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競合激化で明暗分かれるPDA市場

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競合激化で明暗分かれるPDA市場
NRI
NEWS
競合激化で明暗分かれる PDA 市場
石綿昌平
1998 年の PDA(携帯情報端末)の出荷量は 300 万台であった。1997 年と比べるとほ
ぼ横ばいだが、製品構成は変化しつつある。PDA は、ハンドヘルド PC (パソコン)
プロ、ハンドヘルド PC、パームサイズ PC の 3 種類に分けられる。1998 年以降、パー
ムサイズ PC とハンドヘルド PC とで明暗が分かれた。PDA 間の競合のみならず、PDA
はさらにノート PC、携帯電話などとも競合していく。今後、PDA 市場が成長してい
くには、これらと競合するだけでなく、融合を重ねていく必要がある。
■成長が一段落した PDA 市場
ボードなし、タッチパネル入力)
■カテゴリー間の競合
――に分類する(図1)。
1996 年末に、情報家電など向け
PDA には、多様なタイプの製
の OS(基本ソフト)である「ウ
品がある。ここでは、1998 年に
種類別の生産量の推移をみる
ィンドウズ CE」が発表された。
マイクロソフト社が発表した、ウ
と、1998 年後半以降パームサイズ
そのことにより、翌年にはPDA(携
ィンドウズ CE の新バージョン、
PC が大きく延びている(次ペー
帯情報端末)の生産量は増加し、
「ハンドヘルドPCプロフェッショ
ジの図2)。この要因は2つある。
全世界での生産量は 290 万台とな
ナルエディション」と「パームサ
1つは、パームサイズ PC の中
った。
イズ PC」など、OS をもとに、
でシェア 50%を占めている米国ス
PDA を① ハンドヘルド PC プロ
リー・コム社の「パーム・パイロ
量は伸び悩み、ほぼ横ばいの 300
( キ ー ボ ー ド あ り 、 大 型 画 面 )、
ット」シリーズの好調である。
万台となった。なお、ここでは
②ハンドヘルド PC(キーボード
1998 年は 120 万台の生産が行われ
PDA として、「ウィンドウズ 95」
あり)、③パームサイズPC(キー
ている。同社の OEM 製品である
しかし、1998 年には、その生産
「ウィンドウズ 98」搭載のミニノ
ート PC(パソコン)や、携帯電
図 1 PDA(携帯情報端末)の各カテゴリー
話との融合機器は含めていない。
1998 年は今後の PDA 市場の基
調になると考えられる、カテゴリ
ー間・ OS 間競合の布石が打たれ
た年であった。
ハンドヘルド PC プロ
ハンドヘルド PC
パームサイズ PC
注)PC : パソコン 出所)各社資料
競合激化で明暗分かれる PDA 市場
5
図 2 カテゴリー別の PDA 生産量の推移
80
万台
80
パームサイズPC
IBM
70
カシオ
シャープ
スリー・コム
60
万台
ヒューレット・パッカード
フィリップス
コンパック
その他
エベレックス
シャープ
コンパック
日立製作所
その他
フィリップス
カシオ
60
ヒューレット・パッカード
サイオン
NEC
50
50
40
40
30
30
20
20
10
10
0
0
1997年
1998年
1999年
ハンドヘルドPC
70
1997年
1998年
1999年
出所)野村総合研究所
IBM 社の「ワークパッド」や、
■ OS ・用途間の競合
ム OS の一番の特徴は、簡易なハ
その他スリー・コム社の「パーム
スリー・コム社のパーム・パイ
OS」を用いている製品を合わせ
ロットの好調から、パーム OS な
モトローラ社の 8 ビット RISC
れば、その数はさらに伸びる。
どその他の独自 OS の優位がいわ
(縮小命令セットコンピュータ)
もう 1 つの要因は、パームサイ
れる(図 3)。
ードウェアで作動する点にある。
プロセッサで動作し、動作時間も
ズ PC 版のウィンドウズ CE が発
しかし、ハンドヘルド PC だけ
非常に長い。これは、用途として
表されたことで、新規搭載機の発
をみれば、ウィンドウズ CE のシ
主にスケジュール管理、住所管理
表が相次いだことである。
ェアが 70%ほどにも上っている。
などの個人情報管理を対象にして
ヒューレット・パッカード社、日
いるために可能となっている。
逆に、ハンドヘルド PC の生産
量は伸びなかった。このサイズで
本電気、フィリップス社などは、
ウィンドウズ CE 陣営は、カラ
は、ノート PC との競合も避けら
ほとんどのモデルにウィンドウズ
ー液晶の採用、音の再生機能など、
れない。
CE を採用している。この分野で
よりマルチメディア機能の取り組
の主な独自 OS は、英国サイオン
みを指向し、プロセッサもNEC 製
社の「エポック」である。
VR シリーズ、日立製作所製 SH
現状では、パームサイズ PC、
ノート PC に挟まれ、市場を失い
つつある。今後、ハンドヘルド
一方、パームサイズ PC では上
シリーズといった高速プロセッサ
PC プロはその価格競争力、起動
位 2 社のスリー・コム、シャープ
を採用している。ただし、そのた
の速さなどを武器に、ノート PC
が独自 OS を採用しているため、
めに消費電力が増え、製品サイズ
との競合を生き抜く道しかない。
独自 OS のシェアが大きい。パー
自体も大きくなってしまってい
6
知的資産創造/ 1999 年 6 月号
る。独自 OS を使用しているシャ
携帯電話、PHS と PDA の融合型
び、独自 OS「エポック 32」のさ
ープの「ザウルス」もマルチメデ
製品が発売されてきたが、その成
らなる開発を進めている。エリク
ィアを指向しているが、1998 年で
果はいまひとつであった。
ソン社から「R380」という機種で
ただ単に携帯電話と個人情報管
は生産量は減少している。
理もできる PDA とを接続しただ
発表が行われた。
なお、完全に一体化しなくても、
けでは意味がない。成功例をあげ
ノート PC、PDA、携帯電話各機
ると、両者の完全な一体型ではな
器の連携操作を向上させるための
現在では、カテゴリー別ではパ
いが、NTT ドコモの「ポケット
「ブルートゥース」という技術の
ームサイズ、OS ・用途別では個
ボード」は、通信をうまく利用す
開発がインテル、東芝などを中心
人情報管理用途が優位であるとい
ることで、1997 年末の発売以来、
に進行中である。
える。スリー・コム社のパーム・
出荷が 100 万台を超える大ヒット
パイロットはビジネス向けに個人
となった。
■通信機器・ネットワーク
との融合
情報管理用途により磨きをかけ、
実際に出荷量を伸ばしてきた。
その他、各社の取り組みとして
は、シャープは、ザウルスの市場
■カテゴリーも用途も
流動的な PDA
このように、競合と融合が続き、
しかし、他企業が今後より新し
をより若年層に求め、「シャープ
PDA はその形状をまだまだ変化
い PDA 市場を獲得するためには
スペースタウン」と名づけられた
させていく。1998 年の携帯電話
マルチメディア分野の取り組みが
ネットワークからさまざまなサー
の全世界出荷量は 1 億 5600 万台で
不可欠であり、通信機器との融合
ビスを受けられる「ザウルスアイ
あった。これは実に PDA の出荷
など、ネットワークとの親和性が
ゲッティ」という新製品を1999年
量と 2 けた異なる。1998 年のノー
最重要課題である。今までもフィ
3 月に発売した。英国サイオン社
ト PC の出荷量は 1460 万台であ
ンランド・ノキア社の「ノキア
もノキア、エリクソン、モトロー
り、PDAの約5倍となっている。
9000」、東芝「ジェニオ」など、
ラなど携帯電話企業と提携を結
PDA がこれらの市場規模にま
で成長していくためには、これら
のカテゴリーとも競合する一方で
図 3 OS 別の PDA 生産量の推移
90
ウィンドウズCE
万台
うまく融合していくことで、個人
その他の独自OS
75
情報管理だけでなく新たな用途を
60
生み出していく必要がある。
45
『NRI Research NEWS』
30
1999年6月号より転載
15
0
石綿昌平(いしわたしょうへい)
1997年
1998年
注) OS:基本ソフト 出所)野村総合研究所
1999年
情報・通信コンサルティング部コン
サルタント
競合激化で明暗分かれる PDA 市場
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