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TMR センターとコントラクターのシナジー効果でコスト低減に
TMR センターとコントラクターのシナジー効果でコスト低減に取り組む ファームサポートかとり株式会社 代表取締役 長嶋 透 1.TMR センター・コントラクター設立の経緯 ファームサポートかとり株式会社は千葉県香取市に TMR センターとコントラクター機 能を兼ね備えた農業生産法人として平成25年6月に設立されました。 平成18年3月、千葉県北東部の近隣1市3町が合併し、香取市が誕生しております。 水田約 7,000ha 畑約 4,000ha の農業の盛んな地域です。現在酪農家 24 戸乳牛 2,000 頭余、 肉牛 1,000 頭余、養豚養鶏の大型経営もあります。利根川沿いの旧佐原市・小見川町には 約 5,000ha の水田が広がりお盆を過ぎると稲刈りの始まる早場米地帯で知られ、関東ロー ム層の北総台地の旧山田町・栗源町ではサツマイモ・ごぼう・里いも・にんじん・大根な どの根菜類、長ねぎ・ほうれんそう・小松菜・キャベツ等の葉菜類を組み合わせた耕種農 業経営が主流をしめています。 かつてはデントコーンを主とした自給飼料生産を行う酪農経営で行われていましたが、 近年は購入飼料に依存する経営が増えていました。 平成 20 年より本格的に稲 WCS の生産が開始され、16ha→47ha→80ha→92ha→151ha →168→238ha と増加し、本年は 269ha となっております。稲作経営では米価下落・高齢 化といった原因からか取組面積は毎年確実に増えています。取組当初はベールグラブを持 たない酪農家が多く、デリバリーや給与に手間がかかりベールグラブの投資やストック場 所の問題等で利用が進みませんでした。当時の稲 WCS 普及講演会後の雑談で、いっその こと TMR センターでも作って全ての給餌作業の負担を軽減できればいいのにというアイ デアから、TMR 研究会が設立されました。 研究会では、県内・県外と多くの施設を快く視察させて頂きこの場を借りてお礼申し上 げます。また、種々の数字が出そろった頃、設立に前向きな協議会に発展し建設コストや ランニングコストを精査し、平成 25 年に農業生産法人ファームサポートかとり株式会社 を酪農家 5 人で設立しました。 平成 20 年頃、そして現在、日本の酪農業は飼料高騰に苦しんでいます。市内流通の稲 WCS は、輸入飼料と比較し安価になっています。しかし数 kg/頭の利用では経済効果が わかりにくく、6kg 以上利用する時や、育成牛に利用すると確実に効果を感じられます。 とはいえ、多給すると稲 WCS の完熟もみが原因と思われる胃腸障害をおこし、給与限界 に達します。サイレージの2次発酵を防ぎたいので、1日に1個を使用したいと 250kg の 稲 WCS ロールを 30 頭に給与すると、8kg/頭になります。黄熟期以降に刈取された稲 WCS を多給すると乳牛が胃腸障害を起こすこと、また、若刈りの稲 WCS を給与時と刈り 遅れの給与時では、DMI に差が出ることを経験的に知りました。そこで、専用品種と食用 -37- 品種・若刈りと刈り遅れを大きなミキサーで6~16 本混合することで均質化することにし ました。 香取市では耕畜連携農業推進協議会を設立しており、稲作営農組合・コントラクター・ 肉牛酪農生産者が作付け分散の調整協議をしております。特に食用品種では一気に登熟し てしまうため、刈取り作業が追い付かず完熟してしまいます。拡大する収穫作業の適期収 穫の要望に応える為、また、熟期・水分等の原料の状態をしっかり把握するために収穫作 業を開始しまた。コントラクター部門は、稲 WCS 収穫作業だけでなく、デントコーンや 麦類の収穫作業・栽培管理等も行います。また、デントコーン自社栽培を開始し、TMR 顧 客にサイレージ供給と厩肥受入れもしております。 2.TMR 協議会 平成 23 年に、ちば TMR 協議会を発足し TMR センター具体化の検討を開始しました。 国内各地で視察・意見交換をさせていただき、千葉県畜産総合研究センターの協力で自給 飼料を主体とした発酵 TMR の試作や給与試験、ランニングコストまで含めた費用対効果 の試算等をしました。 発酵 TMR が夏に変敗しにくいこと、圧縮梱包によって配送が簡単になること、センタ ー運営を毎日稼働しなくてもよいこと等の理由から発酵 TMR を選択しました。気温 35℃ 湿度 80%以上となる千葉の夏は、乳牛達にはあまりにも過酷です。それに加え TMR の2 次発酵は数時間で始まります。それまで夏場の給餌作業は毎年苦労の連続でした。換気扇・ 細霧装置・屋根散水・冷水給与と色々な暑熱対策を施しましたが、繁殖成績は芳しくなく、 8月、9月の種付けはほとんど受胎が無いこともありました。ところが、試作給与した発 酵 TMR は2次発酵がみられず、DMI の向上が期待できそうでした。発酵 TMR 製造は梱 包する機械に投資し、作業・資材にコストがかかります。このコストは費用の 30%以上を 占めます。しかし私達は乳牛のことを考え発酵 TMR を選択しました。 配送・給餌作業は各々違います。堆肥の切り返しや牛舎掃除とベールグラブ作業を兼ね てローダーを入れ替えたり、牛舎周囲を舗装し、中古フォークリフトを導入したりと先行 投資はそれぞれでした。5人には、それぞれ飼料費削減や、過重労働からの解放、カウコ ンフォートなどの種々のコスト低減の目的で取り組んだのです。 3.運営が開始され 発酵 TMR の試作給与で手応えを感じていたものの、給与開始には慎重を期し一か月以 上の移行期間を設けました。それでも慣れない乳牛もいました。時間のかかった牛、お産 を経たら途端に食いつきの良くなった牛などいろいろいましたが、畜主の皆さんが前向き に取り組んだ成果と思っています。 取り組むにあたってタラレバ表を作り、利用前と利用後、内容変更前と変更後の試算が できるようにしています。多くの酪農家はその時々の原料費だけで飼料費をはじくくせが -38- あります。時間が経つとセンター経費が邪魔者扱いされてしまうので、その時のタイムリ ーな原料費比較と、給餌作業時間短縮や労力軽減等トータルコストを意識していただくた めでもあります。 タラレバ表 国 産 粗 飼 料 輸 入 牧 草 年月 飼料名 稲WCS コーンS ソルガムS イタリアンS チモシーヘイ PRE チモシーヘイ NO1 スーダン A スーダン B スーダン C オーツヘイ A オーツヘイ B オーツヘイ C アルファヘイA アルファヘイB アルファヘイC アルファヘイD 税込み 単価 購入型 給与量 13 10 9 15 0 0 0 0 75 61.5 52.9 47.5 43.2 58 46.4 37.8 61.5 51.8 48.6 57.8 2 6 2.5 バミューダ ヘイ 輸配 入合 穀飼 類料 食 品 製 造 残 渣 稲わら フェスクストロー イタリアン ストロー クレイングラス 配合A 配合B 配合C 配合D 配合E 大豆粕 加熱大豆 サプリA サプリB サプリC 64.8 58.3 47.5 46.5 51.8 加入前 給与量 計 13 ビール粕 醤油粕 アミノ粕 とうふ粕 加水 0 合計 自家ミキサー費(労賃含) FSK製造費 0 総計 0 -39- 加入後 給与量 計 計 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 150 0 0 0 0 348 0 0 153.75 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 757.9 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1409.65 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1409.65 0 1367.15 0 1322.17 4.シナジー ファームサポートかとり TMR センターの主原料は稲 WCS とデントコーンサイレージ です。すて作りの稲や雑草だらけのデントコーン圃場からは高品質の TMR はできるはず がありません。稲 WCS は香取市耕畜連携農業推進協議会を通じ、品種選定・肥培管理・ 収穫調整等を協議実施しプレミアム稲 WCS を求めてゆきます。デントコーンも適正施肥 や病虫害の抑止と収量向上、作業分散による適期収穫等でコストダウンを図ります。 5.これから コントラクター部門への作業要請が増えているので、作業員の確保・教育、売り上げの 確保、装備の充実が喫緊の課題であります。今後、TMR 製造 500 頭/日。自給飼料収穫 150ha・飼料生産作業 30ha を目標にし、準備を進めています。 6.終わりに 今まで視察・意見情報交換させていただきました国内外の方々に厚く御礼申し上げます。 TPP 締結のニュースが飛び交う昨今、将来に不安感が漂いますが、日本は狭いようで広く、 各々の地域で草種や食品製造副産物に違いがあります。特長を伸ばし、弱点を克服し、日 本の酪農が国土・国民に貢献し永続発展することを願います。 原料費・飼料内容等、個人情報・企業内部情報があるので紙面への掲載は差し控えさせ ていただきますことご容赦ください。 -40- 平成27年度 農研機構シンポジウム 資料 編集・発行 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 企画管理部 那須企画管理室 連絡調整チーム Tel.0287-37-7005 Fax.0287-36-6629 〒329-2793 栃木県那須塩原市千本松 768 番地 発 行 日 平成 27 年 12 月 7 日 印 刷 所 株式会社 近代工房 Tel.0287-29-2223 本資料より転載・複製する場合は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構の 許可を得て下さい。