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コーパスによる英語句動詞研究

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コーパスによる英語句動詞研究
コーパスによる英語句動詞研究
一応用言語学的観点から-
谷明信* ・堀池保昭** ・杉森直樹***.冨田かおる***
(平成13年10月31日受理)
キーワード.'句動詞、頻度、類義性、応用言語学
A Corpus-based Study of English Phrasal Verbs
from Applied Linguistic Perspectives
-A Preliminary LookAkinobu TANI, Yasuaki HORIIKE,
Naoki SUGIMORI, Kaoru TOMITA.
<Abstract>
In order to improve teaching spoken English in Japan, this study focused on English phrasal verbs.
Specifically it investigated 1) the frequency of phrasal verbs m 1.37 million word corpus of American movies,
and 2) the difference between a phrasal verb, i.e. call off and what is taught as its synonym, i.e. cancel., by
using-the British National Corpus. Through the study, some essential phrasal verbs to be taught were selected,
and the different usages between the phrasal verb and its "synonymous single-word verb were found out.
1.はじめに
し言葉で頻繁に使用され、非常に生産的である。このよ
うな句動詞は、中英語(Middle English)の時代に、それ
1. 1本研究の目的
までの非分離接頭辞を伴う動詞(e.g. overcome, upse糾こ
日本の英語教育において、コミュニケーション重視が
取って代わり始め、近代英語期にその使用は徐々に増加
叫ばれて久しいが、コミュニケーションを促進する教授
した(Kennedy:1958)。そして、現代では、例えばLongman
法のためには、英語の話し言葉の特徴を調査することが
Phrasal Verbs Dictionary (2000)には5000以上の句動
不可欠である。特に、英言吾の話し言葉の特徴の一つとし
詞が収録されている程である。元来、話し言葉などの特
て、句動詞の使用を挙げることができよう。
定のジャンルで用いられていたが(Yassin:1981)、次第に
本研究は、話し言葉で重要な句動詞について、電子コー
その使用は書き言葉にも拡大し、最近では新聞,雑誌の
パスを資料として調査した研究の中間報告である。記述
みならず、学術誌などでも使用頻度が増加している。そ
的な立場から句動詞を観察することで、高等学校などの
の理由として、句動詞を構成する動詞はほとんどが単音
教育現場での教授に応用することを目指す。
節の本来語で、不変化詞の数も限定されており(Bolinger:
前半(セクション2)では、アメリカ英語の口語英語の
1971)、親しみやすいこと、特に口語において会話に軽
コーパスにおける句動詞の頻度を調査し、句動詞の全般
快なリズム感を与えること、不変化詞(特にup, out)
的な面を観察する。後半(セクション3)では、句動詞研
を付加することによって新たな句動詞を容易に創造でき
究の具体例として、イギリス英語の1億語コーパスであ
ること、などがあげられる。
また、英語の句動詞は、特にアメリカ英語で生産的で
るthe British National Corpus(BNC)を利用して、日
本の高校でよく教授される句動詞と、それと同義とされ
あると言われている(McArthur:1992)。
る単一動詞の用法を比較し、その相違を調査する1。
1. 3句動詞の教授の現状
1. 2句動詞(phrasal verbs)について
句動詞はcome on, give upなどのように、動詞と不
中学校・高等学校の英語の授業では、時間的な制約も
あり、このように英語の話し言葉に不可欠な句動詞も、
変化詞(particle)から構成される。現代英語では、特に話
十分系統的に教授されているとは言い難く、実際、日本
ネ兵庫教育大学第2部(言語系教育講座)、 *'兵庫県立西宮高等学校、 …大阪電気通信大学総合情報学部、榊*山形大学人文学部
-那il-
人英語学習者の句動詞の学習習熟度の問題を調査した
も現在の基準で言えば小さいが、 Aono et al.の調査方
Aono&Takefuta(1984)(以下Aono et al.)は、日本人学
法に基づいて頻度分析を行い、その結果と比較し検討を
習者とネイティブスピーカーとの句動詞使用頻度・範囲
イ丁つ。
の著しい差異を明らかにしている:日本人は、 1)ネイティ
Aono et al.の使用したコーパスは、総語数約50万語
ブスピ-カーの3分の1の句動詞しか使用せず、 2)句動
で、現在から見れば小さい規模ではある。しかし、 5つ
詞が使用される特定のジャンルを区別できない(pp.7-9)。
のジャンルのサブコーパスから構成され、当時としては、
また、 Hook(1981)は「2語動詞または3語動詞は自然に
非常に優れたコーパスであったと考えられる。
英語を話すために欠かせない道具である」と主張してい
Aono et al.は、 Makkai(1972)に従い、句動詞を作る
る。そうであるならば、句動詞の教授に関して、 1)どの
傾向の最も強い10の動詞(put, get, come, take, run,
句動詞を、 2)どのように教授するのかということを再考
go, turn, make, hold, cut)を選択し、さらにFraser(1974)
する必要がある。
に従い、不変化詞として機能する16の前置詞・副詞
(about, across, along, around, aside, away, back, by,
2.ハリウッド映画コーパスでの句動詞の頻度
句動詞の使用は話し言葉の特徴で、特にアメリカ英語
で生産的であると主張される。従って、本セクションで
down, forth, in, off, on, out, over, up)を選び、それ
らの組み合わせから構成されるVerb-particle
combinationの頻度を調査した。
本研究は、 Aono et al.のTable l(p.9)を踏まえて、
は、アメリカ英語の話し言葉を資料として、句動詞の頻
度を調査する。また、調査結果と先行研究との比較を基
HMCでのそれらの句動詞の頻度を調査した。
に、話し言葉を教授する際、どのような句動詞を選択す
2. 3 HMC中の句動詞の頻度
べきであるのかを考察する。
今回の調査では、先に述べたHMCを、コンコーダン
2. 1コ-パスについて
今回のデータは、 1980年代・90年代の、 -リウッド
映画122タイトルの映画字幕シナリオを収録した、 -リ
ウッド映画字幕コ-パスHollywood Movie Corpusf以
下HMC)である。 HMC作成の際、映画の選択には、で
きるだけ日常的な生活を描いていると考えられる映画を
スソフトTEXTANA Learning Editionを用いて検索
し、該当する句動詞ではない不要な例を手作業で除去し、
それぞれの句動詞の頻度を調査した。
句動詞の頻度を調査する前に、まずHMCの約127万
語の総語数中で、句動詞を構成する基本動詞の頻度を調
査した。その結果が次の表1である:
選択するよう留意し、 SFやアクション映画などはでき
表1 :HMC中の10動詞の頻度
るだけ除いている(杉森(1999))。さらに、これらの映画
動詞
のクローズド・キャプションを利用して、スクリプトを
抽出して電子データ化したものを今回コーパスとして用
1
get
いた。その総語数(token)は約127万語で、異なり語数
2
3
g0
(type)は29,545語である。
4
映画のスクリプトは、 spontaneous speechでなく、
5
com e
tak e
m ake
:11・
'V
動詞
110 9 7
7 56 3
6
7
put
h old
5 52 7
8
ru n
cu t
turn
3 93 5
9
2 46 5
10
頻度
1136
7 64
761
7 47
7 05
prepared speechである。しかし、部分的制約がありな
がらも、アメリカ英語の話し言葉の特徴を十分に示して
表1から明らかなように、句動詞を構成する基本動詞と
言っても、頻度にかなりの差があることが分かる。この
いると言える。
2. 2先行研究
ことは、後に見るように、当然、それを要素に持っ句動
大規模コーパスを利用した、現代英語の文法を網羅的
に調査したものとして、 Longman Grammar of Spoken
and Written English(1999)がある(以下LGSWE)。
LGSWEには、句動詞の頻度がジャンル別に記述されて
詞の頻度とも関係する。
次に、 HMCでの句動詞の頻度を調査し、 Aono et al.
のTable l(p.9)との比較により、表2とした:
いるが、大まかな数字しか与えられていない(p.410)。ま
た、 Akkerman(1984)も句動詞の不変化詞に注目し、そ
の頻度を調査・分析しているが、動詞との組み合わせを
明らかにしていないので、具体的な句動詞の調査には用
いにくいものである。
このような事を考慮し、本研究では、コーパスの規模
-32--
表2 : HMCでの句動詞の頻度・Aono et al.との比較2
H M C
句 劫詞
com e o n
頻度
H M C
A on o
A ono
順位
頻度
順位
2633
g et o ut
582
go on
44
ge t b ac k
1
H M C
H M C
A on o
A ono
頻度
順位
頻度
順位
k e in
3
48
1 ge t o n
3
113
2
句劫詞
1
9
4
4
18
2
1
3
8
c o m e a lo n g
31
5
32
66
p ut a w a y
3
51
com e n
3 16
5
k e up
27
ge t in
30
6
1
m a ke o u t
ge t u p
25
7
57
com e back
253
8
97
go up
23
9
28
go b a c k
223
1
81
ge t o斤
202
ll
5
5
h o ld o n
19 9
1
9
ge t d ow n
18
13
8
go o ut
17 8
1
57
com e up
16
15
k e 0 ut
159
com e out
ke 0斤
3
5
5
5
25
1
27
5
8
4
2
5
7
5
u rn d o w n
2
5
5
5
u rn in
2
5
7
5
u rn u p
23
57
3
7
ru n aw a y
21
5
12
3
4
ge t a ro u n d
21
58
5
5
4
co m e a r0 u n
19
6
5
5
u rn b a c k
18
61
5
5
3
l l g e t a lo n g
16
62
12
3
16
2
2
16
6
9
4
146
17
23
2
ke o v e r
15
6
19
2
139
18
31
1
u rn o v e r
15
6
5
5
P ut 0 n
13
19
23
2 g o a lo n g
15
6
5
5
com e oVer
12
2
1
3 1 ru n a ro u n d
15
6
3
7
go d o w n
122
21
3
1
ru n o ff
1
6
5
5
com e dow n
106
22
28
1
ru n u p
13
69
3
7
go in
105
23
28
1
ru n o v er
ll
7
3
7
g0 0 V e r
10
2
27
1
ru n d ow n
ll
7
3
7
g e t a w ay
10
2
5
5
ho d b a c k
1
7
3
7
p ut d o w n
9
26
22
2
ho d d o w n
9
73
3
7
91
27
1
3
u rn a w a y
9
73
3
7
get over
85
28
5
5
m a ke b a c k
8
7
5
5
P ut in
81
2
16
2
ru n in
8
75
3
7
g o aw a y
7
3
57
c u t d ow n
7
77
5
5
u rn o ut
6
31
2
2
ho d o ut
6
7
5
5
m ak e u p
63
3
4
1
ru n a lo n g
6
7
5
5
6
33
16
2
C ut in
6
78
3
7
5
3
1
3 get by
81
1
8
put up
5
3
16
2
8
3
7
p ut o ut
51
36
1
3 P 止 0斤
3
83
48
37
5
ru n o n
3
83
3
7
com e by
4
37
5
co m e a w a y
3
83
3
7
ru n 0 ut
46
3
5
ru n b a ck
83
1
8
u rn a ro u nd
ke aw a y
u m 0斤
k e b ac k
3
ke o n
1
go b y
c ut b a ck
-33-
5
1
u rn o n
C ut 0斤
3
4
5
P 止 a sid e
ke a ro u n d
83
1
8
2
88
1
8
c u t o ut
43
4
4
C地 UP
1
89
1
8
ho 一
d up
43
42
4
g et a c r0 S S
1
89
1
8
g o a ro u n d
42
4
1
3
com e about
91
go o符
41
45
ll
3
C 止 aw ay
91
1
8
P止 back
4
46
17
2
ho d over
91
1
8
4
46
1
3
go fo rth
91
1
8
ke d o w n
表2から明らかになった事は次の点である:
5
として話し言葉には不可欠なものであるが、日本の高等
1)表1で最頻出であったget, go, comeから構成される
句動詞が、最頻出20位のうち、 16個を占めている0
2)Aono et al.での最頻出10位までの句動詞のうち、 7
学校の教科書では、教授項目として含まれていない3。
この点も、注意すべきである。
2.4まとめ
つがHMCの最頻出10位までに含まれていた。
3JAono et al.の最頻出30位までの句動詞のうち、 H
MCでの最頻出30位の句動詞に含まれていないのは
のコーパスを検索した結果、約20の句動詞に関しては、
turn out, make up, take away, put up, put back,
少なくとも重要なものであることが分かった。これらの
HMCという100万語規模のアメリカ英語の話し言葉
句動詞の中には、比較的意味が推測しやすいものもあれ
get on, take upの7つの句動詞であった.
4)HMCでは、 come onの頻度が顕著に高い.また、
ば、 come onのように、比職的意味から談話標識にまで
comeの全用例5527例のうち、約半数の2633例がcome
発展したものもある。句動詞の意義は、多義的であり用
o7iの用法である。
法も複雑であるので、意義・用法を含めた質的な研究を
する必要があるOまた、単一コーパスではなく、複数の
1)に関しては、先の表1との関連で、やはり頻度の高
サブコーパスから組織された大規模コーパスと比較調査
い動詞から構成される句動詞の頻度が高くなると言う事
し、今回の結果を検証し、ジャンル問での句動詞の生起
がわかる。
の違いを明らかにする必要がある。また、 Aono et al.
2)と3)から、今回の調査結果の最頻出20位までの句
はMakkai(1972)に基づいて10の動詞を選んだが、
動詞は、必ず教授すべき句動詞として含められるべきも
LGSWEは句動詞でよく使用される8つの動詞を挙げて
のであることがわかる。今回の調査は、 HMCという単
いる'蝣take, get, put, come, go, set, turn, bringであ
一ジャンルのコーパスを利用したにも関わらず、 5つの
サブコーパスからなるAono et al.の調査結果と、類似
るOこのうち、 Aono et al.ではsetとbringが含まれて
いないので、この点は再調査の余地があるといえる。
の結果が出たと言うことは、これらの句動詞は、必須の
教授すべき句動詞の選択に関しては、語嚢の選択と同
句動詞である事を示す。ついでながら、 4千万語からな
様に、頻度のみが唯一の基準となる訳ではない。しかし
るコ-パスを利用したLGSWEの分析でも、会話のジャ
ながら、頻度は、有力な句動詞選択の情報となる。また、
ンルでは、 come onとgo onの2つの句動詞が最頻出
words以外のmulti-word unitsの頻度研究は十分であ
るとは言えないので、本研究と同種の調査はさらに必要
であることが指摘されている(p.410-ll)。
4)に関しては、今回のコーパスの映画のスクリプトと
である。
いう特性によるものかもしれない。つまり、映画で劇的
3.句動詞と、それと「同義の」単一動詞の比較研究
な場面を創り出すために、 challenge Lたり、人を急が
わが国の高等学校の英語教育では、多くの句動詞が教
せたりするような用法である可能性がある:
A: Let him die.
授される: come on, go through, get along, sit upな
B: You bastard! You little bastard!
ど特に口語に多いとされる自動詞の句動詞以外にも、
A: Come on.
carry out, put up with, look up toなどの他動詞。そ
しかし、先に述べたように、 LGSWEでも最頻出のもの
の際、句動詞と1語動詞を同義として提示する場合が多
であったことはやはり注目すべきであろう。また、この
come onは、談話標識(discourse marker)として用いら
い。例えば、 put offはpostponeと、またmake outは
understandと, take inはdeceiveと同義であると教授
れている。このような談話標識は、談話を進める円滑剤
される。しかし、句動詞と、それと同義と教授されてい
ー34-
る1語動詞は、本当に同義で、どのような条件下でも交
換可能であると教授できるのであろうか。
Call offは書き言葉で341例(3.7/mil)、話し言葉で
23例(2.3/mil)見られ、一方cancelは書き言葉で1736
本セクションでは、句動詞callo〝と、それと同義
とされる1語動詞cancelを例に取り、その用法を比較・
例(18.7/mil)、話し言葉で174例(17.5/mil)であった。
分析し、それぞれの統語的、意味的特徴を探ることを目
全体では、 call offが3.5/mil、 cancelが18.6/milとな
る。一般に、句動詞は話し言葉に多く見られ、同義とさ
的とする。その際、コーパスとしてBNCを利用した。
れるラテン系(Latinate)の1語動詞は書き言葉に多いと
BNCは総語数約1億200万語からなる1975年以降のイ
されているが、 call offとcancelに関する限り、これ
は当てはまらない。ジャンルを問わず全体的に頻度にお
ギI)ス英語を資料としたコーパスで、ジャンルや言語媒
体などのバランスを考慮したサブコーパスから構成され
ている。
cancelが特に多く用いられているジャンルは、書き
3. 1 Calloffとcancelの比較
言葉では、レジャ-、世界の出来事、商業、話し言葉で
今回、 call offとcancelの重複する意味のみを対象
とした.その結果、 call offは364例を、 cancelは1910
例を対象とした。
3. 2ジャンル毎の出現頻度
call offとcancelの書き言葉と話し言菜のそれぞれの
ジャンルにおける頻度と、 100万語あたり(- 「/mil」 )の
頻度を表3にした:
c a ll o f
W
freq
r it t e n
fr e q
/ m il
341
3 .7
17 3 6
1 8 .7
295
1.0
1 55 3
2 1 .1
A rts
8
1.2
13 2
1 9 .1
T hought
3
1.0
23
7 .4
C o m m e rc e
15
2 .0
19 3
2 5 .7
S o c ia l S c ie n c e
16
1 .1
18 7
1 2 .9
L e is u re
86
6 .9
354
2 8 .3
N a tu r a l S c ie n ce
2
0 .5
21
5 .4
A p p lie d S c ie n c e
ll
1 .5
16 0
2 1 .7
W o r ld A ff a irs
15 4
8 .6
483
2 7 .1
46
2 .4
18 3
9 .6
23
2 .3
17 4
1 7 .5
9
2 .3
74
1 8 .8
14
2 .3
10 0
1 6 .7
2
1 .3
28
1 7 .5
B u s in e s s E v e n ts
1
0 .8
29
2 3 .4
I n s titu t io n a l
3
1 .9
20
1 2 .3
L e is u r e
8
5 .2
23
1 5 .0
364
3 .5
19 1 0
1 8 .6
l U n f o r m a t iv e
B e lie f &
2 )I m a g in a t iv e
S p oken
l )D e m o g r a p h ic
2 )C o n t e x t - G o v e r n e d
E d u c a tio n a l
T o ta l
ca n c el
/ m i]
はビジネスである。これは後に触れるが、 cancelのコ
ロケーションと深く関わっている。
3.3時制
Call off, cancelともに過去時制で用いられることが
最も多い(それぞれ44.5%、 24.0%)c他の時制では現
在時制での頻度の差が大きく、 call offが3.Eなのに
対し、 cancelは7.7%を占めている。これは、 「∼すれ
ば同意(契約、登録など)は取り消される」といった、
時の制約を受けない文脈でcancelが使用されることが
多いためである。また、 cancelが名詞を修飾する分詞
表3 :ジャンル毎のcall offとcancelの頻度
F ie ld s
いて、 cancelがcall offを凌駕し、話し言葉において
も7倍以上の頻度で出現している。
(現在分詞、過去分詞とも)として使用されることが多
く、 140例(全体の7.3%)見られるのも大きな特徴で
ある。
3.4態
Call offもcancelも受動態での出現頻度が高く、 call
oHが44.5%、 cancelが40.1%を占める。これは、物事
を取り消す主体よりも取り消される事項に焦点が置かれ
る傾向が強いことを示す。能動態と受動態での頻度は、
動詞の持っ意味的特徴と関連が深いと思われる。
3. 5主語・目的語として用いられる名詞
Call o〝の主語として多いのは:
1)人名(26例)、 2)会社・団体名(16)、 3) I, he, they
(以上各7) , 4) we(6)で、 cancelでは、 1)人名、 you
(以上各61), 2) / (60), 3) he,会社・団体名(以上各48),
4) they (34), 5) we (29), 6) she (27)などである。 「中
止する」という意味的特性から共通する主語を当然取る
が、 I, youはcancelの主語として頻繁に用いられる。
次に、目的語として用いられる名詞を見てゆく。これ
らは、 Call offとcancelの相違を顕著に反映している。
次の表4・5は、それぞれの特徴的な目的語として使用
される名詞を挙げている:
-35-
表4: call offの目的語
目的語
N0
目的語
ている例である:
(》Jim Brown, chairman of Third Division Halifax,
頻度
No
1
str ik e
43 2 1
10 th e w h o le th in g
頻度
80
2
it
36 13
10 w ed d in g
8 1
②Unfortunately the October meeting had to be
3
m a tch
17 11
70
cancelled at the last minute through lack of
4
m eetin g
15(10
12 c am p a ig n
13 a lert
6 4)
support.
5
sea rch
14 6
13 d ea l
6 3)
6
g am e
12( 6) 13 o p era tio n
6
to u r
12 8
8
8
62
16 a ttem p t
5(2)
a ction
9 3) 16 co n cert
5 0)
ta lk s
9
5(畠)
4
has called off next month's crisis meeting.
16 h u n t
ある。同じ目的語を取る場合でも、このようにcallo〝
とcancelが用いられる文脈に違いがあることがわかる。
さらにcall off a strikeという表現の頻度の高さを
見ると、それが固定化した表現であることがわかる。
※括弧内は受動態の主語の数を示す
3. 6法助動詞との共起
表5 : cancelの目的語
No
目的語
頻度
No
目的語
頻度
1
it
76 (2 9) 12 trip
30 9
2
p la n
46 ( 7) 14 tou r
28 14)
3
co n tra ct
43 (18
28 2 4
3
v isit
43 14 ) 16 th em
26
9)
5
h o lid a y
39 1 1
24
5
5
m eetin g
39 (23 ) 18 ev en t
22 17
5
o p era tio n
39 28
19 a g reem en t
21 7
8
o rd er
37 12
20 en g a g e m en t
20 2
9
p o lic y
35 6
20 m a tch
20 12
10 b o o k in g
34 9
33 8
20 p ro g ra m m e
20 p ro ject
20( 7 )
ll d eb t
12 sh o w
30(15 )
14 tra in
17 a p p o in tm en t
①は、会議を中止した議長の意志・判断を合意するが、
②は、状況により中止せざるを得なかったことが明白で
20
法助動詞のwill, can, mayとの共起においても、 call
offとcancelとでは相違が見られる。その違いを表にし
たものが、表6である:
表6 :法助動詞との共起
\
助動詞
w
Can
m ay
calloff
頻度 % (364 例
中)
8
')9
1
0.3
1
0.3
cancel
% (191
頻度
0 例中)
64
3.4
39
2.0
42
2.2
call offに対して、 cancelでの頻度が非常に高い。これ
9
も、この2つの動詞が取る目的語の違い、ひいてはジャ
ンルの違いと相関する。
※括弧内は受動態の主語の数を示す
Call o〟に特徴的な目的語は、 1) strike, 2) search ,
3) action, 4) campaign, 5) alert, 6)attempt, 7)huntな
Cancelはcontract, holiday, order, policy, booking,
debtなどとの共起が多い事はセクション3. 5で見た。
そして、このような目的語を取るcancelは、
どで、一方cancelのみの目的語として生起する名詞は、
① " -- - can becancelled until - - -
1) contract, 2) holiday, 3) order, 4) policy, 5) booking,
② ''will be cancelled if一一
6) debt, 7) show, 8) trip, 9) tram, 10) appointment
というような文脈で生起することが多い。逆に、 call
などである。すなわち、 callo〝は自ら計画または実施
し、自らの意志で取り止める対象を示す語を目的語に取
り、 cancelは他人と協力または依頼して計画した事柄
offがそのような文脈で用いられることは少ない。
を、状況の変化によりやむを得ず中止するものを目的語
に取る、という傾向が強いと言える。 Call offが強い
toと共起することが非常に多いことである。合計する
意志性を示すのに比べ、 cancelの示す意志性は弱いと
言える。
意せず、状況によりやむを得ず中止する、という文脈で
もちろん、両者に共通する目的語も存在する。 Match,
have toとの共起の高さは、このことを如実に反映して
さらに注目すべきことは、 cancelがhave (has) to,
had to, have (has) had to, will have to, would have
と131例、全体の7%を占める。 Cancelは意志性を含
使用される傾向が強いということは既に述べたが、
meeting, game, tour, talk, wedding, deal, operation,
いる。
concertなどである。これらの語は、上で述べた2種の
E]的語の中間に位置していると考えられ、状況に応じて
3.7まとめ
どちらかの要素が色濃く姿を表す、と思われる。例えば、
meetingには個人的で自分の意志で取り消せる会議も
あれば、より大規模で公的な要素が強いものもある。次
比較・分析してきたが、頻度や統語的意味的に大きな違
の2文はcall off, cancelが同じ目的語meetingを取っ
まず頻度の上では、どのジャンルにおいてもはるかに
-36
句動詞call offと、一般に同義とされるcancelとを
いがあり、簡単に同義とは言えないことを見た。
多くcancelの方が使用されており、 call offが出現す
Bolinger, Dwight. The phrasal verb in English.
る場面はかなり限られている事を見た。最も大きく異な
London: Oxford UP, 1971.
る点は、この2つの動詞の合意する意志性であるCall
Burnard, Lou. (ed.) Reference Guide for the British
offが自らの強い意志で物事を取りやめる含意を強く示
National Corpus (World Edition). Oxford:
すのに対し、 cancelはその含意する意志性が弱く状況に
Humanities Computing Unit of Oxford
よりやむを得ず中止する、といった場合に用いられる傾
University, on behalf of the BNC Consortium,
向がある。このことは、共起する目的語や助動詞の種類
2000.
という点から、見て取れた。
Hook, J.N. Two-word Verbs m English. NY:
最後に、一部の英和辞典には、 call o〝の「中止する、
Harcourt Brace Jovanonch, 1981.
取り消す」の項に(cancel)と記されており、逆にcancel
Horiike, Yasuaki. "A Corpus-based Study of English
の「取り消す」の項に(call off)と書かれているが、
Phrasal Verbs and their Synonymous One-word
これでは「取り消す」という意味においてはcalloffと
cancelは常に交換可能な同意語と誤解して受け取られて
Verbs." MA Thesis, Hyogo University of Teacher
Education, 2001.
Kennedy, Arthur Garfield. The Modern English Verb-
しまう恐れがある。 Call off the contractあるいは
cancel the strikeという、少なくともイギリス英語では
Adverb Combination. Trans. Komshi, Tomoshichi.
決して使用しないコロケ-ションを学習者が使う危険性
がある。高等学校での英語教育においても、句動詞を1
Tokyo: Kenkyusha, 1958.
Makkai, A. Idiom Structure in English. The Hague:
Mouton, 1972.
語動詞で安易に言い換えさせることには留意する必要が
ある。
MeArthur, Tom. The Oxford Companion to the
English Language. Oxford: Oxford UP, 1992.
4.結語
Sugimori, Naoki and Akmobu Tarn. "A Lexical
本研究では、コーパスを用いて、 1)アメリカ口語英
Analysis of Oral Communication A / B Textbooks
語での句動詞の頻度と、 2)句動詞と、同義として教授
for Japanese EFL Learners.''(forthcoming).
される単一動詞の用法の相違点を解明した。どの句動詞
Yassin, M. Aziz F. Teaching English Verb-Particle
を教授する項目として選択するのか、また、その際の提
Combinations." TESOL Newsletter XV(1) (1981):
示法についても、従来高校の英語教育で行われてきたよ
9-12.
うな形態では、問題の多いことを見てきた。
杉森直樹. 「クローズド・キャプションを用いた映画英
さらに、調査対象コーパスの規模の拡大、一つの句動
語コーパスの構築」 『ことばとコミュニケーショ
詞の持っ意義の頻度の違い、またジャンル毎の句動詞の
ン』第3号(1999), 37-441
違いや、それぞれの句動詞の用法の研究など残された課
題は多い。
辞書
Longman Dictionary of Contemporary English. New
注
ed. Harlow: Longman, 1995.
1.前半部は谷・杉森・冨田が担当し、後半部は堀池が
担当した。なお、後半部は、 Horiike(2001)に基づいて
na;
Longman Phrasal Verbs Dictionary. Harlow: Pearson
Education, 2000.
Oxford Advanced Learners Dictionary of Current
2. 「Aono頻度」は、 Aono et al.の相対頻度を基に、
与えられた式により筆者が逆算したものである。
English. 5th ed. Oxford: Oxford UP, 1995
『ジーニアス英和辞典』東京:大修館書店, 1988.
3. Sugimori&Tani(forthcoming)では、このような談
話標識に関する高校英語教科書での不備を論じた。
参考文献
Akkerman, Eric. ''Verb and Particle Combinations:
Particle Frequency Ratings and Idiomaticity.I
ICAME News 8(1984).
Biber, Douglas, et al. Longman Grammar of Spoken
and Written English. New York: Longman, 1999.
-37-
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