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4.シャットネラ等の魚介類への 影響、毒性発現機構の解明

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4.シャットネラ等の魚介類への 影響、毒性発現機構の解明
4.シャットネラ等の魚介類への
影響、毒性発現機構の解明
4.シャットネラ等の魚介類への影響、毒性発現機構の解明
1)有害プランクトンによる魚類への影響評価
水産総合研究センター西海区水産研究所
松山幸彦・永江
彬・中野昌次・
栗原健夫・橋本和正・長副
聡・
山田勝雅・藤浪祐一郎・吉田一範
愛媛県農林水産研究所水産研究センター
河野
芳巳
愛媛大学南予水産研究センター
太田耕平・松原孝博・清水園子
1 全体計画
(1)目的
近年、有明海、八代海などの九州西岸域、豊後水道など九州東岸において、有害ラフィ
ド藻シャットネラ属やカレニア属による大規模な赤潮が頻発し、養殖魚を中心に甚大な被
害をもたらしている。こうした喫緊の課題に対応するためには、海域で発生する赤潮生物
を直接殺滅するなど、コストのかかる技術開発のみ頼るのではなく、魚貝類のへい死を効
率的に抑制することにより、適切かつ効果的な赤潮被害防除技術を確立する必要がある。
しかし現状ではシャットネラ属やカレニア属赤潮による魚貝類のへい死機構は不明な点も
多く、適切な被害軽減策が講じられていない。そこで、有害プランクトン(シャットネラ
属、カレニア属およびコクロディニウム属)が水産生物に与える影響を特定し、へい死に
至るメカニズムを解明することを目的とする。
(2)試験等の方法
1)小型魚を用いた曝露試験の確立
シャットネラ属やカレニア属等有害赤潮プランクトンによる毒性を評価するために、培
養株を用いた繰り返し試験によってデータを蓄積し、細胞密度とへい死時間との関係を数
式化する。試験は基本的にブリの幼魚であるモジャコを中心に実施し、比較対象のために
ブリなどと同じスズキ目の小型魚類を使った影響試験法についても確立する。モジャコと
他魚種とのへい死機構の異同については、へい死魚の鰓組織切片像を比較検討する。必要
に応じて天然赤潮海水を使った毒性試験を実施し、培養株との感受性の異同について確認
を行う。へい死個体については、鰓組織の切片画像の観察を行う。
2)養殖対象魚に対する影響解明
カレニア赤潮が発生した場合、天然赤潮を用いてマアジなど水産上重要魚種を用いた曝
露試験を実施し、細胞密度とへい死時間との関係を調べる。へい死した魚類の鰓を固定し、
組織切片観察を行って、過去に実施された同様な曝露試験結果との異同について検討する。
2.平成27年度計画及び結果
(1)目的
1)小型魚を用いた曝露試験の確立
平成 25 年九州西部海域で赤潮を引き起こしてマグロやブリへ甚大な漁業被害をもたら
したコクロディニウム属による毒性を評価するために、培養株を用いた毒性評価試験法に
ついて確立する。培養株によってへい死が確認された場合、繰り返し試験を実施してデー
タを蓄積し、細胞密度とへい死時間との関係を数式化する。また、必要に応じて天然赤潮
海水を入手し、培養株との毒性の差異について検討する。
試験は入手が可能な時期はブリの幼魚であるモジャコを中心に実施し、比較対象のため
にブリと同じスズキ目の魚類のうち、小型の魚類を使った影響試験法についても確立する。
試験には九州海域や豊後水道域から分離された培養株のうち、バイオアッセイによってス
クリーニングされた強毒性コクロディニウム属を用いる。室内曝露試験によってへい死密
度と致死時間の関係を数式化するとともに、へい死個体の鰓組織の組織切片観察を行う。
過去に試験を実施したシャットネラ属とカレニア属とのへい死機構の異同については、同
様にへい死魚の鰓組織切片像を比較検討する。
2)養殖対象魚に対する影響解明
カレニア赤潮が発生した場合、天然赤潮を用いてマアジなど水産上重要魚種を用
いた曝露試験を実施し、細胞密度とへい死時間との関係を調べる。へい死した魚類
の鰓を固定し、組織切片観察を行って、過去に実施された同様な曝露試験結果との
異同について検討する。
(2)試験等の方法
1)小型魚を用いた曝露試験の確立
①試験用スズキ目小型魚の飼育
ブリ(幼魚であるモジャコ)は、西海区水産研究所五島庁舎で生産された一系群の人工
種苗を入手し、実験に供した。実験開始時まで 1 日 2 回、人工餌料(おとひめ C1 および
C2:日清丸紅社製)を総尾数の体重の 1~2%になるように給餌飼育した。試験に用いた個
体の尾叉長は 46.9~83.6 mm(平均 60.8 mm)、体重は 1.37~7.84 g(平均 3.0 g)であ
った。デバスズメダイは、WDB 環境バイオ研究所より人工種苗を購入後、室内で馴致飼
育を行ない、実験に供した。実験開始までの給餌飼育はブリに準じた。試験に用いた個体
の尾叉長は 54.2~61.2 mm(平均 57.9 mm)、体重は、5.1~7.46 g(平均 6.4 g)であっ
た。
なお試験に用いた各魚種は図 4-1-1 にて示す。
図 4‒1‒1.試験に用いたスズキ目小型魚
②培養株の確立および強毒株のスクリーニング
試験に用いた Cochlodinium polykrikoides は、2011 年 9 月に佐賀県唐津市肥前町地先
の伊万里湾及び 2015 年 5 月に大分県佐伯市蒲江町地先の猪串湾で採水された海水中から
キャピラリーを用いて1連鎖の遊泳細胞を顕微鏡下で単離し、これを改変 SWM3 で培養す
ることで確立されたクローン培養株である。C. polykrikoides の毒性スクリーニングにつ
いては、昨年度動物細胞及びワムシ等を用いたスクリーニングが困難であることが判明し
たことから、実際のブリ幼魚を用いた曝露試験を実施し、生残時間が短く培養が容易な株
を強毒株として特定することとした。このスクリーニングでは、1 株当たり 3 尾のブリ幼
魚を曝露試験に用い、細胞密度は 2,500 cells/mL で統一した。
③C. polykrikoides 大量培養法の検討
魚体を用いた曝露試験実施に向けて、フラスコを用いた培養法を検討した。すなわち、
125 mL の培養液が 200mL 容フラスコに C. polykrikoides 培養株を 10 mL 接種し、22℃、
120 μmol photons/m2/s、14hL:10hD の明暗条件下で培養を行った。1 日おきに培養液を
分取し、顕微鏡下で細胞密度を算出した。
④培養 C. polykrikoides のブリ幼魚に対する影響
大量培養された C. polykrikoides 細胞を 0、 500、 1,000、 1,250、 1,500、 1,750、
2,500 cells/mL の 7 段階の細胞密度となるよう GF/C ろ過海水で希釈して試験に使用した。
曝露時間は最大 24 時間とした。実験個体数は、各試験区 5 個体を 1 ターンとして実施し
た。曝露試験には、容量 5 L の透明飼育水槽を用いた。ろ過海水に C. polykrikoides 培養
液 を 加 え て 各 濃 度 に 調 製 し た 試 水 を 4.0 ~ 5.5 L 注 入 し 、 2 時 間 以 上 静 置 し て C.
polykrikoides 細胞集塊が水面で活発に蝟集するのを確認後、試験魚を投入した。実験時
は水槽の周囲に調温海水を掛け流して水温を一定に保った(25~28 ℃の範囲)。試験中
は緩やかな通気を施し、溶存酸素濃度を確認するために溶存酸素計で適宜確認した。
ブリ幼魚は横転後徐々に鰓蓋の動きが弱まり、鰓蓋の動きが停止すると痙攣を引き起こし
て絶命することから、この痙攣が停止した段階で絶命と判断した。絶命後、速やかに鰓弓
を摘出して、Davidson 液で固定した。
⑤培養 C. polykrikoides の他魚種に対する影響
ブリ幼魚と同程度のサイズでありスズキ目の魚種であるデバスズメダイに対し、
C. polykrikoides 培養株を同様に培養し、4,200 cells/mL の細胞密度で曝露試験を実施し
て魚種による異同を比較検討した。
2)養殖対象魚に対する影響解明
①ヒラメに対する Karenia mikimotoi 天然赤潮の影響
平成 27 年 6~8 月にかけて宇和海で K. mikimotoi 赤潮が発生した。このうち 6 月 29
日に吉田湾で、7 月 16 日および 17 日に下波湾で発生した赤潮海水を採取し、当県で種苗
生産されたヒラメを用いた曝露試験を実施した。
6 月 29 日の試験では、採水した赤潮の原液と、ろ過海水で 1/2、1/4 および 1/8 に希釈に
希釈した 3 希釈区の全 4 段階の試験区を設定した。試験開始後、鰓蓋の動きが停止し、棒
等で刺激しても反応が無かったものを死亡と判定し、速やかに鰓を摘出してこれを
Davidson 液で固定した。曝露時間は 6 時間までとし、最終的に生存した個体も鰓を摘出し
て固定した。試験に用いたヒラメは各試験区 10 尾とし、平均体重は 11.9 g(4.4~19.1 g)
であった。なお、試験当日の給餌は行わなかった。
7 月 16 日の試験では、赤潮海水原液のほか、1/2 希釈区および浮上蝟集した K. mikimotoi
を集めた濃縮区の 3 段階に試験区を設定した。死亡判定および鰓の採取は前試験と同様に
行った。試験に用いたヒラメは各試験区 10 尾とし、平均体重は 18.0 g(8.2~27.2 g)で
あった。
7 月 17 日の試験では前日の試験に使用した赤潮を加えて実施した。試験区は、2 日間の
赤潮を混合した原液区、浮上蝟集した K. mikimotoi を集めた濃縮区およびこれの 1/2 希
釈の 3 段階を設定した。死亡判定および鰓の採取は前試験と同様に行った。試験に用いた
ヒラメは各試験区 5 尾とし、平均体重は 16.1 g(7.6~24.4 g)であった。
②マダイに対する K. mikimotoi 天然赤潮の影響
8 月 3 日および 11 日に愛南町船越湾で採水した K. mikimotoi 赤潮を使用し、当県で種
苗生産されたマダイを用いて曝露試験を実施した。試験区は、原液区、1/2 および 1/4 希釈
の 3 段階を設定した。鰓蓋の動きが停止し、棒等で刺激しても反応が無かったものを死亡
と判定し、速やかに鰓を採取してこれを Davidson 液で固定した。曝露時間は 6 時間まで
とし、最終的に残った生存個体も鰓を同様に固定した。試験に用いたマダイは各試験区 5
尾とし、平均体重は 8.4 g(3.5~14.3 g)であった。なお、試験当日の給餌は休止した。
③K. mikimotoi 天然赤潮に曝露されたヒラメおよびトラフグ鰓組織の経過観察
7 月 9 日に岩松湾で採水した K. mikimotoi 赤潮を使用し、当県で種苗生産されたヒラメ
およびトラフグを用いて曝露試験を実施した。曝露試験は、100L 円形水槽 2 基にそれぞれ
赤潮海水を 60 L 収容し、これにヒラメ 28 尾、トラフグ 27 尾を投入した。曝露時間は 3
時間とした。曝露開始後 1 時間までは 15 分間隔で試験魚を取り上げて鰓を採取し、これ
を Davidson 液で固定した。開始 1 時間以降は 30 分間隔で鰓を採取し、試験魚が死亡した
場合はその都度鰓を採取した。赤潮の密度は 24,000 cells/mL で、試験魚の平均体重はヒ
ラメ 16.3 g(8.7~28.1 g)、トラフグ 8.5 g(4.5~11.5 g)であった。
②養殖対象魚に対 する 影響解明
(試験用クロホシイシモチ、カタクチイワシ、マダイ幼魚、ブリ幼魚の飼育)
クロホシイシモチは平成 27 年 5 月上旬に愛南町沿岸で釣りにより捕獲し、愛媛県南予
水産研究センターの 200 L に搬入し、天然赤潮の曝露まで室内馴致飼育を行った。飼育期
間中は、1日に 1 回、人工飼料(おとひめβ2:日清丸紅社製)を飽食になるまで給餌し
た。試験に用いた個体の尾叉長は 83~98 mm(平均 91 mm)、体重は、8.6~13.1 g(平
均 10.9 g)であった。
カタクチイワシは、カツオ餌業者から大村湾産の個体を購入した。愛媛県南予水産研究
センターの 1,000 L 水槽に搬入し、天然赤潮の曝露まで室内馴致飼育を行った。飼育期間
中は、1日に 1 回、人工飼料(おとひめβ2:日清丸紅社製)を飽食になるまで給餌した。
試験に用いた個体の尾叉長は 89~115 mm(平均 104 mm)、体重は、6.2~16.3 g(平均
11.4 g)であった。
マダイ幼魚は、平成 27 年 5 月上旬と 6 月上旬に人工種苗 0 才魚を愛媛県の養殖業者よ
り購入した。愛媛県南予水産研究センターの 200 L 水槽に搬入し、天然赤潮の曝露まで飼
育を行った。飼育期間中は、2 日に 1 回、人工飼料(おとひめ EP2:日清丸紅社製)を飽食
になるまで給餌した。試験に用いた個体の尾叉長は 110~135 mm(平均 123 mm)、体重
は、体重は、17.7~30.3 g(平均 23.5 g)であった。
ブリ(幼魚であるモジャコ、0 才魚)は、平成 27 年 6 月上旬に愛媛県の養殖業者より購
入し、愛媛県南予水産研究センターの 200 L および 1,000 L 水槽に搬入し、天然赤潮の曝
露まで飼育を行った。飼育期間中は、2 日に 1 回、人工飼料(おとひめ EP2 および EP5:日
清丸紅社製)を飽食になるまで給餌した。また、一部の魚を給餌群と餌止め群に分け、給
餌群については曝露試験当日まで給餌、餌止め群については赤潮曝露 10 日前から給餌を停
止した。試験に用いた個体の尾叉長は 118~138 mm(平均 127 mm)、体重は、18.1~28.3
g(平均 22.2 g)であった。
(天然コクロディニウム赤潮の採取)
平成 27 年 5 月 15 日に御荘湾で発生した Cochlodinium polykrikoides(2,008 cells/mL )
をポンプで採取し、1 時間以内に愛媛大学南予水産研究センターへ搬入した。搬入後、顕
微鏡下で細胞密度を計測し、実験に供した。
(天然コクロディニウム赤潮による各魚種の斃死時間)
搬送した天然コクロディニウム赤潮(2,008 cells/mL )を 200 L 水槽に移し、クロホシ
イシモチ、カタクチイワシ、及びマダイ幼魚を 5 個体ずつ投入した。水槽には海水が軽く
撹拌される程度のエアレーションを施した。曝露された個体が横転し、鰓蓋運動が不規則
となり、停止が認められた時間をへい死と判断し、各個体のへい死時間を計測した。
(天然カレニア赤潮の採取)
平成 26 年 7 月 3 日、15 日に吉田湾で発生した Karenia mikimotoi (15,000、および
40,000 cells/mL )をポンプで採取し、2 時間以内に愛媛大学南予水産研究センターに搬入
した。搬入後、顕微鏡により細胞密度を計測し、実験に供した。
(餌止めとストレス負荷が天然カレニア赤潮による斃死に及ぼす影響)
ブリ幼魚を 200L 水槽 2 基に各 11 個体収容後、一方は 3 日間の餌止めを行い、他方は対
照として給餌を行った。事前に手動ポンプで飼育海水を 40L に減少させ、搬送した天然カ
レニア赤潮を注入した。供試魚が横転後、鰓蓋運動が不規則となり、停止が認められた時
点でへい死と判断し、各個体のへい死時間を計測した。次に、移送作業などのストレスが
絶食されたブリ幼魚の延命作用へ与える影響を判断するための試験を設定した。すなわち、
ブリ幼魚を 200 L 水槽 4 基に各 9 個体飼育し、餌止め群と給餌群を設定した。曝露試験前
に供試魚を網で一度バケツへ移送するストレスを負荷した、給餌+移送群と餌止め+移送
群を設定した。事前に手動ポンプで飼育海水を 40L に減少させ、搬送した天然カレニア赤
潮を注入後、水槽に海水が軽く撹拌される程度のエアレーションを施しながら、各個体の
へい死時間を計測した。
また、移送ストレスと呼吸量との関係を調べるため、個体の移送による酸素消費量の変
化率を測定した。マダイを 45 L 水槽 2 基に各 5 個体収容し、給餌及び 4 日間の餌止めを
行った。これらの水槽の水面を厚手のビニールで被い、密閉し1時間後の溶存酸素濃度の
変化を測定した。次に被いを取り除いて移送ストレスを負荷後、同様に水槽を密閉し、1
時間後の溶存酸素の変化を測定した。
(鰓細胞の回復機構解析のための実験系構築)
マダイ及びブリ幼魚に対して、チミジンのアナログである 5-bromo-2'-deoxyuridine
(BrdU)を腹腔内注射(500 μg /g body weight)し、無給餌で飼育後、3、10 日後に採
取した。速やかに断頭し、鰓を摘出して Davidson 液で固定した。鰓の組織はパラフィン
切片作成後、BrdU 抗体を用いた免疫組織化学に用いた。一方、同様のパラフィン切片を
Azan 染色に供し、組織切片観察を行った。鰓弓毎の明確な差違は認められなかったことか
ら、全ての個体について第二鰓弓の組織切片を観察した。
(3)結果及び考察
1)小型魚を用いた曝露試験の確立
①C. polykrikoides 大量培養法の検討
C. polykrikoides を大量培養に供した時の増殖曲線を図 4-1-2 に示す。
C. polykrikoides は接種後 7 日間対数増殖を示し、その後 11 日まで増殖速度を徐々に低
下させながら定常期に達した。対数増殖期の最大増殖速度はおよそ 0.35 divisions/day と
算出され、山砥・坂本(2010)で示された大村湾産の培養株とほぼ同じ増殖速度であった。
また、定常期に達した 11 日目に、最大到達細胞密度が 17,917 cells/mL となり、濃厚な黄
褐色を呈した。他の培養株についても同程度の細胞密度に到達し、ブリ幼魚を用いた試験
を実施するのに十分な細胞密度であると判断された。以後、曝露試験は接種 11 日前後の培
養細胞を用いて曝露試験を実施した。
図 4‒1‒2.C. polykrikoides 大量培養時の増殖曲線
②培養株の確立および強毒株のスクリーニング
伊万里湾及び猪串湾から確立された C. polykrikoides のクローン培養株のうち比較的増
殖成績が安定していた 13 株を選び、ブリ幼魚を用いたバイオアッセイに供した結果を図
4-1-3 に示した。対照区(ろ過海水)において、試験魚のへい死は 24 時間の観察中、全く
認められなかった。 C. polykrikoides 曝露区のへい死率は 0~100%の範囲で変動してお
り、一部の培養株を除き明らかに対照区よりも高いへい死率を示した。株による強弱はあ
るものの、今回試験に用いた C. polykrikoides のすべての株が、ブリ幼魚に対して致死活
性を有していることが確認された。ブリ幼魚のバイオアッセイの結果では、猪串 11 番株と
猪串 17 番株が最も致死活性が高かった。猪串 19 番、伊万里 03 番と続き、最も毒性が低
い猪串 21 番では 24 時間経過後、試験に用いた 3 尾全てが生残していた。
魚毒性が高いと判断された猪串湾 11 番、猪串湾 17 番、猪串湾 19 番のうち、最終到達
細胞密度が高いなど、培養成績が良好な猪串 11 番株を強毒株として以後の試験を実施し
た。
図 4‒1‒3.C. polykrikoides 強毒株に曝露されたブリ幼魚の生残曲線
③培養 C. polykrikoides のブリ幼魚に対する影響
曝露試験結果について、カプラン・マイヤー法で当てはめた生残曲線を図 4-1-4 に示す。
ブリ幼魚は、1,250 cells/mL 以上の C. polykrikoides 曝露によってへい死が確認された。
曝露細胞密度とへい死時間の間には明瞭な負の相関が認められ、魚毒性が確認された。
1,750 cells/mL 以上の曝露ではすべてのブリ幼魚が 2 時間以内に全滅した。1,500 cells/mL
以下の曝露では致死時間が遅延、1,000 cells/mL 以下の試験区ではへい死が確認されなか
った。
これを昨年度試験に用いた渦鞭毛藻 Cochlodinium sp. (type-Kasasa) 及び Karenia
mikimotoi、平成 24 年度まで実施してきたラフィド藻 Chattonella antiqua 等の有害赤潮
プランクトンと比較すると、へい死が認められる閾値は比較的低く、高密度曝露区での致
死時間はシャットネラと同程度であり、本種もシャットネラ属同様に、強い魚毒性を有し
ていることが培養株を用いた試験でも確認された。特に分類上同系統に含まれる
Cochlodinium sp. (type-Kasasa)と比較してへい死に至る細胞密度が低く種によっても魚
毒性が大きく異なることが改めて確認された。C. polykrikoides を曝露されたブリ幼魚は
曝露直後から鰓クリーニングを行うなどの忌避反応が見られ、横転後は 10 分前後で絶命し
た。曝露試験初期には狂奔遊泳および鼻上げなどはあまり観察されず、徐々に平衡性を失
って横転する様子が確認された。曝露試験時のブリ幼魚の行動はシャットネラ属及びコク
ロディニウム笠沙型などと類似する一方、激しい忌避反応を示したカレニア属とは異なる
ことが強く示唆された。
図 4‒1‒3.C. polykrikoides 各培養株の
ブリ幼魚に対する致死活性の差異
図 4‒1‒4.C. polykrikoides 強毒株(猪串湾 11 番)に曝露されたブリ幼魚の生残曲線
④C. polykrikoides によるへい死魚の組織観察
C. polykrikoides によってへい死したブリ幼魚の組織切片像を図 4-1-5 に示す。本種に
よってへい死したブリ幼魚は、二次鰓弁の先端部及び基部構造が浮腫を引き起こし、加え
て粘液による閉塞が発生していることが観察された。過去に Chattonella antiqua 強毒株
と Karenia mikimotoi 強毒株に曝露されたブリ幼魚の組織切片画像と比較を行った結果を
表 4-1-1、組織切片像を図 4-1-6 に示した。C. antiqua によってへい死したブリ幼魚では、
二次鰓弁上の浮腫が全体的に軽く発生し、二次鰓弁間細胞が消失している映像が頻繁に観
察される(松山ら 2012)。次に K. mikimotoi によってへい死したブリ幼魚では、二次鰓
弁の上皮細胞や二次鰓弁間細胞がほぼすべて剥離し、先端部に凝集するとともに、二次鰓
弁の基部構造自体も崩壊する映像が観察される(松山ら 2014)。これに対して、 C.
polykrikoides に曝露された二次鰓弁細胞は上皮細胞の先端部が剥離するなど、C. antiqua
と K. mikimotoi のいずれとも異なる組織傷害を示していた。赤潮プランクトンの曝露に
よって鰓組織の傷害が発生し、結果的に魚類がガス交換能を失って窒息死することは明白
であるが、組織傷害の発生パターンは赤潮プランクトンによってすべて異なることが明ら
かとなった。従って、赤潮による魚類へい死機構は赤潮プランクトン種によって基本的に
異なっており、それぞれについて作用機作についてさらに検討を加える必要があろう。
図 4‒1‒5.C. polykrikoides に曝露されたブリ幼魚の鰓組織(バーは 100 μm)
表 4‒1‒1.各種有害プランクトンに曝露されたブリ魚の鰓組織観察結果
Cochlodinium
polykrikoides
Chattonella
antiqua
Karenia
mikimotoi
Cochlodinium sp.
(Type-Kasasa)
無酸素
へい死
外観
出血なし、
粘液増加
出血なし、
粘液増加
出血なし
出血なし、
粘液増加
出血なし
二次鰓弁
上皮細胞
全体で剥離
全体で剥離
浮腫、
激しく剥離・消失
先端部を中心に
浮腫
弱く剥離
二次鰓弁
間細胞
一部消失
消失
消失
一部消失
残存
粘液分泌
多
多
不明
多
無
基部構造
残
残
ほぼ崩壊
残
残
原因種の
凝集・付着
無
有
無
無
-
図 4-1-6. 各種有害赤潮プランクトンに曝露されたブリ幼魚の鰓組織像
(スケールバーは 50 μm)
①② C. polykrikoides 2,500 / 500 cells/mL ③④ C. antiqua 2,000cells/mL
⑤⑥ K. mikimotoi 1,200 cells/mL ⑦ Cochlodinium sp. (type-Kasasa) ⑧対照
⑤培養 C. polykrikoides の他魚種に対する影響
異なる魚種間に対する毒性の差異を比較するため、デバスズメダイを用いた試験を実施
した。猪串湾 11 番株を大量培養し、4,200 cells/mL の細胞密度で曝露試験を実施した結果
を図 4-1-7 に示す。24 時間の観察時間中にへい死は見られなかった。一方でブリ幼魚と同
様鰓クリーニング及び鼻上げ行動が確認され、何らかの生理的影響があったものと推測さ
れる。魚種間で大きく結果が異なった要因が用いた魚種特異性なのか個体の生理状態によ
るものなのか、今後解明が必要である。
図 4‒1‒7.C. polykrikoides に曝露されたデバスズメダイの生残曲線
2)養殖対象魚に対する影響解明
①ヒラメに対する K. mikimotoi 天然赤潮の影響
曝露試験結果について、カプラン・マイヤー法で当てはめた生存曲線を図 4-1-8 および
図 4-1-9 に示す。ヒラメ幼魚は、6 月 29 日の曝露試験では曝露後 6 時間後の生残率は 20,000
cells/mL では 90%、15,000 cells/mL では 20%であり、その他の密度ではへい死はみられ
なかった。7 月 16 日および 7 月 17 日の曝露試験では、128,000 cells/mL で 5 時間以内に
全滅したがその他の密度ではへい死はみられなかった。
試験中、K. mikimotoi に曝露されたヒラメ幼魚は鼻上げ行動をする個体が観察されたほ
か、鰓から粘液が糸状に出ているのが観察された。一方、K. mikimotoi については容器底
部に密集集塊を形成し、これらがヒラメ幼魚を覆うことが観察された。
図 4‒1‒8.宇和島市吉田湾天然赤潮 K. mikimotoi に
曝露されたヒラメの生存曲線
図 4‒1‒9.宇和島市下波湾天然赤潮 K. mikimotoi に曝露されたヒラメの生存曲線
左:7 月 16 日曝露試験結果 右:7 月 17 日曝露試験結果
②マダイに対する K. mikimotoi 天然赤潮の影響
曝露試験結果について、カプラン・マイヤー法で当てはめた生存曲線を図 4-1-10 に示す。
マダイ幼魚は 8,600 cell/mL 以上の細胞密度で1時間以内に、5,200 cells/mL では 1 時間
40 分ですべての個体がへい死した。5,800 cells/mL では 1 時間 32 分で 80%はへい死し、
5 時間 11 分ですべての個体がへい死した。2,310 cells/mL では曝露後 1 時間 38 分に 1 個
体がへい死したが、その後 6 時間経過するまではへい死はみられなかった。
前年度の試験では、6 月に吉田湾で採取された天然カレニア赤潮 25,000 cells/mL にマダ
イ幼魚を 2 時間曝露し、へい死は認められなかった。今回、約 5,000 cells/mL の密度で 2
時間以内に 80%以上がへい死したことから、K. mikimotoi のマダイに対する毒性が大き
く変動していることが明らかとなった。
図 4‒1‒10.愛南町船越湾天然赤潮 K. mikimotoi に
曝露されたマダイの生存曲線
③K. mikimotoi 天然赤潮に曝露されたヒラメおよびトラフグ鰓組織の経過観察
ヒラメ及びトラフグの経時毎のサンプリング数を図 4-1-11 に示す。
ヒラメでは曝露後 3 時間を経過してもへい死はみられなかった。なお、曝露直後に鼻上げ
行動が 2 尾で、60 分および 120 分後に裏返し状態になった個体がそれぞれ 1 尾出現したこ
とからこれらをサンプリングにより取り上げた。曝露開始時、15 分経過時および 3 時間経
過時の鰓組織を図 4-1-12 に示す。曝露後 15 分を経過した段階では、鼻上げした個体およ
び異常行動を示さなかった個体の両方で二次鰓弁上皮細胞の浮腫が観察されたが、鼻上げ
行動をした個体の方が鰓組織の損傷が大きかった。また、3 時間を経過した個体の鰓組織
においても二次鰓弁間細胞の剥離や上皮細胞の浮腫が観察された。ヒラメは、カレニア赤
潮に対する耐性が高いと考えられるものの、鰓組織は傷害を受けていることが確認された。
トラフグは曝露後 60 分で横転個体が出現し、65 分後には死亡個体がみられ、85 分で全
滅した。曝露開始時、15 分経過時、45 分経過時、へい死個体の鰓組織を図 4-1-13 に示す。
曝露後 15 分で二次鰓弁上皮細胞に浮腫がみられ、時間経過とともに鰓組織の損傷は顕著と
なり、45 分後には二次鰓弁上皮細胞の剥離が明瞭に観察されるようになった。死亡個体で
は二次鰓弁間細胞の剥離や消失、上皮細胞の浮腫や剥離が観察された。
図 4‒1‒11.鰓組織の経過観察に使用した
ヒラメおよびトラフグ取上げ個体数の推移
図 4‒1‒12.宇和島市岩松湾天然赤潮 K. mikimotoi に
曝露されたヒラメの鰓組織
図 4‒1‒13.宇和島市岩松湾天然赤潮 K. mikimotoi に
曝露されたヒラメの鰓組織
②養殖対象魚に対する影響解明
(天然コクロディニウム赤潮による各魚種の斃死時間)
天然コクロディニウム赤潮(2,008 cells/mL)にクロホシイシモチ、カタクチイワシ、及
びマダイ幼魚を 5 個体ずつ曝露した結果、それぞれ 3、5、及び 5 個体がへい死した。各魚
種の生残率のグラフを図 4-1-14 に示す。
図 4‒1‒14.愛南町御荘湾天然赤潮 C. polykrikoides に
曝露された各種小型魚の生残曲線
(餌止めとストレス負荷が天然カレニア赤潮による斃死に及ぼす影響)
天然カレニア赤潮(13,000 cells/ mL)を給餌群と餌止め群にそれぞれ曝露した結果、全
ての個体がへい死したが、餌止め群の方が長時間にわたり生残した(図 4-1-15 左)。曝露
時の水温は 29℃であった。
次に、天然カレニア赤潮(5,500 cells/ mL)を用いて給餌群、餌止め群、給餌+移送群、
及び餌止め+移送群との間で比較を行った結果、給餌+移送群と餌止め+移送群でそれぞ
れ 3 及び 5 個体のへい死が認められた(図 4-1-15 右)。給餌の有無にかかわらず、移送を
行っていない群ではへい死が認められなかった。曝露時の水温は 23℃であった。
また、マダイを用いて移送による酸素消費量の変化率を調べた結果、給餌群、餌止め群と
もに移送により酸素消費量が 61 及び 46%上昇した(図 4-1-16)。
図 4‒1‒15.天然赤潮 K. mikimotoi に対する餌止めの効果(左)および
移送の有無による餌止め効果(右)の変化
図 4‒1‒16.移送ストレスによる曝露試験前後の酸素要求量の変化
(鰓細胞の回復機構解析のための実験系構築)
マダイ及びブリ幼魚に対して、BrdU を腹腔内注射し、3 日後に採取して鰓組織切片上で
BrdU 陽性細胞を検出した結果、マダイとブリともに二次䚡弁間細胞や上皮細胞に BrdU
陽性細胞が認められた(図 4-2-17)。また、マダイにおいて 3 日後と 10 日後の個体で比
較を行った結果、10 日後には BrdU 陽性細胞数の大幅な減少が認められた(図 4-2-18)。
図 4-1-17.赤潮曝露後、BrdU を投与されたマダイとブリの鰓組織の免疫染色像
図 4‒1‒18.BrdU 投与マダイにおける BrdU 陽性細胞の経日変化
3)要約
表 4-1-2 に本年度の試験結果を要約した。
C. polykrikoides は大量培養法により文献と同程度の増殖速度を示し、魚体を用いた赤潮
曝露試験を実施するのに十分な細胞密度に達することを確認した。またブリ幼魚を用いた
バイオアッセイにて強毒培養株を選抜し、生残曲線を作成した。今回用いた C.
polykrikoides 場合、半数致死濃度は 1,750 cells/mL から 1,500 cells/mL の間であると推
定された。曝露試験中のブリ幼魚は C. antiqua に曝露した際の行動と類似する一方、K.
mikimotoi に曝露した際の行動とは異なり激しい忌避反応は示さなかった。供試魚の鰓組
織像の比較検討から、前記の 2 種とも異なる組織傷害が確認され、へい死に至るメカニズ
ムにおいて差異が存在すると推測された。スズキ目小型魚であるデバスズメダイに対し高
密度の赤潮海水を曝露したところ、24 時間の観察期間中にへい死は確認されず、魚種によ
って毒性が大きく異なる可能性が示唆された。
宇和海で発生した K. mikimotoi
赤潮を用い、ヒラメ、マダイ幼魚に対する曝露試験を
実施した。ヒラメは 15,000 cells/mL、マダイは 5,800 cells/mL 以上で 6 時間以内に 80%
以上がへい死した。またヒラメ、トラフグ幼魚を用い K. mikimotoi の鰓組織に対する傷
害の変化を経時的に観察を行った。時間経過と共に傷害は重篤化し、忌避行動個体は、正
常個体と比べ傷害が進行していることが確認された。
御荘湾で発生した C. polykrikoides 赤潮を用い、クロホシイシモチ、カタクチイワシ、
マダイ幼魚に対する曝露試験を実施した。5 時間以内に 3 種共にへい死が確認されたもの
の、クロホシイシモチは 40%生残しており、魚種による感受性の差異が確認された。
本年度も餌止めによる生残率向上が確認されたが、網を用いた移送により餌止め効果が大
きく減衰した。要因の一つとして移送ストレスによる酸素要求量増加が推定された。
マダイ及びブリに BrdU を投与し、3 日後に鰓上皮組織への取り込みを確認した。また 10
日後には BrdU 陽性細胞は大幅に減少しており、代謝を反映しているものと考えられる。
今後鰓組織の再生を可視化するための手法として検討する。
表 4‒1‒2.コクロディニウム及びカレニア属が魚類に与える影響評価(総括)
Cochlodinium polykrikoides の影響評価結果
Karenia mikimotoi の影響評価結果
(謝辞)
曝露試験に用いた試験魚介類の飼育および経過観察について、正職員および契約職員に
多大なご協力をいただきました。ここに記して深謝します。
3.引用文献
山砥稔文、坂口昌生、高木信夫、岩滝光儀、松岡數充(2005)西九州沿岸に分布する有害
渦鞭毛藻 Cochlodinium polykrikoides Margalef の増殖に及ぼす水温,塩分および光強
度の影響
日本プランクトン学会報, 52(1), pp.4-10
松山幸彦、永江彬、鈴木健吾、栗原健夫、橋本和正(2012) ヒラメに対する Chattonella
antiqua の影響試験 平成 24 年度漁場環境・生物多様性保全総合対策委託事業 赤潮・
貧酸素水塊対策推進事業 「シャトネラ属有害プランクトンの魚介類への影響、毒性発
現機構の解明に関する研究」報告書
平成 25 年 3 月、3-10
松山幸彦、永江彬、栗原健夫、橋本和正、山田勝雅、島康洋、堀田卓朗、吉田一範、西川
智、太田耕平、松原孝博(2014)
小型魚を用いた曝露試験の確立
環境・生物多様性保全総合対策委託事業
平成 25 年度漁場
赤潮・貧酸素水塊対策推進事業
九州海域で
の有害赤潮・貧酸素水塊発生機構解明と予察・被害防止等技術開発「有害プランクトンに
よる魚介類へい死機構解明」報告書
平成 26 年 3 月、4-12
Kim D, Oda T, Muramatsu T, Kim D, Matsuyama Y, Honjo T. (2002) Possible factors
responsible for the toxicity of Cochlodinium polykrikoides, a red tide phytoplankton.
Comp Biochem Physiol C Toxicol Pharmacol. 2002 Aug; 132(4):415-23.
Yuki,K and Yoshimatsu,S (1989) ”Two fish-killing species of Cochlodinium from
Harima Nada, Seto Inland Sea, Japan.” In Okaichi,T, Anderson,D.M and Nemoto,T
(eds), Red Tides: Biology, Environmental Science, and Toxicology. Elsevier, New
York, pp.
:451–454.
Gobler C.J, Berry D.L, Anderson O.R, Burson A, Koch F, Rodgers B.S, Moore L.K,
Goleski J.A, Allam B, Bowser P, Tang Y-Z, Nuzzi R (2008) ”Characterization,
dynamics, and ecological impacts of harmful Cochlodinium polykrikoides blooms on
eastern Long Island, NY, USA” Harmful Algae 7(3):293–307
Rountos K.J, Tang Y-Z, Cerrato R.M, Gobler C.J, Pikitch E.K (2014) ”Toxicity of the
harmful dinoflagellate Cochlodinium polykrikoides to early life stages of three
estuarine forage fish” Mar. Ecol. Prog. Ser 505:81-94
Kim CS, Lee SG, Kim HG. (2000) Biochemical responses of fish exposed to a harmful
dinoflagellate Cochlodinium polykrikoides. J. Exp. Mar. Bio. Ecol. 2000 Nov 20;
254(2):131-141.
Tang Y-Z, Gobler C.J (2009) Characterization of the toxicity of Cochlodinium
polykrikoides isolates from Northeast US estuaries to finfish and shellfish Harmful
Algae 8(3): 454–462
4.シャットネラ等の魚介類への影響、毒性発現機構の解明
2)有害プランクトンによる貝類への影響評価
広島県立総合技術研究所水産海洋技術センター
水野健一郎
山口県水産研究センター
茅野昌太
大分県農林水産研究指導センター水産研究部
大竹周作・宮村和良・福田 穣
水産総合研究センター西海区水産研究所
松山幸彦・永江
彬
1.全体計画
(1)目的
近年、有明海、八代海などの九州西岸域、豊後水道など九州東岸において、有害ラフィド藻
シャットネラ属やカレニア属による大規模な赤潮が頻発し、二枚貝養殖業や干潟域、磯根に生
息する貝類に対して甚大な被害をもたらしている。しかし、現状ではシャットネラ属やカレニ
ア属赤潮による貝類のへい死機構は不明な点も多く、魚類で知られている餌止めなどの適切な
被害軽減策が講じられていない。有害プランクトンが貝類に影響を与えるメカニズムは複雑で
多岐に亘ることが推定されるため、集約的な調査研究により影響解明を進める必要がある。そ
こで、貝類に最も悪影響を与えることが知られているカレニア属を中心とした有害プランクト
ンが、有用貝類に与える影響を特定し、へい死に至るメカニズムを解明することを目的とする。
(2)試験等の方法
1)カレニア属がマガキに与える影響評価
マガキ養殖場ではカレニア属赤潮が頻発することが知られている。これらの影響について評
価するため、マガキのへい死とカレニア属との関係性(生活史別、サイズ別の影響)の比較検
討を目途に曝露試験を実施する。曝露前の個体の環境耐性を評価するため、曝露前と後の低塩
分ストレスが、カレニア属に対する耐性に影響を与えるかどうか確認する。へい死個体につい
ては、鰓組織の切片画像の観察を行う。
2)カレニア属がアサリに与える影響評価
アサリ漁場においてカレニア属赤潮が頻発することが知られている。これらの影響評価を行
うため、アサリのへい死とカレニア属との関係性(生活史別、サイズ別の影響)の比較検討を
目途に曝露試験を実施する。曝露前の個体の環境耐性を評価するため、曝露前と後の低塩分ス
トレスが、カレニア属に対する耐性に影響を与えるかどうか確認する。へい死個体については、
鰓組織の切片画像の観察を行う。
③ シャットネラ属、カレニア属、コクロディニウム属がアワビ等巻貝に与える影響
大規模な赤潮発生時は、赤潮水塊が広域に移流拡散し、磯根資源を直撃することが知られて
いる。特に水産生物として重要度の高いアワビについては、漁業被害が多発している。これら
の影響評価をするため、アワビのへい死とカレニア属等との関係性の比較検討を目途に曝露試
験を実施する。細胞密度とへい死時間との関係を数式化する。へい死個体については、鰓組織
の切片画像の観察を行う。
2.平成27年度計画及び結果
(1)目的
1)カレニア属がマガキに与える影響評価
マガキ養殖に用いる種苗は天然海域で発生・成熟した幼生を採取することで確保するが,近
年の幼生生残率の低下により必要種苗量を確保できない事例が多発している。記録的な採苗不
調となった 2014 年には,マガキ幼生の発生海域でカレニア属の発生・増殖が同調するなど,
本種がマガキ初期生活史において悪影響を与える一要因であることが示唆された。また,これ
までの影響評価から高濃度のカレニア属培養株環境では,マガキ稚貝~成貝において直接的な
へい死は引き起こさないものの,ろ水低下に伴う摂餌能力の制限を引き起こすことが明らかと
なっており,幼生期においても同様の影響を引き起こす可能性が高い。しかしながら,本種が
幼生期に与える影響についての検討事例は乏しく,種苗確保の安定化を実現する上で,影響評
価による検証が必要である。本試験では,カレニア属による影響を成長段階別(小型幼生~付
着期幼生)のマガキ幼生に対する曝露試験により検証する。
2)カレニア属がアサリに与える影響評価
過年度までの影響評価から、高密度の K. mikimotoi 培養株環境下では稚貝において直接的
影響によるへい死は起こらないものの、ろ水速度の低下に伴う摂餌・呼吸能力の制限を引き起
こすことが明らかとなった。本種赤潮による曝露及び赤潮発生前の低塩分ストレスなどの複合
的な影響を室内試験で評価する。なお、曝露試験には、天然赤潮もしくは強毒培養株を用いる。
へい死個体については、鰓組織の切片画像の観察を行い、貝類のへい死メカニズムを調べる。
3)シャットネラ属、カレニア属、コクロディニウム属がアワビ等に与える影響
過年度までの影響評価から、K. mikimotoi 天然赤潮・培養株環境下ではエゾアワビ及びク
ロアワビの稚貝において直接的な影響によるへい死を引き起こすことが明らかとなった。本年
はクロアワビ及びサザエの稚貝を用いて、本種赤潮による曝露及び赤潮発生前の貧酸素ストレ
スなどの複合的な影響について、細胞密度と死亡時間との関係を室内試験で評価する。なお、
曝露試験には、K. mikimotoi 天然赤潮もしくは強毒培養株を用いる。へい死個体については、
鰓組織の切片画像の観察を行い、貝類のへい死メカニズムを調べる。
また、西海区水産研究所において有明海における重要な水産資源であるタイラギ稚貝の作出
に成功したことから、当海域で頻発する Chattonella antiqua 培養株を用いて曝露試験を実施
し、生残及びろ水量に対する影響を検討した。
(2)試験等の方法
① カレニア属がマガキ幼生に与える影響評価
曝露試験は、同一の親貝(広島県立総合技術
研究所水産海洋技術センター継代飼育)から
作出したマガキ幼生を小型幼生・中型幼生・
表 4-2-1 実施試験と供試幼生
試験 幼生ステージ 平均殻高(mean±SD) 幼生個体数
1
小型幼生
128.6±11.2
3000
大型幼生・付着期幼生の成長段階において合
2
中型幼生
175.2±12.2
2500
計4回行った(表4-2-1)。試験に用いたK.
3
大型幼生
224.5±17.1
1500
mikimotoi は,大村湾で単離された強毒株
4
付着期幼生
321.5±18.1
1000
(西海区水産研究所 提供)を培養し,ろ過海
水で設定密度まで調整した後にポリエチレン製ビーカー(64.5φ mm × 90 mm)に300 ml 分
注した。水温変動を抑えるため,試験水槽は25℃に設定したウォーターバス内に設置した。
試験区を表4-2-2に示した。対照区はろ過海水のみの区 (CTL I)を設定した。また,培養
液の影響を考慮するために,ろ過海水に
表 4-2-2 試験区の設定条件
K. mikimotoi 培養液をフィルター(GF/C)で
ろ過したろ液を添加した区 (CTL II) を設定
試験区
K.mikimotoi 密度
反復
した。影響区は,K. mikimotoi 培養液をろ過海
CTLⅠ
0 cells/ml
2
水で濃度別に希釈調整した区(500,5,000,
CTLⅡ
0 cells/ml+培養液
2
10,000 cells/ml)を作成した。試験海水は,K.
500
500 cells/ml
3
mikimotoiの偏在を防ぐためにエアレーション
5000
5000 cells/ml
3
10000
10000 cells/ml
3
で緩やかな撹拌を行った。繰り返しは2 - 3回設
定し,各試験区には餌料生物としてChaetoseros calcitrans を20,000 cells/mLとなるよう添加
した。
K. mikimotoi の影響評価は、曝露開始120分後の海水中に含まれる残餌料密度を測定し,初
期餌料密度からの減少量から算出したろ水速度 (ml/min) で評価した。ろ水速度(CR ml/min)
は,次式 (Coughlan 1969) に従い算出した。なお,餌料生物の測定には粒度分布測定装置
(Multisizer 3 : Beckman Coulter 製)を用いた。
CR = LN (C0/Ct) × V × t-1
(CR:ろ水速度 ml/min,C0:餌料初期密度 Ct:t 分後の餌密度, V:水槽体積 ml t:摂
餌時間 min)
各試験の供試幼生個体数(表 1)および試験時間(摂餌時間:120分)は,予備試験で幼生
個体数に対するろ水速度の直線性により測定精度を評価し,どの成長段階でも試験中の総ろ水
量が同程度になるように設定した。影響を比較する際には,一元配置分散分析(ANOVA)を行っ
た後にDunnet-TestによりCTL Iを対照として,影響の有意性を検証した。有意水準はp < 0.05
とした。
2)カレニア属がアサリに与える影響評価
試験は、山口県秋穂湾で発生したK. mikimotoi 天然赤潮を用いて実施した。曝露試験に供
したアサリは山口県水産研究センターにおいて種苗生産し、天然海域で育成されたアサリ(殻
長12.5~17.2 mm)を用いた。山口県秋穂湾
表 4-2-3.アサリ試験区の設定条件
でK. mikimotoi が濃密度水塊を形成した時
期に曝露試験を行った。曝露試験に用いた海
水はK. mikimotoi が赤潮形成後の平成27
年7月23~25日の間毎日、秋穂湾秋穂西地区
地先の表層からポリバケツを用いて採水し、
力避け実験室まで運んだ。その後、数時間室
反復
CTL I
0 cells/ml
3
CTL II
0 cells/ml+干出
3
500
500 cells/ml
3
5,000
5,000 cells/ml
3
生海水
(0~24h)50,000 cells/ml
(24~48h)30,000 cells/ml
(48~72h)30,000 cells/ml
3
10Lポリタンク(MAGNUMWIDE 10、三
宅化学株式会社製)に収容後、水温変化を極
設定条件
試験区名
温(25 ℃)・遮光した状態で静置した後、試験に供した。曝露試験は7月23日 15:00~7月26
日 15:00の期間で実施した。試験区は表4-2-3に示した5試験区を設定した。対照区はろ過海水
のみの区 (CTL I)及び干出区 (CTL II) を設定した。赤潮区は、K. mikimotoi 天然赤潮
海水をろ過海水で希釈調整した区(500、5,000 cells/ml)及び生海水区を作製した。曝露試験
に用いた水槽は1 Lポリプロピレン製容器(11.6×15.2 cm)を使用し、赤潮区には供試海水を
各1 L、対照区(CTL IIを除く)には清浄海水を1 L入れ、海水が循環する程度に緩やかに通気
し、水温変化を極力抑えるため室温を25℃に設定し、暗所で3日間(72時間)の曝露試験を行
った。試験海水は、試験開始後、24時間毎に全ての試験区で交換した。供試アサリは試験前日
から絶食状態とし、各区10個ずつ浸漬し、72時間経過した後回収した。回収したアサリは死亡
率を求め、各区5個ずつ、Davidson 液で固定した。固定に用いなかったアサリは試験区毎に区
分して清浄海水を入れた水槽で継続飼育し、10日経過後の生残率を求めた。固定したアサリ鰓
は常法に従って組織切片試料とし、鰓組織の観察を行うこととした。また、試験中の細胞密度
の変化を調べるため、24時間毎に、500区、5,000区及び生海水区のK. mikimotoi の細胞密度
を顕微鏡下で算出した。
3)シャットネラ属、カレニア属、コクロディニウム属がアワビ等に与える影響
各実験に用いた供試海水は大分県佐伯湾で増殖が確認された天然のK. mikimotoi を用い、
各曝露実験に供したアワビは(社)大分県漁業公社で飼育されたクロアワビ(殻長18 mm~23
mm)を用いた。各実験の方法、結果の詳細は以下の通りである。
(酸素供給試験)
試験は酸素供給を行った実験区と、通常のエアレーションを施した対照区を設置した。試
験に用いた水槽は40 Lポリ塩化ビニール製容器を使用し、対照区、実験区ともに赤潮海水を各
30 L入れ、実験区では高圧酸素による酸素供給、対照区ではエアレーションを行った。これら
をウォーターバスに入れて海水を掛け流して水温変化を極力抑えて試験を行った。試験に用い
た海水はK. mikimotoiが中層で赤潮の形成が確認された2015年7月29日の早朝に佐伯湾霞ヶ浦
地先の水深5 m層(K. mikimotoi 細胞密度9,067 cells/mL)から蛍光クロロフィル計を装着し
た水中ポンプ(32PN2.15S、
(株)鶴見製作所製)を用いて採水し20Lポリタンク(WASH-N20L、
(株)岩谷マテリアル)に収容後、水温変化を極力避け実験室まで持ち込み、希釈および静置
することなく直ちに実験に供した。試験に供したアワビは孔径5 mmのメッシュ袋(50 cm×40
cm)に各50個を収容したものを8つ用意し、各4袋ずつを各区に浸漬し赤潮に曝露した。曝露
試験は海水持込直後の同日9:15から開始し24時間曝露を行った。曝露後4、6、8、24時間経過
した後、各メッシュ袋を回収し、アワビの状態を確認した後、正常個体とマヒ個体の一部を
Davidson液(エタノール:330 mL、ホルマリン:220 mL、酢酸:115 mL、蒸留水:335 mL)で固
定した後、死亡個体を除くすべての個体を清浄海水に戻した。アワビの状態は、ピンセットに
よる触診で固着して動かない個体を「正常」、固着せずひっくり返しても起き上がらない個体
を「マヒ」、触診で反応が認められない個体を「死亡」の3つに分けた。アワビの生存率は各
赤潮曝露後時間後に清浄海水に24時間経過後の生存数から算出した(生存率にはDavidson液で
固定時に正常個体としたものを加えた)。また、アワビを回収した際には溶存酸素(DO)を
測定するとともに曝露海水を一部採水し、光学顕微鏡を用いてK. mikimotoiの状態を観察後、
3回計数し細胞密度を算出した。
(生理コントロール試験)
予め試験に用いるアワビの昼夜生理リズムをコントロールするため 1 週間以上の馴致飼育を
行った。馴致飼育は容量 100 L の黒色パンライト水槽を 2 つ用意し、各天井部分に白色 LED
ライト(DN-103、(株)富士倉)を設置し、水槽間をベニア合板で仕切り、水槽全体を遮光
シートで覆った後、明暗条件が相反するようにライトを 12 時間明暗周期で交互に点灯させて
行った。
赤潮の曝露試験は 2015 年 7 月 15 日 8:30~16:30 で行った。
供試赤潮海水(K. mikimotoi
988 cells/mL)は前日に佐伯湾霞ヶ浦地先の水深 5.8 m から水中ポンプで採水し、常温で一晩静
置したものを使用した。供試アワビは各 50 個とし、孔径 5 mm のメッシュ袋(50 cm×40 cm)
に付着板とともに赤潮海水に浸漬し 4、8 時間経過した後回収した。回収後の作業は既述の酸
素供給試験と同様の方法で行った。
③ 大村湾産強毒培養株を用いた試験
試験は、大村湾海水中から確立された K. mikimotoi 強毒株を用いた。本試験に用いた K.
mikimotoi 培養株は松山ら(2014)に基づき、ワムシを用いた試験系(Zou et al. 2010)にて選
抜された NGU04 株である。曝露試験に供したサザエは前述の通り放流用人工種苗(殻高 14
~30 mm、殻幅 12~27 mm、平均重量 5.93g)を用いた。試験までの間、砂ろ過海水の掛け流
し環境下、脱塩した塩蔵ワカメを毎日1回適宜給餌して馴致した。
2015 年 6 月 2 日から 7 月 7 日にかけて過年度同様に室内にて K. mikimotoi 強毒株を大量培養
して試験を実施した。試験区は表 4-2-4 に
示した 8 試験区設定した。
K. mikimotoi 赤
潮 海 水 を ガ ラ ス フ ィ ル タ ー ( GF/C,
Whatman 社製)でろ過されたろ過海水で
目的の細胞密度になるように希釈し、1,000
mL ビーカーに試験海水を 600 mL ずつ分
注した(n=6)。対照区はろ過海水のみで
ある。
表 4-2-4.サザエ曝露試験区の設定条件
赤潮プランクトン
試験区 cells /mL 供試個体数
20,000
19,867
6
10,000
10,347
6
Karenia
5,000
5,093
6
mikimotoi
2,500
2,587
6
1,000
975
6
NGU04
500
520
6
200
183
6
Control
0
6
供試サザエは這い出し防止のため、目合い
5 mm のメッシュ袋(6×6 cm)に 1 個体ずつ封入し、ビーカーに 1 個体ずつ収容し、通気を施
しながらウォーターバス(24 度)に浸した状態で 48 時間後まで、30 分~1 時間おきに観察を
行った。サザエは適宜足をピンセットなどで刺激し、正常、行動異常、麻痺・行動抑制状態、
瀕死、死亡及び既に死亡の 7 つの区に分けて集計した。ピンセットによる触診によって反応が
認められない個体を死亡と判断し、絶命時間を記録した。
試験に供した個体は予め冷蔵しておいた Davidson 液で固定後、常法に従って組織切片観察
用資料とした。試験中、適宜曝露海水を一部採水・計数を実施し細胞密度の経過観察を行った。
また、試験開始前後に光学顕微鏡を用いて K. mikimotoi を 3 回計数して平均細胞密度を算出
した。
④ 有明海産 C. antiqua 強毒培養株を用いた試験
有明海大浦港より採泥され、泥中から発芽した遊泳細胞より確立された C. antiqua クロー
ン強毒株(OP27)を用いてタイラギに対する影響評価を行った。
試験は高密度の 48 時間曝露による急性毒性、及び低密度の曝露がろ水量に与える影響の 2 つ
の評価手法を用いた。なお曝露試験に用いたタイラギ稚貝については、西海区水産研究所にて
平成 26 年カキに種苗生産され、3 ヶ月ほど天然海域で垂下飼育された人工稚貝(殻
長:42.77(±2.83)mm、殻幅:16.03(±2.20)mm)を用いた。
(低密度曝露におけるろ水量変動試験)
試水は Isochrysis galbana を約 20,000 cells/mL 含む海水に有害赤潮プランクトンとして培
養した C. antiqua、Heterosigma akashiwo 及び無害赤潮プランクトンとして Heterocapsa
triquetra をスパイクし 2,000 mL ずつ分注し用いた。供試タイラギは塩ビ管にアンスラサイト
を敷き、直立させた状態で 1 個体ずつ収容し、通気を施しながらウォーターバスに浸した状態
で観察を行った。(n=6)
試験区は表 4-2-5 に示した 10 区設定し
た。
出入水口の開放が確認された時点を
開始時刻とし開始前および 30 分おき
に蛍光値を計測した。蛍光値が当初の
1/3 の数値以下になった時点または
Control 終了までの時点で打ち切り、
光学顕微鏡を用いて C. antiqua 等
を 3 回計数し細胞密度を算出した。
なお、供試タイラギは試験中繰り返し
表 4-2-5.タイラギ曝露試験区の設定条件
赤潮
プランクトン
Chattnella
antiqua
OP27
Heterosigma
akashiwo
Heterocapsa
triquetra
Control
試験区
ろ液
15
25
50
100
500
5,000
700
細胞密度(cells/mL) 供試
I. galbana 個体数
0
15
27
43
92
20,000
6
463
4,300
5,027
641
720
0
用い、本試験実施前に I. galbana だけ
を添加した試水にてろ水速度を計測し試験区の Control とした。
ろ水速度の算出は Matsuyama and Uchida(1997)より,以下の式を用いた。
CR = LN (F0/F1) * M / t
(CR:ろ水速度 L/個/hr,F0:試水の初期 in vivo 蛍光値 F1:t 時間後の試水の蛍光値, V:
水槽体積 L t:摂餌時間 hr)
(生残試験)
曝露実験は C. antiqua 培養液を 20,000 cells/mL になるようにろ過海水で希釈し、3,000mL
ビーカーに試験赤潮海水を 1500 mL 注水し、供試個体を投入した(n=10)。通気を施しなが
らウォーターバスに浸した状態で 48 時間まで観察を行った。なお試験海水は 24 時間経過後に
交換した。
タイラギは外套膜の収縮の程度及び、開口部の目視によって正常、麻痺および無反応の 3 つ
の区に分けて集計した。外套膜の激しい収縮及び開口後ピンセットによる触診による反応が認
められない個体を死亡と判断し、絶命時間を記録した。
試験に供した個体は予め冷蔵しておいた Davidson 液(エタノール:330 mL、ホルマリン:220
mL、酢酸:115 mL、蒸留水:335 mL)で固定後、組織切片観察用資料とした。試験中の曝露海
水を一部採水し、適宜 Turner design 社製の蛍光光度計(Model 101)を用い in vivo 蛍光値を計
測した。また実験開始前後および 24 時間経過後の試水交換時、光学顕微鏡を用いて C. antiqua
を 3 回計数し細胞密度を算出した。
(3)結果および考察
1)カレニア属がマガキに与える影響評価
試験終了後のK. mikimotoi 密度は,すべての試験の平均値で500区:352 ± 138 cells/ml,
5,000区:4,914 ± 412 cells/ml,10,000区:9,604 ± 1162 cells/mlであり,試験期間中のK.
mikimotoi の密度は概ね維持できていた。
幼生サイズ別における各試験区のろ水速度を表4-2-6に示した。すべての試験において,K.
mikimotoi の密度増加に伴うろ水速度低下の傾向が見られた。小型幼生における試験では,対
照区であるCTL I区に対し,CTLII,500,5,000,10,000区のすべてにおいて有意な差が見ら
れた。中型幼生における試験では,CTLI区に対し,CTLII,500区は有意な差は見られなかっ
たものの,5,000,10,000区で有意な差が見られた。大型幼生における試験では,中型幼生に
おける試験と同様にCTLI区に対し,CTLII,500区は有意な差は見られなかったものの,5,000,
10,000区で有意な差が見られた。付着期幼生では,CTLI区に対し,CTLII,500,5,000区は
有意な差は見られなかったものの,10,000区で有意な差が見られた。このことから,小型・中
型幼生では500~5,000 cells/ml程度の低い密度からろ水速度低下の影響が生じ,成長段階が進
むにつれて影響が生じる濃度が高まる可能性が示唆された。
表 4-2-6
各試験の平均ろ水速度
ろ⽔速度 ml/min(mean±SD)
小型
中型
大型
付着期
CTL I
1.6±0.0
2.1±0.0
1.3±0.2
1.0±0.0
CTL II
1.2±0.1 *
2.0±0.1
1.5±0.5
1.1±0.1
500
1.2±0.1 *
1.9±0.2
0.8±0.1
0.9±0.2
5000
0.5±0.1 **
1.0±0.0 **
0.5±0.2 *
0.6±0.2
10000
0.5±0.1 **
0.4±0.2 **
0.0±0.1 **
0.0±0.0 **
試験区
* p < 0.05 ** p < 0.005 (Dunnet test, Control は各試験のCTL I)
また,対照区と顕著に差があった 5,000, 10,000 区の各試験の対照区(CTLI)に対するろ水速
度の減少率を図 4-2-1 に示した。小型幼生では,5,000・10,000 区において同程度(60~70%
程度)の減少率であったが,中型~付着期の幼生では,5,000 区の減少率(40~70%)に対し
10,000 区は減少率 85%以上と高密度化によるろ水速度低下の影響がさらに強くなった。以上
より,5,000~10,000 cells/ml 程度の高密度環境では,中型~付着期幼生に対して強いろ水抑
制を引き起こすことが示唆された。
今回の試験から,K. mikimotoi が存在する環境では,マガキ幼生の摂餌行動の指標であるろ
水速度を低下させる影響を引きこし,その影響度は成長段階により異なることが明らかとなっ
た。特に小型・中型幼生は 500~5,000 cells/ml の低密度から影響を引き起こすことが示唆され,
K. mikimotoi に対する感受性が高いことが示唆された。また,高密度における影響度は大型~
付着期幼生の方が強い影響を受け,10,000 cells/ml ではろ水停止状態となる結果となった。今
後は,感受性が高いと思われる幼生期間に着目し,より詳細な影響試験を行うことで,採苗安
定化に向けた原因機構の解明や被害軽減対策へつなげる必要がある。
本試験の結果が天然海域でも再現すると仮定した場合,かき採苗における K. mikimotoi の
リスクを低減する上では,海洋観測情報に基づいた親貝筏の配置等により K. mikimotoi の感
受性が高い小型幼生の期間をできるだけ餌料環境の良い環境に遭遇させ,速やかに付着期幼生
まで成長させることが有効と考えられる。また,付着幼生期に高密度化した場合は,ろ水停止
による栄養状態等の悪化が考えられるため,付着変態後の養殖操作の配慮等を検討する必要が
ある。
図 4-2-1.CTLI に対するろ水速度低下率
2)カレニア属がアサリに与える影響評価
① 山口県徳山湾赤潮海水を用いた試験K. mikimotoi の曝露によって、アサリにへい死は認
められなかった(図4-2-2左)。また、試験後10日間、清浄海水の入った水槽で飼育後のアサ
リについても、全ての試験区でへい死は認められなかった(図4-2-2右)。曝露試験に用いた
海水中のK. mikimotoi の細胞密度は、500区で低下が確認された(図4-2-3左)。5,000区
及び生海水区では、概ね設定した細胞密度が試験終了時点まで維持されていた(図4-2-3右)。
500区、5,000区及び生海水区で、試験終了後の水槽に糞もしくは偽糞が確認された。現在、
固定されたアサリの鰓組織を観察し、形態的異常や粘液の異常分泌などの影響の有無を確
認しているところである。今回の試験から、天然赤潮における72時間程度のK. mikimotoi
曝露期間では、アサリのへい死に関与しないことが示唆された。しかしながら、これまで
の試験において、試験海水を交換する際に、糞もしくは偽糞を除去しており、それらが堆
積することによる環境の悪化がアサリに及ぼす影響も検討する必要があると考えられた。
図 4-2-2.アサリ生残率(左図;曝露試験、右図;試験後飼育)
図 4-2-3.K. mikimotoi 細胞密度の推移(秋穂湾天然赤潮)
3)シャットネラ属、カレニア属、コクロディニウム属がアワビに与える影響
① 大分県赤潮海水を用いた試験
(酸素供給試験)
各区の K. mikimotoi の細胞密度は、対照区では実験開始時より減少することなく推移し、
開始後 24 時間では 10,033 cells/mL であった。一方、実験区では開始後 4 時間では 7,967
cells/mL、8 時間では 11,533 cells/mL、12 時間では 9,700 cells/mL と推移し、24 時間では約
半数の 5,500 cells/mL まで減少した(図 4-2-5)。実験区の K. mikimotoi は時間の経過に伴い
蝟集が確認され、遊泳も異常である個体が多数確認された。溶存酸素(DO)は対照区で 6.75
~7.09 mg/L、実験区では 20.31~30.57 mg/L で推移し、実験区で常時高い値が維持された(図
4-2-6)。これらの結果から実験区での K. mikimotoi 細胞密度の低下および蝟集、遊泳異常は、
高濃度の酸素供給が本種の生存に負の影響を及ぼすことが考えられた。
赤潮曝露による各区へのアワビへの影響については、赤潮曝露直後のアワビの状態は対照区
では、4 時間、6 時間、8 時間で時間経過とともにマヒ個体が徐々に増え、24 時間にはすべて
の個体の死亡が確認された。一方、実験区では、4 時間、6 時間では死亡が無く、8 時間では 2
個体の死亡、24 時間では 2 個体のマヒ、2 個体の死亡が確認された(図 4-2-7)。赤潮曝露 24
時間後の生存率では対照区では 4 時間曝露で 4%と僅かに生存が確認されたが、その他は全て
0%であった。実験区では全ての曝露時間で生存率が対照区より高く、曝露時間が 4、6 時間よ
りも、8、24 時間と長いもので生残率が高く 24 時間で最も高い生残率(85%)であった(表
4-2-7)。実験区の赤潮曝露 24 時間後のアワビ鰓組織の切片画像では鰓組織の損傷(図 4-2-8
右)が確認されたことから、高濃度の酸素供給区での赤潮曝露直後の死亡個体の軽減および 24
時間後の生存率の増加は、赤潮によるアワビの酸素摂取能の低下を、高濃度の酸素供給によっ
て補えていると考えられた。
以上、高濃度の酸素供給によって K. mikimotoi 細胞の活性低下およびアワビの生命維持に
必要な酸素摂取が可能になり、両方の相乗効果によって、アワビ生存率が向上したと考えられ、
高濃度の酸素供給がアワビの K. mikimotoi 赤潮への対策に効果的だと考えられた。
図 4-2-5.K. mikimotoi 細胞密度の推移
図 4-2-6.溶存酸素濃度の推移
図 4-2-7.赤潮曝露時間毎のアワビの状態別個体数(左:対照区、右:実験区)
図 4-2-8.酸素供給区の赤潮曝露 24 時間のアワビの鰓組織切片画像
(左:対照個体 右:生残個体)
(生理コントロール試験)
K. mikimotoi の細胞密度は、両区とも大きな変動はなく 1000 cells/ml 前後で推移した(図
4-2-9)。曝露実験による生残率は 9 割以上であり、両区とも高い生存率でその差は確認されな
かった(表 4-2-8)。本実験によるアワビの死亡個体が少ないことから、昼夜逆転による生理
コントロールの影響は検証できなかった。死亡個体が少なかった原因として、平成 26 年度の
アワビへの K. mikimotoi 曝露試験において得られた半致死密度は 150cells/L 以上であり、本
実験での細胞密度は十分にこの値を超えていること、赤潮海水の取り扱いも同様な方法で行っ
ていることから。使用した K. mikimotoi の細胞毒性が低かったことが原因と考えられる。今
後、細胞毒性を考慮に入れた試験方法を確立し検討する必要がある。
表 4-2-7.清浄海水収容後のアワビの生残率
6h
8h
24h
4h
(%
)
4
0
0
0
対照区
54
48
75
85
実 験 区 (% )
表 4-2-8 清浄海水収容後のアワビの生残率
対照区 (%)
実験区 (%)
4h
98
98
8h
96
92
図 4-2-9.K. mikimotoi 細胞密度の推移
② 大村湾産 K. mikimotoi 強毒培養株を用いた試験
図 4-2-10 にサザエに対する K. mikimotoi 強毒培養株を用いた曝露試験結果を示す。過年度
エゾアワビ及びクロアワビに対し強い致死活性を示した大村湾産培養株の K. mikimotoi はサ
ザエに対しても強い致死活性を示した。へい死に至る時間と細胞密度との間には明瞭な逆相関
が認められ、dose-curve に基づく強い魚毒性が確認された。2,500 cells/mL では 1 個体生残し
たものの、500 cells/mL 以上で 48 時間以内に供試個体全数のへい死が確認された。20,000
cells/mL では 32.7 時間後に全数へい死し、10,000 cells/mL 以下ではへい死に至る時間が遅延
するものの 38.2 時間、5,000 cells/mL では 41.5 時間、500 cells/mL でも 45.7 時間で全数へい
死した。200 cells/mL 区でも 1 個体のへい死が確認された。
エゾアワビ及びクロアワビを用いた試験時は 24 時間での半数致死濃度がそれぞれ 2,500
cells/mL、1,000 cells/mL 以下であった。一方サザエの 24 時間以内にへい死した個体は 20,000
cells/mL 区において 1 個体のみであり、この時点においてはアワビ類 2 種と比べ低い感受性を
示した。一方で 48 時間時点においては 500 cells/mL という比較的低い細胞密度であっても供
試個体全数がへい死しており、種による感受性の違いが確認された。
培養された K. mikimotoi に曝露されたサザエは、過年度実施したアワビ 2 種に対し比較的
応答は小さく、へい死に至った個体は全て蓋を固く閉じていた。軟体部の収縮はアワビにおい
ても確認されており、更に組織切片像の検討からへい死機構については大きな差異はないもの
と考えられ、
天然赤潮曝露試験後に見られた負の影響についても同様に発生すると考えられる。
図 4-2-10.K. mikimotoi 強毒株に曝露されたサザエの生残曲線
④ 有明海産 C. antiqua 強毒培養株等を用いた試験
(低密度曝露におけるろ水量変動試験)
以下にタイラギに対する C. antiqua 培養株等を用いた曝露試験結果を示す。
供試タイラギ 6 個体の外形を表 4-2-9 に示す。正常時の平均ろ水速度は 1.306(1.549~0.973)
mL/h であった(図 4-2-11)。試験区のろ水速度の変化(図 4-2-12)は C. antiqua ろ液(1,000)
区、15 cells/mL 区及び、H. triquetra 区でそれぞれ 100%、80%及び 110%とプランクトン添
加によるろ水速度の低下が小さかった。一方 C. antiqua 25 cells/mL 以上の試験区及び H.
akashiwo 区ではろ水速度が最大で 60%と大きく減退した。特に C. antiqua 500 cells/mL 区及
び H. akashiwo 試験区では 1%と 10%とほぼ停止した。試験区 25 までは赤潮プランクトンの
密度が大きく減少したが、密度が高くなるにつれて残存細胞数も上昇した(表 4-2-10)。このこ
とから、低密度の C. antiqua 等有害赤潮プランクトン存在下においてタイラギ稚貝の濾水を
伴う呼吸・摂餌が制限されることが示唆された。
対照試験実施時には出入水口が大きく開口していたのに対し、本試験区実施時には出入水口
のうち出水口または両側が閉鎖しており忌避反応が見られた。
2.0
表 4-2-9.ろ水量試験に
用いた
タイラギ稚貝の外形
1.8
1.6
1
2
3
4
5
6
殻長
42.37
41.73
43.17
45.60
42.20
43.93
殻幅
16.22
15.70
18.06
18.23
15.85
15.74
単位:mm
ろ
水
量
(L/hour /個
体
)
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1
2
3
4
5
6
個体番号
図 4-2-11.試験に用いた6個体の
平均ろ水速度(8 回測定結果)
平均
ろ液
(1,000)
表 4-2-10.ろ水量試験前後の
赤潮プランクトン細胞密度変化
試験開始時密度
→試験終了時密度
C. antiqua
OP27
25
50
プランクトン
100
C. antiqua
OP27
500
H.
H.
triquetra akashiwo
試験に用いた赤潮プランクトン及び
細胞密度変化(cells /mL)
15
5,000
700
0%
20%
40%
60%
80%
100%
120%
140%
H. triquetra
H. akashiwo
試験区
細胞数
ろ液
ろ液(0)
(1,000)
15
15→3
25
27→4
50
43→21
100
92→59
500
463→453
700
720→277
5,000 5,027→4,467
各試験区のI. galbana のみ添加した対照区に対する平均ろ水速度変動率(n=6)
図 4-2-12.C. antiqua 等赤潮プランクトン
存在下におけるろ水速度減少率
(生残試験)
図 4-2-13 にタイラギに対する C. antiqua 培養株を用いた生残試験結果を示す。
試験期間 48 時間の観察中にへい死は見られなかった。培養された C. antiqua に曝露されたタ
イラギは、対照区のタイラギと同様外套膜が殻の最外縁部まで拡大し通常の反応を示した。し
かし曝露 4 時間経過以降外套膜が若干収縮し、試験終了時まで変化がなかった。側面から観察
すると出入水口が閉鎖または収縮しており、低密度曝露試験時に確認されたものと同様の忌避
反応が見られる。この事からタイラギの稚貝は C. antiqua に対しある程度の抵抗性を持つもの
と推測される。
今回の試験条件においてはへい死には至らなかったものの、長期的な生残率および干出、貧
酸素状態などの複合要因について今後検討が必要である。
図 4-2-13.C. antiqua 培養液を曝露されたタイラギの生残率変化
(要約)
表 4-2-11 に本年度の試験結果を要約した。マガキについては幼生及び個体のサイズ、アサリ
については干出による K. mikimotoi 曝露が生残等に与える影響を試験し、アワビについては
酸素供給及び概日リズムを利用した救命効果確認を試験した。加えて、サザエの K. mikimotoi
曝露が生残等に与える影響及びタイラギ稚貝に対する C. antiqua 等影響評価を行った。アサ
リについては、K. mikimotoi の最高細胞密度に近い曝露密度においても、少なくとも 72 時間
程度ではへい死が発生しないことが判明した。従って、二枚貝漁場において降雨等による低塩
分環境にさらされている際に、赤潮が漁場へ流入したとしても両者の相乗作用によって、へい
死率が著しく上昇するとは考えにくい。一方、ろ水速度で評価した場合、マガキ付着直後稚貝
では 500 cells/mL 以上でろ水速度の低下が発生するが(大村湾産強毒培養株)、36 時間後に
は回復することが判明した。こうした条件が長期化すると、摂餌、呼吸、成熟への影響を与え
ることが示唆された。また、マガキ、アサリともに低塩分ストレスによるろ水速度の低下は確
認されず、少なくとも両者については低塩分ストレスによりろ水活動は阻害されないことが示
唆された。
K. mikimotoi の赤潮では、磯根資源の重要魚種であるアワビの大量へい死が観察されてい
るが、今回の試験結果においても、K. mikimotoi 人工培養株がサザエに対して強く致死活性
を示した。昨年度低酸素がアワビに対して極めて強く致死活性を示すことが室内試験で見いだ
されたが、液体酸素を添加することで、致死細胞密度に達した赤潮海水中においても生残率が
飛躍的に向上することが確認された。これまで K. mikimotoi に対する救命手法がアワビのへ
い死機構に関してさらに精査するとともに、同様に被害が集中しているトコブシやサザエ等の
巻貝に対する影響も検討する必要があろう。
今回 30 cells/mL という低密度の C. antiqua 環境中においてもタイラギのろ水を伴う呼吸・
摂餌に対して制限がかかることが示唆された。また、H. akashiwo 試験区についても高濃度試
験区において、ろ水の強い制限が確認された。一方高密度の試水を用いた短期間の生残試験に
おいては、へい死が確認されなかった。このことからタイラギは短期間の C. antiqua に曝露
されたとしても、短時間での大量へい死等は考えにくい。しかしタイラギの生息する有明海に
おいて低密度試験として設定した細胞密度は毎年発生しうる程度であり、高水温や塩分濃度低
下等の他の環境要因と共に資源量の減少要因の一つとして考えられる。また、アサリ、サルボ
ウ同様に、C. antiqua は二枚貝に忌避されることが明らかで、二枚貝による除去能力があまり
期待できない種類であることも判明した。今後他の環境要因を含め、更に生理的反応を検討し
ていく必要がある。
(謝辞)
本研究において、飼育生物の給餌飼育や夜間の観察等において多大な協力を得た職員・契約
職員の皆様に厚く御礼を申し上げます。
表 4-2-11 カレニア属が貝類に与える影響評価(総括)
3 引用文献
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松山幸彦、永江彬、鈴木健吾、栗原健夫、橋本和正(2012) ヒラメに対する Chattonella antiqua
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水野健一郎、茅野昌大、野田 誠、宮村和良、福田 穣、松山幸彦、永江彬(2014) 平成 25
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