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簡易報告書 - 兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科

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簡易報告書 - 兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科
経営情報学会関西支部 第11回学生論文発表会
災害時における安否確認システムの開発
-Android アプリ開発と Windows 環境下での管理システムの構築-
兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科/博士前期課程2年
田中
宏明
自然災害が発生した場合、組織は事業継続や組織維持のために組織に所属している人の安
否を迅速かつ正確に把握し、組織の維持及び社会的活動の継続や住民支援のために対応する
ことが求められる。その場合、安危情報の収集と安否確認が必要になるが、迅速かつ円滑に正
確な安危情報を収集するには、ICT の利用が、中でも特に普及の著しいスマートフォンの利活
用が考えられる。現在、専門の企業から安否確認サービスが多く提供されている。しかし、有料
であるか、無料のものでは家族・友人向けなどで公式組織(企業・団体、学校・園、自主防災組
織など)向けのものはない。そこで、既存の安否確認システムのメリットだけを取り込み、家族・友
人などの非公式組織であれ、公式組織であれ、無料で使え、簡単な操作で安危情報を非公式
組織の人や公式組織に送信できるアプリがあれば安否確認を効率的かつ効果的に行えると考
えた。そこで2タップで安危情報と現在地の情報を送信できるアプリと送信された安危情報から安
否確認作業を地図上での可視化も含めて効率化する安否確認システムを開発した。
1.
はじめに
自然災害は突然に発生するため、甚大な被害を
もたらす場合が多くある。自然災害の発生を止める
ことはできないが、自然災害による被害をできる限り
防いだり、減じたりすることは可能である。これが防
災および減災の考え方である。防災・減災のために
必要なことは何かと考えると、予報・警報の迅速な伝
達、現在地の安全性の確認、危険な場合の避難支
援、安否情報の伝達が必要だと考えられる。本研究
では、この中の安否情報の伝達について注目した。
広域大規模で甚大な被害をもたらす自然災害が
発生した場合、企業・団体は従業員・職員やその家
族の安否を、学校・園は所属する学生・生徒・児童
ならびに教職員の安否を、自主防災組織(自治会・
町内会)は所属する住民の安否を迅速かつ正確に
把握し、組織の維持及び社会的活動の継続や住民
支援のために対応することが求められる。円滑に安
否情報を伝達するには、普及が著しいICTを利用
することが考えられる。ICTの利用としては、様々な
機能を有して普及率が5割を越えているスマートフォ
ンを活用することが考えられる。スマートフォンには、
通信機能があり、緊急速報メールやエリアメールを
受信でき、インターネット接続機能によってメールの
送受信やSNSの利用、さらには地図の表示や動画
再生などが可能である。これらの機能を活用するこ
とで、業務や機能の継続が必要な企業・団体あるい
は学校・園のBCP(Business Continuity Plan)対
応の安否確認や名ばかり組織と揶揄されることもあ
る自主防災組織の活動を機能化させるための情報
システムを構築できると考えた。
防災・減災に関して、災害が起こった時の行動を
考えると、①緊急速報メールあるいはエリアメールな
どが届く、②今いる現在地が安全か危険かを確認、
③危険であれば避難する、④避難した場所が安全
か確認、⑤安危情報を家族や友人に知らせる、とい
う行動をとると考えられる。この中の安危情報を知ら
せる行動で、安危情報を複数の宛先に簡単な操作
で一括して送信できるアプリがあれば役に立ち、公
式組織では受信した安危情報から安全、危険、未
送信に組織構成員を分類して、それぞれのグルー
プに指示や問合せができる安否確認システムがあ
れば安否確認作業を含めた組織のBCP対応に有
効であると考え、スマートフォンとPCで安否確認シス
テムを構築することとした。以下では、構築した安否
確認システムの概要を説明し、今後の発展可能性
についても言及する。
2 . 既存の安否確認方法と問題点
企業・団体、学校・園、自主防災組織が利用可能
な既存の安否確認の方法には、①構成員のいる場
所への訪問による個別確認、②電話やメールを利
用した連絡網、③一斉に発信されるメールにメール
や指定されたサイトにアクセスして回答する方法の
安否確認、④ソーシャルメディアを利用した仲間内
(クローズド な非公式組織)での情報共有、 ⑤
Web171やJ-anpiなどの通信事業者が共同で行う
電子掲示板を利用した比較的にオープンな情報共
有、⑥グーグルのパーソンファインダーに代表され
る民間企業によるデータベースを利用した完全にオ
ープンな情報共有、などが挙げられる。
①の個別確認は、安否確認の担当者が組織の構
成員を個別に訪問して確認する方法で、効率的な
情報収集に向けて、地域の自主防災組織向けには、
黄色いハンカチ作戦(静岡県富士宮市)、白いタオ
ル運動(山梨県甲府市)、黄色い旗(和歌山県有田
川町)などの取り組みがなされているが、水害の場
合には確認がしにくいとか、留守の住宅が容易に分
かるといった問題点も存在する。②の電話やメール
による連絡網は、通信回線の切断や輻輳が発生し
た場合や、中継役となる組織構成員が機能しなくな
ると、構成員の情報が収集できなくなるなどの問題
点が存在する。③の方法は、専門の企業によるサー
ビスとして有料で企業・団体や学校・園に提供され
ているが、有料であり、回線の切断や輻輳が発生し
た場合にも有効に機能しないという問題がある。④
のソーシャルメディアを利用する方法は、Facebook
の「災害時情報センター」など、有効な手段であると
は考えられるが、対象が家族や友人・知人などの非
公式組織に限定されるため、企業・団体や学校・園
などの公式組織が利用するには難点がある。⑤の
Web171は、有用なサービスではあるが、大きな災
害時(震度6弱以上の地震や火山噴火)で電話が輻
輳した場合にのみ開設されるので、利用できる機会
が限定されてしまうという問題が存在する。
以上、既存の安否確認方法と問題点をまとめて
みたが、これから、費用負担に難点がある中小企業
や公立の学校・園や自主防災組織でも使えるように、
無料で、しかも小学生や高齢者なども構成員として
対象となるため、簡単かつ少ない動作で安危情報
が送信でき、組織の危機管理担当者も表計算ソフト
(例えばExcel)の簡単な操作さえできるのであれば
容易に組織全体の安否確認と対応が行えるシステ
ムが欠落していることが明らかとなった。
3.
これらを纏めて安否確認システムと呼んでいる。
安危情報送信アプリは、少ない動作でメールを送
信できるように、初期設定でメールを送りたい相手を
設定する。そして、初期設定を行っていれば、図1の
ように、アプリ起動、「安全」か「危険」ボタンの2タッ
プでテンプレートのメールを送れるようになっている。
図2は安危情報送信アプリのホーム画面である。
「安全」または「危険」のどちらかのボタンをタップす
ると、設定した自分のアカウントのアドレスから、設定
した送信先のアドレスに「安全」または「危険」のテン
プレートメールを送信する。GPS機能を有効にする
ことで、GPSの電波が入る場所では、現在地の緯度
と経度が表示される。現在地情報が表示された状態
でメールを送信すると、位置情報をメールの本文に
付与して送信する。位置情報を含めずにメールを送
信する場合は、GPS機能を無効にする必要がある。
「地図」ボタンをタップすると、GPS機能を有効に
し て現 在 地 の 緯 度 と 経 度 を 表 示 し て いる 場 合 、
AndroidにインストールされているGoogle Mapアプ
リを起動して現在地を中心とする地図を表示する。
現在地安全性確認アプリをインストールしている
場合、「現在地安全確認」ボタンをタップすると、現
在地安全性確認アプリが起動する。現在地安全性
確認アプリとは、兵庫県立大学大学院有馬研究室
で開発中のアプリで、全国の自治体がオープンデ
ータとして公開しているハザードマップから、現在地
が各種災害ハザードから安全かどうかを判定し、文
在
図1 2タップで安危情報の送信
安危情報送信アプリの設計と開発
本研究では、安危情報を送信するアプリ(安危情
報送信アプリ)とアプリから送信された安危情報に基
づいて組織の安否確認を効率的かつ効果的に行え
る、組織の危機管理担当者用のシステムを開発し、
図2 ホーム画面 図3 連絡先画面 図4 設定画面
字や記号と地図で知らせるアプリであるが、現在は
群馬県前橋市でのみ利用可能な状況になっている。
○×モードのチェックボックスを有効にすると、
「安全」か「危険」の選択ではなく、「○」か「×」のど
ちらかを選択する○×モードに切り替わる。○×モ
ードは、平時にイベントに参加するかどうかや、ある
提案に賛成するかどうかなどを回答する際に利用で
きる。○×モードの場合のメールは、管理者用のメ
ールアドレスのみに送信され、GPS機能が有効でも
現在地情報は送信されないようになっている。
図3は送信先画面である。安危情報と現在地の情
報に関するメールを送る相手のメールアドレスを登
録・修正・追加・削除する画面で、管理者のメールア
ドレスを含めて、10件までメールアドレスを登録する
ことができる。管理者のメールアドレスには、学校、
勤務先、自主防災組織など、自分の所属する組織
の危機管理担当者から指定されたメールアドレスを
登録する。「保存」ボタンをタップすることで、書き込
んだ内容を保存する。
図4は設定画面である。メールを送信するアカウ
ントの自分自身のメールアドレスとパスワードと識別
番号を登録する。識別番号には、危機管理担当者
が安否確認を行う際に、キーとして利用するユニー
クな番号で、学校であれば学籍番号、学生番号、生
徒番号、企業や団体であれば社員番号や職員番号
などが指定されることになる。パスワードのチェックボ
ックスを有効にすると、パスワードが表示され、無効
にすると非表示になる。「保存」ボタンをタップすると、
書き込んだ内容が保存される。
アプリの機能拡張などに関連して、多言語化を検
討しているが、現在は日本語と英語に対応している
のみで、今後は、海外からの旅行者やビジネス客や
留学生にも対応できるように、中国語(繁体字と簡体
字)、ハングル、フランス語、ドイツ語、スペイン語、
ポルトガル語、インドネシア語、タイ語、タガログ語な
どにも対応する予定である。
4.
管理者用システムの設計と開発
開発した管理者用システムは、管理者用メールア
ドレスに送信された安危情報メールを取得し、シス
テムに事前登録している登載者リストの識別番号と
安危情報メールの識別番号とのマッチングを行い、
無事な人、危険な人、未送信の人に分けて、それぞ
れのリストのファイルを作成し、登載者リストに記載し
た必須項目の氏名や任意項目の電話番号やメール
アドレスや所属や住所を表形式で閲覧することがで
図5
管理者用システムの画面
図6
例:全体の画面
きるように設計した。なお、管理者用システムを1台
の専用サーバ上に設定すると、サーバがダウンして
しまった場合にシステムが使えなくなるので、可用性
を考えて、フリーメールサービスのGmailのアカウン
トを受信用のメールアドレスとして利用することにし、
複数のPCにシステムをインストールすることで、突然
の災害時でも、複数の管理者が事務所や自宅や出
張先など、さまざまな場所から分散して安否確認が
可能なように設計した。管理者システムの画面は、
図5のようになる。
管理者用システムの画面の「リスト作成/更新」ボタ
ンを押すと、Gmailにアクセスし、全体リスト、無事リ
スト、危険リスト、未送信リスト、アンマッチングリスト
のcsvファイルを作成/更新する。そして、Gmailから
取得したメールの情報から安否の人数を表示する。
リストは自動で更新されないので、適時、手動で「リ
スト作成/更新」ボタンをクリックする必要がある。「メ
ール全削除」ボタンをクリックすることで、管理者用
のメールアドレスに届いているメール全てを削除して、
システムをリセットすることができる。
「全体リスト表示」、「無事リスト表示」、「危険リスト
表示」、「未送信リスト表示」ボタンをクリックすると、
作成したそれぞれのリストにアクセスし、図6のような
リストを表示する。無事リストには、安危情報で安全
として送信してきた人が、危険リストには、安危情報
で危険として送信してきた人が、未送信リストには、
安危情報を送信していない人のリストが表示される。
「アンマッチングリスト表示」ボタンをクリックすると、
作成されたアンマッチングリストにアクセスし、図7の
ようにキーとなる識別番号で登録者リストとマッチン
グできない受信メールの件名のリストを表示する。本
表1
実証実験の経過
図7 アンマッチング
リスト
図8 現在地の地図表示
図9 オートフィルタ機能によるグルーピング
システムでは、アプリが利用できない人が、PCや携
帯電話(ガラケー)からメールの件名に安危と識別
番号を入力して送信しても機能するように設計され
ているが、識別番号を忘れて名前を入れて送信して
きたり、識別番号を誤って送信してきた場合に確認
が可能なようにするための画面である。
ユーザが安危情報メールを、GPS機能を有効に
した状態で送信してきていると、管理者は、安否確
認の全体リスト、安全リスト、危険リストの欄の現在地
のリンクをクリックすることで、そのユーザの現在地を
Google Map上で図8のように見ることができる。
組織規模が大きくなると、所属部局や学部・学科
や学年・学級や地区・班別に構成員をグルーピング
して安否確認をすることが有効になるが、このように
所属別にリストを見たい場合、登録者リストに用意さ
れている予備列に所属を追加して設定すれば、安
否確認の全体、安全、危険、未送信の各リストにつ
いて、図9のようにフィルタで分けて見ることができる。
「○×モード」のリンクを押すと、○×モードの画
面に移動する。「リスト作成/更新」ボタンを押すと、図
10のように画面が表示される。Gmailにアクセスし、
○×モードの全体リスト、マルリスト、バツリスト、未送
信リス トのcsvファイルを作成/更新する 。そして、
Gmailから取得した情報から○×の人数を表示し、
それぞれのリストを表示する。
5.
有効性評価の実証実験とその結果
2月1日に兵庫県立大学大学院応用情報科学研
究科で、開発した安否確認システムと安危情報送信
アプリを使い、実証実験を兼ねた安否確認訓練を
実施した。兵庫県立大学応用情報科学研究科の学
生・教員・職員を合わせて150名が参加した。管理
者用システムは、事務室のノート型PC上に導入した。
図10 ○×モード
安危情報送信アプリは、事前に学内メールと指導
教員からのメールあるいはメール添付の簡易マニュ
アルでダウンロードや設定の方法を連絡し、スマート
フォンへのインストールを行うように依頼した。スマー
トフォンにインストールできない人には、PCや携帯
電話から件名に安危と識別番号を入れて空メール
を送信してもらうように依頼した。実証実験は、2月1
日13時に大規模地震が発生したという想定で開始
した。安否情報の着信状況を集計した結果、表1の
ようになった。
実証実験を行ったのが学期の始めではなく、学
期の途中で行ったために安否確認訓練実施とアプ
リのインストールに関する連絡が行き届きにくかった
ことを考えると、24時間で全体の65%から安危連絡
が届いたことは、一応の成功と判断して、開発した
安否確認システムの有用性を示すことができたと考
えている。
6.
おわりに
本研究で開発した安否確認システムは、利用
者が家族や友人に安危情報を連絡したいという
動機に基づき、安危情報を所属する企業・団体、
学校・園、自主防災組織も含めて一括して簡単
な操作で連絡できるようにとの考えに基づいて
開発されたものであり、一斉メールへの返信の
形式をとることの多い専用の安否確認システム
や自主防災組織の戸別確認と併用することが可
能である。今後は、受信メール数の制限を緩和
するシステムの拡張性の検討や地図上での複数
の構成員の安危確認を可能にするなど、さらな
るシステムの機能向上を図っていきたい。
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