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第2章 MAXI全天X線監視装置の初期成果と将来展望

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第2章 MAXI全天X線監視装置の初期成果と将来展望
平成21年度宇宙環境利用の展望
第2章 MAXI全天X線監視装置の初期成果と将来展望
宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部
ISS科学プロジェクト室
松岡 勝
First Resuts from MAXI- Monitor of All-sky X-ray Image
JAXA- Japan Aerospace Exploration Agency, ISAS
ISS Science Project Science Office
ABSTRACT
Masaru Matsuoka
MAXI, the first astronomical payload attached to ISS JEM-EF, started the
operation on August 3, 2009 for monitoring all sky X-ray images every ISS orbit (~90 min).
paper reports a brieft result obtained in six-month observations and future prospects.
This
All
instruments as well as two main X-ray slit cameras, GSC and SSC, worked well as we expected for
one month test observation.
operational condition.
After we took test data for one month we decided standard
Thus, a safe operation is being operated for GSC so that detectors of
GSC are switched off during high background region.
The detectability of MAXI-GSC was about
30 mCrab, 10 mCrab for one ISS orbit (90 min) and one day observations, respectively. We have
achieved 96 % sky coverage for one ISS orbit in the first test phase, but in standard operation
MAXI scans about 76% and 96 % of all the sky for respective one orbit and one day observations.
MAXI has detected transient X-ray pulsars, black hole candidates, AGNs, X-ray bursts,
gamma-ray bursts and so on in a period of six months observation.
MAXI has an alert system for transient and variable X-ray sources, and also an archival data
publication system such as ATEL and GCN Circular.
At present (mid-February, 2010) we have
issued 25 alerts through international alert telegram system.
Archival data are also public on
the MAXI home page, http://maxi.riken.jp/ , where three bands X-ray light curves are public for
more than one-hundred X-ray sources at present.
1. はじめに
MAXIは「きぼう」船外実験施設に載せる初期搭載装置として 1996年度末に正式に承認された。
当時、搭載装置の提案は理化学研究所が中心になって、大阪大学の協力者とともに行ったもので
ある。500kg級の搭載装置を提案しミッションを達成するには次の諸点を考慮した。
(1) 搭載装置の製作と試験、観測データの取得と解析を推進できるグループの結成。
(2) 宇宙ステーション「きぼう」船外実験施設に無理なく適応する装置。
(3) 期待される成果は、例え実現が遅れても国際的に十分に評価に耐えるもの。
(4) コストパフォーマンスを十分に考えること。
等、比較的堅実で保守的な指針を考えた。これは、当時、国際宇宙ステーションの実現は予定より
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大幅に遅れていたり、経費がかかる責任を考慮し、それでも、何とかして宇宙科学の最先端の成果
をだせるプロジェクトを考えた。MAXI(Monitor of All-sky X-ray Image:全天X線監視装置)は、上
記の条件を満たすもので、採択後12年の準備を経て2009年7月に実現した。
この報告はMAXIの提案から実現までの経緯と、初期運用で得られた成果、そして将来の展望に
ついて報告する。
2.全天X線監視観測プロジェクト提案の経緯
全天 X 線監視観測は長い歴史をもっている。最初に全天の X 線源を系統的に監視観測を
行ったのは、英国が 1974 年に上げたアリエル5衛星に載せた小型の全天 X 線監視装置に
よる。アリエル5の全天 X 線監視装置は、わずか1cm 2 の面積のピンホールの映像を1次
元検知型比例計数管で捉え、衛星のスピンに従ってほぼ全天を観測すると言う簡単な装置
であった。この成果によって X 線新星とか、X 線トランジェントと言う天体用語が X 線天
文学で慣用語となった。こうして、広視野で観測することで、X 線新星、バースト現象、
X 線トランジェントだけでなく、長期にわたる X 線源の変動を研究する分野の重要性が高
まったのである。
こうして、全天 X 線監視観測 (ASM) は、本来の X 線観測装置を載せた X 線天文衛星に
小型のモニター観測装置として観測が続けられてきた。アリエル5衛星の全天監視装置は
比例計数管で X 線スペクトルを観測する主観測装置とともに7年間観測を続け多くの成果
を創出した。1987 年に打上げられた日本の第3号 X 線天文衛星「ぎんが」は X 線スペク
トルが観測可能な ASM を搭載した。この ASM は細長い視野をもつ短冊型コリメータを傾
けた3つの細長い視野をもち衛星の1スピンで 60 度の幅で大円上を走査する。少なくとも
1日1回この走査を行うことによって、1日のタイムスケールで X 線新星を探査した。
「ぎ
んか」ASM はいくつかのブラックホールを伴う X 線連星の増光や減光時期の X 線の変動と
X 線スペクトルを捉えた。更に、10年間活躍することにより、必要に応じ「ぎんが」衛星
の主 X 線観測装置の大面積 X 線検出器で詳しいスペクトルや短時間の変動を捉え、ブラッ
クホールを伴った連星 X 線星の降着円盤の物理に多くの成果を出した。
1995 年に打ち上がった NASA の RXTE(Rossi X-ray Timing Explorer)には1次元の位置検知
型比例計数管の前に1次元コード化マスクをつけて、走査方向の短冊状コリメータと組み
合わせて2次元の位置を決める ASM が搭載された。感度は条件が良くても 10 mCrab 程度
であったが、13 年を超える運用のため銀河系内の多くの X 線源の動向を長期にわたって捉
えることができた。これによって、何 10 日と言う周期や準周期を捉え、長周期連星系の X
線パルサーやブラックホールを伴った連星の降着円盤の長周期変動の物理を発展させた。
上に述べた3つの ASM は主たるX線天文衛星の副観測装置として搭載されたもので、小
型のため、銀河系内の強い X 線源を監視することが主な役目として働き、銀河系外の活動
銀河核の監視は殆どなされてこなかった。ところが、これまでの X 線観測衛星からクエサ
ーやセイファート銀河は長期・短期の変動をしていることはよく知られている。BL Lac 天
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体は激しく爆発的に変動することもわかっている。これまでのX線観測では、数少ない選
ばれた活動銀河核の長時間モニターを視野の狭い主 X 線観測装置でなされた。その変動の
複雑さのため、今後はその真相の解明をするため多くの活動銀河核を系統的に監視するこ
とが望まれてきた。そこで 1990 年代になって、国際宇宙ステーション(ISS)に取り付ける日
本実験棟の曝露部(JEM-EF)の検討が始まり、初期の頃から、全天 X 線監視装置が搭載機器
として相応しいことが提案された。 このアイデアを ISS の開発と共に醸すことで、スリッ
トカメラを基本にした全天イメージの監視装置、 MAXI(Monitor of All-sky Image) 、に到達
したのである。ISS と言うチャレンジングなプロジェクトであるが、いろいろな事情でか
なり保守的なデザインとして MAXI に落ち着いたのである。
3. MAXIの装置概要
米国は 1985 年巨大な宇宙ステーションプロジェクトを米国、ESA、日本、カナダの共同
プロジェクトとして発足させた。日本の実験モジュール(JEM)もその頃からスタートした。
しかし、ソ連の体制崩壊後、ロシアの宇宙技術の協力を取り入れることで 1995 年にロシア
が参加し、規模も少し縮小し国際宇宙ステーション(ISS)として再出発した。このとき既に
基本設計や一部の試作が進んでいた JEM の構想は基本的には変らず進められた。こうして、
今日の JEM の実質的な開発は、この時期からハードウェアの試作や試験が本格的に進めら
れた。JEM は材料や生命科学を微小重力場で実験する与圧部(JEM-PF)と宇宙空間から地球
観測や天体観測をする曝露部(JEM-EF)をもった、宇宙空間で飛行する巨大な実験室であり、
宇宙・地球観測施設を目指した。
宇宙ステーションは片面がいつも地球の中心に向いて飛翔する大型の人工衛星である。
従って反対側は宇宙を向いていて、大円を描いて飛翔する。このため、曝露部の宇宙をみ
る側に観測装置を載せれば ISS の周回毎に大円を描いて宇宙を広く走査させることができ
る。つまり、ISS の周回毎に全天を走査する装置がつくれる。ISS は慣性空間に対し ISS 一
周で1回転する制御をするため、天体観測として必ずしも精度のある安定したプラットフ
ォームではない。一周に 2-3 度の姿勢変動はある。また、宇宙に向いた視野には、ISS の
構造物や太陽パネルが見える方向がある。このため、全天の走査にはこれらの障害物を考
慮する必要がある。さらに、ISS は大型の有人衛星と多くの実験や観測機器と相乗りして
いるため、インターフェースや電力や通信系のリソースの配分は ISS の基準に従う必要が
ある。このため、観測機器にとって、通常の衛星に比べ自由度は制限される。
このような制限を考慮して、ISS で宇宙観測をするのであれば、全天 X 線監視装置が一
つのベストな選択として、MAXI は ISS の JEM-EF に提案された。こうして、最初の JEM-EF
の搭載機器の一つとして 1997 年に採択された。採択された当初は MAXI の打上げは 2003
年とされていたが、ISS の建設の遅れに加え、スペースシャトル・コロンビア号の事故も
あって MAXI の打上げは 2009 年の半ばまで延びた。しかし、提案者としては、ISS の延期
は初めから織り込み済みで、経費を抑えるとともに延期になっても成果が最大限に引き出
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せるものが要求され、現在の MAXI のデザインとなった。
MAXI は2種類の位置検出器をもつスリットカメラで ISS の一周で全天のイメージ観測
をすることを狙ったものである。ISS の構造物の陰の他、太陽や SAA(South Atlantic Anomaly)
の放射線の影響を受けて観測ができない方向もあるが、ISS の周回を重ねるに従って全天
をカバーでき、しかも強い X 線源から弱い X 線源まで観測できるデザインとした。姿勢の
不安定性を克服するため、自前の星姿勢系とジャイロスコープで時々刻々0.1 度の精度で
センサーが観測する方向を決める装置も備えている。ISS の熱設計は ISS から供給される流
体のクーラントが使えるが、CCD を-60℃まで冷却するため電子冷却素子(ペルチェ素子)
を用い、この熱を自動的に放散させるループ・ヒート・パイプと放熱板を備えたシステム
を導入した。図1には MAXI の構成機器の概観を示す。表1には GSC(Gas Slit Camera)と
SSC(Solid-state Slit Camera)と呼ぶ2つの X 線スリットカメラの緒言をまとめた。
表1
MAXI のカメラ GSC と SSC の緒言
図1.MAXI 装置の概要
MAXI は 2009 年の 7 月にスペースシャトル、エンデバーで打上げられ ISS の日本の実験
棟に JEM-EF と一緒に取り付けられた。MAXI と同じ時期に、SEDA(宇宙環境計測)と ICS
(衛星間通信システム)も JEM-EF に取り付けられた。MAXI の観測期間の当初の予定は
2年であるが、後続の装置や ISS の運用期間等の状況が許せば5年またはそれ以上の継続
観測が要求されている。監視観測はリアルタイム性、連続性が強く要求されるが、50~7
0%はリアルタイムでデータを取得している。運用は 24 時間体制で行われ、観測データの
連続性は保証され、ほぼリアルタイムで速報を送出することも原則可能である。
MAXI プロジェクトはそもそも 1997 年理研の宇宙放射線研究室で立ち上げ、今日まで続
く当時の宇宙放射線研究室にいた松岡勝、河合誠之、吉田篤正、三原建弘、根来均、それ
に、軟X線用の CCD を開発していた阪大の常深博、宮田恵美が主要メンバーになって松岡
がチームリーダとしてまとめあげた。こうして、このプロポーザルは ISS の初期利用ミッ
ションとして当時の NASDA と宇宙開発委員会で採択された。1997 年以降、当時の NASDA
と理研が覚書を交わしてスタートした。この覚書は NASDA が搭載装置の製作と運用に責
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任をもち、ミッション機器の開発と試験、及び出てきたデータの科学的な解析と世界への
科学的研究の発信は理研が責任をもつとするものである。このため、今日に至るまで理研
は MAXI に深く関わってきた。データの解析システムの構築と MAXI のデータを世界の関
係研究者へ発信したり、共同研究を推進したりすることは理研の役割である。ただし、MAXI
の共同研究チームは JAXA のメンバーに加え理研、阪大、東工大、青学大、日大、京大に
広がり、スタッフ、ポスドク、院生の共同作業として進んでいる。MAXI 打上後は更に、
宮崎大、中央大等も参加し発展している。速報は JAXA から行うが、その後の系統的なデ
ータを外部の研究者へアーカイブデータとして公開するのは理研から行うことになってい
る。しかし、永久的なアーカイブデータは MAXI 運用終了後をめどに JAXA 宇宙科学研究
本部(ISAS)の C-SODA(Center for Science-satellite Operation and Data Archive) に保存され
る予定である。
4.MAXIの打上げから運用
4.1. 打上げからMAXIに電源がはいるまで
MAXIはスペースシャトル・エンデバーに搭載され 2009年7月16日 07:03(JST)に打ち上げられ
た。エンデバーでは「きぼう」船外実験施設とMAXI・SEDA・ICSがセットされた一時置き場(ELM-ES)
が運ばれた。エンデバーがISSにドッキング後、7月21日から組み立てに入った。MAXIは7月24日に
船外実験施設に取り付けられ、まずはサバイバルヒータの供給を行い待機状態に入った。その後
はMAXIの構体の一部の温度がモニターされ安定な温度領域を示すことを確認した。図2にこのと
きの温度状況のデータを示した。MAXIに電源を投入開始しだしたのは、8月3日からであり、この日
をMAXIの実際の誕生日と呼ぶことができる。この打上げからMAXIの電源投入時期はMAXIが国際
宇宙ステーションの一部として建設されたわけで、この過程はNASAが提供した写真を添付して記
録にとどめておく。
2009.7.24
2009.8.3
℃
図3.エンデバーの打上げ状況:2009年7月
16日。日本時間 07:03
図2.MAXIが国際宇宙ステーションにとりつい
て、ATCSが稼働して安定になるまでのMAXI,
SEDA, ICSの温度状態(甲斐 et al.)。
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図4.MAXIが取り付けられていた船外パレッ
トがエンデバーの格納庫からISSに移設
2009年7月21日 23:33(JST)。
図7.JEM-EF に取り付けられたMAXI(1)。
図8.JEM-EFに取り付けられたMAXI(2)。
図5.MAXI設置作業中の宇宙飛行士。
図9.MAXI取付後ISSか離れたエンデバーか
ら撮影した国際宇宙ステーション。
図6.2009年7月24日 00:24(JST).
MAXI取付完了サバイバルヒータ電源 ON。
図 3~9 NASA 提供
4.2. MAXIの電源投入から試験観測と地上データプロセス
先に述べたように、MAXIの実験機器に電源が入り始めたのは8月3日からである。MAXIにとってこの日
が宇宙空間で命が吹き込まれた誕生日になり、国際宇宙ステーションで本格的に天体観測を開始した記
念日でもある。
MAXIの原理は、複写機が細長い画像センサーを走査して大きな画面も撮るのと同じように、1.5度×160
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度のスリットの画像センサーで天空を一周ぐるりと走査してほぼ全天のイメージを約92分で作り上げる(図
10)。地上の望遠鏡でも建設後初めて天体を観測することをファーストライトを捉えたと言うが、MAXIのファ
ーストライトは国際宇宙ステーションが一周して見せた全天のX線画像(マップ)であった。その中には1962
年にX線天体の発見をもたらしたさそり座X線源(Sco X-1)や銀河中心付近のX線源群がハッキリと写ってい
て、関係者一同感激したものである(図11)。もし、この全天画像に、これまでにないX線天体が現れるとX線
新星やX線爆発天体として見つけることができる。走査したX線像を何周も重ねていくと弱いX線源も見つけ
ることができる。
図 11.マキシが国際宇宙ステーションの 1
周で初めて捉えたX線の全天画像(2009 年 8
月 18 日発表)。太陽付近など観測できない
領域がある。国際宇宙ステーション一周の
観測で銀河中心付近に多くのX線源が見ら
れる。かに星雲からのX線強度は強度の標
準として使われている(JAXA)。
図10.MAXIのガススリットカメラ(GSC)は国際宇
宙ステーションが一周するとほぼ全天を走査する
(JAXA)。
5.MAXIの観測で得られたサイエンス
MAXI はこれまでの全天X線監視装置に比べ1桁ほど感度が上がるものである。このため、1周
の観測で、かに星雲のX線強度の 30~40 分の1ほどまでのX線天体が観測できる。1日ではかに
星雲のほぼ 100 分の1(10 mCrab)、半年もすると、1000 分の 1 の強度(1 mCrab)まで観測可能とな
り、1000 個ほどのX線天体が観測できる予定である。X線強度が強いX線天体のほとんどは我々の
銀河系内にある中性子星やブラックホールが普通の星と連星系をつくっている天体である。クエ
サーと呼ばれる巨大ブラックホールをその中心にもつ銀河系外の天体は、10 mCrab 以下の弱いX
線源である。もし、1mCrab の強度まで観測できればほぼ7~8割が銀河系外のクエサーとなる。
これまでの全天X線監視装置は銀河系内にあるX線新星やX線源の爆発や変動を観測の対象にして
きた。MAXI は検出感度がこれまでより1桁ほど上がるため、銀河系内のX線天体は勿論のこと、
銀河系外のX線天体の変動を広く監視できる初めての全天X線監視装置として登場したわけであ
る。
5.1.
X線の全天画像
MAXI に限らず衛星でX線観測するのに衛星軌道上のバックグラウンド状況と太陽の領域を注
意する必要がある。X線検出器は本質的に放射線検出器のため、X線で感度が高いとは言え、宇宙
線や、地球をとり囲む放射線帯から漏れてくる放射線にも感じる。更に国際宇宙ステーションは
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軌道がロシアの上空を飛ぶため、北と南の軌道を飛ぶときにはオーロラの種になる高エネルギー
電子が入射する。宇宙ステーションの軌道でこれらの領域は放射線バックグラウンドが少ない領
域に比べ、数百倍も強い。この強いバックグラウンドの領域では弱いX線天体はほとんど観測でき
ないことと、あまり強い放射線がX線検出器に当たると故障の原因にもなるため、1カ月の試験観
測後、これらの領域では検出器を休めることにした。更に、太陽は大変に強いX線を放出している
ため、太陽がスリットカメラに入りそうなときもX線検出器の電源を切る運用をしている。
赤
緑
青
赤+緑+青の合成カラー画像
図 12.2009 年 8 月から 10 月に捉えた全天X線画像(2-16 keV)。中心は銀河中心、中心を通る
横軸は天の川。上部の小さい画像は、赤(2-4 keV)、緑(4-8 keV)、青(8-16 keV)の3バンドに分
けた。X線の銀河や銀河に沿って多くのX線源が見られる。よく調べると全天で 200 個を超
える天体が同定された(Nakahira et al.)。
太陽方向の領域は試験観測の初期段階では太陽を含む 50 度以内は検出器を休ませて安全に運転
していたが、徐々にこの領域を狭め、現在、太陽領域は8度だけは観測しないように運用してい
る。強い放射領域を避けた最近の観測では国際宇宙ステーションの1周回で全天の約 76%は走査
することができる。宇宙ステーションの軌道面は歳差運動をしているため、北と南の観測できな
い領域も太陽領域も2週間もすれば観測できる。MAXI で2週間も観測を続ければ全天のX線源が
観測できるわけで、観測できるX線強度は1周で約 30mCrab、1日で 10 mCrab 程度であるが、天
空の状況やバックグラウンドの状況で違ってくる。しかし、MAXI の低い目の感度としてもこれほ
ど早く全天のX線源のマップを提供できるのは、X線天文学の 47 年の歴史で初めて得た快挙であ
る。図 12 は過去2ヶ月余りの全天観測で得た全天X線画像である。図を拡大して調べた目視のプ
ロは 300 個近いX線天体が同定できた。銀河中心から銀河面にあるX線天体は中性子星やブラック
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ホールの連星系の天体であり、巨大ブラックホールを中心にもつクエサーは全天一様に分布して
いる。この他、大小のマゼラン星雲にあるX線天体も捉えた。さらに、銀河中心から天の川に沿
ったX線の天の川も捉え、この起源は今なおホットな話題を提供しているため、MAXI が長時間に
わたって観測を続ければ何らかの寄与ができる。このような大構造は MAXI しか観測できないた
め、今後、2~5年にわたる観測を続けて大きな成果を期待している。
5.2.
X線バーストを捉える
普通の星と中性子星が連星となっている連星系では中性子星表面にガスが降り積もったガスが
爆発的に核融合を起こすものがある。この爆発はふつう 10 秒間とか 100 秒間しか輝かない。幸運
にも、MAXI の運用が始まって2週間もたたないうちに銀河中心にある弱いX線源からX線バース
トが発生するのを捉えた(図 13)。X線バーストについては 1980 年代の初めに日本の第1号X線天
文衛星「はくちょう」がX線バーストを放出する天体を 10 個ほど発見してその謎をかなり解き明
かした。しかし、X線バーストによって中性子星の全表面で起こる壮大で巨大なヘリウム爆弾(原
子爆弾や水素爆弾より大規模な爆発)やそれより規模の大きい爆発現象の詳しい研究は今も謎が
多いため続いている。
図 13. 2009 年 8 月 20 日銀河中心付近に出現したX線バースト(図中に
transient で示した)。これより前の画像(左図)にはこの天体はない。
5.3.ガンマ線バーストを捉える
宇宙にはX線バーストよりも1兆倍にもなるとても大きな爆発現象がある。 ガンマ線バースト
と呼ばれガンマ線を強く出し、10~50 秒程度しか強く輝かない爆発現象である。全天で1日1回
程度遠くの銀河系からやって来ることは解ってきたもののまだ謎の多い爆発現象である。MAXI
が観測できるX線領域で十分に観測できるが、輝く時間が短いため MAXI では年間1~2個しか捉
えられないと考えられていた。ところが、8月末に幸運にも大変大きなガンマ線バーストを捉え
ることができた。図 14 にあるようにある周回の全天X線画像で、かに星雲の 30 倍もの明るい天
体を発見した。このとき、MAXI はまだ試験観測中のため、何か装置の不具合でおかしなことが起
こったのではないかと疑った。しかし、MAXI チームの何人かの人たちが注意深い解析をして、こ
れは幸運にも捉えたガンマ線バーストであることがわかった。そこで早速ガンマ線バーストの速
報を流している国際的なインターネット速報(GCN:Gamma-ray burst Coordinate Network)にガン
マ線バーストの位置と強度の結果を報告した。これは MAXI の国際的なはじめてのデビューであ
った。その後も2つのガンマ線バーストを捉え GCN に報告している。
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図 14. 2009 年 8 月 31 日おおくま座で発
生したガンマ線バースト。全天画像と矢
印の拡大画像を示す。その上のグラフは
ガンマ線バーストの 40 秒ほどの強度曲線
(Negoro et al.)。
図 15. かに星雲の近くに出現した 111 日連
星周期のX線パルサー(A0535+26)の画像
(左図)とX線の光度曲線(Mihara et al.)。
5.4.変動するX線パルサ
ーを捉える
予 測不 可 能な X線天 体
を 監 視 す る の に 、 MAXI
以前は小型の観測装置を
大きな衛星の副観測装置
として進められてきた。
MAXI も 国 際 宇 宙 ス テ ー
ションという超大型の衛
星の約 0.1%を重量で占め
る観測装置だが、実際の
大きさはこれまでの全天
X線監視装置に比べ 20~
30 倍のものになる。この
こともあって感度や監視
できる領域も 10 倍は上が
った。ただ、国際宇宙ス
テーションと言う衛星の
条件の中で設計して
いるため、その1周回と
図 16.A0535+26 の 2009.8.14 から 2010.2.22 までの 3
バンドのエネルギーのX線強度曲線(MAXI HP)。
か1日と言う時間スケー
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平成21年度宇宙環境利用の展望
ルで捉えられる感度を重視した。このため、X線新星や長い連星周期をもつX線パルサー
の監視には適したものである。この予想を期待して、MAXI に電源を入れてみたら、かに
星雲から 4.5 度離れたところに連星周期 111 日をもち、103 秒で中性子星が廻っている
A0535+26 と呼ぶX線パルサーが観測できた。図 15 は 2009 年 8 月に明るくなった光度曲
線である。9 月には暗くなり 12 月には再び明るくなった(図 16 参照)。これは、強い磁
場を持つ中性子星の表面の様子をさぐるためにも、相手の普通の星と中性子星の相互作
用を知るためにも貴重なデーである。一周期の現象は長時間かかるため MAXI ならでは
の貴重なデータを取ることができた。
5.5. 変動するブラックホール天体を捉える
MAXI はX線新星や爆発天体を捉えるだけでなく、銀河系内にある普通のX線天体の変
動を追うことができる。普通のX線天体も激しく変動しているものが多いため、それぞ
れの天体のX線強度曲線を観測で調べることは、中性子星やブラックホールの性質を調
べるためにとても大切なことである。MAXI はこの強度曲線をエネルギー別に長時間調べ
ることができる。図 17 には 2009 年 10 月に NASA の RXTE の衛星が見つけたX線新星 XTE
J1752-223 の 3 バンドのライトカーブを示す。始まりから現在まで見事なデータがとれ
た。
一方、銀河系外には超
巨大なブラックホールを
もつ活動銀河が沢山ある。
一例としてジェットが向
かってくる変動の激しく、
X線だけでなく、電波、ガ
ンマ線も強く放出してい
る Mrk421
のライトカ
ーブと天体像を図 18 に示
した。Mrk421 は最近この
天体として史上最大級の
フレアが観測された。弱
い時には
数 mCrab で
あったが、2 月 16 日には
150 mCrab にもなり、 電
波やガンマ線の追観測が
なされている。
ⓒJAROS
図 17.2009 年 10 月 23 日に発生したX線新星
のライトカーブ。現在(2010 年 2 月 22 日)には
暗くなってきた。3 バンドのライトカーブから、
ブラックホールだと推定される(MAXI HP)。
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平成21年度宇宙環境利用の展望
2010.2.16
図 18.左は上左より 1.5-20
keV, 1.5-4 keV, 4-10 keV,
10-20 keV バ ン ド の
Mrk421 の 天 体 像 ( 中 心 が
Mrk421)。右図は 3 バンドの
X線ライトカーブ。2010 年
2 月 16 日に見つかったX線
フ レ ア は こ の X線 源 に と っ
て史上最大であったので国
際 天 文 電 報 (ATEL) で 世 界
に通報した(MAXI HP)。
5.6. MAXI の速報システムの成果
MAXI はノバアラートシステム、つまり新星や爆発現象が観測された場合、自動的にデ
ータ解析して、新星の位置と強度を世界の天文観測者にインターネットで報せるシステ
ムをもっている(図 19)。6カ月で既に 20 報の速報を国際速報システムに報告している。
MAXI の発見の報告を知った地上の光や電波の天文観測者はできるだけ早く望遠鏡をそ
の方向に向け、爆発が続いている間にその天体を観測し、爆発中に貴重なデータをとる。
もし MAXI が未知の天体を発見した場合は、光や電波で爆発している天体を 同定するこ
とも大きな作業である。MAXI が発見した新天体は「MAXI J 赤径 赤緯」と名付け国際的
に登録します。これまで2天体について MAXI は新しい天体(2つとも 30 秒ほど輝いた
バーストであった)を発見し国際的な通報をした。
6.MAXIで将来期待されるサイエンス
MAXI ミッションは全天 X 線監視観測(ASM)とサーベイの両機能をもったサイエンスを
推進することが可能である。先ず、MAXI の ASM の役割はこれまでの ASM よりも感度
を上げて X 線新星、ガンマ線バースト、トランジェント・パルサー等を実時間でも捉え
られ、速やかな自動解析によって世界の関係者にインターネットで通報することである。
但し、ISS の通信網は実時間が可能であっても MAXI で 24 時間独占できるわけではない。
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これに対し ISS の周回の時間(90 分)や、1 日程度を超える長時間の変動を捉えるのは
MAXI が得意とするモニター観測である。
図 19.MAXI の速報システム(ノバアラート)。観測された全天の画像で新し
い天体が見つかった時は新星として世界に速報メールを送出する。拡大図 は
白鳥座 X-1(Cyg X-1)を含む白鳥座付近の画像(Negoro et al)。
一方、MAXI のサーベイに関するサイエンスは変動天体のカタログつくりである。MAXI
は ISS の1周回ごとのデータを蓄積してゆけば、次第に暗い X 線源が浮かび上がってくる。
条件が整えば、1周回では ~30 mCrab、1日積み重ねると~10 mCrab、1週間では 3~4 m
Crab の X 線源が検出可能となる。これらは、太陽の方向や、SAA で邪魔されない方向に
ある点源では可能であるが、通信や運用条件等でデータの欠損のでる方角があるため、全
天にわたる全 X 線源が1mCrab 以上のレベルで検出できるのは6ヶ月程度の運用時間が
必要であろう。
図 20. SSC のX線 CCD
で捉えたX線 スペクトル。
5.9V で分解能 140eV の
分解能が得られている。
図 21.SSC による全天マップ。GSC と違った軟X線源
がより強調されて見えてきた(Kimura, Tomida et al)。
もう一つ MAXI が特徴的に観測できるのは、全天の軟 X 線マップである。特に、1 keV
以下の軟 X 線は特別に興味あるマップが得られる。このマップには、銀河系内の広がった
超新星残骸の高温度領域からの輝線を含む X 線と地球周辺のコロナからやってくる酸素原
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子などの再結合輝線などが含まれている。
6.1. X 線新星、トランジェント X 線源、バースト等速報を要する天体
X 線新星の大半はブラックホールを伴うX線連星である。MAXI は、これまでの ASM の
感度に比べ1桁ほど高いため、遠くの X 線新星の発見も可能となる。また、X 線新星が強
い間は X 線スペクトルまで観測可能となるため、「ぎんが」衛星の ASM の結果で新しい展
開を見せた標準モデルを超えた降着円盤の不安定性の物理
6,13 )を更に発展させることが期
待されている。更に、MAXI は中性子星や白色矮星を伴った連星系の新星にも X 線データ
を提供できるであろう。
現在、ガンマ線バースト(GRB)の観測は Swift 衛星が専用衛星として活躍している。Swift
の GRB の発見に使う検出器のエネルギーバンドは 15-200 keV のため、X 線領域に偏った
GRB の観測は相対的に少ない。2 keV
の X 線まで感度のあった GRB 観測衛星 HETE-2 の
観測では、X 線領域に偏った GRB(X 線リッチ GRB やX線フラッシュ)の重要性が指摘さ
れた。MAXI は 2 keV まで感度をもつため、X 線領域が強い GRB の観測に期待されている。
MAXI は長楕円軌道の X 線パルサーのトランジェントだけでなく、ソフトX線リピータと
しても謎の多い異常X線パルサー(AXP)の突然の出現を監視することができる。また、古い
中性子星の連星系と考えられるミリセカンドパルサーのバーストと言うまれな現象も捉え、
中性子星表面で起こる炭素の爆発的燃焼まで起こす物理を追及することが出来るであろう。
6.2.X 線源の長期周期または準周期変動
Her X-1 の 35 日周期に代表される長い準周期変動は連星運動と中性子星周りの降着円盤
の相互作用によるもので、周期性が際立って現れるものは連星 X 線源でも少ない。周期性
があっても振幅の小さいものは見つけ難い。MAXI は長時間のモニター観測によって振幅
の小さい周期や準周期性の変動の探査に有望なデータを提供するであろう。最近大質量連
星系の主星による振る舞いで時々繰り返し起こる、X線フレア現象(SFXT: Supergiant Fast
X-ray Transient)が注目されている。Swift や INTEGRAL と共同してこの SFXT を監視するこ
とも MAXI に期待されている。
一般に活動銀河核(AGN)は X 線連星の変動の時間スケールよりも長い変動が期待され
る。AGN の周りの降着円盤の振る舞いを長時間変動で探ることは MAXI の重要な役割の一
つである。もし、AGN の巨大ブラックホールに匹敵するブラックホールが AGN と連星的
に運動している天体が見つかれば、AGN の進化や生成について極めて大きな成果となるだ
ろう。
6.3.X 線天体の多波長観測
GRB のX線の残光の間に観測された光学対応天体の発見の例からわかるように、最近の
天文学では多波長で天体を観測することが重要な結果をもたらす。ブレザー(Blazar)はジェ
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ットを放出して激しく変動をする活動銀河核である。この天体の X 線強度が増加したとき、
電波、光、X 線、超高エネルギー(TeV)ガンマ線などの多波長同時観測によって、シンクロ
トロン・セルフ・コンプトン(SSC)と言うきれいな理論モデルの機構で放射される現象
が明らかにされた。他の AGN についても様々な時間スケールで変動をしているが、長期変
動についてのサンプルが少ないためその放射機構は解明されていない。MAXI は幾つかの
AGN の長期変動の多波長観測を促進することができる。
6.4.無バイアスの X 線源のカタログ
MAXI の X 線カメラの位置決定の視野は 1.5×1.5 平方度である。太陽方向や SAA で観測
が困難な領域もあるが、現実的なシミュレーションによると、ISS の1周回で~30 mCrab、
1日の観測で ~10 mCrab、1週間で 3~4 mCrab の X 線源を捉えられる。長時間の X
線源強度の蓄積によって観測も全天の観測も一様になってゆく。ISS の軌道面の歳差運動
の約 70 日を考慮すると、6ヶ月でほぼ 1 mCrab の X 線源が全天に亘って得られるものと
期待している。もし、6ヶ月毎に 1 mCrab 以上の X 線源の無バイアスのカタログができ
れば世界初めてのもので、このカタログを元に多くの長期変動の系統的な研究が展開でき
ると期待されている。
さらに、2年の観測データを集積すると 1.5 度のソースコンフージョン・リミットの 0.2
mCrab まで得られる見通しである。最終的には 2-20 keV のエネルギーバンドで 1000 個
程の無バイアスの X 線源のカタログが得られるものと期待される。これは今日に至るまで
使われている HEAO-1 A2 のサンプルに比べ、30 倍の AGN のサンプルが得られることに
なる。MAXI は 1.5-30 keV(SSC が可能の領域は 0.5~10 keV が追加)のスペクトル情報も得
られるため、吸収の情報も得られ Type I と Type II の AGN を区別でき、AGN の進化に関
わる研究を発展させることができるだろう。
6.5.拡散した X 線バックグラウンド
全天に一様に拡散した X 線バックグラウンドの起原は、今日では活動銀河核の寄せ集め
によると考えられている。これは色々な吸収をした AGN をその進化の分布を仮定して寄せ
集めれば CXB が説明できるとした理論を発端に、今日では Type I と Type II の AGN の
進化を取り入れて説明できるとされている。しかし、 Type I と Type II の AGN の進化は
十分には解っていない。これは、MAXI が長時間(5年以上)の観測を達成し、緻密な解
析による成果で期待される研究テーマである。
1 keV
以下の軟X線の拡散した X 線バックグラウンドについては、これまで長年にわ
たって行われてきた。これまでの観測はエネルギー分解能があまりよくなかったが、MAXI
は OVII や OVIII , Ne, Fe L-line などの輝線の観測が CCD のスリットカメラで可能である。
元素の進化も含め超新星残骸の進化の研究を発展させることができる。ところが最近、軟
X 線に関して「すざく」衛星は、太陽風で運ばれた高電離の酸素や炭素の元素が地球コロ
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ナに進入して起こる再結合で輝線が放射されることを見つけた。MAXI は長時間の観測で
地球コロナの季節や太陽活動との関係を調べることが可能であろう。
7.MAXIの国内外の共同研究
MAXIは宇宙物理学という国際的に共通な要素が多いため、国際共同研究を進めつつある。これ
まで国際的に共同研究を検討しているものは次のようなものがある。
(1) NASAのSwift ガンマ線バースト衛星との共同観測。MAXIはエネルギーバンドの違う検出器を
持つため、MAXIが見つけたバーストをSwiftの小型のX線望遠鏡で追観測をする。既に共同
研究実施中でこれまで1回行った。
(2) 日本の「すざく」衛星による追観測。MAXIが興味ある天体や現象を見つけた場合、出来るだ
け早く「すざく」で詳しい観測をしてもらう。既に2例実施した。
(3) NASAのFermi衛星はガンマ線領域の全天モニターを行っている。MAXIのX線バンドとFermi
衛星のガンマ線バンドで興味ある天体を共同に研究する。
(4) イタリヤのAGILE衛星で高エネルギーガンマ線の線源がみつかった場合、MAXIでその方向
を調べ強度をだす。既に共同研究実施中。
(5) ドイツの超高エネルギーガンマ線観測装置 HESS(地上)との共同研究。HESSで見つかった
超高エネルギーガンマ線天体の方向をMAXIのデータを調べて強度をだす。進行中。
(6) 英国のグループと地上の電波望遠鏡と、決められた興味ある天体を同時観測する。既に1天
体の同時観測を実施。
(7) MAXIチームには3か所(東工大、青学大、宮崎大)に小型の光学望遠鏡をもっている。
MAXIで見つけた新天体の追観測を速やかに行うことができる。
(8) ハワイの全天観測型の光学望遠鏡 Pan-STARRS との共同観測。MAXIで見つけた新星など
を光学望遠鏡で観測するか、全天観測データを調べる。
(9) MAXIが見つけた新天体の光学、電波の追観測は国内外のいくつかの天文台に通報して追
観測や詳細観測を依頼する。これにはハワイの「すばる」望遠鏡も含まれている。
8.さいごに
MAXIはISSとしては初めての天体観測装置として運用が軌道にのりつつある。モニター観測のた
め世界の多くの天文学者から期待されている。既にMAXIの公開ホームページ
(http://maxi.riken.jp/)にも連日1000を超えるアクセスがある。今後、装置の不具合がない限り、
当初のミッションライフの2年を超えて5年以上、できたらISSの運用期間にわたって運用されることを
期待している。
ISSは多目的衛星のため、単独衛星とは違って、運用の制限、姿勢の変動があるが通信系など
の不調時には宇宙飛行士の支援や代替えの処置ができるメリットもある。ISSは今後も運用されるが、
ISSから得られる成果が問われることになる。MAXIは、質量はISS全体の約1000分の1に過ぎないが、
宇宙物理学の成果を担当し今後国際的に速報や論文を発表していくことを目指している。最後の
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写真は 2010年2月20日にJAXAの東京事務所に MAXIサイエンスチームが集まり、今後の学術的
論文について話し合った。うまくいけば夏頃までに20編ほどの論文の草稿がだせる課題を決めた。
この中には4名の博士論文を目指す大学院生も入っている。
最後に、MAXIの現在の共同研究者(院生の出入りは不正確)を最後に記して謝意を表します。
JAXA: 松岡勝、川崎一義、上野史郎、冨田洋、鈴木素子、足立康樹、石川真木、坂本康治、
片山晴善、海老沢研、高橋大樹、小林陽子、理研:三原建弘、小浜光洋、杉崎睦、中川友進、山
本堂之、 五月女哲哉、阪大:常深博、木村公、東工大:河合誠之、森井幹雄、杉森航介、青学
大:吉田篤正、山岡和貴、小谷太郎、中平聡志、高橋一郎、日大:根来均、中島基樹、三好翔、
小澤洋志、石渡良二、諏訪文俊、京大:上田佳宏、磯部直樹、江口智士、廣井和雄、宮崎大:山
内誠、大休寺新、中央大:坪井陽子、鵜沢明子、山崎恭平、松村和典
写真1. 2010年2月20日、JAXAの東京事務所で MAXIのサイエンスチームの会議をおこなっ
たときの集合写真。
参考文献:速報と発表論文
・MAXIの公開ホームページ: http://maxi.riken.jp/
・ATEL: http://www.astronomerstelegram.org/
・GCN Circular: http://gcn.gsfc.nasa.gov/gcn3_archive.html
・M.Matsuoka et al.; 2009, PASJ 61, 999
・S.Ueno et al.; 2009, Energetic Cosmos (Suzaku), Ptaru, Japan, 2009.6.29-7.2
・M.Kimura et al.; 2009, Energetic Cosmos (Suzaku), Otaru, Japan, 2009.6.29-7.2
・S.Eguchi et al.; 2009, Energetic Cosmos (Suzaku), Otaru, Japan, 2009.6.29-7.2
・M.Matsuoka et al; X-ray Astronomy 2009, Bologna, Italy, 2009.9.7-11
・H.Negoro et al.; ADASS, 2009, Sapporo, Japan, 2009.10.5-8
・S.Ueno et al.; INTEGRAL 7 th WS, Otranto, Italy, 2009.10.13-17
・ATEL;#2259, #2271, #2277, #2297, #2321, #2341, #2360, #2363, #2364, #2368, #2369,
#2378, #2380, #2396, #2399, #2401, #2404, #2415, #2425, #2427, #2444 (21報)
・GCN; 9852, 9864, 9943, 10188, 10229, 10359 (6報)
・M.Matsuoka; 2010, OplusE(Optics+Electronics) 32, 1
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