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特集 - 東京都環境局

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特集 - 東京都環境局
特集
スマートエネルギー
都市を目指す世界の
動き
顕在化している気候変動に先導的に対処するとともに、首都直下地
震などの災害に備え、かつ、都市の競争力の源泉であるオフィス空間・
居住環境の快適性を維持していくため、東京都では、2012 年 5 月に
策定した「省エネ・エネルギーマネジメント推進方針」で、低炭素・
快適性・防災力を同時に実現する、将来の「スマートエネルギー都市」
を目指した取組を示した。
今、世界各国でスマートグリッドの構築を目指した動きが急ピッチ
で進んでいる。私たちの電気の使い方も大きく変っていくことになる。
そこで、この特集では、世界の動きを紹介しながら、東京における
エネルギー需給とその最適制御のあり方について考えていく。
東京都の省エネ・エネルギーマネジメント推進方針
東京都では、世界初の都市型キャップ&トレード制度の導入など先導的な気候変動対策を通じて、省エ
ネルギーと再生可能エネルギー導入拡大を進めてきた。東日本大震災後は、これまでのこうした気候変動
対策の積み重ねが都民や事業者の節電の取組に活かされ、電力需要が大幅に下方にシフトするという構造
変化が現れている。
また、昨年の電力危機を契機に新たな省エネビジネスが生まれ、最先端技術を駆使した低炭素ビルの建
設も加速するなど、東京の省エネルギーの取組は新たな段階に入っている。
今後はスマートグリッド技術や省エネ技術を都市づくりに組み込みつつ、
①気候変動に先導的に対処する低炭素都市
②都市間競争で選択され続けるための都市の快適性
③首都直下地震等の災害に備える防災力
を同時に実現するスマートエネルギー都市を目指していく必要がある。
■賢い節電
スマートエネルギー都市構築の土台となるのは「賢い節電」である。
東京都では、2012 年 5 月に策定した「省エネ・エネルギーマネジメント推進方針」の中で、次のよう
な「賢い節電の基本原則」を提唱している。
1 無駄を排除し、無理なく「長続きできる省エネ対策」を推進
2 ピークを見定め、必要なときにしっかり節電(ピークカット)
3 経済活動や都市のにぎわい・快適性を損なう取組は、原則的に実施しない
東京電力管内の 2012 年の夏の節電の実績を見ると、1 日の最大電力需要は、東日本大震災前の 2010
年に比べて、平均で 900 万 kW 程度少ない値となっている。適度な照明、適度な室温、電力消費の見え
る化など、都民、事業者の「賢い節電」の取組がしっかりと定着してきている。
〜 2012 年夏の「賢い節電」の実績〜
2012 年の夏の東京電力管内の最大電力需要は、8 月 30 日の 14 時台に記録された 5,087 万
kW(供給力に対する比率で 93%)で、東日本大震災前の 2010 年の最大電力需要 5,999 万 kW
と比べると約 900 万 kW の節電となっている。5,000 万 kW を超えた日は 3 日のみで、時間にし
て計 6 時間に止まった。4,900 万 kW を超えたのも 10 日、35 時間であった。
賢い節電がしっかりと定着してきていることが明確に数字に表れたと言える。
kW
7,000
2010
5,999
kW
6,000
5,000
4,000
2012
3,000
5,087
2,000
1,000
7/24
2
28
8/1
5
9
13
17
kW
2010.7.20
9.3
2012.7.24
9.7
21
25
29
9/2
6
(東京電力株式会社のデータに
より作成)
~デカップリング~
持続可能で活力のある都市を実現するに
エネルギー消費とGDPの推移
(都内、全国)
は、エネルギーや資源の消費量等の増加が
経済成長とは連動しなくなる状態(デカッ
プリング)を目指す必要がある。
EU では、
既に第 6 次環境行動計画(2002
年)でデカップリングを政策目標に掲げて
おり、OECD や国連環境計画(UNEP)な
どの場でも国際的な議論が行われている。
東京の GDP と最終エネルギー消費の推
移を見ると、2001 年度以降、両者の分離
が始まっている状況が伺える。
主たる要因は、運輸部門における燃費改
1996年度
100
120
都内
全国
115
GDP
110
105
100
95
90
最終エネルギー消費
都内
全国
善や物流効率化が進んだことにあると考え
85
られる。
1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010
業務部門でもグリーンビルディングの建
年度
設が加速するなど東京の省エネルギーは新
データ:都民経済計算年俸、都内経済成長率の予測、国
民経済計算確報・速報、都における温室効果ガ
ス排出量総合調査(2010年度は速報値)、エネ
ルギー需給実績(確報)
たな段階に入っており、家庭部門も含め、
「賢い節電」の定着によってデカップリン
グを更に進めていく必要がある。
■スマートエネルギー都市に向けた取組
「省エネ・エネルギーマネジメント推進方針」では「賢い節電」を土台に東京都は民間事業者等と連携
しながら、低炭素・快適性・防災力を同時に実現するスマートエネルギー都市を目指して取り組んでいく
こととしている。
そのため、住宅や事業所における省エネルギーや再生可能エネルギー利用の一層の促進を図るとともに、
東京都心で、民間事業者と連携し、分散型電源を組み込んだ地域エネルギーマネジメントシステムの実現
可能性調査などを実施している。
低炭素
快適性
防災力
賢い節電と「低炭素」なエネルギー利用を経済・社会活動に内在化
賢い節電が定着するとともに、CO2 の削減を可能とする低炭素型の社会システムと技術、
ライフスタイルが、東京の都市活動の中で、エネルギー需給の両面から全面的に普及
オフィス空間・居住環境の「快適性」を確保する節電・省エネの最適制御
東京の経済活力の源泉である、知的生産の空間としてのオフィスや居住環境における快適
性の向上を図りながら、生産性に配慮し、効果を見定めた節電・省エネ対策が浸透
高度な「防災力」を備えるエネルギー利用の多元化
災害等の非常時など外部からのエネルギー供給が途絶えた場合でも、業務・生活の継続性を
確保するため、蓄電池や再生可能エネルギー等も活用した自立分散型エネルギー利用の拡大
〜低炭素・快適性・防災力を同時に実現するスマートエネルギー都市〜
3
〜オフィス街区における地域エネルギーマネジメントの推進〜
東京都内のオフィスビル集積地域において、再生可能エネルギーやコージェネレーションなど
低炭素・自立分散型のエネルギー利用を促進するため、都市開発事業者等と連携した取組を推進
している。
現在、地域エネルギーマネジメントの構築に向けた事業化の可能性を検討している。エネルギー
需給の一体管理により、防災力の向上を図りながら、エネルギーの効率的な利用を促進するため、
運営主体のあり方を含めた具体的な事業スキームの構築を目指している。
○検討内容
◦コージェネレーションシステムの最
適な電源容量と設置スペース
◦蓄電、蓄熱システムの活用
◦デマンドサイドマネジメントのあり方
◦未利用エネルギーの有効活用
◦再生可能エネルギー導入スキーム
◦発電、熱供給事業の双方を担う事業主
体の組成・運営体制
◦事業化シミュレーション
ビル・エネルギー
マネジメントシステム
◦課題抽出・解決策の提示
EV(電気自動車)等
4
スマートエネルギー都市とスマートグリッド
低炭素・快適性・防災力を同時に実現する「スマートエネルギー都市」を実現するためには、
①省エネ技術・ノウハウを最大限に活用した賢い節電・省エネ
②低炭素・自立分散型エネルギーの利用拡大
③エネルギーマネジメントによる需給の最適制御 の仕組みが組み込まれた都市づくりが重要である。
このうち、「③エネルギーマネジメントによる需給の最適制御」には、需要側でのエネルギーマネジメ
ントシステムのみならず、電力供給側も含めたネットワーク全体の制御の高度化が必要となるが、それを
実現するのがスマートグリッドである。
スマートグリッドとは、情報通信技術を活用して電力の供給側と需要側の間で双方向の情報・電力の流
れを可能とする新しい電力網(グリッド)のことをいう。
電力系統を構成する様々な要素(発電所、送電網、分散型電源、家庭や事業所などの個々の需要家、蓄
電設備、さらには家電製品や電気自動車まで)を最適に運用・制御することで、電力供給の安定化、コス
ト削減、緊急時の対応力の強化などが可能になるとされている。
また、再生可能エネルギーの送配電網への大規模な接続を可能にするとともに、電力システムのエネル
ギー効率を高めることによって温室効果ガスの削減にも大きく寄与すると言われている。
EPRI, Estimating the Costs and Benefits of the Smart Grid (2011); JRC, Smart Grid Projects in Europe (2011)
(現行の電力系統)
(スマートグリッド)
発電所
*1
HEMS
発電所
送配電網
電力
*2
BEMS
*1 ホーム・エネルギー・マネジメントシステム
*2 ビル・エネルギー・マネジメントシステム
スマート
エネルギー
都市
5
EV
PV
EV
スマートグリッドのイメージ図(IEA:国際エネルギー機関)
出所:IEA, Technology Roadmap: Smart Grid (2011)
スマートグリッドが実現するもの
スマートグリッドにより、どのような社会が実現するのだろうか。
米国エネルギー省が設置しているウェブサイト、SmartGrid.gov はスマートグリッドの便益について
次のようにリストアップしている。
◦より効率的な送電
◦電力供給が不安定化した際の速やかな復旧
◦発電・送電設備の運用管理コストの削減
究極的には電力料金の引き下げ
◦ピーク電力の削減(同様に電気料金の引き下げに資する。
)
◦大規模な再生可能エネルギーの電力系統への接続の推進
◦需要家が有する分散型電源(再生可能エネルギーを含む。
)
の接続
SmartGrid.gov の画面
◦セキュリティの向上
SmartGrid.gov では、スマートグリッドは単なるインフラやテクノロジーではないとも指摘している。
スマートグリッドにより、消費者は自分のエネルギー消費量やコストに関する情報を得て、的確に電力の
選択権を行使することができるようになる。また、リアルタイム料金制と組み合わせることで、電力コス
トが最も高い時間帯(電力需給がひっ迫する時間帯)に節電を行って、経費の節減もできるようになる。
アメリカではすでに多くの地域で電力自由化が行われているが、電力自由化という市場改革とスマート
グリッドという技術革新によって、
消費者が電力を選択することが可能となり、
併せて経済的メリット(電
力供給の安定化・コスト削減・技術革新による競争力強化)と環境面でのメリット(エネルギー効率向上・
再生可能エネルギー増加)を生み出すことが期待されている。
6
スマートグリッドを実現する技術
このようなスマートグリッドの実現には、電力システムの各部門で、ソフト、ハード両面からの革新が
必要となる。IEA では、スマートグリッドに必要な技術革新を次のように分類している。
◦位相計測技術などによる広域監視・制御
◦情報通信技術の統合
◦再生可能エネルギー・分散型電源の統合
◦送電網の強化(高温超伝導など)
◦配電網の管理技術
◦先進的な計測設備(スマートメーターなど)
◦電気自動車用の充電インフラ
◦需要側の技術(HEMS・BEMS、蓄電システム、スマート家電、家庭用分散型電源など)
出所:IEA, Technology Roadmap: Smart Grid (2011)
また、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開
発機構が作成している NEDO 再生可能エネルギー白書
WAMS PMU
HEMS BEMS FEMS
では、スマートグリッド技術を
◦送配電系統の監視・制御技術
V2G
◦需要家側のエネルギーマネジメント技術
◦系統の効果的運用が可能となる先進技術
◦先進的なインターフェース技術 AMI
に大きく分類し、それぞれの技術の導入先について右
のような図を示している。
スマートグリッド技術の導入先(NEDO)
出所:NEDO, NEDO 再生可能エネルギー白書 (2010)
これらの技術のうち、最も話題になるのが「スマートメーター」である。
スマートメーターとは、電力会社等の検針・料金徴収業務に必要な双方向通信機能や遠隔開閉機能を有
した電子式メーターのことをいう。
(狭義のスマートメーター)(スマートメーター制度検討会報告書 , 2011)
世界各国におけるスマートメーターの普及目標を見ると、各国がスマートグリッドの構築を競うように
進めていることがよく分かる。それは、各国がエネルギー戦略として重視しているだけではなく、スマー
トグリッドに係る様々な技術を獲得することがこの分野での競争力を確保するために不可欠だとみなして
いるからにほかならない。
日本では、2016 年までに総需要の 8 割をスマートメーター化するという目標が掲げられているが、
HEMS や BEMS と合わせて「見える化」やデマンドレスポンス(P8 参照)を可能とし、節電・省エネ
に資するものとすることが重要である。
国/地域
EU
2011 年設置済み
4,500 万
アメリカ
800 万
中国
−
韓国
75 万
2020 年計画
2 億 4,000 万
6,000 万
3 億 6,000 万(2030)
2,400 万
インド
−
1 億 3,000 万
ブラジル
−
6,300 万
スマートメーター(例)
各国のスマートメーター導入数・計画
(European Commission Joint Research Centre, Smart Grid projects in Europe (2011) のデータにより作成)
7
〜デマンドレスポンスとは〜
デマンドレスポンスとは、電力需給の状況に応じて需要家側で電力消費を変化させるための仕
組みのことをいう。
具体的な方法としては、ピーク時間帯に需給ひっ迫の状況に応じて電気料金を引き上げる、あ
るいはピーク時間帯での節電に協力した需要家にインセンティブを与えるなどがある。
デマンドレスポンスは、大きく電気料金ベースのものとインセンティブベースのものに分類さ
れる。
電気料金ベースの方式には様々な種類があるが、代表的なものは次のようなものである。
時間帯別料金
(ToU: Time of Use)
クリティカルピーク料金
(CPP: Critical Peak Pricing)
リアルタイム料金
(RTP: Real Time Pricing)
フラットレート
の料金水準
単価
単価
時間
時間
(例)東京電力のピークシフト料金
(例)オクラホマ州の OG&E 社の
家庭向け料金プラン SmartHours
(例)カリフォルニア州の SCE 社の
大口需要家向け料金プラン RTP-2
また、インセンティブベースのデマンドレスポンスにもいろいろな方式がある。
出所:総合資源エネルギー調査会総合部会電力システム改革専門委員会資料 (2012)
8
■欧州におけるスマートグリッドの取組■
EUの戦略
(欧州委員会の政策文書から)
(1) スマートグリッド:開発段階から導入段階へ(COM(2011)202)
欧州委員会は 2011 年 4 月に、スマートグリッドに関する政策文書(コミュニケーション)を採
択した。
この文書は将来の欧州統合電力ネットワーク構築に向けた政策の方向を定めるものである。欧州
のスマートグリッドを開発・実証段階から、実際に導入していく段階に進めるために、欧州委員会
は次のような 5 つのアクションを示している。
− EU レベルで共通の技術基準を設ける。
−高度なデータ保護を確実にする。
− EU の現行制度に必要な改正を行い、より効率的で質の高いサービスを目指した投資を促す。欧
州委員会は加盟各国にスマートグリッド導入目標を含む行動計画を策定するよう求める。
−小売市場の透明性と競争性を確保する。
−更なる技術革新を促す。
(2) スマートシティ/コミュニティに向けた技術革新パートナーシップ(COM(2012)4701)
欧州委員会では、2011 年にスマートシティ/コミュニティ・イニシアティブを策定し、さらに
2012 年 7 月にはそれを発展させた「スマートシティ/コミュニティに向けた技術革新パートナー
シップ」という政策文書をとりまとめた。
ここでは、エネルギー、交通及び ICT 技術の 3 分野を相互にリンクさせたプロジェクトを都市に
おいて推進するため、民間コンソーシアムを支援する計画が示さ
れており、2013 年には 3 億 6,500 万ユーロの資金が限られた数
の都市に重点的に投入される予定になっている。
欧州各国のスマートメーター導入状況
スマートメーターの設置状況は国によって、大きく異なっている。スウェーデンやイタリアでは既にほ
ぼ全ての需要家に設置済みとなっており、スペイン、フランスでは 2018 年に全需要家への設置が完了
する計画になっている。イギリスでも 2019 年までに全ての需要家に設置することが法的に義務付けら
れた。他方、ドイツやオランダでは法的義務付けの動きは見られない。国によっては、プライバシー保護
や情報セキュリティが問題となっている。
2009
2010
2011
2012
2009
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
1
2011
2018
2018
2019
経済産業省スマートメーター制度検討会資料 (2012) 等により作成
9
EU域内のスマートグリッド・プロジェクト
EU 域内ではスマートグリッドに関するプロジェクトが数多く実施されている。
国別に見るとプロジェクトの件数ではデンマークが最も多く、次いでドイツ、スペイン、イギリス、オ
ランダの順になっている。デンマークでのプロジェクトが多い理由の一つは、既に再生可能エネルギーや
分散型電源が普及していて電力システムの早急な更新が必要となっているためである。
また、投資額で見るとイタリアが突出しているが、これはスマートメーターを全戸に設置するプロジェ
クトが含まれているためである。
プロジェクトの分野で見ると、国によって大きく異なるが、分散型電源や蓄電システム、需要家などを
相互に繋いで統合的にコントロールするというプロジェクトが全体の件数の 34% を占めている。スマー
トグリッドは個々の技術の単なる寄せ集めではなく、
それらをシステムとして統合することが重要となる。
277
EU 域内のスマートグリッドプロジェクト
出所:COM(2011)202; JRC, Smart Grid projects in Europe (2011)
▼ADDRESSプロジェクト
ADDRESS プロジェクトは、EU 域内で行われているスマートグリッド・プロジェクトの一つであり、
25 の企業が参加して、2008 年から 4 年計画で進められている。このプロジェクトが目指しているのは
「アクティブ・デマンド」
。家庭や小規模事業所の電力需要をとりまとめるアグリゲーターが、電力市場で
ネガワット取引を行うという方式のデマンドレスポンスである。
現在、フランス、イタリア、スペインの各1箇所、計3箇所のサイトで実証実験が行われている。予算
額は 1,600 万ユーロで、うち 900 万ユーロは欧州委員会の補助となっている。
10
BOX
BOX
BOX
DSO
TSO
ADDRESS プロジェクトの仕組み
出所:ADDRESS, Active Demand: The Future of Electricity (2010)
▼ロー・カーボン・ロンドン
(Low Carbon London)
プロジェクト
ロンドン及びイングランド東部・南東部を管轄区域とする配電会社の UK パワーネットワークスを中心
に進められているのが Low Carbon London プロジェクトである。このプロジェクトはロンドン市等
の支援を得ており、ロンドン市内の実際の消費者・事業者がトライアルに参加している。
イギリス政府は 2014 年から 2019 年の間に全世帯にスマートメーターを設置する計画だが、Low
Carbon London プロジェクトでは、
それに先行して、
ロンドン市が指定している 10 の低炭素特区(Low
carbon zone)の 5,000 世帯以上にスマートメーターを導入し、家庭の電力消費パターンを把握すると
ともに、断熱、太陽光パネル、省エネ照明の効果などの測定を行っている。
さらに、2012 年からの第 2 フェーズでは、弾力的な料金体系が導入され、ピーク時間帯での節電にど
の程度の効果があるかが調査されている。
ロンドン市が指定した 10 の低炭素特区(Low carbon zone)
出所:City of Westminster Website
11
■電力需要を風に合わせる(Wind Twinning)
イギリスは、2020 年までに電力消費量の 3 分の 1 を賄うことのできる 3,400 万 kW の風力発電設備
を導入するという野心的な目標を掲げている。これに対応して、Low Carbon London プロジェクトで
は風力が強いと予測される日の電気料金を下げたり、風力発電の出力の変動が予測を超えたときに、アグ
リゲーターが契約事業所の電力需要を制御するといった実験も行われる。
■分散型電源の接続
ロンドン市は、コージェネレーションや太陽光発電などの再生可能エネルギーの利用に取り組んでいる
が、Low Carbon London プロジェクトでは分散型電源を大量かつ安定的に配電網に接続するためのマ
ネジメントシステムの調査研究も行われている。
■米国におけるスマートグリッドの取組■
米国エネルギー省では既に 2003 年に「グリッド 2030」というビジョンを発表している。このビジョ
ンではデマンドレスポンス、広域監視制御、高温超伝導、蓄電システム、分散型電源などが取り上げられ、
官民のパートナーシップによりアメリカの老朽化した送配電網を 2030 年までに ICT(Information and
Communication Technology) 技術を活用した次世代電力網に転換する構想が示された。
ブッシュ政権時代の 2007 年に制定されたエネルギー・自立安全保障法はエネルギー省のスマートグ
リッド構想に法的な根拠を与えるものであった。さらに、オバマ政権のグリーンニューディール政策と
して 2009 年に制定されたアメリカ再生・再投資法では、送電網の近代化とスマートグリッドの整備に
110 億ドルの資金が投入されることになった。このうち、スマートグリッド投資助成プログラムは連邦
政府の資金 34 億ドル、民間資金と合わせて 78 億ドルに上る資金で、全米各地のスマートグリッド・プ
ロジェクトを補助するものとなっている。
このプログラムの目標は下図のとおりである。
具体的な投資額をみると、送電システムに関する投資が 5 億 8,000 万ドル、配電システムに関するも
のが 19 億 6,000 万ドル、スマートメーター等に関するものが 39 億 6,000 万ドル、需要家側のシステム
に関するものが 13 億 3,000 万ドルと見込まれており、やはりスマートメーター関連が巨額になっている。
スマートグリッド投資助成プログラムの目標
(U. S. Department of Energy, Smart Grid Investment Grant Program Progress Report (2012) より作成 )
12
1000
2000
3000
4000
5000
$580
$1,960
$3,960
$1,330
スマートグリッド投資助成プログラムの内訳
(U. S. Department of Energy, Smart Grid Investment Grant Program Progress Report (2012) より作成 )
このような政策により、アメリカではスマートメーターの普及が進んでいる。また、スマートメーター
の導入に伴い、柔軟な電力料金などのデマンドレスポンスの普及も進んでいる。
下図はアメリカの主要電力会社をメンバーとする研究機関、IEE が 2015 年時点でのスマートメーター
普及率を予測したものである。
アメリカにおけるスマートメーター普及状況(2015 年予測)
出所:The Institute for Electric Efficiency, Utility-Scale Smart Meter Deployments, Plans, & Proposals (2012)
13
▼OG&E社のクリティカルピーク料金 スマートメーターの導入を行うプロジェクトの場合、併せて柔軟な料金メニューを導入する事例が増え
ている。
オクラホマ州とアーカンソー州西部で 75 万世帯に電力を供給している電力会社のオクラホマ・ガス電
力(OG&E)では、全域でスマートメーターの導入を進めている。同社では、2010 年からクリティカル
ピーク・プライシング(電力需給のひっ迫が予測された場合に、その時間帯には高い電気料金になる仕組
み)などの実証実験を行った結果、1 世帯当たり 1.3kW の節電が可能と判断した。
同社の提供する料金制度では、オフピークの料金が 1kWh 当り 5 セントであるのに対し、ピーク時間
帯(平日の午後 2 時− 7 時)で需給がひっ迫した場合には 46 セントまで上がっていく。この料金制度、
SmartHours で契約した世帯は夏季の電気料金が平均 200 ドルも安くなったとのことである。同社では、
この料金プランを 15 万世帯に広げることで、21 万 kW の新たな発電所整備が延期できるようになると
予測している。
カリフォルニア州の電力会社、パシフィック・ガス電力(PG&E)でも事業所を対象としたクリティカ
ルピーク・プライシングを導入している。
OG&E 社のクリティカルピーク料金
出所:OG&E 社ホームページ
14
〜ニューヨークは電力制度改革のトップランナー〜
いま、日本では発送電分離などの電力制度改革が大きな課題となっている。米国もかつては、現在
の日本と同じように地域ごとに一つの電力会社が発電から送電、配電、小売までを一括して行う垂直
統合型の仕組みになっていたが、日本より 20 年早く、1990 年代から制度改革が行われた。
今日では、新規参入事業者でも送電網を従来からの電気事業者と平等に使えるなど、基本的な改革
ルールが、連邦政府によって、米国全体で共通の仕組みとして決められたことに加え、州によっては
さらに進んだ電力の自由化が行われている(下図)
。
東京とならぶ世界都市、ニューヨーク市の都市活動を支えるニューヨーク州の電力制度は、全米で
もっとも自由化が進んだものと評価されている。今後の我が国における制度改革の参考として、その
概要を紹介する。
出所:U.S. Energy Information Administration
1 ニューヨーク州での発送電分離
ニューヨークでは、1997 年に州の公益事業委員会(PSC)が、それまで地域ごとに独占的な経
営を行ってきた電気事業者に対し、発電部門を売却することを求め、州内の電力事業者はこれに応じ
て殆ど全ての発電所を売却した。また、小売部門にも新規事業者の参入を認める制度改革が行われた。
この結果、従来の垂直統合型の経営形態は一新され、様々なタイプの電力会社が、発電や送電、配
電、小売を分担して担うという電力自由化が実現されることになった。
2 送電網の運営を担う NYISO
発送電分離後の電力制度では、送電網の運用は電力会社とは別の独立した機関が行うことになる。
北米では現在、
10 のこうした機関(ISO / RTO)が存在しているが、
ニューヨーク州の場合は「ニュー
ヨーク独立システム運用者(NYISO)
」と呼ばれる機関が設立され、1999 年 12 月から送電網の運
用を行っている。
NYISO は、送電網の運用権限を有しているが、送電網自体は所有しておらず、その運営を行う取
締役会も日常的な業務を行う社長や運営スタッフも、電力会社とは一切、利害関係のないメンバーが
選任されている(下図)
。
CEO
NYISO
NYISO
15
NYISO の業務は以下の 4 点である。
① 基幹的電力網の安定的な運営
500 以上の発電施設と 11,000 マイルの送電網の運営
② 開かれた競争的な卸売電力市場の管理
電力市場およびアンシラリーサービス市場(双方とも一日間市場とリアルタイム市場がある)
、
更にキャパシテイ市場を運営している。400 社以上が売り手または買い手として市場に参加。
③ 将来に向けた計画の策定
ニューヨークの電力需給についての将来推計及びプロジェクトの評価
④ 電力システムに関する先進的な技術開発・普及の促進
3 世界都市ニューヨークを支える電力
人口 824 万人のニューヨーク市の都市活動、経済と暮らしを支える電力は、電力改革前は、殆ど
全てをコンエジソン社が供給してきた(地下鉄はナイアガラの滝の水力発電で生み出された電力を、
ニューヨーク州電力公社が供給)
。コンエジソン社は、さかのぼれば 19 世紀末にトーマス・エジソ
ンが開始した世界初の電灯会社に端を発する長い歴史を持つ企業である。長らく発電から送配電、小
売までを直接、行ってきたが、1990 年代の電力制度改革の中で、殆どの発電所を他社に売却し、現
在は、電力の小売をビジネスの中心としている。送配電設備は所有しているが、送電網の運用は、前
述のとおり NYISO が行っている(但し、ハード面での施設管理はコンエジソン社が担っている。
)
。
営業区域はニューヨーク市とその北側のウエストチェスター郡だが、小売市場に占めるシェアは
現在では 40%程度となっている(下図)
。但し、供給区域における最終的な供給責任 (Provider of
last resort) は、コンエジソン社が負っている。
MW
MW
14000
14000
12000
12000
10000
10000
8000
8000
6000
6000
4000
4000
2000
2000
0
コンエジソン社供給区域
0
05
06
05
07
06
08
07
09
08
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10
12
11
コンエジソン社配電電力の推移
12
(conEdison 資料)
4 電力制度改革の成果
ニューヨーク州の電力制度改革には、次のような成果があったと評価されている。
①電力の需要管理の促進
電力制度改革の大きな成果の一つは、夏の電力需要のピークへの対応を、発電所建設による供
給力増強によるのではなく、需要のシフトや削減で行う需要管理が進んだことである。
NYISO では、卸売電力市場を創設するとともに、新たに「デマンドレスポンスプログラム」を
導入した。これは、電力の需要がピークになる時に電力消費を削減する契約を、大口ユーザーと
の間で結んでおくものである。現在では、5,800 のユーザーと合計 220 万 kW の契約が結ばれて
いる。2011 年の 7 月、熱波がニューヨークを襲い、過去の最大電力を上回る 3,500 万 kW 程度
に達すると予測されたときに、このデマンドレスポンス契約が発動され、140 万 kW 以上の需要
が削減され、電力不足の回避に大きな役割を果たしたと評価されている。
また、小売電気事業者も、送電網や配電網に負荷がかかるピーク需要のシフトを促進している。
16
例えば、コンエジソン社はその長期計画の中で次のようにピーク需要管理の意義を指摘している。
「こうした需要ピークは、夏の最も暑い期間だけに生じ、通常、2, 3 日間のほんの数時間だけである。
当社の目標はデマンドサイドマネジメントのような消費者側に焦点をあてたプログラムを実施す
ることにより、需要ピークを減らし、これによってインフラへの投資を回避し、消費者の負担を
減らすことである。
」
②電力システム運営の透明性の向上
電力制度改革の意義のひとつとして、システム運営の透明性の向上があげられる。改革後に送
電網の運営主体として NYISO が設置される前は、州内の電力会社が自主的につくった運営組織
「ニューヨークパワープール」があったが、その運営は 8 つの地域独占電力だけによって行われて
いた。これに対して、現在では約 400 社の電力市場参加者が送電網の管理や州の電力システムの
運営方針の決定に参加できるようになっている。方針決定は、小売電気事業者や発電事業者だけ
でなく、消費者側も参加する委員会で行われる。権益に応じて配分された投票権の 58%以上の合
意があったときに、方針が決定されるという仕組みである(下図)
。
58%
21.5%
21.5%
8%
4.5%
20%
7%
9%
20%
2%
NYISO
2%
NYISO
③発電所の運営効率化と整備の促進
発電所の運営の効率化と整備の促進も電力改革の成果として指摘されている。送発電分離によ
り、発電所は小売事業者でなく「発電事業者」が設置し運営するものとなった。このため、発電
事業者は発電所を稼動させ、電力を販売しなければ収入を得られないことから、より効率的に運
営するようになったと評価されている。
電力改革後、州内では 917 万 kW の発電所が建設された。改革前と異なるのは、こうした建設
コストが稼働率や運営状況に関わりなく、そのまま電気料金をとおして消費者の負担になる仕組
みではなくなったことである。建設に関わる投資リスクは発電事業者が負うものとなり、非効率
な発電所をつくったツケが消費者に回されるような事態は避けられるようになった。
また発電所の建設場所にも変化が見られた。本来、発電所は送電ロスを小さくするために需要
地に近い場所に立地することが望ましい。電力改革後は、卸売電力価格は市場で決められるが、
その料金は州内を 11 にわけた需給ゾーンごとに異なるため、発電事業者側は価格が高い需要地に
近接する場所に発電所を整備するようになった。電力改革後に建設された発電能力の8割以上が、
需要の中心であるニューヨーク市に近い南西部に位置している(次ページ図)
。
5 市場機能と計画・監視の役割
以上のように、電力制度改革後、電力市場は有効に機能していると評価されているが、大規模
な発電所や送電網はその整備に長期間を有するものであり、市場機能を効果的に使うためにも、
17
的確な監視と中長期的な視点での計画が不可欠だというのが、州の電力関係者の一致した見方で
ある。
長期的な視点から特に課題が指摘されているのは、州の基幹的な送電網の老朽化が進んでいる
ことである。地域的な送電網の整備は個々の電力事業者が行っているが、州の北と南を繋ぐよう
な長距離の基幹送電網の整備は立ち遅れている。
このため、ニューヨークのクオモ州知事は、2012 年の施政方針演説の中で、
「エネルギーハイウェ
イイニシアティブ」という取組の開始を呼びかけた(下図)
。その目的は、長期的な視点から、州
内の基幹的な発電設備と送電網の更新・強化にあるとされている。
特に、北部に豊富な風力発電のキャパシティを十分に活かすためにも、
「エネルギーハイウェイ
イニシアティブ」の取組が必要とされている。2012 年春には、民間からの提案募集が行われ、年
内を目指した計画策定が進められている。
7,520MW
2000
9,174MW
2000-2011 年の新設発電設備能力
出所:NYISO, Power Trends 2012
エネルギー・ハイウェイの概要
出所:J.Anderson(New York Power Authority), Energy Highway Initiative(2012)
18
■その他の国々におけるスマートグリッドの取組■
韓国
韓国政府は、2030 年を目標に、世界で最も優れたスマートグリッドを構築し、低炭素なグリーン成長
社会を実現するというビジョンを掲げている。
韓国政府の作成しているスマートグリッド・ロードマップに基づく第一ステージは、2009 年にスター
トした島での実証事業である。ここでは最新のスマートグリッド技術と新たなビジネスモデルの実証が行
われている。現在、12 のコンソーシアム(171 社)がここで実証実験を行っており、総投資額は 2,395
億ウォン(公共投資 685 億ウォン、民間投資 1,710 億ウォン)に上る。
2013 年から 2020 年の第二ステージでは、大都市圏にこの技術を展開し、リアルタイム料金制も導入
されることになっている。更に 2021 年から 2030 年の第三ステージでは、全国規模のスマートグリッ
ドを構築することになっている。
併せて、島を拠点にスマートグリッド技術の海外への輸出も図るとされている。
チェジュ
済州島での実証実験
オーストラリア
オーストラリア政府は、ニューサウスウェールズ州の 5 箇所(うち 1 箇所はシドニー中心業務地区)
でスマートグリッド・スマートシティ・イニシアティブというプロジェクトを実施している。このプロジェ
クトでは、30,000 基のスマートメーターが設置され、料金によるデマンドレスポンス、送電側からのス
マート家電のコントロール、水道メーターからスマートメーターへの情報送信など、様々な実験が行われ
ている。
一方、ヴィクトリア州では独自にスマートメーター設置を義務化していて、2013 年までに 250 万戸
の全需要家へ設置する計画になっている。同州の電力会社ではスマートメーターで得られた消費電力等に
関する情報を消費者に提供するサービスを開始している。2013 年からは消費者は時間帯別料金を選択す
ることができるようになる。
19
〜コージェネレーションとは何か〜
コージェネレーションとは、熱源から電力と熱を生産し供給するシステムである。熱源を使いガスエンジ
ンやガスタービンなどで電力を生産し、電力生産時に発生する排熱を冷暖房や給湯に利用する。
一つの熱源から電力と熱を生産するコージェネレーションはエネルギーを無駄なく使うことが可能であ
り、総合効率は 70%程度と高効率なシステムである。一方、従来型の一般的な火力発電所では電力のみを
生産しており、総合効率は 40%程度である。また、電力会社の発電所から需要家まで電気を送電する際の
送配電ロス率は 4.2%(2010 年度の値)であるが、コージェネレーションは電力や熱の需要家の近くに設
置される特徴があるため、送配電ロス率はほとんどない。
燃料としては都市ガス、プロパンガス、重油などが使用されており、効率的なコージェネレーションは、
低炭素で防災力を持った自立・分散型電源として普及が急がれる。
2011 年 3 月末時点において、都内のコー
ジェネレーション導入量は 29 万 kW である。
コージェネレーション
1990 年以降、新規導入量は安定して増加して
いたが、燃料価格の高騰に加え、リーマンショッ
クを受けた投資意欲の減退により、2008 年以
降は新規導入量が減少しており、2011 年では
約 0.5 万 kW であった。都は「2020 年の東京」
従来型の一般的な火力発電所
電気
40
熱源
100
電気
40
排熱利用
30
利用困難な
排熱
30
熱源
100
総合損失 4
利用困難な
排熱
56
において、2020 年までにコージェネレーショ
ンによる発電 50 万 kW を新たに導入すること
を目標としている。
総合効率のイメージ
(東京ガス株式会社ホームページより作成)
〜分散型エネルギーネットワークの構築(シドニー市)〜
シドニー市では、2008 年に策定した「グリーン・インフラストラクチャー・プラン」において、2030 年
までに市内における電力供給のうち、70%(発電容量として 33 万 kW)を電熱併給のエネルギー供給システ
ムであるコージェネレーションから、30%を再生可能エネルギーからの発電で賄うとしている。これは、シ
ドニー市の電力供給を全て地域内に設置した分散型エネルギーシステムにより賄うことを意味している。
同市は、
気候条件が日本に比較的似ており、
夏期の冷房需要も多い。コージェネレーションによる電気と熱
(温
熱、冷熱)を有効に利用するエネルギーシステムを普及させ、更にエネルギーの面的なネットワーク化を政策
的に強力に推し進めようとしている点は注目される。
同市では分散型エネルギー導入に向けたマスタープランを策定し、2030
年までに建物の床面積として 2,000 万㎡の低炭素インフラ地区の形成を目指
しており、12 の街区に対して 1 万〜 4 万 kW 級のプラントを分散配置する
計画としている。
また、市と大手都市開発事業者との間でベタービルディングパートナーシッ
プという協議体を設置している。面的なエネルギーネットワーク構築に向け
た相互理解を深めながら円滑な利害調整を図るアプローチを重視している。
出所:City of Sydney, Decentralised Energy Master Plan -Trigeneration -(2012)
20
■日本国内の事例(北九州市)■
日本では、経済産業省が設置した「次世代エネルギー・社会システム協議会」を中心に議論が進められ、
横浜市、愛知県豊田市、京都府けいはんな学研都市、北九州市で、スマートシティの実証事業が行われて
いる。
天然ガスコジェネ
このうち、北九州市では、
地域全体におけるエネルギー(電力、
熱、
水素)の効率的利用を実現するため、
「北九州スマートコミュニティ
大規模蓄電池
副生水素
副生水素
水
素
送配電網
スマートオフィス
IT網
風力発電所
万KW
1.5
1.5
DP
スマート
コ地域
ミュニティ
センター
レンタサイクル
ステーション
節電所
次世代SS
本事業は主に以下 2 つの実証を特徴としている。
第 1 に、地区全体のエネルギーを統合管理する地域節電所を中
風力発電
仮想導入
(負荷追従実証)
創造事業」を推進している。事業期間は平成 22 年度からの 5 年
間であり今年度から実証が開始されている。
コミュニティ設置型
スマートハウス
心に、地区内にある 50 事業所、230 世帯にスマートメーターを
DP
DP
スマート
ストア
太陽光発電
設置している。また、HEMS、BEMS、水素電力貯蔵システム等
実証事業の全体像
と連携した最適なエネルギー管理ノウハウの確立に向けた実証を
出所:次世代エネルギー・社会システム協議会資料
行っている。
第 2 に、電力需要のピークカットやピークシフトを促進するため、電力料金単価を弾力的に変動させ
る「ダイナミックプライシング」や「インセンティブプログラム」など、住民等参加型の「デマンドサイ
ドマネジメント」の制度設計とその実証を行っている。
本年 7 月には、下表のとおり、翌日の予想最高気温が 30℃を超える日を対象に、ダイナミックプライ
シングを発動し、ピーク時間帯(13 時〜 17 時)の電力料金単価について、最大 10 倍の価格差により
電力料金単価を引き上げる実験を行った。その結果、電気料金を一時的に引き上げた時間帯において、料
金変動グループ(74 世帯)における電力使用量が料金変動させないグループ(42 世帯)と比べて平均
16.1% の減(下表)との結果が得られている。
この他、水素や工場排熱など隣接する産業のエネルギーを有効活用するとともに、エネルギーのみなら
ず、交通システム、緑化、地域コミュニティまで含めた「まちづくり」としての取組を推進している。
ダイナミックプライシングの発動状況
月
日
曜日
予想最高気温
最高気温
レベル
6
29
金
ー
29.1
1
15 円 /kWh
5
木
31
29.9
2
50 円 /kWh
6
金
30
30.7
3
75 円 /kWh
11
水
30
28.3
4
100 円 /kWh
12
木
32
31.6
5
150 円 /kWh
7
ピーク時電力料金単価
13:00 〜 17:00 における1世帯の平均電力使用量
実施レベル
レベル 2
レベル 3
レベル 4
レベル 5
変動なし
1.49kWh
1.68kWh
1.59kWh
1.49kWh
平均
変動あり
1.31kWh
1.32kWh
1.24kWh
1.36kWh
削減量(削減率)
▲ 0.18kWh
(▲ 12.1%)
▲ 0.36kWh
(▲ 21.4%)
▲ 0.35kWh
(▲ 22.0%)
▲ 0.13kWh
(▲ 8.7%)
▲ 16.1%
21
〜グリーンビルディングの普及に向けた世界の動き〜
1 建築物のエネルギー利用効率向上が重要な課題
オフィスビルや住宅等の建築物(民生部門)におけるエネルギー消費は、IPCC(気候変動に関す
る政府間パネル)の第 4 次評価報告書において、地球温暖化の緩和や防止に貢献すべき分野として
特に取り上げられ、中短期的に CO2 排出量の削減可能性が最も大きい分野とされている。
都内の CO2 排出量は、2009(平成 21)年度の伸び率を 2000 年度比で見た場合、特に、オフィ
スビル、店舗、学校、病院等の建築物からの排出量で構成される「業務部門」で 3.9% の増加となっ
ており、
高い伸び率を示している。業務部門の排出量のうち約6割はオフィスビルからの排出であり、
このような排出実態を踏まえた排出削減対策の強化が課題となっている。
2 新築建築物のゼロエネルギー化に向けた取組
欧州では、建築物のエネルギー性能に係る欧州指令(EPBD)により、生活・文化、社会・経済
の異なる欧州諸国の施策を統一的に推進しており、2020 年以降に新築される全ての建築物を概ね
ゼロエネルギーとすることで合意している。この合意を踏まえ、英国では全ての非住宅の新築建築
物について、2019 年までにゼロカーボン化する目標を定めた上で、段階的に省エネルギー基準を
強化することとしている。
また米国では、国内で最も低炭素ビルが普及している地域の一つに挙げられるカリフォルニア州
においても、全ての非住宅の新築建築物について、2030 年までにネットゼロエネルギー化する目
標を定めている。
3 既存建築物の省エネルギー化に向けた取組
① ニューヨーク市(アメリカ)
ニューヨーク市では、2007 年に「Greater, Greener, Building Plan」を策定した。この計画
の特徴は、既存建築物におけるエネルギー消費の削減に焦点を当てた点にある。同市内で現在稼動
している建築物のうち、85%は 2030 年時点でも取り壊されることなく利用されていると想定され、
既存建築物の対策が将来の温室効果ガス排出総量の増減に大きく影響する点を重視している。
同市では、次の4つの義務的施策を条例化し、既存建築物の省エネルギー化を推進している。
◦建築物省エネルギー性能基準の遵守義務 ◦ベンチマーク(建築物の運用段階におけるエネルギー消費実績等に基づき、延床面積あたり
のエネルギー消費量を原単位として算定するなど、エネルギー利用効率を比較評価できる指
標)の算定及び市への報告・公表義務
◦専門家によるエネルギー利用の効率性に関する監査、及び監査指摘事項の実施義務
◦照明の高効率化、及びテナントの設備等ごとにエネルギー使用量
計量機を設置(サブメータリング)する義務
本条例化に当たっては、官・民・非営利団体に渡る専門家 200 人以
上が参加する検討組織(Green codes taskforce)を中心に素案が詰
められた。同組織において 111 項目に及ぶ共同提案がなされ、そのうち
3 割近くの項目が既に条例化を実現している。持続可能な都市づくりこ
そ国際的な都市間競争を勝ち抜く鍵になるという認識が行政やビルオー
ナー等事業者の双方で共有されており、既存建築物のエネルギー効率向
上の取組が進んでいる。
出所:ニューヨーク市ホームページ
22
② イギリス
イギリスでは 2010 年 4 月、年間電力使用量 600 万 kWh
以上の事業者を対象として、都と同様の温室効果ガス総量削
減義務と排出量取引制度である CRC(Carbon Reduction
Commitment)を開始した。
また現在、新築建築物を対象として、設計段階のエネル
ギ ー 性 能 評 価 に 基 づ く 公 的 な 証 書 で あ る EPC(Energy
Performance Certificate) の 取 得 及 び 不 動 産 取 引 時 の 提 ロンドン市の郵便局内に掲示される DEC
示義務が課されているところだが、既存建築物についても新たな評価制度が始まっている。
それは、運用段階のベンチマーク評価に基づく公的な証書である DEC(Display Energy
Certificate)であり、公共施設において当該証書の取得と事業所での掲示を義務付けている。
今後、民間施設でも同様に DEC の掲示が義務付けられる方向で検討が行われている。
CRC の導入もあり、各企業は、自社の事務所や店舗・営業所等ごとにエネルギー使用量
の総量を削減する必要性に迫られている。そのためテナントビル等に入居を検討する際には、
建築物のエネルギー効率について意識的にならざるを得ない状況となっており、EPC 等の評
価結果の高いオフィスビルをテナント側が選択する動きにつながっている。このように、規
制制度と評価制度が両輪となりオフィスビルの低炭素化が加速している。
③ オーストラリア
オーストラリアでは、建築物のエネルギー効率を公開するための法律が制定され、2011
年から CBD(Commercial Building Disclosure) 制度が開始された。この制度では、占有
面積 2,000 ㎡超の既存建築物について、運用段階のベンチマークに基づくエネルギー性能評
価証書(NABERS)等の報告・公表を義務化するとともに、不動産取引(販売・賃貸借)時
の取引先への提示を義務付けている。またホームページでは、建築物の年間 CO2 排出量(総
量及び原単位)や年間エネルギー消費量、照明効率(kW/ ㎡)
・照明制御機能などの比較が簡
単に出来る仕組みを構築するとともに、照明のエネルギー効率に関する監査を受ける義務を
併せて課している点が特徴的である。
テナント事業者の中にはエネルギー効率の高い低炭素ビルに
入居したいという意向を示す事業者がいる一方で、入居先の選
定基準として活用できる情報が十分にないことを挙げる事業者
も多い状況にある。建築物の環境性能に関する情報を一般にわ
かりやすく公表する制度を通じてグリーンビルディングへの関
心を高めていく取組が、不動産市場におけるビルオーナー・テ
ナント・投資家等の行動変化を生み出しており、低炭素都市づ 出所:オーストラリア政府
ホームページ
くりの推進力となっている。
◆ 世界グリーンビルディング協会によるガバメントリーダーシップ賞(2011 年 12 月)
同賞は、環境都市づくりや建築物の低炭素化等の分野において、先駆的な取組を進めている自治
体を表彰する制度として、世界 80 か国以上のグリーンビルディン
グ協会の連合体である世界グリーンビルディング協会により 2011
年に創設された。世界の 6 都市が受賞しており、サンフランシス
コ市(米国)
、メキシコシティ市(メキシコ)
、バーミンガム市(英
国)
、シンガポール、ニューヨーク市(米国)と並んで、東京都は、
建築物からの CO2 削減を推進する「キャップ & トレード制度」の
開始について「最も画期的な政策」との評価を受けている。
23
スマートエネルギー都市への挑戦
世界で、日本で、電力需給の仕組みと技術が大きく変りつつある。今後、次のような革新が急速に進む。
◦スマートグリッド技術(HEMS、BEMS、スマートメーター、広域監視など)の普及
◦電力制度改革(全面自由化、発送電分離など)
◦再生可能エネルギーやコージェネレーションなどの分散型電源の大幅な導入 ◦ ZEB / ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル/ハウス)の普及 など
このような変革を通じて、消費者が電力会社まかせではなく、主体的に電力消費を管理し、電源を選択
する時代となる。電力システムが中央集権型から分散型に変わることで、
それぞれの分野で競争が生まれ、
新たなビジネス、新たな技術開発が生まれる。
例えば、スマートメーターを使った柔軟な電気料金制度が導入される。また、強化された送電網に再生
可能エネルギーが大規模に接続される。全国に広く設置された再生可能エネルギーの発電量は安定的とな
り予測可能となる。そうなれば、風が強く風力発電の出力が期待できる時間帯には電気料金が下がり、電
気自動車などの充電が行われる。逆に電力需給がひっ迫した時には需要家の節電した電力が電力市場でネ
ガワットとして取引される。高効率な天然ガス発電所の出力は安定し、各種のインフラは最大限に有効活
用される。
例えば、災害により電力系統が大きな損害を受けた場合であっても、各施設やエリアに設置された非常
用電源・コージェネレーションシステムからの電力供給によって、オフィスの事業継続や高齢者の生活の
安全は確保される。ライフラインや防災拠点に設置された発電設備も応急対策に力を発揮する。東京の高
度な防災力がアジアのビジネス拠点としての信頼性を高める。
エネルギーを上手に使うライフスタイル・ビジネススタイルが定着し、エネルギー消費量と温室効果ガ
ス排出量を大きく削減しながら、生活は豊かになる。先端的なエネルギー制御技術が新たな成長を創り出
していく。快適なオフィス環境、くつろぎのある住環境が確保され、災害時にもしなやかに対応できる防
災力が実現される。
東京は、そんな「スマートエネルギー都市」を目指して、すでに第一歩を踏み出している。
24
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