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普及著しい IPマルチキャストの正しい活用法
IP Multi 普及著しい IPマルチキャストの正しい活用法 ーー ブライアン・マクラーリンによる報告 市場に現れた途端に急激に広まる技術がある。た IPマルチキャストならば、CDやビデオをコピーして送 とえば、携帯電話、Eメール、そしてインターネットの技 らなくても、もっと直接的かつパワフルな形で社員に伝 術がそれである。しかし、市場が発展するにつれて、 えることができ、それでもなお企業は通信費や出張旅 あるいは技術面の障害が克服されるにつれて、ゆっく 費を削減し、生産性を大幅に向上させることができる りと徐々に採用される技術もある。IPマルチキャスト のである。IPマルチキャストの他の用途例としては、 の技術がそれである。 データウェアハウジング、異なるサーバ上でのコンテン IPマルチキャストは1997年以来、大規模な金融取引 18 ツの同期化、数千ヵ所の小売店へのカタログ情報配布、 ネットワーク上で使われてきた。証券取引所が市況デ そして大規模なコンテンツ・ストレージなどを含めた企 ータを多くの会員に同時に送るため、迅速かつ効率の 業ネットワークでの利用が挙げられる。 良い手段を必要としていたからである。そして、この 企業ネットワークにおけるIPマルチキャストの利用が IPマルチキャストの大きなメリットが実証されるにつ 増 加した た め 、レイヤ3の VPN( Virtual Private れ、ここ2∼3年は他の企業およびサービスプロバイダ Network)サービスを提供しているサービスプロバイ のネットワーク上でも幅広く使われるようになってきた。 ダに対して、顧客企業からIPマルチキャスト対応の IPマルチキャストは企業のコストを大幅に削減し、生 VPNを提供するよう大きなプレッシャーがかかるように 産性を向上させる。数百人あるいは数千人の社員を なった。他方、ブロードバンドを家庭やビジネスに提 対象にしたEラーニングであれ、ビデオ通信であれ、 供する新しいネットワークのパラダイムを採用するサー CISCO SYSTEMS : PACKET 2003 年│春号 IOSの機能が 企業やブロードバンド サービスプロバイダの ネットワークで 戦略的役割を果たす casting GAINS WIDE ACCEPTANCE ビスプロバイダの側では、デジタルTVやオーディオ、 Independent Multicast)およびその他の補助的なマル テレビ会議、およびネットゲームを配信するのに、IPマ チキャストプロトコルに対応したシスコのルータにより ルチキャストが極めて重要なコンポーネントであること ネットワーク内のパスが分岐するポイントで複製され に気がつき始めていた。 る。このプロセスにより、データは複数の受信者に最 そこで注目されるのが、Cisco IOS Softwareである。 も効率良く配信される。 IPマルチキャストはCisco IOS Softwareの機能の一部 マルチキャストはグループのコンセプトを基礎として となっており、シスコのネットワークを使っている企業 いる。このマルチキャストグループは、特定のデータス やサービスプロバイダはこのIPマルチキャストの機能 トリームの受信に興味を示した受信者の任意のグルー を利用することができる。また近い将来、オーディオや プのことを指している。 ビデオが通信の主要な要素となるに従い、IPマルチキ マルチキャストグループには、物理的あるいは地理 ャストはすべてのシスコのCisco IPネットワーク上で非 的な境界はない。ホストはインターネット上、またはど 常に重要なコンポーネントになることだろう。要するに、 の私設のインターネットワーク上のどこに置いてあって ユニキャストのみに基づくネットワークを拡張させるこ もよい。特定のグループに流れるデータを受信したい とはできないのである。 ホストは、IGMP(Internet Group Management Protocol) を使ってグループに参加する必要がある。ま IPマルチキャストとは何か? IPマルチキャストとは、潜在的には数千人の加入者 た、データストリームを受信するためには、ホストがグ ループのメンバーとなっていなければならない。 がいても、情報を単一のストリームで同時に配信する 図2は、1つのソースから多くの受信者に極めて効 ことによりトラフィックを減らし、帯域を抑制する技術で 率的なデータ配信をするために、IPマルチキャストが ある。マルチキャストのパケットは、PIM(Protocol どのように使われているかを示している。受信者(指 PACKET 2003 年│春号 : CISCO SYSTEMS 19 ーション全体で電気通信サービスの総合的なパッケー マルチキャストのマジック 例:オーディオストリーミング 全部のクライアントが同じ8Kbpsのオーディオを聞いている トラフィック Mbps 図1:ユニキャストの 伝送では、オーディオ ストリームを聞くク ライアントの数が増 えるにつれ、ネットワ ーク上での帯域消費 量が急上昇してしま う。しかし、マルチキ ャストの伝送では、ク ライアントが1人でも 100人でも、オーデ ィオストリームにア クセスした時にネッ トワークに与える影 響が極めて少ない ジを提供した最初のイタリア企業でもある。ETTxと は、顧客と中央局/ヘッドエンドの間のラストマイル/ ファーストマイルにイーサネットを使う新しい技術であ 0.8 0.6 り、マルチキャストを必要とする広帯域のアプリケー 0.4 ションには不可欠な技術である。そして同社は、ボロ 0.2 ーニャ、ジェノヴァ、トリノ、ミラノ、ナポリ、およびロー 0 1 20 40 60 80 100 クライアントの数 ユニキャスト マルチキャスト マで業務用および家庭用にETTxを使った10/100/ 1000Mbpsのインターネット接続を提供している。 同社はこのインフラ上で、キャリアクラスの品質の H.323パケットテレフォニー、テレビ放送、家庭用のビ デオ・オン・デマンド、および業務用のテレビ会議やビ 定されたマルチキャストグループ)は、そのソースから デオストリーミングサービスなど、1つのソースから必 のビデオデータストリームを受信しようとしている。彼 要なすべてのサービスを顧客に提供している。同社は らはネットワーク内のルータにIGMPホストレポートを 一般のインターネット・サーフィン、VoIP(Voice over 送り、その意図を伝える。それを受けたルータは、ソ IP)、およびビデオ・オン・デマンドにはユニキャストを ースから受信者へのデータ配信を請け負う。ルータは 使っているが、テレビ放映など1対多の伝送にはマル PIMを使い、動的にマルチキャスト・ディストリビュー チキャストを使用している。たとえば、同社はIPマル ションツリーを生成する。ビデオデータストリームは、 チキャストによりネットワークに過剰な負荷をかけるこ ソースと受信者の間のパス上のネットワークセグメント となく、3万人の加入者に対してTVチャネルを選択的 だけに配信される。 に提供している。サービスプロバイダがユニキャスト に依存している場合、ネットワークは3万のユニキャス マルチキャストにより新しい道を切り開くために 20 トストリームに対処しなければならないが、これは非 IPマルチキャストは、イタリアのFastWeb、香港の 現実的である。ところが、マルチキャストはわずかな Hong Kong Broadband Network Ltd.(HKBN) 、お 帯域を使用して、加入者に高品質なビデオを配信する よびスウェーデンのBredbandsbolaget( B2)を含む、 ことができるのである。 一群の革新的なサービスプロバイダにとって主要な要 2002年6月、同社は予定より早く、商用サービスを開 素になりつつある。また、彼らの多くが財政的にもめ 始してから2年余りで四半期ベースのEBITDA(利息、 ざましい結果を達成することができた重要な要因とも 税金、減価償却、および償還前の収益)のブレークイー なっている。典型的なケースとしては、サービスプロ ブンを達成したと発表した。この報告により、同社は バイダはシスコのメトロイーサネット・スイッチングまた 欧州地域において短期間でEBITDA損益分岐点に到 はSRP(Spatial Reuse Protocol)パケットリング技術を 達した唯一の新規参入の電気通信事業者となった。 使 い 、加 入 者 に 1 0 M b p s 、1 0 0 M b p s 、あ るい は 広範なブロードバンド能力の一部としてIPマルチキ 1000Mbpsものコネクションを提供する真のブロードバ ャストを使っているもう1社のサービスプロバイダとし ンドネットワークを提供している。 ては、香港のCity Telecom Groupの子会社Hong 革新的なインターネットおよび電気通信企業に対し Kong Broadband Network Ltd.(HKBN)の例が挙げ て投資を行っているミラノのe.Biscom S.p.A.社のブロ られる。同社は、香港の公営住宅用建物と私有の居 ードバンド通信部門であるFastWebは、イタリア最大 住用ビルの大部分を結ぶ世界最大のメトロイーサネッ のブロードバンド通信企業である。同社は、光ファイ ト・ブロードバンドネットワークを構築した。そして、こ バーによるCisco ETTx(Ethernet to the X)ソリュ のネットワーク上では、Cisco IP Multicast経由でブロ CISCO SYSTEMS : PACKET 2003 年│春号 多くの受信者に対するマルチキャスト伝送 マルチキャスト グループ 受信者 A 受信者 B 受信者 C ソース 受信者 D ードバンドインターネットアクセス、ローカルテレフォニ るためにディストリビューションツリーを構築する。 ーおよび計画的なデジタルテレビサービスを含む一連 PIM-SMは、最初はランデブーポイント (RP) と呼ばれ の総合的なIPベースのサービスが提供される予定で るルータをベースに、ネットワーキングデバイスの共有 ある。最先端のQoS(Quality of Service)、帯域制限、 ツリーを構築する。新しいソースデバイスがアクティブ マルチキャスト管理などのCisco IOS Softwareインテ になった時、トラフィックはそこからRPへ、そして共有 リジェントネットワークサービスも、同社にとっては ツリーを流れ、受信者が直接接続されているルータは Cisco IP Multicastの重要な部分である。これらの要 その新しいソースについて知ることができる。共有ツ 素は、ブロードバンドインターネット接続に加えて、高 リーは、ネットワーク内のルータが保持しなければな 品質な音声やビデオに対する顧客の需要に応えるた らないステート情報のマルチキャスト転送の全体量を めの重要な基盤となっている。 削減する。PIM-SMは市場に普及し、現在では最も幅 図2:ネットワークセ グメント上のルータ は、IGMP経由で特定 のクライアントがマ ルチキャストグルー プに加わりたいとい う通知を受け取った 時、マルチキャスト・ ディストリビューショ ンツリーを作成する。 このダイナミックツ リー に より、マ ル チ キャストトラフィック が適切なネットワー クセグメントだけに 配信されることが保 証される 広く使われているマルチキャストプロトコルとなった。 マルチキャストプロトコルの進歩 現在シスコは、その他にPIM-SMよりさらに大きなス 1990年代に中心的に使われていたマルチキャストの ケーラビリティを実現する2つのルーティングプロトコ プロトコルは、ネットワーク上の全ルータにマルチキャ ル を サ ポ ートして い る 。 SSM( Source Specific ストトラフィックを送るDenseモードのプロトコルであっ Multicast) とBi-dir PIM(bi-directional PIM)がそれで た。このDenseモードのプロトコルではトラフィックが ある。SSMは、ソース情報を知るための共通の集合場 全ルータに送られるため、ルータが保持しなければな 所(すなわち、ランデブーポイント) を必要としないこと らないステート情報を転送するマルチキャストの量が を除けば、Sparseモードに似ている。その機能はネッ 増加し、スケーラビリティを制限していた。 トワークの外側で処理される。Bi-dir PIMは、双方向 その当時、シスコはマルチキャストトラフィックを受信 のディストリビューションツリーにデータが流れること が必要なルータに限定することにより、はるかに大きな ができるようにし、株式取引のような多対多のアプリケ スケーラビリティを実現するPIM-SM(PIM Sparse ーションのために設計されている。 Mode)を提案した初期の段階にあった。Cisco IOS SoftwareでサポートしているPIM-SM Version 2 IPマルチキャストの時は「今」 IETF(Internet Engineering Task Force)スタンダー 企業にとってIPマルチキャストは社内通信、Eラーニ ド(RFC 2362)は、マルチキャストトラフィックを転送す ング、およびデータウェアハウジングなどを可能にし、 PACKET 2003 年│春号 : CISCO SYSTEMS 21 IPマルチキャストアドレス割り当てのベストプラクティス IPマルチキャストを効率化するた Groupの内部でさまざまなドラフト ンググループであるが、自動的なアド めには、優れたアドレス割り当てを行 が検討されているSSMは、IPマルチ レス 割り当 て 配 分 に 使 える 手 法 は うことが重要である。下記は、IPマル キャストのパラダイムの転換である。 Multicast Address Dynamic チキャストのアドレス割り当てに新し SSMでは、ネットワークはソースと Client Allocation Protocol いオプションと機能を提供する最近 受信者アドレスの紐付けを請け負わ (MADCAP, RFC 2730)だけであ の開発成果である。 ない。この機能は、Webサーバまた る。MADCAPは、一部のMicrosoft はその他のデバイスによって直接行 サーバで利用できる。 インタードメイン われる。SSMは、グループGではな IPマルチキャストがインターネット くS,Gチャネルによって動作するた 全体に幅広く普及する上で長年にわ め、各ソースアドレスがインタードメ IGMP、元はRFC 1112の一部で たり妨げとなっていた障害の1つは、 インマルチキャストに必要なユニー あり、IPネットワーク上のホストが特 ユニークなアドレスを生成する面で ク性を提供することができる。 定のグループに対するマルチキャス の課題だった。それを解決するのは、 GLOP(RFC 2770)とSSMという 2つのソリューションである。RFCの IGMP トトラフィックの受信に興味があるこ イントラドメイン とをルータに提示するためのレイヤ ドメイン内に留まるグループのア 3の プ ロト コ ル で あ る 。 I G M P 著者の造語である(頭文字ではない) ドレスには、239.x.x.xを管理用のア v e r s i o n 2( R F C 2 2 3 6 )で は 、 GLOPは、ソースの登録されたAS ドレスレンジとして割り当てる。この leave groupメッセージを送る機能 (Autonomous System)のユニー レンジは、ユニキャストIPにおける を追加し、ルータがあるセグメント上 10.x.x.xネットワークに似ている。 に興味を示す聴取者がいないことに ク性を利用している。この16ビット の数字は、233で始まるグループア ドレス233.AS.AS.xの中央の2つの 気づくまでの時間を短縮した。現在 アドレスの割り当て ドラフト段階にあるIGMP version オクテットに変換され、1つのASに対 MALLOC(Multicast Address 3では、ホストはグループGだけでな して255グループの割り当てが可能 Allocation)は、マルチキャストアド くソースSおよびGをリクエストする となる。IETF Multicast Working レスの割り当てに関わるIETFワーキ ことができるようになる。 コストを削減し、生産性を向上させるためのコアの技 HKBNのような革新的なサービスプロバイダが、IPマ 術となる。サービスプロバイダにとっては、レイヤ3の ルチキャストを基礎に新しいサービスモデルと収益の マルチキャスト対応VPNを顧客に提供することにより、 流れを創造しつつある。これらの会社のブロードバン 新しい収益の流れを創り出すのに役立つコアの技術 ドネットワークは厳しい経済情勢下でも競争力を備え、 となる。そして、その間に、先に紹介したFastWebや 財政面でもめざましい成果を上げている。近い将来、 IPマルチキャストはほとんどすべてのIPネットワークで ブライアン・マクラーリン:ブライアン・マクラー 標準的なアイテムになることだろう。 リンは1989年以来ネットワーキングに関わり、 1996年後期からはIPマルチキャストに取り組ん でいる。同氏は1995年にシスコに入社し、現在 はインターネットテクノロジー部門のテクニカル マーケティングエンジニアである。連絡先は [email protected] BRYAN MCLAUGHLIN 22 CISCO SYSTEMS : PACKET 2003 年│春号 詳しい情報 ■Cisco IP Multicast:cisco.com/go/Ipmulticast ■Troubleshooting IP Multicasting(IPマルチキャストのトラブルシュ ーティング): cisco.com/warp/public/105/mcastguide0.html