...

筋硬度計を用いた静的ストレッチング時間とその効果についての検討

by user

on
Category: Documents
168

views

Report

Comments

Transcript

筋硬度計を用いた静的ストレッチング時間とその効果についての検討
スポーツ傷害(J. sports Injury)Vol. 17:37−39 2012
筋硬度計を用いた静的ストレッチング時間とその効果についての検討
新潟医療センター リハビリテーション科
梨本 智史(PT)
・渡辺 博史(PT)
・松岡 潤(PT)
・地濃 勇介(PT)
新潟医療センター 整形外科
古賀 良生(MD)
目 的
感がない場合には,さらに股関節を他動的に伸展した(図
1).
筋硬度の測定部位は上前腸骨棘と脛骨粗面の中点,大腿
有効な静的ストレッチング(以下ストレッチ)の時間
については,諸家により報告されているが,6 秒から 60
直筋筋腹上の皮膚とし,ストレッチ前・ストレッチ直後,
秒 1)~ 2) と一定した結論が出ていない.一方で近年,筋硬
1 分後,3 分後,5 分後の筋硬度を測定した.測定肢位は仰
度を筋の伸張性の指標として利用できることが報告されて
臥位下腿下垂位,股関節屈曲 0°
・膝屈曲 90°とした(図 2).
.今回,時間の異なるストレッチ施行前後の筋
筋硬度計は佐藤商事社製 Neutone TDM − Z 1 を使用し
硬度変化から,有効なストレッチ時間について検討したの
た.筋硬度の単位はトーン(T)で佐藤商事の任意単位で
で報告する.
ある.
いる
3)~ 4)
統計学的検討は対応のある t 検定を用いて比較し,有意
対 象
水準は 5%未満とした.
健常男性 10 名,平均年齢 27. 9 ± 3. 9 歳を対象とした.
方 法
各被検者に 10 秒・20 秒・60 秒の大腿四頭筋ストレッチ
を日を変えて実施した.ストレッチは腹臥位にて被検者が
伸張感を訴えるところまで膝関節を他動的に屈曲し,伸張
図 2.筋硬度測定方法
結 果
10 秒ストレッチではストレッチ前後の筋硬度変化に有
意差はなかった(図 3).ストレッチ後の筋硬度が変化し
ない,もしくは上昇する症例が多かった.
20 秒・60 秒ストレッチではストレッチ前に比べて,直
後・1 分後・3 分後・5 分後の筋硬度が有意に低下した(図
4,5).
図 1.大腿四頭筋ストレッチ方法
— 37 —
図 3.10 秒ストレッチ前後での筋硬度変化
図 4.20 秒ストレッチ前後での筋硬度変化
図 5.60 秒ストレッチ前後での筋硬度変化
— 38 —
考 察
◦ 10 秒ストレッチはストレッチ前後の筋硬度変化に有意
差は見られなかった.
今回の結果,10 秒ストレッチでは筋硬度は低下せず,
◦ 20 秒・60 秒ストレッチはストレッチ前に比べて,直後・
1 分後・3 分後・5 分後の筋硬度が有意に低下した.
20 秒以上のストレッチで筋硬度が低下することが示され
た.Anderson
5)
は 10 ~ 30 秒間のストレッチを 2 回繰り
◦静 的ストレッチは 20 秒以上が効果的である可能性が示
唆された.
返すことで,筋紡錘からの発射頻度が減少し,Ⅰ b 抑制に
より筋の抵抗が弱まるとし,鈴木 は 10 ~ 20 秒のストレッ
6)
◦静的ストレッチの効果の持続性は 20 秒と 60 秒で同様の
結果であった.
チでⅠ b 抑制が起こるとしている.本研究においては 10
秒では個人により,筋紡錘からの発射頻度の低下に至らな
◦実 際のコンディショニング場面を考えると,60 秒より
かった可能性が考えられる.静的ストレッチは 20 秒以上
も 20 秒ストレッチがより効率的であると考えられた.
が効果的である可能性が示唆された.
ストレッチ効果の持続性については 20 秒と 60 秒はほぼ
同様の結果であった.実際のコンディショニング場面を考
えると,ストレッチの対象となる筋が多部位に及び,また
時間的な制約があることが多いため,20 秒ストレッチが
より効率的であると考えられる.今後は,①運動負荷後な
ど筋緊張が上がった場合の効果検討や② 10 分以上などさ
らに長い時間での持続効果の検討,③筋損傷や異常筋緊張
など治療目的でのストレッチ効果の検討を行う必要がある
と考えている.
ま と め
◦大腿直筋の 10 秒・20 秒・60 秒の各ストレッチ前後の筋
硬度変化を検討した.
参考文献
1)板場英行.ストレッチングをめぐる現状と課題.理学療法
2004;21(12):1439 − 1447.
2)宮本重範.理学療法におけるストレッチングの意義.理学療
法 1990;7(5):313 − 319.
3)木下裕光,宮川俊平,向井直樹他.筋弾性計を用いた膝伸展
機構障害の予防指標開発の試み(第 1 報).日本臨床スポーツ
医学会誌 2004;12:278 − 282.
4)木下裕光,宮川俊平,向井直樹他.成長期男子サッカー選手
における膝伸展機構の筋硬度の検討.日本整形外科スポーツ
医学会雑誌 2006;25(4):399 − 402.
5)Anderson, B. 著,堀部昭訳 . ストレッチング.東京.ブック
ハウス HD,1981.
6) 鈴 木 重 行:ID ス ト レ ッ チ ン グ の 理 論 と 実 際. 理 療 2000;
30:37 − 46.
— 39 —
Fly UP