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天然ガス改質舶用遮熱エンジンの 技術開発報告書

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天然ガス改質舶用遮熱エンジンの 技術開発報告書
平
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告
書
平 成 18年 度
天然ガス改質舶用遮熱エンジンの
技術開発報告書
平
成
二
十
年
三
月
平成20年3月
海
海
洋
政
策
研
究
財
団
洋
政
策
研
究
財
団
(財団法人 シップ・アンド・オーシャン財団)
ご
あ
い
さ
つ
本報告書は、競艇交付金による日本財団の平成18年度助成事業として実施した「天
然ガス改質舶用遮熱エンジンの技術開発」事業の成果をとりまとめたものです。
さて、原油価格が高騰し続ける中で、昨年秋には国連の「気候変動に関する政府間
パネル」(IPCC)とアル・ゴア前米副大統領にノーベル平和賞が授与され、地球温
暖化問題への人々の関心はますます高まり、本年に入って我が国も世界全体の温室効
果ガス排出量を現状に比して2050年までに半減するという長期目標を発表してお
ります。一方で、船舶に関しては、世界経済の発展によって国際海上物流が増大を続
けており、外航船舶から排出されるCO 2(二酸化炭素)の総排出量はすでに10億ト
ンに近いのではないかとも言われており、その削減が厳しく求められようとしており
ます。
当財団では、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3、京都会議)の次の年
である平成10年度より、日本財団からの補助金を受けて、天然ガスを原燃料とし、
これに排気ガス中のCO 2 またはH 2 O(水)を加え、遮熱エンジンによって得られる
高温の排気ガスと特殊な触媒の作用によってH 2(水素)とCO(一酸化炭素)を作り
出して燃料の発熱量を約3割も高めることができ、CO 2 の排出量半減も可能で、しか
も有害物質の排出量が極めて少ない画期的な高効率舶用天然ガスエンジンシステムの
実現を目指した技術開発を実施してきました。
平成18年度は本技術開発の最終年度であり、燃料改質装置や制御装置を製作する
とともに、これまでに製作し改良してきた新ターボコンパウンド HCCI(予混合圧縮
着火式)6気筒 遮熱エンジンに燃料改質装置を付加し、全体エンジンシステムを組み立
てて作動させる総合的な運転試験を行いました。その結果、全体エンジンシステムに
おいては、効率を上げるために改質率を高くする必要性からノッキングの発生を抑え
る燃焼制御を行い、排気ガス温度をさらに上げることが必要であるため、エンジンの
高温維持とノッキング抑制という相反する条件の調和点を見い出す作業には相当の時
間が必要であることが判りました。
しかし、今回の技術開発ではディーゼルエンジンの排気ガスによって天然ガスの改
質を行い、排気ガスのエネルギーを燃料のエネルギー増加に変換できるエンジンシス
テムを運転することができました。そして、課題を把握し解決策を整理し、実用化の
方向を確認することができました。本技術開発によって、石油に変わる今後の重要な
エネルギー資源である天然ガスを燃料とし、CO 2 及び大気汚染物質を大幅に削減でき
る燃焼手段を具体的に示したこと、また、本技術開発の中からはシステムの要素技術
として開発された高効率コンパクト熱交換器をはじめとする数々の貴重な派生技術が
得られており、これらはますます厳しくなっている地球環境問題やエネルギー問題の
解決に必ず役立つものと信じております。
当財団では、平成18年度助成事業を延長し、平成19年度までの2年間にわたり
実施し、今般、本技術開発を終了いたしますが、今後の開発につきましては人材・資
金・設備等の充実している相当規模の開発主体に受け継がれることを望んでおり、そ
のための技術成果や技術情報の提供及びその他開発への協力を行いたいと考えており
ます。どうか、本エンジンシステム及び派生技術の商業化を進め、広く世界に普及し
てこれからの人々に役立てられるように、関係する皆様方のご理解をお願い申し上げ
る次第です。
本技術開発は、持田勲 九州大学名誉教授を委員長とする「天然ガス改質舶用遮熱エ
ンジンの技術開発委員会」各委員の皆様の熱心なるご検討とご指導、河村英男氏によ
る実務作業でのご尽力並びにその他多くの関係者の方々のご協力とご努力によるもの
でありまして、ここに厚くお礼を申し上げます。
また、平成10年度に本技術開発を開始してから今日に至るまでの間に、本技術開
発にご参加をいただき、貴重なご助言、ご指導、ご支援を賜りました前任委員の皆様、
また実際の技術開発現場で作業に携わった皆様、その他ご支援ご協力を賜ったすべて
の皆様方に深く敬意と謝意を表します。
平成20年3月
海
洋
政
策
研
究
財
団
(財団法人 シップ・アンド・オーシャン財団)
天然ガス改質舶用遮熱エンジンの研究開発委員会名簿
(順不同、敬称略)
委 員 長
持田 勲
九州大学 名誉教授
九州大学産学連携センター 特任教授
独立行政法人 科学技術振興機構 研究成果活用プラザ福岡 館長
委
員
飯田 訓正
慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン学科 教授
〃
森吉 泰生
千葉大学 工学部 電子機械工学科 准教授
〃
河村 英男
元フジセラテック株式会社 代表取締役
関 係 者
増田 末喜
元フジセラテック株式会社 エンジン設計部 スタッフ
〃
角田 勝世
同上 実験部 リーダー
〃
(青木 正行)
〃
成谷 忠志
同上 実験部 スタッフ
〃
門井 法明
同上 実験部 スタッフ
〃
加藤 信彦
同上 実験部 スタッフ
事 務 局
工藤 栄介
海洋政策研究財団 常務理事
〃
西田 浩之
同上 海技研究グループ グループ長
〃
(田上 英正 )
〃
玉眞 洋
同上 海技研究グループ 調査役
〃
三木 憲次郎
同上 海技研究グループ グループ長代理
〃
大川 光
同上 海技研究グループ 技術開発チーム長
注:
( )内は前任者
平成18年度天然ガス改質舶用遮熱エンジンの技術開発報告書
目次
1.はじめに···································································································· 1
2.開発の経緯と目標値 ···················································································· 3
2-1.経緯 ···································································································· 3
2-2.計画の最終目標値 ··················································································· 3
3.新ターボコンパウンドエンジンの評価···························································· 5
3-1.ターボチャージャーの性能確認································································· 8
3-2.ターボチャージャーと発電機の性能··························································· 9
3-3.新ターボコンパウンドエンジン試験結果·················································· 13
3-4.燃焼タイミングについて ······································································· 15
3-5.シール性の向上 ··················································································· 17
4.オイル―水熱交換器の評価 ········································································ 20
4-1.オイル―水熱交換器の設計···································································· 20
4-2.オイル―水熱交換器の製作···································································· 22
4-3.オイル―水熱交換器の実験評価結果························································ 23
5.排気ガス―水蒸気熱交換器の評価 ······························································· 25
5-1.排気ガス―水蒸気熱交換器の設計··························································· 25
5-2.排気ガス―水蒸気熱交換器の製作··························································· 26
5-3.排気ガス―水蒸気熱交換器の実験評価結果··············································· 31
6.H2O燃料改質実用装置の評価··································································· 33
6-1.水蒸気による燃料改質装置の開発··························································· 33
6-2.改質装置の製作工法 ············································································· 34
6-3.改質装置の設計 ··················································································· 35
6-4.改質装置の製作 ··················································································· 36
6-5.改質装置の活性評価結果 ······································································· 43
7.エンジン制御系の開発 ·············································································· 44
7-1.制御装置の開発 ··················································································· 44
7-2.制御装置の概要 ··················································································· 44
7-3.各制御装置の設営と調整 ······································································· 45
8.最適副燃焼室を持つエンジンシステムの開発················································ 59
8-1.燃焼タイミングについて ······································································· 59
9.エンジンの信頼性評価 ·············································································· 61
9-1.耐久、信頼性評価 ················································································ 61
10.燃料改質装置付エンジンの評価·································································· 63
10-1.初期運転試験と調整運転について ························································· 63
10-2.ターボコンパウンドと改質装置を取り付けたエンジンの性能について ········ 63
10-3.エンジンに取り付けた改質装置の特性について······································· 67
10-4.改質装置付エンジン全体システムの評価について···································· 67
10-5.燃料改質エンジンの試験結果の考察 ······················································ 69
10-6.まとめ······························································································ 71
11.おわりに································································································· 72
1.はじめに
今日、中国、インド等の有力振興工業国の経済発展が進み、石油などの既存エネルギー
消費が増大する中、代替エネルギーの開発と、燃料の利用効率を向上し、その消費量を抑
制し、地球温暖化の原因であるCO2(二酸化炭素)の削減を求める声が大きくなってき
ている。他方では、NOX(窒素酸化物)
、PM(微粒子物質)等の有害物質排出量規制が
年々厳しくなり、既存の内燃機関の改良とともに、燃料電池等の代替機関の開発が進めら
れている。しかし、代替機関の開発実用化には長期間を要し、現在の逼迫した要求に応え
ることができない。既存の内燃機関では、排気ガス後処理装置の改良、ハイブリッドエン
ジンシステムによる動力の有効活用が実用化されている。一方、排気ガスのクリーン化と
CO2削減のため、石油から天然ガスへの変換が進んでおり、埋蔵量が石油の数倍はある
と言われる天然ガスは、急速にその価値が評価されてきた。今後、有力な新振興工業国の
急速な経済発展に伴うエネルギー需要の増大に対応し、クリーンな地球を維持していく上
で、天然ガスは非常に重要な位置を占めようとしている。
このような背景の中で、当財団では、平成10年度より天然ガスを原燃料とし、これに
排ガス中のCO2あるいはH2Oを加え、高温の排気ガス熱と触媒によってH2(水素)と
CO(一酸化炭素)に変換して、廃熱量を燃料に付加し、原燃料の発熱量を約 3 割も高め
ることができる画期的な高効率舶用天然ガスエンジンシステムの研究開発を開始した。
平成12~13年度には、本エンジンシステム技術の基盤となる高温排気ガスの得られ
る遮熱単気筒エンジンを試作した。平成14年度には、この遮熱単気筒エンジンを用いた
性能試験や数値計算による燃焼特性の検討を行い、本エンジンシステムの優位性を確認し
た。また、天然ガスの主成分であるCH4(メタンガス)とCO2による改質及びCH4と
H2O(水蒸気)による改質を組み合わせ、改質効率を向上させた燃料改質装置の触媒選
定を行い、さらに排ガス中のCO2の吸着・脱離から燃料改質までを連続的に行うことの
できる実用燃料改質装置を試設計した。
平成15年度には、遮熱単気筒エンジンに天然ガスと改質燃料を供給して運転し、数値
計算結果との比較を行いながらエンジンの燃焼特性を調査し、最適燃焼条件を得るための
データ及び知見を得た。平成16年度には、これに基づいて本エンジンシステムのベース
となるCNG(圧縮天然ガス)を燃料とするHCCI(予混合圧縮着火式)6気筒エンジ
ンを試作した。
平成17年度は、遮熱により得られる高温排気ガスのエネルギーを効果的に活かすこと
ができる新形式の排気-蒸気タービン駆動の発電装置を開発し、上記HCCI6気筒エン
ジンに付加し、発電効率50%を目標にした新ターボコンパウンド(エレクトロターボコ
ンパウンド)エンジンの製作を行うとともに、実用コンパクト熱交換器の開発、燃料改質
装置の開発を行った。この年度のCO2吸着脱離物質の再調査では、使用を予定していた
リチウムジルコネートのCO2脱離温度が合わないことが判明し、使用することが困難で
-1-
あること並びに他の物質も開発過程のものばかりであることが確認された。そのため、C
O2改質については、今後のこの種のCO2吸着脱離物質の開発の進展を持つことにして、
本開発では、H2O改質一本に絞って実施していくことになった。
平成18年度は本プロジェクトの最終評価年度として遮熱エンジン、ターボコンパウン
ドシステム、燃料改質装置、熱交換器などを設置し、その評価を実施した。しかし、単独
の装置を製作、評価し、改良するためにも多くの試行錯誤が必要であり、平成18年度中
にエンジンシステム全体を完成させることができず、平成19年度に多くの試験を持ち越
すことになった。特に燃料改質装置の機能を十分に発揮させるためには排気ガスの温度を
700℃以上にしなければならないことは基礎試験の結果から判明していたので、排気ガ
ス温度を上昇させるため、燃料流量を増加させ、エンジンの遮熱度を上げる、などの対策
をとったが、エンジンの燃焼室のガス温度が上昇すればするほどノッキングが発生した。
EGR、水蒸気の添加など燃焼室温度を高くしながらノッキングを抑制する手立てを尽く
したが、今回の予定期間内に現行エンジンシステムで排気ガス温度を700℃以上にする
ことが非常に困難であると判断した。そこで排気ガス温度の最大到達温度550℃の状態
で燃料改質装置に接続し、そのエンジン全体システムの評価を実施した。エンジン排ガス
温度を上昇させるには、EGR温度を低下させてノッキングを抑制するなどの手段が考え
られるが、運転最適化操作は今後の課題とした。
-2-
2. 開発の経緯と目標値
2-1.経緯
平成10年度から11年度にかけて、天然ガスを燃料とし、低燃費かつ窒素酸
化物等を大幅に削減できる舶用天然ガスエンジンの実現を目標とした改質技術
に関する研究開発を開始し、天然ガスと排気ガス中の二酸化炭素を触媒中で反応
させ、排気熱を反応熱として用いることにより、発熱量の高い水素と一酸化炭素
を効率よく供給する技術の開発を行った。
平成12~13年度には、高い熱を得るための排気エネルギー回収システム及
び窒素酸化物の排出が少ない燃焼方式の研究及び改質ガスを燃料として確実に
燃焼させる第1次遮熱単気筒エンジンの製作、実験を行った。
平成14~15年度ではこれまでの成果を基にし、それぞれの構成要素の研究
を行い、改質装置の触媒選定、熱交換の基本理論の確立と実証、最適な燃焼方式
を得るシステムの開発及び熱効率の高い燃焼室を持つ単気筒遮熱エンジンの試
作、評価、研究開発を行い、本エンジンシステムの優位性を実証すると共に、天
然ガス燃料の実用改質装置、エネルギー回収装置である熱交換器の開発を行い、
総合的熱利用を展開する多気筒エンジンシステムの開発計画を立案した。
平成16年度からは3カ年計画で、個々の要素技術の統合を行い、本エンジン
システムの実現を目指す最終ステップに向けてのスタートを切った。初年度とな
る16年度は、本エンジンシステムのベースとなる天然ガスを燃料とするHCC
I(予混合圧縮着火方式)6気筒エンジンを試作し、その評価を実施した。さら
に平成17年度には、この6気筒エンジンに排気―蒸気タービン駆動の発電装置
を付けたエネルギー回収システムを加え、発電効率を向上させる、新ターボコン
パウンドエンジンの製作を行うとともに、燃料改質装置の実用化研究を実施した。
平成18年度には、天然ガス燃料を用いた改質装置、排気蒸気タービンによる
ターボコンパウンド、熱交換器等、すべてを装着した全体エンジンシステムの開
発、研究を実施した。
2-2.計画の最終目標値
①総合出力
233
②システムの発電効率
57.5 %
③エンジン単体発電効率
38
kW
%
(発電ロス5%分含む)
④NOX排出量
0.1
熱効率40%
g/kWh以下
(平成17年度技術指針1.0g/kWh)
⑤CO2排出量
0.32 kg/kWh以下
(通常エンジン
⑥PM排出量
0.65kg/kWh)
0.01 g/kWh以下
-3-
(自動車規制0.027g/kWh)
⑦HC排出量
0.17 g/kWh以下
(平成17年度技術指針0.17g/kWh)
⑧メタン改質率
80
%以上(H2O改質)
⑨熱交換器交換率
80
%以上
最終年度の目標の熱フローを図2-1に示す。
図2-1
最終年度の目標の熱フロー図
-4-
3.新ターボコンパウンドエンジンの評価
本プロジェクトで意図したターボコンパウンドエンジンシステムの性能は次の通
りである。
① 通常のターボチャージャーシステムではエンジンの負荷が小さい場合、排気ガス
の温度が低いのでターボチャージャーの運転仕事が小さく、コンプレッサーのブ
ースト圧力が上がらない。しかし、負荷が増大すると排気ガス温度が上昇し、タ
ービン仕事が2次関数的に増加し、ブースト圧力が増大する。ブースト圧力が増
大すると、エンジンの吸気期間での仕事がプラス方向に作用し、出力、効率共に
増加する。一方、エンジン内の圧縮端圧力も増大し、ピストンに作用する圧力が
異常に増加する。
② 通常のターボチャージャーでは、この異常圧力上昇を抑制するため、タービンの
入り口に逃がし弁を設け、排気ガスをリークさせ、所定以上のブースト圧力にな
らないように制御している。
③ ターボコンパウンドエンジンでは機械式であれ、電気式であれ、タービンの高負
荷時に発生する大きな仕事量の一部をコンプレッサー仕事に、残った部分を回収
仕事として利用するシステムである。
④ 従来式ではコンプレッサー仕事と回収仕事の割り振りが難しく、回収仕事側の動
力取り出しをどのようにするかが大きな課題であった。
⑤ 本エンジンシステムでは必要なブースト圧力を維持しながら、残余の排気ガスエ
ネルギーを発電機とその発電電気を動力として用いるモーターの制御によって
効率を最大に得るための方式である。
⑥ 発電機は永久磁石方式で永久磁石を取り付けたローターと発電電流が誘起され
る巻線を巻き込んだステーターの間に磁束制御用のレギュレターを配置した。こ
のレギュレターはローターから発生される磁力がステーターに流れる磁路中に
存在し、負荷の小さい時には磁路に空隙を設け、電圧と出力を下げる役割を持っ
ている。この装置によって、発電機の電圧を一定に保ち、かつタービンの出力に
応じた電力をモーター側に送る役割を果たしている。
⑦ この電気式ターボチャージャー装置はエンジンの負荷に応じたブースト圧力を
検出し、そのブースト圧力を維持しながら残りの排気ガスエネルギーを回収エネ
ルギーとしてエンジンに戻す役割を持っている。
⑧ 上記機能を持っているのでタービンの出力する動力をターボチャージャーの役
割を果たしながら残余の動力を回収するので、その制御系が極めて簡単で、確実
に作動させることが出来る。
⑨ 上記装置の開発上の課題は、コンプレッサー翼、発電ローター、タービン翼間の
長さが長くなり、特に永久磁石のローター部分の重量が重いので、そのバランス
取りが非常に難しい。
⑩ 制御装置ではエンジン負荷に応じたブースト圧力を出力させる、排気ガスの持っ
ている動力(エンタルピー)に応じてエネルギー回収モーターを駆動させる、発
電機の出力電圧を一定に保持させるレギュレターの移動等の機能が必要である。
-5-
以上の作動を完全に行うため、次に述べるターボコンパウンドエンジンの試験を
行った。
電気式ターボチャージャーの構造を図3-1に示す。
図3-1
ターボチャージャージェネレーターの構造
6気筒エンジンにおける各気筒の燃焼を均一化させるため、NAエンジンでも相
当な苦労があったが、ターボコンパウンドエンジンでも同様であった。エンジンの
始動後、直ちにターボ過給させた場合、種々の問題が発生し、この問題回避のため
には、段階的に負荷を上げ、各気筒の燃焼を揃える必要があった。その理由は以下
と考え試験を進めた。
(1) エンジンの燃焼が完全でない状態ではターボチャージャーの作動により、燃焼
気筒では過給圧が上昇すると圧縮端の温度が上昇し、CNGの燃焼が活発化し、
急速燃焼する。燃焼速度が速くなるとノッキングに発展する恐れがある。
(2) 全部の気筒が着火していないと燃焼気筒の圧力が上昇し、他の気筒は圧力上昇
せず未燃ガスが排出される恐れがある。その格差が大きくなると振動の発生、
ノッキングの発生が顕著になる。
(3) 排気管では燃焼ガスと未燃混合気が合流し、着火が起こり、いわゆるアフター
ファイヤーが発生する。
-6-
(4) ターボチャージャーの排気仕事が十分でないとコンプレッサーのブースト圧
力が上がらず、燃料だけが増量されるので過濃混合気が出来、異常燃焼が促進
される。
以上の現象を回避するためエンジン負荷を段階的に増加させることとした。その
方法は以下の通りである。
(a) エンジンを始動させる前、副室用燃料の供給路に設けられたヒーターを加熱
し、所定の温度に到達させる。
(b) 副室燃料用ヒーターが加熱した後、エンジンを回転させ、吸気を送り込む。
エンジンは副室燃料が着火条件に到達した後、数秒で着火を始める。
(c) 排気ガス温度が所定値に到達した後、EGRバルブを開き、排気ガスを吸気
側に送り込む。吸気温度は上昇し、未燃気筒の主温度が上昇し、全ての気筒
が着火する。
(d) 全ての気筒が着火するとEGRガスの温度をEGRクーラーにより下げ、ノ
ッキングの発生を防止する。従来の研究ではEGR量が多くても圧縮空気の
温度が高いとノッキングは発生しやすい。
以上の制御によってエンジンの負荷を徐々に上昇させると問題なく運転ができた。
-7-
3-1.ターボチャージャーの性能確認
ターボチャージャーはその仕事の性格上、断熱熱落差が大きいほど大きな効率
となる。エンジンの排気行程でピストンが送り出す排気量が大きいほどタービン
入口の圧力は大きくなる。
今回、タービンの動翼の前にある静翼の形状を変え、絞り効果を作り、背圧の
上昇を低回転側に移動させた。その結果、有効開口面積の大きい静翼では高速側
に性能点がずれ、開口面積が小さい方は、低速側に高性能部分がずれることが分
かった。図3-2にその性能比較を示す。
図3-2
ターボチャージャーのブースト圧力
通常のターボチャージャーでは排気ガスの量とエンタルピーの積の増加に従
って2次関数的に出力が増加する。この出力は同軸に繋がっているコンプレッサ
ーの仕事量とブースト圧力の上昇をもたらし、シリンダーの圧力が急速に増加す
る。この圧力の増加に燃焼圧力によるシリンダー内圧増加が加わるとエンジンの
各部分は強度的に耐えられなくなり破損する。従って、通常のエンジンでは高負
荷になると排気ガスの一部をリークさせ、ブースト圧力を上昇させないようにし
ている。本ターボコンパウンドシステムでは、発電機をコンプレーサーとタービ
ンの中間に配置したので、エンジンの負荷条件によって決められたブースト圧が
得られるように調整しながら発電機の負荷を増加させた。即ち、発電機の負荷を
増減し、ブースト圧が所定値になるように調整した。
ブースト圧の調整では、エンジンの負荷に対し投入された燃料に必要な酸素量
が存在しその酸素濃度が全吸気ガス量に対し、15~17%に設定されるようE
-8-
GRガスを投入するよう調整した。
タービンは500rpmの2/4負荷までは十分な回転が得られず、静翼に絞
りのガイド通路を設けて回転トルクを大きくしたものが最も効率よく運転でき
た。また、本発電機のローターは永久磁石製のローターとしているので、停止時
に磁石がステーターに吸収され、なかなか回転を始めない。そのため、起動補助
機構が必要であることがわかった。この装置はローターに取り付けられているS
US304とSUS430を交互に並べ溶接したスリーブの帯の形状をやや斜
めにし、コギングが発生しないようにした。この機構を用いると初期の駆動トル
クが1/3以下になり、タービン翼がスムーズに回転するようになった。
3-2.ターボチャージャーと発電機の性能
発電機の性能を調査するため、実験装置を図3-3に示すように設定した。排
気料2.4リットルの別のディーゼルエンジンの排気管にタービンを接続し、エ
ンジンの負荷を徐々に増加させた。回転数は3000rpmとし、タービンの回
転を増加させ、発電機の負荷吸収を行った。前回のタービン翼とハウジングの間
には数ミリの隙間があり、効率が52%と低かったが今回のハウジングと翼の間
の隙間は0.31mm程になったので効率の上昇が期待された。
図3-3
ターボチャージャー実験装置
図3-4はエンジンの負荷の上昇と発電機の出力を示したものである。タービ
ンの入口に設置した温度計、圧力計、出口に設置した温度、圧力計から断熱熱落
差を読み取り、発電機の出力を測定し、その出力効率を算出した。その結果、タ
-9-
ービンの効率は63%となり、初期に設定した値より、約10%未達であった。
今回のタービンのブレードは現行品の追加工によって膨張比を大きくしたもの
なので、流量損失、2次の渦流発生などがあり、目標値に達成しなかった。
更に流路の改良、ノズルの最適化などの研究を重ねる必要がある。高負荷での
スペック変更が必要で、結果的には可変ノズル通路機構の改良の必要性があり、
今後の課題として残した。
(kW)
図3-4
ターボチャージャー発電機の出力
タービンの仕事は次式で示される。
(Ka-1)/Ka
}
・・・・・
(1)
Wt=ηt・Ka/(Ka-1)
・Ra・Tt・
{1-(Po/Pt)
ここで
Wt:タービンの排気ガス1kg当りの仕事量
ηt:タービン効率
Ra:排気ガスの定数
Ka:ガスの比熱比
Tt:排気ガスの入口温度
Po:室内空気圧力
-10-
Pt:排気ガス圧力
一方、1kgの空気を圧縮するために必要な仕事は次の式による。
(k-1)/k-1
}
・・・・・・
(2)
Wk=(1/ηad)
(k/k-1)Ra・To・
{
(Ps/Po)
ここで、
Wk:コンプレッサーの仕事量
k
:空気の比熱比
ηad:コンプレッサーの断熱効率
Ps:圧縮空気圧力
To:室内空気温度
である。
以上の式からターボチャージャーの仕事を検討すると、排気ガスの温度に多く
依存し、入口圧力が高いほど仕事が大きくなる。また、ターボチャージャーの入
口圧力と吸気ガス圧力の比を求めると図3-5となる。タービンの入口、コンプ
レッサーの出口に圧力計を設け、必要なコンプレッサー圧力を求めるよう発電機
の出力を調整すれば、上記に述べた必要吸気の制御ができる。
本計算式を用いて検討するとコンプレッサーの最大圧力は(3)式で示され、
排気圧力と吸気圧力の最大比は(4)式で示される。
(3)
Ps/Po={
(1+Tt・ηt/To)/2}k/(k-1)・・・・・・・・・・・・・・・・
(4)
(Ps/Pt)max={
(1+Tt・ηt/To)2/(4Tt・ηt/To)
}k/(k-1) ・・
この式よりPs/Ptの値を求めてゆくとブースト圧力の上昇は、排気圧力の
上昇に従って2次関数的に上昇する。従って、軸上に取り付けた発電機の仕事量
を制御することにより、ブースト圧力を所定値に制御できる。即ち、IS線図の
熱落差分の動力を吸収できる。
コンプレッサーの圧縮温度は排気ガス温度と過給効率の積であるから通常こ
の温度を低下させるためクーラーを設ける。本エンジンでは発電機の動力吸収に
よりこのクーラーでの放熱エネルギーを極力小さくすることができる。
-11-
図3-5
タービン発電機の出力制御による最大掃気圧力(Ps)制御
これらの検討に基づいて以後の制御系の検討を行った。
図3-6は設定したターボチャージャーの入口の排気ガスの圧力を一定とし、
温度を変化させた場合の出力を示している。このターボチャージャーの効率は7
5%以上であった。
以上の結果から、現在開発しているターボコンパウンドエンジンの発電出力を
求める。
排気ガスのタービン入口圧力0.4MPa、コンプレッサーの出口圧力0.1
5MPaとした場合、排気タービン仕事からコンプレッサー仕事を差し引くと発
電出力が得られる。この条件ではタービン仕事で55kW、コンプレッサーによ
る吸入空気の圧縮仕事18kWとなり、その差37kWが正味発電仕事となる。
この発電量に現状エンジン出力125kWを加えた和162kWはエンジン効
率40%に相当する。排気ガス温度を更に100℃上昇させ、蒸気タービンを作
動させ予定出力を得るとエンジン効率は43~45%に達する見通しを得た。
-12-
200kPa
100kPa
40kPa
(kW)
図3-6
タービン入口圧力一定で温度を変えた時の仕事量
3-3.新ターボコンパウンドエンジン試験結果
ターボコンパウンドエンジンでは、排気エネルギーのエンタルピーを用いて過
給圧力を上昇させる。燃料流量を増加させてエンジン仕事と過給仕事を増加させ
た場合、燃料の増加しない現象が発生したので、この原因を調査した。図3-7
にはエンジンの断面図を示す。このエンジンの燃料系には燃料弁の配管系の手前
300mm にチェックバルブが取り付けられ、燃料の逆流を防止している。部分
負荷時には、20~50kPaの供給圧で、燃料投入ができた。しかし、負荷上
昇のため燃料の供給圧力を上昇させると燃料は大量に副室に流入し、副室での燃
焼割合が増加するので。燃料の供給圧力を燃焼室の圧力に負けない程度に増加さ
せ、かつ燃料流量が大幅に増加しない方法を採用する必要がある。
即ち、始動直後、過給圧が余り大きくない領域では燃料供給時の副室内圧力は
10kPa以下である。この状態では燃料供給圧力は20~30kPaで必要量
が導入される。ところが過給圧力が増加し、吸入行程後半の圧力が増加し、副室
内圧力が50~70kPaに上昇すると、燃料圧力が副室内圧に負けて燃料が供
給されない。
-13-
図3-7
エンジンの内部構造
そこで、設計検討した結果が図3-8に示すオリフィス付き燃料供給装置であ
る。本図では燃料導入管の途中に0.5~0.7mm の穴を付けた堰止め栓を設
け、その上流に400~500kPaの燃料供給圧力を持たせる様にした装置を
取り付けた。この装置では絞りオリフィスの後流のパイプに蓄えられた燃料が副
室バルブの開閉時に副室に押し出され、所定量のガスが投入され圧力が低下して
もその下流からの流量はオリフィスに遮られ、溜まり部に短時間で流れ込まない。
副室弁が閉鎖された後は次の開弁時までの間に燃料が上記溜まり管に蓄積され
て400~500kPaに回復した。
この燃料供給装置により初期の始動時には多量の燃料供給を、エンジンの負荷
が上昇し、燃焼室の圧力が上昇した場合には燃料が絞られることにより、自動的
に燃料調節ができた。
一方、主室への燃料供給システムでは燃料供給量の変更、タイミングの変更な
どを自由に出来るようエンジン本体のフロント側に1/2減速のギアを組み込
み、その回転体にドグを組み込み、回転体の外側に近接センサーを60度毎に6
個配置した。ドグが近接センサーを通過すると、開弁タイミングに合わせた信号
を発信し、ソレノイドに電流を流し、電磁弁によりバルブの開閉を行わせた。実
-14-
験を行った結果、エンジンを急加速させるとき、電磁弁のバルブの慣性力が大き
いため応答遅れが発生し、燃料噴射のタイミングにずれが生じた。そこで、応答
性の良いインジェクターを探し、取り付けた。従来のインジェクターの応答性は
14~15msec であったが、新しいインジェクターは1μsec の応答性を示し、
エンジン性能の取得が安定した。
図3-8
オリフィス付き燃料供給装置
3-4.燃焼タイミングについて
副室制御弁の開放時期はその後の燃焼にとって極めて重要な因子であること
が判った。副室制御弁は絞り弁とポペット弁で構成されている。エンジンの負荷
が上昇すると吸気行程後半から圧縮行程にかけて制御弁が閉鎖され、主室の圧力
はピストンの上昇運動につれて徐々に上昇する。しかし、制御弁に制御された空
気流れは副室に一気に入り込めないので主室圧力のみが上昇し、圧縮行程前半に
副室に吸入された燃料は、主室、副室の圧力差が大きくなるに従い制御弁と副室
の隙間から侵入する空気と徐々に混合する。ピストンが上昇を続け、主室の圧力
が3500kPa以上になったBTDC20度ほどで制御弁が主室と副室間を
開放させ圧縮空気が一気に、主室から副室に流れ込む。この時から、副室圧力は
-15-
上昇を続け、約15度クランクアングル後に主室圧力と同じになる。従って、制
御弁の開放タイミングが遅れると燃焼ガスが制御弁のステム部から漏れたり、副
室圧力が着火圧力に到達しないうちにピストンが降下運動を始める。この場合、
未着火状態が継続する。この傾向はブースト圧力が、0.11~0.13MPa
ほどまで続き、ブースト圧力がこれ以上高くなると、むしろピストンの降下運動
時に副室圧力が上昇する方が予混合燃焼が抑制される。そこで、初期の燃焼を確
実にさせるため、開放時期を進めることにした。図3-9に初期燃焼の開始時期
と終了について制御弁の開放時期との関係を示した。開放時期を進めた方が開始
時期と終了時期が短縮することがわかった。しかし、負荷が増加した場合、燃焼
の開始は上死点後の方が圧力上昇率が抑制されることがわかった。本来ならば、
この傾向を開放時期の制御により負荷に応じて変化させればよいが、機構的に困
難なので起動時に過給機構を働かせ、圧縮はじめの圧力、温度を上昇させ、着火
温度の相対的上昇を図ることが適当と判断した。
本装置は制御装置の完成時に、ターボジェネレーターをコミュテーター駆動さ
せ、ブースト圧力を上昇させることにした。
図3-9
副室制御弁のバルブタイミング
-16-
3-5.シール性の向上
エンジン性能の向上には、①熱発生の向上、②燃焼期間の短縮、③シール性の向上
が挙げられる。
① 熱発生率の向上についてはCNGの場合、極めて燃焼速度が早く、直ぐ熱発
生率1000J/°に達する。初期にこの熱発生率を持つ燃焼をさせ、EG
R率50%を加えると熱発生率は500J/°に減少し、燃焼期間は2倍に
増加した。図3-10にその比較を示した。熱発生率が大きいとノッキング
になり易く、燃焼期間が長いと効率が悪い。従って、今後、熱発生率と燃焼
期間を調整しながらEGR率を詳細に決める必要がある。
② 燃焼期間については、拡散燃焼期間を出来るだけ短く、かつ、熱発生率を抑
制させる必要があるが、負荷の上昇につれて壁温が上昇し、熱発生率が増加
したのでEGRに加えて、水噴射を加える必要が出てきた。
③ エンジン性能の劣化ではガスシール性が問題である。圧縮行程中に副室の燃
料弁より燃料が供給され、ピストンの上昇中に主室の圧縮空気が副室に侵入
する時、副室の制御弁のステム部から燃料が漏れ、上部に流れ出ることが判
った。そこで、シール部の改善を実施した。その結果、燃料の漏れは皆無と
なった。図3-11に、その対策法を示す。
負荷の上昇に伴って種々の問題が発生し、その改良に多くの時間を費やした。エン
ジンの開発では、負荷が上昇すればするほど熱による問題、燃焼速度、トライポロジ
ー等、種々の問題が発生するのでその対策が必要となる。
-17-
図3-10
EGRを加えた場合の熱発生
-18-
図3-11
シール部の改善
-19-
4.オイル―水熱交換器の評価
4-1.オイル―水熱交換器の設計
本エンジンでは、エンジン出力のほか余剰の放熱エネルギーを最大限に活用す
ることを検討した。例えば、エンジンに投入される余熱エネルギーの約10%は
フリクション・ロスであり、そのエネルギーは殆どのエンジンでは、冷却水を循
環させて冷却ファンで大気中に放出される。この熱を利用し、蒸気タービンに送
られる蒸気を生成することにし、オイルと水の熱交換器を製作した。
まず、本エンジンでは、完全断熱ではなく、エンジンの冷却用として潤滑オイ
ルを用い、エンジンの局部的に高温となる燃焼室部分の高温度化を抑制した。潤
滑油は熱伝達率が水に比較し、小さいが作動温度を高く出来るので水蒸気用水と
熱交換させた場合、水の一部を蒸気化出来る。蒸気タービン系では出来るだけ多
くの蒸気を生成し、改質装置と蒸気タービンの駆動に用いる。蒸気の温度は、排
気ガスとの熱交換器出口で320℃、100kg/hが最低条件でこれ以上の蒸
気を生成したい。エンジンの運転により発生するフリクション・ロス熱エネルギ
ーは約50kWh熱交換効率90%以上として水100kgに与えられる熱量
は42kWh、で湿り蒸気の状態で排気ガスと蒸気熱交換器に送られる。排気ガ
ス-蒸気の熱交換によってほぼ100%の蒸気が生成される。この蒸気は一部が
改質装置に、一部が蒸気タービンに送られ、改質装置では天然ガス改質に、蒸気
タービンではタービン駆動に使われる。蒸気タービンでは入口温度と圧力が高い
ほど、出口圧力が低いほど効率が向上する。本エンジンでは、船舶用エンジンと
して開発しているので蒸気タービン出口部では海水を用いて出口蒸気を冷却す
ることにし、復水器の蒸気圧の低減を図った。改質装置では燃料が28.4kg、
この燃料の改質に必要な水蒸気は2倍であるので約55kg/hである。この要
件を満足する熱交換器の設計と試作を実施した。図4-1には熱交換器の温度勾
配を示す。オイル側は120℃から50℃に、水側は40℃から100℃に温度
変化する。水、オイルの熱交換器では、その熱伝達率がほぼ同等なので金属多孔
質のような熱交換面積を増加する装置は効果が少ない。必要な要件は伝熱面積と
液体の流速を大きくし、レイノルズ数を大きくする交換路面積である。
そこでそれらの項目を勘案し、以下の仕様の熱交換器を製作した。
設計仕様
・水流量
150
kg/h
・オイル流量
286
kg/h
・熱通過率
460
W/m2K
図4-2にオイル-水熱交換器のASSY図を示す。
-20-
温度(℃)
流れ方向の距離
図4-1
図4-2
熱交換器の温度勾配
オイル-水熱交換器ASSY図
-21-
4-2.オイル―水熱交換器の製作
熱交換器の製作には伝熱管を用い、内径φ12mm、長さ600mm のパイプ
を放射状に37本配置し、両端をオイルと水を仕切るプレートに溶接してから外
筒φ140mm のパイプの中に組み込む。プレートに伝熱管を溶接した内部構造
写真を図4-3、図4-4に示す。オイルと水が混入しないように外筒にプレー
トを溶接してから外筒の両端にキャップを溶接する。
熱交換効率を増大させるため、2つの熱交換器を設定し向流方式の熱交換器間
に水とオイルの連絡通路としてパイプを溶接する構造とした。
熱交換器の外観写真を図4-5に示す。
図4-3
図4-4
オイル-水熱交換器の内部構造写真-1
オイル-水熱交換器の内部構造写真-2
-22-
図4-5
オイル-水熱交換器の外観
4-3.オイル―水熱交換器の実験評価結果
オイルと水の熱交換器では水と伝熱管の間の熱伝達率が大きく、その伝熱面積を大
きくする効果が少ないので、通常のパイプ方式とした。問題は高温のオイルを必要量
供給することが出来るかであり、本試験で得られた最大負荷での冷却水損失を計算す
ると冷却損失6%、フリクション10%であり、これが全て潤滑オイルと冷却オイル
に放散されると設計値50kWを上回ることになる。この熱量を用いて冷却水の温度
を上昇させる方法が実験上で最適と判断した。実験は熱交換器のオイル側にエンジン
からの潤滑油管を繋ぎ、熱交換器を通って再循環されるようにした。
計算では、熱交換器のオイル側の入口温度120℃、オイル流量25L/min と
し、水への供給熱量50kW、水が得る熱量は42kW、水の入口温度40℃、到達
温度は100℃、30%が上記に変換された湿り蒸気状態を予測して実験した。温度
は2つの熱交換器の入口と出口4ヶ所に熱伝対を取り付けて測定した。
この条件に合致するようにエンジンを運転しながら熱交換試験を行った。熱交換器
では装置の外側から放散される熱量が大きいので極力放散が少ないように外側を断
熱材で被覆し、実験した。当初から冷却水の流量を150kg/hとして水蒸気を改
質装置と蒸気タービンに供給することにしたので冷却水量を150kg/hに固定
し、エンジンからの熱量から冷却放熱量を計算した。その結果、冷却放熱量は約41
kWであった。
オイルの循環量を固定し、冷却水の流量を加減して、温度勾配を測定した結果、図
-23-
4-6に示すような結果が得られた。その結果を纏めると以下の通りで、ほぼ目標値
に達することが出来た。この値を基にエンジン負荷を100%まで上げることができ
れば初期の目標値である潤滑油への放熱量50kW、蒸気量150kg/h、50%
以上の湿り蒸気を得られることがわかった。
① 潤滑油入口の温度は125℃
② 潤滑油出口の温度は
50℃
③ 水の入口温度は
35℃
④ 水の出口温度は
100℃
⑤ 水の温度上昇カーブから推定した蒸気生成比率は約20%
⑥ 実験値から推算した熱通過率は450W/m2K
流れ方向の距離
図4-6
オイル-水熱交換器の温度特性
-24-
5.排気ガス―水蒸気熱交換器の評価
5-1.排気ガス―水蒸気熱交換器の設計
図2-1に示した熱フロー図ではオイルとの熱交換が終了した水と水蒸気の
混合体が排気ガス熱交換器に流入する。この状態は水部分は液体で熱伝達率が大
きく、交換効率が良いが蒸気部分は気体であるため、熱伝達率が小さい。しかし、
水の気化潜熱が大きいのでその熱量を補完する上では金属多孔質体が有効に作
用する。そこで、上記の熱交換器の設計を行った。設計に用いた条件は下記の通
りである。ここで蒸気と排気ガスの熱交換効率を90%とした。交換効率は熱通
過面積を大きくすれば大きくなるが、容積が大きくなりすぎるので所定の大きさ
に収まるようにその大きさを制限した。
設計諸元を下記に、設計した金属多孔質体による熱交換器の概略を図5-1に
示す。
排気ガス流量
750 kg/h
排気ガス入口温度
375 ℃
排気ガス出口温度
120 ℃
蒸気流量
150 kg/h
水入口温度
100 ℃
蒸気出口温度
320 ℃
伝熱量
47 kW
熱交換効率
90 %
図5-1 排気ガス-水蒸気熱交換器
-25-
5-2.排気ガス―水蒸気熱交換器の製作
金属多孔質体の熱交換器の製作では、熱交換隔壁である伝熱管の外径φ38の
SUS材を用い、その内外径部に金属多孔質体を積層して接合をするようにした。
伝熱管と金属多孔質体の接合は、パイプにNiをメッキし、そのメッキ層と多孔
質体とをロウ材を介して接合する、メッキ法を選択し、ロウ材と伝熱管を確実に
接合させることとした。メッキは、無電解ニッケルメッキ法により確実にNiが
付着することにより接合を行った。
伝熱管の外周面と伝熱管の内側に組み込む金属多孔質体の外周面全体に無電
解ニッケルメッキ処理を行った。図5-2に金属多孔質体の外周面、図5-3に
伝熱管の外周面に無電解ニッケルメッキ処理状態を、図5-4に金属多孔質体外
周面へのメッキ付着の状態を示す。
排気ガス通路側は、外径φ260mm の一体物金属多孔質体にφ38mm、長
さ760mm の伝熱管が17本組み込まれる。多孔質体の厚み10mm 材を約1
00枚近く積層しパイプを挿入し、その合体材を真空炉中で1200℃にてロウ
付けを実施した1次試作品は、外周近く配置された伝熱管と内側に配置された伝
熱管において、真空炉中での温度差があり、ロウ材の溶け方が異なり、接合状態
にムラが出てしまった。2次試作品は接合方法を下記の通り変更し改善を行った。
① 多孔質体を一体構造から7分割にすることにより真空炉中での温度差がなく
なり、接合が改善され、真空炉の温度コントロールも容易となった。
② 伝熱管への多孔質体の積層を圧入したところ、多孔質体の足が折れてしまう
ので、焼きバメ方式に変更した。
③ 伝熱管内部への多孔質体の積層は、伝熱管を温めてから多孔質体を挿入した。
④ 伝熱管外周への多孔質体の積層は、多孔質体を温めてから多孔質体を挿入し
た。
⑤ 多孔質体を7分割式に変更したことにより、積層の作業性向上及び真空炉で
のロウ付温度コントロールが容易となり、伝熱管と多孔質体の接合が大幅に
改善された。
図5-5、図5-6に伝熱管と金属多孔質体の接合改良比較を示す。また、図
5-7、図5-8に排気ガス-水蒸気熱交換器の外観図を示す。
-26-
図5-2 金属多孔質体外周面にメッキ処理
図5-3 伝熱管の外周にメッキ処理
-27-
図5-4 メッキ付着の観察
-28-
伝熱管と金属多孔質体の接合改良比較
図5-5 多孔質体の一体物と7分割
図5-6 多孔質体と伝熱管の接合
-29-
図5-7 排気ガス-水蒸気熱交換器の外観
図5-8 排気ガス-水蒸気熱交換器の温水導入口
-30-
5-3.排気ガス―水蒸気熱交換器の実験評価結果
実験では、改質装置を外し、排気タービンの出口温度を300℃~350℃に
調整し、更にオイル-水熱交換器から出た高温水を排気ガス熱交換器に送って蒸
気の生成状態を確認した。先ず、オイル-水熱交換器から出た湿り蒸気150k
gを排気ガス熱交換器に送って蒸気の生成状況を調べたところ、蒸気の温度が1
00℃のままで乾き蒸気は作ることができなかった。この時の試験条件は以下の
ようであった。
① 熱交換器の排気ガス入口温度
320℃
② 排希ガスの量
690kg/h
③ 蒸気側の入口の温度
100℃
④ 湿り蒸気の量
150kg/h
⑤ 上記の結果から得られた値
排気ガス側出口の温度
105℃
蒸気の出口側温度
100℃
水を含む湿り蒸気の状態であった。
以上の結果から検討した結果、この状態では水の量が多すぎるので、水の量を
80kg/hに減少させ、再度試験した。試験条件は以下の通りであった。
⑥ 熱交換器の排ガス入口温度
320℃
⑦ 排気ガスの量
690kg/h
⑧ 蒸気入口側の温度
100℃
⑨ 湿り蒸気の量
80kg/h
上記の結果から得られた値
・熱交換器の排気ガス側の出口温度
120℃
・蒸気の出口温度
265℃
・ 蒸気は乾き蒸気であった。この試験結果から熱通過率を計算すると480
W/m2・Kであった。通常、気体-気体間の熱伝達率は金属多孔質を伝熱
部分に持つ場合でも280W/m2・Kであったので、この値は極めて大き
な値である。種々の検討を行った結果、この熱交換器の多くの部分で、水
と排気ガス間の熱交換が行われたため、この状態での熱通過率が大きくな
ったためと推算した。これらの結果から判断し、本プロジェクトで製作し
た水蒸気-排気ガス間の熱交換器は当初の目標をやや下回ったものの、所
定の性能を得ることが出来たと判断した。
⑩ 改良すべき項目
・ オイル-水熱交換器ではエンジンの負荷が上昇し、冷却オイルの温度、ま
-31-
たは循環量が増加するので、この熱交換器部分で蒸気生成度を増加させる
必要がある。
・ 排気ガスの温度、流量が増加すれば蒸気生成量を増加させることが出来る
ので、目標値100kg/hを達成することは容易であり、試算では12
0kg/hまで増加させることが出来る。
・ 図5-9は本実験で得られた熱交換特性を示す。温度の測定点は入口と出
口であったので、途中の温度は良く判らないが、水蒸気側は初期温度の上
昇が100℃を維持し、乾き蒸気になってから急速に温度上昇すると推測
される。また、排気ガス側は出口付近で急速な温度降下があり、入口付近
では緩やかに降下すると考えられる。
流れ方向の距離
図5-9 排気ガス-水蒸気熱交換器の温度特性
-32-
6.H2O燃料改質実用装置の評価
6-1.水蒸気による燃料改質装置の開発
本プロジェクトでは当初、排気ガス中に含まれる二酸化炭素を吸着、回収し、
その二酸化炭素とメタンガスを反応させて一酸化炭素と水素を合成する計画で
スタートした。しかし、二酸化炭素の回収のため予定していた吸着剤の性能が公
表されていた性能と異なることが明らかになったため、今回は水蒸気とメタンの
改質装置を製作することとした。水蒸気改質には以下の利点がある。
(1) 熱交換器と改質装置を一体にした向流方式の熱交換器の原理を用いればよい
ので構造が極めて簡素化される。
(2) 水蒸気改質の方が、反応温度が低いので全体の改質効率が改善される。
(3) 水蒸気は排気タービンの出口に設けられた熱交換器、エンジンの冷却用潤滑
油との熱交換器によって多量に作られるので、蒸気タービンと改質装置に供
給できる。
(4) 水蒸気改質の後流には多量の水素が含まれる。水素は燃焼が早く、ノッキン
グを発生しやすいが多量の水蒸気が含まれると燃焼が抑制され、異常燃焼の
発生を抑えられる。
(5) 水蒸気改質はコーキングが発生しにくく、耐久性の確保に好都合である。
水蒸気改質装置の設計では排気ガスからの熱吸収のため必要熱交換面積を算
出し、装置の容積等を決定していった。設計の手順を下記に示す。
(a) ガスタービン出口の排気ガス温度は約750℃、改質に必要な熱量は約74
kcal、熱交換効率を90%とし、83kcal の熱通過が必要である。
(b) 82kcal の熱通過をさせるに必要な隔壁面積を求める。改質ガスと排気ガス
との間の熱通過率は210W/m2Kとして計算すると熱通過面積は6.6m2
である。
(c) 上記の改質装置を最小の容積内に収容する。
(d) 改質側では触媒のSV値を極力小さくして交換効率を大きくする。
(e) 排気ガス通路と改質ガス通路は漏洩のないよう機密性を良くした。
(f) エンジンの実機試験に際してSV値を変更出来るよう2連とした。
(g) 燃料と水蒸気の混合を良くするため気体供給路に工夫をし、濃淡が出ないよ
うにした。
以上の検討、計算を行った後、設計を行った。
改質装置は、隔壁を挟んで2種類の金属多孔質材を貼り付ける。金属多孔質材
はNi-Cr合金でこの金属多孔質材の表面にはアルミニウムを被覆し、そのア
-33-
ルミニウム材の表面を酸化させ、アルミナ材とする。アルミナ材はγアルミナと
の親和性が良いのでこの表園にγアルミナを付着させ、その表面に触媒を担持す
る。この構造を実現するために、製作工法を以下のように2通り検討した。
6-2.改質装置の製作工法
工作法Ⅰ
① 金属多孔質板、隔壁板にアルミニウムをメッキする。
(アルミニウムは水素による脆性破壊を防止する機能がある。
)
② 隔壁にフラックスを塗布し、アルミニウムをメッキした金属多孔質板を隔壁
に圧接し、真空炉中で接合させる。
③ 金属隔壁の両側に接着した金属多孔質材が装着された熱交換器と触媒体の
表面に酸化膜を構成させる。酸化膜はアルミナと成っているので耐酸化性は
良い。
④ 上記の複合体の一方に触媒層を形成させる。
⑤ 触媒層を内側にし、隔壁が構成する箱状の片割れを重ね合わせ、触媒反応層
を箱の中に収めた容器を製作する。
⑥ その容器は接合面をグラインダーで露出させ、溶剤を塗布し、溶接する。
⑦ 容器はガスの入口、出口を設け、機密性を確保して完成する。
上記の製造法で、アルミニウム鍍金の実施では蒸着法が使われているが、均一
被膜を生成させるために、大型の蒸着槽が必要である。
工作法Ⅱ
① Ni-Cr製金属多孔質板をフラックス塗布した隔壁に圧着し、真空炉で接
合させる。
② 多孔質接合体を溶融アルミニウム槽に浸漬し、表面をアルミニウム膜で被覆
する。
③ その接合体を酸化槽内に置き、表面にアルミナ層を形成させる。
④ 金属多孔質層にγアルミナをコーティング後、触媒を付着させる。
⑤ 触媒層は上記接合体を重ね合せ箱状にした後、担持させてもよい。
⑥ 上記の接合体を多段積層し、外側には排気ガスの通路を設け、内側の密封容
器の中に改質層を設ける方式とする。
以上の方法を各専門メーカーと協議しながら検討し、製造することにした。本
改質装置は2基製作し、1基取り付けた時にはSV値が10000h-1、2基取
り付けた場合は、SV値5000h-1にできるようにした。
-34-
6-3.改質装置の設計
金属多孔質体を用いて改質装置を製作した。改質装置は熱を供給する側は排気
ガス通路とし、改質側では天然ガスと水蒸気の反応により燃料改質を行う。受熱
側はメッシュの粗い金属多孔質体を用い、触媒側は細目の金属多孔質体を用いた。
触媒は前回の試験で用いた5wt%Ru、3wt%MgO、10wt%CeO2
Al2O3とし、SV値は5000h-1~10000h-1を目標として設計した。
本改質装置の特徴は、受熱側に700℃以上の排気ガスを導入し、徐々に温度降
下し排出する。触媒側では低温から徐々に高温側に温度が変化するので通常の触
媒実験で経験する平衡状態により、反応が停止することが緩和される。今回はH
2O触媒に限定したので触媒の構造が簡素化され、極めて取り扱いやすい装置と
なった。しかし、予定した構造体を製作する工法が難題であった。以下にその製
造プロセスを示す。
図6-1に改質装置ASSY図を示す。また、改質装置の取り付け検討結果の
レイアウトを図6-2に示す。
図6-1 改質装置ASSY図
-35-
図6-2 改質装置のレイアウト計画図
6-4.改質装置の製作
6-4-1.金属多孔質体と隔壁の接合
改質装置のエレメントである金属多孔質体と隔壁の接合体の材質は、燃料、水
蒸気流路側にニッケル・クローム合金で細かい目の層#2タイプとし、排気ガス
流路側はニッケル・クローム合金で粗い目の層#1タイプを採用し、隔壁はニッ
ケル・クローム合金製のインコネル600を用いた。
表6-1に多孔質体の呼称と比表面積を示す。同時に使用した材料の成分を表
6-2に示す。
隔壁と金属多孔質体の接合は、隔壁側にロウ材を塗布し、隔壁と金属多孔質体
を治具にセットし、真空ホットプレス炉中でプレスにより隔壁と金属多孔質体を
圧着し、1200℃の雰囲気の中で溶着反応させた結果、ロウ材が毛管現象で付
着し十分な接合が出来た。
図6-3、図6-4に接合体の外観写真を示す。
-36-
表6-1 金属多孔質体の名称と比表面積
表6-2 接合に使用した材料の成分
-37-
図6-3 接合体の外観
接合体の外観
図6-3
図6-4 接合体の外観(拡大)
-38-
6-4-2.金属多孔質体と隔壁の接合体の触媒担持
接合体を用いて下記の工程で触媒担持の処理を行った。
触媒担持に際し、焼成工程で接合体に熱変形が発生し、変形量は0~10mm
であった。最大変形品の外観写真を図6-5に示す。
接合体の変形矯正のため、金属多孔質体に溝幅1~2mm 溝深さ4~4.5
mm のスリットを追加することにより変形を抑制することが出来た。
金属多孔質体にスリットを追加した接合体の外観写真を図6-6に示す。
-39-
図6-5 最大変形品の外観
図6-6 接合体へのスリット追加
-40-
6-4-3.燃料改質装置の構造体製作
スリットを追加した接合体を、燃料、水蒸気流路側同士を二枚向かい合わせに
クランプにて固定し変形を矯正した状態で溶接し、1枚の燃料改質構造体として
製作した。溶接が完了した燃料改質構造体の外観写真を図6-7に示す。改質装
置としては構造体7枚で構成されている。改質装置の内部構造写真を図6-8に、
外観写真を図6-9に示す。図6-10に断面図を示す。
図6-7 燃料改質構造体の外観
図6-8 改質装置の内部構造
-41-
図6-9 改質装置の外観
図6-10 改質装置の構成図(断面図)
-42-
6-5.改質装置の活性評価結果
燃料改質装置の実験では完成した燃料改質装置を用いて単独での実験を行っ
た。実験はエンジンを運転し、その排気管に直接改質装置を接続し、オイル-水
熱交換器、排気ガス-水蒸気熱交換器を接続させ、エンジンの運転が許される条
件である排気ガス温度を最大値550℃まで上昇させ、水蒸気を生成し、その水
蒸気と天然ガスを改質装置に導入し、改質率を測定した。それぞれの条件は以下
の通りであった。温度測定は排気ガス入口、出口、改質側通路の入口、出口にそ
れぞれ熱電対を設置して測定した。ガスの組成についてはガスクロマトグラフィ
ーを用いてH2、CH4濃度の測定を行い、改質率を推算した。
① エンジン出口の排気ガス温度、改質装置の排気ガス側温度
550 ℃
② 改質装置の改質ガス入口の水蒸気温度
265 ℃
③ 水蒸気の量
80 kg/h
④ 改質装置の改質燃料の温度
40 ℃
⑤ 改質装置の燃料流量 (全負荷時の63%)
16 kg/h
⑥ 以上の試験を実施し、得られた結果は以下の通りであった。
・排気ガスの流量(1500rpm)
690 kg/h
・エンジンの負荷65%時の排気ガス温度
550 ℃
・改質装置出口の排気ガス温度
500 ℃
・改質装置水蒸気の入口温度
265 ℃
・改質ガス出口の温度
400 ℃
・改質ガス量
106 kg/h
以上の結果から推算して改質装置の改質ガスの改質量を計算すると、SV値4
120h―1で生成H2濃度2.46%、この時の改質率は約40%と算出でき、
ほぼ設計値を満足した。
-43-
7.エンジン制御系の開発
7-1.制御装置の開発
本エンジンの開発にあたって、制御系の応答遅れによりしばしば実験が進まな
かったのでその問題点と対策を整理し、その対策を盛り込んだ制御装置を製作し、
試験を行った。
問題点は以下の通りである。
① エンジンの初期燃焼が安定しないので、初期燃焼を安定させる操作が必要で
ある。
② CNGは燃焼速度が早いのでノッキングに発展しやすい。従って、速やかに
EGRによって燃焼速度を抑制する必要があった。
③ 熱発生率を800J/°以下に抑えたいが熱発生率の検出が出来ないので、
ノックセンサーを用いて急激な燃焼を検出し、EGRと吸気温度の制御等に
よって急激な燃焼を抑制することにした。
④ 負荷の小さいときにはターボチャージャーを先ず作動させ、必要なブースト
圧力を得るようにし、余剰圧力が出た場合、発電機の負荷を上げて動力の回
収を図るよう順序を決めた制御が必要である。
⑤ 水蒸気のエンタルピーが大きくなったら蒸気タービンも作動させ、動力回収
を図るが、蒸気の温度と量を検出し、蒸気タービン側と改質装置側に分配す
る作動の判断を行う制御が必要である。
⑥ 負荷が上昇し、ターボチャージャーと動力回収が終了したら、燃料改質装置
に水蒸気と排気ガスを回し、燃料改質装置を作動させる。
以上の問題点を解決できる方法を考慮に入れながらシステム全体の制御装置
を製作した。
7-2.制御装置の概要
制御装置の概略は以下の通りである。
(1) エンジンのスタートにあたってヒーターを加熱し、副室燃料の加熱準備を行
う。
(2) クランキングを始め、燃料が着火し、排気ガス温度が上昇すると主燃料弁を
作動させ、HCCI燃焼を始める。
(3) ターボチャージャーが作動を始め、ブースト圧力が所定値に到達したら発電
機を作動させる。
(4) エンジンの負荷が増加した場合、全気筒の燃焼を確認した後、主燃料の増加
を図る。
-44-
(5) ターボコンパウンド装置を作動させ、排気ガスの動力を過給と発電に利用し
た後、余裕があれば蒸気タービンを作動させる。
(6) エンジンの負荷の増加に伴って燃焼室の壁温が増加するので、その場合は冷
却用オイルポンプの容量を増加させて冷却を図る。
(7) エンジンの負荷が75%以上に到達するとターボチャージャーの仕事量が増
加するので、発電機の発電容量を増加させ、それと同時に蒸気タービンの容
量も増加させる。
(8) 改質装置が作動して改質ガスが生成した場合、その量を評価する装置を設け
ず、タービン仕事、蒸気仕事が増加することによってその仕事量を評価する。
その方法で不完全の場合は、H2などの評価装置を設け、改質具合を評価す
る。
(9) 本フローチャートは、エンジンの負荷の大きさによって別々に作動できるよ
うになっているので、25、50、75、100%負荷でそれぞれの装置を
作動させる。
(10)25%負荷では、エンジンでHCCI燃焼のみ行う。
(11)50%負荷では、ターボコンパウンドエンジン、タービン発電機、蒸気発電
機を作動させる。
(12)75%負荷では、ターボコンパウンドエンジン、タービン発電機、蒸気発電
機と一部改質装置を作動させる。
(13)100%負荷では、ターボコンパウンド、タービン発電機、蒸気発電機、燃
料改質装置を作動させる。
エンジンの制御系は基本的に3つのシステムに分割し、その条件に合致した制
御装置を配置した。その内容は以下の通りである。
① エンジンのコールドスタートから通常燃焼までの制御装置で、副燃焼室投入
燃料の加熱ヒーター作動、クランキング、主燃料投入、ノッキング防止用E
GR実施、ターボチャージャー駆動、ブースト圧力の制御等を行う。
② エンジン負荷の上昇と共に、ターボジェネレーターの出力制御、ブースト圧
力の制御、蒸気タービン用蒸気生成、蒸気タービンの作動、発電機の電圧制
御、エンジンに付設した電動機の駆動等を行う。この間、燃焼室壁温の監視、
ノッキングの監視を行い、必要に応じてEGR、水噴射等で燃焼の制御を行
う。
③ エンジン負荷が上昇し、排気温度が十分な状態になったとき、燃料改質装置
を作動させ、更にターボコンパウンド装置を作動させる。
7-3.各制御装置の設営と調整
制御フローチャート図7-1-1~7-1-6に従って制御装置を製作した。
図7-2には主要な制御系統図を示し、図7-3にはエンジン全体の測定系系統
-45-
図を示した。
図7-4、7-5には制御装置の外観を示した。制御装置の内側は2室に分か
れ、A部とB部の内側にリレーを配置し、CPUはA部制御盤の蓋の部分に取り
付けた。図7-6に制御盤A部を示し、図7-7には制御盤B部を示した。制御
盤の表示部分で主燃料の噴射タイミングと噴射機関を設定できるようにした。エ
ンジンのクランクシャフト速度を1/2に減速し、クランク角を調整でき、噴射
期間を増減出来るような装置を取り付け、この装置を用いてエンジン回転速度に
合わせた噴射条件を設定できるようにした。図7-8にはその表示パネルを示し
た。図7-9には燃料流量を設定するための表示パネルとその制御系統の概要を
示した。主燃料と副室燃料の流量の加減は各制御装置の時間巾制御によって任意
に変更できる。図7-10にはEGR流量の設定が出来る制御内容を示している。
図7-11では、潤滑オイル温度管理により、各シリンダーの壁温を180度以
下に保持するための制御装置を示した。この制御系には改質装置を取り付けた状
態での水蒸気の分配装置も取り付けられ、各熱交換器により作られた水蒸気を蒸
気タービン、燃料改質装置に振り分けることが出来る。
図7-12は副燃焼室への燃料分配の制御弁を示した。図7-13には主燃焼
室への燃料制御装置を示した。それぞれの所定の流量を合致させるため、開閉弁
の絞りを制御した。図7-14、7-15はシリンダー壁面温度を所定値以下に
するための制御弁を示す。図7-16には水蒸気ラインの制御弁を示し、図7-
17にはEGR制御装置の状態を示した。
-46-
図7-1-1 制御フローチャート
-47-
図7-1-2 制御フローチャート
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図7-1-3 制御フローチャート
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図7-1-4 制御フローチャート
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図7-1-5 制御フローチャート
-51-
図7-1-6 制御フローチャート
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t1
:ヒーター加熱時間
t2
:主燃料
△t2 :主燃料
12.5% セット開弁時間
5%増
t3
:主燃料
37.5%相当時間
t4
:主燃料開弁
t6
:全負荷ソレノイド主弁開時間
62.5% 3/4 セット
Th1 :排気ガス温度(排気ポート)
PB
:ブースト圧力
TW
:シリンダー隔壁
Q1
:排気管水噴射量
△Q1 :排気管水噴射量の減少量
Q2
:蒸気用ポンプ流量
PW1 :エンジン負荷(主燃料
12.5%+副燃料
12.5%)
PW2 :エンジン負荷(主燃料
27.5%+副熾科
12.5%)
Pw3 :エンジン負荷(主燃料
87.5%+副燃料
12.5%)
EGR :EGR 弁開度
35%、50%
QE
:エンジン燃焼制御用水蒸気弁
QR
:改改質用水蒸気弁
Nst :蒸気タービン回転数
Nex :排気タービン回転数
QoiL :冷却オイルポンプ
TER :改質装置出口温度
Tste :蒸気タービン出口温度
Tst
:蒸気温度
-53-
図7-2 制御系統図
図7-3 エンジンの各部に取り付けた測定器の一覧
-54-
図7-4 制御装置の外観(正面)
図7-5 制御装置の外観(側面)
-55-
図7-6 制御装置A部の内部(壁面にCPU取り付け)
図7-7 制御装置B部の内部
-56-
図7-9 主燃料と副燃料の流量設定
図7-8 主燃料の噴射タイミング
と噴射量設定
図7-10 EGR量制御装置の表示パネル
-57-
図7-11 燃焼室の壁温管理装置
図7-12 副燃焼室の燃料制御弁
図7-13 主室燃料制御装置
図7-14 冷却水制御装置 その1
図7-15 冷却水制御装置 その2
図7-16 水蒸気量制御分配装置
図7-17 バルブ制御によるEGR量制御
-58-
8.最適副燃焼室を持つエンジンシステムの開発
本エンジンの燃焼のメカニズムは、吸気行程の終わりに副室燃焼室の制御弁が開
き燃料が噴射され、圧縮行程では主室から副室に徐々に空気が侵入し、濃混合気が
合成される。圧縮工程の終わりに制御弁が解放され、主室の圧縮空気が一挙に副室
に侵入し、着火、副室内の燃焼ガスが主室に流れ出る。この燃焼では制御弁の解放
時期が極めて重要で、TDC前何度で開放するか、燃焼期間では制御弁の上部に取
り付けられた傘弁がシート部に取り付けられた軸部クリアランスを封鎖している時
期が何時かの検討を行った。更にポペット弁の形状、制御弁の開放時期などについ
て詳細に試験し、その形状等の改良を加えた。
8-1.燃焼タイミングについて
図8-1に制御弁の移動と開放タイミングを示す。制御弁が副室の上方に移動
し、BTDC5度ほどで副室とのクリアランスが徐々に大きくなり、主燃焼室か
ら圧縮空気が侵入を始める。副室に留まっている燃料は空気と混合するが、徐々
に上部に押し込まれ、圧縮される。主室と副室の圧力がほぼ同一になる時期はT
DC付近である。この時、制御弁が未だ着座していないと上部に存在する混合気
は制御弁のステムから漏れる可能性がある。混合気が着火して圧力が急上昇する
と上記ステム部から高温の燃焼ガスが漏れ、制御弁の温度が上がり、性能は低下
する。
従って、制御弁の開弁位置はBTDC15度、着座位置がTDC、着火位置が
BTDC5度付近とすることが望ましい。今回、カムシャフトの閉弁位置を変化
させ、その状況を観察した。制御弁の開弁位置を進めると主室の圧力、温度が上
昇しきらない内に副室に圧縮ガスが侵入を始めるため、着火性が劣化する。しか
し、着火が完了すると、圧力の最も高い上死点付近では制御弁が着座し、傘弁が
完全にステム部を閉鎖しているので副室周りの温度は低い。制御弁の開度を遅ら
せてTDC付近にすると主室の圧縮空気は実質的に副室がない状態で圧縮される
ので、その圧縮比が19相当となり、高圧、高温ガスが制御弁の開放と共に副室
内に侵入し始めるが、主室と副室の圧力が同じになるためには時間がかかるので
一旦着火するが、TDCから急速に主室圧力が低下するので着火が不安定となる。
副室では160℃に加熱された高温の天然ガスと圧縮空気が混合し、着火に至
るが、圧縮空気との混合によって温度が低下するので実質的には混合の影響が少
ない天然ガスの導入ポケットに存在する天然ガスが高温のまま圧縮されることに
より着火が促進されると考えた方が良い。
図8-2には上記の条件で実施した着火試験の結果を示した。副室の圧力上昇
は計算値である。
-59-
図8-1
制御弁の移動と開弁タイミング
主室圧力(計測値)
主室圧力(計測値)
副室圧力(計算値)
副室圧力(計算値)
図8-2
副室の開弁時期と筒内圧変化
-60-
9.エンジンの信頼性評価
9-1.耐久、信頼性評価
本エンジンは多くの装置が組み合わされた構成となっているため、信頼性を確
保するための苦労が多くあった。試験に当たって信頼性を向上させるため十分な
設計を行ったが、重要な下記不具合が発生した。以下にその主要なものと改善結
果について列挙する。
(1) ダクタイル鋳鉄性シリンダーライナーの破損。このシリンダーライナーは潤
滑性が優れている反面強度不足が懸念されたがエンジン負荷の上昇時にシリ
ンダーライナー温度230℃以上に達した時、焼き付き事故が発生した。設
定値が180℃以下であったのでこの温度制御を十分に実施した後、問題は
解消された。
(2) ピストンのヘッドとスカート部分のシール性が悪く、ガス漏れが発生した。
ピストンヘッドの温度上昇によりシール部分の温度が上昇し、材料の軟化が
発生し、シール性が劣化した。対策としてガスケットのラミネート化により
温度伝導率を悪くし、ガスケットのシール性を改善した。
(3) シリンダーヘッドとシリンダーライナー間のシール性の悪さによりガス漏れが多
発した。多気筒エンジンになって特にガス漏れが多かったが、6気筒エンジンの
シリンダーヘッドを締め付ける時、全体の変形を考慮した寸法管理を実施したと
ころ、シール性は改善できた。
(4) エンジンの燃焼室部分に制御弁を持つ特殊燃焼室であるので、制御弁のステム部
分からのガス漏れ、温度上昇、焼き付き、溶損が発生した。熱伝導系を大幅に改
善した2重構造の制御弁、ステム部にシール弁機構を設けた特殊構造を採用する
ことによって耐久性は完全に改善された。
(5) 副室燃焼室の制御弁はメタンの改質によって発生した水素によってしばしば脆性
破壊を起こした。このニッケル、クロム金属の表面にアルミナイズ処理を施すこ
とによって、大幅な耐久信頼性を実現した。
(6) 副燃焼室に導入する天然ガス燃料を加熱するために設けたヒーターは材質がニク
ロム線であったので加熱時に天然ガスが分解し、水素が発生し、脆性破壊を起こ
した。これもアルミナイズ処理によって解消した。
(7) 副燃焼室制御弁を作動させるカムシャフトは、開弁用のカムプロフィルの形状が
加速度が大きくなる形状であったため、しばしばバウンスが大きくなり、破損し
た。このため、バウンス制御用スプリングを取り付けることによって問題を解消
した。
(8) 副燃焼室は燃焼火災が通過する最も厳しい熱的条件にあったため、水素による脆
性破損と溶解が発生した。燃焼室の内側にジルコニアコーティング処理を行い、
信頼性を大幅に改善した。
-61-
以上が主要な不具合と信頼性改善の方法であった。金属材料で多くの問題が生じた
ので、今後セラミックスの利用も考えて行くべきであろう。
-62-
10.燃料改質装置付エンジンの評価
10-1.初期運転試験と調整運転について
エンジンの運転では天然ガス(13A)を用いた。燃料流量を増加させ、可能
な限り負荷を上げ、排気ガスの温度を上昇させて、改質装置の作動を向上するた
め種々の試験を実施してきたが、エンジンの排気ガス温度を550℃までしか上
げることが出来なかった。これ以上負荷を上昇させるためには燃料の増加、EG
R量の加減、吸気温度の制御を行いながらノッキングのない燃焼に制御する必要
がある。これらの細かい調整には、予想していた以上に多くの時間を要すること
が判明したため、本技術開発の当初からの計画であった改質装置を作動させた全
体エンジンシステムの運転実証に重点を移すことにした。この方針に従い、オイ
ル-水熱交換器、排気ガス-水蒸気熱交換器、新ターボコンパウンド用発電式タ
ーボチャージャー、燃料改質装置の全てを取り付け、調整試験を開始した。
本来ならばエンジンの負荷を上げて燃料改質に必要な排気温度750℃以上
に上昇させて改質エンジンとして実験評価を実施したかったが、エンジンの負荷
の上昇と共に圧力上昇率が高くなり、ノッキングの発生傾向が増した。EGRと
燃料増加と過給圧の上昇との相互バランスをとりながら、エンジンの負荷上昇と
して全負荷の2/3までの上昇を図ったが、エンジン性能131.5kW、/1
500rpmが限界であった。これ以上負荷を増加をさせる場合、吸気温度の低
減を図り、圧縮端温度を下げる必要があった。以下に実験結果を報告する。図2
-1に目標の熱フローを示したが、目標の排気ガス温度970℃に到達すること
は極めて困難であった。
10-2.ターボコンパウンドと改質装置を取り付けたエンジンの性能について
エンジンの負荷を上昇させ、燃焼を制御するためにはEGR率を50%にした
場合、改質装置を作動させずに燃料をエンジンに直接投入することにより、熱発
生率を350J/°に抑えられることは前の報告で示した(図10-1)。この
状態で改質装置を取り付け、エンジンの回転数を1500回転にすると筒内圧が
上昇し、若干の改質ガスであるH2が混合されるためか、予混合燃焼率が増加し、
EGR率が50%であるにも拘らず熱発生率は800J/°に達し、筒内圧が1
2000kPaに達した。この改質燃料には高温の水蒸気が90kg/h程投入
されているにも拘らず水蒸気による熱発生率の抑制効果は顕著でなかった。この
時の排気ガス温度は550℃であった。図10-2には回転数1500rpmに
上げ、改質装置を取り付けた状態での指圧線図、熱発生率を示した。この時の出
力は115kW、出力の上昇率は3%であった。この時の燃料流量は20kg/
hであった。上記条件でのエンジン性能についての解析を行った。
エンジン出口の排気ガス温度が550℃、排気タービンの出口温度が450℃、
改質装置入り口温度が420℃、改質装置出口温度が320℃、熱交換器の出口
-63-
温度が120℃であった。
① タービン仕事について
タービンの入口温度550℃、圧力0.25MPa、出口温度450℃、
圧力0.11MPaから計算すると、タービンの断熱熱落差1100kcal/
kmol であるが出口温度が450℃なので、実仕事量は800kcal/kmol
となり、タービンの効率が73%、仕事量に換算すると23kWであった。
この仕事が発電機の発電動力とコンプレッサー仕事に使われる。発電機の出
力は10.5kWであったので、コンプレッサーに12.5kW使われたこ
とになる。以上の結果から推定すると、エンジン出口の排気ガス温度900℃
以上が得られれば、タービンの仕事量は55kW以上となり、目標値を達成
できる。
②
改質装置について
排気ガス量690kg/h、排気ガスの改質装置入口での温度が550℃
として試験した。この条件での改質率は単体での実験結果から推定し、40%
以下であるので、改質が進行した場合、エンジンの出力の増加が12%にな
る可能性がある。熱エネルギーの利用率をそれぞれの装置について検討する
と改質装置では80%程度の改質ができるエネルギーであり、熱交換器では
90%ほどの交換効率であった。装置全体の遮熱、熱伝導の低減を図ると共
に排気ガス温度の上昇が必要である。
エンジンの燃焼では改質によるH2の発生によって燃焼速度が上昇し、熱発
生率の上昇が激しくなるが、これをEGRによって押さえるとO2不足により、
性能が悪くなり、水蒸気を多量に混合させるとエンジンは失火し、停止する。
よって、ターボチャージャーからの過給空気を増加させ、かつ温度を低下さ
せ、熱発生率を制御しながら燃焼の最適値を探す実験が必要である。
-64-
図10-1
EGRを加えた場合の熱発生
-65-
図10-2
燃料改質装置付きのエンジンの燃焼
-66-
10-3.エンジンに取り付けた改質装置の特性について
水蒸気によるメタンの改質は比較的低温から反応すると予想したが、これらの
装置では改質装置全体を過熱するまでに時間がかかり、定常状態に到達するまで
に 1 時間以上必要であった。また改質装置入口の排気ガス温度が420℃で出口
温度が320℃であった。排気ガスの流量は690kg/hであった。改質装置
に入る水蒸気の温度は265℃、流量は80kg/hであった。メタンの温度は
50℃、流量は17.2kg/hであった。以上のデータを基に改質装置での反
応を算出すると以下のようになった。
・ 排気ガス側の熱交換量は71000kJ
・ 水蒸気の吸収する熱量は18100kJ
・ 熱交換装置の効率を考慮し、改質に利用される熱量は44900kJ
・ この改質装置のSV値は4510h-1
・ この熱量から推算した改質量は23.2%
この改質率によりエンジンの出力改良を推定すると6%ほどしか増加しない。
測定した燃料改質量は場所によって大幅に異なり、満足できる測定結果が得られ
なかった。その原因として改質装置外側からの熱放散が大きいことと、水蒸気の
温度上昇が十分でなく、満足できる改質条件が得られず、改質が促進をされてい
ないことが考えられる。放熱量を徹底的に抑え、それぞれの装置の稼働率を向上
させる必要がある。
しかし、改質装置の出口に取り付けたガスクロマトグラフィーによるとH2濃
度が1.31%であり、改質率はほぼ23%であった。
10-4.改質装置付エンジン全体システムの評価について
全装置を取り付けた状態でエンジンの調整を行った。運転の始めは天然ガスだ
けを吸気管に投入し、タービン、熱交換器、改質装置の排気ガス側に排気ガスを
流し、十分な暖機を行い、改質装置の入口温度が400℃以上になった時、燃料
を改質装置に投入し、EGR、吸気温度、を調節し、エンジンの性能変化を観測
した。当初、極めて不安定であったエンジンの圧力上昇率が徐々に安定した時、
その性能を計測した。改質エンジン全体の性能は以下に示す通りであった。
・ エンジンに投入した燃料は20kg/h(全気筒7.7L/s)
・ 副室燃料
15%
・ エンジン回転数
1500rpm
・ ブースト圧力
0.17MPa
・ 吸入空気量
590kg/h
・ 吸気温度
50~60℃
-67-
以上の条件で得られた結果は下記のとおりである。
①
エンジン出力
115kW
②
タービン発電出力
10.5kW
③
ブースト圧力
0.17
④
排気温度
550℃
⑤
エンジン総合発電効率
39.5%
⑥
改質率
23%
⑦
NOX排出量
0.27
g/kW・h
⑧
HC
1.43
g/kW・h
⑨
エンジン単体発電効率
排出量
MPa
36.1%
図10-3にエンジン性能についての熱フローを示す。
kW
kW
kW
kW
kW
36.1%
kW
360℃
kW
kW
112kW
kW
蒸気タービン
kW
(39.5%)
kW
kW
kg/h
図10-3
プロジェクトで得られた熱フロー図
-68-
図10‐4には燃料改質装置を組み込んだエンジンシステムの写真を示す。
図10-4
燃料改質装置を組み込んだエンジン外観
10-5.燃料改質エンジンの試験結果の考察
天然ガス燃料改質エンジンの評価は以上の通りであるが、残念ながら目標値に
十分な到達はできなかった。特にエンジンの燃焼の安定性が十分得られず、燃料
を目標値まで投入することができなかった。本エンジンは極めてユニークな多く
のシステムを備えた画期的エンジンであったが、全体システムを組み上げた状態
でのコンポーネントごとの十分な評価とその後の改良ができなかった。それらの
内容を下記に示す。
・天然ガスエンジン本体について
天然ガスだけを用いて圧縮着火する画期的エンジンの開発を試みた。副室
に加熱した着火用天然ガスを蓄え、主室には予混合燃料を供給し、圧縮によ
って着火条件に到達した副室内の燃料が着火、主燃焼室の予混合燃料に火炎
伝播する方式の燃焼システムは意図通りに着火燃焼した。この燃焼方式では
副室には0.7MPa程の加圧燃料を0.9mmほどの制御用の穴を通して
確実に所定量の燃料を副室に送ることに成功し、以後、安定した初期燃焼と
部分負荷燃焼をさせることが出来た。主室への予混合燃料の供給では吸気管
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に取り付けた燃料噴射ノズルから所定量の燃料を供給するため市販されて
いる燃料供給ノズルを用いて燃料供給量、タイミングを揃えた。主燃焼室へ
の予混合気の供給では、吸気の温度によって着火条件が大幅に変化するので
コンプレッサーからの空気温度の調整に苦労した。本システムは吸気の温度
調節機構を持っていないので新たに設けた温度調節機構が役に立った。
天然ガス燃料は着火し難く、一旦着火したらその速度は極めて速い特性を
持っている。本実験に用いた13A燃料は着火性が一般の天然ガスより若干
良く、その制御に苦労した。特に熱発生率が800J/°を超えると急激に
ノッキングに成長し、エンジンの副室制御弁を溶損させることがしばしば発
生した。ノックセンサーによってノッキングをセンスし、EGRによって燃
焼を抑制させる必要があった。燃料改質装置を取り付けた状態でのエンジン
性能評価では、排気ガス温度が目標値まで到達せず、550℃の排気ガスを
導入した状態で試験を行った。排気ガス温度の目標値を970℃と非常に高
温に設定したが、燃料流量を全負荷時の70%で試験したので550℃に止
まった。この970℃の値は全負荷で燃料改質が目標値に達すれば到達する
温度であるが、実験運転ではエンジン全体の熱負荷が大きくなり、焼付けな
どが発生する可能性があるほか、エンジン燃焼でノッキングが発生する可能
性が予測された。さらに改善するためには、水噴射などによるノッキング抑
制が必要である。
・電気式新排気タービンについて
発電機を内蔵したターボチャージャー装置ではタービンノズルを固定し、
負荷の変動を同軸に取り付けた永久磁石式発電機によって、排気エネルギー
を電気エネルギーに変換し、エネルギー回収する方法を試みたが、回転軸の
全長が長過ぎ、僅かな不釣合い量によってタービン軸がゴマすり運動を起こ
し、しばしば干渉を起こした。タービン軸先端に軸受けを設ける必要性を感
じた。タービンの回転数が大きいので小さな回転子でも所定の発電電力を得
ること、磁束制御装置の作動により電圧を一定にすること、を確認したが、
もう少し基礎実験を実施する必要性を感じた。
・熱交換器について
金属多孔質を用いた独特の蒸気、排気ガス熱交換器の構造は、コンパクト
熱交換器の性能を満足する画期的熱交換器であると確認したが、排気温度を
十分に上げられず、十分な機能を発揮できなかった。しかし、50%以上の
湿り蒸気で実験した金属多孔質材を持つ熱交換装置では、熱通過率が480
W/㎡・Kとなり、極めて良い結果が得られた。本機能を持つ熱交換器は今
後、工業界の中で必ず実用化されるものと予想する。
・燃料改質装置について
金属多孔質と触媒機構を持つ燃料改質装置は、基礎試験ではその特性を十
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分発揮し、燃料改質エンジンの実現に向けて大いに期待した。しかし、エン
ジンに多くの機能が付加された場合、それぞれの装置の相互作用が最適に機
能させることが出来ない状況が現れ、その調整に苦労した。例えば、エンジ
ンの性能ではエンジン負荷の上昇に従って吸気温度を押さえ、冷却されたE
GRガスの供給が必要とされる。しかし、排気ガスの温度は高くしなければ、
タービン、改質装置、熱交換器の性能向上に繋がらない。このバランスを確
保することが極めて難しかった。
しかし、それぞれの装置をその負荷状態で調整し、何とか燃料改質装置と
して機能させることができた。改質率は23%と十分ではなかったが、排気
温度を上昇できた時点で、目標値には到達できる。
10-6.まとめ
2003年のSAE(Society of Automotive Engineering)で Best Paper に
選ばれたこのエンジン開発構想は世界で十分にその価値が認められたものであ
る。しかし、実際の開発では、エンジン、熱交換器、タービン発電機、燃料改質
装置などの完成のために最新の材料を使いこなす高度な技術を駆使することが
必要である。このため、これらの開発に実施者の並々ならぬ努力と委員の知恵を
集め、工夫を重ねて今日の成果が得られた。
現在、世界が不断に省エネルギー化を推進する必然的な流れにある中で、この
プロジェクトを通して得られた技術成果が、人類にとって必ず役に立つものと確
信する。
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お
わ
り
に
平成9年の12月に京都で気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3、京都会
議)が開催され、先進国及び市場経済移行国の温室効果ガス排出削減目標を定めた京
都議定書が採択されており、21世紀以降、地球温暖化問題に対する人類の中長期的
な取り組みの第一歩と位置付けられてマスコミにも大きく取り上げられていた。アメ
リカは大統領が替わり、このCO2削減目標案に反対し、条約を批准せずに今日に至
っており、また多くの人々も本当に地球温暖化が起こっているのか、それがどれだけ
大きな問題なのかの認識は深くはなかった。今やCO2排出削減が現実の課題となっ
てきたが、当時は地球温暖化問題の重要性についての理解と実行の必要性の認識が進
んだ状況ではなかったと記憶している。
当財団がこの天然ガス改質舶用遮熱エンジンの研究開発を始めたのは、この京都会
議の年にエンジンから出るCO2を吸収してしまうようなエンジンはできないかとい
うような話を当時(株)いすゞセラミックス研究所(後に(株)いすゞ中央研究所に
統合)の所長であった河村英男氏にしたことが発端である。同氏からは「地球温暖化
と大気汚染を救うセラミックス改質ガスエンジン」という題名で一つの資料が送られ
てきた。この資料には、まず異常気象、アジア、中国、インドの経済発展に伴うエネ
ルギー需要の増大、環境汚染の進行などが記され、さらには世界人口の増加に対応し
てエネルギー消費が大幅に増大するため、石油に依存している世界が将来大変厳しい
ものになることを懸念する内容が記されてあった。そして、そのような問題を解決す
る手段として、天然ガス改質舶用遮熱エンジンの開発を提案し、軽油を燃焼させた場
合と比較して、天然ガスを改質したガスを燃焼に使えばCO2排出量は約半分にでき、
大気汚染物質はほとんど出ないことを説明するものであった。当時の(株)いすゞセ
ラミックス研究所では、ガスエンジンやセラミックスエンジンの研究を熱心に行って
きていたという実績もあり、それらの研究成果を活かすものとして自信をもって当財
団に提案してきたものである。
当財団では直ちに検討を行い、本開発の重要性を確信し、同社と共同で開発を進め
ることが適切であると判断した。そしてまず平成10年度からこのエンジンの最大の
特徴であって中心となる天然ガス改質装置とCO2の吸収脱離装置についての研究開
発から始めることにした。幸いにも、日本財団のご理解を得ることができ、競艇交付
金による補助金を頂けることになり、日本財団にはその後も今日までの間多大なご支
援を頂いてきた。河村氏並びに日本財団の先見の明に敬意を表するものである。
さて、平成10年度に研究開発を開始してからは、開発の長期計画を立てて、それ
を3つのステップに分け、それぞれにおいて一つ一つの課題を克服しながら開発を進
めてきた。その実施内容の概要は、本報告書の「はじめに」に書いてあり、詳細につ
いてはそれぞれの年度にまとめた報告書に記載している。
平成18年度は本開発の最終年度として全体システムの完成を計画していた。平成
18年の末に全体エンジンシステムの製作組み立てを終わり、いよいよ計画当初に掲
げた目標に向かっての運転を行う段階に至った。ここからの排ガス温度を700℃以
上に維持しながらノッキングを発生させない燃焼制御の難しさは、その調整作業に必
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要な時間の予想を大きく超えるものであった。エンジンの高温維持とノッキング抑制
は相反する事象ではあるが、その調和点を設備、運転法の両面から見出すには相当の
時間が必要になる。本開発では、効率等の目標達成にはさらに時間を要するため、改
質装置の作動を含む本エンジンシステム全体の運転実施性能の確認を行うことを決断
した。この決断の意義は、世界で初めてエンジンの排気ガスによって天然ガスの改質
を行い、排気ガスのエネルギーを燃料のエネルギー増加に変換できることを実証しよ
うとするものであった。
本開発は、エンジンシステムの実証運転をもって終了するが、このエンジンシステ
ムが示した燃料改質という化学の概念を導入した高効率化によるCO2の削減は、今
後の地球環境の向上を目指す時、必ずや役に立つものであると確信するところから、
引き続きこの開発に継続して挑戦する者の申し出を期待するところである。
今後は、このエンジンシステムの開発が、人材・資金・設備等の充実している相当
規模の開発主体に受け継がれるとともに、本開発の中で得られた、米国で特許を取得
した高効率コンパクト熱交換器をはじめ、遮熱構造と耐熱合金による高温燃焼室、高
度燃焼制御技術、改質触媒、CO2吸着・脱離技術、高効率発電機等多くの派生技術
の商業化や利用が進み、エネルギー利用効率の向上の実現に役立つことを期待してい
る。
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この報告書は、競艇交付金による日本財団の助成金を受けて作成しました。
平成18年度
天然ガス改質舶用遮熱エンジンの技術開発報告書
平成20年3月発行
発行
海洋政策研究財団(財団法人シップ・アンド・オーシャン財団)
〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-15-16 海洋船舶ビル
TEL 03-3502-1828 FAX 03-3502-2033
http://www.sof.or.jp
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ISBN978-4-88404-208-0
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