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全体会 - 筑波技術大学
第4回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 2008 年 10 月26 日 於:キャンパスプラザ京都 全体会 43 【パネルディスカッション】 「情報保障支援の新たな可能性を探る ~医学・薬学・理工学系での取り組みから~」 司 会: 松﨑丈氏(宮城教育大学 特別支援教育講座) パネリスト:「滋賀医科大学における聴覚障害学生就学支援の経験」 垰田和史氏(滋賀医科大学 社会医学講座衛生学部門) 「薬学部における聴覚障害学生のための情報保障」 伊藤芳久氏(日本大学 薬学部医療薬学系医療薬学教育・研究部門) 「学際的分野での研究職における情報保障体制」 中野聡子氏(東京大学 先端科学技術研究センター人間情報工学分野) 指定討論: 白澤麻弓氏(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター) 討論の柱 ①医学系・薬学系・理工学系における聴覚障害学生支援の問題点 ②各専門領域における情報アクセシビリティを目指した教員と 聴覚障害学生の取り組み ③高等教育一般における情報アクセシビリティやその支援の新たな可能性 企画趣旨 近年、高等教育機関では、聴覚障害学生支援の取り組みが広まってきており、大学での 支援体制作りや情報保障支援の具体的な技術などのノウハウの蓄積もみられるようになっ た。しかし、医学系・薬学系・理工学系においては、情報保障を含む情報アクセシビリテ ィとその支援の取り組み事例が少ない現状にある。専門知識や技術を要する実践的(臨床 的)な科目に対する支援の経験が少なく、従来の学生による支援方法(例えばノートテイ クやパソコンノートテイク)では効果的な支援が難しい。特に、医学系・薬学系では、欠 格条項の撤廃により高等教育の情報アクセシビリティがより重視されるものとなっている。 こうした現状では聴覚障害学生や支援担当者は、その時その場で支援方法を工夫したり どのような支援体制を構築できるのか模索せざるをえないだろう。医学系・薬学系・理工 学系の分野で学ぶ聴覚障害学生の学習環境を保障するために、情報アクセシビリティの主 な当事者となる教員と聴覚障害学生は、どのような支援方法や体制構築を実施する必要が あるのかを検討していくことが急がれる。これら特定の分野における支援の課題の中には、 広く高等教育支援一般にも共通するものも含まれると思われる。 そこで、今回は、医学系・薬学系・理工学系で先駆的な取り組みを行ってきたパネリス トからその経験をお話いただき、それぞれの専門分野の教育における情報保障支援の現実 的な課題、その中で行われた工夫や方法などの具体的な取り組み事例を学ぶとともに、教 員と聴覚障害学生にとって高等教育における「情報アクセシビリティ」とは何かについて 検討していきたい。このように、医学系・薬学系・理工学系における数少ない支援の事例 を深く掘り下げて、実際に生じている情報保障支援の課題とその支援のあり方を多角的に 検討することで、高等教育における情報保障支援の新たな可能性を展望していきたいと考 える。 44 第4回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 2008 年 10 月26 日 於:キャンパスプラザ京都 話題提供「滋賀医科大学における聴覚障害学生就学支援の経験」 滋賀医科大学 45 社会医学講座衛生学部門 垰田和史氏 →拡大図 P 47 46 第4回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 2008 年 10 月26 日 於:キャンパスプラザ京都 スライド 9 拡大図 47 話題提供「薬学部における聴覚障害学生のための情報保障」 日本大学 薬学部医療薬学系医療薬学教育・研究部門 伊藤芳久氏 はじめに 高等教育における障害者に対する支援は、 「身体に障害のある者に対して受験の機会が確保さ れるとともに、身体に障害のある学生について、施設整備上および学習・生活上の支援体制の 整備に努めること。」などのように大学を超えて基準化されつつあるが、スロープのような目に 見える構造物の整備とは異なり、聴覚障害者への修学支援対策については常に整備されるわけ ではなく、新しく聴覚障害をもつ入学者を迎えた時点で考えることが大半である。本学も例外 ではなく、 「T 君」が入学する以前は、聴覚障害を有する学生の修学支援体制ついては何も考え ていなかった。そのような状況から、語学等の一部の講義を除き、ほぼすべての講義、実習講 義に情報保障を導入するに至った経緯・過程について述べる。 1)薬学部での情報保障の導入までの問題点 ① 情報保障に関して、本人も教職員も知識がない。 ② 障害に対する認識不足と誤解 ③ 人的資源の確保のための手段がわからない。 薬科大学(学部)では、月曜~金曜(または土曜日)まで授業の空き時間が少なく、高 学年になればなるほど専門科目が多くなるとともに、国家試験の勉強に時間をとられる。 このため学生によるノートテイクはほとんど不可能である。 本学の場合、他学部に人的資源を依存するのも不可能(地理的条件) ④ 支援費用の確保 2)問題解決の方法 ① 特別担任を配置(聴覚障害学生のニーズや健康状態を把握) ② 学外の情報保障に関し深い知識を持つ方々・組織に相談 ③ ノートテイクボランティアサークルの結成と要約筆記能力の養成 ④ 学内支援体制の確立と教職員に対する情報提供・依頼 ⑤ 学部として対応を進める(個人的な対応では限界がある)。 3)情報保障の実際 一日に 4 時限の講義があるとして、5 日間のノートテイクを実施するには、 20X2 すなわち延べ人数として40名程度の要約筆記者が必要 ① パソコンノートテイク (情報保障用席を教室に設置、固定) ② ノートテイク (千葉県聴覚障害者センターとボランティアサークルのペア) ③ 手話通訳(高学年のみ) ④導入科目:語学・体育以外のほぼ全ての講義・実習講義 *実務実習は、聴覚障害をもつ薬剤師がいる病院で実施 ⑤ 問題点:通訳者の専門用語への対応、筆記者のペアリング 4)学部におけるその他の成果 ① 入学試験における座席の配慮(監督者の口の動きが見える座席に) ② 薬学部手話サークルの立ち上げ 聴覚障害を正しく理解し、手話でコミュニケート出来る薬剤師 48 第4回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 2008 年 10 月26 日 於:キャンパスプラザ京都 5)医療制度・法改正 薬剤師法の改正 身障者への免許付与:絶対的欠格条項から相対的欠格事由に) 障害者に対して「門戸は開いた・・・・」 欠格事由がなくなったわけではない。 国家試験受験時の配慮 6)薬剤師になるための薬学部教育は 6 年制へ移行(平成18年4月から) 聴覚障害者に対して問題となる事項 ① コミュニケーション能力の重視 患者への薬に関する情報提供、服薬の指導 ② 違法性の阻却 共用試験:臨床的客観能力試験(OSCE)の導入(4 年次) ③ 実務実習の充実(長期化)病院、薬局(5年次) ④ ②および③については、制度自体が現在の段階でまだ確立していない。実施もされて いない(6 年制学部の現在の最高学年は3年生) *平成18年度から開校した 4 年制薬学部は、薬剤師養成学部ではない。 まとめ 聴覚障害を有する学生に対する就学支援体制づくりは、学外の支援機構に依存することが多 いため、体制が確立するまでにはそれなりの時間と地道な努力が必要で、完全実施までは長い 目で見る必要がある。 教職員の理解が得られ、一度修学支援体制が確立すれば、その後の対処に関してはさほど難 しくはないが、人的資源の問題から薬学部における複数の障害学生への支援体制は困難な場合 も想定される。また、総合大学の場合、このような修学支援体制に関する情報は他学部にも応 用可能であり、積極的に活用できるとよい。本学においても、出来るだけ多くの情報を、現在 聴覚障害学生が在籍している学部と共有できるような活動を開始しているものの、学部によっ て対応に温度差も感じられる。 また、進学前に本人に対して大学での情報保障に対する知識や、大学側にどのように要望を 伝えるのかなどについて、わかりやすく教えると、不安感を軽減でき、入学後の心構えを持つ ことができ、入学後の活動もしやすくなる。 薬学部の 6 年制への対応は、医学部や歯学部とは異なり、いまだ教育課程そのものに未実施・ 未確定の部分が多いため、情報アクセシビリティーに関しては今後の課題となるものが多い。 聴覚障害を有する学生の共用試験 OSCE や実務実習などへの対応については、個々の大学で対処 するのではなく、薬学教育全体(機構)の中で考えていく必要がある。 49 話題提供「学際的分野での研究職における情報保障体制」 東京大学 先端科学技術研究センター人間情報工学分野 50 中野聡子氏 第4回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 2008 年 10 月26 日 於:キャンパスプラザ京都 51 NOTE 52