然環境》が指しているものは、
「素晴らしい自然」「厳しい自然」と考える。
《生活環境》
《生活環境》の中の要素は、まず交通の不便さに関わるものとして、<悪天候時の定期
船運休>、<公共交通機関の不便さ>、<診療にかかる高い交通費>、<特殊診療の受け
難さ>がある。<定期船運賃割引>、<タクシー会社運賃割引>などの支援はあるにして
も、一度の眼科診察のために交通費が約 6,000 円かかる状況である。これらは「交通の不
便さ」としてまとめられると考える。そして、殆どの高齢者は定期的な通院や様々な症状
の発症で受診をする機会が多く、これらは健康維持のために削ることのできない支出とし
て負担となっていた。このため「診療にかかる高い交通費」として挙がると考える。<廃
棄ガス・騒音の少なさ>、<ストレスの少なさ>、<認知症発症の少なさ>、<治安の良
さ>、<島民の社交的な雰囲気>、<島の穏やかな雰囲気>は「穏やかな雰囲気」として
まとめられると考える。<生活にかかる費用の安さ>、<インフラ整備>、<定期船運航
>、<下水道整備>、<必需品:大型冷凍庫・携帯電話・運搬用一輪車・船>は生活環境
が改善され、便利になった内容である。このため「暮らしの便利さ(整備されたインフラ・
生活必需品)」としてまとめられると考える。<食料品・日用品を扱う店の不在>、<図書
館閉鎖>、<医療施設の不在>が挙がっていたが、<古くからの店の電話注文>や、自ら
診療に赴くことで対処できていると考える。このため、
《生活環境》が指しているものは「交
53
通の不便さ」
「診療にかかる高い交通費」
「穏やかな雰囲気」
「暮らしの便利さ(整備された
インフラ・生活必需品)」と考える。
《政治・法律》
《政治・法律》の中の要素は、<不十分な高波対策>、<不十分な崖崩れ対策>、<不
十分な防災訓練>という災害対策に関するもの、そして<不十分な救急法講習>、<緊急
時漁船での傷病者運搬の未許可>という緊急時対策に関するもの、<ヘリポート未設置>
という両者に関するものがあった。これらは「不十分な災害・緊急時対策」としてまとめ
られると考える。住民にとって有効な対策として<緊急時救急隊出動>、<緊急時定期船
出動>、<AED 設置>があったが、月数日は悪天候により定期船が運休すること、AED
が設置されていても実際住民は使いこなせる状態ではないことから、これらも「不十分な
災害・緊急時対策」にまとめられると考える。この他に<在宅ケアの受け難さ>、<県の
医療・福祉対策の遅れ>、<医療情報の乏しさ>、<合併後行政サービスの後退>、<診
療所閉鎖>、<巡回診療中止>、<保健師訪問の不十分さ>があり、これらは「在宅ケア・
医療支援の受け難さ」にまとめられると考える。また、日常生活に関するものとして<不
十分な生ゴミ対策>、<し尿処理対策(水洗トイレ未整備)>、<し尿による土壌・水質
汚染の危険性>、<水質の悪さ(水道水・井戸水)>、<放置トラックによる有害物質土
壌汚染の危険性>、<ゴミ焼却によるダイオキシンの危険性>、<合併後行政サービスの
後退>、<困り事相談の活用のし難さ>、<市営住宅要改修>、<行政視察の不十分さ>
があり、これらは「不十分な生活支援」にまとめられると考える。数年前帰郷した団塊の
世代の住民からは<住民の行政への消極的な関り>という批判的なものがあり、これはそ
のまま挙げることとする。このため《政治・法律》が指しているものは「不十分な災害・
緊急時対策」「在宅ケア・医療支援の受け難さ」「不十分な生活支援(ゴミ・し尿)」「住民
の行政への消極的な関り」と考える。
《経済》
《経済》の中の要素は、<雇用の少なさ>、<収入を得る手段の少なさ>、<観光収入
の低さ>、<夫の仕事>、<夫の漁の手伝い>であった。これらはすべて生活する上での
収入に関する内容である。収入を得る手段は雇用のみではないため、<雇用の少なさ>は
<収入を得る手段の少なさ>に含まれると考える。<夫の仕事>は漁業であり、A 島では、
現在漁業のみでの生活は困難な状況である。これより、
《経済》が指しているものは「収入
を得る手段の少なさ」と考える。
《教育》
《教育》の中の要素は、<高齢者の不十分な基礎教育>、<多くの高齢者の読み書きの
苦手さ>であった。高齢者が育った時代の背景として、基礎教育が不十分であったことは
事実であるが、個人的な背景により、その時代の人々すべて読み書きが苦手とは断言でき
ないと考える。このため、《教育》が指すものは「高齢者の読み書きの苦手さ」と考える。
54
《社会現象》
《社会現象》の中の要素は、<過疎化進行>、<高齢化進行>、<漁業衰退>であった。
これらはすべて関連している。漁業を担うには人材が必要であり、根本にある問題は過疎・
高齢化進行と考える。このため《社会現象》が指すものは「過疎・高齢化進行」と考える。
《疾病》
《疾病》の中の要素は、<喘息>、<頚椎損傷後知覚鈍麻>、<狭心症>、<高齢者に
多い高血圧、白内障、腰・膝関節痛>であった。疾病は個人により異なるため、健康維持
に影響する要素として「疾病」そのものでも理解可能と考えるが、島の人口の 4 分の 3 を
占める高齢者の多くが、高血圧、白内障、腰・膝関節痛という高齢に伴う疾病があったこ
とは特徴的である。これより、
《疾病》が指すものは「疾病(特に高齢者に多い高血圧、白
内障、腰・膝関節痛)」と考える。
《能力》
《能力》の中の要素は、<高い自己管理意識>、<自己管理行動>があり、その具体的
な行動として、<身体損傷予防>、<磯での危険回避>、<健康的な食生活>、<質の良
い飲料水入手>、<確実な内服・受診>、<毎日の血圧測定>、<バランスのよい食生活
>、<健康補助食品摂取>、<車椅子を想定した家の改造計画>、<気持ちのもち方>が
あった。<高い自己管理意識>と<自己管理行動>は 5 名全員にあり、緊急時直ぐに救急
隊が到着するとは限らない A 島の環境において、自分の健康を管理する意識や行動が高い
と考える。これらは「高い自己管理意識・行動」としてまとめられると考える。その他に
は<仕事で鍛えられた体力>、<ADL の自立>があった。A 島では<ADL の自立>が困
難になると島から出て行くため、<ADL の自立>が大きく影響していると考える。体力は
これに含まれると考える。また他に、<塩分の多い食生活>、<救急法の知識・技術不足
>があった。A 島は、救急隊が到着するまで最低 40 分はかかる。また、悪天候で船が出
せない時は救急隊が来ることができない。このような地域にこそ住民が救急法についての
知識・技術を習得していることが重要と考える。住民は自己管理意識が高く、健康行動も
とっているが、食生活、救急法に関して知識不足、技術不足の点がある。このためこれら
は「自己管理の知識・技術不足(食生活・救急法)」にまとめられると考える。実際の人口
は 20 名である A 島において、4 分の 3 を占める高齢者は読み書きが苦手であること、イ
ンターネットを誰も使用していないことなどから、<外部に意見を発信する能力の低さ>
があり、これは一つの大きな問題であると考える。最近帰郷した団塊世代の住民からは<
住民の自助努力の少なさ>があった。これが A 島住民全体を客観的にみた意見であると考
える。<コミュニケーション能力>については、人との相互作用に含めて考えることとす
る。これより《能力》が指すものは「高い自己管理意識・行動」
「ADL の自立」
「自己管理
の知識・技術不足(食生活・救急法)」
「外部へ意見を発信する能力の低さ」
「住民の自助努
力の少なさ」と考える。
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《生きがい》
《生きがい》の中の要素は、<家事>、<島の暮らしを守る役割>、<ボランティア>、
<島民との協働>、<人の役に立つこと>、<リーダー的役割>、<味噌工場の設立・運
営>があり、これらは<役割意識>としてまとめられると考える。そして、この役割を発
揮する機会が少ないという意味で<能力を認められる機会の少なさ>がある。次に、<誇
り>として、<島の世話役である夫>、<大型冷凍庫>、<やってきた仕事>、<今まで
の生き方>、<長い信頼関係>があると考える。<楽しみ>として、<猫とのふれあい>、
<仲間との集い>、<介護予防・生きがいサロン><読書>、<音楽>、<アイドル>、
<テレビ>、<パクロス>、<空想>、<パチンコ>、<貝拾い>、<保存食作り>、<
園芸>、<家庭菜園>がある。更に、<夢・希望>として<島での暮らし存続の願い>が
ある。<誇り>、<楽しみ>に関しては、内容に個人差があるため、個別的な内容の提示
は不要と考える。<夢・希望>に関しては<島での暮らし存続>についてであるため、<
夢・希望>と表現を変える必要はないと考える。以上より《生きがい》が指すものは「役
割意識」「能力を認められる機会の少なさ」「誇り」「「楽しみ」「島での暮らし存続の願い」
と考える。
《スピリチュアル》
《スピリチュアル》の中の要素は、<先祖への畏敬>、<明神様信仰>、<新興宗教>、
<伝統的治療(まじない)>、<言い伝え遵守>、<道徳的価値観>であった。<言い伝
え遵守>は明神様が犬を嫌い、犬を飼うとその家から病人がでるというものである。島民
はこれに従い誰も犬を飼っていない。これは霊的な意味もあるが、習慣の維持に含まれる
と考える。道徳的価値観も習慣の維持にもあてはまると考える。<先祖への畏敬>、<明
神様信仰>、<新興宗教>は「宗教」としてまとめられると考える。これより、
《スピリチ
ュアル》が指すものは「宗教」「伝統的治療(まじない)」と考える。
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57
±
+
+
+
+
+
+
-
+
+
+
+
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+
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±
-
+
+
+
+
-
住民が必要とする要素
素晴らしい自然
政治・法律
生きがい
・保健師訪問
周囲から能力を認められる機会
疾病
2名の狭心症住民
多くの高齢者にある高血圧・腰膝関節痛
能力 更なる情報入手手段
・困りごと相談の活用し難さ
・定期船乗務員
・空気,海,景色
・仕事に来た人々
・恵みの海
・ボランティア
海産,農産物
・観光客
台風,強風
・行政関係者
教育
(インターネット)
・宗教関係者
- 高齢者の不十分な基礎教育
+ 漁師からの魚の提供 - 高齢者の多くは読み書きが苦手
存在せず、研究者のみ必要と考える要素
+ 知人の訪問
社会現象
能力 外部へ意見を発信する能力の低さ
味噌作り後継者の不在
- 過疎化進行
全対象
疾病 多くの高齢者にある白内障
森林を手入れする人の不在
+ 贈り物やりとり
- 高齢化進行
促進させるもの
- 漁業衰退
両義的なもの
研究者が必要とする要素
阻害するもの
図7 健康維持に影響する要素の全体図
穏やかな雰囲気
悪天候時の定期船運休
治安の良さ
廃棄ガス・騒音の少なさ
必需品
・大きな冷凍庫・船
・携帯電話・一輪車
認知症発症の少なさ
女性区長の不在
社交的な雰囲気
・読書・音楽
自然環境
+ 島外の人々との
ふれあい
生活費の安さ
存在している要素
ヘリポート設置
生ゴミ対策
在宅ケアの受け難さ
住民も研究者も、十分に存在していると考える要素
生きがい
スピリチュアル
役割意識
存在せず、住民のみ
+ 先祖への畏敬
人の役に立つ
必要と考える要素
+ 明神様信仰
リーダー的役割
政治・法律
± 新興宗教
・味噌工場設立・運営 + 伝統的治療
診療所再開
存在するが、
・婦人部長
不十分で 住民のみ
巡回診療再開
+ 言い伝え遵守
島の暮らしを守ること
+ 道徳的価値観(人に助けら
必要と考える要素
生活環境
食料品,日用品
家事
れたたから人を助ける) 人との相互作用 観光客のマナーの悪さ
島民との協働
住民の自助努力の少なさ
政治・法律
を扱う店
政治・法律 住民の行政への消極的な関わり
誇り
+ 救急隊出動
医療機関
やってきた仕事
+ 緊急時定期船出動
定期船荷物運賃
過酷な仕事に耐えた経験 + 緊急時定期船出動時
近隣の図書館
島の世話役である夫 公的運賃割引
存在するが、不十分で
政治・法律 住民も研究者も必要と考える要素
ボランティア
+ AED設置
今までの生き方
災害対策
経済
人との相互作用
長い信頼関係(古くからある店)
・防災訓練
収入を得る手段
帰郷する人 ・高波対策
観光収入の低さ
相談相手
夢・希望
存在せず、
島での暮らし存続の願い
・崖崩れ対策 雇用
ボランティア
生活環境
島での暮らし存続の不明瞭さ
緊急時対策
夫の仕事
住民も研究者も
楽しみ
存在するが
救急法講習
夫の漁の手伝い
し尿による土壌,
必要と考える要素
・猫とのふれあい(癒し) 不十分で
医療情報
水質汚染の危険性
生活環境
・仲間との集い
行政に要望を訴える機会
水質の悪さ
通院にかかる高い交通費
研究者のみ必要
・テレビ
要望に対する行政対応
(水道水・井戸水)
特殊診療の受け難さ
と考える要素
政治・法律
・保存食作り
生活環境
県の医療・福祉対策のい遅れ 公共交通機関
合併後の行政サービスの後退
・家庭菜園
離島振興補助金の適切な使用
放置トラックの有害物質
・介護予防サロン
し尿処理対策 行政視察
(離島交流・ふるさと祭り
土壌汚染の危険性
・貝ひろい
緊急時漁船での傷病者運搬許可
ゴミ焼却のダイオキシンの危険性
疾病
高血圧
頚椎損傷後知覚鈍麻
白内障
喘息
椎間板ヘルニア・坐骨神経痛
歯科,口腔科疾患
能力
人との相互作用
+
高い自己管理意識
+
島内家族
自己管理行動
+ 助け合い
・確実な・受診・血圧測定 + 互いの健康
・車椅子生活を想定した + 団欒
+
島外家族
+
家の改造計画
・身体損傷予防
+ ふれあい、支え
+
・磯での危険回避
+ 帰省
・よい食生活
- 心配(不良の孫)
+
・健康補助食品
(病気の孫) +
・質の良い飲料水入手
住民同士
+
+ 助け合い
+
・気持ちの持ち方
なるようにしかならない + 互いの健康
+
+ 強い繋がり
+
現状の受け入れ
ADLの自立
± 血縁の多さ
仕事で鍛えられた体力
+ 帰郷した人への感謝 +
コミュニケーション能力
+ 秩序維持
±
生活環境
+ 行事参加・私的協働作業
インフラ整備
- 集団への入り難さ
+
下水道整備
- 複雑な人間関係
+
- 気持ちの通じ難さ
+
(水洗トイレ)
定期船運航
- 人間関係構築の難しさ
+
古くからの店の電話注文 - お返しの習慣故の
+
近隣医療機関
ボランティアのやり難さ +
運賃割引
- プライバシーの保ち難さ +
(定期船,タクシー)
- 過干渉
+
3.要素の全体図
要素を類似性、必要性で分類した結果、健康維持に影響する要素の全体図(図 7)がで
きあがった。要素は住民も研究者も十分に存在していると考える要素、存在するが不十分
で住民も研究者も必要と考える要素、存在するが不十分で住民のみ必要と考える要素、存
在するが不十分で研究者のみ必要と考える要素、存在せず住民も研究者も必要と考える要
素、存在せず住民のみが必要と考える要素、存在せず研究者のみが必要と考える要素に分
類できた。そして、住民も研究者も十分に存在する要素に関しては、健康維持を促進させ
るもの、阻害するもの、両義的なものがあった。図 7 からは必要性において研究者と住民
との考えに相違がでてきた要素があることがわかる。住民が考えず、研究者のみが必要と
考える要素はどのようなものなのかを明確にすることは、看護介入の必要性がより明確に
なると考える。
研究者のみ必要と考える要素は、<放置トラックの有害物質土壌汚染の危険性>、<ゴ
ミ焼却によるダイオキシンの危険性>、<困りごと相談の活用のし難さ>、<保健師訪問
の不十分さ>、<2 名の狭心症住民>、<住民に多い高血圧、白内障、腰・膝関節痛>、
<更なる情報入手手段(インターネット)>、<外部へ意見を発信する能力の低さ>であ
る。
これらの要素に対し、住民は気付いていなかったり、その可能性や権利があることを知
らずにいた。A 島には保健師が 2 ヶ月に一度、ふれあい生き生きサロンに同行するかたち
で訪れているが、
「A 島に必要なものは介護予防です」と語り、上記に挙げた要素について
の認識は十分に聴取できなかった。当然、公的機関の方針に基づいているので、個人的な
見解の妥当性でなく、地域保健政策としての在り方が問題となる。A 島は平成 15 年に巡
回診療が中止となっているが、これは単に住民が診療のために医療施設へ出向くという変
化にとどまらず、健康の専門家が住民の住む環境を観察する機会が失われ、問題が放置さ
れる可能性があるという負の影響があると考える。
Ⅱ.看護介入の可能性
健康維持に影響する要素の全体図(図 7)の研究者が必要と考える要素が看護介入の可
能性のある要素ではないかと考え、そこに挙がっている要素について考察する。
<相談相手の少なさ>
これは 40 代住民に共通してみられた要素である。第 2 章の文献検討でも述べたが、限
界集落住民に対する看護研究では、主に高齢者を対象にした研究が多く、住民をトータル
に研究したものは少なかった。本研究で 40 代住民の世代的特徴が明らかになったことで、
限界集落には貴重な存在である高齢者以外の住民に対しても介入の必要性があることがわ
かった。看護介入としては、声かけ、相談があると考える。
<ボランティアの協力>
現在 A 島では民間企業による島の清掃や地域のボランティアによる薪の切り出しなどが
58
行われている。高い高齢化率である A 島では、こういったボランティアの協力は住民にと
ってとても助かる存在である。現在ある活動の存続や新たな協力を得るためにも、看護介
入として社会資源を活用するための行政・民間組織との協力、調整があると考える。
<し尿による土壌・水質汚染の危険性>、<ゴミ焼却によるダイオキシン発生の危険性>、
<放置トラックによる土壌・水質汚染の危険性>
これらは住民が気付いていなかったが研究者が必要と考えた要素である。公衆衛生の知
識をもった看護者が環境汚染(水質・土壌・大気)の観察を行い、異常時は行政へ報告、
相談するという介入が考えられる。
<通院にかかる高い交通費><特殊診療の受け難さ>
A 島の高齢者の通院は、定期船で渡った近隣の医療施設であればそれ程負担にはなって
いないが、より専門的治療や眼科、整形外科などの特殊診療においては交通費が報復 6,000
円以上かかるため、かなりの負担になっていた。これらに関しては行政や民間と協力した
通院手段の工夫、遠隔看護システム、少しでも近い医療施設へ行けるための医療情報の提
供があると考える。
<不十分な災害対策>
A 島では高波、崖崩れなどに対して対策が実施されているが、研究結果から対策の不十
分な点がいくつか認められた。以前にも増して世界的に災害が増加し、日本では東南海地
震発生が危惧される中、A 島もその対策推進地域に該当しており災害対策の充実が必要と
考える。看護介入として行政へのはたらきかけ、災害時要援護社の支援体制整備があると
考える。
<不十分な緊急時対策>
A 島には AED が設置され救急法講習会も開催されているが、自ら狭心症である婦人部
長でさえ AED の使用にはあまり関心がなかった。計 2 名の狭心症住民がおり、心筋梗塞
発症時の救命は AED しかないと考える。定期船運休時は緊急時であっても救急隊の出動
が不可能になるA島では、住民が自分たちの力で緊急時に対処しなければならず、救急法
についての知識・技術を身につけておくことが他の地域に増して重要と考える。数少ない
講習会で手技を習得するのは困難であるため、A島で年 1 回程度消防が実施している救急
法講習会へ看護師も関り、島の中心人物数名に焦点を当て講習し、その後も定期的にフォ
ローするなどして住民の知識、技術の向上に努めることは有効あると考える。また、これ
は住民の役割意識、生きがいにも繋がるのではないかと考える。
<在宅ケア、医療支援の受け難さ>
高齢者の多くは「おられるまでおりゃあいい。悪うなったら(島から)出て行くしかな
いわ。娘のとこ行くか、養老院に入るか・・」と身体的な衰えにより、自力での生活が困
難になった時にA島で暮らすことを諦めているように感じられた。実際、A島で在宅ケア
を利用している住民は一人もいなかった。しかし、坐骨神経痛による痛みを抑えながら家
事や味噌つくりを行っている高齢者 1 名は「車椅子でも暮らせるようにってな。大工の息
59
子が家を改造してくれるって言ってるんよ」と近い将来、ADLの自立に多少支障はきた
してもA島で暮らし続けられる方法を考えていた。在宅ケアを受けるためには、まず住民
が申請することから始る。<高齢者の不十分な基礎教育>、<高齢者の読み書きの苦手さ
>はこうした医療情報を理解し、活用する手段を阻害していると考える。住民がスムーズ
に在宅ケアを受けられるための看護介入の必要性が上げられる。
<疾病:高血圧、白内障、腰・膝関節痛>
ここでは、これらに関する自己管理について述べる。A島住民は緊急時であっても定期
船運休時は<救急隊出動>の支援を受けられないといったことから、<薬は絶対飲み忘れ
ん>といった<高い自己管理意識>をもっていた。そして<毎日の血圧測定>を実施した
り<健康補助食品>を意識的に摂取したりしていた。食生活ではインスタント食品は殆ど
摂らず、自分たちで料理をしていた。ただ、<塩分の多い食生活>であった。介護予防・
生きがいサロンの昼食会で、保健師が「薄味ですよ」と作ってきた煮物を出した際、「こ
んな味付けじゃあ食べられん。あとでうちが炊きなおす。薄味にもほどがある」と減塩に
ついての意識は低かった。<高齢者に多い高血圧>に対し、減塩を中心とした食事指導の
必要性があると考える。また、白内障については、診療の受け難さから勝手に自己判断し
通院を中断したりしていた。視力低下は生活する上で支障となり、確実に治療ができるた
めの介入が考えられる。腰・膝関節痛については、ふれあい生き生きサロンで、介護予防、
転倒予防の体操を実施し殆どの高齢者が参加しており、引き続き行われる必要があると考
える。一方、介護保険を申請している高齢者はいない。身体機能の低下に対する住宅改修
などを受けられる可能性もあり、情報を提供し調整するなどの介入が考えられる。
<能力を認められる機会の少なさ>について
A 島の高齢者は以前、皆自家製の味噌を作っていた。14 年前から婦人部が味噌作りを
し、「○○味噌」として販売している。婦人部は主に 5 名の 70 代の高齢者しか参加して
おらず、他の高齢者は参加したくても入れない雰囲気がある。また、市町村合併後、ふ
るさと祭りをはじめ、様々な生きがい支援に関わるサービスが中止され、再開の話はま
ったくない。霜田らは、離島ひとり暮らし高齢者の主観的な社会的役割と関連要因の研
究で、「高齢者が社会的役割を実感するためには、第三者からの評価が重要であり、日ご
ろ何気なく行っている活動に関しても、保健師等がその活動の意義などをあらためて声
をかけることで、高齢者はその社会的役割を感じられやすくなるのではないかと考えら
れる」 25) とある。また、篠原らは「『期待役割の遂行』と『社会貢献の可能性』が 3 年後
の要介護状態と有意な関連を示した」 10 ) とあり、高齢者が何らかの役割を果たしている
ことが健康維持に影響すると言える。このように<能力を認められる機会の少なさ>に
対し、専門知識をもった看護師が訪問し、些細な問題の住民レベルでの解決策を提言す
ると同時に、住民の行っていることを労い、評価し、励ますという介入が効果を示す可
能性は大いにあると考える。これらは声かけ、評価的サポートという介入として考える。
60
<外部へ意見を発信する能力の低さ>
A 島住民の高齢者は、<不十分な基礎教育>から<読み書きが苦手>であること、40 代
の住民には、<相談相手の少なさ>があることから、<外部に意見を発信する能力の低さ
>があった。
看護師は住民の思いや問題、新たな提言を行政・民間組織など外部へ届けるという代弁
者としての役割が期待できると考える。
<更なる情報入手手段の少なさ>
A 島では、75%を占める高齢者のみならず、他の住民もインターネットを使用していな
い。情報の殆どはテレビから入手することが多くそれで十分と考えている。しかし、A 島
の問題として行政サービスに関するものも多く、それに関する情報は行政のホームページ
から多く入手することができ、意見を載せることも可能である。上記に挙げた<外部へ意
見を発信する能力の低さ>に対しても、健康管理に対する遠隔看護サービスを受けるにし
てもインターネットは重要で、このための技術的支援の介入があると考える。
<帰郷する人>
本研究自体が、A 島に人が住み続けられるための健康面での介入をテーマにしたもので
ある。過疎化を防ぐための看護単独での介入は困難と考える。
健康維持に影響する要素と看護介入の可能性は図 8 のようになった。
全体として
レイニンガーは「文化的価値観、政治、宗教、経済、社会関係などがどのようにケアリ
ングパターンに影響を与えるかを考えることは、看護ケアの質的向上につながる。
(中略)
文化ケア理論を用いれば健康と安寧を増進し、病気を予防する多様なケアの様式につい
ての看護師の認識は拡大するであろう」 26 ) と述べている。本研究で、A 島の文化を詳細
に観察したことで、40 代住民の相談相手の少なさへの支援や狭心症住民への救命処置対
策、意見を発信する能力の低さへの支援など、既存の文献にはあまり見られない看護介
入が見いだせた。しかし、現在、地域で活動する看護職の数は少なく、以上述べたよう
な看護介入を行うには、システムを作ることから始めなければならない。実働保健師数
43,446 人に対し、実働看護師数 1,252,224 人
27 ) と約
30 倍であることに加え、2006(平
成 18)年時点で約 64 万人を越える潜在看護師がいると推計されており
28 )、その数は無
視できず、今後いっそうの地域での看護職の活躍が期待できるのではないかと考える。
国際看護協会は看護の将来のヴィジョンとして、看護職がケアを提供する人、すること
ができていない人すべてに、社会的正義、保護、ケア、治療を受ける権利があると謳っ
ている
29 )。現在、まだ手を差し伸べられていない人々に対しても看護介入ができるよう
に引き続き取り組んでいく必要があると考える。
61
62
能力を認められる
機会の少なさ
役割意識
誇り
楽しみ
島の暮らしの
存続の願い
生きがい
スピリチュアル
宗教
伝統的治療
(まじない)
日常生活
声かけ
相談
評価的サポート
社会資源の活用
環境汚染の観察
代弁
情報入手に関する
技術的支援
穏やかな雰囲気
暮らしの便利さ
交通の不便さ
診療にかかる
高い交通費
特殊診療の受け難さ
土壌・水質・大気汚染の
危険性
生活環境
政治・法律
図8 健康維持に影響する要素と看護介入の可能性
教育
高齢者の
読み書きの
苦手さ
自己管理行動
生活指導
相談
介護予防
自己管理の
知識・技術不足
(食生活・救急法)
外部へ意見を発信する
能力の低さ
高い自己管理意識・
行動
ADLの自立
能力
社会現象
過疎・高齢化進行
災害・緊急
行政への働きかけ
要援護者への支援体制整備
効果的な救急法講習
看護介入の可能性
医療・保健・福祉
情報提供
相談
調整
遠隔看護システム
行政、民間と協力した
通院の工夫
高齢者の
高血圧
白内障
腰・膝関節痛
疾病
住民の健康維持
経済
収入を得る手段の少なさ
不十分な
災害・緊急時対策
在宅ケア・医療支援の
受け難さ
不十分な生活支援
住民の行政への
消極的な関り
自然環境
素晴らしい自然
厳しい自然
相談相手の少なさ
住民同士、家族、島外の
人々との助け合い
習慣の維持
集団への入りにくさ
プライバシーの保ち難さ
人との相互作用
Ⅲ.研究の限界
本研究は、研究者自身が研究の道具となるため、研究者のデータ収集・分析の能力が結
果に影響する。また、巡回診療中止後、離島限界集落である A 島という特定の地域での研
究であることから、本研究の結果を他の離島限界集落住民に適応するには限界がある。今
後、他の離島限界集落においても、研究を続けることが必要と考える。
63
第6章
結論
1. 要素は 11 種類に分類でき、それぞれが指すものは、《人との相互作用》として「住民
同士、家族、島外の人々との助け合い」「習慣の維持」「集団への入り難さ」「プライバ
シーの保ち難さ」「相談相手の少なさ」、《自然環境》として「素晴らしい自然」「厳しい
自然」、《生活環境》として「交通の不便さ」「診療にかかる高い交通費」「穏やかな雰囲
気」「暮らしの便利さ(整備されたインフラ・生活必需品)」、《政治・法律》として「不
十分な災害・緊急時対策」「在宅ケア・医療支援の受け難さ」「不十分な生活支援」「住
民の行政への消極的な関り」、《経済》として「収入を得る手段の少なさ」、《教育》とし
て「高齢者の読み書きの苦手さ」、《社会現象》として「過疎・高齢化進行」、《疾病》と
して「疾病(特に高齢者に多い高血圧、白内障、腰・膝関節痛)」、《能力》として「高
い自己管理意識・行動」
「ADL の自立」
「自己管理の知識・技術不足(食生活・救急法)」
「外部へ意見を発信する能力の低さ」、《生きがい》として「役割意識」「能力を認めら
れる機会の少なさ」「誇り」「「楽しみ」「島での暮らし存続の願い」、《スピリチュアル》
として「宗教」「伝統的治療(まじない)」であった。
2. 世代的、背景的特長をもつ要素として、40 代住民の<相談相手の少なさ>、新たに島
へ移り住んだ住民の<集団への入り難さ>、帰郷した団塊世代住民の<住民の自助努力
の少なさ>、<住民の行政への消極的な関わり>、70 代、80 代住民の<不十分な基礎
教育>、<読み書きの苦手さ>、<能力を発揮する機会の少なさ>、<高血圧、白内障、
腰・膝関節痛>、<診療にかかる高い交通費>、<特殊診療の受け難さ>があった。
3.
看護介入の可能性として、
「災害・緊急時対策に関して、行政への働きかけ、要援護者
への支援体制整備、効果的な救急法講習」「医療・保健・福祉に関して、情報提供、相
談、調整、遠隔看護システム、行政や民間と協力した通院の工夫」
「自己管理に関して、
生活指導、相談、介護予防」「日常生活に関して、声かけ、相談、評価的サポート、社
会資源の活用、環境汚染の観察、代弁、情報入手に関する技術的支援」が考えられた。
謝辞
本研究を行うにあたり、御協力いただいた A 島の島民の皆様、A 島を管轄する行政関係
の皆様、近隣の住民の皆様、研究のご指導をいただいた日本赤十字九州国際看護大学教授、
岡村純先生、山勢善江先生、学長兼教授、喜多悦子先生に心から感謝申し上げます。
なお、この研究は財団法人在宅医療助成勇美記念財団による助成を受けて実施いたしま
した。
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厚
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