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(経歴詐称を理由とする解雇)事件(東京地裁 平27.6.2判決)PDF

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(経歴詐称を理由とする解雇)事件(東京地裁 平27.6.2判決)PDF
第85回 KPIソリューションズ(経
歴詐称を理由とする解雇)事件
KPIソリューションズ(経歴詐称を理由とする解雇)事件(東京地
裁 平27.6.2判決)
雇用契約の締結に先立って提出された履歴書および職務経歴書や面接で
の言動において、労働者による経歴等の詐称があったとして、解雇が有
効とされ、また、採用時の面接において労働者が賃金増額を求めた際の
言動が不法行為(詐欺)を構成するものとして損害賠償請求が認められ
た事例
※本判決文を「労働法ナビ」でご覧いただけます ⇒こちらをクリック
掲載誌:労経速2257号3ページ
※裁判例および掲載誌に関する略称については、こちらをご覧ください
1 事案の概要
本訴原告・反訴被告(以下「X」)は、WEBマーケティングのサービス
を提供する会社である本訴被告・反訴原告(以下「Y」)に雇用され、平
成25年12月から稼働していたところ、Yは、経歴能力の詐称等を理由とし
て平成26年4月25日限りでXを普通解雇とした(以下「本件解雇」)。X
は、本件解雇は解雇権の濫用として無効であると主張して、雇用契約上の
地位確認を求めるとともに、Yに対して賃金等の支払いを請求した(本訴
事件)。一方、Yは、Xは職歴、システムエンジニアとしての能力および日
本語の能力を詐称してYを誤解させて雇用契約を締結させたものであり、
これは詐欺に当たると主張して、Xに対して、不法行為による損害賠償と
して約350万円および遅延損害金の支払いを請求した(反訴事件)。
[1]本判決で認定された事実
概要は以下のとおり。
年月日
H24.8.21
事 実
Xが、前勤務先である株式会社Aに入社。
H25.3.31
株式会社Aが、会社の業績不振とXの能力が期待値(本人の申告)
より低かったことを理由として、Xを普通解雇。
H25.11.6
Xがハローワークで紹介されたYの求人に対して応募。XがYに対し
てメールで提出した履歴書および職務経歴書には、以下のような記
載があった。
・平成24年8月に株式会社Aに入社して現在在職中である旨
・日本語が「ビジネスレベル」である旨
・「PCスキル/キャリア」については、「ソフトウェア開発技術
者/システムアナリスト 画像処理に関する提案からシステム設
計、開発、実装プロジェクトマネージャー、テクニカルエンジニ
ア(システム設計)、テクニカルエンジニア(ネットワーク)、
テクニカルエンジニア(データベース)、テクニカルエンジニア
(情報セキュリティー)、テクニカルエンジニア(エンベデッド
システム)、上級システムアドミニストレータ、基本情報技術
者、システム監査技術者、アプリケーションエンジニア」である
旨
・「アパッチ、MySQL」「LAMP(Linux、Apache、MySQL、
Perl/CGI)に基づいて画像検索システム/アプリケーションの
提案からシステム設計、開発・実装」等が得意分野である旨
H25.11.11 Yが、Xに対する面接を実施。
Xは、すぐに在職中の会社を辞めてYに入社できる旨を述べるとと
もに、自分がシステムエンジニア・プログラマーとしての全般的能
力やLAMPによるシステム開発能力を有する旨を述べるなど、アピ
ールを繰り返し、給与額をYが提示した月額40万円から上げるよう
に求めた。日本語能力に関して、履歴書等は自分1人で作成したも
のであり、データ解析業務は得意である、履歴書記載のとおり、日
本の会社や大学で仕事をしてきたなどと説明した。
Yは、Xが履歴書どおりの人物であれば相当の戦力になる等と考
え、Xに対して月額60万円の給与を支払うことを決めた。
H25.12.1
XとYが、雇用契約を締結。
Xが従事する業務内容は「システムエンジニアリング業務および付
帯する管理業務」とされ、試用期間は3カ月とされた。
Xが入社後にYに提出した離職票には、履歴書の「株式会社A」とは
異なる会社名が記載され、離職年月日および退職理由も履歴書の記
載と整合しないものであったため、Y代表者は職歴について問いた
だそうとしたが、Xに他の話題ではぐらかされた。
H26.3~4
Xに任せた画像解析および日本語コンテキスト解析システムの開発
業務が進まないため、Yは派遣会社から派遣を受けた開発者にこれ
を委任し、約240万円の派遣料を支払った。
H26.3.24
Xが、Y代表者の指示に従って画像解析の抽出システムに関する設
計書を作成した旨を報告したが、これは既に外部で発表されていた
論文を盗用したものであった。
H26.3.25
Yが、Xに対し、解雇予告。
H26.3.26
~
Xが無断欠勤。
4.13
H26.4.11
Yが、平成26年4月14日から22日まで、Xを出勤停止処分とした。
H26.4.21
Yが、平成26年4月23日から25日まで、Xを出勤停止処分とした。
H26.4.25
Yが、Xを解雇。
[2]主な争点
本訴事件では、①本件解雇の有効性、および②平成26年3月26日から同
年4月15日までの期間(解雇予告後にXが無断欠勤した期間と出勤停止処
分とされた期間)の賃金請求権の存否が争点となり、反訴事件では、③X
による不法行為(詐欺)の成否およびYの損害が争点となった。以下で
は、①および③について紹介する。
2 判断
[1]争点①:本件解雇の有効性について
本判決は、以下のとおり、本件では、就業規則所定の解雇事由が認めら
れ、本件解雇について客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上も相当
であると判断した。
「Xは、Yとの雇用関係において重要な職歴、職業上の能力及び日本語の
能力を詐称してYに本件雇用契約を締結させ、その結果、Yは、Xに業務を
任せることができず、業務を他の従業員に委ねたり、別の開発者の派遣を
受けたりして対応せざるを得なくなったものであり、このほかに、Xが外
部研究資料の無断転用(論文の盗用)を行って報告書を作成、提出すると
いう重大問題を起こしていること、このことも含めて、様々な事柄につい
て指摘、指導等を受けても容易に問題点が改まらず、かえって逆ギレや開
き直りの態度すら見せていたことなど、一連の事実経過を踏まえると、X
については、少なくとも就業規則19条1号(業務能力が著しく劣ると判断
される、または業務成績が著しく不良のとき)及び同条3号(社員の就業
状況が著しく不良で就業に適さないと認めたとき)所定の解雇事由が認め
られる。そして、かかるXの言動は、Yとの間の信頼関係を破壊するに足る
悪質なものといわざるを得ない」
「以上によれば、本件解雇は、客観的かつ合理的な理由があり、社会通
念上も相当というべきである」
[2]争点③:Xによる不法行為(詐欺)の成否およびYの損害について
本判決は、以下のとおり、面接時に賃金増額を求めたXの言動は、詐欺
という違法な権利侵害として不法行為を構成する旨を判断した。
「労働者が、その労働力の評価に直接関わる事項や企業秩序の維持に関
係する事項について必要かつ合理的な範囲で申告を求められ、あるいは確
認をされたのに対し、事実と異なる申告をして採用された場合には、使用
者は、当該労働者を懲戒したり解雇したりすることがあり得るし、労働者
が指揮命令等に従わない場合にも同様であるにしても、こういった労働者
の言動が直ちに不法行為を構成し、当該労働者に支払われた賃金が全て不
法行為と相当因果関係のある損害になるものと解するのは相当ではない」
「労働者が、前記のように申告を求められ、あるいは確認をされたのに
対し、事実と異なる申告をするにとどまらず、より積極的に当該申告を前
提に賃金の上乗せを求めたり何らかの支出を働きかけるなどした場合に、
これが詐欺という違法な権利侵害として不法行為を構成するに至り、上乗
せした賃金等が不法行為と相当因果関係のある損害になるものと解するの
が相当である」
「Xは、本件面接時に自己の職歴、職業上の能力及び日本語の能力を詐
称し、この詐称に係る職歴等を前提として、Yから提示を受けた賃金月額
40万円を増額するように繰り返し求め、Yに月額60万円まで賃金を増額さ
せたものであるから、この賃金増額に係るXの言動は詐欺という違法な権
利侵害として不法行為を構成し、増額分の賃金月額20万円、すなわち賃金
の3分の1相当額が不法行為と相当因果関係のある損害になるものと解する
のが相当である。一方、Yが派遣会社から開発者の派遣を受け、派遣料を
支払ったことについては、Xがそのように働きかけたわけではないので、
ここで派遣料を不法行為と相当因果関係のある損害として認めることはで
きない。
そして、XがYから解雇されるまでに支払を受けた賃金のうち、前記総額
分は…224万5800円の3分の1に当たる74万8600円である。
したがって、本件において詐欺が成立し、これと相当因果関係のある損
害として認められるのは、74万8600円である。」
3 実務上のポイント
[1]経歴等の詐称を理由とする解雇の有効性
雇用契約の締結に先立ち、使用者が労働力の評価に直接関わる事項等に
ついて必要かつ合理的な範囲で申告を求めた場合、労働者は、自己の経歴
等について虚偽の事実を述べたり、真実を秘匿してその判断を誤らせたり
することがないように留意すべき信義則上の義務を負っている。労働者に
よる経歴等の詐称があった場合に、これを理由とする解雇が認められるか
否かについては、使用者がどのような経歴等を採用に当たり重視したの
か、詐称された経歴等の内容、詐称の程度およびその詐称による企業秩序
への危険の程度等が総合的に判断される。
本件では、Xによる詐称が認められた、前職における在職期間、システ
ムエンジニア・プログラマーとしての能力、日本語の読み書きの能力は、
Yが労働者の能力等を判断する際の重要な事項であり、雇用関係において
重大な意味を有していた旨を判断しており、具体的にどのような点におい
て詐称があった場合に解雇事由の存在およびその相当性が認められるかに
関する事例判断として参考になる。
[2]経歴等の詐称があった場合の詐欺の成否および損害
本判決は、労働者による経歴等の詐称があった事例において詐欺による
不法行為を認定し、損害賠償請求を認めたという点において特徴的であ
る。
本判決は、労働者による事実と異なる申告を理由として懲戒処分や解雇
が認められる場合であっても、このような労働者の言動が直ちに不法行為
を構成し、当該労働者に支払われた賃金が全て不法行為と相当因果関係の
ある損害になるわけではないとした上で、「事実と異なる申告をするにと
どまらず、より積極的に当該申告を前提に賃金の上乗せを求めたり何らか
の支出を働きかけるなどした場合」に不法行為が成立し、「上乗せした賃
金等」が不法行為と相当因果関係のある損害となる旨を判示した。採用面
接時にXが自己の能力を積極的にアピールして賃金増額を求めたという本
件固有の事実関係を前提とした判断である。もっとも、Xの経歴等による
説明を信じてYがXを採用したこと自体も錯誤に基づく処分行為と解するこ
とができるように思われることからすれば、本判決の判断は詐欺による不
法行為が成立する範囲をやや狭く捉えすぎており、Yが賃金増額に応じた
ことによる損害のみならず、YがXを採用したことにより生じた損害につい
ても、少なくともその一部は認容する余地があったようにも思われる。
実務上は、労働者の採用に当たり、会社として重視している能力・資格
や労働者に期待している特別な役割がある場合には、採用後に経歴等の詐
称が発覚した場合のリスクに備え、面接等において当該要求や期待を明確
にし、これに応えられる旨の労働者からの説明内容を十分に確認・検証す
るとともに、履歴書等に加え、面接時の社内記録や採用候補者とのメール
のやり取り等、何らかの形で労働者の説明内容を記録に残しておくことが
望ましい。
【著者紹介】
大野志保 おおの しほ 森・濱田松本法律事務所 弁護士
2005年東京大学法学部卒業。2006年弁護士登録、2012年ニューヨー
ク州弁護士登録。2013~2014年東京大学法学部非常勤講師(民
法)。
◆森・濱田松本法律事務所 http://www.mhmjapan.com/
■裁判例と掲載誌
①本文中で引用した裁判例の表記方法は、次のとおり
事件名(1)係属裁判所(2)法廷もしくは支部名(3)判決・決定言渡日(4)判
決・決定の別(5)掲載誌名および通巻番号(6)
(例)小倉電話局事件(1)最高裁(2)三小(3)昭43.3.12(4)判決(5)民集22
巻3号(6)
②裁判所名は、次のとおり略称した
最高裁 → 最高裁判所(後ろに続く「一小」「二小」「三小」および
「大」とは、それぞれ第一・第二・第三の各小法廷、および大法廷に
おける言い渡しであることを示す)
高裁 → 高等裁判所
地裁 → 地方裁判所(支部については、「○○地裁△△支部」のよう
に続けて記載)
③掲載誌の略称は次のとおり(五十音順)
刑集:『最高裁判所刑事判例集』(最高裁判所)
判時:『判例時報』(判例時報社)
判タ:『判例タイムズ』(判例タイムズ社)
民集:『最高裁判所民事判例集』(最高裁判所)
労経速:『労働経済判例速報』(経団連)
労旬:『労働法律旬報』(労働旬報社)
労判:『労働判例』(産労総合研究所)
労民集:『労働関係民事裁判例集』(最高裁判所)
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イントをわかりやすく解説
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