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5 - Keio University
宿題の解説 5 月 17 日 c 三井隆久 ⃝ Department of Physics, Keio University School of Medicine, 4-1-1 Hiyoshi, Yokohama, Kanagawa 223-8521, Japan (Dated: May 24, 2016) 問I 答え ナイアガラの滝は高さ 56 m だそうである。落下時間、 落下点での速度、落下による水温の上昇温度を求めよ。 物体を投げるときは仰角 45 度が最も遠方へ行き、飛距 離 x は初速度 v のとき、 x= 答え 地上の重力加速度を g とすると、落下時間 t と落下距離 h の関係は、 h= 1 2 gt , 2 (5) となる。x=84.86 m を用いると、v=28.8 m/s であること がわかる。 向心力は回転運動の速度 v を用いると、 (1) である。g = 9.8m/s2 , h=56m を代入して、落下時間 t=3.38s となる。 v = gt から、落下距離 h と速度 v との関係は、 √ (2) v = 2gh, v2 , g F =m v2 = 3551N = 362kgw, R (6) となる。腕には、362 kg の物体の重さと同じだけの向心力 が加わる。両腕で持つことを考慮すると、握力は 181 kg 程度必要である。 力の単位は N である。一方、重さなどの力は、日常生 活では kg で表した方がわかりやすい。しかし、kg は質量 の単位である。そこで、kgw もしくは kg 重, kgf などの単 位を用いて、新しい力の単位とした。kgw は、示された質 量に作用する重力である。 となり、値を代入すると、速度 v=33.13m/s となる。 エネルギー保存則から、滝の水が落下している最中の位 置エネルギーと運動エネルギーの和は一定である。滝の中 の一部分の水(質量 m)に注目する。運動エネルギーは mv 2 /2 である。位置エネルギー U は、水に作用する力が −mg なので U = mgx である。水が高さが h のところで は静止していたこと、落下点では高さがゼロであることを 考慮すると、エネルギー保存則から、落下点での運動エネ ルギーは、 物 体 か ら 落 下 す る 水 滴 の 大 き さ を 求 め よ 。た だ し 、水 滴 の 形 状 は 半 径 a の 半 球 と し 、水 の 表 面 張 力 σ=72.75×10−3 N/m, 水の密度 ρ=1000 kg/m3 とせよ。 1 mv 2 = mgh, 2 答え (3) となることがわかる。落下した水の運動エネルギーが全 て水の熱エネルギーに変わり温度を上げると仮定する。水 の比熱を 4200J/kgK とすれば、質量 m の水の熱容量は m4200[J/kgK] なので、このときの上昇温度は、 mgh = 0.13[K], ∆T = m4200[J/kgK] 問 III (4) 水滴に作用する重力が表面張力より大きい場合に落下す る。したがって、 4 1 gρ πa3 > 2πaσ, 3 2 これを解いて、 √ したがって、0.13 度C温度が上がることが分かる。 問 II ハンマー投げの金メダリストの飛距離は 84.86m である。 ハンマーの重さ m を 7.26 kg, ワイヤーの長さを 1.2 m, 腕 の長さを 50 cm、したがって、回転半径 R を 1.7 m とし て、手から離れたときの初速度と向心力を求めよ。 (7) a> 3σ = 4.72mm, gρ (8) となる。 問 IV ⃗ ⃗ ⃗ B, ⃗ A ⃗×B ⃗ を求 (a) A=(3, 2, 1), B=(1, 2, 3) のとき、A めよ。 2 (b) 角速度が ω=(6, 8, 7) rad/s で、原点を中心にして 回転している物体がある。位置が (5, 3, 9)m の場所の速度 を求めよ。 である。したがって、1 秒あたりの仕事は、 1 秒あたりの仕事 = N ω = 260 Nm × 209 rad/s(17) = 54426 W = 72.6 hp(馬力), (18) 答え である。単位 W=J/s である。 (a) ⃗B ⃗ = 3 + 4 + 3 = 10, A 問 VI (9) ⃗×B ⃗ = (4, −8, 4), A (10) ⃗v = ω ⃗ × ⃗r = (51, −19, −22)m/s, (11) (b) 遠心分離器内のローターが、60000 rpm (1 分間の回転 数) で回転している。回転軸の中心から 20cm 離れた場所 に左右に 100g の重りがそれぞれ付いている。(a) 角運動量 を求めよ。(b) 重り 1 個に作用する遠心力を求めよ。(c) 重 り 2 個の運動エネルギーを求めよ。TNT 火薬の燃焼熱は 1kJ/g である。このエネルギーは TNT 火薬何グラムか。 問V 答え 自動車のカタログでエンジンの説明箇所を見ていたら、 「回転数 2000 rpm(1 分間の回転数) のとき、トルク 260 Nm」と書いてあった。 (a) 回転軸の中心から 10cm 離れた場所に重りを置く場 合、最大何 kg の重りを持ち上げることができるか。 (b) このエンジンが行うことができる最大の出力(1 秒 あたりに行うことができる仕事)は何馬力か。(1 秒間に 1J の仕事を行うとき 1W(ワット) といい、750W を1馬力 (hp) という。) (a) 60000rpm は、周波数に直すと 1000Hz であり、回 転軸から 20cm 離れた場所の速度は、2π0.2 × 1000m/s で ある。重り1個の角運動量は、回転軸からの距離 × 質量 × 速度なので、0.2 × 0.1 × 2π0.2 × 1000 =25.12 m2 kg/s である。重りは 2 個あるので、角運動量は、50.24 m2 kg/s である。 (b) 遠心力は mrω 2 = 0.1 × 0.2(2π1000)2 =7.9×105 N. 重さに換算すると、80t(トン) になる。超遠心機にはかな り大きな遠心力が働いていることがわかる。 (c) 運動エネルギーは mv 2 /2 であり、重りが2個あるか ら mv 2 を求めればよい。回転軸から 20cm 離れた場所の速 度は、2π0.2 × 1000m/s であるから、mv 2 = 0.1 × (2π0.2 × 1000)2 = 158 kJ である。TNT 火薬換算で、158g 程度の エネルギーであり、小さなダイナマイト程度エネルギーで ある。 答え (a) 「トルク=回転軸からの距離 × 力」なので、260 = 0.1 × F から、F = 2600N である。この力は、1g(9.8m/s2 ) の地上で 265 kg の質量を持ち上げることができる。これ ゆえ、2600N を 265 kgw と書く場合がある。 (b) 力学における仕事は、並進運動でも回転運動でも、 仕事 W = 力 F × 移動距離 L. (12) トルクと回転角度や移動距離は、 トルク N = 力 F × 半径 R, (13) 移動距離 L = 回転角度θ × 半径 R, (14) これゆえ、トルクに伴い回転する場合の仕事は、 W = N θ, (15) である。N がトルクであり、θ は回転角である。ただし、 ベクトルの角度が互いに直交もしくは平行とした。 1 秒あたりの仕事を求めるためには、1 秒あたりの回転 角 ω を求める必要がある。2000 rpm であるから、 ω= 2000 × 2π = 209 rad/s, 60 (16) 問 VII ロケットの加速の仕組みについて考えよう。ロケットは、 燃料を連続的に燃焼させ、燃焼ガスの噴射の反動で加速さ れ、速度が増加する。ロケットの質量 m(t) は、燃料を燃 焼して噴射するので、時間と共に減少する。同時にロケッ トの速度 v(t) は時間とともに増加していく。 (a) 時刻 t におけるロケットの運動量を求めよ。 (b) 時刻 t + ∆t におけるロケットと燃焼ガスの運動量 の和を求めよ。ただし、ロケットから噴射される燃焼ガス の、ロケットに対する速度を −u とする (地球に対する速 度は、v(t + ∆t) − u となる)。質量 m(t) − m(t + ∆t) の燃 焼ガスが時刻 t + ∆t/2 に一気に噴射されたと仮定せよ。 (c) 運動量保存則をこの系に適用して、m(t) と v(t) に 関する方程式を求めよ。 (d) m(t + ∆t) ≈ m(t) + ∆t · dm/dt, v(t + ∆t) ≈ v(t) + ∆t · dv/dt として、近似せよ。さらに、両辺を ∆t で割り、 ∆t → 0 の極限を求めよ(計算の必要が無いかもしれな 3 い)。このようにすることで、m(t), v(t) に関する微分方 程式を求めることができる。 (e) ロケットの初期質量を m0 , 初速度を 0 とすれば、 v(t) = u log(m0 /m(t)) となることを示せ。 (f) 酸素と水素が燃焼したときの燃焼エネルギー (242 kJ/mol ) が全て水分子の運動エネルギーになるとして、u を求めよ。 (g) 地 球 の 引 力 か ら 抜 け 出 る た め に は 、脱 出 速 度 (11.2km/s) になる必要がある。m0 /m を求めよ。このこ とから、1t(トン、1000kg) 程度の機材を月に運搬するため には、燃料が何トン必要か求めよ。 (a) ロケットの運動量は、m(t)v(t)。 (b) 燃 焼 ガ ス 噴 射 後 の ロ ケット の 運 動 量 は 、m(t + ∆t)v(t + ∆t) である。燃焼ガスの速度は v(t + ∆t) − u で、質量は、m(t) − m(t + ∆t) なので、燃焼ガスの運動量 は、(m(t) − m(t + ∆t))(v(t + ∆t) − u) である。したがっ て、ロケットと燃焼ガスの時刻 t + ∆t における運動量は、 (b) m(t+∆t)v(t+∆t)+(m(t)−m(t+∆t))(v(t+∆t)−u) となる。 (c) 運動量保存則から、 m(t)v(t) = m(t + ∆t)v(t + ∆t), +(m(t) − m(t + ∆t))(v(t + ∆t) − u), (19) となる。 (d)m(t + ∆t), v(t + ∆t) を近似して ∆t で割ると、 dv dm +u , dt dt (20) という微分方程式が得られる。今まで、v(t) のように時間 の関数として考えていたが、v(m(t)) のように速度を m の 関数とみなそう。そうすれば、dv/dt = dv/dm · dm/dt と なる。これを式 (20) へ代入して、 0=m dv + u, dm (21) が得られる。 (e) 式 (21) の両辺を m でわると、u/m = −dv/dm とな り、この式を m で積分して、初期条件を代入すれば、 v = u log 1 H2 + O2 = H2 O + 242 kJ/mol, 2 (23) である。水 1 mol が 18 g なので、燃焼熱が全て運動エネ ルギーになるとして、 答え 0=m と、上昇することができない。このため、諸君がよく知っ ているように、爆発的に燃焼させて上昇するようにして いる。効率良く燃料を使うためには、上昇の加速度は、地 上の重力加速度よりも十分に大きい必要がある。そうすれ ば、地上でも式 (22) と同程度の速度になることができる。 このような経済的な理由から上昇時の加速度は大変大きく (10 g 程度) 素人では気を失ってしまう。 (f) m0 , m (22) が求められる。この式は、ツィオルコフスキーの公式と呼 ばれ、ロケットを設計する場合に最も重要な役割をする。 式 (22) には、時間 t がどこにも入っていない。これは、 ゆっくりと燃焼させても、一気に燃焼させても消費した燃 料の量が同じならば同じ速度になることを意味している。 無重力状態 (外力が作用しない状態) でロケットを加速す る場合を想定したからである。一方、重力のある地上から ロケットを飛ばす場合には、ゆっくりと燃料を燃焼させる u2 18g/mol = 242 kJ/mol. (24) 2 √ ここから、u = 2 × 242000/0.018=5185 m/s である。 (g) 脱出速度 (11.2 km/s) になるためには、式 (22) へ u=5185 m/を代入して、m0 /m=8.67 となる。m0 は、出 発前のロケットの質量、m は脱出速度に達したときの質量 である。ロケットは燃料を噴射させながら加速するので、 燃料を消費した分だけ軽くなり、m は m0 より小さくな る。燃料を酸素と水素とした場合には、脱出速度まで加速 すると m0 /m=8.67、すなわち m = m0 /8.67 となる。し たがって、出発前のロケットの質量 m の内訳は、m0 /8.67 が機体の質量で m0 × 7.67/8.67 が燃料と言うことになる。 ただし、この計算上限値なので、実際には燃料が占める割 合はもっと大きくなる。 1 トンの物を月まで持ち上げるためには、7.67 トンの燃 料が必要であることが分かる。実際には、燃焼ガスの速度 は、5185 m/s よりも遙かに遅い。これは、燃焼ガスの温 度が上がりすぎると、ロケットエンジンが溶けるので、保 護のため冷却することに起因する。また、持ち上げたい物 以外にロケット本体の重量もあるため、実際には数百トン の燃料を必要とする。月まで行けるロケットの全重量にし める爆発物の割合は、爆弾よりも高い。 エネルギー保存則を用いた導き方 燃料 1 kg が放出 するエネルギーを Q とすれば、∆t の間に放出されるエネ ルギーは、Q[m(t) − m(t + ∆t)] である。このエネルギー はロケット本体の運動エネルギー増分と燃焼ガスの運動エ ネルギーになり、 Q[m(t) − m(t + ∆t)] 1 1 = m(t + ∆t)v 2 (t + ∆t) − m(t)v 2 (t) 2 2 1 + [m(t) − m(t + ∆t)](v(t + ∆t) − u)2 , 2 (25) このような関係が導かれる。∆t → 0 として、m(t + ∆t) − m(t) = dm, v(t + ∆t) − v(t) = dv とおけば、 1 1 1 −Qdm = mvdv + dmv 2 − dmv − dm(v − u)2 , (26) 2 2 2 となる。(v − u)2 を計算して、両辺を dm で割り算すると、 −Q = mv 1 dv − vu + u2 , dm 2 (27) 4 が得られる。u と Q の関係を求める必要がある。ここで は、ロケットは大変に重い物体で、∆t の間に燃焼する燃 焼ガスの質量は僅かである。これは、地上で人間がボール を上空に投げる場合、ボールが得る運動エネルギーとその 反作用で地球が動いて得る運動エネルギーとの関係と同じ であり、ほぼ 100 パーセントのエネルギーがボールに行 く。同じように、燃焼エネルギーはほとんど全て燃焼ガス の運動エネルギーへ行くので、Q が単位質量あたりの燃焼 エネルギーであることを考慮すると、 Q= 1 2 u , 2 dv + u, dm ロケット単体では運動量は保存しない。したがって、式 (21) は、 0= d [m(t)v(t)] , dt (30) (28) となる。これを式 (27) へ代入して、 0=m を得る。 (29) から導けない。式 (30) は、式 (19) において、右辺第2項 を無視した場合となる。これは燃焼ガスの運動量を無視し たことになる。ロケットの質量 m(t) は変化するが、減少分 は燃焼ガスとなるから、この寄与も考慮する必要がある。