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里 づ く り の 「 わ 」 - TOP of くらしかた・ねっと

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里 づ く り の 「 わ 」 - TOP of くらしかた・ねっと
は
はじ
じめ
めに
に
21世紀は、環境の世紀と言われています。我が国でも国民の環境に対
する関心の高まりを背景として平成5年に環境基本法が制定され、食
料・農業・農村基本法(平成11年)や改正土地改良法(平成13年)において
も、環境との調和への配慮が謳われました。本県には広い県土に様々な
気候風土や伝統文化が存在し、多様な生態系が息づいています。
しかし、近年、本県の農村地域においても自然環境への負荷の増大や
地域固有の伝統・文化の衰退が懸念されています。また、地球規模の環
境問題や安全な食に対する県民の関心も高まっています。これまでの効
率優先、消費的な社会構造への反省から、環境にやさしい暮らしが多く
の人々に支持されています。こうした中、これまでは当たり前のものと
して享受してきた農村の豊かな自然や恵みについて、もう一度考えてみ
る時ではないかと思います。
現在、各地で、「食の安全性の確保」や「循環型社会の形成」に向け
た様々な取り組みが始められています。農業農村整備の分野においても
「いのち」「循環」「共生」の視点から国の長期計画が策定され、様々
な政策が展開されようとしています。政策を実現する事業の進め方につ
いても、地域住民と一体となり、また、環境との調和にも配慮したもの
への転換が求められています。
このため、本県においても環境との調和に配慮した農業農村づくりや
安全・安心な農産物の提供などの取り組みを進めることが必要と考えて
います。さらに、私たちの故郷の魅力や活力を一層高めるためには、こ
れらの取り組みを契機に、地域において新たなコミュニティを形成する
ことが重要であると考えています。
このような取り組みは、未だ緒に就いたばかりであり、今後、多くの
議論と多くの試行錯誤が必要だと思います。本手引きの発刊もその試み
の一つであり、本書が地域における話し合いのきっかけや取り組みの一
助になれば幸いです。
平成16年11月
新潟県農地部長 本 間 泰 造
目 次
第1章 里に生きる
地域の魅力をもう一度考えてみよう
新潟の農業農村の将来を考えるために
1
2
3
第2章 里づくりのすすめ
1 里づくりを考えてみよう
9
1 はじめに
2 里づくりの「わ」
10
12
2 まわりを見てみよう
1 仲間を募り、発見・提案しよう
2 地域を再点検してみよう
13
16
3 計画づくりをすすめよう
1 将来の姿を共有しよう
2 行動計画をつくろう
4 みんなで行動してみよう
第3章 里づくりのために
1 里づくりの4つのヒント
2 伝統文化
1 こころの文化
2 くらしの文化
18
19
20
21
22
24
27
3 生態系
1
2
3
4
はじめに
生きもの調査から配慮種の選定まで
配慮計画づくり
移入種
42
46
49
51
4 水循環
はじめに
有効利用するために
農業用水の多面的な役割
水質改善の取組み
水辺の美化
54
56
57
59
61
はじめに
農村景観のとらえ方
その場にふさわしく
謙虚でさりげなく
63
64
68
69
第4章 環境との調和に配慮した農業農村整備事業
1 農業農村整備事業の活用
71
1
2
3
4
5
5 景観
1
2
3
4
1
2
3
4
5
はじめに
食料・農業・農村基本法の4つの理念
土地改良法の改正
環境配慮のための調査計画の仕組み
新潟県の環境対策
72
74
77
80
81
2 事業実施において
1 施工時の留意点
2 環境に配慮した資材
3 モニタリング
第5章 にいがたの農村地域の生きものたち
参考資料
83
84
86
87
115
第1章 里に生きる
-1-
地域の魅力をもう一度考えてみよう
新潟には5,000に近い数の農業集落があり、これらの集落は、それぞれ様々な歴史や
風土のもとにひとつの共同体として暮らしを営み、集落固有の生活習慣や文化、土地
への愛着を育んできました。しかし、高度成長時代においては、この固有の生活習慣
や文化の一部を捨て、標準的なものに近づこうとするあまり、地域性の喪失を招くこ
ともありました。
21世紀を迎えた現在、効率性を優先した規格大量生産型の工業社会から、多様化・
ソフト化・省資源化を基本とする循環型の社会への転換が求められています。県民の
意識や生活スタイルにおいても、調和と共存、健康やくらしの心地よさ、美しさなど
に重きをおく傾向が強まり、ものとこころ、競争と共生、都市と農村などの二元の調
和への途を探りはじめています。
このような中、「いのちとくらし」の根幹をなす食料と、それを支える農業農村の
価値が再認識され、県民生活の安全と安心の礎としての役割への期待が高まっていま
す。新潟の恵まれた自然や新鮮な食べ物、美しい四季の移ろいなどは多くの人に支持さ
れ、誇りとなっていますが、この豊かさを守り育て、次の世代へ引き継ぐことは、現
代を生きる私たちの務めと考えます。
近年、過疎化や高齢化に伴い、農村地域の活力の低下が懸念されていますが、価値
観が転換しようとしている今こそ、農村に暮らす人たちだけでなく周辺の都市に暮ら
す人たちも含めて、もう一度、私たちの生きる地域について考えてみることが大切で
す。
私たちの美しい地域をいつまでも(中之島町)
-2-
新潟の農業農村の将来を考えるために
いのちを育む視点から
かつて、新潟の先人たちは地域の資源や四季折々の自然の恵みをできる限り活用し
て暮らしていました。米作りを中心とした生活のリズムは、今も地域の伝統や文化と
して継承され、地域固有の生活の知恵や景観として息づいています。五穀豊穣を祈願
する祭礼を始め、地方色豊かな食生活、稲わらなどから作る日用品などが、雪国の暮
らしに根付き、新潟の魅力を高めています。
近年、交通・通信手段の発達や克雪・利雪の取り組みの進展によって、本県の農村
の暮らしぶりも昔とは比べものにならないほど便利で快適なものになっています。
しかし、こうした暮らしも、石油や電気などの様々なエネルギーを使うことによっ
て成り立ち、地域の様々な資源との関わりが年々希薄化しています。また、子供たち
の遊びにも自然との関わりが薄れ、かつては遊びの中から学んできた地域で生きる知
恵を会得できない状況です。
このため、いのちを育んでくれる大切な地域の恵みや生きる術を、どのように子供
たちに伝承していくかが課題となっています。この地で暮らすことの意義を伝えてい
くには、地域での農業体験や、地域でとれたものを使って作って食べる食育の取り組
み、世代を越えた絆づくりなどが大切と考えられます。
夏祭りも子供たちには大切な思い出(中之口村)
-3-
自然環境との調和の視点から
新潟の農村には、米作りのために拓かれた水田と暮らしを支えてきた里山がありま
す。先人たちは、その土地の活力をできる限り引き出すことによって、多様な生態系
を育み、美しい景観を形成し、豊かな水源を創り、自然との共生や調和を図ってきま
した。
しかし、中山間地域で進行している過疎化・高齢化は、豊かな里山を荒廃させ、地
域の生態系や景観にも深刻な影響を与えています。また、地すべりや土石流などの自
然災害の増加に加え、水源の枯渇など、下流域の人々の暮らしにも影響を与えること
が懸念されています。
一方、都市周辺の農村地域でも、効率を優先した開発や営農などによって、かつて
は普通に見られたメダカやドジョウなどが少なくなっています。また、外来魚などを
代表とする移入種の無秩序な持ち込みや稀少種の心ない採取は、これまで保たれてき
た地域の生態系のバランスを崩しています。
生きものの多様性を保全していくことは、広範な食物連鎖を守っていくことであ
り、現在の暮らしの基盤だけではなく、長期的な人間生活の安全性を支えるもので
す。自然環境と調和した暮らしは、私たちがこの土地で暮らし続けるために守らなけ
ればならない大切なルールです。地域における土地利用のあり方や流域の生態系の連
鎖についてさらに理解を深め、自然環境との調和について考えることが大切です。
長い年月守られてきた森や棚田(栃尾市)
-4-
農業生産の視点から
新潟には平野部を中心に約18万haの農地があり、その約8割は水田で、そこでは米
作りを中心とした農業が行われています。今日、整然と広がる水田も、かつては毎年
のように水害を受ける地域でしたが、農民たちは治水事業や幾多の土地改良事業を通
して洪水と闘い、栽培技術を向上させ、現在、おいしい米の生産地として全国から高
い評価を得ています。
しかし、近年の情報通信や物流手段の発達は、地域産業であった農業をも社会経済
のグローバル化の渦中へ引き入れています。国際化社会の中で我が国の農業の新たな
展開を目指して、米政策改革が進められています。米に特化した本県農業も担い手を
中心とした企業的経営への転換や園芸作物の導入など複合化による経営体質の強化が
求められています。
一方、今日、BSE(牛海綿状脳症)や鳥インフルエンザなどの発生を契機として、
食の安全性に対する消費者の関心が高まっています。地産地消やスローフード運動な
ど地域の食を大切にしようとする取り組みが始められ、農産物にも生産地や生産履歴
を明らかにするトレーサビリティが導入されようとしています。
こうした世の中の動きに呼応して、これからの農業は、効率優先の生産スタイルか
ら安全安心を基調としたものへ転換が求められています。それには意欲に満ちた後継
者や理解者を育て(農育)、地域の環境への負荷をできる限り軽減し、安全で安心な
農産物を生産する環境保全型(循環型)農業への取り組みが必要となっています。さら
に、消費者との新たな信頼関係を構築するため、農業農村のもつ多様な役割や機能に
ついて理解を深めてもらう取り組みも重要です。
太陽や水、土など自然の恵みが実りとなる
-5-
これからの里づくり
これまでの農村づくりは、農業生産性の向上や農業経営の合理化、良好な農村の環
境形成などを目指すものでしたが、経済性や管理上の効率性を重視したため、生態系
や景観等への負荷の増大や、地域の大切な連帯や協業意識を弱める側面もありまし
た。
これからは、農村の環境が農家と地域住民の共有財産であるという認識に立ち、農
家が中心となって進めてきた農村づくりから、地域住民の参画を得ながら進める「里
づくり」へと発展させていくことが重要です。
「里」とは、農業農村の基本的単位である集落が最小の範囲で、隣の集落や旧村を
含める場合や、河川や用排水路の流域などを表す場合もあります。ホタルが舞う集
落、小学校のつながりを中心とした集落のまとまり、サケやマスが遡上する流域な
ど、「里づくり」の舞台は様々です。
「里づくり」は、地域住民とともに、地域の自然や文化などの資源、自慢できるも
の、改善すべきものなどを発見することが第一歩です。そして、地域の持つ豊かさや
美しさに誇りと愛着を感じながら、地域の宝物を守り育て、次の世代につないでいく
ことが、これからのにいがたの「里づくり」と考えています。
雪深い地域では春の訪れが待ち遠しい(小千谷市)
-6-
新潟県の魅力や誇りについて(県民意識調査から)
新潟県の魅力や誇りについて、県民の多くは「海や山、川などの恵まれた自然」、「新
鮮でおいしい食べ物」を支持しています。また、「現在、住んでいる地域にこれからも
住み続けたいと思いますか」の問いに、4人のうち3人の方々が住み続けたいと答え
て いま す 。
問
他 県 に比 べ て新 潟 の魅 力 や 誇り は 何だ と 思い ま すか ( 3つ ま での 複 数回 答 )
海や山、川などの恵まれた自然
77%
新鮮でおいしい食べ物
52%
整備された高速交通網
26%
23%
温泉やスキー場などの観光資源
22%
人情味あふれる県民性
15%
住みやすく、
ゆとりのある住環境
豊かな農林水産業
14%
変化に富んだ気候
12%
0
20
40
60
80
(%)
問
現在 住 んで い る地 域 にこ れ か らも 住 み続 け たい と 思い ま す か
無回答
1%
県外に移りたい
4%
わからない
11%
県内の他の地域
に移りたい
8%
現在住んでいる
地域にこれから
も住み続けたい
76%
H15.11 新潟県総合政策部
-7-
これからの農村地域や農地などの整備のあり方(県民意識調査から)
今後の整備のあり方については、「経済効率の向上を図りつつ、環境との調和にも配
慮する」との回答が最も多く、過半数を占めています。「…環境との調和を最優先す
る」との回答を併せると『環境との調和を重視した整備』を望む人が全体の71%を占め
ています。
また、「最も環境に配慮すべき項目はどのようなものか」と、上記の回答者を対象に
質問したところ2人に1人が「生態系」と答えています。
問
今後の整備のあり方について、あなたの考えに最も近いものはどれですか
その他
0%
無回答
6%
わからない
12%
農村は自然に恵ま
れているので、環
境との調和に配慮
する必要はない
8%
費用第一で、環境
との調和に配慮す
る必要はない
3%
問
経済効率性や維持
管理の観点よりも
環境との調和を最
優先する
17%
経済効率の向上を図りつつ、
環境との調和にも配慮する
54%
田園整備において最も環境に配慮すべき項目は
その他 1%
親水 3%
無回答
6%
景観
6%
水 質
35%
生態系
49%
H14.3 新潟県総合政策部
-8-
第2章 里づくりのすすめ
-9-
2ー1
里づくりを考えてみよう
2ー1ー1 はじめに
里づくりを進めるためには、人の「わ」を広げていくことが大切です。みんなで将
来の姿を話し合ってみましょう。この時、地域を再点検し、「人」、「土地」、
「水」、「景観」、「伝統文化」など地域の資源を見直すとともに、まわりの地域の
ことも考えながら、急がず、じっくり語り合いましょう。
ヒント!
1 広げよう 人の「わ」
里づくりにとって、もっとも大切なものは地域の人の力です。地域には、遊び上手な
子供たち、元気いっぱいなお父さん、笑顔がすてきなお母さん、料理自慢のおばあさ
ん、もの知りおじいさんなど様々な人たちがいます。素晴らしい人たちとの新たな出会
いをつくり出し、みんなで大きな輪にしていくことが大切です。一人ではどうにもなら
ないことも、人が集い和むなかから、思いがけない元気や知恵がでてくるものです。
2 見つけよう 地域の宝もの
長年、暮らしている地域でも、知らないことは多いものです。虫を追いかけた林やメ
ダカを捕った小川は健在ですか?お祭りや年中行事のにぎわいはどうでしょう。また、
静かに「土地」の歴史を語る鎮守様、お地蔵様、庚申塚なども大切な地域の宝もので
す。
一度、ふるさとを見つめ直してみませんか。先人たちが残してくれた悠久の想いを聞
けるかもしれません。ふるさとを離れた人たちは、こうしたものを「心の宝物」として
思い出し、生きる力としています。
- 10 -
3 語り合おう 将来の姿
「こうだったらいいね」「これだけは直そう」など、みんなで将来の姿について語り
合いましょう。年代や性別などによって、様々な意見があると思います。みんなの意見
を丁寧に聞き、合意できたことから行動に移してみましょう。
今、すぐにはまとまらないことも、10年、20年、30年先の地域の姿について話し合
うことから方向が見えることがあります。
4 つながっているよ みんなのまち
山に降った雨や雪が小川となり、合流しながら河川となって、海に注いでいます。そ
の流域には、様々な生きものが棲み、みんなのくらしがあります。
広域的な視点で私たちの地域について考えてみることも大切です。
地域で将来の姿を語る時、まわりの地域の状況や活動も参考になるので、様々な情報
を集めてみましょう。また、県や市町村、水土里ネットなどには多くの情報があるの
で、問い合わせてみましょう。
- 11 -
2ー1ー2 里づくりの「わ」
里づくりを進めるには、現状を把握することから始め、計画をつくり、それを実践
してみましょう。
また、その結果を評価・検討しながら、次の計画づくり、実践・行動へと発展させ
ていくことが大切です。
■ポイント■
○ 里づくりでは、参加者の「わ」を地域の「わ」、広域的な「わ」へと、しだいに膨ら
ませ、いつまでもつながる大きな「わ」にしていきましょう。
○ 里づくりは、地域自らが「将来の姿」を描き、自分たちの計画をつくることが大切で
す。そして、その計画や行動の結果を振り返り、新たな発見・提案につなげていきまし
ょう。
仲間を
募ろう
SEE
SEE
DO
DO
みんなで
行動しよう
里づくりの
発見・提案
しよう
「わ」
地域を
再点検しよう
行動計画を
つくろう
将来の姿を
共有しよう
PLAN
PLAN
- 12 -
2ー2
まわりを見てみよう
2ー2ー1 仲間を募り、発見・提案しよう
里づくりは、仲間を募ることから始まります。いろいろな人に集まってもらい、
「見つけたこと」や「気になっていること」などの発見・提案をみんなに話し、みん
なの考えを聞いてみましょう。
■ポイント■
○ 里づくりには、多くの仲間が結集することが大切です。男性・女性、子供から高齢
者、多彩な職業の方々などバランスよく参加できるようにしましょう。そのためには、
調整役になった人は、多くの人たちが参加しやすい雰囲気づくりや、みんなの意見を大
切にすることなどを心がけることが大切です。
○ 集落や旧村、市町村を越えた広域的な課題がある場合や専門的な知識が必要な場合
は、行政や専門家にも参加してもらうことも有益です。この時、市町村の窓口に相談し
たり、専門家の登録制度の活用やNPO(非営利組織)へも呼びかけてみてください。
里づくりを
構成する人たち
専門家・NPO
地域住民
調整役
行 政
合意形成を担う調整役の心得
みんなの意見を大切に
笑顔を忘れずに
なごやかに、おだやかに
基本的な考えを共有しよう
長い目で見てみよう
粘り強く、継続的に
- 13 -
専門家の登録制度
登録制度等
内
容 (人材の紹介)
所
管
農村整備リーダー
県の養成講座を受講し、ワークショッ
プの手法に通じた人たちです。
県農地部農村環境課
中山間地域の地域興しを指導する人た
ちです。団体の派遣要請に応じ、地域興
しの研究会や講習会などに指導員として
派遣されています。
県農林水産部
地域興し
マイスター
約 280名 登 録 ( H15現 在 )
(社 )新 潟 県 農 林 公 社
TE L025-281-3480
約 30名 登 録 (H15現 在 )
環境保全活動に取り組む人たちを指導
しています。自ら環境保全活動を行った
環境カウンセラー
り、環境パートナーシップ作りにも取り
組みます。
ニューにいがた
アドバイザー
地域づくりに関して専門的な知識・経
験を持つ人たちです。様々な課題に悩む
地域を支援しています。
環境相談員
環境に関する専門的な知識を持ってい
る人たちです。農林水産省では、環境相
談員を人材バンクとして登録し、活用で
きる制度を予定しています。
各市町村の公民館活
動・生涯学習活動等
環境省
新 潟 県 環 境 カウンセラー協 会
約 40名 登 録 (H15現 在 )
(財 )ニ ュ ー に い が た 振 興 機 構
TE L025-284-0808
県総合政策部地域政策課
農林水産省北陸農政局
TE L076-263-2161
約 60名 登 録 (H15現 在 )
市町村の公民館で、専門家を招いての
学習会や講座など様々な活動が行われて
います。
市町村
参考資料
参考資料等
内
容
農 業 農 村 整 備 へ の ワーク
ショップ手 法 導 入 テキスト
ワークショップの進め方や事例を
紹介しています。
新潟一村一価値づくり
住民参加による地域づくりの事例
を紹介しています。
緑 の 山 里 地 域ビ ジ ョ ン
中山間地域におけるワークショッ
プの事例を紹介しています。
づくりとらのまき3
にいがたまちづくり
辞典マチダス
まちづくりの目的や事例を紹介し
ています。
発
県農地部農村環境課
(財 )ニ ュ ー に い が た 振 興 機 構
TE L025-284-0808
県 総 合 政 策 部 地域政策課
(財 )ニ ュ ー に い が た 振 興 機 構
TE L025-284-0808
* 新 潟 県 庁 代 表 電 話 番 号 025-285-5511
*詳細については、インターネットを活用してください。
- 14 -
行
コラム
棚田サポーターがくれた3つの宝もの
平成14年度ECHIGO棚田サポーター総括研修会
活動報告(牧村高尾地区)より
棚田サポーターがくれた3つの宝もの
ECHIGO棚田サポーターが発足した当時から、サポーターを受け入れている牧村高尾
地区の区長さんが、サポーターとの交流によって3つの宝ものをもらったと語ってくれ
ました。
○1つ目の宝ものは『物』
1つ目の宝ものは、水路ができたことです。
地域の人たちとサポーターが一緒に額に汗して、土水路に他の地域からもらったU字
フリュームを布設しました。最後の1本を布設した時には何とも言えない気持ちになり
ました。水路が整備されたことによって、棚田の隅々にまで用水がいきわたるようにな
り、美味しい米が安定してとれるようになりました。
○2つ目の宝ものは『心』
2つ目の宝ものは、サポーターと地元の交流です。
県内各地から参加しているサポーターの皆さんとふれあうことによって、地域に元気
が出てきました。交流が生み出す地域の活力は、中山間地域を活性化するうえで大切だ
と考えています。
○3つ目の宝ものは『結(ゆい)』
最後に、一番大切な宝ものは、地域にボランティアの心が芽生えたことです。
サポーターとの交流がきっかけで、“今度は、自分たちが何かをしよう”というボラ
ンティアの機運が地域で盛り上がってきました。地域の非農家の人たちも棚田サポータ
ーの活動に参加するようになり、他の地区へも手伝いに行くようになりました。
このようなことを「結(ゆい)をかえす」と高尾では言います。
また、「めだかの里づくり」に取り組みました。めだか池の整備、植栽、せせらぎの
石積み、看板など、何もかもを地域の人達が自分達の手でつくりました。地域に芽生え
たボランティアの気持ちが、昔なつかしい「めだかの学校」の風景を高尾によみがえら
せました。今では、めだかの泳ぐ姿が訪れた人々の目を楽しませ、やすらぎを与えてい
ます。
★宝ものの輝き★
「サポーターの皆さん、これからも末永い
お付き合いをお願いします。」という区長さ
んの言葉に、会場は大きな拍手に包まれまし
た。ECHIGO棚田サポーターの活動を通じて、
宝ものをもらったのは集落だけではありませ
ん。サポーター自身も棚田のつくりだす美し
い景観や自然とのふれあい、そこで暮らす人
達の温かさとふれあうことによって、たくさ
んの喜び、充実感、元気をもらっています。
- 15 -
〈ECHIGO棚田サポーター事務局〉
2ー2ー2 地域を再点検してみよう
共通の認識を持つため、地域の課題だけでなく、地域の宝ものや良いところも見つ
けましょう。
■ポイント■
○ 地域の特性や現状について共通の認識を持つために、みんなで地域の再点検をしてみ
ましょう。その時、先人たちが残してくれた恵みは何か、将来に何を残すべきか考えて
みましょう。
○ 地域を楽しみながら歩いてみて、未来につながる地域の宝ものを探しましょう。
私たちの周りには様々な生きものが生息しています。どんな生きものがいるのか、実際
にため池や小川などを調べてみましょう。
ヒント!
1 昔から大切にしてきたことやもの
①小学校に立つ桜の樹
②冠婚葬祭時などの隣近所(組)の助け合い
③由緒ある施設や史跡、年中行事
④花見や紅葉狩りによい場所
⑤美しい生け垣や花壇がある所
⑥お 正 月 の お せ ち 料 理 や 地 域 の 保 存 食
⑦子供たちの遊び場や冒険の場
⑧鎮守様のしめ縄づくり
⑨生き物の生育・生息地
⑩ 清水の湧く所、流れる所
2 今、気になっていることやもの
①子供たちが外で遊ばなくなった
②生きものや土に触れる場所、機会が少ない
③周辺の景観にふさわしくない建物
④汚れのひどい水路やため池
⑤ 土砂崩れや落石の危険がある所
⑥カブトムシやクワガタムシが捕れなくなった
⑦見通しの悪い危険な場所
⑧「危ないぞ」と叱ってくれる人がいない
⑨里山が荒れている
⑩ 電柱が多い路地
3 これからも残していきたいことやあったらいいなと思う場所
①家や地域での餅つき、餅まき
②地域の夏祭りやわらべ唄、昔話
③魚がたくさんいる水路やため池
④たくさんの花を楽しめる所
⑤自然観察のできる雑木林
⑥昆虫などの小動物の生息場所
⑦スキーが出来る丘や台地
⑧かくれんぼが出来る空間
⑨心安らぐ遊歩道や散歩道
⑩果実の食べられる樹木がある公園
⑪ 昔 の よ う に 鮭 の のぼる 川
- 16 -
お地蔵様
山の恵
- 17 -
2ー3
計画づくりをすすめよう
2ー3ー1 将来の姿を共有しよう
地域の現状を評価し、いろいろな意見を出し合い、将来の姿についてみんなで大い
に語りましょう。そして、地域はどうあるべきか、みんなで意識を共有しましょう。
■ポイント■
○ 地域の再点検により明らかになったことを踏まえ、将来のあるべき姿について、みん
なで意見を出し合い、相互理解に努めましょう。その時、お互いの意見をまとめて、文
章や絵にしてみましょう。目標の柱となることを、箇条書きにして、公民館に張り出す
など、みんなで認識を共有することが大切です。 ○ 新たな観点から地域を見つめ直すことも大切なことです。多くの人が意見を出し合う
手法のひとつであるワークショップの開催のほか、地域の歴史や環境に詳しい人、NP
O(非営利組織)などからアドバイスを受けることも考えてみましょう。
みんなで地域を再点検
宝もの探索中
- 18 -
2ー3ー2 行動計画をつくろう
将来の理想の姿を実現するために、すぐできること(短期的な計画)と継続して話
し合っていくこと(長期的な計画)に分けて考えてみましょう。
伝統文化、生態系、水のつながり、景観など地域の資源の活用について遊び心を持
ちながら考えることが大切です。
■ポイント■
○ 将来の理想の姿を実現する方法について、人の力、費用、時間、地域間の連携などを
考え、地域だけでできること、できないこと、直ぐにできること、できないことに整理
してみましょう。地域だけでできることは、具体的な行動計画をたて実践に向けた体制
づくりを進め、地域だけではできないことや長期的な計画は、まわりの地域の情報や活
用できる制度などについて行政などからアドバイスを受けましょう。
○ 理想は高くしても、行動計画の目標設定を高くし過ぎると長続きしません。人が集ま
り、協力しあうことが一番大切ですから、遊び心や人・予算・時間の余裕を持って、元
気の出る工夫や楽しさを忘れないようにしましょう。
ワークショップの様子
みんなで夢を描こう・語ろう・かたちにしよう
- 19 -
2ー4
う
みんなで行動してみよう
里づくりの実践にあたっては、地域が一体となって進めることが大切です。
地域自らの手で里づくりのための行動を始めましょう。
■ポイント■
○ 実践・行動には、催しものや物づくり、保全活動など様々な取り組みがあります。地
域自らが行動し、多くの人たちが参加できるように努めましょう。
○ 伝統文化の継承や施設の維持管理などは、長期的な取り組みが必要です。あせらず、
ゆっくり取り組みましょう。 また、実践・行動(DO)の結果を繰り返し振り返り
(SEE)、次の「PLAN−DO−SEE」につなげ、里づくりの「わ」を大きく、永く
広げましょう。
大きく、永く里づくりの「わ」を広げましょう!
計画づくり
PLAN
SEE
DO
現状把握
評価・検討
実践・行動
池の清掃作業(十日町市)
- 20 -
第3章 里づくりのために
- 21 -
3ー1
里づくりの4つのヒント
私たちは、長い間、自然に働きかけ、その恵みを農産物という形で受け取ってきま
した。農業生産の場である農村地域は、まさに、いのちを育んできた場所といっても
よいでしょう。
これからも、それぞれの地域(里)で、土地や、自然などの地域資源を活かし、魅
力ある農村を持続していくことや、郷土への誇りや愛着を育てることは、たいへん重
要なことです。
里づくりにおいては、農業生産の視点だけでなく、足もとの自然環境やつながり合
っているいのちを育む視点を持ちながら、4つのヒント(伝統文化・生態系・水循
環・景観)などを参考に合意づくりを進めましょう。
■ポイント■
○ 里づくりを進めるときには、現在から将来のことだけでなく、今も引き継がれている
暮らしや歴史に裏打ちされた伝統文化を振り返ってみましょう。
○ 自然の豊かさは、水や土地だけでなく、そこに棲む生きものの生態系の多様性(にぎ
わい)も大切な要素です。
○ 安全で安心な農作物の生産には、農業用水の量と質の確保が大切です。広い視野での
水源かん養や水循環についても考えてみましょう。
○ 美しい農村の景観を保全することは、地域の人たちの誇りとなり、地域を大切にする
気持ちを育むことにもつながります。
主な地域資源
文 化 的 資 源( 遺 跡 、民 話 、伝 統 行 事 な ど )
自 然 資 源 ( 土 地 、水 、森 林 、生 物 な ど )
景 観 資 源 ( 自 然 景 観 、町 並 み 景 観 な ど )
人的資源 (お年寄りの知恵など)
川の流れ
地域特産資源
(米、酒、伝統食など)
雪割草
農村地域が持つ多面的機能
○国土保全
○水源かん養
○環境保全
○大気浄化
○伝統文化の継承
など
はさがけ
夕暮れの水田
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里づくりのための
3つの視点と4つのヒント
いのちを育む視点
自然環境との
調和の視点
農業生産の視点
4つのヒント
○伝統文化 ○生態系
○水循環 ○景観
●●の里
■■の里
自分たちの足もとを大切
にしながら、誇りや愛着の
持てる里へ
△△の里
○○の里
★★の里
◎◎の里
◇◇の里
□□の里
☆☆の里
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3ー2
伝統文化
3ー2ー1 こころの文化
里づくりでは、心の結びつき(絆)を深め、郷土への誇りや愛着を育むことが大切
です。
私たちの暮らす新潟には、祖先が長い時間をかけて形づくってきた稲作を基調とし
た有形・無形の伝統や文化が継承され、今も農村の暮らしの中に息づいています。そ
こには、手間の貸し借りで田植えや稲刈りなどを協力し助け合いながら暮らしてきた
村人の結びつきや生活する上での知恵、土地に対する愛着の心がたくさん詰まってい
ます。
戦後の生活様式の変化によって、農村地域の結びつきは希薄化していますが、新潟
には人と人との結びつきを大切にし、絆を深めていく要素がたくさんあります。
■ポイント■
○ 戦後の高度成長や営農の機械化などにより、生活様式は便利で快適になりましたが、
中山間地域においては過疎化、都市近郊では混住化が進み、農村地域の結びつきは希薄
化しています。里づくりのためには、改めて人と人との結びつきを考え、絆を深めてい
くことが大切です。
○ 農村の伝統的な行事は、農民の祈りや喜びが長い年月をかけて形になったもので、つ
らい農作業に明け暮れる農民のこころの支えとなり集落の絆を形成してきました。これ
からの農村社会においても、地域の人たちが心を通わせ、お互いが支え合うことが大切
で、これらを伝統的な営みから学ぶことも多いと思います。
全国的に行われている稲作に関係した年中行事
名 称
時 期
目 的
様 子
いのちが新しくなる
鏡餅を飾って神を迎える
さいの神(どんど焼き) 1月
病気にならない
正月の飾りを燃やす
種まき祭
5月
田の神を迎える
稲のいのちを迎える
さなぶり
6月
豊作を祈願
田植えの慰労もこめて
雨乞い
7月
雨が降るように
火を焚いて、祈る
虫送り
8月
害虫が増えないように
松明で虫を引き連れていく
風祭り・八朔
9月1日
台風がこないように
風の盆と呼ばれるところもある
月見
陰暦8月15日
豊作祈願
稲の穂の代わりにススキの穂を飾る
新嘗祭
11月23日
新米の奉納
新米を神に供え共に食べて感謝する
しめ縄ない
12月末
正月の準備
しめ縄を張って、神を迎える準備
1月1日
正月
はっさく
にいなめさい
出典:いのちが集まる、いのちが育む「田んぼの学校」入学編(社)農山漁村文化協会
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○ 農作業などの時に、互いに力を貸し合う「結(ゆい)」や互助的な組織である「講
(こう)」は農村コミュニティを支えてきましたが、近年、農業の機械化などに伴って
減少しています。農村コミュニティは、水田農業特有の個人の力ではできないことを地
域の大きな力で行う必要があったため、意見の対立を集約しながら、合意形成を図る地
域共同体としての秩序が保たれていました。
○ 地域の伝統的な行事・芸能も時代の変遷とともに姿を変え、その意義や謂れが伝わり
にくくなっています。これらを地域固有の生きた文化として、次世代にしっかり引き継
ぐ意義について考えてみましょう。
○ 土地の住人たちにとっては何気ないことと思われることも、他の地域の人にとって価
値のあるものに見えるかもしれません。こうしたことは、他の地域の人たちとの交流に
よって気付かされることが少なくありません。様々な人たちと情報交換を行いながら合
意形成を図るワークショップなどの新たな手法を取り入れてみることも大切です。交流
の輪を広げるなかで、地域の情報を積極的に発信してみましょう。新たな発見が、郷土
への誇りと愛着を呼びさますかもしれません。
にいがたの年中行事あれこれ
1月 さいの神
小千谷市他
2月 田遊び神事
佐渡市
3月 浦佐毘沙門堂裸押合祭
南魚沼市
5月 加茂祭(乳母まつり)
加茂市
7月 稲虫送り
三川村
9月 根知山寺の延年
(おててこ舞)糸魚川市
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コラム
失われようとしている年中行事
山の神の祭り
春先の年中行事の一つに、「山の神の祭り」があります。土地によっては「十二さま
の祭り」とか「十二講」と呼んでおり、2月12日、あるいは月遅れで3月13日に行
われています。
山の神の祭りは、中越から上越地方の山沿いの村々で盛んに行われてきた行事です。
しかしこれも昭和30年代後半から急速に下火になり、今ではわずかに魚沼地方の一部
にだけしか残っていません。
この祭りは、山の仕事や農作に従事する人々を守ってくれる神様の祭りだと言われて
います。
12日の早朝、まだ、暗いうちに起きだし、男衆の数だけ作った杉枝の弓とヨシの
矢、それに生米で作ったカラコという団子に小豆飯、さらに魚やお神酒などを持って、
裏山や鎮守の森に出かけます。
山の神さまは「女の神さま」であり、この神さまは1年に12人の子供を産みなさる
ので「十二さま」という名がついたのだという楽しい話がよく聞かれます。
女の神である山の神さまは、十二講に女の人が係わると嫉妬するので、祭りのすべて
を男衆だけでやるのだということです。生産生業の幸をもたらしてくれるのは女の神だ
という古い信仰から生まれてきた祭祀の姿なのでしょう。
稲虫送り
農薬など無かった時代は、ひとたび稲に病虫害が発生するともうお手上げでした。各
地の古文書を調べると、イナゴの大群に襲われたり、イモチ病にとりつかれたりして、
一村が潰滅的被害を受けたという記録がよく出てきます。
素朴な心を持った昔の人たちは、稲の病虫害は悪霊のなせるわざだと考えました。そ
れだけに、このような場合は社寺から虫除けのお札をもらってきて田の畦に立てたり、
虫封じのご祈祷をしてもらったりする神頼み、仏頼みより他になす術を知りませんでし
た。戦前、そして戦後もしばらくの間、越後・佐渡の農村地帯では、その神頼みの一つ
でもある「稲虫送り」という信仰行事がよく見られました。
ミシ(虫) ミシ 送れ 稲ミシ 送れ
江戸から佐渡まで さっさと送れ
三島郡出雲崎町の稲虫送り唄ですが、行事の方はとうの昔に無くなってしまいまし
た。稲の病虫害が現れ始める7月に入ると、こうした稲虫送りの行事が村々で見られた
ものですが、農薬が普及し始めた昭和30年代になると、とたんに県内から姿を消して
しまいました。
そうした中にあって、現在も昔ながらに行われているのが、東蒲原郡三川村綱木の虫
送りです。山間のこの村では、三世代間交流事業のひとつとして毎年7月15日に稲虫
送りの行事を行っています。この日学校から帰ってくると、子供たちは社壇と太鼓を担
いで稲虫送りに出かけます。
イーナームーシ オークロデー
イーナームーシ オークロデー
出典:「越後・佐渡 暮らしの歳時記」著者 駒形 (さとし) 国書刊行会
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3ー2ー2 くらしの文化
かつての農村では、身の回りにあるものを無駄なく利用する生活を通じて、資源の
循環や環境との調和を実践していました。このような暮らしから地域の生活の知恵や
くらしの文化が生まれました。
近年、農村の暮らしぶりも便利になりつつありますが、地域で長年培われた生活の
知恵や衣食住などの暮らしの文化をもう一度見つめ直し、地域で大切にされてきたも
のを考えてみましょう。
■ポイント■
戦後の経済成長における効率性の追求によって、都市部でも農村地域でも生活はたいへ
ん便利で快適なものになりました。反面、様々な社会問題も発生し、特に地球への環境負
荷の増大は、将来の私たちの生活を不安なものにしています。 21世紀を生きる私たちは、環境に負荷を与えない技術や生活を模索していますが、現
在の便利性を維持しながら環境負荷を低減させていく「新たな調和」のためには、まず足
もとの生活を見つめ直すことから始めてみましょう。
新潟には、海、川、潟、沼、森、山などの自然だけではなく、雪深く厳しい冬に耐える
ための工夫や技術、雪のもたらす水の恵みや広がる水田、そして忍耐強い県民性など、多
様なものがあります。そこで、新たな調和へのヒントが見つかるかもしれません。
ヒント!
1 新潟の「食」
現在の豊かな食料事情からは考えられないほど、かつて米は貴重でした。上米、くず米
を巧みに使い分け、上米の白米飯は晴れ食であり、日常食としては米飯に米以外のものを
入れて増量するかて飯、くず米を利用する粉もち、草もちなどが食されていました。米の
食べ方だけでも50数種類に及び、厳しい風土の中で人々の知恵と努力が重ねられ、長い時
間をかけて、米を軸とする食文化が形成されてきました。
新潟県に伝承されている食文化は、晴れ食・日常食を合わせて420余種類を数え、料理
では煮物と飯物が、加工品では漬物と団子・粽(ちまき)類が多数を占めています。晴れ
食は、祭礼や年中行事、冠婚葬祭などの晴れの日の食べ物で、この日は、ふだんの生活と
は異なり、特別の衣服、特別な飲食物、特別な行為による非日常的な時間を過ごすことに
なっていました。
また、新潟は東西食文化の接点に位置し、大部分は東日本型食文化圏に属しますが、佐
渡は西日本型、頸城地方の西部は西日本型への遷移地帯で、海、川、潟、山の豊富な食材
を活かして、地域色豊かな食が引き継がれています。
33頁からは、新潟県の農業と食べものを中心に、大正の終わりから昭和の初めころの県
内各地の農家のくらしぶりを紹介してありますが、身近なところで様々な恵みを享受して
きたことが分かります。
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2 新潟の「住」
新潟の住居は、農山村ではカヤ葺きの寄棟屋根の家が多く、町屋は妻入屋根で道路に庇
をせり出した雁木の町並み、海岸地方は風が強いために板ぶきに石をおいた屋根が多くあ
りました。屋根葺きに使うカヤは、雨に強い上に湿気に対しても通気性が高く、積雪、多
雨で湿度の高い新潟の気候に適している材料でした。
また、特に雪深い地方では、母屋に突き出し部分をつけ、かぎ形にした中門造りが代表
的です。雪が多く降るので、できるだけ多くの施設を母屋にいれた方が生活しやすく、居
間、寝間、座敷などの生活の場、ニワ(庭)などの作業をする場、さらには納屋、馬屋な
どもすべて一つに取り込んだ形となっていました。そして、中門の屋根の雪を左右に下ろ
せば出入り口は雪で塞がれることがなく、雪国の合理性から生まれた建築様式でした。
近年、急速に増加している高床式克雪住宅も、除雪作業を軽減するとともに床下スペー
スを駐車場や収納空間、農作業資材置き場として利用していることから、建築の考え方は
同様と考えられます。
中 門 造 り(魚沼市)
高 床 式 克 雪 住 宅(十日町市)
また、町屋の雁木も雪国を代表するものです。雁木は、道路に面した家から長い庇が伸
びて、その下が歩道になっている構造をいい、上越市(高田)、長岡市、栃尾市などで見
られます。近代的アーケードのルーツです
が、基本的に違うところは、雁木の下の歩
道は私有地で、家とはつながっていても隣
の家の雁木とは、つながっていないところ
です。雪で道路が塞がれても、雁木の下は
通行ができ、ここにも雪国で共同で生活す
るための知恵があります。
高田の雁木の形式
雁木(上越市)
落とし雁木
造りこみ雁木
「越後のくらしとまつり−上・中越の民俗」東京法令出版 をもとに作成
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3 新潟の「衣」
ひとえもの
かつての衣服は、暑い季節には一重で裏のつかない「単物」、涼しい季節には裏のつい
あわせ
た「袷」、寒い季節には表と裏の間に綿をいれた「綿入れ」を、よそいき、普段着、仕事
着などの場に合わせて着ていました。
その種類には、麻、絹、綿があり、地域で生産される原料糸に、地域の労働力が加わ
り、織物の産地が形成されてきました。新潟の織物は麻織物に始まって絹織物を生み、さ
らに19世紀には綿織物に発展しました。
じょう
細い麻糸を平織りした上等の麻布を「上
ふ
布」と呼びますが、江戸時代中期、魚沼地
方で、より糸を使って布に細かいしわ(ち
ぢみ)を付ける方法が考え出され、越後上
ちぢみ
布にちぢみを付けた「縮」が誕生しまし
た。越後上布・小千谷縮は、夏の高級衣料
として、他の織物では得られない軽さ・風
合い・着心地が好まれ、昭和30年工芸の分
野で重要無形文化財の第1号の指定産地と
して認定されました。この背景には、雪国
雪さらし(塩沢町)
では湿度が高いことから機織りの糸が切れにくく、機織りに適していることや、雪上の漂
白(雪さらし)ができるなどの気候風土がありました。
絹織物では、同じ魚沼地方の十日町が、麻織物から絹織物に転換し、大きな発展を遂げ
ました。五泉においては、天明の頃、袴地「五泉平」が織られたことを始まりとして、現
在は絹織物の高級白生地を生産するとともに、戦後、ニット産業が著しく発展していま
す。
また、新潟の綿織物は亀田縞・加茂縞・
新潟県織物地図
見附結城の順で発生しましたが、麻・絹織
(明治期)
山辺里織
物が山間地域であったのに対し、こちら
は、平野部で発展しました。これらの産地
葛塚縞
亀田縞
は、現在消滅した所もありますが、集団的
小須戸縞
木綿織物産地の最北に位置し、東北地方を
村松縞
主として、庶民の平常着・農作業着の産地
麻
として大きな役割をしてきました。
織物は、冬期間の女性たちの仕事で、雪
絹
深い地方においては冬期間の貴重な現金収
綿
入となっていました。それぞれの産地で
五泉平
吉田白木綿
加茂縞
見附結城
栃尾紬
長岡縞
高田縞
は、産地独自の工夫がなされ、技術が代々
受け継がれてきました。そこには、長い年
越後縮
月をかけた工夫の積み重ねがあったことを
十日町好綾織
忘れてはなりません。
越後縮
越後縮
「越後の伝統織物」土田邦彦 野島出版 をもとに作成
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4 循環型社会へ
現在の私たちは、衣食住すべてにおいて、欲しいものを自由に手に入れることができま
す。世界中の様々な食材が輸入され、外食産業や食品加工産業の発展によって手間をかけ
ることなく食べることができます。衣服も毎日清潔なものを様々な場面に応じて着ること
ができ、住宅も短期間で建てることができるようになりました。この便利で快適な生活
は、20世紀の大量生産・大量消費・大量廃棄がもたらした暮らしといえます。地球環境
問題、食糧問題、そして資源の枯渇など様々な問題が顕在化する21世紀を迎え、持続可
能な発展、循環型の社会の実現が求められています。
半世紀ほど前までは、物を大切に扱い、身の回りにあるものをできる限り利用してお
り、新潟にも立派な循環型社会が存在していました。例えば、稲作の際に発生する稲藁
は、現在はコンバインでカットされ、水田に鋤込まれることが多くなりましたが、少し前
までは、生活の様々な場面で活用され、最終的に水田へ還元されていました。しめ縄や門
松などの神事や祭事にも利用され、人々と精神的にも深く関わっていたといえます。そこ
には、人々が自ら作り、工夫する喜びによって、資源を浪費することのない循環型の社会
が成り立っていました。
また、ふだんの日と晴れの日とが大きく異なっていたことも注目すべきことです。晴れ
の日には、晴れ着を着て、ご馳走(晴れ食)である酒、魚、米、餅、菓子、肉、寿司など
を食べました。そこには、生産や労働に明け暮れる日常から転換があり、大きな喜びや楽
しみをもたらしていました。そのような生活の中には、稲作や季節に合わせた生活のリズ
ム(循環)があったといえます。
「ものの豊かさ」よりも「こころの豊かさ」が求
められる現代において、工夫しながら生活すること
の喜び・楽しみを考えることも大切なことです。自
分の身の回りのものを振り返ってみること、自分た
ちの地域の資源を顧みること、そんなところに里づ
くりのヒントがあります。
大したもん蛇まつり(関川村)
生活の中のワラの文化
祭り・遊び
なわ
衣・履き物
みの
生活
なわ
生産
たわら
蓑
縄
俵・ムシロ・カマス
かざ
みのかさ
つちかべ
しりょう
餅飾り
蓑笠
土壁
飼料
ぼんうま
わらじ
めしびつ なべしき
しき
飯櫃・鍋敷
敷わら
馬の沓
しめ縄
盆馬
草鞋
わらうま
ぞうり
藁馬
草履
ほうき
しょ
せ お い ふくろ
流し雛
ひな
負い子
背負い袋
人形
しょい籠
モグラうち
どんど焼き用
かご
ゆきぐつ
雪靴
ケラ
たたみ
くつ
ぞうり
牛の草履
畳
コモ
わら半紙
マブシ
なっとう
たいひ
納豆のつと
堆肥
出典:いのちが集まる、いのちが育む「田んぼの学校」入学編(社)農山漁村文化協会
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稲ワラの様々な使い道
籾 摺
精 米
刈り取り
稲
ワ
ラ
もみがら
祭 り ・遊 び
しめ縄
生
米ぬか
衣・ 履 き 物
猫ちぐら
活
生
鍋敷
草鞋
雪靴
蓑
産
たわら
縄
飼 料
納豆のつと
ムシロ
燃料、堆肥
堆肥、土壌改良材として
農地に還元
ワラ灰
(カリ成分含む)
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コラム
「食」を通じて「農」を見つめる
∼生きる力を育む食育・食農学習を∼
生きる力を育むために、「何を、どれだけ、どのようにして食べたらよいか」のおお
よそを知り実践できること(食の素養)を、子供が親元を巣立つ頃までに育んでやること
ができたなら、親として子供に貴重な財産を授けたことになるのではないでしょうか。
激動の世にあっても決して価値の変わらない財産です。
この食の素養は、日常茶飯を大切にするささやかな行為の積み重ねによって培われま
す。1日3食ずつ摂るとすると、1週間では21食、1年間では1,095食、親元で育つ18
歳頃までには、およそ19,700食を摂ることになります。その一食一食を大切にする体験
の累積は大きいと言えます。
家族の心身の健康を願うならば、調理の手間を惜しまず、さらに子供に沢山手伝わせ
ることによって、作って食べる喜びを共有したいものです。台所育児の効用は、食材か
ら食膳までの全行程を短時間で,子供とともに体験できるところにあります。食材を用
意する、洗う、包丁を使う、火・水・油を使う、煮る・炒める・焼く・揚げる・蒸す、
そして片づけることなどを細心の注意を払いながら行うことによって、総合的な食事づ
くりの学習ができ、感性を呼び覚ますことができます。また、共同作業によって家族と
の一体感・共有体験を得ることができ、家族への愛情を育てるこの上もない好機になり
ます。
さらに、食材を生み出す農業の中には子育ての力、教育力がたっぷり眠っています。
子供の育つ環境には、遊びや親の手伝いを通じて農と関わり、水と土の恵みの素晴らし
さにふれ、汗を流し、収穫の喜びを味わう場が必要です。土と遊び、土に学ぶ農業体験
から生まれる「感謝の心」と「慎み」が、子供たちの育ちに不可欠なのではないでしょ
うか。社会情勢や農業・農村をめぐる諸事情等の変動によって、農業体験ができ難くな
った今、大人の思いやりと援助によって、何らかの形でそれが出来る環境を整えてやる
ことが求められています。さらには子供 たちが身土不二・一物全体食の妙味にもふれ
て、かけがえのない地球のために「無駄にしない・ちょっと我慢する・時々ちゃんと考
える」行動をとることを、見守り促していきたいものです。
「食」を通じて「農」を見つめる豊かな感性を育まれた子供たちが、次代を担う生活
者として、さらには農業の担い手として逞しく育って行くことを願ってやみません。
◆伝統食と現代食のほどよいバランス食の楽しい工夫を◆
∼バランス食の合言葉−まごたちは(わ)やさしい・ちゃ∼
米を主食にして、大豆や魚、野菜、海藻等を
バランスよく摂ってきた日本人の食生活の、長
寿食としての素晴らしさが科学的に実証されて
います。これらの伝統的食品に現代的食品を適
量組み合わせ、お茶の効用にも配慮し、さらに
発酵食品を取り合わせるなど、種々の食素材そ
のものが持っている力、薬効(機能性)を生か
す食べ方を、大切にしたいものと思います。
〈新潟県消費者協会副会長 岡田玲子〉
- 32 -
岩船 ー鮭の川・三面川とともにー
朝日山系の流れを集めて日本海に注ぐ三面川。三面川
の鮭は村上藩以来、種川の制度によって保護され、土地
の人々に守り育てられてきた。鮭一匹、すてるところな
くすべて利用され、秋から冬の味覚をつくる。そして、
鮭の川はあゆの川でもあり、稲を育てる川でもある。
塩引き鮭
- 33 -
蒲原 ー田と潟と川の恵みー
信濃川、阿賀野川がつくりだした広大な水田と潟。蒲原は日本屈指の米どころ。
潟からは鮒、鯉、なまず、うなぎ、寒やつめ、鮭などの魚が豊富にとれて、日常の食膳
をにぎわす。春のうるめ(めだか)とりは子供が主役。早速、つくだ煮になって夕食の膳
に並ぶ。さらに、菱の実、れんこん、どんばす(鬼蓮)、じゅんさいなど、水の恵みはつ
きない。どんばす料理は、福島潟特有の味覚である。お祝いの膳には、水田と潟の幸がず
らりと並ぶ。
菜園
春 夏
かわながれ
三度豆
二度いも
なす
きゅうり
すいか
かぼちゃ
- 34 -
のっぺ
雑
5畝
秋 冬
にんじん
大根
ねぎ
ごぼう
白菜
たまな
里芋
- 35 -
煮
古志 ー棚田、山畑、山林の恵みー
山深い古志の食は、棚田からの米、山畑につくられる
大豆や野菜、豊富に取れる山菜をもとに組み立てられ
る。自給の豊かさだ。
さらに、雪に閉ざされる長い冬にそなえて、いぜこみ
(水漬)など独特の蓄えの技術が発揮される。そこに、
乾物の魚や海草などの海の味が加わって、いっそう豊か
になったのが古志の食の全体である。
- 36 -
煮
菜
頸城海岸 ー日本海の幸を求めてー
磯浜からすぐに山が迫る頸城の海岸では、日本海の幸
が四季の食事つくりの主役である。延縄や手ぐり網、一
本釣りなどでとる魚のほか、えご、てんぐさ、もずくな
どの海草、あわび、さざえなどの貝類が海女によってと
られる。荒れる日本海を生業の場とする人々の、海神さ
まに対する信仰の念は深く、その祭りは盛大である。米
は魚と交換して手に入れる貴重品だが、晴れの日にはぞ
んぶんに味わう。
- 37 -
笹ずし
魚沼 ー川と山とが出会う地の食ー
信濃川をさかのぼって魚沼までくると、山が間近に迫ってくる。雪が解けて山野の草木
が萌え出るころになると、川にも活気がもどってくる。信濃川の水運でもたらされる海の
幸と、この地でとれる山の幸が出会って、変化に富んだ食膳をつくる。また、魚沼は古志
とともに、下越・上越に分かれる食の様式における移りかわりの地域で、節句には蒲原の
ちまきと頸城の笹もちの両方がつくられる。
山菜……やまごっぽ、うこぎ、たらの芽、しおで、のびる、
ゆりわさび、こごめ、わらび、ぜんまい、うど、あさづき、
あずきな、うるい、とりあし、きのめ、みずな、ふき、ふき
のとう、かたくり、たにうつぎ、やまのいも、とち、あんに
んご、またたび、やまだけ、きのこ
その他……飼料用草、肥料用草
海から (購入)
塩いわし、塩にし
ん、身欠きにしん、
塩ます、干だら
- 38 -
笹だんご
けんさ焼き
- 39 -
佐渡 ー海と山と平野がある独立国ー
佐渡には平野がある。対馬暖流の影響で気候が温暖。平野の稲作、畑の大麦、小麦、野
菜、そば。あぜの大豆、小豆。近くの山林の山菜やきのこ。そして島ならではの海の魚
貝、海草。
佐渡は古くから独立した一国として認められ、歴史、文化ともに独自のものを有し、越
後とは多くの点で異なる。海路を通じて京都(上方)とつながり、その影響をうけ、食べ
物にも繊細さと華やかさがある。
カヤ(榧)の実
わらび、ぜんまい、ふき、うど、
さんしょう、くず、やまいも、栗、
あけび
薪、柴
- 40 -
懐かしい味が現代風の
お菓子になっています
やせごま
いごねり
(
出
典
)「
︵
絵写
・ 文真
︶
﹁
日ふ
本る
のさ
食と
季
生節
活の
全味
集﹂
⑮新
潟
聞日
き報
書事
業
社
新出
潟版
の部
食 事 他
社
)
- 41 -
」(
じゃがいも、さつまいも、ながい
も、里芋、大根、にんじん、なす、
きゅうり、トマト、ささげ、えん
どう、いんげん、なんばん、ねぎ、
山東菜、白菜
農
山
漁
村
文
化
協
会
3ー3
生態系
3ー3ー1 はじめに
水路やため池、里山や田畑をはじめとする農村地域の自然は、人間と自然の関わり
によって形づくられた二次的な自然で、その変化に富んだ環境は、生物の多様性を確
保するうえで重要です。
生きものは、それぞれが独立的に存在しているのではなく、生物間のつながりや
生息・生育場所の連続性があってはじめて生き続けることが可能なので、広いエリ
アや長期的な観点で考えることが大切です。
まず、私たちの暮らす地域がどのような自然環境にあるのか調べてみましょう。
■ポイント■
○ 豊かな自然環境は地域の誇りとなりますが、意識をしないと喪失や激減するまで気付
かないことがあります。例えば、”県の鳥”であるトキは、その大空を舞う姿はたいへ
ん美しいものでしたが、乱獲などのために国産種は絶滅しました。生態系を含む自然環
境は、自覚的に守っていかないと、簡単に壊れてしまい、元に戻すことが非常に難しい
ものとなります。
○ 「新・生物多様性国家戦略」では、生物多様性保全の上で、3つの危機(参照P45)
があるとしています。生態系の配慮にあたっては、まず、地域の生態系がどのような状
況にあるか把握することが大切です。
あまがえる
たなご
赤とんぼ
かわとんぼ
農村地域では、いろいろな生きものたちと
農村地域では、いろいろな生きものたちと
出会うことができます
出会うことができます
いととんぼ
めだか
あめんぼ
あかがえる
- 42 -
[生き物の名前は通称です]
○ 地域の環境を把握するために、既存の資料収集に加えて生きもの調査等を実施して、
特に配慮が必要な種を選定します。これらの生息・生育環境をもとに配慮計画づくりを
行う場合には可能な限り、また、絶滅の恐れがある生物が発見された場合には、専門家
からのアドバイスを受け適切な保全に努めましょう。
○ 新潟県では、平成13年に「レッドデータブックにいがた」を発行し、個体数が減少
している種、生息・生育環境が悪化している種などをリストアップし、絶滅危惧の度合
いに応じランク付けしています。
○ 農村の自然環境のように、人間が関与することによって保全される自然を二次的自然
といいます。
農村は、水田などの農地のほか、二次林である雑木林、鎮守の森、屋敷林、生け垣や
用水路、ため池、畔や土手・堤といった、人の適切な維持管理により成り立った多様な
環境がネットワークを形成し、多くの生きものの生息・生育の場となっています。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 自
然 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆
原生自然
二次的自然
(人間が全く関与しないことにより保全される自然)
(人間が関与することにより保全される自然)
原生林、自然河川、
自然海岸など
里山、水田・畑、
ため池、水路など
農村の二次的自然のイメージ
出典:「生きものたちのにぎわいのある農村を目指して」農林水産省パンフレット
- 43 -
○ 水田は、農業生産の場だけでなく、淡水魚類にとっては、産卵に適した流速、水深、
水温などの条件がそろっています。また、プランクトンの発生により稚魚の餌場として
の役割を果たします。水田では、多様な生物が水路を介して耕起・代かき・田植え・落
水といった水田特有の水管理形態を巧みに活用して生活しているので、農地を改変する
場合には、その影響について、十分に配慮する必要があります。
施設種類
河川
幹・支線
用水路
小用水路
水 田
小排水路
水路の流れ
産卵
産卵
幼体の
生育
移動形態
成体の活動
成体の活動
【例】
メダカ
魚 類
ギンブナ、ドジョウ、ナマズ、コイ
貝 類
マルタニシ
カワニナ
昆虫類
トンボ類、ミズカマキリ、ミズスマシ、
ゲンゴロウ、ヘイケボタル
甲殻類
ホウネンエビ
爬虫類
・
両生類
シマヘビ、トノサマガエル、ツチガエル
鳥 類
サギ類、シギ類、チドリ類
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幹・支線
排水路
河川
参考
新・生物多様性国家戦略
「新・生物多様性国家戦略」とは
1992年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロでの地球サミット開催にあわせて、「気候
変動枠組条約」とともに「生物多様性条約」が採択されました。この条約では、生物の
多様性を遺伝子、種、生態系の3つのレベルでとらえ、いずれも保全する必要があると
しています。
1980年代には、アマゾンなどの熱帯雨林が猛烈なスピードで伐採され、1年間に、日
本国土の4割くらいにあたる面積の森林が失われたといわれています。森林の破壊は、
同時に膨大な量の生物を絶滅させることでもありました。
種の絶滅に対する危機感から、これを保全するための国際的な対策が求められまし
た。これが、「生物多様性条約」の結ばれた理由で、2002年3月現在、183か国が加盟
しています。日本は、翌1993年に加盟し、条約の規定に基づいて95年に「生物多様性
国家戦略」を策定しています。この計画を根本的につくり変えたのが「新・生物多様性
国家戦略」で、2002年3月27日に策定されました。
生物多様性保全の現状−日本における3つの危機
地球に生物が誕生してから40億年、地球上に存在する生物種は3000万種、あるいは
それ以上ともいわれています。長い歴史の中で絶滅した種も数多くありますが、私たち
が考えなければならない一番の問題点は、人間の行為が一方的に生物に影響を与え、絶
滅まで引き起こしているということです。
わが国の生物多様性の危機は、次の3つに大別されます。
第1の危機 人間の活動や開発が、種の減少・絶滅、生態系の破壊・分断を引き起こしていること
です。捕獲・採取による個体数の減少、森林の開発、埋め立てによる海の汚染、汚濁し
た排水による生態系の破壊などが、これにあたります。日本に生息・生育する脊椎動
物、維管束植物の約2割が絶滅危惧種となっています。
第2の危機 第1の危機とは逆に、自然に対する人間の働きかけが減っていくことによる影響で
す。長い年月、人の手が入ることによりバランスを保ってきた里地里山は、人が干渉し
ないことによって危機を迎えています。絶滅危惧種のほぼ5割は里地里山に生息し、昔
から親しんできたメダカまでもが絶滅の危機にあります。
第3の危機 移入種や化学物質による影響です。近年、ブラックバスな
ど人間によって外国から持ち込まれた種が、地域固有の生物
にとって大きな脅威となっています。絶滅危惧種にはこれら
移入種の影響を受けているものが少なくありません。また化
学物質の中には、PCB、ダイオキシンのように、動植物に対
して毒性を持つほか、環境中に広く存在するため生態系や生
体内のホルモン作用への影響が懸念されます。 出典:「いのちは創れない 新・生物多様性国家戦略」環境省パンフレット
- 45 -
3ー3ー2 生きもの調査から配慮種の選定まで
生きもの調査は、専門家のアドバイスも受けながら、多くの地域住民の参加を募
って実施し、地域の生態系のイメージをみんなで共有しましょう。その際は、地域に
棲む生きものを確認するほかに、少し視野を広げて田んぼと水路、里山などとのつな
がりについても目を向けてみましょう。
調査結果に基づき、地域の生態系の現状について考察を行いますが、地域の生態
系が良好に保たれていない場合には、その原因も明らかにし、配慮種を選定する場合
の参考にしましょう。
■ポイント■
○ 農村を生活の場とする生きものは多種多様で、季節や成長にともなって棲む場所や形
態を変える生きものも多くいます。そのため、生きもの調査は季節を変えて複数回行い
ましょう。また、生きもの調査はやみくもにやっても効率が悪く、また有意義なデータ
を得ることができません。現地調査に先立って既存の文献資料を調べたり、聞き取り調
査を行って地域の生態系の概略をつかむことが大切です。
○ 生きもの調査は、子どもからお年寄りまで出来るだけ多くの人に参加してもらうとと
もに、生きものに詳しい人が地域にいたら是非参加してもらいましょう。
○ 生きもの調査の結果、稀少な生きものが発見された場合には、今後の調査の進め方な
どについて専門家に相談する必要があります。専門家のアドバイスを得ることが難しい
場合でも、「田んぼの生きもの調査:(社)農村環境整備センター」などを参考にして調
査を行いましょう。
HPアドレス http://www.acres.or.jp/acres/chousa/main.htm
総合学習における生きもの調査(吉川町)
生きもの調査の様子(小千谷市)
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○ 生きもの調査により水質の概略も知ることができます。「水生生物による水質の簡易
調査」(P127)も利用してみましょう。
○ 生息・生育環境が大きく悪化し、生きもの調査で生きものがほとんど発見できない地
域では、昔の自然環境をよく知るお年寄りなどからお話を聞くことも、配慮種を選定す
る際のヒントになります。
ヒント
参考になる文献資料
○ 市 町 村 が 作 成 し た 「 農 村 環 境 計 画( 田 園 環 境 整 備 マ ス タ ー プ ラ ン )」
○市町村史(自然編)
執筆者も要確認
○市町村教育委員会などが作成した自然観察ガイドブック
お話を聞くとよい人
○昔からのことをよく知っているお年寄り
○地元農家の人たち
○学校や理科教育センターの先生
○自然観察指導員などの人たち
○市町村史(自然編)の執筆者
生きもの調査の様子(小千谷市)
環境カウンセラーから説明を受けている様子
(小千谷市)
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生態系への配慮のための流れ
生きもの調査
農村環境計画
総合学習
田んぼの学 校
( 田 園 環 境 整 備 マスタープラン)
専門家の助言
考
察
参考文献
( レッドデータブックな ど )
考察の視点
3つの危機
人間活動による生態系の破壊
手引き第1∼3編*
人の働きかけが減少したことによる影響
(農林水産省)
移入種や化学物質による影響
本書
など
※
配慮種の選定
配慮計画の基本的な考え方
ネットワークの視点
空間の視点
ー
ミ
テ
ィ
ゲ
回避の検討
低減の検討
最小化、修正、軽減/除去
シ
ョ
ン
代償の検討
※配慮種:その地域の自然生態系の中で特徴的又は代表的な種及びその種と密接に関係のある種
※手引き第1−3編:環境との調和に配慮した事業実施のための調査計画・設計の手引き
(農林水産省)
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3ー3ー3 配慮計画づくり
生態系への配慮方法には、標準的な方法はありません。調査の結果などを元にし、
地域で配慮計画を立てます。
具体的な計画づくりと併せ、地域の思いや配慮のコンセプト、話合いの経過なども
できるだけ多くの関係者で共有しましょう。
■ポイント■
○ 生態系への配慮計画づくりでは、生物の生息・生育環境を創るだけでなく、施設の費
用対効果や誰がどのように管理するかなども含めて地域で話し合っておくことが大切で
す。
○ 施設づくりを検討する場合は、機能はもちろんのこと、間伐材や現地で産出される石
材などの利用を進めるなど、資材の選定にも環境との調和を考えましょう。
生態系への配慮計画
基本的事項
主な検討事項
配慮対象と配慮エリア
・生き物調査などに基づく配慮対象の選定
・配慮する区域や配慮する路線の選定
生 物 の 生 息 ・ 生 育 の 環 境確 保
・生息できる環境の確保
・食餌、産卵床の確保
・自由な移動(連続性)の確保
自然材料等の活用
・間伐材や石材など自然材料の活用
・浚渫土や建設副産物の利用
安全性・経済性の確保
・構造物の基本的条件
・工事費、維持管理費、用地条件
維持管理の作業性
・維持管理の永続性
・除草、泥上げ、水抜きなどの作業性
その他
・景観や親水性
・工事期間や仮設方法
関係者で
配慮のコンセプトを共有しよう!
- 49 -
コラム
先輩が語る「仲間の集め方」
−地域づくり、生きもの調査を行うために−
地域づくりの調整役となっている人たちに、そのノウハウを披露していただきました。
○学校(こどもたち)と友達になるには?
・市町村の農林担当課経由で教育委員会に地域づくりの概要を説明しましょう。その上で、
校長会、教頭会の場をお借りして先生方に説明します。そして、興味を示していただいた
学校には後日詳しい説明に伺います
・特定の学校に伺う場合でも、いきなり担当の先生にアタックするのではなく、教育委員会
→校長・教頭→担当の先生という流れをたどった方がよいでしょう。
・進めている地域づくりを総合学習に取り入れてもらうためには、前年度の秋頃までにお願
いしたほうがよいでしょう。学校は、通常、前年度に次の年のプログラムを作成しますの
で、急に学校にお願いしても対応できないことが多いのです。
・土地改良区の役員さんなどはPTAの役員を兼ねていることも多いので、それらの人たちか
らのバックアップして頂くことも有効です。
・社会科見学などを通して、日頃から学校との関係を築いていると、スムーズに話が進みま
す。
○強力な助っ人を得るには?
・水土里ネット、市町村、農協などの人たちは、地域に幅広いネットワークを持っていま
す。それらの人たちの力をお借りしましょう。
・学校は総合学習を行うために多くの専門家の情報を持っていますので、学校の先生方との
つながりはとても役立ちます。
・お年寄りは様々な知恵や知識を持っています。どしどし参加していただき、“お知恵を拝
借”しましょう。
・上記の方法を使ってもなかなかうまくいかない場合には、コンサルタントのノウハウも活
用しましょう。
○地域の人たちとの輪を広げていくには
・子供たちと友達になることで、父兄の皆さんからも協力してもらえます。
・回覧板を通じて参加を募ることも効果があります。
・地域の自治会にその趣旨を説明して、皆さんに声をかけていただけ
るようお願いします。特に、都市近郊の農村で地域づくりを行うに
は、自治会の理解は不可欠です。
・最初は大変ですが、地域活動に興味を持っている人は必ずいます。
人の輪、ネットワークの輪を広げ、一歩ずつ踏み出してみましょ
う。
<先輩より>
- 50 -
3ー3ー4 移入種
移入種とは、本来の野生生物がもつ移動能力を超え、国外または国内の他地域から
意図的、非意図的に移動・移入された種のことをいいます。
移入種は、地域固有の生物や生態系にとって大きな脅威となり、絶滅危惧種にはこ
れらの影響を受けているものが少なくありません。このため、生態系の保全を考える
場合には、これらにも注意を払う必要があります。
■ポイント■
○ 「新・生物多様性国家戦略」では、移入種(外来種)による生態系のかく乱への対策
として、侵入予防、初期段階での対応、定着種の駆除・管理の3段階で対応する必要が
あるとしています。
○ 新潟県では、平成7年から新潟県内水面漁業調整規則でオオクチバス、コクチバス、
ブルーギルなどの特定の魚類について「移植」を禁止しています。
また、新潟県内水面漁業管理委員会では、委員会指示として、外来魚については釣っ
た後の「再放流(リリース)」を禁止しています。(平成11年12月)
○ 里づくりにおける移入種の留意点としては、新たな導入の防止、定着したものの駆除
管理があります。
留意点
新たな導入の防止
対
応
地域で採取できる自然材料の活用
意図的導入・非意図的導入を防止するための普及啓発
移入種の駆除作業
定 着 した も の の 駆 除・管 理 駆 除 に 対 す る 意 識 啓 発
流入・流出防止対策
○ 里づくりで、緑化や造園的な植栽などを行う場合、認識の欠如や知識の不足により移
入種を利用することがあります。移入種については、明らかになっていないことも多
く、緑化や植栽などの種の選定に当たっては、専門家の協力を得ることが大切です。
○ 個体群の回復能力を上回る乱獲によって絶滅の危機に瀕している動植物もあります。
特に問題になっているのは、可憐な花をつけるラン科植物や雪割草などが根こそぎ採取
されて群落ごと消滅する事態や昆虫・貝類の集中的な捕獲です。特定種の取扱いについ
ては、適切な情報管理が必要です。
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○ 移入種は、自然生態系へ影響があるだけでなく、私たちの生活や健康、農林水産業な
どの産業にも影響を及ぼします。
(1)自然生態系への影響
自然生態系への影響には、在来種の駆逐、交雑による在来種の純系の喪失がありま
す。
在来種の駆逐としては、釣りの対象魚として持ち込まれたオオクチバス、コクチバ
ス、ブルーギルなどが他の魚類を捕食するだけでなく、トンボなどの水生昆虫の幼・成虫
まで捕食するケースがあります。また、佐渡では、野鼠・野兎駆除のため本土から持ち
込まれたテンの生息密度が高くなり、固有種のサドノウサギの生存を脅かしています。
交雑による在来種の喪失では、移入されたアジア大陸原産のタイリクバラタナゴと絶
滅危惧種であるニッポンバラタナゴとの交雑等の例があります。
(2)産業への影響
産業への影響としては、移入種による食害や強害雑草の侵入、病虫害の蔓延、農業被
害などがあります。特に水質浄化を目的にため池などに導入されたホテイアオイやウォ
ーターレタスは、適切な管理を怠ると異常繁殖により、水質の悪化や取水施設に悪影響
をもたらします。
(3)生活・健康への影響
生活・健康への影響では、移入種による伝染病の持ち込み、ブタクサ(帰化植物)類
による花粉症の発生などがあります。接触経験がない生物にとっては、重い病気や死に
至る危険性があり、人も例外ではありません。
〔移植の禁止〕
〔 再 放 流( リ リ ー ス )の 禁 止 〕
イラスト:「NO MORE BASS!!」新潟県、新潟県内水面漁業管理委員会、新潟県内水面漁業協同組合連合会
※ブ ラ ッ ク バ ス や ブ ルーギ ルな ど 特 定 の 魚 類 を 見 か け た 場 合 は 、新潟 県 農 林 水 産 部 水 産 課・内 水 面
漁 業 管 理 委 員 会 、 も し く は 新 潟 県 内 水 面 漁 業 組 合 連 合 会 に 連 絡 してください。
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コラム
ドジョウのつぶやき
■土水路に棲むドジョウ
おいらが棲んでいる場所は、水草等が多く、水の流れが速い所や遅い
所があって、メダカさんやタニシさんなど多く仲間が棲んでいる。ま
た、食餌も多く、産卵場所としても良い場所なので、大家族で暮らして
いる。欲を言えば、粗朶柵や空石積、曲がりや適当な段差、ワンド*や
置き石があると、もっと多くの 仲間と仲良く暮らせる。
ただ、昔は人間の子供たちによくいじめられていたが、最近は滅多に
顔を合わせることもなく寂しい・・・・・
①上・中流部の生きもの
ヤマメ、アユ、ウグイ、カジカ、アブラハヤ、ヤリタナゴ、イバラトミヨ、ホトケ
ドジョウ、シマドジョウ、カマツカ、ゲンジボタル、コヤマトンボ等のヤゴ、ヘビ
トンボ等の川虫、サワガニ、ヌカエビなど
②中・下流部の生きもの
メダカ、タナゴ類、コイ、ギンブナ、ナマズ、オイカワ、ヨシノボリ類、タモロ
コ、モツゴ、ドジョウ、タニシ類、モノアラガイ、ヘイケボタル、トンボ等のヤ
ゴ、スジエビ、ヨコエビ類など
■三面コンクート水路に棲むドジョウ
以前棲んでいた所は、兄弟や親戚が多く、落ち着いて食事や昼寝もできないため、か
みさんと二匹、新たなすみかを求め、ここまで来てしまった。あの時は、どうにか休憩
場所や寝場所を見つけながら、ようやく、このワンドにたどり着くことができた。
今棲んでいる所は、腹一杯、食事することは出来ないが、生きてはいける。しかし、
産卵場所がないため子供が少なく、また、隣に棲むドジョウ家族も少ないため、寂しい
思いをしている。
もう少し、水の流れに変化があれば、他の仲間も棲むようになり、生活も楽しくなる
のに・・・・・
①変化のない直線水路では
・上中流部ではヤマメ、アユ、ウグイなどがまれにみられる。
・中下流部ではウグイ、コイ、ギンブナなどがまれにみられる。
②置き石等の変化があると
・上中流部ではヤマメなどに加えカジカ、ヘビトンボ等の川虫などが生息できる。
・中下流部ではウグイなどに加え川虫、カワニナなどが生息できる。
③曲がり、ワンドなどがあると
・上中流部ではさらにアブラハヤ、シマドジョウ、カワニナなども生息できる。
・中下流部ではさらにメダカ、ドジョウ、オイカワなども生息
できる。
■管水路を訪れたドジョウ
子どもの頃、棲んでいた所を訪れてみた。暗く、大きな口が開い
ていて、誰もいない場所になっていた。光が入らず、付着珪藻も見
えないので、おいらたちも暮らすことが出来ない場所だった。帰り
道、自然と涙が溢れ出てきた。
*ワンド(湾処):川のよどみや水たまり
<NPO法人 加治川ネット21>
- 53 -
3ー4
水循環
3ー4ー1 はじめに
大地に降り注いだ雨は、農地や森林に蓄えられ、やがて湧き水となり川となって農
地や人々を潤し、最後には海へ下り水産資源を育んでいます。私たちが、このような
健全な水循環の恩恵を享受できるのは、先人たちが森林や農地を大切に維持管理して
きたからです。
これからも豊かな水資源を確保し健全な水循環を維持するためには、森から海への
つながりを考えながら、流域単位で連携や支援をしていくことが大切です。
■ポイント■
○ 森林には、雨水を貯留し、河川へ流れ込む水の量を平準化して洪水を緩和するととも
に、川の流量を安定化させる機能を持っています。また、雨水が森林土壌を通過するこ
とによって、水質が浄化されます。
○ 水田も同様に、降雨時に上流から流れ込んできた水を一時的に貯留し、ゆっくりと水
路や河川に放出することにより、治水ダムの機能を果たしています。また、棚田などの
斜面にある水田は、表土の流出を防止するとともに土砂崩れの発生を防止しています。
加えて、水を貯めることのできる水田は、ゆっくりと少しづつ水を地下へ浸透させ
て、地下水をかん養し、地盤沈下の防止にも役立っているといわれています。
○ 例えば、昔ながらにサケやマスが遡上してくる川は、地域の誇りとなり、大切な地域
の資源ともいえます。水循環を保全するためには、上流域だけではなく、下流域の人た
ちも自らの生活や地域のアイデンティティに関わる問題としてとらえ、流域が連携し
て、森林や棚田の保全に取り組むことが大切です。
雨水が棚田にたまる
(自然のダム)
雨水は地下に
ゆっくりと浸透
していく
蒸発
(水のかん養)
きれいにろ過された水が
地下水となる
水源かん養のイメージ
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川
森 から 海 へのつながり
棚田(栃尾市)
美人林(松之山町)
竜ケ窪(津南町)
北又川(魚沼市)
鮎釣り(塩沢町)
川遊び(湯沢町)
三面川(村上市)
水田の貯水量は約 2 億トン(新潟県)
新潟県庁の約1,240杯分
新潟スタジアムの約120杯分
タライ舟(佐渡市)
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3ー4ー2 有効利用するために
農業用水の河川からの取水は、昔からの社会的な慣行や法律で許可された水利権に
基づいて行われ、これは河川の水を上流から下流まで公平に利用できるよう定められ
たルールです。
限りある水資源を有効に利用するために、水利用の仕組みについて理解を深め、大
切に使う方法を話し合いましょう。
■ポイント■
○ 新潟県に降る雨のうち水資源として利用可能な量は約30%です。農業用水として供給
可能な量は、その約80%です。農業用水は水田や畑を潤しますが、消費される水量は、
供給量の約20%で残りの水は使用後に川へ戻ったり、地下水として蓄えられ、下流側で
再び利用されます。
○ 本県は雪が多く、南北に長く連なる山地から日本海に注ぐ大小河川の豊富な水を利用
して稲作が発達してきました。しかし、雨が少ない年には幾多の水争いがあり、多くの
時間と話し合いを経て、今日の合理的な秩序が形成されています。
【年間降水量の利用状況】
流出・浸透量
9,218百万
(33%)
年降水量
(平成12年)
26,052百万
農業用水
6,761百万㍑
(81%)
利水量
8,338百万㍑
8,338百万
(32%)
水産用水
143百万㍑
(2%)
消雪用水
221百万
(3%)
水道用水
701百万
(8%)
蒸発散量
8,496百万㍑
(35%)
注)利水量は、供給可能量を用いている。
(発電用水等非消費的水需要分を除く)
工業用水
512百万
(6%)
出 典 :「 新 潟 県 ウ ォ ー タ ー プ ラ ン 2 1 」 新 潟 県 土 木 部
【農業用水の水収支】
用水や降雨による供給量に対して、水田
等 で の 消 費 量 ( ≒ 蒸 発 散 量 ) は 約 20 %
に過ぎません。
出 典 :「 農 業 用 水 」 農 林 水 産 省 ハ ゚ ン フ レ ッ ト
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3ー4ー3 農業用水の多面的な役割
農業用水は、かんがいのために利用されるのはもちろんですが、農機具や作物の洗
浄、防火や消流雪、親水空間や景観の形成など生活に密着した「地域の水」としても
活用されています。
このように用水路などには多面的な役割がありますが、快適でうるおいのある里づ
くりを進めるために、農家だけでなく、その恩恵を受ける地域の人々とその維持管理
等のあり方についても考えてみましょう。
■ポイント■
○ 農業用水は、農作物や家畜への供給以外に農村地域の生活用水として利用されていま
す。農産物の土落としや農機具の洗浄、防火・消雪等の用水、親水空間の形成など多面
的な役割を果たしています。身近な水路がもっている役割を見つめ直し、有効な活用を
図ることは、快適でうるおいのある農村づくりを進めるための有効な手段になります。
○ 用水路などの農業用水利施設の多面的な機能を保持していくには、農家以外の人たち
にも施設の維持管理作業に参加してもらうなど、地域が一体となって支える取り組みが
大切です。
畑地かんがい用水
畜産用水
水田かんがい用水
生態系の保全
消流雪用水
景観の形成
親水空間の形成
防火用水
水源かん養
親水空間の形成(五泉市)
防火用水としての利用(五泉市)
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コラム
新しい潟「新潟」
【地図にない湖】
戦前の話から始めたい。
上越線に乗って新潟へ来ると、新潟に着く直前に巨大な湖が現れる。
しかし、どう探しても地図には載っていない。
あれほど大きな湖なのに・・・。
多くの人が不思議に思ったという。
湖の大きさは東西11キロ、南北10キロ、約1万ヘクタール。
東京23区の約4区分に匹敵する広さである。
現在のJR新潟駅や周辺の繁華街まで含む亀田郷一帯が、
その“地図にない湖”であった。
写真提供 本田清氏
なぜ地図に湖と記載されていなかったのか?
人には湖に見えたその一帯は、新潟農民のなけなしの“農地”であったからである。
【三年一作】
二期作、二毛作、裏作・・・。
多雨と豊かな土壌に恵まれた日本では、一年に何回かの収穫が可能である。
その日本に、”三年一作”といわれた土地があった。新潟平野である。
泥のような深田では、もとより生産力は低い。加えて、その少ない実りがすべて、
2,3年おきに生じる大洪水によって流されてしまうのである。
だれしも予測し得ぬ天候、あくなき害虫や雑草との闘い。
全身泥まみれの農作業や、肌も凍てつく冬場の客土。
そして、ひとたび堤が切れれば、それら一切は跡形もなく流出。
濁流は家屋を襲い、人畜を殺傷し、何日も水は引かず、新潟平野は一大泥海と化した。
【渇水の修羅場】
洪水が生き地獄なら、渇水もまた修羅場となった。
上流で水を取ってしまえば、下流の村は干上がる。
左岸の村が多く取れば、右岸の村は黙ってはいない。
水をめぐる村の対立は、上流下流、右岸左岸が入り乱れ、調整、談判、実力行使、
時には死者を出す陰惨な争いにまでエスカレートした。
「渋海川の水の一滴は血の一滴」。長岡の農民の間に伝わる口碑である。
さて、以上は、つい近年までとはいえ、過去のことである。戦前戦後を通した近代的な
農業土木の成果により、新潟平野は全国でもトップの美田地帯に生まれ変わった。
しかし、新潟が 新しい潟”であることに変わりはない。私たちは、 潟”であること
の持つ意味と、それゆえに近い将来必ず起こるであろう(他の平野にはない)課題を知っ
ておく必要がある。
出典:
「“新潟”
であるために・十章」北陸農政局、新潟県農地部、新潟県土地改良事業団体連合会
- 58 -
3ー4ー4 水質改善の取組み
水質を保全していくことは、安全・安心な農産物の生産や多様な生態系を保全して
いくために大切です。また、清らかな水の流れは人の心を和ませ、地域への誇りや愛
着の気持ちを育みます。
また、水質の改善が必要な場合には、様々な水質改善の方法が提案されていますの
で、専門家の意見を聞きながら検討することが大切です。
■ポイント■
○ 国土交通省が行っている全国一級河川の水質状況調査によると、県内のいずれの河川
も農業用水の利用はもとより、水道水源としてもふさわしい良好な水質が保たれていま
す。ただし、混住化が進んでいる都市近郊の農村などでは、生活排水が用水路に流入す
ることなどによって、水質の悪化が顕在化し始めているところがありますので、まず、
現状を把握してみましょう。
全国の河川と比較した県内河川の生物化学的酸素要求量
(BOD)
の現状(平成14年度)
20
20
18
河 16
川 14
数
12
10
荒川
・14年度は全国166河川で調査が行われた。
・県内で最も良好な値は、荒川の0.6mg/㍑であった。
・標準値は、農業用水8mg/㍑以下、水道2級2mg/㍑以下
である。(詳細は参考資料参照)
姫川、魚野川
8
阿賀野川
6
4
信濃川
2
BOD平均値(mg/㍑)
関川
0
上
5
6
7
8
9
0
2
3
4
5
6
9
7
0
8
1
2
3
6
4
7
5
8
9
0. 0. 0. 0. 0. 1. 1. 1. 1. 1. 1. 1. 1. 1. 2. 2. 2. 2. 2. 2. 2. 2. 2. 2. 0以
3.
○ 県民アンケートによると、身近にある河川の状態を、約8割の人が「ふつう」または
「汚い」と感じ、そのうちの3分の1の人は「水質」の改善が必要と思っています。
「身近にある河川」の現在の
状態について(N=188)
(左記の設問で「ふつう」∼「汚い」と答えた方のみ対象)
改善が必要だと思う点(N=145)
ふつう
47%
きれい
21%
わからない
2%
汚い
30%
ゴミ
26%
水質
35%
除草
15%
わからない
2%
その他
2%
自然環境
13%
河川護岸工
7%
H15県民アンケート調査(総務部広報広聴課)
- 59 -
○ 水路の水質改善手法は数多く提案されていますが、ここでは水路の持つ自浄作用や既
存の水路を活用した水質改善の手法を紹介します。水質改善に取り組む場合には、水質
調査の結果や生きものの調査状況などに基づき、目標とする水質について地域の合意形
成を図ることが必要です。
(1)河床形態変更による水質改善
瀬や淵が繰り返されることによって、生物の生息環境が多様となり河川の自浄作用
が増大します。
再曝気(酸素供給)
生物
瀬
酸化
沈殿
礫
【河川における自浄作用のしくみ】
淵
(石積護岸及び水路底に礫など設置)
はくそうりゅうほう
(2)薄層流法による水質改善
水路幅を広くして水深を浅くすることによって、河床や空気と接触する面積を大き
くし、浄化能力を増大させる方法です。
(砂利を敷きつめた水路に薄層流を流す)
( 小 石 を 敷 き つ め る と と も に 、土 砂 溜 を 設 置 )
(3)植物を利用した水質改善
植物によって窒素・リンの吸収、吸着等を進める方法です。直接的な植物による水
質改善機能のみでなく、植物の多面的な機能を利用し、水辺景観の向上、生態系の維
持・バランスが図れます。
この手法は試み始められたばかりで、実証段階であるため、今後の成果が期待され
ます。
出典: 「農村に適した水質改善手法」農村環境整備センター
- 60 -
3ー4ー5 水辺の美化
農村周辺のきれいな水辺は、私たちにうるおいと安らぎを与えてくれます。 しかし、近年、農村地域の混住化や生活様式の多様化に伴い、水路などへのゴミの
投棄、流入によって、水辺の環境が悪化しています。
ゴミ投棄の防止対策について地域で話し合い、みんなが普段からゴミの投棄や流入
を防ぎ、きれいな水辺を守りましょう。
■ポイント■
○ 不要になった農業用のビニール資材や空容器などの投棄や放置は、用水の取水等の営
農に支障があるだけでなく、農村地域の美観を損ねるので、地域でモラルの向上につい
て話し合いましょう。
○ 排水機場のある地域では、ポンプにゴミがつまらないように機械でゴミをかき揚げて
います。かき揚げられたゴミは、可燃物や不燃物、危険物などに分けて、それぞれの処
理場に運んで処分されています。近年はゴミ処理にかかる費用も多額になり、1年間の
処理費用だけで1千万円を超える排水機場もあります。水利施設がきれいに保たれるこ
とは、良質な水の確保につながるとともにゴミを捨てにくい雰囲気が創出され、ゴミの
減少とともに維持管理の軽減につながります。
○ さらに、美しい農村環境づくりを進めることが、消費者へ安全・安心な農産物と信頼
感を送り届けることになります。
【県管理主要排水機場のゴミ処理量】
排水機場名
年間ゴミ処理量
親松排水機場
37. 5㌧
新井郷川排水機場
306. 4㌧
新川河口排水機場
49. 3㌧
※ゴミの種類に木材は含まれていない
(平成14年度農地建設課調べ)
ゴミの分別作業
春耕前のゴミ拾い(五泉市)
【排水機場に集まるゴミの種類】
(家庭ゴミ、空き缶)
(草、流木、農業用資材)
〔写真以外にも家電製品、タイヤ、自転車などが漂着します〕
- 61 -
コラム
里山にみる水循環
中山間地の棚田にいくと、集落(ムラ)を中心にして、その周りに野良(ノラ)とよ
ぶ田んぼや畑が拓かれ、山(ヤマ)とよぶ裏山(里山)の雑木林やアカマツ林が広がっ
ていて、 場所によってはかつて屋根を葺く材料を得ていたススキ草地(カヤ場)などが
ある。こうしたムラを囲んだ人を含むすべての動植物がつくり出す自然は、水循環系の
中に組み込まれて、それらが相互に作用する一つのシステムとして存続している。
▼かつて、里山の林は、薪炭林、農用林として利用され、農
業技術体系の一部として存在していた。しかし、昭和40年
代の経済の高度成長期に入って、化石燃料や化学肥料が、そ
れらにとって変わるようになると、この林は見放され荒廃の
一途をたどるにいたった。林内は、萌芽再生した小低木がほ
うき状に茂り、林縁にはマント群落とよばれるつる性植物が
発達して、風さえ通り抜けることができないほどの劣悪な状
況が出現した。
カタクリ
▼また、裏山の雑木林では、柴や薪をつくり、炭を焼き、落葉かき、刈り敷きなどによ
って肥料をつくり、工事用の粗朶の材料も得ていた。また、春は山菜採り、秋はキノコ
狩りがおこなわれるなど、里山の林は、人が永年にわたって計画的に深く関わる中で存
続し、生物の多様性を生み出してきた。保全の結果(または計画的な略奪の結果)、根
系が発達し、これが分解してできた糖類を求めて土壌生物が集まってきて、落ち葉を腐
葉土に変え団粒化して絡み合った根に取り込まれてスポンジ状を呈して、ここに水がた
っぷりと蓄えられ、やがてその肥沃で豊かな水が下流域をうるおした。
▼第四紀更新世(氷河時代)に刻まれた台地の谷につくられた谷内型棚田や地すべりに
よってできたなだらかな斜面を利用した地すべり地型棚田では、里山の林がつくり出す
水をため池に集め、小川(または用水路)から江(溝)を通じて田んぼに導いた。春を
迎えると、ため池で冬越しをしていたゲンゴロウ、ミズカマキリ、マツモムシ、コオイ
ムシなどの水生昆虫やドジョウ、フナ、ナマズなどの魚類は田んぼへとこの水系を移動
し、田植えが終わって水が温むころ、大部分はここで産卵をおこない、生長してため池
へと帰っていくという生活史をくり返す。湿田ではスブタ、ヤナギスブタ、マツモ、ミ
ズオオバコ、コナギ、オモダカをはじめとした多くの水生植物がみられる。
しかし、現今はほ場の整備によって乾田化が図られたり、除草剤の使用によって、こう
した動植物は急速に種数を減じている。水循環系がどこか
で断ち切られることは、自然にとって大きな圧迫要因とな
る。幸いにして、最近は減農薬や有機農法がおこなわれる
ようになって、徐々にではあるが自然が復活してきてい
る。
<元上越教育大学教授 長谷川康雄>
ゲンゴロウ
- 62 -
3ー5
景観
3ー5ー1 はじめに
農村の景観は、その地域の地形、気候風土の中で、長い年月をかけて、そこに住む
人たちの生産活動や生活を通じて形成されたものです。そこには、都市景観のように
機能的、均質的なものとは異なり、自然や生活に密着した様々な景観があります。人
に人柄があるように景観は、そこに住む人々の生活様式が現れた「村柄」です。
美しい景観づくりのためには、自然美や建造物の配置だけでなく、地域の「村柄」
を共に楽しみ、育み、次世代に引継ぐという観点から、地域にふさわしい景観はどう
あるべきか考えてみましょう。
■ポイント■
○ 「生活の中で毎日見ている風景を子供たちに残したい」、「訪れる人にとって気持ち
の良い景観にしたい」などの意識は多くの人たちが持っていますが、この気持ちを大事
にしましょう。水田や畑などの農業生産の場も地域の人たちと共有するという意識を持
つことが大切です。
○ 農村地域にも都市的な施設が作られることが多くなっています。農村の景観を考える
場合には、それらを観る人の多くが心地よいと感じ、快適な空間だと感じることが重要
です。このためには、農村の景観を創る構成要素が「周辺景観と調和して」、「その場
にふさわしく」組み合わされていることが大切です。
田植え後の棚田(中里村)
長い年月の営みが、現在の美しい景観を形成してきました
- 63 -
3ー5ー2 農村景観のとらえ方
農村の景観は、かつては自然の植物や農作物が四季折々に織りなす彩りや、地形の
起伏によって形成されていました。近年は、高く、直線的で単調な色彩を持つ都市的
な施設が多くなり、農村の景観が単調で退屈なものに変化しようとしています。
私たちは、これまで景観が共有の財産であることに気付かずにいましたが、お互い
の努力で良いものを地域の財産として形づくっていくことが大切です。都市的な施設
が持ち込まれる場合にあっても、機能的な見た目の美しさとともに周辺の景観と調和
に配慮するなど様々な視点からデザインや色彩等について検討することが大切です。
■ポイント■
○地域の人々のくらしとの関わりを考えよう
人が心地よいと感じ、心和ませ、感銘を受ける景観とは単に美しく、綺麗な景観では
ありません。そこに住む人々の生活の「息づかい」が感じられてこそ、観る人の心に染
みる景観となります。子どもたちが魚や虫を追いかける姿は見る人の心に豊かさと安ら
ぎを与え、郷愁を感じさせます。また、お年寄りや体の不自由な人たちにやさしいバリ
アフリーも住む人との調和という観点から重要な要素です。
農村の景観は人間の行為によって創り出されることから、農林業が継続されるなど
人々が活き活きと生活できる空間づくりが、本当の意味での景観づくりかもしれませ
ん。
平 場 の 田 植 え の 様 子 ( 長 岡 市 ): 整 備 さ れ た 水 田 は 地 域 に 活 力 を 与 え ま す 。
- 64 -
○近景、遠景との調和を考えよう
景観には庭の木々、並木道、集落の
家々など、身近で近い距離にある景色
の「近景」と視界が開けたところで見
ることのできる「遠景」とがありま
す。
近景は私たちの暮らしぶりを伝え、
地域の個性を最も表しますが、日本の
景観にはこの部分がヨーロッパ等に比
べて乏しいといわれています。近景を
検討する場合には、地場産の素材を用
いた家並の色づかい、庭や沿道の草木
等の種類などに配慮するなど、自分た
妻入り屋根が並ぶ集落内の景観(巻町)
ちの景観をどうすればいいのか、お互
い話し合うことが大切です。目立つ看板や街灯などは、位置、大きさ、形式、色彩など
にも十分な配慮が必要です。
遠景は集落を取り巻く広い景観で、地域の共通イメージが形成されます。高い山々か
ら近くの森、田畑や川や道路、集落や工場、働く人々など、様々な要素で形成されま
す。このように対象が多岐にわたりますので、新たな整備にあたっては、広い視野から
周辺景観との調和に配慮することも大切です。
○土地柄にあっているか考えよう
地域には成り立ちに起因した特性があります。新潟県でも平野部、山間部、海岸部な
ど様々な地理・気候条件があり、隣接地域との違いから異なる固有の文化を持っていま
す。
農村の景観は、このように地域の生い立ちや歴史を背景につくられてきましたが、近
年の土木建築技術の発達によって、あちこちで同じような施設がつくられ、地域差がな
くなってきています。また、地盤が低く水害のおそれのある土地も住宅地となったり、
地すべりの抑制に役立っていた棚田も耕作放棄が進んでいます。これからは、土地柄や
土地の生い立ち、伝統文化に配慮した土地利用のあり方を考慮した景観づくりが大切で
す。
○好きなビューポイントを探そう
景観は四季折々、朝夕や昼夜など、眺める時間帯によって様々に変化しますが、ここ
から見る景観が好きという場所を見つけ、何故、美しいのかを考えてみましょう。どん
な時期のどの時間帯が最も美しいかを考えてみることも、景観づくりの楽しみを増しま
す。できれば、ビューポイント(景色を見る場所)に名前を付けて、皆でここからの景
観を楽しんだり、それを守る方法も考えてみましょう。また、ビューポイントにはいつ
見て欲しいかの情報も加えたいものです。
- 65 -
「はさ木のある景観」
「はさ木」は、刈り取った稲を乾かすために使われた木で、タモ木やハンノ木などを等
間隔に植え、この木の間に何段もの竹や丸太を横に渡し、そこに稲をかけて秋の陽と風で
自然乾燥をしていました。
昭和40年代後半から50年代にかけて、乾燥機や自脱型コンバインが普及し、刈り取
った稲はそのまま脱穀してもみの状態で乾燥機で乾燥するようになったことから、「はさ
かけ」による黄金の屏風のような風景はほとんどなくなり、「はさ木」は次第に伐採され
ることになりました。
しかし、所々に残ったはざ木は、今でも季節や時間帯によって様々な表情を見せてく
れ、新潟平野の原風景として農村景観の象徴になっています。
- 66 -
参考
景 観 法
近年、景観に関する国民の関心が高まり、地方自治体に景観の保全を促す景観法が平
成16年6月、成立・公布となりました。
【趣 旨】
都市、農山漁村等における良好な景観の形成を図るため、良好な景観の形成に関する
基本理念及び国等の責務を定めるとともに、景観計画の策定、景観計画区域、景観地区
等における良好な景観の形成のための規制、景観整備機構による支援等所要の措置を講
ずる我が国で初めての景観についての総合的な法律です。
【概 要】(農林水産省分)
(1)景観計画の策定
市町村(広域的な場合は都道府県)は景観計画を策定し、景観計画区域、景観形成に
関する方針、景観計画区域内における行為規制の基準、景観重要公共施設(道路、河
川、海岸、漁港等)の整備、景観農業振興地域整備計画の策定に関する基本的事項を定
めることができる。
(2)景観農業振興地域整備計画等
① 市町村は、景観と調和のとれた良好な営農条件の確保を図るため、景観計画区域内
の農業振興地域に景観農業振興地域整備計画を定めることができる。
② 市町村長は、景観農業振興地域整備計画の区域内の農地において、その所有者等に
対し、景観と調和のとれた農業的土地利用をすべき旨を勧告することができる。
③ ②の勧告を受けた者がこれに従わないときは、市町村長は、その農地の権利を新た
に取得しようとする者を指定し、その者との間で権利移転の協議をすべき旨を勧告す
ることができる。
④ ③により指定された景観整備機構※にあっては、上記勧告の協議が調った農地の利
用権を取得し、管理することができる。
※景観形成のための業務を行う農業公社、NPO法人などを指定
⑤ 市町村は、景観計画に即して景観に配慮した森林施業を推進するため、市町村森林
整備計画を変更することができる。
(3)景観協定
景観計画区域内の土地の所有者等は、市町村長の許可を受けて、農用地の利用・保全
に関する事項等を定める景観協定を締結することができる。
- 67 -
3ー5ー3 その場にふさわしく
新たに施設をつくる場合は、施設の必然性や機能などが「その場にふさわしい、相
当である」と感じてもらうことが大切です。このような感覚は、観る人の過去の経験
や知識などによって培われる感性が基準となるため、様々な人の目で、様々な角度か
ら検討することが重要です。
■ポイント■
○華美、過大でないか考えよう
整備する施設に形、色、模様、配置などについて特殊な工夫を行う場合には、それら
が多くの人々の支持を得られるよう、その必然性について十分な検討を行い、場違いな
ものにならないよう努めましょう。
○利用する人、観る人のことを考えよう
これまでは、利用者のニーズに合わせ、利便性や機能性を重視した施設が多く造られ
てきました。しかし、これらは必ずしも「ゆとり」や「やすらぎ」を体感できる快適な
空間でなかったかもしれません。地域住民の意見にも配慮し、その場にふさわしい施設
となるよう周辺の農村景観との調和を考えることが大切です。
○洗練されたセンスが感じられるかを考えよう
地域のランドマークやモニュメントとして作られる施設や装飾については、地域の周
辺状況に十分配慮することが重要です。これらはその性質から観る人に注目される位置
に設けられるので、大きさ、形、色彩などの要素はもちろん、その必然性については
様々な視点から十分な検討が必要です。地域に作られる商業用PR看板や案内看板など
も同様な検討が必要です。
人工的な施設は、周辺の環境と造形的にも調和したものであり、利便性を備えた洗練
されたセンスをもった美しさが求められます。
地域のランドマーク
周囲に合わせた配色
- 68 -
3ー5ー4 謙虚でさりげなく
全体の景観から突出した表現は、周囲と調和せずに、地域の印象を変えてしまうこ
とがあります。色、形、大きさ等で奇抜な表現をするよりも、謙虚でさりげなく工夫
されたものが人の心を和ませたり、郷愁を誘ったりします。
■ポイント■
○表現がストレートすぎないか考えてみよう
地域の特産品や伝統文化には様々なものがあります。知らない土地で、これまで味わ
ったことのないおいしい食べ物、見たことのない風景や特産品、伝統文化に触れること
は旅の楽しみであり、たいへんうれしいものです。しかし、それらの表現方法があまり
に露骨で、唐突な場合が見受けられます。伝えたい気持ちを少し抑えて、謙虚に伝える
ことに心がけ、ストレートな表現方法を避けるよう努めましょう。
○メリハリつけて、一貫して個性を表現しよう
地域の景観づくりや地域の個性をアピールするため、地域の特産品や伝統文化を活用
する場合でも、あらゆる場所で同じようにそれらを散りばめるだけでは、PR効果はあ
りません。訴えたいものとの関連性を考慮して、物語性を取り入れるなどメリハリをつ
けて、一貫性を持った個性の表現に努めましょう。
○さりげない表現で好感度をあげよう
地域の景観づくりには自然の素材が使われ、自然と調和した違和感のない景観である
ことが好感度をあげます。強調するところとそうでないところをうまく組み合わせ、小
さな工夫、さりげない心づかいが施されていることが観る人の印象度や好感度をあげま
す。
景観に配慮した橋
周囲の景観と調和した管理施設
- 69 -
コラム
中山間地域の機能
中山間地域は、平地に比べて農業や生活を営んでいく上で条件的に不利な地域です
が、一方で豊かな自然や優れた地域資源を有し、環境保全上重要な地域です。
近年、地域資源については『多面的機能』として広く紹介されており、中山間地域に
は年間3兆300億円に相当する機能があるとも言われています。その内容としては、国土
保全(災害を防ぐ)、水源かん養(水源を保つ)、環境保全(生態系を保つ)、大気の
浄化、生活文化を支える恵みなど様々です。
しかし、中山間地域の現状は、高齢化、過疎化が急激に進み、その影響で耕作放棄地
が増大しているため、このままでは農業生産活動を通じて維持されてきた農地や農業用
施設が荒廃するなど、地域資源の劣化が懸念
されています。
新潟県の中山間地域は降水量、降雪量が多
く、土質は脆弱な基岩で亀裂、空隙が多いこ
とから地すべり災害が多いことで知られてい
ます。中山間地域の棚田は、崩れて緩傾斜と
なった地すべり地形を利用して稲作を行い管
理することで地すべりを抑制し発展してきま
した。このため耕作放棄地と地すべり災害に
浦川原村における地すべり(平成2年)
は密接な関係があり、棚田の保全管理が地域
の防災に大きな役割を果たしているといえま
す。
5
500
450
地すべり発生率
耕作放棄地面積
400
350
3
地すべり総件数350件
300
250
200
2
150
耕作放棄地面積(ha)
地すべり発生率(%)
4
100
1
50
0
1950
0
1955
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
年
棚田地域の耕作放棄地面積と地すべり発生率の推移
対象地域:板倉町・清里村・牧村・安塚町・松代町・松之山町
<新潟大学農学部教授
- 70 -
早川 嘉一>
第4章
環境との調和に配慮した
農業農村整備事業
- 71 -
4ー1
農業農村整備事業の活用
4ー1ー1 はじめに
農業農村整備事業は、農村地域における社会資本の整備という大きな観点から公共
事業と位置づけられますが、一般的に農家の発意に基づいて開始されるのが特徴で
す。実施に当たっては、受益者(農家)負担金を伴いますが、地域の意見を反映しな
がら進めます。
農業農村整備事業を活用する場合、施行前に、必要性、技術的可能性、経済性、負
担能力の妥当性などを検証する必要があります。また、平成13年6月の土地改良法
改正によって、事業実施に当たっては環境との調和への配慮が原則となっています。
■ポイント■
○ 農業農村整備事業を里づくりに活用する際には、上記の基本的要件のほか、事業の趣
旨や採択の要件、採択までのスケジュールを考え、整備手法や維持管理の方法について
も地域でよく検討し、計画づくりを進める必要があります。
○ 計画づくりや事業実施に当たっては、市町村で策定している農村環境計画(又は田園
環境整備マスタープラン)を参照するなど、地域特性に応じた環境との調和への配慮を
することが大切です。その際は、生態系の保全だけではなく、景観や伝統文化など4つ
のヒントが参考になります。
また、生きものの調査方法や環境配慮の基本的な対策方法などについて、客観的な立
場から指導・助言を得るため、専門家を含めた環境配慮の検討会を設け、みんなで話し
合うことも大切です。
○ 農業農村整備事業を活用する場合には、事前に市町村農林担当課又は土地改良区に相
談すると良いでしょう。これまでの経験などから事業化に向けたアドバイスがあるはず
です。
ほ場整備事業 中条地区
(中之島町)
かんがい排水事業
新穂二期地区(佐渡市)
- 72 -
広域農道整備事業
柏崎地区(刈羽村)
農業農村整備事業を活用した里づくりのすすめかた
里づくり
行政・専門家のかかわり
◎水土里ネット(地域のリーダーシップ)
現状把握
・仲間づくり
・発見、提案
・土地改良区
・新潟県土地改良事業団体連合会
◎専門家(専門的な意見、提案)
・地域の再点検
◎行政(市町村、県)
専
農業農村整備事業を活用
門
プランづくり
・将来の姿を共有
発 意
調査計画
・行動計画
土地改良手段
採択申請
法確定
事業採択
実践・行動
・みんなで行動
協議・調整
実施計画
(事業主体が実施)
協議・調整
事業の施行
(事業主体が実施)
事業の完了
評価・検討
的
言
な
・
意
提
見
案
・
︵
提
随
案
時
︵
︶
随
(供用開始)
時
・新たな
プランづくり
助
協議・調整
協力
維持管理
- 73 -
︶
地
域
へ
の
提
案
︵
随
時
︶
4ー1ー2 食料・農業・農村基本法の4つの理念
旧農業基本法は、昭和36年、当時の社会経済の動向や見通しを踏まえて、農業
の発展(生産性の向上)と農業従事者の地位の向上(生活水準の農工格差の是正)
などを目的として制定されました。
しかし、社会が急速な経済成長、国際化の著しい進展等により 大きな変化を遂
げる中で、食料・農業・農村をめぐる状況は大きく変化し、食料自給率の低下、農
業者の高齢化、農地面積の減少、農村の活力低下など、国民が不安を覚える事態が
生じています。
その一方で、農業・農村が、健康な生活の基礎となる良質な食料を合理的価格で
安定的に供給する役割を果たすこと、国土や環境の保全、文化の伝承等の多面的機
能を十分に発揮すること、くらしといのちの安全と安心の礎として大きな役割を果
たすものとして、大きな価値を見出す動きが着実に増大しています。
こうした農業・農村に対する期待に応えて、平成11年7月、食料・農業・農村
基本法が制定されました。
■ポイント■
○ 本法では、食料、農業及び農村の施策に関する4つの基本的な理念として、食料の安
定供給の確保、多面的機能の発揮、農業の持続的な発展、農村の振興を規定していま
す。
また、基本理念に即した諸施策の実施を担保するため、施策について基本方針、食料
自給率の目標、総合的かつ計画的に講ずべき施策等を明示した基本計画を政府が策定す
る旨を規定しています。同計画は、諸情勢の変化並びに施策の効果に関する評価を踏ま
え、概ね5年ごとに見直されることになっています。
○ 本法第24条には、農業生産の基盤の整備が規定されていますが、この中で環境との
調和に配慮しつつ、必要な施策を進めることが謳われています。
「食料・農業・農村基本法」(平成11年7月16日法律第106号)
【施 策】
(農業生産の基盤の整備)
第24条 国は、良好な営農条件を備えた農地及び農業用水を確保し、これらの有効利
用を図ることにより、農業の生産性の向上を促進するため、地域の特性に応じて、環境
との調和に配慮しつつ、事業の効率的な実施を旨として、農地の区画の拡大、水田の汎
用化、農業用用排水施設の機能の維持増進その他の農業生産の基盤の整備に必要な施策
を講ずるものとする。
- 74 -
食料・農業・農村基本法の目指すもの(4つの基本的な理念)
旧農業基本法
食
料
/
多
面
的
機
能
農
業
農
業
の
発
展
と
農
業
従
事
者
の
地
位
の
向
上
生産性と生活水準
(所得)
の農工間格
差の是正
食料・農業・農村基本法
食料の安定供給の確保
多面的機能の発揮
○良質な食料の合理的な価格
での安定供給
○国内農業生産の増大を図る
ことを基本とし、輸入と備
蓄を適切に組み合わせ
○不足時の食料安全保障
○国土の保全、水源の
かん養、自然環境の
保全、良好な環境の
形成、文化の伝承等
農業の持続的な発展
○農地、水、担い手等の生産要素
の確保と望ましい農業構造の確
○生産政策
○価格・流通政策
○構造政策
立
○自然循環機能の維持増進
農村の振興
農
農業の発展の基盤として
○農業の生産条件の整備
○生活環境の整備等福祉の向上
村
- 75 -
国
民
生
活
の
安
定
向
上
及
び
国
民
経
済
の
健
全
な
発
展
食料・農業・農村基本法制定の背景
(1)食料自給率の推移
100
80
︵
%
60
40
︶
20
0
S40
S50
S60
H7
H15
穀物自給率
62
40
31
30
27
供給熱量自給率
73
54
53
43
40
資料:食料需給表(農林水産省)
(単位:万ha)
(2)農地面積の推移
650
29
27
600
25
︵
全
国
︶
︵
新
23
潟
21 県
︶
550
500
19
450
17
400
S35
S40
S45
S50
S55
S60
H2
H7
H12
全 国
607.1
600.5
579.6
557.3
546.1
537.9
524.3
503.8
483.0
新潟県
25.6
25.1
23.7
21.9
21.1
20.4
19.6
18.7
18.2
資料:耕地及び作付面積統計
(農林水産省)
(3)高齢化率の推移
25.0
20.0
︵ 15.0
%
10.0
︶
5.0
0.0
S25
S30
S35
S40
S45
S50
S55
S60
H2
H7
H12
全国
4.9
5.3
5.7
6.3
7.1
7.9
9.1
10.3
12.1
14.6
17.4
新潟
5.2
5.8
6.3
6.9
8.1
9.6
11.2
12.8
15.3
18.3
21.3
資料:新潟県の人口移動(総合政策部統計課)
人口推計(総務省統計局)
- 76 -
15
4ー1ー3 土地改良法の改正
土地改良法は、昭和24年に制定され、農業生産基盤の整備を通じて、農業の生
産性の向上、農業構造の改善に大きく寄与してきました。
しかし、近年、公共事業のあり方や良好な環境に対する国民の関心が高まる中で、
土地改良事業が、農地の面的な整備や農業水利施設の建設など環境に人為による作
用を加えるものであり、事業実施区域及びその周囲の環境に対して一定の負荷を与
えるものであることから、事業実施に当たって、環境に適合するよう配慮していく
ことが強く求められました。
このような状況に対応するため、平成13年6月の法改正(平成14年4月1日
施行)において、土地改良事業の実施に当たっての原則に「環境との調和に配慮す
ること」が位置づけられました。
農業農村整備事業の変遷(環境に関する国民の意識の向上により変化)
1960年代
生産環境
1980年代
生産環境+生活環境
1990年代
生産環境+生活環境+快適環境
2000年代
生産環境+生活環境+快適環境+自然環境
土地改良法(平成13年6月29日法律82号)
(目的及び原則)
第1条 この法律は、農用地の改良、開発、保全及び集団化に関する事業を適正かつ円
滑に実施するために必要な事項を定めて、農業生産の基盤の整備及び開発を図り、もっ
て、農業の生産性の向上、農業総生産の増大、農業生産の選択的拡大及び農業構造の改
善に資することを目的とする。
2 土地改良事業の施行に当たっては、その事業は、環境との調和に配慮しつつ、国土
資源の総合的な開発及び保全に資するとともに国民経済の発展に適合するものでなけれ
ばならない。
- 77 -
農 業農 村 整備 事業 に おけ る環 境と の 調和 の 基本 的 考 え方 の 概要
目標:持続可能な社会、循環型社会の形成
農業、農村における環境との調和
視点:
○目標とする農村の環境
人と農の営みと自然との共生により形成・維持されてきた良好な環境(二次的自
然)を念頭に置き、地域ごとに目標とする農村の環境を設定
○参加と共生による循環型社会の形成
広範な関係者の「参加」と、自然と人との「共生」により、「循環」型社会を形成
○環境への負荷の低減と良好な環境の形成
農業生産性の向上等を図りつつ、農村の二次的自然や景観等への負荷を回避、低減
するとともに、良好な環境を形成
○全ての事業の実施に際しての環境との調和への配慮
原則として全ての事業の実施に際して環境との調和へ配慮
○透明性が高く、実効性のある仕組みに基づく配慮
受益農家、地域住民、行政機関等の関係者の意見を踏まえつつ、透明性の高い明確
な手順に基づき環境との調和へ配慮
実効性のある仕組み:
○調査、計画、実施の各段階における環境との調和への配慮の仕組み
・農村地域の環境保全に関するマスタープランの策定
・調査計画段階での環境との調和への配慮(環境との調和に配慮した事業実施のた
めの調査計画・設計の手引きの策定)
・環境との調和への配慮の観点での事業計画書の審査
・環境との調和に配慮した事業実施、維持管理及びモニタリング
○地域住民等の意向の反映
・地域住民、関係行政機関等の参加促進と意向の把握
・環境学習の推進
○客観性、透明性の確保
・環境に関する十分な情報収集、意見交換
・環境に関する専門家の活用
背 景
土地改良法の改正
食料・農業・農村基本法の制定
環境に対する国民意識の高まり
- 78 -
土地改良法の主な改正点
改正の背景
①土地改良事業の実施に当
たって環境との調和への
配慮が求められている。
① 事業実施に当たっての 環 境 と の 調 和 へ の 配 慮
食料・農業・農村基本法を踏まえ、土地改良事業の施行に当たっての基本原
則 と し て 「 環 境 と の 調 和 へ の 配 慮 」 を 追 加 す る 。( 第 1 条 )
(食料・農業・農村基本
法 第24条)
②地域の意向を踏まえた事業計画の策定
a) 地 域 の 意 向 を よ り 的 確 に 反 映 さ せ る た め に 、 事 業 計 画 に つ い て 行 っ て い る
「 市 町 村 長 の 意 見 聴 取 」 を 、「 市 町 村 長 と の 協 議 」 に 改 め る 。( 第 5 条 、 第 8 5
条等)
b)地 域 住 民 を 含 め 広 く 意 見 を 聴 く こ と で 事 業 の 円 滑 な 実 施 を 図 る た め 、 国 県
営事業について、あらかじめ計画概要を公告・縦覧し、これに意見がある者は
意 見 書 を 提 出 で き る 仕 組 み を 設 け る 。( 第 8 5 条 等 )
②混住化が進み、非農家が
③地域と連携した土地改良施設の管理
多数を占める農村へと変
排水施設等の管理により利益を受けている住民からの費用徴収を円滑に行う
貌する中、地域全体の理
ため、知事認可に先立って、あらかじめ住民等の意見聴取を行う手続きを設け
解を得た事業実施が必要。
る 。( 第 3 6 条 )
④土地改良区の役割の一層の発揮
土地改良区が換地を行う際に、地区外の担い手に対して規模縮小農家の農地
を取得させるには農地保有合理化法人を経由させているが、これに加えて、土
地改良区が適当と認めた担い手に直接取得させる途を開く。
(第53条の3の2)
⑤土地改良施設の適時適切な更新
③食料の安定供給・農業の
a) 土 地 改 良 区 が 管 理 す る 施 設 と 関 連 し た 市 町 村 管 理 施設 に つ い て 、国 県 営 管
持続的発展を支えるため、
理施設等と同様に国県営事業での更新を土地改良区が申請できるようにする。
22兆円を超える土地改
(第85条の3)
良施設を適切に維持・更
b) 施 設 機 能 の 維 持 を 図 る も の で 、農 家 負 担 が 増 加 し な い 等 の 一 定 の 要 件 に 合
新するための手続きの改
致する施設の更新事業(同意徴集が簡素化されるもの)の対象に、土地改良区
善が必要。
の 同 意 を 条 件 に 、 国 ・ 県 発 意 の も の を 追 加 す る 。( 第 8 7 条 の 2 )
⑥再評価に対応した国県営事業の廃止手続等の整備
再 評 価 の 結 果 、国 県 営 事 業 の 廃 止 を 行 う 際 の 手 続き を 、 現 行 の 計 画 変 更 の 手
続き に 準 じ て 定 め る 。( 第 8 7 条 の 3 )
国 営事 業が 廃止さ れた 場合の国と県の費用負担については両者の協議で決め
る 旨 定 め る 。( 第 9 0 条 )
④公共事業の効率的・効果
的な実施が求められてい
る。
⑦土地改良区を通じた負担金徴収の拡充
国県営、土地改良区営事業について行われている土地改良区を通じた負担金
徴 収 を 、市 町 村 営 事 業 に つ い て も 行 う こ と が で き る よ う に す る 。
(第96条の4)
- 79 -
4ー1ー4 環境配慮のための調査計画の仕組み
国や県では、環境との調和に配慮した事業計画策定に係る所要の調査、計画、地域
形成を円滑かつ効率的に実施するため、従来の調査計画に係る手続きのほか、次のよ
うな仕組みをつくり環境配慮を支援しています。
(1)農村環境計画(田園環境整備マスタープラン)
各市町村は、中長期的な地域環境のあり方や事業に関しての環境配慮の基本方針等を取
りまとめた農村環境計画(田園環境整備マスタープラン)を策定します。事業計画のため
の環境調査及び環境配慮対策の検討の際には、この内容を踏まえて効率的な事業を図るこ
とになります。農村環境計画では、新潟県農業農村整備環境対策指針に基づき、地域住民
との合意形成を図り、次の事項等を定めています。
①地域内の環境に関する現状の評価
②地域内の環境保全目標の設定
③農業農村整備事業における環境に配慮した整備計画
国では、補助事業の実施に当たって、申請された事業計画が、次に該当する場合は、当
該事業を採択しないものとしていますので、事前に農村環境計画(田園環境整備マスター
プラン)の内容を確認することが必要です。
①当該事業計画が関係する農村環境計画(田園環境整備マスタープラン)において保全
すべきとされている生態系について、有効な対策が講じられていない場合
②当該事業計画が関係する農村環境計画(田園環境整備マスタープラン)において配慮
すべきとされている事項について、有効な対策が講じられていない場合
③その他当該事業計画が関係する農村環境計画(田園環境整備マスタープラン)と整合
が図られていない場合
(2)環境に係る情報協議会
環境との調和への適切な配慮について的確に検討を行うためには、有識者や地域住民の
意見を十分に踏まえることが重要です。さらには、調査方法や環境配慮対策の検討等の過
程を客観的・透明性の高いものとするため、国では、各都道府県に、学識経験者や地域住
民の代表、農業関係者によって構成される「環境に係る情報協議会」の設置を要請してい
ます。本県においては、県庁に環境に係る情報の収集や総括などを目的に『新潟県農業農
村整備事業環境情報協議会』を設置し、地域機関においては、環境配慮に関する意見交換
会・検討会等を設置しています。
(3)環境相談員
農業農村整備事業が実施される際、環境に係る様々な分野の専門知識を有する者が、必
要に応じて実施主体の相談にのったり、実施主体とともに現地調査を行い、環境配慮に関
する指導・助言を行うことは、事業計画の円滑な策定につながります。
国では、様々な環境に関する専門家を環境相談員として登録しており、本県においても
60余名の登録があるので、必要に応じて活用をしてください。
- 80 -
4ー1ー5 新潟県の環境対策
本県では、環境問題に適切に対応し、県民の健康で文化的な生活を確保するため、
環境施策の理念と基本的な施策の方向を定めた「新潟県環境基本条例」に基づき、平
成9年3月に「新潟県環境基本計画」を策定しました。
基本計画では、環境保全の長期目標を次のとおり定めています。
環境保全の長期目標
健全で恵み豊かな環境を確保し、これを良好な状態で将来の世
代に継承していくことを基本目標とし、
Ⅰ 自然と共生した潤いのある社会づくりを進めます
Ⅱ 環境に負荷の少ない循環型の社会づくりを進めます
Ⅲ 地球環境問題に積極的に取り組む社会づくりを進めます
Ⅳ 県民参加で環境保全に取り組む社会づくりを進めます
農地の環境保全機能を生かすための農村環境づくりの推進
●環境保全機能に配慮した農地の一体的な保全
農地や農業用施設が有する地下水かん養、生態系維持、景観形成など環境保全機能
を活かすため、無秩序な都市化の進行を抑制するなど計画的な土地利用を進めます。
●環境保全型農業の推進
有機質資源等を循環利用した土づくりを基本に、化学合成資材や化学肥料による環
境への負担を軽減する農業技術を確立し、これらを総合的に組立てた技術体系を普及
推進します。
●農村の環境価値を高める農村環境づくりの推進
屋敷林、鎮守の森、はさ木などの農村景観や、トンボ・ホタル類に代表される溜め
池や水路などの身近な生物の生息地の保全に配慮して生物多様性の向上に努めるな
ど、農村の環境価値を高める農村環境づくりを進めます。
●耕作放棄地の活用の促進
周辺環境に応じて市民農園化、湿地への移行、景観形成など適切な活用を進めます。
- 81 -
【農業政策と環境対策の関わり】
環境と開発に関する国連会議(地球サミット)
(1992年)
国 連
アジェンダ21
環境と開発に関するリオ宣言
地球温暖化防止条約
生物多様性条約
森林原則声明
国
食料・農業・農村基本法
環 境 基 本 法
食料・農業・農村基本計画
環境基本計画
土地改良法
景観法
土地改良長期計画
県
新潟県農業農村整備長期計画
新潟県環境基本条例
新潟県環境基本計画
新潟県公共事業環境配慮指針
新潟県農業農村整備環境配慮指針
にいがた☆里に生きる
共に時を刻む農村づくりの手引き
市町村
市町村農村環境計画
市町村環境条例
- 82 -
4ー2
事業実施において
4ー2ー1 施工時の留意点
環境に配慮した施設整備を進める場合、現地条件に応じた適切な施工時期の設定や
順序など、施工上の配慮も検討しましょう。
■ポイント■
○ 工事請負により環境に配慮した施設整備を行う場合には、設計図書を示すだけでは地
域の環境配慮のコンセプトが伝わりにくいため、施工の留意点や内容を特別仕様書に記
載し、説明を付ける等の工夫が必要です。
また、環境配慮を進める上で、特に重要なものについては、専門家の指示を仰ぎなが
ら施工しましょう。
○ 工事の期間中も生物の生息・生育環境が確保されるように配慮し、生き物の生息・生
育に必要な対策を行いましょう。
○ 工事中に想定していない稀少生物が発見された場合には、直ちに適切な対応をとれる
体制づくりに努めましょう。
○ 簡易な整備については、地域の人たちから参加してもらえる直営施工を活用しましょ
う。直営施工は、参加する人たちの創意工夫を活かすことができ、施設に愛着をもって
もらうことができます。
地域住民による植裁の様子
(新潟市)
(亀田町)
- 83 -
4ー2ー2 環境に配慮した資材
地域で採れる自然材料を利用した整備は、地域の特性が活かされ、周辺環境とも調
和しやすい方法です。
また、施設の改修時はできるだけコンクリート廃材などが発生しないように心が
け、利活用や再利用ができないか考えてみましょう。
■ポイント■
・・
○ 自然材料には、そだ、間伐材、玉石等が考えられます。遠隔地から持ち込む場合は、
コストが高くなり周辺環境と調和しない場合もあるので注意が必要です。
また、環境配慮型の製品も数多く開発されているので、整備コストや維持管理などを
検討し、現地に調和した資材を採用しましょう。
(1)石材
じゃかご
蛇篭に代表される金網に入れて利用する
ほか積石やコンクリートと一体に利用する
場合があります。石材は、粒径や重さなど
によって様々な用途に、色々な工法で使用
できます。
また、古くから使われていた材料だけに
景観と調和した材料といえます。
地場産の石材を利用して築造された取水工
(妙高高原町)
(2)木材
木材は、木造建築物、護岸、土留、柵などとして用途が多い上、加工もしやすく自然
材料なので生態系、景観と調和しやすい特徴があります。特に、間伐材の利用は、森林
の健全な育成にも貢献しています。新潟県においては、「にいがたスギブランド材」
(JAS2級相当)を制定したり、「公共施設における県産材利用推進方針」を定めるな
ど、品質の安定性と流通性の確保を支援しているので、県産材の利用を促進しましょう。
木製の手摺り(川西町)
そだ護岸に利用されている間伐材
- 84 -
(3)環境配慮型のコンクリート製品
環境に配慮したコンクリート製品は、生きものの生息環境、景観、水質浄化などを目
的に様々なものがつくられています。
底版に石を敷詰めた例
ワンド(湾処)を作った例
陸上への移動を容易にした例
- 85 -
4ー2ー3 モニタリング
農村づくりのために整備した施設が、想定したとおりの効果を発揮しているか定期
的に継続的に評価・検討(モニタリング)することが大切です。
モニタリングは、施設を維持管理し、施設に更なる工夫が必要かどうか判断するた
めに重要な資料となります。また、他地域の施設改修や環境との調和を一層進めるた
めの新たな計画づくりの参考に利用することができます。
■ポイント■
○ モニタリングの方法は、施設の規模や環境への影響度合、地域の状況によって異なり
ますが、必ずしも専門家による本格的な調査は必要ありません。モニタリングの結果を
新たな施設づくりや維持管理の方法に反映させることが大切です。
○ 環境に配慮した施設は、予期せぬ状況変化などにより、目標を達成しないこともあり
ます。また、農村環境は多くの要素が相互に関連して成り立っているので、計画・実践
の段階で最善の対策を講じたとしても、結果として目的とした効果が得られないことも
あります。
このため、整備後に継続的なモニタリングを行って、目標の達成状況を把握するとと
もに、目標が達成されない場合にはモニタリングの結果を踏まえて修正等を検討しまし
ょう。
○ 生態系に配慮した施設のモニタリングについては、田んぼの生きもの調査などを参考
に地域活動(住民団体活動、小・中学校での環境教育など)とすることも可能です。
整備計画
生き物調査
修
正
施
工
の
検
討
計画策定
他地域の整備計画
事業実施
モニタリング
結果の反映
参考
修
正
施
工
の
検
討
維持管理
新たな整備計画
整備計画
修
正
施
工
の
検
討
生き物調査
計画策定
計画策定
事業実施
モニタリング
結果の反映
維持管理
事業実施
新たな整備計画
モニタリング
結果の反映
維持管理
新たな整備計画
モニタリング結果の活用について
- 86 -
第5章
にいがたの農村地域の
生きものたち
- 87 -
1. 農村地域の生きものたち(87種)
本章では、里づくりや生きもの調査の参考となるように、新潟県内の農村地帯によ
く見られる動植物とレッドデータブックに掲載され絶滅が心配される種のほか、農村
の整備に関係がある生きものを紹介しています。
紹介している種は、多くの種の一部で、生きものを同定(種の見きわめ)する場合
は、図鑑を使ったり、難しいものは専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
なお、代表的な移入種(外来種)も掲載していますが、このような種が確認された
場合には、第3章「移入種」(P51)によって対応することが求められます。
魚類・・・・・・・・89
イバラトミヨ
イトヨ
ホトケドジョウ
メダカ
カジカ
トウヨシノボリ
アブラハヤ
ウグイ
オイカワ
タモロコ
モツゴ
ヤリタナゴ
ギンブナ
ドジョウ
シマドジョウ
ナマズ
爬虫・両生類・・・・93
モリアオガエル
トノサマガエル
トウキョウダルマガエル
ツチガエル
ニホンアカガエル
ニホンアマガエル
シュレーゲルアオガエル
クロサンショウウオ
ニホンイモリ
イシガメ
クサガメ
昆虫類・・・・・・・96
タガメ
タイコウチ
コオイムシ
ゲンゴロウ
ミズカマキリ
ミズスマシ
アメンボ
オニヤンマ
ノシメトンボ
アキアカネ
ハグロトンボ
コバネイナゴ
ゲンジボタル
ヘイケボタル
貝類・・・・・・・・100
モノアラガイ
マシジミ
マルタニシ
オオタニシ
カワニナ
ドブガイ
甲殻類・・・・・・・102
スジエビ
サワガニ
モクズガニ
ヨコエビ類
植物類・・・・・・・106
デンジソウ
サンショウモ
ミズアオイ
コナギ
オモダカ
ミクリ
ホソバミズヒキモ
ヤナギモ
カヤツリグサ
ガマ
マコモ
ヨシ(アシ)
移入種(外来種)・・109
オオクチバス
コクチバス
ブルーギル
ソウギョ
タイリクバラタナゴ
ウシガエル
ミシシッピアカミミガメ
コカナダモ
セイタカアワダチソウ
ブタクサ
ボタンウキクサ
ホテイアオイ
鳥類・・・・・・・・103
トキ
オオジシギ
チュウサギ
アオサギ
アマサギ
コサギ
ハクチョウ
カルガモ
チョウゲンボウ
カワセミ
ハクセキレイ
ツバメ
- 88 -
絶滅危惧のランクは
「レッドデータブックにいがた」
に拠ります。
魚 類
●●●●●●●●
イバラトミヨ (絶滅危惧Ⅰ類)
トゲウオ科
県内では上越地方にも生息していたが、現在
では下越地方の湧水地帯にしか生息していな
い。全長約6cmほどで、背びれには8∼10本ほど
の短いトゲがみられる。体色は淡い灰緑色で、
はんもん
黒色の斑紋が散在し、腹面は銀白色である。春
の繁殖期になると雄が巣を作り、そこに雌が卵
を産み、ふ化するまで雄が世話をする。
イトヨ (絶滅危惧Ⅱ類)
トゲウオ科
県内全域の流れの緩やかな河川、水田などに
営巣する。全長約10cm、背びれは長い3本の独
立したトゲがあり、腹びれにも1対の長く鋭いト
ゲがみられる。体側は暗青色を帯びる。2∼5月
こうさい
の繁殖期に雄は背部と虹彩は鮮やかな青色に、
口から喉の部分は鮮紅色になる。
ホトケドジョウ (絶滅危惧Ⅱ類)
ドジョウ科
水温が低く、水草が繁茂した用水路や湧水の
ある池などに生息する。体長は5∼7cmほどで、
体は細長く円柱状である。頭部は平たく、4対
の口ひげをもつ。体色は黄褐色で、小さな暗色
点が覆う。ドジョウの仲間では珍しく、浮き袋
が発達し、水草の間を遊泳している。コンクリ
ートの水路では湧水を遮るため配慮が必要であ
る。
メダカ (準絶滅危惧)
メダカ科
新潟平野の亀田郷ではほとんど姿を見ること
が出来なくなり、高田平野でも著しく減少して
そくへん
へんぺい
いる。体長2∼4cm、体は側扁し、頭は扁平であ
る。下あごはやや突出しており、体色は青みを
帯びた褐色である。コンクリート護岸された水
路では流速が速く、産卵場所も無いため、水草
を残すような整備が必要である。
- 89 -
魚 類
●●●●●●●●
カジカ
カジカ科
河川の上・中流域に生息する。体長は約15cm
ほどになる。頭は少しつぶれた形をしていて、
背びれが2つあり、胸びれは丸く大きい。左右の
腹びれは互いに近寄り、水底にへばりつくため
いかり
の錨の役割をしている。体色は褐色で、背側に4
∼5個の暗褐色の斑紋がみられる。周りの石の色
などにより体色や斑紋は色を変える。
トウヨシノボリ
ハゼ科
淡水湖や汽水湖およびその流入河川に生息す
る。体長は約7cm、体側には黒色の斑紋が6∼7
個みられる。体長や斑紋は地域差、個体差が大
きい。食性は水生昆虫やユスリカの幼虫などを
食べる。巣は礫などの下を掘ってつくられ、産
卵期には、石の下に卵を産み付ける。
アブラハヤ
コイ科
主に河川の上流域から中流域にかけて生息す
る。また、池沼の岸近くでもみられる。全長約
13cmで尾柄が細く長い。頭部もやや細長く、目
は大きい。うろこは小さく、側線は体側のほぼ
中央を縦走する。体色は淡い黄褐色ないしやや
緑色を帯びた灰褐色であり、背部は濃く腹部は
銀白色を呈している。
ウグイ
コイ科
本種は淡水型と降海型に分けられる。「ハ
ヤ」とも呼ばれ、河川では上流から下流まで広
く分布する。全長は30cmとやや大きめで、強い
酸性度の水域にも生息することができる。成魚
は、春の産卵期になるとオレンジ色の3本の縦
こんいんしょく
おいほし
縞の婚姻色が現れる。追星は全身に出るが、頭
部と体部側面のものが顕著にみられる。
- 90 -
魚 類
●●●●●●●●
オイカワ
コイ科
河川中・下流域及び湖沼に分布する。全長は
15cm程度、体色は背部が淡褐色、腹部と体側は
銀白色、体側に赤みを帯びた7∼10個の黄斑が
並ぶ。頭部、尻びれ、体側には明瞭な追星を生
じる。雄は雌より大型になり、尻びれは雌に比
べ著しく大きくなる。
タモロコ
コイ科
細流、灌漑用水路、水田等の砂底部に生息す
ぼうすいがた
ふんぶ
る。ややずんぐりとした紡錘型で吻部は丸く口
ひげが一対見られる。体側に黒色縦条があり全
長12cmほどになる。産卵期には婚姻色はあまり
目立たないが、追星がみられる。生息場所の淀
みや水草が減少すると、産卵場所を失うことに
なるため注意が必要である。
モツゴ
コイ科
コイやフナの放流に混じり日本全土に分布を
広げ、湖沼や河川の下流域に生息する。全長は
8cmほどになる。口は小さく上向きにつき、体
側には一本の黒色の縦条が見られる。産卵期に
は雄は黒っぽい婚姻色になり、吻部には追星が
現れる。本種の生息数が減少する心配は感じら
れないが、シナイモツゴとの競合による影響が
心配される。
ヤリタナゴ
コイ科
体長は10cmほど、タナゴ類の中では体高が低
く、やや細長く感じられる。一対の口ヒゲを持
ち、小型の底生動物や藻類などを食べる雑食性
である。産卵期になると雄は、鮮やかな婚姻色
がみられる。二枚貝のえらの中に産卵し、卵は1
ヶ月ほど貝の中で過ごす。本種の保護には二枚
貝の保護も必要となる。
- 91 -
魚 類
●●●●●●●●
ギンブナ
コイ科
河川の中・下流域や汽水域、湖沼に生息す
る。体長は約25cmで、体色は背面が褐色、腹側
は銀白色を帯びている。体高は高いが、尻びれ
付近から後方に急にすぼまる様に小さくなるの
が特徴的である。産卵にはヨシやフサモといっ
た植物が必要であり、植生が保全されることが
重要である。
ドジョウ
ドジョウ科
河川の支流、細流、水田、湿地等に生息す
る。円筒形の細長い形をし、成魚では10∼15cm
ほどになる。体色は背側が暗褐色で不規則な斑
紋を持ち、腹側が白色なのが一般的である。泥
底の有機物を食べるため口は下向きについてお
り、そのまわりに5対のヒゲが見られる。
シマドジョウ
ドジョウ科
日本固有種で、小川や河川の中・下流域の比
較的水質のよい流れの緩やかな砂底、砂礫底に
生息する。体は円筒形で細長く、体色は肌色で
黒色斑紋が8∼16個並ぶ。背びれ、尾びれにも
黒色の斑紋が不規則に並ぶ。食性は底生の小動
物や有機物を砂とともに吸い込みろ過して食べ
る。春になると湧水を水源とする細流に遡上し
水生植物の根や茎に卵を産み付ける。
ナマズ
ナマズ科
湖沼や河川の中・下流域に生息する。体長は
60cmほどになり、下あごが突出している。両あ
み
ごにはそれぞれ1対のヒゲがあり、そこには味
らい
蕾という味を感じる神経がある。体色はオリー
ブ色がかった斑紋が不規則に全体を覆うが、色
彩は変異に富む。食性は、肉食性であり、夜に
小魚やカエル、甲殻類、貝類を探しまわり食べ
る。
- 92 -
両 生 類
●●●●●●●●
モリアオガエル (準絶滅危惧)
アオガエル科
粟島を除く平地から山地に広く生息する。体
長は雄4.2∼6cm、雌5.9∼8.2cm、背面は緑色か
ら暗緑色、腹面は灰白色を呈している。
むもんこたい
県内では無紋個体が一般的である。指先の吸
盤は良く発達していて、産卵は池などに張り出
らん
した葉の茂った枝や水辺の茂みなどに泡状の卵
かい
塊を産み付ける。産卵期と非産卵期の連続した
生息空間が必要となる。
トノサマガエル (絶滅危惧Ⅱ類)
アカガエル科
加治川以北、新潟平野を取りまく低山地、柏崎
以南等で見られる。主に水田、池沼、河川に生息
している。体長は雄3.8∼8.1cm、雌6.3∼9.4cm
で、体色にも性差があり、雄は基色が緑黄色で斑
紋は不明瞭、雌は基色が白又は灰色で黒い明瞭な
きゅうばん
斑紋が見られる。本種の様に指に吸盤の無い種
は、垂直なコンクリート護岸壁の水路では這い上
がることが出来ないため配慮が必要である。
トウキョウダルマガエル
アカガエル科
県内では主に信濃川流域の中越、下越地方と
阿賀野川流域の平野部の水田、池沼などに生息
している。体長は、雄3.5∼7.5cm、雌4.5∼
8.5cmほどで、背面や側頭部に黒い斑紋が丸く独
立し、色彩や斑紋に性差は見られない。雄はあ
めいのう
ごの両脇に1対の鳴嚢をもち、4∼7月の繁殖期
には水面を移動しながら鳴く。トノサマガエル
と比べて後肢が短い。
<トノサマガエルとトウキョウダルマガエルの違い>
トノサマガエル
トウキョウ
ダルマガエル
トノサマガエル
背中に連続した黒色の斑紋が見られる。 後肢
の先が鼓膜まで届く。
トウキョウダルマガエル
背中に独立した黒色の斑紋が見られる。 後肢
の先が鼓膜まで届かない。
※斑紋は地域によって異なることや、両種の
交雑によるものも生息する。
- 93 -
両 生 類
●●●●●●●●
ツチガエル
アカガエル科
水田や湿地、河川、渓流などの水辺周辺に生
息する。体長3.5∼5.3cm、体色は赤褐色から暗
褐色をしている。背面にはイボ状の短い突起を
持つため、イボガエルとも呼ばれている。卵か
らかえったオタマジャクシは越冬し、翌年の夏
に変態して子ガエルになる。しかし、地域によ
り異なり、越冬しないものもいる。体からは特
異な臭いを放つ。
ニホンアカガエル
アカガエル科
平地や丘陵地の水田や湿地などに生息する
が、山間部には少ない。体長は3.5∼6.5cmで、
体色は黒褐色から赤茶色をしている。背面は平
こ まく
滑で突起物は見られない。鼓膜周辺は黒く染ま
り、背側線は明瞭に見られる。背側線はほぼ直
線で、酷似するヤマアカガエルは鼓膜の後ろがV
字型をしているのとで見分けることができる。
ニホンアマガエル
アマガエル科
平地から高地まで普通に生息し、植え込み、草
地、樹上などで生活している。体長は2.2∼4.5cm、
緑色もしくは灰褐色を呈していることが多いようだ
が、周囲の環境に応じて変化する。鼻孔から鼓膜ま
で黒条がみられる。吸盤が発達しており、地上や草
木まで行動範囲は多様である。産卵は水田、沼、湿
地といった止水域で行う。開発が進んでも環境の選
択性が広いため現在でも多く見られる。
シュレーゲルアオガエル
アオガエル科
水田や丘陵地、高山部に生息する。体長は3∼
5cmほどで、体色は暗褐色から緑である。黄色い
斑紋が独立してみられる個体もいる。雄はのどに
単一の鳴嚢をもち、のどを膨らませ鳴く。指には
吸盤が発達しており、樹上の生活に適している。
本種は、モリアオガエルと非常によく似ている
こうさい
が、目の虹彩が黄色であり、モリアオガエルは赤
みを帯びた橙色であることで区別できる。
- 94 -
両 生 類
●●●●●●●●
クロサンショウウオ (準絶滅危惧)
サンショウウオ科
主に渓流域の広範囲の広葉樹林に生息する。
体長は13∼15cmほどで、暗褐色の体に不規則な
暗斑紋が広がる。産卵期は、雪解けの2∼6月。
本種の保全には、餌となる水生昆虫の生息が必
要であることから、周辺の広葉樹林の保全やコ
ンクリート護岸などで単純化しないことが大切
である。
ニホンイモリ (準絶滅危惧)
イモリ科
水田や池沼でみられる。体長は雄8∼10cm、
雌10∼13cmと性差がある。体色は背面が黒色、
腹面は赤く不規則な黒斑があり、アカハライモ
リと呼ばれている。イモリとヤモリの違いは、
イモリが両生類で水の中に生息しウロコがな
い、ヤモリが爬虫類で陸に生息しウロコがあ
る。
は 虫 類
●●●●●●●●
イシガメ (準絶滅危惧)
イシガメ科
粟島を除く各地の河川、池沼に生息してい
る。甲長は雄12cm、雌20cmほどで褐色から黄
褐色を呈している。甲の中心に不明瞭な1本の
隆起が見られ、後縁はギザギザの形をし、腹甲
は黒色である。カメ類の行動圏は広く周辺環境
まで保護する必要がある。
クサガメ
イシガメ科
平地の河川や池沼、またその周辺の水田や水
路に生息している。甲長は、雄が18cm、雌が
25cmほどに成長し、背側に3本の盛り上がった
線が見られる。体色は茶褐色で、頭部と側頭部
には、黄色い断続的な斑紋が見られる。主に
魚、カエル、水草、水生昆虫などを食べる。悪
臭を出すので嫌がる人もいる。
- 95 -
昆 虫 類
●●●●●●●●
タガメ (絶滅危惧Ⅰ類)
コオイムシ科
水田、用水路に生息し、鎌状の前脚で餌とな
るカエルや小魚などの小動物を捕らえる。体長
しま
は48∼65mmほどで、若齢幼虫には黒と黄の縞
もよう
模様がある。冬になると小川の石の下などで越
冬する。本種は、日本の農業にうまく適応した
種であったが、農薬の影響、又影響を受けた小
動物を食べることにより減少したと考えられて
いる。
タイコウチ (絶滅危惧Ⅰ類)
タイコウチ科
体長は30∼38mm、体色は灰褐色∼暗褐色で
ある。鎌状の前脚と、腹部から体長ほどの呼吸
管が顕著に見られる。幼虫の生息の場としては
流れのない水生植物が繁茂した空間が好まし
い。また、垂直なコンクリート壁などは登れな
いため、緩傾斜もしくは自然護岸が好ましい。
コオイムシ (準絶滅危惧)
コオイムシ科
雌が雄の背中に卵を産み付けることが本種の
名前の由来である。体長は17∼20mmほどで扁
平な卵形をしている。体色は黄褐色で、鎌状の
前脚を持ち、モノアラガイなどの巻き貝を食べ
る。本種は水深の浅い植物の多く生える水域を
好むため、護岸などにより水草が減少すること
は本種の減少する要因ともなる。
ゲンゴロウ (準絶滅危惧)
ゲンゴロウ科
池沼や水田、川、湿地の水生植物の繁茂した
浅い水域に生息する。体長は30∼40mmほど
で、緑色を帯びた黒色、黄褐色で縁取られてい
る。ガムシと似ているが、ガムシには黄褐色の
縁取りがないことや、腹部の色、触角の形状な
どで簡単に識別される。近年、農薬や水質汚染
により減少している。
- 96 -
昆 虫 類
●●●●●●●●
ミズカマキリ
タイコウチ科
水田やため池、池沼に生息し、これらの環境
を生活サイクルの中で行き来しているため、そ
れら一体の環境保全が必要となる。体長40∼
45mmほどで、鎌状の前脚を持ち、細長い棒状
の体型をしている。5∼7月頃になると陸上の湿
ったコケなどに産卵する。冬になると水底の落
ち葉などに隠れ越冬する。
ミズスマシ
拡大→
ミズスマシ科
池沼や水田、小川などの流れの緩やかな場所
に生息する。しかし、害虫駆除剤や農薬の多用
により減少傾向にある。体長は5∼7mmで、体
全体がつやのある黒色である。体は楕円形で前
脚は長いが、後脚は短く水をかくために平らに
なっている。産卵と幼虫の生息環境としては水
草の存在が非常に重要になる。
※拡大写真はオオミズスマシ
アメンボ
アメンボ科
水田、水たまりなどの止水域や流れの緩やか
な川に生息する。体長は10mm∼16mmほどで、
体は細長く黒色である。腹面は銀白色の軟毛が
生えている。現在でも多くの水辺で見かけられ
るが、近年、生活排水等が流れ込み、表面張力
を利用し水面に浮くことができなくなり、溺れ
てしまうことがある。
オニヤンマ
オニヤンマ科
国内に生息するトンボ類の中では最大で、体
長95∼100mmほどになる。体色は雄雌とも黒色
地に黄色の縞模様がある。幼虫は流れのある水
域にしか生息できない。羽化については主に夜
間に水際の植物や護岸壁に定位して羽化する。
未成熟個体は、羽化水域から少し離れた山の傾
斜に集まる習性がある。
- 97 -
昆 虫 類
●●●●●●●●
ノシメトンボ
トンボ科
平地から低山地の水際植物の繁茂する水深の
浅い池沼や水田などに生息し、未成熟個体は周
辺林地に生息する。このため、水域と林地の合
わさった環境が必要となる。体長は約45mm
はね
で、翅の先端に黒褐色の斑紋があるトンボであ
る。成熟した雄は赤色ではなく暗赤色になる。
幼虫は、緑色を帯びた淡褐色で複雑な濃色斑が
みられる。
アキアカネ
トンボ科
平地から低山地の草丈のあまり高くない抽水
植物の繁茂する池沼、湿地、水田などに生息す
る。体長は40mmほどで、未熟なうちは橙黄色で
黒い斑紋があり、雄は成熟すると赤みを増す。
羽化後は山地に移動し、秋に平地に戻ってくる
習性がある。本種は卵のまま越冬するため、乾
田化の影響は比較的少ないと考えられるが、近
年、平野部の水田地帯では激減している。
ハグロトンボ
カワトンボ科
水生植物の繁茂する緩やかな流れに生息す
る。腹長は40∼50mmほどで、雄はつやのある
黒色、雌は濃褐色で光沢の少ない翅をもつ。産
卵は水面近くの植物組織内に産卵する。水質汚
濁や河川改修により減少したが近年回復しつつ
ある。
<ノシメトンボとアキアカネの違い>
はね
ノシメトンボの方が大きく、翅の
先端に見られる斑紋の大きさ、形が
違うことで見分けることができる。
- 98 -
昆 虫 類
●●●●●●●●
コバネイナゴ
バッタ科
主に水田に見られるが、河川、草地にも生息
している。体長は雄が約30mm、雌が40mmで緑
はね
色をしている。翅は腹部の末端より短く飛翔力
はほとんどない。しかし、後肢は良く発達しジ
ャンプ力がある。主にイネ科の植物を食べるこ
とで、以前は水田の害虫とされていた。平野部
にもよく見られていた種であるが、現在は多く
見られなくなった。
ゲンジボタル
ホタル科
流れの緩やかな小川に生息する。体長12∼
18mmほどの甲虫で、胸部には細い十文字の黒い
模様がある。産卵は水際の石や倒木に生えたコ
ケに卵を産み付け、成虫はその後10日ほどで死
亡する。幼虫は主にカワニナを食べて成長す
る。各地で放流が行われているが、遺伝子の違
うものもあるので地域固有の生態系にあったも
のを選ぶなど注意が必要である。
ヘイケボタル
ホタル科
主に水田や用水路に生息し、巻き貝などを食
べる。体長は7∼10mmほどの甲虫で、ゲンジボ
タルに似ている。幼虫で越冬し、翌年6月頃岸
に上がって、土の中でさなぎになる。水田で見
られた巻き貝も少なくなり本種が水田で生活し
ていくことは難しくなってきた。
<ヘイケボタルとゲンジボタルの違い>
ヘイケボタル
胸の黒い模様が縦一文字の形をし
ている。
ゲンジボタル
胸の黒い模様が細い十文字の形を
している。
- 99 -
貝 類
●●●●●●●●
モノアラガイ (準絶滅危惧)
モノアラガイ科
小川、池沼、水田の岸近くや木杭、水草等で
生活するが、乾田化、人工護岸、農薬の使用等
により著しく減少した。殻高は20mmほどで、
殻は右巻き、殻色は淡黄色であり、殻口が大き
い種である。殻は非常に薄く軟体が透けて見え
るほどである。高水温は好まず、生活排水等で
汚染された川には生息できない。
マシジミ (準絶滅危惧)
シジミ科
河川や池沼に生息するが、乾田化や水質汚
染、農薬の使用により激減した。底質は砂質泥
底、砂底、砂礫底であることが重要となる。殻
長は20∼30mm、殻頂の下に主歯と前後に長い
前側歯があり、殻は三角形である。幼貝は黄緑
うんじょうもん
色で成長すると雲状紋が現れ、黒褐色、黒色に
なる。保護する場合は水質と底質に配慮する必
要がある。
マルタニシ (準絶滅危惧)
タニシ科
県内では乾田化や除草剤の使用により姿を消
し、現在ではごく限られた水田や池沼に生息す
る。殻高は60mm、殻径は44mmほどで卵円形の
らとう
薄質である。螺塔は高く6層になり、各層はまる
ほうごう
くよく膨らみ縫合は深く、殻表は緑褐色の光沢
がみられる。
<モノアラガイとサカマキガイの違い>
モノアラガイ
サカマキガイ
モノアラガイ (右まき)
サカマキガイよりやや大きい とがった方を上にして、貝の口が右まき
サカマキガイ (左まき)
モノアラガイより光った感じ。
とがった方を上にして、貝の口が左まき
- 100 -
貝 類
●●●●●●●●
オオタニシ
タニシ科
湖沼や潟、川の泥底に生息する。殻高は60∼
70mm、殻径は約40mmの卵円錐形をしている。
螺塔は7層あり、各層の膨らみは弱い。殻は緑褐
色で、殻の口は卵形をし、中の方は青白い。蓋
は殻の口と同様に卵形をし、色は殻の色と同じ
である。
カワニナ
カワニナ科
小川や池沼、水路などに生息する。殻は細長
く15∼30mmになり、形や色彩は環境によって
変化する。泥内の有機物、石の表面に付着した
藻類、落ち葉などを食べる。本種はゲンジボタ
ルのエサになることで知られているが、地域に
よって遺伝子の異なることが多く、エサとして
地域外から移入することは、避けることが望ま
しい。
ドブガイ
イシガイ科
潟や池、川、水田などの浅く泥質、砂泥質の
ところに生息する。通常は底に殻を半分差し込
み、群れをなしている。殻長は約200mm、殻高
は約120mm、殻幅は約80mmの卵形の貝で、黒
色をしている。本種のような二枚貝は、タナゴ
類の産卵に利用されるため、本種の保護はタナ
ゴ類の保護にもつながる。
〈オオタニシとマルタニシとヒメタニシの違い〉
※1
※2
オオタニシ マルタニシ ヒメタニシ
※1…螺層
※2…縫合
大きさ…オオタニシ>マルタニシ>ヒメタニシ
螺 層…オオタニシは7層、マルタニシ
とヒメタニシは6層からなる。
縫 合…深い順に並べると、マルタニシ、
オオタニシ、ヒメタニシとなる。
- 101 -
甲 殻 類
●●●●●●●●
スジエビ
テナガエビ科
主に沼や池、湖に生息し、ときには汽水域に
も見られる。黒褐色の縞模様があり、体長約50
∼60mmほどに成長する。はさみを持っている
が、テナガエビほど長くなくあまり目立たな
い。流れの緩やかな場所を好み、淵や淀みとい
った環境が必要となる。また、稚エビの隠れる
場所として、水草などが繁茂する環境も必要で
ある。
サワガニ
サワガニ科
山間部に多く見られ、主に谷川や川原の石の
下に生息する。体色は赤褐色のものが一般的で
あるが、黒み、青みを帯びるものもあり、甲の
中央に溝が見られる。はさみは左右ほぼ同じ大
きさであるが、成熟した雄は片方が大きくな
だっぴ
る。雑食性で水生昆虫や野菜等を食べる。脱皮
は石の下に隠れ、甲がある程度硬くなってから
出てくる。
モクズガニ
イワガニ科
河川の上流域から河口域まで生息する。甲幅
は約60mm、はさみにフサフサとした軟毛が密
生している。主にカワニナなどの貝類や魚の死
骸などを食べる。繁殖時には川と海を行き来す
るため、河川の横断構造物には魚道などを設置
する必要があるが、甲殻類を対象とするものは
確立されていないため、太いロープなどを併設
する例もある。
ヨコエビ類 (淡水生息型)
ヨコエビ科
体長8∼12mmで淡黄色ないし黄褐色をして
いる。湧水や渓流の水の澄んだ所にすみ、石や
落葉の下、水底の細砂の中などに体を横にして
潜む。雑食性で、藻類のほか、腐った植物や動
物の死骸などにも群がる。渓流域にすむカジカ
類などの魚類の重要な餌となっている。ヨコエ
ビには様々な種がいるので、同定は難しい。
- 102 -
鳥 類
●●●●●●●●
トキ (野生絶滅)
トキ科
国産のトキは絶滅したが、国内では佐渡島が
最後の野生の生息地であった。現在、トキ保護
センターで中国のトキが飼育・人工繁殖されて
いる。体長は約75cm、繁殖期になると雄雌とも
に頭から体の上部、胸にかけて灰褐色になる。
かんもう
後頭に冠毛があり、顔は眼のまわりが赤くな
る。クチバシは湾曲し、黒色で先端は赤色であ
る
オオジシギ (準絶滅危惧)
シギ科
県内の生息地域は、尾瀬ヶ原、妙高高原、北
蒲原郡のごく一部に分布し、湿性草原や海岸草
原に生息する。全長約30cm、体色は褐色で地味
である。腹面は白く、それ以外は全身淡褐色で
あり、細かな暗色の斑点がみられる。クチバシ
は真っ直ぐで長く、尾は短くなっている。夏鳥
として4月初旬に渡来し、8∼9月頃に去ってい
く。
チュウサギ (準絶滅危惧)
サギ科
県内では、阿賀野川、信濃川、悠久山公園な
どで繁殖している。全長約70cm、全身真っ白で
コサギより一回り大きいが、クチバシはコサギ
より短い。クチバシの色は繁殖期が黒色、非繁
殖期には黄色に変わる。食性はザリガニ、カエ
ルなどを捕まえて食べる。5月頃から他のサギ類
に混じって、皿形の巣を作り繁殖する。
アオサギ
サギ科
大きな河川や湖沼、水田などに生息している。全
長は90∼100cm、日本産のサギ類の中では最大級で
ある。全身は青みを帯びた灰色であるが、背や翼、
尾羽はいくらか濃く、目の上から後頭部の冠羽にか
けて黒色帯がみられ、首には縦の黒色の線が数本み
られる。他のサギ類に混じり営巣するため、魚、ザ
リガニ、カエルなどのエサの豊富な水辺が必要とな
る。翼を下げ、独自の姿勢で日光浴などする。
- 103 -
鳥 類
●●●●●●●●
アマサギ
サギ科
夏鳥として渡来し、水田、沼地、草原等に生
息するが、他のシラサギ類と比べ、比較的乾い
た草地を好む傾向にある。体長は45∼55cmほど
で、クチバシは黄色、足は濃い緑色である。夏
羽は頭から胸、背にかけて橙色、冬羽は全身白
色となるが、頭部が黄色味を帯びるものもあ
る。食性は主に昆虫等を食べるが、魚、カエル
等も捕食する。
コサギ
サギ科
川や池沼、水田、潟などの水辺に生息する。
全長は約60cm、全身白色で、クチバシは黒く、
足も黒いが、足指は黄色をしている。春から夏
にかけての繁殖期には、頭に長いかざり羽が2本
みられ、背中にも先がクルッとしたかざり毛が
みられる。餌を採る時は、岸辺で待ち伏せした
り、水深の浅い所を歩き回ったりと変化に富
む。営巣は木の上に集団で行う。
ハクチョウ
カモ科
ひょう
県内では瓢湖、福島潟、鳥屋野潟、佐潟等が
代表的な生息地である。日本で越冬するハクチ
ョウにはオオハクチョウ、コハクチョウがい
る。オオハクチョウは体長は約140cm、クチバ
シは黄色い斑紋が半分以上まで見られる。コハ
クチョウは体長が約120cm、クチバシは黄色い
斑紋が半分にも至らない。両種とも水生植物の
茎や根を食べる。(写真はコハクチョウ)
カルガモ
カルガモ科
水田や川、池沼などに生息する。全長は50∼
65cmほどで、体色は褐色と白の地味な色彩で顔に
は縞模様がある。他のカモと違い、雄雌同色であ
る。クチバシは黒色で先は黄色い。雑食性で、草の
実や葉、水生昆虫、貝などを採って食べる。イヌや
ネコなどの外敵から身を守るため、水辺の浮島のよ
うな近寄りがたい場所で休息する。
- 104 -
鳥 類
●●●●●●●●
チョウゲンボウ
ハヤブサ科
水田や原野、広い川原、潟、丘陵地などに生
息する。体長は30∼40cm、羽を広げると70∼
80cmほどになる。体色は、雄は頭と尾が灰色で
背面が茶褐色、雌は全体的に茶褐色である。
餌を採るときは、ホバリングをして餌を探
し、見つけると一気に降下し獲物を捕らえる。4
月頃になると、海岸や山地の断崖の横穴や岩棚
などで繁殖する。
カワセミ
カワセミ科
山地から平地の川や池、湖などの水辺に生息
し、単独もしくはつがいで行動する。体長は、
17cmほどでカワセミ類の中では最小である。採
餌は水辺の小枝やもしくはホバリングをし、魚
を確認すると水中にダイビングし捕らえる。巣
は川沿いや湖などの岸壁に穴をあけその奥につ
くる。コンクリート護岸などの場合、巣穴を作
れないので注意が必要である。
ハクセキレイ
セキレイ科
海岸や河口、広い川の岸や中州、水田などに
生息している。体長は約21cmほどになり、背面
や喉の下部から胸にかけて黒く、腹面や翼は白
色である。冬羽は背面が灰色になる。主に昆虫
等を食べる。空中を飛び回り飛んでいる昆虫を
捕らえたり、地上を歩いて捕まえたりする。気
の強い鳥で、シギやチドリ類などの本種より大
きな鳥でも追い回すこともある。
ツバメ
ツバメ科
県内各地の海岸から山裾まで広く分布している。
特に農村部に多く見られる種である。翼と尾は長く
黒い。尾は中央部が深く切れ込み、頭や背はつやの
ある青っぽい黒色、喉と額は赤さび色をしている。
雄は雌より尾羽の先が細長い。空中を飛ぶ昆虫を巧
みに捕らえて食べる。人家の軒先や商店街のアーケ
ードに巣を作り、5∼8月にヒナを育て、9∼10月頃
去っていく。
- 105 -
植 物 類
●●●●●●●●
デンジソウ (野生絶滅)
デンジソウ科
かつては水田の「強害雑草」と呼ばれるほど
繁茂していたが、現在県内ではほとんど生育し
ていない。根茎は長く横走し、水田や湖沼など
の泥に根を下ろし群生している。葉柄は、長さ
10∼15cmで、小葉は四つ葉のクローバーのよう
な形をしている。除草剤や農薬の使用が影響し
たうえ、宅地造成や農地整備などで生育可能な
場所が少なくなり激減した。
サンショウモ (絶滅危惧Ⅱ類)
サンショウモ科
県内では普遍的に見られていたが、現存して
いない所が多い。低地の水田や湖沼の水面に生
育する一年生の水生シダであり、浮葉は単葉で
対生して開き、長さ0.8∼2cmの楕円形をしてい
る。水中葉は細かく枝分かれし、根のような形
ほう し のうぐん
態と機能を持っている。胞子嚢群は水中葉の基
部に集まり、大小2型の茶褐色の球体である。
ミズアオイ (絶滅危惧Ⅱ類)
ミズアオイ科
県内の生息地は点在し、湖沼や河川、水路な
どに分布する。一年生で抽水性の水生植物であ
る。花期は7∼10月、青紫の花弁は6枚で、径
2.5∼3cm、一日花で次々と咲く。果実は長楕円
形で約1cm、その中に1mmほどの種子が多数入
っている。種子は長年にわたり地中で生きてい
るため、農地の改変や河川改修により新たに群
生地が現れることもある。
コナギ
ミズアオイ科
水田や水路に生育し、直径15mmほどの大き
さの青紫色の花を咲かせる。ミズアオイと似て
いるが、コナギは花の穂が葉よりも低く、ミズ
アオイは葉よりも高いことで見分けることがで
きる。1個の株には5∼6本の柔らかい茎があ
り、茎の上には1枚のハート形の葉をつける。
- 106 -
植 物 類
●●●●●●●●
オモダカ
オモダカ科
水田や池沼などの浅い部分に生育する多年草
である。葉の形は細長い矢じり型で3弁の純白の
か じょ
花をつけ雌雄同株で、花序の先端に雄花を、下
の方に雌花をつけ、下の雌花が先に咲く。地中
には走出枝をだし、先端がクチバシ状の球茎を
つけ発芽する。
ミクリ
ミクリ科
池沼や水路、湿地などの水深の浅い泥底に生
育する。根茎は径4∼5mmの円柱状で泥の中を
地下茎が横走している。葉は濃い緑色で、光沢
がある。形は扁平で100∼180cmほどの長さに
なる。果実は堅く、ミクリの仲間は互いによく
似ているため識別は難しい。本種が生育するよ
うな場所はトンボのヤゴや両生類などの重要な
生息空間となっている。
ホソバミズヒキモ
ヒルムシロ科
葉は浮葉と沈水葉の2種類ある。浮葉では長
さ2∼2.5cm、幅0.5∼1cmほど、沈水葉では長さ
4∼6cm、幅1mm以下の狭線形となっている。コ
バノヒルムシロとよく似ている。本種は果実に
著しい突起が見られないが、コバノヒルムシロ
にはとさか状の不規則な突起が見られ区別でき
る。
ヤナギモ
ヒルムシロ科
多年生の沈水植物であり、池沼やため池、小川な
どの浅い水域に群生する。長さは50cmほどで、濃
緑色、もしくは、緑褐色の細い糸状の水草である。
6∼9月頃には、花が水面から出て咲いている。底
質は泥質で、比較的有機汚濁の少ない場所に生育す
るが、多少の水質汚濁には耐久性はある。本種は、
コイやフナなどの隠れ場や、ガンカモ科の水鳥の
餌、また貝類の餌場としても重要である。
- 107 -
植 物 類
●●●●●●●●
カヤツリグサ
カヤツリグサ科
空き地、道ばた、水田、畑などに生育し高さ
は30∼50cm程度になる。茎は3つの稜があり、
ほうよう
先端に3∼4個の細長い苞葉をつけて、その間
から花茎を出す。7∼8月にかけ緑色の花序を
形成し8月の終わり頃から種子がこぼれ落ち
る。カヤツリグサという名は、両端を残して茎
を縦に裂くと四角形ができ、この形を蚊帳に見
立ててついた。
ガマ
ガマ科
沼や川岸などの湿地に生息する、1∼2mほ
どの多年草である。茎は丸く真っ直ぐ伸びてい
て、葉は平たく茎よりも高く伸びる。花は茎の
先端に黄色い雄花をつけ、その下にはソーセー
ジに似ている雌花をつける。果実は熟すと赤褐
色となり、秋から冬にくずれ綿毛の様になり飛
ばされる。昔は花粉を止血などの薬用として使
用していた。
マコモ
イネ科
全国に分布し、沼地や川の浅瀬に群生する多
年生の抽水植物である。太い地下茎が湖底を横
に這い、節から高さ1∼2mの茎を立てる。葉の
幅は2∼3cm、緑色でざらつきがある。8∼10月
頃花穂を出し開花する。
ヨシ(アシ)
イネ科
大型の多年生植物で、川岸や水湿地に群生し
ている。太い地下茎が土中を横たわり、その節
から芽を出す。中空の茎はかたく円柱形で真っ
直ぐに立ち、高さは2∼3mほどになる。葉は
細長く50cmほどで、かたくごわごわし先端はと
がっている。穂は3∼4個の小さな花からなり、
花のついている軸から長い絹のような毛が出て
いる。
- 108 -
移 入 種
●●●●●●●●
オオクチバス
サンフィッシュ科
1925年に神奈川県芦ノ湖に移入され、現在で
はバス釣りの浸透にともない日本全土に分布す
るようになった。主に湖沼、ため池等の止水域
を好んで生息する。体長は約30∼60cmになり、
体長が5cmを超えると魚食性となる。各地では
在来種が捕食され減少し内水面漁業に大きな影
響を与えている。
コクチバス
サンフィッシュ科
オオクチバス同様に日本各地で密放流が行わ
れた結果、急速に分布を拡大した。湖沼、ダム
湖などの止水域ではやや水深の深いところに生
息する。また流水域や冷水域にも生息が可能で
ある。成魚は肉食性で、魚類、水生昆虫、甲殻
類を捕食する。オオクチバス同様に密放流は法
的に禁止されている。
ブルーギル
サンフィッシュ科
1965年に伊豆半島で放流したのが始まりであ
る。以降各地で分布を広げ、現在では湖沼やた
め池を中心として生息する。体長は約25cmにな
り、産卵期には雄はあごに淡青色の帯と腹部に
黄色から朱色の婚姻色が出る。オオクチバスほ
ど貧欲ではないが、甲殻類、水生植物、魚卵等
を食べる。
ソウギョ
コイ科
食料増産対策として放流された「草魚」は名
の通り水草を食べる。しかし近年、本種の目的
は釣りや水草除去のために放流されている現状
にある。しかし、過剰な放流により水生植物群
落を破壊し、生態系への影響は大きくなってい
る。
ソウギョ
- 109 -
移 入 種
●●●●●●●●
タイリクバラタナゴ
コイ科
平野部の浅い池沼や河川、用水路の淀みなど
に生息する。全長約60∼80mmで、体は側扁
し、ひし形に見える。体に側線が見られるが不
完全である。食性は主に付着藻類であるが、小
型の水生動物も食べる。産卵には二枚貝が必要
となる。
ウシガエル
アカガエル科
原産地は北アメリカ東部で、戦前食用として
導入されたことから食用ガエルとも呼ばれる。
平地の池や沼、水田、水路に生息し、体長は、
15∼18cmと大型で国内では最大である。背面は
緑褐色で、腹面は白色と黒色の斑紋がみられ
る。日本在来のカエル類や魚を食べるため生態
系に影響を及ぼしている。
ミシシッピアカミミガメ
ヌマガメ科
アメリカ原産で、子ガメはミドリガメと呼ば
れ、よく知られている。甲長は、雄23cm、雌
28cmほどで、目の後ろに赤い帯があるのが特徴
的である。ペットとして流通しているが、逃げ
出したり捨てられて野生化し定着している。
様々な動植物を食べ、クサガメやイシガメなど
の在来種に影響を与えている。
コカナダモ
トチカガミ科
北米原産の沈水植物であり、金魚鉢などに入
れてよく使われていた種である。茎はやや硬
く、長さが20∼50cmほどの多年草である。再生
力が強く、切れた茎の節から根を伸ばし増殖す
る。今後は在来種が圧迫されないようにするこ
とが重要になってくる。また河川改修工事など
により環境構造が単純化した場合、本種のみ繁
茂し、他種が排除される危険もある。
- 110 -
移 入 種
●●●●●●●●
セイタカアワダチソウ
キク科
明治中期に国内に持ち込まれた、北アメリカ
原産の多年生の植物である。高さは2∼3mほど
に成長するため、他種と光をめぐる競争により
優位に立つことができる。繁殖力は旺盛で、土
中では地下茎が密生している。本種は非常に他
種との競争に強く、在来種が減少する結果とな
る。なお、受粉は虫を媒体とするため、花粉症
の原因になる心配はない。
ブタクサ
キク科
北アメリカ原産で、昭和の初めに国内に持ち
込まれ、空き地や道ばた、埋立地などによく見
られる。茎高は30∼120cmほどになる一年草
で、深く切れ込んだ葉が特徴的である。受粉は
風の力で行われる。そのため、花粉症を引き起
こす種として有名である。
ボタンウキクサ
サトイモ科
別名ウォーターレタスと呼ばれる本種は、熱
帯から亜熱帯地域に分布する多年草である。温
度、光、栄養の3つの条件を満たすと急激に増
殖する。水面一帯を覆い隠し、他の水草の生育
を妨げる。また、その下に生息する魚類にも影
響を与える。強力な繁殖力で増殖するため、除
去の際には多大な費用と労力を必要とする。
ホテイアオイ
ミズアオイ科
1884年に観賞用として移入された種である。
長さ5 ∼20cmほどの葉は光沢があり、葉柄の中
央には浮き袋がある。水温が高く、水質の富栄
養化が進んだ水域では、驚くほどの繁殖力で広
がる。本種が大繁殖した水域では、水面を覆い
隠し、水中の酸素が欠乏し、水中に生息する生
物に影響を与えることとなる。
- 111 -
2. レッドデータブック
レッドデータブックは、1966年に世界自然保護
連合(IUCN)が発行したものが最初です。以来、世
界各国で自国版のレッドデータブックが編さんされ
て、わが国においても1991年に環境庁から「日本
の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブッ
ク−脊椎動物編」及び「同無脊椎動物編」が相次い
で発行されました。本県においても2001年に「レ
ッドデータブックにいがた」が発行されています。
「レッドデータブックにいがた」に掲載されている動植物の種数
カテゴリー
区分
分類群
哺乳類
絶 滅 危 惧
野生
絶滅
絶滅
Ⅰ類
Ⅱ類
(EX)
小計
(EW) (EN) (VU)
2
1
鳥類
動
物
合 計
(6)
8
5
10
(15)
34
1
51
1
2
3
1
1
(2)
7
農地の
改変に
よる
16
5
4
9
4
淡水魚類
1
2
2
(4)
11
6
22
7
昆虫類
5
32
19
(51)
72
19
147
16
2
1
大型水生
甲殻類
2
陸・淡水産
貝類
淡水産
プラナリア
類
植
物
地域
個体群
(LP)
1
爬虫類
両生類
準絶滅
危惧
(NT)
5
7
1
(1)
(12)
26
5
43
5
1
2
小計
8
1
46
45
(91)
161
34
295
37
維管束植物
1
2
83
267
(350)
80
234
667
101
小計
1
2
83
267
(350)
80
234
667
101
合 計
9
3
129
312
(441)
241
268
962
138
合計962種類のうち138種類が農地の改変が主な減少等の原因と考えられています。
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新潟県カテゴリー定義
区分及び基本概念
定 性 的 要 件
絶滅 Extinct (EX)
わが県ではすでに絶滅したと
考えられる種
過去にわが県に生息・生育していたことが確認されており、飼
育・栽培下を含め、わが県ではすでに絶滅したと考えられる種
野生絶滅
Extinct in the Wild (EW)
飼育・栽培下のみ存続してい
る種
過去にわが県に生息・生育していたことが確認されており、飼
育・栽培下では存続しているが、わが県において野生ではすでに
絶滅したと考えられる種
[確実な情報があるもの]
①信頼できる調査や記録により、すでに野生で絶滅したことが確
認されている。
②信頼できる複数の調査によっても、生息・生育が確認できなか
った。
[情報量が少ないもの]
③過去50年間前後の間に、信頼できる生息・生育の情報が得られ
ていない。
絶滅危惧 類
Endangered (EN)
絶滅の危機に瀕している
種
次のいずれかに該当する種
[確実な情報があるもの]
①既知のすべての個体群で、危機的水準にまで減少している。
②既知のすべての生息・生育地で、生息・生育条件が著しく悪化
している。
③既知のすべての個体群がその再生産能力を上回る捕獲・採取圧
にさらされている。
④ほとんどの分布域に交雑のおそれのある別種が侵入している。
[情報量が少ないもの]
⑤それほど遠くない過去(30年∼50年)の生息・生育記録以後
確認情報がなく、その後信頼すべき調査が行われていないた
め、絶滅したかどうかの判断が困難なもの。
絶
滅
危
惧
T
H
R
E
A
T
E
N
E
D
現在の状態をもたらした圧迫
要因が引き続き作用する場
合、野生での存続が困難なも
の。
絶滅危惧 類
Vulnerable (VU)
絶滅の危険が増大してい
る種
現在の状態をもたらした圧迫
要因が引き続き作用する場合
近い将来「絶滅危惧 Ⅰ 類」の
ランクに移行することが確実
と考えられるもの
準絶滅危惧
Near Threatenned (NT)
存在基盤が脆弱な種
現時点での絶滅危険度は小さいが
生息・生育条件の変化によっては
「絶滅危惧」として上位ランクに
移行する要素を有するもの
地域個体群
Local population (LP)
保護に留意すべき地域個体群
次のいずれかに該当する種
[確実な情報があるもの]
①大部分の個体群で個体数が大幅に減少している。
②大部分の生息・生育地で、生息条件が明らかに悪化しつつある。
③大部分の個体群がその再生産能力を上回る捕獲・採取圧にさら
されている。
④分布域の相当部分に交雑可能な別種が侵入している。
次に該当する種
生息・生育状況の推移から見て、種の存続への圧迫が強まってい
ると判断されるもの。具体的には、分布域の一部において、次のい
ずれかの傾向が顕著であり、今後もさらに進行するおそれがある
もの。
a 個体数が減少している。
b 生息・生育条件が悪化している。
c 過度の捕獲・採取圧による圧迫を受けている。
d 交雑可能な別種が侵入している。
次のいずれかに該当する種
①希少な種 ②分布が局限・孤立している種
③分布の南限・北限等、県内の産地が分布限界にあたる種
④県内に模式産地がある種(積極的に選定する理由がある場合)
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農地の改変が主な減少等の原因とされる生き物
鳥 類
野生絶滅
トキ
絶滅危惧Ⅱ 類
ヒクイナ
準絶滅危惧
チュウサギ、オオジシギ
両生類
絶滅危惧Ⅱ 類
トノサマガエル
準絶滅危惧
クロサンショウウオ、アカハライモリ、モリアオガエル
淡水魚類
絶滅危惧Ⅰ 類
トミヨ、イバラトミヨ
絶滅危惧Ⅱ 類
ホトケドジョウ、イトヨ
準絶滅危惧
スナヤツメ、シナイモツゴ、メダカ
昆虫類
絶滅
ベッコウトンボ
絶滅危惧Ⅰ 類
メガネサナエ、オオキトンボ、タガメ、タイコウチ、アイヌハンミョウ、
マークオサムシ、チョウセンアカシジミ、オオウラギンヒョウモン
絶滅危惧Ⅱ 類
ホンサナエ、ズイムシハナカメムシ
準絶滅危惧
アカガネオサムシ、エゾコガムシ、ダイコクコガネ、ギンイチモンジセセリ
地域個体群
オオキンカメムシ
大型水生甲殻類
準絶滅危惧
イサザアミ
陸・淡水産貝類
絶滅危惧Ⅰ 類
ナタネミズツボ
準絶滅危惧
マルタニシ、モノアラガイ、ナガオカモノアラガイ、マシジミ
維管束植物
野生絶滅
デンジソウ、ツルスゲ
絶滅危惧Ⅰ 類
ヒメミズニラ、ミズニラ、オオアカウキクサ、ナガバノウナギツカミ、ミズタガラ
シ、オオアカバナ、ヤナギトラノオ、マルバノサワトウガラシ、ヒシモドキ、イワ
タバコ、フサタヌキモ、キキョウ、マルバオモダカ、マルミスブタ、コバノヒルム
シロ、エゾヒルムシロ、オオミズヒキモ(カモガワモ)、ササバモ、ツツイトモ、
ネジリカワツルモ、カワツルモ、イトトリゲモ、トリゲモ、ヒメイバラモ、クロホ
シクサ
絶滅危惧Ⅱ 類
サンショウモ、アカメヤナギ(マルバヤナギ)、サデクサ、ヌカボタデ、ヒキノカ
サ、バイカモ、ジュンサイ、オニバス、ヒツジグサ、マツモ、ハンゲショウ、クサ
ボケ、カワラサイコ、ミズマツバ、ヒメビシ、オグラノフサモ、ホザキノフサモ、
タチモ、ミツガシワ、ガガブタ、アサザ、チョウジソウ、スズサイコ、コムラサ
キ、ヤマホロシ、アブノメ、オオアブノメ、ノタヌキモ、ミミカキグサ、ヒメタヌ
キモ、ホザキノミミカキグサ、イヌタヌキモ、タヌキモ、ムラサキミミカキグサ、
ノニガナ、オオニガナ、スブタ、ヤナギスブタ、クロモ、トチカガミ、コウガイ
モ、セキショウモ、イトモ、センニンモ、オヒルムシロ、ヒロハノエビモ、イバラ
モ、ミズアオイ、カキツバタ、カモノハシ、ヤマトミクリ、ヒメミクリ、オニナル
コスゲ、ホクリクムヨウラン、ヒトツボクロ
準絶滅危惧
ミズワラビ、サクラバハンノキ、ホタルサイコ、ナミキソウ、ハダカホオズキ、
カワヂシャ、タカアザミ、アギナシ、ミズオオバコ、フトヒルムシロ、アマモ、ア
マナ、ミクリ、ナガエミクリ、ヤガミスゲ
地域個体群
アカガシ、イヌナズナ、サルマメ、ミズハナビ(ヒメガヤツリ)
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