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第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験

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第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
(はじめに)
すべての問題文の条件設定において,特に断りのない限り,他に特殊な事情がないものとし
ます。また,各問題の選択枝における条件設定は独立したものと考え,同一問題内における他
の選択枝には影響しないものとします。
特に日時の指定のない限り,2015年5月1日現在で施行されている法律等に基づいて解答し
なさい。
解答は,選択枝ア~エ又はア~ウの中から1つ選びなさい。
1
電機メーカーであるX社は,技術経営力を高めるため2007年4月に特許庁から公表され
た「戦略的な知的財産管理に向けて―技術経営力を高めるために―<知財戦略事例集>」を参
考にして,社内の知的財産管理体制を再構築することとした。問1~問3に答えなさい。
問1
ア~エを比較して,知的財産管理のための新たな組織体制を検討するX社の知的財産担当の役
員甲と知的財産部の部長乙の会話として,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
甲
「知的財産管理業務の遂行を本社の知的財産部門に集中させた場合のメリットは何か
ね。」
乙
「このような体制を採用することは,知的財産に関するすべての情報が知的財産部門に
集まることから,複数の事業部門や関係子会社も含めた知的財産を一元的に管理する
ことが可能となり,知的財産戦略の立案や知的財産の管理業務を全社統一的に実施で
きるという,メリットがあります。また,事業部門や研究開発部門の状況などの情報
が入りやすくなり,発明発掘,特許情報の提供,権利活用などの活動をするために必
要な事業部門・研究開発部門との連携を実践しやすくするメリットもあります。」
イ
甲
「分散型管理とした場合のデメリットは何かね。」
乙
「それぞれの事業部門内に知的財産部門を持つ分散型は,全社的な視点からの知的財産
管理の最適化を阻害しかねないことや,重複研究・重複投資を行うおそれがあります。
また,事業部門ごとに知的財産に関する判断に齟齬が生じ,統一した知的財産戦略が
打ち出せないなどのデメリットが発生し得る可能性があります。」
ウ
甲
「併設型とはどのような体制で,それぞれの組織に求められる役割はどのようなものか
ね。」
乙
「併設型は,本社部門に全社に統一的な知的財産関連業務を行う組織を設ける一方で,
各事業部門にも各事業部門内の知的財産関連業務を行う組織を設置する体制です。本
社機能の知的財産本部は,会社全体にわたる知的財産戦略の立案・実行や各事業部門
の知的財産部間の調整を行うことが求められ,各事業部門の知的財産部は,全社的な
視点からの知的財産管理の遂行が求められることが多いです。」
エ
甲
「わが社にはどのような体制が最も適していると思うかね。」
乙
「併設型は,集中型,分散型の両方のメリットを活かしつつデメリットを緩和しており,
効率的な知的財産関連の業務を行っていく上で有効な組織体制であり,企業規模の小
さいわが社に最適な形です。」
1
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問2
X社が戦略的な知的財産管理を適切に行っていく上では,知的財産関連の予算の取扱が重要で
あり,予算の負担部署としては知的財産部門と事業部門が考えられる。ア~エを比較して,知的
財産部門が予算を負担する場合における記述として,最も適切と考えられるものはどれか。
ア 業績が悪くなると重要な出願もされなくなってしまう事態が起こりうる。
イ 短期的な費用対効果を度外視して,将来性のある事業に中長期的な視点から知的財産関連予
算の投入が可能になる。
ウ 事業の採算性の観点から,事業に即した適正な予算が設定され得る。
エ 事業部門が特許出願や特許権の必要性を精査するインセンティブが高くなる。
問3
X社は,知的財産教育について再検討し,対象を広げた知的財産研修を継続的に実施すること
とした。ア~エを比較して,最も不適切と思われるものはどれか。
ア
知的財産教育には,いわゆる研修という形態,先輩から後輩へと引き継ぐ形態,業務を行い
ながら習得する形態と種々の形態がある。
イ
経営層が,適切に知的財産の状況を理解し,戦略的に知的財産を活用する視点を持つために
は,知的財産に関する適切な知識と能力を有することが必要となる。そのため,経営層向け
の知的財産教育は,事業,研究開発,知的財産の各戦略を三位一体として実現するためにも
重要となる。
ウ
研究者は,研究開発により発明を創造することのみならず,創造した発明について自ら特許
出願をするための明細書の作成,先行技術調査,特許情報を的確にとらえ研究開発に活かす
こと,というように,多岐に業務を行うことを期待される場合がある。この場合,こうした
業務を行う能力を研究者に身に着けさせるための教育が必要である。
エ
営業担当者が,「わが社の製品は特許権で守られた優れたものである」,「わが社の製品は
他社の知的財産権を侵害していないものである」ということを顧客に説明することは,職務
範囲外であり,顧客に対し誤解を生じさせないためにも慎むべきである。このようなことを
防止するため,営業担当者には知的財産権に関して必要以上に情報を与えることなく,いか
なる場合にも知的財産にかかわる事象が生じた場合には直ちに知的財産部門に連絡するよう
に教育することが必要である。
2
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
2
次の文章は,知的財産活動はどうあるべきかを議論するためのメーカーX社の事業背景と今
後の事業計画の説明である。問4~問5に答えなさい。(出典:特許行政年次報告書
4年版第3部第1章
201
なお,出題のため一部変更している。)
【X社の事業背景と今後の事業計画】
X社では,コンシューマ事業を有するものの,当該事業から撤退し,今後成長が見込まれ
る領域として,医療用診断機器事業への参入を計画しています。コンシューマ事業は,白物
家電を扱う家電事業部と,AV機器を扱うAV機器事業部とから構成されています。しかし
ながら,白物家電は,日本市場向けの機器の多機能化にリソースを集中していたことから,
低コスト商品を求める新興国市場で後手に回ってしまっている状況です。また,コンシュー
マ向けの低価格AV機器は,販売台数が多いため,利益率が低くリスクの高い事業となって
いるのにもかかわらず,いわゆるパテントトロールのターゲットとなる可能性が非常に高い
状況です。
このような状況の中で,X社は,家電事業,低価格コンシューマ向けAV機器事業から撤
退し,リソースを他事業に割り当てることを予定しています。
一方,先進国における高齢化,新興国における医療需要の拡大の予測に基づき,医療用診
断機器市場は比較的安定して成長しているため,長期的に安定した事業を構築できると判断
し,医療用診断機器事業への参入を目指しています。
問4
ア~エを比較して,新規事業の早期立ち上げのための知的財産活動に関する次の文章の空欄
1
~
3
に入る語句の組合せとして,最も適切と考えられるものはどれか。
X社は,医療用診断機器事業に参入するに当たって,医療用診断機器特有の技術及びノウ
ハウの蓄積が不足しているため,まずは,社外からの技術及び知的財産の導入を行う必要が
あります。そこで,新規事業に関して
許を調査し,
2
1
を洗い出した上で,競合他社の有する技術や特
ことによって,利用できる
3
を拡大することを検討しました。さら
に,それでも足りない部分については,先行している比較的小規模な企業のM&Aを行うこ
とを検討しました。
ア
イ
1
=他社が進めている開発テーマ
2
=クロスライセンスをする
3
=販路
1
=自社が有している技術・特許
2
=大学などと共同開発をする
3
=人的リソース
3
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
ウ
エ
1
=他社が進めている開発テーマ
2
=競合を避ける
3
=特許ポートフォリオ
1
=自社が有している技術・特許
2
=クロスライセンスをする
3
=特許ポートフォリオ
問5
ア~エを比較して,撤退事業,継続事業に係る知的財産活動に関して,最も不適切と考えられ
るものはどれか。
ア
今後モデルチェンジで使われなくなるような特許(例えば,機能に関するもの等)は,他社
の動向を考慮しつつ,権利維持費用とのバランスを考慮して売却又は権利放棄を検討するこ
ととする。
イ
新興国ではエンフォースメントの実効性が不透明であり,模倣品の出現リスクが高いという
問題もあるため,継続事業については,特許制度だけではなく商標制度や意匠制度も活用し
て保護することが重要である。
ウ
撤退事業に関連する知的財産については,今後,自社での実施は見込まれないものの,権利
範囲が広く他社の実施可能性の高い特許,またはすでに他社実施が確認されている特許につ
いては,売却を考えず,重要特許として維持する。
エ
継続事業に関して,新興国では,技術流出を可能な限り防止するため,その国における競合
他社の技術水準を適切に見極め,競合他社が通常に技術開発を進めれば到達するレベルと考
えられる技術は特許出願しないようにする。
4
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
3
次の文章は,企業活動の変化並びに国際的な知的財産制度の動向に関する説明である。問6
に答えなさい。(出典:特許行政年次報告書
2014年版第3部第2章
なお,出題のため
一部変更している。)
問6
ア~エを比較して,空欄
1
~
3
に入る語句の組合せとして,最も適切と考えられるも
のはどれか。
新興国市場の成長による輸出先の拡大,生産拠点・研究開発拠点の海外進出など企業活動
のグローバル化が進むことで,海外における知的財産権取得の意識が高まっている。各企業
はこれまで以上に多数の国に出願するようになり,同じ発明が多数の特許庁でそれぞれ審査
されるという状況が生じている。このような状況に対応するため,各国特許庁は
特許庁間の
2
1
,各
等に取り組むことで,出願人の海外での早期権利化を支援するとともに,
ワークシェアリングを進めている。これらの取組の結果として,各国特許庁が他庁の審査結
果を参照して審査を行うケースが増加し,
3
が重要視されるようになり,ユーザーに最
初に出願する国(特許庁)として選ばれるための「制度間競争」が進んでいる。
ア
イ
ウ
エ
1
=審査期間の短縮
2
=審査手続の統一
3
=最初に行われた審査結果
1
=特許審査ハイウェイの拡大
2
=審査関連情報の相互参照システムの進展
3
=最初に行われた審査結果
1
=審査レベルの向上
2
=審査関連情報の相互参照システムの進展
3
=審査の質
1
=特許審査ハイウェイの拡大
2
=審査手続の統一
3
=審査の質
5
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
4
機械メーカーX社の知的財産部の部員甲は,社内での職務発明制度の整備を任されている。
甲は,次のような職務発明規程の草案(検討中であるため,ところどころ空欄や内容が確定し
ていない箇所がある)を作成し,この草案やその他の事項について同じ知的財産部の先輩部員
乙に相談している。問7~問9に答えなさい。
職務発明規程(案)
(目的)
第1条
この規程は,従業者等が発明をした場合の取扱について定め,従業者等による発明を奨励し,
その保護及び活用を図ることにより,社業の発展に資することを目的とする。
(定義)
第2条
この規程において,次の各号に掲げる用語の定義は,当該各号に定めるところによる。
一
職務発明
二
発明者
三
従業者等
空欄
空欄
空欄
(発明の届出)
第3条
会社の業務範囲に属する発明をした従業者等は,速やかに会社指定の発明届を作成し,所属
長を経由して会社に届け出なければならない。
2
前項の発明が2人以上の者によって共同でなされたものであるときは,前項の発明届を連名で作
成するとともに,各発明者の寄与率を記入するものとする。
(職務発明の認定)
第4条
知的財産部長は,第3条の届出に係る発明について,次の各号に定める事項を決定し,又は
認定するものとする。
届出に係る発明が職務発明に該当するか否か
二
当該職務発明に係る権利を承継することの要否
三
当該職務発明をした者それぞれの寄与率
2
一
会社は,前項の決定又は認定の内容を,当該発明をした従業者等に,速やかに通知するものとす
る。
(権利の承継等)
第5条
空欄
(権利の処分)
第6条
空欄
(対価の算定方法)
第7条
空欄
(対価の支払時期)
第8条
空欄
(発明者からの意見の聴取)
第9条
空欄
(次ページに続く)
6
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
(発明委員会の設置)
第10条
この規程に関する事項を実施するために発明委員会を設置し,その事務局を知的財産部と
する。
2
発明委員会の委員長は,執行役員の中から社長が任命し,委員は,委員長が指名する。
(発明委員会の審議事項)
第11条
発明委員会は,委員長の招集により開催し,次の各号に定める事項について審議を行う。
一
空欄
二
空欄
三
空欄
(以下略)
(実施細則
略)
(異議申立書(第1号様式)
略)
問7
第2条の内容について,甲と乙が会話している。ア~エを比較して,最も適切と考えられるも
のはどれか。
ア
甲
「職務発明の発明者になり得る従業者等の定義を第2条で規定しようと考えているので
すが,職務発明の発明者になり得る従業者等には,どのような者を含めることができ
ますか。例えば,社長,すなわち代表取締役や,嘱託社員を含めることはできます
か。」
乙
「職務発明の発明者になり得る従業者等には,一般社員や嘱託社員は含まれますが,社
長をはじめとする役員を含めることはできません。」
イ
甲
「職務発明の定義を規定しようと思うのですが,職務発明に含まれる発明は,どのよう
な範囲まで含めておけばよいですか。」
乙
「契約自由の原則があるので,わが社の業務範囲に含まれる発明であれば,従業者等の
誰が創作したものであっても,すべて職務発明の範囲に含めることができる旨を規定
しておきましょう。」
ウ
甲
「職務発明の範囲に関し,従業者等が他社への転職前に開発を開始して転職後に完成さ
せた発明を含めることはできますか。」
乙
「従業者等の過去の職務に属する発明も職務発明とすることができます。このため,従
業者等が他社への転職前に開発を開始して転職後に完成させた発明をわが社の職務発
明に含めることは可能です。」
エ
甲
「第2条では,職務発明の創作主体として発明者の定義を規定する予定なのですが,職
務発明の場合,法人であるわが社が発明者となる場合はありますか。」
乙
「発明者になり得るのは自然人のみです。このため,法人であるわが社が発明者となる
ことはありません。」
7
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問8
第5条及び第6条の内容について,甲と乙が会話している。ア~エを比較して,最も不適切と
考えられるものはどれか。
ア
甲
「職務発明に係る権利の承継等としては,どのようなことを規定すればよいですか。」
乙
「従業者等から特許を受ける権利を承継すること,専用実施権の設定を受けること及び
通常実施権の許諾を受けることのいずれかを選択することも考えられます。わが社の
意向を反映しやすくすることを重視するのでしたら,少なくとも通常実施権の許諾を
受けることについて規定しておく必要があります。」
イ
甲
「共同開発案件でわが社の従業者等と共同開発先である他社の従業者等とが共同発明を
した場合,他社の従業者等との関係で,特許を受ける権利の予約承継はどうなります
か。」
乙
「この職務発明規程が適用されても,わが社が,わが社の従業者等から特許を受ける権
利を承継するためには,他社の従業者等の同意が必要です。同様に,他社が,他社の
従業者等から特許を受ける権利を承継するためには,わが社の従業者等の同意が必要
です。」
ウ
甲
「職務発明に係る権利の処分に関し,特許法では,不要になった特許権を放棄するため
には従業者等の承諾を得なければならない旨が規定されていますか。」
乙
「いいえ,特許法では,職務発明に係る特許権を放棄する場合,従業者等の承諾を得な
ければならない旨の規定はありません。但し,従業者等との無用の衝突を避ける観点
から,従業者等の承諾を得なくても,職務発明に係る特許権を放棄できる旨を規定し
ておくことが好ましいといえます。」
エ
甲
「職務発明に係る権利を従業者等がわが社に黙って他社に譲渡し,その他社がわが社よ
り先に特許出願してしまった場合でも,わが社の職務発明規程に予約承継を規定して
おけば,他社への譲渡は無効になるのですよね。」
乙
「いいえ,その場合,いわゆる二重譲渡に該当するため,他社への譲渡は無効にはなり
ません。」
8
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問9
第7条及び第8条の内容について,甲と乙が会話している。ア~ウを比較して,最も適切と考
えられるものはどれか。(この問題には選択枝エはない)
ア
甲
「従業者等には管理職と非管理職が含まれますが,対価を決定するための基準について,
職域ごとに異なる基準を設けることはできますか。」
乙
「基準は1つでなければならないため,そのような異なる基準を設けることはできませ
ん。」
イ
甲
「職務発明に係る相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効は,いつから起算します
か。」
乙
「当該権利の消滅時効の起算点は,支払うべき対価の支払時期に関する条項の有無にか
かわらず,従業者等が職務発明を会社に通知した時になります。」
ウ
甲
「特許出願をするほど重要ではないと思われるものの,念のため職務発明に係る権利を
会社に承継するような場合,会社は,職務発明に係る権利を承継しても対価を支払わ
ない旨を規定できますか。」
乙
「いいえ,職務発明に係る権利を会社が承継する以上,対価の支払が必要です。このた
め,そのような旨を規定することはできません。」
9
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
5
問10~問11に答えなさい。
問10
家電メーカーX社は,デザイン会社Y社との間で新製品のデザイン作成を内容とする業務委託
契約を締結した。本契約は,完成したデザインの提供を目的とすることから,請負契約として締
結された。この契約について,X社の法務部の部員甲と部員乙とが会話をしている。ア~ウを比
較して,最も不適切と考えられるものはどれか。(この問題には選択枝エはない)
ア
甲
「請負契約において請負人は仕事を完成させる義務を負いますが,もしY社の責めによ
らない不可抗力によってデザインが完成しなかった場合,わが社はY社に報酬を支払
わなくてよいのですか。」
乙
「今回の契約で報酬の支払条件について特約がなければ,わが社が報酬を支払う必要は
ありません。」
イ
甲
「今回の契約には担保責任に関する規定はありませんが,もし完成したデザインが契約
に規定された仕様を満たさない場合,デザインの修正を求めることができますか。」
乙
「仕様を満たさない場合は『仕事の目的物に瑕疵がある』に該当するので,原則として,
修補請求としてデザインの修正を求めることが可能です。」
ウ
甲 「もし今回の契約で『Y社はデザインに関する担保責任を負わない』と規定されていれ
ば,いかなる場合もY社は担保責任を負わないことになるのですか。」
乙 「いかなる場合も担保責任を負うことはありません。契約自由の原則から,当事者の合
意内容は常に尊重されるべきだからです。」
10
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問11
家電メーカーX社は,Y大学との間で新技術に関する研究開発を内容とする業務委託契約を締
結した。本契約は,当該新技術の実現が客観的に容易でないことから,委任(準委任)契約とし
て締結された。この契約について,X社の法務部の部員甲と部員乙とが会話をしている。ア~ウ
を比較して,最も不適切と考えられるものはどれか。(この問題には選択枝エはない)
ア
甲
「今回の契約ではY大学が研究開発を成功させる義務を負いませんが,今回の契約書に
何も規定しなければ,Y大学は研究開発を真面目に行う義務すらないのですか。」
乙
「善管注意義務というものがあります。善良な管理者の注意をもって委任事務を処理す
る義務を負うということです。」
イ
甲
「善管注意義務違反に該当しなくても,客観的に研究開発の成功が不可能であることが
判明した場合,わが社は今回の契約を解除することはできますか。」
乙
「解除することはできません。請負契約と異なり,委任契約は仕事の完成を目的とする
ものではありませんから,研究開発が成功しないことが判明しても,あらかじめその
旨の特約が設けられていない限り契約解除することはできません。」
ウ
甲
「善管注意義務を果たしているか確認するために,必要なときにわが社がY大学に対し,
研究内容の報告を求めることは可能ですか。」
乙
「報告を求めることは可能です。Y大学はわが社の請求に応じいつでも委任事務の処理
の状況を報告する義務があるので,契約上何ら規定がなくても,わが社はY大学に報
告を求めることが可能です。」
11
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
6
材料メーカーX社に対し,磁石メーカーY社が,X社が新たに開発した合金を用いた永久磁
石の開発を共同で行うことを提案したところ,X社から次の共同開発契約案の提示を受けた。
問12~問13に答えなさい。
共同開発契約(案)
X社(以下「甲」という)とY社(以下「乙」という)とは,AにBを添加したことを特徴とする
合金を用いた永久磁石の開発を共同して行うことに関し,次の通り契約(以下「本契約」という)を
締結する。
第1条(定義)
本契約において使用する次の用語の意味は,次の通りとする。
(1)「本件合金」とは,AにBを添加したことを特徴とする合金をいう。
(2)「本件製品」とは,本件合金を用いた永久磁石をいう。
(3)「本件開発」とは,本件製品の開発をいう。
(4)「本研究」とは,本件製品の開発に係る研究をいう。
第2条(開発の分担)
本件開発に関する業務分担は,原則として次の通りとし,その詳細については甲乙協議の上定め
る。(以下略)
第3条(第三者への委託)
(略)
第4条(資料・情報の交換)
甲及び乙は,本契約の期間中,各自が保有しかつ研究の遂行に必要な資料,情報を相互に開示す
る。但し,第三者との契約により秘密保持義務を負っているものは,この限りでない。
2
甲及び乙は,前条により相手方から開示された資料,情報を本契約の履行のためのみに使用し,
その他の目的に使用してはならない。
第5条(研究費の分担)
(略)
第6条(進捗状況及び情報の連絡)
(略)
第7条(研究期間)
本研究の期間は,×年×月×日から○年○月○日までとする。
第8条(第三者との共同研究の制限)
甲及び乙は,本契約期間中及び本契約終了後2カ月間,相手方の同意なくして本件開発と同一目
的の研究を第三者と共同して行い,又は第三者から受託してはならない。
(次ページに続く)
12
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
第9条(成果)
本研究成果とは,本件開発目的に直接関係する発明,考案,意匠,ノウハウ及び実証試験データ
等一切の技術的成果をいう。本件開発終了後に甲及び乙が協議の上,本研究成果を確認する。
2
本件開発により得られた成果は,甲及び乙の共有とする。
第10条(産業財産権の帰属)
甲及び乙は,前条の規定に基づく甲乙共有の成果のうち,特許,実用新案,意匠についての産業
財産権を受ける権利及び当該権利に基づき取得される産業財産権(以下「本産業財産権」という)
を共有とする。
2
甲は,前項に規定する甲乙共有の成果に関する本産業財産権の出願手続を行い,乙はこれに協力
する。
3
甲及び乙は,前項に基づく本産業財産権の出願手続及び権利保全に要する費用を持分に応じて負
担する。
第11条(成果の発表)
甲及び乙は,本件開発の成果を単独で外部に発表しようとするときは,その内容,時期,方法等
について事前の文書でもって相手方の同意を得なければならない。
第12条(成果の実施)
乙は,本件開発の成果を実施することができる。但し,乙は,本件開発の成果を実施することの
対価として,甲に対して甲及び乙が別途協議して定める一時金及び実施料を支払わなければならな
い。
2
乙は,本件開発の成果を実施するにあたり使用する本件合金は,甲から購入しなければならない。
第13条(第三者への実施許諾)
甲及び乙は,相手方の文書による同意を得て,第三者に本研究成果を実施する権利を許諾するこ
とができる。その条件については甲乙別途協議して決定する。
第14条(特許等の取得保全)
(略)
第15条(秘密保持)
本契約の期間中及び本契約の期間満了から3年間,甲及び乙は,本契約期間中に相手方から提供
されたすべての情報を第三者に開示してはならない。但し,次のものは秘密保持対象から除外され
る。
(以下略)
2
前項にかかわらず,乙は,法律上の要請に基づき行政当局や裁判所等の公的機関に甲から提供さ
れた技術情報の開示を求められた場合,これを開示することができる。
第16条(保証)
(略)
第17条(解約)
(略)
(次ページに続く)
13
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
第18条(有効期間)
本契約の有効期間は,本研究の期間と同一とする。但し,この契約期間は,甲乙協議の上,書面
による確認により変更できる。
2
前項の規定にかかわらず,第8条「第三者との共同研究の制限」の規定は,本契約終了より2カ
月間,その効力を有する。
3
第1項の規定にかかわらず,第11条「成果の発表」,第12条「成果の実施」第2項及び第1
5条「秘密保持」の規定は,本契約期間満了より3年間,その効力を有する。
4
第1項の規定にかかわらず,第12条「成果の実施」第1項,第13条「第三者への実施許諾」,
第14条「特許等の取得保全」の規定は,各条項の対象事項がすべて消滅するまでその効力を有す
る。
第19条(協議事項)
(略)
本契約締結の証として本書2通を作成し,甲及び乙が記名押印の上,各自1通を保有する。
(以下略)
問12
ア~エを比較して,本契約に関して,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
第8条は,共同開発のテーマと同一のテーマの開発を共同開発期間終了後も制限するもので
あるため,一般論としては,独占禁止法上の不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項
ということになるが,本件では,当該制限が契約終了から2カ月間に限定されているため,
不公正な取引方法に該当しない可能性が高い。
イ
第9条は,成果の帰属を,その発明者や創作者がX社とY社のどちらに所属しているのかを
考慮せずに一律に共有とするため,X社又はY社のどちらか一方が有利となる可能性が認め
られることから,独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する可能性が高い。
ウ
第12条第1項は,Y社が共有の開発成果を実施するにあたり,X社へ別途定める一時金及
び実施料の支払義務を課している一方,X社については同様の規定が本契約中に存在しない
ため,独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する可能性が高い。
エ
第12条第2項は,Y社による本件開発の成果の実施に関し,成果に基づく製品の原材料の
購入先をX社に制限する規定であるため,一般論としては,独占禁止法上の不公正な取引方
法に該当するおそれが強い事項ということになるが,本件では,制限が契約期間中及び契約
期間満了から3年間に限定されているため,不公正な取引方法に該当しない可能性が高い。
14
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問13
ア~エを比較して,本契約に関して,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
本契約において,X社及びY社は,それぞれ相手方から提供された情報について,秘密保持
義務に反しない限り,本契約の履行以外の目的にも使用することができる。
イ
本契約において,Y社が,本契約に基づきX社から提供された秘密情報の開示を法律に基づ
き裁判所の求めに応じて行った場合であっても,当該情報に関し,Y社は依然として秘密保
持義務を負う。
ウ
本契約は,共同開発契約という名称を有する以上,契約書が印紙税の課税文書となることは
ない。従って,本契約の契約書に印紙は不要である。
エ
本契約において,本件開発の成果に基づく産業財産権はX社とY社の共有と規定されている
ものの,持分割合についての定めがないため,別途X社とY社の間で協議しない限り,出願
手続及び権利保全に要する費用の負担割合が定まらないことになる。
15
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
7
愛知県名古屋市にある電子部品メーカーX社に対し,鹿児島県鹿児島市にある材料メーカー
Y社が,X社が保有する赤色蛍光体Aに関する特許権Pについて,通常実施権の許諾を申し入
れてきた。X社の知的財産部の部長甲と部員乙とがY社に提示するための実施許諾契約案につ
いて検討している。問14~問15に答えなさい。
問14
ア~エを比較して,甲と乙との会話として,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
甲
「契約案では,Y社が実施許諾の対価として『Y社が販売する許諾対象特許を使用した
赤色蛍光体Aの正味販売価格の10%を実施料として支払う。』となっている。『正
味販売価格』という語の定義が契約書中にはないが,どのようにして正味販売価格を
算定するのか明らかといえるのか。」
乙
「正味販売価格は,純販売価格などともいわれ,総販売価格から経費を控除したものと
されていますので,敢えて定義を設けなくても算定に疑義は生じないと思います。」
イ
甲
「契約案では,Y社が実施許諾の対価として『Y社が販売する許諾対象特許を使用した
赤色蛍光体Aの正味販売価格の10%を実施料として支払う。』となっている。消費
税については特に規定していないが,Y社は消費税相当額を実施料に上乗せしてわが
社に支払う義務があるという理解でよいか。」
乙
「はい。消費税法に基づき消費税は当然支払われなければなりませんから,わが社は,
Y社に対して消費税相当額を請求することができます。従って,特に規定を設けなく
てもY社はわが社に対して,消費税相当額を実施料に上乗せして支払う義務が発生す
るため,特段の規定は不要です。」
ウ
甲
「本契約は特許の実施許諾に関する契約のため,わが社が本契約に関する紛争でY社を
訴える場合には,知的財産専門部がある大阪地裁に訴えられるようにしておきたい。
契約案には管轄合意についての規定がないため,このままでは,Y社を大阪地裁に訴
えることができないのではないか。」
乙
「確かに,管轄合意の規定がない限り大阪地裁には管轄が認められないため,大阪地裁
を第一審の専属的合意管轄とする規定を設けるようにします。」
エ
甲
「契約案には,損害賠償条項がない。損害賠償条項を設け,Y社が債務不履行の場合に
所定の額の損害賠償額をわが社に支払う旨の規定(損害賠償額の予定)を設けてはど
うか。」
乙
「損害賠償条項がなくても,Y社の債務不履行に対し,わが社は民法第415条,第4
16条に基づいて損害賠償を請求することはできます。損害賠償額の予定を設けた場
合,実際に発生した損害の額が規定された額に満たなくても,例外的な場合を除き,
わが社は規定された額を請求することができますが,逆に,裁判において,実際に発
生した損害の額が,規定された賠償額を上回っていることをわが社が立証できたとし
ても,規定された額しか損害賠償は認められないことになります。」
16
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問15
ア~エを比較して,甲と乙との会話として,最も不適切と考えられるものはどれか。
ア
甲
「契約案中には,Y社は,わが社から実施許諾を受けている第三者に対し,Y社の特許
権を契約期間中行使してはならない旨の規定が設けられている。このような規定は,
独占禁止法上問題とならないのか。」
乙
「このような規定は,わが社の市場における有力な地位を強化することにつながる,Y
社の研究開発意欲を損なう,といった点から,独占禁止法上の不公正な取引方法に該
当して問題となる可能性があります。」
イ
甲
「契約案に,Y社が,許諾対象特許を実施する赤色蛍光体Aの原料を,わが社の子会社
Z社から購入するよう義務づける規定を設けたい。」
乙
「そのような規定は,Y社が原料の品質や購入先を選択する自由を制約し,代替的な原
料を供給するZ社以外の事業者の取引の機会を排除する効果を持つため,不公正な取
引方法に該当して問題となる可能性があります。」
ウ
甲
「Y社が契約案に基づいて製造する赤色蛍光体Aを,わが社の直接の競業者であるW社
が使用できるようになる事態は当面は避けたい。契約書中に契約開始から2年間,Y
社は本件製品をW社に販売してはいけない旨の規定を設けたいが,独占禁止法上,不
公正な取引方法に該当することはないか。」
乙
「わが社は,特許権者であり,Y社の特許権に係る実施の可否を自由に決められる立場
にありますから,赤色蛍光体Aの販売先を制限することも,実施の態様の一部制限で
しかない以上可能です。従って,そのような規定は,独占禁止法上の不公正な取引方
法に該当することはありません。」
エ
甲
「契約案中には,Y社が直接又は間接に許諾対象特許の有効性を争った場合,わが社が
本契約を解除することができる旨規定されている。本規定は,Y社に対し許諾対象特
許の有効性について争わない義務(不争義務)を課す規定と実質的に同じであり,独
占禁止法上の不公正な取引方法に該当するのではないか。」
乙
「不争義務を課す規定と異なり,Y社が直接又は間接に許諾対象特許の有効性を争った
場合にわが社が本契約を解除することができる旨の規定は,原則として独占禁止法上
の不公正な取引方法には該当しません。」
17
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
8
食品メーカーのX社の技術者甲が,知的財産部の部員乙に新規特許出願の相談をしている。
問16~問17に答えなさい。
甲
「一般消費者の要望に応えた健康食品として,成分Aを含んだヨーグルトを開発しました。
これについて特許出願したいのです。」
乙
「従来品との違いは何でしょうか。」
甲
「はい。ヨーグルトに成分Aを入れると,乳酸菌との相互作用でカルシウムの吸収を促進す
ることがわかったのです。このカルシウムの吸収作用について調査したところ,新発見の
可能性が極めて高いです。」
乙
「なるほど。でも確か先日の分析結果では,競合のY社のヨーグルトに係る製品Bにも成分
Aが検出されていたような記憶があります。製品Bの成分表には成分Aについて何も記載
されていません。」
甲
「はい。Y社も成分Aとカルシウムの吸収作用との関係に気づいていないようですね。」
問16
ア~エを比較して,甲の話を聞いた乙の考えとして,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
成分Aによるカルシウム吸収を促進する作用に着目して,カルシウム吸収促進剤とすれば,
発明に該当し,特許の対象になり得る。
イ
製品Bはヨーグルトであり,「成分Aを含んだ発酵食品」と特許請求の範囲に記載して出願
すれば,登録される可能性が高い。
ウ
製品Bが成分Aを含有していることは一般に知られていないので,甲の発明は「成分Aを含
んだヨーグルト」と特許請求の範囲に記載して出願すれば,登録される可能性が高い。
エ
成分Aの含有量で製品Bとの差別化を図って特許出願しても「数値範囲を最適化又は好適化
することは,当業者の通常の創作能力の発揮」と認定され,製品Bとの関係で進歩性が肯定
されることはない。
18
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問17
甲の新規出願に係る発明について出願前に,乙が先行文献調査をしたところ,2カ月前の米国
の学術誌に「成分Aを含むヨーグルト」に関する論文が掲載されていることがわかった。論文は
甲と丙の連名であり,その中では一定量の成分Aを含むヨーグルトによる骨強化の効果について
も述べられていた。ただし,丙は単なるデータ解析の協力者であった。ア~エを比較して,乙の
考えとして,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
特許出願の発明者から丙を除外すると拒絶理由になってしまうので,甲と丙を共同発明者と
して特許出願する必要がある。
イ
最初の公表地が米国だったので,米国特許制度の規定に従い,米国を第1国とした特許出願
とせざるを得ない。
ウ
米国での公表から6カ月以内に新規性喪失の例外を適用して特許出願すれば,論文掲載にか
かわらず特許査定を受けられる可能性がある。
エ
公表から6カ月以内に特許出願すれば,論文掲載から特許出願までの間に第三者から「成分
Aを含むヨーグルト」について,論文に掲載された内容と同様の特許出願があったとしても,
その先願によってわが社の出願が拒絶されることはない。
19
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
9
通信機器メーカーX社の知的財産部の部員甲は,特許出願Pに対して通知された最初の拒絶
理由について検討している。拒絶理由が通知された際の特許請求の範囲,拒絶理由通知の概要
は,次の通りである。問18~問19に答えなさい。
特許請求の範囲
【請求項1】
Aと,
Bと,
Cとを備える送信装置。
【請求項2】
Dをさらに備える,請求項1に記載の送信装置。
最初の拒絶理由通知の概要
拒絶理由通知書
特許出願の番号
特願2012-○○○○○○○号
起案日
平成27年○月○日
特許庁審査官
特許
特許出願代理人
弁理士
太郎
適用条文
特許法
第29条第2項
花子
様
この出願は,次の理由によって拒絶をすべきものである。これについて意見があれば,この通知書
の発送の日から60日以内に意見書を提出してください。
理由
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布
された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づ
いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をする
ことができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
・請求項
1
・引用文献等
1,2
・備考
①
引用文献1には,A’及びB’を備える送信装置が記載されている。A’及びB’は本願請求項1に
記載されたA及びBに相当するものと認められる(段落【0020】)。引用文献2には,Eを備え
(次ページに続く)
20
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
る受信装置が記載されている。送信装置と受信装置の技術分野は一致し,②引用文献1の送信装置にお
いてEに代えてCを設けることは,当業者が適宜なし得る設計事項である。従って,本願請求項1に
記載された発明は,引用文献1及び2に記載された発明に基づいて,当業者が容易になし得たものと
認められる。
<拒絶の理由を発見しない請求項>
請求項2に係る発明については,現時点では拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見さ
れた場合には拒絶の理由が通知される。
引用文献等一覧
1.特開2004-○○○○○○○号公報
2.特開2006-○○○○○○○号公報
以上
問18
検討の結果,下線①に関する審査官の認定を覆すことは難しいが,下線②に関する審査官の主
張は妥当性を欠くと判断し,意見書を提出することとした。ア~エを比較して,意見書の記載に
関して,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
引用文献1には,本願請求項1のCを採用すること,引用文献2を組み合わせることは示唆
されていません。また,引用文献1と引用文献2では,解決課題及び作用効果が相反してお
り,仮に引用文献1のA’及びB’に引用文献2のEを組み合わせたとしても,通信効率を
向上させるという引用文献1の発明の目的に反することとなります。従って,引用文献1に
引用文献2を組み合わせて本願請求項1に係る構成に至ることは,当業者が容易に想到し得
たものではありません。
イ
審査官殿の認定の通り,引用文献1には本願請求項1に係るA及びBに相当するA’及びB’
が記載されています。しかし,引用文献1及び2はいずれも,本願請求項1に係るCを示唆
していません。従って,当業者が引用文献1及び2を組み合わせて本願請求項1に係る構成
に至ることは,当業者が容易に想到し得たものではありません。
ウ
本願請求項1に係るCは,実施例に記載されているように,具体的にはC’であり,引用文
献2に記載されたEとは全く異なるものです。従って,引用文献1のA’及びB’に引用文
献2のEを組み合わせたとしても,本願請求項1に係る発明に至るものではなく,本願請求
項1に係る発明は当業者が容易に想到し得たものではありません。
エ
引用文献1及び引用文献2の発明と本願発明とは,解決課題及び解決手段が同じですが,引
用文献2のEは,本願発明のCとは作用機能が異なります。従って,引用文献1のA’及び
B’に引用文献2のEを適用したとしても,本願請求項1に係る構成に至るものではなく,
本願請求項1に係る発明は当業者が容易に想到し得たものではありません。
21
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問19
拒絶理由通知に対して意見書を提出したところ,「意見書の内容を検討したが,拒絶理由を覆
すに足りる根拠が見出せない」との拒絶査定が出された。ア~エを比較して,甲の考えとして,
最も適切と考えられるものはどれか。
ア
請求項2に記載のDを請求項1に付加する補正を拒絶査定不服審判の請求と同時にすると,
限定減縮補正に該当しないとの理由で,補正が却下される。
イ
拒絶査定不服審判を請求せずに分割出願をすることはできない。
ウ
拒絶査定不服審判を請求し,審判請求期間が経過した後は,新たな拒絶理由が通知されない
限りは分割出願をする機会がないので,分割出願をすべきかどうか,現時点で検討するべき
である。
エ
拒絶査定では意見書に対する検討が十分になされておらず承服し難いが,請求項1の補正を
せずに拒絶査定不服審判を請求すると,審判請求前の拒絶理由が解消されていないとして手
続却下される。
22
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
10
化学メーカーX社の開発部の部長甲と技術者乙が,競合メーカーであるY社の特許につい
て会話をしている。問20~問21に答えなさい。
甲
「既に公開されたY社の国際出願Aが新製品の開発の障害になりそうだという話を聞いたの
ですが,その後の進展はありますか。」
乙
「はい。国際出願Aは適法な優先権主張を伴う出願です。国際調査報告では2件の先行文献
が引用されていることが確認されています。しかし,開発部で議論してみたのですが,
特許性の有無に関してはよくわからずにいます。」
①
甲
「なるほど,それは困りましたね。早い段階で知的財産部の部員丙に相談してください。別
件ですが,Y社に関する特許マップの作成は順調ですか。」
乙
「はい。丙と協力して,②Y社の出願件数推移に関する特許マップを作成しました。詳しい
ところは明日の定期連絡会で意見交換する予定です。明日,先ほどの国際出願Aについて
も丙に確認してみます。」
問20
乙と丙が,翌日の定期連絡会で下線①について会話している。ア~エを比較して,丙のアドバ
イスとして,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
「特許性に関する見解については,通常は国際調査報告に英語で書かれています。英語で書
いてあるので見落とされがちですが,ここは目を通しておきたいところですね。」
イ
「通常は国際調査報告とは別に国際調査見解書が作成され,国際事務局のウェブサイトで公
開されます。国際調査見解書を確認すれば特許性に関する見解がわかると思います。」
ウ
「国際出願Aは米国に移行されています。米国特許法には情報開示陳述書(IDS)という
制度があり,Y社は情報開示陳述書(IDS)において,国際調査報告の各引用文献と本
願の関係について対比説明の書類を提出しているはずです。これを閲覧すれば必要な情報
が手に入ると思います。」
エ
「国際調査報告の先行文献リスト以外の情報は,出願人でも知ることができません。各国で
の審査経過を監視しながら探っていくことになります。」
23
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問21
図1は下線②の特許マップである。この特許マップについて,乙と丙が会話している。ア~エ
を比較して,丙の発言として,最も適切と考えられるものはどれか。なお,特許マップの横軸は
出願日に基づく出願年,縦軸は公報の発行件数を示している。今回は公開系公報と特許公報の両
方を合計しているが,両方とも発行されている場合は,1件としている。
600
500
件数
400
300
200
100
0
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
出願年
図1
ア
乙
「特許マップでは分割出願はどのように取り扱われていますか。」
丙
「分割出願に係る公報からは原出願日を知ることができないので,特許マップでは,分
割出願の現実の出願日でカウントされます。」
イ
乙
「特許マップでは国内優先権の基礎出願の取扱はどうなっているのでしょうか。」
丙
「国内優先権の基礎出願についてはすべて公報が発行されるので,特許マップでは必ず
カウントされます。」
ウ
乙
「Y社の出願件数は減ってきているようですね。」
丙
「はい。2014年は顕著でした。Y社の内部で組織改編や方針変更があったかもしれ
ないので,インターネットや営業ルートなどから情報収集してみようと思います。」
エ
乙
「日本全体の傾向と比べて,Y社の出願件数はいかがでしょうか。」
丙
「ここ1~2年はともかくとして,Y社の出願件数推移は日本全体の出願件数推移と概
ね同様の傾向となっているようです。具体的には,2005年までは増加傾向,その
後は漸減し,2009年からは一層の件数低下が起こっています。」
24
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
11
X社は,X社の特許協力条約(PCT)に基づく国際出願Pについて,国際調査報告とと
もに,次の内容が記載された見解書を受け取った。問22~問24に答えなさい。
国際調査機関の見解書
第Ⅴ欄
国際出願番号
PCT/JP2015/00000
新規性,進歩性又は産業上の利用可能性についてのPCT規則43の2.1(a)
(i)に定める見解,それを裏付ける文献及び説明
1.見解
新規性(N)
請求項
1-8
有
請求項
進歩性(IS)
産業上の利用可能性(IA)
無
請求項
1-4,8
有
請求項
5-7
無
請求項
1-8
有
請求項
無
2.文献及び説明
文献1:JP
2005-12345
2005.08.06,
A(株式会社ABC)
段落【0026】-【0030】,第7図(ファミリー
なし)
文献2:JP
2008-67890
A(CDE株式会社)2008.06.28,請求
項1,第1図(ファミリーなし)
文献3:WO2009/010101A1(XYZ
Inc.)2009.05.26,第2図
(ファミリーなし)
請求項5,6に係る発明は,文献1及び文献2により進歩性を有しない。文献1の段落【00
26】-【0030】及び第7図に記載された○○○装置に,文献2の請求項1及び第1図に記
載の△△を搭載することは当業者にとって容易である。
請求項7に係る発明は,文献1及び文献3の第2図に記載の□□を搭載することは当業者に
とって容易である。
請求項1-4及び8に係る発明は,新規性及び進歩性を有する。国際調査報告に引用されたい
ずれの文献にも記載されておらず,当業者にとって自明なものでもない。
25
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問22
ア~エを比較して,見解書に関して,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
第19条補正によって,請求項5から7を削除する補正をするとともに,国際調査機関に対
して所定の請求をすることにより,当該第19条補正に基づいて再度1回だけ見解書を得る
ことができる。
イ
国際調査は,関連のある先行技術を発見することを目的としているが,規則に定める最小限
資料を調査するにとどまるため,見解書における進歩性の判断も最小限資料の範囲で行われ
る。従って,請求項1から4及び8について進歩性「有」と判断されているのは,進歩性判
断の基準日における周知の技術が考慮されない点は,念頭に置いておく必要がある。
ウ
請求項5及び6については,見解書の判断に不服があるので,いわゆる非公式コメントを国
際事務局に提出する予定である。但し,この非公式コメントは,特許協力条約(PCT)に
明文化された規定はないので,指定官庁の審査で利用してもらうためには,別途,指定官庁
への送付を請求しなければならない。
エ
見解書で肯定的な見解のみがされている場合であっても,第19条補正をすることができる。
26
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問23
X社は,社内で検討した結果,国際出願Pについて,国際予備審査請求をすることとした。ア
~エを比較して,国際予備審査請求についてのX社の判断に関して,最も不適切と考えられるも
のはどれか。
ア
見解書に対しては,第34条補正をするために,国際予備審査請求をすることになる。国際
予備審査請求をする場合は,第34条補正を提出すると,第19条補正を提出していても,
第34条補正に基づいて審査されるため,第19条補正による補正内容は審査の対象となら
ない。
イ
X社は,第19条補正は提出しないこととした。そして,国際予備審査請求と同時に第34
条補正を提出しなかった場合,国際調査機関によって作成された見解書が,国際予備審査機
関の最初の見解書とみなされるため,国際予備審査請求時に第34条補正の提出ができない
場合は,請求項5から7について進歩性「無」の判断を前提として国際予備審査報告が作成
されてしまう。このような事態を避けるためには,国際予備審査請求書で,第34条補正に
基づいて審査をしてほしい旨の表示をすればよい。
ウ
国際調査と国際予備審査とでは,新規性,進歩性の判断の基準日が異なるので,国際予備審
査報告では,文献1~3以外に新たな先行技術文献が引用される可能性がある。
エ
国際予備審査報告は,国際事務局が翻訳をして各選択官庁に送達してくれるが,第34条補
正の翻訳は,出願人が作成し選択官庁に送付しなければならない。
問24
X社は,国際出願Pについて,中国を指定国として国内移行手続をする予定である。ア~エを
比較して,X社の考えとして,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
国際出願Pの請求項には,装置に係る発明と当該装置の処理方法に係る発明が記載されてい
る。中国では,日本同様,実用新案の出願が認められるが,保護対象は,日本の実用新案法
と異なり,簡易な方法も対象となるため,国内移行に際して,実用新案登録出願として国内
移行することも検討の余地がある。
イ
中国の実用新案登録出願は,いわゆる実体審査を行わないため,特許出願に比べて権利付与
までの期間が短い。そこで,国内移行時には,特許出願で手続し,その後,中国市場での動
向を見ながら,権利化を急ぐ場合は,実用新案登録出願に出願変更することも検討する予定
である。
ウ
中国では,同一出願人であって同一の発明創作であれば,国際出願Pに基づいて特許と実用
新案登録出願の両方を同日に出願することができる。
エ
国際出願Pに係る発明の一部は,出願前にX社がウェブサイトで公表していた。中国にも,
新規性喪失例外の規定が存在するが,中国ではウェブサイトで公表したことは同規定の適用
事由に該当しないため,公表した部分に係る請求項を削除することで対応したい。
27
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
12
自動車メーカーX社は,2013年5月1日に日本に特許出願Aをした。X社は,米国の
Y法律事務所に対し,特許出願Aに基づくパリ条約上の優先権を主張して米国に特許出願Bを
出願することを依頼し,2014年4月30日に特許出願Bがされた。問25~問26に答え
なさい。
問25
ア~ウを比較して,特許出願Bについての情報開示陳述書(IDS)に関して,最も不適切と
考えられるものはどれか。(この問題には選択枝エはない)
ア
特許出願Bの関連発明として,別途米国で出願している特許出願Cについての情報は,米国
特許商標庁に審査係属中であっても,特許性に関し重要である情報と考えられるものについ
ては開示する必要がある。但し,特許出願Cに関する情報又はこれと同等な情報は,今まで
米国特許商標庁には提出されていないものとする。
イ
特許出願A(特許出願Bと特許出願Aでは同じ発明をクレームしていたものとする)に対す
る拒絶理由通知に記載された文献を提出する必要がある。但し,特許出願Aのクレームは,
当該文献により新規性を有さないとして拒絶されており,当該文献又は同等な情報は,今ま
で米国特許商標庁には提出されていないものとする。
ウ
特許出願Bの明細書には記載されているが,クレームされていない実施例にのみ関係する特
許公報を提出する必要がある。なお,特許公報の情報又は同等な情報は,今まで米国特許商
標庁には提出されていないものとする。
28
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問26
特許出願Aが係属中である2015年2月に,特許出願Aに係る発明に非常に近い発明が記載
された英文の文献Dに基づいて特許庁長官に情報提供がされた。X社の知的財産部の部員甲は,
特許出願Bに対して米国特許商標庁に文献Dを提出しなかった。なお,文献Dは,特許出願A及
びすべてのその対応出願において引用されていなかった。ア~エを比較して,「特許出願Bのク
レームに記載される発明に近い文献Dを隠し不当に特許出願を権利化した(Inequitable
Conductがあった)」ことに対する甲の対応として,将来問題となる可能性が低いものとして,
最も適切と考えられるものはどれか。
ア
文献Dを提出せず,その代わりに,米国で許可された特許出願Bに係る請求項と十分相違を
出すことのできる文献のみを米国特許商標庁の規則に従い情報開示陳述書(IDS)ととも
に提出する。
イ
文献Dの記載のうち,特許出願Bに関連する部分を削除して米国特許商標庁の規則に従い情
報開示陳述書(IDS)とともに提出する。
ウ
Y法律事務所と相談した結果,文献Dは,すでに米国特許商標庁に提出されている文献と同
一文献であったため,文献Dを米国特許商標庁に提出しない。
エ
Y法律事務所にも連絡せず,そのまま放置し,文献Dを米国特許商標庁に提出しない。
29
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
13
証券会社X社は,初めて米国に特許出願Aをする予定である。X社の担当者甲は,弁理士
乙に問合せをしている。問27~問29に答えなさい。
甲
「米国の特許法は,新たな判例を考慮して法改正がされているように思いますが,これは
日本と異なる法体系だからでしょうか。この点について,まず,ご説明をお願いしま
①
す。」
乙
「わかりました。」
甲
「また,わが社の発明(証券取引に関するシステム)との関連で②米国の特許法で定める保
護対象についてもご教示ください。」
乙
「わかりました。」
甲
「わが社が今般,米国で出願する予定の発明は,金融系のビジネス方法に関するものです。
この種の特許出願について,③2010年のビルスキー事件の最高裁判決が存在している
ようですが,同判決についてご教示ください。」
乙
「わかりました。それでは以下順を追ってご説明します。」
問27
ア~エを比較して,下線①について,日本の法体系に関する乙の発言として,最も適切と考え
られるものはどれか。
ア
「日本の法体系は,過去の判例を主たる法源とする『大陸法(Continental Law)』を採用
しています。」
イ
「日本の法体系は,過去の判例を主たる法源とする『コモン・ロー(Common Law)』を
採用しています。」
ウ
「日本の法体系は,制定法を主たる法源とする『大陸法(Continental Law)』を採用して
います。」
エ
「日本の法体系は,制定法を主たる法源とする『コモン・ロー(Common Law)』を採用
しています。」
30
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問28
ア~エを比較して,下線②に関する乙の発言として,最も不適切と考えられるものはどれか。
ア
「米国特許法では,発明の定義が具体的に規定されています。」
イ
「米国特許法では,保護対象がプロセス,機械,生産物,組成物及びこれらの改良と分けて
規定されています。」
ウ
「米国裁判所による米国特許法の解釈では,自然現象,抽象的な観念,自然法則自体は保護
対象ではないとされています。」
エ
「米国裁判所又は米国特許商標庁による米国特許法の解釈では,コンピュータプログラム自
体は保護対象ではないとされています。」
問29
ア~エを比較して,下線③に関する乙の発言として,ビルスキー事件の最高裁判決に関して,
最も適切と考えられるものはどれか。
ア
「ビジネス方法自体の特許性を否定しました。」
イ
「特許出願Aに係る発明は,単なる抽象的アイデアだが,米国特許法第101条に規定する
『方法』に該当すると判断しました。」
ウ
「ビジネス方法の特許性を肯定した上で,『機械・変換テスト(machine or
transformation test)』を唯一の判断基準として採用することを否定しました。」
エ
「ビジネス方法の特許性を肯定した上で,『有用,具体的かつ有形の結果(useful,
concrete and tangible result )』を唯一の判断基準として採用しました。」
31
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
14
電機メーカーX社は,標準化技術を採用して製品Aを製造販売していたところ,競合する
Y社から,製品AがY社の保有する特許権Pを侵害する旨の警告書が送られてきた。X社の知
的財産部の部長甲と部員乙が対応を検討している。問30~問31に答えなさい。
問30
ア~エを比較して,Y社からの警告書に対する対応を検討するにあたって,甲が乙に対して指
示した内容として,最も不適切と考えられるものはどれか。
ア
「標準化技術と異なるものを商品化して戦うことは困難であるので,特許権Pの技術的範囲
に標準化技術が属するのかを検討して,設計変更が可能かを検討しなさい。」
イ
「特許権Pに係る発明は,わが社がZ社より購入している部品により実現されている技術で
あり,わが社は単にZ社から購入した部品を使用しているにすぎないので,わが社は特許
権Pを侵害しない旨をY社に対して回答しなさい。」
ウ
「わが社の採用している標準化技術は,ある標準化団体によって決定されたもので,Y社は
この団体に参加している。この団体では団体参加者の保有する必須特許については,『公
正,合理的かつ非差別的な条件』(FRAND条件)で許諾する用意がある旨の誓約をす
る義務を課しているので,特許権Pがこの条件で許諾することを宣言した特許権であるか
を調査しなさい。」
エ
「特許権Pが分割出願されている可能性もあるので,分割出願の有無を確認し,分割出願が
あれば登録前のものも含めて,製品Aがその技術的範囲に属するかを検討しなさい。」
32
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問31
乙が調査した結果,Y社は,ある標準化団体において,特許権Pが必須特許であり,「公正,
合理的かつ非差別的な条件」(FRAND条件)で,取消不能なライセンスを許諾する用意があ
る旨の宣言を行っていることが判明した。ア~ウを比較して,判決(知的財産高等裁判所平成2
5年(ネ)第10043号債務不存在確認請求控訴事件,平成25年(ラ)第10007号特許
権仮処分命令申立却下決定に対する抗告申立事件,平成25年(ラ)第10008号特許権仮処
分命令申立却下決定に対する抗告申立事件における平成26年5月16日付の判決及び決定)を
ふまえた乙の発言として,最も不適切と考えられるものはどれか。(この問題には選択枝エはな
い)
ア
「わが社が,いかなる条件であってもライセンスを受けないとするのであれば,Y社は,F
RAND宣言がなされた特許権であっても,これに基づく差止請求を行うことができます
ので,差止めのリスクを考慮して争うのかを判断する必要があります。」
イ
「特許権PについてFRAND条件によるライセンスを受ける意思を示して交渉を行わない
と,Y社はわが社に対して特許権Pに基づく差止めやFRAND条件でのライセンス料相
当額を超える損害賠償請求が可能となります。しかしながら,Y社との交渉において製品
Aの特許権Pの技術的範囲の属否,無効理由の有無について争ったとしても,必ずしも特
許権PについてFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有していないということ
にはなりません。」
ウ
「Y社が特許権Pについて他社に実施許諾をしているのであれば,当該実施許諾に係る契約
書の開示を求めることが考えられ,当該契約書の開示がなされない場合,Y社の行為は著
しく不公正であるといえ,Y社によるわが社に対する特許権Pに基づくFRAND条件で
のライセンス料相当額の範囲内での損害賠償請求についても権利濫用として制限されるこ
とになります。」
33
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
15
X社は,特許権Pを保有しているところ,Y社の製品Aが特許権Pを侵害している可能性
が高いことが判明した。問32~問33に答えなさい。
問32
X社は,Y社に対して,特許権Pに基づく権利行使を検討している。ア~エを比較して,X社
の考えとして,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
当事者間の交渉で解決することが考えられる。Y社が交渉に応じない場合には法的手続をと
らざるを得ないが,交渉の結果,当事者間で和解契約書を締結しておけば,Y社が当該契約
書に違反して製品Aの製造を継続した場合に,X社はY社に対して他の手続を経ずに強制執
行が可能となる。
イ
製品Aの製造販売等の差止め,及び損害賠償金の支払を求めて,裁判所に本案訴訟を提起す
ることが考えられる。第一審で勝訴判決を得ても,Y社に不服があれば控訴できるため,審
理が長期にわたる可能性があるが,第一審判決で仮執行宣言付の勝訴を得た場合,強制執行
停止が認められることは容易ではないため,その分早期に製品Aの製造販売を差し止めるこ
とができる。
ウ
製品Aの製造販売等の差止めを求める仮処分を裁判所に申し立てることが考えられる。審理
期間は比較的短期であり,また,暫定的なものであるとはいえ,差止請求について勝訴判決
を得たのと同様の効果があり,また,特許権Pに無効理由があっても仮処分の申立ては却下
されない。
エ
特許庁における判定制度を利用することが考えられる。製品Aが特許権Pの技術的範囲に属
する旨の判定結果が得られれば,Y社がこれを尊重して和解を促進することが可能となるが,
判定の審理では特許権Pの無効理由について審理されず,また,判定の結果は当事者を法的
に拘束しないため判定の結果をY社が尊重しない可能性がある。
34
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問33
X社は,Y社に対して,製品Aの差止め及び損害賠償を求めて,東京地方裁判所に本案訴訟を
提起したところ,侵害論の審理を経て,裁判所から,製品Aは特許権Pに係る特許発明の技術的
範囲に属する,特許権Pには無効理由はないとの心証の開示がなされるとともに,X社及びY社
に対して和解による解決の打診がなされた。ア~エを比較して,X社にとっての和解による解決
のメリットに関して,最も不適切と考えられるものはどれか。
ア
第一審で勝訴判決を得てもY社から控訴されることを考えれば,和解により早期にX社の求
めた解決に近い内容の解決をすることが可能となる。
イ
勝訴判決を得たとしても,製品Aの差止め等を行うために強制執行をしなければならない可
能性があるが,和解はY社も合意した上での解決であるため,Y社による任意の履行の可能
性が高い。
ウ
本案訴訟において和解をすれば,特許無効の審判を請求しないとの約束をしていない場合で
あっても,Y社は今後,特許権Pについて特許無効の審判を請求できなくなるので,特許権
Pの不安定性さを解決することができる。
エ
将来分の実施に関して,特許権Pについて,ライセンスによる収入を得たり,製品Aの設計
変更をさせることを合意したりするなど,和解により製造販売の中止以外の解決方法を取り
決めることが可能となる。
35
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
16
民事訴訟における弁論主義の第2テーゼに関する次の文章について,問34~問35に答
えなさい。(出典:裁判所職員総合研修所監修『民事訴訟法講義案(改訂版)』司法協会
005年
2
なお,出題のため一部変更している。)
(略)
問34
ア~エを比較して,空欄
1
~
4
に入る語句の組合せとして,最も適切と考えられるも
のはどれか。
ア
イ
ウ
エ
1
=許されない
2
=私的利益をめぐる紛争をその当事者間で相対的に解決すること
3
=客観的真実の探求
4
=当事者間に争いのある限度で示すことで足りる
1
=許される
2
=私的利益をめぐる紛争をその当事者間で相対的に解決すること
3
=客観的真実の探求
4
=当事者間に争いのない範囲まで示すべきである
1
=許されない
2
=客観的真実の探求
3
=私的利益をめぐる紛争をその当事者間で相対的に解決すること
4
=当事者間に争いのある限度で示すことで足りる
1
=許される
2
=客観的真実の探求
3
=私的利益をめぐる紛争をその当事者間で相対的に解決すること
4
=当事者間に争いのない範囲まで示すべきである
36
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問35
ア~エを比較して,弁論主義に関して,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
民事訴訟の手続において,相手方が主張した事実について争うか否かを明らかにしなかった
場合は,弁論の全趣旨から事実の存否について争わない趣旨と認められない限り,その事実
の存否について争っているものとみなされる。
イ
民事訴訟法の規定が準用されている特許無効審判において,審判官は,当事者間に争いがな
く請求人が申し立てなかった理由についても,審理することができる。
ウ
民事訴訟において被告が1度でも事実関係を認めた場合,原告の同意があっても被告が自白
を撤回することは認められない。
エ
弁論主義の第2テーゼは,当事者が主張する「事実」に限定されず,当事者が主張する「権
利・法律関係」についても常に適用される。
37
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
17
問36~問45に答えなさい。
問36
知的財産権の金銭的な価値評価法としてインカム・アプローチがあり,このアプローチで用い
られることが多いのがDCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)である。このDCF法
を用いて,所定の評価期間における知的財産権の金銭的価値Vを評価する場合の概念を式で表す
と,次のようになる。
V=各年の(C×R×D)の総和
ここで,各記号の意味は次の通りである。
C:各年における収益・キャッシュフロー
R:知的財産権の寄与率
D:現在価値への割引
ア~エを比較して,t年後の割引率をr%とした場合の現在価値への割引Dとして,最も適切
と考えられるものはどれか。
ア
D=1/(1+r)t
イ
D=1×(1+r)t
ウ
D=1/(1+r/100)t
エ
D=1×(1+r/100)t
問37
ベンチャー企業X社は,新たなバイオ技術について特許出願Aをした。X社は,資金調達のた
め,大企業Y社に,特許出願Aに係る発明について仮通常実施権を許諾してライセンス料を得る
ことを検討している。ア~エを比較して,X社の知的財産担当者の発言として,最も適切と考え
られるものはどれか。
ア
「仮通常実施権は特許法上認められるものではありませんが,事実上認められる権利として,
契約によりその内容をきちんと定義をすることにより,許諾することができます。」
イ
「仮通常実施権が認められるためには,特許出願Aが出願公開されている必要があるので,
急いで出願公開の請求をする必要があります。」
ウ
「仮通常実施権について,第三者に対する対抗要件を具備するためには,特許庁に登録する
必要があります。」
エ
「仮通常実施権は,特許出願Aの願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に
記載した事項の範囲内において,許諾することができます。」
38
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問38
ア~エを比較して,発明の特別な技術的特徴を変更する補正(以下「シフト補正」という)に
関して,最も不適切と考えられるものはどれか。
ア
シフト補正違反とはならない補正をした場合でも,補正後の請求項に係る発明同士が単一性
要件違反となることがある。
イ
拒絶理由通知を受ける前に行う自発補正においても,シフト補正の要件は判断される。
ウ
補正前の請求項に特別な技術的特徴を有する請求項が1つもない場合でも,補正後の請求項
の進歩性等の審査が行われることがある。
エ
シフト補正違反は,無効理由とはならない。
問39
ア~エを比較して,外国語書面出願の出願書類及び翻訳文に関して,最も適切と考えられるも
のはどれか。
ア
外国語書面は,出願書類の形式として,特許請求の範囲に記載すべきものとされる事項を含
まない,英語の技術論文等の形式であってもよい。
イ
外国語書面出願の翻訳文の提出においては,出願時に提出された図面に外国語による説明が
含まれていない場合は,図面の提出を省略できる。
ウ
要約書は,権利関係に影響を与えるものではないため,出願日から1年2カ月以内に外国語
書面の要約書の翻訳文が提出されなくとも出願のみなし取下げとはされないが,補正命令及
び手続却下の対象となる。
エ
外国語書面出願では,願書は日本語で記載し,願書の提出は外国語書面の翻訳文の提出とと
もに行う。
問40
ア~エを比較して,パリ条約に基づく優先権に関して,最も不適切と考えられるものはどれか。
ア
パリ条約に基づく優先権は,最初の出願から発生する。
イ
パリ条約に基づく優先権は,最初の出願であったとしても,その出願後に取下げ等された場
合には発生しない。
ウ
パリ条約に基づく優先権は,同一の発明について同一の同盟国において再度出願を行う場合
は,「先の出願」を先に取り下げた後に「後の出願」をしなければ,当該「後の出願」は優
先権を発生しない。
エ
パリ条約に基づく優先権は,いずれかの同盟国でなされた出願でなければ発生しない。
39
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問41
ア~エを比較して,同盟国X国でされた特許出願Aに基づいて,他の同盟国にパリ条約上の優
先権を主張して特許出願Bをする場合に関して,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
特許出願Bについて,特許出願Aと,同盟国X国でされた特許出願Cに基づいてパリ条約上
の優先権を主張することはできない。
イ
特許出願Aに含まれていない構成が特許出願Bに含まれている場合,特許出願Bについて,
パリ条約に基づく優先権を主張することはできない。
ウ
特許出願Aと特許出願Bとの間で,発明内容の同一性があることは,パリ条約に基づく優先
権の主張が認められることについての要件ではない。
エ
特許出願Aと特許出願Bとの間で,出願人が同一でなくとも,パリ条約に基づく優先権の主
張が認められる場合がある。
問42
ア~エを比較して,パリ条約に関して,最も不適切と考えられるものはどれか。
ア
権利の存在を認めさせるためには,特許の記号を産品に付することを要しない。
イ
特許品が輸入だけされ,現地生産がされないことを理由に,同盟国においていきなり特許が
取り消されることはない。
ウ
特許品が輸入だけされ,現地生産がされないことを理由として,同盟国において強制的に通
常実施権が設定されることがある。
エ
特許の対象である物の販売が国内法令上の制限を受けることを理由として,特許を拒絶し又
は無効とすることができる。
40
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問43
ア~ウを比較して,拒絶理由通知に関して,最も適切と考えられるものはどれか。(この問題
には選択枝エはない)
ア
V社は,新規なアイデアに基づく発明について2013年4月16日に日本で特許出願Aを
し,早期審査を行い,その特許出願Aは2014年3月11日に登録された。また,米国に
特許出願を行っていなかったため,急遽,米国特許出願を行うことを決定した。しかし,米
国へ特許出願することを決定した時点で,すでに特許出願Aの出願日から1年以上経過して
いたため,当該特許出願Aに基づいて優先権を主張せずに2014年5月12日に米国に特
許出願Bを行った。以上の状況で特許出願Bは,米国特許法第102条のいずれの項にも該
当せず新規性を理由に拒絶されることはない。
イ
W社は,2013年6月28日に米国に特許出願Cをした。先行文献として特許出願Dが発
見された。特許出願Dは,2013年6月20日に日本でされた特許出願に基づいてパリ条
約上の優先権を主張し,2014年6月19日に米国にされた特許出願である。米国におけ
る後願排除効は,実際に米国で出願された米国出願日を基準に判断されるため,特許出願C
は,特許出願Dを引用して拒絶されることはない。
ウ
日本で創作し完成した発明Eについて,X社は,米国に特許出願Fを出願した。しかしなが
ら,特許出願Fの出願日前に日本においてこの発明Eが知られていたという事実が,特許出
願Fの出願後に判明した。米国特許法第102条(a)項は,米国内だけでなく,外国での
行為も新規性喪失事由に該当する旨規定されているため,かかる場合,特許出願Fは拒絶さ
れる場合がある。
41
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問44
税関での差止めについて,X社の知的財産部の部員である甲と乙が会話をしている。ア~エを
比較して,最も適切と考えられるものはどれか。
ア
甲
「不正競争防止法におけるいわゆる著名表示冒用行為により営業上の利益を侵害されて
いる者は,輸入差止申立てと輸出差止申立てのいずれをすることもできますか。」
乙
「著名表示冒用行為というと,不正競争防止法第2条第1項第2号に規定される不正競
争ですので,同号に掲げる不正競争を組成する物品については,輸入差止申立てと輸
出差止申立てのいずれもできます。」
イ
甲
「輸入差止申立てに基づく認定手続の際,特許庁長官の意見を聴くことを税関長に求め
ることができる者は,どのような権利に係る権利者及び対象貨物を輸入しようとした
者でしょうか。」
乙
「特許権に係る権利者及び対象貨物を輸入しようとした者だけです。実用新案権や意匠
権に係る権利者及び対象貨物を輸入しようとした者は,特許庁長官の意見を聴くこと
を税関長に求めることができません。」
ウ
甲
「特許権の侵害に基づく輸入差止申立てに係る貨物の認定手続がとられる場合,特許権
者は,疑義貨物の見本について検査が認められることがありますか。」
乙
「いいえ,そのような申立てに係る貨物の認定手続がとられる場合,疑義貨物の見本に
ついての検査が認められることはありません。」
エ
甲
「税関において,輸入申告された貨物の中に特許権侵害の疑いがある疑義貨物が発見さ
れた場合の流れはどのようなものですか。」
乙
「まず税関長は,当該疑義貨物の輸入者のみに対して認定手続を開始する旨を通知しま
す。これに対し,輸入者が意見又は証拠を提出した場合に,初めて税関長は,特許権
者に対して,認定手続が開始された旨の通知を,輸入者からの提出物の写しとともに
送付し,意見及び証拠の提出の機会を与えます。」
42
【第 22 回 1 級(特許専門業務)学科試験】
問45
ア~エを比較して,弁理士法に関して,最も不適切と考えられるものはどれか。
ア
弁理士が著しい非行をするに至ったときには,日本弁理士会に懲戒処分を請求することがで
きるだけでなく,経済産業大臣に対しても懲戒請求をすることができる。
イ
弁理士でない者又は特許業務法人でない者が弁理士業務を行った場合には,刑事罰の対象と
なる。
ウ
外国の行政官庁への特許等の手続に関する業務は弁理士又は特許業務法人の業務範囲である
ので,弁理士でない者又は特許業務法人でない者がかかる業務を行った場合には,刑事罰の
対象となる。
エ
ある特許業務法人で勤務していた弁理士が,当該特許業務法人内で業務に従事していたとき
にX社の特許情報を取り扱っていたが,その後,別の特許業務法人に転職し,当該X社のラ
イバル会社の案件を取り扱うようになったときには,そのことを理由に懲戒される場合があ
る。
――――問題は以上です。
43
【1級学科(特許専門業務)】
番号 正解
問1 イ
問2 イ
問3 エ
問4 エ
問5 エ
問6 イ
問7 エ
問8 ア
問9 ウ
問10 ウ
問11 イ
問12 ア
問13 イ
問14 エ
問15 ウ
問16 ア
問17 ウ
問18 ア
問19 ウ
問20 イ
問21 エ
問22 エ
問23 ウ ※正解を訂正しました(2016/01/05)
問24 エ
問25 ウ
問26 ウ
問27 ウ
問28 ア
問29 ウ
問30 イ
問31 ウ
問32 エ
問33 ウ
問34 ウ
問35 イ
問36 ウ
問37 エ
問38 イ
問39 ウ
問40 イ
問41 エ
問42 エ
問43 ウ
問44 ア
問45 ウ
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