...

Full Page (2500kB)

by user

on
Category: Documents
4

views

Report

Comments

Transcript

Full Page (2500kB)
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)に
おけるミトコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
8
Mitochondrial dysfunction and Purkinje cell loss in autosomal recessive spastic ataxia of
Charlevoix-Saguenay (ARSACS)
Excitation-induced ataxin-3 aggregation in neurons from patients with
Machado-Joseph disease
Girard M, Larivière R, Parfitt DA, et al.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2012;109(5):1661-1666.
Koch P, Breuer P, Peitz M, et al.
Nature 2011;480(7378):543-546.
Horvath R, Czermin B, Gulati S, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(2):174-178.
Machado-Joseph 病(MJD;脊髄小脳失調症 3 型と
は、Lグルタミン酸が患者特異的な人工多能性幹細胞
調症(ARSACS)は小児期に発症する神経疾患で、
ドリア・ネットワークに融合の亢進がみられ、このことはミ
も呼ぶ)は、優性遺伝性の遅発性神経変性症の一種
(iPSC)由来ニューロンの興奮を誘導し、その結果、
その原因は、機能不詳の 4,579-aa 蛋白質であるサク
トコンドリアの分裂が減少することと符合する。サクシン
シンをコードするSACS 遺伝子の変異である。創始者疾
がノックダウンされると、ミ
トコンドリア・ネットワークは内部
であり、MJD1 遺伝子(別名 ATXN3)においてポリグル
ATXN3 が Ca2+ 依存性に分解されて、SDS 不溶性の
タミン(polyQ)をコードするCAGリピートの伸長によって
凝集体が形成されることを明らかにした。この表現型は
引き起こされる。きわめて凝 集しやすい性 質をもつ
蛋白質分解酵素カルパインを阻害すると消失したため、
polyQ 断 片 が、MJD1 遺 伝 子 産 物 アタキ シン 3
ATXN3 凝集にはカルパインが重要な役割を果たすこと
(ATXN3)から蛋白分解されて遊離すると、ATXN3を
が確認できた。さらに、凝集体形成は機能的 Na+ およ
含む凝集体の形成が誘導されると考えられている。こ
び K+ チャネル、リガンド開口性および電位開口性 Ca2+
患としてケベックで最初に確認された ARSACS は、今
の融合が過度に進んで機能低下に陥り、サクシンを抑
では世界的に確認されている。著明な特徴としては、
制されたニューロンの細胞体や近位樹状突起にミ
トコン
錐体路徴候、小脳性運動失調などがあるが、根底に
ドリアが蓄積する。樹状突起内へのミ
トコンドリア輸送が
ある病理や病態生理学的機序はわかっていない。我々
阻害されると、樹状突起が異常な形態を呈することが
が作製した ARSACS モデルのサクシン・ノックアウトマウ
わかっている。ノックアウトマウスの小脳ではプルキンエ
スは、小脳プルキンエ細胞の神経変性を年齢依存的
細胞死に先行して、樹状突起野の著しい再編が起きて
の凝集体は MJD の顕著な神経病理学的特徴である。
チャネルにも依存し、iPSC、線維芽細胞、グリア細胞
に発現する。この観察所見の病態生理学的根拠を探
いるのが観察された。本研究は、ミトコンドリアの機能
MJD 患者や、変異ヒトATXN3(Q71)を発現するトラ
には検出されなかった。このことによって、MJD のニュー
るために、サクシンの細胞生物学的特性を検討した。
障害/局在不全は ARSACS の細胞レベルの病因とな
サクシンは非ニューロン細胞および一次ニューロンのミ
ト
る可能性が高いこと、サクシンにはミトコンドリアの動態
ンスジェニックマウスの脳組織からは ATXN3 断片が検
ロン特異的な表現型が説明できる。本研究は、遅発
コンドリアに局在しており、ミ
トコンドリアの分裂に関与す
を調節する役割があることを示唆している。
出され、その 量 は 重 症 であるほど 多 いことから、
性神経変性にかかわる異所性蛋白プロセシングに関す
ATXN3 のプロセシングと疾患進行の関連性が支持さ
る患者特異的なニューロンを用いた研究が、iPSC によっ
れる。凝集早期の中間体の形成は疾患の始まりに重要
て可能になることを示している。
な役割を果たすと考えられているが、依然として MJD
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
9
背景:多系統萎縮症(MSA)は孤発性の進行性神経
目的:剖検で確定した MSA 症例における疾患の特性
57±8.1 歳;死亡までの罹病期間 6.5±3.3 年;最初の
症状は自律神経障害 18 名、パーキンソニズム7 名、
小脳性運動失調 2 名。初回来診時の臨床表現型は
MSA-P(パーキンソニズム優 勢)18 名、MSA-C(小
脳性症状優勢)8 名、純粋な自律神経機能不全 2 名、
パーキンソン病 1 名。最終受診時の臨床診断は MSA
が 28 名。自律神経機能不全は重度で、CASS 7.2±2.3
点(最 高 スコアは 10 点)
。TST%は 65.6±33.9% で、
82%の患者で 30%を上回り、最も多いパターンは全身
評価は正確か、また、剖検を通じて MSA 診断基準の
性無汗症であった。ノルエピネフリンは仰臥位では正常
変性疾患である。起立性低血圧や排尿・性機能障害
として発現する自律神経機能不全を特徴とし、レボドパ
に応答しにくいパーキンソニズム、小脳性運動失調、
皮質脊髄路障害などが同時にみられる。これまでに公
表された剖検による確定診断例は、MSA の神経学的
特性をよく示しているが、適切な自律神経機能検査は
行われていなかった。
方法:本研究は Mayo Clinic の剖検で MSAと確定さ
少した。共通する4 つの臨床的特徴(急速な進行、早
れた 29 症例を対象とした。これらの症例は各種の自律
期の姿勢不安定、レボドパへの応答不良、対称性の
神経機能検査(アドレナリン作動性/汗腺/心臓迷走
症状)が認められた。
神 経 機 能、Thermoregulatory Sweat Test[TST])を
結論:重度のアドレナリン作動性/汗腺機能不全を呈
受けており、その結果をもとに Composite Autonomic
する進行性の全般性自律神経機能不全が臨床表現型
Severity Score(CASS)を採点した。
結果:患者背景:男性 17 名、女性 12 名;発症年齢
と結びついた場合、高率で MSA が予測される。
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
までの報告とは対照的に、2 名の患者は発症が遅く、き
多様な病態を示す疾患群である。根本原因を特定でき
わめて軽度の表現型を示しており、40 代後半でなお歩
る患者は全体の約半数であり、原因に応じた治療を受
行可能であった。筋生検では脂質の蓄積、ミ
トコンドリア
けられる患者はきわめて少ない。
増殖、チロクロムcオキシダーゼ欠損を認めたが、赤色
方法:原因不明の劣性遺伝性または孤発性運動失調
ぼろ線維は検出されなかった。呼吸鎖酵素活性および
症を有する患者 22 名について、補酵素 Q10(CoQ10)
CoQ10 は重症例では減少していたが、46 歳の軽症患
が欠損する既知の遺伝子の配列解析を行った。
者 1 名では正常であった。
結果:CABC1/ADCK3 の遺伝子変異が小脳性運動失
結論:これらの知見は、CABC1/ADCK3 変異が原因
調、てんかん、および筋肉症状を呈する患者 4 名と同胞
の場合、重症の小児期発症型運動失調症だけでなく成
2 名に確認された。痙縮、ジストニー、振戦、片頭痛の
人期の軽度の小脳性運動失調患者でも治療の可能性
現れ方はさまざまであった。認知障害は幼児期の患者で
があり、そうしたケースを発見するスクリーニングの重要性
は重症であったが、成人患者にはみられなかった。これ
を示している。
Al Tassan N, Khalil D, Shinwari J, et al.
Human Mutation 2012;33(2):351-354.
性遺伝疾患で、SETX 遺伝子変異をもたない家系に関
感覚運動ニューロパチーに特徴づけられる多様な疾患
する研 究 である。この 家 系 の 遺 伝 子 座 は 染 色 体
の総称である。この一群の疾患の分子遺伝学的解析
17pl2-pl3 にマッピングされた。この領域に絞り込んで
から、重複する表現型に寄与するとみられるいくつかの
全遺伝子の配列決定を行ったところ、PIK3R5 に、正
遺伝子が同定された。眼球運動失行を伴う運動失調
常対照群の 477 名にはないホモ接合型ミスセンス変異
症 2 型(AOA2)は、SETX 遺伝子の変異に起因する
がみつかった。PIK3R5 蛋白質は小脳および小脳虫部
常染色体劣性遺伝性の運動失調症である。ここで報
の発達に関与していることが示唆される。
[総監修] 水澤 英洋
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 脳神経病態学 教授
[監修 / 執筆]西澤
正豊
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授
2
Pierson TM, Adams D, Bonn F, et al.
PLoS Genetics 2011;7(10):e1002325.
常染色体劣性運動失調症は、小脳萎縮と末梢性
2012. December
1
ミトコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
Whole-exome sequencing identifies homozygous AFG3L2 mutations
in a spastic ataxia-neuropathy syndrome linked to mitochondrial m-AAA proteases
A missense mutation in PIK3R5 gene in a family with ataxia and oculomotor apraxia
(203.6±112.7)だが、起立時増分は 33.5±23.2%減
妥当性は示されるのかを、後ろ向きに評価する。
目的:遺伝性運動失調症は小児にも成人にも発症し、
CONTENTS
11
の正確な発症機序を説明することは難しい。本研究で
Iodice V, Lipp A, Ahlskog JE, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(4):453-459.
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
Adult-onset cerebellar ataxia due to mutations in CABC1/ADCK3
かになった。ARSACS 患者の線維芽細胞ではミトコン
Autopsy confirmed multiple system atrophy cases:
Mayo experience and role of autonomic function tests
6
10
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失
るダイナミン関連蛋白 1との相互作用を示すことが明ら
7
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3 の凝集
告するのは、AOA2 の臨床的特徴を示す常染色体劣
下肢痙縮、末梢性ニューロパチー、眼瞼下垂、眼
症 28 型(SCA28)の原因となる。これは本研究の患者
球運動失行、ジストニー、小脳萎縮、進行性ミオクロー
とは表現型のまったく異なる疾患である。酵母相補性アッ
ヌス性てんかんの臨床的特徴を示す血縁の兄弟 2 名に
セイによると、AFG3L2Y616C 遺伝子産物は低形質変異
おける、早発性の痙性運動失調−ニューロパチー症候
体であり、酵母中でも患者の線維芽細胞中でもオリゴ
群について報告する。全エキソーム配列解析の結果、
マー形成能の低下を示した。特に AFG3L2Y616C 同士
m-AAAプロテアーゼの サブ ユ ニットをコードする
の複合体と、AFG3L2Y616Cとパラプレギンとの複合体
AFG3L2 に、ホモ接合型ミスセンス変異(c.1847G>A;
の形成不良が顕著であった。このことが、眼球運動失
p.Y616C)が検出された。m-AAAプロテアーゼはミトコ
行、錐体外路系の機能障害、ミオクローヌス性てんか
ンドリア内膜に存在して、損傷や折り畳み異常のある蛋
んなど の 他 の「ミトコンドリア性」の 病 態 に 加えて、
白質を除去する役目を担っており、ミトコンドリアの必須
SPG7、SCA28 の重症の表現型が複合する早発性の
蛋白質の分解活性を備えている。AFG3L2 はホモオリ
臨床症候群をもたらしたのである。本研究の知見により、
ゴマー、あるいは遺伝性痙性対麻痺 7 型(SPG7)で
AFG3L2 の変異が関係している表現型の範囲が拡が
変異を示す相同蛋白質のパラプレギンとのヘテロオリゴ
り、痙性運動失調の鑑別診断では AFG3L2 関連疾患
マー複合体を形成する。AFG3L2 に生じる機能喪失
を考慮に入れるべきであることが示唆された。
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:
シヌクレイノパチーの有力な治療標的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
4
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に影響する因子
5
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の無作為化試験
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)における
ミ
トコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
7
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
8
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3の凝集
9
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
10
11
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
ミ
トコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
型のヘテロ接合変異は、常染色体優性脊髄小脳失調
Update on SCD
Update on SCD
7
8
エルゼビアジャパン株式会社 /ELMCOM
CD--346A2012 年12月作成
Update on SCD
Selections From Current World Scientific Literature
Topics for this issue
1
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:シヌクレイノパチーの有力な治療標的
Suppression of dynamin GTPase decreases alpha-synuclein uptake by neuronal and
oligodendroglial cells: a potent therapeutic target for synucleinopathy
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授 西澤
があるものの、細胞外にあるαSYN が隣接する細胞に取り
2
込まれて凝集体の形成を促進することは間違いない。本研
究でαSYN の取り込み抑制効果を示したセルトラリン濃度
(10μM=3μg/mL)は、脳脊髄液内および脳内で抗うつ治
かった。
結 論
αSYN の細胞間移行の正確な機序にはまだ議論の余地
Konno M, Hasegawa T, Baba T, et al.
Molecular Neurodegeneration 2012;7(1):38. [Epub ahead of print]
Summary
MO3.13 の 3.8%に封入体が認められたが、培地にセルトラリ
ンを加えた場合はαSYN の取り込みが抑制された(*p<0.05)
(図 3)
。セルトラリンはドナーからのαSYN 分泌には影響しな
Selections From Current World Scientific Literature
と同程度である。
療効果を発揮するとされる濃度(2μg/mL)
実績ある薬剤の新たな効用を明らかにした本研究は、患者
に大きな利益をもたらすであろう。
正豊
である。こうした蛋白質が隣接する細胞へと拡がって、神経変性を伝播する可能性を示唆する知見が集積されている。本
研究は、培養した神経細胞/オリゴデンドログリアに、外因性のα-シヌクイレンがダイナミンGTPaseを介するエンドサイ
トーシスによって取り込まれ、凝集して高分子オリゴマーとなり、シヌクレイノパチーに特徴的な細胞内封入体を形成しうる
ことを示した。選択的セロトニン再取り込み阻害薬のセルトラリンは、強力なダイナミン阻害作用があり、神経変性の伝播
の予防に有効であると期待される。
蛋白/p25α
(TPPP/p25α)
と共局在した。封入体をもつ細
胞は時間とともに増加した。
取り込まれたαSYN の分解にリソソーム系が果たす役割
ヌクレイノパチー」
と総称される神経変性疾患にみられるレ
を確認するため、SH-SY5Y 細胞を 5μM αSYNとともに、
ビー小体(LB)やグリア細胞質内封入体(GCI)には、折り
液胞型 H+ ATPase 阻害剤バフィロマイシン A1(0∼5 nM)
畳み異常のあるα- シヌクイレン(αSYN)蛋白の凝集体が
で処理してリソソームの働きを阻害したところ、オートファジー
存在し、神経変性に寄与している。
αSYN の生理的・病理
が妨げられ、親水性分画への高分子量αSYN オリゴマー
学的作用は細胞内に限定されると考えられてきたが、最近
の蓄積量が増加した。
のエビデンスからは、単量体およびオリゴマー状のαSYN
抗うつ剤として広く用いられる選択的セロトニン再取り込み
が細胞外へ分泌され、隣接細胞にも影響を及ぼすことが示
阻害薬のセルトラリンは、既知のダイナミンGTPase 阻害薬
唆されている。このプロセスを理解するには、
αSYN の取り
の中では、ダイナミン1、2 の両者に対して最も強力に作用
込みと分泌の機序を明らかにする必要がある。本稿の知見
する。このセルトラリンで SH-SY5Y および KG1Cを処理し
は、
αSYN の細胞間伝播がもたらす神経変性の進行を防ぐ
(濃度 0∼10μM、30 分間)、ダイナミンを薬理学的に破壊
治療戦略の確立につながるものである。
方法と結果
外因性のαSYN が細胞内に取り込まれてオリゴマーを形成
することを確認するため、ヒトSH-SY5Y 神経 細胞および
図 2 ダイナミン GTPase 阻害で神経細胞/オリゴデンドログリアへのα- シヌクレイン取り込みは減少する
KG1C オリゴデンドログリア細胞を5μMのαSYNに曝露し
た。また、SH-SY5Yを 0∼10μM の 組み換えαSYN に 24
れた。
時間曝露した。細胞内分画および免疫ブロット法の結果、主
セルトラリンがαSYN の細胞間伝播を阻害するかどうかを
に親水性分画へのαSYNの取り込みとオリゴマー形成が認
調べるために、N 末端を mCherry で標識したαSYNを過
γSYNは取り込まれなかった。
められた(図1)
。βSYN、
と、高感度緑色蛍光蛋白
剰発現するSH-SY5Y(ドナー)
αSYN に曝露した細胞には、免疫細胞化学的にユビキ
質(EGFP)を 安 定 発 現 す る PC12 神 経 細 胞 および
(SCA)36 型は運動ニューロン徴候を示す新しい型の
は 400 名を超えている。本報では、不安定な異常眼
目的:治療的試験のために疾患の進行について評価
球運動や感音難聴などの晩期発症・緩徐進行性の小
SCAとして報告された。原因は、NOP56 のイントロン1
に存在するGGCCTGリピート伸長である。家族への面
接と文献調査を通じ、17 世紀に 1 つの村(スペイン、
脳症候群からなる詳細な臨床像を記述する。舌の脱神
ガリシア州コスタダモルテ)から発祥して世代を重ねて拡
外に古典的筋萎縮性側索硬化症の徴候は認められな
大してきた 2 つの大家系を復元することができた。これ
かった。MRI 所見は臨床経過と一致しており、初期に
らの家系では、以前染色体 20p に約 0.8Mb の連鎖領
みられる小脳虫部の萎縮が、後にオリーブ橋小脳萎縮
域 が同 定されているが、今 回、疾 患と共 分 離する
のパターンへ進展した。ガリシアにおける創始者変異の
経徴候や、軽度の錐体路徴候はみられたが、それ以
SCA36 変異がみつかった。その後のスクリーニングで、
起源は約 1275 年前にあったと推定される。SCAを有
この NOP56 の伸長が、失調症がみられるガリシアの別
するガリシアの 160 家 系中 10 家 系(6.3%)に SCA36
の 8 家系にも確認された。通常の対立遺伝子に含まれ
があり、15 家 系(9.4%)には通 常 の 優 性 遺 伝 性 の
る6 塩基リピートは 5∼14 個であるのに対し、異常伸長
したアリルでは約 650∼2,500ものリピートを、共通の 1
SCA が認められた。SCA36 はこのように、現時点でこ
の地域で最も頻発する優性遺伝性 SCA であり、伝統
つのハプロタイプ内に含んでいる。リピートサイズの拡大
的にスペインからの移住が多いアメリカ大陸諸国にも無
は、特に父方から受け継ぐ場合に高頻度で起こるが、
縁ではない疾患といえる。
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
Network correlates of disease severity in multiple system atrophy
Poston KL, Tang CC, Eckert T, et al.
Neurology 2012;78(16):1237-1244.
図 3 セルトラリンは共培養モデルでα- シヌクレインの神経細胞間/神経細胞−オリゴデンドログリア間移行を阻害する
調節するエンドサイトーシス経路を介して行われることが示さ
たのは、SCA2 に変異があり、対立遺伝子が正常(リピー
デザイン:前向きコホート研究(36 ヵ月)。
ト数 22 以下)の患者(p=0.02)、および SCA3 に変異
セッティング:レフェラルセンター。
があり、ベースラインにパーキンソニズムおよび/または
患者:常染色体優性小脳性運動失調症の患者 162
ジストニーがある患者(p=0.003)であった。CCFSw で
名、遺伝性痙性対麻痺の患者 64 名。
は運 動 失 調 患 者と痙 縮 患 者に差が出たのに対し、
主 要 評 価 項 目:書 字 検 査 付き定 量 的 Composite
者は悪 化し(CCFSw の年 間 増 加 幅の平 均[SE]は
SARA スコアは両方のグループで増加した。SARA ス
コアを基準として 2 群を比較する試験の場合、疾患進
行の 50%抑制を検出するために必要な症例数は 1 群に
つき、SCA2 57 名、SCA1 70 名、SCA3 75 名である
(検
出力 80%;α=0.05)。
結論:ポリグルタミンが伸長した SCA1、2、3 患者は、
+0.014[0.005]∼+0.025[0.004])、SPG4 患者は改
それ以外の患者に比べて速く進行する。いずれの測定
善した(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]は−0.012
基準も治療試験の評価項目に適している。同じ検出力
[0.003]
;p=0.02)。さらに SCA6、SCA7、その他の
を得るのに必要な症例数は SARA の方が少ないが、
、お よ
Cerebellar Functional Severity Score(CCFSw)
(SARA)スコア。
結果:脊髄小脳失調症(SCA)1、SCA2、SCA3 患
SCA 患者は安定(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]
は−0.015[0.011]∼+0.009[0.013])であり、その他
の SPG 患 者も安 定(CCFSw の 年 間 増 加 幅 の 平 均
5
[SE]は−0.005[0.005])であった。進行がより速かっ
し、臨床ツールの妥当性を判定する。
び Scale for the Assessment and Rating of Ataxia
この変異を有する個人は全部で 63 名発見され、そのう
依存的に減少した(図2)。また、SH-SY5Y では、ドミナ
siRNAを用いてダイナミン1を阻害すると、
αSYN 取り込み
が減少した。つまり、
αSYN の細胞内移行は、ダイナミンが
ち 44 名には臨床的影響が確認された。リスクがある者
Tezenas du Montcel S, Charles P, Goizet C, et al.
Archives of Neurology 2012;69(4):500-508.
母方からの場合は、リピートはむしろ縮小することもある。
すると、
αSYN 単量体/オリゴマーの細胞内蓄積量は用量
ントネガティブ 変 異 体 の K44Aダイナミン 1 により、また
最近、日本人の家系において、脊髄小脳失調症
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に
影響する因子
Factors influencing disease progression in autosomal dominant cerebellar ataxia and
spastic paraplegia
García-Murias M, Quintáns B, Arias M, et al.
Brain 2012;135(Pt 5):1423-1435.
図1 細胞外α-SYN は神経細胞/オリゴデンドログリアに取り込まれ、オリゴマーを形成する
パーキンソン病(PD)や多系統萎縮症(MSA)など、「シ
4
‘Costa da Morte’ ataxia is spinocerebellar ataxia 36: clinical and genetic characterization
α-シヌクイレンなど、折り畳みに異常がある蛋白質の細胞内沈着は、多くの神経変性疾患に共通する神経病理学的特徴
背景および目的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
層別化は CCFSw の方が少なくて済む。神経変性疾患
の進行を確実に評価するには、臨床評価項目の選択
が重要であることが示された。
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の
無作為化試験
A randomized trial of varenicline (Chantix) for the treatment of spinocerebellar ataxia type 3
Zesiewicz TA, Greenstein PE, Sullivan KL, et al.
Neurology 2012;78(8):545-550.
目的:多系統萎縮症(MSA)は最も一般的な非定型
結果:MSA 群では、MSARP 値が対照群、PD 群に
目的:無作為化二重盲検プラセボ対照試験により、
た。エンドポイント時にプラセボと比較して、バレニクリン
パーキンソン症候群であり、患者の安静状態の脳代謝
比 べ て 高 か った(い ず れもp<0.001)
。MSA 群 の
ニューロンに局在するα4β2 ニコチン性アセチルコリン受
投与患者で改善が認められたのは、SARA の歩行
容体の部分アゴニストで、禁煙補助薬として使用される
(p=0.04)、立位(p=0.03)、手の回内・回外運動(p
バレ ニ クリン(Chantix)の 脊 髄 小 脳 失 調 症 3 型
=0.003)の各 項目、そして 25フィート歩 行 時 間(p=
画像に、異常な空間共分散パターンが認められるという
MSARP 値は運動能力障害(r=0.57、p=0.0008)お
特徴がある。しかし、このパターンをMSA のバイオマー
よび罹病期間(r=−0.376、p=0.03)の臨床的レーティ
カーとして利用するためには、それが MSA に特異的で
ングと相関していた。一方、PD 群におけるMSARP の
あり、個々の患者の臨床的能力障害と相関することを
発現は対照群と差がなかった(p=1.0)
。PD 群の運動
方法:遺伝子診断でSCA3 が確認された患者を、バレニ
示す必要がある。
症状レーティングは PDRPとの相関を示した(r=0.60、
クリン投与群(4 週間の漸増期間後、1mgを1日2 回 4 週
方 法:[ F]フッ化デオキシグルコース PETを用 い、
p=0.006)が、MSARP 値とは 相 関しなかった(p=
0.88)。
結論:MSA では特異的な疾患関連代謝パターンの発
現が増大する。さらに、MSA 患者間でのこのパターン
間)
またはプラセボ群に無作為に割り付けた。評価項目は、
and Rating of Ataxia(SARA)スコアのベースラインから
回外運動を有意に改善させ、忍容性はきわめて良好で
の変化量、25フィート歩行および 9 穴ペグの計測値、気
あることが示された。
18
MSA 患者 33 名と、年齢と重症度が一致する特発性
パーキンソン病(PD)患者 20 名、そして健常被験者
(SCA3)患者における有効性を評価した。
エンドポイント
(8 週 間 後)の Scale for the Assessment
0.05)および Beck Depression Inventory スコ ア(p=
0.03)であり、バレニクリン群では SARA 総合スコア(p
=0.06)
も改善される傾向がみられた。
結論:この対照試験で、バレニクリンは、SARA サブ
スコアで測定するSCA3 患者の体軸症状および回内・
チン陽性・チオフラビン S 陽性の凝集体が検出された。核
MO3.13 オリゴデンドログリア(アクセプター)を、10μM セル
15 名の検査を行った。各被験者について、あらかじめ
特性解析済みの MSA および PD の代謝共分散パター
ン(それぞれ MSARP、PDRPと呼ぶ)の発現状況をコ
周囲の大きい封入体には、LB や GCI でみられるセリン129
トラリンの存在下/非存在下で共培養し、mCherryフルオ
ンピュータで評価する前向き単一症例研究を実施した。
リン酸化αSYN が認められた。KG1C の細胞内封入体は、
ロフォアでαSYNを追跡した。72 時間の培養後、アクセプ
得られた各患者のネットワーク値には、臨床的運動症
を本試験に登録し、期間 1 では 18 名のデータを解析し
外運動以外の四肢機能は改善されないことを示すクラ
MSA におけるGCI のマーカーであるチューブリン重合促進
ター細胞へのαSYN の移行が確認され、PC12 の 4.2%、
状レーティングおよび罹病期間との相関が認められた。
た。最も多く発生したバレニクリンの副作用は悪心であっ
スⅡのエビデンスが得られた。
2
Update on SCD
Update on SCD
3
4
Update on SCD
の発現の差は、臨床的能力障害の程度と相関する。
分と不安の測定値、有害事象などとした。
エビデンスの分類:遺伝子診断で SCA3 が確認され
これらの知見は、MSA の新規療法の試験で MSARP
結果:SCA3 患者 20 名(平均年齢=51±10.98 歳;平均
た成人患者にバレニクリンを投与すると、歩行、立位、
が有用なバイオマーカーとなりうることを示唆している。
罹病期間=14±9.82 年;平均 SARAスコア=16.13±4.67)
25フィート歩行時間は改善されるが、素早い回内・回
Update on SCD
5
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)に
おけるミトコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
8
Mitochondrial dysfunction and Purkinje cell loss in autosomal recessive spastic ataxia of
Charlevoix-Saguenay (ARSACS)
Excitation-induced ataxin-3 aggregation in neurons from patients with
Machado-Joseph disease
Girard M, Larivière R, Parfitt DA, et al.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2012;109(5):1661-1666.
Koch P, Breuer P, Peitz M, et al.
Nature 2011;480(7378):543-546.
Horvath R, Czermin B, Gulati S, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(2):174-178.
Machado-Joseph 病(MJD;脊髄小脳失調症 3 型と
は、Lグルタミン酸が患者特異的な人工多能性幹細胞
調症(ARSACS)は小児期に発症する神経疾患で、
ドリア・ネットワークに融合の亢進がみられ、このことはミ
も呼ぶ)は、優性遺伝性の遅発性神経変性症の一種
(iPSC)由来ニューロンの興奮を誘導し、その結果、
その原因は、機能不詳の 4,579-aa 蛋白質であるサク
トコンドリアの分裂が減少することと符合する。サクシン
シンをコードするSACS 遺伝子の変異である。創始者疾
がノックダウンされると、ミ
トコンドリア・ネットワークは内部
であり、MJD1 遺伝子(別名 ATXN3)においてポリグル
ATXN3 が Ca2+ 依存性に分解されて、SDS 不溶性の
タミン(polyQ)をコードするCAGリピートの伸長によって
凝集体が形成されることを明らかにした。この表現型は
引き起こされる。きわめて凝 集しやすい性 質をもつ
蛋白質分解酵素カルパインを阻害すると消失したため、
polyQ 断 片 が、MJD1 遺 伝 子 産 物 アタキ シン 3
ATXN3 凝集にはカルパインが重要な役割を果たすこと
(ATXN3)から蛋白分解されて遊離すると、ATXN3を
が確認できた。さらに、凝集体形成は機能的 Na+ およ
含む凝集体の形成が誘導されると考えられている。こ
び K+ チャネル、リガンド開口性および電位開口性 Ca2+
患としてケベックで最初に確認された ARSACS は、今
の融合が過度に進んで機能低下に陥り、サクシンを抑
では世界的に確認されている。著明な特徴としては、
制されたニューロンの細胞体や近位樹状突起にミ
トコン
錐体路徴候、小脳性運動失調などがあるが、根底に
ドリアが蓄積する。樹状突起内へのミ
トコンドリア輸送が
ある病理や病態生理学的機序はわかっていない。我々
阻害されると、樹状突起が異常な形態を呈することが
が作製した ARSACS モデルのサクシン・ノックアウトマウ
わかっている。ノックアウトマウスの小脳ではプルキンエ
スは、小脳プルキンエ細胞の神経変性を年齢依存的
細胞死に先行して、樹状突起野の著しい再編が起きて
の凝集体は MJD の顕著な神経病理学的特徴である。
チャネルにも依存し、iPSC、線維芽細胞、グリア細胞
に発現する。この観察所見の病態生理学的根拠を探
いるのが観察された。本研究は、ミトコンドリアの機能
MJD 患者や、変異ヒトATXN3(Q71)を発現するトラ
には検出されなかった。このことによって、MJD のニュー
るために、サクシンの細胞生物学的特性を検討した。
障害/局在不全は ARSACS の細胞レベルの病因とな
サクシンは非ニューロン細胞および一次ニューロンのミ
ト
る可能性が高いこと、サクシンにはミトコンドリアの動態
ンスジェニックマウスの脳組織からは ATXN3 断片が検
ロン特異的な表現型が説明できる。本研究は、遅発
コンドリアに局在しており、ミ
トコンドリアの分裂に関与す
を調節する役割があることを示唆している。
出され、その 量 は 重 症 であるほど 多 いことから、
性神経変性にかかわる異所性蛋白プロセシングに関す
ATXN3 のプロセシングと疾患進行の関連性が支持さ
る患者特異的なニューロンを用いた研究が、iPSC によっ
れる。凝集早期の中間体の形成は疾患の始まりに重要
て可能になることを示している。
な役割を果たすと考えられているが、依然として MJD
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
9
背景:多系統萎縮症(MSA)は孤発性の進行性神経
目的:剖検で確定した MSA 症例における疾患の特性
57±8.1 歳;死亡までの罹病期間 6.5±3.3 年;最初の
症状は自律神経障害 18 名、パーキンソニズム7 名、
小脳性運動失調 2 名。初回来診時の臨床表現型は
MSA-P(パーキンソニズム優 勢)18 名、MSA-C(小
脳性症状優勢)8 名、純粋な自律神経機能不全 2 名、
パーキンソン病 1 名。最終受診時の臨床診断は MSA
が 28 名。自律神経機能不全は重度で、CASS 7.2±2.3
点(最 高 スコアは 10 点)
。TST%は 65.6±33.9% で、
82%の患者で 30%を上回り、最も多いパターンは全身
評価は正確か、また、剖検を通じて MSA 診断基準の
性無汗症であった。ノルエピネフリンは仰臥位では正常
変性疾患である。起立性低血圧や排尿・性機能障害
として発現する自律神経機能不全を特徴とし、レボドパ
に応答しにくいパーキンソニズム、小脳性運動失調、
皮質脊髄路障害などが同時にみられる。これまでに公
表された剖検による確定診断例は、MSA の神経学的
特性をよく示しているが、適切な自律神経機能検査は
行われていなかった。
方法:本研究は Mayo Clinic の剖検で MSAと確定さ
少した。共通する4 つの臨床的特徴(急速な進行、早
れた 29 症例を対象とした。これらの症例は各種の自律
期の姿勢不安定、レボドパへの応答不良、対称性の
神経機能検査(アドレナリン作動性/汗腺/心臓迷走
症状)が認められた。
神 経 機 能、Thermoregulatory Sweat Test[TST])を
結論:重度のアドレナリン作動性/汗腺機能不全を呈
受けており、その結果をもとに Composite Autonomic
する進行性の全般性自律神経機能不全が臨床表現型
Severity Score(CASS)を採点した。
結果:患者背景:男性 17 名、女性 12 名;発症年齢
と結びついた場合、高率で MSA が予測される。
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
までの報告とは対照的に、2 名の患者は発症が遅く、き
多様な病態を示す疾患群である。根本原因を特定でき
わめて軽度の表現型を示しており、40 代後半でなお歩
る患者は全体の約半数であり、原因に応じた治療を受
行可能であった。筋生検では脂質の蓄積、ミ
トコンドリア
けられる患者はきわめて少ない。
増殖、チロクロムcオキシダーゼ欠損を認めたが、赤色
方法:原因不明の劣性遺伝性または孤発性運動失調
ぼろ線維は検出されなかった。呼吸鎖酵素活性および
症を有する患者 22 名について、補酵素 Q10(CoQ10)
CoQ10 は重症例では減少していたが、46 歳の軽症患
が欠損する既知の遺伝子の配列解析を行った。
者 1 名では正常であった。
結果:CABC1/ADCK3 の遺伝子変異が小脳性運動失
結論:これらの知見は、CABC1/ADCK3 変異が原因
調、てんかん、および筋肉症状を呈する患者 4 名と同胞
の場合、重症の小児期発症型運動失調症だけでなく成
2 名に確認された。痙縮、ジストニー、振戦、片頭痛の
人期の軽度の小脳性運動失調患者でも治療の可能性
現れ方はさまざまであった。認知障害は幼児期の患者で
があり、そうしたケースを発見するスクリーニングの重要性
は重症であったが、成人患者にはみられなかった。これ
を示している。
Al Tassan N, Khalil D, Shinwari J, et al.
Human Mutation 2012;33(2):351-354.
性遺伝疾患で、SETX 遺伝子変異をもたない家系に関
感覚運動ニューロパチーに特徴づけられる多様な疾患
する研 究 である。この 家 系 の 遺 伝 子 座 は 染 色 体
の総称である。この一群の疾患の分子遺伝学的解析
17pl2-pl3 にマッピングされた。この領域に絞り込んで
から、重複する表現型に寄与するとみられるいくつかの
全遺伝子の配列決定を行ったところ、PIK3R5 に、正
遺伝子が同定された。眼球運動失行を伴う運動失調
常対照群の 477 名にはないホモ接合型ミスセンス変異
症 2 型(AOA2)は、SETX 遺伝子の変異に起因する
がみつかった。PIK3R5 蛋白質は小脳および小脳虫部
常染色体劣性遺伝性の運動失調症である。ここで報
の発達に関与していることが示唆される。
[総監修] 水澤 英洋
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 脳神経病態学 教授
[監修 / 執筆]西澤
正豊
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授
2
Pierson TM, Adams D, Bonn F, et al.
PLoS Genetics 2011;7(10):e1002325.
常染色体劣性運動失調症は、小脳萎縮と末梢性
2012. December
1
ミトコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
Whole-exome sequencing identifies homozygous AFG3L2 mutations
in a spastic ataxia-neuropathy syndrome linked to mitochondrial m-AAA proteases
A missense mutation in PIK3R5 gene in a family with ataxia and oculomotor apraxia
(203.6±112.7)だが、起立時増分は 33.5±23.2%減
妥当性は示されるのかを、後ろ向きに評価する。
目的:遺伝性運動失調症は小児にも成人にも発症し、
CONTENTS
11
の正確な発症機序を説明することは難しい。本研究で
Iodice V, Lipp A, Ahlskog JE, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(4):453-459.
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
Adult-onset cerebellar ataxia due to mutations in CABC1/ADCK3
かになった。ARSACS 患者の線維芽細胞ではミトコン
Autopsy confirmed multiple system atrophy cases:
Mayo experience and role of autonomic function tests
6
10
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失
るダイナミン関連蛋白 1との相互作用を示すことが明ら
7
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3 の凝集
告するのは、AOA2 の臨床的特徴を示す常染色体劣
下肢痙縮、末梢性ニューロパチー、眼瞼下垂、眼
症 28 型(SCA28)の原因となる。これは本研究の患者
球運動失行、ジストニー、小脳萎縮、進行性ミオクロー
とは表現型のまったく異なる疾患である。酵母相補性アッ
ヌス性てんかんの臨床的特徴を示す血縁の兄弟 2 名に
セイによると、AFG3L2Y616C 遺伝子産物は低形質変異
おける、早発性の痙性運動失調−ニューロパチー症候
体であり、酵母中でも患者の線維芽細胞中でもオリゴ
群について報告する。全エキソーム配列解析の結果、
マー形成能の低下を示した。特に AFG3L2Y616C 同士
m-AAAプロテアーゼの サブ ユ ニットをコードする
の複合体と、AFG3L2Y616Cとパラプレギンとの複合体
AFG3L2 に、ホモ接合型ミスセンス変異(c.1847G>A;
の形成不良が顕著であった。このことが、眼球運動失
p.Y616C)が検出された。m-AAAプロテアーゼはミトコ
行、錐体外路系の機能障害、ミオクローヌス性てんか
ンドリア内膜に存在して、損傷や折り畳み異常のある蛋
んなど の 他 の「ミトコンドリア性」の 病 態 に 加えて、
白質を除去する役目を担っており、ミトコンドリアの必須
SPG7、SCA28 の重症の表現型が複合する早発性の
蛋白質の分解活性を備えている。AFG3L2 はホモオリ
臨床症候群をもたらしたのである。本研究の知見により、
ゴマー、あるいは遺伝性痙性対麻痺 7 型(SPG7)で
AFG3L2 の変異が関係している表現型の範囲が拡が
変異を示す相同蛋白質のパラプレギンとのヘテロオリゴ
り、痙性運動失調の鑑別診断では AFG3L2 関連疾患
マー複合体を形成する。AFG3L2 に生じる機能喪失
を考慮に入れるべきであることが示唆された。
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:
シヌクレイノパチーの有力な治療標的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
4
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に影響する因子
5
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の無作為化試験
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)における
ミ
トコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
7
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
8
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3の凝集
9
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
10
11
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
ミ
トコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
型のヘテロ接合変異は、常染色体優性脊髄小脳失調
Update on SCD
Update on SCD
7
8
エルゼビアジャパン株式会社 /ELMCOM
CD--346A2012 年12月作成
Update on SCD
Selections From Current World Scientific Literature
Topics for this issue
1
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:シヌクレイノパチーの有力な治療標的
Suppression of dynamin GTPase decreases alpha-synuclein uptake by neuronal and
oligodendroglial cells: a potent therapeutic target for synucleinopathy
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授 西澤
があるものの、細胞外にあるαSYN が隣接する細胞に取り
2
込まれて凝集体の形成を促進することは間違いない。本研
究でαSYN の取り込み抑制効果を示したセルトラリン濃度
(10μM=3μg/mL)は、脳脊髄液内および脳内で抗うつ治
かった。
結 論
αSYN の細胞間移行の正確な機序にはまだ議論の余地
Konno M, Hasegawa T, Baba T, et al.
Molecular Neurodegeneration 2012;7(1):38. [Epub ahead of print]
Summary
MO3.13 の 3.8%に封入体が認められたが、培地にセルトラリ
ンを加えた場合はαSYN の取り込みが抑制された(*p<0.05)
(図 3)
。セルトラリンはドナーからのαSYN 分泌には影響しな
Selections From Current World Scientific Literature
と同程度である。
療効果を発揮するとされる濃度(2μg/mL)
実績ある薬剤の新たな効用を明らかにした本研究は、患者
に大きな利益をもたらすであろう。
正豊
である。こうした蛋白質が隣接する細胞へと拡がって、神経変性を伝播する可能性を示唆する知見が集積されている。本
研究は、培養した神経細胞/オリゴデンドログリアに、外因性のα-シヌクイレンがダイナミンGTPaseを介するエンドサイ
トーシスによって取り込まれ、凝集して高分子オリゴマーとなり、シヌクレイノパチーに特徴的な細胞内封入体を形成しうる
ことを示した。選択的セロトニン再取り込み阻害薬のセルトラリンは、強力なダイナミン阻害作用があり、神経変性の伝播
の予防に有効であると期待される。
蛋白/p25α
(TPPP/p25α)
と共局在した。封入体をもつ細
胞は時間とともに増加した。
取り込まれたαSYN の分解にリソソーム系が果たす役割
ヌクレイノパチー」
と総称される神経変性疾患にみられるレ
を確認するため、SH-SY5Y 細胞を 5μM αSYNとともに、
ビー小体(LB)やグリア細胞質内封入体(GCI)には、折り
液胞型 H+ ATPase 阻害剤バフィロマイシン A1(0∼5 nM)
畳み異常のあるα- シヌクイレン(αSYN)蛋白の凝集体が
で処理してリソソームの働きを阻害したところ、オートファジー
存在し、神経変性に寄与している。
αSYN の生理的・病理
が妨げられ、親水性分画への高分子量αSYN オリゴマー
学的作用は細胞内に限定されると考えられてきたが、最近
の蓄積量が増加した。
のエビデンスからは、単量体およびオリゴマー状のαSYN
抗うつ剤として広く用いられる選択的セロトニン再取り込み
が細胞外へ分泌され、隣接細胞にも影響を及ぼすことが示
阻害薬のセルトラリンは、既知のダイナミンGTPase 阻害薬
唆されている。このプロセスを理解するには、
αSYN の取り
の中では、ダイナミン1、2 の両者に対して最も強力に作用
込みと分泌の機序を明らかにする必要がある。本稿の知見
する。このセルトラリンで SH-SY5Y および KG1Cを処理し
は、
αSYN の細胞間伝播がもたらす神経変性の進行を防ぐ
(濃度 0∼10μM、30 分間)、ダイナミンを薬理学的に破壊
治療戦略の確立につながるものである。
方法と結果
外因性のαSYN が細胞内に取り込まれてオリゴマーを形成
することを確認するため、ヒトSH-SY5Y 神経 細胞および
図 2 ダイナミン GTPase 阻害で神経細胞/オリゴデンドログリアへのα- シヌクレイン取り込みは減少する
KG1C オリゴデンドログリア細胞を5μMのαSYNに曝露し
た。また、SH-SY5Yを 0∼10μM の 組み換えαSYN に 24
れた。
時間曝露した。細胞内分画および免疫ブロット法の結果、主
セルトラリンがαSYN の細胞間伝播を阻害するかどうかを
に親水性分画へのαSYNの取り込みとオリゴマー形成が認
調べるために、N 末端を mCherry で標識したαSYNを過
γSYNは取り込まれなかった。
められた(図1)
。βSYN、
と、高感度緑色蛍光蛋白
剰発現するSH-SY5Y(ドナー)
αSYN に曝露した細胞には、免疫細胞化学的にユビキ
質(EGFP)を 安 定 発 現 す る PC12 神 経 細 胞 および
(SCA)36 型は運動ニューロン徴候を示す新しい型の
は 400 名を超えている。本報では、不安定な異常眼
目的:治療的試験のために疾患の進行について評価
球運動や感音難聴などの晩期発症・緩徐進行性の小
SCAとして報告された。原因は、NOP56 のイントロン1
に存在するGGCCTGリピート伸長である。家族への面
接と文献調査を通じ、17 世紀に 1 つの村(スペイン、
脳症候群からなる詳細な臨床像を記述する。舌の脱神
ガリシア州コスタダモルテ)から発祥して世代を重ねて拡
外に古典的筋萎縮性側索硬化症の徴候は認められな
大してきた 2 つの大家系を復元することができた。これ
かった。MRI 所見は臨床経過と一致しており、初期に
らの家系では、以前染色体 20p に約 0.8Mb の連鎖領
みられる小脳虫部の萎縮が、後にオリーブ橋小脳萎縮
域 が同 定されているが、今 回、疾 患と共 分 離する
のパターンへ進展した。ガリシアにおける創始者変異の
経徴候や、軽度の錐体路徴候はみられたが、それ以
SCA36 変異がみつかった。その後のスクリーニングで、
起源は約 1275 年前にあったと推定される。SCAを有
この NOP56 の伸長が、失調症がみられるガリシアの別
するガリシアの 160 家 系中 10 家 系(6.3%)に SCA36
の 8 家系にも確認された。通常の対立遺伝子に含まれ
があり、15 家 系(9.4%)には通 常 の 優 性 遺 伝 性 の
る6 塩基リピートは 5∼14 個であるのに対し、異常伸長
したアリルでは約 650∼2,500ものリピートを、共通の 1
SCA が認められた。SCA36 はこのように、現時点でこ
の地域で最も頻発する優性遺伝性 SCA であり、伝統
つのハプロタイプ内に含んでいる。リピートサイズの拡大
的にスペインからの移住が多いアメリカ大陸諸国にも無
は、特に父方から受け継ぐ場合に高頻度で起こるが、
縁ではない疾患といえる。
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
Network correlates of disease severity in multiple system atrophy
Poston KL, Tang CC, Eckert T, et al.
Neurology 2012;78(16):1237-1244.
図 3 セルトラリンは共培養モデルでα- シヌクレインの神経細胞間/神経細胞−オリゴデンドログリア間移行を阻害する
調節するエンドサイトーシス経路を介して行われることが示さ
たのは、SCA2 に変異があり、対立遺伝子が正常(リピー
デザイン:前向きコホート研究(36 ヵ月)。
ト数 22 以下)の患者(p=0.02)、および SCA3 に変異
セッティング:レフェラルセンター。
があり、ベースラインにパーキンソニズムおよび/または
患者:常染色体優性小脳性運動失調症の患者 162
ジストニーがある患者(p=0.003)であった。CCFSw で
名、遺伝性痙性対麻痺の患者 64 名。
は運 動 失 調 患 者と痙 縮 患 者に差が出たのに対し、
主 要 評 価 項 目:書 字 検 査 付き定 量 的 Composite
者は悪 化し(CCFSw の年 間 増 加 幅の平 均[SE]は
SARA スコアは両方のグループで増加した。SARA ス
コアを基準として 2 群を比較する試験の場合、疾患進
行の 50%抑制を検出するために必要な症例数は 1 群に
つき、SCA2 57 名、SCA1 70 名、SCA3 75 名である
(検
出力 80%;α=0.05)。
結論:ポリグルタミンが伸長した SCA1、2、3 患者は、
+0.014[0.005]∼+0.025[0.004])、SPG4 患者は改
それ以外の患者に比べて速く進行する。いずれの測定
善した(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]は−0.012
基準も治療試験の評価項目に適している。同じ検出力
[0.003]
;p=0.02)。さらに SCA6、SCA7、その他の
を得るのに必要な症例数は SARA の方が少ないが、
、お よ
Cerebellar Functional Severity Score(CCFSw)
(SARA)スコア。
結果:脊髄小脳失調症(SCA)1、SCA2、SCA3 患
SCA 患者は安定(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]
は−0.015[0.011]∼+0.009[0.013])であり、その他
の SPG 患 者も安 定(CCFSw の 年 間 増 加 幅 の 平 均
5
[SE]は−0.005[0.005])であった。進行がより速かっ
し、臨床ツールの妥当性を判定する。
び Scale for the Assessment and Rating of Ataxia
この変異を有する個人は全部で 63 名発見され、そのう
依存的に減少した(図2)。また、SH-SY5Y では、ドミナ
siRNAを用いてダイナミン1を阻害すると、
αSYN 取り込み
が減少した。つまり、
αSYN の細胞内移行は、ダイナミンが
ち 44 名には臨床的影響が確認された。リスクがある者
Tezenas du Montcel S, Charles P, Goizet C, et al.
Archives of Neurology 2012;69(4):500-508.
母方からの場合は、リピートはむしろ縮小することもある。
すると、
αSYN 単量体/オリゴマーの細胞内蓄積量は用量
ントネガティブ 変 異 体 の K44Aダイナミン 1 により、また
最近、日本人の家系において、脊髄小脳失調症
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に
影響する因子
Factors influencing disease progression in autosomal dominant cerebellar ataxia and
spastic paraplegia
García-Murias M, Quintáns B, Arias M, et al.
Brain 2012;135(Pt 5):1423-1435.
図1 細胞外α-SYN は神経細胞/オリゴデンドログリアに取り込まれ、オリゴマーを形成する
パーキンソン病(PD)や多系統萎縮症(MSA)など、「シ
4
‘Costa da Morte’ ataxia is spinocerebellar ataxia 36: clinical and genetic characterization
α-シヌクイレンなど、折り畳みに異常がある蛋白質の細胞内沈着は、多くの神経変性疾患に共通する神経病理学的特徴
背景および目的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
層別化は CCFSw の方が少なくて済む。神経変性疾患
の進行を確実に評価するには、臨床評価項目の選択
が重要であることが示された。
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の
無作為化試験
A randomized trial of varenicline (Chantix) for the treatment of spinocerebellar ataxia type 3
Zesiewicz TA, Greenstein PE, Sullivan KL, et al.
Neurology 2012;78(8):545-550.
目的:多系統萎縮症(MSA)は最も一般的な非定型
結果:MSA 群では、MSARP 値が対照群、PD 群に
目的:無作為化二重盲検プラセボ対照試験により、
た。エンドポイント時にプラセボと比較して、バレニクリン
パーキンソン症候群であり、患者の安静状態の脳代謝
比 べ て 高 か った(い ず れもp<0.001)
。MSA 群 の
ニューロンに局在するα4β2 ニコチン性アセチルコリン受
投与患者で改善が認められたのは、SARA の歩行
容体の部分アゴニストで、禁煙補助薬として使用される
(p=0.04)、立位(p=0.03)、手の回内・回外運動(p
バレ ニ クリン(Chantix)の 脊 髄 小 脳 失 調 症 3 型
=0.003)の各 項目、そして 25フィート歩 行 時 間(p=
画像に、異常な空間共分散パターンが認められるという
MSARP 値は運動能力障害(r=0.57、p=0.0008)お
特徴がある。しかし、このパターンをMSA のバイオマー
よび罹病期間(r=−0.376、p=0.03)の臨床的レーティ
カーとして利用するためには、それが MSA に特異的で
ングと相関していた。一方、PD 群におけるMSARP の
あり、個々の患者の臨床的能力障害と相関することを
発現は対照群と差がなかった(p=1.0)
。PD 群の運動
方法:遺伝子診断でSCA3 が確認された患者を、バレニ
示す必要がある。
症状レーティングは PDRPとの相関を示した(r=0.60、
クリン投与群(4 週間の漸増期間後、1mgを1日2 回 4 週
方 法:[ F]フッ化デオキシグルコース PETを用 い、
p=0.006)が、MSARP 値とは 相 関しなかった(p=
0.88)。
結論:MSA では特異的な疾患関連代謝パターンの発
現が増大する。さらに、MSA 患者間でのこのパターン
間)
またはプラセボ群に無作為に割り付けた。評価項目は、
and Rating of Ataxia(SARA)スコアのベースラインから
回外運動を有意に改善させ、忍容性はきわめて良好で
の変化量、25フィート歩行および 9 穴ペグの計測値、気
あることが示された。
18
MSA 患者 33 名と、年齢と重症度が一致する特発性
パーキンソン病(PD)患者 20 名、そして健常被験者
(SCA3)患者における有効性を評価した。
エンドポイント
(8 週 間 後)の Scale for the Assessment
0.05)および Beck Depression Inventory スコ ア(p=
0.03)であり、バレニクリン群では SARA 総合スコア(p
=0.06)
も改善される傾向がみられた。
結論:この対照試験で、バレニクリンは、SARA サブ
スコアで測定するSCA3 患者の体軸症状および回内・
チン陽性・チオフラビン S 陽性の凝集体が検出された。核
MO3.13 オリゴデンドログリア(アクセプター)を、10μM セル
15 名の検査を行った。各被験者について、あらかじめ
特性解析済みの MSA および PD の代謝共分散パター
ン(それぞれ MSARP、PDRPと呼ぶ)の発現状況をコ
周囲の大きい封入体には、LB や GCI でみられるセリン129
トラリンの存在下/非存在下で共培養し、mCherryフルオ
ンピュータで評価する前向き単一症例研究を実施した。
リン酸化αSYN が認められた。KG1C の細胞内封入体は、
ロフォアでαSYNを追跡した。72 時間の培養後、アクセプ
得られた各患者のネットワーク値には、臨床的運動症
を本試験に登録し、期間 1 では 18 名のデータを解析し
外運動以外の四肢機能は改善されないことを示すクラ
MSA におけるGCI のマーカーであるチューブリン重合促進
ター細胞へのαSYN の移行が確認され、PC12 の 4.2%、
状レーティングおよび罹病期間との相関が認められた。
た。最も多く発生したバレニクリンの副作用は悪心であっ
スⅡのエビデンスが得られた。
2
Update on SCD
Update on SCD
3
4
Update on SCD
の発現の差は、臨床的能力障害の程度と相関する。
分と不安の測定値、有害事象などとした。
エビデンスの分類:遺伝子診断で SCA3 が確認され
これらの知見は、MSA の新規療法の試験で MSARP
結果:SCA3 患者 20 名(平均年齢=51±10.98 歳;平均
た成人患者にバレニクリンを投与すると、歩行、立位、
が有用なバイオマーカーとなりうることを示唆している。
罹病期間=14±9.82 年;平均 SARAスコア=16.13±4.67)
25フィート歩行時間は改善されるが、素早い回内・回
Update on SCD
5
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)に
おけるミトコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
8
Mitochondrial dysfunction and Purkinje cell loss in autosomal recessive spastic ataxia of
Charlevoix-Saguenay (ARSACS)
Excitation-induced ataxin-3 aggregation in neurons from patients with
Machado-Joseph disease
Girard M, Larivière R, Parfitt DA, et al.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2012;109(5):1661-1666.
Koch P, Breuer P, Peitz M, et al.
Nature 2011;480(7378):543-546.
Horvath R, Czermin B, Gulati S, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(2):174-178.
Machado-Joseph 病(MJD;脊髄小脳失調症 3 型と
は、Lグルタミン酸が患者特異的な人工多能性幹細胞
調症(ARSACS)は小児期に発症する神経疾患で、
ドリア・ネットワークに融合の亢進がみられ、このことはミ
も呼ぶ)は、優性遺伝性の遅発性神経変性症の一種
(iPSC)由来ニューロンの興奮を誘導し、その結果、
その原因は、機能不詳の 4,579-aa 蛋白質であるサク
トコンドリアの分裂が減少することと符合する。サクシン
シンをコードするSACS 遺伝子の変異である。創始者疾
がノックダウンされると、ミ
トコンドリア・ネットワークは内部
であり、MJD1 遺伝子(別名 ATXN3)においてポリグル
ATXN3 が Ca2+ 依存性に分解されて、SDS 不溶性の
タミン(polyQ)をコードするCAGリピートの伸長によって
凝集体が形成されることを明らかにした。この表現型は
引き起こされる。きわめて凝 集しやすい性 質をもつ
蛋白質分解酵素カルパインを阻害すると消失したため、
polyQ 断 片 が、MJD1 遺 伝 子 産 物 アタキ シン 3
ATXN3 凝集にはカルパインが重要な役割を果たすこと
(ATXN3)から蛋白分解されて遊離すると、ATXN3を
が確認できた。さらに、凝集体形成は機能的 Na+ およ
含む凝集体の形成が誘導されると考えられている。こ
び K+ チャネル、リガンド開口性および電位開口性 Ca2+
患としてケベックで最初に確認された ARSACS は、今
の融合が過度に進んで機能低下に陥り、サクシンを抑
では世界的に確認されている。著明な特徴としては、
制されたニューロンの細胞体や近位樹状突起にミ
トコン
錐体路徴候、小脳性運動失調などがあるが、根底に
ドリアが蓄積する。樹状突起内へのミ
トコンドリア輸送が
ある病理や病態生理学的機序はわかっていない。我々
阻害されると、樹状突起が異常な形態を呈することが
が作製した ARSACS モデルのサクシン・ノックアウトマウ
わかっている。ノックアウトマウスの小脳ではプルキンエ
スは、小脳プルキンエ細胞の神経変性を年齢依存的
細胞死に先行して、樹状突起野の著しい再編が起きて
の凝集体は MJD の顕著な神経病理学的特徴である。
チャネルにも依存し、iPSC、線維芽細胞、グリア細胞
に発現する。この観察所見の病態生理学的根拠を探
いるのが観察された。本研究は、ミトコンドリアの機能
MJD 患者や、変異ヒトATXN3(Q71)を発現するトラ
には検出されなかった。このことによって、MJD のニュー
るために、サクシンの細胞生物学的特性を検討した。
障害/局在不全は ARSACS の細胞レベルの病因とな
サクシンは非ニューロン細胞および一次ニューロンのミ
ト
る可能性が高いこと、サクシンにはミトコンドリアの動態
ンスジェニックマウスの脳組織からは ATXN3 断片が検
ロン特異的な表現型が説明できる。本研究は、遅発
コンドリアに局在しており、ミ
トコンドリアの分裂に関与す
を調節する役割があることを示唆している。
出され、その 量 は 重 症 であるほど 多 いことから、
性神経変性にかかわる異所性蛋白プロセシングに関す
ATXN3 のプロセシングと疾患進行の関連性が支持さ
る患者特異的なニューロンを用いた研究が、iPSC によっ
れる。凝集早期の中間体の形成は疾患の始まりに重要
て可能になることを示している。
な役割を果たすと考えられているが、依然として MJD
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
9
背景:多系統萎縮症(MSA)は孤発性の進行性神経
目的:剖検で確定した MSA 症例における疾患の特性
57±8.1 歳;死亡までの罹病期間 6.5±3.3 年;最初の
症状は自律神経障害 18 名、パーキンソニズム7 名、
小脳性運動失調 2 名。初回来診時の臨床表現型は
MSA-P(パーキンソニズム優 勢)18 名、MSA-C(小
脳性症状優勢)8 名、純粋な自律神経機能不全 2 名、
パーキンソン病 1 名。最終受診時の臨床診断は MSA
が 28 名。自律神経機能不全は重度で、CASS 7.2±2.3
点(最 高 スコアは 10 点)
。TST%は 65.6±33.9% で、
82%の患者で 30%を上回り、最も多いパターンは全身
評価は正確か、また、剖検を通じて MSA 診断基準の
性無汗症であった。ノルエピネフリンは仰臥位では正常
変性疾患である。起立性低血圧や排尿・性機能障害
として発現する自律神経機能不全を特徴とし、レボドパ
に応答しにくいパーキンソニズム、小脳性運動失調、
皮質脊髄路障害などが同時にみられる。これまでに公
表された剖検による確定診断例は、MSA の神経学的
特性をよく示しているが、適切な自律神経機能検査は
行われていなかった。
方法:本研究は Mayo Clinic の剖検で MSAと確定さ
少した。共通する4 つの臨床的特徴(急速な進行、早
れた 29 症例を対象とした。これらの症例は各種の自律
期の姿勢不安定、レボドパへの応答不良、対称性の
神経機能検査(アドレナリン作動性/汗腺/心臓迷走
症状)が認められた。
神 経 機 能、Thermoregulatory Sweat Test[TST])を
結論:重度のアドレナリン作動性/汗腺機能不全を呈
受けており、その結果をもとに Composite Autonomic
する進行性の全般性自律神経機能不全が臨床表現型
Severity Score(CASS)を採点した。
結果:患者背景:男性 17 名、女性 12 名;発症年齢
と結びついた場合、高率で MSA が予測される。
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
までの報告とは対照的に、2 名の患者は発症が遅く、き
多様な病態を示す疾患群である。根本原因を特定でき
わめて軽度の表現型を示しており、40 代後半でなお歩
る患者は全体の約半数であり、原因に応じた治療を受
行可能であった。筋生検では脂質の蓄積、ミ
トコンドリア
けられる患者はきわめて少ない。
増殖、チロクロムcオキシダーゼ欠損を認めたが、赤色
方法:原因不明の劣性遺伝性または孤発性運動失調
ぼろ線維は検出されなかった。呼吸鎖酵素活性および
症を有する患者 22 名について、補酵素 Q10(CoQ10)
CoQ10 は重症例では減少していたが、46 歳の軽症患
が欠損する既知の遺伝子の配列解析を行った。
者 1 名では正常であった。
結果:CABC1/ADCK3 の遺伝子変異が小脳性運動失
結論:これらの知見は、CABC1/ADCK3 変異が原因
調、てんかん、および筋肉症状を呈する患者 4 名と同胞
の場合、重症の小児期発症型運動失調症だけでなく成
2 名に確認された。痙縮、ジストニー、振戦、片頭痛の
人期の軽度の小脳性運動失調患者でも治療の可能性
現れ方はさまざまであった。認知障害は幼児期の患者で
があり、そうしたケースを発見するスクリーニングの重要性
は重症であったが、成人患者にはみられなかった。これ
を示している。
Al Tassan N, Khalil D, Shinwari J, et al.
Human Mutation 2012;33(2):351-354.
性遺伝疾患で、SETX 遺伝子変異をもたない家系に関
感覚運動ニューロパチーに特徴づけられる多様な疾患
する研 究 である。この 家 系 の 遺 伝 子 座 は 染 色 体
の総称である。この一群の疾患の分子遺伝学的解析
17pl2-pl3 にマッピングされた。この領域に絞り込んで
から、重複する表現型に寄与するとみられるいくつかの
全遺伝子の配列決定を行ったところ、PIK3R5 に、正
遺伝子が同定された。眼球運動失行を伴う運動失調
常対照群の 477 名にはないホモ接合型ミスセンス変異
症 2 型(AOA2)は、SETX 遺伝子の変異に起因する
がみつかった。PIK3R5 蛋白質は小脳および小脳虫部
常染色体劣性遺伝性の運動失調症である。ここで報
の発達に関与していることが示唆される。
[総監修] 水澤 英洋
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 脳神経病態学 教授
[監修 / 執筆]西澤
正豊
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授
2
Pierson TM, Adams D, Bonn F, et al.
PLoS Genetics 2011;7(10):e1002325.
常染色体劣性運動失調症は、小脳萎縮と末梢性
2012. December
1
ミトコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
Whole-exome sequencing identifies homozygous AFG3L2 mutations
in a spastic ataxia-neuropathy syndrome linked to mitochondrial m-AAA proteases
A missense mutation in PIK3R5 gene in a family with ataxia and oculomotor apraxia
(203.6±112.7)だが、起立時増分は 33.5±23.2%減
妥当性は示されるのかを、後ろ向きに評価する。
目的:遺伝性運動失調症は小児にも成人にも発症し、
CONTENTS
11
の正確な発症機序を説明することは難しい。本研究で
Iodice V, Lipp A, Ahlskog JE, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(4):453-459.
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
Adult-onset cerebellar ataxia due to mutations in CABC1/ADCK3
かになった。ARSACS 患者の線維芽細胞ではミトコン
Autopsy confirmed multiple system atrophy cases:
Mayo experience and role of autonomic function tests
6
10
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失
るダイナミン関連蛋白 1との相互作用を示すことが明ら
7
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3 の凝集
告するのは、AOA2 の臨床的特徴を示す常染色体劣
下肢痙縮、末梢性ニューロパチー、眼瞼下垂、眼
症 28 型(SCA28)の原因となる。これは本研究の患者
球運動失行、ジストニー、小脳萎縮、進行性ミオクロー
とは表現型のまったく異なる疾患である。酵母相補性アッ
ヌス性てんかんの臨床的特徴を示す血縁の兄弟 2 名に
セイによると、AFG3L2Y616C 遺伝子産物は低形質変異
おける、早発性の痙性運動失調−ニューロパチー症候
体であり、酵母中でも患者の線維芽細胞中でもオリゴ
群について報告する。全エキソーム配列解析の結果、
マー形成能の低下を示した。特に AFG3L2Y616C 同士
m-AAAプロテアーゼの サブ ユ ニットをコードする
の複合体と、AFG3L2Y616Cとパラプレギンとの複合体
AFG3L2 に、ホモ接合型ミスセンス変異(c.1847G>A;
の形成不良が顕著であった。このことが、眼球運動失
p.Y616C)が検出された。m-AAAプロテアーゼはミトコ
行、錐体外路系の機能障害、ミオクローヌス性てんか
ンドリア内膜に存在して、損傷や折り畳み異常のある蛋
んなど の 他 の「ミトコンドリア性」の 病 態 に 加えて、
白質を除去する役目を担っており、ミトコンドリアの必須
SPG7、SCA28 の重症の表現型が複合する早発性の
蛋白質の分解活性を備えている。AFG3L2 はホモオリ
臨床症候群をもたらしたのである。本研究の知見により、
ゴマー、あるいは遺伝性痙性対麻痺 7 型(SPG7)で
AFG3L2 の変異が関係している表現型の範囲が拡が
変異を示す相同蛋白質のパラプレギンとのヘテロオリゴ
り、痙性運動失調の鑑別診断では AFG3L2 関連疾患
マー複合体を形成する。AFG3L2 に生じる機能喪失
を考慮に入れるべきであることが示唆された。
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:
シヌクレイノパチーの有力な治療標的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
4
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に影響する因子
5
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の無作為化試験
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)における
ミ
トコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
7
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
8
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3の凝集
9
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
10
11
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
ミ
トコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
型のヘテロ接合変異は、常染色体優性脊髄小脳失調
Update on SCD
Update on SCD
7
8
エルゼビアジャパン株式会社 /ELMCOM
CD--346A2012 年12月作成
Update on SCD
Selections From Current World Scientific Literature
Topics for this issue
1
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:シヌクレイノパチーの有力な治療標的
Suppression of dynamin GTPase decreases alpha-synuclein uptake by neuronal and
oligodendroglial cells: a potent therapeutic target for synucleinopathy
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授 西澤
があるものの、細胞外にあるαSYN が隣接する細胞に取り
2
込まれて凝集体の形成を促進することは間違いない。本研
究でαSYN の取り込み抑制効果を示したセルトラリン濃度
(10μM=3μg/mL)は、脳脊髄液内および脳内で抗うつ治
かった。
結 論
αSYN の細胞間移行の正確な機序にはまだ議論の余地
Konno M, Hasegawa T, Baba T, et al.
Molecular Neurodegeneration 2012;7(1):38. [Epub ahead of print]
Summary
MO3.13 の 3.8%に封入体が認められたが、培地にセルトラリ
ンを加えた場合はαSYN の取り込みが抑制された(*p<0.05)
(図 3)
。セルトラリンはドナーからのαSYN 分泌には影響しな
Selections From Current World Scientific Literature
と同程度である。
療効果を発揮するとされる濃度(2μg/mL)
実績ある薬剤の新たな効用を明らかにした本研究は、患者
に大きな利益をもたらすであろう。
正豊
である。こうした蛋白質が隣接する細胞へと拡がって、神経変性を伝播する可能性を示唆する知見が集積されている。本
研究は、培養した神経細胞/オリゴデンドログリアに、外因性のα-シヌクイレンがダイナミンGTPaseを介するエンドサイ
トーシスによって取り込まれ、凝集して高分子オリゴマーとなり、シヌクレイノパチーに特徴的な細胞内封入体を形成しうる
ことを示した。選択的セロトニン再取り込み阻害薬のセルトラリンは、強力なダイナミン阻害作用があり、神経変性の伝播
の予防に有効であると期待される。
蛋白/p25α
(TPPP/p25α)
と共局在した。封入体をもつ細
胞は時間とともに増加した。
取り込まれたαSYN の分解にリソソーム系が果たす役割
ヌクレイノパチー」
と総称される神経変性疾患にみられるレ
を確認するため、SH-SY5Y 細胞を 5μM αSYNとともに、
ビー小体(LB)やグリア細胞質内封入体(GCI)には、折り
液胞型 H+ ATPase 阻害剤バフィロマイシン A1(0∼5 nM)
畳み異常のあるα- シヌクイレン(αSYN)蛋白の凝集体が
で処理してリソソームの働きを阻害したところ、オートファジー
存在し、神経変性に寄与している。
αSYN の生理的・病理
が妨げられ、親水性分画への高分子量αSYN オリゴマー
学的作用は細胞内に限定されると考えられてきたが、最近
の蓄積量が増加した。
のエビデンスからは、単量体およびオリゴマー状のαSYN
抗うつ剤として広く用いられる選択的セロトニン再取り込み
が細胞外へ分泌され、隣接細胞にも影響を及ぼすことが示
阻害薬のセルトラリンは、既知のダイナミンGTPase 阻害薬
唆されている。このプロセスを理解するには、
αSYN の取り
の中では、ダイナミン1、2 の両者に対して最も強力に作用
込みと分泌の機序を明らかにする必要がある。本稿の知見
する。このセルトラリンで SH-SY5Y および KG1Cを処理し
は、
αSYN の細胞間伝播がもたらす神経変性の進行を防ぐ
(濃度 0∼10μM、30 分間)、ダイナミンを薬理学的に破壊
治療戦略の確立につながるものである。
方法と結果
外因性のαSYN が細胞内に取り込まれてオリゴマーを形成
することを確認するため、ヒトSH-SY5Y 神経 細胞および
図 2 ダイナミン GTPase 阻害で神経細胞/オリゴデンドログリアへのα- シヌクレイン取り込みは減少する
KG1C オリゴデンドログリア細胞を5μMのαSYNに曝露し
た。また、SH-SY5Yを 0∼10μM の 組み換えαSYN に 24
れた。
時間曝露した。細胞内分画および免疫ブロット法の結果、主
セルトラリンがαSYN の細胞間伝播を阻害するかどうかを
に親水性分画へのαSYNの取り込みとオリゴマー形成が認
調べるために、N 末端を mCherry で標識したαSYNを過
γSYNは取り込まれなかった。
められた(図1)
。βSYN、
と、高感度緑色蛍光蛋白
剰発現するSH-SY5Y(ドナー)
αSYN に曝露した細胞には、免疫細胞化学的にユビキ
質(EGFP)を 安 定 発 現 す る PC12 神 経 細 胞 および
(SCA)36 型は運動ニューロン徴候を示す新しい型の
は 400 名を超えている。本報では、不安定な異常眼
目的:治療的試験のために疾患の進行について評価
球運動や感音難聴などの晩期発症・緩徐進行性の小
SCAとして報告された。原因は、NOP56 のイントロン1
に存在するGGCCTGリピート伸長である。家族への面
接と文献調査を通じ、17 世紀に 1 つの村(スペイン、
脳症候群からなる詳細な臨床像を記述する。舌の脱神
ガリシア州コスタダモルテ)から発祥して世代を重ねて拡
外に古典的筋萎縮性側索硬化症の徴候は認められな
大してきた 2 つの大家系を復元することができた。これ
かった。MRI 所見は臨床経過と一致しており、初期に
らの家系では、以前染色体 20p に約 0.8Mb の連鎖領
みられる小脳虫部の萎縮が、後にオリーブ橋小脳萎縮
域 が同 定されているが、今 回、疾 患と共 分 離する
のパターンへ進展した。ガリシアにおける創始者変異の
経徴候や、軽度の錐体路徴候はみられたが、それ以
SCA36 変異がみつかった。その後のスクリーニングで、
起源は約 1275 年前にあったと推定される。SCAを有
この NOP56 の伸長が、失調症がみられるガリシアの別
するガリシアの 160 家 系中 10 家 系(6.3%)に SCA36
の 8 家系にも確認された。通常の対立遺伝子に含まれ
があり、15 家 系(9.4%)には通 常 の 優 性 遺 伝 性 の
る6 塩基リピートは 5∼14 個であるのに対し、異常伸長
したアリルでは約 650∼2,500ものリピートを、共通の 1
SCA が認められた。SCA36 はこのように、現時点でこ
の地域で最も頻発する優性遺伝性 SCA であり、伝統
つのハプロタイプ内に含んでいる。リピートサイズの拡大
的にスペインからの移住が多いアメリカ大陸諸国にも無
は、特に父方から受け継ぐ場合に高頻度で起こるが、
縁ではない疾患といえる。
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
Network correlates of disease severity in multiple system atrophy
Poston KL, Tang CC, Eckert T, et al.
Neurology 2012;78(16):1237-1244.
図 3 セルトラリンは共培養モデルでα- シヌクレインの神経細胞間/神経細胞−オリゴデンドログリア間移行を阻害する
調節するエンドサイトーシス経路を介して行われることが示さ
たのは、SCA2 に変異があり、対立遺伝子が正常(リピー
デザイン:前向きコホート研究(36 ヵ月)。
ト数 22 以下)の患者(p=0.02)、および SCA3 に変異
セッティング:レフェラルセンター。
があり、ベースラインにパーキンソニズムおよび/または
患者:常染色体優性小脳性運動失調症の患者 162
ジストニーがある患者(p=0.003)であった。CCFSw で
名、遺伝性痙性対麻痺の患者 64 名。
は運 動 失 調 患 者と痙 縮 患 者に差が出たのに対し、
主 要 評 価 項 目:書 字 検 査 付き定 量 的 Composite
者は悪 化し(CCFSw の年 間 増 加 幅の平 均[SE]は
SARA スコアは両方のグループで増加した。SARA ス
コアを基準として 2 群を比較する試験の場合、疾患進
行の 50%抑制を検出するために必要な症例数は 1 群に
つき、SCA2 57 名、SCA1 70 名、SCA3 75 名である
(検
出力 80%;α=0.05)。
結論:ポリグルタミンが伸長した SCA1、2、3 患者は、
+0.014[0.005]∼+0.025[0.004])、SPG4 患者は改
それ以外の患者に比べて速く進行する。いずれの測定
善した(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]は−0.012
基準も治療試験の評価項目に適している。同じ検出力
[0.003]
;p=0.02)。さらに SCA6、SCA7、その他の
を得るのに必要な症例数は SARA の方が少ないが、
、お よ
Cerebellar Functional Severity Score(CCFSw)
(SARA)スコア。
結果:脊髄小脳失調症(SCA)1、SCA2、SCA3 患
SCA 患者は安定(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]
は−0.015[0.011]∼+0.009[0.013])であり、その他
の SPG 患 者も安 定(CCFSw の 年 間 増 加 幅 の 平 均
5
[SE]は−0.005[0.005])であった。進行がより速かっ
し、臨床ツールの妥当性を判定する。
び Scale for the Assessment and Rating of Ataxia
この変異を有する個人は全部で 63 名発見され、そのう
依存的に減少した(図2)。また、SH-SY5Y では、ドミナ
siRNAを用いてダイナミン1を阻害すると、
αSYN 取り込み
が減少した。つまり、
αSYN の細胞内移行は、ダイナミンが
ち 44 名には臨床的影響が確認された。リスクがある者
Tezenas du Montcel S, Charles P, Goizet C, et al.
Archives of Neurology 2012;69(4):500-508.
母方からの場合は、リピートはむしろ縮小することもある。
すると、
αSYN 単量体/オリゴマーの細胞内蓄積量は用量
ントネガティブ 変 異 体 の K44Aダイナミン 1 により、また
最近、日本人の家系において、脊髄小脳失調症
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に
影響する因子
Factors influencing disease progression in autosomal dominant cerebellar ataxia and
spastic paraplegia
García-Murias M, Quintáns B, Arias M, et al.
Brain 2012;135(Pt 5):1423-1435.
図1 細胞外α-SYN は神経細胞/オリゴデンドログリアに取り込まれ、オリゴマーを形成する
パーキンソン病(PD)や多系統萎縮症(MSA)など、「シ
4
‘Costa da Morte’ ataxia is spinocerebellar ataxia 36: clinical and genetic characterization
α-シヌクイレンなど、折り畳みに異常がある蛋白質の細胞内沈着は、多くの神経変性疾患に共通する神経病理学的特徴
背景および目的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
層別化は CCFSw の方が少なくて済む。神経変性疾患
の進行を確実に評価するには、臨床評価項目の選択
が重要であることが示された。
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の
無作為化試験
A randomized trial of varenicline (Chantix) for the treatment of spinocerebellar ataxia type 3
Zesiewicz TA, Greenstein PE, Sullivan KL, et al.
Neurology 2012;78(8):545-550.
目的:多系統萎縮症(MSA)は最も一般的な非定型
結果:MSA 群では、MSARP 値が対照群、PD 群に
目的:無作為化二重盲検プラセボ対照試験により、
た。エンドポイント時にプラセボと比較して、バレニクリン
パーキンソン症候群であり、患者の安静状態の脳代謝
比 べ て 高 か った(い ず れもp<0.001)
。MSA 群 の
ニューロンに局在するα4β2 ニコチン性アセチルコリン受
投与患者で改善が認められたのは、SARA の歩行
容体の部分アゴニストで、禁煙補助薬として使用される
(p=0.04)、立位(p=0.03)、手の回内・回外運動(p
バレ ニ クリン(Chantix)の 脊 髄 小 脳 失 調 症 3 型
=0.003)の各 項目、そして 25フィート歩 行 時 間(p=
画像に、異常な空間共分散パターンが認められるという
MSARP 値は運動能力障害(r=0.57、p=0.0008)お
特徴がある。しかし、このパターンをMSA のバイオマー
よび罹病期間(r=−0.376、p=0.03)の臨床的レーティ
カーとして利用するためには、それが MSA に特異的で
ングと相関していた。一方、PD 群におけるMSARP の
あり、個々の患者の臨床的能力障害と相関することを
発現は対照群と差がなかった(p=1.0)
。PD 群の運動
方法:遺伝子診断でSCA3 が確認された患者を、バレニ
示す必要がある。
症状レーティングは PDRPとの相関を示した(r=0.60、
クリン投与群(4 週間の漸増期間後、1mgを1日2 回 4 週
方 法:[ F]フッ化デオキシグルコース PETを用 い、
p=0.006)が、MSARP 値とは 相 関しなかった(p=
0.88)。
結論:MSA では特異的な疾患関連代謝パターンの発
現が増大する。さらに、MSA 患者間でのこのパターン
間)
またはプラセボ群に無作為に割り付けた。評価項目は、
and Rating of Ataxia(SARA)スコアのベースラインから
回外運動を有意に改善させ、忍容性はきわめて良好で
の変化量、25フィート歩行および 9 穴ペグの計測値、気
あることが示された。
18
MSA 患者 33 名と、年齢と重症度が一致する特発性
パーキンソン病(PD)患者 20 名、そして健常被験者
(SCA3)患者における有効性を評価した。
エンドポイント
(8 週 間 後)の Scale for the Assessment
0.05)および Beck Depression Inventory スコ ア(p=
0.03)であり、バレニクリン群では SARA 総合スコア(p
=0.06)
も改善される傾向がみられた。
結論:この対照試験で、バレニクリンは、SARA サブ
スコアで測定するSCA3 患者の体軸症状および回内・
チン陽性・チオフラビン S 陽性の凝集体が検出された。核
MO3.13 オリゴデンドログリア(アクセプター)を、10μM セル
15 名の検査を行った。各被験者について、あらかじめ
特性解析済みの MSA および PD の代謝共分散パター
ン(それぞれ MSARP、PDRPと呼ぶ)の発現状況をコ
周囲の大きい封入体には、LB や GCI でみられるセリン129
トラリンの存在下/非存在下で共培養し、mCherryフルオ
ンピュータで評価する前向き単一症例研究を実施した。
リン酸化αSYN が認められた。KG1C の細胞内封入体は、
ロフォアでαSYNを追跡した。72 時間の培養後、アクセプ
得られた各患者のネットワーク値には、臨床的運動症
を本試験に登録し、期間 1 では 18 名のデータを解析し
外運動以外の四肢機能は改善されないことを示すクラ
MSA におけるGCI のマーカーであるチューブリン重合促進
ター細胞へのαSYN の移行が確認され、PC12 の 4.2%、
状レーティングおよび罹病期間との相関が認められた。
た。最も多く発生したバレニクリンの副作用は悪心であっ
スⅡのエビデンスが得られた。
2
Update on SCD
Update on SCD
3
4
Update on SCD
の発現の差は、臨床的能力障害の程度と相関する。
分と不安の測定値、有害事象などとした。
エビデンスの分類:遺伝子診断で SCA3 が確認され
これらの知見は、MSA の新規療法の試験で MSARP
結果:SCA3 患者 20 名(平均年齢=51±10.98 歳;平均
た成人患者にバレニクリンを投与すると、歩行、立位、
が有用なバイオマーカーとなりうることを示唆している。
罹病期間=14±9.82 年;平均 SARAスコア=16.13±4.67)
25フィート歩行時間は改善されるが、素早い回内・回
Update on SCD
5
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)に
おけるミトコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
8
Mitochondrial dysfunction and Purkinje cell loss in autosomal recessive spastic ataxia of
Charlevoix-Saguenay (ARSACS)
Excitation-induced ataxin-3 aggregation in neurons from patients with
Machado-Joseph disease
Girard M, Larivière R, Parfitt DA, et al.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2012;109(5):1661-1666.
Koch P, Breuer P, Peitz M, et al.
Nature 2011;480(7378):543-546.
Horvath R, Czermin B, Gulati S, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(2):174-178.
Machado-Joseph 病(MJD;脊髄小脳失調症 3 型と
は、Lグルタミン酸が患者特異的な人工多能性幹細胞
調症(ARSACS)は小児期に発症する神経疾患で、
ドリア・ネットワークに融合の亢進がみられ、このことはミ
も呼ぶ)は、優性遺伝性の遅発性神経変性症の一種
(iPSC)由来ニューロンの興奮を誘導し、その結果、
その原因は、機能不詳の 4,579-aa 蛋白質であるサク
トコンドリアの分裂が減少することと符合する。サクシン
シンをコードするSACS 遺伝子の変異である。創始者疾
がノックダウンされると、ミ
トコンドリア・ネットワークは内部
であり、MJD1 遺伝子(別名 ATXN3)においてポリグル
ATXN3 が Ca2+ 依存性に分解されて、SDS 不溶性の
タミン(polyQ)をコードするCAGリピートの伸長によって
凝集体が形成されることを明らかにした。この表現型は
引き起こされる。きわめて凝 集しやすい性 質をもつ
蛋白質分解酵素カルパインを阻害すると消失したため、
polyQ 断 片 が、MJD1 遺 伝 子 産 物 アタキ シン 3
ATXN3 凝集にはカルパインが重要な役割を果たすこと
(ATXN3)から蛋白分解されて遊離すると、ATXN3を
が確認できた。さらに、凝集体形成は機能的 Na+ およ
含む凝集体の形成が誘導されると考えられている。こ
び K+ チャネル、リガンド開口性および電位開口性 Ca2+
患としてケベックで最初に確認された ARSACS は、今
の融合が過度に進んで機能低下に陥り、サクシンを抑
では世界的に確認されている。著明な特徴としては、
制されたニューロンの細胞体や近位樹状突起にミ
トコン
錐体路徴候、小脳性運動失調などがあるが、根底に
ドリアが蓄積する。樹状突起内へのミ
トコンドリア輸送が
ある病理や病態生理学的機序はわかっていない。我々
阻害されると、樹状突起が異常な形態を呈することが
が作製した ARSACS モデルのサクシン・ノックアウトマウ
わかっている。ノックアウトマウスの小脳ではプルキンエ
スは、小脳プルキンエ細胞の神経変性を年齢依存的
細胞死に先行して、樹状突起野の著しい再編が起きて
の凝集体は MJD の顕著な神経病理学的特徴である。
チャネルにも依存し、iPSC、線維芽細胞、グリア細胞
に発現する。この観察所見の病態生理学的根拠を探
いるのが観察された。本研究は、ミトコンドリアの機能
MJD 患者や、変異ヒトATXN3(Q71)を発現するトラ
には検出されなかった。このことによって、MJD のニュー
るために、サクシンの細胞生物学的特性を検討した。
障害/局在不全は ARSACS の細胞レベルの病因とな
サクシンは非ニューロン細胞および一次ニューロンのミ
ト
る可能性が高いこと、サクシンにはミトコンドリアの動態
ンスジェニックマウスの脳組織からは ATXN3 断片が検
ロン特異的な表現型が説明できる。本研究は、遅発
コンドリアに局在しており、ミ
トコンドリアの分裂に関与す
を調節する役割があることを示唆している。
出され、その 量 は 重 症 であるほど 多 いことから、
性神経変性にかかわる異所性蛋白プロセシングに関す
ATXN3 のプロセシングと疾患進行の関連性が支持さ
る患者特異的なニューロンを用いた研究が、iPSC によっ
れる。凝集早期の中間体の形成は疾患の始まりに重要
て可能になることを示している。
な役割を果たすと考えられているが、依然として MJD
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
9
背景:多系統萎縮症(MSA)は孤発性の進行性神経
目的:剖検で確定した MSA 症例における疾患の特性
57±8.1 歳;死亡までの罹病期間 6.5±3.3 年;最初の
症状は自律神経障害 18 名、パーキンソニズム7 名、
小脳性運動失調 2 名。初回来診時の臨床表現型は
MSA-P(パーキンソニズム優 勢)18 名、MSA-C(小
脳性症状優勢)8 名、純粋な自律神経機能不全 2 名、
パーキンソン病 1 名。最終受診時の臨床診断は MSA
が 28 名。自律神経機能不全は重度で、CASS 7.2±2.3
点(最 高 スコアは 10 点)
。TST%は 65.6±33.9% で、
82%の患者で 30%を上回り、最も多いパターンは全身
評価は正確か、また、剖検を通じて MSA 診断基準の
性無汗症であった。ノルエピネフリンは仰臥位では正常
変性疾患である。起立性低血圧や排尿・性機能障害
として発現する自律神経機能不全を特徴とし、レボドパ
に応答しにくいパーキンソニズム、小脳性運動失調、
皮質脊髄路障害などが同時にみられる。これまでに公
表された剖検による確定診断例は、MSA の神経学的
特性をよく示しているが、適切な自律神経機能検査は
行われていなかった。
方法:本研究は Mayo Clinic の剖検で MSAと確定さ
少した。共通する4 つの臨床的特徴(急速な進行、早
れた 29 症例を対象とした。これらの症例は各種の自律
期の姿勢不安定、レボドパへの応答不良、対称性の
神経機能検査(アドレナリン作動性/汗腺/心臓迷走
症状)が認められた。
神 経 機 能、Thermoregulatory Sweat Test[TST])を
結論:重度のアドレナリン作動性/汗腺機能不全を呈
受けており、その結果をもとに Composite Autonomic
する進行性の全般性自律神経機能不全が臨床表現型
Severity Score(CASS)を採点した。
結果:患者背景:男性 17 名、女性 12 名;発症年齢
と結びついた場合、高率で MSA が予測される。
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
までの報告とは対照的に、2 名の患者は発症が遅く、き
多様な病態を示す疾患群である。根本原因を特定でき
わめて軽度の表現型を示しており、40 代後半でなお歩
る患者は全体の約半数であり、原因に応じた治療を受
行可能であった。筋生検では脂質の蓄積、ミ
トコンドリア
けられる患者はきわめて少ない。
増殖、チロクロムcオキシダーゼ欠損を認めたが、赤色
方法:原因不明の劣性遺伝性または孤発性運動失調
ぼろ線維は検出されなかった。呼吸鎖酵素活性および
症を有する患者 22 名について、補酵素 Q10(CoQ10)
CoQ10 は重症例では減少していたが、46 歳の軽症患
が欠損する既知の遺伝子の配列解析を行った。
者 1 名では正常であった。
結果:CABC1/ADCK3 の遺伝子変異が小脳性運動失
結論:これらの知見は、CABC1/ADCK3 変異が原因
調、てんかん、および筋肉症状を呈する患者 4 名と同胞
の場合、重症の小児期発症型運動失調症だけでなく成
2 名に確認された。痙縮、ジストニー、振戦、片頭痛の
人期の軽度の小脳性運動失調患者でも治療の可能性
現れ方はさまざまであった。認知障害は幼児期の患者で
があり、そうしたケースを発見するスクリーニングの重要性
は重症であったが、成人患者にはみられなかった。これ
を示している。
Al Tassan N, Khalil D, Shinwari J, et al.
Human Mutation 2012;33(2):351-354.
性遺伝疾患で、SETX 遺伝子変異をもたない家系に関
感覚運動ニューロパチーに特徴づけられる多様な疾患
する研 究 である。この 家 系 の 遺 伝 子 座 は 染 色 体
の総称である。この一群の疾患の分子遺伝学的解析
17pl2-pl3 にマッピングされた。この領域に絞り込んで
から、重複する表現型に寄与するとみられるいくつかの
全遺伝子の配列決定を行ったところ、PIK3R5 に、正
遺伝子が同定された。眼球運動失行を伴う運動失調
常対照群の 477 名にはないホモ接合型ミスセンス変異
症 2 型(AOA2)は、SETX 遺伝子の変異に起因する
がみつかった。PIK3R5 蛋白質は小脳および小脳虫部
常染色体劣性遺伝性の運動失調症である。ここで報
の発達に関与していることが示唆される。
[総監修] 水澤 英洋
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 脳神経病態学 教授
[監修 / 執筆]西澤
正豊
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授
2
Pierson TM, Adams D, Bonn F, et al.
PLoS Genetics 2011;7(10):e1002325.
常染色体劣性運動失調症は、小脳萎縮と末梢性
2012. December
1
ミトコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
Whole-exome sequencing identifies homozygous AFG3L2 mutations
in a spastic ataxia-neuropathy syndrome linked to mitochondrial m-AAA proteases
A missense mutation in PIK3R5 gene in a family with ataxia and oculomotor apraxia
(203.6±112.7)だが、起立時増分は 33.5±23.2%減
妥当性は示されるのかを、後ろ向きに評価する。
目的:遺伝性運動失調症は小児にも成人にも発症し、
CONTENTS
11
の正確な発症機序を説明することは難しい。本研究で
Iodice V, Lipp A, Ahlskog JE, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(4):453-459.
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
Adult-onset cerebellar ataxia due to mutations in CABC1/ADCK3
かになった。ARSACS 患者の線維芽細胞ではミトコン
Autopsy confirmed multiple system atrophy cases:
Mayo experience and role of autonomic function tests
6
10
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失
るダイナミン関連蛋白 1との相互作用を示すことが明ら
7
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3 の凝集
告するのは、AOA2 の臨床的特徴を示す常染色体劣
下肢痙縮、末梢性ニューロパチー、眼瞼下垂、眼
症 28 型(SCA28)の原因となる。これは本研究の患者
球運動失行、ジストニー、小脳萎縮、進行性ミオクロー
とは表現型のまったく異なる疾患である。酵母相補性アッ
ヌス性てんかんの臨床的特徴を示す血縁の兄弟 2 名に
セイによると、AFG3L2Y616C 遺伝子産物は低形質変異
おける、早発性の痙性運動失調−ニューロパチー症候
体であり、酵母中でも患者の線維芽細胞中でもオリゴ
群について報告する。全エキソーム配列解析の結果、
マー形成能の低下を示した。特に AFG3L2Y616C 同士
m-AAAプロテアーゼの サブ ユ ニットをコードする
の複合体と、AFG3L2Y616Cとパラプレギンとの複合体
AFG3L2 に、ホモ接合型ミスセンス変異(c.1847G>A;
の形成不良が顕著であった。このことが、眼球運動失
p.Y616C)が検出された。m-AAAプロテアーゼはミトコ
行、錐体外路系の機能障害、ミオクローヌス性てんか
ンドリア内膜に存在して、損傷や折り畳み異常のある蛋
んなど の 他 の「ミトコンドリア性」の 病 態 に 加えて、
白質を除去する役目を担っており、ミトコンドリアの必須
SPG7、SCA28 の重症の表現型が複合する早発性の
蛋白質の分解活性を備えている。AFG3L2 はホモオリ
臨床症候群をもたらしたのである。本研究の知見により、
ゴマー、あるいは遺伝性痙性対麻痺 7 型(SPG7)で
AFG3L2 の変異が関係している表現型の範囲が拡が
変異を示す相同蛋白質のパラプレギンとのヘテロオリゴ
り、痙性運動失調の鑑別診断では AFG3L2 関連疾患
マー複合体を形成する。AFG3L2 に生じる機能喪失
を考慮に入れるべきであることが示唆された。
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:
シヌクレイノパチーの有力な治療標的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
4
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に影響する因子
5
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の無作為化試験
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)における
ミ
トコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
7
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
8
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3の凝集
9
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
10
11
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
ミ
トコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
型のヘテロ接合変異は、常染色体優性脊髄小脳失調
Update on SCD
Update on SCD
7
8
エルゼビアジャパン株式会社 /ELMCOM
CD--346A2012 年12月作成
Update on SCD
Selections From Current World Scientific Literature
Topics for this issue
1
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:シヌクレイノパチーの有力な治療標的
Suppression of dynamin GTPase decreases alpha-synuclein uptake by neuronal and
oligodendroglial cells: a potent therapeutic target for synucleinopathy
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授 西澤
があるものの、細胞外にあるαSYN が隣接する細胞に取り
2
込まれて凝集体の形成を促進することは間違いない。本研
究でαSYN の取り込み抑制効果を示したセルトラリン濃度
(10μM=3μg/mL)は、脳脊髄液内および脳内で抗うつ治
かった。
結 論
αSYN の細胞間移行の正確な機序にはまだ議論の余地
Konno M, Hasegawa T, Baba T, et al.
Molecular Neurodegeneration 2012;7(1):38. [Epub ahead of print]
Summary
MO3.13 の 3.8%に封入体が認められたが、培地にセルトラリ
ンを加えた場合はαSYN の取り込みが抑制された(*p<0.05)
(図 3)
。セルトラリンはドナーからのαSYN 分泌には影響しな
Selections From Current World Scientific Literature
と同程度である。
療効果を発揮するとされる濃度(2μg/mL)
実績ある薬剤の新たな効用を明らかにした本研究は、患者
に大きな利益をもたらすであろう。
正豊
である。こうした蛋白質が隣接する細胞へと拡がって、神経変性を伝播する可能性を示唆する知見が集積されている。本
研究は、培養した神経細胞/オリゴデンドログリアに、外因性のα-シヌクイレンがダイナミンGTPaseを介するエンドサイ
トーシスによって取り込まれ、凝集して高分子オリゴマーとなり、シヌクレイノパチーに特徴的な細胞内封入体を形成しうる
ことを示した。選択的セロトニン再取り込み阻害薬のセルトラリンは、強力なダイナミン阻害作用があり、神経変性の伝播
の予防に有効であると期待される。
蛋白/p25α
(TPPP/p25α)
と共局在した。封入体をもつ細
胞は時間とともに増加した。
取り込まれたαSYN の分解にリソソーム系が果たす役割
ヌクレイノパチー」
と総称される神経変性疾患にみられるレ
を確認するため、SH-SY5Y 細胞を 5μM αSYNとともに、
ビー小体(LB)やグリア細胞質内封入体(GCI)には、折り
液胞型 H+ ATPase 阻害剤バフィロマイシン A1(0∼5 nM)
畳み異常のあるα- シヌクイレン(αSYN)蛋白の凝集体が
で処理してリソソームの働きを阻害したところ、オートファジー
存在し、神経変性に寄与している。
αSYN の生理的・病理
が妨げられ、親水性分画への高分子量αSYN オリゴマー
学的作用は細胞内に限定されると考えられてきたが、最近
の蓄積量が増加した。
のエビデンスからは、単量体およびオリゴマー状のαSYN
抗うつ剤として広く用いられる選択的セロトニン再取り込み
が細胞外へ分泌され、隣接細胞にも影響を及ぼすことが示
阻害薬のセルトラリンは、既知のダイナミンGTPase 阻害薬
唆されている。このプロセスを理解するには、
αSYN の取り
の中では、ダイナミン1、2 の両者に対して最も強力に作用
込みと分泌の機序を明らかにする必要がある。本稿の知見
する。このセルトラリンで SH-SY5Y および KG1Cを処理し
は、
αSYN の細胞間伝播がもたらす神経変性の進行を防ぐ
(濃度 0∼10μM、30 分間)、ダイナミンを薬理学的に破壊
治療戦略の確立につながるものである。
方法と結果
外因性のαSYN が細胞内に取り込まれてオリゴマーを形成
することを確認するため、ヒトSH-SY5Y 神経 細胞および
図 2 ダイナミン GTPase 阻害で神経細胞/オリゴデンドログリアへのα- シヌクレイン取り込みは減少する
KG1C オリゴデンドログリア細胞を5μMのαSYNに曝露し
た。また、SH-SY5Yを 0∼10μM の 組み換えαSYN に 24
れた。
時間曝露した。細胞内分画および免疫ブロット法の結果、主
セルトラリンがαSYN の細胞間伝播を阻害するかどうかを
に親水性分画へのαSYNの取り込みとオリゴマー形成が認
調べるために、N 末端を mCherry で標識したαSYNを過
γSYNは取り込まれなかった。
められた(図1)
。βSYN、
と、高感度緑色蛍光蛋白
剰発現するSH-SY5Y(ドナー)
αSYN に曝露した細胞には、免疫細胞化学的にユビキ
質(EGFP)を 安 定 発 現 す る PC12 神 経 細 胞 および
(SCA)36 型は運動ニューロン徴候を示す新しい型の
は 400 名を超えている。本報では、不安定な異常眼
目的:治療的試験のために疾患の進行について評価
球運動や感音難聴などの晩期発症・緩徐進行性の小
SCAとして報告された。原因は、NOP56 のイントロン1
に存在するGGCCTGリピート伸長である。家族への面
接と文献調査を通じ、17 世紀に 1 つの村(スペイン、
脳症候群からなる詳細な臨床像を記述する。舌の脱神
ガリシア州コスタダモルテ)から発祥して世代を重ねて拡
外に古典的筋萎縮性側索硬化症の徴候は認められな
大してきた 2 つの大家系を復元することができた。これ
かった。MRI 所見は臨床経過と一致しており、初期に
らの家系では、以前染色体 20p に約 0.8Mb の連鎖領
みられる小脳虫部の萎縮が、後にオリーブ橋小脳萎縮
域 が同 定されているが、今 回、疾 患と共 分 離する
のパターンへ進展した。ガリシアにおける創始者変異の
経徴候や、軽度の錐体路徴候はみられたが、それ以
SCA36 変異がみつかった。その後のスクリーニングで、
起源は約 1275 年前にあったと推定される。SCAを有
この NOP56 の伸長が、失調症がみられるガリシアの別
するガリシアの 160 家 系中 10 家 系(6.3%)に SCA36
の 8 家系にも確認された。通常の対立遺伝子に含まれ
があり、15 家 系(9.4%)には通 常 の 優 性 遺 伝 性 の
る6 塩基リピートは 5∼14 個であるのに対し、異常伸長
したアリルでは約 650∼2,500ものリピートを、共通の 1
SCA が認められた。SCA36 はこのように、現時点でこ
の地域で最も頻発する優性遺伝性 SCA であり、伝統
つのハプロタイプ内に含んでいる。リピートサイズの拡大
的にスペインからの移住が多いアメリカ大陸諸国にも無
は、特に父方から受け継ぐ場合に高頻度で起こるが、
縁ではない疾患といえる。
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
Network correlates of disease severity in multiple system atrophy
Poston KL, Tang CC, Eckert T, et al.
Neurology 2012;78(16):1237-1244.
図 3 セルトラリンは共培養モデルでα- シヌクレインの神経細胞間/神経細胞−オリゴデンドログリア間移行を阻害する
調節するエンドサイトーシス経路を介して行われることが示さ
たのは、SCA2 に変異があり、対立遺伝子が正常(リピー
デザイン:前向きコホート研究(36 ヵ月)。
ト数 22 以下)の患者(p=0.02)、および SCA3 に変異
セッティング:レフェラルセンター。
があり、ベースラインにパーキンソニズムおよび/または
患者:常染色体優性小脳性運動失調症の患者 162
ジストニーがある患者(p=0.003)であった。CCFSw で
名、遺伝性痙性対麻痺の患者 64 名。
は運 動 失 調 患 者と痙 縮 患 者に差が出たのに対し、
主 要 評 価 項 目:書 字 検 査 付き定 量 的 Composite
者は悪 化し(CCFSw の年 間 増 加 幅の平 均[SE]は
SARA スコアは両方のグループで増加した。SARA ス
コアを基準として 2 群を比較する試験の場合、疾患進
行の 50%抑制を検出するために必要な症例数は 1 群に
つき、SCA2 57 名、SCA1 70 名、SCA3 75 名である
(検
出力 80%;α=0.05)。
結論:ポリグルタミンが伸長した SCA1、2、3 患者は、
+0.014[0.005]∼+0.025[0.004])、SPG4 患者は改
それ以外の患者に比べて速く進行する。いずれの測定
善した(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]は−0.012
基準も治療試験の評価項目に適している。同じ検出力
[0.003]
;p=0.02)。さらに SCA6、SCA7、その他の
を得るのに必要な症例数は SARA の方が少ないが、
、お よ
Cerebellar Functional Severity Score(CCFSw)
(SARA)スコア。
結果:脊髄小脳失調症(SCA)1、SCA2、SCA3 患
SCA 患者は安定(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]
は−0.015[0.011]∼+0.009[0.013])であり、その他
の SPG 患 者も安 定(CCFSw の 年 間 増 加 幅 の 平 均
5
[SE]は−0.005[0.005])であった。進行がより速かっ
し、臨床ツールの妥当性を判定する。
び Scale for the Assessment and Rating of Ataxia
この変異を有する個人は全部で 63 名発見され、そのう
依存的に減少した(図2)。また、SH-SY5Y では、ドミナ
siRNAを用いてダイナミン1を阻害すると、
αSYN 取り込み
が減少した。つまり、
αSYN の細胞内移行は、ダイナミンが
ち 44 名には臨床的影響が確認された。リスクがある者
Tezenas du Montcel S, Charles P, Goizet C, et al.
Archives of Neurology 2012;69(4):500-508.
母方からの場合は、リピートはむしろ縮小することもある。
すると、
αSYN 単量体/オリゴマーの細胞内蓄積量は用量
ントネガティブ 変 異 体 の K44Aダイナミン 1 により、また
最近、日本人の家系において、脊髄小脳失調症
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に
影響する因子
Factors influencing disease progression in autosomal dominant cerebellar ataxia and
spastic paraplegia
García-Murias M, Quintáns B, Arias M, et al.
Brain 2012;135(Pt 5):1423-1435.
図1 細胞外α-SYN は神経細胞/オリゴデンドログリアに取り込まれ、オリゴマーを形成する
パーキンソン病(PD)や多系統萎縮症(MSA)など、「シ
4
‘Costa da Morte’ ataxia is spinocerebellar ataxia 36: clinical and genetic characterization
α-シヌクイレンなど、折り畳みに異常がある蛋白質の細胞内沈着は、多くの神経変性疾患に共通する神経病理学的特徴
背景および目的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
層別化は CCFSw の方が少なくて済む。神経変性疾患
の進行を確実に評価するには、臨床評価項目の選択
が重要であることが示された。
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の
無作為化試験
A randomized trial of varenicline (Chantix) for the treatment of spinocerebellar ataxia type 3
Zesiewicz TA, Greenstein PE, Sullivan KL, et al.
Neurology 2012;78(8):545-550.
目的:多系統萎縮症(MSA)は最も一般的な非定型
結果:MSA 群では、MSARP 値が対照群、PD 群に
目的:無作為化二重盲検プラセボ対照試験により、
た。エンドポイント時にプラセボと比較して、バレニクリン
パーキンソン症候群であり、患者の安静状態の脳代謝
比 べ て 高 か った(い ず れもp<0.001)
。MSA 群 の
ニューロンに局在するα4β2 ニコチン性アセチルコリン受
投与患者で改善が認められたのは、SARA の歩行
容体の部分アゴニストで、禁煙補助薬として使用される
(p=0.04)、立位(p=0.03)、手の回内・回外運動(p
バレ ニ クリン(Chantix)の 脊 髄 小 脳 失 調 症 3 型
=0.003)の各 項目、そして 25フィート歩 行 時 間(p=
画像に、異常な空間共分散パターンが認められるという
MSARP 値は運動能力障害(r=0.57、p=0.0008)お
特徴がある。しかし、このパターンをMSA のバイオマー
よび罹病期間(r=−0.376、p=0.03)の臨床的レーティ
カーとして利用するためには、それが MSA に特異的で
ングと相関していた。一方、PD 群におけるMSARP の
あり、個々の患者の臨床的能力障害と相関することを
発現は対照群と差がなかった(p=1.0)
。PD 群の運動
方法:遺伝子診断でSCA3 が確認された患者を、バレニ
示す必要がある。
症状レーティングは PDRPとの相関を示した(r=0.60、
クリン投与群(4 週間の漸増期間後、1mgを1日2 回 4 週
方 法:[ F]フッ化デオキシグルコース PETを用 い、
p=0.006)が、MSARP 値とは 相 関しなかった(p=
0.88)。
結論:MSA では特異的な疾患関連代謝パターンの発
現が増大する。さらに、MSA 患者間でのこのパターン
間)
またはプラセボ群に無作為に割り付けた。評価項目は、
and Rating of Ataxia(SARA)スコアのベースラインから
回外運動を有意に改善させ、忍容性はきわめて良好で
の変化量、25フィート歩行および 9 穴ペグの計測値、気
あることが示された。
18
MSA 患者 33 名と、年齢と重症度が一致する特発性
パーキンソン病(PD)患者 20 名、そして健常被験者
(SCA3)患者における有効性を評価した。
エンドポイント
(8 週 間 後)の Scale for the Assessment
0.05)および Beck Depression Inventory スコ ア(p=
0.03)であり、バレニクリン群では SARA 総合スコア(p
=0.06)
も改善される傾向がみられた。
結論:この対照試験で、バレニクリンは、SARA サブ
スコアで測定するSCA3 患者の体軸症状および回内・
チン陽性・チオフラビン S 陽性の凝集体が検出された。核
MO3.13 オリゴデンドログリア(アクセプター)を、10μM セル
15 名の検査を行った。各被験者について、あらかじめ
特性解析済みの MSA および PD の代謝共分散パター
ン(それぞれ MSARP、PDRPと呼ぶ)の発現状況をコ
周囲の大きい封入体には、LB や GCI でみられるセリン129
トラリンの存在下/非存在下で共培養し、mCherryフルオ
ンピュータで評価する前向き単一症例研究を実施した。
リン酸化αSYN が認められた。KG1C の細胞内封入体は、
ロフォアでαSYNを追跡した。72 時間の培養後、アクセプ
得られた各患者のネットワーク値には、臨床的運動症
を本試験に登録し、期間 1 では 18 名のデータを解析し
外運動以外の四肢機能は改善されないことを示すクラ
MSA におけるGCI のマーカーであるチューブリン重合促進
ター細胞へのαSYN の移行が確認され、PC12 の 4.2%、
状レーティングおよび罹病期間との相関が認められた。
た。最も多く発生したバレニクリンの副作用は悪心であっ
スⅡのエビデンスが得られた。
2
Update on SCD
Update on SCD
3
4
Update on SCD
の発現の差は、臨床的能力障害の程度と相関する。
分と不安の測定値、有害事象などとした。
エビデンスの分類:遺伝子診断で SCA3 が確認され
これらの知見は、MSA の新規療法の試験で MSARP
結果:SCA3 患者 20 名(平均年齢=51±10.98 歳;平均
た成人患者にバレニクリンを投与すると、歩行、立位、
が有用なバイオマーカーとなりうることを示唆している。
罹病期間=14±9.82 年;平均 SARAスコア=16.13±4.67)
25フィート歩行時間は改善されるが、素早い回内・回
Update on SCD
5
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)に
おけるミトコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
8
Mitochondrial dysfunction and Purkinje cell loss in autosomal recessive spastic ataxia of
Charlevoix-Saguenay (ARSACS)
Excitation-induced ataxin-3 aggregation in neurons from patients with
Machado-Joseph disease
Girard M, Larivière R, Parfitt DA, et al.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2012;109(5):1661-1666.
Koch P, Breuer P, Peitz M, et al.
Nature 2011;480(7378):543-546.
Horvath R, Czermin B, Gulati S, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(2):174-178.
Machado-Joseph 病(MJD;脊髄小脳失調症 3 型と
は、Lグルタミン酸が患者特異的な人工多能性幹細胞
調症(ARSACS)は小児期に発症する神経疾患で、
ドリア・ネットワークに融合の亢進がみられ、このことはミ
も呼ぶ)は、優性遺伝性の遅発性神経変性症の一種
(iPSC)由来ニューロンの興奮を誘導し、その結果、
その原因は、機能不詳の 4,579-aa 蛋白質であるサク
トコンドリアの分裂が減少することと符合する。サクシン
シンをコードするSACS 遺伝子の変異である。創始者疾
がノックダウンされると、ミ
トコンドリア・ネットワークは内部
であり、MJD1 遺伝子(別名 ATXN3)においてポリグル
ATXN3 が Ca2+ 依存性に分解されて、SDS 不溶性の
タミン(polyQ)をコードするCAGリピートの伸長によって
凝集体が形成されることを明らかにした。この表現型は
引き起こされる。きわめて凝 集しやすい性 質をもつ
蛋白質分解酵素カルパインを阻害すると消失したため、
polyQ 断 片 が、MJD1 遺 伝 子 産 物 アタキ シン 3
ATXN3 凝集にはカルパインが重要な役割を果たすこと
(ATXN3)から蛋白分解されて遊離すると、ATXN3を
が確認できた。さらに、凝集体形成は機能的 Na+ およ
含む凝集体の形成が誘導されると考えられている。こ
び K+ チャネル、リガンド開口性および電位開口性 Ca2+
患としてケベックで最初に確認された ARSACS は、今
の融合が過度に進んで機能低下に陥り、サクシンを抑
では世界的に確認されている。著明な特徴としては、
制されたニューロンの細胞体や近位樹状突起にミ
トコン
錐体路徴候、小脳性運動失調などがあるが、根底に
ドリアが蓄積する。樹状突起内へのミ
トコンドリア輸送が
ある病理や病態生理学的機序はわかっていない。我々
阻害されると、樹状突起が異常な形態を呈することが
が作製した ARSACS モデルのサクシン・ノックアウトマウ
わかっている。ノックアウトマウスの小脳ではプルキンエ
スは、小脳プルキンエ細胞の神経変性を年齢依存的
細胞死に先行して、樹状突起野の著しい再編が起きて
の凝集体は MJD の顕著な神経病理学的特徴である。
チャネルにも依存し、iPSC、線維芽細胞、グリア細胞
に発現する。この観察所見の病態生理学的根拠を探
いるのが観察された。本研究は、ミトコンドリアの機能
MJD 患者や、変異ヒトATXN3(Q71)を発現するトラ
には検出されなかった。このことによって、MJD のニュー
るために、サクシンの細胞生物学的特性を検討した。
障害/局在不全は ARSACS の細胞レベルの病因とな
サクシンは非ニューロン細胞および一次ニューロンのミ
ト
る可能性が高いこと、サクシンにはミトコンドリアの動態
ンスジェニックマウスの脳組織からは ATXN3 断片が検
ロン特異的な表現型が説明できる。本研究は、遅発
コンドリアに局在しており、ミ
トコンドリアの分裂に関与す
を調節する役割があることを示唆している。
出され、その 量 は 重 症 であるほど 多 いことから、
性神経変性にかかわる異所性蛋白プロセシングに関す
ATXN3 のプロセシングと疾患進行の関連性が支持さ
る患者特異的なニューロンを用いた研究が、iPSC によっ
れる。凝集早期の中間体の形成は疾患の始まりに重要
て可能になることを示している。
な役割を果たすと考えられているが、依然として MJD
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
9
背景:多系統萎縮症(MSA)は孤発性の進行性神経
目的:剖検で確定した MSA 症例における疾患の特性
57±8.1 歳;死亡までの罹病期間 6.5±3.3 年;最初の
症状は自律神経障害 18 名、パーキンソニズム7 名、
小脳性運動失調 2 名。初回来診時の臨床表現型は
MSA-P(パーキンソニズム優 勢)18 名、MSA-C(小
脳性症状優勢)8 名、純粋な自律神経機能不全 2 名、
パーキンソン病 1 名。最終受診時の臨床診断は MSA
が 28 名。自律神経機能不全は重度で、CASS 7.2±2.3
点(最 高 スコアは 10 点)
。TST%は 65.6±33.9% で、
82%の患者で 30%を上回り、最も多いパターンは全身
評価は正確か、また、剖検を通じて MSA 診断基準の
性無汗症であった。ノルエピネフリンは仰臥位では正常
変性疾患である。起立性低血圧や排尿・性機能障害
として発現する自律神経機能不全を特徴とし、レボドパ
に応答しにくいパーキンソニズム、小脳性運動失調、
皮質脊髄路障害などが同時にみられる。これまでに公
表された剖検による確定診断例は、MSA の神経学的
特性をよく示しているが、適切な自律神経機能検査は
行われていなかった。
方法:本研究は Mayo Clinic の剖検で MSAと確定さ
少した。共通する4 つの臨床的特徴(急速な進行、早
れた 29 症例を対象とした。これらの症例は各種の自律
期の姿勢不安定、レボドパへの応答不良、対称性の
神経機能検査(アドレナリン作動性/汗腺/心臓迷走
症状)が認められた。
神 経 機 能、Thermoregulatory Sweat Test[TST])を
結論:重度のアドレナリン作動性/汗腺機能不全を呈
受けており、その結果をもとに Composite Autonomic
する進行性の全般性自律神経機能不全が臨床表現型
Severity Score(CASS)を採点した。
結果:患者背景:男性 17 名、女性 12 名;発症年齢
と結びついた場合、高率で MSA が予測される。
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
までの報告とは対照的に、2 名の患者は発症が遅く、き
多様な病態を示す疾患群である。根本原因を特定でき
わめて軽度の表現型を示しており、40 代後半でなお歩
る患者は全体の約半数であり、原因に応じた治療を受
行可能であった。筋生検では脂質の蓄積、ミ
トコンドリア
けられる患者はきわめて少ない。
増殖、チロクロムcオキシダーゼ欠損を認めたが、赤色
方法:原因不明の劣性遺伝性または孤発性運動失調
ぼろ線維は検出されなかった。呼吸鎖酵素活性および
症を有する患者 22 名について、補酵素 Q10(CoQ10)
CoQ10 は重症例では減少していたが、46 歳の軽症患
が欠損する既知の遺伝子の配列解析を行った。
者 1 名では正常であった。
結果:CABC1/ADCK3 の遺伝子変異が小脳性運動失
結論:これらの知見は、CABC1/ADCK3 変異が原因
調、てんかん、および筋肉症状を呈する患者 4 名と同胞
の場合、重症の小児期発症型運動失調症だけでなく成
2 名に確認された。痙縮、ジストニー、振戦、片頭痛の
人期の軽度の小脳性運動失調患者でも治療の可能性
現れ方はさまざまであった。認知障害は幼児期の患者で
があり、そうしたケースを発見するスクリーニングの重要性
は重症であったが、成人患者にはみられなかった。これ
を示している。
Al Tassan N, Khalil D, Shinwari J, et al.
Human Mutation 2012;33(2):351-354.
性遺伝疾患で、SETX 遺伝子変異をもたない家系に関
感覚運動ニューロパチーに特徴づけられる多様な疾患
する研 究 である。この 家 系 の 遺 伝 子 座 は 染 色 体
の総称である。この一群の疾患の分子遺伝学的解析
17pl2-pl3 にマッピングされた。この領域に絞り込んで
から、重複する表現型に寄与するとみられるいくつかの
全遺伝子の配列決定を行ったところ、PIK3R5 に、正
遺伝子が同定された。眼球運動失行を伴う運動失調
常対照群の 477 名にはないホモ接合型ミスセンス変異
症 2 型(AOA2)は、SETX 遺伝子の変異に起因する
がみつかった。PIK3R5 蛋白質は小脳および小脳虫部
常染色体劣性遺伝性の運動失調症である。ここで報
の発達に関与していることが示唆される。
[総監修] 水澤 英洋
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 脳神経病態学 教授
[監修 / 執筆]西澤
正豊
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授
2
Pierson TM, Adams D, Bonn F, et al.
PLoS Genetics 2011;7(10):e1002325.
常染色体劣性運動失調症は、小脳萎縮と末梢性
2012. December
1
ミトコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
Whole-exome sequencing identifies homozygous AFG3L2 mutations
in a spastic ataxia-neuropathy syndrome linked to mitochondrial m-AAA proteases
A missense mutation in PIK3R5 gene in a family with ataxia and oculomotor apraxia
(203.6±112.7)だが、起立時増分は 33.5±23.2%減
妥当性は示されるのかを、後ろ向きに評価する。
目的:遺伝性運動失調症は小児にも成人にも発症し、
CONTENTS
11
の正確な発症機序を説明することは難しい。本研究で
Iodice V, Lipp A, Ahlskog JE, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(4):453-459.
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
Adult-onset cerebellar ataxia due to mutations in CABC1/ADCK3
かになった。ARSACS 患者の線維芽細胞ではミトコン
Autopsy confirmed multiple system atrophy cases:
Mayo experience and role of autonomic function tests
6
10
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失
るダイナミン関連蛋白 1との相互作用を示すことが明ら
7
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3 の凝集
告するのは、AOA2 の臨床的特徴を示す常染色体劣
下肢痙縮、末梢性ニューロパチー、眼瞼下垂、眼
症 28 型(SCA28)の原因となる。これは本研究の患者
球運動失行、ジストニー、小脳萎縮、進行性ミオクロー
とは表現型のまったく異なる疾患である。酵母相補性アッ
ヌス性てんかんの臨床的特徴を示す血縁の兄弟 2 名に
セイによると、AFG3L2Y616C 遺伝子産物は低形質変異
おける、早発性の痙性運動失調−ニューロパチー症候
体であり、酵母中でも患者の線維芽細胞中でもオリゴ
群について報告する。全エキソーム配列解析の結果、
マー形成能の低下を示した。特に AFG3L2Y616C 同士
m-AAAプロテアーゼの サブ ユ ニットをコードする
の複合体と、AFG3L2Y616Cとパラプレギンとの複合体
AFG3L2 に、ホモ接合型ミスセンス変異(c.1847G>A;
の形成不良が顕著であった。このことが、眼球運動失
p.Y616C)が検出された。m-AAAプロテアーゼはミトコ
行、錐体外路系の機能障害、ミオクローヌス性てんか
ンドリア内膜に存在して、損傷や折り畳み異常のある蛋
んなど の 他 の「ミトコンドリア性」の 病 態 に 加えて、
白質を除去する役目を担っており、ミトコンドリアの必須
SPG7、SCA28 の重症の表現型が複合する早発性の
蛋白質の分解活性を備えている。AFG3L2 はホモオリ
臨床症候群をもたらしたのである。本研究の知見により、
ゴマー、あるいは遺伝性痙性対麻痺 7 型(SPG7)で
AFG3L2 の変異が関係している表現型の範囲が拡が
変異を示す相同蛋白質のパラプレギンとのヘテロオリゴ
り、痙性運動失調の鑑別診断では AFG3L2 関連疾患
マー複合体を形成する。AFG3L2 に生じる機能喪失
を考慮に入れるべきであることが示唆された。
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:
シヌクレイノパチーの有力な治療標的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
4
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に影響する因子
5
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の無作為化試験
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)における
ミ
トコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
7
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
8
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3の凝集
9
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
10
11
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
ミ
トコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
型のヘテロ接合変異は、常染色体優性脊髄小脳失調
Update on SCD
Update on SCD
7
8
エルゼビアジャパン株式会社 /ELMCOM
CD--346A2012 年12月作成
Update on SCD
Selections From Current World Scientific Literature
Topics for this issue
1
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:シヌクレイノパチーの有力な治療標的
Suppression of dynamin GTPase decreases alpha-synuclein uptake by neuronal and
oligodendroglial cells: a potent therapeutic target for synucleinopathy
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授 西澤
があるものの、細胞外にあるαSYN が隣接する細胞に取り
2
込まれて凝集体の形成を促進することは間違いない。本研
究でαSYN の取り込み抑制効果を示したセルトラリン濃度
(10μM=3μg/mL)は、脳脊髄液内および脳内で抗うつ治
かった。
結 論
αSYN の細胞間移行の正確な機序にはまだ議論の余地
Konno M, Hasegawa T, Baba T, et al.
Molecular Neurodegeneration 2012;7(1):38. [Epub ahead of print]
Summary
MO3.13 の 3.8%に封入体が認められたが、培地にセルトラリ
ンを加えた場合はαSYN の取り込みが抑制された(*p<0.05)
(図 3)
。セルトラリンはドナーからのαSYN 分泌には影響しな
Selections From Current World Scientific Literature
と同程度である。
療効果を発揮するとされる濃度(2μg/mL)
実績ある薬剤の新たな効用を明らかにした本研究は、患者
に大きな利益をもたらすであろう。
正豊
である。こうした蛋白質が隣接する細胞へと拡がって、神経変性を伝播する可能性を示唆する知見が集積されている。本
研究は、培養した神経細胞/オリゴデンドログリアに、外因性のα-シヌクイレンがダイナミンGTPaseを介するエンドサイ
トーシスによって取り込まれ、凝集して高分子オリゴマーとなり、シヌクレイノパチーに特徴的な細胞内封入体を形成しうる
ことを示した。選択的セロトニン再取り込み阻害薬のセルトラリンは、強力なダイナミン阻害作用があり、神経変性の伝播
の予防に有効であると期待される。
蛋白/p25α
(TPPP/p25α)
と共局在した。封入体をもつ細
胞は時間とともに増加した。
取り込まれたαSYN の分解にリソソーム系が果たす役割
ヌクレイノパチー」
と総称される神経変性疾患にみられるレ
を確認するため、SH-SY5Y 細胞を 5μM αSYNとともに、
ビー小体(LB)やグリア細胞質内封入体(GCI)には、折り
液胞型 H+ ATPase 阻害剤バフィロマイシン A1(0∼5 nM)
畳み異常のあるα- シヌクイレン(αSYN)蛋白の凝集体が
で処理してリソソームの働きを阻害したところ、オートファジー
存在し、神経変性に寄与している。
αSYN の生理的・病理
が妨げられ、親水性分画への高分子量αSYN オリゴマー
学的作用は細胞内に限定されると考えられてきたが、最近
の蓄積量が増加した。
のエビデンスからは、単量体およびオリゴマー状のαSYN
抗うつ剤として広く用いられる選択的セロトニン再取り込み
が細胞外へ分泌され、隣接細胞にも影響を及ぼすことが示
阻害薬のセルトラリンは、既知のダイナミンGTPase 阻害薬
唆されている。このプロセスを理解するには、
αSYN の取り
の中では、ダイナミン1、2 の両者に対して最も強力に作用
込みと分泌の機序を明らかにする必要がある。本稿の知見
する。このセルトラリンで SH-SY5Y および KG1Cを処理し
は、
αSYN の細胞間伝播がもたらす神経変性の進行を防ぐ
(濃度 0∼10μM、30 分間)、ダイナミンを薬理学的に破壊
治療戦略の確立につながるものである。
方法と結果
外因性のαSYN が細胞内に取り込まれてオリゴマーを形成
することを確認するため、ヒトSH-SY5Y 神経 細胞および
図 2 ダイナミン GTPase 阻害で神経細胞/オリゴデンドログリアへのα- シヌクレイン取り込みは減少する
KG1C オリゴデンドログリア細胞を5μMのαSYNに曝露し
た。また、SH-SY5Yを 0∼10μM の 組み換えαSYN に 24
れた。
時間曝露した。細胞内分画および免疫ブロット法の結果、主
セルトラリンがαSYN の細胞間伝播を阻害するかどうかを
に親水性分画へのαSYNの取り込みとオリゴマー形成が認
調べるために、N 末端を mCherry で標識したαSYNを過
γSYNは取り込まれなかった。
められた(図1)
。βSYN、
と、高感度緑色蛍光蛋白
剰発現するSH-SY5Y(ドナー)
αSYN に曝露した細胞には、免疫細胞化学的にユビキ
質(EGFP)を 安 定 発 現 す る PC12 神 経 細 胞 および
(SCA)36 型は運動ニューロン徴候を示す新しい型の
は 400 名を超えている。本報では、不安定な異常眼
目的:治療的試験のために疾患の進行について評価
球運動や感音難聴などの晩期発症・緩徐進行性の小
SCAとして報告された。原因は、NOP56 のイントロン1
に存在するGGCCTGリピート伸長である。家族への面
接と文献調査を通じ、17 世紀に 1 つの村(スペイン、
脳症候群からなる詳細な臨床像を記述する。舌の脱神
ガリシア州コスタダモルテ)から発祥して世代を重ねて拡
外に古典的筋萎縮性側索硬化症の徴候は認められな
大してきた 2 つの大家系を復元することができた。これ
かった。MRI 所見は臨床経過と一致しており、初期に
らの家系では、以前染色体 20p に約 0.8Mb の連鎖領
みられる小脳虫部の萎縮が、後にオリーブ橋小脳萎縮
域 が同 定されているが、今 回、疾 患と共 分 離する
のパターンへ進展した。ガリシアにおける創始者変異の
経徴候や、軽度の錐体路徴候はみられたが、それ以
SCA36 変異がみつかった。その後のスクリーニングで、
起源は約 1275 年前にあったと推定される。SCAを有
この NOP56 の伸長が、失調症がみられるガリシアの別
するガリシアの 160 家 系中 10 家 系(6.3%)に SCA36
の 8 家系にも確認された。通常の対立遺伝子に含まれ
があり、15 家 系(9.4%)には通 常 の 優 性 遺 伝 性 の
る6 塩基リピートは 5∼14 個であるのに対し、異常伸長
したアリルでは約 650∼2,500ものリピートを、共通の 1
SCA が認められた。SCA36 はこのように、現時点でこ
の地域で最も頻発する優性遺伝性 SCA であり、伝統
つのハプロタイプ内に含んでいる。リピートサイズの拡大
的にスペインからの移住が多いアメリカ大陸諸国にも無
は、特に父方から受け継ぐ場合に高頻度で起こるが、
縁ではない疾患といえる。
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
Network correlates of disease severity in multiple system atrophy
Poston KL, Tang CC, Eckert T, et al.
Neurology 2012;78(16):1237-1244.
図 3 セルトラリンは共培養モデルでα- シヌクレインの神経細胞間/神経細胞−オリゴデンドログリア間移行を阻害する
調節するエンドサイトーシス経路を介して行われることが示さ
たのは、SCA2 に変異があり、対立遺伝子が正常(リピー
デザイン:前向きコホート研究(36 ヵ月)。
ト数 22 以下)の患者(p=0.02)、および SCA3 に変異
セッティング:レフェラルセンター。
があり、ベースラインにパーキンソニズムおよび/または
患者:常染色体優性小脳性運動失調症の患者 162
ジストニーがある患者(p=0.003)であった。CCFSw で
名、遺伝性痙性対麻痺の患者 64 名。
は運 動 失 調 患 者と痙 縮 患 者に差が出たのに対し、
主 要 評 価 項 目:書 字 検 査 付き定 量 的 Composite
者は悪 化し(CCFSw の年 間 増 加 幅の平 均[SE]は
SARA スコアは両方のグループで増加した。SARA ス
コアを基準として 2 群を比較する試験の場合、疾患進
行の 50%抑制を検出するために必要な症例数は 1 群に
つき、SCA2 57 名、SCA1 70 名、SCA3 75 名である
(検
出力 80%;α=0.05)。
結論:ポリグルタミンが伸長した SCA1、2、3 患者は、
+0.014[0.005]∼+0.025[0.004])、SPG4 患者は改
それ以外の患者に比べて速く進行する。いずれの測定
善した(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]は−0.012
基準も治療試験の評価項目に適している。同じ検出力
[0.003]
;p=0.02)。さらに SCA6、SCA7、その他の
を得るのに必要な症例数は SARA の方が少ないが、
、お よ
Cerebellar Functional Severity Score(CCFSw)
(SARA)スコア。
結果:脊髄小脳失調症(SCA)1、SCA2、SCA3 患
SCA 患者は安定(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]
は−0.015[0.011]∼+0.009[0.013])であり、その他
の SPG 患 者も安 定(CCFSw の 年 間 増 加 幅 の 平 均
5
[SE]は−0.005[0.005])であった。進行がより速かっ
し、臨床ツールの妥当性を判定する。
び Scale for the Assessment and Rating of Ataxia
この変異を有する個人は全部で 63 名発見され、そのう
依存的に減少した(図2)。また、SH-SY5Y では、ドミナ
siRNAを用いてダイナミン1を阻害すると、
αSYN 取り込み
が減少した。つまり、
αSYN の細胞内移行は、ダイナミンが
ち 44 名には臨床的影響が確認された。リスクがある者
Tezenas du Montcel S, Charles P, Goizet C, et al.
Archives of Neurology 2012;69(4):500-508.
母方からの場合は、リピートはむしろ縮小することもある。
すると、
αSYN 単量体/オリゴマーの細胞内蓄積量は用量
ントネガティブ 変 異 体 の K44Aダイナミン 1 により、また
最近、日本人の家系において、脊髄小脳失調症
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に
影響する因子
Factors influencing disease progression in autosomal dominant cerebellar ataxia and
spastic paraplegia
García-Murias M, Quintáns B, Arias M, et al.
Brain 2012;135(Pt 5):1423-1435.
図1 細胞外α-SYN は神経細胞/オリゴデンドログリアに取り込まれ、オリゴマーを形成する
パーキンソン病(PD)や多系統萎縮症(MSA)など、「シ
4
‘Costa da Morte’ ataxia is spinocerebellar ataxia 36: clinical and genetic characterization
α-シヌクイレンなど、折り畳みに異常がある蛋白質の細胞内沈着は、多くの神経変性疾患に共通する神経病理学的特徴
背景および目的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
層別化は CCFSw の方が少なくて済む。神経変性疾患
の進行を確実に評価するには、臨床評価項目の選択
が重要であることが示された。
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の
無作為化試験
A randomized trial of varenicline (Chantix) for the treatment of spinocerebellar ataxia type 3
Zesiewicz TA, Greenstein PE, Sullivan KL, et al.
Neurology 2012;78(8):545-550.
目的:多系統萎縮症(MSA)は最も一般的な非定型
結果:MSA 群では、MSARP 値が対照群、PD 群に
目的:無作為化二重盲検プラセボ対照試験により、
た。エンドポイント時にプラセボと比較して、バレニクリン
パーキンソン症候群であり、患者の安静状態の脳代謝
比 べ て 高 か った(い ず れもp<0.001)
。MSA 群 の
ニューロンに局在するα4β2 ニコチン性アセチルコリン受
投与患者で改善が認められたのは、SARA の歩行
容体の部分アゴニストで、禁煙補助薬として使用される
(p=0.04)、立位(p=0.03)、手の回内・回外運動(p
バレ ニ クリン(Chantix)の 脊 髄 小 脳 失 調 症 3 型
=0.003)の各 項目、そして 25フィート歩 行 時 間(p=
画像に、異常な空間共分散パターンが認められるという
MSARP 値は運動能力障害(r=0.57、p=0.0008)お
特徴がある。しかし、このパターンをMSA のバイオマー
よび罹病期間(r=−0.376、p=0.03)の臨床的レーティ
カーとして利用するためには、それが MSA に特異的で
ングと相関していた。一方、PD 群におけるMSARP の
あり、個々の患者の臨床的能力障害と相関することを
発現は対照群と差がなかった(p=1.0)
。PD 群の運動
方法:遺伝子診断でSCA3 が確認された患者を、バレニ
示す必要がある。
症状レーティングは PDRPとの相関を示した(r=0.60、
クリン投与群(4 週間の漸増期間後、1mgを1日2 回 4 週
方 法:[ F]フッ化デオキシグルコース PETを用 い、
p=0.006)が、MSARP 値とは 相 関しなかった(p=
0.88)。
結論:MSA では特異的な疾患関連代謝パターンの発
現が増大する。さらに、MSA 患者間でのこのパターン
間)
またはプラセボ群に無作為に割り付けた。評価項目は、
and Rating of Ataxia(SARA)スコアのベースラインから
回外運動を有意に改善させ、忍容性はきわめて良好で
の変化量、25フィート歩行および 9 穴ペグの計測値、気
あることが示された。
18
MSA 患者 33 名と、年齢と重症度が一致する特発性
パーキンソン病(PD)患者 20 名、そして健常被験者
(SCA3)患者における有効性を評価した。
エンドポイント
(8 週 間 後)の Scale for the Assessment
0.05)および Beck Depression Inventory スコ ア(p=
0.03)であり、バレニクリン群では SARA 総合スコア(p
=0.06)
も改善される傾向がみられた。
結論:この対照試験で、バレニクリンは、SARA サブ
スコアで測定するSCA3 患者の体軸症状および回内・
チン陽性・チオフラビン S 陽性の凝集体が検出された。核
MO3.13 オリゴデンドログリア(アクセプター)を、10μM セル
15 名の検査を行った。各被験者について、あらかじめ
特性解析済みの MSA および PD の代謝共分散パター
ン(それぞれ MSARP、PDRPと呼ぶ)の発現状況をコ
周囲の大きい封入体には、LB や GCI でみられるセリン129
トラリンの存在下/非存在下で共培養し、mCherryフルオ
ンピュータで評価する前向き単一症例研究を実施した。
リン酸化αSYN が認められた。KG1C の細胞内封入体は、
ロフォアでαSYNを追跡した。72 時間の培養後、アクセプ
得られた各患者のネットワーク値には、臨床的運動症
を本試験に登録し、期間 1 では 18 名のデータを解析し
外運動以外の四肢機能は改善されないことを示すクラ
MSA におけるGCI のマーカーであるチューブリン重合促進
ター細胞へのαSYN の移行が確認され、PC12 の 4.2%、
状レーティングおよび罹病期間との相関が認められた。
た。最も多く発生したバレニクリンの副作用は悪心であっ
スⅡのエビデンスが得られた。
2
Update on SCD
Update on SCD
3
4
Update on SCD
の発現の差は、臨床的能力障害の程度と相関する。
分と不安の測定値、有害事象などとした。
エビデンスの分類:遺伝子診断で SCA3 が確認され
これらの知見は、MSA の新規療法の試験で MSARP
結果:SCA3 患者 20 名(平均年齢=51±10.98 歳;平均
た成人患者にバレニクリンを投与すると、歩行、立位、
が有用なバイオマーカーとなりうることを示唆している。
罹病期間=14±9.82 年;平均 SARAスコア=16.13±4.67)
25フィート歩行時間は改善されるが、素早い回内・回
Update on SCD
5
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)に
おけるミトコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
8
Mitochondrial dysfunction and Purkinje cell loss in autosomal recessive spastic ataxia of
Charlevoix-Saguenay (ARSACS)
Excitation-induced ataxin-3 aggregation in neurons from patients with
Machado-Joseph disease
Girard M, Larivière R, Parfitt DA, et al.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2012;109(5):1661-1666.
Koch P, Breuer P, Peitz M, et al.
Nature 2011;480(7378):543-546.
Horvath R, Czermin B, Gulati S, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(2):174-178.
Machado-Joseph 病(MJD;脊髄小脳失調症 3 型と
は、Lグルタミン酸が患者特異的な人工多能性幹細胞
調症(ARSACS)は小児期に発症する神経疾患で、
ドリア・ネットワークに融合の亢進がみられ、このことはミ
も呼ぶ)は、優性遺伝性の遅発性神経変性症の一種
(iPSC)由来ニューロンの興奮を誘導し、その結果、
その原因は、機能不詳の 4,579-aa 蛋白質であるサク
トコンドリアの分裂が減少することと符合する。サクシン
シンをコードするSACS 遺伝子の変異である。創始者疾
がノックダウンされると、ミ
トコンドリア・ネットワークは内部
であり、MJD1 遺伝子(別名 ATXN3)においてポリグル
ATXN3 が Ca2+ 依存性に分解されて、SDS 不溶性の
タミン(polyQ)をコードするCAGリピートの伸長によって
凝集体が形成されることを明らかにした。この表現型は
引き起こされる。きわめて凝 集しやすい性 質をもつ
蛋白質分解酵素カルパインを阻害すると消失したため、
polyQ 断 片 が、MJD1 遺 伝 子 産 物 アタキ シン 3
ATXN3 凝集にはカルパインが重要な役割を果たすこと
(ATXN3)から蛋白分解されて遊離すると、ATXN3を
が確認できた。さらに、凝集体形成は機能的 Na+ およ
含む凝集体の形成が誘導されると考えられている。こ
び K+ チャネル、リガンド開口性および電位開口性 Ca2+
患としてケベックで最初に確認された ARSACS は、今
の融合が過度に進んで機能低下に陥り、サクシンを抑
では世界的に確認されている。著明な特徴としては、
制されたニューロンの細胞体や近位樹状突起にミ
トコン
錐体路徴候、小脳性運動失調などがあるが、根底に
ドリアが蓄積する。樹状突起内へのミ
トコンドリア輸送が
ある病理や病態生理学的機序はわかっていない。我々
阻害されると、樹状突起が異常な形態を呈することが
が作製した ARSACS モデルのサクシン・ノックアウトマウ
わかっている。ノックアウトマウスの小脳ではプルキンエ
スは、小脳プルキンエ細胞の神経変性を年齢依存的
細胞死に先行して、樹状突起野の著しい再編が起きて
の凝集体は MJD の顕著な神経病理学的特徴である。
チャネルにも依存し、iPSC、線維芽細胞、グリア細胞
に発現する。この観察所見の病態生理学的根拠を探
いるのが観察された。本研究は、ミトコンドリアの機能
MJD 患者や、変異ヒトATXN3(Q71)を発現するトラ
には検出されなかった。このことによって、MJD のニュー
るために、サクシンの細胞生物学的特性を検討した。
障害/局在不全は ARSACS の細胞レベルの病因とな
サクシンは非ニューロン細胞および一次ニューロンのミ
ト
る可能性が高いこと、サクシンにはミトコンドリアの動態
ンスジェニックマウスの脳組織からは ATXN3 断片が検
ロン特異的な表現型が説明できる。本研究は、遅発
コンドリアに局在しており、ミ
トコンドリアの分裂に関与す
を調節する役割があることを示唆している。
出され、その 量 は 重 症 であるほど 多 いことから、
性神経変性にかかわる異所性蛋白プロセシングに関す
ATXN3 のプロセシングと疾患進行の関連性が支持さ
る患者特異的なニューロンを用いた研究が、iPSC によっ
れる。凝集早期の中間体の形成は疾患の始まりに重要
て可能になることを示している。
な役割を果たすと考えられているが、依然として MJD
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
9
背景:多系統萎縮症(MSA)は孤発性の進行性神経
目的:剖検で確定した MSA 症例における疾患の特性
57±8.1 歳;死亡までの罹病期間 6.5±3.3 年;最初の
症状は自律神経障害 18 名、パーキンソニズム7 名、
小脳性運動失調 2 名。初回来診時の臨床表現型は
MSA-P(パーキンソニズム優 勢)18 名、MSA-C(小
脳性症状優勢)8 名、純粋な自律神経機能不全 2 名、
パーキンソン病 1 名。最終受診時の臨床診断は MSA
が 28 名。自律神経機能不全は重度で、CASS 7.2±2.3
点(最 高 スコアは 10 点)
。TST%は 65.6±33.9% で、
82%の患者で 30%を上回り、最も多いパターンは全身
評価は正確か、また、剖検を通じて MSA 診断基準の
性無汗症であった。ノルエピネフリンは仰臥位では正常
変性疾患である。起立性低血圧や排尿・性機能障害
として発現する自律神経機能不全を特徴とし、レボドパ
に応答しにくいパーキンソニズム、小脳性運動失調、
皮質脊髄路障害などが同時にみられる。これまでに公
表された剖検による確定診断例は、MSA の神経学的
特性をよく示しているが、適切な自律神経機能検査は
行われていなかった。
方法:本研究は Mayo Clinic の剖検で MSAと確定さ
少した。共通する4 つの臨床的特徴(急速な進行、早
れた 29 症例を対象とした。これらの症例は各種の自律
期の姿勢不安定、レボドパへの応答不良、対称性の
神経機能検査(アドレナリン作動性/汗腺/心臓迷走
症状)が認められた。
神 経 機 能、Thermoregulatory Sweat Test[TST])を
結論:重度のアドレナリン作動性/汗腺機能不全を呈
受けており、その結果をもとに Composite Autonomic
する進行性の全般性自律神経機能不全が臨床表現型
Severity Score(CASS)を採点した。
結果:患者背景:男性 17 名、女性 12 名;発症年齢
と結びついた場合、高率で MSA が予測される。
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
までの報告とは対照的に、2 名の患者は発症が遅く、き
多様な病態を示す疾患群である。根本原因を特定でき
わめて軽度の表現型を示しており、40 代後半でなお歩
る患者は全体の約半数であり、原因に応じた治療を受
行可能であった。筋生検では脂質の蓄積、ミ
トコンドリア
けられる患者はきわめて少ない。
増殖、チロクロムcオキシダーゼ欠損を認めたが、赤色
方法:原因不明の劣性遺伝性または孤発性運動失調
ぼろ線維は検出されなかった。呼吸鎖酵素活性および
症を有する患者 22 名について、補酵素 Q10(CoQ10)
CoQ10 は重症例では減少していたが、46 歳の軽症患
が欠損する既知の遺伝子の配列解析を行った。
者 1 名では正常であった。
結果:CABC1/ADCK3 の遺伝子変異が小脳性運動失
結論:これらの知見は、CABC1/ADCK3 変異が原因
調、てんかん、および筋肉症状を呈する患者 4 名と同胞
の場合、重症の小児期発症型運動失調症だけでなく成
2 名に確認された。痙縮、ジストニー、振戦、片頭痛の
人期の軽度の小脳性運動失調患者でも治療の可能性
現れ方はさまざまであった。認知障害は幼児期の患者で
があり、そうしたケースを発見するスクリーニングの重要性
は重症であったが、成人患者にはみられなかった。これ
を示している。
Al Tassan N, Khalil D, Shinwari J, et al.
Human Mutation 2012;33(2):351-354.
性遺伝疾患で、SETX 遺伝子変異をもたない家系に関
感覚運動ニューロパチーに特徴づけられる多様な疾患
する研 究 である。この 家 系 の 遺 伝 子 座 は 染 色 体
の総称である。この一群の疾患の分子遺伝学的解析
17pl2-pl3 にマッピングされた。この領域に絞り込んで
から、重複する表現型に寄与するとみられるいくつかの
全遺伝子の配列決定を行ったところ、PIK3R5 に、正
遺伝子が同定された。眼球運動失行を伴う運動失調
常対照群の 477 名にはないホモ接合型ミスセンス変異
症 2 型(AOA2)は、SETX 遺伝子の変異に起因する
がみつかった。PIK3R5 蛋白質は小脳および小脳虫部
常染色体劣性遺伝性の運動失調症である。ここで報
の発達に関与していることが示唆される。
[総監修] 水澤 英洋
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 脳神経病態学 教授
[監修 / 執筆]西澤
正豊
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授
2
Pierson TM, Adams D, Bonn F, et al.
PLoS Genetics 2011;7(10):e1002325.
常染色体劣性運動失調症は、小脳萎縮と末梢性
2012. December
1
ミトコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
Whole-exome sequencing identifies homozygous AFG3L2 mutations
in a spastic ataxia-neuropathy syndrome linked to mitochondrial m-AAA proteases
A missense mutation in PIK3R5 gene in a family with ataxia and oculomotor apraxia
(203.6±112.7)だが、起立時増分は 33.5±23.2%減
妥当性は示されるのかを、後ろ向きに評価する。
目的:遺伝性運動失調症は小児にも成人にも発症し、
CONTENTS
11
の正確な発症機序を説明することは難しい。本研究で
Iodice V, Lipp A, Ahlskog JE, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(4):453-459.
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
Adult-onset cerebellar ataxia due to mutations in CABC1/ADCK3
かになった。ARSACS 患者の線維芽細胞ではミトコン
Autopsy confirmed multiple system atrophy cases:
Mayo experience and role of autonomic function tests
6
10
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失
るダイナミン関連蛋白 1との相互作用を示すことが明ら
7
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3 の凝集
告するのは、AOA2 の臨床的特徴を示す常染色体劣
下肢痙縮、末梢性ニューロパチー、眼瞼下垂、眼
症 28 型(SCA28)の原因となる。これは本研究の患者
球運動失行、ジストニー、小脳萎縮、進行性ミオクロー
とは表現型のまったく異なる疾患である。酵母相補性アッ
ヌス性てんかんの臨床的特徴を示す血縁の兄弟 2 名に
セイによると、AFG3L2Y616C 遺伝子産物は低形質変異
おける、早発性の痙性運動失調−ニューロパチー症候
体であり、酵母中でも患者の線維芽細胞中でもオリゴ
群について報告する。全エキソーム配列解析の結果、
マー形成能の低下を示した。特に AFG3L2Y616C 同士
m-AAAプロテアーゼの サブ ユ ニットをコードする
の複合体と、AFG3L2Y616Cとパラプレギンとの複合体
AFG3L2 に、ホモ接合型ミスセンス変異(c.1847G>A;
の形成不良が顕著であった。このことが、眼球運動失
p.Y616C)が検出された。m-AAAプロテアーゼはミトコ
行、錐体外路系の機能障害、ミオクローヌス性てんか
ンドリア内膜に存在して、損傷や折り畳み異常のある蛋
んなど の 他 の「ミトコンドリア性」の 病 態 に 加えて、
白質を除去する役目を担っており、ミトコンドリアの必須
SPG7、SCA28 の重症の表現型が複合する早発性の
蛋白質の分解活性を備えている。AFG3L2 はホモオリ
臨床症候群をもたらしたのである。本研究の知見により、
ゴマー、あるいは遺伝性痙性対麻痺 7 型(SPG7)で
AFG3L2 の変異が関係している表現型の範囲が拡が
変異を示す相同蛋白質のパラプレギンとのヘテロオリゴ
り、痙性運動失調の鑑別診断では AFG3L2 関連疾患
マー複合体を形成する。AFG3L2 に生じる機能喪失
を考慮に入れるべきであることが示唆された。
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:
シヌクレイノパチーの有力な治療標的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
4
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に影響する因子
5
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の無作為化試験
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)における
ミ
トコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
7
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
8
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3の凝集
9
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
10
11
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
ミ
トコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
型のヘテロ接合変異は、常染色体優性脊髄小脳失調
Update on SCD
Update on SCD
7
8
エルゼビアジャパン株式会社 /ELMCOM
CD--346A2012 年12月作成
Update on SCD
Selections From Current World Scientific Literature
Topics for this issue
1
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:シヌクレイノパチーの有力な治療標的
Suppression of dynamin GTPase decreases alpha-synuclein uptake by neuronal and
oligodendroglial cells: a potent therapeutic target for synucleinopathy
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授 西澤
があるものの、細胞外にあるαSYN が隣接する細胞に取り
2
込まれて凝集体の形成を促進することは間違いない。本研
究でαSYN の取り込み抑制効果を示したセルトラリン濃度
(10μM=3μg/mL)は、脳脊髄液内および脳内で抗うつ治
かった。
結 論
αSYN の細胞間移行の正確な機序にはまだ議論の余地
Konno M, Hasegawa T, Baba T, et al.
Molecular Neurodegeneration 2012;7(1):38. [Epub ahead of print]
Summary
MO3.13 の 3.8%に封入体が認められたが、培地にセルトラリ
ンを加えた場合はαSYN の取り込みが抑制された(*p<0.05)
(図 3)
。セルトラリンはドナーからのαSYN 分泌には影響しな
Selections From Current World Scientific Literature
と同程度である。
療効果を発揮するとされる濃度(2μg/mL)
実績ある薬剤の新たな効用を明らかにした本研究は、患者
に大きな利益をもたらすであろう。
正豊
である。こうした蛋白質が隣接する細胞へと拡がって、神経変性を伝播する可能性を示唆する知見が集積されている。本
研究は、培養した神経細胞/オリゴデンドログリアに、外因性のα-シヌクイレンがダイナミンGTPaseを介するエンドサイ
トーシスによって取り込まれ、凝集して高分子オリゴマーとなり、シヌクレイノパチーに特徴的な細胞内封入体を形成しうる
ことを示した。選択的セロトニン再取り込み阻害薬のセルトラリンは、強力なダイナミン阻害作用があり、神経変性の伝播
の予防に有効であると期待される。
蛋白/p25α
(TPPP/p25α)
と共局在した。封入体をもつ細
胞は時間とともに増加した。
取り込まれたαSYN の分解にリソソーム系が果たす役割
ヌクレイノパチー」
と総称される神経変性疾患にみられるレ
を確認するため、SH-SY5Y 細胞を 5μM αSYNとともに、
ビー小体(LB)やグリア細胞質内封入体(GCI)には、折り
液胞型 H+ ATPase 阻害剤バフィロマイシン A1(0∼5 nM)
畳み異常のあるα- シヌクイレン(αSYN)蛋白の凝集体が
で処理してリソソームの働きを阻害したところ、オートファジー
存在し、神経変性に寄与している。
αSYN の生理的・病理
が妨げられ、親水性分画への高分子量αSYN オリゴマー
学的作用は細胞内に限定されると考えられてきたが、最近
の蓄積量が増加した。
のエビデンスからは、単量体およびオリゴマー状のαSYN
抗うつ剤として広く用いられる選択的セロトニン再取り込み
が細胞外へ分泌され、隣接細胞にも影響を及ぼすことが示
阻害薬のセルトラリンは、既知のダイナミンGTPase 阻害薬
唆されている。このプロセスを理解するには、
αSYN の取り
の中では、ダイナミン1、2 の両者に対して最も強力に作用
込みと分泌の機序を明らかにする必要がある。本稿の知見
する。このセルトラリンで SH-SY5Y および KG1Cを処理し
は、
αSYN の細胞間伝播がもたらす神経変性の進行を防ぐ
(濃度 0∼10μM、30 分間)、ダイナミンを薬理学的に破壊
治療戦略の確立につながるものである。
方法と結果
外因性のαSYN が細胞内に取り込まれてオリゴマーを形成
することを確認するため、ヒトSH-SY5Y 神経 細胞および
図 2 ダイナミン GTPase 阻害で神経細胞/オリゴデンドログリアへのα- シヌクレイン取り込みは減少する
KG1C オリゴデンドログリア細胞を5μMのαSYNに曝露し
た。また、SH-SY5Yを 0∼10μM の 組み換えαSYN に 24
れた。
時間曝露した。細胞内分画および免疫ブロット法の結果、主
セルトラリンがαSYN の細胞間伝播を阻害するかどうかを
に親水性分画へのαSYNの取り込みとオリゴマー形成が認
調べるために、N 末端を mCherry で標識したαSYNを過
γSYNは取り込まれなかった。
められた(図1)
。βSYN、
と、高感度緑色蛍光蛋白
剰発現するSH-SY5Y(ドナー)
αSYN に曝露した細胞には、免疫細胞化学的にユビキ
質(EGFP)を 安 定 発 現 す る PC12 神 経 細 胞 および
(SCA)36 型は運動ニューロン徴候を示す新しい型の
は 400 名を超えている。本報では、不安定な異常眼
目的:治療的試験のために疾患の進行について評価
球運動や感音難聴などの晩期発症・緩徐進行性の小
SCAとして報告された。原因は、NOP56 のイントロン1
に存在するGGCCTGリピート伸長である。家族への面
接と文献調査を通じ、17 世紀に 1 つの村(スペイン、
脳症候群からなる詳細な臨床像を記述する。舌の脱神
ガリシア州コスタダモルテ)から発祥して世代を重ねて拡
外に古典的筋萎縮性側索硬化症の徴候は認められな
大してきた 2 つの大家系を復元することができた。これ
かった。MRI 所見は臨床経過と一致しており、初期に
らの家系では、以前染色体 20p に約 0.8Mb の連鎖領
みられる小脳虫部の萎縮が、後にオリーブ橋小脳萎縮
域 が同 定されているが、今 回、疾 患と共 分 離する
のパターンへ進展した。ガリシアにおける創始者変異の
経徴候や、軽度の錐体路徴候はみられたが、それ以
SCA36 変異がみつかった。その後のスクリーニングで、
起源は約 1275 年前にあったと推定される。SCAを有
この NOP56 の伸長が、失調症がみられるガリシアの別
するガリシアの 160 家 系中 10 家 系(6.3%)に SCA36
の 8 家系にも確認された。通常の対立遺伝子に含まれ
があり、15 家 系(9.4%)には通 常 の 優 性 遺 伝 性 の
る6 塩基リピートは 5∼14 個であるのに対し、異常伸長
したアリルでは約 650∼2,500ものリピートを、共通の 1
SCA が認められた。SCA36 はこのように、現時点でこ
の地域で最も頻発する優性遺伝性 SCA であり、伝統
つのハプロタイプ内に含んでいる。リピートサイズの拡大
的にスペインからの移住が多いアメリカ大陸諸国にも無
は、特に父方から受け継ぐ場合に高頻度で起こるが、
縁ではない疾患といえる。
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
Network correlates of disease severity in multiple system atrophy
Poston KL, Tang CC, Eckert T, et al.
Neurology 2012;78(16):1237-1244.
図 3 セルトラリンは共培養モデルでα- シヌクレインの神経細胞間/神経細胞−オリゴデンドログリア間移行を阻害する
調節するエンドサイトーシス経路を介して行われることが示さ
たのは、SCA2 に変異があり、対立遺伝子が正常(リピー
デザイン:前向きコホート研究(36 ヵ月)。
ト数 22 以下)の患者(p=0.02)、および SCA3 に変異
セッティング:レフェラルセンター。
があり、ベースラインにパーキンソニズムおよび/または
患者:常染色体優性小脳性運動失調症の患者 162
ジストニーがある患者(p=0.003)であった。CCFSw で
名、遺伝性痙性対麻痺の患者 64 名。
は運 動 失 調 患 者と痙 縮 患 者に差が出たのに対し、
主 要 評 価 項 目:書 字 検 査 付き定 量 的 Composite
者は悪 化し(CCFSw の年 間 増 加 幅の平 均[SE]は
SARA スコアは両方のグループで増加した。SARA ス
コアを基準として 2 群を比較する試験の場合、疾患進
行の 50%抑制を検出するために必要な症例数は 1 群に
つき、SCA2 57 名、SCA1 70 名、SCA3 75 名である
(検
出力 80%;α=0.05)。
結論:ポリグルタミンが伸長した SCA1、2、3 患者は、
+0.014[0.005]∼+0.025[0.004])、SPG4 患者は改
それ以外の患者に比べて速く進行する。いずれの測定
善した(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]は−0.012
基準も治療試験の評価項目に適している。同じ検出力
[0.003]
;p=0.02)。さらに SCA6、SCA7、その他の
を得るのに必要な症例数は SARA の方が少ないが、
、お よ
Cerebellar Functional Severity Score(CCFSw)
(SARA)スコア。
結果:脊髄小脳失調症(SCA)1、SCA2、SCA3 患
SCA 患者は安定(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]
は−0.015[0.011]∼+0.009[0.013])であり、その他
の SPG 患 者も安 定(CCFSw の 年 間 増 加 幅 の 平 均
5
[SE]は−0.005[0.005])であった。進行がより速かっ
し、臨床ツールの妥当性を判定する。
び Scale for the Assessment and Rating of Ataxia
この変異を有する個人は全部で 63 名発見され、そのう
依存的に減少した(図2)。また、SH-SY5Y では、ドミナ
siRNAを用いてダイナミン1を阻害すると、
αSYN 取り込み
が減少した。つまり、
αSYN の細胞内移行は、ダイナミンが
ち 44 名には臨床的影響が確認された。リスクがある者
Tezenas du Montcel S, Charles P, Goizet C, et al.
Archives of Neurology 2012;69(4):500-508.
母方からの場合は、リピートはむしろ縮小することもある。
すると、
αSYN 単量体/オリゴマーの細胞内蓄積量は用量
ントネガティブ 変 異 体 の K44Aダイナミン 1 により、また
最近、日本人の家系において、脊髄小脳失調症
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に
影響する因子
Factors influencing disease progression in autosomal dominant cerebellar ataxia and
spastic paraplegia
García-Murias M, Quintáns B, Arias M, et al.
Brain 2012;135(Pt 5):1423-1435.
図1 細胞外α-SYN は神経細胞/オリゴデンドログリアに取り込まれ、オリゴマーを形成する
パーキンソン病(PD)や多系統萎縮症(MSA)など、「シ
4
‘Costa da Morte’ ataxia is spinocerebellar ataxia 36: clinical and genetic characterization
α-シヌクイレンなど、折り畳みに異常がある蛋白質の細胞内沈着は、多くの神経変性疾患に共通する神経病理学的特徴
背景および目的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
層別化は CCFSw の方が少なくて済む。神経変性疾患
の進行を確実に評価するには、臨床評価項目の選択
が重要であることが示された。
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の
無作為化試験
A randomized trial of varenicline (Chantix) for the treatment of spinocerebellar ataxia type 3
Zesiewicz TA, Greenstein PE, Sullivan KL, et al.
Neurology 2012;78(8):545-550.
目的:多系統萎縮症(MSA)は最も一般的な非定型
結果:MSA 群では、MSARP 値が対照群、PD 群に
目的:無作為化二重盲検プラセボ対照試験により、
た。エンドポイント時にプラセボと比較して、バレニクリン
パーキンソン症候群であり、患者の安静状態の脳代謝
比 べ て 高 か った(い ず れもp<0.001)
。MSA 群 の
ニューロンに局在するα4β2 ニコチン性アセチルコリン受
投与患者で改善が認められたのは、SARA の歩行
容体の部分アゴニストで、禁煙補助薬として使用される
(p=0.04)、立位(p=0.03)、手の回内・回外運動(p
バレ ニ クリン(Chantix)の 脊 髄 小 脳 失 調 症 3 型
=0.003)の各 項目、そして 25フィート歩 行 時 間(p=
画像に、異常な空間共分散パターンが認められるという
MSARP 値は運動能力障害(r=0.57、p=0.0008)お
特徴がある。しかし、このパターンをMSA のバイオマー
よび罹病期間(r=−0.376、p=0.03)の臨床的レーティ
カーとして利用するためには、それが MSA に特異的で
ングと相関していた。一方、PD 群におけるMSARP の
あり、個々の患者の臨床的能力障害と相関することを
発現は対照群と差がなかった(p=1.0)
。PD 群の運動
方法:遺伝子診断でSCA3 が確認された患者を、バレニ
示す必要がある。
症状レーティングは PDRPとの相関を示した(r=0.60、
クリン投与群(4 週間の漸増期間後、1mgを1日2 回 4 週
方 法:[ F]フッ化デオキシグルコース PETを用 い、
p=0.006)が、MSARP 値とは 相 関しなかった(p=
0.88)。
結論:MSA では特異的な疾患関連代謝パターンの発
現が増大する。さらに、MSA 患者間でのこのパターン
間)
またはプラセボ群に無作為に割り付けた。評価項目は、
and Rating of Ataxia(SARA)スコアのベースラインから
回外運動を有意に改善させ、忍容性はきわめて良好で
の変化量、25フィート歩行および 9 穴ペグの計測値、気
あることが示された。
18
MSA 患者 33 名と、年齢と重症度が一致する特発性
パーキンソン病(PD)患者 20 名、そして健常被験者
(SCA3)患者における有効性を評価した。
エンドポイント
(8 週 間 後)の Scale for the Assessment
0.05)および Beck Depression Inventory スコ ア(p=
0.03)であり、バレニクリン群では SARA 総合スコア(p
=0.06)
も改善される傾向がみられた。
結論:この対照試験で、バレニクリンは、SARA サブ
スコアで測定するSCA3 患者の体軸症状および回内・
チン陽性・チオフラビン S 陽性の凝集体が検出された。核
MO3.13 オリゴデンドログリア(アクセプター)を、10μM セル
15 名の検査を行った。各被験者について、あらかじめ
特性解析済みの MSA および PD の代謝共分散パター
ン(それぞれ MSARP、PDRPと呼ぶ)の発現状況をコ
周囲の大きい封入体には、LB や GCI でみられるセリン129
トラリンの存在下/非存在下で共培養し、mCherryフルオ
ンピュータで評価する前向き単一症例研究を実施した。
リン酸化αSYN が認められた。KG1C の細胞内封入体は、
ロフォアでαSYNを追跡した。72 時間の培養後、アクセプ
得られた各患者のネットワーク値には、臨床的運動症
を本試験に登録し、期間 1 では 18 名のデータを解析し
外運動以外の四肢機能は改善されないことを示すクラ
MSA におけるGCI のマーカーであるチューブリン重合促進
ター細胞へのαSYN の移行が確認され、PC12 の 4.2%、
状レーティングおよび罹病期間との相関が認められた。
た。最も多く発生したバレニクリンの副作用は悪心であっ
スⅡのエビデンスが得られた。
2
Update on SCD
Update on SCD
3
4
Update on SCD
の発現の差は、臨床的能力障害の程度と相関する。
分と不安の測定値、有害事象などとした。
エビデンスの分類:遺伝子診断で SCA3 が確認され
これらの知見は、MSA の新規療法の試験で MSARP
結果:SCA3 患者 20 名(平均年齢=51±10.98 歳;平均
た成人患者にバレニクリンを投与すると、歩行、立位、
が有用なバイオマーカーとなりうることを示唆している。
罹病期間=14±9.82 年;平均 SARAスコア=16.13±4.67)
25フィート歩行時間は改善されるが、素早い回内・回
Update on SCD
5
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)に
おけるミトコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
8
Mitochondrial dysfunction and Purkinje cell loss in autosomal recessive spastic ataxia of
Charlevoix-Saguenay (ARSACS)
Excitation-induced ataxin-3 aggregation in neurons from patients with
Machado-Joseph disease
Girard M, Larivière R, Parfitt DA, et al.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2012;109(5):1661-1666.
Koch P, Breuer P, Peitz M, et al.
Nature 2011;480(7378):543-546.
Horvath R, Czermin B, Gulati S, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(2):174-178.
Machado-Joseph 病(MJD;脊髄小脳失調症 3 型と
は、Lグルタミン酸が患者特異的な人工多能性幹細胞
調症(ARSACS)は小児期に発症する神経疾患で、
ドリア・ネットワークに融合の亢進がみられ、このことはミ
も呼ぶ)は、優性遺伝性の遅発性神経変性症の一種
(iPSC)由来ニューロンの興奮を誘導し、その結果、
その原因は、機能不詳の 4,579-aa 蛋白質であるサク
トコンドリアの分裂が減少することと符合する。サクシン
シンをコードするSACS 遺伝子の変異である。創始者疾
がノックダウンされると、ミ
トコンドリア・ネットワークは内部
であり、MJD1 遺伝子(別名 ATXN3)においてポリグル
ATXN3 が Ca2+ 依存性に分解されて、SDS 不溶性の
タミン(polyQ)をコードするCAGリピートの伸長によって
凝集体が形成されることを明らかにした。この表現型は
引き起こされる。きわめて凝 集しやすい性 質をもつ
蛋白質分解酵素カルパインを阻害すると消失したため、
polyQ 断 片 が、MJD1 遺 伝 子 産 物 アタキ シン 3
ATXN3 凝集にはカルパインが重要な役割を果たすこと
(ATXN3)から蛋白分解されて遊離すると、ATXN3を
が確認できた。さらに、凝集体形成は機能的 Na+ およ
含む凝集体の形成が誘導されると考えられている。こ
び K+ チャネル、リガンド開口性および電位開口性 Ca2+
患としてケベックで最初に確認された ARSACS は、今
の融合が過度に進んで機能低下に陥り、サクシンを抑
では世界的に確認されている。著明な特徴としては、
制されたニューロンの細胞体や近位樹状突起にミ
トコン
錐体路徴候、小脳性運動失調などがあるが、根底に
ドリアが蓄積する。樹状突起内へのミ
トコンドリア輸送が
ある病理や病態生理学的機序はわかっていない。我々
阻害されると、樹状突起が異常な形態を呈することが
が作製した ARSACS モデルのサクシン・ノックアウトマウ
わかっている。ノックアウトマウスの小脳ではプルキンエ
スは、小脳プルキンエ細胞の神経変性を年齢依存的
細胞死に先行して、樹状突起野の著しい再編が起きて
の凝集体は MJD の顕著な神経病理学的特徴である。
チャネルにも依存し、iPSC、線維芽細胞、グリア細胞
に発現する。この観察所見の病態生理学的根拠を探
いるのが観察された。本研究は、ミトコンドリアの機能
MJD 患者や、変異ヒトATXN3(Q71)を発現するトラ
には検出されなかった。このことによって、MJD のニュー
るために、サクシンの細胞生物学的特性を検討した。
障害/局在不全は ARSACS の細胞レベルの病因とな
サクシンは非ニューロン細胞および一次ニューロンのミ
ト
る可能性が高いこと、サクシンにはミトコンドリアの動態
ンスジェニックマウスの脳組織からは ATXN3 断片が検
ロン特異的な表現型が説明できる。本研究は、遅発
コンドリアに局在しており、ミ
トコンドリアの分裂に関与す
を調節する役割があることを示唆している。
出され、その 量 は 重 症 であるほど 多 いことから、
性神経変性にかかわる異所性蛋白プロセシングに関す
ATXN3 のプロセシングと疾患進行の関連性が支持さ
る患者特異的なニューロンを用いた研究が、iPSC によっ
れる。凝集早期の中間体の形成は疾患の始まりに重要
て可能になることを示している。
な役割を果たすと考えられているが、依然として MJD
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
9
背景:多系統萎縮症(MSA)は孤発性の進行性神経
目的:剖検で確定した MSA 症例における疾患の特性
57±8.1 歳;死亡までの罹病期間 6.5±3.3 年;最初の
症状は自律神経障害 18 名、パーキンソニズム7 名、
小脳性運動失調 2 名。初回来診時の臨床表現型は
MSA-P(パーキンソニズム優 勢)18 名、MSA-C(小
脳性症状優勢)8 名、純粋な自律神経機能不全 2 名、
パーキンソン病 1 名。最終受診時の臨床診断は MSA
が 28 名。自律神経機能不全は重度で、CASS 7.2±2.3
点(最 高 スコアは 10 点)
。TST%は 65.6±33.9% で、
82%の患者で 30%を上回り、最も多いパターンは全身
評価は正確か、また、剖検を通じて MSA 診断基準の
性無汗症であった。ノルエピネフリンは仰臥位では正常
変性疾患である。起立性低血圧や排尿・性機能障害
として発現する自律神経機能不全を特徴とし、レボドパ
に応答しにくいパーキンソニズム、小脳性運動失調、
皮質脊髄路障害などが同時にみられる。これまでに公
表された剖検による確定診断例は、MSA の神経学的
特性をよく示しているが、適切な自律神経機能検査は
行われていなかった。
方法:本研究は Mayo Clinic の剖検で MSAと確定さ
少した。共通する4 つの臨床的特徴(急速な進行、早
れた 29 症例を対象とした。これらの症例は各種の自律
期の姿勢不安定、レボドパへの応答不良、対称性の
神経機能検査(アドレナリン作動性/汗腺/心臓迷走
症状)が認められた。
神 経 機 能、Thermoregulatory Sweat Test[TST])を
結論:重度のアドレナリン作動性/汗腺機能不全を呈
受けており、その結果をもとに Composite Autonomic
する進行性の全般性自律神経機能不全が臨床表現型
Severity Score(CASS)を採点した。
結果:患者背景:男性 17 名、女性 12 名;発症年齢
と結びついた場合、高率で MSA が予測される。
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
までの報告とは対照的に、2 名の患者は発症が遅く、き
多様な病態を示す疾患群である。根本原因を特定でき
わめて軽度の表現型を示しており、40 代後半でなお歩
る患者は全体の約半数であり、原因に応じた治療を受
行可能であった。筋生検では脂質の蓄積、ミ
トコンドリア
けられる患者はきわめて少ない。
増殖、チロクロムcオキシダーゼ欠損を認めたが、赤色
方法:原因不明の劣性遺伝性または孤発性運動失調
ぼろ線維は検出されなかった。呼吸鎖酵素活性および
症を有する患者 22 名について、補酵素 Q10(CoQ10)
CoQ10 は重症例では減少していたが、46 歳の軽症患
が欠損する既知の遺伝子の配列解析を行った。
者 1 名では正常であった。
結果:CABC1/ADCK3 の遺伝子変異が小脳性運動失
結論:これらの知見は、CABC1/ADCK3 変異が原因
調、てんかん、および筋肉症状を呈する患者 4 名と同胞
の場合、重症の小児期発症型運動失調症だけでなく成
2 名に確認された。痙縮、ジストニー、振戦、片頭痛の
人期の軽度の小脳性運動失調患者でも治療の可能性
現れ方はさまざまであった。認知障害は幼児期の患者で
があり、そうしたケースを発見するスクリーニングの重要性
は重症であったが、成人患者にはみられなかった。これ
を示している。
Al Tassan N, Khalil D, Shinwari J, et al.
Human Mutation 2012;33(2):351-354.
性遺伝疾患で、SETX 遺伝子変異をもたない家系に関
感覚運動ニューロパチーに特徴づけられる多様な疾患
する研 究 である。この 家 系 の 遺 伝 子 座 は 染 色 体
の総称である。この一群の疾患の分子遺伝学的解析
17pl2-pl3 にマッピングされた。この領域に絞り込んで
から、重複する表現型に寄与するとみられるいくつかの
全遺伝子の配列決定を行ったところ、PIK3R5 に、正
遺伝子が同定された。眼球運動失行を伴う運動失調
常対照群の 477 名にはないホモ接合型ミスセンス変異
症 2 型(AOA2)は、SETX 遺伝子の変異に起因する
がみつかった。PIK3R5 蛋白質は小脳および小脳虫部
常染色体劣性遺伝性の運動失調症である。ここで報
の発達に関与していることが示唆される。
[総監修] 水澤 英洋
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 脳神経病態学 教授
[監修 / 執筆]西澤
正豊
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授
2
Pierson TM, Adams D, Bonn F, et al.
PLoS Genetics 2011;7(10):e1002325.
常染色体劣性運動失調症は、小脳萎縮と末梢性
2012. December
1
ミトコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
Whole-exome sequencing identifies homozygous AFG3L2 mutations
in a spastic ataxia-neuropathy syndrome linked to mitochondrial m-AAA proteases
A missense mutation in PIK3R5 gene in a family with ataxia and oculomotor apraxia
(203.6±112.7)だが、起立時増分は 33.5±23.2%減
妥当性は示されるのかを、後ろ向きに評価する。
目的:遺伝性運動失調症は小児にも成人にも発症し、
CONTENTS
11
の正確な発症機序を説明することは難しい。本研究で
Iodice V, Lipp A, Ahlskog JE, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(4):453-459.
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
Adult-onset cerebellar ataxia due to mutations in CABC1/ADCK3
かになった。ARSACS 患者の線維芽細胞ではミトコン
Autopsy confirmed multiple system atrophy cases:
Mayo experience and role of autonomic function tests
6
10
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失
るダイナミン関連蛋白 1との相互作用を示すことが明ら
7
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3 の凝集
告するのは、AOA2 の臨床的特徴を示す常染色体劣
下肢痙縮、末梢性ニューロパチー、眼瞼下垂、眼
症 28 型(SCA28)の原因となる。これは本研究の患者
球運動失行、ジストニー、小脳萎縮、進行性ミオクロー
とは表現型のまったく異なる疾患である。酵母相補性アッ
ヌス性てんかんの臨床的特徴を示す血縁の兄弟 2 名に
セイによると、AFG3L2Y616C 遺伝子産物は低形質変異
おける、早発性の痙性運動失調−ニューロパチー症候
体であり、酵母中でも患者の線維芽細胞中でもオリゴ
群について報告する。全エキソーム配列解析の結果、
マー形成能の低下を示した。特に AFG3L2Y616C 同士
m-AAAプロテアーゼの サブ ユ ニットをコードする
の複合体と、AFG3L2Y616Cとパラプレギンとの複合体
AFG3L2 に、ホモ接合型ミスセンス変異(c.1847G>A;
の形成不良が顕著であった。このことが、眼球運動失
p.Y616C)が検出された。m-AAAプロテアーゼはミトコ
行、錐体外路系の機能障害、ミオクローヌス性てんか
ンドリア内膜に存在して、損傷や折り畳み異常のある蛋
んなど の 他 の「ミトコンドリア性」の 病 態 に 加えて、
白質を除去する役目を担っており、ミトコンドリアの必須
SPG7、SCA28 の重症の表現型が複合する早発性の
蛋白質の分解活性を備えている。AFG3L2 はホモオリ
臨床症候群をもたらしたのである。本研究の知見により、
ゴマー、あるいは遺伝性痙性対麻痺 7 型(SPG7)で
AFG3L2 の変異が関係している表現型の範囲が拡が
変異を示す相同蛋白質のパラプレギンとのヘテロオリゴ
り、痙性運動失調の鑑別診断では AFG3L2 関連疾患
マー複合体を形成する。AFG3L2 に生じる機能喪失
を考慮に入れるべきであることが示唆された。
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:
シヌクレイノパチーの有力な治療標的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
4
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に影響する因子
5
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の無作為化試験
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)における
ミ
トコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
7
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
8
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3の凝集
9
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
10
11
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
ミ
トコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
型のヘテロ接合変異は、常染色体優性脊髄小脳失調
Update on SCD
Update on SCD
7
8
エルゼビアジャパン株式会社 /ELMCOM
CD--346A2012 年12月作成
Update on SCD
Selections From Current World Scientific Literature
Topics for this issue
1
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:シヌクレイノパチーの有力な治療標的
Suppression of dynamin GTPase decreases alpha-synuclein uptake by neuronal and
oligodendroglial cells: a potent therapeutic target for synucleinopathy
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授 西澤
があるものの、細胞外にあるαSYN が隣接する細胞に取り
2
込まれて凝集体の形成を促進することは間違いない。本研
究でαSYN の取り込み抑制効果を示したセルトラリン濃度
(10μM=3μg/mL)は、脳脊髄液内および脳内で抗うつ治
かった。
結 論
αSYN の細胞間移行の正確な機序にはまだ議論の余地
Konno M, Hasegawa T, Baba T, et al.
Molecular Neurodegeneration 2012;7(1):38. [Epub ahead of print]
Summary
MO3.13 の 3.8%に封入体が認められたが、培地にセルトラリ
ンを加えた場合はαSYN の取り込みが抑制された(*p<0.05)
(図 3)
。セルトラリンはドナーからのαSYN 分泌には影響しな
Selections From Current World Scientific Literature
と同程度である。
療効果を発揮するとされる濃度(2μg/mL)
実績ある薬剤の新たな効用を明らかにした本研究は、患者
に大きな利益をもたらすであろう。
正豊
である。こうした蛋白質が隣接する細胞へと拡がって、神経変性を伝播する可能性を示唆する知見が集積されている。本
研究は、培養した神経細胞/オリゴデンドログリアに、外因性のα-シヌクイレンがダイナミンGTPaseを介するエンドサイ
トーシスによって取り込まれ、凝集して高分子オリゴマーとなり、シヌクレイノパチーに特徴的な細胞内封入体を形成しうる
ことを示した。選択的セロトニン再取り込み阻害薬のセルトラリンは、強力なダイナミン阻害作用があり、神経変性の伝播
の予防に有効であると期待される。
蛋白/p25α
(TPPP/p25α)
と共局在した。封入体をもつ細
胞は時間とともに増加した。
取り込まれたαSYN の分解にリソソーム系が果たす役割
ヌクレイノパチー」
と総称される神経変性疾患にみられるレ
を確認するため、SH-SY5Y 細胞を 5μM αSYNとともに、
ビー小体(LB)やグリア細胞質内封入体(GCI)には、折り
液胞型 H+ ATPase 阻害剤バフィロマイシン A1(0∼5 nM)
畳み異常のあるα- シヌクイレン(αSYN)蛋白の凝集体が
で処理してリソソームの働きを阻害したところ、オートファジー
存在し、神経変性に寄与している。
αSYN の生理的・病理
が妨げられ、親水性分画への高分子量αSYN オリゴマー
学的作用は細胞内に限定されると考えられてきたが、最近
の蓄積量が増加した。
のエビデンスからは、単量体およびオリゴマー状のαSYN
抗うつ剤として広く用いられる選択的セロトニン再取り込み
が細胞外へ分泌され、隣接細胞にも影響を及ぼすことが示
阻害薬のセルトラリンは、既知のダイナミンGTPase 阻害薬
唆されている。このプロセスを理解するには、
αSYN の取り
の中では、ダイナミン1、2 の両者に対して最も強力に作用
込みと分泌の機序を明らかにする必要がある。本稿の知見
する。このセルトラリンで SH-SY5Y および KG1Cを処理し
は、
αSYN の細胞間伝播がもたらす神経変性の進行を防ぐ
(濃度 0∼10μM、30 分間)、ダイナミンを薬理学的に破壊
治療戦略の確立につながるものである。
方法と結果
外因性のαSYN が細胞内に取り込まれてオリゴマーを形成
することを確認するため、ヒトSH-SY5Y 神経 細胞および
図 2 ダイナミン GTPase 阻害で神経細胞/オリゴデンドログリアへのα- シヌクレイン取り込みは減少する
KG1C オリゴデンドログリア細胞を5μMのαSYNに曝露し
た。また、SH-SY5Yを 0∼10μM の 組み換えαSYN に 24
れた。
時間曝露した。細胞内分画および免疫ブロット法の結果、主
セルトラリンがαSYN の細胞間伝播を阻害するかどうかを
に親水性分画へのαSYNの取り込みとオリゴマー形成が認
調べるために、N 末端を mCherry で標識したαSYNを過
γSYNは取り込まれなかった。
められた(図1)
。βSYN、
と、高感度緑色蛍光蛋白
剰発現するSH-SY5Y(ドナー)
αSYN に曝露した細胞には、免疫細胞化学的にユビキ
質(EGFP)を 安 定 発 現 す る PC12 神 経 細 胞 および
(SCA)36 型は運動ニューロン徴候を示す新しい型の
は 400 名を超えている。本報では、不安定な異常眼
目的:治療的試験のために疾患の進行について評価
球運動や感音難聴などの晩期発症・緩徐進行性の小
SCAとして報告された。原因は、NOP56 のイントロン1
に存在するGGCCTGリピート伸長である。家族への面
接と文献調査を通じ、17 世紀に 1 つの村(スペイン、
脳症候群からなる詳細な臨床像を記述する。舌の脱神
ガリシア州コスタダモルテ)から発祥して世代を重ねて拡
外に古典的筋萎縮性側索硬化症の徴候は認められな
大してきた 2 つの大家系を復元することができた。これ
かった。MRI 所見は臨床経過と一致しており、初期に
らの家系では、以前染色体 20p に約 0.8Mb の連鎖領
みられる小脳虫部の萎縮が、後にオリーブ橋小脳萎縮
域 が同 定されているが、今 回、疾 患と共 分 離する
のパターンへ進展した。ガリシアにおける創始者変異の
経徴候や、軽度の錐体路徴候はみられたが、それ以
SCA36 変異がみつかった。その後のスクリーニングで、
起源は約 1275 年前にあったと推定される。SCAを有
この NOP56 の伸長が、失調症がみられるガリシアの別
するガリシアの 160 家 系中 10 家 系(6.3%)に SCA36
の 8 家系にも確認された。通常の対立遺伝子に含まれ
があり、15 家 系(9.4%)には通 常 の 優 性 遺 伝 性 の
る6 塩基リピートは 5∼14 個であるのに対し、異常伸長
したアリルでは約 650∼2,500ものリピートを、共通の 1
SCA が認められた。SCA36 はこのように、現時点でこ
の地域で最も頻発する優性遺伝性 SCA であり、伝統
つのハプロタイプ内に含んでいる。リピートサイズの拡大
的にスペインからの移住が多いアメリカ大陸諸国にも無
は、特に父方から受け継ぐ場合に高頻度で起こるが、
縁ではない疾患といえる。
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
Network correlates of disease severity in multiple system atrophy
Poston KL, Tang CC, Eckert T, et al.
Neurology 2012;78(16):1237-1244.
図 3 セルトラリンは共培養モデルでα- シヌクレインの神経細胞間/神経細胞−オリゴデンドログリア間移行を阻害する
調節するエンドサイトーシス経路を介して行われることが示さ
たのは、SCA2 に変異があり、対立遺伝子が正常(リピー
デザイン:前向きコホート研究(36 ヵ月)。
ト数 22 以下)の患者(p=0.02)、および SCA3 に変異
セッティング:レフェラルセンター。
があり、ベースラインにパーキンソニズムおよび/または
患者:常染色体優性小脳性運動失調症の患者 162
ジストニーがある患者(p=0.003)であった。CCFSw で
名、遺伝性痙性対麻痺の患者 64 名。
は運 動 失 調 患 者と痙 縮 患 者に差が出たのに対し、
主 要 評 価 項 目:書 字 検 査 付き定 量 的 Composite
者は悪 化し(CCFSw の年 間 増 加 幅の平 均[SE]は
SARA スコアは両方のグループで増加した。SARA ス
コアを基準として 2 群を比較する試験の場合、疾患進
行の 50%抑制を検出するために必要な症例数は 1 群に
つき、SCA2 57 名、SCA1 70 名、SCA3 75 名である
(検
出力 80%;α=0.05)。
結論:ポリグルタミンが伸長した SCA1、2、3 患者は、
+0.014[0.005]∼+0.025[0.004])、SPG4 患者は改
それ以外の患者に比べて速く進行する。いずれの測定
善した(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]は−0.012
基準も治療試験の評価項目に適している。同じ検出力
[0.003]
;p=0.02)。さらに SCA6、SCA7、その他の
を得るのに必要な症例数は SARA の方が少ないが、
、お よ
Cerebellar Functional Severity Score(CCFSw)
(SARA)スコア。
結果:脊髄小脳失調症(SCA)1、SCA2、SCA3 患
SCA 患者は安定(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]
は−0.015[0.011]∼+0.009[0.013])であり、その他
の SPG 患 者も安 定(CCFSw の 年 間 増 加 幅 の 平 均
5
[SE]は−0.005[0.005])であった。進行がより速かっ
し、臨床ツールの妥当性を判定する。
び Scale for the Assessment and Rating of Ataxia
この変異を有する個人は全部で 63 名発見され、そのう
依存的に減少した(図2)。また、SH-SY5Y では、ドミナ
siRNAを用いてダイナミン1を阻害すると、
αSYN 取り込み
が減少した。つまり、
αSYN の細胞内移行は、ダイナミンが
ち 44 名には臨床的影響が確認された。リスクがある者
Tezenas du Montcel S, Charles P, Goizet C, et al.
Archives of Neurology 2012;69(4):500-508.
母方からの場合は、リピートはむしろ縮小することもある。
すると、
αSYN 単量体/オリゴマーの細胞内蓄積量は用量
ントネガティブ 変 異 体 の K44Aダイナミン 1 により、また
最近、日本人の家系において、脊髄小脳失調症
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に
影響する因子
Factors influencing disease progression in autosomal dominant cerebellar ataxia and
spastic paraplegia
García-Murias M, Quintáns B, Arias M, et al.
Brain 2012;135(Pt 5):1423-1435.
図1 細胞外α-SYN は神経細胞/オリゴデンドログリアに取り込まれ、オリゴマーを形成する
パーキンソン病(PD)や多系統萎縮症(MSA)など、「シ
4
‘Costa da Morte’ ataxia is spinocerebellar ataxia 36: clinical and genetic characterization
α-シヌクイレンなど、折り畳みに異常がある蛋白質の細胞内沈着は、多くの神経変性疾患に共通する神経病理学的特徴
背景および目的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
層別化は CCFSw の方が少なくて済む。神経変性疾患
の進行を確実に評価するには、臨床評価項目の選択
が重要であることが示された。
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の
無作為化試験
A randomized trial of varenicline (Chantix) for the treatment of spinocerebellar ataxia type 3
Zesiewicz TA, Greenstein PE, Sullivan KL, et al.
Neurology 2012;78(8):545-550.
目的:多系統萎縮症(MSA)は最も一般的な非定型
結果:MSA 群では、MSARP 値が対照群、PD 群に
目的:無作為化二重盲検プラセボ対照試験により、
た。エンドポイント時にプラセボと比較して、バレニクリン
パーキンソン症候群であり、患者の安静状態の脳代謝
比 べ て 高 か った(い ず れもp<0.001)
。MSA 群 の
ニューロンに局在するα4β2 ニコチン性アセチルコリン受
投与患者で改善が認められたのは、SARA の歩行
容体の部分アゴニストで、禁煙補助薬として使用される
(p=0.04)、立位(p=0.03)、手の回内・回外運動(p
バレ ニ クリン(Chantix)の 脊 髄 小 脳 失 調 症 3 型
=0.003)の各 項目、そして 25フィート歩 行 時 間(p=
画像に、異常な空間共分散パターンが認められるという
MSARP 値は運動能力障害(r=0.57、p=0.0008)お
特徴がある。しかし、このパターンをMSA のバイオマー
よび罹病期間(r=−0.376、p=0.03)の臨床的レーティ
カーとして利用するためには、それが MSA に特異的で
ングと相関していた。一方、PD 群におけるMSARP の
あり、個々の患者の臨床的能力障害と相関することを
発現は対照群と差がなかった(p=1.0)
。PD 群の運動
方法:遺伝子診断でSCA3 が確認された患者を、バレニ
示す必要がある。
症状レーティングは PDRPとの相関を示した(r=0.60、
クリン投与群(4 週間の漸増期間後、1mgを1日2 回 4 週
方 法:[ F]フッ化デオキシグルコース PETを用 い、
p=0.006)が、MSARP 値とは 相 関しなかった(p=
0.88)。
結論:MSA では特異的な疾患関連代謝パターンの発
現が増大する。さらに、MSA 患者間でのこのパターン
間)
またはプラセボ群に無作為に割り付けた。評価項目は、
and Rating of Ataxia(SARA)スコアのベースラインから
回外運動を有意に改善させ、忍容性はきわめて良好で
の変化量、25フィート歩行および 9 穴ペグの計測値、気
あることが示された。
18
MSA 患者 33 名と、年齢と重症度が一致する特発性
パーキンソン病(PD)患者 20 名、そして健常被験者
(SCA3)患者における有効性を評価した。
エンドポイント
(8 週 間 後)の Scale for the Assessment
0.05)および Beck Depression Inventory スコ ア(p=
0.03)であり、バレニクリン群では SARA 総合スコア(p
=0.06)
も改善される傾向がみられた。
結論:この対照試験で、バレニクリンは、SARA サブ
スコアで測定するSCA3 患者の体軸症状および回内・
チン陽性・チオフラビン S 陽性の凝集体が検出された。核
MO3.13 オリゴデンドログリア(アクセプター)を、10μM セル
15 名の検査を行った。各被験者について、あらかじめ
特性解析済みの MSA および PD の代謝共分散パター
ン(それぞれ MSARP、PDRPと呼ぶ)の発現状況をコ
周囲の大きい封入体には、LB や GCI でみられるセリン129
トラリンの存在下/非存在下で共培養し、mCherryフルオ
ンピュータで評価する前向き単一症例研究を実施した。
リン酸化αSYN が認められた。KG1C の細胞内封入体は、
ロフォアでαSYNを追跡した。72 時間の培養後、アクセプ
得られた各患者のネットワーク値には、臨床的運動症
を本試験に登録し、期間 1 では 18 名のデータを解析し
外運動以外の四肢機能は改善されないことを示すクラ
MSA におけるGCI のマーカーであるチューブリン重合促進
ター細胞へのαSYN の移行が確認され、PC12 の 4.2%、
状レーティングおよび罹病期間との相関が認められた。
た。最も多く発生したバレニクリンの副作用は悪心であっ
スⅡのエビデンスが得られた。
2
Update on SCD
Update on SCD
3
4
Update on SCD
の発現の差は、臨床的能力障害の程度と相関する。
分と不安の測定値、有害事象などとした。
エビデンスの分類:遺伝子診断で SCA3 が確認され
これらの知見は、MSA の新規療法の試験で MSARP
結果:SCA3 患者 20 名(平均年齢=51±10.98 歳;平均
た成人患者にバレニクリンを投与すると、歩行、立位、
が有用なバイオマーカーとなりうることを示唆している。
罹病期間=14±9.82 年;平均 SARAスコア=16.13±4.67)
25フィート歩行時間は改善されるが、素早い回内・回
Update on SCD
5
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
Selections From Current World Scientific Literature
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)に
おけるミトコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
8
Mitochondrial dysfunction and Purkinje cell loss in autosomal recessive spastic ataxia of
Charlevoix-Saguenay (ARSACS)
Excitation-induced ataxin-3 aggregation in neurons from patients with
Machado-Joseph disease
Girard M, Larivière R, Parfitt DA, et al.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2012;109(5):1661-1666.
Koch P, Breuer P, Peitz M, et al.
Nature 2011;480(7378):543-546.
Horvath R, Czermin B, Gulati S, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(2):174-178.
Machado-Joseph 病(MJD;脊髄小脳失調症 3 型と
は、Lグルタミン酸が患者特異的な人工多能性幹細胞
調症(ARSACS)は小児期に発症する神経疾患で、
ドリア・ネットワークに融合の亢進がみられ、このことはミ
も呼ぶ)は、優性遺伝性の遅発性神経変性症の一種
(iPSC)由来ニューロンの興奮を誘導し、その結果、
その原因は、機能不詳の 4,579-aa 蛋白質であるサク
トコンドリアの分裂が減少することと符合する。サクシン
シンをコードするSACS 遺伝子の変異である。創始者疾
がノックダウンされると、ミ
トコンドリア・ネットワークは内部
であり、MJD1 遺伝子(別名 ATXN3)においてポリグル
ATXN3 が Ca2+ 依存性に分解されて、SDS 不溶性の
タミン(polyQ)をコードするCAGリピートの伸長によって
凝集体が形成されることを明らかにした。この表現型は
引き起こされる。きわめて凝 集しやすい性 質をもつ
蛋白質分解酵素カルパインを阻害すると消失したため、
polyQ 断 片 が、MJD1 遺 伝 子 産 物 アタキ シン 3
ATXN3 凝集にはカルパインが重要な役割を果たすこと
(ATXN3)から蛋白分解されて遊離すると、ATXN3を
が確認できた。さらに、凝集体形成は機能的 Na+ およ
含む凝集体の形成が誘導されると考えられている。こ
び K+ チャネル、リガンド開口性および電位開口性 Ca2+
患としてケベックで最初に確認された ARSACS は、今
の融合が過度に進んで機能低下に陥り、サクシンを抑
では世界的に確認されている。著明な特徴としては、
制されたニューロンの細胞体や近位樹状突起にミ
トコン
錐体路徴候、小脳性運動失調などがあるが、根底に
ドリアが蓄積する。樹状突起内へのミ
トコンドリア輸送が
ある病理や病態生理学的機序はわかっていない。我々
阻害されると、樹状突起が異常な形態を呈することが
が作製した ARSACS モデルのサクシン・ノックアウトマウ
わかっている。ノックアウトマウスの小脳ではプルキンエ
スは、小脳プルキンエ細胞の神経変性を年齢依存的
細胞死に先行して、樹状突起野の著しい再編が起きて
の凝集体は MJD の顕著な神経病理学的特徴である。
チャネルにも依存し、iPSC、線維芽細胞、グリア細胞
に発現する。この観察所見の病態生理学的根拠を探
いるのが観察された。本研究は、ミトコンドリアの機能
MJD 患者や、変異ヒトATXN3(Q71)を発現するトラ
には検出されなかった。このことによって、MJD のニュー
るために、サクシンの細胞生物学的特性を検討した。
障害/局在不全は ARSACS の細胞レベルの病因とな
サクシンは非ニューロン細胞および一次ニューロンのミ
ト
る可能性が高いこと、サクシンにはミトコンドリアの動態
ンスジェニックマウスの脳組織からは ATXN3 断片が検
ロン特異的な表現型が説明できる。本研究は、遅発
コンドリアに局在しており、ミ
トコンドリアの分裂に関与す
を調節する役割があることを示唆している。
出され、その 量 は 重 症 であるほど 多 いことから、
性神経変性にかかわる異所性蛋白プロセシングに関す
ATXN3 のプロセシングと疾患進行の関連性が支持さ
る患者特異的なニューロンを用いた研究が、iPSC によっ
れる。凝集早期の中間体の形成は疾患の始まりに重要
て可能になることを示している。
な役割を果たすと考えられているが、依然として MJD
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
9
背景:多系統萎縮症(MSA)は孤発性の進行性神経
目的:剖検で確定した MSA 症例における疾患の特性
57±8.1 歳;死亡までの罹病期間 6.5±3.3 年;最初の
症状は自律神経障害 18 名、パーキンソニズム7 名、
小脳性運動失調 2 名。初回来診時の臨床表現型は
MSA-P(パーキンソニズム優 勢)18 名、MSA-C(小
脳性症状優勢)8 名、純粋な自律神経機能不全 2 名、
パーキンソン病 1 名。最終受診時の臨床診断は MSA
が 28 名。自律神経機能不全は重度で、CASS 7.2±2.3
点(最 高 スコアは 10 点)
。TST%は 65.6±33.9% で、
82%の患者で 30%を上回り、最も多いパターンは全身
評価は正確か、また、剖検を通じて MSA 診断基準の
性無汗症であった。ノルエピネフリンは仰臥位では正常
変性疾患である。起立性低血圧や排尿・性機能障害
として発現する自律神経機能不全を特徴とし、レボドパ
に応答しにくいパーキンソニズム、小脳性運動失調、
皮質脊髄路障害などが同時にみられる。これまでに公
表された剖検による確定診断例は、MSA の神経学的
特性をよく示しているが、適切な自律神経機能検査は
行われていなかった。
方法:本研究は Mayo Clinic の剖検で MSAと確定さ
少した。共通する4 つの臨床的特徴(急速な進行、早
れた 29 症例を対象とした。これらの症例は各種の自律
期の姿勢不安定、レボドパへの応答不良、対称性の
神経機能検査(アドレナリン作動性/汗腺/心臓迷走
症状)が認められた。
神 経 機 能、Thermoregulatory Sweat Test[TST])を
結論:重度のアドレナリン作動性/汗腺機能不全を呈
受けており、その結果をもとに Composite Autonomic
する進行性の全般性自律神経機能不全が臨床表現型
Severity Score(CASS)を採点した。
結果:患者背景:男性 17 名、女性 12 名;発症年齢
と結びついた場合、高率で MSA が予測される。
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
までの報告とは対照的に、2 名の患者は発症が遅く、き
多様な病態を示す疾患群である。根本原因を特定でき
わめて軽度の表現型を示しており、40 代後半でなお歩
る患者は全体の約半数であり、原因に応じた治療を受
行可能であった。筋生検では脂質の蓄積、ミ
トコンドリア
けられる患者はきわめて少ない。
増殖、チロクロムcオキシダーゼ欠損を認めたが、赤色
方法:原因不明の劣性遺伝性または孤発性運動失調
ぼろ線維は検出されなかった。呼吸鎖酵素活性および
症を有する患者 22 名について、補酵素 Q10(CoQ10)
CoQ10 は重症例では減少していたが、46 歳の軽症患
が欠損する既知の遺伝子の配列解析を行った。
者 1 名では正常であった。
結果:CABC1/ADCK3 の遺伝子変異が小脳性運動失
結論:これらの知見は、CABC1/ADCK3 変異が原因
調、てんかん、および筋肉症状を呈する患者 4 名と同胞
の場合、重症の小児期発症型運動失調症だけでなく成
2 名に確認された。痙縮、ジストニー、振戦、片頭痛の
人期の軽度の小脳性運動失調患者でも治療の可能性
現れ方はさまざまであった。認知障害は幼児期の患者で
があり、そうしたケースを発見するスクリーニングの重要性
は重症であったが、成人患者にはみられなかった。これ
を示している。
Al Tassan N, Khalil D, Shinwari J, et al.
Human Mutation 2012;33(2):351-354.
性遺伝疾患で、SETX 遺伝子変異をもたない家系に関
感覚運動ニューロパチーに特徴づけられる多様な疾患
する研 究 である。この 家 系 の 遺 伝 子 座 は 染 色 体
の総称である。この一群の疾患の分子遺伝学的解析
17pl2-pl3 にマッピングされた。この領域に絞り込んで
から、重複する表現型に寄与するとみられるいくつかの
全遺伝子の配列決定を行ったところ、PIK3R5 に、正
遺伝子が同定された。眼球運動失行を伴う運動失調
常対照群の 477 名にはないホモ接合型ミスセンス変異
症 2 型(AOA2)は、SETX 遺伝子の変異に起因する
がみつかった。PIK3R5 蛋白質は小脳および小脳虫部
常染色体劣性遺伝性の運動失調症である。ここで報
の発達に関与していることが示唆される。
[総監修] 水澤 英洋
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 脳神経病態学 教授
[監修 / 執筆]西澤
正豊
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授
2
Pierson TM, Adams D, Bonn F, et al.
PLoS Genetics 2011;7(10):e1002325.
常染色体劣性運動失調症は、小脳萎縮と末梢性
2012. December
1
ミトコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
Whole-exome sequencing identifies homozygous AFG3L2 mutations
in a spastic ataxia-neuropathy syndrome linked to mitochondrial m-AAA proteases
A missense mutation in PIK3R5 gene in a family with ataxia and oculomotor apraxia
(203.6±112.7)だが、起立時増分は 33.5±23.2%減
妥当性は示されるのかを、後ろ向きに評価する。
目的:遺伝性運動失調症は小児にも成人にも発症し、
CONTENTS
11
の正確な発症機序を説明することは難しい。本研究で
Iodice V, Lipp A, Ahlskog JE, et al.
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2012;83(4):453-459.
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
Adult-onset cerebellar ataxia due to mutations in CABC1/ADCK3
かになった。ARSACS 患者の線維芽細胞ではミトコン
Autopsy confirmed multiple system atrophy cases:
Mayo experience and role of autonomic function tests
6
10
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失
るダイナミン関連蛋白 1との相互作用を示すことが明ら
7
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3 の凝集
告するのは、AOA2 の臨床的特徴を示す常染色体劣
下肢痙縮、末梢性ニューロパチー、眼瞼下垂、眼
症 28 型(SCA28)の原因となる。これは本研究の患者
球運動失行、ジストニー、小脳萎縮、進行性ミオクロー
とは表現型のまったく異なる疾患である。酵母相補性アッ
ヌス性てんかんの臨床的特徴を示す血縁の兄弟 2 名に
セイによると、AFG3L2Y616C 遺伝子産物は低形質変異
おける、早発性の痙性運動失調−ニューロパチー症候
体であり、酵母中でも患者の線維芽細胞中でもオリゴ
群について報告する。全エキソーム配列解析の結果、
マー形成能の低下を示した。特に AFG3L2Y616C 同士
m-AAAプロテアーゼの サブ ユ ニットをコードする
の複合体と、AFG3L2Y616Cとパラプレギンとの複合体
AFG3L2 に、ホモ接合型ミスセンス変異(c.1847G>A;
の形成不良が顕著であった。このことが、眼球運動失
p.Y616C)が検出された。m-AAAプロテアーゼはミトコ
行、錐体外路系の機能障害、ミオクローヌス性てんか
ンドリア内膜に存在して、損傷や折り畳み異常のある蛋
んなど の 他 の「ミトコンドリア性」の 病 態 に 加えて、
白質を除去する役目を担っており、ミトコンドリアの必須
SPG7、SCA28 の重症の表現型が複合する早発性の
蛋白質の分解活性を備えている。AFG3L2 はホモオリ
臨床症候群をもたらしたのである。本研究の知見により、
ゴマー、あるいは遺伝性痙性対麻痺 7 型(SPG7)で
AFG3L2 の変異が関係している表現型の範囲が拡が
変異を示す相同蛋白質のパラプレギンとのヘテロオリゴ
り、痙性運動失調の鑑別診断では AFG3L2 関連疾患
マー複合体を形成する。AFG3L2 に生じる機能喪失
を考慮に入れるべきであることが示唆された。
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:
シヌクレイノパチーの有力な治療標的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
4
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に影響する因子
5
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の無作為化試験
6
常染色体劣性シャルルヴォア・サグネ型痙性運動失調症(ARSACS)における
ミ
トコンドリア機能障害とプルキンエ細胞の消失
7
剖検で確定した多系統萎縮症:
Mayo Clinicにおける経験と自律神経機能検査の役割
8
Machado-Joseph 病患者のニューロンに興奮によって誘導される
アタキシン3の凝集
9
運動失調および眼球運動失行を発症する家系にみられる
遺伝子のミスセンス変異
10
11
の変異に起因する成人発症型小脳性運動失調症
ミ
トコンドリア -AAAプロテアーゼに関連した
痙性運動失調−ニューロパチー症候群において、
ホモ接合変異を全エキソーム配列解析により同定
型のヘテロ接合変異は、常染色体優性脊髄小脳失調
Update on SCD
Update on SCD
7
8
エルゼビアジャパン株式会社 /ELMCOM
CD--346A2012 年12月作成
Update on SCD
Selections From Current World Scientific Literature
Topics for this issue
1
ダイナミンGTPaseの抑制はニューロン/オリゴデンドログリア細胞への
α-シヌクレイン取り込みを減少させる:シヌクレイノパチーの有力な治療標的
Suppression of dynamin GTPase decreases alpha-synuclein uptake by neuronal and
oligodendroglial cells: a potent therapeutic target for synucleinopathy
新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 神経内科学分野 教授 西澤
があるものの、細胞外にあるαSYN が隣接する細胞に取り
2
込まれて凝集体の形成を促進することは間違いない。本研
究でαSYN の取り込み抑制効果を示したセルトラリン濃度
(10μM=3μg/mL)は、脳脊髄液内および脳内で抗うつ治
かった。
結 論
αSYN の細胞間移行の正確な機序にはまだ議論の余地
Konno M, Hasegawa T, Baba T, et al.
Molecular Neurodegeneration 2012;7(1):38. [Epub ahead of print]
Summary
MO3.13 の 3.8%に封入体が認められたが、培地にセルトラリ
ンを加えた場合はαSYN の取り込みが抑制された(*p<0.05)
(図 3)
。セルトラリンはドナーからのαSYN 分泌には影響しな
Selections From Current World Scientific Literature
と同程度である。
療効果を発揮するとされる濃度(2μg/mL)
実績ある薬剤の新たな効用を明らかにした本研究は、患者
に大きな利益をもたらすであろう。
正豊
である。こうした蛋白質が隣接する細胞へと拡がって、神経変性を伝播する可能性を示唆する知見が集積されている。本
研究は、培養した神経細胞/オリゴデンドログリアに、外因性のα-シヌクイレンがダイナミンGTPaseを介するエンドサイ
トーシスによって取り込まれ、凝集して高分子オリゴマーとなり、シヌクレイノパチーに特徴的な細胞内封入体を形成しうる
ことを示した。選択的セロトニン再取り込み阻害薬のセルトラリンは、強力なダイナミン阻害作用があり、神経変性の伝播
の予防に有効であると期待される。
蛋白/p25α
(TPPP/p25α)
と共局在した。封入体をもつ細
胞は時間とともに増加した。
取り込まれたαSYN の分解にリソソーム系が果たす役割
ヌクレイノパチー」
と総称される神経変性疾患にみられるレ
を確認するため、SH-SY5Y 細胞を 5μM αSYNとともに、
ビー小体(LB)やグリア細胞質内封入体(GCI)には、折り
液胞型 H+ ATPase 阻害剤バフィロマイシン A1(0∼5 nM)
畳み異常のあるα- シヌクイレン(αSYN)蛋白の凝集体が
で処理してリソソームの働きを阻害したところ、オートファジー
存在し、神経変性に寄与している。
αSYN の生理的・病理
が妨げられ、親水性分画への高分子量αSYN オリゴマー
学的作用は細胞内に限定されると考えられてきたが、最近
の蓄積量が増加した。
のエビデンスからは、単量体およびオリゴマー状のαSYN
抗うつ剤として広く用いられる選択的セロトニン再取り込み
が細胞外へ分泌され、隣接細胞にも影響を及ぼすことが示
阻害薬のセルトラリンは、既知のダイナミンGTPase 阻害薬
唆されている。このプロセスを理解するには、
αSYN の取り
の中では、ダイナミン1、2 の両者に対して最も強力に作用
込みと分泌の機序を明らかにする必要がある。本稿の知見
する。このセルトラリンで SH-SY5Y および KG1Cを処理し
は、
αSYN の細胞間伝播がもたらす神経変性の進行を防ぐ
(濃度 0∼10μM、30 分間)、ダイナミンを薬理学的に破壊
治療戦略の確立につながるものである。
方法と結果
外因性のαSYN が細胞内に取り込まれてオリゴマーを形成
することを確認するため、ヒトSH-SY5Y 神経 細胞および
図 2 ダイナミン GTPase 阻害で神経細胞/オリゴデンドログリアへのα- シヌクレイン取り込みは減少する
KG1C オリゴデンドログリア細胞を5μMのαSYNに曝露し
た。また、SH-SY5Yを 0∼10μM の 組み換えαSYN に 24
れた。
時間曝露した。細胞内分画および免疫ブロット法の結果、主
セルトラリンがαSYN の細胞間伝播を阻害するかどうかを
に親水性分画へのαSYNの取り込みとオリゴマー形成が認
調べるために、N 末端を mCherry で標識したαSYNを過
γSYNは取り込まれなかった。
められた(図1)
。βSYN、
と、高感度緑色蛍光蛋白
剰発現するSH-SY5Y(ドナー)
αSYN に曝露した細胞には、免疫細胞化学的にユビキ
質(EGFP)を 安 定 発 現 す る PC12 神 経 細 胞 および
(SCA)36 型は運動ニューロン徴候を示す新しい型の
は 400 名を超えている。本報では、不安定な異常眼
目的:治療的試験のために疾患の進行について評価
球運動や感音難聴などの晩期発症・緩徐進行性の小
SCAとして報告された。原因は、NOP56 のイントロン1
に存在するGGCCTGリピート伸長である。家族への面
接と文献調査を通じ、17 世紀に 1 つの村(スペイン、
脳症候群からなる詳細な臨床像を記述する。舌の脱神
ガリシア州コスタダモルテ)から発祥して世代を重ねて拡
外に古典的筋萎縮性側索硬化症の徴候は認められな
大してきた 2 つの大家系を復元することができた。これ
かった。MRI 所見は臨床経過と一致しており、初期に
らの家系では、以前染色体 20p に約 0.8Mb の連鎖領
みられる小脳虫部の萎縮が、後にオリーブ橋小脳萎縮
域 が同 定されているが、今 回、疾 患と共 分 離する
のパターンへ進展した。ガリシアにおける創始者変異の
経徴候や、軽度の錐体路徴候はみられたが、それ以
SCA36 変異がみつかった。その後のスクリーニングで、
起源は約 1275 年前にあったと推定される。SCAを有
この NOP56 の伸長が、失調症がみられるガリシアの別
するガリシアの 160 家 系中 10 家 系(6.3%)に SCA36
の 8 家系にも確認された。通常の対立遺伝子に含まれ
があり、15 家 系(9.4%)には通 常 の 優 性 遺 伝 性 の
る6 塩基リピートは 5∼14 個であるのに対し、異常伸長
したアリルでは約 650∼2,500ものリピートを、共通の 1
SCA が認められた。SCA36 はこのように、現時点でこ
の地域で最も頻発する優性遺伝性 SCA であり、伝統
つのハプロタイプ内に含んでいる。リピートサイズの拡大
的にスペインからの移住が多いアメリカ大陸諸国にも無
は、特に父方から受け継ぐ場合に高頻度で起こるが、
縁ではない疾患といえる。
3
多系統萎縮症の代謝ネットワークは疾患の重症度と相関する
Network correlates of disease severity in multiple system atrophy
Poston KL, Tang CC, Eckert T, et al.
Neurology 2012;78(16):1237-1244.
図 3 セルトラリンは共培養モデルでα- シヌクレインの神経細胞間/神経細胞−オリゴデンドログリア間移行を阻害する
調節するエンドサイトーシス経路を介して行われることが示さ
たのは、SCA2 に変異があり、対立遺伝子が正常(リピー
デザイン:前向きコホート研究(36 ヵ月)。
ト数 22 以下)の患者(p=0.02)、および SCA3 に変異
セッティング:レフェラルセンター。
があり、ベースラインにパーキンソニズムおよび/または
患者:常染色体優性小脳性運動失調症の患者 162
ジストニーがある患者(p=0.003)であった。CCFSw で
名、遺伝性痙性対麻痺の患者 64 名。
は運 動 失 調 患 者と痙 縮 患 者に差が出たのに対し、
主 要 評 価 項 目:書 字 検 査 付き定 量 的 Composite
者は悪 化し(CCFSw の年 間 増 加 幅の平 均[SE]は
SARA スコアは両方のグループで増加した。SARA ス
コアを基準として 2 群を比較する試験の場合、疾患進
行の 50%抑制を検出するために必要な症例数は 1 群に
つき、SCA2 57 名、SCA1 70 名、SCA3 75 名である
(検
出力 80%;α=0.05)。
結論:ポリグルタミンが伸長した SCA1、2、3 患者は、
+0.014[0.005]∼+0.025[0.004])、SPG4 患者は改
それ以外の患者に比べて速く進行する。いずれの測定
善した(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]は−0.012
基準も治療試験の評価項目に適している。同じ検出力
[0.003]
;p=0.02)。さらに SCA6、SCA7、その他の
を得るのに必要な症例数は SARA の方が少ないが、
、お よ
Cerebellar Functional Severity Score(CCFSw)
(SARA)スコア。
結果:脊髄小脳失調症(SCA)1、SCA2、SCA3 患
SCA 患者は安定(CCFSw の年間増加幅の平均[SE]
は−0.015[0.011]∼+0.009[0.013])であり、その他
の SPG 患 者も安 定(CCFSw の 年 間 増 加 幅 の 平 均
5
[SE]は−0.005[0.005])であった。進行がより速かっ
し、臨床ツールの妥当性を判定する。
び Scale for the Assessment and Rating of Ataxia
この変異を有する個人は全部で 63 名発見され、そのう
依存的に減少した(図2)。また、SH-SY5Y では、ドミナ
siRNAを用いてダイナミン1を阻害すると、
αSYN 取り込み
が減少した。つまり、
αSYN の細胞内移行は、ダイナミンが
ち 44 名には臨床的影響が確認された。リスクがある者
Tezenas du Montcel S, Charles P, Goizet C, et al.
Archives of Neurology 2012;69(4):500-508.
母方からの場合は、リピートはむしろ縮小することもある。
すると、
αSYN 単量体/オリゴマーの細胞内蓄積量は用量
ントネガティブ 変 異 体 の K44Aダイナミン 1 により、また
最近、日本人の家系において、脊髄小脳失調症
常染色体優性の小脳性運動失調症と痙性対麻痺の疾患進行に
影響する因子
Factors influencing disease progression in autosomal dominant cerebellar ataxia and
spastic paraplegia
García-Murias M, Quintáns B, Arias M, et al.
Brain 2012;135(Pt 5):1423-1435.
図1 細胞外α-SYN は神経細胞/オリゴデンドログリアに取り込まれ、オリゴマーを形成する
パーキンソン病(PD)や多系統萎縮症(MSA)など、「シ
4
‘Costa da Morte’ ataxia is spinocerebellar ataxia 36: clinical and genetic characterization
α-シヌクイレンなど、折り畳みに異常がある蛋白質の細胞内沈着は、多くの神経変性疾患に共通する神経病理学的特徴
背景および目的
「コスタダモルテ」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である:
臨床的・遺伝的特性分析
層別化は CCFSw の方が少なくて済む。神経変性疾患
の進行を確実に評価するには、臨床評価項目の選択
が重要であることが示された。
脊髄小脳失調症 3 型治療薬としてのバレニクリン(Chantix)の
無作為化試験
A randomized trial of varenicline (Chantix) for the treatment of spinocerebellar ataxia type 3
Zesiewicz TA, Greenstein PE, Sullivan KL, et al.
Neurology 2012;78(8):545-550.
目的:多系統萎縮症(MSA)は最も一般的な非定型
結果:MSA 群では、MSARP 値が対照群、PD 群に
目的:無作為化二重盲検プラセボ対照試験により、
た。エンドポイント時にプラセボと比較して、バレニクリン
パーキンソン症候群であり、患者の安静状態の脳代謝
比 べ て 高 か った(い ず れもp<0.001)
。MSA 群 の
ニューロンに局在するα4β2 ニコチン性アセチルコリン受
投与患者で改善が認められたのは、SARA の歩行
容体の部分アゴニストで、禁煙補助薬として使用される
(p=0.04)、立位(p=0.03)、手の回内・回外運動(p
バレ ニ クリン(Chantix)の 脊 髄 小 脳 失 調 症 3 型
=0.003)の各 項目、そして 25フィート歩 行 時 間(p=
画像に、異常な空間共分散パターンが認められるという
MSARP 値は運動能力障害(r=0.57、p=0.0008)お
特徴がある。しかし、このパターンをMSA のバイオマー
よび罹病期間(r=−0.376、p=0.03)の臨床的レーティ
カーとして利用するためには、それが MSA に特異的で
ングと相関していた。一方、PD 群におけるMSARP の
あり、個々の患者の臨床的能力障害と相関することを
発現は対照群と差がなかった(p=1.0)
。PD 群の運動
方法:遺伝子診断でSCA3 が確認された患者を、バレニ
示す必要がある。
症状レーティングは PDRPとの相関を示した(r=0.60、
クリン投与群(4 週間の漸増期間後、1mgを1日2 回 4 週
方 法:[ F]フッ化デオキシグルコース PETを用 い、
p=0.006)が、MSARP 値とは 相 関しなかった(p=
0.88)。
結論:MSA では特異的な疾患関連代謝パターンの発
現が増大する。さらに、MSA 患者間でのこのパターン
間)
またはプラセボ群に無作為に割り付けた。評価項目は、
and Rating of Ataxia(SARA)スコアのベースラインから
回外運動を有意に改善させ、忍容性はきわめて良好で
の変化量、25フィート歩行および 9 穴ペグの計測値、気
あることが示された。
18
MSA 患者 33 名と、年齢と重症度が一致する特発性
パーキンソン病(PD)患者 20 名、そして健常被験者
(SCA3)患者における有効性を評価した。
エンドポイント
(8 週 間 後)の Scale for the Assessment
0.05)および Beck Depression Inventory スコ ア(p=
0.03)であり、バレニクリン群では SARA 総合スコア(p
=0.06)
も改善される傾向がみられた。
結論:この対照試験で、バレニクリンは、SARA サブ
スコアで測定するSCA3 患者の体軸症状および回内・
チン陽性・チオフラビン S 陽性の凝集体が検出された。核
MO3.13 オリゴデンドログリア(アクセプター)を、10μM セル
15 名の検査を行った。各被験者について、あらかじめ
特性解析済みの MSA および PD の代謝共分散パター
ン(それぞれ MSARP、PDRPと呼ぶ)の発現状況をコ
周囲の大きい封入体には、LB や GCI でみられるセリン129
トラリンの存在下/非存在下で共培養し、mCherryフルオ
ンピュータで評価する前向き単一症例研究を実施した。
リン酸化αSYN が認められた。KG1C の細胞内封入体は、
ロフォアでαSYNを追跡した。72 時間の培養後、アクセプ
得られた各患者のネットワーク値には、臨床的運動症
を本試験に登録し、期間 1 では 18 名のデータを解析し
外運動以外の四肢機能は改善されないことを示すクラ
MSA におけるGCI のマーカーであるチューブリン重合促進
ター細胞へのαSYN の移行が確認され、PC12 の 4.2%、
状レーティングおよび罹病期間との相関が認められた。
た。最も多く発生したバレニクリンの副作用は悪心であっ
スⅡのエビデンスが得られた。
2
Update on SCD
Update on SCD
3
4
Update on SCD
の発現の差は、臨床的能力障害の程度と相関する。
分と不安の測定値、有害事象などとした。
エビデンスの分類:遺伝子診断で SCA3 が確認され
これらの知見は、MSA の新規療法の試験で MSARP
結果:SCA3 患者 20 名(平均年齢=51±10.98 歳;平均
た成人患者にバレニクリンを投与すると、歩行、立位、
が有用なバイオマーカーとなりうることを示唆している。
罹病期間=14±9.82 年;平均 SARAスコア=16.13±4.67)
25フィート歩行時間は改善されるが、素早い回内・回
Update on SCD
5
Fly UP